(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】有機性廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/60 20220101AFI20240910BHJP
C05F 17/05 20200101ALI20240910BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20240910BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20240910BHJP
【FI】
B09B3/60 ZAB
C05F17/05
C02F11/02
B09B101:70
(21)【出願番号】P 2020167261
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(73)【特許権者】
【識別番号】519008810
【氏名又は名称】株式会社フライハイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】石川 光祥
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高之
(72)【発明者】
【氏名】木下 敬介
(72)【発明者】
【氏名】山口 竜
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-190920(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108176702(CN,A)
【文献】国際公開第2007/114324(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0241623(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111545555(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105080940(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102897983(CN,A)
【文献】特開2002-273386(JP,A)
【文献】特開2001-247388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/60
C02F 11/02
C05F 17/05
A01K 67/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハエ目に属する昆虫を用いた有機性廃棄物の処理方法であって、
有機性廃棄物に含まれる固形物を、前記昆虫が捕食しやすい所定の範囲の大きさに粉砕する第1工程と、
前記有機性廃棄物を発酵処理する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記有機性廃棄物を含む餌場に
前記昆虫の卵を接種
する第3工程と、
前記有機性廃棄物を餌として、前
記卵から孵化した幼虫を前記餌場で育成する
第4工程を有する、
ことを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
前記粉砕により前記固形物を10mm角以下の範囲の大きさのチップ状または粒状にする、請求項1に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
前記第2工程の後に、前記発酵処理した有機性廃棄物を、30mm以上80mm以下の範囲の厚みで敷き詰めて、前記第3工程の餌場を形成する工程を有する、請求項1または2に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
前記発酵処理を好気条件下で行う、請求項1乃至
3の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項5】
前記発酵処理を嫌気条件下で行う、請求項1乃至
3の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項6】
前記発酵処理をpH6以上9以下で行う、請求項5に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項7】
前記発酵処理をするときに微生物を加える、請求項1乃至
6の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項8】
前記微生物は、乳酸菌、麹菌、酵母からなる群から選択される、請求項
7に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項9】
前記発酵処理をするときに酵素を加える、請求項1乃至
6の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項10】
前記幼虫の育成を前記有機性廃棄物の温度が30℃以上37℃以下で行う、請求項1乃至
9の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項11】
前記幼虫の育成を前記有機性廃棄物の含水率が65wt%以上70wt%以下で行う、請求項1乃至
10の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項12】
前記昆虫はイエバエである、請求項1乃至
11の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項13】
前記有機性廃棄物は、添加剤としてpH調整剤を含む、請求項1乃至12の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項14】
前記有機性廃棄物は、添加剤として粘度調整剤を含む、請求項1乃至13の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項15】
前記昆虫の卵は、前記有機性廃棄物の表面に、複数箇所に複数個ずつ卵塊状に接種する、請求項1乃至14の何れか1項に記載の有機性廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、有機性廃棄物の処理方法、より詳細には、イエバエなどの昆虫の幼虫を利用した有機性廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産規模の拡大に伴って、大量に発生する家畜の排泄物は、臭気、水質汚濁の原因となる。家畜の排泄物を「家畜排せつ物法」によって適正に管理し、有効に利用するために、たい肥化処理やメタン発酵処理などが行われる。しかしながら、家畜の排泄物を有効に利用するための処理(以下、有効化処理という。)を短期間で効率よく行うことは難しく、畜産農家にとって家畜の排泄物の処理が多大な負担となっている。そのような負担を軽減するために、特許文献1では、畜糞などの有機性廃棄物を昆虫の幼虫に食べさせることにより、有機性廃棄物を無害化あるいは低害化することが可能な昆虫バイオ処理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イエバエなどの昆虫の幼虫を利用した有機性廃棄物の有効化処理を行う技術においては、有機性廃棄物を効率よく処理するために、また当該有機性廃棄物の有効化処理を行った幼虫を効率よく回収するために、幼虫の成長を促進させると共に、幼虫の死滅をなるべく減らすようなより良い状態で育成する必要がある。本発明の一実施形態は、生存率を高めながら幼虫を育成させることが可能な有機性廃棄物の処理方法を提供することを課題とする。また、本発明の一実施形態は、成長率を高めながら幼虫を育成させることが可能な有機性廃棄物の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法は、有機性廃棄物を含む餌場に昆虫の卵を接種し、有機性廃棄物を餌として、昆虫の卵から孵化した幼虫を餌場で育成し、有機性廃棄物を昆虫の卵を接種する前に発酵処理をする。
【0006】
本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法において、有機性廃棄物をトレイに敷き詰めて餌場を形成してもよい。または、幼虫がさなぎになる前に、幼虫を餌場から幼虫回収部に移動させ、トレイ上の残存物を回収してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法によれば、餌場の温度上昇を防ぎ、昆虫の幼虫の生育環境をより良い状態とすることができ、幼虫の生存率を高めることができる。また、本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法によれば、微生物または酵素によって有機性廃棄物が分解されることから、餌を幼虫がより捕食しやすい状態にすることが可能であり、幼虫の成長率を高めることができる。これらの結果、より多くの幼虫回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法を説明する概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法の工程と温度の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0011】
<第1実施形態>
[有機性廃棄物の処理方法]
本実施形態では、イエバエなどの昆虫の幼虫を利用した有機性廃棄物の処理方法を説明する。有機性廃棄物の処理方法は、イエバエなどの昆虫の幼虫に有機性廃棄物を食べさせることで、有機性廃棄物を分解させて肥料原料を製造するとともに、幼虫を回収することで動物性たんぱく質源として例えば飼料などに利用することができる。なお、以下の説明では、昆虫の幼虫としてイエバエを例に説明するが、イエバエの他に、センチニクバエや水アブ等のハエ目に属する昆虫を利用することができる。
【0012】
図1は、本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法の流れを示したフローチャートである。
図2は、本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法を説明する概略図である。以下、
図1および
図2を参照して、本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法の一例を説明する。
【0013】
まず有機性廃棄物の調製を行う(S101)。本実施形態における有機性廃棄物は、畜糞、食品廃棄物、農業廃棄物の少なくとも一つを含む。畜糞としては、例えば、牛糞、豚糞、鳥糞、虫糞等がある。食品廃棄物としては、例えば、野菜くず、豆腐くず、おから等がある。有機性廃棄物が畜糞である場合、後述する発酵処理を促進するために、小麦ふすま、脱脂粉乳、米ぬか、乾燥おからなどの保存期間が長く栄養価がある添加物や前述食品廃棄物等を加えてもよい。有機性廃棄物が食品廃棄物または農業廃棄物である場合、有機性廃棄物に含まれる固形物の大きさが、例えば、10mm角以下の範囲のチップ状あるいは粒状になるように粉砕してもよい。または、食品廃棄物は、ペースト状でもよい。固形物の大きさが大きすぎると、後述する有機性廃棄物の発酵処理が進みにくかったり、幼虫が食べにくかったりして、有機性廃棄物の処理に時間がかかることがある。固形物の大きさが小さすぎると、幼虫が蠕動可能な適度な空隙を形成することができず、また、水分がでてきて有機性廃棄物の水分調整が必要となる。有機性廃棄物に含まれる固形物の大きさを上記範囲内に調整することで、有機性廃棄物の発酵処理の効率を向上することができ、有機性廃棄物の処理効率を向上することができる。
【0014】
有機性廃棄物にはさらに、水分調整および後述する好気発酵処理を促進するために、もみ殻、おがくず、おが粉、パーライト、炭などの添加物を加えてもよい。炭としては、例えば、木炭、竹炭、もみ殻燻炭を用いてもよい。有機性廃棄物に加える添加物は、培地の含水率が65wt%以上70wt%以下の範囲になるよう適宜調整することが好ましい。これらの添加物を加えることで、微生物の担体、空間保持、水分調整、脱臭などの効果があり、有機性廃棄物の発酵処理の効率を向上することができ、有機性廃棄物の処理効率を向上することができる。有機性廃棄物にはさらに、添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、pH調整剤、粘度調整剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
有機性廃棄物にはさらに、後述する発酵処理を促進するために、微生物または酵素を加えてもよい。微生物としては、例えば、乳酸菌、麹菌、酵母などを用いてもよい。有機性廃棄物が食品廃棄物である場合、乳酸菌を加えることが好ましい。食品廃棄物に微生物または酵素を加えることで、有機性廃棄物の発酵処理を効率よく行うことができる。
【0016】
添加物、微生物、酵素などを加えた有機性廃棄物は、必要であればさらに水分を適宜加えて、攪拌・混合することによって有機性廃棄物を調製することができる。
【0017】
次に、調製された有機性廃棄物の発酵処理を行う(S103)。本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法においては、昆虫の幼虫の餌として用いる有機性廃棄物に事前発酵処理を行う。有機性廃棄物の発酵処理は、好気性条件下で行ってもよく、嫌気性条件下で行ってもよい。また、嫌気性条件下で発酵処理を行った後、好気性条件下で発酵処理を行ってもよい。有機性廃棄物が畜糞である場合、すでに嫌気性菌が含まれることから嫌気性条件下で発酵処理をしてもよい。有機性廃棄物が食品廃棄物である場合、自然発酵よりも微生物または酵素を加えて発酵することが好ましく、特に乳酸菌を加えて発酵することが好ましい。
【0018】
好気性発酵を行う場合、発酵処理中の有機性廃棄物の温度は50℃以上70℃以下の範囲であることが好ましい。発酵処理中の有機性廃棄物を、例えば、12時間毎に攪拌することで、発酵処理中の有機性廃棄物に空気を送り込むことが好ましい。発酵処理中の有機性廃棄物の温度および含水率を計測することで、発酵の度合いを把握することができる。例えば、有機性廃棄物が畜糞である場合、上述する温度および湿度の範囲において24時間以上120時間以下、または48時間以上72時間以下、発酵処理を行うことが好ましい。
【0019】
嫌気発酵の一例としては、メタン発酵等がある。嫌気性発酵を行う場合、発酵処理中の有機性廃棄物の温度は26℃以上65℃以下の範囲であることが好ましい。発酵処理中の有機性廃棄物は、例えば、容器に密閉することで空気の出入りを遮蔽することが好ましい。発酵処理中の有機性廃棄物の温度、pH、有機性廃棄物の投入後の経過時間および含水率を計測することで、発酵の度合いを把握することができる。例えば、有機性廃棄物が畜糞である場合、上述する温度および湿度の範囲において、pHを6以上9以下、または6.8以上7.6以下とし、有機性廃棄物を投入した後14日以上60日以下、または30日以上45日以下の間、発酵処理を行うことが好ましい。
【0020】
幼虫は直接固形物を捕食するのではなく、自らが排出した消化酵素で固形物を分解し、その分解物を捕食している可能性がある。本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法においては、幼虫の餌として用いる有機性廃棄物を事前に発酵処理を行うことによって、微生物に分解(発酵)させる。分解された有機性廃棄物は、幼虫が捕食しやすくなると共に、幼虫が捕食できる餌食量を増やすことが可能となる。この結果、幼虫の生存率と成長率を高めることができる。また、幼虫による有機廃棄物の有効化処理の処理量を増加させることができる。
【0021】
次に、発酵処理が終わった有機性廃棄物を用いて餌場を形成する(S105)。
図2に示すように、本実施形態に係る餌場10は、トレイ110に有機性廃棄物130を敷き詰めて形成する。有機性廃棄物130は、均一な厚みで、むらなくトレイ110に敷き込まれることが好ましい。有機性廃棄物130の厚みは、例えば、30mm以上80mm以下の範囲であってもよい。有機性廃棄物130の厚みは、例えば、約60mmであることが好ましい。有機性廃棄物130を攪拌・混合することによって、餌場10には幼虫150が蠕動可能な適度な空隙が形成される。なお、調製した有機性廃棄物をトレイに敷き詰めて、トレイ110上で発酵処理を行ってもよい。この場合、餌場を形成する(S105)工程と、発酵処理を行う(S103)工程とは入れ替わってもよい。
【0022】
次に、餌場に昆虫の卵を接種する(S107)。昆虫の卵は、餌場10の有機性廃棄物130の表面に接種する。昆虫の卵は、有機性廃棄物130の表面全域に均一に接種する必要はなく、複数箇所に複数個ずつ卵塊状に接種してもよい。昆虫の卵を卵塊状に接種することで、自然界での産卵状態に近づけることができ、卵の孵化率を向上させることができ、幼虫の生存率を向上させることができる。接種する昆虫の卵の重量比は、有機性廃棄物を100%としたとき0より多く0.1重量%以下であることが好ましい。接種する昆虫の卵の重量比が大きいと、孵化した幼虫の餌が不足し、幼虫の成育が遅れることがある。接種する昆虫の卵の重量比が小さいと、幼虫の餌である有機性廃棄物が余り、有機性廃棄物を効率よく有効化処理することができない。昆虫の卵を上述の範囲で接種することで、有機性廃棄物130の単位重量当たりの幼虫150の数を制御することができる、その結果、有機性廃棄物を効率よく有効化処理することができ、且つ幼虫を効率よく生育させることができる。なお、昆虫の卵を接種する前には、発酵処理が終わったことを確認することが好ましい。
【0023】
次に、昆虫の卵から孵化した幼虫を餌場で育成する(S109)。餌場に接種した卵は約半日で孵化する。本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法においては、昆虫の卵から孵化した幼虫を、発酵処理を行った有機性廃棄物を餌として育成する。発酵処理を行った有機性廃棄物は、微生物または酵素によってすでに分解されていることから、幼虫が捕食・消化しやすくなり、幼虫を効率よく育成することができる。また、有機廃棄物の発酵が生じないため、餌場が高温になることを防ぐことができる。幼虫育成中の有機性廃棄物の温度は30℃以上37℃以下の範囲であることが好ましい。幼虫育成中の有機性廃棄物の含水率は65wt%以上70wt%以下の範囲であることが好ましい。幼虫育成中の有機性廃棄物の温度および含水率が上記範囲外であると、卵の孵化率、幼虫の成育、生存率が低下することがある。幼虫育成中の有機性廃棄物は、かき混ぜたりして刺激を与えないことが好ましい。幼虫育成中の有機性廃棄物の温度および含水率を制御することで、幼虫の有機性廃棄物の餌食量を増加させることが可能であり、幼虫の生存率と成長率を高めることができる。
【0024】
次に、餌場で育成した幼虫と有機性廃棄物の残存物(分解物)とを分別する(S111)。幼虫と残存物とは、幼虫が蛹に変態する時(幼虫は孵化してから約7日目)の離散習性(蠕動離散習性)を利用する。
図2に示すように、本実施形態おける餌場10のトレイ110は、有機性廃棄物130を囲む側壁を有し、側壁の少なくとも1辺の壁面111が斜めに傾斜している。斜めに傾斜する壁面111の縁部の下には、上面が開口している幼虫回収部170が配置される。斜めに傾斜する壁面111は、スリット状の溝113を有する。有機性廃棄物130中にいる幼虫150は蛹になる場所を求めて活発に蠕動することで、斜めに傾斜する壁面111を溝113に沿って上り、縁部に移動する。壁面111の縁部から落下した幼虫150は、幼虫回収部170に移動する。幼虫回収部170は、例えば、箱、または水をはった浅い水槽等であってもよい。本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法においては、幼虫の成長に適した状態で幼虫150を育成することができ、幼虫150を効率よく幼虫回収部170に回収することができる。このため、餌場10で育成した幼虫150と有機性廃棄物130の残存物(分解物)とを効率よく分別することができる。
【0025】
分別した幼虫と有機性廃棄物の残存物とはそれぞれ別々に回収する(S113)。本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法において回収される幼虫は、餌場が幼虫の成長に適した状態であることから、1固体当たりの重量を向上することができると共に、幼虫の生存率及び成長率を高めることができる。幼虫は、より活発に蠕動することから、餌場からの回収効率を向上することができる。この結果、有機性廃棄物100%当たりの幼虫の回収量を向上することができる。回収された幼虫は、動物性たんぱく質源として例えば飼料などに利用することができる。回収される有機性廃棄物の残存物は、有機性廃棄物が幼虫によって食べられ、排泄された有機分解物である。本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法において、幼虫の成長に適した餌場で幼虫150を生育することが可能なため、回収される有機性廃棄物の残存物単位重量当たりの餌食の食べ残し量を少なくすることができる。回収された有機性廃棄物の残存物は、50℃以上70℃以下の加熱乾燥処理を行うことで、残存する幼虫及び蛹の成長を停止させると共に、含水率を低減することが可能である。この結果、有機性廃棄物の残存物を飼料原料および肥料原料として利用することができる。
【0026】
本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法においては、昆虫の卵から孵化した幼虫を、発酵処理を行った有機性廃棄物を餌として用いて育成することで、成長に適した環境で幼虫を育成することができる。その結果、幼虫の成長率と生存率を高めることが可能である。また、十分成長した多くの幼虫が有機廃棄物を餌食するため、幼虫による餌食量が増加し、有機性廃棄物を効率よく有効化処理することができ、肥料源や飼料源となる有機性廃棄物量を増加させることができる。
【0027】
図3に、本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法における発酵処理、卵の接種、幼虫の育成の各工程と、有機性廃棄物の温度との関係の一例を示す。まず、時間t1で有機性廃棄物の発酵処理(S103)を開始すると、有機性廃棄物の温度は発酵によりT1からT2に上昇する。時間t2で発酵処理が終了するとき、有機性廃棄物の温度はT2からT1に戻る。なお、外気温の影響により培地の温度が発酵に適さない温度の場合、例えば20℃以下または50℃以上の場合は、発酵処理のときに、発酵が促進されるように有機性廃棄物を意図的に加熱または冷却してもよい。
【0028】
発酵処理における温度T2は昆虫の卵及び幼虫が生存するための適切な温度よりも高く、死滅しやすいため、この段階で昆虫の卵を接種したり、幼虫を育成したりすることは好ましくない。発酵処理がされた有機性廃棄物が昆虫にとって適温まで下がった後、例えば時間t2で、昆虫の卵を接種する(S105)。有機性廃棄物に接種された卵は所定の時間が経過すると(例えば、
図3に示す時間t3)で、卵が孵化し幼虫となる。幼虫は発酵処理された有機性廃棄物の捕食と排泄を繰り返しながら成長する(S107)。なお、外気温の影響により培地の温度が幼虫の育成に適さない温度の場合、例えば30℃未満または40℃以上の場合は、幼虫の育成が促進されるように有機性廃棄物を意図的に加熱または冷却してもよい。
【0029】
このように本実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法においては、有機性廃棄物の発酵処理(S103)と、昆虫の卵の接種(S105)および幼虫の育成(S105)とを別々に行うことで、それぞれの工程に適した温度で有機性廃棄物の処理を行うことができる。この結果、有機性廃棄物を効率よく有効化処理することができ、また幼虫を効率よく生育させることができる。
【実施例】
【0030】
本発明の一実施形態に係る有機性廃棄物の処理方法を用いて、畜糞の有効化処理を行った。以下の実施例では、その結果について述べる。
【0031】
[実施例1]
実施例1では、有機性廃棄物である豆腐くず3.6kgに、添加物として乾燥おからを840gともみ殻440gを加えて混合した。さらに有機性廃棄物は、5日間、室温状態且つ好気性条件下で自然発酵を行った。発酵時の最大温度は55℃であった。含水率は72.3wt%であった。温度が37℃以下になった時点で、イエバエの卵2.0gを接種し、温度が28℃以上44℃以下で幼虫を育成した。
【0032】
4日後、成育した幼虫は餌場から幼虫回収部に移動し始め、8日後、有機性廃棄物の有効化処理は終了した。この時点での有機性廃棄物の残存物は1.06kgであり、回収された幼虫は455g、100匹の平均重量は1.85gであり、幼虫の総重量を100匹の平均重量で除した幼虫の総数は約24600匹であった。実施例1の結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
比較例1では、有機性廃棄物の自然発酵を行わないこと以外は、実施例1と同じ条件で幼虫を育成した。
【0034】
4日後、成育した幼虫は餌場から幼虫回収部に移動し始め、8日後、有機性廃棄物の有効化処理は終了した。この時点での有機性廃棄物の残存物は0.865kgであり、回収された幼虫は318g、100匹の平均重量1.63gであり、幼虫の総重量を100匹の平均重量で除した幼虫の総数は約19500匹であった。比較例1の結果を表1に示す。比較例において、有機性廃棄物は1日目から発酵し、最大温度が55℃程度にまで上昇した。また、1日目から3日目まで、有機廃棄物の温度が35℃以上であった。このため、培地の水分が蒸発し、有機性廃棄物の残存率の重量が実施例1と比較して低減した。
【表1】
【0035】
本実施例により、事前に発酵させた有機性廃棄物を幼虫の餌として用いることで、幼虫の成長率(100匹重量)が向上した。また、餌場における温度上昇を防ぐことが可能であるため、幼虫の生存率(総数)が向上した。この結果、幼虫の総重量が増加したことがわかる。
【0036】
本発明の上述した実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0037】
上述した実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。