(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】人工関節
(51)【国際特許分類】
A61F 2/42 20060101AFI20240910BHJP
A61F 2/38 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61F2/42
A61F2/38
(21)【出願番号】P 2021540984
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031566
(87)【国際公開番号】W WO2021033761
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019152045
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019152093
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507025869
【氏名又は名称】平田 仁
(73)【特許権者】
【識別番号】519305993
【氏名又は名称】栗本 秀
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】栗本 秀
(72)【発明者】
【氏名】野田澤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大谷 優人
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-520873(JP,A)
【文献】特表2019-510605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/42
A61F 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に埋植して用いられる人工の関節であって、
所定の曲面が形成される骨頭部と、第一の骨に埋設される第一ステム部とを備える第一部材、及び、前記骨頭部の所定の曲面と当接する面を有する骨窩部と、前記第一の骨に隣接する第二の骨に埋設される第二ステム部とを備える第二部材を有しており、
前記第二部材は、前記骨頭部における所定の点を回転中心として関節の屈伸方向に回動が可能であり、
前記骨頭部の所定の曲面は、
前記骨頭部を前記回動の軸方向から見た場合に前記骨窩部と当接する側に向けて凸な弧を描く曲線であって、該曲線上に任意の2点を取った場合に、該曲線上において、より前記関節の屈曲側に位置する方の点の曲率半径が、もう一方の点の曲率半径よりも小さくなる
、対数螺旋の軌跡の一部を構成する曲線、によって定義される、
ことを特徴とする人工関節。
【請求項2】
前記曲線は、フィボナッチ数列によって定義される対数螺旋の軌跡の一部を構成する曲線である、
ことを特徴とする請求項
1に記載の人工関節。
【請求項3】
前記第二部材は前記屈伸方向に100度以上の回転角で回動可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の人工関節。
【請求項4】
前記骨窩部は、前記関節の伸展側から屈曲側へ向けて、前記回動の軸方向外側に広がる斜面を形成する側面を有する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の人工関節。
【請求項5】
前記骨窩部は、当該骨窩部を前記骨頭部の所定の曲面と当接する面側から見た際に、前記関節の進展側の幅よりも屈曲側の幅の方が大きい略台形状の輪郭を有する、
ことを特徴とする請求項4に記載の人工関節。
【請求項6】
前記骨頭部は、前記回動の軸方向に並ぶ2つの凸状の顆部と、該2つの顆部の間に位置する谷部とを備え、
前記骨窩部は、前記谷部と係合する凸状の中央凸部と、該中央凸部の両側に位置し、前記顆部と係合する凹状の顆受け部とを備えており、
前記骨頭部の所定の曲面は、前記顆部に形成されている、
ことを特徴する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の人工関節。
【請求項7】
前記谷部は前記関節の伸展側が浅く、前記関節の屈曲側に向けて徐々に深くなる構造となっており、
前記中央凸部は、前記関節の伸展側と屈曲側が高く、その中間が最も低くなるように、徐々に高さが変化する構造となっている、
ことを特徴とする、請求項
6に記載の人工関節。
【請求項8】
前記骨窩部は、金属で形成されている、
ことを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載の人工関節。
【請求項9】
人体の膝関節に適用される、
ことを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の人工関節。
【請求項10】
人体の肘関節に適用される、
ことを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の人工関節。
【請求項11】
人体の指関節に適用される、
ことを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の人工関節。
【請求項12】
手指の近位指節間関節または中手指節関節に適用される、
ことを特徴とする、請求項1
1に記載の人工関節。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に埋植して用いられる人工関節に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢や外傷、炎症や腫瘍など、様々な要因により関節が高度に破壊される状況に対し、全人工関節置換術は最も有効で最も合理的な治療手段として広く知られている。このため従来から、四肢の関節の軟骨が変性、摩耗することで生じる変形性関節症の治療のために、変性した関節を外科的手術によって人工関節に置換することが行われている。
【0003】
現在一般的に用いられる人工関節は、メーカーが少数の骨格サンプル標本から推定した、いわゆる「解剖学的形状」に基づき設計され、数種類のサイズバリエーションを設定して大量生産されるものとなっている。
【0004】
具体的には、例えば、変性した関節を挟んで隣接する骨のそれぞれに埋設されるステムと、関節の屈曲を可能にする可撓性部材からなる関節代替部を有する一体型タイプのものが広く知られている(例えば特許文献1など)。
【0005】
また、上記以外にも、置換する関節の近位側の骨の骨頭部分に相当する部材と、これに対向する遠位側の骨の受け部に相当する別部材とからなる、いわゆる表面置換型の人工関節も公知となっている(例えば、特許文献2など)。
【0006】
しかしながら、顆状関節、蝶番関節、車軸関節などでは関節形状、とりわけ顆状部や骨頭部の形状における個人差が極めて大きく、多くの患者において形状のミスマッチを原因とする可動域制限を生じたり、無理な力学環境から人工関節の緩みや破損を生じるといった問題に直面している。
【0007】
例えば、特許文献1のような可撓性部材からなる一体型の人工関節では、可撓性により関節部の屈曲を可能にするものの、可動域に制限があり、関節を曲げて力を保持することはできず、単に屈曲可能なスペーサーの役割を果たすに過ぎない。また、耐久性も低く、インプラントの破損に伴う再手術を短い期間で行う必要がある、という問題がある。
【0008】
また、特許文献2のような骨頭側部材と受け側部材からなる表面置換型の人工関節では、骨頭側部材を金属性とし、受け側部材を硬質樹脂とすることで、耐久性の問題はある程度改善される。しかしながら、関節面の形状が適切でなく、関節の屈伸運動を支持する腱や靱帯の温存が難しい形状であったため、関節の屈伸軌道の再現が不完全となり、結果、関節の可動域が狭くなってしまうという問題がある。
【0009】
一方、これに対処するため、近年随所で3Dプリンティング技術などを応用して患者本来の関節形状を正確に模倣する「個別化人工関節」の開発が行われている。しかしながら、このような手法では、当然ながら製品個々の構造や特性に大きなばらつきが発生し、機械的な性能を説明することが難しくなり、工業的な量産においても合理的でない、という問題がある。
【0010】
また、このような人工関節によって関節を置換する手術を行う際には、人工関節を埋設するために関節の周囲の靱帯、腱などが切開、切除されているのが実情である。しかしながら、関節機能の維持、早期回復のためには、手術時に温存できる関節周辺の靱帯、腱などはできる限り温存し、人工関節の埋設後に従来存在していた箇所に復元することが望ましい。
【0011】
そのためにも、人工関節の形状はできる限り靱帯や腱を温存、復元しやすいものであること、また、温存、復元した靱帯や腱の働きを阻害しないものであることが望ましいが、従来の人工関節は必ずしもこのようなニーズを満たすような形状とはなっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2000-513245号公報
【文献】特表2008-521524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような問題に鑑み、正常な四肢関節の屈伸軌道に近い軌道を再現し、健常に近い可動域を獲得可能な汎用の人工関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明に係る人工関節は、人体に埋植して用いられる人工の関節であって、所定の曲面が形成される骨頭部と、第一の骨に埋設される第一ステム部とを備える第一部材、及び、前記骨頭部の所定の曲面と当接する面を有する骨窩部と、前記第一の骨に隣接する第二の骨に埋設される第二ステム部とを備える第二部材を有しており、前記第二部材は、前記骨頭部における所定の点を回転中心として、関節の屈伸方向に回動が可能であり、前記骨頭部の所定の曲面は、前記回動の軸方向から見た場合に前記骨窩部と当接する側に向けて凸な弧を描く曲線であって、該曲線上に任意の2点を取った場合に、該曲線上において、より前記関節の屈曲側に位置する方の点の曲率半径が、もう一方の点の曲率半径よりも小さくなる曲線、によって定義される、ことを特徴とする。
【0015】
なお、本明細書において、遠位側とは四肢の指先に近い側を意味し、近位側とは、遠位とは反対に胴体に近い側を意味する。また、関節の伸展側とはいわゆる関節の外側を意味し、同様に屈曲側とは関節の内側を意味する。また、関節の伸展側を「上」、屈曲側を「下」とも表現する。
【0016】
人工関節を人体内に埋設した状態において、骨の骨頭を置換する部材の球面が単一の曲率半径を有する構成では、本来の関節と同様の可動域を得る事ができず、十分な屈曲を行うことができない。この点、上記のような構成であると、骨頭を置換する部材が、関節の屈曲側に向かうにつれて回転中心との径が小さくなる曲線によって定義される曲面を有するため、球面で当接する場合に比べて、屈曲方向への可動域を広げることができる。
【0017】
また、前記曲線は、対数螺旋の軌跡の一部を構成する曲線であってもよい。このような構成によると、骨頭部における曲面をより滑らかに構成することができ、人工関節で置換した部位の屈伸を円滑に行うことができる。
【0018】
また、前記曲線は、フィボナッチ数列によって定義される対数螺旋の軌跡の一部を構成する曲線であってもよい。このような構成によると、生体の骨頭により近い曲面を構成することができ、関節の屈伸軌道の再現性を高めることができる。
【0019】
また、前記骨頭部は、関節の屈伸方向に垂直な方向に並ぶ2つの凸状の顆部と、該2つの顆部の間に位置する谷部とを備え、前記骨窩部は、前記谷部と係合する凸状の中央凸部と、該中央凸部の両側に位置し、前記顆部と係合する凹状の顆受け部とを備えており、前記骨頭部の曲面は、前記顆部に形成されていてもよい。
【0020】
このような構成にすることで、実際の関節部分の構造に近い形状とすることができるとともに、骨頭部と骨窩部との当接面における互いの凹凸の形状を調節することで、回動の可動域も調節することが可能になる。
【0021】
また、前記谷部は前記関節の伸展側が浅く、前記関節の屈曲側に向けて徐々に深くなる構造となっており、前記中央凸部は、前記関節の伸展側と屈曲側が高く、その中間が最も低くなるように、徐々に高さが変化する構造となっていてもよい。
【0022】
このような構成により、関節が屈曲状態から伸展状態へ回動するにつれて、中央凸部に対する谷部の拘束が大きくなり、関節が伸展状態になった段階で当該拘束が最大になるため、それ以上に第二部材が関節の外側方向に回動するのが抑止される。
【0023】
また、前記骨窩部は、金属で形成されていてもよい。このような構成にすることで、所定の強度を維持したまま骨窩部の厚みを薄くできるため、関節周辺の靱帯、特に側副靱帯を温存することが可能になる。
【0024】
また、骨窩部は、前記関節の伸展側から屈曲側へ向けて、前記回動の軸方向外側へ広がる斜面を形成する側面を有していてもよい。また、前記骨窩部は、当該骨窩部を正面視した際に、上部の幅よりも下部の幅が大きい略台形状の輪郭を有していてもよい。なお、骨窩部の正面とは、前記骨頭部の所定の曲面と当接する面のことをいう。即ち、「骨窩部を正面視する」とは、当該骨窩部と当接する骨頭部の側から見ることを意味する。
【0025】
人工関節によって関節を置換する手術を行う際には、温存できる関節周辺の靱帯、腱などはできる限り温存し、人工関節の埋設後に従来存在していた箇所に復元することが望ましい。このため、人工関節の形状は温存、復元した靱帯や腱の働きを阻害しないものであることが望ましい。
【0026】
例えば、指関節の遠位側と近位側に亘って位置する側索(伸筋腱)は、関節が伸展しているときは関節の上側に纏まって配置され、関節が屈曲する際には、2つに分かれて関節の両側面に配置される。即ち、側索は関節の屈伸運動に合わせて関節の上面から側面を摺動するが、従来の人工関節は必ずしもこのような腱(や靱帯)の動きを阻害しないものとはなってはいなかった。この点、本発明に係る上記のような人工関節の構成であると、関節を置換する際に側索を温存、復元した場合に、側索がその動きを阻害されることなく、滑らかに摺動することができる。これにより、置換した関節の屈伸運動を滑らかに行うことが可能になる。
【0027】
また、前記の人工関節は、人体の屈曲運動する関節に適用されるものであってよい。例えば、人体の膝関節に適用されるものであってもよいし、人体の肘関節に適用されるものであってもよい。また、人体の手足指関節に適用されるものであってもよく、さらに手指の近位指節間関節または中手指節関節に適用されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、正常な四肢関節の屈伸軌道に近い軌道を再現し、健常に近い可動域を獲得可能な汎用の人工関節を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1Aは、実施例に係る人工関節の概略を示す側面図である。
図1Bは、実施例に係る人工関節の概略を示す平面図である。
【
図2】
図2は、実施例に係る人工関節の顆部の形状について説明する図である。
【
図3】
図3Aは、実施例に係る人工関節の回動について説明する第1の図である。
図3Bは、実施例に係る人工関節の回動について説明する第2の図である。
図3Cは、実施例に係る人工関節の回動について説明する第3の図である。
【
図4】
図4は、実施例に係る人工関節の骨窩部の正面図である。
【
図5】
図5Aは、実施例に係る人工関節を適用した指の屈伸運動に伴う、骨窩部と側索の位置関係を示す第1の図である。
図5Bは、実施例に係る人工関節を適用した指の屈伸運動に伴う、骨窩部と側索の位置関係を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、以下では、同一の要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0031】
<実施例1>
図1は本実施例に係る人工関節1の概略を示しており、
図1Aは人工関節1の側面図、
図1Bは人工関節1の平面図である。本実施例に係る人工関節1は、手指の近位指節間関節(いわゆる第2関節)を代替する人工関節であり、
図1に示すように、基節骨側に配置される近位側部材10と、中節骨側に配置される遠位側部材20の1組のセットで構成されている。
【0032】
近位側部材10は、基節骨の遠位端部分を代替する骨頭部11と、基節骨に埋設される近位側ステム部12を備える構成となっている。骨頭部11は、例えば、超高分子量ポリエチレンなどの耐摩耗性に優れた樹脂によって形成されているとよい。金属製の骨窩部を持つ遠位側部材と組み合わせた場合に、摩耗の影響を低減することができる。
【0033】
また、骨頭部11は、遠位側に凸状となる2つの顆部111a、111bと、これらの間に位置する谷部112とを備える構成である。顆部111a、111bは後述するような曲線によって定義される曲面を有しており、谷部112は上側が浅く、下側に向けて徐々に深くなる構造となっている。
【0034】
遠位側部材20は、中節骨の近位端部分を代替する骨窩部21と、中節骨に埋設される遠位側ステム部22を備えている。骨窩部21は、例えば、コバルト-クロム合金、純チタンなどの金属によって形成されており、厚みを薄くしても強度を維持することができる。
【0035】
骨窩部21の厚みを薄く形成できることにより、関節置換手術の際に、骨の靭帯付着部を多く温存することができるため、より多くの靭帯(及び腱)を除去することなく温存して復元することが可能になる。これによって、関節機能の回復を早めることができる。
【0036】
また、骨窩部21は、谷部112と係合する凸状の中央凸部211と、該中央凸部の両側に位置し、顆部111a、111bのそれぞれと係合する凹状の顆受け部212a、212bを備える構成となっている。中央凸部211は、上側と下側が高く、その中間が最も低くなるように、徐々に高さが変化する構造となっている。
【0037】
なお、近位側ステム部12及び遠位側ステム部22は、所望の公知技術によって骨に埋設されるように構成されていればよく、本実施例では金属によって形成されている。
【0038】
骨頭部11の顆部111a、111bは、遠位側に凸状の曲面を有しており、当該曲面は、
図1A、
図2に示すように、骨頭部11を側面から見た際に、いわゆるフィボナッチ曲線となる形状をしている。フィボナッチ曲線は、フィボナッチ数列から導き出される対数螺旋(黄金螺旋ともいう)の軌跡の一部を構成する曲線である。
図2は、骨頭部11の側面図に、黄金螺旋を当該螺旋の軌跡の一部が顆部111aの凸状の曲線と重なるように示した図である。
【0039】
遠位側部材20は、近位側部材10の骨頭部11における所定の点を回転中心として、上下方向に回動可能になっており、当該回動によって指の屈伸運動を再現する。
図3に、遠位側部材20が、骨頭部11の回転中心回りに回転する際の様子を示す。
図3Aは関節が伸展状態(回転角が0度)であるときを示す図、
図3Bは回転角が45度であるときの状態を示す図、
図3Cは関節が屈曲状態にあるときの状態を示す図である。
図3中の螺旋は上記の黄金螺旋を示している。
【0040】
顆部111a、111bにおいて、遠位側部材20と当接する曲面は、骨頭部11を側面(すなわち、前記回動の軸方向)から見た場合に、骨頭部11における回転中心に対する距離が、屈曲方向に向かうにつれて短く(即ち、曲率半径が小さく)なっていくフィボナッチ曲線によって定義される。このため、円弧(即ち、円の一部)となる曲線で定義される曲面の場合とは異なり、遠位側部材20は屈曲方向へより大きく(例えば、100度以上の回転角で)回動することが可能になる。
【0041】
一方、遠位側部材20の回動は骨頭部11と骨窩部21が当接した状態で行われるため、上記したような谷部112及び中央凸部211の構成によって、遠位側部材20が水平方向よりも上側に回動することが抑止される。具体的には、遠位側部材20が下側から上側に(関節が屈曲状態から伸展状態へ)回動するにつれて、中央凸部211に対する谷部112の拘束が大きくなり、関節が略伸展状態になった段階で当該拘束が最大になるため、それ以上に遠位側部材20が上側に回動することが抑止される。
【0042】
また、骨窩部21の顆受け部212a、212bは、関節が伸展状態となる位置において、それぞれ顆部111a、111bと隙間無く係合するように形成されており、関節が屈曲状態となる位置に置いては、少し左右方向に隙間が生じるように形成されている。このため、健常な関節の場合と同じように関節を屈曲させた状態で左右方向の自由度が得られることになる。
【0043】
図4は、人体内に関節として置換された後の人工関節1の骨窩部21を正面(即ち、骨頭部11と当接する側の面)から見た状態を示す図である。なお、
図4中の破線は、上辺が下辺よりも短い形状の台形を示している。骨窩部21は、
図4に示すように正面から見た場合には、上側の幅が下側の幅よりも短く、両側面が上側から下側に向けて外側に広がる斜面を有する構造になっている。即ち、図中の破線で示すように略台形状の輪郭を有している。なお、図示しないが、骨窩部21と当接する骨頭部11も、正面(即ち、骨窩部21と当接する側の面)から見た場合には同様に略台形の形状となっている。
【0044】
健常な生体の指には関節の遠位側と近位側に亘って側索が存在しており、関節を屈曲するための腱としても機能している。
図5は、人工関節1を適用した指の屈伸運動に伴う、骨窩部21と側索51の位置関係を示す図であり、
図5Aは、関節が伸展している状態の骨窩部21と側索51の位置関係を示す図、
図5Bは関節が屈曲している状態の骨窩部21と側索51の位置関係を示す図である。
図5に示すように、側索51は指の屈伸運動に合わせて関節の上面から側面を摺動し、関節が伸展しているときには関節の上側に纏まって配置され、関節が屈曲する際には、2つに分かれて関節の両側面に配置される。
【0045】
骨窩部21及び骨頭部11の形状が上記のように、両側面に上から下へ向けて外側に広がる斜面を有する構成であることによって、上記のような関節の上面から側面にかけての側索の摺動が阻害されることなく円滑に行われるため、指の屈伸運動を滑らかに行うことが可能になる。
【0046】
<その他>
なお、上記の実施例の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形、組み合わせが可能である。例えば、本発明は、近位指節間関節だけに限らず、中手指節関節等の手指の人工関節にも適用することができる。また、手指の関節に限らず、肘関節、膝関節などの人体の四肢の他の関節の人工関節としても適用することができる。
【0047】
また、顆部111a、111bの曲線は必ずしも黄金螺旋の軌跡の一部を構成している必要は無く、屈曲側に向かうにつれて徐々に回転中心からの距離が小さくなるものであればよい。また、骨窩部及び骨頭部を正面から見た際の形状も、必ずしも台形である必要は無く、略三角形の様な形状となっていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1・・・人工関節
10・・・近位側部材
11・・・骨頭部
111・・・顆部
112・・・谷部
12・・・近位側ステム部
20・・・遠位側部材
21・・・骨窩部
211・・・中央凸部
212・・・顆受け部
22・・・遠位側ステム部
51・・・側索