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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】太陽電池パネル診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024108207
(22)【出願日】2024-07-04
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593207765
【氏名又は名称】株式会社アイテス
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】高野 和美
(72)【発明者】
【氏名】有松 健司
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-195181(JP,A)
【文献】特開2022-000614(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0057264(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた太陽電池パネルの劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置であって、
診断対象の太陽電池パネルに検査光を照射する光源と、
前記太陽電池パネルに照射された前記検査光の反射光及び/又は透過光が導入される分光光度計と、
前記分光光度計が作成した分光スペクトルを解析する解析部と
を備え、
前記解析部は、前記分光スペクトルを、対照スペクトルと比較することにより、前記太陽電池パネルの劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置。
【請求項2】
前記対照スペクトルは、予め求めておいた劣化していない太陽電池パネルから得られる無劣化スペクトルである請求項1に記載の太陽電池パネル診断装置。
【請求項3】
前記対照スペクトルは、前記検査光が本来有する基準スペクトルである請求項1に記載の太陽電池パネル診断装置。
【請求項4】
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I)と波長500~600nmにおける強度(I)との比(I/I)で表される劣化値Aと、
前記対照スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I´)と波長500~600nmにおける強度(I´)との比(I´/I´)で表される対照値Bと、
を比較することにより、前記太陽電池パネルの劣化状態を判定する請求項1~3の何れか一項に記載の太陽電池パネル診断装置。
【請求項5】
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I)と波長500~600nmにおける強度(I)との比(I/I)で表される劣化値Aと、
前記対照スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I´)と波長500~600nmにおける強度(I´)との比(I´/I´)で表される対照値Bと、
に基づいて、
1.05<A/B≦1.15である場合に前記太陽電池パネルが初期劣化していると判定し、
1.15<A/B≦1.4である場合に前記太陽電池パネルが経年劣化していると判定し、
1.4<A/Bである場合に前記太陽電池パネルが寿命劣化していると判定する請求項2に記載の太陽電池パネル診断装置。
【請求項6】
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と前記対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cに基づいて、前記太陽電池パネルの劣化状態を判定する請求項1~3の何れか一項に記載の太陽電池パネル診断装置。
【請求項7】
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と前記対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cに基づいて、
1.02<C≦1.05である場合に前記太陽電池パネルが初期劣化していると判定し、
1.05<C≦1.22である場合に前記太陽電池パネルが経年劣化していると判定し、
1.22<Cである場合に前記太陽電池パネルが寿命劣化していると判定する請求項2に記載の太陽電池パネル診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた太陽電池パネルの劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池パネルの封止剤の劣化の程度を検知することにより、太陽電池パネルの寿命の評価を行う太陽電池パネルの寿命予測方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1の太陽電池パネルの寿命予測方法は、太陽電池パネルの発電劣化率と封止剤(EVA封止剤)のEVAのスペクトル強度の比(蛍光強度比)を測定することにより、太陽電池パネルの寿命予測を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-146337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の太陽電池パネルの寿命予測方法では、ラマン分光法を用いてスペクトル強度を測定している。ここで、封止剤として使用されるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)は、紫外線照射による脱酢酸反応の進行に伴い、分子構造内にポリエン構造((CH=CH))が生成される。このポリエン構造から発生する蛍光は、ラマンスペクトルのバックグラウンド強度を上昇させる特性を有している。ラマン散乱光は、蛍光に比べて強度が圧倒的に弱いことが多い。そうすると、スペクトル強度を測定するためにラマン分光法を用いる場合、蛍光によって微弱なラマン散乱光が埋没してしまう問題があり、特に劣化した太陽電池パネルを検査する場合、蛍光の影響を受け、ピークが埋もれることで、正確な寿命予測を行えない虞がある。
【0006】
また、特許文献1の太陽電池パネルの寿命予測方法では、一つの太陽電池パネルでラマン計測により蛍光強度比を測定算出した後、一定期間経過後に再度、同一の太陽電池パネルで蛍光強度比を測定算出する必要があるため、時間がかかり効率が悪い。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、蛍光の影響を受けずに、正確に太陽電池パネルの劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる太陽電池パネル診断装置の特徴構成は、
封止剤としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた太陽電池パネルの劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置であって、
診断対象の太陽電池パネルに検査光を照射する光源と、
前記太陽電池パネルに照射された前記検査光の反射光及び/又は透過光が導入される分光光度計と、
前記分光光度計が作成した分光スペクトルを解析する解析部と
を備え、
前記解析部は、前記分光スペクトルを、対照スペクトルと比較することにより、前記太陽電池パネルの劣化状態を判定することにある。
【0009】
本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、診断対象の太陽電池パネルに検査光を照射し、検査光の反射光及び/又は透過光を分光光度計で検出することにより生成された分光スペクトルは、ラマンスペクトルとは異なり蛍光の影響を受けにくく、ピークが埋もれないため、この分光スペクトルを、対照スペクトルと比較することで、正確に太陽電池パネルの劣化状態を判定することができる。
【0010】
本発明にかかる太陽電池パネル診断装置において、
前記対照スペクトルは、予め求めておいた劣化していない太陽電池パネルから得られる無劣化スペクトルであることが好ましい。
【0011】
EVAが紫外線に曝露されると、EVAの主鎖が切断され分解が促進されるため、一般的に、封止剤は、紫外線吸収剤を含有しており、太陽光発電時の日射からEVAを保護している。しかしながら、紫外線吸収剤は、太陽光に含まれる紫外線により、徐々に分解していく。したがって、劣化していない太陽電池パネルと一定期間使用された後の太陽電池パネルとでは、紫外線吸収剤の残存量が異なる。本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、一定期間使用された後の太陽電池パネルから得られる分光スペクトルと、予め求めておいた劣化していない太陽電池パネルから得られる無劣化スペクトルとを比較して得られる特定の波長の強度比に基づいて、紫外線吸収剤の残存量を推定することができ、その結果、劣化状態を判定することができる。
【0012】
本発明にかかる太陽電池パネル診断装置において、
前記対照スペクトルは、前記検査光が本来有する基準スペクトルであることが好ましい。
【0013】
本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、封止剤に含有される紫外線吸収剤が全て分解されると、一定期間使用された後の太陽電池パネルから得られる分光スペクトルは、検査光が本来有する基準スペクトルに近づくため、分光スペクトルと、検査光が本来有する基準スペクトルとを比較して得られる特定の波長の強度比に基づいて、紫外線吸収剤の残存量を推定することができ、その結果、劣化状態を判定することができる。また、分光スペクトルの強度が基準スペクトルの強度とほぼ一致した場合には、紫外線吸収剤がほぼ全て分解されたと判断することができる。
【0014】
本発明にかかる太陽電池パネル診断装置において、
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I)と波長500~600nmにおける強度(I)との比(I/I)で表される劣化値Aと、
前記対照スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I´)と波長500~600nmにおける強度(I´)との比(I´/I´)で表される対照値Bと、
を比較することにより、前記太陽電池パネルの劣化状態を判定することが好ましい。
【0015】
本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、紫外光から可視光の領域にわたって分光スペクトルを測定すると、波長350~450nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化するが、波長500~600nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化しないため、分光スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I)と波長500~600nmにおける強度(I)との比(I/I)で表される劣化値Aと、対照スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I´)と波長500~600nmにおける強度(I´)との比(I´/I´)で表される対照値Bとを比較することにより、太陽電池パネルの劣化状態を判定することができる。
【0016】
本発明にかかる太陽電池パネル診断装置において、
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I)と波長500~600nmにおける強度(I)との比(I/I)で表される劣化値Aと、
前記対照スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I´)と波長500~600nmにおける強度(I´)との比(I´/I´)で表される対照値Bと、
に基づいて、
1.05<A/B≦1.15である場合に前記太陽電池パネルが初期劣化していると判定し、
1.15<A/B≦1.4である場合に前記太陽電池パネルが経年劣化していると判定し、
1.4<A/Bである場合に前記太陽電池パネルが寿命劣化していると判定することが好ましい。
【0017】
本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合において、解析部が劣化値Aと対照値Bとの比であるA/Bに基づいて劣化状態を判定するため、正確な劣化状態を確認することができる。
【0018】
本発明にかかる太陽電池パネル診断装置において、
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と前記対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cに基づいて、前記太陽電池パネルの劣化状態を判定することが好ましい。
【0019】
本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、紫外光の領域において分光スペクトルを測定すると、波長362~367nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化するため、分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cによって劣化状態を判定することができる。
【0020】
本発明にかかる太陽電池パネル診断装置において、
前記解析部は、
前記分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と前記対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cに基づいて、
1.02<C≦1.05である場合に前記太陽電池パネルが初期劣化していると判定し、
1.05<C≦1.22である場合に前記太陽電池パネルが経年劣化していると判定し、
1.22<Cである場合に前記太陽電池パネルが寿命劣化していると判定することが好ましい。
【0021】
本構成の太陽電池パネル診断装置によれば、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合において、解析部が劣化値Cに基づいて劣化状態を判定するため、正確な劣化状態を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、太陽電池パネルの断面を模式的に示す説明図である。
図2図2は、EVAの分解の説明図である。
図3図3は、紫外線吸収剤を配合した封止剤の紫外・可視吸収スペクトルである。
図4図4は、本発明の実施形態に係る太陽電池パネル診断装置の概略構成図である。
図5図5は、光源に水銀ランプを用いた場合の分光スペクトル及び無劣化スペクトルの一例を示す図である。
図6図6は、光源に水銀ランプを用いた場合の分光スペクトル及び基準スペクトルの一例を示す図である。
図7図7は、第一実施形態において、解析部で行われる処理を説明するフローチャート(1)である。
図8図8は、第一実施形態において、解析部で行われる処理を説明するフローチャート(2)である。
図9図9は、第二実施形態において、解析部で行われる処理を説明するフローチャート(1)である。
図10図10は、第二実施形態において、解析部で行われる処理を説明するフローチャート(2)である。
図11図11は、第三実施形態において、解析部で行われる処理を説明するフローチャートである。
図12図12は、劣化していない太陽電池パネルに紫外線を連続照射した場合の対照スペクトルの波長365nmにおける強度と波長546nmにおける強度との比である強度比、及び紫外線照射時間の関係を示すグラフである。
図13図13は、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合における劣化値Aと対照値Bとの比、及び残存寿命の関係を示すグラフである。
図14図14は、対照スペクトルが基準スペクトルの場合における劣化値Aと対照値Bとの比、及び残存寿命の関係を示すグラフである。
図15図15は、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合における劣化値C、及び残存寿命の関係を示すグラフである。
図16図16は、対照スペクトルが基準スペクトルである場合における劣化値C、及び残存寿命の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成に限定されることは意図しない。なお、図に示される太陽電池パネルの層構造の厚み関係は、説明の容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際の各層の厚みの大小関係を厳密に反映したものではない。
【0024】
〔太陽電池パネル〕
本発明の太陽電池パネル診断装置が診断対象とする太陽電池パネルは、例えば、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池等が挙げられる。
【0025】
図1は、太陽電池パネル100の断面を模式的に示す説明図である。太陽電池パネル100は、図1に示すように、保護ガラス11、封止剤12、太陽電池セル13、及びバックシート14を有する積層体である。太陽電池セル13は、インターコネクタ15によって複数接続されており、太陽の光エネルギーを吸収して電気に変換する太陽光発電を行う。太陽電池パネル100は、保護ガラス11が太陽電池セル13の受光面側に配置され、バックシート14が保護ガラス11の反対側に配置され、保護ガラス11と太陽電池セル13との間、及びバックシート14と太陽電池セル13との間に封止剤12が配置されている。封止剤12としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が用いられている。EVAにおける酢酸ビニルの含有率は、20~35質量%となるように調整してあることが好ましく、22~32質量%となるように調整してあることがより好ましく、24~30質量%となるように調整してあることがさらに好ましい。酢酸ビニルの含有量が20質量%未満であると、封止剤12の透明性が充分でない虞があり、35質量%を超えるとカルボン酸やアルコールが発生しやすくなり、黄変の原因となる場合がある。
【0026】
太陽電池パネル100の劣化の原因の一つは、湿熱や紫外線による封止剤12の変質である。特に、封止剤12として用いられるEVAは、分解すると酢酸が生じる。図2は、EVAの分解の説明図である。図2に示すように、EVAはエチレンと酢酸ビニルとの共重合体であるが、加水分解によってEVAから酢酸が遊離する。EVAから遊離した酢酸は、太陽電池セル13の電極を腐食し、太陽電池パネル100の電気回路を断線させる。また、EVAが紫外線に曝露されると、EVAの主鎖が切断されて分解が促進される。そこで、封止剤12には、EVAを紫外線から保護するための紫外線吸収剤(及び光安定剤)が含有されている。しかしながら、紫外線吸収剤自体も紫外線を吸収すると徐々に分解していく。そして、紫外線吸収剤が全て分解されると、EVAの分解抑制効果(保護効果)がなくなる。
【0027】
図3は、紫外線吸収剤を配合した封止剤12の紫外・可視吸収スペクトルである。この紫外・可視吸収スペクトルは、紫外線に暴露される前の封止剤12の吸収スペクトルである。図3に示すように、封止剤12は、紫外線吸収剤を含むことにより、波長350nm~450nmの範囲(紫外線+可視光)においては吸収が大きくなるが、波長500nm~550nmの範囲(可視光)においては吸収が小さく、波長550nm~600nmの範囲(可視光)においては吸収しなくなる。したがって、波長500nm~600nmの範囲(可視光)においては紫外線吸収剤の影響をほぼ受けない。そうすると、封止剤12に光を照射すると、波長350nm~450nmの範囲においては照射した光が紫外線吸収剤に吸収されるため、反射光の強度は小さくなる。ところが、光の照射により封止剤12中の紫外線吸収剤が分解していくと、波長350nm~450nmの範囲においては光が吸収されにくくなるため、紫外線に暴露される前の封止剤12と比べて反射光の強度が大きくなることが考えられる。また、波長500nm~600nmの範囲においては紫外線吸収剤の影響をほぼ受けず、光が吸収されないため、紫外線吸収剤の分解による反射光の強度の変化はないと考えられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ホルムアミジン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤等が挙げられる。また、紫外線吸収剤には、光安定剤を併用することも可能である。そのような光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。
【0028】
本発明者らは、太陽電池パネル100の劣化状態の判定を行うにあたり、非破壊で封止剤12の状態(紫外線吸収剤の分解が進んでいるか否か)を推定できる技術について鋭意検討したところ、紫外線吸収剤が全て分解されるまでの期間を残りの使用可能期間(残存期間)とし、封止剤12に残存する紫外線吸収剤の量から、太陽電池パネル100の劣化状態を判定することができることを知見し、本発明の太陽電池パネル診断装置1を開発した。
【0029】
〔太陽電池パネル診断装置〕
図4は、本発明の実施形態に係る太陽電池パネル診断装置1の概略構成図である。太陽電池パネル診断装置1(以下、単に「診断装置1」とする)は、封止剤12としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた太陽電池パネル100の劣化状態を判定する装置である。図4に示すように、診断装置1は、光源2、分光光度計3、及び解析部4を備えている。以下、診断装置1の各構成について詳細に説明する。
【0030】
<光源>
光源2は、診断対象の太陽電池パネル100に検査光L1を照射する。太陽電池パネル100に照射された検査光L1は、保護ガラス11及び封止剤12を透過し、インターコネクタ15上で反射する。光源2は、波長350nm~450nmの範囲において輝線を有することが好ましく、波長350nm~450nmの範囲と波長500nm~600nmの範囲との両方において輝線を有することがより好ましい。波長350nm~450nmの範囲においては紫外線吸収剤の影響を受けるため、波長350nm~450nmの範囲の輝線を有する光源2で検査光L1を照射すると、太陽電池パネル100に照射された検査光L1の反射光及び/又は透過光L2(以下、単に「反射光L2」とする)の波長350nm~450nmの範囲の強度が紫外線吸収剤の残量によって変化する。波長500nm~600nmの範囲においては紫外線吸収剤の影響をほぼ受けないため、反射光L2の波長500nm~600nmの範囲の強度は紫外線吸収剤の残量によって変化しない。なお、図3に示されるように、波長500nm~550nmの範囲においては、わずかに吸収されるが、紫外線吸収剤の残量による影響をほぼ受けない。したがって、波長350nm~450nmの範囲と波長500nm~600nmの範囲との両方において輝線を有する光源2を用いることで、反射光L2の強度の変化から紫外線吸収剤の残存量を推定することができる。なお、光源2としては、波長350nm~450nmの範囲と波長500nm~600nmの範囲との両方において輝線を有するものであればその種類は限定されず、例えば、水銀ランプ、LEDランプ、YAGレーザー、太陽光等が挙げられる。これらの中でも、波長350nm~450nmの範囲に365nm、405nm、及び436nmの輝線を有し、波長500nm~600nmの範囲に546nm、及び578nmの輝線を有する水銀ランプを用いることが好ましい。
【0031】
<分光光度計>
分光光度計3は、太陽電池パネル100に照射された検査光L1の反射光L2が導入される。分光光度計3は、反射光L2から分光スペクトルを作成する。反射光L2を、分光光度計3で検出することにより生成された分光スペクトルは、ラマンスペクトルとは異なり蛍光の影響を受けにくく、ピークが埋もれないため、この分光スペクトルを、後述する対照スペクトルと比較することで、正確に太陽電池パネル100の劣化状態を判定することができる。分光光度計3としては、屋外で使用可能な小型マルチチャンネル分光器を用いることが好ましく、例えば、オーシャンインサイト社製の分光器(製品名:FLAME-Tシリーズ)を用いることができる。
【0032】
<解析部>
解析部4は、分光光度計3が作成した分光スペクトルを解析する。特に、解析部4は、分光スペクトルを、対照スペクトルと比較することで、正確に太陽電池パネル100の劣化状態を判定することができる。ここで、解析部4が解析する分光スペクトルには、分光光度計3が作成した分光スペクトルそのものだけでなく、当該分光スペクトルに含まれる複数の特定の波長又は波長域から求められる強度比等の加工データも含まれる。同様に、解析部4が解析する対照スペクトルには、対照スペクトルそのものだけでなく、当該対照スペクトルに含まれる複数の特定の波長又は波長域から求められる強度比等の加工データも含まれる。解析部4は、CPU、メモリ、ストレージ等を有するコンピュータを主体に構成されており、取得部41、算出部42、及び判定部43を含む。取得部41は、分光光度計3が作成した分光スペクトルを取得する。算出部42は、取得部41によって取得されたデータに基づいて必要な演算を行う。判定部43は、算出部42による算出結果に基づいて所定の判定を行う。取得部41、算出部42、及び判定部43は、解析部4の内部に実装されるハードウェアとして実現してもよいが、解析部4において実行されるソフトウェアの機能として実現することもできる。対照スペクトルは、予め求めておいた劣化していない(すなわち、紫外線吸収剤の残存量が100%である)太陽電池パネル100から得られる無劣化スペクトル、又は検査光L1が本来有する基準スペクトルのデータであり、算出部42に格納されている。対照スペクトルは、診断対象の太陽電池パネル100の種類及び使用する光源2の種類に応じて複数存在し、夫々の太陽電池パネル100に対して特定の対照スペクトルが利用される。したがって、解析部4は、対照スペクトルを変更することにより、一つの診断装置1で、多種多様な太陽電池パネル100の検査に対応することが可能となる。
【0033】
図5は、光源2に水銀ランプを用いた場合の分光スペクトル及び無劣化スペクトルの一例を示す図である。分光スペクトルは、一定期間使用された後の太陽電池パネルから得られるスペクトルである。無劣化スペクトルは、劣化していない太陽電池パネルから得られるスペクトルである。水銀ランプは、波長350nm~450nmの範囲に365nm、405nm、及び436nmの輝線を有し、波長500nm~600nmの範囲に546nm、及び578nmの輝線を有する。図5に示すように、分光スペクトル及び無劣化スペクトルにおいて、波長546nm、及び578nmの強度は、ほぼ等しくなるが、波長365nm、405nm、及び436nmの強度には差がある。一定期間使用された太陽電池パネル100は、太陽光に含まれる紫外線により、紫外線吸収剤が分解されるため、分光スペクトルの波長365nm、405nm、及び436nmの強度が増加している。したがって、分光スペクトルと無劣化スペクトルとを比較して得られる特定の波長の強度比に基づいて、紫外線吸収剤の残存量を推定することができ、その結果、劣化状態を判定することができる。
【0034】
図6は、光源2に水銀ランプを用いた場合の分光スペクトル及び基準スペクトルの一例を示す図である。分光スペクトルは、一定期間使用された後の太陽電池パネルから得られるスペクトルである。基準スペクトルは、検査光L1が本来有するスペクトルである。図5に示す分光スペクトル及び無劣化スペクトルと同様に、分光スペクトル及び基準スペクトルにおいて、波長546nm、及び578nmの強度は、ほぼ等しくなるが、波長365nm、405nm、及び436nmの強度には差がある。封止剤12に含有される紫外線吸収剤が全て分解されると、分光スペクトルは、検査光L1が本来有する基準スペクトルに近づくため、分光スペクトルと基準スペクトルとを比較して得られる特定の波長の強度比に基づいて、紫外線吸収剤の残存量を推定することができ、その結果、劣化状態を判定することができる。なお、分光スペクトルの強度が基準スペクトルの強度とほぼ一致した場合には、紫外線吸収剤がほぼ全て分解されたと判断することができる。
【0035】
以下、解析部4により実行される処理を、第一実施形態、第二実施形態、及び第三実施形態として説明する。太陽電池パネル100の劣化は、初期劣化、経年劣化、寿命劣化の順に推移するため、第一実施形態及び第二実施形態においては、太陽電池パネル100の劣化状態の判定を紫外線吸収剤の残存量に基づいて判定する。「初期劣化」、「経年劣化」、及び「寿命劣化」と判定するための紫外線吸収剤の残存量の基準については特に限定されないが、例えば、初期劣化は紫外線吸収剤の残存量が80%以上90%未満、経年劣化は紫外線吸収剤の残存量が20%以上80%未満、寿命劣化は紫外線吸収剤の残存量が20%未満とすることができる。また、第三実施形態においては、太陽電池パネル100の残存期間を推定することで劣化状態を判定する。
【0036】
[第一実施形態]
<S101~S104>
図7は、第一実施形態において、解析部4で行われる処理を説明するフローチャートである。図7中記号「S」は、ステップを表す(図8図11においても同様)。取得部41は、分光光度計3から分光スペクトルを取得する(S101)。算出部42は、取得部41によって取得された分光スペクトルに基づいて、分光スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I)と波長500~600nmにおける強度(I)との比(I/I)で表される劣化値Aを算出する(S102)。次に、算出部42は、対照スペクトルの波長350~450nmにおける強度(I´)と波長500~600nmにおける強度(I´)との比(I´/I´)で表される対照値Bを算出する(S103)。波長350~450nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化するが、波長500~600nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化しないため、劣化値Aと対照値Bとを比較することにより、太陽電池パネル100の劣化状態を判定することができる。次に、対照スペクトルが無劣化スペクトルである場合(S104:無劣化スペクトル)、S105~S111の処理を実行する。また、対照スペクトルが基準スペクトルである場合(S104:基準スペクトル)、S112~S118の処理(A)を実行する。
【0037】
<S105~S111>
まず、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合の処理について説明する。判定部43は、A/B≦1.05である場合(S105:YES)、太陽電池パネル100は劣化していないと判定する(S106)。A/B≦1.05でない場合(S105:NO)において、1.05<A/B≦1.15である場合(S107:YES)、太陽電池パネル100が初期劣化していると判定する(S108)。1.05<A/B≦1.15でない場合(S107:NO)において、1.15<A/B≦1.4である場合(S109:YES)、太陽電池パネル100が経年劣化していると判定する(S110)。そして、1.15<A/B≦1.4でない場合(S109:NO)、すなわち1.4<A/Bである場合は、太陽電池パネル100が寿命劣化していると判定する(S111)。このように、本実施形態によれば、S105~S111を順に実行することで、太陽電池パネル100が劣化しているか否か、劣化している場合はその劣化の程度(初期劣化、経年劣化、寿命劣化)を判定することができる。
【0038】
<S112~S118>
図8は、第一実施形態において、解析部4で行われる処理を説明するフローチャート(2)である。対照スペクトルが基準スペクトルの場合の処理について説明する。判定部43は、A/B≦0.75である場合(S112:YES)、太陽電池パネル100は劣化していないと判定する(S113)。A/B≦0.75でない場合(S112:NO)において、0.75<A/B≦0.8である場合(S114:YES)、太陽電池パネル100が初期劣化していると判定する(S115)。0.75<A/B≦0.8でない場合(S114:NO)において、0.8<A/B≦0.98である場合(S116:YES)、太陽電池パネル100が経年劣化していると判定する(S117)。そして、0.8<A/B≦0.98でない場合(S116:NO)、すなわち0.98<A/Bである場合は、太陽電池パネル100が寿命劣化していると判定する(S118)。このように、本実施形態によれば、S112~S118を順に実行することで、太陽電池パネル100が劣化しているか否か、劣化している場合はその劣化の程度(初期劣化、経年劣化、寿命劣化)を判定することができる。
【0039】
このように、対照スペクトルが無劣化スペクトル及び基準スペクトルのどちらであっても、判定部43が劣化値Aと対照値Bとの値に基づいて劣化状態を判定するため、正確な劣化状態を確認することができる。
【0040】
[第二実施形態]
<S201~S203>
図9は、第二実施形態において、解析部4で行われる処理を説明するフローチャート(1)である。取得部41は、分光光度計3から分光スペクトルを取得する(S201)。算出部42は、取得部41によって取得された分光スペクトルに基づいて、分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cを算出する(S202)。波長350~450nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化するため、波長350~450nmの範囲内で同じ波長であれば、分光スペクトルの強度と対照スペクトルの強度との比を求めることで太陽電池パネル100の劣化状態を判定することができる。本実施形態においては、光源2として、波長365nmに輝線を有し、ピーク幅が362~367nm(ピーク高さの半分の波長が、362nm及び367nm)である水銀ランプを用いている。したがって、波長362~367nmにおける強度は紫外線吸収剤の残存量によって変化するため、分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cによって劣化状態を判定することができる。なお、劣化値Cとしては、波長362~367nmの範囲内で同じ波長であれば、同じ値を用いることができるが、分光スペクトルの波長365nmにおける強度(I)と対照スペクトルの波長365nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cによって劣化状態を判定することが好ましい。次に、対照スペクトルが無劣化スペクトルである場合(S203:無劣化スペクトル)、S204~S210の処理を実行する。また、対照スペクトルが基準スペクトルである場合(S203:基準スペクトル)、S211~S217の処理(B)を実行する。
【0041】
<S204~S210>
まず、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合の処理について説明する。判定部43は、C≦1.02である場合(S204:YES)、太陽電池パネル100は劣化していないと判定する(S205)。C≦1.02でない場合(S204:NO)において、1.02<C≦1.05である場合(S206:YES)、太陽電池パネル100が初期劣化していると判定する(S207)。1.02<C≦1.05でない場合(S206:NO)において、1.05<C≦1.22である場合(S208:YES)、太陽電池パネル100が経年劣化していると判定する(S209)。そして、1.05<C≦1.22でない場合(S208:NO)、すなわち1.22<Cである場合は、太陽電池パネル100が寿命劣化していると判定する(S210)。このように、本実施形態によれば、S204~S210を順に実行することで、太陽電池パネル100が劣化しているか否か、劣化している場合はその劣化の程度(初期劣化、経年劣化、寿命劣化)を判定することができる。
【0042】
<S211~S217>
図10は、第二実施形態において、解析部4で行われる処理を説明するフローチャート(2)である。対照スペクトルが基準スペクトルの場合の処理について説明する。判定部43は、C≦0.81である場合(S211:YES)、太陽電池パネル100は劣化していないと判定する(S212)。C≦0.81でない場合(S211:NO)において、0.81<C≦0.83である場合(S213:YES)、太陽電池パネル100が初期劣化していると判定する(S214)。0.81<C≦0.83でない場合(S213:NO)において、0.83<C≦0.97である場合(S215:YES)、太陽電池パネル100が経年劣化していると判定する(S216)。そして、0.83<C≦0.97でない場合(S215:NO)、すなわち0.97<Cである場合は、太陽電池パネル100が寿命劣化していると判定する(S217)。このように、本実施形態によれば、S211~S217を順に実行することで、太陽電池パネル100が劣化しているか否か、劣化している場合はその劣化の程度(初期劣化、経年劣化、寿命劣化)を判定することができる。
【0043】
このように、対照スペクトルが無劣化スペクトル及び基準スペクトルのどちらであっても、判定部43が劣化値Cの値に基づいて劣化状態を判定するため、正確な劣化状態を確認することができる。
【0044】
[第三実施形態]
図11は、第三実施形態において、解析部4で行われる処理を説明するフローチャートである。図12は、劣化していない(新品の)太陽電池パネルに紫外線を連続照射した場合の対照スペクトルの波長365nmにおける強度と波長546nmにおける強度との比である強度比、及び紫外線照射時間の関係を示すグラフである。図12は、表1に示した対照スペクトルの波長365nmにおける強度(I´365)と波長546nmにおける強度(I´546)との比(I´365/I´546)である強度比Eを紫外線照射時間(経過時間)に対してプロットすることにより得られる。図12のグラフに関するデータは、解析部4のメモリに予め記憶されており、必要に応じて読み出される。
【0045】
【表1】
【0046】
<S301~S304>
まず、取得部41は、分光光度計3から分光スペクトルを取得する(S301)。算出部42は、取得部41によって取得された分光スペクトルに基づいて、分光スペクトルの波長365nmにおける強度(I365)と波長546nmにおける強度(I546)との比(I365/I546)である強度比Dを算出する(S302)。次に、算出部42は、強度比Dと、図12のグラフに示す関係に基づいて、太陽電池パネル100の紫外線吸収剤の残存量を算出する(S303)。判定部43は、算出部42によって算出された紫外線吸収剤の残存量と診断対象の太陽電池パネル100の使用年数から、現状と同じ環境で使用を続けた場合における残存期間を推定する(S304)。
【0047】
太陽電池パネル100の寿命は、使用環境に左右されるため、例えば、稼働開始から10年が経過した太陽電池パネル100の紫外線吸収剤の残存量が50%である場合、あと10年は同じ環境で使用可能であると推定されるが、同じく紫外線吸収剤の残存量が50%であっても、稼働開始から5年である太陽電池パネル100は、あと5年は同じ環境で使用可能であると推定される。本実施形態によれば、紫外線吸収剤の残存量と診断対象の太陽電池パネル100の使用年数とから、現状と同じ環境で使用を続けた場合における残存期間を推定するため、劣化状態を正確に判定することができる。
【0048】
〔残存期間の計算方法〕
算出部42及び判定部43で行われる残存期間の計算方法について具体例を用いて説明する。図12に示すように、本実施形態においては、紫外線照射時間が50時間で強度比が殆ど変化しなくなったため、この時点で紫外線吸収剤がほぼ全て分解されたと考えられる。
【0049】
例えば、稼働開始から10年が経過した太陽電池パネル100において、図11のフローチャートのS302で算出された、分光スペクトルの波長365nmにおける強度(I365)と波長546nmにおける強度(I546)との比(I365/I546)である強度比Dが1.0である場合、図12のグラフを参照すると、対照スペクトルの波長365nmにおける強度(I´365)と波長546nmにおける強度(I´546)との比(I´365/I´546)である強度比Eが1.0となるのは、紫外線照射時間が18時間の時点である。この場合、紫外線吸収剤は36%(18時間/50時間)分解されていると算出され、紫外線吸収剤の残存量が64%であると算出される。
【0050】
したがって、10年で紫外線吸収剤が36%分解される使用環境において、現状と同じ環境で使用を続ける場合、1年あたり3.6%分解されるため、残存量64%が全て分解されるまでの期間は、約18年(64%/3.6%)となる。以上より、残存期間は18年であると推定される。
【0051】
[A/Bと紫外線吸収剤の残存量から推定される残存寿命の関係]
第一実施形態において、劣化値Aと対照値Bとの比(A/B)に基づいて劣化状態を判定したが、図12及び表1に示した劣化していない太陽電池パネルに紫外線を連続照射した場合の強度比Eと紫外線照射時間との関係から、A/Bと紫外線吸収剤の残存量から推定される残存寿命(以下、単に「残存寿命」とする)との関係を求めることができる。残存寿命は、紫外線吸収剤の残存量に関係し、紫外線吸収剤の残存量から推定することができる。例えば、稼働開始から10年が経過した太陽電池パネル100の紫外線吸収剤の残存量が50%である場合、あと10年は同じ環境で使用可能であると推定されるため、残存寿命は50%(10年/20年)となる。
【0052】
図13は、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合における劣化値Aと対照値Bとの比、及び残存寿命の関係を示すグラフである。図13は、表2に示した劣化値Aと対照値Bとの比(A/B)を残存寿命に対してプロットすることにより得られる。表2において、残存寿命は表1における紫外線照射時間から求めることができ、例えば、紫外線照射時間が15時間の時点において、紫外線吸収剤は30%(15時間/50時間)分解されているため、紫外線吸収剤の残存量は70%となり、残存寿命は70%となる。表2において、劣化値Aは表1における強度比Eを採用することができる。また、表1における紫外線照射時間0時間の強度比E(0.81)は、劣化していない太陽電池パネルから得られるスペクトルの強度比である。そこで、この強度比E(0.81)を、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合における対照値Bとすることができる。図13によれば、A/Bの値に基づいて残存寿命が決まるため、太陽電池パネルの初期劣化、経年劣化、又は寿命劣化を判定することができる。
【0053】
【表2】
【0054】
図14は、対照スペクトルが基準スペクトルである場合における劣化値Aと対照値Bとの比(A/B)、及び残存寿命の関係を示すグラフである。図14は、表3に示した劣化値Aと対照値Bの比(A/B)を残存寿命に対してプロットすることにより得られる。表3において、残存寿命、及び劣化値Aは、表2と同様である。また、表1における紫外線照射時間50時間の強度比E(1.15)は、紫外線吸収剤が全て分解されている太陽電池パネルから得られるスペクトルの強度比である。そこで、この強度比E(1.15)を、対照スペクトルが基準スペクトルの場合における対照値Bとすることができる。図14によれば、A/Bの値に基づいて残存寿命が決まるため、太陽電池パネルの初期劣化、経年劣化、又は寿命劣化を判定することができる。
【0055】
【表3】
【0056】
[劣化値Cと紫外線吸収剤の残存量から推定される残存寿命の関係]
第二実施形態において、分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)と対照スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I´)との比(I/I´)で表される劣化値Cに基づいて劣化状態を判定したが、図12及び表1に示した劣化していない太陽電池パネルに紫外線を連続照射した場合の強度比Eと紫外線照射時間との関係から、劣化値Cと残存寿命との関係を求めることができる。
【0057】
図15は、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合における劣化値C、及び残存寿命の関係を示すグラフである。図15は、表4に示した劣化値Cを残存寿命に対してプロットすることにより得られる。表4において、残存寿命は、表2と同様である。表4において、分光スペクトルの波長362~367nmにおける強度(I)は表1における強度比Eを算出するために測定した波長365nmにおける強度(I´365)を採用することができる。また、表1における紫外線照射時間0時間の強度比Eを算出するために測定した波長365nmにおける強度(16215)は、劣化していない太陽電池パネルから得られるスペクトルである。そこで、この紫外線照射時間0時間の波長365nmにおける強度(16215)を、対照スペクトルが無劣化スペクトルの場合の波長362~367nmにおける強度(I´)とすることができる。図15によれば、劣化値Cの値に基づいて残存寿命が決まるため、太陽電池パネルの初期劣化、経年劣化、又は寿命劣化を判定することができる。
【0058】
【表4】
【0059】
図16は、対照スペクトルが基準スペクトルである場合における劣化値C、及び残存寿命の関係を示すグラフである。図16は、表5に示した劣化値Cを残存寿命に対してプロットすることにより得られる。表5において、残存寿命、及び波長362~367nmにおける強度(I)は、表4と同様である。また、表1における紫外線照射時間50時間の強度比Eを算出するために測定した波長365nmにおける強度(20412)は、紫外線吸収剤が全て分解されている太陽電池パネルから得られるスペクトルである。そこで、この紫外線照射時間50時間の波長365nmにおける強度(20412)を、対照スペクトルが基準スペクトルの場合の波長362~367nmにおける強度(I´)とすることができる。図16によれば、劣化値Cの値に基づいて残存寿命が決まるため、太陽電池パネルの初期劣化、経年劣化、又は寿命劣化を判定することができる。
【0060】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の太陽電池パネル診断装置は、一定期間使用された太陽電池パネルをリユースする場合において、太陽電池パネルの劣化状態の判定に利用することが可能であるが、使用中(稼働中)の太陽電池パネルの劣化状態の判定に用いることも勿論可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 太陽電池パネル診断装置
2 光源
3 分光光度計
4 解析部
12 封止剤
100 太陽電池パネル
L1 検査光
L2 反射光(検査光の反射光及び/又は透過光)
【要約】
【課題】蛍光の影響を受けずに、正確に太陽電池パネルの劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置を提供する。
【解決手段】封止剤12としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた太陽電池パネル100の劣化状態を判定する太陽電池パネル診断装置1であって、診断対象の太陽電池パネル100に検査光L1を照射する光源2と、太陽電池パネル100に照射された検査光L1の反射光及び/又は透過光L2が導入される分光光度計3と、分光光度計3が作成した分光スペクトルを解析する解析部4とを備え、解析部4は、分光スペクトルを、対照スペクトルと比較することにより、太陽電池パネル100の劣化状態を判定する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16