(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】非水電解液、半固体電解質層、二次電池用シート及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240910BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240910BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/0585
H01M10/0565
(21)【出願番号】P 2020082631
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇根本 篤
(72)【発明者】
【氏名】熊代 祥晃
(72)【発明者】
【氏名】關 栄二
(72)【発明者】
【氏名】上野 和英
(72)【発明者】
【氏名】獨古 薫
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正義
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-328978(JP,A)
【文献】特開2003-045485(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187487(WO,A1)
【文献】特開2019-016430(JP,A)
【文献】国際公開第2012/172723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩及び有機溶媒を含む非水電解液であって、
有機溶媒が、スルホラン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の主溶媒、及び低粘度有機溶媒を含み、
有機溶媒中の主溶媒の混合モル比率が、51.1mol%~68.6mol%であり、
主溶媒に対する電解質塩の濃度が、
1.32mol/L~
3.18mol/Lであり、
有機溶媒の比誘電率が、63以下である
非水電解液。
【請求項2】
主溶媒に対する電解質塩の濃度が、1.64mol/L~2.86mol/Lである、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
低粘度有機溶媒が、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸1,2-ブチレン、炭酸フルオロエチレン、炭酸メチルエチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、メチルホスホン酸ジメチル及びγ-ブチロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
電解質塩が、テトラフルオロホウ酸リチウム及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項5】
請求項1に記載の非水電解液、担持粒子及び半固体電解質バインダを含む半固体電解質層。
【請求項6】
正極及び/又は負極と、請求項
5に記載の半固体電解質層とが積層されてなる二次電池用シート。
【請求項7】
正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置される請求項
5に記載の半固体電解質層と、
を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液、半固体電解質層、二次電池用シート及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
各種二次電池に用いる非水電解液に関する従来技術として、特許文献1には、非水溶媒と、電解質塩と、所定の電位で酸化還元反応を生じる過充電制御剤とともに、熱安定性が高く、安定的に非水電解液中に残存する熱安定性塩、正極及び負極に保護皮膜を形成して過充電制御剤の分解を抑制する保護皮膜形成剤、又は遷移金属と錯体を形成する錯体形成剤の少なくとも一種とを含む、液状又はゲル状である非水電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のリチウムイオン二次電池における電解液は、二次電池が比較的高温で運転された場合における二次電池の放電容量維持率を高いまま維持するには不十分であり、なお改良の余地があった。
【0005】
本発明は、二次電池が比較的高温で運転された場合における二次電池の放電容量維持率を高いまま維持することができる非水電解液を提供することを目的とする。また、その非水電解液を用いた半固体電解質層、二次電池用シート及び二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の非水電解液は、電解質塩及び有機溶媒を含み、有機溶媒はスルホラン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の主溶媒及び低粘度有機溶媒を含み、主溶媒に対する電解質塩の濃度は1.06mol/L~3.46mol/Lであり、有機溶媒の比誘電率は63以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の非水電解液により、二次電池が比較的高温で運転された場合における二次電池の放電容量維持率を高いまま維持することができる非水電解液が提供される。前記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の二次電池の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】実施例及び比較例における主溶媒に対するリチウム塩濃度(mol/L)と45℃の放電容量維持率(%)の関係を示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例における有機溶媒(混合溶媒)の比誘電率と45℃の放電容量維持率(%)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0010】
本明細書に記載される「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として有する意味で使用する。上限値又は下限値が0の場合は、上限値又は下限値を含まない。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的に記載されている上限値又は下限値に置き換えても良い。本明細書に記載される数値範囲の上限値又は下限値は、実施例中に示されている値に置き換えても良い。
【0011】
本発明に係る二次電池の一実施形態として、リチウムイオン二次電池を例にして以下説明する。リチウムイオン二次電池とは、電解質中における電極へのリチウムイオンの吸蔵・放出により、電気エネルギーを貯蔵又は利用可能とする電気化学デバイスである。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン電池、非水電解質二次電池、非水電解液二次電池等の別の名称でも呼ばれており、いずれの電池も本発明の対象である。本発明の技術的思想は、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池、亜鉛二次電池、アルミニウムイオン二次電池等に対しても適用できる。
【0012】
以下で例示している材料群から材料を選択する場合、本明細書で開示されている内容と矛盾しない範囲で、材料を単独で選択しても良く、複数組み合わせて選択しても良い。また、本明細書で開示されている内容と矛盾しない範囲で、以下で例示している材料群以外の材料を選択しても良い。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の断面図である。
図1は積層型のリチウムイオン二次電池を示しており、リチウムイオン二次電池1000は、正極100、負極200、外装体500及び絶縁層300を有する。外装体500は、絶縁層300、正極100及び負極200を収容する。外装体500は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等、非水電解液に対し耐食性のある材料群から選択される。リチウムイオン二次電池は、捲回型の構成にすることもできる。
【0014】
リチウムイオン二次電池1000内では、正極100、絶縁層300及び負極200で構成される電極体400が積層して電極群を構成する。以下では、正極100又は負極200を電極と称する場合がある。また、正極100又は負極200あるいはその両方と、絶縁層300とが積層したものを二次電池用シートと称する場合がある。絶縁層300及び電極を一体構造とした場合、二次電池用シートを積層するだけで電極群を作製できる。
【0015】
正極100は、正極集電体120及び正極合剤層110を有する。正極集電体120の両面に正極合剤層110が形成されている。負極200は、負極集電体220及び負極合剤層210を有する。負極集電体220の両面に負極合剤層210が形成されている。正極合剤層110又は負極合剤層210を電極合剤層、正極集電体120又は負極集電体220を電極集電体と称する場合がある。
【0016】
正極集電体120は正極タブ130を有する。負極集電体220は負極タブ230を有する。正極タブ130又は負極タブ230を電極タブと称する場合がある。電極タブ上には電極合剤層が形成されていない。ただし、リチウムイオン二次電池1000の性能に悪影響を与えない範囲で電極タブ上に電極合剤層を形成しても良い。正極タブ130及び負極タブ230は、外装体500の外部に突出しており、突出した複数の正極タブ130同士、複数の負極タブ230同士が、例えば超音波接合等で接合されることで、リチウムイオン二次電池1000内で並列接続が形成される。本発明に係るリチウムイオン二次電池は、二次電池内に電気的な直列接続を備えるバイポーラ型の構成にすることもできる。
【0017】
正極合剤層110は、正極活物質、正極導電剤及び正極バインダを含む。負極合剤層210は、負極活物質、負極導電剤及び負極バインダを含む。正極活物質又は負極活物質を電極活物質、正極導電剤又は負極導電剤を電極導電剤、正極バインダ又は負極バインダを電極バインダと称する場合がある。
【0018】
<電極導電剤>
電極導電剤は、電極合剤層の導電性を向上させる。電極導電剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0019】
<電極バインダ>
電極バインダは、電極中の電極活物質や電極導電剤等を結着させる。電極バインダとしては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロ-ス(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(P(VdF-HFP))等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0020】
<正極活物質>
貴な電位を示す正極活物質は、充電過程においてリチウムイオンが脱離し、放電過程において負極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される。正極活物質としては、遷移金属を有するリチウム複合酸化物が望ましい。具体的には、LiMO2、Li過剰組成のLi[LiM]O2、LiM2O4、LiMPO4、LiMVO4、LiMBO3、Li2MSiO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Cr、Zn、Ta、Al、Mg、Cu、Cd、Mo、Nb、W、Ru等から選択される少なくとも1種である)が挙げられる。また、これら材料における酸素の一部を、フッ素等の他の元素に置換しても良い。さらに、正極活物質は、TiS2、MoS2、Mo6S8、TiSe2等のカルコゲナイドや、V2O5等のバナジウム系酸化物、FeF3等のハライド、ポリアニオンを構成するFe(MoO4)3、Fe2(SO4)3、Li3Fe2(PO4)3等、キノン系有機結晶、酸素等の材料群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0021】
<正極集電体120>
正極集電体120としては、厚さが1μm~100μmのアルミニウム箔、厚さが10μm~100μm、孔径0.1mm~10mmの孔を有するアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板、ステンレス鋼、チタン等の材料等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0022】
<負極活物質>
卑な電位を示す負極活物質は、放電過程においてリチウムイオンが脱離し、充電過程において正極合剤層110中の正極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される。負極活物質としては、炭素系材料(黒鉛、易黒鉛化炭素材料、非晶質炭素材料、有機結晶、活性炭等)、導電性高分子材料(ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレン等)、リチウム複合酸化物(チタン酸リチウム:Li4Ti5O12やLi2TiO4等)、金属リチウム、リチウムと合金化する金属(アルミニウム、シリコン、スズ等を少なくとも1種類以上有する)やこれらの酸化物等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0023】
<負極集電体220>
負極集電体220としては、厚さが1μm~100μmの銅箔、厚さが1μm~100μm、孔径0.1mm~10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板、ステンレス鋼、チタン、ニッケル等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0024】
<電極>
電極活物質、電極導電剤、電極バインダ及び溶剤を混合した電極スラリーを、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等の塗工方法によって電極集電体へ付着させることで電極合剤層が作製される。溶剤は、N-メチルピロリドン(NMP)、水等の材料群から選択される。その後、溶剤を除去するために電極合剤層を乾燥し、ロールプレスによって電極合剤層を加圧成形することにより電極が作製される。
【0025】
電極合剤層に非水電解液が含まれている場合、電極合剤層中の非水電解液の含有量は20体積%~40体積%であることが望ましい。非水電解液の含有量が少ない場合、電極合剤層内部でのイオン伝導経路が十分に形成されずレート特性が低下する可能性がある。また、非水電解液の含有量が多い場合には、電極合剤層から非水電解液が漏れ出す可能性があることに加え、電極活物質の相対的な量が不十分となりエネルギー密度の低下を招く可能性がある。
【0026】
電極合剤層に非水電解液を含有させるためには、外装体500の開いている一辺や注液孔からリチウムイオン二次電池1000に非水電解液を注入し、電極合剤層の細孔に非水電解液を充填させて行うことができる。また、非水電解液、電極活物質、電極導電剤及び電極バインダを混合したスラリーを調製し、調製したスラリーを電極集電体上に一緒に塗布して、電極合剤層の細孔に非水電解液を充填させても良い。これにより、半固体電解質に含まれるような担持粒子を要せず、電極合剤層中の電極活物質や電極導電剤等の粒子が担持粒子として機能し、それらの粒子により非水電解液を保持することができる。
【0027】
電極合剤層の厚さは、電極活物質の平均粒径以上とすることが望ましい。電極合剤層の厚さが小さいと、隣接する電極活物質間の電子伝導性が悪化する可能性がある。電極活物質粉末中に電極合剤層の厚さ以上の平均粒径を有する粗粒がある場合、ふるい分級、風流分級等により粗粒を予め除去し、電極合剤層の厚さ以下の粒子とすることが望ましい。
【0028】
<絶縁層300>
絶縁層300は、正極100と負極200の間にイオンを伝達させる媒体となる。絶縁層300は電子の絶縁体としても働き、正極100と負極200の短絡を防止する。絶縁層300は、半固体電解質層を有することができる。絶縁層300として、セパレータ及び半固体電解質層を併用しても良い。
【0029】
<セパレータ>
セパレータとして、多孔質シートを用いることができる。多孔質シートは、セルロース、セルロースの変性体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等)、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP)、プロピレンの共重合体等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアラミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等の樹脂、ガラス等の材料群から選択することができる。セパレータを正極100又は負極200よりも大面積にすることで、正極100と負極200の短絡を防止できる。
【0030】
セパレータ粒子、セパレータバインダ及び溶剤を有するセパレータ形成用混合物を電極合剤層に塗布することにより、セパレータを形成しても良い。あるいは、セパレータ形成用混合物を前記の多孔質シートに塗布しても良い。
【0031】
セパレータ粒子は、γ-アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)等の材料群から選択される。セパレータ粒子の平均粒子径は、セパレータの厚さの1/100~1/2とすることが望ましい。セパレータバインダは、ポリエチレン(PE)、PP、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PVDF、P(VdF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアルギン酸、ポリアクリル酸等の材料等から適宜選択して用いることができる。
【0032】
絶縁層300がセパレータを含む場合、外装体500の開いている一辺や注液孔からリチウムイオン二次電池1000に非水電解液を注入することで、セパレータ中に非水電解液を充填することができる。
【0033】
<半固体電解質層>
半固体電解質層は、半固体電解質バインダ及び半固体電解質を有する。半固体電解質は、担持粒子及び非水電解液を有する。半固体電解質は、担持粒子の集合体によって形成される細孔を有し、その中に非水電解液が保持されている。半固体電解質中に非水電解液が保持されることによって、半固体電解質はリチウムイオンを透過させる。絶縁層300として半固体電解質層を用い、電極合剤層に非水電解液が充填される場合、リチウムイオン二次電池1000への非水電解液の注入は不要になる。
【0034】
半固体電解質層は、非水電解液等の液体成分を含んでいながら、固体のような取扱いができ、半透明な自立膜であり得る。局所的には、非水電解液等の液体成分がリチウムイオン伝導を担うために高イオン伝導性を示す。すなわち、半固体電解質層は、固体が持つ高い安全性と液体が持つ高いイオン伝導特性の、両者の長所を併せ持つ。
【0035】
半固体電解質層の作製方法として、半固体電解質の粉末を成型ダイス等でペレット状に圧縮成型する方法や、半固体電解質バインダを半固体電解質の粉末に添加・混合し、シート化する方法等がある。半固体電解質バインダを半固体電解質の粉末に添加・混合することにより、柔軟性の高いシート状の半固体電解質層を作製することができる。分散溶媒に半固体電解質バインダを溶解させた結着剤の溶液を、半固体電解質に添加・混合し、電極等の基材上に混合物を塗布し、乾燥により分散溶媒を留去することで、半固体電解質層を作製しても良い。
【0036】
<担持粒子>
担持粒子としては、電気化学的安定性の観点から、絶縁性粒子であり非水電解液に不溶であることが好ましい。担持粒子は、SiO2粒子、Al2O3粒子、セリア(CeO2)粒子、ZrO2粒子等の酸化物無機粒子、固体電解質等の材料群から適宜選択して用いることができる。担持粒子として酸化物無機粒子を用いることにより、半固体電解質層内で非水電解液を高濃度で保持することができる。また、酸化物無機粒子からガスが発生することがないため、大気中でのロールtoロールプロセスにより半固体電解質層を作製することができる。固体電解質は、Li-La-Zr-O等の酸化物系固体電解質や、Li10Ge2PS12等の硫化物系固体電解質等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0037】
非水電解液の保持量は担持粒子の比表面積に比例すると考えられるため、担持粒子の一次粒子の平均粒径は、1nm~10μmであることが好ましい。担持粒子の一次粒子の平均粒径が大きいと、担持粒子が十分な量の非水電解液を適切に保持できず半固体電解質の形成が困難になる可能性がある。また、担持粒子の一次粒子の平均粒径が小さいと、担持粒子間の表面間力が大きくなって担持粒子同士が凝集し易くなり、半固体電解質の形成が困難になる可能性がある。担持粒子の一次粒子の平均粒径は、1nm~50nmの範囲がより好ましく、1nm~10nmの範囲がさらに好ましい。担持粒子の一次粒子の平均粒径は、TEMを用いて測定することができる。
【0038】
<非水電解液>
非水電解液は、主溶媒、当該主溶媒と異なる比誘電率を有する低粘度有機溶媒、電解質塩、及び任意の負極界面安定化材を含む。主溶媒は、高い比誘電率を有し、リチウム塩の解離でリチウムイオンの濃度を高める効果を有する。主溶媒は、スルホラン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種(「スルホラン及び/又はその誘導体」とも称する)である。したがって、主溶媒は、スルホラン及びその誘導体からなる群から選択される2種以上、例えば2種、3種、又は4種の溶媒を含んでいても良い。スルホラン及び/又はその誘導体は、電解質塩とともに溶媒和イオン液体を構成する。以下の説明では、スルホラン及び/又はその誘導体を主溶媒と称する場合がある。非水電解液に含まれる成分はNMR等で測定することができる。主溶媒と低粘度有機溶媒の比誘電率は、比誘電率測定装置で計測できる。
【0039】
半固体電解質層中の非水電解液の含有量は特には限定されないが、40体積%~90体積%であることが望ましい。非水電解液の含有量が小さい場合、電極と半固体電解質層との界面抵抗が増加する可能性がある。また、非水電解液の含有量が大きい場合、半固体電解質層から非水電解液が漏れ出してしまう虞がある。半固体電解質層がシート状である場合、半固体電解質層中の非水電解液の含有量は50体積%~80体積%、さらには60体積%~80体積%であることが望ましい。半固体電解質と分散溶媒に半固体電解質バインダを溶解させた溶液との混合物を電極上に塗布することによって半固体電解質層を形成する場合、半固体電解質層中の非水電解液の含有量は40体積%~60体積%であることが望ましい。
【0040】
非水電解液における主溶媒の重量比率は、特には限定されないが、リチウムイオン二次電池の安定性の観点から、また高速充放電を可能にするため、非水電解液における主溶媒の重量比率は30重量%(wt%)~70重量%、特に40重量%~60重量%、さらには45重量%~55重量%であることが望ましい。
【0041】
<溶媒和イオン液体>
溶媒和イオン液体は、スルホラン及び/又はその誘導体と、電解質塩とを有する。スルホラン及び/又はその誘導体を含む溶媒和イオン液体を用いると、スルホラン及び/又はその誘導体とリチウムイオンとで固有の配位構造をとるため、半固体電解質層中でのリチウムイオンの輸送速度が速くなる。したがって、粘度を高くするにつれて二次電池の入出力特性が低下するエーテル系溶媒及び電解質塩を有する溶媒和イオン液体とは異なり、溶媒和イオン液体の粘度を高くしても、溶媒和イオン液体を有する二次電池の入出力特性の低下を抑制することができる。
【0042】
スルホランの誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子やアルキル基等により置換されたものが挙げられる。具体例として、フルオロスルホラン、ジフルオロスルホラン、メチルスルホラン等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0043】
<電解質塩>
電解質塩としては、低粘度有機溶媒に均一に分散できるものが望ましく、カチオンがリチウムである場合、各種のリチウム塩を用いることができる。電解質塩として、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClO4、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)、それらの2種以上の混合物等の材料群から前記の条件を満たす材料を適宜選択して用いることができる。電解質塩としてLiBF4を用いることが望ましい。LiBF4は黒鉛等の負極活物質に対して安定であり、二次電池の容量を高めることができる。
【0044】
スルホラン及び/又はその誘導体と電解質塩とを有する溶媒和イオン液体は、見かけ上の組成として一体的に表記することができる。例えば、スルホランとLiTFSIからなる溶媒和イオン液体は、見かけ上の組成としてLi(SL)xTFSI(x=2~6)と表記し、この組成を有する単一の物質としてモル数を算出する。
【0045】
主溶媒に対する電解質塩の濃度は、1.06mol/L~3.46mol/Lであることが望ましい。濃度が高すぎると、粘度が上昇して高抵抗化し、容量が低下する傾向がある。濃度が低すぎると、溶媒が不安定化して寿命特性が低下する傾向がある。
【0046】
<低粘度有機溶媒>
低粘度有機溶媒は、主溶媒と異なる比誘電率を有する、溶媒和イオン液体よりも粘度の低い有機溶媒である。したがって、低粘度有機溶媒と溶媒和イオン液体とを混合することで、溶媒和イオン液体の粘度を下げ、イオン伝導率を向上させることができる。また、非水電解液の内部抵抗が大きい場合、低粘度有機溶媒を添加して非水電解液のイオン伝導率を高めることにより、非水電解液の内部抵抗を下げることができる。
【0047】
低粘度溶媒としては、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸1,2-ブチレン(BC)、炭酸フルオロエチレン(FEC)等の環状の炭酸エステルや、炭酸メチルエチル(EMC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)等の非環状エステル、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)、亜リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFP)、メチルホスホン酸ジメチル(DMMP)等のリン酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)等のラクトン、それらの2種以上の混合物等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0048】
非水電解液が1種以上の主溶媒及び1種以上の低粘度有機溶媒を含む場合、混合溶媒(主溶媒+低粘度有機溶媒)の比誘電率Zは、第iの主溶媒の比誘電率をp
i、混合溶媒中の第iの主溶媒のモル比をq
i、第iの低粘度有機溶媒の比誘電率をp’
i、混合溶媒中の第iの低粘度有機溶媒のモル比をq’
iとしたとき、
【数1】
(式中、nは混合溶媒中に含まれる主溶媒の種類の数であり、mは混合溶媒中に含まれる低粘度有機溶媒の種類の数である)
で表わすことができ、Zは、63以下になることが望ましい。
【0049】
例えば、非水電解液が1種の主溶媒及び1種の低粘度有機溶媒を含む場合、混合溶媒(主溶媒+低粘度有機溶媒)の比誘電率Zは、主溶媒の比誘電率をp、混合溶媒中の主溶媒のモル比をq、低粘度有機溶媒の比誘電率をp’、混合溶媒中の低粘度有機溶媒のモル比をq’としたとき、
Z=p×q+p’×q’ ・・・式(2)
で表わすことができ、Zは、63以下になることが望ましい。
【0050】
溶媒和イオン液体に比誘電率が低い低粘度有機溶媒を添加することで、溶媒和イオン液体の粘度を低減することができる。一方で、溶媒和イオン液体に低粘度有機溶媒を添加しすぎると、リチウム塩の解離度が低下して良質なSEI(Solid Electrolyte Interphase)を形成することができず、高温(45℃)での寿命特性が低下してしまう。したがって、Zを63以下にすることによって、溶媒和イオン液体の粘度を低減しつつ、リチウム塩の解離度の低下を抑制することができ、高温(45℃)での寿命特性を向上することができる。混合溶媒中の主溶媒のモル比と混合溶媒中の低粘度有機溶媒のモル比の測定方法はNMRで測定できる。
【0051】
<負極界面安定化材>
非水電解液が負極界面安定化材を含むことにより、二次電池のレート特性の向上や電池寿命の向上を図ることができる。負極界面安定化材は、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等の材料群から適宜選択して用いることができる。
【0052】
<腐食防止剤>
非水電解液は、必要に応じて腐食防止剤を含んでいても良い。腐食防止剤により、正極集電体120が高い電気化学電位に晒されても金属が溶出しにくい皮膜が形成される。腐食防止剤としては、PF6やBF4といったアニオン種を含み、且つ、水分を含んだ大気で安定な化合物を形成するための強い化学結合を有するカチオン種を含む材料が望ましい。
【0053】
大気で安定な化合物であることを示す一指標としては、水に対する溶解度や加水分解の有無を挙げることができる。腐食防止剤が固体である場合、水に対する溶解度が1%未満であることが望ましい。また、加水分解の有無は、水と混合後の試料の分子構造解析で評価することができる。ここで、加水分解しない、とは、腐食防止剤が吸湿あるいは水と混和した後、100℃以上で加熱して水分を除去し、残留物の95%が当初の腐食防止剤と同じ分子構造を示していることを意味する。
【0054】
腐食防止剤は、(M-R)+An-と表される。(M-R)+An-のカチオンは(M-R)+である。Mは、窒素(N)、ホウ素(B)、リン(P)又は硫黄(S)から選択される。Rは炭化水素基から構成される。
【0055】
(M-R)+An-のアニオンはAn-である。An-としては、BF4
-やPF6
-が好適に用いられる。腐食防止剤のアニオンをBF4
-やPF6
-にすることで、正極集電体120の溶出を効率的に抑制できる。これは、BF4
-やPF6
-のFアニオンが電極集電体のSUSやアルミニウムと反応し、不動態皮膜を形成することが影響するためと考えられる。
【0056】
腐食防止剤は、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(TBAPF6)、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TBABF4)等の4級アンモニウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMI-BF4)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(EMI-PF6)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMI-BF4)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート(BMI-PF6)等のイミダゾリウム塩等の材料群から適宜選択して用いることができる。特に、アニオンがPF6
-であれば、正極集電体120の溶出を好適に抑制できる。
【0057】
腐食防止剤の含有量は、非水電解液の総重量に対して、0.5重量%~20重量%であることが望ましく、より好ましくは1重量%~10重量%である。腐食防止剤の含有量が少ないと、電極集電体の溶出を抑制する効果が低下し、充放電に伴い電池容量が低下する可能性がある。また、腐食防止剤の含有量が多いと、リチウムイオン伝導度が低下し、さらに、腐食防止剤を分解させるために多くの蓄電エネルギーが消費されてしまい、結果として電池容量が低下する可能性がある。
【0058】
<半固体電解質バインダ>
半固体電解質バインダとしては、フッ素系の樹脂が好適に用いられる。フッ素系の樹脂は、PTFE、PVDF、P(VdF-HFP)等の材料群から適宜選択して用いることができる。PVDFやP(VdF-HFP)を用いることで、絶縁層300と電極集電体の密着性が向上するため、電池性能が向上する。
【0059】
<半固体電解質>
非水電解液が担持粒子に担持又は保持されることにより半固体電解質が構成される。半固体電解質の作製方法として、非水電解液と担持粒子とを特定の体積比率で混合し、メタノール等の有機溶媒を添加し・混合して、半固体電解質のスラリーを調合した後、スラリーをシャーレ等に広げ、有機溶媒を留去して半固体電解質の粉末を得る方法等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
<非水電解液の作製>
電解質塩としてリチウム塩(Li塩)であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)、主溶媒としてスルホラン(SL)、低粘度溶媒として炭酸プロピレン(PC)、負極界面安定化材として黒鉛皮膜形成材であるビニレンカーボネート(VC)、腐食防止剤としてAl集電箔抑制添加剤であるテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(TBA-PF6)を、それぞれ秤量し、これらを混合して非水電解液を作製した。作製した非水電解液に含まれる成分をNMRで定量した。その結果、主溶媒(SL)と低粘度溶媒(PC)のモル比は65.4:34.6であり、リチウム塩濃度は2.37mol/Lであった。
【0062】
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2系酸化物、正極導電剤としてアセチレンブラック、正極バインダとしてN-メチルピロリドンに溶解させたPVDFを、固形分の重量比が94:4:2の比率となるようにそれぞれ秤量し、これらを混錬機で均一に混合した。得られた混合物は、NMPを加えてスラリー化し、所定の固形分濃度に調整した。次いで、濃度が調整されたスラリーを正極集電箔であるアルミ箔の両面に卓上コーターで塗布し、120℃の乾燥炉に通して正極を得た。正極合剤(正極活物質+正極導電剤+正極バインダ)の塗工量は、両面の合計を30.1mg/cm2とした。得られた正極は、ロールプレスで電極密度を3.15g/cm3に調整した。
【0063】
<負極の作製>
負極活物質として黒鉛、負極バインダとしてスチレン-ブタジエンゴムとカルボキシルメチルセルロースを、固形分の重量比が98:1:1の比率となるようにそれぞれ秤量し、これらを混錬機で均一に混合した。得られた混合物は、水を加えてスラリー化し、所定の固形分濃度に調整した。次いで、濃度が調整されたスラリーを負極集電箔である銅箔の両面に卓上コーターで塗布し、100℃の乾燥炉に通して負極を得た。負極合剤(負極活物質+負極バインダ)の塗工量は、両面の合計を18.1mg/cm2とした。得られた負極は、ロールプレスで電極密度を1.55g/cm3に調整した。
【0064】
<セパレータの形成>
セパレータを、不揮発性電解質を電極合剤層の表面に塗工して形成した。はじめに、担持粒子として平均粒径が1μmであるSiO2と、バインダとしてビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VdF-HFP))を、重量比が89.3:10.7の比率となるようにそれぞれ秤量し、これらを混錬機で均一に混合した。得られた混合物は、NMPを加えてスラリー化し、所定の固形分濃度に調整した。次いで、濃度が調整されたスラリーを正極と負極の両面に卓上コーターで塗布し、100℃の乾燥炉に通して、不揮発性電解質層を形成した正極と負極を得た。
【0065】
<二次電池の作製>
<組み立て>
作製した正極と負極を、エアー式打ち抜き機で、正極合剤層が45mm×70mm、負極合剤層が47mm×74mmとなるよう打ち抜き、正極及び負極にタブ部を形成した。次いで、正極と負極を100℃で2時間乾燥して電極中のNMPを除去した。乾燥させた正極を、厚みが30μmであり、PP/PE/PPの3層構造である樹脂製の微多孔膜に挟み込み、タブ部が形成されている辺以外の3辺を熱溶着した。
【0066】
微多孔膜で覆った正極と、打ち抜いた負極を、負極/正極/負極の順に積層した後、負極上に厚さ50μmのPTFE製のシートを配置した。正極と負極に設けた各タブ部とアルミニウム製の正極端子、ニッケル製の負極端子とを、それぞれ、超音波溶接によって溶接した。得られた電極体をラミネートフィルムに挟み込み、注液用の1辺を残し、タブ部が形成された辺を含む3辺をラミネート封止装置によって200℃で熱封止し、50℃で20時間真空乾燥させた。次いで、注液用の1辺から非水電解液を注入した後、注液用の1辺を真空封止して二次電池を得た。
【0067】
<放電容量の測定>
(1)初期放電容量の測定
作製した二次電池を25℃で保持し、充電レート0.05Cで上限電圧4.2Vまで定電流(CC)充電した後、電圧を4.2Vに維持したまま、電流値が0.005Cに減少するまで定電圧(CV)充電した。その後、放電レート0.05Cで下限電圧2.7Vまで定電流放電させて、二次電池の初期放電容量を計測した。
【0068】
(2)45℃でのサイクル試験
初期放電容量を測定後、二次電池を45℃に昇温し、0.3Cでの充放電を100サイクル繰り返した。
【0069】
(3)サイクル試験後の放電容量の測定
サイクル試験後の二次電池の温度を25℃に下げ、その温度を保持し、充電レート0.05Cで上限電圧4.2VまでCC充電した後、電圧を4.2Vに維持したまま、電流値が0.005Cに減少するまでCV充電した。その後、放電レート0.05Cで下限電圧2.7VまでCC放電させて、二次電池のサイクル試験後の放電容量を計測した。
【0070】
(4)45℃放電容量維持率の算出
(1)で測定した初期放電容量に対する(3)で測定したサイクル試験後の放電容量の割合から求められる45℃放電容量維持率を100サイクル寿命として評価した。
45℃放電容量維持率(%)(100サイクル寿命)=(サイクル試験後の放電容量/初期放電容量)×100 ・・・式(3)
【0071】
<実施例2~12、比較例1~2>
非水電解液の組成を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして二次電池を作製し、非水電解液に含まれる成分の定量と放電容量の計測を行った。
【0072】
表1に、実施例1~12及び比較例1~2の二次電池の組成及び45℃放電容量維持率を示す。
図2に、実施例及び比較例における主溶媒に対するリチウム塩濃度(mol/L)と45℃の放電容量維持率(%)の関係を示し、
図3に、実施例及び比較例における混合溶媒の比誘電率と45℃の放電容量維持率(%)の関係を示す。
【0073】
【0074】
<結果と考察>
図2では、リチウム塩濃度に対して二次電池の45℃放電容量維持率をプロットした。
図2に示すように、リチウム塩濃度が2.21mol/Lよりも小さい組成では、45℃放電容量維持率が小さくなり、リチウム塩濃度が2.21mol/L以上の組成では、45℃放電容量維持率が大きくなった。この結果は、粘度が低い低粘度有機溶媒と溶媒和イオン液体とを混合することで、非水電解液の粘度が低下し、非水電解液のイオン伝導率が高くなったことによると考えられる。なお、リチウム塩濃度が2.21mol/Lよりも大きい組成では、濃度が低いほど45℃放電容量維持率が大きくなる傾向がみられた。これは、濃度が低い方が、溶媒がリチウムイオンに配位して安定化されたためであると考えられる。
【0075】
図2より、二次電池の45℃放電容量維持率Yは、リチウム塩濃度が0.8mol/L~3.8mol/Lの範囲において、リチウム塩濃度Xにより、次の式(4)で表されることが確認された。
Y=-4.0167X
2+18.13X+73.074 ・・・式(4)
【0076】
式(4)によると、比較例1(リチウム塩濃度X=1)の45℃放電容量維持率(87.7%)よりも、45℃放電容量維持率が大きくなるリチウム塩濃度Xの範囲は、1.06mol/L~3.46mol/Lであった。二次電池の45℃放電容量維持率が89.5%以上になるリチウム塩濃度Xの範囲は、1.25mol/L~3.26mol/Lであった。また、二次電池の45℃放電容量維持率が90%以上になるリチウム塩濃度Xの範囲は、1.32mol/L~3.18mol/Lであった。さらに、二次電池の45℃放電容量維持率が92%以上になるリチウム塩濃度Xの範囲は、1.64mol/L~2.86mol/Lであった。したがって、リチウム塩濃度Xの範囲は、1.06mol/L~3.46mol/L、好ましくは1.25mol/L~3.26mol/L、より好ましくは1.32mol/L~3.18mol/Lである。
【0077】
図3では、非水電解液における混合溶媒の比誘電率に対して二次電池の45℃放電容量維持率をプロットした。
図3に示すように、比誘電率が約31.5よりも小さい組成では、比誘電率が大きいほど、45℃放電容量維持率が大きくなった。一方、比誘電率が約31.5よりも大きい組成では、比誘電率が小さいほど、45℃放電容量維持率が大きくなった。電解質塩の解離に影響を及ぼす比誘電率が高いほど、電解質塩を高濃度で添加した場合に、溶媒の黒鉛表面での還元分解が顕著になるため、45℃放電容量維持率が小さくなると考えられる。
【0078】
ここで、主溶媒の比誘電率をAとし、混合溶媒中の主溶媒のモル比をMとし、低粘度有機溶媒の比誘電率をBとし、混合溶媒中の低粘度有機溶媒のモル比をNとした場合、混合溶媒の比誘電率Tは、次の式(5)で定義できる。
T=A×M+B×N ・・・式(5)
【0079】
したがって、
図3より、二次電池の45℃放電容量維持率Yは、混合溶媒の比誘電率Tにより、次の式(6)で表されることが確認された。
Y=-0.0065T
2+0.41T+88 ・・・式(6)
【0080】
式(6)によると、比較例1の二次電池の45℃放電容量維持率(87.7%)よりも、45℃放電容量維持率が大きくなる混合溶媒の比誘電率Tの範囲は、63以下であった。二次電池の45℃放電容量維持率Zが89.5%以上になる混合溶媒の比誘電率Tの範囲は、3.9~59であった。また、二次電池の45℃放電容量維持率が90%以上になる混合溶媒の比誘電率Tの範囲は、5.5~58であった。さらに、二次電池の45℃放電容量維持率が92%以上になる混合溶媒の比誘電率Tの範囲は、12.5~51.0であった。したがって、混合溶媒の比誘電率Tの範囲は、63以下、好ましくは3.9~59、より好ましくは5.5~58である。
【符号の説明】
【0081】
100 正極
110 正極合剤層
120 正極集電体
130 正極タブ
200 負極
210 負極合剤層
220 負極集電体
230 負極タブ
300 絶縁層
400 電極体
500 外装体
1000 リチウムイオン二次電池