(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】免疫測定用組成物、免疫測定用診断薬、及び、免疫測定用デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 33/548 20060101AFI20240910BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01N33/548 Z
G01N33/543 501A
(21)【出願番号】P 2020214876
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019235783
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載者名:一般社団法人繊維学会、掲載物名:2020年繊維学会年次大会プログラム ウェブサイト (https://www.fiber.or.jp/jpn/events/2020/year/program_200603Rev2.pdf)、掲載年月日:令和2年2月24日 [刊行物等]掲載者名:一般社団法人繊維学会、掲載物名:2020年繊維学会年次大会予稿集 ウェブサイト (http://www.kcms.jp/fiber2020/files/pdf/poster/2P271.pdf)、掲載年月日:令和2年6月3日 [刊行物等]掲載者名:一般社団法人繊維学会、掲載物名:2020年繊維学会秋季研究発表会プログラム ウェブサイト (https://www.fiber.or.jp/jpn/events/2020/autumn/program201016.pdf)、掲載年月日:令和2年10月1日 [刊行物等]掲載者名:一般社団法人繊維学会、掲載物名:2020年繊維学会秋季研究発表会予稿集 ウェブサイト (http://www.kcms.jp/fiber2020aki/files/pdf/present/2D10B.pdf)、掲載年月日:令和2年11月2日 [刊行物等]集会名:2020年繊維学会秋季研究発表会、開催日:令和2年11月6日、開催場所:オンライン [刊行物等]掲載者名:ACS Publications、掲載物名等:ACS OMEGA,2020,5,30,18826-18830 ウェブサイト (https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.0c01948) (https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acsomega.0c01948)、掲載年月日:令和2年7月22日 [刊行物等]発行者名:ACS Publications、刊行物名等:ACS OMEGA,2020,5,30,18826-18830、発行年月日:令和2年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】坂元 博昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 淳
(72)【発明者】
【氏名】中山 晴菜
(72)【発明者】
【氏名】北村 武大
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賀之
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-211347(JP,A)
【文献】国際公開第2019/238327(WO,A1)
【文献】特開2017-031538(JP,A)
【文献】特開2019-081257(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057257(WO,A1)
【文献】特開2012-167406(JP,A)
【文献】特開2017-101362(JP,A)
【文献】特開2019-156864(JP,A)
【文献】国際公開第2014/181560(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008868(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C08B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースユニットのC6位の水酸基の一部が、アニオン性基によって置換された微細繊維状セルロースと
多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物と、を含有し、
前記微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されていることを特徴とする免疫測定用組成物であって、
前記微細繊維状セルロースが、下記(a)~(c)を満たし、
(a)前記微細繊維状セルロースの数平均繊維径が2~150nmである
(b)前記微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を有する
(c)前記微細繊維状セルロースの数平均アスペクト比が10~1000である
且つ、免疫測定の際、下記(A)、(B)及び(C)の少なくとも1つの反応を可能にするように構成され
、
前記微細繊維状セルロースが前記ポリアミン化合物により架橋されており、
前記ポリアミン化合物がポリエーテルポリアミンを含む、免疫測定用組成物。
(A)タンパク質を有する標的物質と、前記標的物質に特異的に結合する抗原または抗体を有する媒介用物質とのうちのいずれか一方である被吸着物質が、前記微細繊維状セルロースに物理的に吸着する反応
(B)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合、前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に前記標的物質が結合する反応
(C)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記標的物質である場合には前記微細繊維状セルロースに吸着した前記標的物質に、前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合には前記(B)の反応において前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に結合した前記標的物質に、標識された抗原または抗体を有する標識用物質が、直接的または間接的に特異的に結合する反応
【請求項2】
前記微細繊維状セルロースに吸着する前記被吸着物質に対する前記微細繊維状セルロースの質量比(前記微細繊維状セルロース)/(前記被吸着物質)の値が、0.01~100である、請求項1に記載の免疫測定用組成物。
【請求項3】
前記標識用物質が、酵素、蛍光色素、蛍光タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種により修飾されることによって標識された抗原または抗体を有する、請求項1又は請求項2に記載の免疫測定用組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリアミンがポリエチレングリコールビスアミンを含む、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の免疫測定用組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の免疫測定用組成物を備える免疫測定用診断薬。
【請求項6】
直接競合方式、間接競合方式、または、サンドイッチ方式による免疫測定用である、請求項
5に記載の免疫測定用診断薬。
【請求項7】
固定支持体と、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の免疫測定用組成物とを備え、
前記固定支持体に前記免疫測定用組成物が物理的に吸着してなる、免疫測定用デバイス。
【請求項8】
前記固定支持体が、ウェル、プレート、チューブ、または、チップである、請求項
7に記載の免疫測定用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫測定用組成物、免疫測定用診断薬、及び、免疫測定用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、免疫測定法が用いられている。免疫測定法は、体液性免疫反応である抗原抗体反応を利用して、酵素、抗原、抗体といったタンパク質を有する生体物質を測定対象物質(標的物質)として検出(定性)、定量する方法の総称である。免疫測定法によれば、標的物質を特異的に測定することができるため、例えば、タンパク質や核酸に例示される高分子物質から、医薬品やステロイドホルモンに例示される低分子物質まで、幅広い分子量の範囲にわたって物質の測定が可能である。
【0003】
一方、近年、医療現場において、診断薬、診断デバイスやキット等を用いた免疫測定法を利用して、被検者の周辺にて迅速かつ簡便に被検者の検査を行い、得られた検査結果を活かして適切な診療、処置、看護を行うことによって、疾病の予防や健康増進に寄与することが期待されている。このためには、迅速かつ正確に測定を行うことが必要とされ、測定に用いる試薬や測定方法などについて、多くの改善、努力がなされている。
【0004】
免疫測定法の例として、酵素免疫測定法、化学発光免疫測定法、ラテックス凝集法などが用いられている。これらは、いずれも、上記標的物質に特異的に相互作用(結合)する物質(標識用物質)を利用し、標的物質と標識用物質との反応によって生じた比色、発光、発色、吸光、蛍光、凝集状態等を目視や機器を用いて観察、計測することによって、定性、定量を行う方法である。
【0005】
例えば、免疫測定法においては、無機系または有機系の担体に、上記標的物質を固定、吸着、または担持させたうえで、標的物質と相互作用を生じた時に着色して標識となるような抗体や基質等(標識用物質)を存在させておくことによって、これに、標的物質を含む測定対象試料を添加した際、標識としての着色が生じるか否かを、直接的に観察することができる。
【0006】
一方、近年、感染症の迅速検査や在宅検査に対する要望、需要が増しており、検査に用いる試薬の汎用性や安定性向上の要望が高まっている。さらに、検出精度や感度向上も要望されており、例えば、標的物質や、標的物質と標識用物質とを媒介する物質(媒介用物質)のロスを低減し、検出精度や感度が損なわれないことも要望されている。
【0007】
そこで、免疫測定用デバイスとして、例えば、上記標的物質や媒介用物質と結合する物質を、プラスチックを含む支持体に共有結合させたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
しかし、かかるデバイスでは、共有結合を介して支持体に上記物質を固定化するためには、合成化学的操作を伴うため、手間がかかり、また、所望の検出精度や感度が得られないおそれがある。
【0009】
一方、免疫測定用組成物として、セルロース誘導体を用いることも提案されている。例えば、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基及びアミノ基のいずれか1種以上の置換基によって置換されたセルロース粒子の水分散体を用い、該セルロース粒子に、上記標的物質や媒介用物質を吸着させる方法や固定化する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
セルロースは、生分解性を有する天然由来材料であり、その汎用性は高く、また、化学的および熱的安定性が比較的高い材料である。また、セルロースは、タンパク質といった生体物質に対し、非特異的な相互作用や吸着を起こし難いため、精製・分離用カラムの充填剤や、酵素、微生物、細胞の固定化担体・吸着材・膜材料等に用いられている。よって、セルロースを用いた免疫測定用組成物は、それ自身、化学的及び熱的に安定なものとなり、また、これに吸着される標的物質等に対しても化学的及び熱的な安定性を損い難いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5252035号公報
【文献】特許第5952522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献2の免疫測定用組成物は、固体表面に固定しにくく、水との接触等により流出しやすいため、これに吸着された標的物質等も流出する。免疫測定用組成物の流出は、吸着された標的物質と標識用物質との特異的な結合の機会を低下させ、その結果、精度良く定性・定量を行うことが困難となるおそれがある。
【0013】
上記事情に鑑み、本発明は、標的物質、該標的物質と特異的に結合する媒介用物質が被吸着物質として吸着されたとき、これら物質の吸着量を向上させる免疫測定用組成物、これを用いた免疫測定用診断薬、及び、免疫測定用デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明の第1の態様は、
グルコースユニットのC6位の水酸基の一部が、アニオン性基によって置換された微細繊維状セルロースと
多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物と、を含有し、
前記微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されていることを特徴とする免疫測定用組成物であって、
前記微細繊維状セルロースが、下記(a)~(c)を満たし、
(a)前記微細繊維状セルロースの数平均繊維径が2~150nmである
(b)前記微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を有する
(c)前記微細繊維状セルロースの数平均アスペクト比が10~1000である
且つ、免疫測定の際、下記(A)、(B)及び(C)の少なくとも1つの反応を可能にするように構成された、免疫測定用組成物である。
(A)タンパク質を有する標的物質と、前記標的物質に特異的に結合する抗原または抗体を有する媒介用物質とのうちのいずれか一方である被吸着物質が、前記微細繊維状セルロースに物理的に吸着する反応
(B)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合、前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に前記標的物質が結合する反応
(C)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記標的物質である場合には前記微細繊維状セルロースに吸着した前記標的物質に、前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合には前記(B)の反応において前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に結合した前記標的物質に、標識された抗原または抗体を有する標識用物質が、直接的または間接的に特異的に結合する反応
【0015】
(2)上述の形態であって、前記微細繊維状セルロースに吸着する前記被吸着物質に対する前記微細繊維状セルロースの質量比(前記微細繊維状セルロース)/(前記被吸着物質)の値が、0.01~100であってもよい。
【0016】
(3)上述の形態であって、前記標識用物質が、酵素、蛍光色素、蛍光タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種により修飾されることによって標識された抗原または抗体を有してもよい。
【0017】
(4)上述の形態であって、前記微細繊維状セルロースが前記ポリアミン化合物により架橋されており、前記ポリアミン化合物がポリエーテルポリアミンを含んでもよい。
【0018】
(5)上述の形態であって、前記ポリエーテルポリアミンがポリエチレングリコールビスアミンを含んでもよい。
【0019】
(6)本発明の第2の態様は、
上記第1の態様の免疫測定用組成物を備える免疫測定用診断薬である。
【0020】
(7)上述の形態の免疫測定用診断薬は、直接競合方式、間接競合方式、または、サンドイッチ方式による免疫測定用であってもよい。
【0021】
(8)本発明の第3の態様は、
固定支持体と、上記第1の態様の免疫測定用組成物とを備え、
前記固定支持体に前記免疫測定用組成物が物理的に吸着してなる、免疫測定用デバイスである。
【0022】
(9)上述の形態の免疫測定用デバイスは、前記固定支持体が、ウェル、プレート、チューブ、または、チップであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、標的物質、または、該標的物質と特異的に結合する媒介用物質が吸着されたとき、これら物質の吸着量を向上させる免疫測定用組成物、これを用いた免疫測定用診断薬、及び、免疫測定用デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】標的物質が酵素である場合に、酵素が構造変化すると該酵素に基質が結合できなくなることを模式的に示す概略図。
【
図2】本実施形態の免疫測定用組成物が直接競合方式による免疫測定に用いられる際の反応の一例を模式的に示す概略図。
【
図3】本実施形態の免疫測定用組成物が間接競合方式による免疫測定に用いられる際の反応の一例を模式的に示す概略図。
【
図4】本実施形態の免疫測定用組成物がサンドイッチ方式による免疫測定に用いられる際の反応の一例を模式的に示す概略図。
【
図5】実施例3および実施例4、比較例3のタンパク質の吸着評価結果を示すグラフ。
【
図6】標的物質として、抗原としてのリゾチーム(卵白由来)を用い、1次抗体として、抗リゾチームポリクローナル抗体を用い、標識用物質として、2次抗体としてのKPL Peroxidase-Labeled Antibody To Rabbit IgGを用い、発光基質としてOPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)を用いた免疫測定試験結果を示すグラフ。
【
図7】1ウェルあたりのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量(mg)を示す図。
【
図8】実施例8と比較例6との吸光度変化量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
本実施形態の免疫測定用組成物は、
グルコースユニットのC6位の水酸基の一部が、アニオン性基によって置換された微細繊維状セルロースと
多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物と、を含有し、
前記微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されていることを特徴とする免疫測定用組成物であって、
前記微細繊維状セルロースが、下記(a)~(c)を満たし、
(a)前記微細繊維状セルロースの数平均繊維径が2~150nmである
(b)前記微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶構造を有する
(c)前記微細繊維状セルロースの数平均アスペクト比が10~1000である
且つ、免疫測定の際、下記(A)、(B)及び(C)の少なくとも1つの反応を可能にするように構成された、免疫測定用組成物である。
(A)タンパク質を有する標的物質と、前記標的物質に特異的に結合する抗原または抗体を有する媒介用物質とのうちのいずれか一方である被吸着物質が、前記微細繊維状セルロースに物理的に吸着する反応
(B)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合、前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に前記標的物質が結合する反応
(C)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記標的物質である場合には前記微細繊維状セルロースに吸着した前記標的物質に、前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合には前記(B)の反応において前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に結合した前記標的物質に、標識された抗原または抗体を有する標識用物質が、直接的または間接的に特異的に結合する反応
【0027】
本実施形態で用いられる微細繊維状セルロースは、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位にアニオン性基を有するもの(以下、「アニオン変性微細繊維状セルロース」や「TOCN」とも呼ぶ。)である。
【0028】
セルロース分子中のグルコースユニットにアニオン性基が導入されたアニオン変性微細繊維状セルロースは、アニオン性の電荷を有する。一方、アニオン変性微細繊維状セルロースに吸着する被吸着物質が、標的物質、または、標的物質に特異的に結合する媒介用物質であると、これらは、いずれもタンパク質を有している、すなわち、標的物質、または、標的物質に特異的に結合する媒介用物質は、遊離アミノ基を有している。よって、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されている微細繊維状セルロースに被吸着物質が添加されると、これらの等電点よりも、水分散体のpHの方が酸性側の場合には、これらが正の電荷を有し、アニオン変性微細繊維状セルロースのアニオン性基と、被吸着物質のアミノ基との静電的相互作用により、物理的な結合が形成され易くなる。これによって、被吸着物質を微細繊維状セルロースの表面に吸着させることができる。
【0029】
一方、水分散体のpHの方が塩基性側の場合には、被吸着物質が負の電荷を有し、微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されている免疫測定用組成物に含まれるアニオン変性微細繊維状セルロースのアニオン性基と、被吸着物質のアミノ基との静電的相互作用が生じ難くなり、物理的な結合が形成され難くなる。このため、被吸着物質がアニオン変性微細繊維状セルロースに吸着させることが困難となる。
【0030】
セルロースI型結晶構造を有するアニオン変性微細繊維状セルロースは、水不溶性である。セルロースI型結晶構造は、アニオン変性微細繊維状セルロースの表面に被吸着物質を吸着させる場(領域)を与える。また、アニオン変性微細繊維状セルロースが水不溶性であることにより、溶媒、検体、試料等との分離や洗浄等の操作が、簡便となる。
【0031】
数平均繊維径が2~150nmであり、数平均アスペクト比が10~1000であるアニオン変性微細繊維状セルロースは、微細繊維であり、且つ、高い比表面積を有している。よって、被吸着物質をより多く吸着することができる。また、物理的な結合によって吸着した被吸着物質の構造安定性を保持することができる。さらに、吸着した被吸着物質の活性低下を抑制できる。
【0032】
アニオン変性微細繊維状セルロースのアニオン性基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、アニオン性基は、塩型も含む概念である。アニオン性基は、例えば、アニオン性基がカルボキシル基または硫酸基である場合、かかるカルボキシル基及び硫酸基は、酸型(-COOH、-OSO3H)だけでなく、塩型、すなわち、カルボン酸塩基及び硫酸塩基(-COOX、-OSO3X、ただし、Xは、カルボン酸及び硫酸と塩を形成する陽イオン)も含む。アニオン性基は、アニオン性基がリン酸基またはスルホン酸基である場合についても、同様に、かかるリン酸基またはスルホン酸基は、酸型だけでなく塩型も含む。アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基及び/または硫酸基が好ましい。
【0033】
カルボキシル基を含有する微細繊維状セルロースとしては、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が酸化されて形成される酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基がカルボキシメチル化されて形成されるカルボキシメチル化セルロースナノファイバー等が挙げられる。
【0034】
酸化セルロースナノファイバーとしては、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性されたものが挙げられる。このようなカルボキシル基酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプ等の天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することによって得ることができる。ここで、N-オキシル化合物としては、一般に、酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えば、ピペリジンニトロキシオキシラジカルが挙げられる。N-オキシル化合物としては、特に、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化された微細繊維状セルロースは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバーと称されている。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシル基と共に、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよいが、アルデヒド基及びケトン基を実質的に有していないことが好ましい。
【0035】
硫酸基を含有する微細繊維状セルロースとしては、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が硫酸化されてなる硫酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が硫酸エステル化されてなる硫酸エステル化セルロースナノファイバー等が挙げられる。
【0036】
硫酸化セルロースナノファイバーとしては、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に硫酸化されて硫酸基に変性されたもの等が挙げられる。このような硫酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプ等の天然セルロースを硫酸化試薬の存在下、硫酸化し、解繊(微細化)処理することによって得ることができる。
【0037】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーとしては、特に限定されないが、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に硫酸エステル化されて硫酸基に変性されたもの等が挙げられる。このような硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、木材パルプ等の天然セルロースを硫酸化試薬の存在下、硫酸エステル化し、解繊(微細化)処理することによって得ることができる。ここで、硫酸化試薬としては、例えばスルファミン酸が用いられる。硫酸化試薬で硫酸化された微細繊維状セルロースは、一般に硫酸化セルロースナノファイバーと称されている。硫酸化試薬で硫酸エステル化された微細繊維状セルロースは、一般に硫酸エステル化セルロースナノファイバーと称されている。なお、硫酸化セルロースナノファイバー、硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、硫酸基、硫酸エステル基と共に、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよいが、アルデヒド基及びケトン基を実質的に有していないことが好ましい。アニオン変性微細繊維状セルロースは、上記で例示した1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
アニオン変性微細繊維状セルロースにおけるアニオン性基の量は、特に限定されないが、例えば、0.05~3.0mmol/gが好ましく、0.5~2.5mmol/gがより好ましい。
【0039】
アニオン性基の量は、以下の方法で測定できる。具体的には、カルボキシル基の場合、乾燥質量を精秤したアニオン変性微細繊維状セルロースを試料として、アニオン変性微細繊維状セルロースの0.5~1質量%スラリーを60mL調製した後、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とする。その後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、pHが約11になるまで滴下を続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)を用い、下記式に従って求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。同様に、その他のアニオン性基についても公知の方法で測定することができる。例えば、硫酸基の場合、前記カルボキシル基の場合と同様の方法によって求めることができる。
アニオン性基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース試料質量(g)〕
【0040】
アニオン変性微細繊維状セルロースは、ナノメートルレベルの繊維径を持つセルロース繊維(即ち、セルロースナノファイバー)であり、その数平均繊維径は、上記のように2~150nmであり、例えば、1~150nmであることが好ましく、2~100nmであることがより好ましく、3~80nmであることがさらに好ましい。
【0041】
数平均繊維径は、以下の測定することができる。すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%のアニオン変性微細繊維状セルロースの水分散体を調製した後、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。そして、アニオン変性微細繊維状セルロースを構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するように試料及び観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径を測定する。このようにすることにより、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる。このようにして得られた繊維径のデータから、数平均繊維径を算出する。
【0042】
アニオン変性微細繊維状セルロースの数平均アスペクト比は、10~1000であり、50~1000であることが好ましく、100~1000であることがより好ましい。
【0043】
数平均アスペクト比は、以下の方法で測定することができる。すなわち、アニオン変性微細繊維状セルロースを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、アニオン変性微細繊維状セルロースの短幅の方の数平均幅、及び、長幅の方の数平均幅を測定する。そして、これらの値を用いて数平均アスペクト比を下記式に従って算出する。
数平均アスペクト比=長幅の方の数平均幅(nm)/短幅の方の数平均幅(nm)
【0044】
アニオン変性微細繊維状セルロースは、解繊処理を行うことにより得ることができる。解繊処理は、後述するアニオン性基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理方法としては、特に限定されないが、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、アニオン変性セルロース繊維の水分散液(水分散体)を処理する方法が挙げられる。解繊処理を行うことにより、アニオン変性微細繊維状セルロースの水分散体を得ることができる。
【0045】
前述したように、水不溶性の観点から、アニオン変性微細繊維状セルロースは、セルロースI型結晶構造を有する。アニオン変性微細繊維状セルロースを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ(θ)=14°~17°付近と、2シータ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0046】
本実施形態の免疫測定用組成物は多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物を含有する。本明細書において、「多価金属イオン」とは、イオン価数が2以上のイオンを示す。多価金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、アルミニウムイオン、チタンイオン、錫イオン、鉄イオン、クロムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン等を挙げることができる。多価金属イオンとしては、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましく、カルシウムイオンを含むことがより好ましい。
【0047】
多価金属イオンを含む多価金属塩は、本発明の技術分野で一般的に使用されるものを使用することができ、特に限定されないが具体的には、例えば、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、亜鉛化合物、カドミウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、錫化合物、鉄化合物、クロム化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物等を挙げることができる。これらの中で、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物が好ましい。
【0048】
カルシウム類化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0049】
アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム等のような、アルミニウムの水酸化物、無機塩、有機塩あるいはキレート化合物等を含む広い範囲のアルミニウム化合物を挙げることができる。
【0050】
マグネシウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイトなどを挙げることができる。また、これらの多価金属化合物の複数を含有させて用いても良い。
【0051】
本明細書において、「ポリアミン化合物」とは、分子内に複数のアミノ基をもつ化合物を示す。ポリアミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環族ポリアミン、ポリエチレンイミン等が使用できる。また、ポリアミン化合物としては、例えば、ポリエーテルポリアミンを使用してもよい。ポリエーテルポリアミンとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールビスアミン(以下、「PEGBA」とも呼ぶ)、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ジアミン、トリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミン、グリセリルポリ(オキシプロピレン)トリアミン等が挙げられる。物質の吸着量を向上させる観点から、ポリアミン化合物としては、ポリエーテルポリアミンが好ましく、ポリエチレングリコールビスアミンがより好ましい。ポリエーテルポリアミンの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、10,000以上30,000以下が好ましく、15,000以上25,000以下がより好ましく、18,000以上22,000以下がさらに好ましい。前記ポリアミン化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記ポリアミン化合物と微細繊維状セルロースとを架橋する方法は、特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースのカルボキシル基を、カルボジイミド化合物 (縮合剤)とスクシンイミド化合物またはヒドロキシベンゾトリアゾール化合物と反応させ、活性エステルを生成後、ポリアミン化合物を反応させる方法が挙げられる。
【0053】
カルボジイミド化合物 (縮合剤)としては、特に限定されないが、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びその塩酸塩、N,N’-ジメチルカルボジイミド(DIC)、1-シクロヘキシル-3-(2- モルホリノエチル)カルボジイミド及びそれらのトルエンスルホン酸塩、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド及びそのメチオジド、N,N’-ジシクロへキシルカルボジイミド等が挙げられる。なお、縮合剤は、単独使用の他、2種以上の混合物として使用することができる。
【0054】
スクシンイミド化合物としては、特に限定されないが、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド等が挙げられる。
【0055】
ヒドロキシベンゾトリアゾール化合物としては、特に限定されないが、例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0056】
上記微細繊維状セルロースのカルボキシル基を、カルボジイミド化合物 (縮合剤)とスクシンイミド化合物と反応させることにより、活性エステルが生成される。また、上記微細繊維状セルロースのカルボキシル基を、カルボジイミド化合物 (縮合剤)とヒドロキシベンゾトリアゾール化合物と反応させることにより、活性エステルが生成される。これらの活性エステルは、ポリアミンのアミノ基と共有結合することができるため、この共有結合によって、微細繊維状セルロースはポリアミンと架橋を形成することが可能となる。
【0057】
本実施形態の免疫測定用組成物は、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物と、アニオン変性微細繊維状セルロースと、を含有するものである。アニオン変性微細繊維状セルロースの含有量は1質量%以上99.9質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以上50質量%以下である。多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物は、免疫測定用組成物のアニオン性官能基を全て架橋するのに十分な量を添加することが好ましく、化合物の種類により異なるが、0.001質量%以上10質量%以下が好ましい。また、アニオン変性微細繊維状セルロース100質量部に対して、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物は、0.001質量部以上100質量部以下であることが好ましく、0.005質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上25質量部以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本実施形態の免疫測定用組成物には、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物とアニオン変性微細繊維状セルロースとの他、本発明の効果を阻害しない範囲において、他の添加剤を含んでいてもよい。かかる添加剤としては、例えば、水、無機系及び/又は有機系のフィラー類、粘土鉱物類、色素等の着色剤、塩類、pH調整剤、油剤、水溶性高分子、界面活性剤、耐光剤、酸化防止剤、防腐剤、無機物等が挙げられる。
【0059】
本実施形態の免疫測定用組成物において、微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されている免疫測定用組成物に吸着される被吸着物質は、タンパク質を有する、すなわち、アニオン変性微細繊維状セルロースのアニオン性基と物理的に吸着するアミノ基を有する。
【0060】
被吸着物質は、その有するアミノ基と、微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されている免疫測定用組成物に含まれるアニオン変性微細繊維状セルロースのアニオン性基との静電的相互作用によってアニオン変性微細繊維状セルロースに物理的に吸着するものである。
被吸着物質は、標的物質または媒介用物質である。
【0061】
本明細書において、「標的物質」は、測定対象となる物質を示す。また、媒介用物質は、標的物質と特異的に結合し、且つ、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により微細繊維状セルロースが架橋されている免疫測定用組成物に含まれるアニオン変性微細繊維状セルロースと物理的に吸着することによって、標的物質とアニオン変性微細繊維状セルロースとを媒介するものである。
【0062】
被吸着物質が標的物質である場合、この標的物質は、特に限定されない。標的物質としては、タンパク質を有するものであれば特に制限されず、当業者が所望する任意のタンパク質を有するものであってよい。このタンパク質は、特に限定されないが、例えば、微生物由来のタンパク質であってもよく、植物由来のタンパク質であってもよく、動物由来のタンパク質であってもよく、ウイルス由来のタンパク質であってもよく、さらには人工的にアミノ酸配列をデザインしたタンパク質であってもよい。このタンパク質としては、例えば、医療用、研究用、または産業用に有用な生物学的活性を有するタンパク質を好適に利用できる。そのようなタンパク質としては、例えば、抗体結合タンパク質、抗体、抗原、受容体、DNA結合タンパク質、酵素、アルブミン、金属タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、膜タンパク質、プロテオグリカン、レクチン及び細胞膜レセプター等が挙げられる。さらに、このタンパク質は、そのタンパク質を構成するアミノ酸の一部がアセチル化、リン酸化、メチル化等の官能基が付加されたもの、糖類、蛋白質、脂質等で修飾されたものであってもよい。このタンパク質は、何らかの物質と特異的に相互作用しうるタンパク質であることが好ましい。相互作用としては、特に限定されないが、例えば、特異的な結合が挙げられる。これのうち、標的物質は、抗体及び/または抗原が好ましい。
【0063】
被吸着物質が媒介用物質である場合、この媒介用物質(以下、「第1の媒介用物質」とも呼ぶ)は、特に限定されない。媒介用物質としては、例えば、上記した標的物質と同様のものが挙げられる。すなわち、媒介用物質としては、タンパク質を有するものであれば特に制限されず、当業者が所望する任意のタンパク質を有するものであってよい。このタンパク質は、特に限定されないが、例えば、微生物由来のタンパク質であってもよく、植物由来のタンパク質であってもよく、動物由来のタンパク質であってもよく、ウイルス由来のタンパク質であってもよく、さらには人工的にアミノ酸配列をデザインしたタンパク質であってもよい。このタンパク質としては、例えば、医療用、研究用、または産業用に有用な生物学的活性を有するタンパク質を好適に利用できる。そのようなタンパク質としては、例えば、抗体結合タンパク質、抗体、抗原、受容体、DNA結合タンパク質、酵素、アルブミン、金属タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、膜タンパク質、プロテオグリカン、レクチン及び細胞膜レセプター等が挙げられる。さらに、このタンパク質は、そのタンパク質を構成するアミノ酸の一部がアセチル化、リン酸化、メチル化等の官能基が付加されたもの、糖類、蛋白質、脂質等で修飾されたものであってもよい。このタンパク質は、何らかの物質と特異的に相互作用しうるタンパク質であることが好ましい。相互作用としては、特に限定されないが、例えば、特異的な結合が挙げられる。これのうち、媒介用物質は、タンパク質であることが好ましく、このタンパク質としては、上記のうち、抗体及び/または抗原が好ましい。
【0064】
上記の通り、被吸着物質は、アニオン変性微細繊維状セルロースに対して物理的に吸着し得るものであり、タンパク質に由来するアミノ基を有している。一方、アニオン変性微細繊維状セルロースは、アニオン性基を有している。水中でアミノ基は正に帯電し、アニオン性基は負に帯電するため、静電的相互作用(引力)が発生し、これによって、被吸着物質は、アニオン変性微細繊維状セルロースに対して物理的に吸着し得る。
【0065】
ここで、被吸着物質が、固定支持体に対して共有結合することによって固定される場合には、この共有結合が、固定支持体と被吸着物質の活性中心との間で生じることにより、被吸着物質の活性(すなわち、標識用物質との直接または間接的な結合)が損なわれるおそれがある。また、被吸着物質の構造変化が生じることにより、活性が損なわれるおそれがある。
【0066】
図1は、標的物質が酵素である場合に、酵素が構造変化すると該酵素に基質が結合できなくなることを模式的に示す概略図である。酵素に構造変化が生じると、
図1に示すように、本来この酵素に特異的に結合することが可能な基質が、酵素に結合することができない。また、共有結合によって固定支持体に被吸着物質を結合させる特許文献1のような場合には、前述したように、共有結合を発生させるためには、合成化学的操作を伴う。このため、工程が煩雑になる。
【0067】
これに対し、本実施形態の免疫測定用組成物は、共有結合を発生させることなく、被吸着物質が吸着される。また、後述するように、本実施形態の免疫測定用組成物は、固定支持体に固定されて使用される場合であっても、自身が固定支持体に物理的に吸着されて固定され得るため、共有結合を発生させる必要がない。このため、本実施形態の免疫測定用組成物によれば、引用文献1の場合よりも工程を減らすことができる。
【0068】
また、本実施形態の免疫測定用組成物は、多価金属イオンおよび/またはポリアミンによって微細繊維状セルロースを架橋するため、水との接触による膨潤や崩壊を抑制できる。よって、特許文献1のような共有結合を発生させることなく、すなわち、合成化学的操作を用いることなく、アニオン変性微細繊維状セルロースに被吸着物質を吸着させることができる。この結果として、本実施形態の免疫測定用組成物によれば、被吸着物質の吸着量を向上させることができる。
【0069】
本実施形態の免疫測定用組成物において、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているアニオン変性微細繊維状セルロースの含有量は特に限定されず、適宜設定され得る。例えば、免疫測定用組成物100質量部に対して、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているアニオン変性微細繊維状セルロースの含有量は、80~99.9質量部であることが好ましく、90~99.0質量部であることがより好ましく、95~98質量部であることがより好ましい。免疫測定用組成物100質量部に対して、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているアニオン変性微細繊維状セルロースの含有量を80質量部とすることにより、多価イオンやポリアミン化合物との架橋が十分に行われ、免疫測定用組成物の耐水性を向上させることができる。一方、免疫測定用組成物100質量部に対して、多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているアニオン変性微細繊維状セルロースの含有量を99.9質量部以下とすることにより、被吸着物質に対してアニオン変性微細繊維状セルロースの量が十分となることにより、アニオン変性微細繊維状セルロースの表面に吸着されない被吸着物質が少なくなり、その結果、吸着されていない遊離の被吸着物質同士の相互作用が生じ、その構造安定性や活性が低下することを抑制できる。
【0070】
本実施形態の免疫測定用組成物において、アニオン変性微細繊維状セルロースに吸着する被吸着物質に対するアニオン変性微細繊維状セルロースの質量比(アニオン変性微細繊維状セルロース)/(被吸着物質)は、特に限定されないが、0.01~100が好ましく、0.1~90がより好ましい。この質量比を好ましい範囲とすることにより、吸着した被吸着物質の構造安定性の低下を抑制しつつ、分析精度や感度の低下を抑制できる。
【0071】
本実施形態の免疫測定用組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースの水分散体を乾燥させたフィルムに、多価金属イオンを含む溶液を付着させることにより、微細繊維状セルロースの表面に多価金属イオンを接触後、余分な多価金属イオンを含む溶液を洗浄することにより、微細繊維状セルロースと多価金属イオンが架橋した免疫測定用組成物を得ることができる。また、微細繊維状セルロースと多価金属イオンを含む混合液を乾燥させたフィルムを作製することにより、微細繊維状セルロースと多価金属イオンが架橋した免疫測定用組成物を得ることができる。また、微細繊維状セルロースの水分散体をカルボジイミド化合物やスクシンイミド化合物と反応させ、活性エステルを生成後、ポリアミン化合物と反応させた混合液を乾燥させたフィルムを作製することにより、微細繊維状セルロースとポリアミン化合物が架橋した免疫測定用組成物を得ることができる。
【0072】
本実施形態の免疫測定用組成物は、免疫測定が行われる際、または、免疫測定が行われる前に水を含有していてもよい。また、本実施形態の免疫測定用組成物は、水の他に、種々の溶質や溶媒が添加されていてもよい。
【0073】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、免疫測定の際に通常用いられる種々の緩衝液が挙げられる。また、溶媒に添加される溶質としては、特に限定されないが、例えば、免疫測定の際に通常用いられる種々の緩衝液を調製するための塩類が挙げられる。
【0074】
緩衝液としては、特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MES緩衝液、等が挙げられる。具体的には、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)-塩酸緩衝液、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝液等が挙げられる。
【0075】
本実施形態における免疫測定用組成物は、自身に被吸着物質として標的物質が吸着されてもよい。また、本実施形態の免疫測定用組成物は、標的物質が吸着された状態で、この標的物質に、標識された抗原または抗体を有する標識用物質が直接的または間接的に結合されてもよい。また、本実施形態の免疫測定用組成物は、自身に被吸着物質として媒介用物質が吸着されてもよく、媒介用物質が吸着された状態で、該媒介用物質に標的物質が結合されてもよい。本実施形態の免疫測定用組成物は、媒介用物質に標的物質が結合された状態で、該標的物質に、直接的または間接的に標識用物質が結合されてもよい。標的物質に標識用物質が直接的に結合するとは、標的物質と標識用物質とが特異的に結合することをいう。標的物質に標識用物質が間接的に結合するとは、標的物質に、標識用物質以外の物質であって、標的物質と標識用物質との双方に特異的に結合する物質(以下、「第2の媒介用物質」とも呼ぶ)を介して標的物質と標識用物質とが結合することをいう。
【0076】
標識用物質は、標的物質と特異的に結合し得る抗原または抗体を有するものであって、この結合によって標識機能を発揮し得るものであれば良く、特に限定されない。標識用物質としては、例えば、被吸着物質との間で直接的または間接的に、酵素-基質、抗原-抗体、ホルモン-レセプター、糖鎖-レクチン、ビオチン-アビジンといった複合体を形成する反応(酵素反応や特異的結合反応)といった、種々の反応に関与するタンパク質を有する物質が挙げられる。このような標識用物質としては、上記の反応によって検出される物質(標識源)によって標識されたタンパク質が用いられ、例えば、酵素、抗体タンパク質、レセプタータンパク質、サイトカイン、レクチンおよびアビジンからなる群から選択される少なくとも1種といった標識によって標識されたタンパク質が挙げられる。より好ましくは、かかる標識機能を発揮するタンパク質によって標識された抗体及び抗原である。
【0077】
上記検出可能な標識源としては、例えば、酵素、蛍光物質等が挙げられる。標識源としての酵素は、他のタンパク質と結合すると、構造変化を生じ、その構造変化を標識とするものである。かかる標識酵素としては、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)、β-ガラクトシターゼ(β-GAL)、アルカリホスファターゼ(ALP)、グルコースオキシターゼ(GOD)、ルシフェラーゼ、エクオリン等が挙げられる。これらのうち、価格や検出方法(発色、発光、蛍光)に対する基質の一般性の観点から、上記酵素としては、西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALP)が好ましい。これらの酵素によって標識された標識用物質を検出する方法としては、特に限定されないが、例えば、化学発光酵素測定法、生物発光酵素測定法、化学発光測定法等が挙げられる。
【0078】
化学発光酵素測定法や生物発光酵素測定法は、標識用物質に発光基質を加え、標識用物質が標的物質や媒介用物質(第2の媒介用物質)との酵素反応が生じた際の発光基質の発光を検出するものである。
【0079】
化学発光酵素測定法に用いる発光物質としては、特に限定されないが、例えば、AMPPD(3-(2‘-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’ホスオリオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタンナトリウム)、AMPGD(3-(2‘-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-β-D-ガラクトピラノシロキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン)、インドキシル誘導体、過シュウ酸エステル、ルシゲニン等が挙げられる。また、生物発光酵素測定法に用いる発光物質としては、特に限定されないが、例えば、ルシフェリン誘導体等が挙げられる。
【0080】
化学発光測定法は、標識用物質に発光物質を加え、標識用物質が標的物質や媒介用物質(第2の媒介用物質)との化学反応が生じた際の発光物質の発光または蛍光を検出するものである。化学発光測定法に用いられる発光物質としては、特に限定されないが、例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールなどが挙げられる。化学発光測定法に用いられる蛍光物質としては、特に限定されないが、例えば、フルオレセイン、テトラメチルローダミン(TAMRA)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Cy3、Cy5、TexasRed、フィコエリスリン、赤色タンパク質、量子ドット、アロフィコシアニン(APC)等が挙げられる。
【0081】
標識源としての蛍光物質としては、蛍光色素、蛍光タンパク質が挙げられる。蛍光色素は特に限定されないが、例えば、標的物質のアミノ基に対する修飾のし易さの観点から、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)が好ましい。蛍光タンパク質は特に限定されず、蛍光を発する能力を有するタンパク質であれば、いかなるものであってもよく、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)やその誘導体が好ましい。
【0082】
標識用物質は、標的物質と直接的または間接的に結合する。標的物質が抗原である場合、標識用物質は、標識された抗体であり、該標識された抗体が、標的物質の抗原決定基(エピトープ)と結合する。標的物質が抗体である場合、標識用物質は、標識された抗原であり、該標識された抗原が、標的物質の抗原結合部位(パラトープ)と結合する。ここで、直接的とは、標識用物質が標識された抗原または抗体である場合、標識用物質が標的物質が抗原である場合の抗原決定基または抗体である場合の抗原結合部位に結合することを意味する。間接的とは、標識用物質が標的物質が抗原または抗体である場合、これにさらに結合した別の抗原または抗体(第2の媒介用物質)を介して標的物質と結合することを意味する。
【0083】
標識用物質は、酵素、蛍光色素、蛍光タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種により修飾されることによって標識された抗原または抗体を有することが好ましい。標識用物質がこれらから選択される少なくとも1種により修飾された抗原または抗体を有することによって、免疫測定の際、標的物質が定性、定量され易くなるため、本実施形態の免疫測定用組成物が、より有用なものとなる。
【0084】
このような本実施形態の免疫測定用組成物は、免疫測定の際、例えば、下記(A)、(C)の反応、または、下記(A)、(B)、(C)の反応を可能にする。
(A)タンパク質を有する標的物質と、前記標的物質に特異的に結合する抗原または抗体を有する媒介用物質とのうちのいずれか一方である被吸着物質が、前記微細繊維状セルロースに物理的に吸着する反応
(B)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合、前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に前記標的物質が結合する反応
(C)前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記標的物質である場合には前記微細繊維状セルロースに吸着した前記標的物質に、前記(A)の反応において前記被吸着物質が前記媒介用物質である場合には前記(B)の反応において前記微細繊維状セルロースに吸着した前記媒介用物質に結合した前記標的物質に、標識された抗原または抗体を有する標識用物質が、直接的または間接的に特異的に結合する反応
【0085】
次に、本実施形態の免疫測定用組成物が免疫測定に適用される態様について示す。具体的には、免疫測定用組成物が免疫測定用診断薬に適用される態様について示す。すなわち、本実施形態の免疫測定用診断薬について説明する。本実施形態の免疫測定用診断薬は、本実施形態の免疫測定用組成物を備える。
【0086】
本実施形態の免疫測定用診断薬は、測定対象試料中の標的物質の定性及び/または定量を行うためのものである。すなわち、測定対象試料中の標的物質の存在の有無、及び/または、測定対象試料中の標的物質の量を測定するためのものである。この定性及び/または定量においては、例えば、上記(A)、(C)の反応、または、上記(A)、(B)、(C)の反応を伴う。
【0087】
本実施形態の免疫測定用診断薬は、公知の免疫測定用に用いられ、特に限定されない。免疫測定の方式としては、特に限定されないが、例えば、直接方式、間接方式、直接競合方式、間接競合方式、サンドイッチ方式等が挙げられる。直接方式では、一般に、担体に標的物質を固定させ、担体に固定させた標的物質に、標識用物質を結合させる。間接方式では、一般に、担体に標的物質を固定させ、担体に固定させた標的物質に、媒介用物質(第2の媒介用物質)を結合させ、さらに、該媒介用物質に標識用物質を結合させる。本実施形態の免疫測定用診断薬は、このうち、直接競合方式、間接競合方式、または、サンドイッチ方式による免疫測定用であることが好ましい。本実施形態の免疫測定用診断薬は、これらの免疫測定用であることによって、より確実に標的物質の定性や定量が可能となる。
【0088】
図2は、本実施形態の免疫測定用組成物が直接競合方式による免疫測定に用いられる際の反応の一例を模式的に示す概略図である。直接競合方式では、一般に、以下のようにして標的物質の定性及び/または定量が行われる。すなわち、
図2に示すように、標的物質と特異的に結合するタンパク質を有する媒介用物質を被吸着物質として担体に固定させる。担体に固定させた媒介用物質に、標的物質(測定対象)が含まれる測定対象試料を添加すると共に、標識された標的物質を標識用物質として添加する。これによって、担体に固定された媒介用物質に、測定対象に含まれる標的物質と、標識用物質としての標的物質とを競合的に結合させる。これらの固定、反応においては、各終了後、未反応の物質を洗浄、除去する工程を適宜行ってもよい。そして、担体に固定された媒介用物質に結合した標識用物質(標識された標的物質)の標識機能に基づいて、測定対象である標的物質を定性及び/または定量する。この場合、測定対象試料に含まれる標的物質の量が増加すると、その分、担体に固定された媒介用物質と結合する標識用物質(標識された標的物質)の量が減る。すなわち、担体に固定された媒介用物質と結合することによって発揮される標識用物質(標識された標的物質)が標識する量が減少する、という関係が示される。標的物質が抗原である場合には、標的物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する抗体を媒介用物質として用い、標識された抗原(すなわち、標的物質)を、標識用物質として用い得る。標的物質が抗体である場合には、標的物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する抗原を媒介用物質として用い、標識された抗体(すなわち、標的物質)を、標識用物質として用い得る。
【0089】
本実施形態の免疫測定用組成物を直接競合方式に適用させる場合には、例えば、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物(担体に相当)に媒介用物質を物理的に吸着させ、吸着させた媒介用物質に、測定対象試料に含まれる標的物質と、標識用物質(標識された標的物質)とを競合的に結合させる。
【0090】
図3は、本実施形態の免疫測定用組成物が間接競合方式による免疫測定に用いられる際の反応の一例を模式的に示す概略図であり。間接競合方式では、一般に、以下のようにして標的物質の定性及び/または定量が行われる。すなわち、
図3に示すように、標的物質を被吸着物質として担体に固定させる。担体に固定させた標的物質に、標的物質(測定対象)が含まれる測定対象試料を添加すると共に、標的物質と特異的に結合するタンパク質を有し、標識された標識用物質を添加する。これによって、担体に固定された標的物質と、測定対象に含まれる標的物質とに、標識用物質を競合的に結合させる。これらの固定、反応においては、各終了後、未反応の物質を洗浄、除去する工程を適宜行ってもよい。そして、担体に固定された標的物質に結合した標識用物質の標識機能に基づいて、標的物質を定性及び/または定量する。この場合、測定対象試料に含まれる標的物質の量が増加すると、該標的物質と結合する標識用物質が増加する一方、担体に固定された標的物質と結合する標識用物質の量が減る。すなわち、担体に固定された標的物質と結合することによって発揮される標識用物質の標識する量が減少する、という関係が示される。標的物質が抗原である場合には、標的物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する抗体を媒介用物質として用い、媒介用物質と特異的に結合(抗体反応)する、標識された抗体を、標識用物質として用い得る。標的物質が抗体である場合には、標的物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する抗原を媒介用物質として用い、媒介用物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する、標識された抗体を、標識用物質として用い得る。
【0091】
本実施形態の免疫測定用組成物を間接競合方式に適用させる場合には、例えば、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物(担体に相当)に標的物質を物理的に吸着させ、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物に吸着させた標的物質と、測定対象試料に含まれる標的物質とに、標識用物質を競合的に結合させる。また、例えば、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物(担体に相当)に媒介用物質を物理的に吸着させ、吸着させた媒介用物質に標的物質を結合させることによって、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物に標的物質を間接的に固定する。固定支持体に吸着した免疫測定用組成物に間接的に固定させた標的物質に、測定対象試料に含まれる標的物質と、標識用物質とを競合的に結合させる。
【0092】
図4は、本実施形態の免疫測定用組成物がサンドイッチ方式による免疫測定に用いられる際の反応の一例を模式的に示す概略図である。サンドイッチ方式では、一般に、以下のようにして標的物質の定性及び/または定量が行われる。すなわち、
図4に示すように、標的物質と特異的に結合するタンパク質を有する媒介用物質を被吸着物質として担体に固定させる。担体に固定させた媒介用物質に、標的物質が含まれる測定対象試料を添加し、該測定対象試料に含まれる標的物質を結合させる。その後、さらに、標識用物質を添加し、媒介用物質に結合させた標的物質に標識用物質を結合させる。これらの固定、反応においては、各終了後、未反応の物質を洗浄、除去する工程を適宜行ってもよい。そして、標的物質に結合した標識用物質の標識機能に基づいて、標的物質を定性及び/または定量する。この場合、標的物質の量が増加すると、標識用物質が示す標識量も増加する関係を示す。
【0093】
標的物質が抗原である場合には、標的物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する抗体を媒介用物質として用い、媒介用物質と特異的に結合(抗体反応)する、標識された抗体を、標識用物質として用い得る。標的物質が抗体である場合には、標的物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する抗原を媒介用物質として用い、媒介用物質と特異的に結合(抗原抗体反応)する、標識された抗体を、標識用物質として用い得る。
【0094】
本実施形態の免疫測定用組成物をサンドイッチ方式に適用させる場合には、例えば、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物(担体に相当)に媒介用物質を物理的に吸着させ、固定支持体に吸着した免疫測定用組成物に吸着させた媒介用物質に標的物質を結合させ、媒介用物質に結合させた標的物質に、さらに標識用物質を結合させる。標的物質と結合する第2の抗原または抗体は、前述の通り、検出可能な標識された抗原または抗体を用いることが好ましい。
【0095】
本実施形態の免疫測定用組成物及び免疫測定用診断薬は、微細繊維状セルロースの水分散体を乾燥させたフィルムに、多価金属イオンを含む溶液を付着させることにより、微細繊維状セルロースの表面に多価金属イオンを接触後、余分な多価金属イオンを含む溶液を洗浄することにより、微細繊維状セルロースと多価金属イオンが架橋した免疫測定用組成物を得ることができる。また、微細繊維状セルロースと多価金属イオンを含む混合液を乾燥させたフィルムを作製することにより、微細繊維状セルロースと多価金属イオンが架橋した免疫測定用組成物を得ることができる。また、微細繊維状セルロースの水分散体をカルボジイミド化合物やスクシンイミド化合物と反応させ、活性エステルを生成後、ポリアミン化合物と反応させた混合液を乾燥させたフィルムを作製することにより、微細繊維状セルロースとポリアミン化合物が架橋した免疫測定用組成物を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態の免疫測定用組成物及び免疫測定用診断薬は、上記のアニオン変性微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているものに、上記(A)、(C)の反応、または、上記(A)、(B)、(C)の反応をさせることによって、アニオン変性微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているものに直接的または媒介用物質を介して標的物質が固定され、さらに、該標的物質に標識用物質が固定されたものとして製造し得る。また、本実施形態の免疫測定用組成物及び免疫測定用診断薬は、上記のアニオン変性微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているものに、上記(A)、(B)の反応をさせることによって、アニオン変性微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているものに直接的または媒介用物質を介して標的物質が固定されたものとして製造し得る。また、本実施形態の免疫測定用組成物及び免疫測定用診断薬は、上記(A)の反応をさせることによって、アニオン変性微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているものに直接的に標的物質が固定されたものとして製造し得る。また、本実施形態の免疫測定用組成物及び免疫測定用診断薬は、上記(A)の反応をさせることによって、アニオン変性微細繊維状セルロースが多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されているものに媒介用物質を固定されたものとして製造し得る。
【0097】
本実施形態の免疫測定用組成物および免疫測定用診断薬は、例えば、免疫測定用デバイスなどの、検査および診断デバイスやキットなどに用いることができる。
【0098】
次に、本実施形態の免疫測定用デバイスについて説明する。本実施形態の免疫測定用デバイスは、固定支持体と、本実施形態の免疫測定用組成物とを備え、前記固定支持体に前記免疫測定用組成物が物理的に吸着して形成されている。本実施形態の免疫測定用デバイスは、抗原-抗体や酵素-基質といった反応や認識機構を利用して、測定対象試料中の様々な標的物質を検出、計測するセンシングデバイスである。このセンシングデバイスの構成要素として、本実施形態の免疫測定用組成物を用いる。
【0099】
固定支持体としては、ウェル、プレート、チューブ、または、チップであることが好ましい。このようにすることにより、免疫測定の際、免疫測定し易くなる。固定支持体は、マイクロ流路またはキャピラリーを有していてもよい。固定支持体としては、より具体的には、例えば、マイクロウェルプレート等が挙げられる。
【0100】
本実施形態の免疫測定用デバイスとしては、例えば、固定支持体の表面に、本実施形態の免疫測定用組成物を付着させることによって作製される。本実施形態の免疫測定用組成物は、固定支持体に付着し得る程度の粘性を有している。よって、この粘性によって、本実施形態の免疫測定用組成物は、固定支持体に付着し得る。本実施形態の免疫測定用デバイスにおいては、固定支持体と免疫測定用組成物とが、被吸着用物質が吸着される担体として機能する。固定支持体に吸着され易いという点においても、前述したように、免疫測定用組成物において、例えば、100質量部の免疫測定用組成物に対するアニオン変性微細繊維状セルロースの含有量が、80~99.9質量部であることが好ましく、90~99質量部であることがより好ましく、95~98質量部であることがより好ましい。
【0101】
このように、固定支持体に吸着された本実施形態の多価金属イオンおよび/またはポリアミン化合物により架橋されている微細繊維状セルロースに、被吸着物質が物理的に吸着する反応(A)、及び、被吸着物質が媒介用物質である場合に、該媒介用物質にさらに標的物質が結合する反応(B)、及び、(A)、(B)の反応においてアニオン変性微細繊維状セルロースに直接的または間接的に吸着された標的物質に標識用物質を直接的または間接的に結合する反応(C)が生じること可能とする、免疫測定用デバイスが作製される。
【0102】
このように、本実施形態の免疫測定用デバイスに備えられた本実施形態の免疫測定用組成物に対して上記の反応が行われ、かかる反応の反応生成物として本実施形態の免疫測定用組成物及び免疫測定用診断薬が製造されてもよい。
【0103】
上記の通り、本実施形態の免疫測定用デバイスは、固定支持体と、本実施形態の免疫測定用組成物とを備え、前記固定支持体に前記免疫測定用組成物が物理的に付着されてなることによって、固定支持体に吸着された免疫測定用組成物に、さらに被吸着物質が吸着されたとき、かかる被吸着物質の構造安定性の低下を抑制し得る。
【0104】
本実施形態の免疫測定用組成物、免疫測定用診断薬及び免疫測定用デバイスは、上記の通りであるが、本発明の免疫測定用組成物、免疫測定用診断薬及び免疫測定用デバイスに特に限定されるものではなく、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0105】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
(使用試薬)
・アニオン変性微細繊維状セルロースの水分散体:
セルロースI型結晶構造を有する、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)の2質量%水分散体(第一工業製薬株式会社製の「レオクリスタI-2SX」)
数平均繊維径=4nm、数平均アスペクト比=280、アニオン性基量=1.9mmol/g
・フルオレセインイソチオイソシアネート(FITC):株式会社同仁化学研究所製のFluorescein-4-isothiocyanate(FITC-I)
・リゾチーム(Lyz、卵白由来):分子量=14,300Da、和光純薬工業株式会社製、卵白由来(Lysozyme,from Egg White)、等電点=11
・ウシ血清アルブミン(BSA):SIGMA-ALDRICH製のアルブミン、ウシ血清由来(Albumin from bovine serum)、等電点=4.7
・リン酸:ナカライテスク株式会社製
・ホウ酸:和光純薬工業株式会社製
・ホウ酸ナトリウム:和光純薬工業株式会社製
・酢酸:和光純薬工業株式会社製
・塩化カルシウム:和光純薬工業株式会社製
・水酸化ナトリウム:和光純薬工業株式会社製
・リン酸水素二ナトリウム:和光純薬工業株式会社製
・リン酸二水素カリウム:和光純薬工業株式会社製
・抗リゾチームポリクローナル抗体:Bioss製のAnti-LYSOZYME Polyclonal Antibody
・KPL Peroxidase-Labeled Antibody To Rabbit IgG:Seracare社製
【0107】
上記試薬は、特に精製せずに使用した。
【0108】
(使用機器)
・微量高速冷却遠心機MX-307(株式会社トミー精工)
【0109】
(実験例1)
[カルシウムイオンにより架橋した、またはカルシウムイオンにより架橋していないTOCNフィルムへのタンパク質(標的物質または媒介用物質に相当)の吸着評価]
(1)0.5質量%のTOCN水分散体の調製
容器に、2質量%のTOCN水分散体を5gと水15mLを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W-113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を10分間行うことによって混合し、0.5質量%のTOCN水分散体を調製した。
【0110】
(2)FITCで標識されたタンパク質(以下、「FITC標識タンパク質」とも呼ぶ)の調製
<FITCによるリゾチーム(Lyz、卵白由来)の標識>
・100mMのホウ酸緩衝液(pH9.2)の調製
100mMのH3BO3水溶液を100mLと、100mMのNa2B4O7・10H2O水溶液を300mL調製した。そして、H3BO3水溶液にNa2B4O7・10H2O水溶液を添加することによって、100mMのホウ酸緩衝液(pH9.2)を調製した。得られたホウ酸緩衝液を、4℃で保存した。
・FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)溶液の調製
得られたホウ酸緩衝液50mLに、リゾチーム(Lyz、卵白由来)を100mgとFITCを1mgとを加え、50mLのスクリュー管瓶内で、0℃で12時間撹拌することによって、FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)溶液を調製した。
・透析
FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)溶液をディスポーザブル透析カセットに入れ、1Lのイオン交換水中にて0℃で冷却しながら撹拌した。イオン交換水は2時間おきに3回交換し、一晩透析した。
・凍結乾燥
透析後のFITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)溶液をディスポーザブル透析カセットから回収し、2つに分けてそれぞれ50mLのナスフラスコに入れ、-78℃で5時間冷凍した後、遮光した状態で凍結乾燥を行った。その後、得られた粉末状のFITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)を回収することによって、FITC標識タンパク質を調製した。
【0111】
<FITCによるウシ血清アルブミン(BSA)の標識>
・500mMの炭酸緩衝液(pH9.5)の調製
500mMのNa2CO3溶液を60mL、500mMのNaHCO3溶液を500mL調整した。pH計を用いてpH9.5になるまでNa2CO3溶液にNaHCO3溶液を添加することにより、500mMの炭酸緩衝液(pH9.5)を調製した。得られた炭酸緩衝液は4℃で保存した。
・20mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液の調製
500mMの炭酸緩衝液40mLに、ウシ血清アルブミン800mgを加え、溶解させることによって、20mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液を調製した。得られた溶液を4℃で保存した。
・2mg/mLのFITC溶液の調製
500mMの炭酸緩衝液12mLに、FITCを24mg加え、溶解させることによって、2mg/mLのFITC溶液を調製した。得られた溶液を4℃で保存した。
・FITC標識ウシ血清アルブミンの調製
50mLスクリュー管瓶に、20mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液と2mg/mLのFITC溶液とを加え、0℃で12時間撹拌することによって、FITC-ウシ血清アルブミン溶液を得た。
・透析
FITC-ウシ血清アルブミン溶液をディスポーザブル透析カセットに入れ、1Lのリン酸緩衝液中にて0℃で冷却しながら撹拌した。リン酸緩衝液は2時間おきに3回交換し、一晩透析した。その後、さらにイオン交換水を用いて透析を行った。具体的には、1Lのイオン交換水中にて0℃で冷却しながら撹拌した。イオン交換水は2時間おきに3回交換し、1日透析した。
・凍結乾燥
透析後のFITC-ウシ血清アルブミン溶液をディスポーザブル透析カセットから回収し、2つに分けてそれぞれ50mLのナスフラスコに入れ、12時間冷凍保存した。翌日、遮光した状態で12時間凍結乾燥を行い、粉末状のFITC-ウシ血清アルブミンを回収することによって、FITC標識タンパク質を調製した。
【0112】
(3)緩衝液の調製
<40mMのBritton-Robinson緩衝液>
40mMのリン酸水溶液、40mMのホウ酸水溶液、40mMの酢酸水溶液、200mMの水酸化ナトリウム水溶液を下記に示すように調製した後、これらを混合することによって、40mMのBritton-Robinson緩衝液を調製した。具体的には、40mMのリン酸水溶液を50mLと、40mMのホウ酸水溶液を50mLと、40mMの酢酸水溶液を50mLとを混合した混合液を得た後、得られた混合液に、200mMの水酸化ナトリウム水溶液を少量ずつ滴下し、pHを4に調整することによって、Britton-Robinson緩衝液を得た。
・40mMのリン酸水溶液
リン酸を0.14mL計量した後、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水によってメスアップすることによって、40mMのリン酸水溶液を調製した。
・40mMのホウ酸水溶液
ホウ酸を0.123g計量した後、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水によってメスアップすることによって、40mMのホウ酸水溶液を調製した。
・40mMの酢酸水溶液
酢酸を0.12mL計量した後、50mLメスフラスコを用いてイオン交換水によってメスアップすることによって、40mMの酢酸水溶液を調製した。
・200mMの水酸化ナトリウム水溶液
水酸化ナトリウムを0.4g計量した後、50mLメスフラスコを用いて超純粋によってメスアップすることによって、200mMの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
【0113】
<50mMのリン酸緩衝液(pH7.4)>
50mMのリン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液を200mLと、50mMのリン酸水素二ナトリウム水溶液を600mLとを調製した。そして、リン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液に、リン酸水素二ナトリウム水溶液を添加することによって、50mMのリン酸緩衝液(pH7.4)を調製した。得られた緩衝液を4℃で保存した。
【0114】
(4)カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへのFITC標識タンパク質の吸着評価(後架橋)(実施例1)
<カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(後架橋)の作製>
0.5質量%のTOCN水分散体200μLを96ウェルプレートに入れ、50℃で一晩乾燥後、0.2質量%の塩化カルシウム水溶液を200μL加えた、その後、余分な塩化カルシウム水溶液を除去し、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(後架橋)を作製した。
<カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(後架橋)に吸着したFITC標識タンパク質の吸着量の測定>
FITC標識タンパク質を溶解した0.5mg/mLの各Britton-Robinson緩衝液200μLを96ウェルプレートに加えた後、室温で30分静置することによって、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(後架橋)にFITC標識タンパク質を吸着させた。
吸着後の上澄み液をマイクロピペットにより回収し、蛍光値を蛍光光度計(Bio-Rad製)で測定した。FITC標識タンパク質を溶解した0.5mg/mLのBritton-Robinson緩衝液の蛍光値も測定した。下記計算式により、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(後架橋)に吸着したFITC標識タンパク質の吸着率を算出した。
吸着率(%)=(Ca-Cb)/Ca×100
吸着量(mg)=吸着率(%)×0.1/100
Ca:FITC標識タンパク質を溶解した0.5mg/mLのBritton-Robinson緩衝液の蛍光値
Cb:上澄み液の蛍光値
【0115】
(5)カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへのFITC標識タンパク質の吸着評価(前架橋)(実施例2)
<カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(前架橋)の作製>
0.5質量%のTOCN水分散体5mLと0.2質量%の塩化カルシウム水溶液5mLとをビーカー内にて混合して架橋を行った混合液を調製後、その混合液200μLを96ウェルプレートへ滴下し、50℃で一晩乾燥させ、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(前架橋)を作製した。
<カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(前架橋)に吸着したFITC標識タンパク質の吸着量の測定>
各FITC標識タンパク質を溶解した0.5mg/mLのBritton-Robinson緩衝液200μLを、96ウェルプレートに加えて混合した後、室温で30分間静置することによって、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(前架橋)にFITC標識タンパク質を吸着させた。カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルム(前架橋)に吸着したFITC標識タンパク質の吸着量は上記と同様の方法により測定した。この結果を、以下の表1に示す。
【0116】
(6)カルシウムイオンにより架橋していないTOCNフィルムに吸着したFITC標識タンパク質の吸着量の測定(比較例1)
上記(4)のカルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへのFITC標識タンパク質の吸着評価(後架橋)(実施例1)において、塩化カルシウム水溶液を添加しないこと以外は、これと同様にして、操作を行い、カルシウムイオンにより架橋していないTOCNフィルムを作製した。カルシウムイオンにより架橋していないTOCNフィルムに吸着したFITC標識タンパク質の吸着量は、上記と同様の方法により測定を試みたが、FITC標識タンパク質を溶解した0.5mg/mLの各Britton-Robinson緩衝液200μLの添加により、カルシウムイオンにより架橋していないTOCNフィルムが膨潤、崩壊し、測定できなかった。この結果を、以下の表1に示す。
【0117】
(7)FITC標識タンパク質の吸着評価後のTOCNフィルムの状態の評価
FITC標識タンパク質の吸着評価後のTOCNフィルムの状態を目視で観察した。詳細には、吸着評価後のTOCNフィルムが膨潤や崩壊せず、吸着評価前の形態を保持しているものは耐久性があると判断して「〇」と標記し、吸着評価後のTOCNフィルムが膨潤または崩壊し、吸着評価前の形態を保持していないものは耐久性がないと判断して「×」と標記した。
【0118】
【0119】
表1に示すように、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムは、FITC標識タンパク質の吸着評価前の形態を保持して、FITC-リゾチームおよびFITC-ウシ血清アルブミンを吸着させた。この結果から、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムとタンパク質との相互作用により、物理的な結合を形成し、これによってカルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムにタンパク質が吸着することが示されたと考えられる。このように、標的物質または媒介用物質を、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムの表面に物理的に吸着させることが可能となることが示されたと考えられる。
【0120】
また、FITC標識タンパク質の吸着評価後のTOCNフィルムの状態において、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムは、カルシウムイオンにより架橋していないTOCNフィルムと比較して、膨潤や崩壊が認められなかった。この結果から、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムは、免疫測定用組成物として耐久性を有することが示されたと考えられる。
【0121】
(実験例2)
[ポリエチレンイミンにより架橋した、またはポリエチレンイミンにより架橋していないTOCNフィルムへのタンパク質の吸着評価]
(1)MES(4-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液
10mMのMES緩衝液を精製した。MES 0.976gを超純水500mLに混合した。この溶液に0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下しpH4.5に調整した。
【0122】
(2)0.25質量%のTOCNのMES緩衝液分散体の調製
容器に、2質量%のTOCN水分散体を5gとMES緩衝液35mLを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W-113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を10分間行うことによって混合し、0.25質量%のTOCNのMES緩衝液水分散体を調製した。
【0123】
(3)0.5質量%のポリエチレンイミン水溶液の調製
ポリエチレンイミン(SIGMA-ALDRICH製のPoly(ethyleneimine)solution average Mn ~1,200,average Mw ~1300 by LS,50 wt.% in H2O)1gと超純水99gをビーカーに計量後、混合することにより、0.5質量%のポリエチレンイミン水溶液を調製した。
【0124】
(4)ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムの作製(ポリエチレンイミン(PEI)に対するTOCNの質量比(TOCN/PEI=21))(実施例3)
0.25質量%のTOCNのMES緩衝液分散体4.12g(TOCNが0.0103g)gをビーカーに入れた後、粉末のEDC(カルボジイミド)を38.34mgと粉末のNHSを0.108gとを加え、25℃、1時間撹拌した。その後、0.5質量%のポリエチレンイミン水溶液を、0.1g(PEIが0.0005g)を加え、さらに25℃、1時間撹拌した。その後、ビーカーからファルコンチューブに容器を変え、28Hzの超音波処理を10分行い、15000rpm、30分の遠心分離を行った。上澄みを除去し、超純水を4 mL加え再懸濁を行うことにより、ポリエチレンイミンとTOCNとの混合液を調製した。96ウェルプレートに、0.25質量%のTOCN水分散体を60μL加え、50℃で1時間乾燥後、ポリエチレンイミンとTOCNとの混合液を140μL加え、50℃で一晩乾燥することにより、96ウェルプレート内でポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムを作製した。
【0125】
(5)ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムの作製(ポリエチレンイミン(PEI)に対するTOCNの質量比(TOCN/PEI=206))(実施例4)
0.5質量%のポリエチレンイミン水溶液を、0.01g(PEIが0.00005g)を加えること以外は、上記(4)と同様の方法により、96ウェルプレート内でポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムを作製した。
【0126】
(6)ポリエチレンイミンにより架橋していないTOCNフィルムの作製(PEIなし)(比較例2)
ポリエチレンイミンにより架橋していないTOCNフィルムは比較例1と同様の方法により作製した。
【0127】
(7)FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)のポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムへの吸着評価
FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)を溶解した0.5mg/mLのBritton-Robinson緩衝液200μLを、実施例3または実施例4のフィルムを有する96ウェルプレートに加えた後、室温で30分間静置することによって、ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムにFITC標識タンパク質を吸着させた。FITC標識タンパク質の吸着量は上記と同様の方法により測定した。この結果を、
図5に示す。実施例3のポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルム(ポリエチレンイミン(PEI)に対するTOCNの質量比(TOCN/PEI=21))へのFITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量は0.07mgであった。実施例4のポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルム(ポリエチレンイミン(PEI)に対するTOCNの質量比(TOCN/PEI=206))へのFITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量は0.07mgであった。
【0128】
(8)FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)のポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムを用いない場合の吸着評価(96ウェルプレートへのFITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価)(比較例3)
FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)を溶解した0.5mg/mLのBritton-Robinson緩衝液200μLを、96ウェルプレートに加えた後、室温で30分間静置することによって、96ウェルプレートにFITC標識タンパク質を吸着させた。FITC標識タンパク質の吸着量は上記と同様の方法により測定した。この結果を、
図5に示す。ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムを用いない場合のFITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量は0.011mgであった。
【0129】
(9)FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価後のTOCNフィルムの状態の評価
実施例3、実施例4、比較例2において作製したフィルムを用い、FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価後のTOCNフィルムの状態を目視で観察した。詳細には、吸着評価後のTOCNフィルムが膨潤や崩壊せず、吸着評価前の形態を保持しているものは耐久性があると判断して「〇」と標記し、吸着評価後のTOCNフィルムが膨潤または崩壊し、吸着評価前の形態を保持していないものは耐久性がないと判断して「×」と標記した。この結果を、表2に示す。
【0130】
【0131】
図5において、縦軸はFITC-リゾチームの吸着量を示し、横軸はポリエチレンイミン(PEI)に対するTOCNの質量比(TOCN/PEI)を示す。
【0132】
図5に示すように、PEIにより架橋したTOCNフィルムは、ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムを用いない場合と比較して、FITC-リゾチームの吸着量を向上させた。
【0133】
また、FITC-リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価後のTOCNフィルムの状態において、ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムは、ポリエチレンイミンにより架橋していないTOCNフィルムと比較して、膨潤や崩壊が認められなかった。この結果から、ポリエチレンイミンにより架橋したTOCNフィルムは、免疫測定用組成物として耐久性を有することが示されたと考えられる。
【0134】
(実験例3)
[免疫測定試験]
標的物質として、抗原としてのリゾチーム(卵白由来)を用い、1次抗体として、抗リゾチームポリクローナル抗体を用い、標識用物質として、2次抗体としてのKPL Peroxidase-Labeled Antibody To Rabbit IgGを用い、発光基質としてOPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)を用いた。なお、1次抗体、2次抗体、発光基質は、いずれも同日に精製したもの用い、発光基質は精製後一時間以内のものを用いた。
【0135】
(1)50mMのリン酸緩衝液の調製
50mMのリン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液、及び、50mMのリン酸水素二ナトリウム水溶液を調製した。50mMのリン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液に50mMのリン酸水素二ナトリウム水溶液を添加することによって、pHが7.4である50mMのリン酸緩衝液を調製した。水溶液は4℃で保存した。
【0136】
(2)1次抗体溶液の調製
1μg/1μLの1次抗体溶液(溶媒:50mMのリン酸緩衝液)40μLに50mMのリン酸緩衝液を3960μL加え、10倍希釈して0.01mg/mLの1次抗体溶液を調製した。
【0137】
(3)2次抗体溶液の調製
2次抗体0.1mgを、50mMのリン酸緩衝液100mLを用いて溶解し、0.001mg/mLの2次抗体溶液を調製した。
【0138】
(4)抗原(標的物質)溶液の調製
リゾチーム(卵白由来)を1.0mg測り、50mMのリン酸緩衝液を10mL、または100mL、または1000mL加えて、それぞれ、0.1mg/mL、0.01mg/mL、0.001mg/mLのリゾチーム(卵白由来)溶液を10mL調製した。
【0139】
(5)0.01mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液の調製
ウシ血清アルブミンを1.0mg測り、50mMのリン酸緩衝液を100mL加え、溶解させることによって、0.01mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液を調製した。得られた溶液を4℃で保存した。
【0140】
(6)0.018質量%TOCN水分散体の調製
容器に、2質量%TOCN水分散体を0.9gと水99.1mLを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W-113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を2時間行うことによって混合し、0.018質量%のTOCN水分散体を調製した。
【0141】
(7)1mg/mlの発光基質溶液の調製
リン酸水素二ナトリウム0.35gを超純水50mLに溶解し、0.05Mのリン酸水素二ナトリウム水溶液を調製した。クエン酸0.48gを超純水50mLlに溶解し0.05Mのクエン酸水溶液を調製した。調製したリン酸水素二ナトリウム水溶液にクエン酸水溶液を、pHが5になるまで滴下することにより、クエン酸ナトリウム緩衝液を調製した。OPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)を50mg測り、クエン酸ナトリウム緩衝液50mLに溶解させることにより、1mg/mlの発光基質溶液を調製した。
【0142】
(8)カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへの抗原(標的物質)の吸着、及び、吸着した抗原に対する1次抗体及び2次抗体の結合(実施例5)
0.018質量%のTOCN水分散体200μLを96ウェルプレートへ滴下した後、50℃で一晩乾燥させることにより、TOCNフィルムを形成した。乾燥後、1.8mol/Lの塩化カルシウム水溶液200μLを96ウェルプレートへ滴下した後、10秒間浸漬させた。浸漬後、滴下した塩化カルシウム水溶液を捨て、リン酸緩衝液を96ウェルプレートへ滴下し、その後、20秒静置した後に緩衝液を捨てることで洗浄を行った。この時、リン酸緩衝液は96ウェルプレートのウェルに入るだけ滴下した。このようにすることにより、架橋に使用されなかった塩化カルシウム及びTOCNを除去した。
【0143】
次に、各濃度の抗原溶液を200μLずつ異なるウェルに加え、35℃2時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、TOCNフィルムに抗原を吸着させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の抗原を除去した。次に、ブロッキングとして0.001mg/mlのBSAを200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃1時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、BSAをTOCNフィルムに吸着させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応のBSAを除去した。
【0144】
次に、0.01mg/mlの1次抗体溶液を200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃1時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、反応させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の1次抗体を除去した。その後、もう一度ブロッキングとして0.001mg/mlのBSAを200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃1時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、反応させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の1次抗体を除去した。
【0145】
次に、0.001mg/mlの2次抗体溶液を200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃1時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、反応させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の2次抗体を除去した。次に、1mg/mlの発光基質溶液を200μLずつ各ウェルに滴下しさらに各ウェルに過酸化水素を2μLずつ滴下後、50℃10分間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、反応させた。これによって、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムに抗原(標的物質)が吸着され、吸着された抗原に1次抗体が結合され、抗原に結合した1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体が得られた。
【0146】
(9)カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムを用いない場合の抗原(標的物質)の吸着、及び、吸着した抗原に対する1次抗体及び2次抗体の結合(比較例4)
上記(8)「カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへの抗原(標的物質)の吸着、及び、吸着した抗原に対する1次抗体及び2次抗体の結合」において、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムを用いないこと以外は、上記(8)と同じ操作を行った。これによって、96ウェルプレートに抗原(標的物質)が吸着され、吸着された抗原に1次抗体が吸着され、吸着された1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体が得られた。
【0147】
(10)蛍光測定による化学発光免疫測定
得られた各複合体について、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories製)を用い、吸光度を測定した。この結果を、以下の
図6に示す。なお、
図6の吸光度は、3回(n=3)測定した値の平均値である。
【0148】
図6から、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムにリゾチーム(卵白由来)を吸着させた試料の吸光度と、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムを用いずに吸着させた試料の吸光度と、の比較により、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムに標的物質の抗原が吸着し、さらに1次抗体と2次抗体が結合することにより、標的物質を定性的に検出できることが明示された。また、これらの吸光度と抗原のリゾチーム(卵白由来)の検量線との比較から、抗原の吸着量を定量できることが示された。また、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムを用いることにより、抗原の吸着量が向上し、標的物質の損失を抑制できることが示された。
【0149】
(実験例4)
[ポリ(エチレングリコール)ビス(アミン)により架橋したTOCNフィルムへのタンパク質の吸着評価]
【0150】
(1)0.30質量%のTOCNの水分散体の調製
容器に、2質量%のTOCN水分散体を0.75gと純水4.25mLとを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W-113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を10分間行うことによって混合することにより、0.30質量%のTOCNの水分散体を調製した。
【0151】
(2)1.0質量%のポリ(エチレングリコール)ビス(アミン)水溶液の調製
ポリ(エチレングリコール)ビス(アミン)(PEGBA)(SIGMA-ALDRICH製のポリ(エチレングリコール)ビス(アミン)、Mw20,000)0.1gと超純水9.9gとをビーカー内で混合することにより、1.0質量%のPEGBA水溶液を調製した。
【0152】
(3)ポリ(エチレングリコール)ビス(アミン)により架橋したTOCNフィルムの作製(PEGBAに対するTOCNの質量比(TOCN/PEGBA=1))
0.30質量%のTOCNの水液分散体5g(TOCNが0.015g)をビーカーに入れた後、粉末のEDC(カルボジイミド)を30mgと粉末のNHSを60mgとを加え、25℃で1時間撹拌した。その後、1.0質量%のPEGBA水溶液1.5g(PEGBAが0.015g)をビーカーに加え、さらに25℃で1時間撹拌した。その後、ビーカーからファルコンチューブに容器を変えた後、28Hzの超音波処理を60分行い、その後、15000rpmで20分の遠心分離を行った。そして、上澄みを除去した後、超純水を3mL加えて再懸濁を行った。その後、再度28Hzの超音波処理を60分行い、その後、15000rpmで20分の遠心分離を行った。さらに、上澄みを除去した後、超純水を3mL加えて再懸濁を行うことにより、PEGBAとTOCNとの混合液を調製した。その後、96ウェルプレートの各ウェルに上記混合液をそれぞれ200μL加えた後、50℃で一晩乾燥することにより、96ウェルプレート内でPEGBAによって架橋したTOCNフィルムを作製した。
【0153】
(4)カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムの作製
0.3質量%のTOCN水分散体8.3mLと0.2質量%の塩化カルシウム水溶液5mLとをビーカー内にて混合して架橋を行った混合液を調製後、その混合液200μLを96ウェルプレートの各ウェルへ滴下し、50℃で一晩乾燥させることにより、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムを作製した。
【0154】
(5)PEGBAにより架橋したTOCNフィルムへのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価(実施例6)
リゾチーム(Lyz、卵白由来)を溶解した0.1mg/mLのBritton-Robinson緩衝液200μLを、上記フィルムを有する96ウェルプレートに加えた後、室温で5時間静置することによって、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムにリゾチームを吸着させた。リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量はBradford法により測定した。この結果を、
図7に示す。PEGBAにより架橋したTOCNフィルム(PEGBAに対するTOCNの質量比(TOCN/PEGBA=1))へのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量は0.074mgであった。
【0155】
(6)カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価(実施例7)
リゾチーム(Lyz、卵白由来)を溶解した0.1mg/mLのBritton-Robinson緩衝液200μLを、上記フィルムを有する96ウェルプレートに加えた後、室温で5時間静置することによって、カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムにリゾチームを吸着させた。リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量はBradford法により測定した。この結果を、
図7に示す。カルシウムイオンにより架橋したTOCNフィルムへのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量は0.043mgであった。
【0156】
(7)TOCNフィルムを用いない場合の96ウェルプレートへのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価(96ウェルプレートへのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価)(比較例5)
リゾチーム(Lyz、卵白由来)を溶解した0.1mg/mLのBritton-Robinson緩衝液200μLを、フィルム無しの96ウェルプレートに加えた後、室温で5時間静置することによって、96ウェルプレートにリゾチームを吸着させた。リゾチームの吸着量はBradford法により測定した。この結果を、
図7に示す。TOCNフィルムを用いない場合のリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量は0.010mgであった。
【0157】
図7は、1ウェルあたりのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着量(mg)を示す図である。
図7に示すように、実施例6のPEGBAにより架橋したTOCNフィルムは、比較例5のTOCNフィルムを用いない場合(96ウェルプレートへのリゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着)と比較して、リゾチームの吸着量を向上させることが分かった。
【0158】
また、リゾチーム(Lyz、卵白由来)の吸着評価後のTOCNフィルムの状態において、実施例6のPEGBAにより架橋したTOCNフィルムは、膨潤や崩壊が認められなかった。この結果から、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムは、免疫測定用組成物として耐久性を有することが示されたと考えられる。
【0159】
(実験例5)
[免疫測定試験]
この免疫測定試験では、標的物質として、抗原としてリゾチーム(卵白由来)を用い、1次抗体として抗リゾチームポリクローナル抗体を用いた。また、標識用物質としての2次抗体としてKPL Peroxidase-Labeled Antibody To Rabbit IgGを用い、発光基質としてOPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)を用いた。なお、1次抗体、2次抗体、発光基質は、いずれも同日に精製したもの用いた。発光基質は精製後一時間以内のものを用いた。
【0160】
(1)50mMのリン酸緩衝液の調製
50mMのリン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液、及び、50mMのリン酸水素二ナトリウム水溶液を調製した。50mMのリン酸二水素ナトリウム・二水和物水溶液に、50mMのリン酸水素二ナトリウム水溶液を添加することによって、pHが7.4である50mMのリン酸緩衝液を調製した。水溶液は4℃で保存した。
【0161】
(2)1次抗体溶液の調製
1μg/1μLの1次抗体溶液(溶媒:50mMのリン酸緩衝液)40μLに50mMのリン酸緩衝液を1960μL加えることにより、50倍希釈した0.04mg/mLの1次抗体溶液を調製した。
【0162】
(3)2次抗体溶液の調製
2次抗体0.1mgを、50mMのリン酸緩衝液5mLに溶解させることにより、0.04mg/mLの2次抗体溶液を調製した。
【0163】
(4)抗原(標的物質)溶液の調製
リゾチーム(卵白由来)1.0mgと、50mMのリン酸緩衝液10mLとを混合することにより、0.1mg/mLのリゾチーム(卵白由来)溶液を10mL調製した。
【0164】
(5)0.04mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液の調製
ウシ血清アルブミン1.0mgと、50mMのリン酸緩衝液25mLとを混合することにより、0.04mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)溶液を調製した。得られた溶液は4℃で保存した。
【0165】
(6)0.03質量%TOCN水分散体の調製
容器に、2質量%TOCN水分散体0.75gと水4.25mLとを加えて密栓し、卓上型超音波洗浄機(W-113、本多電子株式会社製)を用いて28Hzの超音波処理を10分間行うことによって混合することにより、0.03質量%のTOCN水分散体を調製した。
【0166】
(7)1mg/mlの発光基質溶液の調製
リン酸水素二ナトリウム0.35gを超純水50mLに溶解させることにより、0.05Mのリン酸水素二ナトリウム水溶液を調製した。また、クエン酸0.48gを超純水50mLに溶解させることにより、0.05Mのクエン酸水溶液を調製した。調製したリン酸水素二ナトリウム水溶液にクエン酸水溶液を、pHが5になるまで滴下することにより、クエン酸ナトリウム緩衝液を調製した。OPD(o-phenylenediamine dihydrochloride)50mgを、クエン酸ナトリウム緩衝液50mLに溶解させることにより、1mg/mlの発光基質溶液を調製した。
【0167】
(8)PBGBAにより架橋したTOCNフィルムへの抗原(標的物質)の吸着、及び、吸着した抗原に対する1次抗体及び2次抗体の結合(実施例8)
0.30質量%のTOCNの水液分散体5g(TOCNが0.015g)をビーカーに入れた後、粉末のEDC(カルボジイミド)を30mgと粉末のNHSを60mgとを加え、25℃で1時間撹拌した。その後、1.0質量%のPEGBA水溶液1.5g(PEGBAが0.015g)をビーカーに加え、さらに25℃で1時間撹拌した。その後、ビーカーからファルコンチューブに容器を変え、28Hzの超音波処理を60分行った後、15000rpmで20分の遠心分離を行った。その後、上澄みを除去し、ファルコンチューブに超純水を3mL加えて再懸濁を行った。その後、再度28Hzの超音波処理を60分行った後、15000rpmで20分の遠心分離を行った。そして、上澄みを除去し、ファルコンチューブに超純水を3mL加えて再懸濁を行うことにより、PEGBAとTOCNとの混合液を調製した。そして、96ウェルプレートの各ウェルに、上記混合液をそれぞれ200μL加え、50℃で一晩乾燥することにより、96ウェルプレート内でPEGBAにより架橋したTOCNフィルムを作製した。その後、リン酸緩衝液を96ウェルプレートの各ウェルへそれぞれ250μL滴下した後、20秒静置した後に緩衝液を捨てることにより、洗浄を行った。
【0168】
次に、抗原(標的物質)溶液を各ウェルへ200μL加え、35℃5時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムに抗原を吸着させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の抗原を除去した。次に、ブロッキングとして0.04mg/mlのBSAを200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃3時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、BSAをTOCNフィルムに吸着させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応のBSAを除去した。
【0169】
次に、0.04mg/mlの1次抗体溶液を200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃16時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、1次抗体を反応させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の1次抗体を除去した。その後、もう一度ブロッキングとして0.04mg/mlのBSAを200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃3時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、反応させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の1次抗体を除去した。
【0170】
次に、0.04mg/mlの2次抗体溶液を200μLずつ各ウェルに滴下した後、35℃5時間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、2次抗体を反応させた。その後、上述の洗浄方法にて洗浄を3回行うことにより、未反応の2次抗体を除去した。次に、1mg/mlの発光基質溶液を200μLずつ各ウェルに滴下し、さらに各ウェルに過酸化水素を2μLずつ滴下後、50℃10分間50rpmの条件にて96ウェルプレートを撹拌することにより、反応させた。これによって、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムに抗原(標的物質)が吸着され、吸着された抗原に1次抗体が結合され、抗原に結合した1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体が得られた。
【0171】
(9)PEGBAにより架橋したTOCNフィルムへの1次抗体及び2次抗体の結合
抗原(標的物質)溶液を用いないこと以外は、上記(8)と同様の方法により、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムに1次抗体が結合され、1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体を作製した。
【0172】
(10)TOCNフィルムを用いない場合の抗原(標的物質)の吸着、及び、吸着した抗原に対する1次抗体及び2次抗体の結合(比較例6)
上記(8)においてTOCNフィルムを用いないこと以外は、上記(8)と同じ操作を行った。これによって、96ウェルプレートに抗原(標的物質)が吸着され、吸着された抗原に1次抗体が吸着され、吸着された1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体が得られた。
【0173】
(11)TOCNフィルムを用いない場合の1次抗体及び2次抗体の結合
抗原(標的物質)溶液を用いないこと以外は、上記(10)と同様の方法により、96ウェルプレートに1次抗体が結合され、抗原に結合した1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体を作製した。
【0174】
(12)吸光度測定による化学発光免疫測定
得られた各複合体について、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories社製)を用い、Bradford法により吸光度を測定した。この実験では、吸光度の変化量を用いた。具体的には、実施例8の場合、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムに抗原(標的物質)が吸着され、吸着された抗原に1次抗体が結合され、抗原に結合した1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体の吸光度から、上記(9)のPEGBAにより架橋したTOCNフィルムに1次抗体が結合され、1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体の吸光度を差し引いた。また、比較例6の場合、96ウェルプレートに抗原(標的物質)が吸着され、吸着された抗原に1次抗体が吸着され、吸着された1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体の吸光度から、上記(11)の96ウェルプレートに1次抗体が結合され、1次抗体にさらに2次抗体が結合された複合体の吸光度を差し引いた。
【0175】
図8は、実施例8と比較例6との吸光度変化量を示す図である。なお、
図8の吸光度は、3回(n=3)測定した値の平均値である。
図8の結果から、実施例8の吸光度変化量のほうが比較例6の吸光度変化量よりも大きいことが分かった。このことから、PEGBAにより架橋したTOCNフィルムを用いたほうが、このようなフィルムを用いない場合と比較して、標的物質の抗原がより多く吸着し、吸着された抗原に1次抗体が吸着され、吸着された1次抗体にさらに2次抗体が結合されるため、標的物質を感度良く、定性的に検出できることが分かった。
【0176】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。