(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】人形の眼球位置調整構造
(51)【国際特許分類】
A63H 3/40 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
A63H3/40
(21)【出願番号】P 2020145329
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】391053917
【氏名又は名称】株式会社オビツ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】尾櫃 充代
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一裕
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 宥乃
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-117254(JP,A)
【文献】特開平04-180791(JP,A)
【文献】特開2008-259886(JP,A)
【文献】特開2020-092791(JP,A)
【文献】特開2009-268626(JP,A)
【文献】特開昭56-080537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド内に配設される本体部と、前記本体部の前面に備えられ、眼球を保持する眼球保持部と、を含み、
前記眼球保持部は、
前記本体部の前面から突出する軸部と、
前記軸部を内装するとともに、前記軸部周りで動作可能に備えられ、前面側に眼球を保持する眼球受け部と、を含み、
前記軸部は第一の回転規制部を備え、
前記眼球受け部は、前記第一の回転規制部が摺動可能に嵌合して所定方向以外への回転動作が規制される第二の回転規制部
を備え、
前記第一の回転規制部は、前記軸部の先端にて十字状に突出形成され、
前記第二の回転規制部は、前記眼球受け部の内面にて、十字状に形成された前記第一の回転規制部が嵌合する位置に凹状に形成されていることを特徴とする人形の眼球位置調整構造。
【請求項2】
前記眼球は半球型で、
前記眼球受け部は前記半球型の眼球を受ける半球型に形成されており、
前記眼球受け部は、前記軸部の軸方向で前方に向けて付勢されていることを特徴とする請求項1に記載の人形の眼球位置調整構造。
【請求項3】
本体部は、ヘッドの内部空間に対して着脱可能に保持されると共に、前記ヘッドに対して着脱自在に保持される着脱操作部を備え、
前記着脱操作部は、弾性部材の復元力によって前記ヘッドの内面に圧接されることを特徴とする請求項1又は2に記載の人形の眼球位置調整構造。
【請求項4】
前記本体部は、前方に向けて突設したずれ防止部を備え、
前記ずれ防止部は、前記ヘッド内面の凹部に圧接されることを特徴とする請求項3に記載の人形の眼球位置調整構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球を人形の頭部(ヘッド)内に保持するとともに、その視線位置を任意に変更調整し得る人形の眼球位置調整構造に関する。
本発明において人形とは、眼球や髪の毛を備えたドールと称される完成された人形と、眼球も髪の毛もない裸体状態の素体人形と、のいずれをも含むものとする。
【背景技術】
【0002】
人形の目は、ヘッドの前面所定位置に直接印刷されるか、ヘッドの前面所定位置に貫通して設けたアイホール(目孔)に、ヘッド内部からドールアイと称される眼球が臨むように備えることによって形成されている。
【0003】
人形は、目の瞳孔の形状や虹彩によって、その表情が変わってくる。
特に眼球は、ガラス,アクリル,シリコンあるいはレジンなどからなり、瞳孔の形状や虹彩なども種々多様に形成でき、リアル感を出すことができ需要が多い。
従って、昨今は、眼球を用いたドールを購入する人や、素体に好みの眼球を備えてカスタマイズする人が多くなっている。
また、瞳孔の向き、すなわち、上下方向あるいは左右方向に瞳孔の向きを変えることによって視線に変化をつけたいというニーズのもと、眼球を自由に可動できるようにする構造を備えたものも提供されている(特許文献1)。
【0004】
例えば特許文献1には、顔の前方から眼球を可動させて視線位置を変更できるようにしている。具体的に説明すると、ヘッド内に設けたアイホールに筒状部材(目筒)を備え、その筒状部材内に眼球を挿入するとともに、後方からスプリングを介してアイホールの周縁に眼球を押圧させる構造である。すなわち、スプリングの弾発力に抗して顔の前方から眼球を指で押しつつ任意の方向に眼球を動かすことで視線位置を任意に選択し得る構造であって、その位置で指を話すことでスプリングの弾発力により眼球をアイホールの周縁に押圧させるものである。
【0005】
眼球には、正面から見て上下方向に伸びた楕円形状のいわゆる「猫目」タイプの虹彩を有するものもあり、例えばアニメキャラクタなどに多く採用されている。
しかし、特許文献1を含めこの種の従来技術にあっては、ほとんどのものが360度自由に眼球を回転可能とする構造を採用していたものであったため、この種の猫目タイプの虹彩を有する眼球の場合、需要者の意に反する動きをしてしまうことが多々あった。
すなわち、猫目タイプの眼球の場合にあっては、上下方向に伸びた楕円形状の虹彩であるため、この上下方向に伸びた楕円形状の虹彩形態が、例えば、斜め方向に伸びた楕円形状となったり、横方向に伸びた楕円形状となったりしたのでは、「猫目」形状の虹彩とならなくなり、需要者の興趣を損ねてしまうものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術の有する課題を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、視線変更をする際の眼球の動きに制限を与えて意に反した視線位置とならないようにした人形の眼球位置調整構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、第1の本発明が成した技術的手段は、ヘッド内に配設される本体部と、前記本体部の前面に備えられ、眼球を保持する眼球保持部と、を含み、
前記眼球保持部は、
前記本体部の前面から突出する軸部と、
前記軸部を内装するとともに、前記軸部周りで動作可能に備えられ、前面側に眼球を保持する眼球受け部と、を含み、
前記軸部は第一の回転規制部を備え、
前記眼球受け部は、前記第一の回転規制部が摺動可能に嵌合して所定方向以外への回転動作が規制される第二の回転規制部を備え、
前記第一の回転規制部は、前記軸部の先端にて十字状に突出形成され、
前記第二の回転規制部は、前記眼球受け部の内面にて、十字状に形成された前記第一の回転規制部が嵌合する位置に凹状に形成されていることを特徴とする人形の眼球位置調整構造としたことである。
【0009】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記眼球は半球型で、
前記眼球受け部は前記半球型の眼球を受ける半球型に形成されており、
前記眼球受け部は、前記軸部の軸方向で前方に向けて付勢されていることを特徴とする人形の眼球位置調整構造としたことである。
【0010】
第3の本発明は、第1の本発明又は第2の本発明において、本体部は、ヘッドの内部空間に対して着脱可能に保持されると共に、前記ヘッドに対して着脱自在に保持される着脱操作部を備え、
前記着脱操作部は、弾性部材の復元力によって前記ヘッドの内面に圧接されることを特徴とする人形の眼球位置調整構造としたことである。
【0011】
第4の本発明は、第3の本発明において、前記本体部は、前方に向けて突設したずれ防止部を備え、
前記ずれ防止部は、前記ヘッド内面の凹部に圧接されることを特徴とする人形の眼球位置調整構造としたことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、視線変更をする際の眼球の動きに制限を与えて意に反した視線位置とならないようにした人形の眼球位置調整構造を提供し得た。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を組み込んだ人形のヘッド部分を示す概略図で、ヘッドの蓋部を省略して示す。
【
図2】本実施形態の人形の眼球位置調整構造とヘッドとの分解図である。
【
図4】本実施形態の人形の眼球位置調整構造の正面図である。
【
図5】本実施形態の人形の眼球位置調整構造の背面図である。
【
図6】本実施形態の人形の眼球位置調整構造の側面図である。
【
図7】本実施形態の人形の眼球位置調整構造の底面図である。
【
図8】本実施形態の人形の眼球位置調整構造の平面図である。
【
図9】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を底面側から見た斜視図である。
【
図10】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を平面側から見た斜視図である。
【
図11】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を構成する本体部に備えられる着脱操作部の動きを仮装線にて示す側面図である。
【
図12】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を構成する眼球保持部の上下動状態を仮装線にて示す側面図である。
【
図13】(a)は本実施形態の人形の眼球位置調整構造を構成する眼球保持部の分解斜視図、(b)は眼球と眼球保持部との組み合わせ状態を一部断面して示す概略図である。
【
図14】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を構成する眼球保持部の概略図で、眼球の上下左右方向の動作を矢印にて示す。
【
図15】本実施形態の人形の眼球位置調整構造を構成する眼球保持部の概略図で、眼球の前後方向の動作を矢印にて示す。
【
図16】本実施形態の人形の眼球位置調整構造による眼球の動作を示す概略図であって、(a)は虹彩が上に向いた時の第一の回動規制部と第二の回動規制部との関係を示し、(b)は虹彩が下に向いた時の第一の回動規制部と第二の回動規制部との関係を示し、(c)は虹彩が右に向いた時の第一の回動規制部と第二の回動規制部との関係を示し、(d)は虹彩が左に向いた時の第一の回動規制部と第二の回動規制部との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る人形の眼球位置調整構造について、添付図面に基づいて説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施形態にすぎず、何等これに限定して解釈されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。また、本発明では、人形と称される全てのものを想定している。
【0016】
本実施形態の人形の眼球位置調整構造2は、ヘッド(人形用頭部)1の内部空間に対して着脱可能に保持される本体部3と、本体部3の前面に備えられ、眼球57を保持する眼球保持部27と、を含んで構成され、ヘッド1の内部空間内に収容可能である(
図1乃至
図3参照。)。なお、図面では、ヘッド1の開口1aを覆うようにして嵌める蓋部については図示省略している。また、ヘッドについては特に限定解釈されるものではないが、一部が着脱自在な蓋部として機能する形態のものを想定している。
【0017】
本体部3は、ヘッド1の内部空間に挿入可能な外径及び厚みで形成される円筒部5と、円筒部5の側面5aに備えられる着脱操作部9及びずれ防止部21とで構成され、円筒部5の前面5bに眼球保持部27が備えられている(
図3乃至
図10参照。)。なお、本体部3は円筒状に限定されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
また、本実施形態では、着脱操作部9,9を向備えた上下方向位置と直交する左右方向位置の側面5aの所定位置に、ヘッド1の開口縁に係止可能な係止片部19,19を突設している(
図4乃至
図10参照。)。
【0018】
着脱操作部9は、円筒部5の側面5aにおける所定位置、例えば本実施形態では、円筒部5の側面5aにおける相対向する上下方向(図中矢印H1にて示す方向)の位置にて一つずつ配設されている(
図4乃至
図11参照。)。
本実施形態では、円筒部5の側面5aの相対向する任意の位置から、それぞれ中心軸方向に向けて穿孔形成した摺動孔7内に挿入される移動軸部13と、移動軸部13の先端に一体に設けられる押圧部15と、で構成される可動保持部11と、摺動孔7内に配されて当該可動保持部11を常時外方に向けて押し出すように付勢する弾性部材(図示省略)とで構成されている。
なお、本実施形態では上下位置に一つずつ配設した形態を想定しているが、着脱操作部9は、一つで眼球位置調整構造をヘッド1内に保持可能な構成であればその配設数量に限定されるものではなく、一つでも三つ以上であっても構わない。また、弾性部材は本実施形態においては一般的なコイルバネを想定しているが、これに限定解釈されず所定の弾性力を有する者であれば本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0019】
着脱操作部9は、弾性部材の弾性に抗して押圧した状態で、上下の可動保持部11,11のそれぞれの押圧部15,15の外面間の距離L2が、ヘッド1の開口径D1よりも短く、かつ押圧力を解除した際に弾性部材の復元力によってそれぞれの押圧部15,15の外面15a,15a間の距離L1がヘッド1の開口径D1よりも長くなり、押圧部15,15がヘッド1内面を押圧する程度の長さとなるように設計されている(例えば
図2,
図3,
図6,
図11参照。)。
このとき、移動軸部13は、弾性部材を押圧した際に摺動孔7内に収容され、弾性部材の弾性によって外方に向けて移動した際に摺動孔7から離脱して抜け落ちないような抜け落ち防止構造(図示省略)を採用している。抜け落ち防止構造は特に限定されるものではなく、例えば、図示は省略するが、摺動孔7の内面に縦溝部を設け、移動軸部13側には縦溝部に係止されてスライド移動可能な摺動突部を備えてなるものなどであってもよく本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0020】
押圧部15は、どのような形態であっても本発明の範囲内であるが、本実施形態では、外面(上面)15aをヘッド1内面に沿うR状に形成しているものとして、ヘッド1内面に圧接した際の密着力を高めるようにしている。また、内面(底面)15bは、押圧時において、円筒部5の側面5aに沿うR状に形成している(
図4乃至
図10参照。)。
【0021】
よって、着脱操作部9は、弾性部材の復元力によってヘッド1の内面に圧接され、そして、弾性部材の弾性に抗して可動保持部11を円筒部5の側面5a方向に押し戻してヘッド1内への圧接状態を解除することにより、ヘッド1内から取り外すことができるため、着脱操作が容易である。
【0022】
ずれ防止部21は、円筒部5の側面5aから前方に向けて突設した、湾曲状の細薄板部材からなり、ヘッド1前面に突設される鼻部に対応するヘッド1内面の凹部1cに、その湾曲した板部材の弾性を利用して圧接されることで眼球位置調整構造2全体の左右方向への回り防止を図るものである。
【0023】
本実施形態では、上方に配設される着脱操作部9の押圧部15の外面15aと略面一状に嵌め込み固定した基端部23と、当該基端部23から下り傾斜状に形成された細幅で薄肉の弾性圧接板部25とからなる。
弾性圧接板部25は、外方に向けて湾曲した第一湾曲部25aと、当該第一湾曲部25aから連続するとともに内方に向けて湾曲したのち外方に向けて延設してなる第二湾曲部25bと、を含んで構成されている(
図2乃至
図12参照。)。
【0024】
なお、本実施形態では、第一湾曲部25aと第二湾曲部25bとからなる湾曲した板部材の弾性を利用してヘッド1内面に圧接する構成を採用しているが、板バネやコイルバネあるいはゴム部材などの弾性部材を用いて所定形状に形成したずれ防止部をヘッド1内面に圧接する形態を採用することも可能で、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0025】
眼球保持部27は、本体部3の円筒部5の前面5bから前方(図中矢印F1で示す方向)に向けて突出する軸部43と、軸部43を内装するとともに、軸部43周りで動作可能に備えられ、前面側に眼球57を保持する眼球受け部59と、を含んで構成されている(
図13及び
図15参照。)。眼球保持部27は、左右に所定間隔をあけて左目用と右目用とで2個並設されている。
また、本実施形態では、眼球保持部27が上下方向(図中矢印H1にて示す方向)に回動可能なように、軸部43の基端側43bを取付固定する上下回動受け部29を採用し、上下回動受け部29を本体部3の円筒部5の前面5bにて回動自在に軸支するものとしている(
図12参照。)。
【0026】
上下回動受け部29は、円筒状に形成するとともに、先端側を大径に開口した中空筒状に構成してばね受け部31を兼ねるとともに、後端側を小径に開口して軸部43の基端側43bをねじ止め固定するねじ止め孔33を形成している。また、内底面には、ばね受け部31と連通して軸部43の基端側43bを挿通して固定する軸固定部35を設けており、軸固定部35は、その内面に、軸部43の回り止めを図るため平坦面35aを設けている。ねじ止め孔33は、軸固定部35と連通している(
図13参照。)。
また、上下回動受け部29は、側面に回動軸37を突設するとともに、回動軸37の先端にはねじ孔39が穿設されている。そして、本体部3の円筒部5の前面5bにて、前方(図中矢印F1にて示す方向)に向けて突設した軸支片5cの軸支孔5dに回動軸37を摺動可能に挿通するとともにねじ41にて軸支される(
図6及び
図13参照。)。なお、軸支片5cの前方(図中矢印F1にて示す方向)への突出形態は図示例に限定されず本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0027】
軸部43は、先端側にストッパ部43aを設けた所定長さの細棒状に形成するとともに、基端側43bの端面にねじ孔43cを穿設して構成され、第一の回転規制部47、摺動椀部53、弾性部材(ばね部材)55を、軸部43の外周に遊びをもたせて外装している(
図13参照。)。
ストッパ部43aは、半球状に形成し、第一の回転規制部47の通孔49よりもわずかに大径に形成して第一の回転規制部47の抜け止め防止を図っている(
図16参照。)。
また、基端側43bの外周面に平坦面43dを設け、上下回動受け部29における軸固定部35の内面の平坦面35aと接して回り止め効果を奏するとともに、上下回動受け部29のねじ止め孔33と軸部43のねじ孔43cとにわたってねじ45によって連結固定する(
図16参照。)。
【0028】
第一の回転規制部47は、それぞれ90度間隔で上下方向(図中H1の方向)と左右方向(図中W1の方向)に突設した4個の突起部(第一突起部47a、第二突起部47b、第三突起部47c、第四突起部47d)にて十字状に突出構成されており、第一突起部47a乃至第四突起部47dは、それぞれ外周面を先端側から基端側に向けて下り傾斜状に湾曲させて形成された摺動面51を設けている。また、第一の回転規制部47の中心、すなわち、第一突起部47a乃至第四突起部47dの中心には、先端側から後端側にわたって、軸部43が挿通される通孔49が穿設されている(
図13及び
図16参照。)。
【0029】
摺動椀部53は、先端側53aが大径で後端側53bが小径に形成された椀状に形成されており、その大径の先端側53aが開口されて眼球受け部59の半球状の後面側53bの外面を摺動可能に受けている。摺動腕部53の後端側53bには、内部空間に貫通した軸孔53cを設けており、この軸孔53cに軸部43が挿通される(
図13参照。)。
【0030】
弾性部材(ばね部材)55は、眼球受け部59(眼球57)を軸部43の軸方向で前方(図中矢印F1で示す方向)に向けて付勢するもので、本実施形態では、上下回動受け部29のばね受け部31内に収容され、軸部43の外周に外装されて摺動腕部53の後端側53bの面部に当接可能なコイルスプリングが想定されている(
図13及び
図15参照。)。
本実施形態によれば、弾性部材55によって、眼球57は、常時、ヘッド1内のアイホール1dに押し付けられている状態となる(
図1参照。)。なお、弾性部材55は、板バネあるいはゴムなどからなるものであってもよい。
【0031】
眼球57は、半球型でその表面側に虹彩57aが設けられており、裏面側が開口された中空(ドーム状)に形成されている。裏面側の開口縁部57bの内面には、径方向で内側に向かって僅かに突出する係止用突部57c,57cが2つ相対向する位置に設けられている。眼球57の材質や虹彩57aは特に限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で設計変更可能である(
図13及び
図16参照。)。
【0032】
眼球受け部59は、最大径を有する前面側59aを大きく開口した中空の半球型に形成するとともに、後端側59bに小径の開口部(貫通孔)59cを形成している。
眼球受け部59と眼球57のそれぞれの最大径の開口同士は同一径であって、眼球57の開口縁部57bの内面が外嵌め可能な突出片部61が前面側の開口に周設されている。本実施形態では、突出片部61が複数個に分離形成されている(
図13及び
図16参照。)。
後端側59bの開口部(貫通孔)59cは、軸部43が遊動可能に、当該軸部43よりも大径の長孔状に形成されている。
【0033】
眼球受け部59の内面は、前面側59aの開口側から後端側59bに行くにしたがって小径となる球面状に形成されるとともに、第一の回転規制部47が摺動可能に嵌合して眼球受け部59の所定方向以外への回転動作を規制する第二の回転規制部63が形成されている(
図13及び
図16参照。)。
【0034】
突出片部61は、眼球受け部59の前面側59aの外径から径方向で内側に僅かに入り込んだ位置に設けられ、それぞれの突出片部61の内面は、眼球受け部59の内面と連続してR状に設けられている。すなわち、突出片部61の内面、眼球受け部59の内面は、第一の回転規制部47の第一突起部47a乃至第四突起部47dのそれぞれの摺動面51が摺動可能なR状に湾曲形成されている。
【0035】
突出片部61は、本実施形態では、第1突出片部65、第2突出片部67、第3突出片部69、第4突出片部71、第5突出片部73、第6突出片部75、第7突出片部77、及び第8突出片部79に分離形成されている。第1突出片部65と第2突出片部67と第3突出片部69とのそれぞれの内面で、第一突起部47aが摺動可能な凹状部81が構成され、第4突出片部71の内面は、第二突起部47bが摺動可能な凹状部83が構成され、第5突出片部73と第6突出片部75と第7突出片部77とのそれぞれの内面で、第三突起部47cが摺動可能な凹状部85が構成され、第8突出片部79の内面は、第四突起部47dが摺動可能な凹状部87が構成されている。すなわち、本実施形態によれば、これら4つの凹状部81,83,85,87によって第二の回転規制部63が構成されている(
図13及び
図16参照。)。
【0036】
従って、十字状に構成される第一の回転規制部47の第一突起部47a乃至第四突起部47dに、第二の回転規制部63を構成している眼球受け部59のそれぞれの凹状部81乃至87が摺動可能に嵌合する構成を採用しているため、眼球受け部59(眼球受け部59に嵌った眼球57)は、十字方向、すなわち、眼球57を正面から見て上下方向H1と左右方向W1にしか回転移動しないように規制している(
図14及び
図16参照。)。
なお、それぞれの凹状部81乃至87は、第一突起部47a乃至第四突起部47dよりも多少大きく(幅広)形成され、第一の回転規制部47が上下左右方向に移動する際に多少斜めに移動させることも可能に構成されている。
【0037】
第4突出片部71と第8突出片部79の外側面には、眼球57の係止用突部57c,57cが嵌る係止用凹部71a,79aが設けられ、係止用突部57c,57cが係止用凹部71a,79aに嵌ることによって眼球57と眼球受け部59とが一体化される(
図13及び
図16参照。)。
このとき、第1突出片部65乃至第3突出片部69、及び第5突出片部73乃至第7突出片部77がそれぞれ分離形成されている構成を採用しているため、眼球57を眼球受け部59に嵌めて一体化させる際に、第1突出片部65乃至第3突出片部69、及び第5突出片部73乃至第7突出片部77が、その弾性に抗して中心軸方向に撓みむため眼球57の嵌め込み作業が容易である。
【0038】
本実施形態のように、眼球57(眼球受け部59)の回転を規制する構成(第一の回転規制部47と第二の回転規制部63)を備えていない従来技術の場合、視線位置を上下左右方向に変更しようとした場合、虹彩の向きが変わってしまう等、眼球が意に反した方向に回転移動してしまう場合がある。そのような回転移動が生じてしまうと、本来あってはいけない位置に虹彩が位置してしまうといった状況が生じてしまう。特に、「猫目」と称される形状の虹彩を採用している眼球にあっては、「猫目」形状の虹彩とならなくなり、需要者の興趣を損ねてしまう虞がある。
本実施形態によれば、上述の通り、眼球57は、眼球受け部59の第二の回転規制部63を構成しているそれぞれの凹状部81,83,85,87に、第一の回転規制部47の第一突起部47a,第二突起部47b,第三突起部47c,第四突起部47dが摺動可能に嵌合されているため、人形の眼球を可動させて視線位置を変化させたいと欲した場合には、次のように動作可能である。
【0039】
まず、ヘッド1の外方(顔の正面側)から、弾性部材の弾性に抗して眼球57を後方(
図1及び
図15にて矢印B1で示す方向)に向けて押圧すると、眼球57の表面がヘッド1のアイホール1dから離間する。
そして、その状態から、例えば、視線を上の方向に向けたい場合には、眼球57を上方に押し上げるように回転移動させると、眼球57と一体化された眼球受け部59に設けられている第二の回転規制部63のそれぞれの凹状部81,83,85,87が、第一の回転規制部47の第一突起部47a,第二突起部47b,第三突起部47c,第四突起部47dに沿って上方に向けて摺動するため、虹彩57aの位置を変えることなく視線位置を上向きに変更することができる(
図16(a))。
次に、視線を下の方向に向けたい場合には、眼球57を下方に押し下げるように回転移動させると、眼球57と一体化された眼球受け部59に設けられている第二の回転規制部63のそれぞれの凹状部81,83,85,87が、第一の回転規制部47の第一突起部47a,第二突起部47b,第三突起部47c,第四突起部47dに沿って下方に向けて摺動するため、虹彩57aの位置を変えることなく視線位置を下向きに変更することができる(
図16(b))。
次に、視線を右の方向に向けたい場合には、眼球57を右方向に横移動(回転移動)させると、眼球57と一体化された眼球受け部59に設けられている第二の回転規制部63のそれぞれの凹状部81,83,85,87が、第一の回転規制部47の第一突起部47a,第二突起部47b,第三突起部47c,
第四突起部47dに沿って右方向に向けて摺動するため、虹彩57aの位置を変えることなく視線位置を右向きに変更することができる(
図16(c))。
そして次に、視線を左の方向に向けたい場合には、眼球57を左方向に横移動(回転移動)させると、眼球57と一体化された眼球受け部59に設けられている第二の回転規制部63のそれぞれの凹状部81,83,85,87が、第一の回転規制部47の第一突起部47a,第二突起部47b,第三突起部47c,第四突起部47dに沿って左方向に向けて摺動するため、虹彩57aの位置を変えることなく視線位置を左向きに変更することができる(
図16(d))。
【0040】
なお、本実施形態では、突出片部61を、第1突出片部65、第2突出片部67、第3突出片部69、第4突出片部71、第5突出片部73、第6突出片部75、第7突出片部77、及び第8突出片部79に分離形成した実施の一形態をもって説明したが、分割数は限定解釈されるものではない。
また、突出片部61は分割形成されず連続した一体形成されたものであってもよく、その内面に4つの凹状部81,83,85,87からなる第二の回転規制部63が構成されているものであってもよい。
さらに、本実施形態では、4つの第一突起部47a乃至第四突起部47dからなる第一の回転規制部47と、4つの凹状部81乃至87からなる第二の回転規制部63と、からなる回転規制構造を想定しているが、第一の回転規制部47と第二の回転規制部63との組み合わせ数はは特に限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内において適宜設計変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、玩具や鑑賞用の人形の他、美術品としての人形やマネキン人形なども含み、さらには大きさを問わずディスプレイ人形なども対象であってそのサイズの大小や仕様など問わず広く利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ヘッド
2 眼球位置調整構造
3 本体部
27 眼球保持部
43 軸部
47 第一の回転規制部
57 眼球
59 眼球受け部
63 第二の回転規制部