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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】多層チューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 1/08 20060101AFI20240910BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240910BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240910BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20240910BHJP
   B29B 11/12 20060101ALI20240910BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B32B1/08 B
B32B27/30 D
B32B5/18
C08J9/00 A CEW
B29B11/12
F16L11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020147752
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042349
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】長内 弘一
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001441(JP,A)
【文献】特開2000-033245(JP,A)
【文献】特開平10-202074(JP,A)
【文献】特開平10-337405(JP,A)
【文献】特開平03-179038(JP,A)
【文献】米国特許第05064593(US,A)
【文献】特開平10-144604(JP,A)
【文献】特開平04-031443(JP,A)
【文献】特開2012-154717(JP,A)
【文献】特開2010-167676(JP,A)
【文献】特開平07-278331(JP,A)
【文献】特開昭58-145735(JP,A)
【文献】特開昭52-077181(JP,A)
【文献】特開昭63-041544(JP,A)
【文献】特開平05-057778(JP,A)
【文献】実開平01-096593(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00- 9/42
B29B 7/00-11/14、13/00-15/06
B29C 31/00-31/10、37/00-37/04
B29C 71/00-71/02
F16L 9/00-11/26
B01D 53/22、61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1混和物と、前記第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有する第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2混和物とを準備することと、
前記第1混和物及び前記第2混和物を予備成形してタブレットを得ることと、
前記タブレットをペースト押出し成形して未焼成チューブを得ることと、
前記未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることと
を含む多層チューブの製造方法であって、
前記予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、前記シリンダの前記底部を貫通するマンドレルとを用いて行われ、
前記シリンダの内壁と前記マンドレルの外壁との間にパイプを挿入することと、
前記パイプと前記シリンダの内壁との間に前記第2混和物を充填することと、
前記第2混和物を圧縮して筒状の第2混和物を形成した後、前記パイプを抜き取ることと、
前記マンドレルの外壁と前記筒状の第2混和物との間に前記第1混和物を充填することと、
前記第1混和物及び前記筒状の第2混和物を圧縮成形して、前記タブレットを得ることと
を含む
充実構造を有し、前記第1ポリテトラフルオロエチレンを含む内層と、
多孔質構造を有し、前記第2ポリテトラフルオロエチレンを含む外層とを含み、
前記外層は、前記内層の外周面全体と一体化するように形成されており、
前記内層の気孔率は、前記外層の気孔率と比較して低い多層チューブの製造方法。
【請求項2】
第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1混和物と、前記第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有する第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2混和物とを準備することと、
前記第1混和物及び前記第2混和物を予備成形してタブレットを得ることと、
前記タブレットをペースト押出し成形して未焼成チューブを得ることと、
前記未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることと
を含む多層チューブの製造方法であって、
前記予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、前記シリンダの前記底部を貫通するマンドレルとを用いて行われ、
前記シリンダの内壁と前記マンドレルの外壁との間にパイプを挿入することと、
前記マンドレルの外壁と前記パイプとの間に前記第1混和物を充填することと、
前記第1混和物を圧縮して筒状の第1混和物を形成した後、前記パイプを抜き取ることと、
前記筒状の第1混和物と前記シリンダの内壁との間に前記第2混和物を充填することと、
前記筒状の第1混和物及び前記第2混和物を圧縮成形して、前記タブレットを得ることと
を含む
充実構造を有し、前記第1ポリテトラフルオロエチレンを含む内層と、
多孔質構造を有し、前記第2ポリテトラフルオロエチレンを含む外層とを含み、
前記外層は、前記内層の外周面全体と一体化するように形成されており、
前記内層の気孔率は、前記外層の気孔率と比較して低い多層チューブの製造方法。
【請求項3】
前記第1ポリテトラフルオロエチレンは変性モノマー単位を含む請求項1又は2に記載の多層チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐薬品性及び耐熱性に優れるPTFEチューブとして、充実構造のPTFEからなる内層と、この内層上に巻きつけられた多孔質構造のPTFEフィルムからなる外層とを備えるPTFEチューブが知られている。PTFEチューブは、液体に溶存する酸素などの気体を脱気する用途で使用されることがある。このようなPTFEチューブは、例えば、外層を内層上にらせん状に巻きつけて製造されるため、隙間無く外層を積層させるために、外層上に更に外層が積層された部分(段差)が存在する場合がある。
【0003】
多孔質構造の外層を備えたPTFEチューブは、可撓性に優れており、小さい曲げ半径でもキンクしにくい。しかしながら、上記の段差が存在していると、その部分が耐久性に悪影響を与える可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-001630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、柔軟性及び耐久性に優れ、高い脱気性能を有する多層チューブ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明よると、多層チューブの製造方法が提供される。多層チューブは、第1ポリテトラフルオロエチレンを含む内層と、第2ポリテトラフルオロエチレンを含む外層とを含む。外層は、内層の外周面全体と一体化するように形成されている。内層の気孔率は、外層の気孔率と比較して低い。
【0007】
上記の多層チューブの製造方法は、第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1混和物と、第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有する第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2混和物とを準備することと、第1混和物及び第2混和物を予備成形してタブレットを得ることと、タブレットをペースト押出し成形して未焼成チューブを得ることと、未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることとを含む。
【0008】
予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、シリンダの底部を貫通するマンドレルとを用いて行われ、シリンダの内壁とマンドレルの外壁との間にパイプを挿入することと、パイプとシリンダの内壁との間に第2混和物を充填することと、第2混和物を圧縮して筒状の第2混和物を形成した後、パイプを抜き取ることと、マンドレルの外壁と筒状の第2混和物との間に第1混和物を充填することと、第1混和物及び筒状の第2混和物を圧縮成形してタブレットを得ることとを含む。
【0009】
又は上記の多層チューブの製造方法は、第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1混和物と、第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有する第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2混和物とを準備することと、第1混和物及び第2混和物を予備成形してタブレットを得ることと、タブレットをペースト押出し成形して未焼成チューブを得ることと、未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることとを含む。
【0010】
予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、シリンダの底部を貫通するマンドレルとを用いて行われ、シリンダの内壁とマンドレルの外壁との間にパイプを挿入することと、マンドレルの外壁とパイプとの間に第1混和物を充填することと、第1混和物を圧縮して筒状の第1混和物を形成した後、パイプを抜き取ることと、筒状の第1混和物とシリンダの内壁との間に第2混和物を充填することと、筒状の第1混和物及び第2混和物を圧縮成形してタブレットを得ることとを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、柔軟性及び耐久性に優れ、高い脱気性能を有する多層チューブ、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る多層チューブの一例を概略的に示す断面斜視図。
図2】内部灌流方式により多層チューブの脱気試験を行う場合の装置構成の一例を示す概略図。
図3】実施形態に係る多層チューブの製造方法の一例を示す工程図。
図4】実施例に係る多層チューブの断面を示す走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像。
図5】比較例に係るチューブの断面を示すSEM画像。
図6】実施例に係る多層チューブの断面を、SEMを用いて観察している様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0014】
PTFEチューブは、半導体製造、食品製造、自動車製造及び医療などの種々の産業分野において、チューブ内に流体を流す用途で使用されている。PTFEチューブは高い耐薬品性を有しているため、チューブに起因した流体の汚染を最小限に抑えることが可能である。チューブ内に液体を流すのに伴い、液体に溶存する気体の脱気が求められる場合がある。溶存気体を脱気する際は、具体的には、チューブの外側を真空とすることで、チューブ内外に存在する気体の分圧差を利用し、チューブ内を流れる液体に溶存している気体をチューブ外に取り出す。そのため、この用途で使用されるPTFEチューブには、チューブ壁面を液体が透過せず、気体のみが透過する性能が求められる。
【0015】
気体透過性を高めるためには、PTFEチューブにおける充実層の厚みを薄くする必要がある。しかしながら、従来行われているペースト押出しでのPTFEチューブ製造では、チューブ厚みを過度に薄くしようとすると、焼成の際にひび割れが生じるなどの欠陥が起こる。そのため、ペースト押出しにより充実層を大幅に薄くすることは困難であった。
【0016】
一方で、ペースト押出し以外の方法により、予め、厚みの薄いPTFEチューブを製造しておく場合、チューブに柔軟性及び耐キンク性を付すために、後工程にて、多孔質構造を有する外層などを積層する必要がある。そのような積層品は、上述したように耐久性に難がある場合がある。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態によると、多層チューブが提供される。実施形態に係る多層チューブは、ペースト押出しに使用する予備成形体としてのタブレットを製造する際に、タブレットの内層側を多孔化しにくいPTFE樹脂で構成し、タブレットの外層側を多孔化しやすいPTFE樹脂で構成することを含む方法で製造される。このような2種類のPTFE樹脂を含むタブレットを用いると、1度のペースト押出しのみで、厚みが薄く且つ充実構造を有する内層と、多孔質構造を有する外層とが一体化した多層チューブを製造することができる。内層と外層とは互いに気孔率が異なっており、内層の気孔率は外層の気孔率と比較して低い。
【0018】
チューブ全体が充実構造である場合と異なり、実施形態に係る多層チューブは多孔質構造を有する外層を有している。外層が存在する分、充実構造を有する内層の厚みは薄くなる。そのため、実施形態に係る多層チューブは高い脱気性能を有している。また、外層は内層上に後付けされたものではなく、1度のペースト押出しにより内層と共に一体に押し出されて形成される。つまり、内層と外層との境界は実質的には存在せず、内層及び外層は一体化されている、或いは、これらは一続きに形成されている。そのため、屈曲に対する耐久性が高い。加えて、外層は多孔質構造を有しているため、この多層チューブは柔軟性及び耐キンク性にも優れている。
【0019】
以下、実施形態に係る多層チューブを、図面を参照しながら説明する。
図1は、多層チューブの一例を概略的に示す断面斜視図である。多層チューブは、内層及び外層の2層構造を有する二層チューブであり得る。
【0020】
多層チューブ1は、充実構造を有する内層2と、多孔質構造を有する外層3とを含む。内層2、外層3、及びこれらで構成される多層チューブ1は、いずれも環状円柱形状を有している。内層2及び外層3は、いずれも、多層チューブ1の底面から上面まで伸びている。外層3の内周面は、内層2の外周面と接している。外層3は、内層2の外周面全体と一体化するように形成されている。なお、図1においては、便宜的に内層2と外層3との境界線を示しているが、実際にはこの境界線は明確には存在していない。このことは、実施例に係る多層チューブの断面SEM画像を示す図4を参照しながら後述する。
【0021】
内層2の気孔率は、外層3の気孔率と比較して低い。それ故、多層チューブ1全体が充実構造のPTFE樹脂で構成されている場合と比較して、脱気性能に優れている。
【0022】
内層2の気孔率は、例えば1%未満であり、好ましくは0.1%未満である。内層2の気孔率は0%であってもよい。内層の気孔率が過度に大きいと、多層チューブを脱気用途で使用した場合に、チューブ壁面を液体が透過したり、耐圧性能が低くなったりするため好ましくない。
【0023】
外層3の気孔率は、例えば5%~80%である。外層3の気孔率は、好ましくは10%~40%の範囲内にある。外層3の気孔率が過度に小さいと、柔軟性及び耐キンク性能が低下する可能性がある。外層3の気孔率が過度に大きいと、支持体としての強度を失い、耐圧などの強度面が低下する。外層3が有する多孔質構造は、典型的には、アモルファス状のノード部分と、このノード部分から引き出されたフィブリル部分とから構成されている。そのため、外層3内に存在する気孔は互いに連通している。ノード及びフィブリルにより構成される多孔質構造は、例えば、後述するペースト押出しの際に、予備成形体に対して剪断力が加わるために形成される。
【0024】
<気孔率の測定方法>
内層及び外層の気孔率は、水中置換法による比重測定により測定する。具体的には、まず、多層チューブに対して0.01MPaでの通気試験を行う。通気試験において通気が無い場合には内層の気孔率を0%(比重2.2)とみなすことができる。次に、多層チューブを一定長さに切断した後、マイクロスコープを用いて内層及び外層の断面積を測定して、それぞれの層の体積を測定する。別途、多層チューブについて水中置換法による比重測定を実施し、多層チューブ全体の比重を測定する。
【0025】
そして、下記式(1)に基づいて外層の比重を算出する。
[水中置換法で測定された比重]=(内層比重×内層体積+外層比重×外層体積)÷(多層チューブ全体の体積)・・・(1)
こうして決定された外層の比重から、外層の気孔率を求めることができる。
【0026】
多層チューブの肉厚(総厚)は、例えば0.2mm~2mmの範囲内にあり、好ましくは0.5mm~1mmの範囲内にある。多層チューブの肉厚は、内層の厚みと外層の厚みとの合計である。多層チューブが脱気性能に優れている限り、多層チューブの肉厚には制限は無い。但し、肉厚が過度に大きいと多層チューブの柔軟性が損なわれるため望ましくない。多層チューブの脱気性能は、おおむね、後述する内層の厚みに依存している。外層は多孔質構造を有しているため、典型的には、多層チューブの外側を真空にせずとも、気体は外層内を容易に透過し得る。
【0027】
内層の厚みは、例えば0.01mm~0.1mmの範囲内にあり、好ましくは0.02mm~0.05mmの範囲内にある。多層チューブの脱気性能を高める上では、内層の厚みはできるだけ薄い方が好ましい。内層の厚みが大きくなるに従って脱気性能が劣る傾向がある。
【0028】
外層の厚みは、例えば0.1mm~1mmの範囲内にあり、好ましくは0.2mm~0.5mmの範囲内にある。外層の厚みが小さすぎると、多層チューブとしての柔軟性又は耐キンク性に劣る傾向がある。所望の脱気性能を達成できる限り外層の厚みは大きくても問題はないが、過度に大きいと多層チューブの取り扱い性が低下する可能性がある。
【0029】
多層チューブの総厚に占める内層の厚みの割合は、例えば1%~25%の範囲内にあり、好ましくは15%~25%の範囲内にある。この割合が小さすぎると、内層強度が弱くなり、屈曲時に破れる可能性があり、また、加工時に内層も多孔化してしまう傾向があるため好ましくない。この割合が大きすぎると、脱気性能が低くなる恐れがある。この割合が15%~25%の範囲内にあると、脱気性能に優れるだけでなく、耐キンク性能にも優れているため好ましい。
【0030】
<各種寸法の測定>
内層厚み、外層厚み及び多層チューブの肉厚は、上述の気孔率測定で得られる8箇所のSEM画像についてこれらの厚みを測定し、それぞれの厚みについて8箇所の平均値を算出することにより決定することができる。算出された内層厚み、外層厚み及び多層チューブの肉厚の値から、多層チューブ厚みに占める内層の割合を算出することができる。
【0031】
多層チューブの内径は、特に限定されないが、例えば0.5mm~10mmの範囲内にある。多層チューブの外径は、特に限定されないが、例えば1mm~20mmの範囲内にある。多層チューブの内径及び外径は、1/1000mmの精度を有するピンゲージ及びノギスを用いて測定することができる。
【0032】
多層チューブの脱気性能を高めるためには、多層チューブの内径表面積が大きいことが有利である。内径表面積は、多層チューブ内壁の表面積とも呼ぶことができる。チューブ内壁の表面積が大きいと、チューブ内に存在する液体とチューブ内壁との接触面積が増大する。即ち、真空に晒される液体の面積が増大するため、液体に溶存している気体が脱気されやすくなる。
【0033】
多層チューブの単位長さ当たりの内径表面積は、例えば1.57mm2/mm~31.4mm2/mmの範囲内にあり、好ましくは2.51mm2/mm~18.84mm2/mmの範囲内にある。内層の厚みが一定であれば、単位長さ当たりの内径表面積が大きい場合、脱気性能は高い傾向がある。
【0034】
多層チューブの内径表面積は1/1000mmの精度を有するピンゲージを用いて測定された内径から算出することができる。
【0035】
<脱気試験>
多層チューブの脱気性能は、内層の肉厚、内層の気孔率及び内径表面積などのパラメータからおおよそ見積もることが可能であるが、例えば、以下に説明する脱気試験に基づいて具体的に脱気率を評価することもできる。図2は脱気試験において使用する脱気試験装置の構成を示す概略図である。ここでは、酸素の脱気率が測定される。図2に示す脱気試験装置の構成は、脱気試験が内部灌流方式で実施される場合を示している。
【0036】
脱気試験装置100は、脱気モジュール110、溶存酸素計120及び循環ポンプ130を備える。脱気モジュールとしては、例えばDIC社製の商品名(SEPARELを使用することができる。或いは、これと等価な機能を有する脱気モジュールを使用してもよい。脱気モジュール110の内部には、測定対象の多層チューブがセットされている。
【0037】
脱気モジュール110、溶存酸素計120及び循環ポンプ130は、ゴム管などのチューブ101により互いに接続されている。脱気モジュール110は、別途、チューブ101を介して真空ポンプ140と接続されている。脱気モジュール110の内部は、真空ポンプ140を作動させることにより、大気圧と比較して低圧の状態とすることができる。
【0038】
脱気試験を実施する際には、まず、脱気モジュール110、溶存酸素計120及び循環ポンプ130の内部に純水を導入する。脱気試験装置100は、脱気モジュール110、溶存酸素計120及び循環ポンプ130の順で、これらの内部において純水を繰り返し循環させることができる。図2中の符号Dは、純水が循環する方向を示している。
【0039】
真空ポンプ140を作動させる前に、脱気前の純水中の溶存酸素量[ml/L]を測定する。その後、真空ポンプ140を作動させて、真空部の圧力を0.08MPaに設定する。この状態で24時間に亘り溶存酸素の脱気を行い、24時間経過後(脱気後)の純水中の溶存酸素量を測定する。そして、脱気前の溶存酸素量(A1)に対する脱気後の溶存酸素量(A2)の比に100を乗じて(A2/A1×100)、脱気率(%)を算出する。
【0040】
上述の脱気試験(内部灌流方式)により測定される多層チューブの脱気率は、例えば5%以上であり、好ましくは10%以上である。脱気率は高いほど望ましいが、一例によると、25%以下でありうる。
【0041】
脱気率は、脱気試験装置内を循環させる純水量、及び、測定対象の多層チューブの内径並びにチューブ長さに依存して変化する。一例として、チューブ内径を4.0mm~4.5mmとし、チューブ長さを145mm~155mmとする。
【0042】
上では、脱気試験が内部灌流方式で実施される場合を説明したが、他の態様として、脱気試験は外部灌流方式で実施されてもよい。即ち、脱気に供される液体を多層チューブの外側に配置し、多層チューブの内側を真空とすることにより、溶存酸素の脱気を実施することも可能である。外部灌流方式の場合、多層チューブの外側を液体が無秩序に流れる(乱流)ため、溶存酸素と多層チューブとの接触頻度を高めることができる。
【0043】
なお、ここでは、多層チューブの脱気率を測定する場合の一例として、純水に溶存する酸素を脱気する例を示した。しかしながら、溶存酸素の脱気率を測定する必要が無い場合は、脱気に供される液体の種類、及び、脱気される気体の種類に制限は無い。
【0044】
内径表面積が小さいにも関わらず、脱気率が高い場合、そのような多層チューブの脱気性能は優れていると言える。つまり、上述した単位長さ当たりの内径表面積[mm2/mm]に対する脱気率[%]の比は、多層チューブの脱気性能を示す。当該比が高いほど、多層チューブは脱気性能に優れていると言える。実施形態に係る多層チューブについて、単位長さ当たりの内径表面積[mm2/mm]に対する脱気率[%]の比は、0.5~1.5の範囲内にあり、好ましくは0.8~1.5の範囲内にある。
【0045】
内層は、第1ポリテトラフルオロエチレンを含む。内層は、第1ポリテトラフルオロエチレンからなっていてもよい。内層は、充実構造を有する。第1ポリテトラフルオロエチレンは、後述する、外層に含まれる第2ポリテトラフルオロエチレンと比較して、数平均分子量が低いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。第1ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、例えば100万以上500万以下である。第1ポリテトラフルオロエチレンは、変性モノマー単位を含むことが好ましい。内層は、第1ポリテトラフルオロエチレンの他に、助剤などの添加剤を含んでいてもよい。助剤としては、例えば石油系助剤を挙げることができる。
【0046】
外層は、第2ポリテトラフルオロエチレンを含む。外層は、第2ポリテトラフルオロエチレンからなっていてもよい。外層は、多孔質構造を有する。第2ポリテトラフルオロエチレンは、第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して数平均分子量が大きいPTFEである。第2ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、例えば600万以上1500万以下であり、好ましくは1000万以上1500万以下である。第2ポリテトラフルオロエチレンは、変性モノマー単位を含まないことが好ましい。第2ポリテトラフルオロエチレンは、バージンタイプのPTFE樹脂でありうる。
【0047】
高い数平均分子量を有するPTFEは、ペースト押出しされることで多孔質化しやすい。実施形態に係る多層チューブは、外層に含まれる第2ポリテトラフルオロエチレンとして、内層に含まれる第1ポリテトラフルオロエチレンよりも数平均分子量が大きなPTFEを含むことが好ましい。これにより、内層の気孔率が外層の気孔率と比較して低い多層チューブを製造するのが容易となる。
【0048】
また、変性モノマー単位を含むPTFE樹脂は、ペースト押出しされても充実構造を維持しやすい傾向がある。バージンタイプのPTFE樹脂は、ペースト押出しされることで、ノードからフィブリルが引き出されて多孔質化しやすい傾向がある。つまり、内層に含まれる第1ポリテトラフルオロエチレンが変性モノマー単位を含むことにより、内層の気孔率が外層の気孔率と比較して低い多層チューブを製造するのが容易となる。
【0049】
内層が変性モノマー単位を含んでいるか否かは、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)により確認することができる。
【0050】
充実構造を有する内層の比重は、PTFE固有の比重に近い値を有しており、例えば2.12~2.25の範囲内にある。一方、多孔質構造を有する外層の比重は、例えば1.00~2.0の範囲内にある。内層及び外層を含む多層チューブ全体の比重は、例えば1.60~2.0の範囲内にある。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態によると、多層チューブの製造方法が提供される。内層の外周面全体に外層が一体化するように形成されている多層チューブは、例えば、以下に説明するペースト押出しにより製造することができる。
【0052】
まず、第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1粉末と、第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2粉末とを準備する。第2ポリテトラフルオロエチレンは、第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有するPTFEである。第1ポリテトラフルオロエチレン及び第2ポリテトラフルオロエチレンとしては、それぞれ、第1実施形態にて説明したものを使用することができる。第1ポリテトラフルオロエチレンは、変性モノマー単位を含んでいることが好ましい。これにより、後述するペースト押出し後の焼成時に、内層が割れるのを抑制することができる。
【0053】
第1粉末及び第2粉末は、それぞれファインパウダーであることが好ましい。ファインパウダーとは、乳化重合で得られた水性分散液を凝析・乾燥して得られるものである。ファインパウダーは、例えば、重合により生成した1次粒子が凝集して粒径100μm程度の2次粒子となったものを主体とし得る。ファインパウダーの平均粒子径(D50)は、例えば300μm~800μmの範囲内にある。
【0054】
次に、第1粉末に対して石油系助剤を添加し、攪拌して、第1粉末と助剤との混合物を得る。石油系助剤の添加量は、第1粉末の質量に対して、例えば10質量%~30質量%の範囲内とする。得られた混合物を、例えば、10℃以上の温度環境下で8時間以上に亘り熟成させる。熟成させる際の温度は、30℃~35℃の範囲内であることが好ましい。熟成させる時間は、24時間~96時間の範囲内であることが好ましい。混合物を熟成させることにより、助剤がファインパウダー(ここでは第1粉末)の表面凹凸中に入り込み、後述のペースト押出工程において、流動性が向上して低圧で押出せるようになる。こうして、第1混和物を得る。
【0055】
第2粉末に対しても同様に石油系助剤を添加し、攪拌して、第2粉末と助剤との混合物を得る。得られた混合物を熟成させる条件は、第1粉末及び助剤の混合物と同様である。こうして、第2混和物を得る。
【0056】
続いて、第1混和物及び第2混和物を予備成形工程に供する。予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、シリンダの底部を貫通するマンドレルとを用いて行われる。予備成形は、例えば、底部を有するシリンダと、シリンダの底部を貫通するマンドレルとを少なくとも具備する予備成形機を用いて行われる。予備成形の一例を、図3を参照しながら説明する。図3(a)~図3(g)は、それぞれ、多層チューブの予備成形体としてのタブレットの作製方法における一工程を示す概略平面図である。
【0057】
図3(a)~図3(g)は、それぞれ、シリンダ及びマンドレルを具備する予備成形機を上部から観察した場合を概略的に示す図である。予備成形機10は、シリンダ11及びマンドレル12を具備する。シリンダ11は、底部を有する円筒形状を有している。マンドレル12は、円筒形状を有すると共に、シリンダ11と比較して小さい直径を有している。マンドレル12は、シリンダ11の底部を貫通している。マンドレル12の内部は中空である。
【0058】
図3(a)は、シリンダ11の内壁と、マンドレル12の外壁との間に、シリンダ11の上方からパイプ13を挿入する工程を示している。パイプ13はシリンダ11の底面に接触するまで挿入されている。パイプ13は、シリンダ11内の空間を、マンドレル12部分を除いた内層側20の空間と外層側30の空間との2つに仕切る役割を果たす。パイプ13は、例えば、塩化ビニルなどの樹脂パイプでありうる。
【0059】
図3(b)は、パイプ13とシリンダ11の内壁との間に第2混和物を充填する工程を示している。具体的には、まず、内層側20が塞がるように蓋14を置き、次いで外層側30に第2混和物31を投入する。
【0060】
図3(c)は、外層側30に充填された第2混和物31を予備的に圧縮する工程を示している。まず、前工程にて置いた蓋14を取り外し、外層側30が塞がるように蓋15を置く。そして、外層側30に充填された第2混和物31を500N~1000Nの力で押し固めることで、筒状の第2混和物32とする。
【0061】
図3(d)は、パイプ13を抜き取る工程を示している。図3(c)工程にて、外層側30に設置した蓋15を取り外した後、パイプ13を抜き取る。予備的に圧縮された第2混和物31は、筒状の第2混和物32を形成している。そのため、パイプ13を抜き取った後においても筒状の第2混和物32は内層側20に侵入しない。図中、符号25は、内層側20と外層側30との仮想的な境界線(仮想線)を示している。
【0062】
図3(e)は、マンドレル12の外壁と筒状の第2混和物32との間に、第1混和物21を充填する工程を示している。こうして、シリンダ11内は第1混和物21と筒状の第2混和物32とが充填された状態となる。
【0063】
図3(f)は、第1混和物21と筒状の第2混和物32とをまとめて圧縮成形に供する工程を示している。圧縮成形は、図3(f)に示しているように、シリンダ11全体に蓋16を置いた状態で実施する。第1混和物21は、圧縮成形により圧縮されて、図3(g)に示す第1成形体22となる。また、筒状の第2混和物32は、圧縮成形により圧縮されて、図3(g)に示す第2成形体33となる。
【0064】
図3(g)には、第1混和物21と筒状の第2混和物32とをまとめて圧縮成形した後に得られるタブレット40を示している。タブレット40は、第1成形体22と第2成形体33とからなる。図3(e)工程にて示したように、第1混和物21と筒状の第2混和物32とは、仮想線25において互いに接触している。また、第1混和物21と筒状の第2混和物32とは、いずれも同様の性質を有するPTFEを含む混和物である。それ故、これらをまとめて圧縮成形に供することにより、第1成形体22と第2成形体33とが仮想線25において一体化したタブレット40を得ることができる。タブレット40は、環状円柱形状を有している。この環は、マンドレル12内に混和物が充填されないために形成される。第1成形体22と第2成形体33とが一体化したタブレット40を用いてペースト押出し成形を実施することにより、外層が、内層の外周面と一体化するように形成されている多層チューブを製造することができる。
【0065】
図3を参照しながら上述した予備成形では、先に外層側30の方に第2混和物31を充填し、その後で内層側20の方に第1混和物21を充填する方法を説明した。しかしながら、第1混和物21及び第2混和物31をシリンダ11内に充填する順番は逆転してもよい。即ち、先に内層側20の方に第1混和物21を充填した後に、外層側30の方に第2混和物31を充填して、圧縮成形を経てタブレットを得てもよい。
【0066】
タブレットをペースト押出し成形に供する際は、例えば、以下の流れで実施する。まず、タブレットをペースト押出機に投入し、押出しを行って未焼成チューブを得る。次いで、未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることにより多層チューブを得ることができる。熱処理は、例えば、未焼成チューブの乾燥及び焼成を含む。ペースト押出機より押し出された未焼成チューブを、まず、乾燥炉にて乾燥させる。先に使用した石油系助剤の沸点以上の温度で乾燥を行うことにより、助剤を揮発させることができる。続いて、乾燥後のチューブをPTFEの融点以上の温度、例えば330℃以上の温度で加熱して焼成する。
【0067】
ペースト押出しにより未焼成チューブを得る段階から、乾燥及び焼成を行うまでの一連の流れの中で、チューブの押出速度と、焼成後チューブの引取り速度とに速度差を付けて、チューブを延伸する。この延伸により、タブレットを構成している第1成形体部分は、外層よりも気孔率が低い内層に変化し、第2成形体部分は、内層よりも気孔率が高い外層に変化する。延伸倍率は、例えば1.1倍以上であり、1.5倍以上1.8倍以下であることが好ましい。延伸倍率を変更することにより、内層の気孔率及び外層の気孔率を調整することができる。こうして、実施形態に係る多層チューブを得ることができる。上述したように、内層は、例えば充実構造を有しており、外層は、例えば多孔質構造を有している。
【0068】
多層チューブが備える内層及び外層の厚みを変更するには、例えば、予備成形の際に使用するシリンダ及び/又はパイプの直径を変更する。これら直径を適宜変更して、充填する第1混和物及び/又は第2混和物の厚みを調整することにより、内層、外層及び多層チューブの総厚を調整することができる。
【0069】
上述した製造方法では、外層を多孔質化させるために、第2混和物が含む第2ポリテトラフルオロエチレンとして、第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有するPTFE樹脂を使用する。一方、内層側に充填される第1混和物は、第2ポリテトラフルオロエチレンと比較して数平均分子量の低いPTFE樹脂を使用する。これにより、外層の気孔率が内層の気孔率と比較して高い多層チューブを製造することができる。しかしながら、外層の気孔率が内層の気孔率と比較して低い多層チューブの製造方法はこれに限られない。具体的には、他の方法として、予備成形工程より前に第2混和物に造孔材を添加する方法が挙げられる。
【0070】
第1混和物には造孔材を添加せず、第2混和物にのみ造孔材を添加して、上述の手順に従って予備成形工程、及び、焼成を伴うペースト押出しを実施することにより、外層の気孔率が内層の気孔率と比較して高い多層チューブを得ることができる。第2混和物に添加した造孔材は焼成時に昇華するため、外層内にのみ孔を造ることができる。また、こうして得られた多層チューブにおいて、外層は、内層の外周面全体と一体化するように形成されている。
【0071】
第2混和物に造孔材を添加する方法で多層チューブを製造する場合には、第1ポリテトラフルオロエチレンと第2ポリテトラフルオロエチレンとは互いに種類が同一のPTFE樹脂であってもよい。或いは、この場合には、第1ポリテトラフルオロエチレン及び第2ポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は互いに同一であってもよい。
【0072】
第2混和物の質量に占める造孔材の割合は、例えば10質量%~50質量%の範囲内にある。当該割合を調整することで、得られる多層チューブにおける外層の気孔率を調整することができる。
【0073】
造孔材の一例として、架橋アクリル樹脂及び架橋スチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0074】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
第1粉末として、数平均分子量が約570万の第1ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、F-302)を用意した。第1粉末は平均粒子径が500μmのPTFEファインパウダーであった。た、第1ポリテトラフルオロエチレンは、変性モノマー単位としてペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)を含んでいた。第2粉末として、数平均分子量が約810万の第2ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、F-106)を用意した。第2粉末は平均粒子径が550μmのPTFEファインパウダーであった。
【0076】
第1粉末100質量部に対して、石油系助剤22質量部を添加して均一に混合し、24℃の温度で48時間に亘り熟成させて第1混和物を得た。同様に、第2粉末100質量部に対して、石油系助剤22質量部を添加して均一に混合し、24℃の温度で48時間に亘り熟成させて第2混和物を得た。
【0077】
得られた第1混和物及び第2混和物を用いて、図3(a)~図3(g)を参照しながら説明した方法に従って予備成形を行い、タブレットを作製した。
【0078】
作製したタブレットをペースト押出機に投入し、押出しを行って未焼成チューブを得た。押し出された未焼成チューブを乾燥炉に搬送して、130℃~190℃の温度環境下にて乾燥させて助剤を揮発させた。乾燥後の未焼成チューブを焼成炉に搬送して、380℃~450℃の温度環境下で120秒に亘り焼成を行った。未焼成チューブを得るための押出しから、乾燥及び焼成までの一連の流れの中でチューブを1.5倍に延伸して、2層チューブを製造した。
【0079】
(比較例1)
予備成形体としてのタブレットを製造する際に、原料粉末として第1粉末のみを使用し且つ内層側と外層側とを仕切るパイプを使用しなかったことを除いて、実施例1と同様の方法でチューブを製造した。つまり、予備成形の際に、シリンダ内に第1混和物のみを充填してこれを圧縮してタブレットを得た。得られたチューブは2層構造にはなっておらず、全体が充実構造を有していた。
【0080】
実施例1及び比較例1にて得られたチューブについて、第1実施形態において説明した方法に従ってSEM画像を取得すると共に、水中置換法による比重測定を実施し、各種寸法と気孔率とを測定した。また、第1実施形態にて説明した内部灌流方式の脱気試験を実施し、脱気率を測定した。これらの結果を下記表1に示す。表1中、「比重」の列は、チューブ全体の比重を示している。
【0081】
【表1】
【0082】
脱気性能は、一般的に、脱気部(チューブ内壁)と水との接触面積が大きい方が有利である。つまり、チューブの単位長さ当たりの内径表面積が大きいほど、脱気性能は高くなりやすい傾向がある。実施例1と比較例1とを対比すると、比較例1に係るチューブの方が、単位長さ当たりの内径表面積が大きいにも関わらず、実施例1に係る2層チューブの方が脱気率に優れている。それ故、実施例1に係る2層チューブは脱気性能に優れていることが読み取れる。
【0083】
図4に、実施例1に係る2層チューブの断面の一例を示すSEM画像を示す。図4に示すSEM画像は、実施例1に係る2層チューブを、図6に示す観察方向Xから観察して撮影することにより得られた画像である。図6に示すように、多層チューブ1(ここでは2層チューブ)を直径方向に沿って切断して、露出した断面を観察した。SEM観察の際には、500倍の観察倍率で、観察方向Xから被観察部17を観察した。
【0084】
図4において、符号3で示す領域は外層であり、符号2で示す領域は内層である。そして、符号4で示す領域は、2層チューブの内径面が写り込んだ領域である。符号5で示す領域は、背景像であって何も写っていない領域である。図4より、実施例1に係る2層チューブでは、充実構造を有する内層2と、多孔質構造を有する外層3との境目が実質的に存在しておらず、これらが一体に形成されていることが分かる。
【0085】
図5に、比較例1に係るチューブの断面の一例を示すSEM画像を示す。図6に示すSEM画像も、図6に示した観察方向Xからチューブを観察することにより得られた画像である。図5において、符号6で示す領域は単層の充実層である。領域6には、観察対象のチューブをカミソリで切断したために形成された微細な段差の影響で、色が異なる部分が存在しているが、上記の通り、領域6は単層の充実層である。また、符号7で示す領域はスキン層である。符号4は、チューブの内径面が写り込んだ領域である。図5より、比較例1に係るチューブは、径方向の全体に亘り充実構造を有していることが分かる。
【0086】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下に本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 充実構造を有し、第1ポリテトラフルオロエチレンを含む内層と、
多孔質構造を有し、第2ポリテトラフルオロエチレンを含む外層とを含み、
前記外層は、前記内層の外周面全体と一体化するように形成されており、
前記内層の気孔率は、前記外層の気孔率と比較して低い多層チューブ。
[2] 前記内層の気孔率は1%未満であり、前記外層の気孔率は5%~80%である[1]に記載の多層チューブ。
[3] 前記第1ポリテトラフルオロエチレンは、変性モノマー単位を含む[1]又は[2]に記載の多層チューブ。
[4] 内部灌流方式で実施される脱気試験により測定される脱気率が5%以上であり、
前記脱気試験は、脱気前の純水中の溶存酸素量を測定することと、0.08MPaでの脱気を24時間に亘り継続した脱気後の前記純水中の溶存酸素量を測定することとを含み、
前記脱気率は、前記脱気前の溶存酸素量に対する前記脱気後の溶存酸素量の比に100を乗じて算出される百分率である[1]~[3]の何れか1つに記載の多層チューブ。
[5] 第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1混和物と、前記第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有する第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2混和物とを準備することと、
前記第1混和物及び前記第2混和物を予備成形してタブレットを得ることと、
前記タブレットをペースト押出し成形して未焼成チューブを得ることと、
前記未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることと
を含む多層チューブの製造方法であって、
前記予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、前記シリンダの前記底部を貫通するマンドレルとを用いて行われ、
前記シリンダの内壁と前記マンドレルの外壁との間にパイプを挿入することと、
前記パイプと前記シリンダの内壁との間に前記第2混和物を充填することと、
前記第2混和物を圧縮して筒状の第2混和物を形成した後、前記パイプを抜き取ることと、
前記マンドレルの外壁と前記筒状の第2混和物との間に前記第1混和物を充填することと、
前記第1混和物及び前記筒状の第2混和物を圧縮成形して、前記タブレットを得ることと
を含む多層チューブの製造方法。
[6] 第1ポリテトラフルオロエチレンを含む第1混和物と、前記第1ポリテトラフルオロエチレンと比較して高い数平均分子量を有する第2ポリテトラフルオロエチレンを含む第2混和物とを準備することと、
前記第1混和物及び前記第2混和物を予備成形してタブレットを得ることと、
前記タブレットをペースト押出し成形して未焼成チューブを得ることと、
前記未焼成チューブを熱処理しつつ延伸させることと
を含む多層チューブの製造方法であって、
前記予備成形は、少なくとも、底部を有するシリンダと、前記シリンダの前記底部を貫通するマンドレルとを用いて行われ、
前記シリンダの内壁と前記マンドレルの外壁との間にパイプを挿入することと、
前記マンドレルの外壁と前記パイプとの間に前記第1混和物を充填することと、
前記第1混和物を圧縮して筒状の第1混和物を形成した後、前記パイプを抜き取ることと、
前記筒状の第1混和物と前記シリンダの内壁との間に前記第2混和物を充填することと、
前記筒状の第1混和物及び前記第2混和物を圧縮成形して、前記タブレットを得ることと
を含む多層チューブの製造方法。
[7] 前記第1ポリテトラフルオロエチレンは変性モノマー単位を含む[5]又は[6]に記載の多層チューブの製造方法。
【符号の説明】
【0087】
1…多層チューブ、2…内層、3…外層、10…予備成形機、11…シリンダ、12…マンドレル、13…パイプ、14、15、16…蓋、20…内層側、21…第1混和物、22…第1成形体、25…仮想線、30…外層側、31…第2混和物、32…筒状の第2混和物、33…第2成形体、40…タブレット、100…脱気試験装置、101…チューブ、110…脱気モジュール、120…溶存酸素計、130…循環ポンプ、140…真空ポンプ、D…循環方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6