(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】引戸装置
(51)【国際特許分類】
E05D 15/06 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
E05D15/06 119
E05D15/06 125Z
(21)【出願番号】P 2020153386
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000137959
【氏名又は名称】株式会社ムラコシ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】横山 辰朗
(72)【発明者】
【氏名】枝廣 耕次
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-129996(JP,A)
【文献】特表2020-527199(JP,A)
【文献】特開2006-97352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0331560(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 1/00-15/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋の開口部の前側に引戸をずらして配置した引戸装置であって、
前記引戸の裏側に取り付けられた引戸側ガイドレールと、
前記引戸側ガイドレール内に組み付けられ、前記引戸側ガイドレールに沿って開閉方向へ移動可能な案内部材と、
前記建屋側に取り付けられ、前記引戸の閉じた状態、開閉移動状態、および開いた状態のいずれの状態でも、前記引戸を前側から見て前記引戸によって隠れる位置に配置され、前記引戸側に組み付けられた前記案内部材が取り付けられる建屋側ベース部材と、
を備え
、
前記案内部材および前記建屋側ベース部材は、前側に位置する前記案内部材を後側に位置する前記建屋側ベース部材に向けて押し込むことで、取り付けられるように構成したことを特徴とする引戸装置。
【請求項2】
前記案内部材には係合ピンが設けられ、
前記建屋側ベース部材には、
建屋に固定され、前後方向に延びる第2捕捉溝が設けられたベース部材本体と、
前記ベース部材本体に対して左右方向にスライド可能に取り付けられ、前記第2捕捉溝に対応する位置に第1捕捉溝が設けられたレバーと、を備え、
前記係合ピンが前記第1捕捉溝および第2捕捉溝内に押し込まれた状態で、前記レバーをスライドさせて前記係合ピンを捕捉するように構成したことを特徴とする請求項
1に記載の引戸装置。
【請求項3】
前記レバーには、前記引戸を着脱する作業者が左右方向にスライドさせる手動操作部が設けられ、
前記手動操作部は、前記引戸が開いた状態で前記建屋の開口部の近傍に配置されていることを特徴とする請求項
2に記載の引戸装置。
【請求項4】
前記ベース部材本体に対して前記レバーを前記引戸の閉方向に付勢する付勢手段を設けたことを特徴する請求項
3に記載の引戸装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1つに記載の引戸装置を用いた引戸の取付方法であって、
前記引戸を建屋側に向かって押し込むことで、前記建屋側に取り付けられた建屋側ベース部材と、前記引戸側に取り付けられた案内部材とを前後方向で係合させて取り付けることを特徴とする引戸装置の引戸の取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸が建屋の開口に対して前側にずらして配置される引戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建屋の開口部に設置される引戸装置は、一般的には、開口部の上縁部および下縁部に引戸を開閉方向へ案内する上ガイドレールおよび下ガイドレールが設けられている。このような引戸装置では、開口部の開口内に上述した上ガイドレールおよび引戸が設置されるため、上ガイドレールの設置スペース分だけ引戸装置として使用可能な開口部の面積が小さくなる。そのため、大きな荷物の搬入時に支障を来すことがあった。
【0003】
一方、開口部に対して引戸を前側にずらして配置する引戸装置も知られている。このような引戸装置では、上ガイドレールも前側にずらして配置できるので、開口部の面積が小さくならないように構成することができる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-321432号公報
【文献】特開2006-149650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の技術では、前側にずらした引戸の上側をガイド金具で支持しており、このガイド金具は引戸の上側に配置されている。そのため、このガイド金具が利用者から見えてしまうので、見栄えが悪い。
【0006】
また、特許文献2の技術は、システムキッチンに関するものであり、引戸の裏側にガイドレールを配置して、利用者側からこのガイドレールが見えないようになっている。しかしながら、この構成では、引戸を取り付ける際に、システムキッチン本体側に配置されたローラーを、引戸の裏側に隠れたガイドレール内に挿入しながら取付けなければならない。すなわち、作業者は、目視できない状態でガイドレール内にローラーを挿入しなければならず、取付作業が非常に困難である。
【0007】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、建屋の開口部の前側に引戸をずらして配置しても、当該引戸装置全体の意匠性が良く、引戸の着脱を容易に行うことができる引戸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述課題を解決するため、本発明は、建屋の開口部の前側に引戸をずらして配置した引戸装置であって、前記引戸の裏側に取り付けられた引戸側ガイドレールと、前記引戸側ガイドレール内に組み付けられ、前記引戸側ガイドレールに沿って開閉方向へ移動可能な案内部材と、前記建屋側に取り付けられ、前記引戸の閉じた状態、開閉移動状態、および開いた状態のいずれの状態でも、前記引戸を前側から見て前記引戸によって隠れる位置に配置され、前記引戸側に組み付けられた前記案内部材が取り付けられる建屋側ベース部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記案内部材および前記建屋側ベース部材は、前側に位置する前記案内部材を後側に位置する前記建屋側ベース部材に向けて押し込むことで、取り付けられるように構成することもできる。
【0010】
さらに、前記案内部材には係合ピンが設けられ、前記建屋側ベース部材には、建屋に固定され、前後方向に延びる第2捕捉溝が設けられたベース部材本体と、前記ベース部材本体に対して左右方向にスライド可能に取り付けられ、前記第2捕捉溝に対応する位置に第1捕捉溝が設けられたレバーと、を備え、前記係合ピンが前記第1捕捉溝および第2捕捉溝内に押し込まれた状態で、前記レバーをスライドさせて前記係合ピンを捕捉するように構成してもよい。
【0011】
また、前記レバーには、前記引戸を着脱する作業者が左右方向にスライドさせる手動操作部が設けられ、前記手動操作部は、前記引戸が開いた状態で前記建屋の開口部の近傍に配置されるようにしてもよい。
さらにまた、前記ベース部材本体に対して前記レバーを前記引戸の閉方向に付勢する付勢手段を設けることもできる。
【0012】
一方、本発明は、請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の引戸装置を用いた引戸の取付方法であって、前記引戸を建屋側に向かって押し込むことで、前記建屋側に取り付けられた建屋側ベース部材と、前記引戸側に取り付けられた案内部材とを前後方向で係合させて取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る引戸装置は、建屋の開口部の前側に引戸をずらして配置したものであり、前記引戸の裏側に取り付けられた引戸側ガイドレールと、前記引戸側ガイドレール内に組み付けられ、前記引戸側ガイドレールに沿って開閉方向へ移動可能な案内部材と、前記建屋側に取り付けられ、前記引戸の閉じた状態、開閉移動状態、および開いた状態のいずれの状態でも、前記引戸を前側から見て前記引戸によって隠れる位置に配置され、前記引戸側に組み付けられた前記案内部材が取り付けられる建屋側ベース部材とを備えているので、引戸を表側(利用者側)から見て、引戸側ガイドレール、案内部材、建屋側ベース部材が全て引戸の裏側に隠れるようになり、見栄えがよい。また、案内部材を引戸側ガイドレールに予め組み付けているので、引戸を取り付ける際に、引戸の取付作業者は、案内部材を建屋側ベース部材に取り付けるようにすればよい。そのため、引戸の裏側で目視できない状態で案内部材を引戸側ガイドレールに組み付ける作業がなくなり、引戸の着脱作業を容易に行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る引戸装置を概略で示す正面図であって、(A)は引戸を閉じた状態、(B)は引戸を開いた状態である。
【
図2】
図1から引戸を取り外し、建屋側の壁部を前側の斜め上側から見た斜視図である。
【
図3】引戸を単体で示したものであり、後方斜め上側から見た斜視図である。
【
図6】引戸側ガイドレールに案内ローラー部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図7】建屋側に引戸を取り付ける前の状態を前側から見た斜視図である。
【
図8】
図7から、引戸を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図10】建屋側ベース部材を単体で右斜め上側から見た斜視図である。
【
図12】建屋側ベース部材を単体で右斜め下側から見た斜視図である。
【
図13】(A)は、建屋側ベース部材の正面図、(B)は(A)のX-X断面図である。
【
図14】建屋側ベース部材と案内ローラー部材を上側から見た断面図であって、(A)は引戸を取り付ける前の状態、(B)は(A)の状態から引戸を後側に押し込んだ状態を示す。
【
図15】建屋側ベース部材と案内ローラー部材を上側から見た断面図であって、(A)は、
図14(B)からさらに引戸を後側に押し込んだ状態、(B)は、引戸を完全に押し込んだ状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る引戸装置について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る引戸装置1の正面図であって、(A)は引戸4を閉じた状態、(B)は引戸4を開いた状態を示す。また、
図2は、
図1から引戸4を取り外し、建屋側の壁部2を前側の斜め上側から見た斜視図である。
【0016】
なお、本実施の形態で使用する前後、左右、上下方向とは、利用者が引戸装置1を正面から見たときの方向をいい、
図1、
図2で示す方向をいうものとする。また、引戸4の開閉方向とは、左右方向(左方向を閉方向、右側を開方向)をいうものとする。
【0017】
本実施形態の引戸装置1は、建屋の壁部2に設けられた開口部2aを、1枚の引戸4で開閉するタイプのものである。この開口部2aは、
図1および
図2に示すように、壁部2の左側に位置し、引戸4を右側に移動させることで開き、左側に移動することで閉じられる。この引戸4を開いた状態では、引戸4の左端部4cと、開口部2aの右端部2cとが前後方向でほぼ一致するようになっている。
【0018】
開口部2aは、その上側に壁部2の上部2bが残るようにして形成されている。この上部2bの前側には、
図2に示すように、開口部2aの右端部2cよりも右側の位置に、詳細は後述する建屋側ベース部材40が取り付けられている。なお、この建屋側ベース部材40は、
図1に示すように、引戸4を開閉したときに、閉じた状態、開閉移動状態、および開いた状態のいずれの状態にあっても、引戸4によって前側から見えないように、引戸4の後側に隠れるようにして取り付けられている。
【0019】
この引戸4は、その下側が、床3に設けられた下ガイドレール(図示せず)によって開閉可能に支持され、その上側が、建屋側ベース部材40によって開閉可能に支持されている。
【0020】
図3は、引戸4を単体で示したものであり、後方斜め上側から見た斜視図である。また、
図4は、
図3のA部拡大図、
図5は、引戸4の側面図である。
【0021】
引戸4は、開口部2aを前側から塞ぐ矩形状に形成されており、その上部の後側には、左右方向の全長に亘って連続する切り欠き4aが形成されている。また、この切り欠き4aの内側には、左右方向に延びる引戸側ガイドレール10が切り欠き4aの左右方向に亘って連続して取り付けられている。この引戸側ガイドレール10は、
図5に示すように、切り欠き4a内に取り付けられた状態で、引戸上端4bよりも上側に突出しないようになっている。
【0022】
より詳細には、この引戸4は、引戸4の引戸上端4bを、開口部2aの上縁よりも上側であって、壁部2の上部2bに取り付けられる建屋側ベース部材40よりもさらに高い位置まで延ばしている。これにより、引戸4の前側から見て、建屋側ベース部材40が見えないようにしている(
図9参照)。
【0023】
引戸側ガイドレール10の断面形状は、
図5に示すように、上面部10a、底面部10b、および前側面部10cによって、後側が開口する略コ字形状に形成されている。
また、引戸側ガイドレール10の内側は、上面部10a、底面部10bからそれぞれ上下方向内側に突出する画成突部11a、11bによって前後方向に2つの取付空間が画成されている。
【0024】
画成された前側の空間には、左右方向の所定の位置に開閉体緩衝装置20が取り付けられている。この開閉体緩衝装置20とは、詳細は後述する緩衝用捕捉ピン33を閉じ際で捕捉して、引戸4を強い力で閉じようとしたときに、引戸4の勢いをダンパーによって緩衝する機能を有するものである。また、引戸4をばねの力を用いて引き込むことにより、引戸4を緩やかに閉じた位置まで移動させる機能も有しており、引戸4が半開きの状態のまま放置されるのを防止する。また、引戸4を開く際にも、緩衝用捕捉ピン33を開き際で捕捉するように配置することで、引戸4を強い力で開いたときにその勢いを緩衝し、緩やかに開いた位置まで移動させるように機能させることもできる。
なお、開閉体緩衝装置20のこれらの構造・機能・動作については従来技術と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0025】
画成された後側の空間には、上面部10aから下側に突出する上側転動部12a、および底面部10bから上側に突出する下側転動部12bが、引戸側ガイドレール10の左右方向の全長に亘って設けられている。これらの上側転動部12a、下側転動部12bには、詳細は後述する移動ローラー31がその上側と下側を支持され、この移動ローラー31が左右方向(引戸4の開閉方向)に自在に転動するようになっている。
【0026】
また、上面部10aには、上側に突出し、前後方向に間隔を空けて2つの突条部(後側突条部13、前側突条部14)が、引戸側ガイドレール10の左右方向の全長に亘って設けられている。これにより、この2つの突条部13、14の前後方向の間には、左右方向に延びる案内溝13aが形成される。また、この2つの突条部13、14のうち、後側に位置する突条部13には、
図4に示すように、左右方向の所定の位置に取付用切り欠き13bが形成されている。
【0027】
図6は、引戸側ガイドレール10に案内ローラー部材30を取り付けた状態を示す斜視図である。
案内ローラー部材30は、本体を構成する本体部材34と、本体部材34の左右の両側に設けられた移動ローラー31、31と、本体部材34の中央の後側に位置する2つの係合ピン32、32と、本体部材34から前側に突出する緩衝用捕捉ピン33(
図5参照)とで構成されている。
【0028】
移動ローラー31、31は、本体部材34から前側に延びる回転軸を中心に回転可能に取り付けられている。この移動ローラー31は、
図5に示すように、側面視で転動面の中央が周方向に凹んだ形状になっており、この凹みに引戸側ガイドレール10の上側転動部12aおよび下側転動部12bが嵌まるようになっている。これにより、移動ローラー31の前後、上下の位置が規制される。また、この移動ローラー31、31が引戸側ガイドレール10に沿って左右方向に転動することで、案内ローラー部材30は、開閉方向に自在に移動する。
【0029】
係合ピン32、32は、
図6に示すように、2つの移動ローラー31、31よりも左右方向の内側の位置にあり、左右方向に間隔を空けて配置されている。係合ピン32は、上下方向に延在する丸棒形状を成しており、その上端および下端が本体部材34に取り付けられている。また、係合ピン32の上下方向の長さは、詳細は後述する建屋側ベース部材40の捕捉溝63、82と係合ピン32とが係合する際に、引戸4が上下に多少ずれた位置で押し込まれたとしても、確実に係合する長さにしてある。
【0030】
緩衝用捕捉ピン33は、
図5に示すように、引戸側ガイドレール10に組み付けられた状態で、本体部材34から開閉体緩衝装置20の内部に届く長さに形成されている。この緩衝用捕捉ピン33は、引戸4の閉じ際(或いは開き際)に開閉体緩衝装置20に捕捉され、引戸4を完全に閉じた状態(或いは完全に開いた状態)まで引き込まれるようになる。
【0031】
図7は、建屋側に引戸を取り付ける前の状態を前側から見た斜視図である。また、
図8は、
図7から、引戸を取り付けた状態を示す斜視図、
図9は、
図8の側面図である。
引戸4は、
図7および
図8に示すように、建屋側に取り付けられた建屋側ベース部材40(詳細は後述する)の位置に合わせて、引戸4側の案内ローラー部材30を押し込むことで取り付けられる。
【0032】
また、建屋側ベース部材40に案内ローラー部材30を組み付け作業は、
図7および
図8に示すように、引戸側ガイドレール10の後側突条部13に形成された取付用切り欠き13bの位置と、建屋側ベース部材40のガイド片41(詳細は後述する)の位置とを合わせて行われる。詳細には、建屋側ベース部材40のガイド片41に向けて引戸4側の取付用切り欠き13bを後側に移動させ、
図9に示すように、2つの突条部13、14の間の案内溝13a内にガイド片41が挿入されるようにする。
【0033】
上述した取付用切り欠き13bの位置は、
図7および
図8に示すように、引戸4を完全に開いた状態のときに、ガイド片41の位置と前後方向で一致するようになっている。そのため、引戸4を開閉している途中では、ガイド片41が2つの突条部13、14によって前後方向の位置が規制されるようになり、不用意に引戸4が前側に外れるのを防止している。
【0034】
図10は、建屋側ベース部材40を単体で右斜め上側から見た斜視図である。また、
図11は、
図10の分解斜視図、
図12は、建屋側ベース部材40を単体で右斜め下側から見た斜視図である。さらに、
図13(A)は、建屋側ベース部材40の正面図、(B)は(A)のX-X断面図である。
【0035】
建屋側ベース部材40は、
図10~
図13に示すように、建屋の壁部2の上部2bに固定されるベース部材本体43と、このベース部材本体43に対して左右方向にスライド可能に取り付けられるレバー60(上側レバー60a、下側レバー60b)と、このレバー60を手動で操作するための手動操作部50とで構成されている。
【0036】
ベース部材本体43は、上面部40a、後面部40b、および底面部40cによって、前側が開口する断面コ字形状に形成されている。上面部40aには、その前側端部から下側に向けて延びるガイド片41が形成されている。後面部40bは、壁部2の上部2bと接する面であり、壁部2にねじ(図示せず)などによって固定するための壁面取付穴42が設けられている。
【0037】
底面部40cには、
図11に示すように、前側から後側に向けて延びる2つの第2捕捉溝81、81が左右方向に間隔を空けて設けられている。また、底面部40cには、2つの第2捕捉溝81、81の間に、左右方向に長尺な2つの摺動長穴82、82が設けられている。
【0038】
レバー60は、上側レバー60aおよび下側レバー60bの2つで一対になっており、上側レバー60aと下側レバー60bとで、底面部40cを上下に挟み込むようにして取り付けられる。また、上側レバー60aおよび下側レバー60bは、その左側部分が上下に拡開するように折り曲げられている。
【0039】
上側レバー60aおよび下側レバー60bには、上下方向に貫通する2つの取付穴62、62が設けられている。この取付穴62、62は、底面部40cの摺動長穴82、82の位置に対応して形成されており、底面部40cを上側レバー60aと下側レバー60bとで挟み込んだ状態で、取付穴62および摺動長穴82に摺動ピン70が上側から挿入される。これにより、底面部40cと上側レバー60aおよび下側レバー60bとが組み付けられ、レバー60は、摺動長穴82の長さ分だけ左右方向に摺動可能になる。
【0040】
また、上側レバー60aおよび下側レバー60bには、前側から後側に向けて延びるとともに後側の端部から右方向に延びている、略L字形状の2つの第1捕捉溝63、63が設けられている。また、L字形状に形成することで、第1捕捉溝63、63の前側部分には、捕捉爪61、61が形成されるようになる。また、この捕捉爪61、61の前側には、左斜め後方に向けて傾斜するテーパー61a、61aが形成されている。
【0041】
この第1捕捉溝63、63の左右方向の間隔は、底面部40cの第2捕捉溝81、81の間隔に対応して形成されている。また、この間隔は、案内ローラー部材30に設けられた係合ピン32、32の間隔にも対応している。
【0042】
手動操作部50は、引戸4を着脱する作業者が指で掴むための操作部50aと、コイルばね52の左側の端部を支持するためのばね受け部50bとを備えている。また、コイルばね52を挟んだ右側の部分には、コイルばね52の右側の端部を支持するばね受け部51bを具備する受け部51が設けられている。
【0043】
これらの手動操作部50、コイルばね52、受け部51は、
図10および
図12に示すように、上側レバー60aおよび下側レバー60bの左側部分であって、上下に拡開された部分の内側に上下に挟み込む態様で取り付けられている。また、手動操作部50は、上側レバー60aおよび下側レバー60bに固定され、受け部51は、底面部40cに固定されている。
【0044】
また、コイルばね52は、所謂圧縮ばねであり、手動操作部50を常に左側(引戸の閉方向)に付勢している。すなわち、手動操作部50が固定されているレバー60は、受け部51が固定されている底面部40cに対して、常に左側(閉方向)に付勢された状態になっている。
【0045】
次に、本発明の実施の形態に係る引戸装置1の作用について説明する。
図14は、建屋側ベース部材40と案内ローラー部材30を上側から見た断面図であって、(A)は引戸4を取り付ける前の状態、(B)は(A)の状態から引戸4を後側に押し込んだ状態を示す。また、
図15(A)は、
図14(B)からさらに引戸4を後側に押し込んだ状態、(B)は、引戸を完全に押し込んだ状態を示す。
【0046】
引戸4を建屋の壁部2に取り付けるには、
図7に示すように、引戸4側の案内ローラー部材30を、建屋側ベース部材40の位置に合わせ、引戸4を後側に押し込むようにする。このとき、建屋側ベース部材40のガイド片41の位置と、引戸側ガイドレール10の後側突条部13の取付用切り欠き13bの位置とが前後方向で一致するように、引戸4が完全に開いた状態で行う。
また、引戸4の下端を下ガイドレール(図示せず)に載せた状態で、建屋側ベース部材40の捕捉溝63、82と案内ローラー部材30の係合ピン32との上下方向の位置がほぼ一致するようになる。また、建屋側ベース部材40のガイド片41と、引戸側ガイドレール10の取付用切り欠き13bについても同様に、上下方向の位置がほぼ一致するようになる。
【0047】
まず最初に、
図14(A)に示すように、案内ローラー部材30の係合ピン32、32が、建屋側ベース部材40の捕捉爪61、61に当たるように引戸4の位置を調整する。次に、引戸4を取り付ける作業者は、引戸4を後側に向かって押し込むと、
図14(B)に示すように、レバー60が、コイルばね52の付勢力に抗して、捕捉爪61のテーパー61aに沿って右側にスライド移動する。この移動は、摺動ピン70が挿入された底面部40cの摺動長穴82によって左右方向に案内される。
【0048】
そして、引戸4をさらに後側に押し込むと、
図15(A)に示すように、係合ピン32は、捕捉爪61を超えてゆき、レバー60の第1捕捉溝63および底面部40cの第2捕捉溝81の後側の奥まで入り込む。
【0049】
引戸4を完全に押し込んだ状態では、
図15(B)に示すように、レバー60は、コイルばね52の付勢力によって左側に戻される。この状態では、係合ピン32、32は、L字形状の第1捕捉溝63の右側端部に位置するようになる。これにより、係合ピン32、32は、第1捕捉溝63および第2捕捉溝81によって規制され、前後方向および左右方向にロック(固定)されることになる。
【0050】
このように、案内ローラー部材30と建屋側ベース部材40とは、引戸4を押し込む動作のみでワンタッチで容易に取り付けることができる。そのため、案内ローラー部材30と建屋側ベース部材40とが引戸4の裏側に隠れた位置にあったとしても、従来技術と比較して、容易に取り付けることができるようになる。
【0051】
一方、引戸4を建屋から取り外す作業は、引戸4を取り付ける作業と同様に、
図8に示すように、建屋側ベース部材40のガイド片41の位置と、引戸側ガイドレール10の後側突条部13の取付用切り欠き13bの位置とが前後方向で一致するように、引戸4が完全に開いた状態で行う。この状態では、建屋側ベース部材40の手動操作部50は、引戸4の左端部4cの近傍(左端部4cと面一、或いは右側に少し奥まった部分)に位置する。
【0052】
引戸4を取り外そうとする作業者は、手動操作部50を右側に押し込みながら、引戸4を前側に移動させる。このとき、レバー60は、
図15(B)の状態から右方向に移動し、係合ピン32は、取り付け手順とは逆の動きで第1捕捉溝63および第2捕捉溝81の後側(奥側)から前側に引き出される(
図15(A)、
図14(A)、
図14(B)参照)。
【0053】
このように、案内ローラー部材30と建屋側ベース部材40とは、手動操作部50を右側に押し込みながら引戸4を前側に引き出す動作のみで容易に取り外すことができる。そのため、案内ローラー部材30と建屋側ベース部材40とが引戸4の裏側に隠れた位置にあったとしても、従来技術と比較して、容易に取り外すことができるようになる。
【0054】
また、引戸側ガイドレール10、案内ローラー部材30、および建屋側ベース部材40の全てが引戸4の後側で構成されており、かつ、引戸4の閉じた状態、開閉移動状態、および開いた状態のいずれの場合でも、建屋側ベース部材40が前側から見えない位置(隠れる位置)に取り付けているので、利用者からは、これらの構成部品が目視されないようになる。
【0055】
本発明の実施の形態に係る引戸装置1によれば、引戸4の裏側に取り付けられた引戸側ガイドレール10と、引戸側ガイドレール10内に組み付けられ、引戸側ガイドレール10に沿って開閉方向へ移動可能な案内ローラー部材30と、建屋側に取り付けられ、引戸4の閉じた状態、開閉移動状態、および開いた状態のいずれの状態でも、引戸4を前側から見て引戸4によって隠れる位置に配置され、引戸側に組み付けられた案内ローラー部材30が取り付けられる建屋側ベース部材40とを備えているので、引戸4を表側(利用者側)から見て、引戸側ガイドレール10、案内ローラー部材30、建屋側ベース部材40が全て引戸4の裏側に隠れるようになり、見栄えがよい。また、案内ローラー部材30を引戸側ガイドレール10に予め組み付けているので、引戸4を取り付ける際に、引戸4の取付作業者は、案内ローラー部材30を建屋側ベース部材40に取り付けるようにすればよい。そのため、引戸4の裏側で目視できない状態で案内ローラー部材30を引戸側ガイドレール10に組み付ける作業がなくなり、引戸4の着脱作業を容易に行うことができる。
【0056】
また、案内ローラー部材30および建屋側ベース部材40は、前側(引戸4側)に位置する案内ローラー部材30を後側(壁部2側)に位置する建屋側ベース部材40に向けて押し込むことで、取り付けられるように構成することで、案内ローラー部材30および建屋側ベース部材40が引戸4の裏側に隠れていたとしても、引戸4の取付作業を容易に行うことができる。
【0057】
さらに、案内ローラー部材30には係合ピン32が設けられ、建屋側ベース部材40には、建屋の壁部2に固定され、前後方向に延びる第2捕捉溝81が設けられたベース部材本体と、ベース部材本体43に対して左右方向にスライド可能に取り付けられ、第2捕捉溝81に対応する位置に第1捕捉溝63が設けられたレバー60と、を備え、係合ピン32が第1捕捉溝63および第2捕捉溝81内に押し込まれた状態で、レバー60をスライドさせて係合ピン32を捕捉するように構成しているので、引戸4を取り付ける作業者は、引戸4を押し込むだけでワンタッチで容易に取り付けることができる。
【0058】
また、レバー60には、引戸4を着脱する作業者が左右方向にスライドさせる手動操作部50が設けられ、手動操作部50は、引戸4が開いた状態で建屋の開口部2aの近傍に配置されているので、作業者は手動操作部50を掴みやすい。そのため、レバー60の操作を容易に行うことができる。
【0059】
さらにまた、ベース部材本体43に対してレバー60を引戸の閉方向に付勢するコイルばね52を設けているので、作業者は、レバー60をコイルばね52の付勢方向と逆方向にのみ操作するだけでよい。そのため、着脱作業がさらに軽減され、引戸4を容易に着脱することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態に係る引戸装置1について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0061】
例えば、本実施の形態では、引戸4の着脱作業を引戸4が開いた状態で行うようにしているが、引戸4が閉じた位置で行うようにしてもよい。このとき、建屋側ベース部材40の手動操作部50を引戸4の右端部(左端部4cの反対側端部)の近傍に配置することで、レバー60のスライド操作を容易に行うことができる。これによっても、引戸装置全体の意匠性が良く、引戸4の着脱を容易に行うことができる。
【0062】
また、本実施の形態では、案内ローラー部材30は、引戸側ガイドレール10内を移動ローラー31を介して開閉方向に移動するようにしているが、これに限定されない。例えば、特許文献1のように、ローラーを使用せずに、溝に摺接部材を嵌め込むだけで、摺動させて案内するものであってもよい。また、直動機器など、周知技術を用いて案内するようにしてもよい。
【0063】
さらに、本実施形態の引戸装置1は、
図1および
図2に示すように、建屋側の壁部2の開口部2aが左側にあり、引戸4を左側に移動させることで閉じるものであるが、左右逆の構造であってもかまわない。すなわち、開口部2aが壁部2の右側に位置し、引戸4を右側に移動させることで閉じるものであってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 引戸装置
2 壁部
2a 開口部
2b 上部
2c 右端部
3 床
4 引戸
4a 切り欠き
4b 引戸上端
4c 左端部
10 引戸側ガイドレール
10a 上面部
10b 底面部
10c 前側面部
11a、11b 画成突部
12a 上側転動部
12b 下側転動部
13 後側突条部
13a 案内溝
13b 取付用切り欠き
14 前側突条部
20 開閉体緩衝装置
30 案内ローラー部材(案内部材)
31 移動ローラー
32 係合ピン
33 緩衝用捕捉ピン
34 本体部材
40 建屋側ベース部材
40a 上面部
40b 後面部
40c 底面部
41 ガイド片
42 壁面取付穴
43 ベース部材本体
50 手動操作部
50a 操作部
50b、51b ばね受け部
51 受け部
52 コイルばね(付勢手段)
60a 上側レバー
60b 下側レバー
61 捕捉爪
61a テーパー
62 取付穴
63 第1捕捉溝
70 摺動ピン
81 第2捕捉溝
82 摺動長穴