(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】物理量の測定装置及び温度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01K 11/32 20210101AFI20240910BHJP
G01N 21/45 20060101ALI20240910BHJP
G01K 1/02 20210101ALI20240910BHJP
G08C 15/00 20060101ALI20240910BHJP
G08C 23/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01K11/32 Z
G01N21/45 A
G01K1/02 L
G08C15/00 K
G08C23/06
(21)【出願番号】P 2020161279
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-09-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「測定点に電源不要な多点光ファイバ遠隔温度計測システムの開発]委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深野 秀樹
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-157759(JP,A)
【文献】特開平7-146181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0271769(US,A1)
【文献】特開2000-131155(JP,A)
【文献】特表2008-544395(JP,A)
【文献】特開平10-319241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00 - 19/00
G01N 21/45
G08C 13/00 - 25/04
G01D 5/353
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投光器と、
この投光器から照射された光を導く光ファイバと、
この光ファイバの先端に設けて前記光から干渉光を生じさせるセンサ体と、
前記干渉光を受光する受光器と、
この受光器の出力信号に基づいて所定の物理量を特定する解析器と
を備えた測定装置において、
前記投光器と前記光ファイバとの間には、それぞれ波長の異なる光を出射する複数のポートを備えた波長合分波器を設け、
前記の各ポートに前記光ファイバをそれぞれ接続するとともに、前記センサ体の光スペクトル特性を前記ポートから出射される光の波長に適合させて、
複数箇所の物理量を測定可能とする測定装置。
【請求項2】
前記センサ体は、センサ用光ファイバであって、
前記光ファイバで導かれた光を前記センサ用光ファイバのコアに入射させるとともに、
前記光を反射させて第1反射光を生じさせる第1反射面と、前記光を反射させて第2反射光を生じさせる第2反射面とを備え、前記第1反射光と前記第2反射光とで前記干渉光を生じさせている請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記センサ体は、前記第1反射面と前記第2反射面との間の距離を調整することで、前記光スペクトル特性を調整している
請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記第1反射面は、前記光ファイバと前記センサ用光ファイバとの間に第1空隙を設けることで形成し、前記第2反射面は、前記センサ用光ファイバの先端に第2空隙を設ける
ことで形成している
請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記波長合分波器が、光通信用途の光波長多重分離装置である請求項1~4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
隣り合う複数のポートで1セットとして、1セットのうちの1つのポートに前記光ファイバを接続する請求項1~5のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、
前記センサ用光ファイバは、フォトニック結晶構造ファイバとしている請求項2に記載の測定装置。
【請求項8】
前記光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、
前記センサ用光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとしている請求項2に記載の測定装置。
【請求項9】
前記光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、
前記センサ用光ファイバは、グレーデッドインデックスマルチモード光ファイバとしている請求項2に記載の測定装置。
【請求項10】
前記光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし,
前記センサ用光ファイバは、ステップインデックスマルチモード光ファイバとしている請求項2に記載の測定装置。
【請求項11】
前記光ファイバと前記センサ用光ファイバとは第1円筒管を介して接続し、
前記センサ用光ファイバの先端には第2円筒管を接続している請求項8~10のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項12】
前記センサ用光ファイバの先端に、前記第2円筒管を介して先端部材を接続するとともに、この先端部材の先端面を前記センサ用光ファイバの光軸と90°以外の角度で交差する傾斜面としている請求項11に記載の測定装置。
【請求項13】
前記先端部材を、先端部分を閉塞させた前記第2円筒管としている請求項12に記載の測定装置。
【請求項14】
投光器と、
この投光器から照射された光を導く光ファイバと、
この光ファイバの先端に設けて前記光から干渉光を生じさせるセンサ体と、
前記干渉光を受光する受光器と、
この受光器の出力信号に基づいて温度を特定する解析器と
を備えた温度測定装置において、
前記投光器と前記光ファイバとの間には、それぞれ波長の異なる光を出射する複数のポートを備えた波長合分波器を設け、
前記の各ポートに前記光ファイバをそれぞれ接続するとともに、前記センサ体の光スペクトル特性を前記ポートから出射される光の波長に適合させて、
複数箇所の温度を測定可能とする温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを用いた物理量の測定装置に関し、特に多点計測を可能とした測定装置に関し、より具体的には温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品の切削加工工場や各種飲食物の製造工場等においては、品質安定化のため、あるいは品質保証のために加工温度等を所定の温度域内に制御していることが多い。このような温度制御においては、当然ながら温度計測をしており、温度を計測するための温度センサとしては、状況に応じて適宜の温度センサが用いられている。
【0003】
本発明者は、電場や磁場が発生している環境下や、薬品耐性が必要な環境下等のような特殊な環境下でも使用可能な温度センサとして、光ファイバを利用した温度センサを提案している。
【0004】
具体的には、投光器と、この投光器から出射された光を導く光ファイバと、この光ファイバの先端に設けるセンサ体と、このセンサ体で生じさせた反射光を受光する受光器と、受光器の出力信号から温度を特定する解析器とから構成している(例えば、特許文献1参照。)。特に、センサ体では第1の反射光と第2の反射光とを生じさせ、この第1の反射光と第2の反射光とから干渉光を生じさせ、この干渉光の強度変化がセンサ体の温度変化に応じて変動することを利用している。なお、センサ体で生じさせた反射光は、投光器から出射された光を導く光ファイバ内を通り、この光ファイバの中途部に設けたサーキュレータを介して受光器へと導いている。
【0005】
また、光ファイバを用いた計測装置としては、温度を計測する計測装置だけでなく、屈折率を計測する計測装置として、計測対象物の屈折率の計測や、適宜の感応膜の屈折率変化から濃度等を計測する装置とすることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-058481号公報
【文献】特開2017-102107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の温度計測手段では、1つの温度センサに対して、投光器と受光器とを1セットとして準備する必要があった。したがって、多点計測をする場合には、投光器、受光器及びセンサ体の設置及びそのメンテナンスが非常に煩雑となるという問題があった。
【0008】
なお、光ファイバを用いた計測であって、多点計測を行う方法として、例えば、溶融金属を貯溜した溶湯槽内の溶融金属の温度を計測する特開平05-293619号公報の方法が知られている。この多点計測方法では、溶湯槽に石英製の温度検知素子を複数装着し、この温度検知素子にはそれぞれ光ファイバの一方端を接続し、この光ファイバの他方端は熱線温度計の入力チャンネルにそれぞれ接続して、チャンネル切替えを行うことで多点計測を可能としている。
【0009】
また、特開2003-294609号公報には、光磁気ディスク等の光学製品の光透過率や光反射率を多点計測する測定装置が提案されている。この測定装置では、投光器から出力した光を投光ファイバで計測点に導き、計測点での反射光あるいは透過光を受光ファイバでマルチチャネル分光度計に導いて計測可能としている。計測点は複数存在し、計測点ごとに1組の投光ファイバと受光ファイバを設けている。さらに、受光ファイバの中途部にはビームセレクタを設けて、このビームセレクタによって複数の受光ファイバのうちの1つの受光ファイバから出射される光をマルチチャネル分光度計に入射させて、計測可能としている。
【0010】
すなわち既存の多点計測装置では、多数の計測点のうちのいずれか1点を選択する選択手段を設けて、計測点を切替えながら順次計測することで、多点計測を行うこととしている。
【0011】
本発明者は、本発明者の発明した計測方法においては第1の反射光と第2の反射光とを生じさせ、この第1の反射光と第2の反射光とから生じさせた干渉光の強度変化を検出していることから、検出に利用している光の波長の違いを利用することで重ね合わせることができ、ハード的な選択手段等を用いずに多点計測が可能となることを見出して、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の測定装置では、投光器と、この投光器から照射された光を導く光ファイバと、この光ファイバの先端に設けて前記の光から干渉光を生じさせるセンサ体と、干渉光を受光する受光器と、この受光器の出力信号に基づいて所定の物理量を特定する解析器とを備えた測定装置において、投光器と光ファイバとの間に、それぞれ波長の異なる光を出射する複数のポートを備えた波長合分波器を設けて複数箇所の物理量を測定可能としているものである。
【0013】
特に、本発明の測定装置では、波長合分波器のポートに光ファイバをそれぞれ接続するとともに、その光ファイバの先端に設けたセンサ体の光スペクトル特性を当該ポートから出射される光の波長に適合させていることに特徴を有するものである。
【0014】
さらに、本発明の測定装置では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)センサ体はセンサ用光ファイバであって、前記の光ファイバで導かれた光をセンサ用光ファイバのコアに入射させるとともに、センサ体は入射された光を反射させて第1反射光を生じさせる第1反射面と、第2反射光を生じさせる第2反射面とを備え、第1反射光と第2反射光とで干渉光を生じさせていること。
(2)センサ体は、第1反射面と第2反射面との間の距離を調整することで、光スペクトル特性を調整していること。
(3)第1反射面は、光ファイバとセンサ用光ファイバとの間に第1空隙を設けることで形成し、第2反射面は、センサ用光ファイバの先端に第2空隙を設けることで形成していること。
(4)波長合分波器が、光通信用途の光波長多重分離装置であること。
(5)隣り合う複数のポートで1セットとして、1セットのうちの1つのポートに光ファイバを接続すること。
(6)光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、センサ用光ファイバは、フォトニック結晶構造ファイバとしていること。
(7)光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、センサ用光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとしていること。
(8)光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、センサ用光ファイバは、グレーデッドインデックスマルチモード光ファイバとしていること。
(9)光ファイバは、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし,センサ用光ファイバは、ステップインデックスマルチモード光ファイバとしていること。
(10)光ファイバとセンサ用光ファイバとは第1円筒管を介して接続し、センサ用光ファイバの先端には第2円筒管を接続していること。
(11)センサ用光ファイバの先端に、第2円筒管を介して先端部材を接続するとともに、この先端部材の先端面を前記センサ用光ファイバの光軸と90°以外の角度で交差する傾斜面としていること。
(12)先端部材を、先端部分を閉塞させた前記第2円筒管としていること。
【0015】
本発明の温度測定装置では、投光器と、この投光器から照射された光を導く光ファイバと、この光ファイバの先端に設けて前記の光から干渉光を生じさせるセンサ体と、干渉光を受光する受光器と、この受光器の出力信号に基づいて温度を特定する解析器とを備えた温度測定装置において、投光器と光ファイバとの間に、それぞれ波長の異なる光を出射する複数のポートを備えた波長合分波器を設けて複数箇所の温度を測定可能としているものであり、特に、波長合分波器のポートに光ファイバをそれぞれ接続するとともに、その光ファイバの先端に設けたセンサ体の光スペクトル特性を当該ポートから出射される光の波長に適合させていることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の物理量の測定装置及び温度測定装置では、投光器から入力された光からそれぞれ波長の異なる光を出射する複数のポートを備えた波長合分波器を用い、この波長合分波器の各ポートに光ファイバをそれぞれ接続するとともに、その光ファイバの先端に設けたセンサ体の光スペクトル特性を当該ポートから出射される光の波長に適合させていることで、各センサ体で生じさせた干渉光同士を重畳でき、1つの受光器で複数の干渉光の受光を可能とすることができる。したがって、簡便で保守作業が容易な多点測定装置を提供可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る温度測定装置の概略説明図である。
【
図2】高密度波長分割多重(DWDM)用の合分波器の1つのポートから出射される光のスペクトルのグラフである。
【
図3】センサ用光ファイバをフォトニック結晶構造ファイバの一種であるホーリーファイバとしたセンサ体の説明図である。
【
図4】
図3のセンサ体によって生成される干渉光のスペクトルのグラフである。
【
図5】
図3のセンサ体による水温変化を検出した結果のグラフである。
【
図6】
図5のグラフから得られた水温-ディップ波長の相関を示すグラフである。
【
図7】センサ用光ファイバをグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバとしたセンサ体の説明図である。
【
図8】
図7のセンサ体による水温変化を検出した結果から得られた水温-ディップ波長の相関を示すグラフである。
【
図9】
図7に示したセンサ体の変容例の説明図である。
【
図10】センサ用光ファイバをステップインデックスマルチモード光ファイバとしたセンサ体の説明図である。
【
図11】
図10のセンサ体による水温変化を検出した結果から得られた水温-ディップ波長の相関を示すグラフである。
【
図14】
図13のセンサ体による水温変化を検出した結果から得られた水温-ディップ波長の相関を示すグラフである。
【
図15】センサ用光ファイバをシングルモードの光を伝搬させる光ファイバとしたセンサ体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の物理量の測定装置及び温度測定装置は、投光器と、この投光器から照射された光を導く光ファイバと、この光ファイバの先端に設けて前記の光から干渉光を生じさせるセンサ体と、干渉光を受光する受光器と、この受光器の出力信号に基づいて温度を特定する解析器とを備えた測定装置としている。
【0019】
特に、本発明の測定装置では、投光器と光ファイバとの間に波長合分波器を設けている。波長合分波器では、投光器から入射された光からそれぞれ波長の異なる光を出射可能としており、それぞれ所定波長とした光を出射する複数のポートを備えている。このような波長合分波器としては、光通信用途に汎用されている光波長多重分離装置が知られている。
【0020】
すなわち、本発明の測定装置では、光通信用途に汎用されている光波長多重分離装置を流用することで、多点計測を可能としているものである。
【0021】
特に、光波長多重分離装置を用いるとともに、この光波長多重分離装置の出力用の各ポートにそれぞれ接続した光ファイバの先端に設けたセンサ体は、そのセンサ体の光スペクトル特性を当該ポートから出射される光の波長に適合させている。
【0022】
センサ体の光スペクトル特性とは、そのセンサ体に入射された光から第1の反射光と第2の反射光を生じさせ、この第1の反射光と第2の反射光とによって生じさせる干渉光の干渉条件に対応するものである。
【0023】
センサ体の光スペクトル特性の調整は、第1の反射光を生じさせている第1反射面と第2の反射光を生じさせている第2反射面との間の距離の調整であって、実質的にはセンサ体を構成しているセンサ用光ファイバの長さを調整することで容易に行うことができる。
【0024】
このように、本発明の測定装置は、それぞれ波長の異なる干渉光を生じさせるとともに、それらを重畳させることで、ハード的な選択手段を用いることなく計測対象の干渉光の選択をソフト的に行うことができ、1台の受光器と解析器とで温度計測を可能とすることができる。したがって、温度測定装置の設置及びメンテナンスの労力を大きく軽減することができるとともに、コスト低減にも寄与することができる。
【0025】
以下において、図面に基づいて本発明の実施形態を詳説する。なお、以下においては説明の便宜上、温度測定装置として説明する。
【0026】
本発明の温度測定装置は、
図1に示すように、投光器11と、この投光器11から照射された光を導く第1光ファイバ12-1と、この第1光ファイバ12-1に導かれた光が入力される光サーキュレータ13と、この光サーキュレータ13から出力された光を導く第2光ファイバ12-2と、この第2光ファイバ12-2に導かれた光が入射される波長合分波器15と、この波長合分波器15の出力用のポートに一方端を接続して波長合分波器15から出射された光を導く第3光ファイバ12-3と、この第3光ファイバ12-3の他方端に設けて第3光ファイバ12-3を介して導かれた光から干渉光を生じさせるセンサ体Sと、このセンサ体Sで生じた干渉光を第3光ファイバ12-3→波長合分波器15→第2光ファイバ12-2→光サーキュレータ13の順で光サーキュレータ13に導いて、この光サーキュレータ13から出射された干渉光を導く第4光ファイバ12-4と、この第4光ファイバ12-4を介して導かれた干渉光が入射される受光器16と、この受光器16の出力信号が入力される解析器17とで構成している。
【0027】
第1光ファイバ12-1と、第2光ファイバ12-2と、第3光ファイバ12-3と、第4光ファイバ12-4は、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバとしている。
【0028】
投光器11は、広波長帯域の光を照射可能な照射器としている。本実施形態では、少なくとも1.53~1.57μmの波長の光を照射可能としたASE (Amplified Spontaneous Emission)照射器を用いている。
【0029】
光サーキュレータ13は、投光器11から入射された光を波長合分波器15に向けて出射し、また、波長合分波器15から入射された干渉光を受光器16に向けて出射している。
【0030】
波長合分波器15は、光サーキュレータ13を介して投光器11から入射された光に対して、一定の波長間隔での切り出しを行い、所定波長とした光を出力用の各ポートから出射することとしている。
【0031】
本実施形態では、波長合分波器15としては、光通信に用いられている高密度波長分割多重(DWDM)用の合分波器を使用している。この合分波器では、約0.8nm間隔の波長の光としてそれぞれの出力ポートから出射可能としている。特に、DWDM帯域では100GHz ITUチャンネルとして72チャンネル(1520.25nm~1577.03nm)が国際電気通信連合(ITU)の規格として制定されている。一例としてC-23チャンネルの出力ポートから出射される光のスペクトルを
図2に示す。
【0032】
センサ体Sは、
図3に示すように、センサ用光ファイバ18で構成しており、センサ用光ファイバ18のコアを第3光ファイバ12-3のコアの延長線上に位置させながら第3光ファイバ12-3の先端に装着することで、第3光ファイバ12-3で導かれた光をセンサ用光ファイバ18のコアに入射させている。センサ用光ファイバ18の第3光ファイバ12-3先端への接続は、放電プラズマを用いた熱融着によって簡単に行うことができる。
【0033】
センサ用光ファイバ18の先端には、後述するように第2空隙を形成するための先端部材19を装着している。すなわち、センサ体Sは、センサ用光ファイバ18と先端部材19とで構成している。本実施形態では、先端部材19はシングルモードの光を伝搬させる光ファイバで構成しているが、必ずしも光ファイバである必要はない。なお、光ファイバで先端部材19を構成することで、センサ用光ファイバ18の先端への先端部材19の装着も、放電プラズマを用いた熱融着によって簡単に行うことができる。
【0034】
センサ体Sの構成及びセンサ体Sによる干渉光の生成方法については後述する。
【0035】
受光器16は、受光した光の強度に応じた信号を出力可能としている。特に本実施形態では、受光した光のうちの所定波長ごとの強度に応じた信号を出力する光スペクトラムアナライザの機能を有する受光器としている。
【0036】
解析器17は、本実施形態ではパーソナルコンピュータで構成している。解析器17では、受光器16から出力された信号を解析しており、この解析に必要なプログラムをあらかじめインストールしている。本実施形態では,解析器17はパーソナルコンピュータで構成しているが、専用の処理を実行する装置としてもよい。受光器16と解析器17とは適宜の信号線を介して接続している。
【0037】
以下において、センサ体Sの構成について詳説する。
【0038】
センサ体Sには、
図3に示すように、入射された光を反射させて第1反射光L1を生じさせる第1反射面P1と、入射された光を反射させて第2反射光L2を生じさせる第2反射面P2とを設けている。本実施形態では、センサ用光ファイバ18として、フォトニック結晶構造ファイバの一種であるホーリーファイバを用いている。
【0039】
図3に示すように、第1反射面P1は、第3光ファイバ12-3の先端にセンサ用光ファイバ18を装着する際に、第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバ18との間に第1空隙V1を設けることで形成している。また、第2反射面P2は、センサ用光ファイバ18の先端に先端部材19を装着する際に、センサ用光ファイバ18と先端部材19との間に第2空隙V2を設けることで形成している。
【0040】
センサ体Sとなる所定長さのホーリーファイバは、
図3に示すように、コアの周囲にコアと平行に複数の空洞が配置されている。そこで、ホーリーファイバでは、端面のコアに向けて短時間の放電プラズマを照射することで、コアを含む中心部分のみに局所的な融解を生じさせることができる。この溶融にともなってホーリーファイバの一方端には凹状の第1窪みC1を形成することができ、同様にホーリーファイバの他方端にも凹状の第2窪みC2を形成することができる。
【0041】
第1窪みC1が形成されたセンサ用光ファイバ18を第3光ファイバ12-3の先端に融着させることで、第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバとの間に第1空隙V1を形成することができる。また、第2窪みC2が形成されたセンサ用光ファイバ18の先端に先端部材19を融着させることで、センサ用光ファイバ18と先端部材19との間に第2空隙V2を形成することができる。
【0042】
第3光ファイバ12-3によって第1空隙V1に導かれた光の一部は、第3光ファイバ12-3の端面を第1反射面P1として反射することで第1反射光L1となっている。
【0043】
第1空隙V1に達して第1空隙V1を通過した光は、センサ用光ファイバ18のコアに入射される。このとき、第1空隙V1に接するセンサ用光ファイバ18の端面でも反射光が生じるが、この反射光はセンサ用光ファイバ18の端面自体が平面ではないことから、第3光ファイバ12-3のコアに入射する反射光の量は大きくはなく、特に、第1反射面P1で生じる第1反射光L1と比較して十分に小さくなっているので、後述する干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えている。
【0044】
センサ用光ファイバ18のコアに入射された光は第2空隙V2に達する。このとき、第2空隙V2に接するセンサ用光ファイバ18の端面でも反射光が生じるが、この反射光もセンサ用光ファイバ18の端面自体が平面ではないことから、第3光ファイバ12-3のコアにまで達する反射光の量は大きくはなく、後述する干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えている。
【0045】
第2空隙V2に達して第2空隙V2を通過した光は、先端部材19に入射される。このとき、先端部材19の基端面を第2反射面P2とする第2反射光L2が生じている。特に、上述したように先端部材19をシングルモードの光を伝搬させる光ファイバで構成した場合には、第2反射面P2となる先端部材19の端面を平坦面としやすく、第2反射面P2を反射率の大きい反射面とすることができるので、第2反射光L2の量を大きくすることができる。
【0046】
第2反射光L2は、センサ用光ファイバ18のコアを通り、第1空隙V1を通過して第3光ファイバ12-3のコアに入射され、第1反射光L1と干渉し、干渉光を生じさせることとなっている。
【0047】
なお、先端部材19に達した光のうち、第2反射面P2で反射せずに先端部材19を構成している光ファイバのコアに入射された光は、先端部材19の先端から外部へと出射している。
【0048】
ここで、先端部材19の先端面は、先端部材19を構成している光ファイバのコアの延伸方向、すなわち光軸方向と90°以外の角度で交差する傾斜面Tとしている。このように、先端部材19の先端面を傾斜面Tとしておくことで、この傾斜面Tに達した光の反射光が、センサ用光ファイバ18のコアを通って第3光ファイバ12-3のコアに入射されて、上述した干渉光に影響を与えることがないようにしている。
【0049】
このように構成したセンサ体Sで生成した干渉光のスペクトルを
図4に示す。ここで、センサ体Sには、照射器から出射された広い波長帯域の光をそのまま入射させている。
図4に示すように、干渉光は周期的で急峻な凹凸波形のスペクトルとなっている。
【0050】
また、干渉次数をmとし、干渉波長をλmとし、センサ用光ファイバ18のコアの実効屈折率をneffとし、第1反射面P1と第2反射面P2との間隔寸法(本実施形態でのセンサ用光ファイバ18の長さ寸法)をLとすると、下記の関係式となっている。
λm=2neffL/m
【0051】
すなわち、干渉波長は、本実施形態でのセンサ用光ファイバ18の長さ寸法、厳密には第1反射面P1と第2反射面P2との間隔寸法で調整可能であることを示している。
【0052】
そこで、波長合分波器15の所定のポートから出射される光の波長が、干渉波長λmと一致するように第1反射面P1と第2反射面P2との間の距離である長さLを調整したセンサ用光ファイバ18を、当該ポートに接続した第3光ファイバ12-3の先端に装着することで、波長合分波器15は、各第3光ファイバ12-3を介して波長合分波器15に入射された各干渉光を互いに重畳した合波とし、光サーキュレータ13へと出射することができる。
【0053】
ここで、第3光ファイバ12-3の長さは問題ではなく、適宜の長さとすることができるので、多数のセンサ体Sを適宜配置することができることにもなっている。
【0054】
具体的に1つのセンサ体Sで水温変化を検出した結果を
図5に示す。ここで、第3光ファイバ12-3は、コア径が8.2μmで、クラッド径が125μmであるシングルモードの光を伝搬させる光ファイバとし、センサ用光ファイバ18は、ファイバ径が125μmである石英製のホーリーファイバとしている。センサ用光ファイバ18の長さは約1040μmとしている。
【0055】
図5では、スペクトルの特定の凹部の波長(以下において、「ディップ波長」という。)が、水温の上昇に応じて長波長側にシフトしていることが示されている。この水温とディップ波長との関係を示したグラフが
図6であり、精度良く水温検出が可能であることが示されている。
【0056】
なお、
図5における干渉光のスペクトルの波長シフトは、センサ体Sを構成しているセンサ用光ファイバ18の熱膨張にともなう第1反射面P1と第2反射面P2との間の距離の変化の影響だけでなく、センサ用光ファイバ18自体の屈折率も変化することでセンサ用光ファイバ18を通過する第2反射光L2の位相が大きく変化していることも影響していると考えている。また、センサ用光ファイバ18自体の長さや屈折率は歪や圧力の影響を受けることによっても変化するため、これらの物理量のセンサとして応用することもできると考えている。
【0057】
解析器17では、
図6に示される計測対象の温度(ここでは水温)とディップ波長との相関関係の情報をあらかじめ記憶しておくことで、ディップ波長の検出から温度を特定することができる。ディップ波長の検出は、適宜の最低値検出アルゴリズム等を用いて容易に行うことができる。また、
図6に示すように、温度分解能が約0.4℃であることから、高精度な温度変化検出装置として使用することもでき、所定の温度管理範囲を超えたことを検出すように構成することもできる。
【0058】
本実施形態で波長合分波器15として用いた高密度波長分割多重(DWDM)用の合分波器では、隣り合った出力ポートから出力される光の波長差は約0.8nmであり、センサ用光ファイバ18の長さを約1040μmとすることで、
図5に示すように0℃~60℃の計測温度域において1558.6~1559.4nmの範囲でのディップ波長の検出が可能となっている。
【0059】
一方、例えば80℃の温度計測を行う場合には、波長合分波器15の隣のポートに60℃以上の温度計測に対応するセンサ用光ファイバを接続し、隣り合う2つのポートを1セットとして、それぞれのセンサ体Sを近接させて配置し、0℃~60℃の計測温度を一方のポートで、60℃~120℃の計測温度を他方のポートで計測することで対応できる。
【0060】
また、
図5の60.8℃のスペクトルでは、波長1558.6nmと波長1559.3nmとでの2つのスペクトルディップが存在しており、温度上昇にともなってスペクトルディップが長波長側にシフトすることを考えると、短波長側のスペクトルディップを誤検出するおそれがある。
【0061】
このような場合には、隣り合ったスペクトルディップの波長間隔Δλmが、
Δλm=λm-λm+1=λm
2/2neffL
であることから、センサ用光ファイバ18の長さ寸法Lを半分とすることで、隣り合ったスペクトルディップの波長間隔Δλmを2倍とすることができるので、上記の問題を解消することができる。
【0062】
また、センサ用光ファイバ18の長さ寸法Lをすべてのセンサ体Sで同じ長さで構成した場合には、2つのポートを1セットして、一方のポート(例えば短波長側のポート)のみを使用する、すなわち、1つ飛ばしでポートを使用することで、誤検出を防止可能とすることができる。
【0063】
なお、センサ用光ファイバ18の長さ寸法Lを半分とする場合だけでなく、適当に短くすることでΔλmを波長合分波器15のポート間の波長周期より長く設定してもよい。この場合には、ポート毎に適切なスペクトル特性を有する光ファイバセンサを準備する。
【0064】
上述した実施形態では、センサ用光ファイバ18としてホーリーファイバを用いた形態について説明したが、その他の形態の光ファイバを用いることもできる。以下において、センサ体の変容例について説明する。なお、センサ体以外は、上述した温度測定装置と同一構成であり、同一構成部分については同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
【0065】
<センサ用光ファイバがグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバの場合>
まず、センサ用光ファイバとしてグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバを用いた場合について説明する。
【0066】
図7に示すように、本実施形態のセンサ体S1は、センサ用光ファイバ28をグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバで構成し、第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバ28との間には第1円筒管D1を介設し、センサ用光ファイバ28の先端側には第2円筒管D2を装着し、この第2円筒管D2の先端側に先端部材29を装着している。すなわち、本実施形態のセンサ体S1は、第3光ファイバ12-3側から、第1円筒管D1、センサ用光ファイバ28、第2円筒管D2、先端部材29の順で構成している。本実施形態でも、先端部材29はシングルモードの光を伝搬させる光ファイバとしている。
【0067】
第1円筒管D1は、中空の石英管であって、第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバ28との間に介設することで第1空隙V1'を形成するために設けている。また、第2円筒管D2も、中空の石英管であって、センサ用光ファイバ28と先端部材19との間に介設することで第2空隙V2'を形成するために設けている。
【0068】
第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバ28との間に第1空隙V1'を設けることで、第3光ファイバ12-3の先端面を第1反射面P1'としている。また、センサ用光ファイバ28と先端部材19との間に第2空隙V2'を設けることで、センサ用光ファイバ28の先端面を第2反射面P2'としている。
【0069】
第1円筒管D1は、放電プラズマを用いた熱融着によって容易に第3光ファイバ12-3の先端及びセンサ用光ファイバ28の基端に装着できる。また、第2円筒管D2も、放電プラズマを用いた熱融着によって容易にセンサ用光ファイバ28の先端及び先端部材29の基端に装着できる。
【0070】
センサ用光ファイバ28は、第3光ファイバ12-3のコアの延長線上にコアを位置させている。さらに、光ファイバで構成した先端部材29は、センサ用光ファイバ28のコアの延長線上にコアを位置させている。
【0071】
第3光ファイバ12-3によって第1空隙V1'に導かれた光の一部は、第3光ファイバ12-3の端面を第1反射面P1'として反射することで第1反射光L1'を生じさせている。
【0072】
第3光ファイバ12-3から第1空隙V1'に入射された光は、第1空隙V1'を通ってセンサ用光ファイバ28の基端面に達する。このセンサ用光ファイバ28の基端面でも反射光が生じるが、第3光ファイバ12-3から第1空隙V1'に出射された光は、光の回折によって広がり角をもって第1空隙V1'内を進行するため、センサ用光ファイバ28の基端面に達した際に第3光ファイバ12-3のコアに向けて反射する光の強度が第1反射光L1'と比較して十分に小さく、干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えられる。
【0073】
センサ用光ファイバ28に入射した光は、センサ用光ファイバ28がグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバであることによって、周期的に拡大と集光を繰り返しながら進行し、第2空隙V2'に導かれる。そこで、センサ用光ファイバ28の長さは、センサ用光ファイバ28の先端において光が丁度集光する状態となる長さとしておくことが望ましい。
【0074】
第2空隙V2'に接するセンサ用光ファイバ28の先端面に達した光の一部は、この先端面を第2反射面P2'として反射し、第2反射光L2'を生じさせている。
【0075】
また、センサ用光ファイバ28の先端面に達して第2空隙V2'に入射した光の一部は、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバで構成した先端部材29の基端面においても反射して反射光を生じさせている。ただし、この反射光は、センサ用光ファイバ28から第2空隙V2'に出射された光が、第2空隙V2'内を進行する際に光の回折によって広がり角をもって進行するため、先端部材29の基端面に達した際にセンサ用光ファイバ28のコアに向けて反射する光の強度が第2反射光L2'と比較して十分に小さくなり、干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えられる。
【0076】
ここで、先端部材29の先端面は、先端部材29を構成している光ファイバのコアの延伸方向、すなわち光軸方向と90°以外の角度で交差する傾斜面としている。このように、先端部材29の先端面を傾斜面としておくことで、この傾斜面に達した光の反射光が、センサ用光ファイバ28のコアを通って第3光ファイバ12-3のコアに入射されて、上述した干渉光に影響を与えることがないようにしている。
【0077】
グレーデッドインデックスマルチモード光ファイバで構成したセンサ用光ファイバ28の長さを、センサ用光ファイバ28の先端において光が丁度集光する状態となる長さとした場合には、センサ用光ファイバ28の先端面で最大の反射効率で第2反射光L2'を生成することができる。この結果、第1反射光L1'と、第2空隙V2'の存在によって入射光から生じさせた第2反射光L2'とが干渉して、周期的な凹凸波形のスペクトルを示す干渉光を生成することができる。
【0078】
ここで、
図4のように周期的で急峻な凹凸波形としてあらわれる干渉光のスペクトルのm次の干渉波長λ
mは、n
GIをセンサ用光ファイバ28であるグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバの実効屈折率、L
GIをセンサ用光ファイバ28であるグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバの長さ、L
D1を第1円筒管D1の長さとして
λ
m=2(n
GIL
GI+L
D1)/m
となる。なお、第1円筒管D1内は空気で、屈折率は1としている。
【0079】
すなわち、LGI及びLD1の長さを調整してセンサ体を作製することにより、波長合分波器15の所定のポートから出力される光の波長に対応させたセンサ体を作製することができる。
【0080】
ここで、シングルモードの光ファイバである第3光ファイバ12-3のコア径を8.2μm、クラッド径を125μmとし、グレーデッドインデックスマルチモード光ファイバであるセンサ用光ファイバ28のコア径を100μm、クラッド径を125μmとし、石英管である第1円筒管D1及び第2円筒管D2の外径を125μmとし、さらに、センサ用光ファイバ28の長さを約700μm、第1円筒管D1の長さを約170μmとしてセンサ体を作製し、水温計測を行った場合の結果を
図8に示す。
【0081】
図8に示すように、ディップ波長は、水温の上昇とともに線形性良く長波長側にシフトしており、ディップ波長を測定することで温度が精度よく見積もれることがわかる。
【0082】
上述したように、センサ用光ファイバ28をグレーデッドインデックスマルチモード光ファイバで構成した場合には、第2反射面P2'をセンサ用光ファイバ28の先端面としているため、先端部材29の基端面では、強い反射光を生じさせない方が望ましい。
【0083】
そこで、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバで構成する先端部材29の代わりに、
図9に示すように、先端部材D29を第2円筒管D2と一体的としたキャップ構造としてもよい。
【0084】
すなわち、この先端部材D29は、第2円筒管D2をセンサ用光ファイバ28の先端に放電プラズマを用いて熱融着した後に、さらに、第2円筒管D2の先端側に放電プラズマを照射して先端部分を融解させて整形することで先端部分を閉塞させた構造としている。このとき、第2空隙V2'は、円錐台に近い形状となっている。また、先端部材D29の先端面は、センサ用光ファイバ28の光軸と90°以外の角度で交差する傾斜面T'として、この傾斜面T'で生じる反射光がセンサ用光ファイバ28及び第3光ファイバ12-3に導かれることを抑制している。
【0085】
図9に示すように、第2円筒管の先端を閉塞させて形成した先端部材D29を、説明の便宜上、「先端部材代用円筒管」と呼ぶこととする。
【0086】
<センサ用光ファイバがステップインデックスマルチモード光ファイバの場合>
次に、センサ用光ファイバとしてステップインデックスマルチモード光ファイバを用いた場合について説明する。
【0087】
図10に示すように、本実施形態のセンサ体S2は、センサ用光ファイバ38をステップインデックスマルチモード光ファイバで構成し、第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバ38との間には第1円筒管D1"を介設し、センサ用光ファイバ38の先端側には先端部材代用円筒管D29"を装着している。すなわち、本実施形態のセンサ体S2は、第3光ファイバ12-3側から、第1円筒管D1"、センサ用光ファイバ38、先端部材代用円筒管D29"の順で構成している。
【0088】
第1円筒管D1"は、放電プラズマを用いた熱融着によって容易に第3光ファイバ12-3の先端及びセンサ用光ファイバ38の基端に装着でき、この第1円筒管D1"によって第1空隙V1"を形成している。
【0089】
先端部材代用円筒管D29"は、第1円筒管D1"と同様の石英管を、放電プラズマを用いた熱融着によってセンサ用光ファイバ38の先端に装着し、この石英管の先端側に放電プラズマを照射して先端部分を融解させて閉塞し、第2空隙V2"を形成している。さらに、先端部材代用円筒管D29"の先端面は、センサ用光ファイバ38の光軸と90°以外の角度で交差する傾斜面T"として、この傾斜面T"で生じる反射光がセンサ用光ファイバ38及び第3光ファイバ12-3に導かれることを抑制している。
【0090】
センサ用光ファイバ38は、第3光ファイバ12-3のコアの延長線上にコアを位置させている。
【0091】
第3光ファイバ12-3によって第1空隙V1"に導かれた光の一部は、第3光ファイバ12-3の端面を第1反射面P1"として反射することで第1反射光L1"を生じさせている。
【0092】
第3光ファイバ12-3から第1空隙V1"に入射された光は、第1空隙V1"を通ってセンサ用光ファイバ38の基端面に達する。このセンサ用光ファイバ38の基端面でも反射光が生じるが、第3光ファイバ12-3から第1空隙V1"に出射された光は、光の回折によって広がり角をもって第1空隙V1"内を進行するため、センサ用光ファイバ38の基端面に達した際に第3光ファイバ12-3のコアに向けて反射する光の強度が第1反射光L1"と比較して十分に小さく、干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えられる。
【0093】
第1空隙V1"を通過してセンサ用光ファイバ38に入射した光は、ステップインデックスマルチモード光ファイバであるセンサ用光ファイバ38によって第2空隙V2"に導かれる。
【0094】
第2空隙V2"に接するセンサ用光ファイバ38の先端面に達した光の一部は、この先端面を第2反射面P2"として反射し、第2反射光L2"を生じさせている。
【0095】
また、センサ用光ファイバ38の先端面に達して第2空隙V2"に入射した光は、第2空隙V2"を通過して先端部材代用円筒管D29"に達し、先端部材代用円筒管D29"の先端から外部に向けて出射している。
【0096】
先端部材代用円筒管D29"に達した光からも反射光が生じるが、センサ用光ファイバ38のコアに向けて反射する光の強度が第2反射光L2"と比較して十分に小さくなり、干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えられる。
【0097】
ここで、
図4のように周期的で急峻な凹凸波形としてあらわれる干渉光のスペクトルのm次の干渉波長λ
mは、n
SIをセンサ用光ファイバ38であるステップインデックスマルチモード光ファイバの実効屈折率、L
SIをセンサ用光ファイバ38であるステップインデックスマルチモード光ファイバの長さ、L
D1を第1円筒管D1"の長さとして
λ
m=2(n
SIL
SI+L
D1)/m
となる。なお、第1円筒管D1"内は空気で、屈折率は1としている。
【0098】
LSI及びLD1の長さを調整してセンサ体を作製することにより、波長合分波器15の所定のポートから出力される光の波長に対応させたセンサ体を作製することができる。
【0099】
ここで、シングルモードの光ファイバである第3光ファイバ12-3のコア径を8.2μm、クラッド径を125μmとし、ステップインデックスマルチモード光ファイバであるセンサ用光ファイバ38のコア径を25μm、クラッド径を125μmとし、石英管である第1円筒管D1"の外径を125μmとし、さらに、センサ用光ファイバ38の長さを約740μm、第1円筒管D1"の長さを約168μmとしてセンサ体を作製し、水温計測を行った場合の結果を
図11に示す。
【0100】
図11に示すように、ディップ波長は、温度の上昇とともに線形性良く長波長側にシフトしており、ディップ波長を測定することで温度が精度よく見積もれることがわかる。
【0101】
センサ用光ファイバ38をステップインデックスマルチモード光ファイバで構成した場合、第2反射光L2"の強度が第1反射光L1"の強度と比較して小さくなることが予想される。
【0102】
このような場合には、
図12に示すように、第1空隙V1"に面するセンサ用光ファイバ38の基端面を、第1空隙V1"側に向けて膨出させた凸状レンズ面Rとすることで、センサ用光ファイバ38から第3光ファイバ12-3のコアに入射される第2反射光L2"の光量を増大させることができ、第2反射光L2"の強度を増強することができる。
【0103】
本実施形態では、第1空隙V1"を形成するために第1円筒管D1"を設けているが、例えば、第1円筒管D1"の代わりに、
図13に示すように、端部に凹状の窪みC3を設けたホーリーファイバを空隙形成体D3"として用いることもできる。
【0104】
すなわち、空隙形成体D3"は、所定の長さとしたホーリーファイバであって、一方の端部には、短時間の放電プラズマを照射することで凹状の窪みC3を形成しておき、窪みC3のない方の端部を第3光ファイバ12-3の先端に放電プラズマを用いた熱融着によって接続している。
【0105】
そして、窪みC3が形成されているホーリーファイバの端部に、ステップインデックスマルチモード光ファイバであるセンサ用光ファイバ38の先端を、放電プラズマを用いた熱融着によって接続し、第1空隙V3"を形成している。
【0106】
この場合には、実質的にセンサ用光ファイバ38の基端面が第1反射面P3"として機能し、またセンサ用光ファイバ38の先端面が第2反射面P2"となるので、センサ用光ファイバ38の長さ調整のみで、光スペクトル特性への合わせ込みを行うことができる。
【0107】
この形態としたセンサ体で水温計測を行った場合の結果を
図14に示す。ここで、センサ用光ファイバ38の長さは、約777μmとしている。
図14に示すように、ディップ波長は、温度の上昇とともに線形性良く長波長側にシフトしており、ディップ波長を測定することで温度が精度よく見積もれることがわかる。
【0108】
<センサ用光ファイバがシングルモードの光を伝搬させる光ファイバの場合>
次に、センサ用光ファイバとしてシングルモードの光を伝搬させる光ファイバを用いた場合について説明する。この場合、基本的には、上述したステップインデックスマルチモード光ファイバの代わりに、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバを用いているだけである。
【0109】
図15に示すように、本実施形態のセンサ体S3は、センサ用光ファイバ48をシングルモードの光を伝搬させる光ファイバで構成し、第3光ファイバ12-3とセンサ用光ファイバ48との間には第1円筒管D1"を介設し、センサ用光ファイバ48の先端側には先端部材代用円筒管D29"を装着している。すなわち、本実施形態のセンサ体S3は、第3光ファイバ12-3側から、第1円筒管D1"、センサ用光ファイバ48、先端部材代用円筒管D29"の順で構成している。
【0110】
第1円筒管D1"は、放電プラズマを用いた熱融着によって容易に第3光ファイバ12-3の端部及びセンサ用光ファイバ48の端部に装着でき、この第1円筒管D1"によって第1空隙V1"を形成している。
【0111】
先端部材代用円筒管D29"は、第1円筒管D1"と同様の石英管を、放電プラズマを用いた熱融着によってセンサ用光ファイバ48の先端に装着し、この石英管の先端側に放電プラズマを照射して先端部分を融解させて閉塞し、第2空隙V2"を形成している。さらに、先端部材代用円筒管D29"の先端面は、センサ用光ファイバ48の光軸と90°以外の角度で交差する傾斜面T"として、この傾斜面T"で生じる反射光がセンサ用光ファイバ48及び第3光ファイバ12-3に導かれることを抑制している。
【0112】
センサ用光ファイバ48は、第3光ファイバ12-3のコアの延長線上にコアを位置させている。
【0113】
第3光ファイバ12-3によって第1空隙V1"に導かれた光の一部は、第3光ファイバ12-3の端面を第1反射面P1"として反射することで第1反射光L1"を生じさせている。
【0114】
第3光ファイバ12-3から第1空隙V1"に入射された光は、第1空隙V1"を通ってセンサ用光ファイバ48の基端面に達する。このセンサ用光ファイバ48の基端面でも反射光が生じるが、第3光ファイバ12-3から第1空隙V1"に出射された光は、光の回折によって広がり角をもって第1空隙V1"内を進行するため、センサ用光ファイバ48の基端面に達した際に第3光ファイバ12-3のコアに向けて反射する光の強度が第1反射光L1"と比較して十分に小さく、干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えられる。
【0115】
第1空隙V1"を通過してセンサ用光ファイバ48に入射した光は、シングルモードの光を伝搬させる光ファイバであるセンサ用光ファイバ48によって第2空隙V2"に導かれる。
【0116】
第2空隙V2"に接するセンサ用光ファイバ48の先端面に達した光の一部は、この先端面を第2反射面P2"として反射し、第2反射光L2"を生じさせている。
【0117】
また、センサ用光ファイバ48の先端面に達して第2空隙V2"に入射した光は、第2空隙V2"を通過して先端部材代用円筒管D29"に達し、先端部材代用円筒管D29"の先端から外部に向けて出射している。
【0118】
先端部材代用円筒管D29"に達した光からも反射光が生じるが、センサ用光ファイバ48のコアに向けて反射する光の強度が第2反射光L2"と比較して十分に小さくなり、干渉光の生成に大きな影響を与えていないと考えられる。
【0119】
また、必要に応じて、
図16に示すように、第1空隙V1"に面するセンサ用光ファイバ48の基端面を、第1空隙V1"側に向けて膨出させた凸状レンズ面R"とすることで、センサ用光ファイバ48から第3光ファイバ12-3のコアに入射される第2反射光L2"の光量を増大させる構成としてもよい。
【0120】
あるいは、図示しないが、上述したように、第1円筒管D1"の代わりに、端部に凹状の窪みを設けたホーリーファイバで構成した空隙形成体を用いてもよい。
【0121】
上記の各種実施形態では、センサ体を光ファイバ温度センサとしているが、温度センサに限らず、各種の光ファイバセンサに置き換えることで、いろいろな多点測定に応用できる。例えば、周囲に存在している物質の屈折率によって光スペクトルの波長シフトが生じる光ファイバ屈折率センサに置き換えることによって、多点屈折率測定装置とすることができる。さらに、例えば屈折率で区別可能な被測定物の種類あるいは溶液における溶質の濃度を多点にて測定可能な計測装置とすることもできる。
【符号の説明】
【0122】
S,S1,S2,S3 センサ体
11 投光器
12-1 第1光ファイバ
12-2 第2光ファイバ
12-3 第3光ファイバ
12-4 第4光ファイバ
13 光サーキュレータ
15 波長合分波器
16 受光器
17 解析器
18,28,38,48 センサ用光ファイバ
19,29,D29 先端部材
D29" 先端部材代用円筒管
L1,L1',L1" 第1反射光
L2,L2',L2" 第2反射光
P1,P1',P1" 第1反射面
P2,P2',P2" 第2反射面
P3" 第1反射面
V1,V1',V1" 第1空隙
V2,V2',V2" 第2空隙
V3" 第1空隙
C1 第1窪み
C2 第2窪み
C3 窪み
D1,D1" 第1円筒管
D2 第2円筒管
D3" 空隙形成体
T,T',T" 傾斜面
R,R" 凸状レンズ面