(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】酸素分圧の精密制御を可能とする加熱酸化炉、及び酸化速度測定装置
(51)【国際特許分類】
F27D 7/06 20060101AFI20240910BHJP
C23C 8/16 20060101ALI20240910BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20240910BHJP
F27B 17/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F27D7/06 C
C23C8/16
F27D21/00 A
F27B17/00 D
(21)【出願番号】P 2020168532
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】村上 秀之
(72)【発明者】
【氏名】福本 倫久
(72)【発明者】
【氏名】中島 可能
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-274484(JP,A)
【文献】特開平02-141526(JP,A)
【文献】特開平05-187784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 7/06
C23C 8/16
F27D 21/00
F27B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定濃度の酸素を含有する雰囲気ガスを用いて、酸化処理対象となる試料を酸化処理温度で酸化処理する酸化炉と、
水蒸気を含有する供給ガスを用いて、前記酸化炉に対して、前記雰囲気ガスの酸素濃度を前記所定濃度に維持するのに必要な酸素を供給する第1の酸素ポンプ・センサーと、
前記酸化炉内の前記試料の周囲環境に存在する前記雰囲気ガスの酸素濃度を測定する酸素センサーと、
を備える酸素分圧の精密制御を可能とする加熱酸化炉
であって、
前記第1の酸素ポンプ・センサーは、
前記水蒸気を含有する供給ガスを用いて、前記酸化炉に対して供給する酸素濃度を含有するガスを供給する第1の耐熱性セラミックス管と、
前記第1の耐熱性セラミックス管の管壁面に設けられた第1及び第2の白金電極と、
前記第1の耐熱性セラミックス管の外周面であって、前記第1及び第2の白金電極の位置する領域を所定温度に加熱する第1の管路加熱部と、
前記第1の白金電極に定電圧を印加して、前記供給ガスに含まれる水蒸気を電気分解して水素を生成する第1の水素生成手段と、前記第1の白金電極と第2の白金電極の間に位置する酸素ガス供給領域から、前記生成された水素に対して不足する酸素を供給する第1の酸素供給部とを備える第1のポンプ部と、
前記第2の白金電極により、前記生成された水素と前記第1の酸素供給部より供給された酸素とを反応させて生じる起電力を測定する第1のセンサー部と、
前記第1のセンサー部で、酸化初期時における酸素分圧になるように第1の初期起電力を設定して、前記第1の水素生成手段で生成された水素ガスにより酸素分圧が減少しても、前記第1のポンプ部で電流を流すことで酸素分圧を維持し、前記第1の初期設定起電力に戻す第1の電流制御部と、
前記第1の電流制御部により設定された電流値によって、水蒸気酸化により発生した水素量を算出して、前記供給ガスに対して供給された酸素ガス量を算出する酸素ガス量供給量演算手段と、
を備える加熱酸化炉。
【請求項2】
前記第1及び第2の白金電極は、前記耐熱性セラミックス管の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられる請求項
1に記載の加熱酸化炉。
【請求項3】
前記第1の耐熱性セラミックス管は、イットリア安定化ジルコニア管であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の加熱酸化炉。
【請求項4】
前記供給ガスは、水蒸気飽和した不活性ガスであることを特徴とする請求項
1乃至3に記載の加熱酸化炉。
【請求項5】
前記試料はニッケル基合金であり、
前記第1の初期起電力は、前記試料の表面でAl2O3が優先的に生成、成長する条件で予備酸化させるように、前記雰囲気ガスの酸素分圧を制御する値とし、
前記第1の初期起電力に後続する第1の後続起電力は、前記試料の表面にAl
2O
3を生成させた後、前記雰囲気ガスの酸素分圧を上げることで前記試料の表面に生成されたAl
2O
3の成長を促進するように、前記雰囲気ガスの酸素分圧を制御する値とすることを特徴とする請求項
1乃至4に記載の加熱酸化炉。
【請求項6】
前記第1の初期起電力の制御値は、前記試料の表面の予備酸化の期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であり、
前記第1の後続起電力の制御値は、前記試料の表面のAl
2O
3の成長促進期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値である、ことを特徴とする請求項
5に記載の加熱酸化炉。
【請求項7】
請求項1乃至
6に記載の加熱酸化炉と、
前記
加熱酸化炉内に導入した試料の酸化量を測定する第2の酸素ポンプ・センサーと、
を備える酸化速度測定装置
であって、
前記第2の酸素ポンプ・センサーは、
前記酸化炉内の前記雰囲気ガスを入力して、前記試料の酸化によって酸素濃度が減少した排気ガスを流す第2の耐熱性セラミックス管と、
前記第2の耐熱性セラミックス管の管壁の内面及び外面に設けられた第3及び第4の白金電極と、
前記第2の耐熱性セラミックス管の外周面であって、前記第3及び第4の白金電極の位置する領域を第2の所定温度に加熱する第2の管路加熱部と、
前記第3の白金電極に定電圧を印加して、前記雰囲気ガスに含まれる水蒸気を電気分解して水素を生成する第2の水素生成手段と、前記第3の白金電極と第4の白金電極の間に位置する酸素ガス供給領域から前記生成された水素に対して不足する酸素を供給する第2の酸素供給部とを備える第2のポンプ部と、
前記第4の白金電極により、前記生成された水素と前記第2の酸素供給部より供給された酸素とを反応させて生じる起電力を測定する第2のセンサー部と、
前記第2のセンサー部で、酸化初期時における酸素分圧になるように第2の初期起電力を設定して、前記第2の水素生成手段で生成された水素ガスにより酸素分圧が減少しても、前記第2のポンプ部で電流を流すことで酸素分圧を維持し、前記第2の初期設定起電力に戻す第2の電流制御部と、
前記第2の電流制御部により設定された電流値によって、前記酸化炉内の前記試料の水蒸気酸化により発生した水素量を算出して、前記酸化炉の前記試料の酸化速度を算出する酸化速度演算手段と、
を備える酸化速度測定装置。
【請求項8】
前記第3及び第4の白金電極は、前記耐熱性セラミックス管の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられる請求項
7に記載の酸化速度測定装置。
【請求項9】
前記第2の耐熱性セラミックス管は、イットリア安定化ジルコニア管であることを特徴とする請求項
7又は8に記載の酸化速度測定装置。
【請求項10】
前記供給ガスは、水蒸気飽和した不活性ガスであることを特徴とする請求項
7乃至9に記載の酸化速度測定装置。
【請求項11】
前記試料はニッケル基合金であり、
前記第2の初期起電力は、前記試料の表面でAl
2O
3が優先的に生成、成長する条件で予備酸化させるように、前記雰囲気ガスの酸素分圧を制御する値とし、
前記第2の初期起電力に後続する第2の後続起電力は、前記試料の表面にAl
2O
3を生成させた後、前記雰囲気ガスの酸素分圧を上げることで前記試料の表面に生成されたAl
2O
3の成長を促進するように、前記雰囲気ガスの酸素分圧を制御する値とすることを特徴とする請求項
7乃至10に記載の酸化速度測定装置。
【請求項12】
前記第2の初期起電力の制御値は、前記試料の表面の予備酸化の期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であり、
前記第2の後続起電力の制御値は、前記試料の表面のAl
2O
3の成長促進期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値である、ことを特徴とする請求項
11に記載の酸化速度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばタービン翼用のニッケル基合金の熱遮蔽コーティング等に用いて好適な、酸素分圧の精密制御を可能とする加熱酸化炉に関する。
また本発明は、当該加熱酸化炉を用いた予備酸化処理や、予備酸化処理によって得られる耐酸化特性に優れた合金の製作に用いて好適な酸化速度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者や出願人は、例えばタービン翼用のニッケル基合金の熱遮蔽コーティングに関する提案を、例えば特許文献1、2で提案している。この様なニッケル基合金の熱遮蔽コーティングでは、酸化処理を行う場合の合金表面に生成する酸化物の状態観察が重要になってくる。タービン翼は航空機用のジェットエンジンや発電機用タービンに用いられている。
【0003】
例えばNi-25at%Al合金を加熱して酸化処理を行う場合、通常の酸素濃度で酸化処理をすると、合金表面に生成する酸化物は、最表面から金属表面へ向かってNiO、NiAl2O4、Al2O3といった三層構造となり、その後表面のNiO、NiAl2O4が剥離し保護層であるAl2O3単体の成長が始まる。この場合、NiO、NiAl2O4の成長速度がAl2O3よりも早いため、Al2O3単層となるまでに表面の金属が消費されると言う課題がある。また、成長速度の速いNiO、NiAl2O4からクラックが生成してAl2O3保護層から金属表面へ伝搬することなどにより、耐酸化特性が十分に得られないと言う課題も生じる。
【0004】
ニッケル基合金の熱遮蔽コーティングに関する他の手法として、例えば、金属材料表面にAl2O3をスパッタ法で直接コーティングさせる方法や、予備酸化処理によってAl2O3を生成させる方法などが知られている。これに倣って、前記Ni-25at%Al合金においてもNiO、NiAl2O4を生成させる事無く直接Al2O3を表面に成長させることができれば、表面の金属が消費されることなく、耐酸化特性が良好になることが期待される。
しかし、通常の予備酸化手法ではAl2O3の生成、成長に時間がかかり、またNiO、NiAl2O4といった成長速度の速い酸化物ができ、耐酸化特性を十分に与えることが難しい。他方、Al2O3をスパッタ法等で直接コーティングさせる方法もあるが、平滑ではない複雑な形状の表面へのコーティングが難しく、プロセスコストも高くなる。
【0005】
他方で、硝子製造の分野では、酸素濃度を調整する雰囲気制御した炉が、例えば特許文献3、4で提案されている。しかしながら、ニッケル基合金の熱遮蔽コーティングに関する分野では、酸素分圧を調整することによってAl2O3単層を生成、成長させるという方法は知られていない。また、ニッケル基合金の熱遮蔽コーティングに関する分野に、硝子製造の分野で使用されている酸素濃度を調整する雰囲気制御した炉をそのまま用いたのでは、簡単な設備で酸素分圧の制御によって酸化プロセスを制御することは、困難であるという課題があった。
他方、予備酸化処理によって安定なAl2O3を生成、成長させる試みも非特許文献1で報告されているが、酸素分圧の調整が困難なこと、Al2O3の選択成長をさせやすいMCrAlY系コーティングに限られていることが課題として挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-227663号公報
【文献】特開2015-059235号公報
【文献】特開昭57-160920号公報
【文献】特開平2-141526号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】根上将大ら、予備酸化処理による高温酸化物の成長抑制と遮熱コーティングの長寿命化、日本ガスタービン学会誌 Vol48(2020)、No.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ニッケル基合金の熱遮蔽コーティング等において、予備酸化処理によって安定なAl2O3を生成、成長させるのに好適な、酸素分圧を制御できる加熱酸化炉を提供することである。
また本発明の目的は、ニッケル基合金の熱遮蔽コーティング等において、予備酸化処理によって安定なAl2O3を生成、成長させるのに好適な、酸素分圧を制御できる加熱酸化炉に用いて好適な、酸化速度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕本発明の加熱酸化炉は、例えば
図1に示すように、所定濃度の酸素を含有する雰囲気ガス6を用いて、酸化処理対象となる試料2を酸化処理温度で酸化処理する酸化炉10と、水蒸気を含有する供給ガス4を用いて、酸化炉10に対して、雰囲気ガス6の酸素濃度を前記所定濃度に維持するのに必要な酸素を供給する第1の酸素ポンプ・センサー20と、酸化炉10内の試料2の周囲環境に存在する雰囲気ガス6の酸素濃度を測定する酸素センサー30と、酸化炉10内に導入した試料の酸化量を測定する第2の酸素ポンプ・センサー40とを備えるものである。
【0010】
〔2〕本発明の加熱酸化炉において、例えば
図2に示すように、好ましくは、第1の酸素ポンプ・センサー20は、水蒸気を含有する供給ガス4を用いて、酸化炉10に対して供給する酸素濃度を有するガスを供給する第1の耐熱性セラミックス管23と、第1の耐熱性セラミックス管23の管壁面に設けられた第1及び第2の白金電極(24a、24b)と、第1の耐熱性セラミックス管23の外周面であって、第1及び第2の白金電極(24a、24b)の位置する領域を所定温度に加熱する第1の管路加熱部25と、第1の白金電極24aに定電圧を印加して、供給ガス4に含まれる水蒸気を電気分解して水素を生成する第1の水素生成手段23aと、第1の白金電極24aと第2の白金電極24bの間に位置する酸素ガス供給領域から、前記生成された水素に対して不足する酸素を供給する第1の酸素供給部23bとを備える第1のポンプ部26と、第2の白金電極24bにより、前記生成された水素と第1の酸素供給部23bより供給された酸素とを反応させて生じる起電力を測定する第1のセンサー部27と、第1のセンサー部27で、酸化初期時における酸素分圧になるように第1の初期起電力を設定して、第1の水素生成手段23aで生成された水素ガスにより酸素分圧が減少しても、第1のポンプ部26で電流を流すことで酸素分圧を維持し,前記第1の初期設定起電力に戻す第1の電流制御部と、第1の電流制御部により設定された電流値によって、水蒸気酸化により発生した水素量を算出して、供給ガス4に対して供給された酸素ガス量を算出する酸素ガス量供給量演算手段と、を備えるものである。
【0011】
〔3〕本発明の加熱酸化炉〔2〕において、好ましくは、第1及び第2の白金電極は、耐熱性セラミックス管23の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられるとよい。
〔4〕本発明の加熱酸化炉〔2〕~〔3〕において、好ましくは、耐熱性セラミックス管23は、イットリア安定化ジルコニア管であるとよい。
〔5〕本発明の加熱酸化炉〔2〕~〔4〕において、好ましくは、供給ガス4は、水蒸気飽和した不活性ガスであるとよい。
〔6〕本発明の加熱酸化炉〔2〕~〔5〕において、好ましくは、試料2はニッケル基合金であり、前記第1の初期起電力は、試料2の表面でAl2O3が優先的に生成、成長する条件で予備酸化させるように、雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とし、前記第1の初期起電力に後続する第1の後続起電力は、試料2の表面にAl2O3を生成させた後、前記雰囲気ガスの酸素分圧を上げることで試料2の表面に生成されたAl2O3の成長を促進するように、前記雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とするとよい。
〔7〕本発明の加熱酸化炉〔6〕において、好ましくは、前記第1の初期起電力の制御値は、試料2の表面の予備酸化の期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であり、前記第1の後続起電力の制御値は、試料2の表面のAl2O3の成長促進期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であるとよい。
【0012】
〔8〕本発明の酸化速度測定装置は、例えば
図9に示すように、前記加熱酸化炉〔1〕~〔7〕と、酸化炉10内に導入した試料の酸化量を測定する第2の酸素ポンプ・センサー40とを備えるものである。
〔9〕本発明の酸化速度測定装置〔8〕において、例えば
図10に示すように、好ましくは、第2の酸素ポンプ・センサー40は、酸化炉10内の雰囲気ガス6を入力して、試料2の酸化によって酸素濃度が減少した排気ガスを流す第2の耐熱性セラミックス管43と、第2の耐熱性セラミックス管43の管壁の内面及び外面に設けられた第3及び第4の白金電極(44a、44b)と、第2の耐熱性セラミックス管43の外周面であって、第3及び第4の白金電極(44a、44b)の位置する領域を第2の所定温度に加熱する第2の管路加熱部45と、第3の白金電極44aに定電圧を印加して、雰囲気ガス6に含まれる水蒸気を電気分解して水素を生成する第2の水素生成手段43aと、第3の白金電極44aと第4の白金電極44bの間に位置する酸素ガス供給領域から前記生成された水素に対して不足する酸素を供給する第2の酸素供給部43bとを備える第2のポンプ部46と、第4の白金電極により、前記生成された水素と第2の酸素供給部43bより供給された酸素とを反応させて生じる起電力を測定する第2のセンサー部47と、第2のセンサー部47で、酸化初期時における酸素分圧になるように第2の初期起電力を設定して、第2の水素生成手段43aで生成された水素ガスにより酸素分圧が減少しても、第2のポンプ部46で電流を流すことで酸素分圧を維持し、前記第2の初期設定起電力に戻す第2の電流制御部と、第2の電流制御部により設定された電流値によって、酸化炉10内の試料4の水蒸気酸化により発生した水素量を算出して、酸化炉10の試料4の酸化速度を算出する酸化速度演算手段と、を備えるものである。
【0013】
〔10〕本発明の酸化速度測定装置〔9〕において、好ましくは、第3及び第4の白金電極は、第2の耐熱性セラミックス管の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられるとよい。
〔11〕本発明の酸化速度測定装置〔9〕~〔10〕において、好ましくは、第2の耐熱性セラミックス管は、イットリア安定化ジルコニア管であるとよい。
〔12〕本発明の酸化速度測定装置〔9〕~〔11〕において、好ましくは、供給ガス4は、水蒸気飽和した不活性ガスであるとよい。
〔13〕本発明の酸化速度測定装置〔9〕~〔12〕において、好ましくは、試料2はニッケル基合金であり、第2の初期起電力は、試料2の表面でAl2O3が優先的に生成、成長する条件で予備酸化させるように、雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とし、第2の初期起電力に後続する第2の後続起電力は、試料2の表面にAl2O3を生成させた後、雰囲気ガス6の酸素分圧を上げることで試料2の表面に生成されたAl2O3の成長を促進するように、雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とするとよい。
〔14〕本発明の酸化速度測定装置〔13〕において、好ましくは、第2の初期起電力の制御値は、試料2の表面の予備酸化の期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であり、第2の後続起電力の制御値は、試料2の表面のAl2O3の成長促進期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加熱酸化炉によれば、Al2O3単相の予備酸化処理を施したNi-25at%Al合金は、通常の酸化処理を施したNi-25at%Al合金や、未処理のNi-25at%Al合金に比して優れた耐酸化特性を得ることが可能となる。
また、本発明の酸化速度測定装置によれば、導入するガスの酸素分圧を第1及び第2の酸素ポンプ・センサーによって制御するで、酸化速度の制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態を示す加熱酸化炉の全体構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示す第1の酸素ポンプ・センサーの詳細構成図で、(A)は全体構成図、(B)はポンプ部の拡大図である。
【
図3】酸素分圧10
-8気圧で、Ni-25at%Al合金の予備酸化を行った場合の酸化被膜状態を説明するSEM断面図である。
【
図4】酸素分圧10
-8気圧で、Ni-25Pt-25Al合金の予備酸化を行った場合の酸化被膜状態を説明するSEM断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態を示す、本発明の酸化処理法における酸素分圧と温度履歴のシーケンス図である。
【
図6】本発明の一実施形態を示す、本発明の酸化処理法により得られた酸化被膜のSEM断面図と元素分布図である。
【
図7】本発明の比較例を示す酸化被膜のSEM断面図と元素分布図で、本発明の酸化処理法による予備酸化処理を行わない場合の、酸化被膜の性状を説明する酸化被膜のSEM断面図と元素分布図である。
【
図8】本発明の一実施例を示す酸化被膜のSEM断面図と元素分布図で、本発明の酸化処理法による予備酸化処理済の場合の、酸化被膜の性状を説明する酸化被膜のSEM断面図と元素分布図である。
【
図9】本発明の別の実施形態を示す酸化速度測定装置の全体構成図である。
【
図10】本発明の一実施形態を示す第2の酸素ポンプ・センサーの詳細構成図で、(A)は全体構成図、(B)はポンプ部の拡大図である。
【
図11】本発明の酸化処理法で処理された酸化処理材と未処理材を、Ar-H
2O混合ガスで酸化した場合の、酸化速度と酸化増量の時系列変化曲線を示している。
【
図12】Ni-25at%Al合金について、本発明の予備酸化処理の好適な領域を説明するエリンガム図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す加熱酸化炉の全体構成図である。加熱酸化炉は、酸化炉10、第1の酸素ポンプ・センサー20、酸素センサー30で構成されている。
加熱酸化炉で酸化処理の対象となる試料2は、例えばニッケル基超合金やコバルト基超合金のような耐熱金属材料で、酸化炉10の内部に保持されている。加熱酸化炉には、水蒸気を含有する供給ガス4が第1の酸素ポンプ・センサー20を経由してガス供給管5より、酸化炉10に送られ、雰囲気ガス6と混じる。供給ガス4は、例えば水蒸気発生装置4aと、アルゴンガスボンベ4bと、アルゴンガスの供給量を測定する流量計4cと、水温調整器4dと、熱交換器4eよりなるガス供給装置から供給される。
酸化炉10で試料2を酸化処理した雰囲気ガス6は、排ガス管7を介して酸素センサー30に送られ、外部に排気ガスとして排出される。雰囲気ガス6は、例えば水蒸気飽和した不活性ガスであるとよく、不活性ガスにはアルゴンガスや窒素ガスが用いられる。ここで、酸素ポンプ・センサーに関しては、例えば福本倫久他著、『水素センサーおよび酸素ポンプ・センサーを用いたFe-Cr合金の水蒸気酸化挙動の検討』、(日本金属学会誌 第81巻(2017)9号、p.408-416)がある。また、試料となる耐熱金属材料に関しては、例えば竹山雅夫著、『耐熱金属材料の最近の動向と今後の展望』、(マテリア第56巻(2017)3号、p.145-150)がある。
【0017】
酸化炉10は、試料2を雰囲気ガス6中に保持するための試料吊下げ部11と、耐火セラミックスのような材料からなる炉外壁12と、発熱体14と、雰囲気ガス6を外気から遮蔽する炉内壁16と、排ガス管18を有している。酸化炉10は、例えば電気炉を用いることができ、この場合、発熱体14は電熱電線を有するものとなる。
【0018】
第1の酸素ポンプ・センサー20には、ポテンショスタット21、電圧計22、PC(パーソナル・コンピュータ)が接続されている。酸素センサー30には、電圧計32、PC(パーソナル・コンピュータ)が接続されている。
ポテンショスタット21は、参照電極に対する作用電極の電位を常に制御することの出来る装置で、試料2の酸化による変化を電気化学反応としてとらえ、反応量を直接電気量に変換して測定する電気化学測定装置の一部である。電気化学測定から得られる量は、電圧、電流、およびそれらの時間変化である。このときの電圧は反応の起こりやすさ、すなわち環境の酸化性を示し、照合電極を基準にした電位で表現される。また電流は酸化量・腐食量に相当する。
PC(パーソナル・コンピュータ)には、第1の酸素ポンプ・センサー20、酸素センサー30を電気化学測定装置として動作させるのに必要なコンピュータプログラムが搭載されている。
【0019】
このように構成された装置の動作を次に説明する。PC(パーソナル・コンピュータ)等の制御用コンピュータ又は操作担当者は、試料2を準備して、酸化炉10を所定の酸化処理温度、例えば700℃から1200℃の間の適切な設定温度に維持し、雰囲気ガス6で酸化炉10内を充填する。
次に、第1の酸素ポンプ・センサー20を用いて、酸化炉10に導入する酸素分圧を調整する。酸化炉10の酸素分圧は酸素センサー30にてモニターする。
【0020】
図2は、本発明の一実施形態を示す第1の酸素ポンプ・センサー20の詳細構成図で、(A)は全体構成図、(B)はポンプ部の拡大図である。
第1の酸素ポンプ・センサー20は、第1の耐熱性セラミックス管23、第1の白金電極24a、第2の白金電極24b、第1の管路加熱部25、第1のポンプ部26、第1のセンサー部27、第1の電流制御部及び酸素ガス量供給量演算手段を備えるものである。
【0021】
第1の耐熱性セラミックス管23は、水蒸気を含有する供給ガス4を用いて、酸化炉10に対して供給する酸素濃度を有するガスを供給するもので、例えば、イットリア安定化ジルコニア管が用いられる。
【0022】
第1の白金電極24aは、第1の耐熱性セラミックス管23の管壁面に設けられるもので、第1の耐熱性セラミックス管23の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられる。第2の白金電極24bは、第1の白金電極24aの下流側に設けられるもので、第1の耐熱性セラミックス管23の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられる。
第1の管路加熱部25は、第1の耐熱性セラミックス管23の外周面であって、第1及び第2の白金電極(24a、24b)の位置する領域を所定温度、例えば700℃から1200℃の間の適切な設定温度に加熱する。
【0023】
第1のポンプ部26は、第1の白金電極24aに定電圧を印加して、供給ガス4に含まれる水蒸気を電気分解して水素を生成する第1の水素生成手段23aと、第1の白金電極24aと第2の白金電極24bの間に位置する酸素ガス供給領域から、前記生成された水素に対して不足する酸素を供給する第1の酸素供給部23bとを備える。酸素ガス供給領域は、例えば第1の耐熱性セラミックス管23がイットリア安定化ジルコニア管の場合には、Zrが酸素を供給するものとなる。この場合、イットリア安定化ジルコニア管のZrが酸素を供給すると、この供給した酸素量に相当する酸素は、外気に含まれる酸素から第1の耐熱性セラミックス管23の外壁に補充供給される。
第1のセンサー部27は、第2の白金電極24bにより、前記生成された水素と第1の酸素供給部23bより供給された酸素とを反応させて生じる起電力を測定する。
【0024】
第1の電流制御部と酸素ガス量供給量演算手段の機能は、例えばPC(パーソナル・コンピュータ)に搭載されるコンピュータプログラムを用いて実現される。
第1の電流制御部は、第1のセンサー部27で、酸化初期時における酸素分圧になるように第1の初期起電力を設定して、第1の水素生成手段23aで生成された水素ガスにより酸素分圧が減少しても、第1のポンプ部26で電流を流すことで酸素分圧を維持し,前記第1の初期の設定起電力に戻す。
【0025】
この第1の初期起電力は、試料2の表面でAl2O3が優先的に生成、成長する条件で予備酸化させるように、雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とし、第1の初期起電力に後続する第1の後続起電力は、試料2の表面にAl2O3を生成させた後、前記雰囲気ガスの酸素分圧を上げることで試料2の表面に生成されたAl2O3の成長を促進するように、前記雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とするとよい。好ましくは、第1の初期起電力の制御値は、試料2の表面の予備酸化の期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であり、第1の後続起電力の制御値は、試料2の表面のAl2O3の成長促進期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であるとよい。
【0026】
酸素ガス量供給量演算手段は、第1の電流制御部により設定された電流値によって、水蒸気酸化により発生した水素量を算出して、供給ガス4に対して供給された酸素ガス量を算出する。
【0027】
このように構成された第1の酸素ポンプ・センサー20の動作を次に説明する。
酸素ポンプ・センサーでは、センサー部27で起電力を測定し、初期の酸素分圧になるように起電力を設定し、ポンプ部26に電流を流すことで、耐熱性セラミックス管内側で流れる水素に酸素を供給して、ポンプ部26の酸素分圧を初期の酸素分圧に保つ。すなわち、ポンプ部26に流れる電流が大きいということは、試料2の水蒸気酸化により発生した水素量が多く、水蒸気酸化の速度が大きいことになる。
【0028】
酸素ポンプ・センサー20を用いた酸化速度の算出は、式(1)のファラデーの法則に従って行った。
J=I/4F (1)
ここで、F:ファラデー定数、I:印加電流、J:酸素ポンプにより測定系に供給される酸素量である。この供給された酸素量Jより水素量を求める。酸素ポンプ・センサー20は、例えば1123Kで作動させるとよい。
酸素ポンプ・センサー20に付加する電圧を制御することによって、供給ガスに含まれる酸素分圧の制御が可能となる。
【0029】
図3は、酸素分圧10
-8気圧で、Ni-25at%Al合金の予備酸化を行った場合の酸化被膜状態を説明するSEM断面図である。上記加熱酸化炉を用いて、酸素分圧を10
-8気圧として酸化処理を行う場合、
図3に示す様にNi-25at%Al合金ではAl
2O
3とNiAl
2O
4の2層が観察される。
【0030】
図4は、酸素分圧10
-8気圧で、Ni-25Pt-25Al合金の予備酸化を行った場合の酸化被膜状態を説明するSEM断面図である。Ni-25Pt-25Al合金であればAl
2O
3単層が得られる。すなわち純Al
2O
3の膜を得るために適正な酸素分圧は材料によって異なること、よって酸素分圧の制御が簡単にできる加熱酸化炉の有用性を示唆している。
【0031】
図5は、本発明の一実施形態を示す、本発明の酸化処理法における酸素分圧と温度履歴のシーケンス図である。
図5に示す様に、酸素分圧を8×10
-20気圧で1100℃まで加熱し、その後酸素分圧を10
-5気圧まで上げた酸化手法を用いる。
【0032】
図6は、本発明の一実施形態を示す、本発明の酸化処理法により得られた酸化被膜のSEM断面図と元素分布図である。前述したNi-25at%Al合金であっても、
図6に示すようにAl
2O
3単層の酸化皮膜が得られた。このように予備酸化を行った試料と、未処理の試料について1150℃、Ar-H
2O雰囲気で酸化試験を行った。
【0033】
図7は、本発明の比較例を示す酸化被膜のSEM断面図と元素分布図で、本発明の酸化処理法による予備酸化処理を行わない場合の、酸化被膜の性状を説明する酸化被膜のSEM断面図と元素分布図である。
【0034】
図8は、本発明の一実施例を示す酸化被膜のSEM断面図と元素分布図で、本発明の酸化処理法による予備酸化処理済の場合の、酸化被膜の性状を説明する酸化被膜のSEM断面図と元素分布図である。酸化試験後も緻密で密着性のよいAl
2O
3被膜が生成している。
【0035】
図9は、本発明の別の実施形態を示す酸化速度測定装置の全体構成図である。酸化速度測定装置は、酸化炉10、第1の酸素ポンプ・センサー20、酸素センサー30、第2の酸素ポンプ・センサー40で構成されている。なお、
図9において、前出の
図1と同一作用をするものには同一符号を付して、説明を省略する。また、前出の
図1で示した水蒸気発生装置に関しては、
図9では省略してある。
【0036】
第2の酸素ポンプ・センサー40には、ポテンショスタット41、電圧計42、PC(パーソナル・コンピュータ)が接続されている。
ポテンショスタット41は、ポテンショスタット21と同様の作用をする。
PC(パーソナル・コンピュータ)には、第2の酸素ポンプ・センサー40を電気化学測定装置として動作させるのに必要なコンピュータプログラムが搭載されている。
【0037】
このように構成された装置の動作を次に説明する。第2の酸素ポンプ・センサー40は、加熱酸化炉として必須ではないが、酸化炉10内に導入した試料2の酸化量の変化をモニターして、酸化速度測定装置として動作させるのに必要な装置である。
【0038】
図10は、本発明の一実施形態を示す第2の酸素ポンプ・センサー40の詳細構成図で、(A)は全体構成図、(B)はポンプ部の拡大図である。
第2の酸素ポンプ・センサー40は、第2の耐熱性セラミックス管43、第3の白金電極44a、第4の白金電極44b、第2の管路加熱部45、第2のポンプ部46、第2のセンサー部47、第2の電流制御部及び酸化速度演算手段を備えるものである。
【0039】
第2の耐熱性セラミックス管43は、水蒸気を含有する供給ガス4を用いて、酸化炉10に対して供給する酸素濃度を有するガスを供給するもので、例えば、イットリア安定化ジルコニア管が用いられる。
第3の白金電極44aは、第2の耐熱性セラミックス管43の管壁面に設けられるもので、第2の耐熱性セラミックス管43の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられる。第4の白金電極44bは、第3の白金電極44aの下流側に設けられるもので、第2の耐熱性セラミックス管43の管壁を挟んだ内面及び外面に設けられる。
第2の管路加熱部45は、第2の耐熱性セラミックス管43の外周面であって、第3及び第4の白金電極(44a、44b)の位置する領域を所定温度、例えば700℃から1200℃の間の適切な設定温度に加熱する。
【0040】
第2のポンプ部46は、第3の白金電極44aに定電圧を印加して、供給ガス4に含まれる水蒸気を電気分解して水素を生成する第2の水素生成手段43aと、第3の白金電極44aと第4の白金電極44bの間に位置する酸素ガス供給領域から、前記生成された水素に対して不足する酸素を供給する第2の酸素供給部43bとを備える。酸素ガス供給領域は、例えば第2の耐熱性セラミックス管43がイットリア安定化ジルコニア管の場合には、Zrが酸素を供給するものとなる。この場合、イットリア安定化ジルコニア管のZrが酸素を供給すると、この供給した酸素量に相当する酸素は、外気に含まれる酸素から第2の耐熱性セラミックス管43の外壁に補充供給される。
第2のセンサー部47は、第4の白金電極44bにより、前記生成された水素と第2の酸素供給部43bより供給された酸素とを反応させて生じる起電力を測定する。
【0041】
第2の電流制御部と酸化速度演算手段の機能は、例えばPC(パーソナル・コンピュータ)に搭載されるコンピュータプログラムを用いて実現される。
第2の電流制御部は、第2のセンサー部47で、酸化初期時における酸素分圧になるように第2の初期起電力を設定して、第2の水素生成手段43aで生成された水素ガスにより酸素分圧が減少しても、第2のポンプ部46で電流を流すことで酸素分圧を維持し,前記第2の初期の設定起電力に戻す。
【0042】
この第2の初期起電力は、試料2の表面でAl2O3が優先的に生成、成長する条件で予備酸化させるように、雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とし、第2の初期起電力に後続する第2の後続起電力は、試料2の表面にAl2O3を生成させた後、前記雰囲気ガスの酸素分圧を上げることで試料2の表面に生成されたAl2O3の成長を促進するように、前記雰囲気ガス6の酸素分圧を制御する値とするとよい。好ましくは、第2の初期起電力の制御値は、試料2の表面の予備酸化の期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であり、第2の後続起電力の制御値は、試料2の表面のAl2O3の成長促進期間中、一定値又はシーケンシャルに変化する設定値であるとよい。
【0043】
酸化速度演算手段は、第2の電流制御部により設定された電流値によって、酸化炉10内の試料4の水蒸気酸化により発生した水素量を算出して、酸化炉10の試料4の酸化速度を算出する。
酸化速度の算出は、例えば次のように行なうとよい。式(2)を用いて単位時間あたりの発生水素ガスmol量dn/dtを算出する。
即ち、測定ガスを理想気体としてシャールの法則が成立すると仮定すれば、
P(dVr/dt)=(dn/dt)RTr (2)
が成立する。ここで、Pは気体の圧力、Vrは温度Trで測定したガス流量、nは気体ガスmol量、Trは流量を測定した温度で、本実施例では298Kである。
H2Oは低酸素分圧下では、
H2O=H2+1/2・O2 (3)
の反応でH2とO2に解離する。
【0044】
さらに、これを質量に変換し、試料表面積で割ることにより酸化速度を求めた。式(4)で測定した起電力を用いて式(2)により酸化速度を求めるため、式(4)のセンサー温度(T)や式(2)のガス流速(dVr/dt)が大きく寄与する。
【0045】
酸素センサー30で測定した起電力を式(4)に示すNernstの式に代入し、酸素分圧を求めることができる。
E=(RT/2F)・ln{PO2(ref)/PO2(mea)} (4)
ここで、R:気体定数、T:温度、F:ファラデー定数、E:測定起電力、PO2(ref):参照ガス(Ar-1.01vol.%O2)、PO2(mea):測定酸素分圧である。
【0046】
図11は、本発明の酸化処理法で処理された酸化処理材と未処理材を、Ar-H
2O混合ガスで酸化した場合の、酸化速度と酸化増量の時系列変化曲線を示している。予備酸化処理によって酸化速度が劇的に抑えられる。
【0047】
図12は、Ni-25at%Al合金について、本発明の予備酸化処理の好適な領域を説明するエリンガム図である。ここで、エリンガム図(Ellingham diagram)とは、横軸に温度、縦軸に生成ギブズエネルギーをとって、金属酸化物について、各温度における標準生成ギブズエネルギーをプロットしたグラフである。この図から、金属酸化物を金属に還元するために、どのような還元剤をどの程度の温度で作用させればよいかを知ることが可能である。また、ある酸素分圧下において金属が酸化されずに存在できるかを知ることもできる。
【0048】
酸素分圧PO2が8×10-20気圧の場合、600℃以上ではNiOは生成せず、Al2O3単相が生成される。酸素分圧PO2が8×10-16気圧の場合、700℃以上ではNiOは生成しないが、他方で700℃付近では酸化が進みだすので、Al2O3単相になるかきわどい。酸素分圧PO2が8×10-12気圧より大きい場合、NiO、Al2O3どちらも安定で、NiO生成が速い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上詳細に説明したように、本発明の加熱酸化炉では、導入するガスの酸素分圧を酸素ポンプ・センサーによって制御することが可能であり、例えば優れた耐酸化特性を得ることが可能なAl2O3単相の予備酸化処理を施したNi-25at%Al合金の製造に用いて好適である。
また、本発明の酸化速度測定装置では、導入するガスの酸素分圧を第1及び第2の酸素ポンプ・センサーによって酸化速度も含めて制御することが可能であり、例えば優れた耐酸化特性を得ることが可能なAl2O3単相の予備酸化処理を施したNi-25at%Al合金の製造に用いて好適である。
【符号の説明】
【0050】
2 試料
4 供給ガス
6 雰囲気ガス
10 酸化炉
20 第1の酸素ポンプ・センサー
23 第1の耐熱性セラミックス管
23a 第1の水素生成手段
23b 第1の酸素供給部
24a 第1の白金電極
24b 第2の白金電極
26 第1のポンプ部
27 第1のセンサー部
30 酸素センサー
40 第2の酸素ポンプ・センサー
43 第2の耐熱性セラミックス管
43a 第2の水素生成手段
43b 第2の酸素供給部
44a 第3の白金電極
44b 第4の白金電極
46 第2のポンプ部
47 第2のセンサー部