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特許7553094膜除去方法、所定パターンの透明導電膜の形成方法及びパターニング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】膜除去方法、所定パターンの透明導電膜の形成方法及びパターニング装置
(51)【国際特許分類】
   C25F 3/12 20060101AFI20240910BHJP
   C25F 7/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C25F3/12
C25F7/00 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185603
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075061
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】小川大輔
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-084124(JP,A)
【文献】特開昭62-290900(JP,A)
【文献】特開平08-031314(JP,A)
【文献】特開平08-144098(JP,A)
【文献】特表2013-524003(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054291(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03683335(EP,A1)
【文献】特開平11-165217(JP,A)
【文献】特開平11-016884(JP,A)
【文献】特開昭63-186899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板から上記二酸化スズ系透明導電膜を除去する膜除去方法であって、
上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して二酸化スズ系透明導電膜を還元処理する還元工程、及び
還元工程終了後の上記膜含有基板を、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除く除去工程
を具備する膜除去方法。
【請求項2】
請求項1記載の膜除去方法を用いて、二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板上に所定のパターン形状の二酸化スズ系透明導電膜を形成する所定パターンの透明導電膜の形成方法であって、
上記還元処理は、上記膜含有基板を、二酸化スズ系透明導電膜が所定のパターン形状となるように選択的に有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して、二酸化スズ系透明導電膜を所定のパターン形状になるように還元処理し、
上記除去工程により、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して上記パターンが形成されていない部分の二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除き、基板上に所定のパターンの二酸化スズ系透明導電膜を形成する、
ことを具備する所定パターンの透明導電膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1記載の膜除去方法を用いて、二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板上に所定のパターン形状の二酸化スズ系透明導電膜を形成する所定パターンの透明導電膜の形成方法であって、
上記膜含有基板上に所定形状のマスク層を形成するマスク形成工程を具備し、
上記還元工程は、上記マスク層が形成された上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可することにより行い、
上記除去工程により、還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除き、基板上に所定のパターンの二酸化スズ系透明導電膜を形成する
ことを具備する所定パターンの透明導電膜の形成方法。
【請求項4】
上記有機酸水溶液が、グルコン酸の水溶液であることを特徴とする請求項1記載の膜除去方法。
【請求項5】
上記の他の水溶液がキレート剤水溶液であることを特徴とする請求項1記載の膜除去方法。
【請求項6】
上記キレート剤水溶液が、水酸化ナトリウムでpHを中性付近に調整したグルコン酸水溶液であることを特徴とする請求項5記載の膜除去方法。
【請求項7】
請求項2又は3記載の所定パターンの透明導電膜の形成方法を連続的に実施するためのパターニング装置であって、
上記膜含有基板に上記有機酸水溶液を接触させる第1水溶液接触手段、及び上記膜含有基板に上記の他の水溶液を接触させる第2水溶液接触手段を有し、
上記第1水溶液接触手段及び上記第2水溶液接触手段により、上記膜含有基板に対する上記有機酸水溶液の接触と上記の他の水溶液の接触とを連続的に行うための連続化手段を有する
パターニング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化スズ系透明導電膜のパターニング技術に関し、さらに詳しくは、製造現場における取り扱い性に優れ、廃棄物処理の問題が少ない、二酸化スズ系透明導電膜のパターニング技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は液晶パネル、発光ダイオード、太陽電池など、光と電気とを用いるオプトエレクトロニクスデバイスに欠かせない材料である。現在、酸化インジウムスズ(ITO)が実用材料として用いられている。しかしながら、ITOの主成分であるインジウムは希少元素で供給に不安がある。このためITOの代替材料が要望されている。
ITOの代替材料としては、二酸化スズ(TO)系透明導電膜が注目されている。TOはITOよりも耐候性や耐薬品性に優れ、アモルファスシリコン太陽電池の透明電極、曇り止めガラス等で実用化されている(非特許文献1参照)。しかしながら、TOは耐薬品性に優れるが故に、ウェットエッチングが困難であり、レーザー加工によるパターニングを行う必要がある。そのため、処理速度がレーザーの形状・出力で決まり、スループットの向上に限界があるという問題がある。このため、TOにおいては、より短時間でのパターニングが可能な技術の開発が要望されており、種々提案がなされている。
例えば、サンドブラスト法による加工が提案されているが、この方法では、成膜された基板に傷が入り、製品出荷後に割れの原因となるという問題がある。そのため、TO系透明導電膜を有する基板に対して、ウェットエッチングを用いたパターニング技術の開発が要望されており、種々提案されている。
例えば、非特許文献2にはヨウ化水素酸を用いてTO系透明導電膜を溶解させる方法が、特許文献1には臭化水素酸を用いてエッチングする手法が提案されている。また、特許文献2及び非特許文献3には、亜鉛と過剰量の塩酸とを用いると、亜鉛が溶解して発生した水素ガスがTOを還元し、その結果TO系透明導電膜を塩酸に溶解させることができる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭56-16674号公報
【文献】特開平6-280055号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本学術振興会透明酸化物光・電子材料第166委員会 編、『透明導電膜の技術(改訂3版)』、オーム社 (2014)
【文献】V. K. Gueorguiev et al., Sensors and Actuators A 24, 61 (1990).
【文献】G. Bradshaw and A. J. Hughes, Thin Solid Films 33, L5 (1976).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の非特許文献2及び特許文献1の提案では、揮発性の強酸を用いるため、局所排気設備の導入の必要性等製造現場における取り扱い上の問題がある。また特許文献2及び非特許文献3の提案では、揮発性の強酸を用いる場合の問題に加えて、反応の結果生ずる亜鉛スラッジは公害処理上廃液処理を行う必要があり、製造上の取り扱い性に問題がある。
要するに、現状では、要求されているほどに十分に短時間でパターンニング処理することができ、製造現場における取り扱い性に優れ、廃棄物処理の問題が少ない、TO系透明導電膜の除去技術は提案されておらず、そのような技術の開発が要望されている。
したがって、本発明の目的は、耐薬品性に優れる二酸化スズ系透明導電膜を、要求されているほどに十分に短時間で除去(パターンニング処理)することができ、製造現場における取り扱い性に優れ、廃棄物処理の問題が少ない、二酸化スズ系透明導電膜を除去する膜除去方法、所定パターンの透明導電膜の形成方法、及びパターニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、二酸化スズの還元を特定の有機酸を用いて行った場合に上記目的を達成し得ることを知見し、更に研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板から上記二酸化スズ系透明導電膜を除去する膜除去方法であって、
上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して二酸化スズ系透明導電膜を還元処理する還元工程、及び
還元工程終了後の上記膜含有基板を、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除く除去工程
を具備する膜除去方法。
2.1記載の膜除去方法を用いて、二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板上に所定のパターン形状の二酸化スズ系透明導電膜を形成する所定パターンの透明導電膜の形成方法であって、
上記還元処理は、上記膜含有基板を、二酸化スズ系透明導電膜が所定のパターン形状となるように選択的に有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して、二酸化スズ系透明導電膜を所定のパターン形状になるように還元処理し、
上記除去工程により、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して上記パターンが形成されていない部分の二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除き、基板上に所定のパターンの二酸化スズ系透明導電膜を形成する、
ことを具備する所定パターンの透明導電膜の形成方法。
3.1記載の膜除去方法を用いて、二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板上に所定のパターン形状の二酸化スズ系透明導電膜を形成する所定パターンの透明導電膜の形成方法であって、
上記膜含有基板上に所定形状のマスク層を形成するマスク形成工程を具備し、
上記還元工程は、上記マスク層が形成された上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可することにより行い、
上記除去工程により、還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除き、基板上に所定のパターンの二酸化スズ系透明導電膜を形成することを具備する所定パターンの透明導電膜の形成方法。
4.上記有機酸水溶液が、グルコン酸の水溶液であることを特徴とする1記載の膜除去方法。
5.上記の他の水溶液がキレート剤水溶液であることを特徴とする1記載の膜除去方法。
6.上記キレート剤水溶液が、水酸化ナトリウムでpHを中性付近に調整したグルコン酸水溶液であることを特徴とする5記載の膜除去方法。
7.2又は3記載の所定パターンの透明導電膜の形成方法を連続的に実施するためのパターニング装置であって、
上記膜含有基板に上記有機酸水溶液を接触させる第1水溶液接触手段、及び上記膜含有基板に上記の他の水溶液を接触させる第2水溶液接触手段を有し、
上記第1水溶液接触手段及び上記第2水溶液接触手段により、上記膜含有基板に対する上記有機酸水溶液の接触と上記の他の水溶液の接触とを連続的に行うための連続化手段を有する
パターニング装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の膜除去方法は、耐薬品性に優れるTO系透明導電膜を、要求されているほどに十分に短時間で除去することができ、製造現場における取り扱い性に優れ、廃棄物処理の問題が少ない、二酸化スズ系透明導電膜を除去する方法である。
また、本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法は、要求されているほどに十分に短時間でパターンニング処理することができ、製造現場における取り扱い性に優れ、廃棄物処理の問題が少ない方法である。
また、本発明のパターニング装置は、上記本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法を実施できる装置である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のパターニング装置の第1の実施形態を示す模式図である。
図2図2は、本発明のパターニング装置の第2の実施形態を示す模式図である。
図3図3は、還元処理終了後のTO膜付きガラス基板の状態を示す写真(図面代用写真)である。
図4図4は、還元処理後の基板をX線解析測定により確認した結果を示すチャートである。
図5図5は、除去工程により還元されたTO膜が基板から除去された様子を示す写真(図面代用写真)である。
図6図6は、透過率の測定結果を示すチャートである。
【符号の説明】
【0009】
1 パターニング装置、10膜含有基板、5 炭素電極、51不織布、50ペン型塗工具、7 配線、3 電源(直流電源)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、図面を参照してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
本発明の膜除去方法は、二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板から上記二酸化スズ系透明導電膜を除去する膜除去方法であって、
上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して二酸化スズ系透明導電膜を還元処理する還元工程、及び
還元工程終了後の上記膜含有基板を、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除く除去工程
を具備することを特徴とする。
以下、詳細に説明する。
【0011】
〔膜含有基板〕
本発明において用いられる膜含有基板は、基板上に二酸化スズ(以下、「TO」という場合がある)系透明導電膜が形成されてなるものである。
(基板)
上記基板としては、通常この種の導電膜が形成された基板に用いられる、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等からなる樹脂基板、石英ガラス等からなるガラス基板を特に制限なく用いることができる。
また、上記基板の厚みも特に制限されるものでなく、通常、透明基板が用いられる用途において要求される厚みを特に制限なく採用することができる。本発明の除去方法を用いることにより、これらの厚みを持つ場合でも良好にTO系透明導電膜の除去を行うことが可能である。
上記膜含有基板は、通常公知のTO系透明導電膜含有基板の製造方法に準じて製造して得ることができる。
【0012】
(二酸化スズ系透明導電膜)
二酸化スズ系透明導電膜としては、二酸化スズのみからなる導電膜でもよいが、他の成分を含有しても良い。この際含有可能な他の成分としては、例えば、フッ素、ヒ素、アンチモン、ニオブ、タンタル等を挙げることができる。他の成分の配合量は、重量パーセント濃度、モルパーセント濃度、原子パーセント濃度のいずれかにおいて20パーセント(膜全体量に対しての配合量)とすることができる。
なお、二酸化スズ系透明導電膜の膜厚は特に制限されず、本発明の属する分野において用いうる膜厚を制限なく採用可能である。
【0013】
本発明においては上記膜含有基板に対して上記還元工程と上記除去工程とを順次行う。
〔還元工程〕
上記還元工程は、上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して二酸化スズ系透明導電膜を還元処理する工程である。
上記有機酸水溶液は、有機酸の水溶液である。この際用いることができる上記有機酸としては、グルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸、ピロリン酸、クエン酸等を挙げることができる。また、水溶液の濃度は、30~70重量%であるのが好ましく、40~60重量%であるのが更に好ましい。また、水溶液のpHは、酸性域(pH1.0以上の酸性域)でもよいが、中性域(pH7±0.5)でもよい。
上記有機酸水溶液としては、特に、グルコン酸の水溶液が好ましい。また、グルコン酸のみの水溶液でも良いが、グルコン酸水溶液を水酸化ナトリウム等のアルカリ成分を用いてpHを中性にしたものを用いてもよい。
上記接触は、上記有機酸水溶液を上記膜含有基板のTO系透明導電膜に接触させることができれば特に制限されないが、上記有機酸水溶液中に上記膜含有基板を浸漬する方法、上記有機酸水溶液を不織布又は織布等の液体保持可能物に保持させて、上記膜含有基板におけるTO系透明導電膜に該液体保持可能物を接触させることで上記有機酸水溶液を接触させる方法等が採用できる。
上記電圧印加は、上記膜含有基板自体を電極として電源に連結し、電圧を印加することにより行うことができ、ここで電圧は 2~50Vとするのが好ましい。また、電圧印加時間は、30秒~10分とするのが好ましい。
【0014】
〔除去工程〕
上記除去工程は、還元工程終了後の上記膜含有基板を、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除く工程である。
上記の他の水溶液は、電解質が溶解した水溶液であればよいが、例えば、エチレンジアミン四酢酸水溶液、グリコールエーテルジアミン四酢酸等のキレート剤を溶質としたキレート剤水溶液、塩化ナトリウム等の中性の溶質の水溶液(食塩水等)、水酸化ナトリウム等の塩基性の溶質の水溶液、クエン酸等の上記有機酸とは異なる酸性の溶質の水溶液等を挙げることができる。上記キレート剤水溶液としては、水酸化ナトリウムでpHを中性付近(pH6.5~7.5)に調整したグルコン酸水溶液を用いることもできる。
電解質濃度は、モル濃度で0.1~2molL-1とするのが好ましい。
上記接触は、上記還元工程における接触と同様である。
上記電圧印加は、上記膜含有基板自体を電極として電源に連結し、電圧を印加することにより行うことができ、ここで電圧は 2~50Vとするのが好ましい。また、電圧印加時間は、30秒~10分とするのが好ましい。
本発明においては、上記還元工程でグルコン酸水溶液を用い、上記除去工程においてエチレンジアミン四酢酸水溶液を用いることができ、特に効果的である。
【0015】
〔他の工程〕
本発明においては、上述の還元工程及び除去工程の他、必要に応じて本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の工程を用いることもできる。
例えば、上記除去工程の前又は後に、基板を洗浄(有機溶媒による脱脂等)する洗浄工程を行うことができる。
【0016】
〔所定パターンの透明導電膜の形成方法〕
ついで、本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法について説明する。
本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法は、上述の膜除去方法を用いて二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板上に所定のパターン形状の二酸化スズ系透明導電膜を形成する方法であり、以下の第1の方法と第2の方法とがある。
(第1の方法)
上記還元処理は、上記膜含有基板を、二酸化スズ系透明導電膜が所定のパターン形状となるように選択的に有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可して、二酸化スズ系透明導電膜を所定のパターン形状になるように還元処理し、
上記除去工程により、他の水溶液に接触させた状態で電圧印加して上記パターンが形成されていない部分の二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除き、基板上に所定のパターンの二酸化スズ系透明導電膜を形成する、方法。
(第2の方法)
上記膜含有基板上に所定形状のマスク層を形成するマスク形成工程を具備し、
上記還元工程は、上記マスク層が形成された上記膜含有基板を有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可することにより行い、
上記除去工程により、還元処理された二酸化スズ系透明導電膜を基板上から取り除き、基板上に所定のパターンの二酸化スズ系透明導電膜を形成する、方法。
以下、第1の方法及び第2の方法について説明する。なお、以下の説明においては、上述の膜除去方法における説明と重複する部分の説明はなるべく割愛し、特徴的な部分を重点的に説明する。したがって、特に説明しない点については、上述の膜除去方法においてした説明が妥当する。
【0017】
〔第1の方法〕
上記の第1の方法においては、二酸化スズ系透明導電膜が所定のパターン形状となるように選択的に有機酸水溶液に接触させた状態で電圧印可する点において、上述の本発明の除去方法と異なる。
このように、選択的に上記有機酸水溶液と上記膜含有基板とを接触させる方法としては、液体保持部材に上記有機酸水溶液を含浸させて、当該液体保持部材を上記膜含有基板に所定のパターンに従って(基板上に所定のパターンを描くように)当接させることにより行うことができる。
上記液体保持部材としては、不織布、織布、フェルト、合成繊維等を挙げることができ、特に、合成繊維を樹脂により接着固定して所定形状に成形した成形材、不織布を所定形状に成形した不織布材等を用いることが好ましい。また、この液体保持部材を用いる場合には、液体保持部材の基端(膜含有基板に当接する先端に対向する端部)に電源に連結された配線を連結して、液体保持部材が電極として作用するようにするのが好ましい。この場合の液体保持部材の形状としては、通常公知の蛍光ペン又はフェルトペンと同様の構成として、基端部に電源を連結するように構成することができる。したがって、ペン先の形状を種々変形することにより、所定の形状、線幅にて還元処理を行うことができ、これにより二酸化スズ系透明導電膜が所望のパターンとなるように処理を行うことができる。なお、所望のパターンで接触させるために液体保持部材を膜含有基板に当接した状態で所望の位置に移動させると共に所定位置にて膜含有基板に当接又は離隔自在に移動させるように制御するのが好ましい。この制御に際しては、通常公知の2軸プリンター等を用いて実施することができる。
【0018】
〔第2の方法〕
(マスク形成工程)
上記の第2の方法においては、マスク層の形成方法として、予め所定のマスクを形成しておき、膜含有基板に接着剤を介して接着する接着法、及び所定のマスク層が形成されるように、マスク形成用の素材を所定のパターンが形成されるように二酸化スズ系透明導電膜上の所定位置に印刷法又はリソグラフィー法により塗工して、マスク層を形成する方法等がある。また、マスキングテープを用いて、所定形状にマスキングテープを貼り付けることによりマスク層を形成する方法も採用可能である。ここで、マスク層を形成する材料は、上述の還元工程で上記有機酸水溶液による影響を受けないものであれば特に制限なく使用することができ、例えば通常工程のネガ型の感光性材料などを用いることができる。なお感光性材料を用いて上記のマスク層を形成する方法を実施する場合には、感光性材料を塗工した後、所定の波長の光を照射して樹脂を硬化させる必要がある。
ここで作成されるマスク層は、還元工程で還元されずに残存する二酸化スズ系透明導電膜で所定パターンを形成するために用いられるものなので、マスク層自体が所定パターンを有し、マスク層の存在しない部分の二酸化スズ系透明導電膜が露出され還元されるようになっているのが好ましい。
(接触)
上記接触は、上述の第1の方法における接触と同様に行うことができる他、マスク層が形成された膜含有基板を上記有機酸水溶液中に浸漬させる方法を採用することもできる。
【0019】
〔パターニング装置〕
以下、本発明のパターニング装置について説明する。
本発明のパターニング装置は、上述の本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法を連続的に実施するためのパターニング装置である。
本発明のパターニング装置は、図1及び2に示すように、
膜含有基板に上記有機酸水溶液を接触させる第1水溶液接触手段、及び膜含有基板に上記の他の水溶液を接触させる第2水溶液接触手段を有し、
第1水溶液接触手段及び第2水溶液接触手段により、膜含有基板に対する有機酸水溶液の接触と上記の他の水溶液の接触とを連続的に行うための連続化手段を有する。
【0020】
まず、本発明のパターニング装置の第1の実施形態について図1を参照して説明する。
(構成)
図1に示すパターニング装置1は、二酸化スズ系透明導電膜が被着形成されている膜含有基板10と、膜含有基板10に連設された炭素電極5と、液体保持部材としての不織布51が先端から露出するように形成されたペン型塗工具50と、炭素電極5及びペン型塗工具50に連結された配線7と、配線7を介して電圧を印加するための電源(直流電源)3とを有する。本実施形態においては膜含有基板10に上記有機酸水溶液を接触させる第1水溶液接触手段としてペン型塗工具50を具備する。また図示しないが、膜含有基板に上記の他の水溶液を接触させる第2水溶液接触手段としても同様にペン型塗工具を有する。また、第1水溶液接触手段としてのペン型塗工具50及び第2水溶液接触手段としてのペン型塗工具により、膜含有基板に対する有機酸水溶液の接触と上記の他の水溶液の接触とを連続的に行うための連続化手段として、ベルトコンベアを有し、該ベルトコンベア上に膜含有基板10を載置して図1の矢印方向に移動させつつペン型塗工具50による還元工程を実施し、ついで除去工程を行うことで実施できるように形成されている。
ペン型塗工具50は、図1に示すように複数用意されており、ペン型塗工具50の先端に設けられた不織布を常に新しい状態のもので用いることができるようになっている。すなわち、1~3回程度使用して不織布51が劣化したものは不織布51を交換すると共に有機酸水溶液を補充して、再使用することができるようになっている。これにより常に還元処理を良好に行うことができるようになっている。除去工程において使用する場合も同様になっており、常に上記の他の水溶液による除去処理を良好に実施できるようになっている。
ペン型塗工具50の内部構造は特に図示しないが、先端に不織布51が露出するように不織布が内部に充填されており、該不織布に有機酸水溶液が含浸されている。そして、ペン型塗工具50の基端側に配線7が連結されているが、この配線7は不織布51の基端側に当接しており、これにより不織布51を介して膜含有基板10に電圧が印加されるようになっている。
(形成)
本実施形態のパターニング装置1を用いて所定パターンの透明導電膜を形成するには、まず、コンベア上を炭素電極5が連設され、炭素電極5が配線7に連結された状態で所定の還元工程を実施する位置に移動させ、ペン型塗工具50の配置された位置に到達した際に、ペン型塗工具50の先端の不織布51を膜含有基板10に接触させて、不織布51に含浸させた有機酸水溶液を膜含有基板10に接触させる。膜含有基板10に炭素電極5が連設されており、ペン型塗工具51が配線7に連結されているので、接触したと同時に電圧が印加される。これにより不織布51が接した箇所は還元処理が行われる。そしてペン型塗工具50を所定のパターンを形成するように、不織布51を所定の軌道で膜含有基板10上を移動させる。これにより膜含有基板に所定のパターンが形成されるように還元処理を行うことができる。
除去処理も還元処理と同様にして行うことができ、最終に所定位置の二酸化スズ系透明導電膜が除去され、所定パターンで二酸化スズ系透明導電膜を有する(所定のパターンが形成された)基板を得る事ができる。
なお、本形態においても後述する形態と同様にマスク層を設けた膜含有基板10と不織布51とを接触させても良い。この場合には、特にパターンを形成するように所定の軌道を描く必要はなく、ムラのないように全面に接触させることで還元処理及び除去処理を行うことができる。
【0021】
ついで、第2の実施形態について図2を参照して説明する。
(構成)
図2に示すパターニング装置101は、有機酸水溶液131を有する槽130と、図示しない基板昇降装置とを第1水溶液接触手段として有する。また、他の水溶液141を有する槽140と図示しない基板昇降装置とを第2水溶液接触手段として有する。
そして、第1水溶液接触手段及び第2水溶液接触手段により、膜含有基板に対する有機酸水溶液の接触と上記の他の水溶液の接触とを連続的に行うための連続化手段として、膜含有基板を矢印方向に移動させるコンベア装置(図示せず)を有する。ここで基板把持昇降装置としては、リソグラフィー処理を連続的に行うために通常使用される、上下位置を変動可能なベルトコンベア装置等を用いることができる。また、本実施形態においては、それぞれの槽130,140に対応して、槽中に炭素電極105が浸漬した状態で設置されており、炭素電極105及び膜含有基板110に直流電源103を連結する配線107が連結されている。また、膜含有基板110はマスク層120をパターン121が形成されるように有している。
(形成)
本実施形態のパターニング装置101を用いて所定パターンの透明導電膜を形成するには、まず、配線107に連結された膜含有基板110を槽130内の有機酸水溶液131中に浸漬する。この際膜含有基板110が配線107に連結され且つ炭素電極105が有機酸水溶液中に浸漬されているので、膜含有基板110の浸漬により電圧が印加され、パターン121の部分の還元処理が実施される。所定時間浸漬した後、膜含有基板を槽140の位置に移動させて、同様に槽140内の他の水溶液141中に膜含有基板110を浸漬させて電圧の印加を行う。これにより、除去処理が行われて、最終に所定位置の二酸化スズ系透明導電膜が除去され、パターン121部分が除去され所定パターンで二酸化スズ系透明導電膜を有する(所定のパターンが形成された)基板を得る事ができる。
【0022】
(作用効果)
本発明の除去方法は、耐薬品性に優れ、ウェットエッチングが困難であった二酸化スズ系透明導電膜を、レーザー加工などの高費用で時間を要する手法を用いることなく、また、不揮発性の溶質を用い、且つpHも中性付近で実施可能である。したがって、大掛かりな局所排気設備等を有しない製造現場でも実施することができ、製造現場におけるハンドリング性に優れている。また廃棄物の問題も通常の廃液処理で十分であり、特別の廃棄物処理を行う必要もない。
そして、本発明の除去方法を活用した本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法は、上述の本発明の除去方法の効果を発揮し、さらに、マスク層を形成するか又は所定パターンで有機酸水溶液を膜含有基板に当接(接触)させるため、所望のパターンが得られるように還元処理を行うことができる。このため、耐薬品性に優れる二酸化スズ系透明導電膜に、所定のパターンを通常のリソグラフィー法又は印刷法と同様に簡易かつ簡便に形成することができる。本発明のパターニング装置は、この本発明の所定パターンの透明導電膜の形成方法の実施に特化したものであるため、当該形成方法を効率的に実施することができる。
二酸化スズ系透明導電膜は、資源・環境問題の観点から、希少金属のインジウムを含まない材料として、現在既に実用化されており、今後益々需要が高まっていくと考えられる。本発明の除去方法及び形成方法は、大掛かりな装置や廃棄物処理が不要で、簡便に二酸化スズ系透明導電膜を除去できるので、TOによるITO代替を加速させて、より資源・環境に優しい透明導電膜を供給可能にするものであると考えられる。
【0023】
なお、本発明は上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
たとえば、スクリーン印刷版において用いられるマスクを介して、図1に示すような電解液を染み込ませ且つ電極に連結された不織布を押し当てることにより、還元工程をおこなうこともできる。
【実施例
【0024】
以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
<実施例1>
有機酸水溶液として50重量%グルコン酸水溶液(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を用意した。また、二酸化スズ系透明導電膜を有する膜含有基板として、表面に膜厚(平均値)1μmで二酸化スズ膜が形成されてなるTO系透明導電膜付きガラス基板(商品名「FTN1.1」、アステラテック株式会社社製)を用意した(以下、TO系透明導電膜を単にTO膜と称する)。
(還元工程)
このTO膜付きガラス基板を作用極として、グルコン酸水溶液中に挿入し、炭素棒を対極として挿入して、炭素棒及びTO膜付きガラス基板に直流安定化電源を用いて直流電圧30Vを120秒間印可した。
その結果、TO膜付きガラス基板のグルコン酸水溶液に触れていた面が還元され、黒色化した。また、理由は不明であるが、印可している直流電圧の値が1.23Vを大きく超えているにもかかわらず、水の電気分解はほとんど起こらず、他の溶質を用いた場合には生じるTO膜の分解も起こらなかった。処理終了後のTO膜付きガラス基板の状態を示す写真を図3に示す。グルコン酸水溶液に触れている部分が黒色化しているのがわかる。
還元処理後の基板をX線解析測定により確認した。その結果を図4に示す。図4に示すように、基板上のTO膜が還元されていた(特に矢印で示したピーク)。
(除去工程)
還元工程処理後の除去工程を行うため、他の水溶液を調整した。
本実施例においては、他の水溶液として、400mlの脱イオン水にエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム(株式会社同仁化学研究所製)93.06gを投入して、懸濁させ、撹拌しながら水酸化ナトリウムを徐々に加えpHを約8に調節した後、500mlにメスアップした、モル濃度0.5molL-1のエチレンジアミン四酢酸水溶液を調整し、用いた。
上記エチレンジアミン四酢酸水溶液中に、電圧を5V印可しながら、還元処理後のガラス基板を挿入した。その結果、挿入された部位から順に、黒色化した膜が剥離されていき、還元されたTO膜が基板から除去された。その様子を示す写真を図5に示す。
膜が除去された部位の透過率は、非特許文献3における亜鉛粉末と塩酸とを用いる膜除去方法とほぼ同等であり、TO膜が完全に除去されていることを確認した。なお、透過率は、以下の方法により測定した。測定結果を図6に示す。
(透過率の測定方法)
公知の透過・吸収・反射スペクトル測定により行った。レファレンスとなるガラス基板は、膜を有するガラス基板上に、亜鉛粉末を載せ、そこに過剰量の塩酸をかけることにより酸化スズ膜を除去したものを用いた(上記特許文献2及び上記非特許文献3参照)。
【0025】
<比較例>
実施例1における還元工程を省略して、直ちに除去工程を行った以外は、実施例1と同様にTO膜の除去を行った。その結果、TO膜の還元と分解とが同時に進行し、所望のS箇所のTO膜が除去されるよりも先に、ランダムに周辺部の膜が除去されてしまい、電気的に絶縁されて除去されない膜が残ってしまうという問題が生じた。この結果から、還元工程を行った後除去工程を行うことが、TO膜の完全な除去のために必要であることがわかった。
【0026】
<実施例2>
上記エチレンジアミン四酢酸水溶液に代えて、50重量%グルコン酸水溶液に水酸化ナトリウムを溶解し、pHを7程度に調整した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてTO膜の除去を行った。その結果、除去工程において、電圧印可しながら挿入された部位から順に還元されたTO膜が基板から除去された。
<実施例3>
浸漬させるのではなく、図1に示す装置を用い、且つ所定のパターンが形成されたマスクを用いて、還元工程を行った以外は、実施例2と同様にしてTO膜の除去を行った。還元工程は、図2に示す装置を用い、所定のパターンで開口が形成されたマスクをTO膜付きガラス基板の表面に配置し、このマスクを介して、電圧を印加しながら水溶液を染み込ませた不織布をTO膜付きガラス基板に当接させることで、還元工程を行った。
その結果、良好にTO膜を除去することができた。
<実施例4>
マスクを用いずに、単に図1に示す装置を用いて、所定のパターンで電圧を印加しながら水溶液を染み込ませた不織布をTO膜付きガラス基板に当接させることで、還元工程を行った。それ以外は、実施例3と同様にしてTO膜の除去を行った。その結果、良好にTO膜を除去することができた。



図1
図2
図3
図4
図5
図6