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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】流体移送装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 25/02 20060101AFI20240910BHJP
   F04C 18/16 20060101ALI20240910BHJP
   F04D 3/02 20060101ALI20240910BHJP
   F04D 7/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F04C25/02 M
F04C18/16 B
F04D3/02 A
F04D7/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021046340
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145084
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】514312723
【氏名又は名称】TakedaWorks株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】原 正和
(72)【発明者】
【氏名】松本 弘樹
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-100017(JP,A)
【文献】特開昭50-132505(JP,A)
【文献】特開平8-51150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 25/02
F04C 18/16
F04D 3/02
F04D 7/00
B65G 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形のケーシングと、前記ケーシング内における前記ケーシングと同一軸心上に回転可能に設けられた回転体とを備え、
前記ケーシングは、円筒周壁部と、第1の外部配管と接続可能な第1接続口を有し前記円筒周壁部の軸心方向一端側に設けられた一端壁部と、第2の外部配管と接続可能な第2接続口を有し前記円筒周壁部の軸心方向他端側に設けられた他端壁部とを有し、
前記回転体は、外部動力にて回転するように前記ケーシングの前記一端壁部と前記他端壁部に枢支された回転軸部と、前記回転軸部の外周面に設けられた螺旋羽根部とを有し、
前記螺旋羽根部は、前記円筒周壁部の内周面に密着しながら摺動可能な螺旋ベルト状の外周摺動部を有し、
前記回転体を正回転させることにより前記第1の外部配管内の流体を前記第1接続口から前記ケーシング内へ流入させて前記第2接続口から前記第2の外部配管内へ移送し、前記回転体を逆回転させることにより前記第2の外部配管内の流体を前記第2接続口から前記ケーシング内へ流入させて前記第1接続口から前記第1の外部配管内へ移送するように構成されており、
前記螺旋羽根部は、前記回転軸部の外周面に固定された螺旋羽根本体と、前記螺旋羽根本体の外周部に着脱可能に取り付けられた前記外周摺動部とを有してなり、
前記螺旋羽根本体は、前記外周摺動部を離脱可能に受け入れる複数のねじ孔付き受片を前記外周部に長手方向に沿って有すると共に、前記複数のねじ孔付き受片の各ねじ孔に螺着する複数のねじピンを有し、
前記外周摺動部は、前記複数のねじ孔付き受片にて受け入れられた状態で前記複数のねじピンにて前記螺旋羽根本体の前記外周部に押さえ付けられていることを特徴とする流体移送装置。
【請求項2】
前記外周摺動部は、前記複数のねじピンが挿入される溝部または複数の凹部を長手方向に沿って有している、請求項に記載の流体移送装置。
【請求項3】
前記複数のねじピンのうちの前記外周摺動部の長手方向の両端部に対応する一対のねじピンは、前記外周摺動部を貫通して前記螺旋羽根本体の前記外周部に当接する、請求項またはに記載の流体移送装置。
【請求項4】
前記外周摺動部は、前記複数のねじピンにて押さえ付けられる螺旋ベルト状の弾性部と、前記ケーシングの前記円筒周壁部の内周面に密着しながら摺動するように前記弾性部の表面に一体状に設けられた低摩擦部とを有してなる、請求項のいずれか1つに記載の流体移送装置。
【請求項5】
前記回転体の前記回転軸部と連結した出力軸を有する電動モータをさらに備え、
前記電動モータが、出力調整可能である、請求項1~のいずれか1つに記載の流体移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体、ゲル、粉体、スラリー等の流体を移送可能な流体移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の流体移送装置として、特許文献1~3にはスクリュー式真空ポンプ(スクリュー形ドライ真空ポンプ)が開示されている。これら従来のスクリュー式真空ポンプは、一般に、吸気口と排気口を有するケーシング内に2つのスクリューロータが平行かつ回転可能に設けられ、各ロータとケーシングの内壁面との間およびロータ相互間に僅かな隙間が設けられ、これらの隙間を保ちながら各ロータが電動モータにて回転するように構成されている。そして、各ロータが回転することにより、各ロータとケーシングとの間の空間が軸方向に連続移送され、この空間に吸気口から空気を吸入し、空気を圧縮しながら排気口へ移送して外部へ排気するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-45976号公報
【文献】特開2003-97480号公報
【文献】特開2019-143620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように構成された従来のスクリュー式真空ポンプの場合、吸気口に接続パイプを介して接続された被真空物を設定真空圧(0.1~1.0Pa程度)まで減圧するための設計排気速度および最大差圧を実現するには、定格の回転数を必要とするため、電動モータにて各ロータを高速回転(約3000~6000min-1程度の回転数が一般的)させており、それによってケーシング内の温度が上昇する。そのため、各ロータとケーシングとの熱膨張による接触を回避するためにケーシングを冷却液で冷却する必要があった。
【0005】
また、従来のスクリュー式真空ポンプでは、上述のように設定真空圧を得るために定格の回転数で各ロータを高速回転させる必要があるため、ユーザが電動モータの出力を調整することができない。そのため、例えば、被真空物を低真空状態(105~102Pa)で連続的に長時間維持したいような場合でも、低真空を超えた中真空状態(102~10-1Pa)を維持するよう電動モータが高出力で長時間駆動することとなり、この結果、エネルギーロスが大きく、ポンプ寿命も短くなってしまう。
【0006】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされた流体移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、円筒形のケーシングと、前記ケーシング内における前記ケーシングと同一軸心上に回転可能に設けられた回転体とを備え、
前記ケーシングは、円筒周壁部と、第1の外部配管と接続可能な第1接続口を有し前記円筒周壁部の軸心方向一端側に設けられた一端壁部と、第2の外部配管と接続可能な第2接続口を有し前記円筒周壁部の軸心方向他端側に設けられた他端壁部とを有し、
前記回転体は、外部動力にて回転するように前記ケーシングの前記一端壁部と前記他端壁部に枢支された回転軸部と、前記回転軸部の外周面に設けられた螺旋羽根部とを有し、
前記螺旋羽根部は、前記円筒周壁部の内周面に密着しながら摺動可能な螺旋ベルト状の外周摺動部を有し、
前記回転体を正回転させることにより第1の外部配管内の流体を前記第1接続口から前記ケーシング内へ流入させて前記第2接続口から第2の外部配管内へ移送し、前記回転体を逆回転させることにより第2の外部配管内の流体を前記第2接続口から前記ケーシング内へ流入させて前記第1接続口から第1の外部配管内へ移送するように構成された、ことを特徴とする流体移送装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の流体移送装置は、従来のスクリュー式真空ポンプと比べて、部品点数が少なく、構造が簡素であり、高精度な加工技術を必要としないため、低コストにて容易に製造することができる。
つまり、従来のスクリュー式真空ポンプでは、2つのスクリューロータ同士の間隙および各ロータとケーシングとの間隙を微小かつ高精度に保つ必要があるため加工技術の難易度が高く、また部品点数も多いため、製造コストが高い。
これに対し、本発明の流体移送装置では、回転体の螺旋羽根部における螺旋ベルト状の外周摺接部をシール部としてケーシングの円筒周壁部の内周面に密着させながら摺動させる構成であるため、高精度な加工技術は不要であり、部品点数が少ない簡素な構造であるため、低コストにて容易に製造することができる。
【0009】
また、従来のスクリュー式真空ポンプでは、高速回転する各ロータとケーシングとが熱膨張によって接触するのを回避するために(微小なクリアランスを維持するために)冷却する必要がある。
これに対し、本発明の流体移送装置は、螺旋羽根部における外周摺接部をケーシングの円筒周壁部の内周面に密着させながら摺動させる構成であるため、微小なクリアランスを維持するための冷却を必要としない。
【0010】
また、従来のスクリュー式真空ポンプでは、各ロータとケーシングとのクリアランスを確保しながら空気を軸方向に移動させるためには各ロータを高速回転させる必要があり、そのためユーザ側で電動モータを出力調整することができない。
これに対し、本発明の流体移送装置は、回転体を低速回転させて低真空を得ることができ、回転体の回転数を徐々に上げることで真空度を増加させることも可能であり、ユーザー側にて所望の真空圧に応じた回転体の回転数調整が可能である。
【0011】
さらに、本発明の流体移送装置は、被真空物中の気体(例えば空気)を抜いて減圧する真空ポンプとしての機能に加えて、液体、ゲル、粉体等(例えば、水、飲料水、ゼリー、小麦粉等)の様々な流体を移送する機能をも備えている。しかも、回転体を正回転させて流体を一方向へ移送させ、回転体を逆回転させて流体を逆方向へ移送させることができると共に、ゲル状固形物を粉砕せずに移送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の流体移送装置を正面側から視た縦断面図である。
図2図1の流体移送装置を第1接続口側から視た右側面図である。
図3図1の流体移送装置を第2接続口側から視た左側面図である。
図4図1の流体移送装置における回転体の縦断面図である。
図5図4の回転体を左側から視た左側面図である。
図6図4の回転体における外周摺動部の固定部分を示す断面図である。
図7図4の回転体における外周摺動部の端部の固定部分を示す断面図である。
図8図4の回転体から取り外した外周摺動部を示す部分斜視図である。
図9図1の流体移送装置のシミュレーションデータである。
図10図4の外周摺接部の固定部分の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明をさらに詳述する。なお、以下の説明は、すべての点で例示であって、本発明を限定するものと解されるべきではない。
【0014】
図1は本発明の一実施形態の流体移送装置を正面側から視た縦断面図であり、図2図1の流体移送装置を第1接続口側から視た右側面図であり、図3図1の流体移送装置を第2接続口側から視た左側面図である。また、図4図1の流体移送装置における回転体の縦断面図であり、図5図4の回転体を左側から視た左側面図である。
図1~5に示すように、本実施形態の流体移送装置1は、円筒形のケーシング10と、ケーシング10内におけるケーシング10と同一軸心Q上に回転可能に設けられた1つの回転体30とを備える。また、この流体移送装置1は、回転体30を回転駆動する電動モータ60をさらに備えていてもよい。なお、電動モータ60としては、出力制御(出力軸の回転数調整)が可能であり、さらには正逆回転可能なタイプを用いることができる。
【0015】
ケーシング10は、円筒周壁部11と、第1の外部配管21と接続可能な第1接続口12aを有し円筒周壁部11の軸心Q方向の一端側に設けられた一端壁部12と、第2の外部配管22と接続可能な第2接続口13aを有し円筒周壁部11の軸心Q方向の他端側に設けられた他端壁部13とを有する。なお、本実施形態の場合、第1接続口12aと第2接続口13aは、第1接続口12aが上となり第2接続口13aが下となるように軸心Qに対して点対称的に配置されている(図2と3参照)。
【0016】
また、ケーシング10は、一端壁部12および他端壁部13にそれぞれ連結された一対の脚部14と、第1接続口12aと第2接続口13aとにそれぞれ接続された一対の接続具15と、回転体30の後述の回転軸部31の一端側および他端側をそれぞれ回転可能に支持する一対の支持部16、17とを有している。なお、ケーシング10の一端壁部12および他端壁部13は軸心Q上に回転軸部31の一端側および他端側を気密的に挿通させる挿通孔12b、13bをそれぞれ有している。
【0017】
一端壁部12に設けられた支持部16は、一端壁部12の外面に固定されたカバー16aと、カバー16a内に設けられて回転軸部31の一端側を回転可能に支持するベアリング16bとを有する。
他端壁部13に設けられた支持部17は、他端壁部13の外面に固定されたカバー17aと、カバー17a内に設けられて回転軸部31の他端側を回転可能に支持するベアリング17bとを有する。なお、カバー17aには、回転軸部31の他端を気密的に挿通させる挿通孔17aaが設けられている。
【0018】
回転体30は、外部動力としての電動モータ60にて回転するようにケーシング10の一端壁部12と他端壁部13に枢支された前記回転軸部31と、回転軸部31の外周面に設けられた螺旋羽根部32とを有する。
回転軸部31は、ケーシング10内に配置される丸軸状の大径部31aと、大径部31aの一端と他端に連設された一対の丸軸状の中径部31bと、他端側の中径部31bに連設された丸軸状の小径部31cとを有し、各中径部31bの端部には雄ねじ31baが設けられている(図1と4参照)。
【0019】
この回転軸部31の一対の中径部31bが、ケーシング10の一端壁部12および他端壁部13の挿通孔12b、13bを挿通し、かつ、一対の支持部16、17のベアリング16b、17bにて支持されている。また、一対の中径部31bの雄ねじ31baにはそれぞれナット33が2個ずつ螺着されており、これらのナット33により各ベアリング16b、17bが一端壁部12および他端壁部13側に押し付けられており、それによって回転軸部31が軸心Q方向に位置決めされている(図1参照)。
【0020】
螺旋羽根部32は、回転軸部31の外周面に固定された螺旋羽根本体32aと、螺旋羽根本体32aの外周部に着脱可能に取り付けられた螺旋ベルト状の外周摺動部32bとを有してなり、ケーシング10の円筒周壁部11の内周面に外周摺動部32bが密着しながら摺動回転するようになっている(図1と4参照)。
【0021】
螺旋羽根本体32aは、一定の外径Dを有するように湾曲した外周部および回転軸部31を挿入可能とする内周部を有する螺旋板材(厚さ1~2mm程度)にて構成されており、内周部が回転軸部31の大径部31aに溶接されている。本実施形態の場合、螺旋羽根本体32aの螺旋巻数は2であり、螺旋ピッチPは100mm程度であり、外径Dは180mm程度である。特に、螺旋羽根本体32aは、金属の削り出し加工ではなく、軸への螺旋板材の溶接により形成したものであるため、螺旋の谷を深くすることができる。
【0022】
そのため、ケーシング10の軸方向の長さを短くしても流体の移送量を大きくすることができる。つまり、コンパクトでありながら移送量の大きい流体移送装置1を得ることができる。なお、螺旋羽根本体32aの螺旋巻数、螺旋ピッチPおよび外径D等は、流体移送装置の用途によって自由に設定することができ、本実施形態では真空ポンプ用として設計している。
【0023】
図6図4の回転体における外周摺動部の固定部分を示す断面図であり、図7図4の回転体における外周摺動部の端部の固定部分を示す断面図である。また、図8図4の回転体から取り外した外周摺動部を示す部分斜視図である。
図1、4~7に示すように、螺旋羽根本体32aは、外周摺動部32bを離脱可能に螺旋羽根本体32aの外周部に固定する複数の固定部を有している。複数の固定部は、外周摺動部32bを離脱可能に受け入れる複数のねじ孔付き受片32aaを外周部に長手方向に沿って有すると共に、複数のねじ孔付き受片32aaの各ねじ孔に着する複数のねじピン32abをそれぞれ有している。
【0024】
複数のねじ孔付き受片32aaは、略Z形に折り曲げられた板片であり、螺旋羽根本体32aの外周部側で開放するように外周部の左側の面(第2接続口13a側の面)に所定中心角度θ1(例えば、約72°)で配置され溶接されている。但し、外周摺動部32bの長手方向の両端を固定する一対のねじ孔付き受片32aaは、隣接する他のねじ孔付き受片32aaと狭い中心角度θ2(例えば36°)をもって配置されている。なお、中心角度θ1、θ2は特に限定されるものではない。
【0025】
図4~8に示すように、外周摺動部32bは、複数のねじピン32abにて螺旋羽根本体32aの外周部に押さえ付けられる螺旋ベルト状の弾性部32baと、ケーシング10の円筒周壁部11の内周面に密着しながら摺動するように弾性部32baの表面に一体状に設けられた低摩擦部32bbとを有してなる。また、弾性部32baには、複数のねじピン32abが挿入される1本の溝部32bcが長手方向に沿って設けられている。
【0026】
外周摺動部32bにおいて、弾性部32baは、天然または合成ゴムからなり、螺旋羽根本体32aの外周部の長さとほぼ同一の長さを有している。この弾性部32baは、螺旋羽根本体32aの外周部とねじ孔付き受片32aaとの間のスペースに受け入れられる部分が矩形断面に形成され、前記スペースから径方向外方へ突出した部分が半円形断面に形成されている。
【0027】
外周摺動部32bにおいて、低摩擦部32bbは、摩擦抵抗の小さい樹脂材料、例えば、テフロン(登録商標)といったフッ素樹脂からなり、弾性部32baの半円形断面部分の外表面を覆うように層状にコーティング(加硫接着)されている。
溝部32bcは、低摩擦部32bbがコーティングされていない弾性部32baの一側面に沿って形成されている。なお、溝部32bcの代わりに複数の凹部を弾性部32baに設けてもよい。
【0028】
外周摺動部32bは、複数のねじ孔付き受片32aaにて受け入れられた状態において、複数の短いねじピン32abが溝部32bc内に挿入されることによって螺旋羽根本体32aの外周部に押さえ付けられている(図6参照)但し、外周摺動部32bの長手方向の両端は、2本の長いねじピン32abが溝部32bcから弾性部32baを貫通して螺旋羽根本体32aの外周部に当接することによって固定されている。これにより、外周摺動部32b全体が螺旋羽根本体32aの外周部に沿って位置ずれしないように止められている。なお、外周摺動部32bに溝部32bcを設けているため、各ねじピン32abの締め付けを緩めれば、外周摺動部32bを螺旋羽根本体32aの外周部に沿って位置調整するときに長手方向に位置をずらしやすくなる。
【0029】
このように、複数のねじ孔付き受片32aaにて受け入れられかつ複数のねじピン32abにて位置決め固定された外周摺動部32bは、低摩擦部32bbの頂部が螺旋羽根本体32aの外周部の端部よりも僅かに(0.5~1mm)径方向外方に突出している。これにより、回転体30の回転時に低摩擦部32bbはケーシング10の内周面に気密的に摺動するが、螺旋羽根本体32aの外周部はケーシング10の内周面に摺動しない。
【0030】
したがって、図1に示すように、この流体移送装置1の電動モータ60を駆動させて回転体30を矢印A方向(第1接続口12a側から視て反時計回り)に正回転させることにより第1の外部配管21内の流体を第1接続口12aからケーシング10内へ流入させて第2接続口13aから第2の外部配管22内へ移送させることができる。
【0031】
この流体移送装置1の具体的な用途の一例として、円筒形のロータリータンクが水平軸心を中心に回転しながら内部に投入した有機廃棄物を微生物によって分解処理する有機廃棄物処理装置のロータリータンク内を減圧する真空ポンプとして使用することができる。
【0032】
この場合、流体移送装置1の第1接続口12aに第1の外部配管21を介して有機廃棄物処理装置に接続し、回転体30を正回転させることによりロータリータンク内を減圧する。このとき、例えば回転体30が正回転し続けることにより、ロータリータンク内のガス(空気、水蒸気、発酵過程で生ずるガス等を含む)がケーシング10内を通って第2の外部配管22内へ排気され、ロータリータンク内が低真空状態(105~102Pa)に維持される。この際、ケーシング10を水などで冷却する必要はない。なお、ケーシング10の第2接続口13aの接続具15と第2の外部配管22との間にガスの逆流を防ぐ逆止弁を設けてもよく、第2の外部配管の下流側端部を臭気処理装置に接続して無臭化したガスを大気中に排気するようにしてもよい。
【0033】
また、流体移送装置1をより高い真空度が必要な装置に接続し、電動モータ60の出力を上げて回転体30を約250~1500min-1程度まで回転させれば、装置内を中真空(102~10-1Pa)にすることも可能である。しかも、ケーシングを水などで冷却する必要もない。
【0034】
また、この流体移送装置1は、空気のような気体の移送以外にも、例えば、水や飲料水等の液体、ゼリーや寒天等のゲル、小麦粉やセメント等の粉体、モルタル、生コンクリート等のスラリーといった様々な流体を一方側(例えば貯蔵タンク)から他方側(例えば次工程の処理装置)へ移送する装置として使用することができる。さらに、この流体移送装置1は、回転体30を逆回転(図1の矢印A方向と逆方向)させることにより、各種流体を第2接続口13a側から第1接続口12a側へ移送することも可能である。
【0035】
このように、この流体移送装置1が気体以外にも液体、ゲル、粉体、スラリーといった様々な流体を移送することができる主な要因としては、従来のスクリュー式真空ポンプのようにロータが2本でなく1本であり、かつ、軸に螺旋羽根を溶接したロータを使用しているため広い流路を確保できる、従来のスクリュー式真空ポンプのようにロータ同士および各ロータとケーシングとの間の微小なクリアランスを形成せず、クリアランスに流体(固形物)が挟まって各ロータの回転を妨げるようなことがない、低速回転が可能である、外周摺動部32bはねじピン32abを取り外して容易に交換可能であり、構造も簡素であるためメンテナンス性に優れているなどの点が挙げられる。
【0036】
図9図1の流体移送装置1のシミュレーションデータである。このシミュレーションデータは、次の条件に基づいて導き出されている。
ケーシング10の容積:2434.8cm3
螺旋ピッチP:100mm
螺旋羽根本体32aの螺旋巻数:2
回転軸部31の直径:32mm
螺旋羽根本体32aの谷深さ:73.5mm
螺旋羽根本体32aの外径D:179mm
被真空物であるタンクの容量:690L
【0037】
図9のシミュレーションデータでは、流体移送装置1の回転体30の回転速度とタンク内圧力と排気時間(経過時間)との関係を次の式(1)により算出している。
t=V/S*2.303logP1/P2 ・・・ (1)
t:排気時間
V:タンク容量
S:実行排気速度
P1:現在のタンク内圧力
P2:目標タンク内圧力
なお、前記式(1)では常用対数(log10)を自然対数(ln)に変換するために2.303倍している。
また、標準気圧(101325Pa)での実行排気速度Sは、次のように回転数に応じて規定されている。
250(min-1)S=1217.41725
500(min-1)S=2434.8345
750(min-1)S=3652.25175
1000(min-1)S=4869.669
1250(min-1)S=6087.08625
1500(min-1)S=7304.5035
なお、標準気圧(101325Pa)での実行排気速度S=ケーシング10の容積(2434.8cm3)×螺旋羽根本体32aの螺旋巻数(2)×回転速度(250~1500min-1)である。
【0038】
このシミュレーションデータから、容量690Lのタンクの内部圧力を4000Pa(低真空)にするために、回転数1500min-1では0.36minで目標圧力に達することがわかる。
【0039】
図10図4の外周摺接部の固定部分の変形例を示す断面図である。なお、図10において、図6中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
図10に示すように、螺旋羽根部132は、螺旋羽根本体32aの外周部の端部に固定部としてのねじ孔付き受片132aaが設けられてもよい。
【0040】
この場合、ねじ孔付き受片132aaは、螺旋羽根本体32aの外周部に跨いだ状態で溶接される小さいU字形部分と、外周摺動部132bを受け入れる大きいU字形部分とが連設されてなり、大きいU字形部分に一対のねじ孔が形成されている。
また、外周摺動部132bは、両側面に溝部32bcを有する弾性部132baと、弾性部132baの表面の一部を覆う低摩擦部132bbとを有してなる。なお、低摩擦部132bbの頂部は、ねじ孔付き受片132aaよりも0.5~1mm程度径方向外方へ突出している。
【0041】
ねじ孔付き受片132aaの大きいU字形部分の一対のねじ孔にねじピン32abを螺着することにより、一対のねじピン32abが外周摺動部132bの一対の溝部32bcに嵌り込んで外周摺動部132bを位置決め固定する。なお、図示省略するが、外周摺動部132bの両端は、図7に示したように1本のねじピン32abが外周摺動部132bを貫通して反対側のねじ孔に螺着することにより位置ずれを防止している。
【0042】
(まとめ)
以上に述べたように、
(1)本発明による流体移送装置は、円筒形のケーシングと、前記ケーシング内における前記ケーシングと同一軸心上に回転可能に設けられた回転体とを備え、
前記ケーシングは、円筒周壁部と、第1の外部配管と接続可能な第1接続口を有し前記円筒周壁部の軸心方向一端側に設けられた一端壁部と、第2の外部配管と接続可能な第2接続口を有し前記円筒周壁部の軸心方向他端側に設けられた他端壁部とを有し、
前記回転体は、外部動力にて回転するように前記ケーシングの前記一端壁部と前記他端壁部に枢支された回転軸部と、前記回転軸部の外周面に設けられた螺旋羽根部とを有し、
前記螺旋羽根部は、前記円筒周壁部の内周面に密着しながら摺動可能な螺旋ベルト状の外周摺動部を有し、
前記回転体を正回転させることにより第1の外部配管内の流体を前記第1接続口から前記ケーシング内へ流入させて前記第2接続口から第2の外部配管内へ移送し、前記回転体を逆回転させることにより第2の外部配管内の流体を前記第2接続口から前記ケーシング内へ流入させて前記第1接続口から第1の外部配管内へ移送するように構成された、ことを特徴とする。
【0043】
本発明による流体移送装置は、次のように構成されてもよく、それらが適宜組み合わされてもよい。
(2)前記螺旋羽根部は、前記回転軸部の外周面に固定された螺旋羽根本体と、前記螺旋羽根本体の外周部に着脱可能に取り付けられた前記外周摺動部とを有してなるものであってもよい。
この構成によれば、古い外周摺動部を螺旋羽根本体から取り外して新しい外周摺動部と交換することができる。
【0044】
(3)前記螺旋羽根本体は、前記外周摺動部を離脱可能に受け入れる複数のねじ孔付き受片を前記外周部に長手方向に沿って有すると共に、前記複数のねじ孔付き受片の各ねじ孔に着する複数のねじピンを有し、
前記外周摺動部は、前記複数のねじ孔付き受片にて受け入れられた状態で前記複数のねじピンにて前記螺旋羽根本体の前記外周部に押さえ付けられているものであってもよい。
この構成によれば、外周摺動部の螺旋羽根本体への着脱が容易な取付構造を得ることができる。
【0045】
(4)前記外周摺動部は、前記複数のねじピンが挿入される溝部または複数の凹部を長手方向に沿って有しているものであってもよい。
この構成によれば、複数のねじピンによる外周摺動部の螺旋羽根本体への固定および位置調整が容易となる。
【0046】
(5)前記複数のねじピンのうちの前記外周摺動部の長手方向の両端部に対応する一対のねじピンは、前記外周摺動部を貫通して前記螺旋羽根本体の前記外周部に当接するものであってもよい。
この構成によれば、螺旋羽根本体の外周部に対する外周摺動部の長手方向の位置ずれを容易に防止することができる。
【0047】
(6)前記外周摺動部は、前記複数のねじピンにて押さえ付けられる螺旋ベルト状の弾性部と、前記ケーシングの前記円筒周壁部の内周面に密着しながら摺動するように前記弾性部の表面に一体状に設けられた低摩擦部とを有してなるものであってもよい。
この構成によれば、弾性部を金型内にセットしてフッ素樹脂を流し込むインサート成形にて外周摺動部を形成することができる。
【0048】
(7)前記回転体の前記回転軸部と連結した出力軸を有する電動モータをさらに備え、
前記電動モータが、出力調整可能であってもよい。
この構成によれば、移送の対象物である流体の種類や目的等に応じて、回転体の回転数を調整することができる。
【0049】
本発明の好ましい態様には、上述した複数の態様のうちの何れかを組み合わせたものも含まれる。
前述した実施の形態の他にも、本発明について種々の変形例があり得る。それらの変形例は、本発明の範囲に属さないと解されるべきものではない。本発明には、請求の範囲と均等の意味および前記範囲内でのすべての変形とが含まれるべきである。
【符号の説明】
【0050】
1:流体移送装置、 10:ケーシング、 11:円筒周壁部、 12:一端壁部、 12a:第1接続口、 12b:挿通孔、 13:他端壁部、 13a:第2接続口、 13b:挿通孔、 14:脚部、 15:接続具、 16:支持部、 16a:カバー、 16b:ベアリング、 17:支持部、 17a:カバー、 17aa:挿通孔、 11b:ベアリング、 21:第1の外部配管、 22:第2の外部配管、 30:回転体、 31:回転軸部、 31a:大径部、 31b:中径部、 31ba:雄ネジ、 31c:小径部、 32:螺旋羽根部、 32a:螺旋羽根本体、 32aa:ねじ孔付き受片、 32ab:ねじピン、 32b:外周摺動部、 32ba:弾性部、 32bb:低摩擦部、 32bc:溝部、 33:ナット、 60:電動モータ、 132:螺旋羽根部、 132aa:ねじ付き受片、 132b:外周摺動部、 132ba:弾性部、 132bb:低摩擦部、 D:外径、 P:螺旋ピッチ、 Q:軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10