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特許7553110エピゲノム編集のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】エピゲノム編集のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240910BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240910BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240910BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C12N15/113 Z
C12N9/88
C12N9/16 Z
【請求項の数】 2
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021102533
(22)【出願日】2021-06-21
(62)【分割の表示】P 2017560481の分割
【原出願日】2016-02-09
(65)【公開番号】P2021164463
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】62/113,569
(32)【優先日】2015-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ゲルスバッハ チャールズ エイ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルトン アイザック
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/197748(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/152432(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの異種のポリペプチドドメインを含む融合タンパク質であって、第1のポリペプチドドメインは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連(Cas)タンパク質を含み、かつ第2のポリペプチドドメインは、ヒストンアセチル化酵素活性を有するペプチドを含む、融合タンパク質、および
配列番号38、45、59~61、152~153、158、160~161、164~165、167~168、170、172、および175~185のうちの少なくとも1つから選択される配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)
を含む、DNAターゲティング系。
【請求項2】
細胞における標的遺伝子の遺伝子発現を活性化するための、請求項1に記載のDNAターゲティング系を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる、2015年2月9日に出願された米国仮特許出願第62/113,569号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
政府の権利の陳述
本発明は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって拠出された連邦政府助成金第1R01DA036865号に基づいて、政府支援の下で行われた。政府は、本発明に対する一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本開示は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系および前記の系を使用する方法を対象とする。
【背景技術】
【0004】
ヒトゲノム計画は、資金提供が行われ、ヒトゲノムの配列決定が、循環器疾患、神経変性状態、および糖尿病などの代謝疾患を含めた、強い遺伝性要素を有する複雑な疾患の遺伝的根拠を明らかにするであろうという前提に基づいて推進された。この情報が、これらの広範な疾患に対する新規の薬物標的をもたらすであろうと信じられていた。しかし、何千ものゲノムワイド関連解析(GWAS)が、これらの複雑な疾患と関係がある遺伝的変異が、遺伝子内に発生するのではなく特定の遺伝子のレベルを制御する遺伝子間調節領域において発生することを示している。同様に、メンデル遺伝病(Mendelian disorder)のおよそ20%は、検出可能なコード化変異を有さず、原因となる変異が遺伝子調節エレメント内にあることを示唆している。重要なことには、これらの調節エレメントに、機能的役割を割り当てることは非常に難しい。何故なら、これらの調節エレメントは、しばしば、その標的遺伝子から離れた位置に位置するからである。さらに、多くの遺伝子および調節エレメントは、GWAS研究ごとに、それぞれの陽性のヒットに分類される。実際には、ヒトゲノム計画に対するフォローアッププロジェクト、例えばNIH出資のEncyclopedia of DNA Elements(ENCODE)およびRoadmap Epigenomics Projectなどが、多くのヒト細胞型および組織について、ヒトゲノム全域の何百万もの推定上の調節エレメントを同定している。
【0005】
ゲノム機能解析の最初の難関は、個々の遺伝子座でのゲノム機能を直接的かつ正確に操作する技術を発展させることである。ENCODEおよびRoadmap Epigenomics Projectなどのプロジェクトは、多くのヒト細胞型および組織について、ヒトゲノム全域の何百万ものエピジェネティックマークを同定している。しかし、これらのマークの機能を研究することは、もっぱら遺伝子発現との統計的関連性に限られている。これらのエピジェネティック特性の直接操作のための技術は、こうした関連性に基づく発見を遺伝子調節の機構的原理に変換するために必須である。こうした進歩は、ゲノムの標的領域のエピジェネティックコードを改変する遺伝子治療、系譜特定のエピジェネティックリプログラミングに基づく再生医療および疾患モデリングのための戦略、およびエピゲノム特異的な薬物スクリーニングプラットフォームの設計をもたらす可能性があるので、人間の健康に利益を与える可能性を有する。
【0006】
エピゲノムの操作は、細胞を、ヒストン脱アセチル酵素またはDNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤などの小分子薬物で処理すること、または細胞を特定の系譜に分化させることによって可能である。しかし、小分子に基づく方法は、エピゲノムおよびトランスクリプトームを全体的に変化させ、個々の遺伝子座を標的にするのには適していない。エピゲノム修飾酵素と、ジンクフィンガータンパク質および転写活性化因子様エフェクター(TALE)などのプログラム可能なDNA結合タンパク質との融合を含めたエピゲノム編集技術は、標的にされるDNAメチル化、DNAヒドロキシメチル化、およびヒストン脱メチル化、メチル化、および脱アセチル化を達成するのに有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
単純ヘルペスウイルスタンパク質16(VP16)のオリゴマーなどの活性化ドメインと融合されると、dCas9は、合成の転写調節因子として機能することができる。しかし、複数の活性化ドメインの必要性、または活性化ドメイン間の相乗効果によって高レベルの遺伝子導入を実現するためのgRNAの組み合わせの必要性を含めて、dCas9活性化因子の使用における制限は残ったままである。VP16のテトラマーVP64などの、これらの遺伝子改変された転写因子において使用される、従来の活性化因子ドメインは、転写開始前複合体の複数の成分を動員するための骨格として機能し、クロマチン状態を特異的に調節する直接的な酵素機能は有しない。エピジェネティックリモデリングのこの間接的方法は、特定のエピジェネティックマークの役割を試験することを可能にせず、また、エピジェネティック状態の直接プログラミングほど強力ではない可能性がある。エピジェネティック特性の直接操作を目標にする能力の必要性が、依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、2つの異種のポリペプチドドメインを含む融合タンパク質であって、第1のポリペプチドドメインが、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)関連(Cas)タンパク質を含み、かつ第2のポリペプチドドメインが、ヒストンアセチル化酵素活性を有するペプチドを含む、融合タンパク質を対象とする。
【0009】
本発明は、先に記載した融合タンパク質と、少なくとも1種のガイドRNA(gRNA)とを含む、DNAターゲティング系を対象とする。
【0010】
本発明は、細胞における標的遺伝子の遺伝子発現を活性化する方法であって、この細胞を、DNAターゲティング系(ここでは、DNAターゲティング系は、先に記載したの融合タンパク質と、少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)とを含む)をコードするポリヌクレオチドと接触させることを含む方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A-1C】dCas9p300 Core融合タンパク質が、近位プロモーター領域からの内在性遺伝子の転写を活性化することを示す。図1Aは、dCas9融合タンパク質dCas9VP64、dCas9FL p300、およびdCas9p300 Coreの模式図を示す。化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)dCas9は、ヌクレアーゼ不活性化変異D10AおよびH840Aを含有する。p300 HATドメイン内のD1399触媒残基を示す。図1Bは、同時導入細胞におけるdCas9融合タンパク質およびGAPDHの発現レベルを示すウエスタンブロットを示す(図7Cに完全なブロットを示す)。図1Cは、各プロモーター領域を標的にする4種のgRNAを同時導入した指示されたdCas9融合タンパク質による、qRT-PCRによって決定される、IL1RN、MYOD、およびOCT4の相対的mRNA発現を示す(テューキー検定、*P値<0.05、n=3(それぞれ独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。バーの上の数字は、平均発現量を示す。FLAG、エピトープタグ;NLS、核局在化シグナル;HA、赤血球凝集素エピトープタグ;CH、システイン-ヒスチジン-リッチ領域;Bd、ブロモドメイン;HAT、ヒストンアセチル化酵素ドメイン。
図2A-2C】dCas9p300 Core融合タンパク質が、遠位エンハンサー領域からの内在性遺伝子の転写を活性化することを示す。図2Aは、近位または遠位調節領域を標的にするgRNAのプールとdCas9VP64またはdCas9p300 Coreとを同時導入した細胞における相対的MYOD mRNA産生;図1Cからのプロモーターデータを示す(テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入細胞と比較して)、テューキー検定 †P値 <0.05(dCas9p300 CoreとdCas9VP64との間)、n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。ヒトMYOD遺伝子座を、赤色の対応するgRNA位置を伴って模式的に描写する。CE、MyoDコアエンハンサー;DRR、MyoD遠位調節領域。図2Bは、近位および遠位調節領域を標的にするgRNAのプールとdCas9VP64またはdCas9p300 Coreとを同時導入した細胞における相対的OCT4 mRNA産生;図1Cからのプロモーターデータを示す(テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入細胞と比較して)、テューキー検定 †P値 <0.05(dCas9p300 CoreとdCas9VP64との間)、n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。ヒトOCT4遺伝子座を、赤色の対応するgRNA位置を伴って模式的に描写する。DE、Oct4遠位エンハンサー;PE、Oct4近位エンハンサー。図2Cは、ヒトβ-グロビン遺伝子座が、適切な位置の高感受性領域2(HS2)エンハンサー領域および下流遺伝子(HBE、HBG、HBD、およびHBB)を伴って模式的に描写されることを示す。対応するHS2 gRNA位置は、赤で示す。HS2エンハンサーを標的にする4種のgRNAと、指示されたdCas9タンパク質とを同時導入した細胞における遠位遺伝子からの相対的mRNA産生。バックグラウンド発現を示す対数的y軸および赤破線に留意すること(各β-グロビン遺伝子についての条件間のテューキー検定、†P値 <0.05、n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。n.s.、有意差なし。
図3A-3B】dCas9p300 Coreに標的にされる転写活性化が、特異的かつ頑強であることを示す。図3A~3Cは、dCas9VP64図3A)、dCas9p300 Core図3B)、またはdCas9p300 Core(D1399Y)図3C)と4種のIL1RNプロモーターを標的にするgRNAとを一過的に同時導入したHEK293T細胞からの、dCas9と4種のIL1RNプロモーターを標的にするgRNAとを一過的に同時導入したHEK293T細胞と比較した、ゲノムワイドRNA-seqデータのDEseq2解析からもたらされたMAプロットを示す。図3A~3Cのそれぞれにおいて、IL1RNアイソフォームに対応するmRNAを、青で示し、丸で囲む。図3Bおよび3Cにおける赤で標識された点は、多重仮説検定後に有意に濃縮されたオフターゲット転写物に相当する(KDR、(FDR=1.4×10-3);FAM49A、(FDR=0.04);図3Bにおいてp300、(FDR=1.7×10-4))。
図3C】dCas9p300 Coreに標的にされる転写活性化が、特異的かつ頑強であることを示す。図3A~3Cは、dCas9VP64図3A)、dCas9p300 Core図3B)、またはdCas9p300 Core(D1399Y)図3C)と4種のIL1RNプロモーターを標的にするgRNAとを一過的に同時導入したHEK293T細胞からの、dCas9と4種のIL1RNプロモーターを標的にするgRNAとを一過的に同時導入したHEK293T細胞と比較した、ゲノムワイドRNA-seqデータのDEseq2解析からもたらされたMAプロットを示す。図3A~3Cのそれぞれにおいて、IL1RNアイソフォームに対応するmRNAを、青で示し、丸で囲む。図3Bおよび3Cにおける赤で標識された点は、多重仮説検定後に有意に濃縮されたオフターゲット転写物に相当する(KDR、(FDR=1.4×10-3);FAM49A、(FDR=0.04);図3Bにおいてp300、(FDR=1.7×10-4);および図3Cにおいてp300、(FDR=4.4×10-10))。
図4A】dCas9p300 Core融合タンパク質が、標的にされるエンハンサーおよび対応する下流遺伝子で、クロマチンをアセチル化することを示す。図4Aは、染色体11上のヒトβ-グロビン遺伝子座(5,304,000~5,268,000;GRCh37/hg19アセンブリ)を包含する領域を示す。HS2 gRNA標的位置は、赤で示し、ChIP-qPCRアンプリコン領域は、対応する緑色の数字と共に黒で描写する。比較のために、K562細胞におけるENCODE/Broad Institute H3K27ac濃縮シグナルを示す。HS2エンハンサー、HBE、およびHBG1/2プロモーター領域についての拡大挿入図を、下に示す。
図4B-4C】dCas9p300 Core融合タンパク質が、標的にされるエンハンサーおよび対応する下流遺伝子で、クロマチンをアセチル化することを示す。図4B~4Dは、HS2エンハンサーを標的にする4種のgRNAと、指示されたdCas9融合タンパク質とを同時導入した細胞における、HS2エンハンサー、HBEプロモーター、およびHBG1/2プロモーターでのH3K27ac ChIP-qPCR濃縮(dCas9に対して;赤色点線)を示す。HBG ChIPアンプリコン1および2は、HBG1およびHBG2プロモーターの冗長(redundant)配列を増幅させる(‡によって表される)。各ChIP-qPCR領域についての条件間のテューキー検定、*P値 <0.05、n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。
図4D】dCas9p300 Core融合タンパク質が、標的にされるエンハンサーおよび対応する下流遺伝子で、クロマチンをアセチル化することを示す。図4B~4Dは、HS2エンハンサーを標的にする4種のgRNAと、指示されたdCas9融合タンパク質とを同時導入した細胞における、HS2エンハンサー、HBEプロモーター、およびHBG1/2プロモーターでのH3K27ac ChIP-qPCR濃縮(dCas9に対して;赤色点線)を示す。HBG ChIPアンプリコン1および2は、HBG1およびHBG2プロモーターの冗長(redundant)配列を増幅させる(‡によって表される)。各ChIP-qPCR領域についての条件間のテューキー検定、*P値 <0.05、n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。
図5A-5B】dCas9p300 Core融合タンパク質が、単一のgRNAと共に、調節領域からの内在性遺伝子の転写を活性化することを示す。dCas9p300 CoreまたはdCas9VP64と、それぞれのプロモーターを標的にするgRNAとを同時導入した細胞から産生された、相対的IL1RN(図5A)、MYOD(図5B)、またはOCT4(図 5C)mRNA(n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。HS2、β-グロビン遺伝子座対照領域高感受性領域2;n.s.、有意差なし(テューキー検定使用)。
図5C-5D】dCas9p300 Core融合タンパク質が、単一のgRNAと共に、調節領域からの内在性遺伝子の転写を活性化することを示す。dCas9p300 CoreまたはdCas9VP64と、それぞれのプロモーターを標的にするgRNAとを同時導入した細胞から産生された、相対的IL1RN(図5A)、MYOD(図5B)、またはOCT4(図 5C)mRNA(n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。dCas9p300 Coreと、指示されたMYODまたはOCT4エンハンサーを標的にする指示されたgRNAとを同時導入した細胞から産生された、相対的MYOD(図5D)またはOCT4(図5E)mRNA(n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。HS2、β-グロビン遺伝子座対照領域高感受性領域2;n.s.、有意差なし(テューキー検定使用)。
図5E-5G】dCas9p300 Core融合タンパク質が、単一のgRNAと共に、調節領域からの内在性遺伝子の転写を活性化することを示す。dCas9p300 Coreと、指示されたMYODまたはOCT4エンハンサーを標的にする指示されたgRNAとを同時導入した細胞から産生された、相対的MYOD(図5D)またはOCT4(図5E)mRNA(n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。DRR、MYOD遠位調節領域;CE、MYODコアエンハンサー;PE、OCT4近位エンハンサー;DE、OCT4遠位エンハンサー。(mock導入細胞と比較した、dCas9p300 Coreと単一のOCT4 DE gRNAとの間のテューキー検定、*P値 <0.05、すべてと比較した、dCas9p300 CoreとOCT4 DE gRNAとの間のテューキー検定、†P値 <0.05)。dCas9p300 Coreと、HS2エンハンサーを標的にする指示されたgRNAとを同時導入した細胞における、相対的HBE(図5F)またはHBG(図5G)mRNA産生(mock導入細胞と比較した、dCas9p300 Coreと単一のHS2 gRNAとの間のテューキー検定、*P値 <0.05、すべてと比較した、dCas9p300 CoreとHS2単一gRNAとの間のテューキー検定、†P<0.05、n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。HS2、β-グロビン遺伝子座対照領域高感受性領域2;n.s.、有意差なし(テューキー検定使用)。
図6A-6C】多様なプログラム可能なDNA結合タンパク質によって、p300 Coreは、ゲノム上の遺伝子座を標的にすることができることを示す。図6Aは、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(Nm)dCas9融合タンパク質Nm-dCas9VP64およびNm-dCas9p300 Coreの模式図を示す。髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)dCas9は、ヌクレアーゼ不活性化変異D16A、D587A、H588A、およびN611Aを含有する。図6B~6Cは、HBEまたはHBGプロモーターを標的にする指示された5種の個々のまたはプールされた(A~E)Nm gRNAと、Nm-dCas9VP64またはNm-dCas9p300 Coreとを同時導入した細胞における、相対的HBE(図6B)またはHBG(図6C)mRNAを示す。テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入対照と比較して)、n=3(それぞれ独立した実験)、エラーバー:s.e.m.NLS、核局在化シグナル;HA、赤血球凝集素タグ;Bd、ブロモドメイン;CH、システイン-ヒスチジン-リッチ領域;HAT、ヒストンアセチル化酵素ドメイン。
図6D-6E】多様なプログラム可能なDNA結合タンパク質によって、p300 Coreは、ゲノム上の遺伝子座を標的にすることができることを示す。図6D~6E HS2エンハンサーを標的にする指示された5種の個々のまたはプールされた(A~E)Nm gRNAと、Nm-dCas9VP64またはNm-dCas9p300 Coreとを同時導入した細胞における、相対的HBE(図6D)またはHBG(図6E)mRNA。テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入対照と比較して)、n=3(それぞれ独立した実験)、エラーバー:s.e.m.NLS、核局在化シグナル;HA、赤血球凝集素タグ;Bd、ブロモドメイン;CH、システイン-ヒスチジン-リッチ領域;HAT、ヒストンアセチル化酵素ドメイン。
図6F】多様なプログラム可能なDNA結合タンパク質によって、p300 Coreは、ゲノム上の遺伝子座を標的にすることができることを示す。図6Fは、IL1RNに標的にされる反復可変二残基(repeat variable diresidue)(反復ドメイン)を含有するドメインを有するTALEの模式図を示す。テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入対照と比較して)、n=3(それぞれ独立した実験)、エラーバー:s.e.m.NLS、核局在化シグナル;HA、赤血球凝集素タグ;Bd、ブロモドメイン;CH、システイン-ヒスチジン-リッチ領域;HAT、ヒストンアセチル化酵素ドメイン。
図6G】多様なプログラム可能なDNA結合タンパク質によって、p300 Coreは、ゲノム上の遺伝子座を標的にすることができることを示す。図6Gは、個々のまたはプールされた(A~D)IL1RN TALEVP64またはIL1RN TALEp300 Coreをコードするプラスミドを導入した細胞における、相対的IL1RN mRNAを示す。テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入対照と比較して)、n=3(それぞれ独立した実験)、エラーバー:s.e.m.NLS、核局在化シグナル;HA、赤血球凝集素タグ;Bd、ブロモドメイン;CH、システイン-ヒスチジン-リッチ領域;HAT、ヒストンアセチル化酵素ドメイン。
図6H-6I】多様なプログラム可能なDNA結合タンパク質によって、p300 Coreは、ゲノム上の遺伝子座を標的にすることができることを示す。図6Hは、ICAM1プロモーターを標的にするジンクフィンガーヘリックス1~6(F1~F6)を有するZF融合タンパク質の模式図を示す。図6Iは、ICAM1 ZFVP64またはICAM1 ZFp300 Coreを導入した細胞における、相対的ICAM1 mRNAを示す。テューキー検定、*P値 <0.05(mock導入対照と比較して)、n=3(それぞれ独立した実験)、エラーバー:s.e.m.NLS、核局在化シグナル;HA、赤血球凝集素タグ;Bd、ブロモドメイン;CH、システイン-ヒスチジン-リッチ領域;HAT、ヒストンアセチル化酵素ドメイン。
図7A-7B】dCas9p300 Core変異体融合タンパク質活性を示す。図7Aは、WT dCas9p300 Core融合タンパク質およびp300 Core変異体誘導体の模式図描写を示す。変異したアミノ酸の相対的位置は、p300 Coreエフェクタードメイン内の黄色のバーとして示す。図7Bは、dCas9p300 Coreバリアントが、4種のIL1RNプロモーターgRNAと共に一過的に同時導入され、IL1RN遺伝子座からのmRNA産生を介して、活性亢進(hyperactivity)1(アミノ酸1645/1646 RR/EEおよびC1204R変異)または活性低下(hypoactivity)(‡によって表される)についてスクリーニングされたことを示す(上パネル、n=2(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。実験は、一方のウェルをRNA単離のために使用し、他方のウェルをウエスタンブロッティングのために使用して2重に実施し、発現を確認した(下パネル)。ニトロセルロース膜を切断し、α-FLAG一次抗体(上、Sigma-Aldrich cat.# F7425)またはα-GAPDH(下、Cell Signaling Technology cat.# 14C10)、次いでα-ウサギHRP二次抗体(Sigma-Aldrich cat.# A6154)と共にインキュベートした。
図7C】dCas9p300 Core変異体融合タンパク質活性を示す。図7Cは、本文(図1B)に示されたウエスタンブロットの膜全体を示す。ニトロセルロース膜を切断し、α-FLAG一次抗体(上、Sigma-Aldrich cat.# F7425)またはα-GAPDH(下、Cell Signaling Technology cat.# 14C10)、次いでα-ウサギHRP二次抗体(Sigma-Aldrich cat.# A6154)と共にインキュベートした。膜を、切り取られたピースの慎重な再配列後、指示された期間、現像した。
図8】標的遺伝子活性化が、合成のdCas9融合タンパク質の過剰発現によって影響を受けないことを示す。
図9A】個々のおよびプールされたgRNAを伴う、HS2エンハンサーからの、Sp.dCas9遺伝子導入とNm.dCas9遺伝子導入との比較を示す。図9Aは、HS2エンハンサーでの化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)dCas9(Sp.dCas9)および髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)dCas9(Nm.dCas9)gRNA位置を含む、ヒトβ-グロビン遺伝子座の模式的表示を示す。9種のENCODE細胞株(GM12878、H1-hESC、HeLa-S3、HepG2、HSMM、HUVEC、K562、NHEK、およびNHLF)からの、8の垂直表示範囲に格付けした転写の重ね合わせプロフィールを、K562、A549(EtOH.02)、HeLA-S3、およびSKN_SH_RA細胞株におけるENCODE p300結合ピークに加えて示す。ENCODE HEK293T DNase高感受性領域(HEK293T DHS)を、HS2エンハンサー挿入図内に示す。
図9B-9E】個々のおよびプールされたgRNAを伴う、HS2エンハンサーからの、Sp.dCas9遺伝子導入とNm.dCas9遺伝子導入との比較を示す。図9B~9Eは、それぞれSp.dCas9p300 CoreまたはNm.dCas9p300 Coreとの同時導入に応答した、単一のおよびプールされたSp.dCas9 gRNA(A~D)または単一のおよびプールされたNm.dCas9 gRNA(A~E)からの、HBE、HBG、HBD、およびHBD転写物の相対的転写誘導を示す。gRNAを、GRCh37/hg19におけるその位置に対応する各dCas9オルソログについてタイル状配置する。灰色の破線は、一過的に同時導入されたHEK293T細胞におけるバックグラウンド発現レベルを示す。図9B~9Eの間の共通の対数スケールに留意すること。図9B~9Eにおけるバーの上の数字は、平均発現量を示す(n=少なくとも3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。
図10】dCas9VP64およびdCas9p300 Coreが、IL1RN gRNAに標的にされるクロマチンで、H3K27ac濃縮を誘発することを示す。
図11A-11C】TALEとdCas9プログラム可能なDNA結合タンパク質間の、VP64およびp300 Coreエフェクタードメインの直接比較を示す。図11Aは、IL1RN転写開始点を包含するGRCh37/hg19領域が、IL1RN TALE結合部位およびdCas9 IL1RN gRNA標的部位と共に模式的に示されることを示す。図11Bは、個々のまたはプールされた(A~D)IL1RN TALEVP64融合タンパク質を導入した場合の、または、dCas9VP64と、個々のまたはプールされた(A~D)IL1RNを標的にするgRNAとを同時導入した場合の、HEK293T細胞におけるIL1RN活性化の直接比較を示す。図11Cは個々のまたはプールされた(A~D)IL1RN TALEp300 Core融合タンパク質を導入した場合の、または、dCas9p300 Coreと、個々のまたはプールされた(A~D)IL1RNを標的にするgRNAとを同時導入した場合の、HEK293T細胞におけるIL1RN活性化の直接比較を示す。図11Bおよび図11C間の共通の対数スケールに留意すること。図11Bおよび図11Cにおけるバーの上の数字は、平均値を示す。テューキー検定、*P値<0.05、n=少なくとも3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m。
図12A-12B】TALEおよびZF融合タンパク質発現を示す。図12Aは、個々のまたはプールされたIL1RN TALEタンパク質を一過的に導入した細胞に対してウエスタンブロッティングが実施されたことを示す。ニトロセルロース膜を切断し、α-HA一次抗体(TBST+5%ミルクでの1:1000希釈、上、Covance cat.# MMS-101P)またはα-GAPDH(下、Cell Signaling Technology cat.# 14C10)、次いで、それぞれα-マウスHRP(Santa Cruz、sc-2005)またはα-ウサギHRP(Sigma-Aldrich cat.# A6154)二次抗体で探索した。図12Bは、ICAM1 ZF-エフェクタータンパク質を一過的に導入した細胞に対してウエスタンブロッティングが実施され、ニトロセルロース膜を切断し、α-FLAG一次抗体(上、Sigma-Aldrich cat.# F7425)またはα-GAPDH(下、Cell Signaling Technology cat.# 14C10)、次いでα-ウサギHRP二次抗体(Sigma-Aldrich cat.# A6154)で探索したことを示す。赤いアスタリスクは、非特異的なバンドを示す。
図13A-13B】dCas9p300 CoreとdCas9VP64が、トランス活性化における相乗作用を呈さないことを示す。図13Aは、dCas9p300 Coreが、PL-SIN-EF1α-EGFP3(GFP)、dCas9、またはdCas9VP64に対して1:1の質量比で、指示された通りの4種のIL1RNプロモーターgRNAと同時導入されたことを示す(n=2(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。図13Bは、dCas9p300 Coreが、GFP、dCas9、またはdCas9VP64に対して1:1の質量比で、指示された通りの4種のMYODプロモーターgRNAと同時導入されたことを示す(n=2(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。テューキー検定を使用すると、有意差は認められなかった(有意差なし)。
図14A-14B】dCas9p300 Core標的遺伝子座の基本的クロマチン状況を示す。図14A-14Dは、この研究に使用される関連する化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)gRNAと共に、指示された遺伝子座を、GRCh37/hg19における対応するゲノム上の位置で示す。HEK293T細胞(「DHS」)における有意なDNase高感受性の領域と共に、ENCODE HEK293T DNase高感受性の濃縮が示される(変化をスケールで記す)。さらに、125の細胞型にわたるENCODEマスターDNaseクラスターが示される。7種の細胞株(GM12878、H1-hESC、HSMM、HUVEC、K562、NHEK、およびNHLF)にわたるENCODE H3K27acおよびH3K4me3濃縮の重ね合わせも呈示し、それぞれ50から150の垂直表示範囲に格付けした。各遺伝子座およびそれぞれの細胞株について、内在性p300結合プロフィールも示された。
図14C-14D】dCas9p300 Core標的遺伝子座の基本的クロマチン状況を示す。図14A-14Dは、この研究に使用される関連する化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)gRNAと共に、指示された遺伝子座を、GRCh37/hg19における対応するゲノム上の位置で示す。HEK293T細胞(「DHS」)における有意なDNase高感受性の領域と共に、ENCODE HEK293T DNase高感受性の濃縮が示される(変化をスケールで記す)。さらに、125の細胞型にわたるENCODEマスターDNaseクラスターが示される。7種の細胞株(GM12878、H1-hESC、HSMM、HUVEC、K562、NHEK、およびNHLF)にわたるENCODE H3K27acおよびH3K4me3濃縮の重ね合わせも呈示し、それぞれ50から150の垂直表示範囲に格付けした。各遺伝子座およびそれぞれの細胞株について、内在性p300結合プロフィールも示された。
図14E図14A~14Dで提供された情報の総覧を示す。
図15A】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15B】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15C】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15D】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15E】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15F】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15G】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15H】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15I】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図15J】dCas9コンストラクトのアミノ酸配列を示す。
図16】ICAM1ジンクフィンガー10エフェクターのアミノ酸配列を示す。
図17】gRNA設計およびスクリーニングを示す。
図18】gRNA組み合わせ活性化を示す。
図19】293TにおけるPax7ガイドスクリーニングを示す。
図20】gRNA19がDHSに局在することを示す。
図21】dCas9p300 Coreを伴うまたは伴わない、293TにおけるFGF1A mRNAの相対量を示す。
図22】dCas9p300 Core、dCas9VP64、またはdCas9(単独)を伴う、293TにおけるFGF1BおよびFGF1Cの発現レベルを示す。
図23】dCas9p300 Core、dCas9VP64、またはdCas9(単独)を伴う、293TにおけるFGF1A、FGF1B、およびFGF1Cの発現レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で開示するのは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系、および前記系を使用する方法である。この系は、エピゲノムおよび下流遺伝子発現の確実な制御を容易にするための、容易にプログラム可能な手法を提供する。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、Cas9タンパク質とヒストンアセチル化酵素活性を有するタンパク質(ヒトE1A関連タンパク質p300の、ヒストンアセチル化酵素(HAT)触媒コアドメインなど)との融合タンパク質である、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼを含む。Cas9タンパク質は、ヌクレアーゼ活性を有しない可能性がある。ヌクレアーゼ活性が無効にされているCas9タンパク質の例は、dCas9である。dCas9とgRNAによる、アセチルトランスフェラーゼ機能のゲノム上の標的部位への動員は、エピジェネティック構造の直接的調節を可能にし、したがって、遺伝子活性化の有効な手段を提供する。
【0013】
開示されるCRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼは、その標的部位でのヒストンH3リジン27のアセチル化を触媒し、プロモーターならびに近位および遠位エンハンサーからの標的遺伝子の頑強な転写活性化をもたらす。本明細書で開示する通り、これらの標的化されるアセチルトランスフェラーゼによる遺伝子活性化は、ゲノム全体にわたって高度に特異的である。CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼは、ゲノム内の任意の部位を標的にすることができ、遠位調節エレメントを活性化する独自の能力がある。従来のdCas9に基づく活性化因子とは対照的に、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼは、個々のまたは単一のガイドRNAと共に、エンハンサー領域からの遺伝子を効率的に活性化する。
【0014】
1.定義
用語「含む」、「含まれる」、「有すること」、「有する」、「することができる」、「含有する」、およびこれらの異形は、本明細書で使用する場合、追加の作用または構造可能性を排除しない、制約のない移り変わる語句、用語、または単語であることが意図される。単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈によって他に明確に指示しない限り、複数の指示内容が含まれる。本開示はまた、明確に説明してもしなくても、本明細書で提供される実施態様または要素を「含む」、「~からなる」、および「本質的に~からなる」、他の実施態様を意図する。
【0015】
本明細書の数値範囲の列挙については、それぞれその間にある数が、同じ程度の正確性で、明確に意図される。例えば、6~9の範囲については、6および9に加えて、数値7および8が意図され、範囲6.0~7.0については、数値6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0が、明確に意図される。
【0016】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合は、本文書が、定義を含めて、優先されることとなる。好ましい方法および材料は、以下に記載するが、本明細書に記載したものと類似または等価な方法および材料を、本明細書の実施または試験において使用することができる。本明細書に言及したすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献の全体を、参照によって本明細書に組み込む。本明細書に開示した材料、方法、および実施例は、実例に過ぎず、限定的であることを意図されない。
【0017】
本明細書で互換的に使用される「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、ヒトおよびいくつかの他の霊長類の種を感染させる、パルボウイルス(Parvoviridae)科のディペンドウイルス(Dependovirus)属に属する、小さいウイルスを指す。AAVは、現在、疾患を引き起こすことが知られておらず、したがって、ウイルスは、非常に穏やかな免疫応答を引き起こす。
【0018】
本明細書で使用される「クロマチン」は、ヒストンと結合した染色体DNAの組織化された複合体を指す。
【0019】
本明細書で互換的に使用される「Cis-調節エレメント」または「CRE」は、近くの遺伝子の転写を調節するノンコーディングDNAの領域を指す。CREは、それが調節する遺伝子(1または複数)の近傍に見られる。CREは、一般的に、転写因子に対する結合部位として機能することによって、遺伝子転写を調節する。CREの例としては、プロモーターおよびエンハンサーが挙げられる。
【0020】
本明細書で互換的に使用される「クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)」および「CRISPR」は、配列決定された細菌のおよそ40%および配列決定された古細菌の90%のゲノム内に見られる複数の短いダイレクトリピートを含有する遺伝子座を指す。
【0021】
本明細書で使用される「コード配列」または「コードする核酸」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(RNAまたはDNA分子)を意味する。コード配列は、核酸が投与される個人または哺乳類の細胞における発現を誘導することが可能なプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節エレメントに作動可能に連結された開始および停止シグナルをさらに含むことができる。コード配列は、コドン最適化することができる。
【0022】
本明細書で使用される「相補体」または「相補的」は、核酸が、核酸分子のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体の間に、Watson-Crick(例えばA-T/UおよびC-G)またはフーグスティーン塩基対合を生じることができることを意味する。「相補性」は、互いに逆平行に整列させた時に各位置のヌクレオチド塩基が相補的となるような、2つの核酸配列間に共有される性質を指す。
【0023】
本明細書で使用される「内在性遺伝子」は、生物、組織、または細胞内に起源をもつ遺伝子を指す。内在性遺伝子は、その正常なゲノムおよびクロマチン状況であり、かつその細胞に対して異種ではない細胞に固有である。こうした細胞遺伝子には、例えば、動物遺伝子、植物遺伝子、細菌遺伝子、原生動物遺伝子、真菌遺伝子、ミトコンドリア遺伝子、および葉緑体遺伝子が含まれる。
【0024】
本明細書で使用される「エンハンサー」は、複数の活性化因子およびリプレッサー結合部位を含有する、ノンコーディングDNA配列を指す。エンハンサーは、長さが200bpから1kbの範囲であり、近位、すなわちプロモーターに対して5’上流、もしくは調節される遺伝子の第1のイントロン内、または遠位、すなわちその遺伝子座から離れた隣接遺伝子のイントロンまたは遺伝子間領域内であり得る。活性なエンハンサーは、DNAルーピングを介して、コアDNA結合モチーフプロモーター特異性に依存してプロモーターと接触する。4から5個のエンハンサーが、プロモーターと相互作用することができる。同様に、エンハンサーは、連結に制限されずに2つ以上の遺伝子を調節することができ、隣接遺伝子を「スキップ」して、より離れた遺伝子を調節することができる。転写調節は、プロモーターが存在する染色体とは異なる染色体に位置するエレメントを伴うことができる。隣接遺伝子の近位エンハンサーまたはプロモーターは、より遠位のエレメントを動員するためのプラットフォームとして働くことができる。
【0025】
本明細書で使用される「融合タンパク質」は、元々は別のタンパク質をコードしている2つ以上の遺伝子の連結を介して作製されたキメラタンパク質を指す。融合体遺伝子の翻訳は、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能特性をもつ単一のポリペプチドをもたらす。
【0026】
本明細書で使用される「遺伝子コンストラクト」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNAまたはRNA分子を指す。コード配列には、核酸分子が投与される個人の細胞における発現を誘導することが可能なプロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節エレメントに作動可能に連結された開始および停止シグナルが含まれる。本明細書で使用する場合、用語「発現可能な形態」は、個人の細胞内に存在する場合にコード配列が発現されることとなるような、タンパク質をコードするコード配列に、作動可能に連結された必須の調節エレメントを含有する遺伝子コンストラクトを指す。
【0027】
「ヒストンアセチル化酵素」または「HAT」は、本明細書で互換的に使用され、ヒストンタンパク質上の保存リジンアミノ酸を、アセチルCoAからアセチル基を転移させることによってアセチル化して、ε-N-アセチルリジンを形成する酵素を指す。DNAは、ヒストンの周囲に巻き付けられ、アセチル基をヒストンに転移させることによって、遺伝子をオンオフさせることができる。一般に、ヒストンアセチル化は、転写活性化につながり、また、ユークロマチンと関係があるので、遺伝子発現を増大させる。ヒストンアセチル化酵素はまた、核内受容体および他の転写因子などの非ヒストンタンパク質をアセチル化して、遺伝子発現を促進することもできる。
【0028】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の状況で本明細書で使用される「同一な」または「同一性」は、これらの配列が、特定の領域にわたって同一である、特定の割合の残基を有することを意味する。その割合は、2つの配列を最適に整列させ、これらの2つの配列を特定の領域にわたって比較し、両方の配列において同一な残基が存在する位置の数を決定してマッチ位置の数を出し、マッチ位置の数を、特定の領域における位置の総数で割り、結果に100をかけて、配列同一性の割合を出すことによって算出することができる。2つの配列が異なる長さのものである、または整列によって1つ以上の粘着末端が生じて比較の特定の領域に単一の配列のみが含まれる場合、単一の配列の残基は、計算の分母に含まれるが、分子には含まれない。DNAおよびRNAを比較する場合、チミン(T)とウラシル(U)は、等しいとみなすことができる。同一性は、手作業で、またはBLASTまたはBLAST 2.0などのコンピュータ配列アルゴリズムを使用することによって実施することができる。
【0029】
本明細書で使用される「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」は、共有結合によって共に連結された、少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。単鎖の描写はまた、相補鎖の配列も定義する。したがって、核酸は、描写した単鎖の相補鎖も包含する。所与の核酸と同一の目的のために、核酸の多くのバリアントを使用することができる。したがって、核酸は実質的に同一な核酸およびその相補体も包含する。単鎖は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標的配列とハイブリッド形成することができるプローブを提供する。したがって、核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリッド形成するプローブも包含する。
【0030】
核酸は、一本鎖または二本鎖であり得るし、二本鎖配列と一本鎖配列の両方の部分を含有することもできる。核酸は、DNA、ゲノムDNAとcDNAの両方、RNA、またはハイブリッドであり得、ここでは、核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの組み合わせ、およびウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン ヒポキサンチン、イソシトシン、およびイソグアニンを含めた塩基の組み合わせを含有することができる。核酸は、化学合成方法によって、または組換え方法によって得ることができる。
【0031】
本明細書で使用される「作動可能に連結された」は、遺伝子の発現が、遺伝子と空間的に連結されたプロモーターの制御下であることを意味する。プロモーターは、その制御下の遺伝子の5’(上流)または3’(下流)に位置することができる。プロモーターと遺伝子との距離は、プロモーターが由来する遺伝子においてプロモーターが制御するプロモーターと遺伝子との距離とほぼ同じであり得る。当技術分野で公知であるように、この距離のバリエーションは、プロモーター機能の喪失を伴わずに適応させることができる。
【0032】
本明細書で互換的に使用される「p300タンパク質」、「EP300」、または「E1A結合タンパク質p300」は、EP300遺伝子によってコードされる、アデノウイルスE1A関連細胞p300転写コアクチベータータンパク質を指す。p300は、広範な細胞過程に関与する、高度に保存されるアセチルトランスフェラーゼである。p300は、クロマチンリモデリングを介して転写を調節するヒストンアセチル化酵素として機能し、細胞増殖および分化の過程と関与する。
【0033】
本明細書で使用される「プロモーター」は、細胞における核酸の発現を付与する、活性化する、または促進することが可能である、合成または天然由来の分子を意味する。プロモーターは、発現をさらに促進するための、かつ/または、空間的発現および/または同じものの時間的発現を変更するための、1つ以上の特異的な転写調節配列を含むことができる。プロモーターはまた、転写の開始部位から数千塩基対も離れて位置することができる遠位エンハンサーまたはリプレッサーエレメントを含むことができる。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、および動物を含めた起源から得ることができる。プロモーターは、発現が起こる細胞、組織、または器官に対して、または発現が起こる発生段階に対して、または生理的ストレス、病原体、金属イオン、または誘発物質などの外部刺激に応答して、遺伝子成分の発現を恒常的または変動的に調節することができる。プロモーターの代表的な例としては、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレーター-プロモーター、tacプロモーター、SV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV-LTRプロモーター、CMV IEプロモーター、SV40初期プロモーターまたはSV40後期プロモーター、およびCMV IEプロモーターが挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される「標的エンハンサー」は、gRNAおよびCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系によって標的にされるエンハンサーを指す。標的エンハンサーは、標的領域内であり得る。
【0035】
本明細書で使用される「標的遺伝子」は、既知のまたは推定上の遺伝子産物をコードする、あらゆるヌクレオチド配列を指す。標的遺伝子には、プロモーターおよびエンハンサー領域などの調節領域、コード領域を含む転写領域、および他の機能配列領域が含まれる。
【0036】
本明細書で使用される「標的領域」は、それに対するガイドRNAが、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を動員して、エピジェネティック構造を調節し、かつ標的遺伝子の遺伝子発現の活性化を可能にするように設計される、標的遺伝子のシス調節領域またはトランス調節領域を指す。
【0037】
本明細書で使用される「標的調節エレメント」は、gRNAおよびCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系によって標的にされる調節エレメントを指す。標的調節エレメントは、標的領域内であり得る。
【0038】
本明細書で使用される「転写領域」は、DNA分子からの遺伝情報のメッセンジャーRNAへの伝達をもたらす、メッセンジャーRNAとして公知である単鎖RNA分子に転写されるDNAの領域を指す。転写中、RNAポリメラーゼは、3’から5’の方向に鋳型鎖を読み取り、5’から3’にRNAを合成する。mRNA配列は、DNA鎖に対して相補的である。
【0039】
本明細書で互換的に使用される「転写開始点」または「TSS」は、そこでRNAポリメラーゼがRNA転写物の合成を開始する、転写されたDNA配列の最初のヌクレオチドを指す。
【0040】
本明細書で使用される「導入遺伝子」は、ある生物から単離されており、別の生物に導入される、遺伝子配列を含有する遺伝子または遺伝材料を指す。DNAのこの非天然セグメントは、トランスジェニック生物におけるRNAまたはタンパク質を産生する能力を保持することもできるし、トランスジェニック生物の遺伝暗号の正常な機能を変えることもできる。導入遺伝子の導入は、生物の表現型を変化させる可能性を有する。
【0041】
本明細書で使用される「トランス調節エレメント」は、そこから転写される遺伝子から離れた遺伝子の転写を調節する、ノンコーディングDNAの領域を指す。トランス調節エレメントは、標的遺伝子と同じ又は異なる染色体上にあり得る。
【0042】
核酸に関して本明細書で使用される「バリアント」は、(i)参考ヌクレオチド配列の一部もしくは断片;(ii)参考ヌクレオチド配列の相補体もしくはその一部;(iii)参考核酸と実質的に同一である核酸もしくはその相補体;または(iv)ストリンジェントな条件下で参考核酸とハイブリッド形成する核酸、その相補体、もしくはそれと実質的に同一な配列を意味する。
【0043】
ペプチドまたはポリペプチドに関する「バリアント」は、アミノ酸の挿入、欠失、または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1つの生物活性を保持する。バリアントは、少なくとも1つの生物活性を保持するアミノ酸配列を有する参考タンパク質と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質も意味することができる。アミノ酸の保存的置換、すなわち、アミノ酸を、同様の性質(例えば、荷電領域の親水性、程度、および分布)の別のアミノ酸と置き換えることは、微小な変化を一般的に伴うものと当技術分野で認識されている。これらの微小な変化は、当技術分野で理解されている通り、アミノ酸の疎水性指標(hydropathic index)を考慮することによって、ある程度特定することができる。Kyte et al.,J.Mol.Biol.157:105-132(1982)。アミノ酸の疎水性指標は、その疎水性および電荷の考慮に基づいている。同様の疎水性指標のアミノ酸が置換されてもまだ、タンパク質機能を保持できることが、当技術分野で公知である。一態様では、±2の疎水性指標を有するアミノ酸が置換される。アミノ酸の親水性はまた、生体機能を保持するタンパク質をもたらすであろう置換を明らかにするために使用することができる。ペプチドという状況でのアミノ酸の親水性の考慮は、そのペプチドの最大の局所的平均親水性の算出を可能にする。互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸での置換を実施することができる。アミノ酸の疎水性指標と親水性値はどちらも、そのアミノ酸の特定の側鎖によって影響を受ける。この知見と一致して、生体機能と適合するアミノ酸置換は、疎水性、親水性、電荷、大きさ、および他の性質によって明らかにされる、アミノ酸、特にそのアミノ酸の側鎖の相対的類似性に依存することが理解されよう。
【0044】
本明細書で使用される「ベクター」は、複製開始点を含有する核酸配列を意味する。ベクターは、ウイルスベクター、バクテリオファージ、細菌人工染色体または酵母人工染色体であり得る。ベクターは、DNAまたはRNAベクターであり得る。ベクターは、自己複製する染色体外のベクターであり得、好ましくはDNAプラスミドである。例えば、ベクターは、配列番号140、141、または149のアミノ酸配列、および/または配列番号23~73、188~223、または224~254のいずれか1つの少なくとも1つのgRNAヌクレオチド配列を有する、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼをコードすることができる。
【0045】
2.CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系
本明細書で提供されるのは、標的遺伝子の遺伝子発現を活性化するのに使用するためのCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系である。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、dCas9などの、ヌクレアーゼ活性を有しないCas9タンパク質の融合タンパク質と、ヒストンアセチル化酵素またはヒストンアセチル化酵素エフェクタードメインとを含む。ヒストンアセチル化酵素(HAT)によって実施されるヒストンアセチル化は、クロマチン動態を調節することおよび転写調節における基本的役割を果たす。ヒストンアセチル化酵素タンパク質は、DNAを、そのヘテロクロマチン状態から開放し、内在性の細胞機構による持続性かつ頑強な遺伝子発現を可能にする。dCas9による、ゲノム上の標的部位へのアセチルトランスフェラーゼの動員は、エピジェネティック構造を直接的に調節することができる。
【0046】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、その標的部位でのヒストンH3リジン27のアセチル化を触媒し、プロモーターならびに近位および遠位エンハンサーからの標的遺伝子の頑強な転写活性化をもたらすことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、高度に特異的であり、わずか1つのガイドRNAを使用して標的遺伝子に導かれ得る。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、ゲノム内の離れた位置のエンハンサーを標的にすることによって、遺伝子1つまたは遺伝子のファミリーの発現を活性化することができる。
【0047】
a)CRISPR系
CRISPR系は、ある形態の獲得免疫を提供する、侵入するファージおよびプラスミドに対する防御に関与する、微生物ヌクレアーゼ系である。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR介在性の核酸切断の特異性をプログラミングすることが可能な、CRISPR関連(Cas)遺伝子と、ノンコーディングRNAエレメントとの組み合わせを含有する。スペーサーと呼ばれる、外来DNAの短い部分が、ゲノムのCRISPRリピート間に組み込まれ、過去の曝露の「メモリー」として働く。Cas9は、単一のガイドRNA(「sgRNA」)の3’末端との複合体を形成し、このタンパク質-RNA対は、sgRNA配列の5’末端と、プロトスペーサーとして公知であるあらかじめ定義された20bp DNA配列との間の相補的塩基対合によって、そのゲノム上の標的を認識する。この複合体は、CRISPR RNA(「crRNA」)内のコードされた領域を介して、病原体DNAの相同遺伝子座、すなわち、病原体ゲノム内のプロトスペーサー、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer-adjacent motif)(PAM)に誘導される。ノンコーディングCRISPRアレイは、ダイレクトリピート内で転写および切断されて、個々のスペーサー配列を含有する短いcrRNAとなり、これが、Casヌクレアーゼを標的部位(プロトスペーサー)に誘導する。発現されるキメラsgRNAの20bp認識配列を単に交換することによって、Cas9ヌクレアーゼを、ゲノム上の新しい標的に誘導することができるようになる。CRISPRスペーサーは、真核生物におけるRNAiと同様の方式で外来性遺伝因子を認識および発現停止させるために使用される。
【0048】
3つのクラスのCRISPR系(I型、II型、およびIII型エフェクター系)が公知である。II型エフェクター系は、単一のエフェクター酵素、Cas9を使用して、4つの連続的ステップで、標的DNA二本鎖破壊を行って、dsDNAを切断する。複合体として作用する複数の異なるエフェクターを必要とするI型およびIII型エフェクター系と比較して、II型エフェクター系は、真核細胞などの代替状況において機能することができる。II型エフェクター系は、長い前駆‐crRNA(これは、スペーサー含有CRISPR遺伝子座から転写される)、Cas9タンパク質、およびtracrRNA(これは、前駆‐crRNAプロセシングに関与する)からなる。tracrRNAは、前駆‐crRNAのスペーサーを隔てている反復領域とハイブリッド形成し、したがって、内在性RNase IIIによるdsRNA切断を開始する。この切断に、Cas9による各スペーサー内の第2の切断現象が続き、tracrRNAおよびCas9と結合されたままである成熟crRNAが産生され、Cas9:crRNA-tracrRNA複合体が形成される。
【0049】
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の遺伝子改変された形態のII型エフェクター系は、ゲノム工学のために、ヒト細胞において機能することが示された。この系では、Cas9タンパク質は、合成によって再構成された「ガイドRNA」(「gRNA」、また、本明細書ではキメラsgRNAと互換的に使用され、一般に、RNase III およびcrRNAプロセシングの必要性を不要にするcrRNA‐tracrRNA融合体である)によって、ゲノム上の標的部位に誘導された。
【0050】
Cas9:crRNA-tracrRNA複合体は、DNA二重鎖をほどき、crRNAとの配列マッチングを探索して切断する。標的認識は、標的DNA内の「プロトスペーサー」配列と、crRNA内の残存するスペーサー配列との間の相補性の検出時に発生する。Cas9は、正しいプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)もプロトスペーサーの3’末端に存在する場合に、標的DNAの切断を媒介する。プロトスペーサーターゲティングについては、配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、すなわちDNA切断に必要とされるCas9ヌクレアーゼによって認識される短い配列の直後でなければならない。別のII型系は、異なるPAM要件を有する。化膿レンサ球菌(S.pyogenes)CRISPR系は、5’-NRG-3’(ここでは、Rは、AまたはGのいずれかである)としての、かつ、ヒト細胞におけるこの系の特異性を特徴付ける、このCas9(SpCas9)のためのPAM配列を有することができる。CRISPR/Cas9系の独自の能力は、2つ以上のsgRNAを伴う単一のCas9タンパク質を同時発現させることによって、複数の異なるゲノム上遺伝子座を同時に標的にする、直接的な能力である。例えば、遺伝子改変された系において、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)II型系は、本来は「NGG」配列(ここでは、「N」は、いずれかのヌクレオチドであり得る)を使用することを好むが、「NAG」などの他のPAM配列も受け入れられる(Hsu et al.,Nature Biotechnology(2013)doi:10.1038/nbt.2647)。同様に、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のCas9(NmCas9)は、通常、NNNNGATTという天然のPAMを有するが、高度に縮重したNNNNGNNN PAMを含めた様々なPAMにわたって活性を有する(Esvelt et al.Nature Methods(2013)doi:10.1038/nmeth.2681)。
【0051】
Cas9
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、Cas9タンパク質またはCas9融合タンパク質を含むことができる。Cas9タンパク質は、核酸を切断するエンドヌクレアーゼであり、また、CRISPR遺伝子座によってコードされ、また、II型CRISPR系に含まれる。Cas9タンパク質は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophiles)、または髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)などの、あらゆる細菌または古細菌種由来であり得る。Cas9タンパク質は、ヌクレアーゼ活性が不活性化されるように変異させることができる。いくつかの実施態様では、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来の不活性化されたCas9タンパク質(iCas9、「dCas9」とも呼ばれる;配列番号1)を使用することができる。本明細書で使用する場合、「iCas9」および「dCas9」はどちらも、アミノ酸置換D10AおよびH840Aを有し、かつそのヌクレアーゼ活性が不活性化されたCas9タンパク質を指す。いくつかの実施態様では、配列番号10のアミノ酸配列を有するNmCas9などの髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来の不活性化されたCas9タンパク質を使用することができる。
【0052】
ヒストンアセチル化酵素(HAT)タンパク質
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、p300タンパク質、CREB結合タンパク質(CBP;p300の類似体)、GCN5、もしくはPCAF、またはこれらの断片などの、ヒストンアセチル化酵素タンパク質を含むことができる。p300タンパク質は、体全体にわたる組織における多くの遺伝子の活性を調節する。p300タンパク質は、細胞成長および分裂を調節する、また、細胞が成熟するのを促し、特殊化機能(分化させる)を担う、また、癌性腫瘍の成長を予防する役割を果たす。p300タンパク質は、転写因子を、細胞の核内で転写を行うタンパク質の複合体と連結させることによって、転写を活性化することができる。p300タンパク質はまた、クロマチンリモデリングを介して転写を調節するヒストンアセチル化酵素としても機能する。
【0053】
ヒストンアセチル化酵素タンパク質は、ヒトp300タンパク質またはその断片を含むことができる。ヒストンアセチル化酵素タンパク質は、野生型ヒトp300タンパク質またはヒトp300タンパク質の変異体、またはその断片を含むことができる。ヒストンアセチル化酵素タンパク質は、ヒトp300タンパク質のリジン-アセチルトランスフェラーゼコアドメイン、すなわち、p300 HAT Core(「p300 Core」としても公知である)を含むことができる。いくつかの実施態様では、ヒストンアセチル化酵素タンパク質は、配列番号2または3のアミノ酸配列を含む。
【0054】
dCas9p300 Core
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、ヒストンアセチル化エフェクタードメインを含むことができる。ヒストンアセチル化エフェクタードメインは、ヒトE1A関連タンパク質p300のヒストンアセチル化酵素(HAT)触媒コアドメイン(本明細書では「p300 Core」とも呼ばれる)であり得る。いくつかの実施態様では、p300 Coreは、配列番号2のアミノ酸1048~1664(すなわち、配列番号3)を含む。いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、配列番号141のdCas9p300 Core融合タンパク質または配列番号149のNm-dCas9p300 Core融合タンパク質を含む。p300 Coreは、ヒストンH3上のリジン27をアセチル化し(H3K27ac)、H3K27ac濃縮を提供することができる。
【0055】
dCas9p300 Core融合タンパク質は、標的にされる内在性遺伝子座でのアセチル化を合成的に操作し、近位および遠位エンハンサーによって調節される遺伝子の調節をもたらすための、強力かつ容易にプログラム可能な手段である。p300の触媒コアドメインとdCas9との融合体は、頑強なタンパク質発現にもかかわらず、下流遺伝子の、完全長p300タンパク質の直接的融合体よりも実質的に高いトランス活性化をもたらす可能性がある。dCas9p300 Core融合タンパク質はまた、例えば、Nm-dCas9骨格の状況で、特に、遠位エンハンサー領域で(そこではdCas9VP64は、わずかな、あるとしても測定可能な下流転写活性しか呈さなかった)、dCas9VP64と比較して増大したトランス活性化能力を示す可能性がある。さらに、dCas9p300 Coreは、正確で確実なゲノムワイド転写特異性を呈する。dCas9p300 Coreは、エピジェネティック修飾されたエンハンサーによって標的にされるプロモーターでの強力な転写活性化およびアセチル化の同時濃縮の能力があり得る。
【0056】
dCas9p300 Coreは、プロモーターおよび/または特徴付けられたエンハンサーを標的にし、これと結合する単一のgRNAを介して、遺伝子発現を活性化することができる。この技術はまた、推定上のおよび既知の調節領域から遠位の遺伝子を人工的にトランス活性化する能力をもたらし、単一のプログラム可能なエフェクターと単一の標的部位の適用を介するトランス活性化を容易にする。これらの能力は、いくつかのプロモーターおよび/またはエンハンサーを同時に標的にするための多重化を可能にする。哺乳類起源のp300は、免疫原性の可能性を最小限にすることによって、インビボ適用について、ウイルス由来のエフェクタードメインに対する利点を提供することができる。
【0057】
gRNA
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、ある核酸配列を標的にする少なくとも1つのgRNAを含むことができる。gRNAは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系のターゲティングを提供する。gRNAは、2種のノンコーディングRNA:crRNAおよびtracrRNAの融合体である。sgRNAは、所望のDNA標的との相補的塩基対形成を介して、ターゲティング特異性を付与する20bpプロトスペーサーをコードする配列を交換することによって、任意の所望のDNA配列を標的にすることができる。gRNAは、II型エフェクター系に含まれる天然に存在するcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する。この二重鎖は、例えば、42-ヌクレオチドのcrRNAと75-ヌクレオチドのtracrRNAを含むことができ、Cas9のためのガイドとして作用する。
【0058】
gRNAは、標的遺伝子の標的領域を標的にし、これと結合することができる。標的領域は、標的遺伝子のシス調節領域またはトランス調節領域であり得る。いくつかの実施態様では、標的領域は、標的遺伝子の遠位または近位のシス調節領域である。gRNAは、標的遺伝子のシス調節領域またはトランス調節領域を標的にし、これと結合することができる。いくつかの実施態様では、gRNAは、標的遺伝子のエンハンサー領域、プロモーター領域、または転写領域を標的にし、これと結合することができる。例えば、gRNAは、ヒトβ-グロビン遺伝子座のHS2エンハンサー、MYOD遺伝子の遠位調節領域(DRR)、MYOD遺伝子のコアエンハンサー(CE)、OCT4遺伝子の近位(PE)エンハンサー領域、またはOCT4遺伝子の遠位(DE)エンハンサー領域のうちの少なくとも1つである、標的領域を標的にし、これと結合することができる。いくつかの実施態様では、標的領域は、HIVプロモーターなどのウイルスプロモーターであり得る。
【0059】
標的領域は、標的エンハンサーまたは標的調節エレメントを含むことができる。いくつかの実施態様では、標的エンハンサーまたは標的調節エレメントは、いくつかの標的遺伝子の遺伝子発現を制御する。いくつかの実施態様では、標的エンハンサーまたは標的調節エレメントは、1つ以上の標的遺伝子の遺伝子発現に関与する細胞表現型を制御する。いくつかの実施態様では、1つ以上の標的遺伝子の同一性は、既知である。いくつかの実施態様では、1つ以上の標的遺伝子の同一性は、未知である。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、細胞表現型に関与するこれらの未知の遺伝子の同一性の決定を可能にする。細胞表現型の例としては、限定はされないが、T細胞表現型、造血細胞分化などの細胞分化、発癌、免疫調節、刺激に対する細胞応答、細胞死、細胞成長、薬物耐性、または薬物感受性が挙げられる。
【0060】
いくつかの実施態様では、少なくとも1つのgRNAは、標的エンハンサーまたは標的調節エレメントを標的にし、これと結合することができ、それによって1つ以上の遺伝子の発現が活性化される。例えば、1遺伝子から20遺伝子、1遺伝子から15遺伝子、1遺伝子から10遺伝子、1から5遺伝子、2遺伝子から20遺伝子、2遺伝子から15遺伝子、2遺伝子から10遺伝子、2遺伝子から5遺伝子、5遺伝子から20遺伝子、5遺伝子から15遺伝子、または5遺伝子から10遺伝子が、少なくとも1つのgRNAによって活性化される。いくつかの実施態様では、少なくとも1遺伝子、少なくとも2遺伝子、少なくとも3遺伝子、少なくとも4遺伝子、少なくとも5遺伝子、少なくとも6遺伝子、少なくとも7遺伝子、少なくとも8遺伝子、少なくとも9遺伝子、少なくとも10遺伝子、少なくとも11遺伝子、少なくとも12遺伝子、少なくとも13遺伝子、少なくとも14遺伝子、少なくとも15遺伝子、または少なくとも20遺伝子が、少なくとも1つのgRNAによって活性化される。
【0061】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、転写開始点(TSS)に対して近位の位置と遠位の位置のどちらの遺伝子も活性化することができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、TSSから、少なくとも約1塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約100塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約250塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約500塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約1,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約2,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約5,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約10,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約20,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約50,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約75,000塩基対から約100,000塩基対、少なくとも約1塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約100塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約250塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約500塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約1,000塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約2,000塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約5,000塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約10,000塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約20,000塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約50,000塩基対から約75,000塩基対、少なくとも約1塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約100塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約250塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約500塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約1,000塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約2,000塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約5,000塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約10,000塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約20,000塩基対から約50,000塩基対、少なくとも約1塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約100塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約250塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約500塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約1,000塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約2,000塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約5,000塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約10,000塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約20,000塩基対から約25,000塩基対、少なくとも約1塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約100塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約250塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約500塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約1,000塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約2,000塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約5,000塩基対から約10,000塩基対、少なくとも約1塩基対から約5,000塩基対、少なくとも約100塩基対から約5,000塩基対、少なくとも約250塩基対から約5,000塩基対、少なくとも約500塩基対から約5,000塩基対、少なくとも約1,000塩基対から約5,000塩基対、または少なくとも約2,000塩基対から約5,000塩基対上流である領域を標的にすることができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、TSSから、少なくとも約1塩基対、少なくとも約100塩基対、少なくとも約500塩基対、少なくとも約1,000塩基対、少なくとも約1,250塩基対、少なくとも約2,000塩基対、少なくとも約2,250塩基対、少なくとも約2,500塩基対、少なくとも約5,000塩基対、少なくとも約10,000塩基対、少なくとも約11,000塩基対、少なくとも約20,000塩基対、少なくとも約30,000塩基対、少なくとも約46,000塩基対、少なくとも約50,000塩基対、少なくとも約54,000塩基対、少なくとも約75,000塩基対、または少なくとも約100,000塩基対上流である領域を標的にすることができる。
【0062】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、TSSから、少なくとも約1塩基対から少なくとも約500塩基対、少なくとも約1塩基対から少なくとも約250塩基対、少なくとも約1塩基対から少なくとも約200塩基対、少なくとも約1塩基対から少なくとも約100塩基対、少なくとも約50塩基対から少なくとも約500塩基対、少なくとも約50塩基対から少なくとも約250塩基対、少なくとも約50塩基対から少なくとも約200塩基対、少なくとも約50塩基対から少なくとも約100塩基対、少なくとも約100塩基対から少なくとも約500塩基対、少なくとも約100塩基対から少なくとも約250塩基対、または少なくとも約100塩基対から少なくとも約200塩基対下流である領域を標的にすることができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、TSSから、少なくとも約1塩基対、少なくとも約2塩基対、少なくとも約3塩基対、少なくとも約4塩基対、少なくとも約5塩基対、少なくとも約10塩基対、少なくとも約15塩基対、少なくとも約20塩基対、少なくとも約25塩基対、少なくとも約30塩基対、少なくとも約40塩基対、少なくとも約50塩基対、少なくとも約60塩基対、少なくとも約70塩基対、少なくとも約80塩基対、少なくとも約90塩基対、少なくとも約100塩基対、少なくとも約110塩基対、少なくとも約120、少なくとも約130、少なくとも約140塩基対、少なくとも約150塩基対、少なくとも約160塩基対、少なくとも約170塩基対、少なくとも約180塩基対、少なくとも約190塩基対、少なくとも約200塩基対、少なくとも約210塩基対、少なくとも約220、少なくとも約230、少なくとも約240塩基対、または少なくとも約250塩基対下流である領域を標的にすることができる。
【0063】
いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、標的遺伝子と同じ染色体上にあるが、TSSから、100,000塩基対よりも上流または250塩基対よりも下流である標的領域を標的にし、これと結合することができる。いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、標的遺伝子とは異なる染色体上にある標的領域を標的にし、これと結合することができる。
【0064】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、様々な配列および長さのgRNAを使用することができる。gRNAは、NGGが後続する標的DNA配列の相補的ポリヌクレオチド配列を含むことができる。gRNAは、相補的ポリヌクレオチド配列の5’末端に「G」を含むことができる。gRNAは、NGGが後続する標的DNA配列の、少なくとも10塩基対、少なくとも11塩基対、少なくとも12塩基対、少なくとも13塩基対、少なくとも14塩基対、少なくとも15塩基対、少なくとも16塩基対、少なくとも17塩基対、少なくとも18塩基対、少なくとも19塩基対、少なくとも20塩基対、少なくとも21塩基対、少なくとも22塩基対、少なくとも23塩基対、少なくとも24塩基対、少なくとも25塩基対、少なくとも30塩基対、または少なくとも35塩基対の相補的ポリヌクレオチド配列を含むことができる。gRNAは、標的遺伝子の、プロモーター領域、エンハンサー領域、または転写領域のうちの少なくとも1つを標的にすることができる。gRNAは、配列番号23~73、188~223、または224~254のうちの少なくとも1つの核酸配列を含むことができる。
【0065】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、少なくとも1個のgRNA、少なくとも2個の異なるgRNA、少なくとも3個の異なるgRNA、少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも5個の異なるgRNA、少なくとも6個の異なるgRNA、少なくとも7個の異なるgRNA、少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも9個の異なるgRNA、または少なくとも10個の異なるgRNAを含むことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、少なくとも1個のgRNAから少なくとも10個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNAから少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも1個のgRNAから少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも2個のgRNAから少なくとも10個の異なるgRNA、少なくとも2個のgRNAから少なくとも8個の異なるgRNA、少なくとも2個の異なるgRNAから少なくとも4個の異なるgRNA、少なくとも4個のgRNAから少なくとも10個の異なるgRNA、または少なくとも4個の異なるgRNAから少なくとも8個の異なるgRNAを含むことができる。
【0066】
標的遺伝子
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、任意の標的遺伝子の発現を標的にし、これを活性化するように設計することができる。標的遺伝子は、細胞株における、内在性遺伝子、導入遺伝子、またはウイルス遺伝子であり得る。いくつかの実施態様では、標的領域は、標的遺伝子とは異なる染色体上にある。いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、2個以上のgRNAを含むことができる。いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、2個以上の異なるgRNAを含むことができる。いくつかの実施態様では、異なるgRNAは、異なる標的領域に結合する。例えば、異なるgRNAは、異なる標的遺伝子の標的領域に結合することができ、2つ以上の標的遺伝子の発現が活性化される。
【0067】
いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、約1個の標的遺伝子から約10個の標的遺伝子、約1個の標的遺伝子から約5個の標的遺伝子、約1個の標的遺伝子から約4個の標的遺伝子、約1個の標的遺伝子から約3個の標的遺伝子、約1個の標的遺伝子から約2個の標的遺伝子、約2個の標的遺伝子から約10個の標的遺伝子、約2個の標的遺伝子から約5個の標的遺伝子、約2個の標的遺伝子から約4個の標的遺伝子、約2個の標的遺伝子から約3個の標的遺伝子、約3個の標的遺伝子から約10個の標的遺伝子、約3個の標的遺伝子から約5個の標的遺伝子、または約3個の標的遺伝子から約4個の標的遺伝子を活性化することができる。いくつかの実施態様ではCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、少なくとも1個の標的遺伝子、少なくとも2個の標的遺伝子、少なくとも3個の標的遺伝子、少なくとも4個の標的遺伝子、少なくとも5個の標的遺伝子、または少なくとも10個の標的遺伝子を活性化することができる。例えば、ヒトβ-グロビン遺伝子座の高感受性領域2(HS2)エンハンサー領域を標的にし、下流遺伝子(HBE、HBG、HBD、およびHBB)を活性化することができる。
【0068】
いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、遺伝子発現の対照レベルと比較して少なくとも約1倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも約110倍、少なくとも120倍、少なくとも130倍、少なくとも140倍、少なくとも150倍、少なくとも160倍、少なくとも170倍、少なくとも180倍、少なくとも190倍、少なくとも200倍、少なくとも約300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、少なくとも600倍、少なくとも700倍、少なくとも800倍、少なくとも900倍、または少なくとも1000倍の、標的遺伝子の遺伝子発現を誘発する。標的遺伝子の遺伝子発現の対照レベルは、いかなるCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系でも処理されていない細胞における標的遺伝子の遺伝子発現のレベルであり得る。
【0069】
標的遺伝子は、哺乳類遺伝子であり得る。例えば、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、IL1RN、MYOD1、OCT4、HBE、HBG、HBD、HBB、MYOCD(ミオカルディン(Myocardin))、PAX7(ペアードボックスタンパク質(Paired box protein)Pax-7)、FGF1(線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor)-1)遺伝子、例えばFGF1A、FGF1B、およびFGF1Cなどの哺乳類遺伝子を標的にすることができる。他の標的遺伝子としては、限定はされないが、Atf3、Axud1、Btg2、c-Fos、c-Jun、Cxcl1、Cxcl2、Edn1、Ereg、Fos、Gadd45b、Ier2、Ier3、Ifrd1、Il1b、Il6、Irf1、Junb、Lif、Nfkbia、Nfkbiz、Ptgs2、Slc25a25、Sqstm1、Tieg、Tnf、Tnfaip3、Zfp36、Birc2、Ccl2、Ccl20、Ccl7、Cebpd、Ch25h、CSF1、Cx3cl1、Cxcl10、Cxcl5、Gch、Icam1、Ifi47、Ifngr2、Mmp10、Nfkbie、Npal1、p21、Relb、Ripk2、Rnd1、S1pr3、Stx11、Tgtp、Tlr2、Tmem140、Tnfaip2、Tnfrsf6、Vcam1、1110004C05Rik(GenBankアクセッション番号BC010291)、Abca1、AI561871(GenBankアクセッション番号BI143915)、AI882074(GenBankアクセッション番号BB730912)、Arts1、AW049765(GenBankアクセッション番号BC026642.1)、C3、Casp4、Ccl5、Ccl9、Cdsn、Enpp2、Gbp2、H2-D1、H2-K、H2-L、Ifit1、Ii、Il13ra1、Il1rl1、Lcn2、Lhfpl2、LOC677168(GenBankアクセッション番号AK019325)、Mmp13、Mmp3、Mt2、Naf1、Ppicap、Prnd、Psmb10、Saa3、Serpina3g、Serpinf1、Sod3、Stat1、Tapbp、U90926(GenBankアクセッション番号NM_020562)、Ubd、A2AR(アデノシンA2A受容体)、B7-H3(CD276とも呼ばれる)、B7-H4(VTCN1とも呼ばれる)、BTLA(BおよびTリンパ球アテニュエータ(Lymphocyte Attenuator);CD272とも呼ばれる)、CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(Cytotoxic T-Lymphocyte-Associated protein 4);CD152とも呼ばれる)、IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)KIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体(Killer-cell Immunoglobulin-like Receptor)、LAG3(リンパ球活性化遺伝子-3(Lymphocyte Activation Gene-3))、PD-1(プログラム死1(Programmed Death 1)(PD-1)受容体)、TIM-3(T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3)、およびVISTA(T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(V-domain Ig suppressor of T cell activation)が挙げられる。
【0070】
遺伝子活性化のための組成物
本発明は、細胞または対象における標的遺伝子、標的エンハンサー、または標的調節エレメントの遺伝子発現を活性化させるための組成物を対象とする。この組成物は、上に開示した通りのCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を含むことができる。この組成物はまた、ウイルス送達系を含むことができる。例えば、ウイルス送達系は、アデノ随伴ウイルスベクターまたは改変されたレンチウイルスベクターを含むことができる。
【0071】
核酸を宿主細胞に導入する方法は、当技術分野で公知であり、任意の公知の方法を使用して、核酸(例えば発現コンストラクト)を細胞に導入することができる。適切な方法としては、例えば、ウイルスまたはバクテリオファージ感染、遺伝子導入、接合、プロトプラスト融合、リポフェクション、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)介在性の遺伝子導入、DEAE-デキストラン介在性の遺伝子導入、リポソーム介在性の遺伝子導入、パーティクル・ガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子介在性の核酸送達などが挙げられる。いくつかの実施態様では、組成物は、mRNA送達およびリボ核タンパク質(RNP)複合体送達によって送達することができる。
【0072】
a)コンストラクトおよびプラスミド
組成物は、上に記載した通り、本明細書に開示する通りのCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする遺伝子コンストラクトを含むことができる。プラスミドまたは発現ベクターなどの遺伝子コンストラクトは、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼおよび/または少なくとも1つのgRNAなどの、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする核酸を含むことができる。組成物は、上に記載した通り、改変されたAAVベクターをコードする遺伝子コンストラクトと、本明細書に開示する通りのCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする核酸配列を含むことができる。プラスミドなどの遺伝子コンストラクトは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする核酸を含むことができる。組成物は、上に記載した通り、改変されたレンチウイルスベクターをコードする遺伝子コンストラクトを含むことができる。プラスミドなどの遺伝子コンストラクトは、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼと、少なくとも1種のsgRNAとをコードする核酸を含むことができる。遺伝子コンストラクトは、機能的な染色体外分子として、細胞内に存在することができる。遺伝子コンストラクトは、線状ミニ染色体(セントロメアを含めて)、テロメア、またはプラスミドもしくはコスミドであり得る。
【0073】
遺伝子コンストラクトはまた、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスを含めた、組換えウイルスベクターのゲノムの一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、細胞内で生存する弱毒化した生きている微生物または組換え微生物ベクター中の遺伝材料の一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、核酸のコード配列の遺伝子発現のための調節エレメントを含むことができる。調節エレメントは、プロモーター、エンハンサー、開始コドン、終止コドン、またはポリアデニル化シグナルであり得る。
【0074】
核酸配列は、遺伝子コンストラクト(これはベクターであり得る)を構成することができる。ベクターは、哺乳類の細胞において、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系などの融合タンパク質を発現する能力があり得る。ベクターは、組換えであり得る。ベクターは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系などの融合タンパク質をコードする異種の核酸を含むことができる。ベクターは、プラスミドであり得る。ベクターは、細胞に、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする核酸を導入するのに有用であり得、ここでは、転換された宿主細胞は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の発現が起こる条件下で培養および維持される。
【0075】
コード配列は、安定性および高レベルの発現のために最適化することができる。ある場合では、コドンは、分子内結合が原因で形成されるものなどの、RNAの二次構造形成を低下させるように選択される。
【0076】
ベクターは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする異種の核酸を含むことができ、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系コード配列の上流であり得る開始コドン、およびCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系コード配列の下流であり得る終止コドンをさらに含むことができる。開始および停止コドンは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系コード配列と共に、フレーム内であり得る。ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系コード配列に作動可能に連結されたプロモーターを含むことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、時空間における遺伝子活性化の動的な制御を可能にするために、光誘導性または化学誘導性制御下であり得る。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系コード配列に作動可能に連結されたプロモーターは、サルウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロモーター、例えばウシ免疫不全ウイルス(BIV)長い末端反復(LTR)プロモーター、モロニ―ウイルスプロモーター、トリ白血病ウイルス(ALV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)プロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターであり得る。プロモーターはまた、ヒトユビキチンC(hUbC)、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはヒトメタロチオネインなどの、ヒト遺伝子由来のプロモーターであり得る。プロモーターは、天然または合成の、筋肉または皮膚特異的なプロモーターなどの組織特異的プロモーターであり得る。こうしたプロモーターの例は、その内容全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20040175727号明細書に記載されている。
【0077】
ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の下流であり得るポリアデニル化シグナルを含むことができる。ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナル、LTRポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナル、またはヒトβ-グロビンポリアデニル化シグナルであり得る。SV40ポリアデニル化シグナルは、pCEP4ベクター(Invitrogen,San Diego,CA)由来のポリアデニル化シグナルであり得る。
【0078】
ベクターはまた、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系、すなわち、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼコード配列またはsgRNAの上流のエンハンサーを含むことができる。エンハンサーは、DNA発現のために必須であり得る。エンハンサーは、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはウイルスエンハンサー、例えばCMV、HA、RSV、またはEBVに由来するものなどであり得る。ポリヌクレオチド機能エンハンサーは、それぞれの内容が参照によって完全に組み込まれる米国特許第5,593,972号明細書、米国特許第5,962,428号明細書、および国際公開第94/016737号パンフレットに記載されている。ベクターはまた、ベクターを染色体外に維持するために、哺乳類の複製開始点を含むことができ、細胞において、ベクターの複数のコピーを産生することができる。ベクターはまた、調節配列を含むことができ、調節配列は、ベクターが投与される哺乳類またはヒト細胞における遺伝子発現のために十分に適合させることができる。ベクターはまた、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)などのレポーター遺伝子および/またはハイグロマイシン(「Hygro」)などの選択可能マーカーを含むことができる。
【0079】
ベクターは、常用の技術、および容易に入手可能な出発材料によってタンパク質を産生するための、発現ベクターまたは系であり得る(参照によって完全に組み込まれる、Sambrook et al.,Molecular Cloning and Laboratory Manual,Second Ed.,Cold Spring Harbor(1989))。いくつかの実施態様では、ベクターは、CRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼをコードする核酸配列、および配列番号23~73、188~223、または224~254の少なくとも1つの核酸配列を含む少なくとも1つのgRNAをコードする核酸配列を含めて、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする核酸配列を含むことができる。
【0080】
組み合わせ
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系組成物は、異なる遺伝子座への、特定のエフェクター機能の独立したターゲティングの研究を容易にするために、直交性(orthogonal)dCas9s、TALE、およびジンクフィンガータンパク質と組み合わせることができる。いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系組成物を、様々な活性化因子、リプレッサー、およびエピジェネティックモディファイヤーを用いて多重化し、細胞表現型を正確に制御する、または遺伝子調節の複雑なネットワークを解読することができる。
【0081】
使用の方法
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の潜在的用途は、科学およびバイオテクノロジーの多くの分野にわたり多様である。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を使用して、標的遺伝子の遺伝子発現を活性化する、または、標的エンハンサーまたは標的調節エレメントを標的にすることができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を使用して、細胞および遺伝子治療、遺伝子リプログラミング、および再生医療に関連して、細胞を分化転換するおよび/または遺伝子を活性化することができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を使用して、系譜特定をリプログラミングすることができる。細胞の運命の主要な調節因子をコードする内在性遺伝子の(これらの因子の強制的な過剰発現ではなく)活性化は、遺伝子リプログラミングおよび分化転換のための、より迅速な、効率的な、安定な、または特異的な方法を潜在的にもたらすことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、哺乳類の遺伝子発現を調節するための他の手段を補うための、転写活性化因子の、より大きな多様性を提供する可能性がある。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を使用して、遺伝子異常を補う、血管新生を抑制する、癌遺伝子を不活性化する、腫瘍抑制因子(silenced tumor suppressor)を活性化する、組織を再生する、または遺伝子をリプログラミングすることができる。
【0082】
遺伝子発現を活性化する方法
本開示は、上に記載した通りの、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を介してヒストンアセチル化酵素を標的領域に標的化することに基づいて標的遺伝子の発現を活性化するための機構を提供する。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、サイレンス(silenced)遺伝子を活性化することができる。標的遺伝子のTSSの上流の、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系標的領域は、標的遺伝子の遺伝子発現を実質的に誘発した。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードするポリヌクレオチドはまた、細胞に直接的に導入することができる。
【0083】
本方法は、細胞または対象に、上に記載した通りの、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の組成物、または前記CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする1つ以上のポリヌクレオチドまたはベクターを投与することを含むことができる。本方法は、上に記載した通りの、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の組成物、または前記CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする1つ以上のポリヌクレオチドまたはベクターを、哺乳類細胞または対象に投与することを含むことができる。
【0084】
医薬組成物
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、医薬組成物中であり得る。この医薬組成物は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする約1ngから約10mgのDNAを含むことができる。本発明による医薬組成物は、使用される投与方式に従って製剤化される。医薬組成物が、注射用医薬組成物である場合、これは、無菌、パイロジェンフリー、かつ粒子状物質フリーである。等張性製剤が使用されることが好ましい。一般に、等張性のための添加剤は、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースを含むことができる。場合によっては、リン酸緩衝生理食塩水などの等張性溶液が好ましい。安定剤としては、ゼラチンおよびアルブミンが挙げられる。いくつかの実施態様では、血管収縮剤が、製剤に添加される。
【0085】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を含有する医薬組成物は、医薬として許容し得る賦形剤をさらに含むことができる。医薬として許容し得る賦形剤は、ビヒクル、アジュバント、担体、または希釈剤としての機能性分子であり得る。医薬として許容し得る賦形剤は、遺伝子導入促進剤(これには界面活性剤が含まれ得る)、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、LPS類似体(モノホスホリルリピドAを含めて)、ムラミルペプチド、キノン類似体、ベシクル、例えばスクアレンおよびスクアレン、ヒアルロン酸、脂質、リポソーム、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、もしくはナノ粒子、または他の公知の遺伝子導入促進剤であり得る。
【0086】
遺伝子導入促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めて)、または脂質である。遺伝子導入促進剤は、ポリ-L-グルタミン酸であり、より好ましくは、ポリ-L-グルタミン酸は、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を含有する医薬組成物中に、6mg/ml未満の濃度で存在する。遺伝子導入促進剤はまた、界面活性剤、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、LPS類似体(モノホスホリルリピドAを含めて)、ムラミルペプチド、キノン類似体、ベシクル、例えばスクアレンおよびスクアレンを含むことができ、また、遺伝子コンストラクトと共に、ヒアルロン酸も使用することができる。いくつかの実施態様では、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードするDNAベクターはまた、例えば脂質、リポソーム(レシチンリポソーム、またはとしての、当技術分野で公知の他のリポソームを含めて)、DNA-リポソーム混合物としてのもの(例えば国際公開第09324640号パンフレット参照)、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、またはナノ粒子、または他の公知のものを含むことができる。好ましくは、は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めて)、または脂質である。
【0087】
送達の方法
本明細書で提供されるのは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の遺伝子コンストラクトおよび/またはタンパク質を提供するための、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の医薬製剤を送達するための方法である。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の送達は、細胞において発現され、かつ細胞の表面に送達される、1つ以上の核酸分子としての、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の遺伝子導入または電気穿孔であり得る。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系タンパク質を、細胞に送達することができる。これらの核酸分子は、BioRad Gene Pulser XcellまたはAmaxa Nucleofector IIb装置または他の電気穿孔装置を使用して電気穿孔することができる。BioRad電気穿孔溶液、Sigmaリン酸緩衝生理食塩水(製品#D8537)(PBS)、Invitrogen OptiMEM I(OM)、またはAmaxa Nucleofector溶液V(N.V.)を含めた、いくつかの様々な緩衝液を使用することができる。遺伝子導入は、Lipofecamine 2000などの遺伝子導入試薬を含むことができる。
【0088】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系タンパク質をコードするベクターは、インビボ電気穿孔を伴うまたは伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)、リポソーム介在、ナノ粒子促進、および/または組換えベクターによって、哺乳類に送達することができる。組換えベクターは、任意のウイルス型によって送達することができる。ウイルス型は、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および/または組換えアデノ随伴ウイルスであり得る。
【0089】
標的遺伝子の遺伝子発現を誘発するために、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系タンパク質をコードするヌクレオチドを、細胞に導入することができる。例えば、標的遺伝子に誘導されるCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードする1つ以上のヌクレオチド配列を、哺乳類細胞に導入することができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系の細胞への送達時に、また、ベクターの哺乳類の細胞への送達時に、遺伝子導入細胞sは、CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を発現することとなる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系を、哺乳類に投与して、哺乳類における標的遺伝子の遺伝子発現を誘発または調節することができる。哺乳類は、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、バイソン、スイギュウ、ウシ科動物(bovid)、シカ、ハリネズミ、ゾウ、ラマ、アルパカ、マウス、ラット、またはニワトリ、好ましくはヒト、ウシ、ブタ、またはニワトリであり得る。
【0090】
投与の経路
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系およびその組成物は、経口的、非経口的、舌下、経皮、直腸内、経粘膜、局所的、吸入を介して、頬側投与を介して、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、くも膜下腔内、および関節内、またはこれらの組み合わせを含めた、様々な経路によって、対象に投与することができる。獣医学的使用については、組成物は、通常の獣医学診療に従って、適切に許容される製剤として投与することができる。獣医師は、ある特定の動物にとって最も適した投薬レジメンおよび投与経路を容易に決定することができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系およびその組成物は、従来のシリンジ、無針注射装置、「微粒子銃(microprojectile bombardment gone guns)」、または他の物理的方法、例えば電気穿孔(「EP」)、「水力学的方法」、または超音波によって投与することができる。組成物は、インビボ電気穿孔を伴うまたは伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)、リポソーム介在、ナノ粒子促進、組換えベクター、例えば組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスを含めたいくつかの技術によって、哺乳類に送達することができる。
【0091】
細胞型
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、あらゆる型の細胞と共に使用することができる。いくつかの実施態様では、細胞は、細菌細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、または動物細胞である。いくつかの実施態様では、細胞は、限定はされないが、GM12878、K562、H1ヒト胚性幹細胞、HeLa-S3、HepG2、HUVEC、SK-N-SH、IMR90、A549、MCF7、HMECまたはLHCM、CD14+、CD20+、初代心臓または肝臓細胞、分化したH1細胞、8988T、Adult_CD4_naive、Adult_CD4_Th0、Adult_CD4_Th1、AG04449、AG04450、AG09309、AG09319、AG10803、AoAF、AoSMC、BC_Adipose_UHN00001、BC_Adrenal_Gland_H12803N、BC_Bladder_01-11002、BC_Brain_H11058N、BC_Breast_02-03015、BC_Colon_01-11002、BC_Colon_H12817N、BC_Esophagus_01-11002、BC_Esophagus_H12817N、BC_Jejunum_H12817N、BC_Kidney_01-11002、BC_Kidney _H12817N、BC_Left_Ventricle_N41、BC_Leukocyte_UHN00204、BC_Liver_01-11002、BC_Lung_01-11002、BC_Lung_H12817N、BC_Pancreas_H12817N、BC_Penis_H12817N、BC_Pericardium_H12529N、BC_Placenta_UHN00189、BC_Prostate_Gland_H12817N、BC_Rectum_N29、BC_Skeletal_Muscle_01-11002、BC_Skeletal_Muscle_H12817N、BC_Skin_01-11002、BC_Small_Intestine_01-11002、BC_Spleen_H12817N、BC_Stomach_01-11002、BC_Stomach_H12817N、BC_Testis_N30、BC_Uterus_BN0765、BE2_C、BG02ES、BG02ES-EBD、BJ、bone_marrow_HS27a、bone_marrow_HS5、bone_marrow_MSC、Breast_OC、Caco-2、CD20+_RO01778、CD20+_RO01794、CD34+_Mobilized、CD4+_Naive_Wb11970640、CD4+_Naive_Wb78495824、Cerebellum_OC、Cerebrum_frontal_OC、Chorion、CLL、CMK、Colo829、Colon_BC、Colon_OC、Cord_CD4_naive、Cord_CD4_Th0、Cord_CD4_Th1、Decidua、Dnd41、ECC-1、Endometrium_OC、Esophagus_BC、Fibrobl、Fibrobl_GM03348、FibroP、FibroP_AG08395、FibroP_AG08396、FibroP_AG20443、Frontal_cortex_OC、GC_B_cell、Gliobla、GM04503、GM04504、GM06990、GM08714、GM10248、GM10266、GM10847、GM12801、GM12812、GM12813、GM12864、GM12865、GM12866、GM12867、GM12868、GM12869、GM12870、GM12871、GM12872、GM12873、GM12874、GM12875、GM12878-XiMat、GM12891、GM12892、GM13976、GM13977、GM15510、GM18505、GM18507、GM18526、GM18951、GM19099、GM19193、GM19238、GM19239、GM19240、GM20000、H0287、H1-neurons、H7-hESC、H9ES、H9ES-AFP-、H9ES-AFP+、H9ES-CM、H9ES-E、H9ES-EB、H9ES-EBD、HAc、HAEpiC、HA-h、HAL、HAoAF、HAoAF_6090101.11、HAoAF_6111301.9、HAoEC、HAoEC_7071706.1、HAoEC_8061102.1、HA-sp、HBMEC、HBVP、HBVSMC、HCF、HCFaa、HCH、HCH_0011308.2P、HCH_8100808.2、HCM、HConF、HCPEpiC、HCT-116、Heart_OC、Heart_STL003、HEEpiC、HEK293、HEK293T、HEK293-T-REx、Hepatocytes、HFDPC、HFDPC_0100503.2、HFDPC_0102703.3、HFF,HFF-Myc、HFL11W、HFL24W、HGF、HHSEC、HIPEpiC、HL-60、HMEpC、HMEpC_6022801.3、HMF、hMNC-CB、hMNC-CB_8072802.6、hMNC-CB_9111701.6、hMNC-PB、hMNC-PB_0022330.9、hMNC-PB_0082430.9、hMSC-AT、hMSC-AT_0102604.12、hMSC-AT_9061601.12、hMSC-BM、hMSC-BM_0050602.11、hMSC-BM_0051105.11、hMSC-UC、hMSC-UC_0052501.7、hMSC-UC_0081101.7、HMVEC-dAd、HMVEC-dBl-Ad、HMVEC-dBl-Neo、HMVEC-dLy-Ad、HMVEC-dLy-Neo、HMVEC-dNeo、HMVEC-LBl、HMVEC-LLy、HNPCEpiC、HOB、HOB_0090202.1、HOB_0091301、HPAEC、HPAEpiC、HPAF、HPC-PL、HPC-PL_0032601.13、HPC-PL_0101504.13、HPDE6-E6E7、HPdLF、HPF、HPIEpC、HPIEpC_9012801.2、HPIEpC_9041503.2、HRCEpiC、HRE、HRGEC、HRPEpiC、HSaVEC、HSaVEC_0022202.16、HSaVEC_9100101.15、HSMM、HSMM_emb、HSMM_FSHD、HSMMtube、HSMMtube_emb、HSMMtube_FSHD、HT-1080、HTR8svn、Huh-7、Huh-7.5、HVMF、HVMF_6091203.3、HVMF_6100401.3、HWP、HWP_0092205、HWP_8120201.5、iPS、iPS_CWRU1、iPS_hFib2_iPS4、iPS_hFib2_iPS5、iPS_NIHi11、iPS_NIHi7、Ishikawa、Jurkat、Kidney_BC、Kidney_OC、LHCN-M2、LHSR、Liver_OC、Liver_STL004、Liver_STL011、LNCaP、Loucy、Lung_BC、Lung_OC、Lymphoblastoid_cell_line、M059J、MCF10A-Er-Src、MCF-7、MDA-MB-231、Medullo、Medullo_D341、Mel_2183、Melano、Monocytes-CD14+、Monocytes-CD14+_RO01746、Monocytes-CD14+_RO01826、MRT_A204、MRT_G401、MRT_TTC549、Myometr、Naive_B_cell、NB4、NH-A、NHBE、NHBE_RA、NHDF、NHDF_0060801.3、NHDF_7071701.2、NHDF-Ad、NHDF-neo、NHEK、NHEM.f_M2、NHEM.f_M2_5071302.2、NHEM.f_M2_6022001、NHEM_M2、NHEM_M2_7011001.2、NHEM_M2_7012303、NHLF、NT2-D1、Olf_neurosphere、Osteobl、ovcar-3、PANC-1、Pancreas_OC、PanIsletD、PanIslets、PBDE、PBDEFetal、PBMC、PFSK-1、pHTE、Pons_OC、PrEC、ProgFib、Prostate、Prostate_OC、Psoas_muscle_OC、Raji、RCC_7860、RPMI-7951、RPTEC、RWPE1、SAEC、SH-SY5Y、Skeletal_Muscle_BC、SkMC、SKMC、SkMC_8121902.17、SkMC_9011302、SK-N-MC、SK-N-SH_RA、Small_intestine_OC、Spleen_OC、Stellate、Stomach_BC、T_cells_CD4+、T-47D、T98G、TBEC、Th1、Th1_Wb33676984、Th1_Wb54553204、Th17、Th2、Th2_Wb33676984、Th2_Wb54553204、Treg_Wb78495824、Treg_Wb83319432、U2OS、U87、UCH-1、Urothelia、WERI-Rb-1、およびWI-38を含めた、ENCODE細胞株であり得る。
【0092】
キット
本明細書で提供されるのは、標的遺伝子の遺伝子発現を活性化させるために使用することができるキットである。キットは、上に記載した通りの、遺伝子発現を活性化させるための組成物、および前記組成物を使用するための説明書を含む。キットに含まれる説明書は、包装材料に貼り付けることもできるし、パッケージ挿入物として含めることもできる。説明書は、一般的に、書面のまたは印刷された素材であるが、これに限定されない。こうした説明書を保管する、また、これらをエンドユーザーに伝えることが可能なあらゆる媒体が、本開示によって企図される。こうした媒体としては、限定はされないが、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えばCD ROM)などが挙げられる。本明細書で使用する場合、用語「説明書」は、説明書を提供するインターネットサイトのアドレスを含むことができる。
【0093】
遺伝子発現を活性化するための組成物は、改変されたAAVベクターと、上に記載した通りのCRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系をコードするヌクレオチド配列を含むことができる。CRISPR/Cas9に基づく遺伝子活性化系は、標的遺伝子のシス調節領域またはトランス調節領域と特異的に結合し、これを標的にする、上に記載した通りのCRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼを含むことができる。標的遺伝子の特定の調節領域と特異的に結合し、これを標的にするための、上に記載した通りのCRISPR/Cas9に基づくアセチルトランスフェラーゼを、キットに含めることができる。
【実施例
【0094】
先述のことは、例示の目的のために与えられ、かつ本発明の範囲を制限しない、次の実施例を参照することによって、より良く理解することができる。
【0095】
実施例1
方法および材料-活性化因子
細胞株および遺伝子導入。HEK293T細胞は、Duke University Cell Culture Facilityを通じて、American Tissue Collection Center(ATCC,Manassas VA)から入手した。細胞を、10% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加して37℃および5% CO2に維持したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)内で培養した。遺伝子導入は、製造業者の説明書の通りに、375ngのそれぞれのdCas9発現ベクターおよび125ngの等モルのプールされたまたは個々のgRNA発現ベクター(Lipofectamine 2000(Life Technologies,cat.#11668019)と混合)を使用して、24ウェルプレートにおいて実施した。ChIP-qPCR実験については、HEK293T細胞を、製造業者の説明書の通りに、Lipofectamine 2000、および30μgのそれぞれのdCas9発現ベクター、および10μgの等モルのプールされたgRNA発現ベクターを含む15cmディッシュ内で遺伝子導入させた。
【0096】
プラスミドコンストラクト。pcDNA-dCas9VP64(dCas9VP64;Addgene、プラスミド#47107)を使用した(Perez-Pinera,P.et al,Nature methods 10:973-976(2013))。AscI/PacI制限酵素部位を介してdCas9VP64からVP64エフェクタードメインを除去し、等温構築(isothermal assembly)(Gibson et al.Nat.Methods 6:343-345(2009))を使用し、製造業者の説明書(NEB cat.#2611)の通りに、適切な配列を含有するアニーリングされたオリゴのセットを含めることによって、dCas9(エフェクターなし)に、HAエピトープタグを添加した。pcDNA-dCas9FLp300(dCas9FLp300)を、pcDNA3.1-p300(Addgene、プラスミド#23252)(Chen et al.EMBO J.21:6539-6548(2002))からの完全長p300を2つの別の断片で増幅させ、これらの断片を等温構築を介してdCas9VP64骨格にクローン化することによって作製した。dCas9FLp300中の、また、前駆体(前駆物質)pcDNA3.1-p300中の、HAT Core領域の外側に位置する完全長p300タンパク質(L553M)内の置換を、配列検証中に特定した。pcDNA-dCas9p300 Core(dCas9p300 Core)を、最初にcDNAからのヒトp300のアミノ酸1048~1664を増幅させ、次いで、得られたアンプリコンをpCR-Blunt(pCR-Bluntp300 Core)(Life Technologies cat.#K2700)にサブクローン化することによって産生した。AscI部位、HA-エピトープタグ、およびPmeI部位を、pCR-Bluntp300 Coreからのp300 CoreのPCR増幅によって付加し、その後、このアンプリコンを、pCR-Blunt(pCR-Bluntp300 Core+HA)(Life Technologies cat.#K2700)にクローン化した。HAタグされたp300 Coreを、pCR-Bluntp300 Core+HAからdCas9VP64骨格に、共通のAscI/PmeI制限酵素部位を介してクローン化した。pcDNA-dCas9p300 Core(D1399Y)(dCas9p300 Core(D1399Y))を、特定の核酸変異を含むプライマーセットを用いるdCas9p300 Coreからのp300 Coreの増幅によって、オーバーラップ断片で産生し、連結(linkage)PCRに引き続いて、共通のAscI/PmeI制限酵素部位を使用してdCas9p300 Core骨格にクローン化した。すべてのPCR増幅は、Q5ハイフィデリティDNAポリメラーゼ(NEB cat.#M0491)を使用して実施した。すべてのdCas9コンストラクトのタンパク質配列を、図15A~15Jに示す。
【0097】
IL1RN、MYOD、およびOCT4プロモーターgRNAプロトスペーサーは、これまでに記載されている(Perez-Pinera,P.et al,Nature methods 10:973-976 (2013);Hu,J.et al.,Nucleic Acids Res 42:4375-4390 (2014))。髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)dCas9VP64(Nm-dCas9VP64)は、Addgene(プラスミド#48676)から入手した。Nm-dCas9p300 Coreは、プライマーを用いてdCas9p300 CoreからHAタグされたp300 Coreを増幅させて、等温構築(NEB cat.# 2611)を使用するAleI/AgeI消化Nm-dCas9VP64骨格にサブクローン化することを容易にすることによって作製した。IL1RN TALEp300 CoreTALEは、dCas9p300 Core由来のHAタグされたp300 Coreドメインを、以前に公表された(Perez-Pinera,P.et al,Nature methods 10:973-976 (2013))IL1RN TALEVP64コンストラクトに、共通のAscI/PmeI制限酵素部位を介してサブクローン化することによって産生した。IL1RN TALE標的部位を、表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
ICAM1 ZFVP64およびICAM1 ZFp300 Coreは、pMX-CD54-31Opt-VP6454由来のICAM1 ZFを、等温構築(NEB cat.# 2611)を使用してdCas9VP64およびdCas9p300 Core骨格それぞれにサブクローン化することによって構築した。ICAM1 ZFコンストラクトのタンパク質配列を、図16に示す。導入効率は、すべての実験において、PL-SIN-EF1α-EGFP(Addgeneプラスミド#21320)とgRNA空(empty)ベクターとの同時導入によって分析した場合に、決まって90%超であった。すべての化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)gRNAを、NEB BbsIおよびT4リガーゼ(Cat.#s R0539 and M0202)を使用して、わずかな改変を伴う発現(Cong,L.et al.,Science 339:819-823(2013))のためにpZdonor-pSPgRNA(Addgeneプラスミド#47108)にアニーリングおよびクローン化した。Nm-dCas9 gRNAオリゴを、公開されているPAM要件(requirement)(Esvelt,K.M.et al.,Nature Methods 10:1116-1121(2013))を使用して合理的に設計し、次いで、pZDonor-Nm-Cas9-gRNA-hU6(Addgene、プラスミド#61366)に、BbsI部位を介してクローン化した。プラスミドは、Addgeneを通じて入手可能である(表2)。
【0100】
【表2】
【0101】
すべてのgRNAプロトスペーサー標的を、表3および4に列挙する。
【0102】
【表3】

【0103】
【表4】
【0104】
ウエスタンブロッティング。SDS PAGEのために20μgのタンパク質を乗せ、ウエスタンブロットのためにニトロセルロース膜に転写させた。一次抗体(α-FLAG;Sigma-Aldrich cat.#F7425およびα-GAPDH;Cell Signaling Technology cat.#14C10)は、TBST+5%ミルクでの1:1000希釈で使用した。二次α-ウサギHRP(Sigma-Aldrich cat.#A6154)は、TBST+5%ミルクでの1:5000希釈で使用した。ECL(Bio-Rad cat.#170-5060)の添加後に膜を露光させた。
【0105】
定量逆転写PCR。遺伝子導入細胞から、RNeasy Plus mini kit(Qiagen cat.#74136)を使用してRNAを単離し、500ngの精製されたRNAを、cDNA合成(Life Technologies、cat.#11754)のための鋳型として使用した。リアルタイムPCRを、PerfeCTa SYBR Green FastMix(Quanta Biosciences、cat.#95072)と、C1000サーマルサイクラーを備えたCFX96リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)を使用して実施した。ベースライン減算曲線適合分析モード(baseline subtraction curve fit analysis mode)を使用してベースライン値を引き、Bio-Rad CFX Managerソフトウェアversion 2.1を使用して閾値を自動的に算出した。結果は、ΔΔCt法(Schmittgen et al.、Nat.Protoc.3:1101-1108(2008))を使用するGAPDH発現に対する標準化後の、対照mock導入細胞(DNAなし)を超える変化(倍)として表す。すべてのqPCRプライマーおよび条件を、表5に列挙する。
【0106】
【表5】


【0107】
RNA-seq。1実験条件あたり3反復実験を使用して、RNA-seqを実施した。遺伝子導入細胞から、RNeasy Plus mini kit(Qiagen cat.#74136)を使用してRNAを単離し、1μgの精製されたmRNAを、cDNA合成およびライブラリ構築(PrepX RNA-Seq Library Kit(Wafergen Biosystems、cat.#400039)を使用)のための鋳型として使用した。ライブラリは、製造業者の説明書の通りに、Apollo 324リキッドハンドリングプラットフォーム(liquid handling platform)を使用して調製した。インデックス付加されたライブラリを、Tapestation 2200(Agilent)を使用して、品質およびサイズ分布について確認し、KAPA Library Quantification Kit(KAPA Biosystems;KK4835)を使用するqPCRによって数量化し、その後、Duke University Genome Sequencing Shared Resource施設で多重(multiplex)プーリングおよび配列決定を行った。ライブラリをプールし、次いで、50bpシングルエンドリードをHiseq 2500(Illumina)で配列決定し、脱多重化(de-multiplex)し、次いでBowtie 2を使用してHG19トランスクリプトームと整列させた(Langmead et al.Nat.Methods 9:357-359(2012))。SAMtools(Li et al.Bioinformatics 25:2078:2079(2009))スイートを使用して、転写物量を算出し、DESeq2解析パッケージを使用して差次的発現をRで決定した。多重仮説補正は、<5%のFDRを用いるBenjamini and Hochbergの方法を使用して実施した。RNA-seqデータは、NCBI’s Gene Expression Omnibusに寄託されており、GEO Seriesアクセッション番号GSE66742でアクセス可能である。
【0108】
ChIP-qPCR。HEK293T細胞に、試験される各条件について生物学的3回反復試験で、15cmプレート中で、4種のHS2エンハンサーgRNAコンストラクトと指示されたdCas9融合体発現ベクターを同時導入した。細胞を、1%ホルムアルデヒド(最終濃度;Sigma F8775-25ML)で室温で10分間クロスリンクさせ、次いで、グリシンの添加(125mMの最終濃度まで)によって反応を停止させた。H3K27ac ChIP濃縮のために、各プレートから、~2.5e7細胞を使用した。クロマチンを、Bioruptor XL(Diagenode)を使用して、250bpという中間の断片サイズに剪断した。H3K27ac濃縮は、5μgのAbcam ab4729および200μlのヒツジ抗ウサギIgG磁気ビーズ(Life Technologies 11203D)と共に、4℃で16時間インキュベートすることによって実施した。ドデシル硫酸ナトリウムとの65℃での一晩のインキュベーションによって、クロスリンクを反転させ、MinElute DNA精製カラム(Qiagen)を使用して、DNAを精製した。C1000サーマルサイクラー(Bio-Rad)を備えたCFX96リアルタイムPCR検出システムを使用するその後のqPCR反応のために、10ngのDNAを使用した。ベースライン減算曲線適合分析モード(baseline subtraction curve fit analysis mode)を使用してベースライン値を引き、Bio-Rad CFX Managerソフトウェアversion 2.1を使用して閾値を自動的に算出した。結果は、ΔΔCt法(Schmittgen et al.、Nat.Protoc.3:1101-1108(2008))を使用するβ-アクチン濃縮に対する標準化後の、dCas9と4種のHS2 gRNAを同時導入した細胞を超える変化(倍)として表す。すべてのChIP-qPCRプライマーおよび条件を、表5に列挙する。
【0109】
実施例2
p300 HATドメインとのdCas9融合体は、標的遺伝子を活性化する。
完全長p300タンパク質を、dCas9(dCas9FLp300図1A~1B)と融合させ、IL1RN、MYOD1(MYOD)、およびPOU5F1/OCT4(OCT4)の内在性プロモーターを標的にする4種のgRNAとのヒトHEK293T細胞の一過性同時導入によるトランス活性化に関するその能力について分析した(図1C)。各プロモーターを標的にする4種のgRNAの組み合わせを使用した。dCas9FLp300は、十分に発現され、VP64酸性活性化ドメイン(dCas9VP64)と融合された基本のdCas9活性化因子と比較して、バックグラウンドを超える中程度の活性化を誘発した(図1A~1C)。完全長p300タンパク質は、主としてその終端を介して多数の内在性タンパク質と相互作用する、見境なしのアセチルトランスフェラーゼである。これらの(these)相互作用を弱めるために、p300 HAT coreドメイン(p300 Core)として公知である、もっぱら固有のHAT活性のためだけに必要とされる完全長p300(2414 aa)の近接領域(アミノ酸1048~1664)を単離した。dCas9のC末端と融合される場合(dCas9p300 Core図1A~1B)、p300 Coreドメインは、内在性gRNAに標的にされるプロモーターからの高レベルの転写を誘発した(図1C)。IL1RNおよびMYODプロモーターを標的にする場合、dCas9p300 Core融合体は、dCas9VP64よりも有意に高いレベルのトランス活性化を呈した(P値 それぞれ0.01924および0.0324;図1)。これらのdCas9-エフェクター融合タンパク質は、同様のレベルで発現され(図1B図7)、これは、観察される差の原因が、トランス活性化能力の差であったことを示している。さらに、エフェクター融合体が、gRNAなしで導入された場合には、標的遺伝子発現に対する変化は観察されなかった(図8)。図8については、dCas9融合タンパク質は、空のgRNAベクター骨格を一過的に同時導入し、IL1RN、MYOD、およびOCT4のmRNA発現を、本文に示すように分析した。赤い破線は、DNAなし-遺伝子導入細胞からのバックグラウンド発現レベルを示す。n=2(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.、分析されたいずれの標的遺伝子についても、有意な活性化は認められなかった。
【0110】
p300 Coreアセチルトランスフェラーゼ活性が、dCas9p300 Core融合体を使用する遺伝子トランス活性化の原因であったことを確かめるために、一団のdCas9p300 CoreHATドメイン変異体融合タンパク質をスクリーニングした(図7)。dCas9p300 Core(dCas9p300 Core(D1399Y)のHAT coreドメイン内の単一の不活性化アミノ酸置換(完全長p300のWT残基D1399)(図1A)は、融合タンパク質のトランス活性化能力をなくし(図1C)、これは、インタクトなp300 Coreアセチルトランスフェラーゼ活性が、dCas9p300 Core介在性のトランス活性化に必要とされることを示した。
【0111】
実施例3
dCas9p300 Coreは、近位および遠位エンハンサーから遺伝子を活性化する
p300が、内在性エンハンサーで役割を果たし、内在性エンハンサーに局在するので、dCas9p300 Coreは、適切に標的化されるgRNAと共に、遠位調節領域からの転写を効率的に誘発することができる。ヒトMYOD遺伝子座の遠位調節領域(DRR)およびコアエンハンサー(CE)は、各領域を標的にする4種のgRNAとdCas9VP64またはdCas9p300 Coreのいずれかとの同時導入によって標的化される(図2A)。mock導入対照と比較して、dCas9VP64は、MYOD DRRまたはCE領域を標的にする場合に、いかなる誘発も示さなかった。対照的に、dCas9p300 Coreは、対応するgRNAと共に、いずれかのMYOD調節エレメントを標的にする場合に、有意な転写を誘発した(P値 CEおよびDRR領域についてそれぞれ0.0115および0.0009)。ヒトOCT4遺伝子の、上流の近位(PE)および遠位(DE)エンハンサー領域も、6種のgRNAとdCas9VP64またはdCas9p300 Coreのいずれかとの同時導入によって標的化した(図2B)。dCas9p300 Coreが、これらの領域からの有意な転写を誘発した(P値 DEおよびPEについてそれぞれ≦0.0001およびP値≦0.003)のに対して、dCas9VP64は、PEまたはDE領域のいずれかを標的にする場合に、バックグラウンドレベルを超えてOCT4を活性化することができなかった。
【0112】
十分に特徴付けられた哺乳類のβ-グロビン遺伝子座制御領域(LCR)は、下流のヘモグロビン遺伝子;ヘモグロビンε1(HBE、~11kbから)、ヘモグロビンγ1および2(HBG、~30kbから)、ヘモグロビンδ(HBD、~46kbから)、およびヘモグロビンβ(HBB、~54kbから)の転写を統制する(図2C)。β-グロビンLCR内のDNase高感受性領域は、遠位標的遺伝子発現を調整する、p300を含めた転写モディファイヤーおよびクロマチンモディファイヤーのためのドッキング部位として働く。LCRエンハンサー領域(HS2エンハンサー)内のDNase高感受性領域2を標的にする4種のgRNAを産生した。これらのHS2を標的にする4種のgRNAを、dCas9、dCas9VP64、dCas9p300 Core、またはdCas9p300 Core(D1399Y)と同時導入し、HBE、HBG、HBD、およびHBBからの得られたmRNA産生を分析した(図2C)。dCas9、dCas9VP64、およびdCas9p300 Core(D1399Y)は、HS2エンハンサーを標的にする場合に、いずれの下流遺伝子もトランス活性化することができなかった。対照的に、dCas9p300 CoreのHS2エンハンサーへの標的化は、下流HBE、HBG、およびHBD遺伝子の有意な発現をもたらした(P値 HBE、HBG、およびHBDについて、それぞれ≦0.0001、0.0056、および0.0003( dCas9p300 Coreとmock導入細胞との間))。まとめると、HBDおよびHBEは、HS2エンハンサーからの合成p300 Core介在性活性化に対する反応性が比較的に低いように見え;発見は、いくつかの細胞株にわたるこれらの2遺伝子からの、より低い速度の一般的な転写と一致している(図9A~9E)。
【0113】
それにもかかわらず、最も遠位のHBB遺伝子を除いて、dCas9p300 Coreは、分析されるすべての特徴付けられたエンハンサー領域を標的にする場合、下流遺伝子からの転写を活性化する能力、すなわちdCas9VP64については認められない能力を示した。まとめると、これらの結果は、dCas9p300 Coreが、様々なプロモーター-近位およびプロモーター-遠位位置からの遺伝子発現を調節するために使用することができる、強力なプログラム可能な転写因子であることを実証する。
【0114】
実施例4
dCas9p300 Coreによる遺伝子活性化は、高度に特異的である。
最近の報告によれば、dCas9は、いくつかのgRNAと組み合わせて、遺伝子発現のオフターゲット変化を潜在的にもたらす可能性がある、哺乳類細胞における広範なオフターゲット結合事象を有する可能性があることが示されている。dCas9p300 Core融合タンパク質の転写特異性を評価するために、4種のIL1RN標的化gRNAと、dCas9、dCas9VP64、dCas9p300 Core、またはdCas9p300 Core(D1399Y)のいずれかとを同時導入した細胞におけるRNA-seqによって、トランスクリプトームプロファイリングを実施した。ゲノムワイドの転写変化を、エフェクタードメインが融合されていないdCas9と、dCas9VP64、dCas9p300 Core、またはdCas9p300 Core(D1399Y)のいずれかとの間で比較した(図3)。dCas9VP64とdCas9p300 Coreは、どちらも、4種すべてのIL1RNアイソフォームを上方調節したが、dCas9p300 Coreの効果のみが、ゲノムワイドの有意性に到達した(図3A~3B、表6;dCas9VP64についてはP値 1.0×10-3~5.3×10-4;dCas9p300 CoreについてはP値 1.8×10-17~1.5×10-19)。
【0115】
【表6】

【0116】
対照的に、dCas9p300 Core(D1399Y)は、いずれのIL1RN発現も有意には誘発しなかった(図3C;4種すべてのIL1RNアイソフォームについてP値>0.5)。dCas9との比較分析により、偽陽性率(FDR)<5%:KDR(FDR=1.4×10-3);およびFAM49A(FDR=0.04)で、2つの転写物のみがバックグラウンドを超えて有意に誘発、限定されたdCas9p300 Coreオフターゲット遺伝子導入が明らかにされた(図3B、表6)。dCas9p300 CoreおよびdCas9p300 Core(D1399Y)を導入した細胞において、p300 mRNAの発現の増大が認められた。この発見は、一過的に導入したp300 core融合ドメインからのmRNAに対するRNA-seqリードマッピングによって説明される可能性が高い。このように、dCas9p300 Core融合体は、高いゲノムワイドの標的化転写特異性と、4種すべての標的化IL1RNアイソフォームの頑強な遺伝子導入を呈した。
【0117】
実施例5
dCas9p300 Coreは、H3K27をエンハンサーおよびプロモーターでアセチル化する
調節エレメントの活性は、アセチル化およびメチル化などの共有結合性のヒストン修飾と相関する。これらのヒストン修飾のうち、ヒストンH3上でのリジン27のアセチル化(H3K27ac)は、エンハンサー活性の最も広く記録された指標の一つである。H3K27のアセチル化は、p300によって触媒され、また、内在性p300結合プロフィールと相関する。したがって、H3K27ac濃縮を、ゲノム上の標的部位での相対的dCas9p300 Core介在性アセチル化の尺度として使用した。dCas9p300 CoreによるH3K27アセチル化を数量化するために、4種のHS2エンハンサー標的化gRNAと、dCas9、dCas9VP64、dCas9p300 Core、またはdCas9p300 Core(D1399Y)のいずれかとを同時導入したHEK293T細胞において、抗H3K27ac抗体を用いるクロマチン免疫沈降、それに続いて定量PCR(ChIP-qPCR)を実施した(図4)。3つのアンプリコンを、HBEおよびHBG遺伝子のHS2エンハンサー内またはプロモーター領域内の標的部位でまたは標的部位の周囲で、分析した(図4A)。注目すべきことには、高レベルのグロビン遺伝子発現を有するヒトK562赤血球細胞株において、H3K27acは、これらの領域のそれぞれにおいて濃縮される(図4A)。HS2エンハンサー標的遺伝子座で、dCas9VP64(ChIP領域1についてP値0.0056、およびChIP領域3についてP値 0.0029)を同時導入された試料と、dCas9p300 Core(ChIP領域1についてP値 0.0013、およびChIP領域3についてP値 0.0069)を同時導入された試料との両方で、dCas9での処理と比較して有意なH3K27ac濃縮が認められた(図4B)。
【0118】
dCas9VP64またはdCas9p300 Coreを用いてIL1RNプロモーターを標的にする場合に、H3K27ac濃縮の同様の傾向が認められた(図10)。図10は、GRCh37/hg19上のIL1RN遺伝子座を、IL1RN gRNA標的部位と共に示す。さらに、7細胞株(GM12878、H1-hESC、HSMM、HUVEC、K562、NHEK、およびNHLF)からのENCODE H3K27ac濃縮の重ね合わせは、50に設定した垂直範囲設定を用いて示す。GRCh37/hg19上の対応する位置に、タイル状のIL1RN ChIP qPCRアンプリコン(1~13)も示す。4種のIL1RN標的化gRNAを同時導入し、4種のIL1RN標的化gRNAを同時導入したdCas9に対して標準化したdCas9VP64およびdCas9p300 CoreについてのH3K27ac濃縮を、分析される各ChIP qPCR遺伝子座について示す。各反応のために、5ngのChIP調製DNAを使用した(n=3(独立した実験)、エラーバー:s.e.m.)。
【0119】
dCas9VP64とdCas9p300 Coreの両方による、標的部位でのH3K27acのこれらの増大とは対照的に、HS2調節されるHBEおよびHBGプロモーターでのH3K27acの強い濃縮は、dCas9p300 Core処理でのみ観察された(図4C~D)。まとめると、これらの結果は、dCas9p300 Coreが、gRNAに標的にされる遺伝子座での、またエンハンサーに標的にされる遠位プロモーターでのH3K27ac濃縮を特異的に触媒することを実証する。したがって、HS2でdCas9p300 Coreによって確立されるアセチル化は、dCas9p300 CoreによるがdCas9VP64によらないHS2エンハンサーからのHBE、HBG、およびHBD遺伝子の遠位活性化によって示される通り、dCas9VP64による転写開始前複合体成分の直接的動員とは別の方式で、エンハンサー活性を触媒することができる(図2C図9A~9E)。
【0120】
実施例6
dCas9p300 Coreは、単一のgRNAと共に遺伝子を活性化する
dCas9-エフェクター融合タンパク質を使用する頑強なトランス活性化は、現在、複数のgRNA、複数のエフェクタードメイン、またはこれらの両方の適用に依存している。転写活性化は、単一のdCas9-エフェクター融合体と連携する、単一のgRNAを使用して単純化することができるであろう。これはまた、別の標的遺伝子の多重化、および系への追加的機能性の組み込みを容易にするであろう。単一のgRNAを伴うdCas9p300 Coreのトランス活性化の可能性を、IL1RN、MYOD、およびOCT4プロモーターを標的にする4種のプールされたgRNAを伴うdCas9p300 coreのトランス活性化の可能性と比較した(図5A~5B)。dCas9p300 Coreと、試験される各プロモーターでの単一のgRNAとの同時導入時に、実質的な活性化が認められた。IL1RNおよびMYODプロモーターについては、プールされたgRNAと最も良い個々のgRNAとの間に有意差はなかった(図5A~5B;IL1RN gRNA「C」、P値 0.78;MYOD gRNA「D」、P値 0.26)。4種のgRNAが、dCas9p300 Coreと共にプールされた場合、OCT4プロモーターの活性化は、相加効果を生じたが、最も強力な単一のgRNA(gRNA「D」)は、dCas9VP64と4種すべてのプロモーターgRNAの等モルのプールとの同時導入時に認められる量に統計的に匹敵する量の遺伝子発現を誘発した(P値 0.73;図5C)。dCas9p300 Coreと比較して、dCas9VP64および単一のgRNAでの遺伝子活性化のレベルは、実質的に低かった。また、dCas9p300 Coreと対照的に、dCas9VP64は、あらゆる場合において、gRNAとの組み合わせで相乗効果を示した(図5A~5C)。
【0121】
エンハンサー領域での、また、プロモーター領域での単一のgRNAを伴う、dCas9p300 Coreのトランス活性化能力に基づくと、dCas9p300 Coreが、単一の標的化gRNAを介してエンハンサーをトランス活性化できる可能性もあることが仮定される。MYOD(DRRおよびCE)、OCT4(PEおよびDE)、ならびにHS2エンハンサー領域を、等モル濃度のプールまたは単一のgRNAと共に試験した(図5D~5G)。両MYODエンハンサー領域については、dCas9p300 Coreと単一のエンハンサーを標的にするgRNAとの同時導入は、dCas9p300 Coreと4種のプールされたエンハンサーgRNAとを同時導入した細胞と同様のレベルまで遺伝子発現を活性化するのに十分であった(図5D)。同様に、OCT4遺伝子発現も、6種のPEに標的にされるgRNAのプールを伴って局在化されたdCas9p300 Coreと同様のレベルまで、単一のgRNAを伴うdCas9p300 Core局在化を介して、PEから活性化された(図5E)。DEからのOCT4(図5E)の、およびHS2エンハンサーからのHBEおよびHBG遺伝子(図5F~5G)の、dCas9p300 Core介在性の誘発は、単一のgRNAと比較して、プールされたgRNAを用いた場合に、発現の増大を示した。それでも、これらのエンハンサーで、いくつかの単一のgRNAについて、対照を超える標的遺伝子発現の活性化が存在した(図5E~5G)。
【0122】
実施例7
p300 HATドメインは、他のDNA結合タンパク質に移植可能である。
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のdCas9/gRNA系は、その頑強で、汎用性があり、かつ容易にプログラム可能な性質のおかげで、広く採用されている。しかし、他の種由来の直交性(orthogonal)dCas9系、TALE、およびジンクフィンガータンパク質を含めたいくつかの他のプログラム可能なDNA結合タンパク質も、様々な用途のために開発中であり、特定の用途にとって好ましいものであり得る。p300 Core HATドメインが、これらの他の系に移植可能であるかどうかを決定するために、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のdCas9(Nm-dCas9)、4つの異なるTALEを標的にするIL1RNプロモーター、およびジンクフィンガータンパク質を標的にするICAM1との融合体を作製した(図6)。Nm-dCas9p300 CoreとHBEまたはHBGプロモーターを標的にする5種のNm-gRNAとの同時導入は、mock導入対照と比較して、有意な遺伝子導入をもたらした(P値 HBEおよびHBGについて、それぞれ0.038および0.0141)(図6B~6C)。HS2エンハンサーを標的にする5種のNm-gRNAを同時導入した場合、Nm-dCas9p300 Coreはまた、mock導入対照と比較して、遠位HBEおよびHBG、グロビン遺伝子を有意に活性化した(それぞれp=0.0192およびp=0.0393)(図6D~6E)。dCas9p300 Coreと同様に、Nm-dCas9p300 Coreも、単一のgRNAを介してプロモーターおよびHS2エンハンサーからの遺伝子発現を活性化した。Nm-dCas9VP64は、単一のまたは複数のgRNAと共に、プロモーター領域への、またはHS2エンハンサーへの局在化にかかわらず、HBEまたはHBGをトランス活性化する無視できる能力を呈した(図6B~6E)。IL1RNプロモーターを標的にする4種のTALEp300 Core融合タンパク質(IL1RN TALEp300 Core)の組み合わせに対する発現プラスミドの導入も、4種の対応するTALEVP64融合体(IL1RN TALEVP64)よりも低い程度ではあるが、下流遺伝子発現を活性化した(図6F~6G)。しかし、単一のp300 Coreエフェクターは、IL1RN TALEと融合された場合、単一のVP64ドメインよりもはるかに強力であった。興味深いことに、いずれかの単一の結合部位に誘導されるdCas9p300 Coreは、単一のまたはプールされたIL1RN TALEエフェクターに匹敵するIL1RN発現をもたらし、直接的比較は、dCas9が、より大きなp300 Core 融合ドメインと融合された場合に、TALEよりも頑強な活性化因子であり得ることを示唆した(図11A~11C)。p300 Coreエフェクタードメインは、追加的なgRNAまたはTALEとの相乗作用も(図5、6、9、および11参照)、VP64との組み合わせでの相乗作用も(図13A~13B参照)呈さなかった。dCas9p300 Core標的遺伝子座の基本的クロマチン状況を、図14A~14Eに示す。
【0123】
ICAM1プロモーターを標的にするZFp300 Core融合体(ICAM1 ZFp300 Core)も、対照と比較して、かつ、ZFVP64(ICAM1 ZFVP64)と同様のレベルで、その標的遺伝子を活性化した(図6H-6I)。複数の標的ドメインを有するp300 Core融合体の汎用性は、これが、標的化されたアセチル化および遺伝子調節のための確固たる手法であるという証拠である。ウエスタンブロットによって決定された通り、種々のp300 core融合タンパク質が十分に発現されたが(図12A~12B)、異なる融合タンパク質間のp300 Core活性の差は、結合親和性またはタンパク質フォールディングに起因する可能性がある。
【0124】
実施例8
ミオカルディン(Myocardin)
MYOCD遺伝子の-2000bpから+250bp(TSSに対する座標)領域にわたる、36種のgRNAを設計した(表7)。
【0125】
【表7】



【0126】
これらのgRNAを、hU6プロモーターとBbsI制限酵素部位とを含有するspCas9 gRNA発現ベクターにクローン化した。これらのgRNAを、HEK293T細胞に、dCas9p300 Coreと共に一過的に同時導入した。ミオカルディン(Myocardin)に対する得られたmRNA産生を、導入の3日後に回収した試料において分析した(図17)。Cr32、Cr13、Cr30、Cr28、Cr31、およびCr34とdCas9p300 Coreとの組み合わせを分析した(表8;図18)。
【0127】
【表8】
【0128】
実施例9
Pax7
PAX7遺伝子を取り囲む領域にわたるgRNAを設計した(表9)。これらのgRNAを、hU6プロモーターとBbsI制限酵素部位とを含有するspCas9 gRNA発現ベクターにクローン化した。これらのgRNAを、HEK293T細胞に、dCas9p300 CoreまたはdCas9VP64と共に一過的に同時導入した。Pax7に対する得られたmRNA産生を、導入の3日後に回収した試料において分析した(図19)。さらなる実験においてgRNA19(「g19」)を使用し、これが、DNase高感受性領域(DHS)に局在することが示された(図20)。
【0129】
【表9】
【0130】
実施例10
FGF1
FGF1A、FGF1B、およびFGF1C遺伝子について、gRNAを設計した(表10および11)。25nMのこれらのgRNAを、HEK293T細胞に、dCas9p300 CoreまたはdCas9VP64と共に一過的に同時導入した。FGF1発現に対する得られたmRNA産生を決定した(図21~23)。図23では、レンチウイルスベクターを導入した安定な細胞株の数は、n=1であるFGF1Aを除いて、2であった。
【0131】
【表10】
【0132】
【表11】

【0133】
前述の詳細な説明および付随する実施例は、単に実例に過ぎず、本発明の範囲への制限と受け取るべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物によってのみ定義されることが理解されよう。
【0134】
開示された実施態様に対する様々な変更および改変は、当業者には明らかであろう。限定はされないが、本発明の化学構造、置換基、誘導体、中間体、合成物、組成物、製剤、または使用の方法に関するものを含めた、こうした変更および改変を、その趣旨および範囲から逸脱せずに行うことができる。
【0135】
完全性の理由から、本発明の種々の態様を、次の番号付けした条項で提示する:
【0136】
第1項.第1のポリペプチドドメインが、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)関連(Cas)タンパク質を含み、かつ第2のポリペプチドドメインが、ヒストンアセチル化酵素活性を有するペプチドを含む、2つの異種のポリペプチドドメインを含む融合タンパク質。
【0137】
第2項.標的遺伝子の転写を活性化する、第1項に記載の融合タンパク質。
【0138】
第3項.Casタンパク質が、Cas9を含む、第1項または2項に記載の融合タンパク質。
【0139】
第4項.Cas9が、Cas9のヌクレアーゼ活性をノックアウトする少なくとも1つのアミノ酸変異を含む、第3項に記載の融合タンパク質。
【0140】
第5項.Casタンパク質が、配列番号1または配列番号10を含む、第4項に記載の融合タンパク質。
【0141】
第6項.第2のポリペプチドドメインが、ヒストンアセチル化酵素エフェクタードメインを含む、第1~5項のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【0142】
第7項.ヒストンアセチル化酵素エフェクタードメインが、p300ヒストンアセチル化酵素エフェクタードメインである、第6項に記載の融合タンパク質。
【0143】
第8項.第2のポリペプチドドメインが、配列番号2または配列番号3を含む、第1~7項のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【0144】
第9項.第1のポリペプチドドメインが、配列番号1または配列番号10を含み、かつ第2のポリペプチドドメインが、配列番号2または配列番号3を含む、第1~8項のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【0145】
第10項.第1のポリペプチドドメインが、配列番号1を含み、かつ第2のポリペプチドドメインが、配列番号3を含む、または、第1のポリペプチドドメインが、配列番号10を含み、かつ第2のポリペプチドドメインが、配列番号3を含む、第1~9項のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【0146】
第11項.第1のポリペプチドドメインを第2のポリペプチドドメインと連結させるリンカーをさらに含む、第1~10項のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【0147】
第12項.配列番号140、141、または149のアミノ酸配列を含む、第1~11項のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【0148】
第13項.第1~12項のいずれか一項に記載の融合タンパク質と、少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)とを含む、DNAターゲティング系。
【0149】
第14項.少なくとも1つのgRNAが、プロトスペーサー隣接モチーフが後続する標的DNA配列の12~22塩基対の相補的ポリヌクレオチド配列を含む、第13項に記載のDNAターゲティング系。
【0150】
第15項.少なくとも1つのgRNAが、標的領域を標的にし、標的領域が、標的エンハンサー、標的調節エレメント、標的遺伝子のシス調節領域、または標的遺伝子のトランス調節領域を含む、第13または14項に記載のDNAターゲティング系。
【0151】
第16項.標的領域が、標的遺伝子の遠位または近位のシス調節領域である、第15項に記載のDNAターゲティング系。
【0152】
第17項.標的領域が、標的遺伝子のエンハンサー領域またはプロモーター領域である、第15または16項に記載のDNAターゲティング系。
【0153】
第18項.標的遺伝子が、内在性遺伝子または導入遺伝子である、第15~17項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0154】
第19項.標的領域が、標的エンハンサーまたは標的調節エレメントを含む、第15項に記載のDNAターゲティング系。
【0155】
第20項.標的エンハンサーまたは標的調節エレメントが、2つ以上の標的遺伝子の遺伝子発現を制御する、第19項に記載のDNAターゲティング系。
【0156】
第21項.DNAターゲティング系が、1から10個の異なるgRNAを含む、第15~20項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0157】
第22項.DNAターゲティング系が、1個のgRNAを含む、第15~21項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0158】
第23項.標的領域が、標的遺伝子と同じ染色体上に位置する、第15~22項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0159】
第24項.標的領域が、標的遺伝子の転写開始点の約1塩基対から約100,000塩基対上流に位置する、第23項に記載のDNAターゲティング系。
【0160】
第25項.標的領域が、標的遺伝子の転写開始点の1000塩基対から約50,000塩基対上流に位置する、第24項に記載のDNAターゲティング系。
【0161】
第26項.標的領域が、標的遺伝子と異なる染色体上に位置する、第15~22項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0162】
第27項.異なるgRNAが、異なる標的領域に結合する、第15~28項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0163】
第28項.異なるgRNAが、異なる標的遺伝子の標的領域に結合する、第27項に記載のDNAターゲティング系。
【0164】
第29項.2つ以上の標的遺伝子の発現が、活性化される、第27項に記載のDNAターゲティング系。
【0165】
第30項.標的遺伝子が、IL1RN、MYOD1、OCT4、HBE、HBG、HBD、HBB、MYOCD、PAX7、FGF1A、FGF1B、およびFGF1Cからなる群から選択される、第15~29項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0166】
第31項.標的領域が、ヒトβ-グロビン遺伝子座のHS2エンハンサー、MYOD遺伝子の遠位調節領域(DRR)、MYOD遺伝子のコアエンハンサー(CE)、OCT4遺伝子の近位(PE)エンハンサー領域、またはOCT4遺伝子の遠位(DE)エンハンサー領域のうちの少なくとも1つである、第30項に記載のDNAターゲティング系。
【0167】
第32項.gRNAが、配列番号23~73、188~223、または224~254のうちの少なくとも1つを含む、第13~31項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系。
【0168】
第33項.第1~12項のいずれか一項に記載の融合タンパク質または第13~32項のいずれか一項に記載のDNAターゲティング系をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0169】
第34項.第33項に記載の単離されたポリヌクレオチドを含むベクター。
【0170】
第35項.第33項に記載の単離されたポリヌクレオチドまたは第34項のベクターを含む細胞。
【0171】
第36項.第1~12項のいずれか一項に記載の融合タンパク質、第13~32項に記載のDNAターゲティング系、第33項に記載の単離されたポリヌクレオチド、第34項に記載のベクター、または第35項に記載の細胞を含むキット。
【0172】
第37項.細胞における標的遺伝子の遺伝子発現を活性化する方法であって、細胞を、第1~12項のいずれか一項に記載の融合タンパク質、第13~32項に記載のDNAターゲティング系、第33項に記載の単離されたポリヌクレオチド、または第34項に記載のベクターと接触させることを含む方法。
【0173】
第38項.細胞における標的遺伝子の遺伝子発現を活性化する方法であって、細胞を、DNAターゲティング系をコードするポリヌクレオチドと接触させることを含み、ここで、DNAターゲティング系は、第1~12項のいずれか一項に記載の融合タンパク質と、少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)とを含む、方法。
【0174】
第39項.少なくとも1つのgRNAが、プロトスペーサー隣接モチーフが後続する標的DNA配列の12~22塩基対の相補的ポリヌクレオチド配列を含む、第38項の方法。
【0175】
第40項.少なくとも1つのgRNAが、標的領域を標的にし、標的領域が、標的遺伝子のシス調節領域またはトランス調節領域である、第38または39項に記載の方法。
【0176】
第41項.標的領域が、標的遺伝子の遠位または近位のシス調節領域である、第40項に記載の方法。
【0177】
第42項.標的領域が、標的遺伝子のエンハンサー領域またはプロモーター領域である、第40または41項に記載の方法。
【0178】
第43項.標的遺伝子が、内在性遺伝子または導入遺伝子である、第40~42項に記載の方法。
【0179】
第44項.DNAターゲティング系が、1から10個の異なるgRNAを含む、第43項に記載の方法。
【0180】
第45項.DNAターゲティング系が、1個のgRNAを含む、第43項に記載の方法。
【0181】
第46項.標的領域が、標的遺伝子と同じ染色体上に位置する、第40~45項に記載の方法。
【0182】
第47項.標的領域が、標的遺伝子の転写開始点の約1塩基対から約100,000塩基対上流に位置する、第46項に記載の方法。
【0183】
第48項.標的領域が、標的遺伝子の転写開始点の1000塩基対から約50,000塩基対上流に位置する、第46項に記載の方法。
【0184】
第49項.標的領域が、標的遺伝子と異なる染色体上に位置する、第40~45項に記載の方法。
【0185】
第50項.異なるgRNAが、異なる標的領域に結合する、第40~45項に記載の方法。
【0186】
第51項.異なるgRNAが、異なる標的遺伝子の標的領域に結合する、第50項に記載の方法。
【0187】
第52項.2つ以上の標的遺伝子の発現が、活性化される、第51項に記載の方法。
【0188】
第53項.標的遺伝子が、IL1RN、MYOD1、OCT4、HBE、HBG、HBD、HBB、MYOCD、PAX7、FGF1A、FGF1B、およびFGF1Cからなる群から選択される、第40~52項に記載の方法。
【0189】
第54項.標的領域が、ヒトβ-グロビン遺伝子座のHS2エンハンサー、MYOD遺伝子の遠位調節領域(DRR)、MYOD遺伝子のコアエンハンサー(CE)、OCT4遺伝子の近位(PE)エンハンサー領域、またはOCT4遺伝子の遠位(DE)エンハンサー領域のうちの少なくとも1つである、第53項に記載の方法。
【0190】
第55項.gRNAが、配列番号23~73、188~223、または224~254のうちの少なくとも1つを含む、第37~54項に記載の方法。
【0191】
第56項.DNAターゲティング系が、ウイルス的または非ウイルス的に細胞に送達される、第37~55項のいずれか一項に記載の方法。
【0192】
第57項.細胞が、哺乳類細胞である、第37~56項のいずれか一項に記載の方法。
【0193】
付属書類-配列
【0194】
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas 9(D10A、H849Aを伴う)(配列番号1)
【0195】
ヒトp300(L553M変異を伴う)(配列番号2)
【0196】
p300 Coreエフェクター(配列番号2のaa 1048~1664)(配列番号3)
【0197】
p300 Coreエフェクター(D1399Y変異を伴う配列番号2のaa 1048~1664)(配列番号4)
【0198】
p300 Coreエフェクター(1645/1646 RR/EE変異を伴う配列番号2のaa 1048~1664)(配列番号5)
【0199】
p300 Coreエフェクター(C1204R変異を伴う配列番号2のaa 1048~1664)(配列番号6)
【0200】
p300 Coreエフェクター(Y1467F変異を伴う配列番号2のaa 1048~1664)(配列番号7)
【0201】
p300 Coreエフェクター(1396/1397 SY/WW変異を伴う配列番号2のaa 1048-1664)(配列番号8)
【0202】
p300 Coreエフェクター(H1415A、E1423A、Y1424A、L1428S、Y1430A、およびH1434A変異を伴う配列番号2のaa 1048~1664)(配列番号9)
【0203】
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)Cas9(D16A、D587A、H588A、およびN611A変異を伴う)(配列番号10)
【0204】
3X「Flag」エピトープ(配列番号11)
DYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDK
【0205】
核局在化配列(配列番号12)
PKKKRKVG
【0206】
HAエピトープ(配列番号13)
YPYDVPDYAS
【0207】
VP64エフェクター(配列番号14)
DALDDFDLDMLGSDALDDFDLDMLGSDALDDFDLDMLGSDALDDFDLDML
図1A-1C】
図2A-2C】
図3A-3B】
図3C
図4A
図4B-4C】
図4D
図5A-5B】
図5C-5D】
図5E-5G】
図6A-6C】
図6D-6E】
図6F
図6G
図6H-6I】
図7A-7B】
図7C
図8
図9A
図9B-9E】
図10
図11A-11C】
図12A-12B】
図13A-13B】
図14A-14B】
図14C-14D】
図14E
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図15G
図15H
図15I
図15J
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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