(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】粉末床溶融結合装置及びその運搬評価方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20240910BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240910BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240910BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240910BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240910BHJP
【FI】
B29C64/393
B29C64/153
B33Y50/02
B33Y10/00
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2021113668
(22)【出願日】2021-07-08
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】398018962
【氏名又は名称】株式会社アスペクト
(74)【代理人】
【識別番号】100159547
【氏名又は名称】鶴谷 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100154357
【氏名又は名称】山▲崎▼ 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】チャルレス ヘンリ プイ キー フォン
(72)【発明者】
【氏名】大坪 由貴
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-512310(JP,A)
【文献】特開2008-68439(JP,A)
【文献】国際公開第2018/229990(WO,A1)
【文献】特開2008-37024(JP,A)
【文献】特開2018-20518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降可能に配置された第1テーブルを備え、該第1テーブルの上に収納する粉末材料を第1所定温度に加熱する第1収納容器と、
昇降可能に配置された第2テーブルを備え、該第2テーブルの上に収納する前記粉末材料を第2所定温度に加熱する第2収納容器と、
前記第1収納容器と前記第2収納容器との間に設けられて、昇降可能に配置された造形用テーブルの上において前記粉末材料を使用して造形物が作製される作製容器であって、前記第1所定温度と異なりかつ前記第2所定温度と異なる第3所定温度に前記造形用テーブル上の前記粉末材料を加熱し、作製される造形物に応じて前記造形用テーブル上の前記粉末材料にレーザ光出射部よりレーザ光が照射される、作製容器と、
前記第1収納容器の上側と前記第2収納容器の上側とにわたって前記粉末材料を運搬するように移動可能に設けられたリコータと、
前記作製容器に前記粉末材料が運搬されるとき、前記第1テーブル、前記第2テーブル及び前記造形用テーブルの各々の昇降を制御するとともに、前記リコータの移動を制御する運搬制御部と、
前記第2収納容器に収納された前記粉末材料の温度を検出するように設けられた第1温度計測装置と、
前記第1収納容器の前記粉末材料が前記作製容器に運搬されるとき、前記第1温度計測装置により検出された前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度に基づいて前記粉末材料の運搬を評価する評価部と
を備えた、粉末床溶融結合装置。
【請求項2】
前記第1所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度であり、
前記第2所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度である、
請求項1に記載の粉末床溶融結合装置。
【請求項3】
前記第1温度計測装置は、非接触式の温度計測装置である、
請求項1又は2に記載の粉末床溶融結合装置。
【請求項4】
前記評価部による前記第1温度計測装置により検出された前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度と閾値との比較に基づいて、前記作製容器へ前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を変える量算出部を更に備えている、
請求項1から3のいずれか一項に記載の粉末床溶融結合装置。
【請求項5】
前記量算出部は、前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度変化が第1閾値以下であることを前記評価部が示すとき、前記第2収納容器側から前記第1収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときまたは前記第1収納容器側から前記第2収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を第1基準値よりも第1所定量増加させる、
請求項4に記載の粉末床溶融結合装置。
【請求項6】
前記第1収納容器に収納された前記粉末材料の温度を検出するように設けられた第2温度計測装置
を更に備え、
前記評価部は、前記第2収納容器の前記粉末材料が前記作製容器に運搬されるとき、前記第2温度計測装置により検出された前記第1収納容器に収納されている前記粉末材料の温度変化と第2閾値との比較に基づいて前記粉末材料の運搬を評価し、
前記量算出部は、前記第1収納容器に収納されている前記粉末材料の前記温度変化が前記第2閾値以下であることを前記評価部が示すとき、前記第1収納容器側から前記第2収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときまたは前記第2収納容器側から前記第1収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を第2基準値よりも第2所定量増加させる、
請求項4又は5に記載の粉末床溶融結合装置。
【請求項7】
昇降可能に配置された第1テーブルを備え、該第1テーブルの上に収納する粉末材料を第1所定温度に加熱する第1収納容器と、昇降可能に配置された第2テーブルを備え、該第2テーブルの上に収納する前記粉末材料を第2所定温度に加熱する第2収納容器と、前記第1収納容器と前記第2収納容器との間に設けられて、昇降可能に配置された造形用テーブルの上において前記粉末材料を使用して造形物が作製される作製容器であって、前記第1所定温度と異なりかつ前記第2所定温度と異なる第3所定温度に前記粉末材料を加熱し、作製される造形物に応じて前記造形用テーブル上の前記粉末材料にレーザ光出射部よりレーザ光が照射される、作製容器と、前記第1収納容器の上側と前記第2収納容器の上側とにわたって前記粉末材料を運搬するように移動可能に設けられたリコータと、前記作製容器に前記粉末材料が運搬されるとき、前記第1テーブル、前記第2テーブル及び前記造形用テーブルの各々の昇降を制御するとともに、前記リコータの移動を制御する運搬制御部とを備えた粉末床溶融結合装置における、前記粉末材料の運搬評価方法であって、
前記第1収納容器の前記粉末材料が前記作製容器に運搬されるように、前記リコータが前記第1収納容器側から前記第2収納容器側に向けて移動するとき、非接触式の温度計測装置を用いて前記第2収納容器に収納された前記粉末材料の温度を検出することと、
検出された前記温度と閾値との比較に基づいて前記作製容器への前記粉末材料の運搬を評価することと
を含む、運搬評価方法。
【請求項8】
前記第1所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度であり、
前記第2所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度である、
請求項7に記載の運搬評価方法。
【請求項9】
前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度変化が第1閾値以下であると判定されたとき、前記第2収納容器側から前記第1収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときまたは前記第1収納容器側から前記第2収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を基準値よりも所定量増加させることを更に含む、
請求項7又は8に記載の運搬評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉末床溶融結合装置及びその運搬評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状に敷設された粉末材料にビームを照射して積層造形を行うことにより三次元造形物を製造する三次元積層造形技術が知られている。その技術を具現化した装置の一例である粉末床溶融結合装置を特許文献1は開示する。特許文献1のその装置は、粉末材料を収納する2つの収納容器と、それらの間に設けられた作製容器と、粉末材料を作製容器に運搬して供給するようにそれら収納容器の上側を繰り返し移動されるリコータと、作製される造形物に応じて作製容器の粉末材料にレーザ光を照射するレーザ光出射部とを備える。
【0003】
三次元積層造形技術では、粉末材料の層つまり薄層を形成し、その薄層に作製目的の造形物のスライス形状に応じてビーム光を照射することを、複数層にわたって繰り返すことでその造形物を得ることができる。しかし、例えば形成した薄層に凹凸があるとき、そのまま薄層形成とビーム光の照射とを単に繰り返すことでは、造形物は欠陥を有することにもなりかねない。そこで、このような場合には、造形作業中に発生した異常を早期に検知し、リアルタイムに修正作業を実施することが望まれ、その方法の一例が特許文献2に開示されている。
【0004】
特許文献2の方法では、パウダーベッドつまり薄層の形成後、形状測定センサによって薄層上の凹凸が監視される。そして、形状測定センサによって許容範囲外の大きさを有する凹凸が検出された場合、薄層へのビーム光の照射前に、凹凸が小さくなるよう粉末を再敷設することが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-177503号公報
【文献】国際公開第2019/030839号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2の方法は、形成された薄層に欠陥等の異常が生じたことを検知し、その対処を行うものである。そして、このような欠陥等は、薄層の形成のために供給される粉末材料が不足することで生じ得る。
【0007】
一方、近年の粉末床溶融結合装置は、ビーム光の照射による固化領域の収縮などの既知のデータを考慮して粉末材料の層の形成を高精度に行う。しかし、ビーム光の照射による固化領域の収縮が許容範囲内であっても、そのような収縮が複数層にわたって連続して生じ続けることで、層の形成において無視できない程度の粉末材料の必要量の変化をもたらす可能性がある。
【0008】
本開示の目的は、粉末床溶融結合装置において造形物を製造するために粉末材料の層を順次重ねて形成するとき、その層に異常が生じる前に、その異常の前兆を的確に検知することを可能にする構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術の第1態様は、
昇降可能に配置された第1テーブルを備え、該第1テーブルの上に収納する粉末材料を第1所定温度に加熱する第1収納容器と、
昇降可能に配置された第2テーブルを備え、該第2テーブルの上に収納する前記粉末材料を第2所定温度に加熱する第2収納容器と、
前記第1収納容器と前記第2収納容器との間に設けられて、昇降可能に配置された造形用テーブルの上において前記粉末材料を使用して造形物が作製される作製容器であって、前記第1所定温度と異なりかつ前記第2所定温度と異なる第3所定温度に前記造形用テーブル上の前記粉末材料を加熱し、作製される造形物に応じて前記造形用テーブル上の前記粉末材料にレーザ光出射部よりレーザ光が照射される、作製容器と、
前記第1収納容器の上側と前記第2収納容器の上側とにわたって前記粉末材料を運搬するように移動可能に設けられたリコータと、
前記作製容器に前記粉末材料が運搬されるとき、前記第1テーブル、前記第2テーブル及び前記造形用テーブルの各々の昇降を制御するとともに、前記リコータの移動を制御する運搬制御部と、
前記第2収納容器に収納された前記粉末材料の温度を検出するように設けられた第1温度計測装置と、
前記第1収納容器の前記粉末材料が前記作製容器に運搬されるとき、前記第1温度計測装置により検出された前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度に基づいて前記粉末材料の運搬を評価する評価部と
を備えた、粉末床溶融結合装置
を提供する。
【0010】
好ましくは、前記第1所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度であり、前記第2所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度である。前記第1温度計測装置は、非接触式の温度計測装置であるとよい。
【0011】
好ましくは、前記粉末床溶融結合装置は、前記評価部による前記第1温度計測装置により検出された前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度と閾値との比較に基づいて、前記作製容器へ前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を変える量算出部を更に備えている。
【0012】
好ましくは、前記量算出部は、前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度変化が第1閾値以下であることを前記評価部が示すとき、前記第2収納容器側から前記第1収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときまたは前記第1収納容器側から前記第2収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を第1基準値よりも第1所定量増加させる。
【0013】
好ましくは、前述の粉末床溶融結合装置は、前記第1収納容器に収納された前記粉末材料の温度を検出するように設けられた第2温度計測装置を更に備える。この場合、前記評価部は、前記第2収納容器の前記粉末材料が前記作製容器に運搬されるとき、前記第2温度計測装置により検出された前記第1収納容器に収納されている前記粉末材料の温度変化と第2閾値との比較に基づいて前記粉末材料の運搬を評価するとよい。そして、更に、前記量算出部は、前記第1収納容器に収納されている前記粉末材料の前記温度変化が前記第2閾値以下であることを前記評価部が示すとき、前記第1収納容器側から前記第2収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときまたは前記第2収納容器側から前記第1収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を第2基準値よりも第2所定量増加させるとよい。第2基準値は前述の第1基準値と同じでも異なってもよい。また、第2所定量は前述の第1所定量と同じでも異なってもよい。
【0014】
開示の技術の第2態様は、
昇降可能に配置された第1テーブルを備え、該第1テーブルの上に収納する粉末材料を第1所定温度に加熱する第1収納容器と、昇降可能に配置された第2テーブルを備え、該第2テーブルの上に収納する前記粉末材料を第2所定温度に加熱する第2収納容器と、前記第1収納容器と前記第2収納容器との間に設けられて、昇降可能に配置された造形用テーブルの上において前記粉末材料を使用して造形物が作製される作製容器であって、前記第1所定温度と異なりかつ前記第2所定温度と異なる第3所定温度に前記粉末材料を加熱し、作製される造形物に応じて前記造形用テーブル上の前記粉末材料にレーザ光出射部よりレーザ光が照射される、作製容器と、前記第1収納容器の上側と前記第2収納容器の上側とにわたって前記粉末材料を運搬するように移動可能に設けられたリコータと、前記作製容器に前記粉末材料が運搬されるとき、前記第1テーブル、前記第2テーブル及び前記造形用テーブルの各々の昇降を制御するとともに、前記リコータの移動を制御する運搬制御部とを備えた粉末床溶融結合装置における、前記粉末材料の運搬評価方法であって、
前記第1収納容器の前記粉末材料が前記作製容器に運搬されるように、前記リコータが前記第1収納容器側から前記第2収納容器側に向けて移動するとき、非接触式の温度計測装置を用いて前記第2収納容器に収納された前記粉末材料の温度を検出することと、
検出された前記温度と閾値との比較に基づいて前記作製容器への前記粉末材料の運搬を評価することと
を含む、運搬評価方法
を提供する。
【0015】
好ましくは、前述の運搬評価方法において、前記第1所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度であり、前記第2所定温度は前記第3所定温度よりも低い温度である。
【0016】
好ましくは、前述の運搬評価方法は、前記第2収納容器に収納されている前記粉末材料の温度変化が前記閾値以下であると判定されたとき、前記第2収納容器側から前記第1収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときまたは前記第1収納容器側から前記第2収納容器側へ前記リコータを動かして前記作製容器に前記粉末材料を運搬するときの前記粉末材料の運搬量を基準値よりも所定量増加させることを更に含む。
【発明の効果】
【0017】
上記第1態様及び第2態様によれば、粉末床溶融結合装置において造形物を製造するために粉末材料の層を順次重ねて形成するとき、その層に異常が生じる前に、その異常の前兆を的確に検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る粉末床溶融結合装置の構成の一例を説明する図である。
【
図2】
図2は、
図1の粉末床溶融結合装置の粉末材料の搬送及び供給の主要構成の斜視図である。
【
図3】
図3は、粉末床溶融結合装置の筐体以外の構成を示す上面図である。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図であり、一部を省略した図である。
【
図5】
図5は、レーザ光出射部の構成を説明するブロック図である。
【
図6】
図6は、
図1の粉末床溶融結合装置の制御部の機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、作製する造形物を4つの層に分割した場合における、造形物の下から第1層目(最下層)のスライスデータの構成の一例を説明する図である。
【
図8】
図8は、作製する造形物を4つの層に分割した場合における、造形物の下から第2層目(中間層)のスライスデータの構成の一例を説明する図である。
【
図9】
図9は、作製する造形物を4つの層に分割した場合における、造形物の下から第3層目(中間層)のスライスデータの構成の一例を説明する図である。
【
図10】
図10は、作製する造形物を4つの層に分割した場合における、造形物の下から第4層目(最上層)のスライスデータの構成の一例を説明する図である。
【
図11A】
図11Aは、レーザ光の走査方法の一例としてのジグザグ走査の方法を説明するための図である。
【
図11B】
図11Bは、レーザ光の走査方法の一例としてのジグザグ走査の方法を説明するための図である。
【
図12】
図12は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図13】
図13は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図14】
図14は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図15】
図15は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図16】
図16は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図17】
図17は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図18】
図18は、
図4に相当する図であり、粉末材料の薄層の形成途中の断面図である。
【
図28】
図28は、3次元造形物の作成工程を示すフローチャートである。
【
図29】
図29は、粉末材料の作製容器への運搬の一例を説明するための図である。
【
図30】
図30は、粉末材料の作製容器への運搬の別の一例を説明するための図である。
【
図31】
図31は、本実施形態の特徴的な工程を有する3次元造形物の作成工程を示すフローチャートである。
【
図32】
図32は、
図31のフローチャートにおける運搬評価についてのフローチャートである。
【
図33】
図33は、粉末材料の運搬量の増量のバリエーションを示す図である。
【
図34】
図34は、変形例の粉末床溶融結合装置における、運搬評価についてのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示に係る実施形態を添付図に基づいて説明する。同一の部品(又は構成)には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
本開示の一実施形態に係る粉末床溶融結合装置1を以下説明する。
【0021】
図1は、粉末床溶融結合装置1の概略構成を示す図である。また、
図2は、粉末床溶融結合装置1の粉末材料の供給の主要構成の斜視図である。更に、
図3は、粉末床溶融結合装置の筐体以外の構成を示す上面図であり、
図4は、
図3のIV-IV線に沿った断面図であり、両端の一部の構成を省略して示す図である。
【0022】
図1に示すように、粉末床溶融結合装置1は、その筐体2内に、粉末材料を収納する2つの収納容器3、4と、収納容器3、4の粉末材料を使用して造形物44が作製される作製容器5とが収容される。作製容器5は、収納容器3と収納容器4とに挟まれるように、それら収納容器3、4の間に位置付けられている。なお、収納容器3、4は第1及び第2収納容器にそれぞれ相当するが、これらの組み合わせは逆であってもよい。
【0023】
使用される粉末材料の種類は特に限定されない。例えば、粉末材料として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ナイロン6、ナイロン11、及びナイロン12(ナイロンは登録商標)等のポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、及びエラストマ(EL)などの熱可塑性の樹脂粉末を使用し得る。
【0024】
図3に示すように、これらの容器3~5のうち、収納容器3、4は、例えば、鋼板を曲げ及び溶接等の加工を行うことによって形成され、上から見たときに矩形状に開口した筒状の容器である。
【0025】
収納容器3、4の内側には、それぞれ供給用テーブル6、7が配置されている。その供給用テーブル6、7の上に外部から粉末材料8が供給される。また、供給用テーブル6、7の下面には、図示しないドライバに接続された支持棒9、10が取り付けられている。これらのドライバによって支持棒9、10を駆動することにより、支持棒9、10を介して供給用テーブル6、7が収納容器3、4の内側を昇降する。
【0026】
作製容器5は、例えば、鋼板を曲げ及び溶接等の加工を行うことによって形成され、上から見たときに矩形状に、ここでは正方形状に開口した筒状の容器である。
【0027】
作製容器5の内側には、造形用テーブル11が配置されている。その造形用テーブル11の上に収納容器3、4の粉末材料8が供給される。また、造形用テーブル11の下面には、図示しないドライバに接続された支持棒12が取り付けられている。このドライバによって支持棒12を駆動することにより、支持棒12を介して造形用テーブル11が作製容器5の内側を昇降する。
【0028】
更に、
図1に示すように、粉末床溶融結合装置1は、その筐体2内に、貯留容器3E、4Eが収容される。貯留容器3E、4Eは、過剰に送られてくる余剰の粉末材料8を収納するために設けられる。貯留容器3E、4EはそれぞれEPC(Excess Powder Cartridge)と称され得るものである。貯留容器3Eは収納容器3の隣に、特にその外側に設けられ、貯留容器4Eは収納容器4の隣に、特にその外側に設けられている。貯留容器3E、4Eは、容器3~5を挟むようにそれらの両脇に位置付けられている。
【0029】
貯留容器3E、4Eは、例えば、鋼板を曲げ及び溶接等の加工を行うことによって形成され、上から見たときに矩形状に開口した容器である。
【0030】
収納容器3、4、作製容器5及び貯留容器3E、4Eの上には、運搬板13が設置されている。その運搬板13の上にはリコータ14が設けられている。
【0031】
運搬板13は、上面13a及び下面13bが平坦な鋼板であり、容器3~5の貫通孔13c~13e及び貯留容器3E、4Eの貫通孔13f、13gが設けられている。なお、
図4では、貯留容器3E、4E及び貫通孔13f、13gは省略する。
【0032】
これらの貫通孔13c~13gはそれぞれ対応する容器3~5、3E、4Eの上側の開口又は形状に対応する形状及び大きさとなっている。このため、例えば、貫通孔13c、貫通孔13d、及び貫通孔13eが、それぞれ収納容器3の上側の開口、作製容器5の上側の開口、及び収納容器4の上側の開口に連通するようになる。
【0033】
また、リコータ14は、
図2に示すようにローラを備えて構成され、図示しないドライバに接続されている。このドライバによってリコータ14を駆動することにより、リコータ14は運搬板13の上面13a上を、つまり収納容器3の上側と収納容器4の上側とにわたって、左方向又は右方向に移動することができる。このリコータ14の移動範囲は、
図1~
図3に示すように、貯留容器3E、収納容器3、作製容器5、収納容器4及び貯留容器4Eの全ての開口部をカバーする。なお、リコータ14は、他の構成、例えば細長い金属板のような板状部材などであってもよい。
【0034】
粉末床溶融結合装置1では、作製容器5に粉末材料8の層つまり薄層を形成するとき、供給用テーブル6、7及び造形用テーブル11をそれぞれ昇降させると共に、リコータ14を左右に移動させる。これにより、収納容器3又は収納容器4の粉末材料8が運搬板13の上面13a及び貫通孔13c~13eを介して作製容器5に運搬される。このようにして、収納容器3、4の粉末材料8を作製容器5に供給する。なお、容器3~5に収納しきれなかった粉末材料8は、リコータ14の移動により、貯留容器3E又は貯留容器4Eに至り、そこに入り、貯留される。
【0035】
このため、主に収納容器3、4、供給用テーブル6、7、運搬板13、及びリコータ14によって粉末材料8の供給部(樹脂材料供給部)が構成されていると言える。
【0036】
図1に示すように、運搬板13の上方の筐体2内の空間には、上部加熱部15~17及び反射板18、19が設けられている。
【0037】
図3及び
図4に示すように、上部加熱部15~17のうち、上部加熱部15は、収納容器3の上方に配置され、2本の棒状のヒータ20、21を備えている。また、上部加熱部16は、収納容器4の上方に配置され、2本の棒状のヒータ22、23を備えている。
【0038】
これらのヒータ20~23は、赤外線ヒータ又は抵抗加熱型ヒータであり、上から見たときに収納容器3、4の長手側の側部の内側においてこれらの側部の各々と平行に配置されている。ヒータ20~23により、収納容器3、4の供給用テーブル6、7上の粉末材料8は上から加熱される。
【0039】
一方、上部加熱部17は、作製容器5の上方に配置され、4本の棒状のヒータ24~27を備えている。
【0040】
これらのヒータ24~27は、赤外線ヒータ又は抵抗加熱型ヒータであり、上から見たときに作製容器5の全ての側部の内側においてこれらの側部の各々と平行に設置されている。これにより、作製容器5の造形用テーブル11上の粉末材料8は上から加熱される。
【0041】
また、反射板18、19は、図示しない筐体2内の支柱に取り付けられ、運搬板13の上面13aに対して垂直な方向に立てられた金属板であり、収納容器3と作製容器5との間、及び作製容器5と収納容器4との間に配置されている。
【0042】
また、
図3及び
図4では左側の反射板18は、作製容器5側の表面(右側の表面)が鏡面仕上げされ、右側の反射板19は、作製容器5側の表面(左側の表面)が鏡面仕上げされている。
【0043】
これにより、反射板18、19はヒータ24~27の熱(赤外線)を反射して、作製容器5の粉末材料8をより効果的に加熱することができる。このため、上部加熱部17は、少ない消費電力で作製容器5の粉末材料8を所定の温度まで昇温させると共に、その温度を維持することができる。
【0044】
また、反射板18、19は、前述の筐体2内の支柱に固定された上部18a、19aと、蝶番18b、19bを介して上部18a、19aに接続され、左右にスイング可能となっている下部18c、19cとを備える。このような反射板18、19の構造により、リコータ14は下部18c、19cを介して反射板18、19を通過可能となっている。
【0045】
なお、図示していないものの、粉末床溶融結合装置1には、上部加熱部15~17とは別の加熱部も設けられている。
【0046】
例えば、作製容器5の側部には、横から作製容器5の粉末材料8を加熱する側部加熱部が設けられている。更に、造形用テーブル11と支持棒12との間には、下から作製容器5の粉末材料8を加熱する下部加熱部が設けられている。また、運搬板13の下面13bには、運搬板13に接する粉末材料8を加熱する運搬板加熱部が設けられている。これらの加熱部は、いずれも温度センサ付きの板状の抵抗加熱型ヒータを備えている。
【0047】
以上の収納容器3、4、作製容器5、貯留容器3E、4E、運搬板13、リコータ14、上部加熱部15~17、及び反射板18、19等が筐体2内に配置されている。
【0048】
一方、
図1に示すように、筐体2の上部には、4つのガラスの窓2a、2b、2c、2dが嵌め込まれている。これらの窓2a~2dのうち、窓2aの上方には温度検出部28aが設けられていて、窓2cの上方には温度検出部28bが設けられていて、窓2dの上方には温度検出部28cが設けられている。
【0049】
温度検出部28a、28b、28cはそれぞれ、赤外線によって温度を検出する機器であり、具体的にはここでは赤外線センサ(IRセンサ)である。つまり、温度検出部28a、28b、28cはそれぞれ非接触式の温度検出装置である。温度検出部28aは上から見たときに作製容器5の側部の内側に配置されていて、温度検出部28bは上から見たときに収納容器3の側部の内側にここでは概ね中央に配置されていて、温度検出部28cは上から見たときに収納容器4の側部の内側にここでは概ね中央に配置されている。これにより、温度検出部28aは、作製容器5の開口と連通する運搬板13の貫通孔13d内の粉末材料8の表面温度を検出することが可能となっていて、温度検出部28bは、収納容器3の開口と連通する運搬板13の貫通孔13c内の粉末材料8の表面温度を検出することが可能となっていて、温度検出部28cは、収納容器4の開口と連通する運搬板13の貫通孔13e内の粉末材料8の表面温度を検出することが可能となっている。
【0050】
なお、温度検出部を更に複数用意して、これらの温度検出部の各々が、上から見たときに作製容器5の側部の内側において互いに異なる位置に配置されていてもよい。これにより、粉末材料8の表面温度をより高精度に検出することができる。これは、収納容器3、4のそれぞれにおいても同様である。
【0051】
なお、残りの窓2bの上方にはレーザ光出射部29が設けられている。
【0052】
レーザ光出射部29は、レーザ光を出射して走査する機器であり、上から見たときに作製容器5の側部の内側に配置されている。そのレーザ光出射部29の構成は以下のようになっている。
【0053】
図5は、レーザ光出射部29の構成を説明するブロック図である。
図5に示すように、レーザ光出射部29は、光源30、ミラー31、レンズ32、及びドライバ33を備えている。これらの部分30~33のうち、光源30は、例えば、波長10.6μmのレーザ光を出射するCO
2レーザ光源である。なお、光源30は、CO
2レーザ光源に限定されず、例えば波長1.07μmのレーザ光を出射するファイバレーザ光源であってもよい。
【0054】
ミラー31は、Xミラー31aとしてのガルバノメータミラーと、Yミラー31bとしてのガルバノメータミラーとを有し、Xミラー31a及びYミラー31bの角度を変えることによって光源30から出射されたレーザ光の角度を変える。
【0055】
レンズ32は、光源30から出射されたレーザ光の動きに従って移動して、レーザ光の焦点距離を変える。
【0056】
そして、ドライバ33は、Xミラー31a及びYミラー31bの角度を変えると共に、レンズ32を移動させる。
【0057】
レーザ光出射部29において、光源30から出射されたレーザ光は、レンズ32、Xミラー31a、及びYミラー31bをこの順序で通過する。このとき、ドライバ33の駆動によってXミラー31a及びYミラー31bの角度を変えることにより、レーザ光がX方向及びY方向に走査されて、貫通孔13d内のつまり作製容器5の粉末材料8の表面の特定の領域に照射されるようになる。更に、ドライバ33の駆動によってレンズ32を移動させることにより、レーザ光の焦点が作製容器5の粉末材料8の表面つまり造形面で合うようになる。
【0058】
また、
図1に示すように、筐体2の外には制御部(制御装置)34が配置されている。制御部34の機能ブロック図を
図6に示す。
【0059】
制御部34は、所謂プロセッサである処理部(例えばCPU(Central Processing Unit))341、及び、記憶部(例えばROM、RAM)342を備えたコンピュータによって構成されている。その記憶部342には、造形物の作製に関する種々の処理を行うためのプログラム及びデータが格納されていて、制御部34は、その処理部341でそのプログラムを実行することで、そのプログラムに基づいて粉末床溶融結合装置1の種々の機器を制御する。
【0060】
制御部34は、制御部としての機能を実質的に担う処理部341が記憶部342に記憶されているプログラムを実行することで、各種機能モジュールを実現する。具体的には、制御部34は、機能モジュールとして、情報取得部3411、運搬制御部3412、レーザ部3413、評価部3414及び温度制御部3415を有する。データ処理部3412a、テーブル制御部3412b及びリコータ制御部3412cは運搬制御部3412に含まれる。照射制御部3413bはレーザ部3413に含まれる。また、判定部3414a及び量算出部3414bは評価部3414に含まれる。これらの機能部は相互に連携するものであり、
図6に示す関係に限定されず、種々の相関関係及び組み合わせが可能である。例えば、データ処理部3412aは運搬制御部3412と並列に配置されてもよく、また量算出部3414bは評価部3414と並列に配置されてもよい。また、テーブル制御部3412b及びリコータ制御部3412cは別々に設けられて連携してもよく、テーブル制御部3412b及びリコータ制御部3412cが連携することで運搬制御部3412が実質的に構成されてもよい。なお、機能モジュールの一部は、他のプロセッサ、ディジタル回路、またはアナログ回路等のハードウェアであってもよい。
【0061】
情報取得部3411は、各種センサからの出力情報を取得する。例えば情報取得部3411はリコータ14の位置情報を取得する。リコータ14の位置情報はここではリコータ14の支持部に設けられている位置センサPSから入力されるが、位置センサPSは他の箇所に設けられてもよく、他の制御値などに基づいて推定されてもよい。また情報取得部3411は温度検出部28a、28b、28cからの温度情報を取得する。さらに、情報取得部3411は、粉末床溶融結合装置1の操作者等が図示しない入力装置を介して入力した作製する造形物のデータ(造形物データ)342aを取得して、それを記憶部342に記憶させる。
【0062】
運搬制御部3412は、作製容器5への粉末材料8の運搬を行うように各種装置又は部材の作動を、具体的にはテーブル6、7、11の各々の昇降を制御し、リコータ14の移動を制御する。データ処理部3413aは造形物データ342aを処理してスライスデータを用意して記憶部342に記憶したり、造形物データ342aのスライスデータを読み込んだりする。造形物データ342a及びスライスデータに基づいて造形物44を作製するために、テーブル制御部3412bは上記ドライバに制御信号を出力し、それによりテーブル6、7、11の各々の昇降を制御し、リコータ制御部3412cは上記ドライバに制御信号を出力し、それによりリコータ14の移動を制御する。
【0063】
レーザ部3413はレーザ光出射部29の作動を制御する。照射制御部3413aは、スライスデータに基づいて、運搬制御部3412が作製容器5に運搬した粉末材料8の層つまり造形面にレーザ光出射部29からのレーザ光の照射を制御する。
【0064】
評価部3414は作製容器5への粉末材料の運搬を評価する。判定部3414aは温度検出部28b、28cから取得した温度情報つまり温度に基づいて作製容器5へ粉末材料8を運搬するための粉末材料の供給が十分であるか否かを判定する。また、量算出部3414bは判定部3414aの判定結果に基づいて、以後の、ここでは次の作製容器5への粉末材料8の供給量つまり運搬量を算出する。ここでは、粉末材料8の運搬量に相関関係があるテーブル6、7の移動量が算出される。このためのデータは、記憶部342の制御量データ342bに含まれ、ここでは予め記憶されている。
【0065】
温度制御部3415は、情報取得部3411で取得した温度情報に基づいて各加熱部15~17の各種ヒータの作動を制御する。
【0066】
上記構成を有する制御部34によれば、以下のような制御が実行される。
【0067】
例えば、制御部34は、支持棒9、10、12のドライバに制御信号を出力して、収納容器3、4の供給用テーブル6、7及び作製容器5の造形用テーブル11を昇降させる。更に、制御部34は、リコータ14のドライバに制御信号を出力して、リコータ14を運搬板13の上面13a上を左右に移動させる。
【0068】
また、制御部34は、造形物の作製で使用する粉末材料8の種類と、温度検出部28a、28b、28c及びその他の温度検出部から出力された運搬板13の貫通孔13c、13d、13e内の粉末材料8の温度情報とに基づいて、上部加熱部15~17のヒータ20~27に制御信号を出力して、貫通孔13c、13d、13e内の粉末材料8の温度、特に貫通孔13c内の造形面となる表面の温度をそれぞれ調整する。
【0069】
更に、制御部34は、その他の加熱部については、ヒータの温度センサから出力された温度のデータに基づいて、そのヒータに制御信号を出力して、作製容器5内の粉末材料8の温度、及び運搬板13上の粉末材料8の温度を調整する。
【0070】
更にまた、制御部34は、前述した粉末材料8の種類と、作製する3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)とに基づいて、レーザ光出射部29に制御信号を出力して、貫通孔13d内の粉末材料8の表面の薄層のうちのレーザ光を照射する領域、及びレーザ光のエネルギー密度を調整する。
【0071】
ここで、造形物のスライスデータについて説明する。
【0072】
スライスデータは、作製する3次元造形物を高さ方向(Z方向)に所定の間隔(例えば、0.1mm)でスライスして複数の層に分割したときの、各層の平面方向(X方向及びY方向)の位置等を含むデータである。
【0073】
図7~
図10は、作製する造形物を4つの層に分割した場合における各層のスライスデータの構成の一例を説明する図である。
図7~
図10のうち、
図7のスライスデータは造形物の下から第1層目(最下層)のスライスデータであり、
図8のそれは第2層目(中間層)のスライスデータであり、
図9のそれは第3層目(中間層)のスライスデータであり、
図10のそれは第4層目(最上層)のスライスデータである。
【0074】
例えば、
図7に示すように、第1層目のスライスデータSD
1は、造形物の第1層目となる造形領域ma
1のデータを含んでいる。その造形領域ma
1を含めてスライスデータSD
1内の点の位置はX方向及びY方向の座標で表される。なお、スライスデータSD
1の外周は運搬板13の貫通孔13d(又は、作製容器5の開口)の外周に対応している。
【0075】
残りの第2層目~第4層目のスライスデータSD2~SD4についても、第1層目のスライスデータSD1と同様の構成となっている。つまり、スライスデータSD2~SD4は、造形物の造形領域ma2~ma4のデータをそれぞれ含んでいる。
【0076】
また、レーザ光の走査方法について説明する。
図11A及び
図11Bは、レーザ光の走査方法の一例としてのジグザグ走査方法を説明する図である。
【0077】
ジグザグ走査方法では、まず、
図11Aに示すように、スライスデータSDの造形領域maの外周線olよりも若干内側の部分に対して、レーザ光の移動距離及び移動方向を示す走査線sc
1~sc
9をジグザグ状に配置する。具体的には、X方向に伸びる奇数本目の走査線sc
1、sc
3、sc
5、sc
7、sc
9を間隔をおいて平行に配置し、更にX方向に対して鋭角の角度の方向に伸びる偶数本目の走査線sc
2、sc
4、sc
6、sc
8を間隔を置いて平行に配置する。そして、走査線sc
1~sc
9の端点同士を接続する。
【0078】
更に、
図11Bに示すように、スライスデータSDの造形領域maの外周線ol上に走査線sc
10~sc
13を配置する。そして、走査線sc
10~sc
13の端点同士を接続する。
【0079】
制御部34は、前述したスライスデータSD1~SD4及びジグザグ走査方法に基づいて、レーザ光出射部29を制御して、スライスデータSD1~SD4の造形領域ma1~ma4に対応する運搬板13の貫通孔13d内の粉末材料8の薄層の領域(造形領域)に、レーザ光を出射させ走査させる。このようにして、粉末材料8の薄層の造形領域にレーザ光を照射する。
【0080】
レーザ光の走査方法はジグザグ走査方法に限定されない。
【0081】
例えば、レーザ光の走査方法として、スライスデータSDの造形領域maに対して、同じ方向(例えば、X方向やY方向)に伸びる走査線scを間隔をおいて平行に配置するラスター走査方法や、走査線scを外周線olに沿って間隔をおいて渦巻き状に配置する走査方法を使用してもよい。
【0082】
また、レーザ光のエネルギー密度について説明する。そのエネルギー密度は以下の式(1)で表される。
【0083】
E=P/(V・SS・e) (1)
式(1)において、Eはレーザ光のエネルギー密度(J/m3)であり、Pはレーザ光の出力(W)であり、Vはレーザ光の走査速度(m/s)であり、SSはレーザ光の走査間隔(m)であり、eは粉末材料8の薄層の厚さ(m)である。
【0084】
式(1)から分かるように、例えば、粉末材料8の薄層の厚さeが同じである場合には、出力Pを大きくする、走査速度Vを遅くする、又は走査間隔SSを狭くすることにより、粉末材料8の薄層の造形領域にレーザ光を照射するときに、その造形領域が受けるレーザ光のエネルギー密度Eを高くすることができる。
【0085】
エネルギー密度Eのパラメータのうち、粉末材料8の薄層の厚さe以外のレーザ光の出力P、走査速度V、及び走査間隔SSは、レーザ光出射部29を制御することによって変更可能なパラメータである。
【0086】
制御部34は、レーザ光出射部29を制御して、レーザ光の出力P、走査速度V、及び走査間隔SSのいずれかを変えることにより、粉末材料8の薄層の造形領域が受けるレーザ光のエネルギー密度Eを調整する。
【0087】
粉末床溶融結合装置1は以上のように構成されている。
【0088】
次に、粉末床溶融結合装置1を使用した造形物の作製方法を説明する。
【0089】
ここでは、説明を簡単にするために、粉末床溶融結合装置1の筐体2内に作製容器5、及び粉末材料8が供給された収納容器3、4が収容された後に、粉末床溶融結合装置1が
図4に示す状態となっているものとする。
【0090】
すなわち、収納容器3、4の粉末材料8の上面が運搬板13の上面13aと同じ高さになっている。また、作製容器5の造形用テーブル11の上面が運搬板13の上面13aと同じ高さになっている。そして、リコータ14が運搬板13の上面13aのうちの収納容器3の左側に配置されている。
【0091】
粉末床溶融結合装置1がこのような状態となっているときに、まず、制御部34は、装置1の外部から入力された造形物44の3次元データ及び粉末材料8の種類に基づいて造形物のスライスデータSDを作成し、記憶部342に記憶する。具体的には、データ処理部3412aによって行われる。
【0092】
次に、制御部34は、収納容器3の支持棒9のドライバ、収納容器4の支持棒10のドライバ、作製容器5の支持棒12のドライバ、及びリコータ14のドライバを制御して、作製容器5の造形用テーブル11の上に粉末材料8のバッファ層つまり薄層を形成する。ただし、薄層とは、相対的に薄い層であり、当明細書の記載から明らかなように所定厚さを有する粉末材料の層を意図するものである。なお、この処理は、テーブル制御部3412b及びリコータ制御部3412cによって行われる。
【0093】
粉末床溶融結合装置1では、作製容器5で作製される造形物が造形用テーブル11の上面に固着しないようにするために、造形物の作製を開始する前に、造形用テーブル11の上に粉末材料8の薄層を形成しておく。
【0094】
その薄層の形成方法について説明する。
図12~
図18は、薄層の形成途中の断面図である。
【0095】
まず、
図12に示すように、制御部34は、左側の収納容器3の支持棒9のドライバを制御して、供給用テーブル6を上昇させる。これにより、収納容器3の粉末材料8を貫通孔13cを介して運搬板13の上面13aよりも上に突出させる。
【0096】
更に、制御部34は、作製容器5の支持棒12のドライバを制御して、造形用テーブル11を粉末材料8の薄層の一層分の厚さ、例えば0.1mmだけ下降させると共に、右側の収納容器4の支持棒10のドライバを制御して、供給用テーブル7を下降させる。
【0097】
続いて、
図13に示すように、制御部34は、リコータ14のドライバを制御して、リコータ14を運搬板13の上面13a上を右方向に移動させる。これにより、リコータ14に上面13aから突出した収納容器3の粉末材料8を掻き取らせ、上面13a及び貫通孔13dを介して作製容器5に運搬させる。
【0098】
このようにして、収納容器3の粉末材料8を作製容器5に供給して、造形用テーブル11の上に第1層目の粉末材料8の薄層35を形成する。
【0099】
更に、
図14に示すように、制御部34は、リコータ14を右方向に移動させる。これにより、リコータ14に、薄層35の形成に使用されずに残った粉末材料8を上面13a及び貫通孔13eを介して収納容器4に運搬させる。
【0100】
このようにして、残った粉末材料8を収納容器4に収納する。
【0101】
そして、制御部34は、リコータ14を収納容器4の右側の位置で停止させる。なお、
図14などには示さないが、このとき、収納容器4に収容しきれなかった余剰の粉末材料8があるときは、その余剰の粉末材料8は貯留容器4Eに入り、そこに貯留される。
【0102】
次に、
図15に示すように、制御部34は、収納容器4の供給用テーブル7を上昇させる。これにより、収納容器4の粉末材料8を貫通孔13eを介して運搬板13の上面13aよりも上に突出させる。
【0103】
更に、制御部34は、作製容器5の造形用テーブル11を前述した粉末材料8の薄層の一層分の厚さだけ下降させると共に、収納容器3の供給用テーブル6を下降させる。
【0104】
続いて、
図16に示すように、制御部34は、リコータ14を運搬板13の上面13a上を左方向に移動させる。これにより、リコータ14に上面13aから突出した収納容器4の粉末材料8を掻き取らせ、上面13a及び貫通孔13dを介して作製容器5に運搬させる。
【0105】
このようにして、収納容器4の粉末材料8を作製容器5に供給して、造形用テーブル11の上に第2層目の粉末材料8の薄層36を形成する。
【0106】
更に、
図17に示すように、制御部34は、リコータ14を左方向に移動させる。これにより、リコータ14は、薄層36の形成に使用されずに残った粉末材料8を上面13a及び貫通孔13cを介して収納容器3に運搬する。
【0107】
このようにして、残った粉末材料8を収納容器3に収納する。
【0108】
そして、制御部34は、リコータ14を収納容器3の左側で停止させる。なお、
図17などには示さないが、このとき収納容器3に収容しきれなかった余剰の粉末材料8があるときは、その余剰の粉末材料8は貯留容器3Eに入り、そこに貯留される。
【0109】
その後、作製容器5において、第1層目の薄層35の形成と同じようにして、第2層目の薄層36の上に第3層目の粉末材料8の薄層37を形成し、更に第2層目の薄層36の形成と同じようにして、第3層目の薄層37の上に第4層目の粉末材料8の薄層38を形成する。
【0110】
このような粉末材料8の薄層の形成を所定回繰り返すことにより、
図18に示すように、作製容器5の造形用テーブル11の上に粉末材料8の薄層35~38を積層していき、所定の厚さ(例えば、10mmの厚さ)のバッファ層39を形成する。
【0111】
なお、
図18では、便宜上、4層の粉末材料8の薄層35~38をバッファ層39として示しているが、実際の粉末材料8の薄層の層数は層39の厚さに応じた層数となる。
【0112】
次に、制御部34は、上部加熱部15~17のヒータ20~27を制御して、収納容器3、4の粉末材料8と作製容器5の粉末材料8とを予備加熱する。
【0113】
粉末床溶融結合装置1では、後述するように粉末材料8の薄層の造形領域にレーザ光を照射することにより、粉末材料8を溶融結合し、固化して、固化層を形成する。このとき、粉末材料8の薄層つまり造形面のうちのレーザ光が照射される造形領域とその周辺の領域との温度差が大きいと、レーザ光を照射した後に固化層に過度な収縮が生じて、固化層に反りが生じることがある。
【0114】
このような固化層の反りを抑制するために、造形物の作製を開始する前に、収納容器3、4の粉末材料8と作製容器5の粉末材料8とを予備加熱しておく。その予備加熱の方法を説明する。
【0115】
まず、制御部34は、薄層39の形成開始と同時に、上部加熱部15~17のヒータ20~27と、その他の加熱部(側部加熱部、下部加熱部、及び運搬板加熱部)のヒータとをオンにする。
【0116】
次に、制御部34は、粉末材料8の種類と、温度検出部28a、28b、28c及びその他の温度検出部から出力された運搬板13の貫通孔13c、13d、13e内の粉末材料8の温度情報、例えば表面の温度のデータとに基づいて、ヒータ20~27の発熱量を調整する。更に、制御部34は、その他の加熱部については、ヒータの温度センサから出力された温度のデータに基づいて、ヒータの発熱量を調整する。
【0117】
これらにより、運搬板13の貫通孔13c、貫通孔13d、及び貫通孔13e内の粉末材料8の表面は所定温度まで上げられ、その温度に維持される。
【0118】
特に、作製容器5の開口に連通する貫通孔13d内の粉末材料8の表面つまり造形面は、造形物の作製を開始するのに適した温度、ここでは、粉末材料8の融点よりも10℃~15℃程度低い温度に維持される。
【0119】
例えば、粉末材料8としてポリプロピレンの粉末を使用する場合には、ポリプロピレンの融点は約130℃であるので、貫通孔13d内の粉末材料8の表面は適温として約115℃~120℃の温度に維持される。
【0120】
一方、収納容器3、4の開口に連通する貫通孔13c、13e内の粉末材料8の表面は、作製容器5の開口に連通する貫通孔13d内の粉末材料8の表面の温度よりも低い所定温度に維持される。このように、収納容器3、4のうちの一方である収納容器3に収納される粉末材料8のうちその表面部分は第1所定温度にまで加熱されて維持され、収納容器3、4のうちの他方である収納容器4に収納される粉末材料8のうちその表面部分は第2所定温度にまで加熱されて維持され、作製容器5に収納される粉末材料8のうちその表面部分は第1所定温度よりも高くかつ第2所定温度よりも高い第3所定温度にまで加熱されて維持される。なお、ここでは、第1所定温度は、第2所定温度と同じ温度であるが、第2所定温度と異なってもよい。
【0121】
つまり、上述のように、粉末材料8は、熱可塑性の樹脂粉末である。そこで、作製容器5の粉末材料8の表面つまり造形面は、その粉末材料8の融点から10℃~15℃低い第3所定温度に加熱される。そして、その作製容器5に供給される粉末材料8が収容される収納容器3、4の粉末材料8は、その第3所定温度よりも20℃~30℃低い第1所定温度又は第2所定温度に加熱される。これら容器3、4、5の粉末材料の各温度を対応する所定温度に安定的に保つことにより、作製容器5の造形面へのレーザ光の照射により溶融した粉末材料が再凝固する際に徐々に冷却され、その結果、歪みのない造形物44を得ようとする。
【0122】
このようにして、粉末材料8に対する予備加熱を行う。そして、このような予備加熱を、薄層39を形成する間だけでなく、後述する薄層39の上で造形物を作製する間も継続して行う。
【0123】
なお、予備加熱を行うために、薄層39の形成開始と同時に粉末床溶融結合装置1の全てのヒータをオンにしているが、薄層39の形成開始よりも前に粉末床溶融結合装置1の全てのヒータをオンにしてもよい。例えば、粉末床溶融結合装置1の筐体2内に収納容器3、4及び作製容器5が収容された直後に、粉末床溶融結合装置1の全てのヒータをオンにしてもよい。
【0124】
なお、例えば、収納容器3に対するその加熱維持される温度(目標温度)と収納容器4に対するその加熱維持される温度(目標温度)は多少差があってもよく、例えば約10℃の差があってもよく、より具体的には1℃~3℃異なってもよい。このような収納容器3に対するその加熱維持される温度と、収納容器4に対するその加熱維持される温度とにおける差は、温度検出部28bと温度検出部28cとの間の個体差、及び/又は、上部加熱部15と上部加熱部16との間の個体差つまり上部加熱部15のヒータと上部加熱部16のヒータとの間の個体差を考慮して、設定されるとよい。このように温度差を設けるとき、後述する温度Tspは、個別に設定された温度(目標温度)であるとよい。
【0125】
続いて、造形物の作製方法について説明する。
図19~
図27は、造形物の作製途中の断面図である。
【0126】
薄層39の形成、及び粉末材料8に対する予備加熱を行った後、
図19に示すように、制御部34は、左側の収納容器3の供給用テーブル6を上昇させる。これにより、収納容器3の粉末材料8を貫通孔13cを介して運搬板13の上面13aよりも上に突出させる。
【0127】
更に、制御部34は、造形用テーブル11を前述した粉末材料8の薄層の一層分の厚さ(0.1mm)だけ下降させると共に、右側の収納容器4の供給用テーブル7を下降させる。
【0128】
続いて、
図20に示すように、制御部34は、リコータ14を運搬板13の上面13a上を右方向に移動させる。これにより、リコータ14に上面13aから突出した収納容器3の粉末材料8を掻き取らせ、上面13a及び貫通孔13dを介して作製容器5に運搬させる。
【0129】
このようにして、薄層39の上に造形物作製用としては第1層目の粉末材料8の薄層40を形成する。
【0130】
更に、
図21に示すように、リコータ14を右方向に移動させることにより、リコータ14に、薄層40の形成に使用されずに残った粉末材料8を上面13a及び貫通孔13eを介して収納容器4に運搬させる。
【0131】
このようにして、残った粉末材料8を収納容器4に収納する。
【0132】
そして、制御部34は、リコータ14を収納容器4の右側で停止させる。これにより、前述のように、収納容器4に入りきらない余剰の粉末材料8があるときには、その余剰の粉末材料8は貯留容器4Eに入れられる。
【0133】
次に、
図22に示すように、制御部34は、第1層目のスライスデータSD
1に基づいてレーザ光出射部29を制御して、スライスデータSD
1の造形領域ma
1に対応する第1層目の薄層40の領域(造形領域)にレーザ光を出射させ走査させる。
【0134】
このようにして、第1層目の薄層40の造形領域にレーザ光を照射する。これにより、この造形領域の粉末材料8を溶融結合し、固化して、第1層目の固化層40aを形成する。
【0135】
そして、制御部34は、レーザ光の出射及び走査を停止させる。
【0136】
次に、
図23に示すように、制御部34は、右側の収納容器4の供給用テーブル7を上昇させる。これにより、収納容器4の粉末材料8を貫通孔13eを介して運搬板13の上面13aよりも上に突出させる。
【0137】
更に、制御部34は、造形用テーブル11を粉末材料8の薄層の一層分の厚さだけ下降させると共に、左側の収納容器3の供給用テーブル6を下降させる。
【0138】
続いて、
図24に示すように、制御部34は、リコータ14を運搬板13の上面13a上を左方向に移動させる。これにより、リコータ14に上面13aから突出した収納容器4の粉末材料8を掻き取らせ、上面13a及び貫通孔13dを介して作製容器5に運搬させる。
【0139】
このようにして、固化層40aが形成された第1層目の薄層40の上に第2層目の粉末材料8の薄層41を形成する。
【0140】
更に、
図25に示すように、制御部34は、リコータ14を左方向に移動させることにより、リコータ14に、薄層41の形成に使用されずに残った粉末材料8を上面13a及び貫通孔13cを介して収納容器3に運搬させる。
【0141】
このようにして、残った粉末材料8を収納容器3に収納する。
【0142】
そして、制御部34は、リコータ14を収納容器3の左側で停止させる。これにより、前述のように、収納容器3に入りきらない余剰の粉末材料8があるときには、その余剰の粉末材料8は貯留容器3Eに入れられる。
【0143】
次に、
図26に示すように、制御部34は、第2層目のスライスデータSD
2に基づいてレーザ光出射部29を制御して、スライスデータSD
2の造形領域ma
2に対応する第2層目の薄層41の領域(造形領域)にレーザ光を出射させ走査させる。
【0144】
このようにして、第2層目の薄層41の造形領域にレーザ光を照射する。これにより、この造形領域の粉末材料8を溶融結合し、固化して、第2層目の固化層41aを形成する。
【0145】
そして、制御部34は、レーザ光の出射及び走査を停止させる。
【0146】
その後、作製容器5において、第1層目の薄層40及び固化層40aの形成と同じようにして、第2層目の薄層41及び固化層41aの上に第3層目の粉末材料8の薄層42及び固化層42aを形成し、更に第2層目の薄層41及び固化層41aの形成と同じようにして、第3層目の薄層42及び固化層42aの上に第4層目の粉末材料8の薄層43及び固化層43aを形成する。
【0147】
このような粉末材料8の薄層の形成、及びこの薄層での固化層の形成を繰り返すことにより、
図27に示すように、作製容器5において、薄層39の上に固化層40a~43aを積層していき、3次元造形物44を作製する。
【0148】
以上説明した3次元造形物44の作成工程を、
図28のフローチャートに基づいて再度簡単に説明する。
【0149】
ステップS2801では、リコータ14の位置情報が取得される。この位置情報の取得は情報取得部3411により行われる。
【0150】
ステップS2803では、造形物44のデータ、例えばスライスデータが取得される。この取得は、データ処理部3412aにより行われる。
【0151】
ステップS2805では、ステップS2801で取得されたリコータ14の位置情報に基づいて所定位置にあるか否かが判定される。ここでは、
図1~
図4に示すように、収納容器3及び貯留容器3Eよりも外側の左側の位置が所定位置として定められている。
【0152】
ステップS2805でリコータ14が所定位置にあると判定されたとき(ステップS2805で肯定判定)、ステップS2807では、リコータ14の所定位置側の第1収納容器である収納容器3のテーブル6を上昇させて、そこに収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬するようにする。なお、このとき、作製容器5及び収納容器4の各テーブル11、7が上記のように下降される。
【0153】
一方、ステップS2805でリコータ14が所定位置にないと判定されたとき(ステップS2805で否定判定)、ステップS2809では、リコータ14の所定位置と反対側の第2収納容器である収納容器4のテーブル7を上昇させて、そこに収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬するようにする。なお、このとき、作製容器5及び収納容器3の各テーブル11、6が上記のように下降される。なお、ステップS2805~ステップS2809の処理はテーブル制御部3412bにより行われる。
【0154】
そして、ステップS2811では、リコータ14が現在ある作製容器5の一方側の位置から作製容器5の他方側に向けて、移動される。このリコータ14の移動はリコータ制御部3412cにより行われる。
【0155】
そして、ステップS2813では、上記のごとく、造形物44のスライスデータに応じてビーム光の照射が必要なとき、ビーム光の照射の制御が実行される。このビーム光の照射の制御は、レーザ部3413つまり照射制御部3413aにより行われる。
【0156】
そして、ステップS2815では、更なる薄層形成が不要であるか否かが判定される。つまり、造形物44が完成したか否かが判定される。これはデータ処理部3412aにより行われる。
【0157】
更なる薄層形成が必要であるとき(ステップS2815で否定判定)、ステップS2801に戻る。一方、更なる薄層形成が不要であるとき(ステップS2815で肯定判定)、当該処理は終了し、造形物44は取り出される。
【0158】
ここで、収納容器3に収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬する場合について説明する。なお、収納容器4に収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬する場合についても同様であるので、ここでの重複説明を省略する。
【0159】
図29に、収納容器3に収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬する場合における、収納容器4の上部周辺の模式図を示す。
図29における粉末材料の運搬方向は図中に矢印で示す方向である。
【0160】
図29に示す領域IRcは、温度検出部28cによる収納容器4における粉末材料8の表面の温度の測定範囲である。収納容器3に収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬する場合、
図29に示すように、作製容器5を通過した粉末材料8がラインLtに至るように、粉末材料の運搬量は基準値である所定量αに設定されている。所定量αはここでは定数であり、この所定量αを実現するように、収納容器3の供給用テーブル6の上昇量が定められている。ラインLtは領域IRcよりも外側つまり作製容器5とは反対側に延び、容器3~5の中心を通る面CFに直交する。したがって、粉末材料8が許容誤差の範囲内で収納容器4に至るとき、作製容器5を通過した余剰の粉末材料8の縁部8Eは領域IRcを超え、収納容器4内で終端する。
【0161】
このとき、収納容器3、4の粉末材料8は第1所定温度に加熱されていて、作製容器5の粉末材料8は第1所定温度よりも高くかつ第2所定温度よりも高い第3所定温度に加熱されている(第1所定温度<第3所定温度、第2所定温度<第3所定温度)。したがって、粉末材料8は作製容器5の上側を通過することで、第1所定温度及び第2所定温度よりも高い温度にまで加熱される。よって、粉末材料8が許容誤差の範囲内で収納容器4に至って、作製容器5を通過した余剰の粉末材料8の縁部8Eが領域IRcを超えたとき、収納容器4において温度検出部28cにより検出される粉末材料8の温度は上昇し、その温度変化は閾値βを超えるようになる。
【0162】
一方、例えばビーム光の照射によりビーム光が照射された部分の収縮量が予想以上に大きかったときなどには、その収縮部に粉末材料8が多く取り込まれることになる。よって、このようなとき、収納容器3に収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬する場合、
図30に示すように、作製容器5を通過した余剰の粉末材料8の縁部8Eが領域IRcに至らない。このとき、収納容器4において温度検出部28cにより検出される粉末材料8の温度変化は閾値β以下である。仮にこのような状況が連続的に生じると、粉末材料8が作製容器5に十分に供給されない事態が生じる可能性が高まる。
【0163】
そこで、粉末床溶融結合装置1では、前述の収納容器4において温度検出部28cにより検出される粉末材料8の温度変化が閾値β以下であるときのようなときを異常の前兆つまりその異常の可能性が高まったときと評価又は判定し、粉末材料の運搬方向下流側の収納容器の温度に基づいて、特にその温度変化に基づいて、異常の前兆つまりその異常の可能性が高まったときを検知する。そして、検知したとき、次にリコータ14をそれまでとは逆向きに移動させて収納容器4に収容されている粉末材料8を作製容器5に搬送するとき、その供給量つまり運搬量を所定量αから増量する。この判定及び増量を含む3次元造形物44の作成工程を、
図31のフローチャートに基づいて説明する。なお、
図31のフローチャートのステップS3103~S3113、S3117は
図28のステップS2803~S2815のそれぞれと同じであるので、それらの更なる説明は省略する。
【0164】
ステップS3101では、リコータ14の位置情報が取得されるとともに、温度検出部28b、28cで測定した粉末材料8の温度情報つまり温度が取得され、記憶部342に記憶される。
【0165】
そして、造形物44のデータ取得(S3103)、リコータ14の位置判定(S3105)、粉末材料の運搬工程(S3107、S3109、S3111)、及び、ビーム光の照射(S3113)が実行される。そして、ステップS3115で上記のごとき粉末材料8の運搬が評価され、必要に応じて運搬量が増量される。そして、更なる薄層形成が必要ならば(ステップS3117で否定判定)、ステップS3101~S3115が繰り返される。
【0166】
ここで、ステップS3115での粉末材料8の運搬の評価などを
図32のフローチャートに基づいて説明する。
【0167】
収納容器3に収納されている粉末材料8を作製容器5に運搬する場合、リコータ14の移動先の収納容器は収納容器4である。このとき、ステップS3201では、その収納容器4の粉末材料8の温度Ti-1を取得する。この取得される温度Ti-1は、
図31のステップS3101で取得された収納容器4の温度であり、ここでは記憶部342に記憶されているその温度が読み込まれることで取得される。
【0168】
ステップS3203では、ステップS3111でのリコータ14の移動後にステップS3115に至ったときにそのときの収納容器4の温度Tiが検出される。そして、ステップS3201で取得した温度Ti-1とステップS3203で取得した温度Tiに基づいて、以下の式(2)の演算が行われて、温度変化ΔTつまりその値が算出される。ただし、Tspはここでは第2所定温度であり、ここでは第1所定温度と同じである。また、MAX(Tsp,Ti-1)は温度Tspと温度Ti-1とのうちの大きい方の温度である。なお、温度Tspが式(2)で用いられる理由の1つはリコータの移動の前の収納容器4の粉末材料8の温度が第2所定温度よりも低い値として検出された場合の問題を解消するためであり、MAX(Tsp,Ti-1)ははじめから温度Ti-1であってもよい。
ΔT=Ti-MAX(Tsp,Ti-1) (2)
【0169】
そして、ステップS3207では、算出された温度変化ΔTと閾値β(ただし、β>0℃)とが比較される。ここでは、温度変化ΔTが閾値βよりも大きいか否か、換言すると温度変化ΔTが閾値β以下であるか否かが判定される。なお、閾値βと比較される温度変化ΔTはその絶対値とされてもよい。温度変化ΔTが閾値βよりも大きいとき(ステップS3207で肯定判定)、ステップS3209で粉末材料8の運搬量は所定量αのままにされ、次の粉末材料8の搬送方向上流側の収納容器4からの粉末材料8の搬送つまり供給用テーブル7の上昇量は所定量αに基づいて制御される。
【0170】
温度変化ΔTが閾値βよりも大きくない、つまり、温度変化ΔTが閾値β以下であるとき(ステップS3207で否定判定)、ステップS3211で粉末材料8の搬送量は増量される。この増量は、ここでは所定量αに所定増加量γ(ただし、γ>0)を加算することで行われる。そして、この増量により、
図31のフローチャートの次のルーチンにおけるステップS3109での、次の粉末材料8の搬送方向上流側の収納容器4からの粉末材料8の搬送つまり供給用テーブル7の上昇量は運搬量が所定量αと所定増加量γとの和に応じた分になるように制御される。このように、装置1では、異常の兆候の検知の直後の運搬工程での運搬量の増量をはかるが、異常の兆候が更に検知されない限りは、その異常の兆候の検知の直後の運搬工程より先の運搬工程での運搬量は基準値である所定量に戻される。なお、所定増加量γは、定数であっても、可変であってもよい。例えば、所定増加量γが可変であるとき、温度変化ΔTの値に応じて所定増加量γは算出されるとよい。所定増加量γは、粉末材料8の不足の前兆を消失させるように定められるとよい。
【0171】
この
図32のフローチャートに基づく処理は、収納容器4の粉末材料8を作製容器5に運搬するときにおいても同様である。このとき、リコータ14の移動先である収納容器3の温度を温度検出部28bにより検出し、リコータ14の移動の前後におけるその温度変化ΔTが閾値βと比較されて、作製容器5への粉末材料8の運搬が評価され、その評価結果に応じて、特に粉末材料8の不足の前兆があると評価されたとき、次の収納容器3の粉末材料8を作製容器5に運搬するときのその運搬量が増量され得る。この増量により、
図31のフローチャートの次のルーチンにおけるステップS3107での、次の粉末材料8の搬送方向上流側の収納容器3からの粉末材料8の搬送つまり供給用テーブル6の上昇量は運搬量が所定量αと所定増加量γとの和に応じた分になるように制御される。
【0172】
上記構成の粉末床溶融結合装置1によれば、以下の作用効果が奏される。
【0173】
作製容器5への粉末材料の運搬のときに、リコータ14の移動先の収納容器3、4の温度を検出して、リコータ14の移動前後のリコータ14の移動先の収納容器3、4の温度変化ΔTと閾値βとの比較が上記のように行われ、粉末材料8の運搬が評価される。したがって、粉末床溶融結合装置1において造形物44を製造するために、粉末材料8の層を順次重ねて形成するとき、その層に異常が生じる前に、その異常の前兆を的確に検知することが可能になる。
【0174】
また、リコータ14の移動先の収納容器3、4の温度変化に基づいて異常の前兆が認められたときに、リコータ14がもう一方の収納容器3、4側に戻るときの粉末材料8の運搬においてその粉末材料8の運搬量が増加される。したがって、その検知された異常の前兆を修復し、消失させることができる。つまり、異常の前兆が認められたとき、粉末材料の運搬量を自動で調整することによって、検知された異常の前兆を修復し、消失させることができ、よって、異常の発生を未然に防ぐことが可能になる。
【0175】
なお、前述のステップS3207では、温度変化ΔTと閾値βとが比較されて、粉末材料8の運搬が評価された。しかし、粉末材料の運搬の評価は、温度検出部28b、28cで検出した温度に基づいて種々の方法で行われることが可能である。例えば、検出した温度を、その温度に応じて定められた閾値と直接的に比較することで、粉末材料の運搬の評価が行われてもよい。また、上記装置1では、収納容器3の粉末材料を作製容器5に運搬するときのステップS3207の閾値は、収納容器4の粉末材料を作製容器5に運搬するときのステップS3207の閾値と同じであるが、これらは異なってもよく、装置1の特性に応じて設定されるとよい。更に、上記装置1では、収納容器3の粉末材料を作製容器5に運搬するときの運搬量の基準値は、収納容器4の粉末材料を作製容器5に運搬するときの運搬量の基準値と同じであるが、これらは異なってもよく、装置1の特性に応じて設定されるとよい。例えば、収納容器3の粉末材料を作製容器5に運搬したときに収納容器4側で異常の前兆が検知されたときに、その検知に基づいて変更される運搬量の基準値は、収納容器4の粉末材料を作製容器5に運搬したときに収納容器3側で異常の前兆が検知されたときに、その検知に基づいて変更される運搬量の基準値と、ここでは同じであるが、異なってもよく、装置1の特性に応じて設定されるとよい。なお、上記装置1では、収納容器3の粉末材料を作製容器5に運搬したときに収納容器4側で異常の前兆が検知されたときに増量される運搬量の増量分は、収納容器4の粉末材料を作製容器5に運搬したときに収納容器3側で異常の前兆が検知されたときに増量される運搬量の増量分と同じであるが、これらは異なってもよく、装置1の特性に応じて設定されるとよい。
【0176】
また、上記装置1では、上記方法により粉末材料の運搬が評価され、その評価結果に応じてその次の粉末材料の運搬における粉末材料の運搬量が変えられた。しかし、上記方法により粉末材料の運搬が評価されたとき、その評価結果に応じてその次の粉末材料の運搬における運搬量が変えられることに限定されない。例えば、粉末材料の運搬が単に評価されてもよい。この場合、その評価結果はその次の制御等に用いられなくてもよい。あるいは、粉末材料の運搬の評価の結果、粉末材料の不足など異常の前兆が認められたとき、警告装置等を作動させてもよい。
【0177】
さらに、上記装置1では、上記方法により粉末材料の運搬が評価され、その評価結果に応じてその次の粉末材料の運搬における粉末材料の運搬量が変えられた。しかし、運搬量が変えられるのは、評価された粉末材料の運搬の次の粉末材料の運搬に関する運搬量以外であってもよい。例えば、粉末材料の運搬量を増加させるタイミングは、収納容器3から収納容器4への粉末材料の運搬の次の収納容器4から収納容器3への粉末材料の運搬のときに限定されず、収納容器3から収納容器4への粉末材料の運搬の次の収納容器3から収納容器4への粉末材料の運搬のときであってもよい。
【0178】
図33に基づいて、粉末材料の運搬の評価(ステップS3207)において、温度変化ΔTが閾値βよりも大きくない、つまり、温度変化ΔTが閾値β以下であると判定されたとき(ステップS3207で否定判定)について更に説明する。
図33では、(a)欄に
図33(b)から
図33(e)の運搬量の増量のバリエーションの共通の前提を示す。上記装置1において、リコータ14が収納容器3側から収納容器4側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N層を作製容器5に形成するときの運搬工程の矢印に符号「AN」を付し、そのときのリコータ14の移動先側の収納容器4に関して温度変化ΔTが閾値β以下であると判定されて異常の兆候が検知されたことに符号「D」を付している。上記装置1では、異常の兆候の検知Dのすぐ次にリコータ14が収容容器4側から収納容器3側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N層の上に直接的に第N+1層を形成するときの運搬工程の矢印に符号「AN+1」を付し、その「AN+1」矢印の運搬工程での粉末材料の運搬量は「AN」矢印の運搬工程での粉末材料の運搬量αよりもγ分多いので、「AN+1」矢印を「AN」矢印よりも太い矢印としている(
図33の(b)欄参照)。
【0179】
しかし、異常の兆候の検知Dの直後にリコータ14が収容容器4側から収納容器3側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N+1層を作製容器5に形成するときの運搬工程(「AN+1」矢印)では運搬量は増量されず、その次にリコータ14が収容容器3側から収納容器4側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N+1層の上に直接的に第N+2層を形成するときの運搬工程(「AN+2」矢印)での粉末材料の運搬量が「AN」矢印の運搬工程及び「AN+1」矢印の運搬工程での粉末材料の運搬量よりもγ分多くされてもよい(
図33の(c)欄参照)。
【0180】
また、異常の兆候の検知Dの次にリコータ14が収容容器4側から収納容器3側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N+1層を作製容器5に形成するときの運搬工程(「AN+1」矢印)での運搬量も増量され、更にその次にリコータ14が収容容器3側から収納容器4側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N+2層を作製容器5に形成するときの運搬工程(「AN+2」矢印)での粉末材料の運搬量も増量されてもよい(
図33の(d)欄参照)。
【0181】
更に、
図33の(c)欄と(d)欄とを組み合わせたような(e)欄に示す運搬量の増量も可能である。異常の兆候の検知Dの次にリコータ14が収容容器4側から収納容器3側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N+1層を作製容器5に形成するときの運搬工程(「AN+1」矢印)では運搬量は増量されず、その次にリコータ14が収容容器3側から収納容器4側に移動されて作製容器5に粉末材料8が運搬されて第N+2層を作製容器5に形成するときの運搬工程(「AN+2」矢印)での粉末材料の運搬量及びその次の運搬工程(「AN+3」矢印)での粉末材料の運搬量が「AN」矢印の運搬工程及び「AN+1」矢印の運搬工程での粉末材料の運搬量よりも多くされてもよい(
図33の(e)欄参照)。
【0182】
図33の(c)から(e)欄に示すタイミングで運搬量を増量させることで、異常の兆候の検知Dが行われた収納容器4側へリコータ14を移動させるときに、粉末材料の運搬量が増量される。これにより、異常の兆候の検知Dが行われた収納容器4において異常の兆候があるか否かが再度判定及び評価され、よって異常の兆候の消失をより確実に確認することが可能になる。また、一度の異常の兆候の検知に関してリコータ14が往復移動する少なくとも2つの所定の運搬工程で運搬量が増量されることで(
図33の(d)欄及び(e)欄を参照)、装置1の個体差などに起因する運搬量の誤差などもより確実に無視できるものにすることができ、よって異常の兆候をより確実に消失させることが可能になる。
【0183】
なお、
図33に基づく上記説明は、収納容器3側から収納容器4側にリコータ14を移動させたときに収納容器4に関して異常の兆候が検知された場合についてのものであるが、収納容器4側から収納容器3側にリコータ14を移動させたときに収納容器3に関して異常の兆候が検知されたときについても同様である。また、両収納容器3、4で連続して異常の兆候が検知されたときには、該当する複数の運搬工程において前述のように運搬量の増量が実行されるとよい。ただし、異常の兆候の検知後、該当する1つ又は複数の運搬工程での運搬量の増量を図るが、異常の兆候が更に検知されない限りは、その該当する1つ又は複数の運搬工程より先の運搬工程での運搬量は基準値である所定量に戻される。
【0184】
なお、貯留容器3E、4Eへの余剰な粉末材料8の流入を抑制するため、粉末床溶融結合装置1に更なる温度検出部28d、28eが設けられ、更なる制御が行われてもよい。更なる温度検出部28d、28eは例えば
図1に破線で示すように、収納容器3、4における外側つまり貯留容器3E、4E側の粉末材料8の温度を測定するように配置される。なお、温度検出部28d、28eは貯留容器3E、4Eにおける粉末材料の温度を測定するように設けられてもよい。温度検出部28d、28eは接触式の温度検出装置であるが、温度検出部28a~28cと同様に非接触式の温度検出装置であってもよい。そして、このとき、
図34のフローチャートに基づく制御が行われるとよい。
図34のステップS3401~S3407、S3413及びS3415は
図32のステップS3201~S3211のそれぞれに対応するのでそれらの重複説明を省略する。
【0185】
ステップS3407で温度変化ΔTが閾値βよりも大きいとき(ステップS3407で肯定判定)、ステップS3409で温度検出部28d又は28eによりリコータ14の移動先の収納容器3又は4に関する粉末材料8の温度TEが検出される。そして、検出した温度TEが閾値δ(ただし、δ>0℃)よりも小さいか否かが判定される。閾値δは、例えばリコータ14の移動先の収納容器が収納容器4であるときその収納容器4の外側の貯留容器4E側の端部にまで粉末材料8が至ったことを検知可能な温度として定められている。検出した温度TEが閾値δよりも小さいとき(ステップS3411で肯定判定)、ステップS3413で粉末材料8の搬送量つまり運搬量は所定量αのままにされる。
【0186】
一方、検出した温度TEが閾値δ以上であるとき(ステップS3411で否定判定)、ステップS3417で運搬量は減量される。この減量は、ここでは所定量αに所定減少量ε(ただし、ε>0)を減算することで行われる。そして次の粉末材料8の搬送方向上流側の収納容器4からの粉末材料8の搬送つまり供給用テーブル7の上昇量は運搬量が所定量αから所定減少量εを差し引いた量に応じた分になるように制御される。なお、所定減少量εは定数であっても可変であってもよい。例えば、所定減少量εが可変であるとき、温度TEの値に応じて所定減少量εは算出されるとよい。
【0187】
他方、ステップS3407でΔTが閾値β以下であるとき(ステップS3407で否定判定)、ステップS3415で運搬量は上記のごとく増量される。
【0188】
以上、本開示に係る実施形態及びその変形例について説明したが、本開示はそれらに限定されない。本願の特許請求の範囲によって定義される本開示の精神及び範囲から逸脱しない限り、種々の置換、変更が可能である。上記実施形態及び変形例などは、上記に限定されず、矛盾しない範囲で種々の組み合わせなどが可能である。
【0189】
上記実施形態の粉末床溶融結合装置1では、収納容器3、4の温度を検出してその温度に基づいて粉末材料8がどの程度まで至ったかを評価して、異常の兆候又は前兆が認められる判定がなされたときに、リコータ14が反対側に戻るときの粉末材料8の供給量つまり運搬量を多くし、これにより、非接触式温度検出部つまり非接触温度センサによる粉末搬送量最適化を可能にした。この判定は、温度変化ΔTと閾値βとの単なる比較に基づいてなされたが、複数の閾値を用いて収納容器3、4に至った粉末材料8の位置を細かに判定してもよい。この場合、温度検出装置28b、28cの各々は対応する収納容器3、4の複数の箇所に対応した複数の温度検出装置を有して構成され、それらの温度検出装置の各々による温度つまり温度変化と対応する閾値との比較が行われてもよい。なお、この場合も、温度変化の値を閾値と比較することに限定されず、例えば、上記のように検出した温度をそれに対応した温度と直接的に比較してもよい。
【符号の説明】
【0190】
1 粉末床溶融結合装置
2 筐体
3、4 収納容器
3E、4E 貯留容器
5 作製容器
6、7 供給用テーブル
8 粉末材料
9、10、12 支持棒
11 造形用テーブル
13 運搬板
14 リコータ
15~17 上部加熱部
18、19 反射板
20~27 ヒータ
28a、28b、28c 温度検出部
29 レーザ光出射部
44 造形物