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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】PTP用の包装シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/42 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
B65D65/42
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021203326
(22)【出願日】2021-12-15
(65)【公開番号】P2023088534
(43)【公開日】2023-06-27
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】511069932
【氏名又は名称】昭北ラミネート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】中島 洋一
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001189(JP,A)
【文献】特開2021-159795(JP,A)
【文献】特開2014-001369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/42
B65D 75/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材であるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層と、前記アルミニウム箔の第二面側の表層に位置するヒートシール層とを備え、
前記耐熱コート層の外面が加熱され、前記ヒートシール層が相手方の容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となり、前記耐熱コート層の外面に、紫外線硬化型インキを用いた後付け印刷層が設けられるPTP用の包装シートの製造方法において、
前記後付け印刷層の硬さ情報を取得する硬さ情報取得工程と、エポキシ樹脂を主剤とする固形成分と揮発性溶剤とを混合した液状物であって、前記固形成分の混合比を30~45質量%の範囲で変化させた時に25℃における動粘度が37.3~74.8mm2/sの範囲に収まる前記固形成分を、30~45質量%の範囲内の一定の混合比で含有させた耐熱コート剤を準備する耐熱コート剤準備工程と、前記アルミニウム箔の前記第一面側に、前記耐熱コート層の仕上がり状態の厚みが規定値になるように、所定量の前記耐熱コート剤を塗布する耐熱コート剤塗布工程と、前記耐熱コート剤塗布工程で塗布された前記耐熱コート剤を、前記固形成分が熱硬化しない程度に加熱して前記揮発性溶剤を揮発させる溶剤揮発工程と前記溶剤揮発工程の後、前記耐熱コート剤を加熱して前記固形成分を熱硬化させ、前記耐熱コート層を形成する固形成分熱硬化工程とを備え、
前記耐熱コート層の硬さが、前記後付け印刷層の硬さに対応した値になるように、前記溶剤揮発工程の加熱温度を調節することを特徴とするPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項2】
前記溶剤揮発工程は、前記耐熱コート剤塗布工程で塗布された前記耐熱コート剤を、215~275℃、1.2±0.2秒の範囲内の一定の条件で加熱する第一の加熱工程を備え、前記耐熱コート層の硬さが、前記後付け印刷層の硬さに対応した値になるように、前記第一の加熱工程の加熱温度を調節する請求項1記載のPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項3】
前記溶剤揮発工程は、前記第一の加熱工程を経た前記耐熱コート剤、及び前記第一の加熱工程の後に塗布された他の塗布剤を、270±5℃、1.2±0.2秒の条件で加熱する第二の加熱工程を備える請求項2記載のPTP用の包装シートの製造方法。
【請求項4】
前記固形成分熱硬化工程では、前記第二の加熱工程を経た前記耐熱コート剤及び他の塗布剤を、175~255℃、5.7~7.5秒の範囲内の特定の条件で加熱する請求項3記載のPTP用の包装シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となり、外面側に紫外線硬化型インキで成る後付け印刷層が設けられるPTP用の包装シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTP(press through package)は、図7に示すPTP包装体10のように、樹脂製の容器シート12に形成された収容部12a内に小形の固形物14を入れ、包装シート16を容器シート12の平面部12bに貼着することによって収容部12aを閉鎖する包装形態であり、従来から、薬用の錠剤やカプセル等の固形物を包装する用途に広く用いられている。
【0003】
PTP包装体10は、開封するとき、収容された固形物14を収容部12aの外側から包装シート16内面側へ強く押し当て、包装シート16を突き破って取り出すものであり、包装シート16の基材は、一般にアルミニウム箔が使用される。また、包装シート16を容器シート12に貼り付ける場合、包装シート16の一方の面に設けたヒートシール層を容器シート12の平面部12bに当接させ、包装シート16の他方の面に設けた耐熱コート層の側から加熱し、ヒートシール層を平面部12bに溶着させる方法が用いられる。
【0004】
包装シートには、多くの場合、図示しない事前印刷層が設けられ、事前印刷層には、内容が頻繁に変わらない情報(品名、価格、用量、効能、効果等)が表示される。さらに、近年、PTP用包装体に組み立てられる時、包装シート16の外面側に、紫外線硬化型インキの後付け印刷層18をインクジェット方式で付加し、内容が頻繁に変わる情報(製造年月日、ロット番号、有効期限号等)を表示することが行われている。
【0005】
後付け印刷層18は包装シート16の耐熱コート層の外面に形成されることになるが、後付け印刷層18が耐熱コート層から界面剥離したり、後付け印刷層18に割れが発生して部分的に脱落したりしやすいという問題が指摘されており、後付け印刷層18と耐熱コート層との密着性を向上させることが課題になっている。
【0006】
従来、この課題を解決する技術として、例えば本願出願人らによる特許文献1に開示されているように、後付け印刷層を形成する紫外線硬化型インキの組成を限定した上で、アルミニウム箔基材に第一の下塗り層(耐熱コート層)を積層した包装シートを準備し、包装シートの第一の下塗り層の上に特定の素材で成る第二の下塗り層を設け、その上に後付け印刷層を形成する技術があった。第二の下塗り層は、後付け印刷層と第一の下塗り層(耐熱コート層)との密着性を向上させる働きをする層である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-1189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、PTP包装体の組み立て工場(固形物をPTP包装体の中に包装する工場)では、包装シート、容器シートとなる平坦な樹脂製シート材、紫外線硬化型インキ等の部材を準備し、これらを全自動型の包装装置に投入してPTP包装体に組み立てる。
【0009】
そのため、特許文献1の技術を実施する場合、PTP包装体の組み立て工場では、後付け印刷層を形成する紫外線硬化型インキの種類が制限され、さらに、既存の包装装置を改造して、第二の下塗り層を形成するための機構を追加しなければならない。したがって、PTP包装体の組み立て工場としては、できれば、包装シートを購入する段階で上記の課題が解決されていることが望ましい。しかし、包装シートのメーカとしては、様々な種類の紫外線硬化型インキに対して常に高い密着性が得られる耐熱コート層を実現することは難しい。
【0010】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、紫外線硬化型インキで成る後付け印刷層に対して高い密着性が得られる包装シートを容易に製造することができる、PTP用の包装シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基材であるアルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の第一面側の表層に位置する耐熱コート層と、前記アルミニウム箔の第二面側の表層に位置するヒートシール層とを備え、
前記耐熱コート層の外面が加熱され、前記ヒートシール層が相手方の容器シートに熱接着されてPTP包装体の蓋材となり、前記耐熱コート層の外面に、紫外線硬化型インキを用いた後付け印刷層が設けられるPTP用の包装シートの製造方法であって、
前記後付け印刷層の硬さ情報を取得する硬さ情報取得工程と、エポキシ樹脂を主剤とする固形成分と揮発性溶剤とを混合した液状物であって、前記固形成分の混合比を30~45質量%の範囲で変化させた時に25℃における動粘度が37.3~74.8mm2/sの範囲に収まる前記固形成分を、30~45質量%の範囲内の一定の混合比で含有させた耐熱コート剤を準備する耐熱コート剤準備工程と、前記アルミニウム箔の前記第一面側に、前記耐熱コート層の仕上がり状態の厚みが規定値になるように、所定量の前記耐熱コート剤を塗布する耐熱コート剤塗布工程と、前記耐熱コート剤塗布工程で塗布された前記耐熱コート剤を、前記固形成分が熱硬化しない程度に加熱して前記揮発性溶剤を揮発させる溶剤揮発工程と前記溶剤揮発工程の後、前記耐熱コート剤を加熱して前記固形成分を熱硬化させ、前記耐熱コート層を形成する固形成分熱硬化工程とを備え、
前記耐熱コート層の硬さが、前記後付け印刷層の硬さに対応した値になるように、前記溶剤揮発工程の加熱温度を調節するPTP用の包装シートの製造方法である。
【0012】
前記溶剤揮発工程は、前記耐熱コート剤塗布工程で塗布された前記耐熱コート剤を、215~275℃、1.2±0.2秒の範囲内の一定の条件で加熱する第一の加熱工程を備え、前記耐熱コート層の硬さが、前記後付け印刷層の硬さに対応した値になるように、前記第一の加熱工程の加熱温度を調節する。また、前記溶剤揮発工程は、前記第一の加熱工程を経た前記耐熱コート剤、及び前記第一加熱工程の後に塗布された他の塗布剤を、270±5℃、1.2±0.2秒の条件で加熱する第二の加熱工程を備えていてもよい。前記固形成分熱硬化工程では、前記第二の加熱工程を経た前記耐熱コート剤及び他の塗布剤を、175~255℃、5.7~7.5秒の範囲内の特定の条件で加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のPTP用の包装シートの製造方法は、PTP包装体の組み立て時に設けられる後付け印刷層と包装シートの耐熱コート層との密着性を向上させるには、耐熱コート層の硬さを後付け印刷層の硬さとほぼ同じにすることが効果的であるという点に着眼して発明したものである。そして、耐熱コート剤準備工程の内容や溶剤揮発工程の加熱条件等を工夫することによって、耐熱コート層の硬さを幅広く変化させることを可能にしているので、相手方の後付け印刷層の硬さ情報を基に、これに対応した硬さの耐熱コート層を容易に形成することができる。したがって、ユーザ(PTP包装体の組み立て工場等)に対し、ユーザの後付け印刷層に合った包装シートを容易且つ安定的に製造し、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】PTP用の包装シートの構造の一例を示す拡大断面図(a)、この包装シートを用いて組み立てられたPTP包装体の構造を示す拡大断面図(b)である。
図2図1(a)の包装シートの一般的な製造フローと本発明のPTP用の包装シートの製造方法の一実施形態との関係を示すフローチャートである。
図3】包装シート製造装置の一例を示す模式図である。
図4】各仮加熱工程における加熱条件を示す図表(a)、本加熱工程にける加熱条件を示す図表(b)である。
図5】耐熱コート剤(固形成分A,B)の動粘度と耐熱コート剤塗布工程K17の作業性との関係を示すグラフ(a)、耐熱コート剤の試作品A30~A45と比較品B15,B20の特性を示すグラフ(b)である。
図6】試作品A30~A45及び比較品B15,B20を使用して製作した各包装シートの耐熱コート層の耐熱性・密着性の評価結果(a)、第一の加熱工程における加熱温度と耐熱コート層の硬さとの関係を概念的に表したグラフ(b)である。
図7】一般的なPTP包装体の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のPTP用の包装シートの製造方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。まず、この実施形態の製造方法を適用できる一般的な包装シート16の構造、包装シート16の製造フロー(工程K11~K24)、及び製造フローの中の工程K13~K24を順に実行する包装シート製造装置20の構成を、図1図3を基に簡単に説明する。
【0016】
包装シート16は、一枚の連続シートとして製造され、ロールに巻き取った状態でPTP包装体10の組み立て工場に出荷される。包装シート16は、図1(a)の拡大断面図に示すように、基材であるアルミニウム箔22を有し、アルミニウム箔22の第一面22a側に、第一面22aを覆う白濁色印刷層24と、白濁色印刷層24の外面に設けた情報表示用の第一事前印刷層26と、白濁色印刷層24及び第一事前印刷層26の外面を覆う耐熱コート層28とが順に積層されている。また、アルミニウム箔22の第二面22b側に、第二面22bに設けた情報表示用の第二事前印刷層30及び第三事前印刷層32と、第二面22b及び各事前印刷層30,32の外面を覆うヒートシール層34とが順に積層されている。
【0017】
アルミニウム箔22は、収容部12a内の固形物14を取り出すときに破れやすいように、10~30μm程度の厚さの硬質又は軟質のアルミニウム材が使用される。アルミニウム箔22は、図2の中の部材準備工程K12で準備され、図3に示すように、ロールに巻かれた状態で包装シート製造装置20にセットされる。
【0018】
白濁色印刷層24は、メジウムと白色顔料を含むインキとを混合した塗工樹脂である液状の白濁色印刷剤24xを準備し(部材準備工程K12)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts13でアルミニウム箔22の第一面22aに塗布し(白濁色印刷剤塗布工程K13)、加熱炉Kr14で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K14)、最終段の加熱炉Kr24で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K24)。メジウムは、例えば、主剤である塩化ビニル樹脂に分子架橋促進用のアミノ樹脂を配合した固形分を、適量のシンナー等の溶剤で希釈したものを用いる。白色顔料を含むインキは、メジウムの固形分と同様の組成に白色顔料となる酸化チタン等を配合した固形分を、適量のシンナー等の溶剤で希釈したものを用いる。
【0019】
第一事前印刷層26は、塩化ビニル樹脂等の主剤に適宜の色の顔料を配合して適量の揮発性溶剤を混合した液状の第一事前印刷インキ26xを準備し(部材準備工程K12)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts15で白濁色印刷剤24xの外面に塗布し(第一事前印刷インキ塗布工程K15)、加熱炉Kr16で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K16)、最終段の加熱炉Kr24で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K24)。
【0020】
耐熱コート層28は、エポキシ樹脂を主剤とする固形成分と揮発性溶剤とを混合した液状の耐熱コート剤28xを準備し(部材準備工程K12)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts17で白濁印刷剤24x及び第一事前印刷インキ26xの外面に塗布し(耐熱コート剤塗布工程K17)、加熱炉Kr18で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K18)、最後段の加熱炉Kr24で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K24)。耐熱コート剤は、固形成分の主剤をニトロセルロースやアクリル樹脂とする場合もあるが、エポキシ樹脂が最も汎用的な素材である。
【0021】
ここでは、耐熱コート層28は透明又は半透明とし、第一事前印刷層26の情報表示を外から視認できるようにする。白濁色印刷層24は、第一事前印刷層26を見た時に、アルミニウム箔22の光沢面の反射を抑え、第一事前印刷層26の視認性を向上させる働きをする層で、濁った白色でもよいし綺麗な白色でも良い。
【0022】
第二事前印刷層30は、塩化ビニル樹脂等の主剤に適宜の色の顔料を配合して適量の揮発性溶剤を混合した液状の第二事前印刷インキ30xを準備し(部材準備工程K12)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts19でアルミニウム箔22の第二面22bに塗布し(第二事前印刷インキ塗布工程K19)、加熱炉Kr20で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K20)、最終段の加熱炉Kr24で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K24)。
【0023】
第三事前印刷層32は、塩化ビニル樹脂等の主剤に、第二事前印刷層30と異なる色の顔料を配合して適量の揮発性溶剤を混合した液状の第三事前印刷インキ32xを準備し(部材準備工程K12)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts21でアルミニウム箔22の第二面22bに塗布し(第三事前印刷インキ塗布工程K21)、加熱炉Kr22で加熱して仮乾燥させ(仮加熱工程K22)、最終段の加熱炉Kr24で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K24)。
【0024】
ヒートシール層34は、ポリ塩化ビニル樹脂とポリエステル系樹脂との混合物、ポリ塩化ビニル樹脂とアクリル系樹脂との混合物、又はポリプロピレン樹脂を主剤とする液状のヒートシール剤34xを準備し(部材準備工程K12)、包装シート製造装置20の塗布装置Ts23でアルミニウム箔22の第二面22b及び各事前印刷インキ30x,32xの外面に塗布し(ヒートシール剤塗布工程K23)、最終段の加熱炉Kr24で加熱して乾燥・硬化させることによって形成される(本加熱工程K24)。
【0025】
包装シート16は以上のような流れで製造され、ロールに巻き取られてPTP包装体10の組み立て工場に出荷される。なお、図2の中の工程設計工程K11は、部材準備工程K12でどんな部材を準備するかということや、包装シート製造装置20が行う工程K13~K24の具体的な内容(例えば、各加熱炉の加熱条件等)を決定する工程である。
【0026】
PTP包装体10の組み立て工場では、入荷した包装シート16を専用の包装装置(図示せず)に投入し、耐熱コート層28の外面に、紫外線硬化型インキをインクジェット法等の方法で塗布し、乾燥・硬化させることによって後付け印刷層18を形成する。そして、容器シート12の収容部12aの中に固形物14を入れた後、収容部12aの開口部を包装シート16(蓋材)で閉鎖するため、耐熱コート層28の外面を加熱・加圧し、ヒートシール層34を容器シート12に熱接着する。これで、図1(b)に示す組み立て状態のPTP包装体10が形成される。
【0027】
次に、本発明の包装シートの製造方法の一実施形態について、上記の包装シート16の製造フロー(工程K11~K24)に適用することを想定して説明する。
【0028】
この実施形態の包装シートの製造方法は、図2の右側の欄に示すように、硬さ情報取得工程KK1、耐熱コート剤準備工程KK2、耐熱コート剤塗布工程KK3、溶剤揮発工程(第一及び第二の加熱工程KK4,KK5)及び固形成分熱硬化工程KK6とで構成される。
【0029】
硬さ情報取得工程KK1は、後付け印刷層18の硬さ情報を取得する工程であり、先に説明した工程設計工程K11の中の一部として行う。硬さ情報とは、仕上がり状態の後付け印刷層18の硬度又は硬度に対応した物性値の情報のことで、例えば、ユーザであるPTP包装体の組み立て工場等から聞き取ってもよいし、ユーザの後付け印刷層18が形成されたサンプルを入手して硬さを実測してもよい。
【0030】
本発明は、「後付け印刷層と耐熱コート層との密着性を向上させるため、耐熱コート層の硬さを、後付け印刷層の硬さとほぼ同じにする」というコンセプトなので、包装シート16の製作を開始する前に、相手方の後付け印刷層18の硬さ情報を取得することが重要になる。
【0031】
耐熱コート剤準備工程KK2は、エポキシ樹脂を主剤とする固形成分と揮発性溶剤とを混合した液状物であって、固形成分の混合比を30~45質量%の範囲で変化させた時に25℃における動粘度が37.3~74.8mm2/sの範囲に収まる固形成分を、30~45質量%の範囲内の一定の混合比で含有させた耐熱コート剤28xを準備する工程であり、先に説明した部材準備工程K12の中の一部として行う。固形成分の混合比及び動粘度の数値の意味については後で詳しく説明するが、これらの数値によって、使用できる耐熱コート剤の種類(固形成分の主剤であるエポキシ樹脂の種類)が特定される。耐熱コート剤28xは、包装シート16の製造工場で作製してもよいし、耐熱コート剤メーカに発注して購入してもよい。
【0032】
耐熱コート剤塗布工程KK3は、アルミニウム箔22の第一面22a側に、耐熱コート層28の仕上がり状態の厚みが規定値になるように、所定量の耐熱コート剤28xを塗布する工程であり、先に説明した耐熱コート剤塗布工程K17に対応する。
【0033】
溶剤揮発工程は、耐熱コート剤塗布工程KK3で塗布された耐熱コート剤28xを、固形成分が熱硬化しない程度に加熱し、揮発性溶剤を揮発させる工程で、第一及び第二の加熱工程KK4,KK5で構成される。第一の加熱工程KK4は、耐熱コート剤塗布工程KK3で塗布された耐熱コート剤28xを一定の条件で加熱する工程で、先に説明した仮加熱工程K18に対応する。第二の加熱工程KK5は、第一の加熱工程KK4を経た耐熱コート剤28x、及び第一加熱工程KK4の後に塗布された他の塗布剤(第二及び第三事前印刷インキ30x,32x)を一定の条件で加熱する工程で、先に説明した仮加熱工程K20,K22に対応し、ここでは、第二の加熱工程KK5を2回行うことになる。具体的な加熱条件については後で説明する。
【0034】
固形成分熱硬化工程KK6は、溶剤揮発工程の後、耐熱コート剤28xを加熱して固形成分を熱硬化させ、耐熱コート層28を形成する工程であり、先に説明した本加熱工程K24に対応する。具体的な加熱条件については後で説明する。
【0035】
工程KK2~KK6の具体的な内容は、最初の工程設計工程K11で決定することになる。その中で、硬さ情報取得工程KK1で取得した後付け印刷層18の硬さ情報を基に決定する事項は、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)における加熱条件等である。
【0036】
図4(a)、(b)は、各加熱工程の好ましい加熱条件を示している。仮加熱工程K14,K16の加熱条件は、各々270±5℃、1.2±0.2秒としている。仮加熱工程K14,K16は耐熱コート剤28xを塗布する前に行う工程であり、この工程の加熱条件は、耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さにはほとんど影響しない。
【0037】
仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱条件は、215~275℃、1.2±0.2秒の範囲内の一定の条件としている。仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)は、塗布された耐熱コート剤28xを最初に加熱して揮発性溶剤を揮発させる工程であり、この工程の加熱条件は、耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さに大きく影響するので、後付け印刷層18の硬さ情報を基に、加熱温度t18を215~275℃の範囲内の特定の値に決定する。どのように決定するかは後で説明する。
【0038】
仮加熱工程K20,K22(第二の加熱工程KK5)の加熱条件は、各々270±5℃、1.2±0.2秒としている。仮加熱工程K20,K22(第二の加熱工程KK5)は、耐熱コート剤28xを加熱する工程なので、この加熱条件は、耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さにある程度影響する。しかし、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱条件の方が影響度が高いので、この工程の加熱条件は、後付け印刷層18の硬さ情報に関係なく、一定の条件に固定している。
【0039】
本加熱工程K24(固形成分熱硬化工程KK6)の加熱条件は、175~255℃、5.7~7.5秒の範囲内の特定の条件としている。例えば、加熱炉Kr24として3つのゾーンを有した連続炉を使用し、第1ゾーンを180±5℃、2.2±0.3秒とし、第2ゾーンを250±5℃、2.2±0.3秒とし、第3ゾーンを250±5℃、2.2±0.3秒とする。
【0040】
本加熱工程K24(固形成分熱硬化工程KK6)は、耐熱コート剤28xを加熱して熱硬化させる工程なので、この加熱条件は、耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さに影響するが、他の塗布層の仕上がり状態にも影響するので、安易に変更することはできない。そこで、耐熱コート層28の硬さは仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱温度t18で調節することとし、この工程の加熱条件は、後付け印刷層18の硬さ情報に関係なく、一定の条件に固定している。
【0041】
次に、耐熱コート剤準備工程KK2で準備する耐熱コート剤28xの混合比及び動粘度の数値の意味と、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)における加熱温度t18の設定方法について説明する。これらは、「耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さを、後付け印刷層18の仕上がり状態の硬さに対応した値(ほぼ同じ値)にする」という目的を達成するために重要な事項である。
【0042】
まず、発明者が本発明を検討する過程で行った試験や評価の内容を説明する。発明者は、主剤であるエポキシ樹脂の種類が異なる2種類の固形成分A,Bと揮発性溶剤とを用意して様々な混合比の耐熱コート剤28xを作製し、25℃における動粘度を測定した(図5(a))。なお、固形成分Bを用いた耐熱コート剤28xは、発明者が従来から使用している汎用的な耐熱コート剤である。
【0043】
汎用的な包装シート製造装置20において、耐熱コート剤塗布工程K17及び仮乾燥工程K18を支障なく行うためには(良好な塗工性を確保するためには)、動粘度が37.3~74.8mm2/sの範囲内であることが条件になる。したがって、図5(a)に示すように、固形成分Aを用いて耐熱コート層28xを作製する場合は、固形成分Aの混合比を30~45%の範囲に設定する必要があり、固形成分Bを用いて耐熱コート層28xを作製する場合は、固形成分Bの混合比を15~20%の範囲に設定する必要がある。つまり、固形成分Aの場合は揮発性溶剤の比率を低くすることができ、固形成分Bの場合は揮発性溶剤の比率をかなり高くしなければならない。
【0044】
次に、発明者は、固形成分Aの混合比を30,35,40,45質量%に設定した耐熱コート剤28x(試作品A30,A35,A40,A45)と、固形成分Bの混合比を15,20質量%に設定した耐熱コート剤28x(比較品B15,B20)とを使用して包装シート16を製作し、仕上がった耐熱コート層28の耐熱性・密着性の評価を行った。なお、耐熱コート剤28xの塗布量は、仕上がり状態の耐熱コート層28の厚みが規定値になるように適宜調節し、包装シート16を製作する時の各加熱炉の加熱条件は、図4(a)、(b)に示した条件とし、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)における加熱温度t18については、220,245,270℃(設定精度±5℃)の3通りとした。
【0045】
耐熱性の評価は、包装シート16を相手方の容器シート12に溶着させる時のヒートシールバーによる加熱及び加圧に相当するストレスを耐熱コート層28に加え、耐熱コート層28の変色、炭化、その他の異変が生じないかを観察して良否の判定を行った。また、密着性の評価は、耐熱コート層28の表面に所定の粘着テープを貼着し、180度に折り返して引き剥がす試験(いわゆる180度剥離試験)を行って良否の判定を行った。
【0046】
図6(a)は、耐熱性・密着性の評価結果を示している。試作品A30~A45で成る耐熱コート層28は、加熱温度t18=220,245,270℃で全てOKとなったが、比較品B15,B20で成る耐熱コート層28は、加熱温度t18=220,245℃の時にNGとなり、t18=270℃の時だけOKとなった。
【0047】
比較品B15,B20で成る耐熱コート層28の評価結果は、比較品B15,B20は揮発性溶剤の混合比が非常に高い(80~85%)ことが影響していると考えられる。つまり、加熱温度t18=270℃に設定した時は、仮乾燥工程K18(第一の加熱工程KK4)で特定量の揮発性溶剤を揮発させることができたためOKとなり、加熱温度t18=220,245℃に設定した時は、仮乾燥工程K18(第一の加熱工程KK4)で特定量の揮発性溶剤を揮発させることができなかったためにNGになったと推測される。
【0048】
同様に、試作品A30~A45で成る耐熱コート層28の評価結果は、試作品A30~A45は揮発性溶剤の混合比が相対的に低い(55~70%)ことが影響していると考えられる。つまり、加熱温度t18を220℃という低い温度に設定した時でも、仮乾燥工程K18(第一の加熱工程KK4)で特定量の揮発性溶剤を揮発させることができ、加熱温度t18=220,245,270℃の範囲で全てOKになったと推測される。
【0049】
図6(b)は、試作品A30,A35,A40,A45)で成る耐熱コート層28の硬さと、仮乾燥工程K18(第一の加熱工程KK4)における加熱温度t18との関係を概念的に表しており、耐熱コート層28の硬さは、加熱温度t18が低いほど低下する傾向がある。この特性は、固形成分の混合比を変更してもほとんど変わらない。これは、最終段の本加熱工程K24(固形成分熱硬化工程KK6)に投入される時点で耐熱コート剤28に残留している揮発性溶剤の多少より、固形成分の熱硬化速度が変化するためと考えられる。つまり、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱温度t18が低いほど耐熱コート剤28に残留する揮発性溶剤の量が多くなり、本加熱工程K24(固形成分熱硬化工程KK6)における固形成分の熱硬化速度が低下し、その結果、耐熱コート層28の硬さが低下すると推測される。
【0050】
図6(a)、(b)から分かるように、試作品A30~A45を用いて耐熱コート層28を形成する場合、加熱温度t18を215~275℃の広い範囲に設定することができるので、加熱温度t18を調節することによって、仕上がり状態の耐熱コート層28の硬さを大きく変化させることができる。したがって、固形成分Aを用いた耐熱コート剤28xは、本発明の包装シートの製造方法に適している。一方、比較品B15,B20を用いて耐熱コート層28を形成する場合、加熱温度t18を270℃前後の狭い範囲にしか設定できないので、仕上がり状態の耐熱コート層28の硬さを大きく変化させることができない。したがって、固形成分Bを用いた耐熱コート剤28xは、本発明の包装シートの製造方法に使用することができない。
【0051】
以上の実験や評価の結果を踏まえ、耐熱コート剤準備工程KK2で準備する耐熱コート剤28xの混合比及び動粘度の数値の意味と、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)における加熱温度t18の設定方法を説明する。
【0052】
先に述べたように、耐熱コート剤準備工程KK2では、エポキシ樹脂を主剤とする固形成分と揮発性溶剤とを混合した液状物であって、固形成分の混合比を30~45質量%の範囲で変化させた時に25℃における動粘度が37.3~74.8mm2/sの範囲に収まる固形成分を、30~45質量%の範囲内の一定の混合比で含有させた耐熱コート剤28xを準備する。これにより、後の耐熱コート剤塗布工程K17及び仮乾燥工程K18を支障なく行うことができ、且つ、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱温度t18の設定可能な範囲を、215~275℃という広い範囲にすることができる。
【0053】
また、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱温度t18は、硬さ情報取得工程KK1で取得した後付け印刷層18の硬さ情報を基に、215~275℃の範囲内の特定の温度に調節する。これにより、「耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さを、後付け印刷層18の仕上がり状態の硬さに対応した値(ほぼ同じ値)にする」という目的を、容易且つ安定的に達成することができる。
【0054】
なお、加熱温度t18の最適値は、耐熱コート層28の仕上がり状態の硬さに影響を及ぼす他の加熱工程、すなわち、耐熱コート剤28xが加熱される他の仮加熱工程K20,K22(第二の加熱工程KK5)及び本加熱工程K24(固形成分熱硬化工程KK6)の加熱条件によって多少は変化する。しかし、他の加熱工程の加熱条件は、耐熱コート層28以外の塗布層の仕上がり状態にも影響するため、図4(a)、(b)の示すような一般的な加熱条件に固定しておくことが好ましい。そして、他の加熱工程の加熱条件を固定することによって、加熱温度t18の最適値は、硬さ情報に基づいて容易に導き出すことができる。
【0055】
以上説明したように、この実施形態のPTP用の包装シートの製造方法は、耐熱コート剤準備工程KK2や溶剤揮発工程(第一の加熱工程KK4)の加熱条件等を工夫することによって、耐熱コート層28の硬さを幅広く変化させることを可能にしているので、相手方の後付け印刷層18の硬さ情報を基に、これに対応した硬さの耐熱コート層28を容易に形成することができる。したがって、ユーザ(PTP包装体10の組み立て工場等)に対し、ユーザの後付け印刷層18に合った包装シート16を容易且つ安定的に製造し、提供することができる。
【0056】
なお、本発明のPTP用の包装シートの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図2に示すPTP用の方法シート製造方法(工程K13~K24/工程KK1~KK6)は、図1(a)に示す包装シート16の構成に対応したものであるが、包装シート16の構成の一部が変更された場合でも、その変更に合わせて工程の一部を変更することによって対応することができる。
【0057】
例えば、アルミニウム箔22と耐熱コート層28との間の白濁色印刷層24や第一事前印刷層26を無くした包装シート16を製造する場合、図2の製造フローの中の、白濁色印刷層24や第一事前印刷層26に関連する工程(工程K13~K16)を単純に省略すればよく、その他の工程(工程K11,K12,K17~K24/工程KK1~KK6)の内容は、ほとんど変更する必要はない。
【0058】
また、アルミニウム箔22とヒートシール層34との間の第二事前印刷層30や第三事前印刷層32を無くした包装シート16を製造する場合、図2の製造フローの中の、第二事前印刷層30や第三事前印刷層32に関連する工程(工程K19~K22/工程KK5)を省略すればよく、その他の工程(工程K11~K18,K23,K24/工程KK1~KK4,KK6)の内容は大きく変更する必要はない。ただし、耐熱コート層28の硬さに多少の影響を与える仮乾燥工程K20,K22(第二の加熱工程KK5)を省略することになるので、仮加熱工程K18(第一の加熱工程KK4)の加熱温度t18を変化させた時の耐熱コート層28の硬さの変化のしかたが少し違ってくる可能性がある。したがって、工程設計工程K11では、この点も考慮して、加熱温度t18を決定する。
【0059】
本加熱工程K24(固形成分熱硬化工程KK6)の加熱条件は、耐熱コート層28の硬さを調整する目的で変更することはせず、175~255℃、5.7~7.5秒の範囲内の特定の条件に固定することが好ましい。
【0060】
その他、相手方の後付け印刷層を形成する紫外線硬化型インキの種類は特に限定されず、様々な紫外線硬化型インキに対応することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 PTP包装体
12 容器シート
16 PTP用の包装シート
18 紫外線硬化型インキを用いた後付け印刷層
20 包装シート製造装置
22 アルミニウム箔
22a 第一面
22b 第二面
28 耐熱コート層
28x 耐熱コート剤
34 ヒートシール層
34x ヒートシール剤
KK1 硬さ情報取得工程
KK2 耐熱コート剤準備工程
KK3 耐熱コート剤塗布工程
KK4 第一の加熱工程(溶剤揮発工程)
KK5 第二の加熱工程(溶剤揮発工程)
KK6 固形成分熱硬化工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7