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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】チャッキング位置決め治具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/06 20060101AFI20240910BHJP
   B23Q 3/18 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B23Q3/06 301N
B23Q3/18 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023163699
(22)【出願日】2023-09-26
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】523368056
【氏名又は名称】有限会社プロフィット
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】旭 厚志
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-096407(JP,A)
【文献】実開平06-041142(JP,U)
【文献】実開平01-060538(JP,U)
【文献】特開2006-043808(JP,A)
【文献】特開昭54-017580(JP,A)
【文献】実開昭61-042258(JP,U)
【文献】特開2009-012081(JP,A)
【文献】実開昭54-005882(JP,U)
【文献】実公昭50-044626(JP,Y1)
【文献】実開昭62-035292(JP,U)
【文献】中国実用新案第214237277(CN,U)
【文献】中国実用新案第2609709(CN,Y)
【文献】中国実用新案第215588536(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/00-3/154
B23Q 3/16-3/18
B23B 31/02
B23B 31/10
B25B 5/00
B25B 9/00
B25B 11/00
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板形状のワークを着脱可能に保持するとともに位置決めするチャッキング位置決め治具であって、
前記ワークが載置されるとともに前記ワークの中心軸から外方に向かって外上がりに傾斜する傾斜ガイド孔が形成された上段プレートと、前記上段プレートに上方に突出して設けられ前記ワークの外周面部を案内する位置決めピンと、前記上段プレートの前記傾斜ガイド孔に移動可能に設けられ斜めに下降して前記ワークを上方から押さえて保持するチャック部材とを備えていることを特徴とするチャッキング位置決め治具。
【請求項2】
請求項1記載のチャッキング位置決め治具であって、
前記位置決めピンは、載置された前記ワークの外周面部に接する円柱形状の本体部と、前記本体部の上端に繋がり上方に向けて縮径する第1テーパ部と、前記第1テーパ部の上端に繋がり前記第1テーパ部のテーパ角度よりも大きいテーパ角度の第2テーパ部とを備えていることを特徴とするチャッキング位置決め治具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のチャッキング位置決め治具であって、
前記上段プレートの上面には、載置された前記ワークを囲う位置に下方に向かってピン孔が形成され、
前記位置決めピンは、前記ピン孔に上下方向移動可能に設けられるとともに、前記ピン孔の底部に設けられ上下方向に伸縮する弾性部材に前記位置決めピンの基端部が支持されていることを特徴とするチャッキング位置決め治具。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のチャッキング位置決め治具であって、
前記チャック部材は、前記傾斜ガイド孔を摺動する摺動部と、前記摺動部の上端に設けられ前記ワークの中心軸側に延出して前記ワークの上面部に当接する爪部と、前記爪部に設けられ先端に向かって幅が小さくなる先細り部と、前記先細り部の中心部に設けられた切り欠きとを備えていることを特徴とするチャッキング位置決め治具。
【請求項5】
請求項4記載のチャッキング位置決め治具であって、
前記チャック部材は、前記摺動部の下端に設けられピン用貫通孔が形成された段部を備え、載置された前記ワークの中心軸に対して平面視で放射線上に複数方向に配置され、
前記段部は、前記チャック部材を一括して昇降させるリンク部材に接続され、
前記リンク部材は、本体となる中央部と、前記中央部から放射状に延出するとともに先端部分に横方向が長径となる長孔が形成された複数のアーム部と、前記長孔の長径方向に移動可能に設けられ前記ピン用貫通孔に挿通された支持ピンとを備え、
前記中央部に前記リンク部材を昇降させるシリンダが接続されていることを特徴とするチャッキング位置決め治具。
【請求項6】
請求項5記載のチャッキング位置決め治具であって、
前記上段プレートの下に前記リンク部材が昇降する空間となる空洞部が形成された中段プレートが設けられ、前記中段プレートの下に前記シリンダを支持する下段プレートが設けられていることを特徴とするチャッキング位置決め治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板形状のワークを着脱可能に保持するとともに位置決めするチャッキング位置決め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、円板形状のワークを加工する際、円板形状のワークの外周や上面を治具等で位置決めして保持し、保持されたワークに対してドリルなどで穴あけ加工等を施す。ワークによっては、加工を施す部分以外に傷を付けてはならないものや、撓ませてはならないものなどがあるため、治具側にも工夫が要求される。このような、円板形状のワークを位置決めして保持する治具として、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
特許文献1のチャック機構は、カムプレートと、このカムプレートに対し同軸的に配置したガイド本体とを備える。ガイド本体には、4つの固定治具を介装する。固定治具は、ガイド本体中心から互いに外方に指向する爪部を有する。カムプレートを、レバーにより回転操作することで、ばね部材Sの付勢力に抗して、爪部をガイド本体中心側に移動させ、チャック待機状態とする。円板形状のワークを爪部によってチャックする際、爪部の先端下面内側のテーパ面を、ワークの円形中央口の周縁の面取部に接触するようにする。
【0004】
ワークの面取部に爪部のテーパ面が押し込められる結果、ワークが浮き上がらないように押さえ込まれた状態で保持される。この際、爪部のテーパ面は、ワークの既加工部位に触れることがないようにし、ワークが損傷しないようにしたものである。
【0005】
ところで、樹脂製の精密部品等において、ワークによっては加工部位以外であっても全面に傷を付けることができないものもある。
【0006】
しかし、特許文献1のチャック機構では、テーパ面を有する爪部が横方向に移動してワークの面取り部に押し込められるので、ワークの面取り部が擦られる状態となり、面取り部が損傷する。また、円板形状で中心に孔が形成されたワークに対し、中心軸(センタースピンドル)のような閉じた状態の4つの爪部を、ワークの孔に挿通させてから横方向(水平方向)に拡径するように開き、最終的にテーパ面が接した状態で位置決めされる態様のため、正確な位置決めができない。さらには、ワークが横方向に移動する爪部によって押さえられることで、ワークが横方向に力を受けて横方向に歪んだ状態で加工が施されるため、ワークが精密部品の場合に精密加工ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-12081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、円板形状のワークを、傷つけず且つ歪まずに保持することができるとともに、高い精度で位置決めして精密加工を施すことができるチャッキング位置決め治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施例によれば、円板形状のワークを着脱可能に保持するとともに位置決めするチャッキング位置決め治具であって、
前記ワークが載置されるとともに前記ワークの中心軸から外方に向かって外上がりに傾斜する傾斜ガイド孔が形成された上段プレートと、前記上段プレートに上方に突出して設けられ前記ワークの外周面部を案内する位置決めピンと、前記上段プレートの前記傾斜ガイド孔に移動可能に設けられ斜めに下降して前記ワークを上方から押さえて保持するチャック部材とを備えていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成によれば、チャッキング位置決め治具は、上段プレートに上方に突出して設けられワークの外周面部を案内する位置決めピンと、上段プレートの傾斜ガイド孔に移動可能に設けられ斜めに下降してワークを上方から押さえて保持するチャック部材とを備えており、ワークの位置決めとチャッキング(保持)を別々の部材で行うので、それぞれ機能を高品質で行うことができる。
【0011】
詳しくは、ワークの外周面部を案内する機能をのみを有する位置決めピンを備えているので、従来技術のように円板形状のワークの上面(面取り部)を上方からテーパ面で押さえるのとは異なり、本発明は円板形状のワークの外周面部を案内することで横方向(一般的な座標でいうXY平面)の位置決めを高い精度で行うことができる。加えて、上段プレートの傾斜ガイド孔に移動可能に設けられ斜めに下降してワークを上方から押さえて保持するチャック部材を備えているので、従来技術のようにテーパ面を有する爪部を横方向に移動させてワークの面取り部に押し込めるのとは異なり、本発明は位置決めされた円板形状のワークの上面を押さえるので、円板形状のワークを、傷つけず且つ歪まずに保持することができ、ワークが歪まないのでその後の加工も高い精度で行うことができる。
【0012】
さらに、ワークをセットする際や取り出す際は、上段プレートの傾斜ガイド孔に沿ってチャック部材が平面視で外方に開いて退避するので、チャック部材が邪魔にならず容易にワークをセットと取り出しを行うことができる。このように、本発明のチャッキング位置決め治具は、円板形状のワークを、傷つけず且つ歪まずに保持することができるとともに、高い精度で位置決めして精密加工を施すことができる。
【0013】
好ましくは、前記位置決めピンは、載置された前記ワークの外周面部に接する円柱形状の本体部と、前記本体部の上端に繋がり上方に向けて縮径する第1テーパ部と、前記第1テーパ部の上端に繋がり前記第1テーパ部のテーパ角度よりも大きいテーパ角度の第2テーパ部とを備えている。
【0014】
かかる構成によれば、位置決めピンは、第1テーパ部のテーパ角度よりも大きいテーパ角度の第2テーパ部によりセットする際に大きくずれた位置に入ってきたワークも容易にキャッチして案内することができ、本体部の上端に繋がり上方に向けて縮径する第1テーパ部によりワークの位置決めをほぼ正確な位置にでき、円柱形状の本体部によりワークの外周面部に本体部が平行に接するので、より高い精度で位置決めすることができる。
【0015】
好ましくは、前記上段プレートの上面には、載置された前記ワークを囲う位置に下方に向かってピン孔が形成され、
前記位置決めピンは、前記ピン孔に上下方向移動可能に設けられるとともに、前記ピン孔の底部に設けられ上下方向に伸縮する弾性部材に前記位置決めピンの基端部が支持されている。
【0016】
かかる構成によれば、位置決めピンは、ピン孔に上下方向移動可能に設けられるとともに、ピン孔の底部に設けられ上下方向に伸縮する弾性部材に位置決めピンの基端部が支持されている。これにより、ワークを囲う位置に配置された複数の位置決めピンとワークの間に隙間がないために、ワークが斜めに案内されて位置決めピンとの間で所謂かじり状態になっても、弾性部材に支持された位置決めピンが上下に動くことでワークのかじり状態を解消してスムーズにワークを上段プレートに上面まで案内することができる。結果、ワークをより高い精度で位置決めすることができる。
【0017】
好ましくは、前記チャック部材は、前記傾斜ガイド孔を摺動する摺動部と、前記摺動部の上端に設けられ前記ワークの中心軸側に延出して前記ワークの上面部に当接する爪部と、前記爪部に設けられ先端に向かって幅が小さくなる先細り部と、前記先細り部の中心部に設けられた切り欠きとを備えている。
【0018】
かかる構成によれば、チャック部材は、傾斜ガイド孔を摺動する摺動部と、摺動部の上端に設けられワークの中心軸側に延出してワークの上面部に当接する爪部とを備えているので、円板形状のワークをチャッキングしたときに爪部がワークの外周面部に接触せずに上面部にのみ当接し、ワークを傷つけず且つ歪まずに保持することができる。さらに、爪部には、先端に向かって幅が小さくなる先細り部と、先細り部の中心部に設けられた切り欠きとを備えているので、ワークを押さえる際の力を分散させ、より負荷をかけずにワークを保持することができる。
【0019】
好ましくは、前記チャック部材は、前記摺動部の下端に設けられピン用貫通孔が形成された段部を備え、載置された前記ワークの中心軸に対して平面視で放射線上に複数方向に配置され、
前記段部は、前記チャック部材を一括して昇降させるリンク部材に接続され、
前記リンク部材は、本体となる中央部と、前記中央部から放射状に延出するとともに先端部分に横方向が長径となる長孔が形成された複数のアーム部と、前記長孔の長径方向に移動可能に設けられ前記ピン用貫通孔に挿通された支持ピンとを備え、
前記中央部に前記リンク部材を昇降させるシリンダが接続されている。
【0020】
かかる構成によれば、チャック部材は、載置されたワークの中心軸に対して平面視で放射線上に複数方向に配置されているので、ワークを複数のチャック部材で力を分散させて保持するので、より負荷をかけずにワークを保持することができる。さらに、リンク部材は、中央部から放射状に延出する複数のアーム部に複数のチャック部材をそれぞれ接続し、一つのリンク部材に複数のチャック部材を一括して昇降させるので、複数のチャック部材であってもチャッキング機構を少ない部品点数で且つ小スペースとすることができる。さらに、アーム部の先端部分に横方向が長径となる長孔が形成されているので、ワークを保持するときにチャック部材が傾斜ガイド孔に沿って斜めに下降し、チャック部材の下部に位置する段部に取り付けられた支持ピンが横方向に移動しても、長孔により支持ピンの横方向の移動を吸収することができる。このため、支持ピンの横方向の移動を吸収するための余分なリンク部材を必要とせず、チャッキング機構を少ない部品点数で且つ小スペースとすることができ。位置決め治具自体を小型化することができる。
【0021】
好ましくは、前記上段プレートの下に前記リンク部材が昇降する空間となる空洞部が形成された中段プレートが設けられ、前記中段プレートの下に前記シリンダを支持する下段プレートが設けられている。
【0022】
かかる構成によれば、中段プレートにはリンク部材が昇降する空間となる空洞部が形成され、この空洞部にリンク部材が収納されるので、位置決め治具が加工機の中に配置されても、ワークの加工時にリンク部材をワークの切粉から保護することができ、位置決め治具のチャッキングを正常に機能させ、常に高精度な加工を行うことができる。さらに、上段プレートの下に中段プレート及び下段プレートを配置するだけなので、容易に組付けることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のチャッキング位置決め治具により、円板形状のワークを、傷つけず且つ歪まずに保持することができるとともに、高い精度で位置決めして精密加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1(A)は本発明の実施例に係るチャッキング位置決め治具の斜視図である。図1(B)は実施例に係るチャッキング位置決め治具の断面図である。
図2図2(A)はワークの平面図である。図2(B)はワークの側面図である。
図3】加工機内に配置された実施例に係るチャッキング位置決め治具の断面図である。
図4】実施例に係る台座と支持部材を示す平面図である。
図5】実施例に係る下段プレートの平面図である。
図6】実施例に係る中段プレートの平面図である。
図7図7(A)は実施例に係る上段プレートの平面図である。図7(B)は(A)のII-II線断面図である。図7(C)は(A)のI-I線断面図である。
図8図8(A)は実施例に係るチャック部材の正面図である。図8(B)は実施例に係るチャック部材の右側面図である。図8(C)は実施例に係るチャック部材の平面図である。
図9図9(A)は実施例に係るリンク部材の平面図である。図9(B)は(A)のIII-III線断面図である。図7(C)は実施例に係る支持ピンの正面図である。
図10】実施例に係る位置決めピンの正面図である。
図11】実施例に係るチャッキング位置決め治具の位置決めの作用図である。
図12図12(A)~(C)は比較例に係るチャッキング位置決め治具のチャッキング及びワーク加工の作用図である。図12(D)~(E)は実施例に係るチャッキング位置決め治具のチャッキング及びワーク加工の作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は概念的(模式的)に示す図も含むものとする。
【実施例
【0026】
本発明の実施例に係るチャッキング位置決め治具10で使用されるワーク90の例について説明する。
図2に示されるように、ワーク90は円板形状を呈し、合成樹脂製である。ワーク90は、平面状で真円の上面部92と、上面部92と平行に配置される平面状の下面部93と、上面部92から直角に繋がる外周面部94と、外周面部94と下面部93を繋ぐ面取り部95とを備え、上面部92から下面部93に貫通する貫通孔91が形成されている。
【0027】
ワーク90の直径はD1であり、外周面部94の高さはL1であり、面取り部95の寸法はC1であり、貫通孔91の径はd1である。なお、ワーク90は一例であり、実施例では合成樹脂製としたが、これに限定されず、金属製、木製など、他の材質であっても差し支えない。また、形状や寸法は一例であり、面取り部95がなくてもよく、略円板形状であれば形状は問わない。
【0028】
次に発明の実施例に係るチャッキング位置決め治具10について説明する。
図1図7に示されるように、チャッキング位置決め治具10は、円板形状のワーク90を着脱可能に保持するとともに位置決めする治具である。チャッキング位置決め治具10は、ワーク90が載置されるとともにワーク90の中心軸から外方に向かって外上がりに傾斜する傾斜ガイド孔22が形成された上段プレート20と、上段プレート20に上方に突出して設けられワーク90の外周面部94を案内する位置決めピン70と、上段プレート20の傾斜ガイド孔22に移動可能に設けられ斜めに下降してワーク90を上方から押さえて保持するチャック部材50とを備えている。
【0029】
また、上段プレート20の下にリンク部材60が昇降する空間となる空洞部31が形成された中段プレート30が設けられ、中段プレート30の下にシリンダ11を支持する下段プレート40が設けられ、下段プレート40の下に支持部材15が設けられ、支持部材15の下に台座16が設けられている。上段プレート20の上面21に形成された固定用孔23からプレート用締結部材13を挿通し、上段プレート20、中段プレート30及び下段プレート40が締結されている。
【0030】
次に支持部材15及び台座16について説明する。
図3及び図4に示されるように、台座16は、平面視で矩形状を呈し、台座16の向かい合う端部に支持部材15設けられ、支持部材15に複数のシリンダ11が設けられ、シリンダ11にはジョイント11が設けられている。台座16は、例えば工作機械の中に設置され、ジョイント11には工場内で使用する所謂エアーを供給するためのエアーホースが接続される。また、支持部材15及び台座16には、各種部材を締結するための孔が形成されている。
【0031】
次に下段プレート40について説明する。
図1及び図5に示されるように、下段プレート40は、平面視で矩形状を呈し、シリンダ11のピストン12を挿通するためのシリンダ貫通孔41と、シリンダ11を受けるための受け部42と、位置決めピン70を挿通するためのピン孔43とが複数形成されている。
【0032】
次に中段プレート30について説明する。
図1及び図6に示されるように、中段プレート30は、平面視で矩形状を呈し、平面視で任意の中央部から3方向に延びるアーム溝31aを有する空洞部31と、位置決めピン70を挿通するためのピン孔32と、オイルを補充するためのオイル孔33とが複数形成されている。
【0033】
次に上段プレート12について説明する。
図1及び図7に示されるように、上段プレート20は、平面視で略正方形を呈し、中心を起点に放射状の3方向の所定の位置に傾斜ガイド孔22が形成され、上面21に円板形状のワーク90が載せられる。側面視(断面視)において、傾斜ガイド孔22は、載置されたワーク90の中心軸から外方に向かって外上がりに傾斜している。
【0034】
また、上段プレート20は、この上段プレート20を固定するための固定用孔23と、ワーク90の加工時にドリル80(図12参照)がワーク90を貫通した際の加工工具の逃がし孔24と、位置決めピン70を挿通するためのピン孔43とが複数形成されている。
【0035】
次にチャック部材50について説明する。
図1及び図8に示されるように、チャック部材50は、上段プレート20の傾斜ガイド孔22を摺動する摺動部51と、摺動部51の上端に設けられワーク90の中心軸側に延出してワーク90の上面部92に当接する爪部52と、爪部52に設けられ先端に向かって幅が小さくなる先細り部53と、先細り部53の中心部に設けられた切り欠き54と、摺動部51の下端に設けられピン用貫通孔56が形成された段部55とを備えている。
【0036】
チャック部材50は、載置されたワーク90の中心軸に対して平面視で放射線上に複数方向に配置されている。段部55は、チャック部材50を一括して昇降させるリンク部材60に接続されている。
【0037】
次にリンク部材60について説明する。
図1図6及び図9に示されるように、リンク部材60は、本体となる中央部61と、中央部61から放射状に延出するとともに先端部分に横方向が長径となる長孔65が形成された複数のアーム部63と、長孔65の長径方向に移動可能に設けられチャック部材50のピン用貫通孔56に挿通された支持ピン66とを備え、中央部61にリンク部材60を昇降させるシリンダ11のピストン12が接続されてシリンダ用締結部材13によって締結されている。また、アーム部62の先端部分には、上下方向に貫通する溝部64が形成され、この溝部64に、チャック部材50の段部55が嵌められ支持ピン66によって揺動可能に支持されている。
【0038】
次に位置決めピン70について説明する。
図1図2図10及び図11に示されるように、位置決めピン70は、載置されたワーク90の外周面部94に接する円柱形状の本体部71と、本体部71の上端に繋がり上方に向けて縮径する第1テーパ部72と、第1テーパ部72の上端に繋がり第1テーパ部72のテーパ角度よりも大きいテーパ角度の第2テーパ部73と、本体部71の下端に設けられ本体部71の外径よりも大きい外径のばね座74と、ばね座74の下端に設けられたばね座74の外径よりも小さい外径の基端部75とを備えている。基端部75に弾性部材76が設けられている。なお、弾性部材76は、例えば圧縮ばねであり、圧縮ばねが基端部76に嵌められ、その端部がばね座74に当接している。
【0039】
また、上段プレート20の上面21には、載置されたワーク90を囲う位置に下方に向かってピン孔25が形成され、位置決めピン70は、ピン孔25に上下方向移動可能に設けられるとともに、ピン孔25の底部に設けられ上下方向に伸縮する弾性部材76に位置決めピン70の基端部75が支持されている。
【0040】
次に実施例のチャッキング位置決め治具10の位置決めの作用について説明する。
図11(A)に示されるように、ワーク90をチャッキング位置決め治具10の上段プレート20の上面21へ向けて移動させる。
【0041】
図11(B)に示されるように、想像線で示したワーク90が下端の縁部(面取り部95)が位置決めピン70の第2テーパ部73に案内され、さらに第1テーパ部72に案内され、さらに、実線で示したワーク90のように、ワーク90の外周面部94が位置決めピン70の本体部71に摺動するように移動し、ワーク90の下面部93が上段プレート20の上面21に当接する。このとき、位置決め精度を高くするために、ワーク90の外周面部94と位置決めピン70の本体部71との間には隙間がほとんどないが、ワーク90が位置決めピン70に対して所謂かじり状態になると、弾性部材76の作用により位置決めピン70が矢印(1)のように上下に動くことで、位置決めピン70のかじり状態が解消し、ワーク90がスムーズに位置決めピン70に沿って移動する。
【0042】
図11(C)に示されるように、ワーク90がスムーズに位置決めピン70に沿って移動した結果、ワーク90が確実に上段プレート20に当接し、位置決め精度を高くしてチャッキング位置決め治具10にワーク90をセットすることができる。
【0043】
次に比較例のチャッキング位置決め治具100の位置決めの作用について説明する。
図12(A)に示されるように、比較例のチャッキング位置決め治具100は、ワーク90が載置されるプレート部材101と、このプレート部材101に固定された固定位置決め部材102と、プレート部材101に横方向に移動可能に設けられたスライド位置決め部材103と、スライド位置決め部材103が移動する空間を形成する溝部104と、プレート部材101に螺合して設けられスライド位置決め部材103を移動させるボルト105とを備えている。
【0044】
比較例のチャッキング位置決め治具100では、ワーク90をプレート部材101に置き、ワーク90の一端を固定位置決め部材102に当接させる。次にボルト105を回してスライド位置決め部材103を矢印(2)のように移動させ、ワーク30を挟持する。
【0045】
図12(B)に示されるように、比較例のチャッキング位置決め治具100では、ワーク30がスライド位置決め部材103により矢印(3)の方向に力を受けた状態で保持される。このため、平面視で力が加わらない自由状態では想像線で示す直径D1の真円のワーク90が、横方向に力を受けることにより実線で示す外径W1のワーク90となる。直径D1よりも外径W1は小さくなるが、この状態で加工工具(ドリル)80を矢印(4)のように移動させワーク90に孔加工を施すと、本来の直径D1よりも小さい外径W1の状態のワーク90に直径d1の貫通孔91が形成される。
【0046】
図12(C)に示されるように、比較例のチャッキング位置決め治具100では、スライド位置決め部材103を矢印(5)のように移動させ、ワーク90に加わった力を解放すると、ワーク90が元の大きさに戻る。その結果、ワーク90の貫通孔91が矢印(6)の方向に拡大され、想像線で示す直径d1から、直径d1よりも大きい直径(長径)d2の実線で示す貫通孔91となってしまい、加工精度が低下する。
【0047】
次に実施例のチャッキング位置決め治具10の位置決めの作用について説明する。
図12(D)に示されるように、実施例のチャッキング位置決め治具10では、ワーク90を上段プレート20に位置決めした状態で配置し、チャック部材50を矢印(7)のように移動させワーク90を上方から押さえて保持する。このため、ワーク90の横方向の寸法は変化しない。この状態で加工工具(ドリル)80を矢印(8)のように移動させワーク90に孔加工を施す。
【0048】
図12(E)に示されるように、チャック部材50を移動させ、ワーク90を解放するとワーク90形成された貫通孔91の直径はd1となり、高い精度で加工することができる。
【0049】
次に本発明の効果を説明する。
かかる構成によれば、チャッキング位置決め治具10は、上段プレート20に上方に突出して設けられワークの外周面部を案内する位置決めピン70と、上段プレート20の傾斜ガイド孔22に移動可能に設けられ斜めに下降してワーク90を上方から押さえて保持するチャック部材50とを備えており、ワーク90の位置決めとチャッキング(保持)を別々の部材で行うので、それぞれ機能を高品質で行うことができる。
【0050】
詳しくは、ワーク90の外周面部94を案内する機能をのみを有する位置決めピン70を備えているので、従来技術のように円板形状のワークの上面(面取り部)を上方からテーパ面で押さえるのとは異なり、本発明は円板形状のワーク90の外周面部94を案内することで横方向(一般的な座標でいうXY平面)の位置決めを高い精度で行うことができる。加えて、上段プレート20の傾斜ガイド孔22に移動可能に設けられ斜めに下降してワーク90を上方から押さえて保持するチャック部材50を備えているので、従来技術のようにテーパ面を有する爪部を横方向に移動させてワークの面取り部に押し込めるのとは異なり、本発明は位置決めされた円板形状のワーク90の上面を押さえるので、円板形状のワーク90を、傷つけず且つ歪まずに保持することができ、ワーク90が歪まないのでその後の加工も高い精度で行うことができる。
【0051】
さらに、ワーク90をセットする際や取り出す際は、上段プレート20の傾斜ガイド孔22に沿ってチャック部材50が平面視で外方に開いて退避するので、チャック部材50が邪魔にならず容易にワーク90をセットと取り出しを行うことができる。このように、本発明のチャッキング位置決め治具10は、円板形状のワーク90を、傷つけず且つ歪まずに保持することができるとともに、高い精度で位置決めして精密加工を施すことができる。
【0052】
かかる構成によれば、位置決めピン70は、第1テーパ部72のテーパ角度よりも大きいテーパ角度の第2テーパ部73によりセットする際に大きくずれた位置に入ってきたワーク90も容易にキャッチして案内することができ、本体部71の上端に繋がり上方に向けて縮径する第1テーパ部71によりワーク90の位置決めをほぼ正確な位置にでき、円柱形状の本体部71によりワーク90の外周面部94に本体部71が平行に接するので、より高い精度で位置決めすることができる。
【0053】
かかる構成によれば、位置決めピン70は、ピン孔25に上下方向移動可能に設けられるとともに、ピン孔25、32、43の底部に設けられ上下方向に伸縮する弾性部材(ばね)76に位置決めピン70の基端部75が支持されている。これにより、ワーク90を囲う位置に配置された複数の位置決めピン70とワーク90の間に隙間がないために、ワーク90が斜めに案内されて位置決めピン70との間で所謂かじり状態になっても、弾性部材(ばね)76に支持された位置決めピン70が上下に動くことでワーク90のかじり状態を解消してスムーズにワーク90を上段プレート20に上面21まで案内することができる。結果、ワーク90をより高い精度で位置決めすることができる。
【0054】
かかる構成によれば、チャック部材50は、傾斜ガイド孔22を摺動する摺動部51と、摺動部51の上端に設けられワーク90の中心軸側に延出してワーク90の上面部92に当接する爪部52とを備えているので、円板形状のワーク90をチャッキングしたときに爪部52がワーク90の外周面部94に接触せずに上面部92にのみ当接し、ワーク90を傷つけず且つ歪まずに保持することができる。さらに、爪部52には、先端に向かって幅が小さくなる先細り部53と、先細り部53の中心部に設けられた切り欠き54とを備えているので、ワーク90を押さえる際の力を分散させ、より負荷をかけずにワーク90を保持することができる。
【0055】
かかる構成によれば、チャック部材50は、載置されたワーク90の中心軸に対して平面視で放射線上に複数方向に配置されているので、ワーク90を複数のチャック部材50で力を分散させて保持するので、より負荷をかけずにワーク90を保持することができる。さらに、リンク部材60は、中央部61から放射状に延出する複数のアーム部63に複数のチャック部材50をそれぞれ接続し、一つのリンク部材60に複数のチャック部材50を一括して昇降させるので、複数のチャック部材50であってもチャッキング機構を少ない部品点数で且つ小スペースとすることができる。さらに、アーム部63の先端部分に横方向が長径となる長孔65が形成されているので、ワーク90を保持するときにチャック部材50が傾斜ガイド孔22に沿って斜めに下降し、チャック部材50の下部に位置する段部55に取り付けられた支持ピン66が横方向に移動しても、長孔65により支持ピン66の横方向の移動を吸収することができる。このため、支持ピン66の横方向の移動を吸収するための余分なリンク部材を必要とせず、チャッキング機構を少ない部品点数で且つ小スペースとすることができ。位置決め治具自体を小型化することができる。
【0056】
かかる構成によれば、中段プレート30にはリンク部材60が昇降する空間となる空洞部31が形成され、この空洞部31にリンク部材60が収納されるので、チャッキング位置決め治具10が加工機の中に配置されても、ワーク90の加工時にリンク部材60をワーク90の切粉から保護することができ、チャッキング位置決め治具10のチャッキングを正常に機能させ、常に高精度な加工を行うことができる。さらに、上段プレート20の下に中段プレート30及び下段プレート40を配置するだけなので、容易に組付けることができる。
【0057】
尚、実施例では、リンク部材60をエアーで動くシリンダ11で移動させたが、これに限定されず、電動のアクチュエータでリンク部材60を移動させてもよい。
【0058】
また、実施例では、一つのワーク90に対してチャック部材50を3つとしたが、これに限定されず、チャック部材50を2つ、4つ等としてもよくチャック部材50の数はいずれであってもよい。また、実施例では、一つのワーク90に対して位置決めピン70を3つとしたが、これに限定されず、位置決めピン70を4つ、5つ等としてもよく位置決めピン70の数はいずれであってもよい。
【0059】
即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の技術は、円板形状のワークを着脱可能に保持するとともに位置決めするチャッキング位置決め治具に好適である。
【符号の説明】
【0061】
10… チャッキング位置決め治具
20… 上段プレート(支持プレート)
21… 上面
22… 傾斜ガイド孔
25… ピン孔
30… 中段プレート(支持プレート)
31… 空洞部
31a…アーム溝
32… ピン孔
40… 下段プレート(支持プレート)
41… シリンダ貫通孔
43… ピン孔
50… チャック部材
51… 摺動部
52… 爪部
53… 先細り部
54… 切り欠き
55… 段部
56… ピン用貫通孔
60… リンク部材
61… 中央部
63… アーム部
64… 溝部
65… 長孔
66… 支持ピン
70… 位置決めピン
71… 本体部
72… 第1テーパ部
73… 第2テーパ部
74… ばね座
75… 基端部
76… 弾性部材(圧縮ばね、ばね)
80… 加工工具(ドリル、リーマ)
90… ワーク(円板形状のワーク)
91… 貫通孔
92… 上面部
93… 下面部
94… 外周面部
100… 袋受け機構
【要約】
【課題】円板形状のワークを、傷つけず且つ歪まずに保持することができるとともに、高い精度で位置決めして精密加工を施すことができるチャッキング位置決め治具を提供する。
【解決手段】チャッキング位置決め治具10は、円板形状のワーク90を着脱可能に保持するとともに位置決めする治具である。チャッキング位置決め治具10は、ワーク90が載置されるとともにワーク90の中心軸から外方に向かって外上がりに傾斜する傾斜ガイド孔22が形成された上段プレート20と、上段プレート20に上方に突出して設けられワーク90の外周面部94を案内する位置決めピン70と、上段プレート20の傾斜ガイド孔22に移動可能に設けられ斜めに下降してワーク90を上方から押さえて保持するチャック部材50とを備えている。
【選択図】図1
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図2
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図10
図11
図12