(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】タオル生地及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 27/00 20060101AFI20240910BHJP
A47K 10/02 20060101ALI20240910BHJP
D02G 3/26 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
D03D27/00 A
A47K10/02 C
D02G3/26
(21)【出願番号】P 2024095433
(22)【出願日】2024-06-12
【審査請求日】2024-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722004388
【氏名又は名称】伊澤タオル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正司
(72)【発明者】
【氏名】増田 芳治
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特許第7372718(JP,B1)
【文献】特開2022-26952(JP,A)
【文献】特開平6-25938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
A47K10/02
D02G1/00-3/48;D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成されるタオル生地であって、
前記パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつ平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とし、
前記パイル糸はサイロスパン糸の無撚り又は甘撚りの単糸であり、
前記経地糸及び緯地糸は平均繊維長34.8~44.5mm、マイクロネア3.0~4.1μg/インチの超長繊維綿を使用したリング精紡糸であり、
前記パイル糸と経地糸及び緯地糸は糸晒しされていることを特徴とするタオル生地。
【請求項2】
前記サイロスパン糸の番手は英式綿番手で5~100番である請求項1に記載のタオル生地。
【請求項3】
前記サイロスパン糸の撚り係数Kは0~3.5である請求項1に記載のタオル生地。
但し、撚り係数(K)は下記式(数1)で算出する。
【数1】
但し、t:撚回数(回/25.4mm)、S:英式綿番手
【請求項4】
前記サイロスパン糸の撚り方向は、複数本の粗糸の一次撚り方向と逆方向に、かつ一次撚りの撚り数と同じか又は多い二次撚りが加えられている請求項1に記載のタオル生地。
【請求項5】
前記サイロスパン糸は、2本サイロスパン糸又は3本(トリプル)サイロスパン糸である請求項1に記載のタオル生地。
【請求項6】
前記経地糸及び緯地糸の番手は英式綿番手で10~50番である請求項1に記載のタオル生地。
【請求項7】
前記経地糸及び緯地糸の撚り係数Kは3.5~4.5番である請求項1に記載のタオル生地。
但し、撚り係数(K)は前記式(数1)で算出する。
【請求項8】
前記パイル糸はコーマ糸である請求項1に記載のタオル生地。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のタオル生地の製造方法であって、
パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつコーミング処理により平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とし、
前記パイル糸はトリプルサイロスパン糸であり、撚り方向は、3本の粗糸の一次撚り方向と逆方向に、かつ一次撚りの撚り数と同じか又は多い二次撚りを加えて無撚り又は甘撚りの単糸とし、
前記パイル糸、経地糸及び緯地糸は糸晒し処理しておき、
ジャガード織機に前記パイル糸、経地糸及び緯地糸を供給して、タオル織物生地を製造することを特徴とするタオル生地の製造方法。
【請求項10】
前記糸晒し処理の後、糸染めする請求項9に記載のタオル生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル糸にサイロスパン(siro spun)を使用したタオル生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タオル生地は、パイル糸と経地糸、及び緯地糸を使用し、パイル織物とするのが基本である。また、タオル生地は吸水性を良好にするため、比較的目付(単位面積当たりの質量)が高く、構成糸も太く繊度の高い糸が使用されている。
特許文献1には合成繊維のサイロスパン糸を使用してパイル用杢糸とすることが提案されている。特許文献2~3には、甘撚りのサイロスパン糸を使用してパイル編地とすることが提案されている。本発明者は特許文献4において、無撚り又は甘撚りのサイロスパン糸をパイル糸に使用したタオル生地を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-088440号公報
【文献】特開2019-137941号公報
【文献】特開2019-137942号公報
【文献】特許第7372718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術はパイルの立毛性、ソフトで膨らみのある風合いに関して問題があり、さらなる改良が求められていた。
【0005】
本発明は従来にない高級なタオル地とすることを目的に鋭意検討した結果、糸むらが少なく、織り上がり状態のタオル生地のパイルの立毛性、ソフトで膨らみのある風合い、吸水性等をそのまま保持したタオル生地及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成されるタオル生地であって、前記パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつ平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とし、前記パイル糸はサイロスパン糸の無撚り又は甘撚りの単糸であり、前記パイル糸と経地糸及び緯地糸は糸晒しされているタオル生地に関する。
【0007】
本発明の別の実施形態は、前記のタオル生地の製造方法であって、パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつコーミング処理により平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とし、前記パイル糸はサイロスパン糸であり、前記サイロスパン糸の撚り方向は、3本の粗糸の一次撚り方向と逆方向に、かつ一次撚りの撚り数と同じか又は多い二次撚りを加えて無撚り又は甘撚りの単糸とし、前記パイル糸、経地糸及び緯地糸は糸晒し処理しておき、ジャガード織機に前記パイル糸、経地糸及び緯地糸を供給して、タオル織物生地を製造するタオル生地の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタオルは、パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつ平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とし、パイル糸はサイロスパン糸の無撚り又は甘撚りの単糸であり、パイル糸と経地糸及び緯地糸は糸晒しされていることにより、糸むらは少なく、織り上がり状態のタオル生地のパイルの立毛性、ソフトで膨らみのある風合い、吸水性等をそのまま保持したタオル生地及びその製造方法を提供できる。すなわち、コットン中繊維綿又は長繊維綿の短繊維を特定の割合でカットすると糸むらを少なくでき、織り上がった後のタオル生地は、後晒しも後染もせず、洗濯、乾燥後の状態のタオル生地製品にする。その結果、織り上がり状態のタオル生地の品質がそのまま製品の品質となり、高品位なタオル地となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態のトリプルサイロスパン紡績装置の模式的斜視図である。
【
図2】
図2Aは本発明の一実施形態におけるタオル生地の模式的説明図、
図2Bは同織物組織図である。
【
図3】
図3Aは本発明の別の実施形態におけるタオル生地の模式的説明図、
図3Bは同織物組織図である。
【
図4】
図4は本発明の一実施例で使用するカードスライバー(繊維束)のステープルダイアグラムである。
【
図5】
図5は本発明の一実施例で使用するコーマ1回処理のスライバー(繊維束)のステープルダイアグラムである。
【
図6】
図6は本発明の一実施例で使用するコーマ2回処理のスライバー(繊維束)のステープルダイアグラムである。
【
図7】
図7は本発明の実施例1のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【
図8】
図8は比較例1のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【
図9】
図9は比較例2のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【
図10】
図10は本発明の実施例1のタオル生地の平面写真(倍率10倍)である。
【
図11】
図11は比較例1のタオル生地の平面写真(倍率10倍)である。
【
図12】
図12は比較例2のタオル生地の平面写真(倍率10倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成されるタオル生地である。タオル生地の構成糸の約7割占めるパイル糸は、パイルの立毛性、タオル生地の風合いおよび毛羽落ち等の機能性を左右する重要な糸である。この前記パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつ平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とする。これにより、紡績糸のむらは低くなり、高品質の糸となる。パイル糸の繊維材料の平均繊維長28.6~34.7mm、繊度:マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿は、クリンプが多くクリンプ強度も高いので、本発明のサイロスパン紡績糸に適用すると、一次撚りの撚り癖及び一次撚りのマイグレーション(単繊維が内部に入りこんだり外側に出て撚られている現象)が残り易く、繊維同士が絡み合い易く、かつ無撚り糸か又は甘撚り糸であるため、各構成繊維はフリー状態で存在する。前記「コットン長繊維綿」とは、下記の表1に示す「長繊維綿」のことで、国際的にも認められている。
【0011】
本発明のパイル糸はサイロスパン糸の無撚り又は甘撚りの単糸である。すなわち、複数本の粗糸の一次撚り方向と逆方向に、前記一次撚りの撚り数と同じか又は多い二次撚りを加えている。これにより、次の効果が得られる。
(1)毛羽落ちが少ない。
(2)かさ高い。
(3)洗濯前の大きな膨らみ、ふんわり感が高い。
(4)洗濯後に膨らみが損なわれにくく、洗濯劣化が起こりにくい。
(5)濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地がある。
(6)洗濯による寸法変化が起こりにくい(縮みにくい)。
(7)乾燥性が良い。
【0012】
本発明のタオル生地の構成糸(パイル糸と経地糸及び緯地糸)は糸晒しされている。これにより、織り上がり状態のタオル生地の品質がそのまま製品の品質となり、高品位なタオル地となる。
【0013】
本発明はパイル糸としてサイロスパン糸を使用する。サイロスパン糸とは、2本又は3本の粗糸を一定間隔で別々にドラフトした後、一緒に撚り合わせて双糸又は3個撚り糸のような状態の糸としたものである。サイロスパン糸は複数本の糸を合撚した双糸又は3個撚り糸と比べて糸表面の繊維が規則正しく配列しており、毛羽は少ない。このため、単糸でパイル糸として使用できる。また、サイロスパン糸特有の糸構造により、無撚り糸か又は甘撚り糸としても、繊維同士の絡み合いがあり、巻き取りに支障なく、製織中の糸切れなども起こりにくく織物工程通過性も良好である。
【0014】
前記サイロスパン糸の番手は英式綿番手で5~100番であるのが好ましい。薄地は100~40番手の細いものが、中厚地は30~16番手が、厚地は12~5番手の太い物が好ましく適用できる。
【0015】
本発明のサイロスパン紡績糸は撚り係数Kが0~3.5であるのが好ましく、より好ましい撚り係数Kは0~3.3であり、さらに好ましい撚り係数Kは0~3.0である。但し、撚り係数Kは下記式(数1)で算出する。
【数1】
但し、t:撚回数(回/25.4mm)、S:綿番手(英式綿番手)
これにより、パイル糸は無撚り糸か又は甘撚り糸となる。
【0016】
サイロスパン紡績糸は、複数本の粗糸の一次撚り方向と逆方向に、一次撚りの撚り数と同じか又は多い二次撚りが加え、無撚り又は甘撚りとするのが好ましい。例えば2本又は3本の粗糸の一次撚り方向がともにZ方向であれば二次撚りはS方向であり、二次撚り数は一次撚りの撚り数と同じか又は一次撚りの撚り数より多くする。これにより、各構成繊維はよりフリー状態で存在するため、立毛性は良好であり、ソフトで膨らみのある風合いのパイル糸となる。ここで、無撚りとは前記撚り係数Kがゼロの場合であり、甘撚りとは前記撚り係数Kがゼロを超え3.3以下をいう。
【0017】
サイロスパン糸は、2本サイロスパン糸又は3本(トリプル)サイロスパン糸が好ましく、より好ましくは糸断面が丸い状態の3本(トリプル)サイロスパン糸である。サイロスパン糸は、綿100%であるのが好ましい。綿100%であれば、ソフトで膨らみのある風合いがあり、吸水性を兼備できる。
【0018】
経地糸及び緯地糸は平均繊維長34.8~44.5mm、繊度:マイクロネア3.0~4.1μg/インチの超長繊維綿を使用したリング精紡糸であるのが好ましい。経地糸及び緯地糸は英式綿番手が10~50番の細番手が好ましい。パイル糸は、経地糸及び緯地糸で構成される地組織に係止されながらループパイルを形成するため、経地糸及び緯地糸が超長繊維綿でかつ細番手であればパイル糸の係止力を高くでき、パイル抜けを防止できる。さらに風合いも良好となる。前記「超長繊維綿」とは、下記の表1に示すとおりであり、国際的にも認められている。
【0019】
【0020】
経地糸及び緯地糸の撚り係数Kは3.5~4.5番が好ましく、より好ましくは3.7~ 4.2番であり、さらに好ましくは3.8~4.0番である。但し、撚り係数(K)は前記式(数1)で算出する。これにより、糸強力を高くでき、タオルの耐久性を長くできる。
【0021】
パイル糸はコーマ糸とするのが好ましい。これにより、平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下にすることができる。また、本発明のパイル糸は経パイル糸と緯パイル糸の両方に使えるが、どちらかというと経パイル糸に使用するのが好ましい。
【0022】
本発明のタオル生地の製造方法は下記の工程を含む。
(1)パイル糸のコットン長繊維綿のコーミング工程
パイル糸の繊維材料として、平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿を使用し、コーミング処理により平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とする。コーミング処理(コーマ工程)は2回とするのが好ましく、このとき、コーマの針本数を増やし、ラップのゲレンを出来るだけ薄く調整し、通常の1/3程度のスピードでゆっくり行う。これにより、平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4質量%以下にすることができる。
(2)パイル糸の精紡工程
サイロスパン精紡機を使用し、2本又は3本の粗糸の一次撚り方向と逆方向に、かつ一次撚りの撚り数と同じか又は多い二次撚りを加えて無撚り又は甘撚りの単糸とする。サイロスパン糸の撚り係数Kは0~3.5とするのが好ましい。
(3)経地糸及び緯地糸の精紡工程
経地糸及び緯地糸の繊維材料として、平均繊維長34.8~44.5mm、繊度:マイクロネア3.0~4.1μg/インチのコットン超長繊維綿を使用し、リング精紡機により精紡糸とする。経地糸及び緯地糸は英式綿番手が10~50番の細番手が好ましい。
(4)パイル糸、経地糸及び緯地糸の糸晒し工程
パイル糸、経地糸及び緯地糸は糸晒し処理する。糸晒しとは、紡績糸の状態で精練、漂白することである。白物の場合は糸晒しだけでもよいし、白色染料及び/又は蛍光染料で染色してもよい。色物の場合は、糸晒しの後に染色工程を加えてもよい。染色は反応染料で温度60~80℃、20~60分程度が好ましい。
(5)織物の製織工程
ジャガード織機にパイル糸、経地糸及び緯地糸を供給して、一例として3本よこタオル組織(3ピック・テリー・モーション組織)又は4本よこタオル組織(4ピック・テリー・モーション組織)のタオル生地を製織する。好ましくは4本よこタオル組織である。4本よこタオル組織は3本よこタオル組織に比べてパイル糸が地組織に固定され、毛羽落ち率が低くなり、かつパイルの立毛性が良いことから、かさ高く、ボリュームも高く、風通しが良くなって早く乾くという利点がある。織り上げた後、生地反で洗濯、乾燥して後、縁縫いしてタオル製品にした。織り上げた後に精練、漂白をすると、水中で揉み加工が入るため、ループが潰れたり乱れなどが起こり好ましくない。
【0023】
本発明のタオル生地の製造方法は下記の作用・効果がある。
(1)二次撚りを掛けているが、一次撚りの撚り癖が残っており、一次撚りのマイグレーションも残っており、繊維同士の絡み合いがあり、かつ無撚り糸か又は甘撚り糸であるため、各構成繊維はフリー状態で存在し、立毛性は良好であり、ソフトで膨らみのある風合いのパイル糸となる。ソフトで膨らみのある風合いなので、肌に柔らかく接触でき、汗や水分を効率よくふき取ることができる(風合い効果、ふき取り効果)。
(2)パイル糸は無撚り糸か又は甘撚り糸であるため、構成繊維は水分の吸収がしやすくなり、同時にこの膨らみで空気の移動が活発になって通気性が高くなる(吸水性効果、通気効果)。
(3)構成繊維の絡み合いにより、毛羽落ちが改善でき(毛羽落ち改善効果)、洗濯による風合いの変化が少なく、当初のソフトで膨らみのある風合いが維持される(洗濯の風合い耐久性効果)。
(4)紡績糸を製造する際には水溶性繊維(例えば水溶性ビニロン)などを使用する必要がなく、その分コストを安くできる。また、水溶性繊維(例えば水溶性ビニロン)などを使用し、生地になった後にこれらを除去すると、織上がりの高い品質が低下する。
(5)紡績糸を製造する際に水溶性繊維(例えば水溶性ビニロン)などを使用する必要が無いので、それらを含んだ工場排水による環境負荷を低減することができる。
【0024】
本発明のタオルは、バスタオル(湯上りタオル)、浴用タオル、寝具用肌掛けタオル、フェイスタオル、タオルハンカチ(タオルチーフ)、おしぼりタオル、ウォッシュタオル、ハンドタオル、バスマット、スポーツタオル、ビーチタオル(ボディタオル)等に好適である。毛羽落ち性、吸水性等の要求特性に合わせて、生地の混率、糸種、糸使い、単位当たりの質量(目付)等を適宜設定する。目付の制御はパイル糸のパイル長(長~短)を変更して、目付(大~小)に制御することができる。ここで、本発明の効果を発揮できる好ましい目付を例示するならば、薄地は目付が100~250g/m2のものが、中厚地は目付が250~500g/m2のものが、厚地は500~1000g/m2のものが好適である。なお、100g/m2に満たないものは薄くカサがなく、また、1000g/m2を超えるものは厚すぎて重く、いずれも好ましくない。
【0025】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態のトリプルサイロスパン紡績装置の模式的斜視図である。このトリプルサイロスパン紡績装置10は、クリール(粗糸供給具)には1錘に対して3本の粗糸ボビン11a,11b,11cが吊下され、3本の粗糸ボビン11a,11b,11cから供給される粗糸12a,12b,12cはバックローラ14の上流側(粗糸ボビン側)に設けられた3口トランペットガイド13を通って並行状にドラフト装置15へ送られる。粗糸12a,12b,12cは所定間隔を隔てた状態でバックローラ14とエプロン16の間、及びエプロン16とフロントローラ17の間でそれぞれドラフトされてフリース18a,18b,18cとされる。フリース18a,18b,18cはフロントローラ17から紡出され、スピンドル21の回転による撚りかけ機構によりフロントローラ17の下流で交撚されて1本の紡績糸19とされ、スネルワイヤ20、トラベラ21を経てボビン22に巻き取られる。例えば3本の粗糸12a,12b,12cの一次撚りの撚り方向をともにZ方向とし、スピンドル21による撚り掛け方向をS方向とし、解撚方向に撚る。また、スピンドル21による撚り数(二次撚り数)を一次撚りの撚り数と同じか又は一次撚りの撚り数より多くし、無撚り又は甘撚り糸とする。
【0026】
図2Aは本発明の一実施形態のタオル生地1の模式的説明図である。このタオル生地1は、経パイル糸2a,2bと、緯地糸3と、経地糸4a,4bで構成され、経パイル糸2a,2bは、緯地糸3と経地糸4a,4bで構成される地組織に係止されながらループパイルを形成する。得られたタオル生地1は、所定の大きさに切断され、端部処理されてタオルとなる。
図2Bは前記タオル生地の織物組織図である。この織物組織は、3本よこタオル組織(3ピック・テリー・モーション組織)である。経パイル糸は緯地糸を3本打ち込むごとに1回交差させる。経地糸Gと経パイル糸Pは交互に配置する。緯糸の1~3は順番を示す。
図2Bにおいて、経糸から見て、黒と×は浮き糸を示し、白は沈み糸を示す。
【0027】
図3Aは本発明の別の実施形態のタオル生地1の模式的説明図である。このタオル生地1は、経パイル糸2a,2bと、緯地糸3と、経地糸4a,4bで構成され、経パイル糸2a,2bは、緯地糸3と経地糸4a,4bで構成される地組織に係止されながらループパイルを形成する。得られたタオル生地1は、所定の大きさに切断され、端部処理されてタオルとなる。
図3Bは前記タオル生地の織物組織図である。この織物組織は、4本よこタオル組織(4ピック・テリー・モーション組織)である。経パイル糸は緯地糸を4本打ち込むごとに1回交差させる。経地糸Gと経パイル糸Pは交互に配置する。4本よこタオル組織は3本よこタオル組織に比べてパイル糸が地組織に強固に固定され、毛羽落ち率が低くなり、かつパイルの立毛性が良いことから、かさ高く、ボリュームも高く、風通しが良くなって早く乾くという利点がある。緯糸の1~4は順番を示す。
図3Bにおいて、経糸から見て、黒と×は浮き糸を示し、白は沈み糸を示す。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<仕上げタオル生地の風合いの評価>
(1)ソフトな風合いの評価
風合いのソフトさをタオル生地1g当たりの体積で表す、次式のカサ高度で求める。
値が高いほどソフトな風合いであり、良好である。なお、厚みはJIS L 1096(2010)8.5 かさ高性試験に従って測定し、目付は1m角の重さを精秤した。測定個所は5ヶ所でその平均値で表した。
カサ高度(cm3/g)=厚み(mm)/目付(g/m2)×1000
(2)膨らみのある風合いの評価
タオル生地を圧縮測定器:KES-G5(カトーテック社製)を用い、一定の速度で圧縮させてその圧縮仕事量:WC=(gf.cm2)を求めた。測定個所は5ヶ所でその平均値で表した。
WC値は生地に圧縮させた時の(エネルギー)で、値が大きいほどタオルがよく圧縮され、大きな膨らみ、ふんわり感が高いことを示し、良好である。
(3)風合いの洗濯耐久性評価
タオル生地を洗濯機でJIS L 0217(1995)、103法に従って30回洗濯した。乾燥後、前記圧縮仕事量:WC=(gf.cm2)を測定、測定個所は5ヶ所でその平均値で表した。洗濯前後のWC値の差が小さいほど、洗濯による膨らみのある風合いの低下が少なく、耐久性があり、良好である。
(4)洗濯での水切り性の評価
幅35cmのタオル生地を80gになるように長さをカットし、それを小数点1桁までの重さを精秤し、これを水に20分浸漬した。その後濡れたタオル生地を取り上げて、洗濯機の脱水槽で4分間、遠心脱水し、重さを精秤、次式でタオル生地の残留水分率(%)を求めた。値が小さいほど水切り性が良好である。水切り性が良いほどその後の乾燥速度が速くなる傾向を示す。測定数は3点でその平均値で表した。
生地の残留水分率(%)=(水に浸漬し、脱水した後の生地の重さ(W1))-(水に浸漬する前の生地の重さ(W0))/(水に浸漬する前の生地の重さ(W0))×100
(5)乾燥性評価
前記(4)の洗濯での水切り性の評価で作成した脱水後の濡れたタオル生地を使用して吊干し乾燥し、生地重量を乾燥時間として30分ごとに測定し、生地の残留水分率が10%になるまでの所要時間を按分して算出した。試験環境は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHとした。
(6)タオル地の洗濯による毛羽落ち性評価
洗濯による毛羽落ちはJIS L0217(1995)、103法に従って測定した。毛羽落ち率(%)は次式で求め、値が小さいほど毛羽落ちが少なく、良好である。測定数は5点でその平均値で表した。
毛羽落ち率(%)=(洗濯後に脱落した毛羽の重さ(g1))/(洗濯前のタオルの重さ(g0))×100
(7)吸水性評価(改良ラローズ法)
JIS L 1907(2010)の改良ラローズ法に従って5回測定し、その平均値を求めた。ラローズ指数(吸水指数)は下記式に従って算出した。
ラローズ指数(吸水指数)=2545V×1411W+79
V:最大吸水速度(ml/s)、W:最大吸水速度時点の吸水量(ml)
値が高いほど皮膚に付いている水分を素早く、且つ沢山の水分量を吸収するので、好ましい。
(8)寸法変化率
JIS L 1096(2010)8,39,6 G法(パルセーター型家庭用電気洗濯機法)に準じて実施した。すなわち、未洗濯時に測った寸法(L1,mm)と洗濯とタンプル乾燥30回後に測った寸法(L2,mm)から、下記の式で算出した。
寸法変化率(ΔL%)=[(L2-L1)/L1]×100
(9)吸水速度(滴下法)
タオル地の吸水速度の測定はJIS L 1907(2010)の滴下法;ヴューレット法に基づいて評価した。試験の概要は水滴1滴を10cmの高さからタオル地に滴下し、水滴の鏡面が消失する吸水時間(秒)を3回測定し、その平均値を求めた。時間が短いほど吸水が速く、良好である。
<濡れ戻り率試験方法>
水の濡れ戻り率とは、本出願人が提案した特許第6991633号公報に記載されており、生地の試験検体に水滴を落とし吸収させ、濾紙で水分を吸い取り、生地が水分を離さない特性、すなわち水の濡れ戻り率として評価することにより、タオルなどの繊維製生地の使用時に人が感じる吸水性の良し悪しの評価と合致する試験方法である。水の濡れ戻り率は低いほど、生地の吸水性は大きく、優れていると評価できる。
(1)試験環境、その他の条件
・試験環境は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHとした。
・濾紙は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHで24時間以上保管したものを使用した。
・試験検体は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHで24時間以上保管したものを使用した。
・滴下する水は温度20±15℃、(5~35℃)を使用した。
(2)操作手順
・繊維製タオル生地の試験検体の大きさは縦10cm、横10cmとした。試験検体は試料台に置いた。
・濾紙はJIS P 3801(1976)1種規格のαセルロースを原料とする直径110mm、厚さ0.22mmを使用し、濾紙の重量を計った。濾紙はアドバンテック社製、商品名”円形定性濾紙No.1”を使用した。
・ピペットに水量0.8mlを計り、試験検体に落とし、5秒待機して試験検体に吸水させた。
・濾紙を置いて、その上から1.3kg(1274Pa)の荷重を載せた。
・5秒待機して荷重を外した。
・吸水後の濾紙の重量を計った。
(3)水の濡れ戻り率の算出
下記の式により算出した。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
<パイルの立毛性>
光学顕微鏡でタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)により観察した。
<スライバーの特性>
JIS L 1019(2006)に従って測定した。
<その他の物性>
当業界で使用されている測定方法に従って測定した。
【0029】
(実施例1)
(1)経パイル糸
経パイル糸の繊維材料として、平均繊維長30.5mm、マイクロネア5.6μg/インチの綿を使用し、カード機に掛けた後にコーミング処理(コーマ工程)を2回とし、このとき、コーマの針本数を増やし、ラップのゲレンを出来るだけ薄く調整し、通常の1/3程度のスピードでゆっくり処理した。これにより、平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を3.8質量%にした。各工程後の有効繊維長と短繊維含有率及びカット率を表2に示す。また各スライバー(繊維束)のステープルダイアグラムを
図4~6に示す。
【0030】
【0031】
(2)経パイル糸の精紡
図1に示すトリプルサイロスパン紡績装置を使用して経パイル糸を製造した。3本の粗糸12a,12b,12cの一次撚りの撚り方向をともにZ方向とし、スピンドル21による撚り掛け方向をS方向とし、解撚方向に撚った。粗糸の繊度は5g/6ヤード(9113decitex)、粗糸のZ方向撚り数5回/インチ(綿番手換算の撚り係数K=1)とした。得られた紡績糸は綿番手16.1番、撚り数11.5回/インチ(撚り係数K=2.875)であった。得られた経パイル糸の物性を表3に示す。
(3)経地糸及び緯地糸の精紡
経地糸及び緯地糸の繊維材料として、平均繊維長36.5mm、繊度:マイクロネア3.5μg/インチの綿(コットン超長繊維綿)を使用し、リング精紡機により精紡糸とした。英式綿番手は20番、撚り係数Kは3.8とした。
(4)パイル糸、経地糸及び緯地糸の糸晒し工程
パイル糸、経地糸及び緯地糸は糸晒し処理した。常法に従って、98℃、キープ時間50分、希苛性ソーダ、アルコールエトキシレート添加浴で精練し、次いで98℃、キープ50分の過酸化水素浴で漂白し、次いで95℃、100m/minでサイジングし、次いで120℃乾燥によって仕上げた(オフホワイト仕上げ)。
(5)織物の工程
ジャガード織機にパイル糸、経地糸及び緯地糸を供給して、
図3A-Bに示す4本よこタオル組織(4ピック・テリー・モーション組織)のタオル生地を製織した。織り上げた後、生地反で洗濯、乾燥して後、縁縫いしてタオル製品にした。パイル長は1.18cmであった。その他の物性は表4に示す。
【0032】
(比較例1)
経パイル糸としてカードスライバーを粗糸にした以外は、実施例1と同様に実施した。
【0033】
(比較例2)
経パイル糸として糸晒処理をせず、織物とした後に晒処理した以外は、実施例1と同様に実施した。
以上の経パイル糸の結果を表3に、タオル生地の結果を表4に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
表4から明らかなとおり、実施例1のタオル生地は比較例1及び比較例2に比べて、下記の効果が確認できた。
(1)毛羽落ちが少ない。
(2)かさ高い。
(3)洗濯前の大きな膨らみ、ふんわり感が高い。
(4)洗濯後に膨らみが損なわれにくく、洗濯劣化が少ない。
(5)濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地がある。
(6)洗濯による寸法変化が起こりにくく、縮みにくい。
(7)乾燥性が良く、残留水分率10%以下となる所要時間が短い
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のタオル生地は、バスタオル(湯上りタオル)、浴用タオル、寝具用肌掛けタオル、フェイスタオル、タオルハンカチ、スポーツタオル、バスローブ、タオルケットなどの生地、衣類、靴下、敷物、寝具類などにも好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 タオル生地
2a,2b 経パイル糸
3 緯地糸
4a,4b 経地糸
10 サイロスパン紡績装置
11a,11b,11c 粗糸ボビン
12a,12b,12c 粗糸
13 トランペットガイド
14 バックローラ
15 ドラフト装置
16 エプロン
17 フロントローラ
18a,18b,18c フリース
19 紡績糸
20 スネルワイヤ
21 スピンドル
22 ボビン
【要約】
【課題】糸むらが少なく、織り上がり状態のタオル生地のパイルの立毛性、ソフトで膨らみのある風合い、吸水性等をそのまま保持したタオル生地及びその製造方法を提供する。
【解決手段】パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成され、前記パイル糸の繊維材料は平均繊維長28.6~34.7mm、マイクロネア4.1~5.8μg/インチのコットン中繊維綿又は長繊維綿であり、かつ平均繊維長17mm以下の短繊維含有率を10質量%以下とし、サイロスパン糸の無撚り又は甘撚りの単糸であり、パイル糸と経地糸及び緯地糸は糸晒しされている。
【選択図】
図1