(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】HGF産生促進剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240910BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240910BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20240910BHJP
A61K 36/12 20060101ALI20240910BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20240910BHJP
A61K 36/63 20060101ALI20240910BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240910BHJP
A61K 38/18 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P1/16
A61P43/00 105
A61K36/258
A61K36/12
A61K36/28
A61K36/63
A61P43/00 121
A61K36/185
A61K38/18
(21)【出願番号】P 2023003490
(22)【出願日】2023-01-13
【審査請求日】2024-02-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591068780
【氏名又は名称】株式会社ウメケン
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンディ チェンダナ チン
(72)【発明者】
【氏名】長岡 武馬
(72)【発明者】
【氏名】張 燃
(72)【発明者】
【氏名】西澤 幹雄
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3213508(JP,U)
【文献】特開2019-099504(JP,A)
【文献】特開2009-269927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハス胚芽、オタネニンジン、タチアワユキセンダングサ、スギナ、ヨモギ及びネズミモチの混合物の抽出物で
あって、
前記植物は、乾燥重量として、ハス胚芽10mg~10g重量部、オタネニンジン10mg~10g重量部、タチアワユキセンダングサ10mg~10g重量部、スギナ10mg~10g重量部、ヨモギ10mg~10g重量部及びネズミモチ10mg~10g重量部の混合抽出物であることを特徴とするHGF産生促進剤。
【請求項2】
ハス胚芽、オタネニンジン、タチアワユキセンダングサ、スギナ、ヨモギ及びネズミモチの混合物に対して、指定溶媒を1倍~100倍量で抽出することを特徴とする
請求項1記載のHGF産生促進剤を製造する製造方法。
【請求項3】
前記指定溶媒が、水又はエタノールを含む溶媒であることを特徴とする
請求項2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、諸疾患の改善に有効であるHGF(肝細胞増殖因子:Hepatocytes Growth Factor、以下HGFと略する)産生促進作用を有するHGF産生促進剤に関する。更に詳しくは、ハス胚芽、オタネニンジン、タチアワユキセンダングサ、スギナ、ヨモギ及びネズミモチの混合抽出物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HGFは、初代培養肝細胞の増殖を強く促進する因子として精製されたサイトカインであり、肝臓再生力を支える必要な肝再生因子である。HGFは分子量が約9万の一本鎖のタンパク質である。
【0003】
HGFは、間葉細胞によって分泌され、多機能サイトカインとして、主に上皮由来細胞に対して作用する。HGFが、細胞増殖促進、細胞死抑制、組織修復、形態形成、血管新生、腫瘍伝播、ウィルス感染の免疫調節、及び心血管代謝活動を担う多様な機能を持っており、様々な疾患を対象に治療応用のための研究開発が進められてきた。
【0004】
HGFは多彩な生理機能を有することが知られている。HGFが、肝臓、心臓、血管、脳、腎臓、消化器、皮膚、肺、及び神経等様々な組織や器官に対して再生又は保護作用を有しており、またこれらの組織や器官における諸疾患の改善にも有効であることが多数報告されている。HGFタンパク量を増やすことで、健康維持に役立つと期待できるため、現在HGFを外因的に補充し、様々の疾病の治療に用いられるように試みるなどの取り組みが行われている。また、HGF産生促進作用を有している食品や生薬などの研究も進められている。
【0005】
これまで、ガゴメコンプ由来フコイダン(特許文献1)、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及びアンジオテンシンII受容体拮抗薬(特許文献2)及び生薬の混合物(特許文献3)が、HGF産生促進剤として知られている。一方、冬虫夏草粉砕物及びその抽出成分(特許文献4)、ニガウリ加工物の有効成分(特許文献5)から得られた成分が、HGF産生促進活性を有することが分かってきた。また、プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤の一種である8-Bromo-cAMPにHGF産生促進作用が確認され、研究時に陽性対照としてよく使われている(非特許文献1)。
【0006】
ハス胚芽は、インド原産のハス科多年生水性植物であるハスの実の殻を除いた微小部分である。発芽成長に必要な成分を凝縮していると言われる。ハス胚芽抽出物の薬理作用を明らかにする研究は数多く行われ、抗肥満作用、抗がん作用、抗炎症作用が確認されている。
【0007】
オタネニンジンは学名がPanax ginseng C.A.Mey.である。ニンジンの有効成分には、非常に高い滋養強壮の効果があり、また記憶過程の改善、抗ストレス、消化管運動亢進、ストレス性胃潰瘍抑制、抗アレルギーなどの作用も報告されている。
【0008】
タチアワユキセンダングサは、キク科センダングサ属の植物である。過酷な環境でも繁殖能力が高く、非常に強い生命力を持つことが特徴である。日本では、沖縄などのほか、中南米諸国やアフリカ、中国、台湾などにも分布している。昔から伝承薬、民間薬として広く使用されている。
【0009】
スギナは、シダ植物門トクサ網トクサ目トクサ科トクサ属の植物の1種である。生薬として、古くから伝承されていたが、花粉症対策としての効能があると最近の研究で分かってきた。
【0010】
ヨモギは、キク科の多年草で、灸のもぐさ、漢方薬の原料としてよく使われている。特有の香りがあり、若い葉は食用され、生薬は止血、干した葉は健胃、下痢、貧血など多くの薬効があるとされる。
【0011】
ネズミモチは、「女貞子」とも呼ばれ、主に中国で栽培されるモクセイ科の植物である。古くから耳鳴改善、白内障予防、白髪予防、リラックス作用などとして使用されているが、近年骨粗鬆症の予防、抗糖尿病、肝機能改善など研究で知らされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-226392号公報
【文献】特開2001-002587号公報
【文献】特許第6712056号公報
【文献】特開2008-201749号公報
【文献】特開2008-201748号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Y. Takami et al., ”Modulation of hepatocyte growth factor induction in human skin fibroblasts by retinoic acid”, Biochimica et Biophysica Acta 1743, 2005, p.49-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
HGF産生促進に寄与するのが体内物質のみならず、植物などでも促進することができると分かってきている。また、陽性対照である8-Bromo-cAMPは試験・研究の目的のみに使用される試薬であり、ヒトが摂取することは禁じられており、本発明は、安全性が担保されている植物を用いて、高いHGF産生促進作用を有するHGF産生促進剤を提供することとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
様々な植物のHGF産生促進作用を検討しているうちに、それらの組み合わせの相乗効果などを鋭意検討した結果、請求項1記載のHGF産生促進剤に極めて強いHGF産生促進作用を有していることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、請求項1の混合抽出物は、ハス胚芽10mg~10g重量部、オタネニンジン10mg~10g重量部、タチアワユキセンダングサ10mg~10g重量部、スギナ10mg~10g重量部、ヨモギ10mg~10g重量部及びネズミモチ10mg~10g重量部の混合抽出物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高いHGF産生促進効果を有するHGF産生促進剤を提供することが可能である。本発明は、細胞などに直接作用し、HGF産生促進効果を発揮するものである。十分なHGF産生促進効果を発揮し、健康維持に役立つと期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】様々な組合せによって作られた混合抽出物のHGF促進作用を示す図である。
【
図2】一番高いHGF産生促進効果を示したエキス3の濃度依存的な効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、HGF産生促進作用を用いる植物、即ちハス胚芽、オタネニンジン、タチアワユキセンダングサ、スギナ、ヨモギ及びネズミモチの混合抽出物である。以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明は、HGF産生促進作用をもつ植物、すなわちハス胚芽、オタネニンジン、タチアワユキセンダングサ、スギナ、ヨモギ及びネズミモチを含む混合抽出物を用いることが望ましい。
【0021】
ハス胚芽、中国産でも日本産でも使用することができる。中国産のハス胚芽をそのまま又は乾燥しているものが望ましい。
【0022】
オタネニンジンは、葉、茎、根などの部分を使用することに問題ないが、根又は茎をそのまま又は乾燥しているものが望ましい。
【0023】
タチアワユキセンダングサは、日本、中国、台湾、インドなどの産地のタチアワユキセンダングサの葉及び茎をそのまま又は乾燥しているものを使用してもよいが、葉及び茎をそのまま又は乾燥しているもので、かつ日本産が望ましい。
【0024】
スギナは、葉、茎、根などの部分を使用することに問題ないが、葉及び茎をそのまま又は乾燥しているものが望ましい。
【0025】
ヨモギは、葉も茎も使用することには問題ないが、葉をそのまま又は乾燥しているものが望ましい。
【0026】
ネズミモチは、実の部分を使用することに問題ないが、そのまま又は乾燥しているものが望ましい。
【0027】
HGF産生促進作用を調べるのに、上皮細胞や内皮細胞、さらに一部の間葉系細胞(腎尿細管上皮細胞、乳腺上皮細胞、気管支上皮細胞、胆管上皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、血管内皮細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、破骨細胞、筋衛星細胞など)も使用することができるが、線維芽細胞を用いて検討することが望ましい。
【0028】
本発明で用いられる抽出物は、上記した6種類の植物をそのまま又は裁断、混合物を抽出溶媒にて調製することができる。
【0029】
乾燥粉砕物は、それぞれの植物を乾燥した後粉砕するか、又は細かく切断した後に乾燥することによって調製することが可能である。乾燥方法としては、それぞれの植物の成分を破壊しない範囲であれば特に制限がないが、真空凍結乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥、及び加熱蒸気乾燥等を広く用いることができる。その中でも、成分の安定性が高く担保できる真空乾燥方法を用いることが望ましい。
【0030】
抽出溶媒には、水、エタノール及びこれらの混合液が安全上望ましいが、抽出溶媒を完全留去して乾燥粉末を作る場合には、メタノールやブタノールなど低級アルキルアルコール、あるいはアセトン、DMSOなどの溶媒を使用することができる。
【0031】
抽出溶媒を植物又は植物の混合物に対して1~100倍量、通常、常温~100℃又は常圧下で1~6時間浸漬した後に濾過して抽出物を得ることができるが、抽出溶媒を10~30倍、80~100℃で常圧下で1~3時間という条件が望ましい。
【0032】
本発明における混合抽出物の各植物の配合は、乾燥重量として、ハス胚芽10mg~100g重量部、オタネニンジン10mg~100g重量部、タチアワユキセンダングサ10mg~100g重量部、スギナ10mg~100g重量部、ヨモギ10mg~100g重量部及びネズミモチ10mg~100g重量部の割合で混合されることができるが、ハス胚芽1g~10g重量部(1,2,3,4,5,6,7,8,9g重量部)、オタネニンジン1g~10g重量部(1,2,3,4,5,6,7,8,9g重量部)、タチアワユキセンダングサ1g~10g重量部(1,2,3,4,5,6,7,8,9g重量部)、スギナ1g~10g重量部(1,2,3,4,5,6,7,8,9g重量部)、ヨモギ1g~10g重量部(1,2,3,4,5,6,7,8,9g重量部)及びネズミモチ1g~10g重量部(1,2,3,4,5,6,7,8,9g重量部)の割合で混合されることが望ましい。
【0033】
このようにして得られる混合抽出物は、後述の実施例で示すように、強いHGF産生促進作用を有している。
【0034】
本発明に用いられている植物の混合抽出物は、6種類の植物の組み合わせによって作られている。
【実施例1】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0036】
1.調製例
[調製例1:単一植物の抽出物の調製]
表1に示している22種類の乾燥した状態の植物を細かく裁断してから粉砕した。粉砕したそれぞれの乾燥物を40gに対して水を600ml加え、15倍希釈した。その後、水浴上で100℃、2時間還流熱水抽出を行った。抽出後、放冷してから濾紙でろ過を行った。ろ過により必要に応じ沈殿物を除き、得られた濾過液をエバポレーターで減圧濃縮し、得られた抽出物を乾燥減量が約40~60%くらいになるように調整した。その後、4℃の冷蔵庫にて保存した。
【0037】
【表1】
[表1]HGF促進作用を確認するために用いられた22種類の植物一覧である。
【0038】
[調製例2:混合植物の抽出物の調製]
エキス1~6(配合の内訳は表2を参照)に用いられている各植物を乾燥した状態にした上で混合し、細かく裁断してから粉砕した。粉砕した各種の混合物を40gに対して水を600ml加え、15倍希釈した。その後、水浴上で100℃、2時間還流熱水抽出を行った。抽出後、放冷してから濾紙でろ過を行った。ろ過により必要に応じ沈殿物を除き、得られた濾過液をエバポレーターで減圧濃縮し、得られた抽出物を乾燥減量が約40~60%になるように調整した。その後、4℃の冷蔵庫にて保存した。
【0039】
【表2】
[表2]HGF促進作用を確認するために作られた混合抽出物の配合内訳一覧(表1参照)である。
【0040】
2.実験操作
後述する実験例で使用した実験操作を説明する。
【0041】
[実験操作1:ヒト皮膚線維芽細胞培養法]
HGF産生促進活性を測定するのに、ヒト皮膚線維芽細胞(MRC-5)を用いて測定した。MRC-5の培養は、10重量%の牛胎児血清(FBS)(Cytiva社)を添加したE-MEM(Wako社)培地で、37℃、5%CO2インキュベータで実施した。MRC-5細胞は、4.56×104/mlになるように調製し、12ウェルプレートに播種した。陽性対照としては、8-Bromo-cAMP 1mM(Selleck Chemicals社)を用い、コントロールは10重量%のFBSを添加したE-MEM培地を用いた。
【0042】
[実験操作2:試薬添加、培養上清回収方法]
12ウェルプレートに細胞を添加して24時間後に、様々の濃度の調製例1~2の抽出物を含む10重量%のFBSを添加したE-MEM培地を添加し、さらに培養して24時間後、培養上清を回収した。
【0043】
3.実験例
[実験例1:培養上清のHGF量の測定方法]
実験操作2にて回収した培養上清をELISA法でHGF産生量を測定した。ELISAは市販しているR&D社のELISA Kit(DHG00B)を使用した。得られた値を各培養液中の肝細胞増殖因子量を示し、また陽性対照として8-Bromo-cAMP 1mMを用いた。
【0044】
[実験例2:22種類の植物、6種の混合抽出物がHGF産生に及ぼす影響]
表1で示しているように、それぞれ単独の抽出物(22種類)と6種類の混合抽出物のHGF産生量をELISAで測定した後に、陽性対照8-Bromo-cAMP 1mMと同じ産生誘導濃度として算出した。算出値が低ければ低いほど、HGF産生誘導活性が高いということである。表3に示しているように、22種類の植物の中では、高いHGF産生促進作用を示したのが、ハス胚芽、オタネニンジン、タチアワユキセンダングサ、スギナ、ヨモギ及びネズミモチの6種類であった。そこで、6種類の植物の混合抽出物(表2のエキス3)のHGF産生促進活性を測定した結果、それぞれの単独植物の抽出物よりも高いHGF産生促進活性を示し、ほかの植物の組み合わせにより作られた混合抽出物よりも高いHGF産生促進活性を有することが分かった(
図1)。また、
図2に示しているように、エキス3は濃度依存的に顕著なHGF産生促進効果があった。
【0045】
【表3】
[表3]22種類の植物及び混合抽出物のHGF促進作用を示す図である。(N.D:not detected)
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、6種類の植物の混合抽出物のHGF産生促進剤は、健康食品、機能性食品又はサプリメントとして有利に利用し、健康維持に役に立つと期待できる。