(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20240910BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20240910BHJP
C07F 7/10 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C07F7/18 D
C07F7/18 R
C07F7/08 C
C07F7/08 R
C07F7/10 F
(21)【出願番号】P 2018044502
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2021-01-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 健介
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】小石 真弓
【審判官】瀬良 聡機
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-231119(JP,A)
【文献】特開2013-127015(JP,A)
【文献】特開2009-263574(JP,A)
【文献】特開平7-258417(JP,A)
【文献】特開平7-258416(JP,A)
【文献】特開2013-249418(JP,A)
【文献】特開2013-163761(JP,A)
【文献】特開2013-159770(JP,A)
【文献】特開2011-89086(JP,A)
【文献】特開平7-304781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0227977(US,A1)
【文献】実験化学講座20 有機化合物の合成II,丸善株式会社,1956年,177-180頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C07F
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):R
1-R
2-Y
(式中、R
1は、ビニル基を有し、かつグリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、R
2はSi(R
10)(R
11)であり、式中、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、
C
1-10
アルキル、C
2-10
アルケニル、トリC
1-6
アルキルシロキシ、C
1-6
アシル、C
1-6
アシルオキシ、C
1-6
アシルオキシC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、C
6-12
アリール、C
6-12
アリールオキシ、C
1-6
アルキルアミノ、ジC
1-6
アルキルアミノ、シアノC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシC
1-6
アルキル、C
4-10
ヘテロシクリル、チオベンゼンC
1-6
アルキル、C
1-6
アルキルアミドまたはアミドC
1-6
アルキルであり、Yは
C
1-10
アルキル、C
2-10
アルケニル、トリC
1-6
アルキルシロキシ、C
1-6
アシル、C
1-6
アシルオキシ、C
1-6
アシルオキシC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、C
6-12
アリール、C
6-12
アリールオキシ、C
1-6
アルキルアミノ、ジC
1-6
アルキルアミノ、シアノC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシC
1-6
アルキル、C
4-10
ヘテロシクリル、チオベンゼンC
1-6
アルキル、C
1-6
アルキルアミドまたはアミドC
1-6
アルキルである)
で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を製造する方法であって、
(A)式(II):R
1-X
1
(式中、R
1は前記と同じであり、X
1はハロゲンである)
で表される化合物にマグネシウムを反応させて得られるグリニャール試薬を含む反応液に、
式(III):X
2-R
2-X
3
(式中、X
2およびX
3はそれぞれ独立してハロゲンであり、R
2は前記と同じである)
で表されるハロゲン化合物を反応させ、
式(IV):R
1-R
2-X
3
(式中、R
1、R
2およびX
3は前記と同じである)
で表されるハロゲン化芳香族ビニル中間体を生成する工程、および
(B)工程(A)で得られるハロゲン化芳香族ビニル中間体を含む反応混合物に、官能基Yを含む有機金属求核剤を添加して官能基Yを導入し、式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を得る工程
を含む製造方法であって、
前記工程(A)における前記グリニャール試薬と前記ハロゲン化合物(III)との反応が、前記グリニャール試薬を含む反応液に直接、前記ハロゲン化合物(III)を滴下することにより実施される、製造方法。
【請求項2】
(C)工程(B)で得られる式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物をろ過および/または減圧蒸留により単離する工程
を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
有機金属求核剤が、
式(V):M
1-Y
(式中、M
1はアルカリ金属であり、Yは
C
1-10
アルキル、C
2-10
アルケニル、トリC
1-6
アルキルシロキシ、C
1-6
アシル、C
1-6
アシルオキシ、C
1-6
アシルオキシC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、C
6-12
アリール、C
6-12
アリールオキシ、C
1-6
アルキルアミノ、ジC
1-6
アルキルアミノ、シアノC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシC
1-6
アルキル、C
4-10
ヘテロシクリル、チオベンゼンC
1-6
アルキル、C
1-6
アルキルアミドまたはアミドC
1-6
アルキルである)
で表される有機金属化合物、または
式(VI):
【化1】
(式中、M
2はアルカリ土類金属であり、Yは
C
1-10
アルキル、C
2-10
アルケニル、トリC
1-6
アルキルシロキシ、C
1-6
アシル、C
1-6
アシルオキシ、C
1-6
アシルオキシC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、C
6-12
アリール、C
6-12
アリールオキシ、C
1-6
アルキルアミノ、ジC
1-6
アルキルアミノ、シアノC
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシC
1-6
アルキル、C
4-10
ヘテロシクリル、チオベンゼンC
1-6
アルキル、C
1-6
アルキルアミドまたはアミドC
1-6
アルキルであり、R
3はハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基であり、Yと同一または異なっていてもよい)
で表される有機金属化合物である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
有機金属求核剤が金属アルコキシドまたはグリニャール試薬である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
R
10およびR
11が、それぞれ独立して
、C
1-10アルキル
、C
1-6アルコキシ
またはC
4-10ヘテロシクリ
ルである請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
Yが、C
1-10アルキル
、C
1-6アルコキシ
、C
1-6アルキルアミノ
またはC
4-10ヘテロシクリ
ルである請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(A)を開始剤の存在下で開始する請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
式(III)のハロゲン化合物がジクロロジC
1―10アルキルシランまたはジクロロチオフェンC
1―10アルキルシランである請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)における前記グリニャール試薬と前記ハロゲン化合物(III)との反応の反応温度が、10℃以上50℃以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ原子を有する芳香族ビニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ原子を含む置換基を有する芳香族ビニル化合物は、医薬品や電子材料の重要な中間体であり、また、機能性高分子の重要なモノマー成分でもある。
【0003】
従来、例えばモノアルコキシジアルキルシリルスチレンの製造方法としては、次のような方法が知られている。有機溶剤および三級アミンの存在下で、ジハロゲン化ジアルキルシランをアルキルアルコールと反応させて、モノアルコキシクロロシランを生成する。その後、副生する塩酸塩をセライトろ過等で除去した後、蒸留精製し、ハロゲン化スチレンから誘導したグリニャール試薬と反応させる。得られたモノアルコキシジアルキルシリルスチレンをハロゲン化マグネシウム塩からろ別した後、蒸留精製をする。
【0004】
非特許文献1には、不活性ガスの雰囲気下、炭化水素系溶媒のもとで、ジアルキルジクロロシランとアルコールを脱酸剤としてアミン類の使用のもと、0℃で5時間反応させ、ろ過、溶媒洗浄、蒸留を経て、モノアルコキシクロロシランを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】POLYMER, 1987, Vol.28, February p.303-310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、塩化水素とアミンの塩が生成するが、この塩は炭化水素溶媒に溶解性を有するため、ろ過、溶媒洗浄、蒸留だけでは除去が難しく、不純物として存在し、次工程での副反応のため、目的物の収率や純度を低下させてしまう問題がある。
【0007】
また、モノアルコキシクロロシランは、反応性が高く空気中で容易に分解してしまい、純度と収率低下の一因となったり、水分と反応して塩化水素を発生させるため、取り扱いの安全上問題がある。また、生成塩とのろ別や、蒸留精製の際の目的物のロスが発生するため、収率の低下原因となる。さらにグリニャール試薬との反応において、生成するモノアルコキシジアルキルシリルスチレンのアルコキシシリル基もグリニャール試薬との反応性を有するため、目的外の副反応が生じるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、高純度、高収率で目的とするヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、ハロゲン化芳香族ビニル化合物を出発物質として用い、ワンポッドで反応させることにより、ヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を高純度、高収率で安全に得ることができ、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]式(I):R
1-R
2-Y
(式中、R
1は、ビニル基を有し、かつグリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、R
2はSi(R
10)(R
11)であり、式中、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む基であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基である)
で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を製造する方法であって、
(A)式(II):R
1-X
1
(式中、R
1は前記と同じであり、X
1はハロゲンである)
で表される化合物にマグネシウムを反応させて得られるグリニャール試薬を含む反応液に、
式(III):X
2-R
2-X
3
(式中、X
2およびX
3はそれぞれ独立してハロゲンであり、R
2は前記と同じである)
で表されるハロゲン化合物を反応させ、
式(IV):R
1-R
2-X
3
(式中、R
1、R
2およびX
3は前記と同じである)
で表されるハロゲン化芳香族ビニル中間体を生成する工程、および
(B)工程(A)で得られるハロゲン化芳香族ビニル中間体を含む反応混合物に、官能基Yを含む有機金属求核剤を添加して官能基Yを導入し、式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を得る工程
を含む製造方法、
[2](C)工程(B)で得られる式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物をろ過および/または減圧蒸留により単離する工程
を含む上記[1]記載の製造方法、
[3]有機金属求核剤が、
式(V):M
1-Y
(式中、M
1はアルカリ金属であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基である)
で表される有機金属化合物、または
式(VI):
【化1】
(式中、M
2はアルカリ土類金属であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基であり、R
3はハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基であり、Yと同一または異なっていてもよい)
で表される有機金属化合物である上記[1]または[2]記載の製造方法、
[4]有機金属求核剤が金属アルコキシドまたはグリニャール試薬である上記[3]記載の製造方法、
[5]R
10およびR
11が、それぞれ独立して、ハロゲン、C
1-10アルキル、C
2-10アルケニル、トリC
1-6アルキルシロキシ、C
1-6アシル、C
1-6アシルオキシ、C
1-6アシルオキシC
1-6アルキル、C
1-6アルコキシ、C
6-12アリール、C
6-12アリールオキシ、アミノ、C
1-6アルキルアミノ、ジC
1-6アルキルアミノ、シアノC
1-6アルキル、C
1-6アルコキシC
1-6アルキル、C
4-10ヘテロシクリル、チオベンゼンC
1-6アルキル、C
1-6アルキルアミドまたはアミドC
1-6アルキルである上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法、
[6]Yが、C
1-10アルキル、C
2-10アルケニル、トリC
1-6アルキルシロキシ、シラノール、C
1-6アシル、C
1-6アシルオキシ、C
1-6アシルオキシC
1-6アルキル、C
1-6アルコキシ、C
6-12アリール、C
6-12アリールオキシ、アミノ、C
1-6アルキルアミノ、ジC
1-6アルキルアミノ、シアノC
1-6アルキル、C
1-6アルコキシC
1-6アルキル、C
4-10ヘテロシクリル、チオニル、チオベンゼンC
1-6アルキル、C
1-6アルキルアミドまたはアミドC
1-6アルキルである上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法、
[7]工程(A)を開始剤の存在下で開始する上記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法、ならびに
[8]式(III)のハロゲン化合物がジクロロジC
1―10アルキルシランまたはジクロロチオフェンC
1―10アルキルシランである上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の、式(I):R1-R2-Y(式中、R1は、ビニル基を有し、かつグリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、R2はSi(R10)(R11)であり、式中、R10およびR11は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄または酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む基であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基である)で表される、Si、O、NおよびSから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有するヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を製造する方法であって、(A)式(II):R1-X1(式中、R1は前記と同じであり、X1はハロゲンである)で表される化合物にマグネシウムを反応させて得られるグリニャール試薬を含む反応液に、式(III):X2-R2-X3(式中、X2およびX3はそれぞれ独立してハロゲンであり、R2は前記と同じである)で表されるハロゲン化合物を反応させ、式(IV):R1-R2-X3(式中、R1、R2およびX3は前記と同じである)で表されるハロゲン化芳香族ビニル中間体を生成する工程、および(B)工程(A)で得られるハロゲン化芳香族ビニル中間体を含む反応混合物に、官能基Yを含む有機金属求核剤を添加して官能基Yを導入し、式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を得る工程を含む式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物の製造方法によれば、式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を高純度、高収率で安全に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、式(I):R1-R2-Y(式中、R1は、ビニル基を有し、かつグリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、R2はSi(R10)(R11)であり、式中、R10およびR11は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄または酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む基であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基である)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を製造する方法であって、(A)式(II):R1-X1(式中、R1は上記と同じであり、X1はハロゲンである)で表される化合物にマグネシウムを反応させて得られるグリニャール試薬を含む反応液に、式(III):X2-R2-X3(式中、X2およびX3はそれぞれ独立してハロゲンであり、R2は上記と同じである)で表されるハロゲン化合物を反応させ、式(IV):R1-R2-X3(式中、R1、R2およびX3は上記と同じである)で表されるハロゲン化芳香族ビニル中間体を生成する工程、および(B)工程(A)で得られるハロゲン化芳香族ビニル中間体を含む反応混合物に、官能基Yを含む有機金属求核剤を添加して官能基Yを導入し、式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を得る工程を含む式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物の製造方法である。
【0013】
上記式(IV)で表されるハロゲン化芳香族ビニル化合物を中間体として経由し、ワンポッドで反応を完了させることにより、副生成物の生成を抑え、高純度および高収率で上記式(I)の、ビニル基を含む置換基およびヘテロ原子を含む置換基を有するヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を安全に製造することができる。
【0014】
工程(A)は、式(II):R1-X1(式中、R1はビニル基を有し、グリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、X1はハロゲンである)の化合物にマグネシウムを反応させて得られるグリニャール試薬を含む反応液に、式(III):X2-R2-X3(式中、X2およびX3はそれぞれ独立してハロゲンであり、R2はSi(R10)(R11)であり、式中、R10およびR11は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄または酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む基である)のハロゲン化合物を反応させ、式(IV):R1-R2-X3(式中、R1、R2およびX3は上記と同じである)のハロゲン化芳香族ビニル中間体を製造する工程である。
【0015】
R1は、ビニル基を有し、グリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、ビニル基は反応性を有する炭素炭素二重結合を意味する。「グリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基」の芳香族基は、例えば5~14員環のアリール基、好ましくは5~6員環のアリール基、環を構成する原子として、窒素、硫黄、酸素などのヘテロ原子を少なくとも1個、好ましくは1~2個含む、5~14員環のヘテロアリール基、好ましくは5~6員環のヘテロアリール基であって、環中の炭素原子にX1との結合手を有するものなどが挙げられ、フェニル、ピリジル、ピリミジニル、チエニル、フラニル、ナフチル、キノリル、ベンゾフラニル、アントラセニル等が挙げられ、フェニルが好ましい。「グリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基」の芳香族基に置換してもよいグリニャール試薬に不活性な基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~5のアルキル基、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等)、エーテル基、シリルエーテル基等が挙げられる。グリニャール試薬に不活性な基は、芳香族基の置換可能ないずれの位置に置換していてもよいが、ビニル基による置換位置のパラ位にX1との結合手を有することが好ましいため、それ以外の置換可能な位置に置換することが好ましい。置換基が2個以上である場合には、置換基はそれぞれ同一または異なっていてもよい。置換基の数は1~3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0016】
X1はハロゲンであり、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子から選択され、塩素原子が好ましい。
【0017】
式(II):R1-X1(式中、R1はビニル基を有し、グリニャール試薬に不活性な基で置換されていてもよい芳香族基であり、X1はハロゲンである)の化合物の具体例としては、4-クロロスチレン、4-ブロモスチレン、2-ビニル-6-クロロピリジンなどが挙げられる。
【0018】
X2およびX3は、それぞれ独立して塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子などのハロゲンであり、安価で入手のしやすさの点から塩素原子が好ましい。
【0019】
R2はSi(R10)(R11)であり、式中R10およびR11は、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む基である。例えば、R10およびR11は、それぞれ独立して、ハロゲン、直鎖または分岐鎖のアルキル、直鎖または分岐鎖のアルケニル、カルボニル、アミド、アミノ、エーテル、フェノールまたはフェニルを含む基が挙げられ、具体的には、ハロゲン、C1-10アルキル、C2-10アルケニル、トリC1-6アルキルシロキシ、C1-6アシル、C1-6アシルオキシ、C1-6アシルオキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C6-12アリール、C6-12アリールオキシ、アミノ、C1-6アルキルアミノ、ジC1-6アルキルアミノ、シアノC1-6アルキル、C1-6アルコキシC1-6アルキル、C4-10ヘテロシクリル、チオベンゼンC1-6アルキル、C1-6アルキルアミドまたはアミドC1-6アルキルなどが好ましい。
【0020】
R10またはR11において、ハロゲンは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0021】
本明細書において、「C1-10アルキル」は、直鎖または分岐鎖の炭素数1~10個の飽和炭化水素基であり、特に限定されるものではないが、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどが挙げられ、R10またはR11としてはメチル、エチル、オクチルなどがより好ましい。
【0022】
本明細書において、「C2-10アルケニル」は、直鎖または分岐鎖の少なくとも1つの炭素炭素二重結合を有する炭素数2~10個の炭化水素基であり、特に限定されるものではないが、例えばエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、2-ペンテニルなどが挙げられる。
【0023】
本明細書において、「トリC1-6アルキルシロキシ」としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリブチルシロキシ、トリ-iso-プロピルシロキシ、トリ-tert-ブチルシロキシなどが挙げられる。
【0024】
本明細書において、「C1-6アシル」は、炭素数1~6個のカルボン酸からOH基を除去したものを意味し、特に限定されるものではないが、具体的には、メタノイル、エタノイル、ベンゾイルなどが挙げられる。
【0025】
本明細書において、「C1-6アシルオキシ」としては、特に限定されるものではないが、アセトキシ、プロパノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、マロニルオキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。
【0026】
本明細書において、「C1-6アシルオキシC1-6アルキル」としては、特に限定されるものではないが、アセトキシエチルなどの、本明細書において定義される「C1-6アシルオキシ」が付加された本明細書において定義される炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0027】
本明細書において、「C1-6アルコキシ」は、炭素数が1~6個のアルキル基が酸素原子に結合したものを意味し、特に限定されるものではないが、具体的には、メトキシ、エトキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、プロポキシ、メチレンジオキシなどが挙げられる。
【0028】
本明細書において、「C6-12アリール」は、炭素数6~12個の芳香族炭化水素から誘導された基を意味し、特に限定されるものではないが、具体的には、フェニル、3-フェニルプロピル、トリル、キシリル、クメニル、ベンジル、フェネシル、シナミル、ビフェニルなどが挙げられ、置換基を有していてもよい。
【0029】
本明細書において、「C6-12アリールオキシ」としては、特に限定されるものではないが、フェノキシ、3-フェノキシプロピルなどが挙げられ、置換基を有していてもよい。
【0030】
本明細書において、「C1-6アルキルアミノ」としては、特に限定されるものではないが、具体的には、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、tert-ブチルアミノ、sec-ブチルアミノなどが挙げられる。
【0031】
本明細書において、「ジC1-6アルキルアミノ」としては、特に限定されるものではないが、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジ-tert-ブチルアミノなどが挙げられる。
【0032】
本明細書において、「シアノC1-6アルキル」としては、「シアノ」基が付加された本明細書において定義される炭素数1~6個のアルキル基が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「C1-6アルコキシC1-6アルキル」としては、本明細書において定義される「C1-6アルコキシ」が付加された本明細書において定義される炭素数1~6個のアルキル基が挙げられる。
【0034】
本明細書において、「C4-10ヘテロシクリル」としては、特に限定されるものではないが、N、OまたはSから選択されるヘテロ原子を少なくとも1つ有する炭素数4~10個の複素環の環原子から1個の水素原子を除去することにより生成される基であり、具体的には、チエニル、ピロリジル、ピロリル、ピリジル、フラニルなどが挙げられる。
【0035】
本明細書において、「チオベンゼンC1-6アルキル」としては、特に限定されるものではないが、チオベンゼンが付加された本明細書において定義される炭素数1~6個のアルキル基が挙げられる。
【0036】
「アミドC1-6アルキル」としては、特に限定されるものではないが、ジメチルアミド、ジエチルアミド、ジプロピルアミド、ジ-iso-プロピルアミド、ジブチルアミド、ジ-tert-ブチルアミドなどのアルキル基で置換されたアミド基が付加された本明細書において定義される炭素数1~6個のアルキル基が挙げられる。
【0037】
上記式(III)のハロゲン化合物の具体的な例としては、特に限定されるものではないが、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジエチルシランまたはジクロロジプロピルシランなどのジクロロジC1―6アルキルシラン、ジクロロジトリメチルシロキシシラン、シクロロジトリエチルシロキシシラン、ジクロロジジメチルシロキシシランまたはジクロロジジエチルシロキシシラン等のジクロロジアルキルシロキシシラン、テトラクロロシランなどのテトラハロゲン化シラン、ジクロロ(アセトキシエチル)(メチル)シラン、(メチル)シラン、ジクロロ(アセトキシメチル)ジクロロ(メチル)シランまたはジクロロ(アセトキシエチル)(エチル)シランなどのジハロゲン(アシルオキシアルキル)(アルキル)シラン、ジクロロジtert-ブトキシシランなどのジハロゲンジアルコキシシラン、ジクロロ(フェノキシ)(メチル)シラン、ジクロロ(フェニル)(メチル)シラン、ジクロロジジメチルアミノシラン、ジクロロシアノプロピルメチルシラン、ジクロロ(エトキシプロピル)(メチル)シラン、ジクロロ(エトキシプロピル)(エチル)シラン、ジクロロ(メトキシプロピル)(メチル)シラン、ジクロロ(メトキシプロピル)(エチル)シラン、ジクロロ(ジメチルアミドメチル)(メチル)シラン、ジクロロ(N、N-ジメチルアミドメチル)(メチル)シラン、2-(ジクロロメチルシリル)チオフェン、[(ジクロロメチル)メチル]チオベンゼンなどが挙げられる。なかでも、ジクロロC1―6アルキルシランが好ましく、ジクロロジメチルシランが特に好ましい。
【0038】
工程(A)は、例えば、不活性ガス雰囲気下で、金属マグネシウムに通常グリニャール反応に用いるエーテル系溶媒を入れ、通常グリニャール試薬の生成に用いる開始剤を触媒量添加し、撹拌した後、式(II)の化合物を滴下、撹拌してグリニャール試薬を得、得られたグリニャール試薬を含む反応液に直接式(III)のハロゲン化合物を滴下して行うことが好ましい。
【0039】
不活性ガスとしては、特に限定されるものではないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを挙げることができ、安価で入手のしやすさの点から窒素ガスが好ましい。
【0040】
金属マグネシウムの使用量は、上記式(II)の化合物1モルに対して、1.00~1.20モルが好ましく、1.05~1.10モルがより好ましい。
【0041】
エーテル系溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、t-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジグライムなどが挙げられ、テトラヒドロフランが好ましい。
【0042】
開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヨウ素、1,2-ジブロモエタンなどのハロゲン化アルキルなどが挙げられる。なかでも1,2-ジブロモエタンが安価で入手がしやすいことから好ましい。
【0043】
式(III)のハロゲン化合物の使用量は、式(II)の化合物に対して当モル量が好ましく、式(II)の化合物1モルに対して1.01~1.10モルの範囲で用いることができる。
【0044】
工程(A)の反応温度は、0~80℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。さらに工程(A)のうち、得られたグリニャール試薬に上記式(III)のハロゲン化合物を反応させる際の反応温度は、0~80℃が好ましく、10~50℃がより好ましく、特に反応容器内の温度として50℃を超えないことが好ましく、30℃を超えないことがより好ましい。工程(A)の反応時間は、グリニャール試薬の調製反応は上記式(II)の化合物の滴下後1.0~3.0時間が好ましく、1.5~2.0時間がより好ましい。得られたグリニャール試薬と上記式(III)の化合物との反応は、上記式(III)の化合物を1~8時間、好ましくは2から5時間かけて滴下して、通常10~40℃、好ましくは20~40℃で行うことが好ましい。
【0045】
工程(A)で得られる上記式(IV)のハロゲン化芳香族ビニル中間体は、精製や単離することなく、反応混合物のまま、次の工程(B)に用いられるものである。
【0046】
工程(B)は、工程(A)で得られる上記式(IV)のハロゲン化芳香族ビニル中間体を含む反応混合物に、官能基Yを含む有機金属求核剤を添加して官能基Yを導入し、式(I)で表されるヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物を得る工程である。
【0047】
有機金属求核剤は、官能基Yを含み、官能基Yが上記式(IV)のハロゲン化芳香族ビニル中間体に導入できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、式(V):M
1-Y(式中、M
1はアルカリ金属であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基である)で表される有機金属化合物、または式(VI):
【化2】
(式中、M
2はアルカリ土類金属であり、Yは炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基であり、R
3はハロゲン、炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基であり、Yと同一または異なっていてもよい)で表される有機金属化合物が挙げられる。
【0048】
M1は、アルカリ金属であり、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられる。
【0049】
Yは、炭素、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基であり、具体的には、ハロゲン、C1-10アルキル、C2-10アルケニル、トリC1-6アルキルシロキシ、シラノール、C1-6アシル、C1-6アシルオキシ、C1-6アシルオキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C6-12アリール、C6-12アリールオキシ、アミノ、C1-6アルキルアミノ、ジC1-6アルキルアミノ、シアノC1-6アルキル、C1-6アルコキシC1-6アルキル、C4-10ヘテロシクリル、チオニル、チオベンゼンC1-6アルキル、C1-6アルキルアミドまたはアミドC1-6アルキルなどが好ましい。式(V)の化合物においては、Yは、アルカリ金属と塩を形成する官能基であればよく、C1-10アルキル、C1-6アルコキシ、ジC1-6アルキルアミノなどが好ましい。また、式(VI)の化合物においては、Yは、アルカリ土類金属と塩を形成する官能基や、M2とR3とでグリニャール試薬とり得る基であればよい。
【0050】
上記式(V)の有機金属化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、セシウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムエトキシド、セシウムエトキシド、ナトリウムn-ブトキシド、カリウムn-ブトキシド、リチウムn-ブトキシド、セシウムn-ブトキシド、ナトリウムs-ブトキシド、カリウムs-ブトキシド、リチウムs-ブトキシド、セシウムs-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド、リチウムt-ブトキシド、セシウムt-ブトキシド、ナトリウムn-プロポキシド、カリウムn-プロポキシド、リチウムn-プロポキシド、セシウムn-プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、リチウムイソプロポキシド、セシウムイソプロポキシドなどの金属アルコキシドや、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド、セシウムフェノキシド等のフェノール類の金属塩、ナトリウムジメチルアミド、カリウムジメチルアミド、リチウムジメチルアミド、セシウムジメチルアミド、ナトリウムジエチリアミド、カリウムジエチルアミド、リチウムジエチルアミド、セシウムジエチルアミド、ナトリウムジイソプロピルアミド、カリウムジイソプロピルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、セシウムジイソプロピルアミド、ナトリウムトリス(トリメチルシリル)アミド、カリウムトリス(トリメチルシリル)アミド、リチウムトリス(トリメチルシリル)アミド、セシウムトリス(トリメチルシリル)アミド等の金属アミド、ナトリウムチオラート、カリウムチオラート、リチウムチオラート、セシウムチオラート、ナトリウムベンゼンチオラート、カリウムベンゼンチオラート、リチウムベンゼンチオラート、セシウムベンゼンチオラートなどのチオール類の金属塩、n-ブチルリチウム等のアルキルリチウム等が挙げられる。
【0051】
M2は、アルカリ土類金属であり、具体的には、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。
【0052】
R3は、ハロゲン、またはアルカリ土類金属と塩を形成する官能基であればよく、ハロゲン、ケイ素、窒素、硫黄および酸素原子からなる群より選択される少なくとも1種以上の原子を含む官能基などである。R3は例えば、塩素、臭素またはヨウ素などのハロゲン、またはC1-10アルキル、C2-10アルケニル、トリC1-6アルキルシロキシ、シラノール、C1-6アシル、C1-6アシルオキシ、C1-6アシルオキシC1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C6-12アリール、C6-12アリールオキシ、アミノ、C1-6アルキルアミノ、ジC1-6アルキルアミノ、シアノC1-6アルキル、C1-6アルコキシC1-6アルキル、C4-10ヘテロシクリル、チオニル、チオベンゼンC1-6アルキル、C1-6アルキルアミドまたはアミドC1-6アルキルなどが好ましい。
【0053】
上記式(VI)の有機金属化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、マグネシウムジメトキシド、マグネシウムジエトキシド、マグネシウムジn-ブトキシド、マグネシウムジs-ブトキシド、マグネシウムジtert-ブトキシド、マグネシウムジn-プロポキシド、マグネシウムジイソプロポキシドなどの金属アルコキシドや、マグネシウムジフェノキシド等のフェノール類の金属塩が挙げられる。また、上記式(VI)の有機金属化合物は、M2がマグネシウムであり、R3がハロゲンであり、YがC1-10アルキル、C2-10アルケニル、C1-6アシルオキシC1-6アルキル、C6-12アリール、シアノC1-6アルキル、C1-6アルコキシC1-6アルキル、C4-10ヘテロシクリル、チオベンゼンC1-6アルキルまたはアミドC1-6アルキルであるグリニャール試薬とすることもできる。
【0054】
工程(B)は、例えば、工程(A)で得られた反応混合物の系にそのまま、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)などにより反応混合物中のグリニャール試薬由来のビニル芳香族のピークの消失を確認した後、不活性ガス雰囲気下で、例えば工程(A)で用いたのと同様のエーテル系溶媒に溶解した上記式(V)または(VI)の有機金属化合物を滴下することにより行うことが好ましい。
【0055】
不活性ガス、エーテル系溶媒は、工程(A)について記載したものを同様に用いることができ、工程(A)で用いたものを用いることが好ましい。
【0056】
式(V)または(VI)の有機金属化合物の使用量は、式(II)の化合物に対して当モル量が好ましく、式(II)の化合物1モルに対して1.0~3.0モルの範囲で用いることができる。
【0057】
工程(B)の反応温度は、0~80℃が好ましく、10~60℃がより好ましい。特に反応容器内の温度として40℃を超えないことが好ましく、35℃を超えないことがより好ましい。通常、工程(B)における反応の進行、つまり式(I)のヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物の生成は速く、滴下完了とほぼ同時に反応も完了する。
【0058】
工程(B)で得られる式(I)のヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物は、ろ過および/または減圧蒸留により単離する工程(C)を行うことが好ましい。
【0059】
ろ過は、例えばセルロースフィルターなどのフィルターを用いて得られた反応液をろ別し、ろ液を回収することにより行われる。得られたろ液は、減圧濃縮し、溶媒を留去し、さらに減圧蒸留して回収することが好ましい。
【0060】
ろ過に用いるフィルターは、特に限定されるものではないが、メッシュ70mmのセルロースフィルターを用いることが好ましい。フィルターの材質としてはPTFEを用いてもよく、ろ過材としては、シリカゲル、アルミナ、セライトなどを用いてもよい。
【0061】
減圧濃縮は、外温30℃/0.2kPa~60℃/0.2kPaで行うことが好ましく、また減圧蒸留は30℃/0.1kPa~120℃/0.1kPaで行うことが好ましく、目的とするヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物の沸点に合わせて、本留を回収することで行うことができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。各薬品は精製したものを使用した。
(式(II)の化合物)
4-ブロモスチレン:和光純薬工業(株)製
4-ブロモチオフェン:東京化成工業(株)製
(式(III)のハロゲン化合物)
ジクロロジメチルシラン:東京化成工業(株)製
トリクロロメチルシラン:東京化成工業(株)製
(式(V)の有機金属化合物)
エトキシカリウム:和光純薬工業(株)製
イソプロポキシカリウム:和光純薬工業(株)製
tert-ブトキシカリウム:和光純薬工業(株)製
リチウムジイソプロピルアミド:東京化成工業(株)製、1.5mol/L溶液
(式(VI)の有機金属化合物)
n-オクチルマグネシウムブロミド:東京化成工業(株)製、約22%THF溶液、約1mol/L
エタノール:和光純薬工業(株)製
イソプロパノール:和光純薬工業(株)製
tert-ブタノール:和光純薬工業(株)製
トリエチルアミン:和光純薬工業(株)製
ヘキサン:和光純薬工業(株)製
マグネシウム:和光純薬工業(株)製
ジブロモエタン:和光純薬工業(株)製
THF(テトラヒドロフラン):和光純薬工業(株)製
【0064】
実施例1:エトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化3】
窒素ガス雰囲気下で、500mLのガラス製4つ口フラスコにマグネシウム13.15g(0.54モル)、THF33.9g、1,2-ジブロモエタン1.87g(0.01モル)を入れ、24~26℃で30分間攪拌した。次いで、4-ブロモスチレン92.00g(0.50モル)を内温が60℃を超えないように滴下した後、24~26℃で3時間攪拌し、(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイドの反応液45.9gを調製した。得られた反応液に、ジクロロジメチルシラン127.96g(0.50モル)、THF30.3gの溶液を内温が30℃を超えないように3時間かけて滴下した。GC-MSにて(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイド由来のスチレンピークの消失を確認した後、エトキシカリウム42.08g(0.50モル)、THF40.2gの溶液を内温が35℃を超えないように滴下し、セルロースフィルター(メッシュ70mm)でろ別し、ろ液を採取し、外温40℃/0.2kPaで減圧濃縮して溶媒を留去した。その後、70℃/0.1kPaで減圧蒸留し、沸点が45℃/0.1kPaの画分を本留として回収した。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は70.4%であった。GC-MSで分析した結果、ジメチルビス(4-ビニルフェニル)シランは検出されず、エトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.9%であった。
【0065】
実施例2:iso-プロポキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化4】
エトキシカリウムに変えてiso-プロポキシカリウム49.06g(0.50モル)を用い、75℃/0.1kPaで減圧蒸留し、沸点が70℃/0.1kPaの画分を本留として回収した以外は、実施例1と同様にしてiso-プロポキシジメチル(4-ビフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は72.4%であった。GC-MS分析の結果、ジメチルビス(4-ビニルフェニル)シランは検出されず、iso-プロポキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.9%であった。
【0066】
実施例3:tert-ブトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化5】
エトキシカリウムに変えてtert-ブトキシカリウム56.10g(0.50モル)を用い、80℃/0.1kPaで減圧蒸留し、沸点が73℃/0.1kPaの画分を本留として回収した以外は、実施例1と同様にしてtert-ブトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は74.1%であった。GC-MS分析の結果、ジメチルビス(4-ビニルフェニル)シランは検出されず、tert-ブトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.9%であった。
【0067】
実施例4:ジイソプロピルアミノジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化6】
エトキシカリウムに代えて、リチウムジイソプロピルアミド(0.50モル)を用い、130℃/0.1kPaで減圧蒸留し、沸点が96℃/0.1kPaの画分を本留として回収した以外は、実施例1と同様にしてジイソプロピルアミノ(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は、74.1%であった。GC-MS分析の結果、ジイソプロピルアミノ(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.9%であった。
【0068】
実施例5:(2-チエニル)ジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化7】
エトキシカリウムに代えて、後述の製造例1で製造した2-チエニルマグネシウムブロミド(0.50モル)を用いて反応させた溶液をシリカゲルでろ過したのち、溶媒を減圧留去した以外は、実施例1と同様にして(2-チエニル)ジメチル(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は、80.6%であった。GC-MS分析の結果、(2-チエニル)ジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.7%であった。
【0069】
実施例6:ジメチルオクチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化8】
エトキシカリウムに代えて、n-オクチルマグネシウムブロミド(0.50モル)を使用した以外は、実施例1と同様にして粗反応液を得たのち、セルロースフィルターの代わりにシリカゲルでろ過して得たろ液を溶媒留去してジメチル-n-オクチル(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は、84%であった。GC-MS分析の結果、ジメチルオクチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.0%であった。
【0070】
実施例7:メチルオクチル(2-チエニル)(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化9】
ジクロロジメチルシラン(0.50モル)に代えて、ジクロロ(2-チエニル)メチルシラン(0.50モル)を使用し、エトキシカリウムに代えて、n-オクチルマグネシウムブロミド(0.50モル)を用いた以外は、実施例1と同様にして粗反応液を得たのち、セルロースフィルターの代わりにシリカゲルでろ過して得たろ液を溶媒留去してメチルオクチル(2-チエニル)(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は、86%であった。GC-MS分析の結果、メチルオクチル(2-チエニル)(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.0%であった。
【0071】
実施例8:メチル(2-チエニル)エトキシ(4-ビニルフェニル)シランの合成
【化10】
ジクロロジメチルシラン(0.50モル)に代えて、後述の製造例2で製造したジクロロ(2-チエニル)メチルシラン(0.50モル)を使用した以外は、実施例1と同様にして粗反応液を得たのち、セルロースフィルターの代わりにシリカゲルでろ過して得たろ液を溶媒留去してメチル(2-チエニル)エトキシ(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質の4-ブロモスチレンのモル比から算出した全収率は、86%であった。GC-MS分析の結果、メチル(2-チエニル)エトキシ(4-ビニルフェニル)シランの純度は99.0%であった。
【0072】
製造例1:式(VI)の有機金属化合物、2-チエニルマグネシウムブロミドの製造
実施例1の(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイドの調製において、4-ブロモスチレンの代わりに4-ブロモチオフェン(0.50モル)を用い、2-チエニルマグネシウムブロミドを製造した。
【0073】
製造例2:式(III)のハロゲン化合物、ジクロロ(2-チエニル)メチルシランの製造
実施例1の(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイドの調製において、4-ブロモスチレンの代わりに2-ブロモチオフェン(0.50モル)を用いて製造した2-チエニルマグネシウムブロミドの溶液に、トリクロロメチルシランを内温が60℃を超えないように滴下してジクロロ(2-チエニル)メチルシランのTHF溶液を製造した。
【0074】
比較例1:エトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
合成例1:(4-ビフェニル)マグネシウムブロマイドの合成
窒素ガス雰囲気下で、100mLのガラス製4つ口フラスコにマグネシウム13.15g(0.54モル)、THF33.9g、1,2-ジブロモエタン1.87g(0.01モル)を入れ、24~26℃で30分間攪拌した。次いで、4-ブロモスチレン92.00g(0.50モル)を内温が60℃を超えないように滴下した後、24~26℃で3時間攪拌し、(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイドの反応液45.9gを調製した。
【0075】
合成例2:クロロエトキシジメチルシランの合成
窒素ガス雰囲気下で1Lのガラス製4つ口フラスコにジメチルジクロロシラン49.4g(0.39モル)およびヘキサン194gを室温で添加し、つづいて食塩/氷浴かで0℃まで冷却しながら、エタノール17.90g(0.39モル)、トリエチルアミン38.5g(0.38モル)、ヘキサン194gの混合溶液を内温が15℃以下になるように90分かけて滴下し、その後24~26℃で1時間攪拌し、クロロエトキシジメチルシランの反応溶液を調製した。クロロエトキシジメチルシラン反応液はセライトろ過した後、80℃で常圧濃縮して溶媒を留去し、その後、80℃/15kPaで減圧蒸留を行い、沸点65℃/15kPaの画分を本留として採取し、精製クロロエトキシジメチルシランを得た。
【0076】
合成例3:エトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
窒素置換した500mLのガラス製4つ口フラスコに合成例2で調製したクロロエトキシジメチルシラン(0.39モル)を入れ、氷浴下で内温が3~10℃以下になるまで冷却しながら攪拌した。その後、合成例1で調製した(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイドの反応液(0.39モル)を内温が15℃以下になるように滴下した後、24~26℃で20時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)で、(4-ビニルフェニル)マグネシウムブロマイド由来のスチレンンの相対ピーク強度が一定になることで反応完了を確認した。エトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの反応液78.2gを8000rpm/15分の条件で遠心分離し、上澄み液62.95gを回収し、外温40℃/0.2kPaで減圧濃縮し、溶媒留去を行った後、70℃/0.1kPaで減圧蒸留し、沸点が45℃/0.1kPaの画分を本留として回収した。出発物質のジクロロジメチルシランのモル比から算出した全収率は7.4%であった。GC-MSで分析した結果、5.0%のジメチルビス(4-ビニルフェニル)シラン(分子量:264.13)が不純物として含まれており、エトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は95.0%であった。
【0077】
比較例2:iso-プロポキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
エタノールに変えてイソプロパノール23.40g(0.39モル)を用い、85℃/15kPaで減圧蒸留し、沸点が70℃/15kPaの画分を本留として回収した以外は、比較例1の合成例2と同様にして精製クロロイソプロポキシジメチルシランを得た。クロロエトキシジメチルシランに変えて上記で得られたクロロイソプロポキシジメチルシランを用いた以外は比較例1の合成例3と同様にしてiso-プロポキシジメチル(4-ビフェニル)シランを得た。出発物質のジクロロジメチルシランのモル比から算出した全収率は8.2%であった。GC-MSで分析した結果、6.2%のジメチルビス(4-ビニルフェニル)シランが不純物として含まれており、イソプロポキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は93.8%であった。
【0078】
比較例3:tert-ブトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの合成
エタノールに変えてtert-ブタノール28.91g(0.39モル)を用い、88℃/15kPaで減圧蒸留し、沸点が75℃/15kPaの画分を本留として回収した以外は、比較例1の合成例2と同様にして精製クロロ-tert-ブトキシジメチルシランを得た。
クロロエトキシジメチルシランに変えて上記で得られたクロロ-tert-ブトキシジメチルシランを用いた以外は比較例1の合成例3と同様にしてtert-ブトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランを得た。出発物質のジクロロジメチルシランのモル比から算出した全収率は9.1%であった。GC-MSで分析した結果、5.4%のジメチルビス(4-ビニルフェニル)シランが不純物として含まれており、tert-ブトキシジメチル(4-ビニルフェニル)シランの純度は94.6%であった。
【0079】
以上の結果より、クロロ(ビニルフェニル)シランを中間体として経由する実施例1~8の製造方法は、従来のクロロアルコキシシランを中間体として経由するヘテロ原子含有芳香族ビニル化合物の製造方法よりも高い純度と高い収率で目的物を得ることができる。また、比較例において、塩化水素トリエチルアミン塩が生成するため操作が危険であることに対し、実施例はワンポットで安全に目的物を取り出すことができる。