(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】コイル部品及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20240910BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240910BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 F
H01F41/04 C
(21)【出願番号】P 2018053182
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-03-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
(72)【発明者】
【氏名】寺内 直也
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 伸介
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】岩間 直純
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-051752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00 - 19/08
H01F 37/00
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属粒子及び非磁性材料を含み、絶縁性を有する素体部と、
前記素体部に内蔵され、導体が周回して形成されたコイルと、を備え、
前記素体部は、主部と、前記主部よりも比透磁率が低くかつ磁性材料を含んで形成された複数層の低透磁率部と、を有し、
前記コイルは、コイル軸方向でそれぞれ反対側に位置する表面であって前記コイル軸に交差する第1表面及び第2表面を有し、
前記複数層の低透磁率部は、前記コイルの前記第1表面と同一面を形成する第1面と前記コイルの前記第2表面と同一面を形成する第2面の間で且つ前記第1面及び前記第2面から離れて
前記コイルで囲まれた内側領域に設けられ、前記コイルよりも前記素体部の表面側の外側領域より内側にあり、
前記素体部の主部の比透磁率は40以上且つ100以下であり、
前記導体の比透磁率は1であり、
前記複数層の低透磁率部の比透磁率は前記導体の比透磁率の25倍以下であり、
前記複数層の低透磁率部の前記コイル軸方向の合計の厚さTμmは前記素体部の主部の比透磁率μ
rの1/5以上且つ1/2以下(μ
r/5≦T≦μ
r/2)である、コイル部品。
【請求項2】
前記複数層の低透磁率部は、前記コイルで囲まれた前記内側領域の前記コイル軸方向から見た断面を全て覆って設けられている、請求項
1記載のコイル部品。
【請求項3】
前記複数層の低透磁率部の前記コイル軸方向の合計の厚さは40μm未満である、請求項
1または2記載のコイル部品。
【請求項4】
前記素体部は、前記コイルを形成する前記導体と前記磁性金属粒子を主成分に含む磁性体膜とを含む複数の層が積層されて形成されている、請求項1から
3のいずれか一項記載のコイル部品。
【請求項5】
前記複数層の低透磁率部は、積層された前記導体の間に位置している、請求項
4記載のコイル部品。
【請求項6】
前記素体部の表面に設けられた外部電極と、
前記素体部内に設けられ、前記コイルの端を前記外部電極に接続させる引出導体と、を備える、請求項1から
5のいずれか一項記載のコイル部品。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項記載のコイル部品と、
前記コイル部品が実装された回路基板と、を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電源回路又はDC/DCコンバータ回路などの電子機器にコイル部品が用いられている。磁性金属粒子を主成分に含み且つ絶縁性を有する素体部にコイルが内蔵されたコイル部品が知られている。例えば、磁性金属粒子を主成分に含む素体部にコイルが内蔵されたコイル部品において、コイルの導体抵抗を高くする弊害を生じさせることなくガラスを用いて素体部の絶縁を高くすることができる製造方法が提案されている(例えば、特許文献1)。また、フェライトで形成された素体部にコイルが内蔵されたコイル部品において、直流重畳特性を改善するために、コイルを構成する導体パターンに囲まれた領域に素体部の表面に露出する非磁性体層を設けた構成が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-062424号公報
【文献】特開2014-053396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直流重畳特性を改善するために、素体部内に素体部の主部よりも比透磁率の低い低透磁率部を設ける場合、素体部がフェライトで形成されているときには、素体部の主部の透磁率が十分に高くなるため、低透磁率部近傍での磁束漏れが少なくて済む。しかしながら、素体部が磁性金属粒子を主成分に含んで形成されているときには、素体部の主部の透磁率を十分に高くすることが難しいため、低透磁率部近傍での磁束漏れが大きくなってしまう。磁束がコイルを構成する導体に漏れると、導体に渦電流が発生して銅損が生じてしまう。また、直流重畳特性を改善するために素体部内に低透磁率部を設ける場合でも、インダクタンス値が低下することは好ましくない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、インダクタンス値を同等に保ちながら、損失を低く抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、磁性金属粒子及び非磁性材料を含み、絶縁性を有する素体部と、前記素体部に内蔵され、導体が周回して形成されたコイルと、を備え、前記素体部は、主部と、前記主部よりも比透磁率が低くかつ磁性材料を含んで形成された複数層の低透磁率部と、を有し、前記コイルは、コイル軸方向でそれぞれ反対側に位置する表面であって前記コイル軸に交差する第1表面及び第2表面を有し、前記複数層の低透磁率部は、前記コイルの前記第1表面と同一面を形成する第1面と前記コイルの前記第2表面と同一面を形成する第2面の間で且つ前記第1面及び前記第2面から離れて前記コイルで囲まれた内側領域に設けられ、前記コイルよりも前記素体部の表面側の外側領域より内側にあり、前記素体部の主部の比透磁率は40以上且つ100以下であり、前記導体の比透磁率は1であり、前記複数層の低透磁率部の比透磁率は前記導体の比透磁率の25倍以下であり、前記複数層の低透磁率部の前記コイル軸方向の合計の厚さTμmは前記素体部の主部の比透磁率μrの1/5以上且つ1/2以下(μr/5≦T≦μr/2)である、コイル部品である。
【0008】
上記構成において、前記複数層の低透磁率部は、前記コイルで囲まれた前記内側領域の前記コイル軸方向から見た断面を全て覆って設けられている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数層の低透磁率部の前記コイル軸方向の合計の厚さは40μm未満である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記素体部は、前記コイルを形成する前記導体と前記磁性金属粒子を主成分に含む磁性体膜とを含む複数の層が積層されて形成されている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数層の低透磁率部は、積層された前記導体の間に位置している構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記素体部の表面に設けられた外部電極と、前記素体部内に設けられ、前記コイルの端を前記外部電極に接続させる引出導体と、を備える構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記に記載のコイル部品と、前記コイル部品が実装された回路基板と、を備える電子機器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インダクタンス値を同等に保ちながら、損失を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係るコイル部品の斜視図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A間の断面図、
図1(c)は、
図1(a)のB-B間の断面図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例1に係るコイル部品の素体部の分解平面図、
図2(b)は、素体部の内部を透視した平面図である。
【
図3】
図3(a)は、コイルで囲まれた内側領域及びコイルよりも外側の外側領域を説明する平面図、
図3(b)及び
図3(c)は、断面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(e)は、実施例1に係るコイル部品の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図5】
図5(a)から
図5(d)は、実施例1に係るコイル部品の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図6】
図6(a)から
図6(d)は、実施例1に係るコイル部品の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は、比較例1に係るコイル部品の断面図、
図7(c)及び
図7(d)は、比較例2に係るコイル部品の断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、実施例1、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)は、実施例1の変形例1に係るコイル部品の断面図、
図9(c)及び
図9(d)は、実施例1の変形例2に係るコイル部品の断面図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1、実施例1の変形例1、実施例1の変形例2、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図11】
図11(a)及び
図11(b)は、実施例2に係るコイル部品の断面図、
図11(c)及び
図11(d)は、実施例2の変形例1に係るコイル部品の断面図である。
【
図12】
図12(a)及び
図12(b)は、実施例2の変形例2に係るコイル部品の断面図、
図12(c)及び
図12(d)は、実施例2の変形例3に係るコイル部品の断面図である。
【
図13】
図13(a)から
図13(c)は、実施例2、実施例2の変形例1、実施例2の変形例2、実施例2の変形例3、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーションの結果を示す図である。
【
図14】
図14(a)及び
図14(b)は、コイルで囲まれた内側領域に1層の低透磁率部が設けられている場合の断面図、
図14(c)及び
図14(d)は、コイルで囲まれた内側領域に3層の低透磁率部が設けられている場合の断面図である。
【
図15】
図15は、コイル部品が薄膜インダクタの場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、実施例1に係るコイル部品の斜視図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A間の断面図、
図1(c)は、
図1(a)のB-B間の断面図である。
図2(a)は、実施例1に係るコイル部品の素体部の分解平面図、
図2(b)は、素体部の内部を透視した平面図である。
図1(a)から
図1(c)のように、実施例1のコイル部品100は、素体部10と、外部電極60a及び60bと、を備える。素体部10内には、コイル30と、引出導体40a及び40bと、1又は複数の低透磁率部50と、が設けられている。なお、素体部10内において、同一の組成であって素体部10の体積の大部分を占める部分を素体部10の主部11とする。
【0020】
素体部10は、上面12と、下面14と、1対の端面16a及び16bと、1対の側面18a及び18bと、を有する直方体形状をしている。下面14は実装面であり、上面12は下面14と反対側の面である。端面16a及び16bは、上面12及び下面14の短辺に接続された面である。側面18a及び18bは、上面12及び下面14の長辺に接続された面である。素体部10は、完全な直方体形状をしている場合に限られず、例えば各頂点が丸みを帯びている場合、各稜(各面の境界部)が丸みを帯びている場合、又は各面が曲面を有している場合などの略直方体形状の場合でもよい。
【0021】
素体部10は、絶縁性を有し、磁性金属粒子と非磁性材料を含んで形成されている。素体部10は、例えば磁性金属粒子を主成分に含んで形成されている。主成分に含むとは、例えば磁性金属粒子を50wt%よりも多く含む場合であり、70wt%以上含む場合が好ましく、80wt%以上含む場合が更に好ましい。素体部10は、例えば磁性金属粒子を含有する樹脂で形成されているが、表面が絶縁被覆された磁性金属粒子が焼結されて形成されている場合などでもよい。磁性金属粒子として、例えばFeSiCr系、FeSiAl系、又はFeSiCrAl系などの軟磁性金属、Fe又はNiなどの磁性金属、アモルファス磁性金属、又はナノ結晶磁性金属などが用いられる。一例として、素体部10は、磁性金属粒子としてFeを90wt%以上含んで形成されている。また、一例として、素体部10に含まれる磁性金属粒子の平均粒径は5μm以下となっている。樹脂としては、例えばポリイミド樹脂又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてもよいし、ポリエチレン樹脂又はポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を用いてもよい。磁性金属粒子の表面を被覆する絶縁膜としては、例えばガラスなどの無機絶縁物などが用いられる。
【0022】
図2(a)のように、素体部10は、周回導体32と接続導体34が設けられた複数の層20及びカバー層21が積層されて形成されている、複数の層20及びカバー層21は、磁性金属粒子を主成分に含む磁性体膜を含んで形成されている。複数の層20のうちの隣接する層20に設けられた周回導体32は、層20を厚さ方向に貫通する接続導体34によって接続されている。したがって、周回導体32は、接続導体34を介して螺旋状に伸びている。これにより、
図1(b)及び
図1(c)のように、素体部10に内蔵されたコイル30が形成されている。コイル30は、所定の周回単位を有するとともに、周回単位によって規定される面に略直交するコイル軸を有する。実施例1では、周回導体32は7層積層され、コイル30の巻数は5.5ターンとなっている。
【0023】
図2(b)のように、コイル30は、複数の層20の積層方向で平面視したときに、複数の層20に設けられた周回導体32が重なり合うことで環状形状をしている。周回導体32及び接続導体34(すなわちコイル30)は、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、銀、白金、又はパラジウムなどの金属材料、若しくはこれらを含む合金金属材料で形成されている。
【0024】
図1(b)及び
図1(c)のように、複数の周回導体32が積層された積層方向で隣接する周回導体32の間に、素体部10の主部11よりも比透磁率が低く且つ絶縁性を有する絶縁層22が設けられている。絶縁層22は、例えばポリイミド樹脂などの樹脂材料で形成されているが、ガラスなどの無機絶縁材料又はその他の材料で形成されていてもよい。絶縁層22のコイル軸方向における厚さは、周回導体32のコイル軸方向における厚さよりも薄くなっていてもよい。例えば、周回導体32のコイル軸方向の厚さは50μm程度であり、絶縁層22のコイル軸方向の厚さは10μm程度である。
【0025】
引出導体40a及び40bは、コイル30から引き出されている。引出導体40aは、コイル30から素体部10の端面16aに向かって引き出され、引出導体40bは、コイル30から素体部10の端面16bに向かって引き出されている。引出導体40a及び40bの端は素体部10の端面16a及び16bで素体部10から露出している。引出導体40a及び40bは、例えばコイル30と同じ金属で形成されているが、コイル30と異なる金属で形成されていてもよい。
【0026】
外部電極60a及び60bは、表面実装用の外部端子である。
図1(a)及び
図1(b)のように、外部電極60aは、素体部10の下面14から端面16aを経由して上面12まで延在し且つ側面18a及び18bの一部を覆っている。外部電極60bは、素体部10の下面14から端面16bを経由して上面12まで延在し且つ側面18a及び18bの一部を覆っている。すなわち、外部電極60a及び60bは、素体部10の5面を覆う5面電極である。なお、外部電極60a及び60bは、素体部10の下面14から端面16a又は16bを経由して上面12まで延在する3面電極の場合でもよいし、その他の場合でもよい。
【0027】
素体部10の端面16aでは引出導体40aの端が素体部10から露出しており、外部電極60aは素体部10の端面16aで引出導体40aに接続されている。素体部10の端面16bでは引出導体40bの端が素体部10から露出しており、外部電極60bは素体部10の端面16bで引出導体40bに接続されている。外部電極60a及び60bは、例えば複数の金属層から形成されている。外部電極60a及び60bは、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、銀、白金、又はパラジウムなどの金属材料、又はこれらを含む合金金属材料で形成された下層、銀又は銀を含む導電性樹脂で形成された中層、ニッケル及び/又は錫のめっき層である上層の複層構造をしている。各層の間に中間層がある場合又は上層の上に最上層がある場合など、外部電極60a及び60bの層構成は例示された層のみには限定されない。
【0028】
図1(b)、
図1(c)、及び
図2(b)のように、低透磁率部50は、素体部10の内部に設けられている。低透磁率部50は、素体部10の主部11の比透磁率よりも低い比透磁率を有するとともに、絶縁性を有する。低透磁率部50は、例えばポリイミド樹脂などの樹脂材料で形成されているが、ガラス又は酸化アルミニウムなどの酸化物系材料などその他の非磁性材料で形成されていてもよい。低透磁率部50は、素体部10の主部11の比透磁率よりも低ければ磁性材料で形成されていてもよいし、磁性材料と非磁性材料が組み合わされて形成されていてもよい。低透磁率部50は、例えば絶縁層22と同じ材料で形成されているが、異なる材料で形成されている場合でもよい。素体部10の主部11と低透磁率部50との比透磁率の比率は10倍以上、望ましくは20倍以上である。これにより、直流重畳特性を向上できるとともに、比透磁率の差が大きいほど低透磁率層の厚みを薄くできてコイル部品100を小型化できる。
【0029】
低透磁率部50は、コイル30の第1表面36と同一面を形成する第1面37とコイル30の第2表面38と同一面を形成する第2面39の間のコイル30で囲まれた内側領域24に第1面37及び第2面39から離れて設けられている。言い換えると、低透磁率部50は、第1面37よりも第2面39側且つ第2面39よりも第1面37側に位置してコイル30で囲まれた内側領域24に設けられている。コイル30の第1表面36及び第2表面38は、コイル30の表面のうちコイル軸方向で両側に位置してコイル軸に交差する表面である。言い換えると、コイル30の第1表面36及び第2表面38は、コイル30の表面のうちコイル軸方向でそれぞれ反対側に位置する表面であってコイル軸に交差する表面である。
【0030】
ここで、
図3(a)から
図3(c)を用いて、コイル30で囲まれた内側領域24及びコイル30よりも素体部10の表面側の外側領域26について説明する。
図3(a)は、コイルで囲まれた内側領域及びコイルよりも外側の外側領域を説明する平面図、
図3(b)及び
図3(c)は、断面図である。なお、
図3(a)から
図3(c)では、図の明瞭化のために、内側領域24及び外側領域26以外のハッチは省略している。
図3(a)から
図3(c)のように、素体部10の内部のうちのコイル30で囲まれた領域(
図3(a)から
図3(c)では細かいクロスハッチの領域)が内側領域24である。素体部10の内部のうちのコイル30よりも素体部10の表面側の領域(
図3(a)から
図3(c)では粗いクロスハッチの領域)が外側領域26である。
【0031】
図1(b)、
図1(c)、及び
図2(b)のように、低透磁率部50は、コイル30で囲まれた内側領域24のコイル軸方向から見た断面を覆って設けられている。例えば、低透磁率部50は、コイル軸方向から透視した場合、内側領域24の全面に設けられている。この全面に設けるとは、低透磁率部50が、1つの場合でも、複数の場合でも、複数を組み合わせて全面とする場合でも良い。つまり、ここで、覆っているとはコイル軸を通る磁束を遮るように低透磁率部50を設けることである。
図2(b)では、低透磁率部50が設けられている部分をクロスハッチで示している。実施例1では、周回導体32が7層積層されて形成されたコイル30で囲まれた内側領域24に、低透磁率部50が2層設けられている。積層された周回導体32を素体部10の上面12側から順に第1層から第7層とした場合に、一方の低透磁率部50は、第1層と第2層の間に位置して内側領域24に設けられ、素体部10の上面12側の面は第1面37よりも素体部10の下面14側に位置している。他方の低透磁率部50は、第6層と第7層の間に位置して内側領域24に設けられ、素体部10の下面14側の面は第2面39よりも素体部10の上面12側に位置している。
【0032】
低透磁率部50のコイル軸方向における厚さは、周回導体32のコイル軸方向における厚さよりも薄くなっている。また、低透磁率部50のコイル軸方向における厚さは、例えば絶縁層22のコイル軸方向における厚さよりも厚くなっているが、絶縁層22のコイル軸方向における厚さと同じ厚さ又は同等の厚さの場合でもよいし、薄い場合でもよい。
【0033】
次に、実施例1に係るコイル部品の製造方法を説明する。
図4(a)から
図4(e)、
図5(a)から
図5(d)、及び
図6(a)から
図6(d)は、実施例1に係るコイル部品の製造方法を示す断面図である。実施例1のコイル部品100は、
図4(a)から
図4(e)によって形成された層、
図5(a)から
図5(d)によって形成された層、及び
図6(a)から
図6(d)によって形成された層などを積層することで形成される。
【0034】
図4(a)のように、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などのフィルム70上に、例えば印刷法によってポリイミド樹脂などの樹脂材料を塗布して、絶縁層22及び低透磁率部50の第1層52aを形成する。
図4(b)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によってポリイミド樹脂などの樹脂材料を塗布して、低透磁率部50の第1層52a上に低透磁率部50の第2層52bを形成する。第1層52a及び第2層52bによって低透磁率部50が形成される。
【0035】
図4(c)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によって導電性材料を塗布して、コイル30を構成する周回導体32及び接続導体34の前駆体を形成する。これらは後述する熱処理によって周回導体32及び接続導体34となる。接続導体34を形成する部分は、予め絶縁層22及び低透磁率部50の第1層52aを形成する際に印刷しない部分を設けるか、レーザー等で絶縁層22の一部を除いておくなどの方法にて作成しておく。
図4(d)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によって磁性金属粒子を主成分に含有する樹脂材料を塗布して、磁性体膜72を形成する。その後、
図4(e)のように、フィルム70を剥離する。これにより、素体部10を構成する複数の層20のうちの1種類目の層(周回導体32間の絶縁層22及び低透磁率部50を有する層)20が形成される。
【0036】
図5(a)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によってポリイミド樹脂などの樹脂材料を塗布して、絶縁層22を形成する。
図5(b)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によって導電性材料を塗布して、コイル30を構成する周回導体32及び接続導体34の前駆体を形成する。これらは後述する熱処理によって周回導体32及び接続導体34となる。接続導体34を形成する部分は、予め絶縁層22を形成する際に印刷しない部分を設けるか、レーザー等で絶縁層22の一部を除いておくなどの方法にて作成しておく。
図5(c)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によって磁性金属粒子を主成分として含有する樹脂材料を塗布して、磁性体膜72を形成する。その後、
図5(d)のように、フィルム70を剥離する。これにより、素体部10を構成する複数の層20のうちの2種類目の層(周回導体32間の絶縁層22を有する層)20が形成される。
【0037】
図6(a)のように、フィルム70上に、例えばドクターブレード法又は印刷法によって磁性金属粒子を主成分に含有する樹脂材料を塗布して、グリーンシート74を形成する。
図6(b)のように、グリーンシート74上に、例えば印刷法によって導電性材料を塗布して、コイル30を構成する周回導体32の前駆体を形成する。これは後述する熱処理によって周回導体32となる。
図6(c)のように、フィルム70上に、例えば印刷法によって磁性金属粒子を主成分に含有する樹脂材料を塗布して、磁性体膜72を形成する。その後、
図6(d)のように、フィルム70を剥離する。これにより、素体部10を構成する複数の層20のうちの3種類目の層(周回導体32間の絶縁層22を有しない層)20が形成される。
【0038】
また、素体部10を構成するカバー層21の製造方法について、
図6(a)を用いて説明する。
図6(a)のように、フィルム70上に、例えば例えばドクターブレード法又は印刷法によって磁性金属粒子を主成分に含有する樹脂材料を塗布してグリーンシート74を形成した後、フィルム70を剥離する。これにより、カバー層21が形成される。
【0039】
図4(a)から
図4(e)で形成した層(周回導体32間の絶縁層22及び低透磁率部50を有する層)20と、
図5(a)から
図5(d)で形成した層(周回導体32間の絶縁層22を有する層)20と、
図6(a)から
図6(d)で形成した層(周回導体32間の絶縁層22を有しない層)20と、
図6(a)を用いて説明したカバー層21と、を所定の順序で積層し、積層方向に圧力を加えて圧着する。その後、圧着した複数の層20及びカバー層21をチップ単位に切断した後、所定温度(例えば600℃~900℃程度)にて熱処理を行う。これにより、複数の層20及びカバー層21が積層され、内部に周回導体32及び接続導体34で形成されたコイル30が設けられた素体部10が形成される。続いて、素体部10の表面に外部電極60a及び60bを形成する。外部電極60a及び60bは、ペースト印刷、めっき、又はスパッタリングなどの薄膜プロセスで用いられる方法によって形成される。
【0040】
図7(a)及び
図7(b)は、比較例1に係るコイル部品の断面図、
図7(c)及び
図7(d)は、比較例2に係るコイル部品の断面図である。
図7(a)及び
図7(b)のように、比較例1のコイル部品500では、素体部10の内部に低透磁率部が設けられていない。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
図7(c)及び
図7(d)のように、比較例2のコイル部品600では、一方の低透磁率部50は、コイル30の第1表面36又は内側領域24の少なくとも一方に接して外側領域26に設けられている。他方の低透磁率部50は、コイル30の第2表面38又は内側領域24の少なくとも一方に接して外側領域26に設けられている。低透磁率部50は、コイル30で囲まれた内側領域24には設けられていない。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0041】
ここで、実施例1、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーションについて説明する。直流重畳特性は、磁束を遮る位置に設けられた低透磁率部50の存在によって向上するので、低透磁率部50の存在しない比較例1に対して、低透磁率部50の存在する実施例1及び比較例2は直流重畳特性が向上する。このため、直流重畳特性ではなく銅損についてシミュレーションを行った。なお、銅損は、10MHz以上のような高周波では交流成分の影響が大きくなる。シミュレーションを行った素体部10の長手方向の長さを1.6mm、短手方向の長さを0.8mm、高さを0.65mmとした。素体部10の主部11の比透磁率を、素体部10が磁性金属粒子を主成分に含んで形成されているために透磁率があまり高くないとして、40、70、100とした。周回導体32の積層数を7層とし、コイル30の巻数を5.5ターンとした。インダクタンス値が0.22μH、コイル30の直流抵抗Rdcが36mΩとなるように、低透磁率部50の厚さ並びに周回導体32の高さ及び幅を調整した。表1に、素体部10の主部11の比透磁率、低透磁率部50の厚さ及び比透磁率、周回導体32の1層当たりの高さ、幅、及び比透磁率、並びに絶縁層22の1層当たりの厚さを示す。
【表1】
【0042】
図8(a)から
図8(c)は、実施例1、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
図8(a)は素体部10の主部11の比透磁率が40の場合のシミュレーション結果、
図8(b)は素体部10の主部11の比透磁率が70の場合のシミュレーション結果、
図8(c)は素体部10の主部11の比透磁率が100の場合のシミュレーション結果である。
図8(a)から
図8(c)のように、実施例1は、比較例2に比べて、銅損が低くなる結果となった。例えば、2MHzから3MHz程度の低周波数では、実施例1は比較例2に比べて銅損の低下量はそれほど大きくはないが、10MHz以上の高周波では、実施例1は比較例2に比べて銅損が大きく低下し、15MHz以上の高周波数では、銅損が更に大きく低下する結果となった。
【0043】
このように、実施例1は比較例2に比べて銅損が低下したのは以下の理由によるものと考えられる。一般に、物質の中を通る磁束は、なるべく短い経路となる様に直線性を持つ性質と、なるべく透磁率の高い物質の部分を通る性質とがある。これを比較例2に当てはめると、
図7(c)及び
図7(d)のように、低透磁率部50の一方は、コイル30の第1表面36又は内側領域24の少なくとも一方に接して外側領域26に設けられ、他方は、コイル30の第2表面38又は内側領域24の少なくとも一方に接して外側領域26に設けられている。このことは、コイル30に発生した磁束が周回するに際して、磁束が曲がるコイル30の角の部分の付近に低透磁率部50が設けられていることを意味する。つまり、このような形態では、磁束は比透磁率の高い素体部10の主部11の短い経路を通ろうとして、磁束が周回導体32を通過することが生じる。このように磁束がコイル30の周回導体32を通過することで、コイル30に渦電流が発生する。したがって、比較例2では、コイル30に渦電流が発生することで銅損が高くなったものと考えられる。このような、磁束が高い透磁率の部分の物質を通ろうとする性質と、磁束が最短の経路を通ろうとする性質とで、後者が優勢となるのは、素体部10の主部11と低透磁率部50の両方を通る経路の透磁率が低い場合である。これは素体部10の主部11の比透磁率が100以下の場合であり、70以下の場合がより顕著となり、40以下の場合が更に顕著となる。また、磁束が最短の経路を通ろうとする場合に磁束が周回導体32を通過することが生じ易くなるのは、低透磁率部50と周回導体32の比透磁率の差が25倍以下の場合であり、10倍以下の場合がより通過し易くなり、5倍以下の場合が更に通過し易くなる。
【0044】
一方、実施例1では、
図1(b)及び
図1(c)のように、低透磁率部50は、コイル30の第1表面36と同一面を形成する第1面37とコイル30の第2表面38と同一面を形成する第2面39の間のコイル30で囲まれた内側領域24に第1面37及び第2面39から離れて設けられている。このことは、コイル30に発生した磁束が周回するに際して、磁束が曲がるコイル30の角の部分の付近には比透磁率の高い素体部10の主部11のみが設けられていることを意味する。これにより、素体部10の主部11の比透磁率が十分に高くなく且つ低透磁率部50と周回導体32の比透磁率の大きさが近い場合でも、磁束が周回導体32を通過することが抑制される。これは、素体部10の主部11と低透磁率部50の両方を通る経路の透磁率が低くなっても、この磁束の経路が最も短い経路となるためである。よって、コイル30に渦電流が発生することが抑制され、その結果、銅損が低くなったものと考えられる。コイル部品が搭載される電子機器で使用される周波数は高くなる傾向にあり、素体部10を形成する磁性金属粒子の小粒径化と粒子間の高絶縁化が進んでいる。このため、素体部10で生じる鉄損は低くなる傾向にある。したがって、銅損を低く抑えることで、損失全体を低く抑えることができる。
【0045】
実施例1によれば、
図1(b)及び
図1(c)のように、コイル30の第1表面36と同一面を形成する第1面37とコイル30の第2表面38と同一面を形成する第2面39の間で且つ第1面37及び第2面39から離れて低透磁率部50が設けられている。これにより、低透磁率部50が設けられていない比較例1に比べて直流重畳特性を改善させつつ、
図8(a)から
図8(c)で説明したように損失を低く抑えることができる。また、コイル30で囲まれた内側領域24は、磁束が集中する部分である。
図1(b)及び
図1(c)のように、コイル30で囲まれた内側領域24に低透磁率部50に設けられていることによって、直流重畳特性を効果的に改善することができる。また、比較例2の場合は、
図7(c)及び
図7(d)のように、低透磁率部50の一方はコイル30の第1表面36又は内側領域24の少なくとも一方に接して外側領域26に設けられ、他方はコイル30の第2表面38又は内側領域24の少なくとも一方に接して外側領域26に設けられている。低透磁率部50は、コイル30の第1表面36と同一面を形成する第1面37とコイル30の第2表面38と同一面を形成する第2面39の間には設けられていない。これにより、低透磁率部50が設けられていない比較例1に比べて直流重畳特性は改善するものの、
図8(a)から
図8(c)で説明したように損失が高くなってしまう。
【0046】
図9(a)及び
図9(b)は、実施例1の変形例1に係るコイル部品の断面図、
図9(c)及び
図9(d)は、実施例1の変形例2に係るコイル部品の断面図である。
図9(a)及び
図9(b)のように、実施例1の変形例1のコイル部品110では、一方の低透磁率部50は周回導体32の第2層と第3層の間に位置して内側領域24に設けられ、他方の低透磁率部50は周回導体32の第5層と第6層の間に位置して内側領域24に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
図9(c)及び
図9(d)のように、実施例1の変形例2に係るコイル部品120では、一方の低透磁率部50は周回導体32の第3層と第4層の間に位置して内側領域24に設けられ、他方の低透磁率部50は周回導体32の第4層と第5層の間に位置して内側領域24に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0047】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1、実施例1の変形例1、実施例1の変形例2、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーションの結果を示す図である。なお、実施例1の変形例1及び実施例1の変形例2に対するシミュレーションは、
図8(a)から
図8(c)の場合と同様に、素体部10の長手方向の長さを1.6mm、短手方向の長さを0.8mm、高さを0.65mmとした。素体部10の主部11の比透磁率を40、70、100とした。周回導体32の積層数を7層とし、コイル30の巻数を5.5ターンとした。インダクタンス値が0.22μH、コイル30の直流抵抗Rdcが36mΩとなるように、低透磁率部50の厚さ並びに周回導体32の高さ及び幅を調整した。表2に、素体部10の主部11の比透磁率、低透磁率部50の厚さ及び比透磁率、周回導体32の1層当たりの高さ、幅、及び比透磁率、並びに絶縁層22の1層当たりの厚さを示す。
【表2】
【0048】
図10(a)から
図10(c)のように、実施例1の変形例1及び実施例1の変形例2の場合でも、実施例1と同様に、比較例2に比べて銅損が低くなる結果となった。これは、実施例1で説明した理由と同じ理由によるものと考えられる。この結果から、コイル30で囲まれた内側領域24に低透磁率部50が設けられていれば、低透磁率部50がコイル軸方向でどの位置に設けられていても、銅損が低くなる効果が得られることが分かる。
【0049】
図1(b)及び
図1(c)のように、好適には、低透磁率部50は、コイル30で囲まれた内側領域24に設けられ、コイル30よりも素体部10の表面側の外側領域26には設けられずに外側領域26よりも内側にある。これにより、磁束が集中するコイル30の内側領域24に低透磁率部50が設けられることで直流重畳特性を効果的に改善できる。
【0050】
図2(b)のように、好適には、低透磁率部50は、コイル30で囲まれた内側領域24のコイル軸方向から見た断面を全て覆って設けられている。これにより、磁束が集中しやすい部分を覆って低透磁率部50が設けられるため、直流重畳特性を効果的に改善することができる。
【0051】
図1(b)及び
図1(c)のように、低透磁率部50は、好適には、積層された複数の周回導体32の間に位置して設けられている。これにより、
図4(a)から
図4(e)のように、絶縁層22を形成する際に低透磁率部50を形成することができるため、低透磁率部50の形成容易性が向上する。
【0052】
なお、実施例1において、周回導体32の内側領域24に面した側面に低透磁率部が設けられ、周回導体32の内側領域24に面した側面が低透磁率部で覆われていてもよい。
【実施例2】
【0053】
実施例1では、コイル30で囲まれた内側領域24に2層の低透磁率部が設けられている場合を例に示したが、実施例2では、4層又は6層の低透磁率部が設けられている場合について説明する。
図11(a)及び
図11(b)は、実施例2に係るコイル部品の断面図、
図11(c)及び
図11(d)は、実施例2の変形例1に係るコイル部品の断面図である。
図12(a)及び
図12(b)は、実施例2の変形例2に係るコイル部品の断面図、
図12(c)及び
図12(d)は、実施例2の変形例3に係るコイル部品の断面図である。
【0054】
図11(a)及び
図11(b)のように、実施例2のコイル部品200では、コイル30で囲まれた内側領域24に4層の低透磁率部50が設けられている。1層目の低透磁率部50は周回導体32の第1層と第2層の間に位置して内側領域24に設けられ、2層目の低透磁率部50は周回導体32の第2層と第3層の間に位置して内側領域24に設けられている。3層目の低透磁率部50は周回導体32の第5層と第6層の間に位置して内側領域24に設けられ、4層目の低透磁率部50は周回導体32の第6層と第7層の間に位置して内側領域24に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0055】
図11(c)及び
図11(d)のように、実施例2の変形例1のコイル部品210では、コイル30で囲まれた内側領域24に4層の低透磁率部50が設けられている。1層目の低透磁率部50は周回導体32の第1層と第2層の間に位置して内側領域24に設けられ、2層目の低透磁率部50は周回導体32の第3層と第4層の間に位置して内側領域24に設けられている。3層目の低透磁率部50は周回導体32の第4層と第5層の間に位置して内側領域24に設けられ、4層目の低透磁率部50は周回導体32の第6層と第7層の間に位置して内側領域24に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0056】
図12(a)及び
図12(b)のように、実施例2の変形例2のコイル部品220では、コイル30で囲まれた内側領域24に4層の低透磁率部50が設けられている。1層目の低透磁率部50は周回導体32の第2層と第3層の間に位置して内側領域24に設けられ、2層目の低透磁率部50は周回導体32の第3層と第4層の間に位置して内側領域24に設けられている。3層目の低透磁率部50は周回導体32の第4層と第5層の間に位置して内側領域24に設けられ、4層目の低透磁率部50は周回導体32の第5層と第6層の間に位置して内側領域24に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0057】
図12(c)及び
図12(d)のように、実施例2の変形例3のコイル部品230では、コイル30で囲まれた内側領域24に6層の低透磁率部50が設けられている。1層目の低透磁率部50は周回導体32の第1層と第2層の間に位置して内側領域24に設けられ、2層目の低透磁率部50は周回導体32の第2層と第3層の間に位置して内側領域24に設けられている。3層目の低透磁率部50は周回導体32の第3層と第4層の間に位置して内側領域24に設けられ、4層目の低透磁率部50は周回導体32の第4層と第5層の間に位置して内側領域24に設けられている。5層目の低透磁率部50は周回導体32の第5層と第6層の間に位置して内側領域24に設けられ、6層目の低透磁率部50は周回導体32の第6層と第7層の間に位置して内側領域24に設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0058】
図13(a)から
図13(c)は、実施例2、実施例2の変形例1、実施例2の変形例2、実施例2の変形例3、比較例1、及び比較例2に係るコイル部品の銅損の周波数特性のシミュレーションの結果を示す図である。なお、実施例2から実施例2の変形例3に対するシミュレーションは、
図8(a)から
図8(c)の場合と同様に、素体部10の長手方向の長さを1.6mm、短手方向の長さを0.8mm、高さを0.65mmとした。素体部10の主部11の比透磁率を40、70、100とした。周回導体32の積層数を7層とし、コイル30の巻数を5.5ターンとした。インダクタンス値が0.22μH、コイル30の直流抵抗Rdcが36mΩとなるように、低透磁率部50の厚さ並びに周回導体32の高さ及び幅を調整した。表3に、素体部10の主部11の比透磁率、低透磁率部50の厚さ及び比透磁率、周回導体32の1層当たりの高さ、幅、及び比透磁率、並びに絶縁層22の1層当たりの厚さを示す。
【表3】
【0059】
図13(a)から
図13(c)のように、実施例2から実施例2の変形例3の場合でも、比較例2に比べて、銅損が低くなる結果となった。これは、実施例1で説明した理由と同じ理由によるものと考えられる。この結果から、コイル30で囲まれた内側領域24に低透磁率部が2層設けられている場合に限られず、4層又は6層などの複数層設けられている場合でも、銅損が小さくなる効果が得られることが分かる。また、実施例1で説明した理由を踏まえると、
図14(a)及び
図14(b)のように、コイル30で囲まれた内側領域24に1層の低透磁率部50が設けられている場合、
図14(c)及び
図14(d)のように、コイル30で囲まれた内側領域24に3層の低透磁率部50が設けられている場合でも、銅損が小さくなる効果が得られることが言える。
【0060】
コイル30で囲まれた内側領域24には、好適には、複数の低透磁率部50が設けられる。これにより、低透磁率部50それぞれの厚さを絶縁層22の厚さと同程度の厚さにしつつ、直流重畳特性を改善するために複数の低透磁率部50の合計厚さを厚くすることができる。よって、低透磁率部50を絶縁層22と同時に形成することができるなど、低透磁率部50の形成容易性が向上する。低透磁率部50の形成容易性の向上の点から、低透磁率部50の厚さは、絶縁層22の厚さと同じである場合が好ましい。なお、同じ厚さとは、製造誤差程度の違いは同じ厚さであるとするものである。
【0061】
表1から表3のように、素体部10の主部11の比透磁率が100以下である場合、好適には、コイル30で囲まれた内側領域24に設けられた低透磁率部50のコイル軸方向の合計厚さは40μm未満である。言い換えると、低透磁率部50のコイル軸方向の合計厚さTμmは、好適には、素体部10の主部11の比透磁率μrの1/5以上且つ1/2以下(μr/5≦T≦μr/2)であり、1/4以上且つ1/2以下(μr/4≦T≦μr/2)がより好ましく、1/3以上且つ1/2以下(μr/3≦T≦μr/2)が更に好ましい。これにより、直流重畳特性を改善しながら、損失も併せて改善することができる。
【0062】
実施例1及び実施例2では、低透磁率部50は、樹脂材料又は無機絶縁材料などで形成されている場合を例に示したが、その他の材料で形成されていてもよく、空隙である場合でもよい。また、低透磁率部50は、誘電率が10以下である材料で形成されていてもよい。この場合、自己共振周波数が高周波側に移行し、高周波特性を改善することができる。また、実施例1及び実施例2では、低透磁率部50を内側領域24にのみ設けた例を示した。これにより、外側領域からコイル部品の外側に漏れる磁束は少なくなり、結果として外側領域の素体部の体積を小さくできる。つまり、コイル軸方向から見た、素体部10の主部11の外側領域26は内側領域24より断面積を小さくでき、コイル部品全体の小型化につながる。しかしながら、低透磁率部50を設けるにあたっては、磁束を遮る位置に低透磁率部50を設けることで直流重畳特性を改善できることは既知の技術であることから、コイル30の第1表面36と同一面を形成する第1面37とコイル30の第2表面38と同一面を形成する第2面39の間で且つ第1面37と第2面39から離れて、コイル30よりも素体部10の表面側の外側領域26に設けられていてもよい。この場合、低透磁率部50を内側領域24にのみ設けた場合より、外側領域26の素体部10の体積を大きくすることで、コイル部品の外側に漏れる磁束を小さくできる。つまり、コイル軸方向から見た、素体部10の主部11の外側領域26は内側領域24より断面積を大きくすることで、コイル部品のシールドを高くでき、他の部品との干渉等をおさえつつ、部品間の距離を小さくすることができる。また、低透磁率部50は、コイル30の第1表面36と同一面を形成する第1面37とコイル30の第2表面38と同一面を形成する第2面39の間で且つ第1面37と第2面39から離れていれば、内側領域24及び外側領域26の両方に設けられてもよい。実施例1及び実施例2では、磁束が集中する部分である内側領域24にのみ低透磁率部50を設ける最も好適な例を挙げたが、他の場合であっても同様の効果を奏する。
【0063】
実施例1及び実施例2では、コイル部品として積層インダクタの場合を例に示した。すなわち、素体部10は、コイル30を形成する周回導体32及び接続導体34と磁性金属粒子を主成分に含む磁性体膜72とを含む複数の層20が積層されて形成されている場合を例に示した。しかしながら、コイル部品は積層インダクタの場合に限られず、薄膜インダクタなど、その他のコイル部品の場合でもよい。例えば、磁性金属粒子と樹脂を混練した複合材料をシート化し重ねる方法、複合材料を熱や圧力で固める方法などでもよい。
【0064】
図15は、コイル部品が薄膜インダクタの場合の断面図である。
図15のように、素体部10に周回導体32aと周回導体32bを含むコイル30が内蔵されている。周回導体32a及び32bは、コイル軸に交差する方向で渦巻状に旋回していて、互いの端部が接続されている。低透磁率部50は、周回導体32aと周回導体32bの間に位置して設けられている。
【実施例3】
【0065】
図16は、実施例3に係る電子機器の断面図である。
図16のように、実施例3の電子機器300は、回路基板90と、回路基板90に実装された実施例1のコイル部品100と、を備える。コイル部品100は、外部電極60a及び60bが半田94によって回路基板90の電極92に接合されることで、回路基板90に実装されている。
【0066】
実施例3の電子機器300によれば、コイル部品100が回路基板90に実装されている。これにより、直流重畳特性を改善しつつ、損失が低く抑えられたコイル部品100を有する電子機器300を得ることができる。
【0067】
なお、実施例3では、回路基板90に実施例1のコイル部品100が実装されている場合を例に示したが、実施例1の変形例1から実施例2の変形例3のコイル部品が実装されている場合でもよい。
【0068】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 素体部
11 素体部の主部
12 上面
14 下面
16a、16b 端面
18a、18b 側面
20 層
21 カバー層
22 絶縁層
24 内側領域
26 外側領域
30 コイル
32~32b 周回導体
34 接続導体
36 第1表面
37 第1面
38 第2表面
39 第2面
40a、40b 引出導体
50 低透磁率部
52a 第1層
52b 第2層
60a、60b 外部電極
70 フィルム
72 磁性体膜
74 グリーンシート
90 回路基板
92 電極
94 半田
100、110、120 コイル部品
200、210、220、230 コイル部品
300 電子機器
500、600 コイル部品