(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムと運転方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20240910BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240910BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240910BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240910BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A01K63/04 A
C02F1/44 A ZAB
C02F3/34 101D
B01D65/02
B01D69/00
B01D61/14 500
(21)【出願番号】P 2019188435
(22)【出願日】2019-10-15
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018208970
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-308141(JP,A)
【文献】特開平03-280821(JP,A)
【文献】特開2017-202467(JP,A)
【文献】特開2015-202102(JP,A)
【文献】特開2011-250724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/04
C02F 1/44
C02F 3/34
B01D 65/02
B01D 69/00
B01D 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水をろ過処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽は水生生物を飼育する
、底部がすり鉢状になっている主水槽と、飼育水中に前記送水ポンプが浸漬されている補助水槽からなり、
前記主水槽と前記補助水槽は、飼育水が移動可能になるようにそれぞれの底部にて連結され、
前記飼育水槽、前記生物ろ過槽および前記分離膜モジュールの接続順序が、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールがろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続された第1接続形態であるか、または
前記飼育水槽と前記分離膜モジュールが飼育水送水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールと前記生物ろ過槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽のろ過水出口と前記飼育水槽がろ過槽処理水ラインで接続された第2接続形態であり、
前記第1接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有しており、
前記第2接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ライン、前記生物ろ過槽、前記生物ろ過槽処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有しているものであり、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項2】
前記第1形態の接続順序であるとき、さらに前記生物ろ過槽と分離膜処理水ラインを接続する補助送水ラインを有しており、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記補助送水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインを有している、請求項1記載の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項3】
水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽は水生生物を飼育する
、底部がすり鉢状になっている主水槽と、飼育水中に前記送水ポンプが浸漬されている補助水槽からなり、
前記主水槽と前記補助水槽は、飼育水が移動可能になるようにそれぞれの底部にて連結され、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールが、第1流量調整弁が配置された第1ろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
さらに前記生物ろ過槽と前記分離膜処理水ラインが、第2流量調整弁が配置された第2ろ過槽処理水ラインで接続されており、
前記第1流量調整弁が開けられ、前記第2流量調整弁が閉じられた状態で、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第1ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有し、
前記第1流量調整弁が閉じられ、前記第2流量調整弁が開けられた状態で、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第2ろ過槽処理水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインを有し、
前記第1流量調整弁と前記第2流量調整弁の両方が互いの流量が調整されるように開けられた状態で、前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項4】
水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽は水生生物を飼育する
、底部がすり鉢状になっている主水槽と、飼育水中に前記送水ポンプが浸漬されている補助水槽からなり、
前記主水槽と前記補助水槽は、飼育水が移動可能になるようにそれぞれの底部にて連結され、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が三方弁を介して飼育水送水ラインで接続され、
前記飼育水槽と前記前記分離膜モジュールが三方弁を介して飼育水送水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽のろ過出口と前記分離膜処理水ラインがろ過槽処理水ラインで接続されており、
前記三方弁の開閉状態が調整されることで、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインと、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインと、
前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項5】
水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、二つの送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽は水生生物を飼育する
、底部がすり鉢状になっている主水槽と、飼育水中に前記送水ポンプが浸漬されている補助水槽からなり、
前記主水槽と前記補助水槽は、飼育水が移動可能になるようにそれぞれの底部にて連結され、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が第1飼育水送水ラインで接続され、さらに前記生物ろ過槽と前記飼育水槽が第1返送水ラインで接続され、
前記飼育水槽、前記第1飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第1返送水ラインおよび前記飼育水槽からなるろ過槽循環ラインを有しており、
前記飼育水槽と前記分離膜モジュールが第2飼育水送水ラインで接続され、さらに前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が第2返送水ラインで接続され、
前記飼育水槽、前記第2飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記第2返送水ラインおよび前記飼育水槽からなる分離膜モジュール循環ラインを有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項6】
さらにろ過処理装置として、生物ろ過槽に加えて脱窒槽を有している、請求項1~5のいずれか1項記載の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項7】
前記分離膜モジュールで使用する分離膜が孔径0.005~0.5μmのMF膜またはUF膜である、請求項1~6のいずれか1項記載の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項8】
前記分離膜モジュールで使用する分離膜が酢酸セルロース製の中空糸膜である、請求項1~7のいずれか1項記載の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項9】
前記水生生物養殖用の飼育水水質管理システムが、飼育水中の病原性微生物濃度、懸濁物質(ss)濃度、色度(吸光度)、濁度、アンモニア(NH
3)濃度、亜硝酸(NO
2)濃度、硝酸(NO
3)濃度、全窒素濃度、全リン濃度、全カリウム濃度、全炭素濃度(TOC)、水生生物用飼料や飼育水へ意図的に添加する特定の有機物濃度、飼育水またはろ過槽のろ材の微生物活性値から選ばれる水質管理項目を測定するための測定装置を備えている、請求項1~8のいずれか1項記載の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム。
【請求項10】
送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水をろ過処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽、前記生物ろ過槽および前記分離膜モジュールの接続順序が、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールがろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続された第1接続形態であるか、または
前記飼育水槽と前記分離膜モジュールが飼育水送水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールと前記生物ろ過槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽のろ過水出口と前記飼育水槽がろ過槽処理水ラインで接続された第2接続形態であり、
前記第1接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有しており、
前記第2接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ライン、前記生物ろ過槽、前記生物ろ過槽処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有しているものであり、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有している水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法であって、
前記運転方法が、前記分離膜モジュールにおける運転条件を飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理し、前記飼育水槽内の飼育水を浄化処理した飼育水と置換する浄化工程と、分離膜モジュールを洗浄する逆圧洗浄工程を有しており、
前記浄化工程が前記第1形態の接続順序のとき、前記第1循環ラインを使用して、
前記飼育水槽内の水生生物の排泄物を含む飼育水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、
前記分離膜モジュールにより前記ろ過槽処理水を全量ろ過することによって、少なくとも病原性微生物が除去された分離膜処理水を得た後、
前記分離膜処理水を前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する工程であり、
前記浄化工程が前記第2形態の接続順序のとき、前記第1循環ラインを使用して、
前記飼育水槽内の水生生物の排泄物を含む飼育水を前記分離膜モジュールに送水し、前記飼育水を全量ろ過することによって、少なくとも病原性微生物が除去された分離膜処理水を得た後、
前記分離膜処理水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、
前記ろ過槽処理水を前記ろ過槽処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する工程であり、
前記逆圧洗浄工程が、逆圧洗浄ラインと分離膜処理水ラインから分離膜モジュール内に洗浄水を圧入し、少なくとも病原性微生物を含む洗浄排水を排水ラインから排水する工程であ
り、
前記第1循環ラインまたは前記分離膜モジュールラインを使用する浄化された飼育水の回収率が80%以上である、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法。
【請求項11】
送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水をろ過処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽、前記生物ろ過槽および前記分離膜モジュールの接続順序が、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールがろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜処理水ラインが補助送水ラインで接続された第1接続形態であり、
前記第1接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ライン、及び
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記補助送水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインを有しているものであり、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有している水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法であって、
前記運転方法が、前記飼育水槽内の飼育水を浄化処理した飼育水と置換する浄化工程と、分離膜モジュールを洗浄する逆圧洗浄工程を有しており、
前記分離膜モジュールにおける運転条件を飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理し、
前記浄化工程が前記第1形態の接続順序のとき、前記第1循環ラインを使用して、
前記飼育水槽内の海洋生物の排泄物を含む飼育水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、
前記分離膜モジュールにより前記ろ過槽処理水を全量ろ過することによって、少なくとも病原性微生物が除去された分離膜処理水を得た後、
前記分離膜処理水を前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する工程であり、
前記逆圧洗浄工程が、第1循環ラインの循環運転を停止した状態で、逆圧洗浄ラインと分離膜処理水ラインから分離膜モジュール内に洗浄水を圧入し、病原性微生物を含む洗浄排水を排水ラインから排水する運転工程であり、
前記第1循環ラインまたは前記分離膜モジュールラインを使用する浄化された飼育水の回収率が80%以上であって、
前記逆圧洗浄運転の間、前記第2循環ラインを使用して、前記生物ろ過槽によるろ過槽処理水を前記補助送水ラインと前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に戻す、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法。
【請求項12】
送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールが、第1流量調整弁が配置された第1ろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
さらに前記生物ろ過槽と前記分離膜処理水ラインが、第2流量調整弁が配置された第2ろ過槽処理水ラインで接続されており、
前記第1流量調整弁が開けられ、前記第2流量調整弁が閉じられた状態で、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第1ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有し、
前記第1流量調整弁が閉じられ、前記第2流量調整弁が開けられた状態で、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第2ろ過槽処理水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインを有し、
前記第1流量調整弁と前記第2流量調整弁の両方が互いの流量が調整されるように開けられた状態で、前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有している水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法であって、
前記運転方法が、前記飼育水槽内の飼育水を浄化処理した飼育水と置換する浄化工程と、分離膜モジュールを洗浄する逆圧洗浄工程を有しており、
前記分離膜モジュールにおける運転条件を飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理し、
前記浄化工程が、
前記第1循環ラインを使用して、前記飼育水槽内の海洋生物の排泄物を含む飼育水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、
前記分離膜モジュールにより前記ろ過槽処理水を全量ろ過することによって、少なくとも病原性微生物が除去された分離膜処理水を得た後、
前記分離膜処理水を前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する第1循環ライン処理工程と、
前記第2循環ラインを使用して、前記飼育水槽内の海洋生物の排泄物を含む飼育水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、
前記ろ過槽処理水を前記ろ過槽処理水ラインと前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する第2循環ライン処理工程と、
前記第1循環ライン処理工程と前記第2循環ライン処理工程を並行して実施する第3循環ライン処理工程を有しており、
前記第1循環ライン処理工程、前記第2循環ライン処理工程および前記第3循環ライン処理工程のいずれかを選択して実施するものであり、
前記逆圧洗浄工程が、前記第1循環ライン処理工程を停止し、前記第2循環ライン処理工程を実施した状態で、逆圧洗浄ラインと分離膜処理水ラインから分離膜モジュール内に洗浄水を圧入し、病原性微生物を含む洗浄排水を排水ラインから排水する工程であ
り、
前記第1循環ラインまたは前記分離膜モジュールラインを使用する浄化された飼育水の回収率が80%以上である、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法。
【請求項13】
送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が三方弁を介して飼育水送水ラインで接続され、
前記飼育水槽と前記前記分離膜モジュールが三方弁を介して飼育水送水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽のろ過出口と前記分離膜処理水ラインがろ過槽処理水ラインで接続されており、
前記三方弁の開閉状態が調整されることで、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインと、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインと、
前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有している水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法であって、
前記運転方法が、前記飼育水槽内の飼育水を浄化処理した飼育水と置換する浄化工程と、分離膜モジュールを洗浄する逆圧洗浄工程を有しており、
前記分離膜モジュールにおける運転条件を飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理し、
前記浄化工程が、
前記第1循環ラインを使用して、前記飼育水槽内の海洋生物の排泄物を含む飼育水を分離膜モジュールに送水し、前記分離膜モジュールにより前記飼育水を全量ろ過することによって、少なくとも病原性微生物が除去された分離膜処理水を得た後、
前記分離膜処理水を前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する第1循環ライン処理工程と、
前記第2循環ラインを使用して、前記飼育水槽内の海洋生物の排泄物を含む飼育水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、
前記ろ過槽処理水を前記ろ過槽処理水ラインと前記分離膜処理水ラインから前記飼育水槽に返送する工程を繰り返し実施する第2循環ライン処理工程と、
前記第1循環ライン処理工程と前記第2循環ライン処理工程を並行して実施する第3循環ライン処理工程を有しており、
前記第1循環ライン処理工程、前記第2循環ライン処理工程および前記第3循環ライン処理工程のいずれかを選択して実施するものであり、
前記逆圧洗浄工程が、前記第1循環ライン処理工程を停止し、前記第2循環ライン処理工程を実施した状態で、逆圧洗浄ラインと分離膜処理水ラインから分離膜モジュール内に洗浄水を圧入し、病原性微生物を含む洗浄排水を排水ラインから排水する工程であ
り、
前記第1循環ラインまたは前記分離膜モジュールラインを使用する浄化された飼育水の回収率が80%以上である、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法。
【請求項14】
二つの送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が第1飼育水送水ラインで接続され、さらに前記生物ろ過槽と前記飼育水槽が第1返送水ラインで接続され、
前記飼育水槽、前記第1飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第1返送水ラインおよび前記飼育水槽からなるろ過槽循環ラインを有しており、
前記飼育水槽と前記分離膜モジュールが第2飼育水送水ラインで接続され、さらに前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が第2返送水ラインで接続され、
前記飼育水槽、前記第2飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記第2返送水ラインおよび前記飼育水槽からなる分離膜モジュール循環ラインを有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有している水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法であって、
前記運転方法が、前記飼育水槽内の飼育水を浄化処理した飼育水と置換する浄化工程と、分離膜モジュールを洗浄する逆圧洗浄工程を有しており、
前記分離膜モジュールにおける運転条件を飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理し、
前記浄化工程が、
前記ろ過槽循環ラインを使用して、前記飼育水槽内の水生生物の排泄物を含む飼育水を前記生物ろ過槽に送水し、前記生物ろ過槽による処理をすることによってろ過槽処理水を得た後、前記ろ過槽処理水を第1返送水ラインで前記飼育水槽に戻す工程と、
前記分離膜モジュール循環ラインを使用して、前記飼育水槽内の水生生物の排泄物を含む飼育水を前記分離膜モジュールに送水し、前記分離膜モジュールによる処理をすることによって分離膜モジュール処理水を得た後、前記分離膜モジュール処理水を第2返送水ラインで前記飼育水槽に戻す工程を繰り返し実施する工程であり、
前記逆圧洗浄工程が、前記ろ過槽循環ラインの運転を継続した状態で、前記第2循環ポンプを止め、前記流量調整バルブを閉じた状態で逆圧洗浄ラインと第2返送水ラインから分離膜モジュール内に洗浄水を圧入し、病原性微生物を含む洗浄排水を排水ラインから排水する運転工程であ
り、
前記第1循環ラインまたは前記分離膜モジュールラインを使用する浄化された飼育水の回収率が80%以上である、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法。
【請求項15】
前記飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して、前記第1循環ラインまたは前記分離膜モジュールラインを使用する浄化された飼育水の交換割合が0.2~8V/日である、請求項10~14のいずれか1項記載の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環式陸上養殖に適した水生生物養殖用の飼育水質管理システムとその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環式陸上養殖における飼育水の水浄化システムとして、物理システム、生物ろ過装置、紫外線殺菌装置、泡沫分離装置、脱窒装置および沈殿槽を備えたものが知られている(非特許文献1)。
しかし、上記のとおり装置が多く(工程が多く)、複雑であり、維持管理が煩雑で、運転コストが高くなる。養殖における膜ろ過技術は、従来は飼育水の供給のために海水ろ過として利用されており、飼育水の循環再利用のためのろ過方法としては、布やスクリーンなどのフィルター、砂ろ過、ドラムフィルターなどが用いられている。
【0003】
循環式陸上養殖において膜ろ過と生物処理を組み合わせた膜分離活性汚泥法を用いた発明が知られているが(特許文献1)、膜ろ過によるろ過流量と生物処理流量のバランスをとることが困難であり、コスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】水産増養殖での閉鎖循環飼育システムの展開 Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 69 225-237 82015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水生生物の循環式陸上養殖において使用する飼育水に含まれる、水生生物を死滅させる原因となる有害な細菌類、病原性原虫およびウィルス、養殖している水生生物から発生する細胞老廃物および不必要なプランクトンや飼料由来の有機物などを高度かつ効率的に除去することによって、安心・安全に水生生物を養殖することができる飼育水質管理システムと、その運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水をろ過処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽、前記生物ろ過槽および前記分離膜モジュールの接続順序が、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールがろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続された第1接続形態であるか、または
前記飼育水槽と前記分離膜モジュールが飼育水送水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールと前記生物ろ過槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽のろ過水出口と前記飼育水槽がろ過槽処理水ラインで接続された第2接続形態であり、
前記第1接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有しており、
前記第2接続形態は、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ライン、前記生物ろ過槽、前記生物ろ過槽処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有しているものであり、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムと、その運転方法を提供する。
【0008】
また本発明は、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が飼育水送水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽と前記分離膜モジュールが、第1流量調整弁が配置された第1ろ過槽処理水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
さらに前記生物ろ過槽と前記分離膜処理水ラインが、第2流量調整弁が配置された第2ろ過槽処理水ラインで接続されており、
前記第1流量調整弁が開けられ、前記第2流量調整弁が閉じられた状態で、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第1ろ過槽処理水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインを有し、
前記第1流量調整弁が閉じられ、前記第2流量調整弁が開けられた状態で、前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第2ろ過槽処理水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインを有し、
前記第1流量調整弁と前記第2流量調整弁の両方が互いの流量が調整されるように開けられた状態で、前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムと、その運転方法を提供する。
【0009】
また本発明は、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が三方弁を介して飼育水送水ラインで接続され、
前記飼育水槽と前記前記分離膜モジュールが三方弁を介して飼育水送水ラインで接続され、
前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が分離膜処理水ラインで接続され、
前記生物ろ過槽のろ過出口と前記分離膜処理水ラインがろ過槽処理水ラインで接続されており、
前記三方弁の開閉状態が調整されることで、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第1循環ラインと、
前記飼育水槽、前記飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記ろ過槽処理水ライン、前記分離膜処理水ラインおよび前記飼育水槽からなる第2循環ラインと、
前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムと、その運転方法を提供する。
【0010】
また本発明は、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムであって、
前記飼育水質管理システムが、二つの送水ポンプを備えた水生生物の飼育水槽と、前記飼育水槽中の水生生物の排泄物を含む飼育水を処理するための生物ろ過槽と、病原性微生物を除去するための分離膜モジュールおよび散気装置を備えており、
前記飼育水槽と前記生物ろ過槽が第1飼育水送水ラインで接続され、さらに前記生物ろ過槽と前記飼育水槽が第1返送水ラインで接続され、
前記飼育水槽、前記第1飼育水送水ライン、前記生物ろ過槽、前記第1返送水ラインおよび前記飼育水槽からなるろ過槽循環ラインを有しており、
前記飼育水槽と前記分離膜モジュールが第2飼育水送水ラインで接続され、さらに前記分離膜モジュールのろ過水出口と前記飼育水槽が第2返送水ラインで接続され、
前記飼育水槽、前記第2飼育水送水ライン、前記分離膜モジュール、前記第2返送水ラインおよび前記飼育水槽からなる分離膜モジュール循環ラインを有しており、
さらに前記分離膜モジュールと逆圧洗浄排水の排水ラインが接続され、活性汚泥法を使用した生物処理槽を備えておらず、
前記分離膜モジュールが、飼育水槽の運転初期水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものである、水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムと、その運転方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システムとその運転方法によれば、循環式陸上養殖において使用する飼育水中に存在する有害な細菌類、病原性原虫およびウィルス、養殖している水生生物から発生する細胞老廃物および不必要なプランクトンや飼料由来の有機物などを高度かつ効率的に除去することによって、養殖する海洋生物が死滅するリスクを低減し、かつ海洋生物を健康に育成するために有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1、第2の実施形態の水生生物養殖用の飼育水質管理システムを示す図。
【
図2】第3の実施形態の水生生物養殖用の飼育水質管理システムを示す図。
【
図3】第4の実施形態の水生生物養殖用の飼育水質管理システムを示す図。
【
図4】第5の実施形態の水生生物養殖用の飼育水質管理システムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水生生物循環式陸上養殖用の飼育水質管理システム(以下、「飼育水質管理システム」と略すことがある)は、生物ろ過槽2と分離膜モジュール3を備えることにより、水生生物の排泄物を含む飼育水処理と飼育水中に存在する有害な細菌類、病原性原虫およびウィルス、養殖している水生生物から発生する細胞老廃物および不必要なプランクトンや飼料由来の有機物などを高度かつ効率的に除去することがシンプルな設備構成によって低コストで実施でき、循環式陸上養殖として使用することができる。
本発明の飼育水質管理システムは、活性汚泥法を使用した生物処理槽は備えていない。
活性汚泥法を使用した生物処理槽を兼ね備えるシステムは、設備構成が複雑、高コストになるだけで、導入メリットは少ない。
なお、飼育水槽1には、水生生物を養殖するために必要な空気(酸素)を供給するための様々な形態の散気装置(空気または酸素供給装置)を備えることができるが、本発明の飼育水質管理システムは様々な形態の散気装置(空気または酸素供給装置)と組み合わせて使用することができる。
【0014】
(1)
図1に示す飼育水質管理システムと運転方法(補助送水ライン17がない実施形態)
図1により第1実施形態の飼育水質管理システムとその運転方法を説明する。
図1に示す飼育水質管理システムは、補助送水ライン17がないもの(第1実施形態の飼育水質管理システム)と、補助送水ライン17があるもの(第2実施形態の飼育水質管理システム)の二つを含んでいる。
さらに第1実施形態の飼育水質管理システムは、各装置の接続順序によって、第1接続形態と第2接続形態がある。
【0015】
第1実施形態(第1接続形態)の飼育水質管理システムを説明する。
水生生物の飼育水槽1は、主水槽1aと補助水槽1bからなっており、主水槽1aと補助水槽1bは、飼育水の移動可能にそれぞれの底部にて連結されている。飼育水槽1は、主水槽1aと補助水槽1bに分離されていない、全体が一つの水槽からなるものでもよい。
養殖対象となる水生生物は、主水槽1a内にて飼育される。主水槽1aの底部は、水生生物による飼料の食べ残しや水生生物の排泄物が沈殿し易いようにすり鉢状になっている。
飼育水槽1のすり鉢状の底部には、前記沈殿物を抜き取るための抜き取りラインを接続することができる。
主水槽1aには、飼育水の供給ライン11が接続されており、補助水槽1bでは、送水ポンプ20が飼育水中に浸漬されている。
このように飼育水槽1を主水槽1aと補助水槽1bに分かれた構造にして、補助水槽1bから飼育水を送水することで、沈殿物の抜き取りと上澄み水の送水がし易くなり、主水槽1a内で飼育されている水生生物に対する水流変化の影響を減少させることができる。
飼育水槽1は、飼育水の飼育水送水ライン12によりろ過処理をするろ過槽(生物ろ過槽2)に接続されている。
【0016】
ろ過処理装置としての生物ろ過槽2は公知のものであり、飼育水槽1中の水生生物の排泄物などを含む飼育水を処理するためのものである。
生物ろ過槽は、好気性アンモニア酸化細菌(Nitrosomonas,Nitrosococcus,Nitrosospira,Nitrosolobus,Nitrosovibrio)と亜硝酸酸化細菌(Nitrosobacter,Nitrococcus,Nitrospira)が担持されたろ材を使用してろ過することで、アンモニア(NH
3)→亜硝酸(NO
2)→硝酸(NO
3)の順に変化させるものである。
生物ろ過槽2は、アクアポニクスシステム(植物や藻類に窒素成分やリン成分などを吸収させるシステム)を含んでいてもよい。
本発明では、ろ過処理装置として、生物ろ過槽に加えて脱窒槽も使用することが好ましい。
脱窒槽は、嫌気性脱窒細菌(Pseudomonas,Achromobacter,Bacillus)が担持されたろ材を使用してろ過することで、硝酸(NO
3)→窒素ガス(N
2)の順に変化させるものである。
ろ過処理装置として生物ろ過槽と脱窒槽を組み合わせて使用するときは、生物ろ過槽と脱窒槽が一体となった一つのろ過槽として使用することもできるし、生物ろ過槽と脱窒槽を別々に配置して(例えば、飼育水槽1に対して並列配置して)、それらをまとめて一つのろ過槽として使用することもできる。
図1に示す飼育水質管理システムでは、生物ろ過槽と脱窒槽が組み合わされたろ過槽が
使用されているため、以下における生物ろ過槽2は脱窒槽を含むものである。
生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2は、ろ過槽処理水ライン13により分離膜モジュール3に接続されている。
【0017】
分離膜モジュール3は、病原性微生物(細菌類、病原性原虫およびウィルスなど)や養殖している水生生物から発生する細胞老廃物などを分離除去するものである。それによって、水生生物の発病、寄生虫発生がなくなり、飼育水面の泡、着色、臭いの発生が抑えられ、飼育者の目視がし易いばかりでなく、水生生物の成長速度も速くなる。
分離膜モジュール3で使用する分離膜は、孔径0.005~0.5μmのMF膜またはUF膜が好ましく、孔径0.005~0.05μmのUF膜がより好ましい。
分離膜モジュール3で使用する分離膜は、中空糸膜または平膜を使用することができるが、中空糸膜が好ましい。
分離膜は親水性膜と疎水性膜のいずれでもよいが、親水性膜でマイナス帯電の膜が逆圧洗浄による透水速度の回復性が高いため好ましく、酢酸セルロース膜がより好ましい。
【0018】
分離膜モジュール3は、飼育水槽1の運転初期の飼育水量(V)に対して0.2~8V/日の処理能力を有しているものが好ましく、1~4V/日の処理能力を有しているものがより好ましい。
前記処理能力を維持するためには、分離膜モジュール3の総膜面積や送水ポンプ能力を適宜設定する。
【0019】
分離膜モジュール3のろ過水出口には、分離膜処理水ライン14が接続されており、分離膜処理水ライン14の反対端部は飼育水槽1に接続されている。
さらに分離膜モジュール3のろ過水出口には、逆圧洗浄水を圧入するための逆圧洗浄水ライン15が接続されている。逆圧洗浄水ライン15には、図示していない逆圧洗浄ポンプが配置されている。
分離膜モジュール3には、逆圧洗浄排水の排水ライン16が接続されている。
【0020】
第1実施形態の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がない)は、飼育水槽1、飼育水の飼育水送水ライン12、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、ろ過槽処理水ライン13、分離膜モジュール3、分離膜処理水ライン14および飼育水槽1からなる第1循環ラインを有している。
図1に示す分離膜処理水ライン14は、循環用ポンプ21と流量調整バルブ30を備えているが、送水ポンプ20の出力を調整して循環ポンプも兼ねるようにすることで循環ポンプ21、流量調整バルブ30を不要にすることもできる。
【0021】
第1実施形態(第2接続形態)の飼育水質管理システムを説明する。
第1実施形態の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がない)は、飼育水槽1、分離膜モジュール3、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2の順に接続されていてもよい。
この実施形態を
図1(補助送水ライン17がない)の括弧内の数字に対応させて説明すると、飼育水槽1と分離膜モジュール3は、飼育水送水ライン12で接続され、分離膜モジュール3と生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2は、分離膜処理水ライン14で接続され、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2と飼育水槽1は、ろ過槽処理水ライン13で接続されることになる。分離膜処理水ライン14には、
図1には示していない流量調整バルブが配置されている。
なお、分離膜モジュール3には、ろ過水出口に逆圧洗浄水を圧入するための逆圧洗浄水ライン15が接続され、逆圧洗浄水ライン15には、図示していない逆圧洗浄ポンプが配置され、さらに逆圧洗浄排水の排水ライン16が接続される。
第1実施形態(第2接続形態)は、飼育水槽1、飼育水送水ライン12、分離膜モジュール3、分離膜処理水ライン14、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、ろ過槽処理水ライン13および飼育水槽1からなる第1循環ラインを有している。
【0022】
第1実施形態の飼育水質管理システムは、必要に応じて、飼育水中の病原性微生物濃度、塩分濃度、アンモニア(NH3)濃度、亜硝酸(NO2)濃度、硝酸(NO3)濃度、全窒素濃度、全リン濃度、全カリウム濃度、懸濁物質(ss)濃度、BOD濃度、COD濃度、全炭素濃度(TOC)、有機物濃度、溶存酸素濃度(RO値)、水温、pH値、電気伝導度、色度(吸光度)、濁度、飼育水またはろ過槽2内に充填されているろ材の微生物活性値などから選ばれる水質管理項目を測定するための測定装置を備えることができる。
前記水質管理項目は、飼育水槽1、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2および分離膜モジュール3、またはそれらを接続する各ラインに設置された測定装置により測定することができるほか、飼育水質管理システムの外部に設置した測定装置により水質管理項目を測定することもできる。
【0023】
第1実施形態(第1接続形態)の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がない)の運転方法を説明する。
第1実施形態(第1接続形態)の飼育水質管理システムの運転方法は、飼育水槽1内の飼育水を浄化処理した飼育水と置換する浄化工程と、分離膜モジュール3を洗浄する逆圧洗浄工程を有している。
【0024】
浄化工程は、第1循環ラインを使用する運転方法である。
飼育水槽1には、所要量の飼育水が入っている。飼育水の量と種類(海水または淡水)は、飼育する水生生物の種類と量に応じて決められるものである。
飼育水は、水道水、地下水、河水、湖水、海水を水源(原水)として、これらの原水の単独物または2以上の混合物をそのまま淡水または海水として使用するか、前記原水(淡水)に対して市販の食塩または人工海水剤を添加して、塩分濃度を調整して人工海水にしたものである。
飼育水(人工海水)中の塩分濃度は、養殖する水生生物の種と、養殖目的に応じて適宜決定される。例えば、サケ類の場合は、淡水飼育に比べ海水飼育の方の成長速度が速く、生産性が向上するため塩分濃度の高い方が好ましい。
一般的に魚類の場合は、体内細胞の浸透圧にほぼ等しい塩分濃度1質量%付近の濃度での飼育が好ましい。
トラフグの場合は、塩分濃度1質量%付近の濃度での飼育が、体液浸透圧調整のためのエネルギーが少なくて済むことから海水飼育に比べ8%成長速度が向上し、その分飼育期間を短縮できるので好ましい。
また、水生生物の育成段階により、塩分濃度を調整することもできる。
塩分濃度の調整は、水源における飼育水をそのまま用いる方法、水源における飼育水の塩分濃度と異なる塩分濃度の水で混合して、塩分濃度を低下させたり、増加させたりする方法、市販の人工海水剤を塩分濃度の低い水で溶解する方法などで調整することができる。
【0025】
飼育水は、原水からの病原性微生物などの持ち込みを防止するため、分離膜モジュール3または別の分離膜モジュールでろ過分離後、飼育水槽1へ注水することが好ましい。
飼育水の原水として水道水を使用する場合は、長時間の解放放置、活性炭などの吸着処理、塩素中和剤添加などの処理を行った後、例えば、市販の人工海水剤で塩分濃度調整を行えば、分離膜モジュールでの分離操作は不要である。
また、原水(水道水を除く天然水)に病原性微生物がほとんど含まれていない場合は、飼育水の塩分調整後、そのまま飼育水槽へ注水してもよい。
飼育水槽1にて水生生物を飼育中は、底部側からエアレーション(散気)を実施する。
生物ろ過槽2内のろ材に担持された好気性アンモニア酸化細菌にも酸素供給が必要であるため、飼育水槽1に水生生物がいない場合でも、適度な散気と送水ライン11からの送水が必要である。
【0026】
水生生物を飼育中の飼育水槽1内では、時間の経過と共に主水槽1aのすり鉢状の底部に水生生物の食べ残しや排泄物などが沈殿する。
沈殿物が生物ろ過槽2へ送られると、ろ材の空孔が沈殿物により閉塞されるおそれがあるため、沈殿物を抜き取ったあと、上澄み水を送水することが好ましい。
補助水槽1bが無く、飼育水槽1の底部から飼育水を送水する実施形態では、生物ろ過槽2や分離膜モジュール3の前においてプレろ過槽を設置することが好ましい。
飼育水槽1にて水生生物の飼育を開始するときは、飼育開始までの一定時間前から、補助水槽1b中に浸漬されている送水ポンプ20を作動させて、必要に応じて栄養分(通常運転時の水生生物の排泄物などに相当するもの)を添加した飼育水を飼育水送水ライン12からろ過槽2に送り、好気性アンモニア酸化細菌の担架濃度(ろ材に担持されている微生物の濃度)と活性状態をろ過槽2のろ材の微生物活性値測定によって確認し、飼育水水質管理を行うことが好ましい。
【0027】
生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2において、水生生物の排泄物を含む飼育水は、アンモニア(NH3)→亜硝酸(NO2)→硝酸(NO3)の順に変化される。
さらに生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2の脱窒槽において、硝酸(NO3)→窒素ガス(N2)の順に変化される。
生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2で得られたろ過槽処理水は、ろ過槽処理水ライン13により分離膜モジュール3に送る。
【0028】
分離膜モジュール3において、飼育水と、水生生物を死滅させる原因となる有害な細菌類、病原性原虫およびウィルスのほか、飼育水槽1の水質を低下させる原因となる養殖している水生生物から発生する細胞老廃物および不必要なプランクトンや飼料由来の有機物などを分離する。
ろ過は、細菌類、病原性原虫、ウィルスなどを分離して取り除くため、全量ろ過をする。
分離膜モジュール3において、細菌などが分離されたろ過水(分離膜処理水)が得られる。
分離膜モジュール3の分離膜処理水は、分離膜処理水ライン14から飼育水槽1に返送し、水生生物飼育用の飼育水として使用する。
その後は、同様にして第1循環ラインを使用して、飼育水槽1の飼育水を処理して循環させる工程を繰り返す。
【0029】
第1実施形態(第2接続形態)の飼育水質管理システムの運転方法においては、飼育水槽1、分離膜モジュール3、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2の順に送水されて、それぞれにおいて第1実施形態(第1接続形態)の飼育水質管理システムと同様に処理する。
【0030】
浄化工程を継続して実施する間、分離膜モジュール3の分離膜が目詰まりなどしてろ過性能が低下するため、定期的に逆圧洗浄工程を実施する。
第1実施形態(第1接続形態)の飼育水質管理システムにおける逆圧洗浄工程は、送水ポンプ20と循環ポンプ21を止め、流量調整バルブ30を閉じた状態で逆圧洗浄ライン15と分離膜処理水ライン14により分離膜モジュール3のろ過水出口から洗浄水を圧入して分離膜を洗浄し、洗浄排水は排水ライン16から排水する。
洗浄排水には、全量ろ過により分離された細菌類、病原性原虫、ウィルスなどが含まれている。
第1実施形態(第2接続形態)の飼育水質管理システムにおける逆圧洗浄工程は、
図1には示していない分離膜処理水ライン14流量調整バルブを閉じた状態で、分離膜処理水ライン14に接続された逆圧洗浄水ラインから洗浄水を圧入して洗浄し、洗浄排水は、分離膜モジュール3に接続された排水ライン16から排水する。
【0031】
浄化工程と逆圧洗浄工程は、分離膜モジュール3を含めた浄化工程を0.5~2時間実施したあと、逆圧洗浄工程を0.5~2分間実施するサイクルを繰り返すことが好ましい。
【0032】
逆圧洗浄工程の実施により分離膜モジュール3の透水性能(透水速度)が回復されるが、予め定められた分離膜モジュール3の透水速度に回復するまでに要する逆圧洗浄水量が多くなり過ぎると、飼育水の一日当たりの回収率が低くなり運転コストへ影響するばかりでなく、適切な水質が保てなくなるリスクが発生する。
そのため、予め定められた逆圧洗浄水量による分離膜モジュール3の透水速度の回復率が、予め定められた閾値に達した時点で、速やかに分離膜モジュール3の分離膜を交換することが好ましい。
【0033】
なお、別途清浄な飼育水が入ったタンクを設置しておき、逆圧洗浄に伴い発生した排水量に相当する量の清浄な飼育水を飼育水槽1に送ることもできる。
清浄な飼育水としては、分離膜モジュール3もしくは別の分離膜モジュールのろ過水に人工海水剤などを所定量溶解したものを使用することができる。
【0034】
第1実施形態の飼育水質管理システムの運転方法では、飼育水槽1の運転初期水量(V)に対して、第1循環ラインを使用して循環浄化された飼育水量は、水生生物の種や量に応じて変わってくるものの0.2~8V/日が好ましく、0.5~6V/日がより好ましく、1~4V/日がさらに好ましい。
飼育水の循環浄化割合が1V/日のときは、飼育水槽1内の飼育水の全量が1日で循環浄化されることになる。
飼育水中の病原性微生物濃度、懸濁物質(ss)濃度、色度(吸光度)、濁度などの水質管理項目を高度に管理するためには循環浄化量が多いほうが好ましいが、運転コストを抑制する観点から、過剰な循環浄化量は好ましくない。
運転初期水量(V)は、飼育水質管理システムの運転における予め設定された飼育水槽1への注水量であり、飼育水槽1から送水されることで水量は減少され、分離膜モジュール3から処理水が戻されることで増加され、さらに排水量に相当する量が追加されて運転初期水量(V)になり、これが繰り返される。
水生生物の成長などに伴い運転水量(V)の設定注水量は変わることがあってもよい。
【0035】
第1実施形態の飼育水質管理システムの運転方法では、分離膜モジュール3において細菌などを含む逆圧洗浄により生じる排水(逆圧洗浄時に分離膜モジュール3内に存在する水)を排水ライン16から排水することも含めて、飼育水槽1の運転初期水量(V)の全量が回収されることはないが、運転コストを抑制する観点から、できるだけ回収率を高くすることが好ましい。
第1実施形態と第2実施形態の飼育水質管理システムの運転方法では、第1循環ラインを使用する飼育水の一日当たりの回収率が80%/日以上であることが好ましく、85%/日以上であることがより好ましく、90%/日以上であることがさらに好ましい。
逆圧洗浄工程の実施や蒸発などにより失われた飼育水は、飼育水の供給ライン11から飼育水槽1に注水するか、または分離膜処理水ライン14から注水して補う。
【0036】
(2)
図1に示す飼育水質管理システムと運転方法(補助送水ライン17がある実施形態)
第2実施形態の飼育水質管理システムは、補助送水ライン17があることを除いて、第1実施形態(第1接続形態)の飼育水管理システムと同じである。
第2実施形態の飼育水質管理システムは、第1実施形態(第1接続形態)の飼育水管理システムと同じ第1循環ラインに加えて、飼育水槽1、飼育水送水ライン12、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、補助送水ライン17、分離膜処理水ライン14および飼育水槽1からなる第2循環ラインを有している。
分離膜処理水ライン14は、補助送水ライン17との接続部分よりも飼育水槽1側に循環ポンプ21を備え、補助送水ライン17との接続部分よりも分離膜モジュール3側に流量調整バルブ30を備えている。
【0037】
第2実施形態の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がある)の運転方法を説明する。
第2実施形態の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がある)の運転方法おける浄化工程は、第1実施形態(第1接続形態)の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がない)の運転方法における浄化工程と同じであるが、逆圧洗浄工程における処理の一部が異なっている。
【0038】
浄化工程を継続して実施する間、分離膜モジュール3の分離膜が目詰まりなどしてろ過性能が低下するため、定期的に逆圧洗浄工程を実施する。
逆圧洗浄工程は、流量調整バルブ30を閉じた状態で逆圧洗浄ライン15と送水ライン14により分離膜モジュール3のろ過水出口から洗浄水を圧入して分離膜を洗浄し、洗浄排水は排水ライン16から排水する。このとき、循環ポンプ21は停止されていない。
【0039】
浄化工程と逆圧洗浄工程は、分離膜モジュール3を含めた浄化工程を0.5~2時間実施したあと、逆圧洗浄工程を0.5~2分間実施するサイクルを繰り返すことが好ましい。
【0040】
逆圧洗浄運転の間、第2循環ラインを使用して、送水ポンプ20と循環ポンプ21を作動させながら、ろ過槽2により得た処理水を補助送水ライン17と分離膜処理水ライン14から飼育水槽1に戻す。
第1実施形態の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がない)の運転方法では、逆圧洗浄工程の実施中には、送水ポンプ20と循環ポンプ21が停止されるため、飼育水槽1内の飼育水の浄化も停止される。
しかし、第2実施形態の飼育水質管理システム(補助送水ライン17がある)の運転方法では、逆圧洗浄工程の実施中には、送水ポンプ20と循環ポンプ21が停止されず、第2循環ラインを使用した循環運転が継続されるため、分離膜モジュール3の膜分離処理を除いた飼育水槽1内の飼育水の浄化処理も継続される。
【0041】
(3)
図2に示す飼育水質管理システムと運転方法
図2により第3実施形態の飼育水質管理システムとその運転方法を説明する。
図2に示す第3実施形態の飼育水質管理システムは、
図1に示す第1実施形態(第1接続形態)と第2実施形態と同じ飼育水槽1、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2および分離膜モジュール3を有しているものであるが、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2と分離膜モジュール3のラインによる接続形態が異なっている。
【0042】
生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2と分離膜モジュール3は、第1流量調整弁31が配置されたろ過槽処理水ライン13で接続されている。
分離膜モジュール3のろ過水出口と飼育水槽1は、循環ポンプ21が配置された分離膜処理水ライン14で接続されている。なお、送水ポンプ20の出力を調整して循環ポンプも兼ねるようにすることで循環ポンプ21を不要にすることもできる。
生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2と分離膜処理水ライン14は、第2流量調整弁32が配置された補助送水ライン(第2ろ過槽処理水ライン)17で接続されている。
【0043】
第3実施形態の飼育水質管理システムは、第1流量調整弁31と第2流量調整弁32の開閉状態を調整することで、第1循環ライン、第2循環ラインおよび第3循環ラインのいずれかの循環ラインを形成することができる。
第1循環ラインは、第1流量調整弁31が開けられ、第2流量調整弁32が閉じられた状態で、飼育水槽1、飼育水送水ライン12、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、第1ろ過槽処理水ライン13、分離膜モジュール3、分離膜処理水ライン14および飼育水槽1からなる循環ラインである。
第2循環ラインは、第1流量調整弁31が閉じられ、第2流量調整弁32が開けられた状態で、飼育水槽1、飼育水送水ライン12、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、第2ろ過槽処理水ライン(補助送水ライン)17、分離膜処理水ライン14および飼育水槽1からなる循環ラインである。
【0044】
第3循環ラインは、第1流量調整弁31と第2流量調整弁32の両方が互いの流量が調整されるように開けられた状態で、前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有している循環ラインである。
第1循環ラインでは、第1流量調整弁31が開けられ、第2流量調整弁32が閉じられているため、ろ過槽処理水の100%量が第1流量調整弁31を通ることになり、第2循環ラインでは、逆にろ過槽処理水の100%量が第2流量調整弁32を通ることになる。
第3循環ラインでは、第1流量調整弁31と第2流量調整弁32の開放状態を調整することで、例えば、第1流量調整弁31のろ過槽処理水の通過量を1~99%の範囲、第2流量調整弁32のろ過槽処理水の通過量を99~1%の範囲で所望割合(合計で100%)に調整することができる。
【0045】
第3実施形態の飼育水質管理システムの浄化工程は、第1循環ライン、第2循環ラインおよび第3循環ラインのいずれかの循環ラインを使用して実施することができるほか、第1循環ライン、第2循環ラインおよび第3循環ラインのそれぞれの循環ラインを使用した運転を組み合わせて実施することもできる。
逆圧洗浄工程では、第2循環ラインのみの運転になる。
【0046】
第3実施形態の飼育水質管理システムの浄化工程と逆圧洗浄工程は、例えば、浄化工程では第1循環ラインまたは第3循環ラインを使用して運転し、逆圧洗浄工程では第2循環ラインを使用して運転し、逆圧洗浄工程から浄化工程に移行する過程で第3循環ラインを使用して運転することができる。
このように各循環ラインを組み合わせて運転すると、実質的に飼育水質管理システムの運転が停止する時間が少なくなるため好ましい。
【0047】
(4)
図3に示す飼育水質管理システムと運転方法
図3により第4実施形態の飼育水質管理システムとその運転方法を説明する。
図3に示す第4実施形態の飼育水質管理システムは、
図1に示す第1実施形態(第1接続形態)と第2実施形態と同じ飼育水槽1、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2および分離膜モジュール3を有しているものであるが、飼育水槽1と生物ろ過槽2または分離膜モジュール3の接続形態が異なっている。
飼育水送水ラインは、飼育水槽1(補助水槽1b)から三方弁33までの主飼育水送水ライン12と、三方弁33から分離膜モジュール3までの第2補助飼育水送水ライン13aと、三方弁33から生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2までの第1補助飼育水送水ライン13bからなっている。
【0048】
飼育水槽1と分離膜モジュール3は、三方弁33を介して、主飼育水送水ライン12、第1補助飼育水送水ライン13aで接続されている。
分離膜モジュール3のろ過水出口と飼育水槽1は、循環ポンプ21が配置された分離膜処理水ライン14で接続されている。なお、送水ポンプ20の出力を調整して循環ポンプも兼ねるようにすることで循環ポンプ21を不要にすることもできる。
飼育水槽1と生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2は、三方弁33を介して、主飼育水送水ライン12、第2助飼育水送水ライン13bで接続されている。
生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2のろ過出口と分離膜処理水ライン14は、ろ過槽処理水ライン(補助送水ライン)17で接続されている。
【0049】
第4実施形態の飼育水質管理システムは、三方弁33の開閉状態を調整することで、第1循環ライン、第2循環ラインおよび第3循環ラインを形成することができる。
第1循環ラインは、三方弁33の開放状態を調整して第1補助飼育水送水ライン13a側を開き、第2補助飼育水送水ライン13b側を閉じることで、飼育水槽1、主飼育水送水ライン12、第1補助飼育水送水ライン13a、分離膜モジュール3、分離膜処理水ライン14および飼育水槽1からなる循環ラインである。
【0050】
第2循環ラインは、三方弁33の開放状態を調整して第1補助飼育水送水ライン13a側を閉じ、第2補助飼育水送水ライン13b側を開くことで、飼育水槽1、主飼育水送水ライン12、第2補助飼育水送水ライン13b、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、ろ過槽処理水ライン(補助送水ライン)17、分離膜処理水ライン14および飼育水槽1からなる循環ラインである。
【0051】
第3循環ラインは、三方弁33の開放状態を調整して第1補助飼育水送水ライン13a側と第2補助飼育水送水ライン13b側の両方を開くことで、前記第1循環ラインと前記第2循環ラインの両方を有している循環ラインである。
第1循環ラインでは、第1補助飼育水送水ライン13a側が開けられ、第2補助飼育水送水ライン13b側が閉じられているため、飼育水の100%量が第1補助飼育水送水ライン13a側に流れることになり、第2循環ラインでは、逆に飼育水の100%量が第2補助飼育水送水ライン13b側に流れることになる。
第3循環ラインでは、三方弁33の開放状態を調整して第1補助飼育水送水ライン13a側と第2補助飼育水送水ライン13b側の両方を開くことで、例えば、第1補助飼育水送水ライン13a側の飼育水の流量を1~99%の範囲、第2補助飼育水送水ライン13b側の飼育水の流量を99~1%の範囲で所望量比に調整することができる。
【0052】
第4実施形態の飼育水質管理システムの浄化工程は、第1循環ライン、第2循環ラインおよび第3循環ラインのいずれかの循環ラインを使用して実施することができるほか、第1循環ライン、第2循環ラインおよび第3循環ラインのそれぞれの循環ラインを使用した運転を組み合わせて実施することもできる。
逆圧洗浄工程では、第2循環ラインのみの運転になる。
【0053】
第4実施形態の飼育水質管理システムの浄化工程と逆圧洗浄工程は、例えば、浄化工程では第1循環ラインまたは第3循環ラインを使用して運転し、逆圧洗浄工程では第2循環ラインを使用して運転し、逆圧洗浄工程から浄化工程に移行する過程で第3循環ラインを使用して運転することができる。
このように各循環ラインを組み合わせて運転すると、実質的に飼育水質管理システムの運転が停止する時間が少なくなるため好ましい。
【0054】
(5)
図4に示す飼育水質管理システムと運転方法
図4により第5実施形態の飼育水質管理システムとその運転方法を説明する。
図4に示す第5実施形態の飼育水質管理システムは、
図1に示す第1実施形態と第2実施形態と同じ飼育水槽1、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2および分離膜モジュール3を有しているものであるが、飼育水槽1に対する生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2と分離膜モジュール3のラインの配置形態および接続形態が異なっている。
【0055】
飼育水槽1は、主水槽1a、第1補助水槽1b、第2補助水槽1cからなるものであり、3つの槽は底部で飼育水の移動可能に連結されている。
主水槽1aには飼育水の供給ライン11が接続されている。第1補助水槽1bでは第1送水ポンプ20aが飼育水中に浸漬され、第2補助水槽1cでは第2送水ポンプ20bが飼育水中に浸漬されている。
飼育水槽1(第1補助水槽1b)と生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2は、第1飼育水送水ライン12aで接続され、さらに生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2と飼育水槽1は、第1循環ポンプ21aが配置された第1返送水ライン14aで接続されている。なお、送水ポンプ20aの出力を調整して循環ポンプも兼ねるようにすることで循環ポンプ21aを不要にすることもできる。
ろ過槽2の生物ろ過槽と脱窒槽は、別々に配置することができる。例えば、
図4に示すろ過槽2の位置に生物ろ過槽のみを配置して、脱窒槽は、別途飼育水槽1に接続することもできる。
飼育水槽1(第1補助水槽1b)、第1飼育水送水ライン12a、生物ろ過槽(脱窒槽を含む)2、第1返送水ライン14aおよび飼育水槽1からなるろ過槽循環ラインを有している。
【0056】
飼育水槽1(第2補助水槽1c)と分離膜モジュール3は、第2飼育水送水ライン12bで接続され、さらに分離膜モジュール3のろ過水出口と飼育水槽1は、流量調整弁34、第2循環ポンプ21bが配置された第2返送水ラインで接続されている。なお、送水ポンプ20bの出力を調整して循環ポンプも兼ねるようにすることで循環ポンプ21bを不要にすることもできる。
飼育水槽1(第2補助水槽1c)、第2飼育水送水ライン12b、分離膜モジュール3、第2返送水ライン14bおよび飼育水槽1からなる分離膜モジュール循環ラインを有している。
【0057】
第5実施形態の飼育水質管理システムは、飼育開始からの経過時間などに応じて、以下に示す5つの実施形態による浄化工程の運転を実施することができる。
1)ろ過槽循環ラインによる浄化工程のみを実施する方法、
2)分離膜モジュール循環ラインによる浄化工程のみを実施する方法(分離膜モジュールの逆圧洗浄時は、ろ過槽循環ラインによる浄化工程を実施することができる)、
3)一定時間、ろ過槽循環ラインによる浄化工程を実施後、それを停止して、分離膜モジュール循環ラインによる浄化工程を実施後、それを停止して、ろ過槽循環ラインによる浄化工程に移行し、前記運転サイクルを繰り返す浄化工程(但し、分離膜モジュールの逆圧洗浄時は、ろ過槽循環ラインのみの運転となる)、
4)分離膜モジュール循環ラインによる浄化工程を実施後、それを停止して、ろ過槽循環ラインによる浄化工程を実施後、それを停止して、分離膜モジュール循環ラインによる浄化工程に移行し、前記運転サイクルを繰り返す浄化工程(但し、分離膜モジュールの逆圧洗浄時は、ろ過槽循環ラインのみの運転となる)
5)ろ過槽循環ラインによる浄化工程と分離膜モジュール循環ラインによる浄化工程を並行して実施する運転方法(分離膜モジュールの逆圧洗浄時は、ろ過槽循環ラインのみの運転となる)。
【0058】
本発明の飼育水質管理システムとその運転方法は、水生生物を循環式により陸上養殖するものであることから、天候、気候による影響を受け難く、計画的な水生生物の供給が可能である点(安定)と、飼料や飼育環境の制御が容易である点(安心)がある。
他にも、地域で余裕のあるエネルギーや資源・施設を利用し易い点や、生物ろ過槽2において、アクアポニクスシステムの採用により植物や藻類の並列生産をし、生産した植物などを地域における他の産業へ利用し易い点も挙げられる。
【0059】
従来のかけ流し型の養殖では、大雨が降った場合は、塩分濃度などの飼育水中成分濃度、水温、pH値などの水質管理値が急変することにより、病気が蔓延することもあるなど、飼育水質を一定管理するのは困難である。
一方、循環式陸上養殖では飼育水質管理を、比較的容易に実施できるため、前記のような問題が生じ難い。
水質管理項目の管理範囲(上下限閾値)は、水生生物の種や量と、養殖目的に応じて決定される。
【0060】
本発明の飼育水質管理システムとその運転方法では、特に病原性微生物を除去するために分離膜モジュール3における運転条件を飼育水槽1の運転初期水量(V)に対して、0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理することによって、飼育水中の病原性微生物濃度および水生生物から発生する細胞老廃物に起因する懸濁物質(ss)濃度、色度、濁度を高度に管理することができる。
飼育水中の病原性微生物濃度は、監視対象となる病原性微生物の特定および微生物濃度分析に労力がかかるため、通常は、懸濁物質(ss)濃度、色度、濁度および飼育水の微生物活性値で監視・管理することが多い。
しかし、本発明の飼育水質管理システムとその運転方法では、必要に応じて分離膜モジュール3の孔径、材質、膜面積、透水速度、逆洗回復性、飼育水槽1の運転初期水量(V)に対する循環流量などから選択される項目を適切に決定した後は、日々、分離膜モジュールの破損も含めた運転管理を継続するだけで、病原性微生物の増殖を防ぐことができ、日常的に病原性微生物濃度を監視する必要はない。
また、本発明の飼育水質管理システムとその運転方法では、水生生物へストレスを与えることになる、アンモニア(NH3)濃度、亜硝酸(NO2)濃度、硝酸(NO3)濃度、全炭素濃度(TOC)などと、これらの水質管理値に影響を与える過槽のろ材の微生物活性値を重要な水質管理項目として位置付けることができる。
一般的に、投与する水生生物用飼料量が多いと水生生物の成長速度が高まるが、特に、濁度、硝酸(NO3)濃度、全炭素濃度(TOC)などが増えるなどの飼育水質の劣化が生じることから、病原性微生物に対する水生生物の抵抗力が落ち、エサ食いが悪くなることが多発する。
本発明の飼育水質管理システムとその運転方法では、特に病原性微生物を除去するために分離膜モジュール3における運転条件を飼育水槽1の運転初期水量(V)に対して、0.2~8V/日になるよう循環流量を運転管理することによって、投与する水生生物用飼料量が一般的な量の2倍になっても、水生生物のエサ食いが悪くなることがなく、水生生物の出荷サイズになるまでの飼育期間を大幅に短縮できることから好ましい。
さらに、生物ろ過槽2においてアクアポニクスシステムを採用する場合は、全窒素濃度、全リン濃度、全カリウム濃度、BOD濃度、COD濃度、全炭素濃度(TOC)などを重要な水質管理項目として位置付けることができる。
さらにまた、水生生物用飼料や飼育水へ意図的に添加する特定の有機物濃度を水質管理項目として位置付けることができる。
これらの水質管理項目は、塩分濃度、水温、溶存酸素濃度、pH値などの水質管理項目と併せて、AI、IoTによって管理することもできる。
【0061】
本発明の飼育水水質管理システムとその運転方法で飼育対象となる水生生物は特に制限されるものではなく、魚類、貝類、甲殻類(エビ、カニ、ヤドカリ、シャコ、フジツボ、カメノテなど)、藻類、軟体動物として、タコ類、イカ類や棘皮動物(ウニ、なまこなど)、刺胞動物(サンゴ、クラゲなど)などが対象となる。世界的に食用されているコイ類、ティラピア類、ウナギ類、サケ類、エビ類の他、飼育面積当たりの収益の観点から、フグ、ヒラメ、クエ、チョウザメ、サザエ、アワビ、ウニなどの市場価値の高い水生生物、生育速度が速い、食味が良い、卵・卵巣・精巣などの生産性が高い、などの品種改良種、さらには、水族館、一般大型施設、家庭などにおける鑑賞目的のもの、真珠や薬効成分、肥料、飼料、エネルギー生産等の食用以外の価値のため養殖されるもの、地球環境保全や資源保護のため初期飼育されるものが好ましい。
また、種や品種以外に、雌雄どちらか一方のみを選択して、飼育することができる。
【実施例】
【0062】
実施例1
まず、
図1に示す飼育水質管理システムから分離膜モジュール3が無い設備を使用して、循環式陸上養殖を開始した。
トラフグの稚魚500匹を飼育した。
容量2.5m
3の円筒形の飼育水槽1に入れる飼育水として、塩分濃度0.9質量%になるよう地下水で人工海水剤を溶解した水2m
3(運転初期水量V)を使用した。
飼育中は、飼育水槽1の底面付近からエアレーションした。
投入したトラフグ500匹の平均体重が150gまで成長した時点の飼育水は濃い茶褐色をしており、その濁度は7NTUであった。
【0063】
次に、分離膜モジュール3をラインへ組入れ、
図1に示す本発明の飼育水水質管理システムの運転を開始した。
分離膜モジュール3の分離膜は、合計膜面積5m
2の酢酸セルロース製中空糸UF膜(孔径0.01μm)を使用した。
分離膜モジュール3の運転は、1時間のろ過運転と、1分間の逆圧洗浄運転を繰り返した。
分離膜モジュール3で処理した二次処理水(ろ過水)は、二次処理水ライン14から飼育水槽1に戻した。
ろ過によって浄化された正味のろ過流量(膜ろ過流量から逆圧洗浄流量を差し引いた値)は4.5m
3/日であり、逆圧洗浄による排水量を差し引いた飼育水の1日当たりの回収率は90%であった。
分離膜モジュール3のろ過運転による浄化によって濁度が次第に低下して、運転開始から1日後には0.3NTUまで下がり、その運転開始時からの除去率は96%であった。また、同時に分光光度計(波長390nm)によって飼育水の色度測定し、その除去率を求めたところ約50%であった。
【0064】
浄化システム全体による飼育水の浄化水量は4.5m3/日であり、これを初期飼育水量(V)で割った換水率は4.5/2=2.25V/日であった。これによってトラフグは死滅することなく、健康な成長が継続された。
【0065】
実施例2
図1に示す飼育水質管理システム(分離膜モジュール3がある)を2基使用して、2つの飼育水槽(第1水槽と第2水槽)による循環式陸上養殖を開始した。
投与する水生生物用飼料量を2倍量にする以外は、塩分濃度、水温などの飼育条件を実施例1と同一にして、トラフグの飼育を実施した。
飼育開始から1か月後の第1水槽と第2水槽の原水と飼育水をそれぞれ採取して、それらの生菌濃度を36℃、48時間寒天培地で培養した後の寒天培地中のコロニー数を観察することにより求めた。
飼育期間中、トラフグのエサ食いは継続して活発であり、トラフグが約1kgで出荷サイズになるまでの期間は、実施例1のおよそ半分の期間であった。
【0066】
【0067】
比較例1
実施例1における本発明の飼育水水質管理スステム運転前の濁度が7NTUの飼育水をサンプリングし、実施例1における分離膜モジュール3のUF膜と膜面積当たりの処理水量が同じになる条件で1日間、孔径1μmのMF膜を用いてろ過したところ、濁度の除去率は約10%、色度はほとんど除去できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の飼育水質管理システムと運転方法は、フグなどの高級魚を初めとする水生生物の養殖に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 飼育水槽
1a 主水槽
1b 補助水槽
2 生物ろ過槽
3 分離膜モジュール