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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】複合部材の製造方法、及び複合部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20240910BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B29C65/02
B29C45/14
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020165913
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057584
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510281944
【氏名又は名称】新東エスプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【弁理士】
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】寺本 亮
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131046(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092607(WO,A1)
【文献】特開2016-175126(JP,A)
【文献】特開2009-298144(JP,A)
【文献】特開2018-111277(JP,A)
【文献】特開2020-023063(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107263972(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法であって、
前記金属部材の表面をレーザ加工するレーザ加工工程と、
前記レーザ加工された前記金属部材の表面に前記樹脂部材を直接接合する接合工程と、
を含み、
前記レーザ加工工程は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面を有し、深さが15μm以上60μm以下である複数の凹部を40%以上100%以下の密度で前記金属部材の表面に形成し、
前記金属部材の材料は、鉄である、複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ加工工程は、パルスレーザによりドット状の前記複数の凹部を形成する、請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
前記複数の凹部は、平面視で円形状又は矩形状である、請求項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
前記複数の凹部は、20μm以上150μm以下の幅を有する、請求項2又は3に記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ加工工程は、パルスレーザにより連続した溝状の前記複数の凹部を形成する、請求項1に記載に記載の複合部材の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ加工工程は、前記複数の凹部をレーザのスポット径の1倍以上2倍以下のピッチで配列させる、請求項1~の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ加工工程は、前記複数の凹部を前記金属部材の表面より低い壁部を介して配列させる、請求項1~の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ加工工程は、前記複数の凹部を前記金属部材の表面を頂部として有する壁部を介して配列させる、請求項1~の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項9】
前記レーザ加工工程は、内面の傾斜角が40度以上80度以下となるように、前記複数の凹部を形成する、請求項1~の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項10】
前記レーザ加工工程は、ドロスからなる接合用テクスチャーをレーザ非照射部に形成する、請求項1~の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ加工工程は、酸化物からなる接合用テクスチャーをレーザ非照射部に形成する、請求項1~の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂部材の材料は、熱可塑性樹脂である、請求項1~11の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項13】
表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面を有し、深さが15μm以上60μm以下である複数の凹部が40%以上100%以下の密度でその表面に設けられた金属部材と、
前記複数の凹部が設けられた前記金属部材の表面に直接接触する樹脂部材と、を備え
前記金属部材の材料は、鉄である、複合部材。
【請求項14】
前記金属部材の表面に直交する断面において、前記金属部材は、前記内面から離間し、その周りが前記樹脂部材により囲まれた球状金属を、4個/mm以上50個/mm以下の密度で有している、請求項13に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材の製造方法、及び複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合部材の製造方法を開示する。この製造方法では、金属部材と樹脂部材とを接合した複合部材が製造される。金属部材の表面は、レーザ加工により粗面化される。樹脂部材は、粗面化された金属部材の表面に接合されるので、アンカー効果が生じると共に、接合部の流路抵抗が増す。このため、これらの製造方法で製造された複合部材は、優れた接合強度及び気密性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-94777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属は、ガラス、セラミックス又は樹脂と比べて強度が高いため、複合部材の母材として有力である。特許文献1に記載の製造方法は、金属部材を母材とする複合部材の接合強度及び気密性を更に向上させるという観点から、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、金属部材と樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法が提供される。製造方法は、金属部材の表面をレーザ加工するレーザ加工工程と、レーザ加工された金属部材の表面に樹脂部材を直接接合する接合工程と、を含む。レーザ加工工程は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面を有する複数の凹部を金属部材の表面に形成する。
【0006】
この製造方法によれば、金属部材の表面がレーザ加工される。レーザ加工後の金属部材の表面には、アンカー効果及び接合部の流路抵抗に寄与する複数の凹部が形成される。複数の凹部は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面を有する。表面粗さが20nm以上であることにより、金属部材の表面積が増える。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。表面粗さが1000nm以下であることにより、樹脂部材の凹部への充填性が向上する。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。以上のことから、優れた接合強度及び気密性を有する複合部材の製造方法を提供することができる。
【0007】
一実施形態においては、複数の凹部の深さは、15μm以上60μm以下であってもよい。この場合、凹部の深さが15μm以上なので、金属部材の表面積が更に増えると共に、接合部の流路抵抗が更に増す。凹部の深さが60μm以下なので、レーザ加工工程にかかる時間が短縮され、生産性が向上する。
【0008】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、パルスレーザによりドット状の複数の凹部を形成してもよい。この場合、金属部材の表面積が更に増える。
【0009】
一実施形態においては、複数の凹部は、平面視で円形状又は矩形状であってもよい。円形状の凹部の場合、接合界面の面積が大きくなり、接合界面の流路の長さを長くすることができるので、流路抵抗を大きくすることができる。矩形状の凹部の場合、円形状の凹部の場合よりも接合界面の面積が更に大きくなる。その上、矩形状の凹部の場合、界面の流通路が直角に曲がっているので、円形状の凹部の場合よりも更に流路抵抗を大きくすることができる。
【0010】
一実施形態においては、複数の凹部は、20μm以上150μm以下の幅を有してもよい。剪断力を受ける凹部の数が多いほど、応力集中する箇所の荷重が分散される。しかし、凹部の幅が小さすぎると樹脂部材の良好な充填が阻害される。したがって、凹部の幅を20μm以上150μm以下とすることにより、接合強度が向上する。
【0011】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、複数の凹部を40%以上100%以下の密度で形成してもよい。この場合、金属部材の表面積が更に増える。
【0012】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、パルスレーザにより連続した溝状の複数の凹部を形成よい。この場合、金属部材のダメージを低減することができる。
【0013】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、複数の凹部をレーザのスポット径の1倍以上2倍以下のピッチで配列してもよい。実際に形成される凹部は、通常、レーザのスポット径よりも大きくなる。したがって、この構成によれば、複数の凹部を効率的に配列させることができる。
【0014】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、複数の凹部を金属部材の表面より低い壁部を介して配列よい。この場合、複数の凹部を高密度で配列することができる。
【0015】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、複数の凹部を金属部材の表面を頂部として有する壁部を介して配列してもよい。この場合、樹脂部材との接合面には、樹脂部材の亀裂の起点となる鋭利な凸部がない。よって、樹脂部材に亀裂が入ることが抑制される。
【0016】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、内面の傾斜角が40度以上80度以下となるように、複数の凹部を形成してもよい。この場合、凹部の内面の傾斜角が40度以上なので、接合部の流路抵抗が更に増し、気密性が更に向上する。凹部の内面の傾斜角が80度以下なので、凹部の最頂部を起点とした破壊が生じ難い。
【0017】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、ドロスからなる接合用テクスチャーをレーザ非照射部に形成してもよい。この場合、接合部の流路抵抗が更に増し、気密性が更に向上する。
【0018】
一実施形態においては、レーザ加工工程は、酸化物からなる接合用テクスチャーをレーザ非照射部に形成してもよい。この場合、接合部の流路抵抗が更に増し、気密性が更に向上する。
【0019】
一実施形態においては、金属部材の材料は、鉄、銅、又は、アルミニウムであってもよい。この場合、鉄、銅、及び、アルミニウムは、レーザ加工が容易な材料であるため、接合用のレーザ加工面を効率よく形成することができる。
【0020】
一実施形態においては、樹脂部材の材料は、熱可塑性樹脂であってもよい。この場合、金属部材の表面に熱可塑性樹脂を加熱した状態で接触させることにより、金属部材の表面に形成された凹部内に樹脂を充填させることができる。
【0021】
本開示の他の形態によれば、複合部材が提供される。複合部材は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面を有する複数の凹部がその表面に設けられた金属部材と、複数の凹部が設けられた金属部材の表面に直接接触する樹脂部材と、を備える。
【0022】
この複合部材では、金属部材の表面には、アンカー効果及び接合部の流路抵抗に寄与する複数の凹部が設けられている。複数の凹部は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面を有する。表面粗さが20nm以上であることにより、金属部材の表面積が増える。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。表面粗さが1000nm以下であることにより、樹脂部材の凹部への充填性が向上する。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。以上のことから、優れた接合強度及び気密性を有する接合部材を提供することができる。
【0023】
一実施形態においては、金属部材の表面に直交する断面において、金属部材は、内面から離間し、その周りが樹脂部材により囲まれた球状金属を4個/mm以上50個/mm以下の密度で有していてもよい。この場合、4個/mm以上とすることにより、接合強度及び気密性が更に向上する。50個/mm以下とすることにより、樹脂部材の凹部への充填性が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一側面および実施形態によれば、優れた接合強度及び気密性を有する複合部材の製造方法及び複合部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る複合部材を示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿った複合部材の断面図である。
図3】複合部材の断面の一例を示す写真図である。
図4】実施形態に係る複合部材の製造方法のフローチャートである。
図5】実施形態に係るレーザ加工工程でレーザ加工された金属部材の断面図である。
図6】金属部材の表面の一例を示す写真図である。
図7】金属部材の表面の一例を示す写真図である。
図8】金属部材の表面の一例を示す写真図である。
図9】金属部材の表面の一例を示す写真図である。
図10】単独で形成された凹部の直径と、ピッチとの関係を説明するための図である。
図11】矩形状の凹部が形成された金属部材の平面図の一例である。
図12】単独の凹部の直径がピッチよりも小さい場合の断面図である。
図13】凹部の内面の傾斜角について説明するための断面図である。
図14】凹部の内面の傾斜角が80度よりも大きい場合の断面図である。
図15】射出成形に用いられる金型の上面図である。
図16図15のXVI-XVI線に沿った金型の断面図である。
図17】凹部の幅と剪断力を受ける領域の面積との関係について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本実施形態における「接合強度」は「剪断強度」として説明する。
【0027】
[複合部材]
図1は、実施形態に係る複合部材1を示す斜視図である。図1に示されるように、複合部材1は、金属部材2及び樹脂部材3を備える。複合部材1は、金属部材2及び樹脂部材3が接合により一体化された部材である。金属部材2及び樹脂部材3は、一例として、それぞれ板状の部材である。樹脂部材3は、金属部材2の表面2aに直接接触している。図1では、樹脂部材3は、金属部材2の表面の一部(金属部材2の接触面4)に直接接触しており、重ね継手構造を有する。
【0028】
金属部材2の材料は、例えば、鉄、銅、又は、アルミニウムである。樹脂部材3の材料は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、又は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの熱可塑性樹脂である。
【0029】
図2は、図1のII-II線に沿った複合部材1の断面図である。図2に示されるように、金属部材2は、その表面2aの一部(接触面4)に複数の凹部5が設けられている。凹部5は、表面粗さ(Ra)が20nm以上1000nm以下、より好ましくは、20nm以上500nm以下である内面5aを有する。内面5aの表面粗さは、JIS B0601:1994/2001に準拠した線粗さである。内面5aの表面粗さは、表面2aにおいて凹部5が設けられていない部分の表面粗さよりも粗い。
【0030】
内面5aの表面粗さは、例えば、複合部材1の断面の顕微鏡写真を画像解析することにより測定される。複合部材1の断面は、例えば、イオンミリング装置により作成される。砥石による切断やレーザによる断面加工は、複合部材1に熱影響や機械的なダメージを与える。イオンミリングによれば、複合部材1に与える熱影響や機械的なダメージを抑制できる。イオンミリング装置としては、例えば、JEOL社製のIB-19500CPを用いることができる。内面5aの表面粗さは、樹脂部材3を除去後に、例えば、白色干渉顕微鏡により測定してもよい。
【0031】
白色干渉顕微鏡として、例えば、新東Sプレシジョン株式会社製のIS-R100を用いることができる。樹脂部材3の除去方法として、例えば、溶媒により溶かす方法を用いることができる。例えば、樹脂部材3の材料がポリアミドの場合、アニリン(Aniline)、又は、エチレンクロルヒドリン(Ethylenechlorohydrin)等の溶媒が用いられる。樹脂部材3の除去方法として、他にも大気圧プラズマにより分解除去する方法等を用いることができる。
【0032】
凹部5の深さは、15μm以上60μm以下、より好ましくは、20μm以上55μm以下である。凹部5の深さは、表面2aを基準面とした各凹部5の最も深い位置における深さ、すなわち、最大深さの平均値として求められる。凹部5の深さは、複合部材1の断面の顕微鏡写真を画像解析することによって求めることもできる。凹部5の深さは、樹脂部材3を除去後に、例えば、白色干渉顕微鏡により測定してもよい。
【0033】
複数の凹部5は、ピッチAで配列している。複数の凹部5は、壁部6を介して配列している。この例では、壁部6の高さは、表面2aの高さと同等である。壁部6は、表面2aを頂部として有する。ピッチAは、例えば20μm以上150μm以下である。ピッチAは、隣り合う一対の凹部5の中心間距離である。
【0034】
樹脂部材3は、その一部が凹部5に入り込んだ状態で、金属部材2に接合されている。このような構造は、例えば、射出成形により形成される。複合部材1は、射出成形以外の手法、例えば、プレス成形、振動接合、又は、超音波接合により接合されてもよい。
【0035】
図3は、複合部材1の断面の一例(後述の試験例21)を示す写真図である。図3に示されるように、表面2a(図1参照)に直交する断面において、金属部材2は、凹部5の内面5aから離間し、その周りが樹脂部材3により囲まれた球状金属2bを有している。球状金属2bは、断面では樹脂部材3により完全に囲まれているように見えるが、実際は内面5aと接続されており、金属部材2の一部である。金属部材2は、表面2aに直交する断面において、球状金属2bを4個/mm以上50個/mm以下の密度で有している。球状金属2bの密度は、表面2aに直交する断面において、表面2aと平行な方向における単位長さ(1mm)当たりの球状金属2bの個数として定義される。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る複合部材1では、樹脂部材3と直接接触する金属部材2の表面2aにアンカー効果及び接合部の流路抵抗に寄与する複数の凹部5が設けられている。複数の凹部5は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面5aを有する。表面粗さが20μm以上であることにより、金属部材2の接合部の表面積が増す。これにより、溶融した樹脂部材3が凹部5に流れ込み、金属部材2と溶着した際に、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。表面粗さが1000μm以下であることにより、樹脂部材3の凹部5への充填性が向上する。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。以上のことから、優れた接合強度及び気密性を有する複合部材1を提供することができる。
【0037】
金属部材2は、表面2aに直交する断面において、球状金属2bを4個/mm以上の密度で有している。球状金属2bは凹部5の内面5aと接続されているので、アンカー効果が奏される。よって、接合強度及び気密性が更に向上する。50個/mm以下の密度とすることで、樹脂部材3の凹部5への充填性が向上する。
【0038】
金属部材2の材料は、例えば、鉄、銅、又は、アルミニウムである。鉄、銅、及び、アルミニウムは、レーザ加工が容易な材料であるため、接合用のレーザ加工面を効率よく形成することができる。樹脂部材3の材料は、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂を加熱した状態で金属部材2のレーザ加工面に接触させることにより、金属部材2の表面2aに形成された凹部5内に樹脂を充填させることができる。凹部5の内面5aにおける表面粗さの中に樹脂が転写されることによって形成された接合界面によれば、アンカー効果が発揮され、高い剪断強度を得ることができる。樹脂の転写方法として、射出成形、又は、加熱した金型によるプレス成形等の方法がある。
【0039】
[複合部材の製造方法]
図4は、実施形態に係る複合部材1の製造方法MTのフローチャートである。図4に示されるように、製造方法MTは、準備工程S10と、レーザ加工工程S12と、接合工程S14とを含む。最初に、準備工程S10として金属部材2が準備される。続いて、準備された金属部材2の表面2aをレーザ加工するレーザ加工工程S12が行われる。最後に、レーザ加工された金属部材2の表面2aに樹脂部材3を直接接合する接合工程S14が行われる。以下、レーザ加工工程S12及び接合工程S14の詳細について説明する。
【0040】
[レーザ加工工程]
レーザ加工工程S12では、例えば、パルスレーザが用いられる。図5は、実施形態に係るレーザ加工工程S12でレーザ加工された金属部材2の断面図である。図6図9は、金属部材2の表面2aの一例を示す写真図である。図6の写真図は、銅(JIS:C1020)を材料とする金属部材の表面の一例(後述の試験例1)である。図7及び図8の写真図は、それぞれ鉄(JIS:SPCC)を材料とする金属部材の表面の一例(後述の試験例9及び試験例13)である。図9の写真図は、アルミニウム(JIS:A5052)を材料とする金属部材の表面の一例(後述の試験例23)である。
【0041】
レーザ加工工程S12は、図5図9に示されるような複数の凹部5を金属部材2の表面2aに形成する。上述のように、凹部5の内面5aの表面粗さは、20nm以上1000nm以下、より好ましくは、20nm以上500nm以下である。内面5aの表面粗さは、レーザの照射条件によって調節される。内面5aの表面粗さは、複合部材1における場合と同様に、例えば、白色干渉顕微鏡、又は、断面顕微鏡写真の画像解析によって測定することができる。金属部材2の断面は、複合部材1の断面と同様の手法で作成される。
【0042】
凹部5の深さは、上述のように、15μm以上60μm以下、より好ましくは、20μm以上55μm以下である。凹部5の深さは、レーザの照射条件によって調節される。凹部5の深さは、複合部材1における場合と同様に、例えば、白色干渉顕微鏡、又は、断面顕微鏡写真の画像解析によって測定することができる。
【0043】
レーザ加工工程S12は、パルスレーザによりドット状の複数の凹部5を形成する。レーザ加工工程S2は、複数の凹部5を40%以上100%以下の密度で形成する。複数の凹部5は、平面視で(表面2aに直交する方向から見て)、例えば円形状(図6図7及び図9参照)、又は矩形状(図8参照)である。凹部5の幅A1は、例えば、20μm以上150μm以下である。凹部5の幅A1は、円形状の凹部5においては、凹部5の直径であり、矩形状の凹部5においては、凹部5の一辺の長さである。
【0044】
レーザ加工工程S12は、複数の凹部5をレーザのスポット径の1倍以上2倍以下のピッチAで配列させる。例えば、レーザのスポット径が50μmの場合、ピッチAは50μm以上100μm以下である。図6図9に示される例では、複数の凹部5は、格子状又はマトリックス状に配列されており、ピッチAは縦方向及び横方向で互いに同等であるが、ピッチAは縦方向及び横方向で互いに異なっていてもよい。複数の凹部5は、千鳥状に配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。
【0045】
図10及び図11を参照して、矩形状の凹部5の形成方法について説明する。図10は、単独で形成された円形状の凹部の直径Bと、ピッチAとの関係を説明するための図である。直径Bは、通常レーザのスポット径よりも大きくなる。図11は、矩形状の凹部5が形成された金属部材2の平面図の一例である。図10に示されるように、破線で示される単独の凹部の直径BがピッチAよりも大きいため(B>A)、単独の凹部とは異なる形状を有する凹部5が形成される。隣り合う凹部5間には、非照射部である表面2aよりも低い壁部6が形成される。この例では、レーザ加工工程S12は、複数の凹部5を表面2aより低い壁部6を介して配列させると言える。壁部6の深さCは、表面2aを基準とした深さである。壁部6は、表面2aより深さCだけ低い。この例では、複数の凹部5を隙間なく高密度で配列させることができる。
【0046】
図11に示されるように、矩形状の複数の凹部5は、ピッチAで格子状に配列されている。単独の凹部は、破線で示されるように円形状である。単独の凹部の直径BがピッチAよりも大きいため(B>A)、矩形状の凹部5が形成される。ここでは、ピッチAが縦方向及び横方向で互いに等しいため、凹部5は正方形状となっている。ピッチAが縦方向及び横方向で互いに異なる場合、凹部5は長方形状となる。平面視で壁部6は直線状であり、凹部5の四辺を構成している。凹部5の幅A1は、隣り合う一対の壁部6間の距離と等しい。B>Aのとき、幅A1はピッチAに限りなく近くなる(A1≒A)。
【0047】
図12は、単独の凹部の直径BがピッチAよりも小さい場合の断面図である。このとき直径Bは、凹部5の幅A1と等しい(B=A1)。図12に示されるように、隣り合う凹部5間には、非照射部である表面2aを頂部として有する壁部6が形成される。この例では、レーザ加工工程S12は、複数の凹部5を金属部材2の表面2aを頂部として有する壁部6を介して配列させると言える。この構成では、樹脂部材3との接合面には、樹脂部材3の亀裂の起点となる鋭利な凸部がない。よって、樹脂部材3に亀裂が入ることが抑制される。特に、亀裂が進展し易い、硬くて脆い種類の樹脂に対して有効である。直径BがピッチA以下の場合(B≦A)、ピッチAが小さいほど、金属部材2の表面積が増えるので、接続強度及び密着性が向上すると共に、気密性が向上する。
【0048】
図13は、凹部5の内面5aの傾斜角θについて説明するための断面図である。傾斜角θは、金属部材2の表面2aに直交する断面において、凹部5の50%深さを示す仮想線L1と直線L2とがなす角度として定義される。直線L2は、内面5aと仮想線L1との交点Pと、凹部5の最頂部5tとを結ぶ直線である。凹部5の50%深さは、以下に定義される100%深さ及び0%深さに基づき、相対値として求められる。仮想線L1は、表面2aに平行な直線であり、凹部5ごとに設定される。
【0049】
凹部5の100%深さは、表面2aに直交する断面における凹部5の最底部5bの深さである。凹部5の最底部5bは、表面2aに直交する断面において、表面2aからの深さが最も深い位置となる部分である。凹部5の0%深さは、表面2aに直交する断面における凹部5の最頂部5tの深さである。凹部5の最頂部5tは、表面2aに直交する断面において、最底部5bからの高さが最も高い位置となる部分である。すなわち、表面2aに直交する断面において、凹部5を形成する左右の壁面の頂部のうち、高い方が最頂部5tである。最頂部5tの高さは、表面2aと同等か、それよりも低くなる。
【0050】
図14は、凹部5の内面5aの傾斜角θが80度よりも大きい場合の断面図である。このように、傾斜角θが80度よりも大きい場合は、傾斜角θが80度以下の場合よりも、最頂部5tが破壊の起点となり易い。なお、図14では、単独の凹部5のみが示されているが、傾斜角θによる最頂部5tの脆さの違いを比較する際は、最頂部5tの幅等の傾斜角θ以外の条件を揃える必要がある。
【0051】
レーザ加工工程S12は、レーザ照射により、ドロス(図7参照)又は酸化物(図8参照)からなる接合用テクスチャーをレーザ非照射部に形成してもよい。ドロスは、レーザ照射により飛散した金属の粒である。ドロスによれば、金属部材2の表面積が増えるので、金属部材2及び樹脂部材3の接合強度が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増し、気密性が向上する。酸化物は、レーザ照射により飛散した金属の粒が高熱により酸化したものである。酸化物によれば、ドロスよりも金属部材2の表面積が増えるので、接合強度が更に向上する共に、接合部の流路抵抗が更に増し、気密性が更に向上する。これらの接合用テクスチャーは、レーザ加工条件を調節することにより形成できる。
【0052】
[接合工程]
接合工程S14として、例えば、射出成形が行われる。ここではインサート成形が行われる。インサート成形では、所定の金型にインサートを装着し、樹脂を注入して所定時間保持して硬化させる。その後、熱処理により樹脂の残留応力を取り除く。接合工程S14として射出成形以外に、例えば、プレス成形、振動接合、又は、超音波接合が行われてもよい。
【0053】
図15は、射出成形に用いられる金型の上面図である。図16は、図15のXVI-XVI線に沿った金型の断面図である。図15及び図16に示されるように、金型20は、金型本体21(上金型21a及び下金型21b)を備える。上金型21aと下金型21bとの間には、インサート(ここでは金属部材2)を装着するための空間22及び樹脂が注入される空間23を備えている。上金型21aの上面には、樹脂注入口が設けられている。樹脂注入口は、スプルー24、ランナー25及びゲート26を介して空間23に連通している。空間23には、圧力センサ27及び温度センサ28が設けられており、空間23の圧力及び温度が検出される。圧力センサ27及び温度センサ28の検出結果に基づいて、図示しない成形機のパラメータが調整され成形品が製造される。パラメータには、金型温度、充填時の樹脂温度、充填圧力、射出率、保持時間、保持時の圧力、熱処理温度、熱処理時間などが含まれる。金型20で成形された成形品は、所定面積で接合する重ね継手構造となる。
【0054】
図示しない成形機は、接合工程S14として、上述した金型20を用いて成形を行う。まず、金型20が型開きされ、金属部材2が空間22に装着されて、金型20が型閉じされる。そして、成形機は、設定された樹脂温度を有する溶解した樹脂を樹脂注入口から金型20の内部に注入する。注入された樹脂は、スプルー24、ランナー25及びゲート26を通り、空間23に充填される。成形機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて樹脂の充填圧力や射出率を制御する。成形機は、温度センサ28の検出結果に基づいて、金型温度が設定値になるように制御する。また、成形機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて、設定された保持時間の間、圧力が設定値となるように制御する。その後、成形機は、設定された熱処理温度及び熱処理時間に基づいて、熱処理を行う。その後、成形機は、金型20を型開きして、金属部材2及び樹脂部材3が一体化された複合部材1を取り出す。接合工程S14が終了すると、図4に示されたフローチャートが終了する。これにより、図1に示される複合部材1が製造される。
【0055】
以上説明したように、製造方法MTによれば、金属部材2の表面2aがレーザ加工される。レーザ加工後の金属部材2の表面2aには、アンカー効果及び接合部の流路抵抗に寄与する複数の凹部5が形成される。複数の凹部5は、表面粗さが20nm以上1000nm以下である内面5aを有する。表面粗さが20μm以上であることにより、金属部材2の表面積が増える。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路が複雑となり、流路抵抗が増す。表面粗さが1000μm以下であることにより、樹脂部材3の凹部5への充填性が向上する。これにより、アンカー効果が向上すると共に、接合部の流路抵抗が増す。以上のことから、優れた接合強度及び気密性を有する複合部材1の製造方法を提供することができる。
【0056】
複数の凹部5の深さは、15μm以上60μm以下である。凹部5の深さが15μm以上なので、金属部材2の表面積が更に増えると共に、接合部の流路抵抗が更に増す。凹部5の深さが60μm以下なのでレーザ加工工程L2にかかる時間が短縮され、生産性が向上する。また、樹脂部材3の凹部5への充填性が更に向上する。
【0057】
レーザ加工工程L2は、パルスレーザによりドット状の複数の凹部5を形成する。このため、金属部材2の表面積が更に増える。凹部5は平面視で円形状又は矩形状である。円形状の凹部5の場合、接合界面の面積が大きくなり、接合界面の流路の長さを長くすることができるので、流路抵抗を大きくすることができる。矩形状の凹部5の場合、円形状の凹部5の場合よりも接合界面の面積が更に大きくなる。その上、矩形状の凹部5の場合、界面の流通路が直角に曲がっているので、界面の流通路が円に沿って緩やかに曲がる円形状の凹部の場合よりも更に流路抵抗を大きくすることができる。
【0058】
凹部5の幅A1は、20μm以上150μm以下である。図17は、凹部の幅と剪断力を受ける領域の面積との関係について説明するための図である。図17(a)に示される凹部5の幅A1は、図17(b)に示される凹部5の幅A1よりも大きい。矢印Fは、剪断力の方向を示す。凹部5の内面5aのうち剪断力を受けるのは、ハッチングを付した領域である。図17(a)及び図17(b)から理解されるように、幅A1が小さいほど、剪断力を受ける領域の面積の合計値を大きくすることができる。これにより、接合強度を向上させることができる。一方、幅A1が小さ過ぎると、樹脂部材の良好な充填が阻害される。
【0059】
レーザ加工工程L2は、複数の凹部5を40%以上100%以下の密度で形成する。凹部5の密度が40%以上なので、金属部材2の表面積が更に増える。凹部5の密度は、60%以下であってもよい。凹部5の密度を60%以下とすることで、レーザ加工工程にかかる時間が短縮され、生産性が向上する。
【0060】
レーザ加工工程L2は、複数の凹部5をレーザのスポット径の1倍以上2倍以下のピッチで配列する。実際に形成される凹部5の直径は、通常、レーザのスポット径よりも大きくなる。したがって、この構成によれば、複数の凹部5を効率的に配列させることができる。
【0061】
レーザ加工工程L2は、内面5aの傾斜角θが40度以上80度以下となるように、複数の凹部5を形成する。傾斜角θが40度以上なので、流体の圧力損失が発生するように接合部の流路抵抗が更に増し、気密性が更に向上する。傾斜角θが80度以下なので、凹部5の最頂部5tを起点とした破壊が生じ難い。
【0062】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記本実施形態に限定されるものでなく、本実施形態以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0063】
[レーザ加工工程の変形例]
レーザ加工工程S12は、連続した溝状の凹部5を形成してもよい。この場合も、凹部5の内面5aの表面粗さは、20nm以上1000nm以下である。連続した溝状の凹部5は、パルスレーザにより形成されてもよい。この場合、金属部材2のダメージを低減することができる。また、加工深さ(凹部5の深さ)及び凹部5の内面5aの表面粗さを制御し易い。更に、金属部材2の加工後の表面に金属酸化膜が形成されることにより、表面の酸素原子と樹脂材料とが水素結合する。レーザ加工では、機械加工及びブラスト処理のような金属加工に比べて、金属表面が高温になるため酸化され易いものの、パルスレーザを用いることにより、金属表面の酸化を抑制できる。レーザ加工工程S12は、溝状の複数の凹部5をレーザのスポット径の1倍以上2倍以下のピッチで配列させてもよい。
【0064】
[母材及び樹脂部材の変形例]
上記実施形態に係る金属部材2及び樹脂部材3として、板状部材を例として示したが、この形状に限定されることはなく、互いに接触可能なあらゆる形状を採用することができる。上記実施形態に係る樹脂部材3は、金属部材2の表面の一部に接触していたが、金属部材2の表面全てに接触していてもよい。
【0065】
[射出成形の変形例]
射出成形は、インサート成形に限定されるものではなく、アウトサート成形であってもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施形態の効果を説明するために実施例及び比較例を説明する。なお、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0067】
ISO19095-2:2015に準拠する重ね合わせ試験片を以下のように作成した。まず、銅(JIS:C1020)、鉄(JIS:SPCC)、及び、アルミニウム(JIS:A5052)を材料とする複数の金属部材を準備した。金属部材のサイズは、10mm×45mm×1.5mmとした。
【0068】
続いて、パルスレーザを用いたレーザ加工により、各金属部材の表面にドット状の複数の凹部を形成した。レーザ加工には、新東Sプレシジョン株式会社製のレーザ洗浄機を用いた。レーザの出力は200W、波長は1065nm、レーザのスポット径は50μmとした。加工時間は、いずれも30秒/cm以下とした。ここでは、レーザの走査ピッチ、パルス数、及び加工時間等の条件を変更することにより、銅、鉄、及びアルミニウムの各材料について、表面形状が互いに異なる複数種類の金属部材を作成した。
【0069】
レーザ加工した金属部材の表面形状を接合工程の前に測定した。測定には、新東Sプレシジョン株式会社製の白色干渉顕微鏡IS-R100を用いた。金属部材の表面形状は、具体的には、凹部の深さ、凹部の幅、凹部の密度、凹部のピッチ、凹部の内面の表面粗さ、及び、凹部の傾斜角である。凹部の傾斜角は、試験片の断面の顕微鏡写真を画像解析することにより測定した。試験片の断面は、JEOL社製のイオンミリング装置IB-19500CPを用いて作成した。凹部の深さ、凹部の幅、凹部のピッチ、凹部の内面の表面粗さ、及び凹部の傾斜角は、接合部に形成された凹部の少なくとも5%以上を測定して得られた値の平均値として求めた。ここでは、5%~10%の数の凹部を測定した。つまり、接合部に形成された凹部の数が20000個の場合は、1000個~2000個の凹部を測定して平均値を求めた。
【0070】
続いて、図15及び図16に示される接合装置を用いて、各金属部材のレーザ加工面に樹脂部材を接合した。樹脂部材の材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)とした。金型温度は140℃、樹脂温度は270℃、充填圧力は60MPa、射出率は64.2cm/sとした。保持時において、保持圧力は40MPa、保持時間は8sとした。熱処理時において、熱処理温度は130℃、熱処理時間は2hとした。この工程により、各金属部材に樹脂部材が接合され、複合部材の試験片1~29が得られた。試験片1~6では、金属部材が銅からなる。試験片7~19では、金属部材が鉄からなる。試験片20~29では、金属部材がアルミニウムからなる。
【0071】
次に、得られた複合部材の気密性及び剪断強度の評価を行った。気密性の評価は、ISO19095-3:2015に準拠するヘリウムリーク試験により行った。剪断強度の評価は、ISO19095-2:2015に準拠する方法により行った。
【0072】
表1は、試験片1~29における金属部材の表面形状の測定結果、気密性の評価結果、及び、剪断強度の評価結果を示す表である。表1では、金属部材の表面形状として、凹部の深さ、凹部の幅、凹部の密度、凹部のピッチ、凹部の内面の表面粗さ、及び、凹部の傾斜角がそれぞれ示されている。気密性の評価結果は、ヘリウムリーク試験の漏れ量が5×10-7Pa・m/s未満の場合が「A」、漏れ量が5×10-7Pa・m/s以上の場合が「B」で示されている。剪断強度の評価結果は、剪断強度が30MPa以上の場合が「A」、剪断強度が20MPa以上30MPa未満の場合が「B」、剪断強度が20MPa未満の場合が「C」、未接合の場合が「D」で示されている。
【0073】
【表1】
【0074】
金属部材が銅(JIS:C1020)からなる試験例1~6のうち、試験片1,2では気密性及び剪断強度が高くなった。試験片6では、樹脂部材が接合しなかった。試験片6では、凹部の密度が2.8%しかなく、金属部材の表面積が小さ過ぎるため、樹脂部材が接合しなかったと考えられる。試験片3~5では、漏れ量が5×10-7Pa・m/s以上、剪断強度が20MPa未満であった。試験片3~5では、凹部の密度が40%未満であり、やはり金属部材の表面積が不十分であったと考えられる。
【0075】
金属部材が鉄(JIS:SPCC)からなる試験例7~19のうち、試験片8~14では、気密性及び剪断強度が高くなった。試験片18,19では、樹脂部材が接合しなかった。試験片18では、凹部の内面の表面粗さが1200nmを超えているため、樹脂部材の凹部への充填性が悪化し、樹脂部材が接合しなかったと考えられる。試験片19では、凹部の密度が5.2%しかなく、金属部材の表面積が小さ過ぎるため、樹脂部材が接合しなかったと考えられる。
【0076】
試験片15,17では、漏れ量が5×10-7Pa・m/s以上、剪断強度が20MPa未満であった。試験片15,17では、凹部の密度は40%未満であり、金属部材の表面積が不十分であったと考えられる。試験片7では、漏れ量が5×10-7Pa・m/s以上、剪断強度が30MPa未満であった。試験片7では、凹部の深さが15μm未満であるため、接続部の流路抵抗が低く、その結果、気密性が低くなったと考えられる。試験片16では、漏れ量が5×10-7Pa・m/s以上であった。試験片16では、凹部の深さが60μmを超えているので、樹脂部材の凹部への充填性が不十分となり、気密性が低くなったと考えられる。
【0077】
金属部材がアルミニウム(JIS:A5052)からなる試験例20~29のうち、試験片20~24では、気密性及び剪断強度が高くなった。試験片28,29では、樹脂部材が接合しなかった。試験片28では、凹部の内面の表面粗さが1600nmを超えているため、樹脂部材の凹部への充填性が悪化したと考えられる。その上、試験片28では、凹部の密度が6.1%しかなく、金属部材の表面積が小さ過ぎたと考えられる。試験片29では、凹部の内面の表面粗さが2000nmを超えているため、樹脂部材の凹部への充填性が悪化したと考えられる。その上、試験片29では、凹部の深さが15μm未満であるため、樹脂部材が十分に接合しなかったと考えられる。
【0078】
試験片25~27では、漏れ量が5×10-7Pa・m/s以上であった。試験片26,27では、剪断強度が20MPa未満であった。試験片26,27では、凹部の密度が40%未満であり、金属部材の表面積が不十分であったと考えられる。その上、試験片26では、凹部の内面の表面粗さが1000nmを超えているため、樹脂部材の凹部への充填性が悪化したと考えられる。試験片25では、凹部の深さが60μmを超えているので、試験例20~24に比べて、樹脂部材の凹部への充填性が不十分となり、気密性及び剪断強度が低くなったと考えられる。
【0079】
凹部の内面の表面粗さが1000nmを超えている試験例18,26,28,29では、気密性及び剪断強度が十分に確保されないことが確認できた。凹部の密度が40%未満である試験例3~6,15,17~19,26~28でも、気密性及び剪断強度が十分に確保されないことが確認できた。
【符号の説明】
【0080】
1…複合部材、2…金属部材、2a…表面、2b…球状金属、5…凹部、5a…内面、6…壁部、A…ピッチ、θ…傾斜角。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17