(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】脱硫ゴム、ゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物、タイヤ、ホース、ベルト、クローラ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240910BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240910BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240910BHJP
F16G 1/06 20060101ALI20240910BHJP
C08J 11/22 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C08L21/00 ZAB
C08K3/013
B60C1/00 Z
F16G1/06
C08J11/22
(21)【出願番号】P 2020183040
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020173855
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正幸
(72)【発明者】
【氏名】戸田 匠
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-263065(JP,A)
【文献】特開2000-007019(JP,A)
【文献】特開2009-040815(JP,A)
【文献】特表2010-512446(JP,A)
【文献】特表2015-511875(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225564(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08J 11/00- 11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が26万よりも大きく60万未満であり、溶媒に可溶なゴム成分Aと、溶媒に不溶なゴム成分Bとを含み、
前記ゴム成分Bの含有割合が、前記ゴム成分Aの含有量a及び前記ゴム成分Bの含有量bとの合計質量の45質量%未満である
脱硫ゴムであって、
前記溶媒に可溶なゴム成分Aは、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、テトラヒドロフランに溶解している成分であり、
前記溶媒に不溶なゴム成分Bが、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、テトラヒドロフランに溶解していない成分である、脱硫ゴム。
【請求項2】
前記ゴム成分Aの重量平均分子量が、30万よりも大きく60万未満である請求項1に記載の脱硫ゴム。
【請求項3】
前記ゴム成分A及び前記ゴム成分Bが、イソプレン骨格、ブタジエン骨格、及びスチレン-ブタジエン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載の脱硫ゴム。
【請求項4】
前記ゴム成分A及び前記ゴム成分Bが、イソプレン骨格を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の脱硫ゴム。
【請求項5】
ゴム成分を含み、
請求項1~4のいずれか1項に記載の脱硫ゴムを、前記ゴム成分中10質量%より多く含むゴム組成物。
【請求項6】
更に、前記ゴム成分100質量部に対し、20~120質量部の充填剤を含む請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のゴム組成物からなるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項9】
請求項5又は6に記載のゴム組成物を用いたホース。
【請求項10】
請求項5又は6に記載のゴム組成物を用いたベルト。
【請求項11】
請求項5又は6に記載のゴム組成物を用いたクローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫ゴム、ゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物、タイヤ、ホース、ベルト、クローラに関する。
【背景技術】
【0002】
環境及び省資源化の視点から、架橋ゴムを再生し、新たな架橋ゴムとして再利用することが検討されている。
例えば、特許文献1には、加硫ゴムを脱硫処理することにより得られる再生ゴムにおいて、ゲルに対するゾルの割合が10~80%であり、前記ゾルのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)が20000~300000の範囲内であり、かつ前記ゲルの膨潤度が3.0~20.0であるが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の脱硫方法では、実際に実施例で製造することができている脱硫ゴムの重量平均分子量は25万8千に留まり、高い分子量の液状炭化水素を得るには更なる検討が必要である。
【0005】
本発明は、優れた機械的強度を有する架橋ゴムを製造することができる脱硫ゴム及ゴム組成物、優れた機械的強度を有するタイヤを製造することができるタイヤ用ゴム組成物、並びに、優れた機械的強度を有するタイヤ、ホース、ベルト、及びクローラを提供することを目的とし、該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 重量平均分子量が26万よりも大きく60万未満であり、溶媒に可溶なゴム成分Aと、溶媒に不溶なゴム成分Bとを含み、前記ゴム成分Bの含有割合が、前記ゴム成分Aの含有量a及び前記ゴム成分Bの含有量bとの合計質量の45質量%未満である脱硫ゴム。
【0007】
<2> 前記ゴム成分Aの重量平均分子量が、30万よりも大きく60万未満である<1>に記載の脱硫ゴム。
<3> 前記ゴム成分A及び前記ゴム成分Bが、イソプレン骨格、ブタジエン骨格、及びスチレン-ブタジエン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>又は<2>に記載の脱硫ゴム。
<4> 前記ゴム成分A及び前記ゴム成分Bが、イソプレン骨格を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の脱硫ゴム。
【0008】
<5> ゴム成分を含み、<1>~<4>のいずれか1つに記載の脱硫ゴムを、前記ゴム成分中10質量%より多く含むゴム組成物。
<6> 更に、前記ゴム成分100質量部に対し、20~120質量部の充填剤を含む<5>に記載のゴム組成物。
<7> <5>又は<6>に記載のゴム組成物からなるタイヤ用ゴム組成物。
【0009】
<8> <7>に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【0010】
<9> <5>又は<6>に記載のゴム組成物を用いたホース。
<10> <5>又は<6>に記載のゴム組成物を用いたベルト。
<11> <5>又は<6>に記載のゴム組成物を用いたクローラ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた機械的強度を有する架橋ゴムを製造することができる脱硫ゴム及ゴム組成物、優れた機械的強度を有するタイヤを製造することができるタイヤ用ゴム組成物、並びに、優れた機械的強度を有するタイヤ、ホース、ベルト、及びクローラを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<脱硫ゴム>
本発明の脱硫ゴムは、重量平均分子量が26万よりも大きく60万未満であり、溶媒に可溶なゴム成分Aと、溶媒に不溶なゴム成分Bとを含み、前記ゴム成分Bの含有割合が、前記ゴム成分Aの含有量a及び前記ゴム成分Bの含有量bとの合計質量の45質量%未満である。
なお、本発明の脱硫ゴムは、加硫ゴムにおける硫黄架橋が解され、脱硫処理されたゴム成分であって、加硫ゴムを再生可能なリサイクルゴムであるが、加硫ゴムを粉砕して粉状にした粉ゴムは含まれない。
【0013】
加硫ゴムの加熱分解等の脱硫処理により得られる脱硫ゴムは、一般に、液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含む。加硫ゴムとして、廃タイヤを用いた場合、タイヤには、通常、充填剤が含まれることから、固形分には、充填剤も含まれる。
加硫前の生ゴムは、イソプレンゴム(IR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が120万程度、数平均分子量(Mn)が40万程度であり、また、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が40万程度、数平均分子量(Mn)が10万程度である。液体性成分に含まれる液状炭化水素のMw及びMnがこれらの値に近いほど、原料ゴムに近い分子鎖のゴムが得られたことを意味する。
【0014】
従来の脱硫ゴムに含まれる液状炭化水素は、脱硫処理により、ゴム分子が細切れになり易く、重量平均分子量が小さくなり易かった。そのため、再度架橋して架橋ゴムを得ても、機械的強度を向上しにくかった。
これに対し、本発明の脱硫ゴムは、上記構成であることで、優れた機械的強度を有する架橋ゴムを製造することができる。
【0015】
ゴム成分Aは、脱硫処理により液状炭化水素として得られる成分であり、脱硫ゴムを再架橋したときに、再架橋反応に寄与し、再架橋し得る成分である。ゴム成分Aの重量平均分子量が26万よりも大きいことで、脱硫ゴムを再架橋して得られる架橋ゴムの機械的強度を向上することができる。
ゴム成分Bは、分解せずに残存する固形分であり、脱硫ゴムを再架橋しても、ゴム成分Bは再架橋反応に寄与しにくい。脱硫ゴム中、ゴム成分Bの含有割合が、ゴム成分A及びBの合計質量の、45質量%未満であることで、有効成分であるゴム成分Aの割合が多くなり、優れた機械的強度を有する架橋ゴムを製造することができると考えられる。
以下、本発明の脱硫ゴムについて詳細に説明する。
【0016】
(ゴム成分A)
ゴム成分Aは、加硫ゴムを脱硫処理して得られたゴム成分のうち、溶媒に可溶なゴム成分であって、重量平均分子量が26万よりも大きく60万未満である。
ゴム成分Aにおいて、溶媒に可溶とは、25℃大気圧(0.1MPa)下で20時間放置した場合の溶媒100gに対する溶解度が10g以上であることを意味する。
【0017】
ここで、溶媒とは、公知の溶媒を広く使用することができ、例えば、水;メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族もしくは脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N'-ジメチルイミダゾリノン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種を単独で使用でき、又は必要に応じて2種以上を混合して使用することができる。
以上の中でも、溶媒は、アルコール系溶媒及びエーテル系溶媒を含むことが好ましく、エーテル系溶媒を含むことがより好ましい。
【0018】
ゴム成分Aのエーテル系溶媒に対する溶解度は、25℃大気圧下で一晩放置した場合に3g/100g以上であることが好ましく、4g/100g以上であることがより好ましく、10g/100g以上であることがより好ましく、20g/100g以上であることが更に好ましく、55g/100g以上であることがより更に好ましく、65g/100g以上であることがより更に好ましい。
【0019】
また、ゴム成分Aは、液状炭化水素である。
液状とは、室温(25℃)かつ大気圧(0.1MPa)の下で液体状態あるいは石油成分(アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)に容易に可溶化し液体状態になることをいう。
【0020】
ゴム成分Aの重量平均分子量は、26万よりも大きく60万未満である。
ゴム成分Aの重量平均分子量が26万以下であると、脱硫ゴムを再架橋して得られる再架橋ゴムの機械的強度が優れず、脱硫ゴムの可溶成分であって、重量平均分子量が60万以上となるゴム成分は得られにくい。
ゴム成分Aの重量平均分子量は、30万よりも大きく60万未満であることが好ましく、32万以上であることがより好ましく、35万以上であることが更に好ましい。
ゴム成分Aの重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0021】
(ゴム成分B)
ゴム成分Bは、加硫ゴムを脱硫処理して得られたゴム成分のうち、溶媒に不溶なゴム成分であって、脱硫ゴムを再架橋した際に、架橋反応に寄与しにくい。
ゴム成分Bにおいて、溶媒に不溶とは、溶媒100gに対する溶解度が3g未満であることを意味する。
溶媒の種類は特に制限されず、既述の種類の溶媒を1種又は2種以上用いることができる。中でも、溶媒は、アルコール系溶媒及びエーテル系溶媒を含むことが好ましく、エーテル系溶媒を含むことがより好ましい。
ゴム成分Bのエーテル系溶媒に対する溶解度は、3g/100g以下であることが好ましく、2g/100g以下であることがより好ましく、1g/100g以下であることがより好ましい。
【0022】
ゴム成分Bの脱硫ゴム中の含有割合は、ゴム成分Aの含有量a及びゴム成分Bの含有量bとの合計質量の45質量%未満である。ゴム成分Bの脱硫ゴム中の含有割合が45質量%以上であると、脱硫ゴムの再架橋時の架橋成分であるゴム成分Aの含有量が少なくなり、再架橋ゴムの機械的強度が低下する。
ゴム成分Bの脱硫ゴム中の含有割合は、ゴム成分Aの含有量a及びゴム成分Bの含有量bとの合計質量の40質量%以下であることが好ましく、38質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。ゴム成分Bの脱硫ゴム中の含有割合の下限は特に制限されないが、通常、ゴム成分Aの含有量a及びゴム成分Bの含有量bとの合計質量の15質量%以上である。
【0023】
本発明の脱硫ゴムは、脱硫元である加硫ゴムが異なる可溶成分(ゴム成分A)と不溶成分(ゴム成分B)との混合物であってもよいが、同じ加硫ゴムを脱硫して得られる可溶成分(ゴム成分A)と不溶成分(ゴム成分B)との混合物であることが好ましい。
従って、ゴム成分A及びゴム成分Bは、共に、イソプレン骨格、ブタジエン骨格、及びスチレン-ブタジエン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、イソプレン骨格を含むことが好ましい。
【0024】
<脱硫ゴムの製造方法>
本発明の脱硫ゴムの製造方法は、第1の態様として、加硫ゴムを、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において300℃以下で加熱して脱硫ゴムを得る工程を有することが好ましい。
また、第2の態様として、加硫ゴムを、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱して脱硫ゴムを得る工程を有することが好ましい。
上記の第1の態様及び第2の態様における脱硫ゴムを得る工程を、以下、「分解工程」と称することがある。
本発明の脱硫ゴムの製造方法は、上記分解工程に加え、分解工程で得られた反応物を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。
【0025】
脱硫ゴムの製造方法の構成が上記工程を含むことで、重量平均分子量が26万よりも大き、液状のゴム成分Aが得られ易く、溶媒に不溶なゴム成分Bの含有割合が、ゴム成分Aの含有量a及びゴム成分Bの含有量bとの合計質量の45質量%未満となり易い。
【0026】
なお、本発明の脱硫ゴムの製造方法は、加硫剤以外の架橋剤により架橋された架橋ゴムの再生化にも有効であり、架橋ゴムを炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において300℃以下で加熱したり、加硫ゴムを、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱することで、ゴム成分Aに相当する液状炭化水素を含むゴム組成物を得ることができる。
このように、架橋ゴム(加硫ゴムを含む)の架橋構造を上記分解工程によって解して得られるゴム組成物又は脱硫ゴムを「分解生成有機物」と称することがある。
【0027】
本発明の脱硫ゴムの製造方法により、加硫ゴムを構成するゴム分子由来の炭素原子同士の結合(炭素-炭素結合)、当該炭素原子と架橋剤由来のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子等)との結合(例えば、炭素-硫黄結合)等において、熱及び溶媒効果により結合が切断され、ラジカル及び/又は新たな結合が生成すると考えられる。
これらの切断を受けて生成する高反応性のラジカル種に対して、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドから放出された水素原子が引き寄せられて、ラジカルの反応を停止すると考えられる。炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、水素供与が、アルコールよりも起こり易く、ラジカル反応の停止を起こりやすく、ラジカル反応の停止を起こしやすいと考えられる。また、ゴム分子の主鎖の切断に必要となる酸素に対して、第一級アルデヒドが酸化されて第一級カルボン酸に変化することにより、オートクレーブ内の酸素を消費することができる。その結果、主鎖の切断が抑制されるため、従来よりも高い分子量の液状炭化水素であるゴム成分Aを多く得ることができると考えられる。
【0028】
〔加硫ゴム〕
加硫ゴムは、ゴム成分の加硫物であり、加硫ゴムの原料であるゴム成分(純ゴム成分)としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムのいずれでもよい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
合成ジエン系ゴムは、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
非ジエン系ゴムは、例えば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
以上の中でも、タイヤ等のゴム製品は、一般に、ジエン系ゴムが用いられていることから、ゴム成分は、ジエン系ゴムを50質量%以上含むことが好ましい。すなわち、架橋ゴムは、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物であることが好ましい。ゴム成分は、ジエン系ゴムを70質量%以上含むことがより好ましく、ジエン系ゴムを90質量%以上含むことが更に好ましい。また、ジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエン及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0030】
加硫ゴムを、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドを含む反応溶媒下において、300℃以下で加熱することで、加硫ゴムの分子構造を主として構成する炭素-硫黄結合が、熱による結合切断、溶媒効果等による交換反応が進行し、切断によって生成する高反応性のラジカル種に炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドから放出された水素原子が引き寄せられて、ラジカルの反応が停止すると考えられる。
なお、上記脱硫ゴムの製造方法を、加硫剤以外の架橋剤により得られた架橋ゴムに適用する場合、ゴム成分の架橋剤は、例えば、有機過酸化物系架橋剤、酸架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。
【0031】
(充填剤)
加硫ゴムは、充填剤を含んでいてもよい。
タイヤは、一般に、タイヤの耐久性、耐摩耗性等の諸機能を上げるために、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を含む。
一方、充填剤を含まない加硫ゴムは、ゴム成分Aの分解率を高め、ゴム成分Bの含有量を抑制することができる。
充填剤は、シリカ及びカーボンブラックのいずれか一方を単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
【0032】
シリカは特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。シリカは、例えば、湿式シリカを用いることが好ましい。
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましい。
加硫ゴム中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20~100質量部であることが好ましく、30~90質量部であることがより好ましい。
【0033】
加硫ゴムは、ゴム成分及び上記充填剤のほか、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、加硫促進剤等を含むゴム組成物を架橋した架橋物であってもよい。タイヤは、一般に、これらの配合剤を含むゴム組成物を加硫した加硫ゴムを含む。
【0034】
〔反応溶媒〕
反応溶媒は、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド(本発明における化合物1)を含む態様が、一例として挙げられる。
また、他の例として、例えば、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物(本発明における化合物2)を含む態様が挙げられる。
反応溶媒として炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物等を選択することで、加硫ゴムの架橋点は分解されるが、ゴム分子の主鎖の切断が抑えられ、回収されるゴム成分Aの分子量を高く維持することができる。これは、アルコールを反応溶媒としたときは酸化劣化が起こるが、アルデヒドでは酸化劣化が起こりにくいことが理由として考えられる。
【0035】
(炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド;本発明における化合物1)
アルデヒドが有する炭化水素基の炭素数が2未満では、回収されるゴム成分Aの分子量を高く維持することができない。
炭化水素基は、回収されるゴム成分Aの分子量をより高く維持する観点から、炭素数が3~12であることが好ましく、6~10であることが更に好ましい。
【0036】
アルデヒドが有する炭化水素基は、炭素数が2以上であれば特に制限されず、例えば、脂肪族基、芳香族基等が挙げられる。
脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、また、飽和脂肪族基であっても、不飽和脂肪族基であってもよい。脂肪族基は、例えば、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、1-ペンチル基、2-メチル-1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、1-ドデシル基;ビニル基、プロペニル基等が挙げられる。
芳香族基は、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記炭化水素基を有すること以外は特に制限されず、例えば、更にハロゲン原子等の置換基を有してもよい。
【0037】
炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、具体的には、例えば、プロピル基を有するアルデヒド(プロパナール)、ブチル基を有するアルデヒド(ブタナール)、ペンチル基を有するアルデヒド(ペンタナール)、ヘキシル基を有するアルデヒド(ヘキサナール)、ヘプチル基を有するアルデヒド(ヘプタナール)、オクチル基を有するアルデヒド(オクタナール)、ノニル基を有するアルデヒド(ノナナール)、デシル基を有するアルデヒド(デカナール)、不飽和炭素鎖を有するアルデヒド(シンナムアルデヒド)、フェニル基を有するアルデヒド(ベンズアルデヒド)等が挙げられる。
【0038】
炭化水素基は、以上の中でも、回収されるゴム成分Aの分子量をより高く維持する観点から、脂肪族基が好ましく、飽和脂肪族基がより好ましく、直鎖状の飽和脂肪族基が更に好ましい。
具体的には、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドは、ヘキシル基を有するアルデヒド(ヘキサナール)、ヘプチル基を有するアルデヒド(ヘプタナール)、オクチル基を有するアルデヒド(オクタナール)、及びノニル基を有するアルデヒド(ノナナール)から選択される群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、ノニル基を有するアルデヒド(ノナナール)がより好ましい。
【0039】
(脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物;本発明における化合物2)
脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物は、回収される液状炭化水素の分子量をより高く維持し、液状炭化水素を高分解率で製造する観点から、炭素数が4~18であることが好ましく、4~16であることがより好ましく、5~14であることが更に好ましく、5~12であることがより更に好ましく、5~10であることがより更に好ましい。
具体的には、アネトール(炭素数10)、ピネン(炭素数10)、エストラゴール(炭素数10)、リモネン(炭素数10)、カレン(炭素数10)、カンフェン(炭素数10)及びこれらの誘導体等が挙げられる。異性体がある場合は、異性体を含む。
【0040】
本発明における化合物1及び2の誘導体を反応溶媒として用いてもよい。
誘導体としては、水素原子の1つ以上がアルキル基等の置換基により置換された構造が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、アミル基(プロピル基)、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
具体的には、例えば、シンナムアルデヒドの誘導体としては、アルキルアルデヒド等が挙げられ、特にアミルシンナムアルデヒド(炭素数14)が好ましい。シンナムアルデヒド以外の化合物、例えば、ヘプタナール、アネトール等の誘導体も用いることができる。
【0041】
反応溶媒は、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド又は脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物からなってもよいし、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド又は脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物に加え、他の溶媒を含んでいてもよいが、ゴム成分Aの分解率を高める観点から、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド又は脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物のいずれか一方が反応溶媒の主成分であることが好ましい。
ここで、主成分とは、反応溶媒中の、炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒド又は脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物の含有量が50体積%を越えることをいい、反応溶媒中の炭素数が2以上の炭化水素基を有するアルデヒドの含有量は、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、100体積%以上であってもよい。
【0042】
分解工程では、反応溶媒を、反応溶媒の体積[mL](Vs)と加硫ゴムの質量[mg](Wg)との比(Vs/Wg)が、好ましくは0.001/1~1/1、より好ましくは0.005/1~0.1/1となる範囲で用いることが好ましい。
反応溶媒を上記範囲で用いることで、加溶媒分解反応がより促進されたり、加硫ゴムに十分な水素原子が供給され、熱分解で生成したラジカルの再結合を抑制し、加硫ゴムを効率よく分解することができる。
【0043】
〔分解工程の反応条件〕
(温度)
分解工程において、第1の態様では、加硫ゴムと反応溶媒は300℃以下で加熱される。第2の態様では、加硫ゴムと反応溶媒は150℃以上300℃以下で加熱される。
加熱温度を300℃以下とすることで、省エネルギー化に優れ、また、副反応等による分解率低下を抑制することができる。なお、分解工程における加熱温度を分解温度と称することもある。加硫ゴムをより低温で加熱することで、溶媒が関与する反応を優先させて加硫ゴムを分解することができる。加熱温度は、150℃以上であることが好ましく、155℃以上がより好ましく、160℃以上が更に好ましく、また、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、220℃以下がより更に好ましく、210℃以下がより更に好ましい。
【0044】
(分解時間)
分解工程において、加硫ゴムを加熱する時間(分解時間)は、加硫ゴムの分解反応を十分に進める観点から、30分~20時間であることが好ましく、60分~180分であることがより好ましい。
【0045】
(圧力)
分解工程において、加硫ゴムと反応溶媒に与えられる圧力は特に制限されない。
加硫ゴムの分解反応の反応速度と、省資源及び省エネルギー化の観点から、0.1~2.0MPa(G)とすることが好ましく、0.1~1.5MPa(G)とすることがより好ましい。単位「MPa(G)」は圧力がゲージ圧であることを意味する。
圧力は、2.0MPa(G)以下であることで、ゴム成分Aの分子量を低下させにくく、0.1MPa(G)以上であることで、加硫ゴムに反応溶媒が浸透し易く、反応速度を上げやすい。
【0046】
(雰囲気)
300℃以下の分解工程における反応雰囲気は、特に制限されず、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスからなる気体の雰囲気(以下、単に不活性ガス雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気からなる気体の雰囲気(以下、単に空気雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気と不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で反応を進めてもよい。不活性ガスを用いる場合、2種以上の不活性ガスを混合して用いてもよい。
加硫ゴムの分解をより軽微な設備で行い、また、低エネルギー化を進める観点から、加硫ゴムは、好気環境下、即ち、酸素含有雰囲気下で加熱することが好ましく、空気を含む気体の雰囲気下で加熱することがより好ましく、空気雰囲気下で加熱することが更に好ましい。
【0047】
〔乾燥工程〕
本発明の脱硫ゴムの製造方法は、分解工程で得られた反応物(本発明の脱硫ゴム)を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
反応物は、例えば100~150℃の温風を吹き付ければよい。温風は空気であってもよいし、窒素ガスのような不活性ガスであってもよい。
【0048】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分を含み、本発明の脱硫ゴムをゴム成分中10質量%より多く含む。
本発明のゴム組成物が、本発明の脱硫ゴムをゴム成分中10質量%より多く含むゴム成分を含むことで、環境負担を軽減しながら、機械的強度に優れる再架橋ゴムを製造することができる。
ゴム成分は、本発明の脱硫ゴムのみからなるものであってもよいし、加硫ゴムの原料として通常用いられるゴム成分(純ゴム成分)を含んでもよい。
また、本発明のゴム組成物は、充填剤、架橋剤等、ゴム組成物が通常含む各種添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
環境負担を軽減する観点からは、ゴム成分中の本発明の脱硫ゴムの含有量は、多いほどよく、100質量%であってもよい。
ゴム組成物を再架橋して得られる再架橋ゴムの機械的強度を損なわない観点から、ゴム成分中の本発明の脱硫ゴムの含有量は、70質量%以下であることが好ましい。
環境負担の軽減と、再架橋ゴムの機械的強度との観点から、ゴム成分中の本発明の脱硫ゴムの含有量は、10~70質量%であることがより好ましく、11~68質量%であることが更に好ましく、12~65質量%であることがより更に好ましく、13~62質量%であることがより更に好ましく、15~60質量%であることがより更に好ましく、17~58質量%であることがより更に好ましく、19~54質量%であることがより更に好ましく、20~52質量%であることがより更に好ましい。
【0050】
本発明の脱硫ゴムと共に用いられる他のゴム成分は、加硫ゴムの原料として通常用いられるゴム成分(純ゴム成分)が挙げられる。
純ゴム成分としては、架橋ゴムの原料であるゴム成分として挙げた既述のゴム成分である。中でも、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0051】
本発明のゴム組成物は、充填剤を含んでいてもよい。
本発明のゴム組成物が充填剤を含むことで、再架橋ゴムの耐久性、耐摩耗性等の諸機能を向上することができる。
充填剤は、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤が挙げられ、シリカ及びカーボンブラックのいずれか一方を単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
【0052】
シリカは特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。シリカは、例えば、湿式シリカを用いることが好ましい。
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましい。
加硫ゴム中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20~120質量部であることが好ましく、30~100質量部であることがより好ましく、40~80質量部であることが更に好ましい。
【0053】
本発明のゴム組成物は、本発明の脱硫ゴムを含むゴム成分及び充填剤の他に、架橋剤、架橋促進剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華等を含んでいてもよい。
本発明のゴム組成物の再架橋の条件は特に制限されない。
架橋剤として、硫黄に代表される加硫剤を用いてもよいし、有機過酸化物系架橋剤、酸架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等を用いてもよい。
架橋剤として加硫剤を用いる場合は、架橋促進剤として、スルフェンアミド系、チアゾール系、グアニジン系等の各種加硫促進剤を1種又は2種以上用いてもよい。
【0054】
本発明のゴム組成物は、環境負担を軽減しながら、機械的強度に優れる再架橋ゴムを製造することができるため、タイヤを除く自動車部品、ホースチューブ類、防振ゴム類、コンベアベルト、クローラ、ケーブル類、シール材等、船舶部品、建材等の工業用品の製造に好適である。
【0055】
<タイヤ用ゴム組成物>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、本発明のゴム組成物からなる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物が、本発明のゴム組成物からなることで、環境負担を軽減しながら、機械的強度に優れるタイヤを製造することができる。
【0056】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いてなる。
タイヤを、本発明の脱硫ゴムを含む本発明のゴム組成物を用いて製造することで、環境負担が小さく、機械的強度に優れるタイヤが得られる。
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未架橋のゴム組成物を用いて成形後に架橋して得てもよく、または予備架橋工程等を経て、一旦、未架橋のゴム組成物から半架橋ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本架橋して得てもよい。タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0057】
<ホース、ベルト、クローラ>
本発明のホースは、本発明のゴム組成物を用いてなる。
本発明のベルトは、本発明のゴム組成物を用いてなる。
本発明のクローラは、本発明のゴム組成物を用いてなる。
ホース、ベルト、及びクローラを、本発明のゴム組成物を用いて製造することで、環境負担が小さく、機械的強度に優れる製品とすることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0059】
<加硫ゴムの用意>
加硫ゴムとして、下記加硫ゴムを用意した。
加硫ゴム(IR):ポリイソプレンゴムを加硫して得られた加硫ゴム
加硫ゴム(a1):天然ゴムとカーボンブラックとを少なくとも含むゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴム
加硫ゴム(a2):天然ゴムと、ポリブタジエンゴムと、カーボンブラックとを少なくとも含むゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴム
【0060】
<脱硫ゴムの製造A>
〔実施例1〕
(分解工程)
オートクレーブ(EYELA社製、耐圧容器、商品名「HIP-30L」)に、1mm程度の小片状にした加硫ゴム(IR)0.4gと、5mLの 1-ヘプタナールとを投入した。オートクレーブ内を密閉し、オートクレーブを加熱容器(EYELA社製、パーソナル有機合成装置ケミステーション、商品名「PPV-CTRL1」)に入れ、投入物を空気雰囲気下において200℃で2時間加熱した。加熱終了後、加熱容器を冷却水によって常温(25℃)まで戻し、反応物を常温にした。
【0061】
(乾燥工程)
分解工程で得られた反応物を、吹付式試験管濃縮装置(EYELA社製、商品名「MGS-3100」)を用い、130℃における窒素フローの条件で乾燥し、実施例1の分解生成有機物(脱硫ゴム)を得た。
【0062】
〔実施例2~5、比較例1~2〕
反応溶媒を表1に示す溶媒に代えた他は、実施例1と同様にして、分解工程と乾燥工程を進め、実施例2~5及び比較例1~2の分解生成有機物(脱硫ゴム)を得た。
【0063】
<分解生成有機物(脱硫ゴム)の分析>
実施例及び比較例で得られた脱硫ゴムのうち、液状生成物(ゴム成分A)を、テトラヒドロフランで溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析した。分析結果から、脱硫ゴム中の固形分(ゴム成分B)の割合及び液状生成物(ゴム成分A)の重量平均分子量(Mw)を測定した。
なお、濃度の異なる純ゴム成分(IR)のテトラヒドロフラン溶液を用いて検量線を作成した。検量線を利用してテトラヒドロフラン中の液状生成物(ゴム成分A)を定量し、液状生成物(ゴム成分A)の分解率を算出した。脱硫ゴム中の固形分(ゴム成分B)の割合は、「100%-液状生成物(ゴム成分A)の分解率」により算出した値である。
結果を表1に示す。表1の有効数字は3桁である。
なお、表1に示す分子量は、例えば、実施例1の場合、389×103、すなわち、389,000であることを意味する。
【0064】
GPC測定の条件は次のとおりである。
・カラム:東ソー(株)製造:TSKgel GMHXL
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・温度:40℃
・検出器:RI
【0065】
【0066】
<脱硫ゴムの製造Bと再加硫ゴムの製造>
〔実施例6〕
実施例3において、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(a1)に;投入物の加熱時間(分解時間)を2時間から表2に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして、分解工程を行った。その後、溶媒除去のための精製を行い、乾燥工程を進め、実施例6の分解生成有機物(脱硫ゴムA)を得た。
製造した脱硫ゴムAを用い、表3に示す組成で各成分を配合し、実施例7及び8のゴム組成物を調製した。ゴム組成物は、ゴム成分として、ゴム成分中の脱硫ゴムAの含有量が、純ゴム成分であるポリイソプレンゴム100質量部に対し、30質量部及び70質量部のタイプの2種を調製した。得られたゴム組成物をそれぞれ加硫して再加硫ゴムを得た。
【0067】
〔比較例3〕
実施例3において、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(a1)に;投入物の加熱時間(分解時間)を2時間から表2に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして、分解工程を行った。その後、溶媒除去のための精製を行い、乾燥工程を進め、比較例3の分解生成有機物(脱硫ゴムB)を得た。
製造した脱硫ゴムBを用い、表3に示す組成で各成分を配合し、比較例6及び7のゴム組成物を調製した。ゴム組成物は、ゴム成分として、ゴム成分中の脱硫ゴムBの含有量が、純ゴム成分であるポリイソプレンゴム100質量部に対し、30質量部及び70質量部のタイプの2種を調製した。得られたゴム組成物をそれぞれ加硫して再加硫ゴムを得た。
【0068】
〔比較例4〕
実施例3において、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(a1)に;投入物の加熱時間(分解時間)を2時間から表2に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして、分解工程を行った。その後、溶媒除去のための精製を行い、乾燥工程を進め、比較例4の分解生成有機物(脱硫ゴムC)を得た。
製造した脱硫ゴムCを用い、表3に示す組成で各成分を配合し、比較例8及び9のゴム組成物を調製した。ゴム組成物は、ゴム成分として、ゴム成分中の脱硫ゴムCの含有量が、純ゴム成分であるポリイソプレンゴム100質量部に対し、30質量部及び70質量部のタイプの2種を調製した。得られたゴム組成物をそれぞれ加硫して再加硫ゴムを得た。
【0069】
〔比較例5〕
実施例6の加硫ゴムの製造において、ゴム成分として、純ゴム成分のポリイソプレンゴム(IR)を100質量%用いた他は同様にして、比較例5の再加硫ゴム(基準用の再加硫ゴム)を製造した。
【0070】
なお、表3に示す成分の詳細は下記のとおりである。
脱硫ゴムA~C:実施例6、比較例3及び比較例4で製造した脱硫ゴム
IR:ポリイソプレンゴム、JSR社製、商品名「IR2200」
カーボンブラック:SAFグレード
6C:老化防止剤、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」
DM:加硫促進剤、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、三新化学工業社製、商品名「サンセラー DM」
NS:加硫促進剤、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー NS」
DPG:加硫促進剤、1,3-ジフェニルグアニジン、三新化学工業社製、商品名「サンセラー D」
【0071】
<脱硫ゴムの分析>
製造した脱硫ゴムA~Cについて、実施例1の脱硫ゴムの分析と同様の方法で分析して、液状生成物(ゴム成分A)の重量平均分子量(Mw)及び脱硫ゴム中の固形分(ゴム成分B)の割合を測定し、表2に示した。表2中の分子量とゴム成分Bの割合の有効数字は3桁である。
表1と同様に、表2に示す分子量は、例えば、実施例6の場合、271×103、すなわち、271,000であることを意味する。
【0072】
【0073】
<加硫ゴムの特性評価>
実施例7~8の再加硫ゴム、基準用の再加硫ゴム(比較例5の再加硫ゴム)及び比較例6~9の再加硫ゴムを用いて、各再加硫ゴムの機械的強度と損失正接(tanδ)を評価した。結果を表3に示す。
【0074】
1.機械的強度
各再加硫ゴムの機械的強度は、破断強度(TB;Tensile strength at Break)の観点から評価した。破断強度は、JIS K 6251(2017年)に基づいて、加硫ゴムを室温(23℃)で100%伸長し、破断させるのに要した最大の引張り力として測定した。
得られた破断強度の値は、基準用加硫ゴムの破断強度の値を100として指数表示した。指数値が大きい程、再加硫ゴムは、破断強度が大きいことを意味する。
【0075】
2.損失正接(tanδ)
各再加硫ゴムの損失正接(tanδ)を、粘弾性測定装置(TA Instruments社製 ARES-G2)を用い、温度50℃、歪み10%、周波数15Hzの条件で測定した。得られたtanδの値は、基準用再加硫ゴムのtanδの逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、再加硫ゴムは、低発熱性が良好であることを意味する。
【0076】
【0077】
<脱硫ゴムの製造C>
〔実施例9〕
オートクレーブ(EYELA社製、耐圧容器、商品名「HIP-30L」)に、1mm程度の小片状にした加硫ゴム(IR)0.4gと、5mLのアネトールを投入した。オートクレーブ内を密閉し、オートクレーブを加熱容器(EYELA社製、パーソナル有機合成装置ケミステーション、商品名「PPV-CTRL1」)に入れ、投入物を空気雰囲気下において、200℃で2時間加熱した。加熱終了後、加熱容器を冷却水によって常温(25℃)まで戻し、反応物を常温にした。
【0078】
(乾燥工程)
分解工程で得られた反応物を、吹付式試験管濃縮装置(EYELA社製、商品名「MGS-3100」)を用い、130℃における窒素フローの条件で乾燥し、実施例9の分解生成有機物(脱硫ゴムD)を得た。
【0079】
〔実施例10、実施例11〕
反応溶媒を表4に示す溶媒に代えた他は、実施例9と同様にして、分解工程と乾燥工程を進め、実施例10の分解生成有機物(脱硫ゴムE)及び実施例11の分解生成有機物(脱硫ゴムF)を得た。
【0080】
<分解生成有機物の分析>
実施例9~11で得られた分解生成有機物を、テトラヒドロフランで溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析した。分析結果から、分解生成有機物の可溶化率、重量平均分子量(Mw)を測定した。また、濃度の異なる純ゴム成分のテトラヒドロフラン溶液を用いて検量線を作成した。検量線を利用してテトラヒドロフラン中の液状生成物(ゴム成分A)を定量し、液状生成物(ゴム成分A)の分解率を算出した。脱硫ゴム中の固形分(ゴム成分B)の割合は、「100%-液状生成物(ゴム成分A)の分解率」により算出した値である。
なお、表4に示す分子量は、例えば、実施例9(分解温度200℃)の場合、430×103、すなわち、430,000であることを意味する。
【0081】
GPC測定の条件は次のとおりである。
・カラム:東ソー(株)製造:TSKgel GMHXL
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・温度:40℃
・検出器:RI
【0082】
【0083】
<脱硫ゴムの製造Dと再加硫ゴムの製造>
〔実施例12、比較例10〕
実施例9の分解工程において、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(a2)に;アネトールを表5に示す溶媒に;加硫ゴム及び溶媒の加熱時間(分解時間)を表5に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして、分解工程を行った。その後、溶媒除去のための精製を行い、乾燥工程を進め、実施例12の分解生成有機物(脱硫ゴムG)及び比較例10の分解生成有機物(脱硫ゴムH)を得た。
【0084】
<分解生成有機物の分析>
製造した分解生成有機物について、実施例1の分解生成有機物と同様の方法で分析して、ゴム成分Aの重量平均分子量(Mw)及び分解率を測定し、ゴム成分Aの分解率からゴム成分Bの割合を算出した。ゴム成分Aの重量平均分子量とゴム成分Bの割合を、有効数字3桁として表5に示した。
表5に示す分子量は、例えば、実施例11の場合、300×103、すなわち、300,000であることを意味する。
【0085】
【0086】
なお、実施例及び比較例で得た脱硫ゴムA~Hにおいて、ゴム成分Aは、いずれも、25℃大気圧(0.1MPa)下で20時間放置した場合のジエチルエーテル100gに対する溶解度が3g以上であり、ゴム成分Bは、いずれも25℃大気圧(0.1MPa)下で20時間放置した場合のジエチルエーテル100gに対する溶解度が0.1g未満であった。
【0087】
製造した脱硫ゴムG、Hを用い、表6に示す組成で各成分を配合し、比較例11~12、及び実施例13~15のゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物をそれぞれ加硫して再加硫ゴムを得た。
【0088】
なお、表6に示す成分の詳細は下記のとおりである。
NR:天然ゴム
BR:ハイシスポリブタジエン、宇部興産社製、商品名「UBEPOL BR150L」
カーボンブラック:SAFグレード
老化防止剤:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」を含む老化防止剤
加硫パッケージ:硫黄を含む。
なお、比較例11~12、及び実施例13~15のゴム組成物は、表6に示す成分以外に、その他薬品トータル7.9質量部を含む。
【0089】
<加硫ゴムの特性評価>
比較例11~12、及び実施例13~15の再加硫ゴムを用いて、各再加硫ゴムの機械的強度を評価した。結果を表に示す。
【0090】
1.機械的強度
各再加硫ゴムの機械的強度は、破断強度(TB;Tensile strength at Break)の観点から評価した。破断強度は、JIS K 6251(2017年)に基づいて、加硫ゴムを室温(23℃)で100%伸長し、破断させるのに要した最大の引張り力として測定した。
得られた破断強度の値は、基準用加硫ゴムの破断強度の値を100として指数表示した。指数値が大きい程、再加硫ゴムは、破断強度が大きいことを意味する。
【0091】
【0092】
表1からわかるように、実施例1~5では、比較例1及び2に比べ、固形分であるゴム成分Bの含有割合が少なく、より高い分子量の液状炭化水素(ゴム成分A)を含む脱硫ゴムを製造することができる。同様に、表4に示される実施例9~11においても、固形分であるゴム成分Bの含有割合が少なく、高い分子量の液状炭化水素(ゴム成分A)を含む脱硫ゴムを製造することができることがわかる。
また、表2及び3からわかるように、実施例6の脱硫ゴムAを含むゴム組成物から製造された再加硫ゴムは、比較例3、4の脱硫ゴムB、Cを含むゴム組成物から製造された再加硫ゴムに比べ、機械的強度が大きく、また、低発熱性であることがわかる。また、実施例6の脱硫ゴムAを含むゴム組成物から製造された再加硫ゴムは、ゴム成分として純ゴム成分からなる基準用の再加硫ゴムと同等の機械的強度及び低発熱性を備えていることがわかる。同様に、表5及び表6では、実施例15と比較例12を比べると、実施例12の脱硫ゴムGを含むゴム組成物から製造された再加硫ゴムの機械強度が大きいことがわかる。