(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】車載用発音装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20240910BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H04R1/02 102B
H04R1/00 311
(21)【出願番号】P 2020199572
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-100194(JP,A)
【文献】特開2015-097682(JP,A)
【文献】特開2019-182355(JP,A)
【文献】国際公開第2008/152783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/00
B60R 11/02
G10K 9/12
B60Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの内部にスピーカと電子回路とが収納されている車載用発音装置において、
前記ケースは、前方空間を形成する前方ケースと、後方空間を形成する後方ケースと、前記前方空間と前記後方空間を区分する仕切り板とを有し、
前記前方空間に前記スピーカが、前記後方空間に前記電子回路が収納されており、
前記前方ケースにおける前記仕切り板の前面との対面部に、前記前方空間と外部空間とを連通させる連通孔が形成されていることを特徴とする車載用発音装置。
【請求項2】
前記連通孔は、前記仕切り板の面方向において互いに逆方向に向けられて2か所に形成されており、
一方の前記連通孔が、前記ケースが
車両に取り付けられた状態で重力方向に向く下部連通孔であり、他方の前記連通孔が、重力方向と逆方向に向く上部連通孔である請求項1記載の車載用発音装置。
【請求項3】
前記前方ケースは、前記下部連通孔に連続する下部内壁面を有しており、
前記ケースが
前記車両に取り付けられた状態で、前記下部内壁面は、その前方部分が前記下部連通孔よりも上方に位置するように傾斜しており、
前記仕切り板の前面は、前記
上部連通孔と対面している上部が、下部よりも前方に位置するように、前方に向けて傾斜している請求項2記載の車載用発音装置。
【請求項4】
前記仕切り板が金属板であり、前記前方ケースと前記後方ケースが、前記仕切り板に固定されている請求項1ないし3のいずれかに記載の車載用発音装置。
【請求項5】
前記後方空間内の前記電子回路に設けられた発熱性電子部品が前記仕切り板に直接にまたは熱伝達部材を介して接触している請求項4記載の車載用発音装置。
【請求項6】
前記前方ケースには、前方に向く発音連通部と、前記発音連通部を連続して囲んで前記前方空間内に突出する連続突部が形成されており、前記スピーカの振動板の外周端を支持する振動板支持部が、前記連続突部に密着されて固定されている請求項1ないし5のいずれかに記載の車載用発音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース内にスピーカと電子回路が収納された車載用発音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車載用発音装置である報知手段が記載されている。この報知手段は、ハイブリット車や電気自動車が電気モータ駆動で走行しているときに、エンジン音を出して歩行者に車の接近を知らせるために搭載されている。この報知手段は、スピーカセンサと、ハンドルの近傍に設けられたスイッチ類と、再生手段と、録音手段と、選択手段と、再生操作手段と、エンジンルームに設けられたスピーカで構成されている。
【0003】
特許文献2には、複数のスピーカを搭載したスピーカアレイが記載されている。このスピーカアレイは車載用ではないが、板材で形成された筐体の内部に、複数のスピーカと、アンプ回路などが搭載されたプリント基板と、が収納されている。筐体の内部は、アルミニウムなどの仕切板で2つの空間に仕切られており、2つの空間の一方にスピーカが内蔵され、他方の空間にプリント基板が収納されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-31865号公報
【文献】特開2009-100194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の報知手段などとして使用される車載用発音装置は、ボイスコイルからの発熱によりスピーカ周辺が高温になりやすい。また外気温の変化による影響を受けやすく、ハイブリット車ではエンジンルームからの熱を受けて環境温度が100℃を超えることもある。また雨などの水分や多くの埃などが付着しやすい環境で使用される。そのため、スピーカとプリント基板を筐体(ケース)内に収納して使用することが好ましい。この場合に筐体の内部はできるだけ密閉状態とし、しかも、筐体の内外の温度差による筐体の内部圧力の変動により、スピーカの振動板に過大な圧力が作用しないように対策する必要がある。
【0006】
筐体の内部にスピーカと電子回路とが収納された公知文献として、特許文献2がある。ただし、特許文献2に記載されたスピーカアレイは、車載用を想定したものではなく、温度対策や圧力対策は一切なされていない。そのため、筐体の内部の温度が上昇するなどして、筐体の内部圧力と外部圧力との間に大きな差が生じたときに、スピーカの振動板に大きな力が作用し、発音時の音の歪みの原因になりさらにはスピーカの故障の原因になりやすい。また、筐体の内部に浸水があったときに、その水分を除去する手段も備わってはいない。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、スピーカと電子回路をケース内の別々の空間に配置して、電子回路を外部環境から保護できるようにし、しかもスピーカが収納された空間の圧力の変化などに対応できるようにした車載用発音装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ケースの内部にスピーカと電子回路とが収納されている車載用発音装置において、
前記ケースは、前方空間を形成する前方ケースと、後方空間を形成する後方ケースと、前記前方空間と前記後方空間を区分する仕切り板とを有し、
前記前方空間に前記スピーカが、前記後方空間に前記電子回路が収納されており、
前記前方ケースにおける前記仕切り板の前面との対面部に、前記前方空間と外部空間とを連通させる連通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の車載用発音装置は、前記連通孔が、前記仕切り板の面方向において互いに逆方向に向けられて2か所に形成されており、
一方の前記連通孔は、前記ケースが前記車両に取り付けられた状態で重力方向に向く下部連通孔であり、他方の前記連通孔は、重力方向と逆方向に向く上部連通孔であることが好ましい。
【0010】
また本発明の車載用発音装置は、前記前方ケースが、前記下部連通孔に連続する下部内壁面を有しており、
前記ケースが車両に取り付けられた状態で、前記下部内壁面は、その前方部分が前記下部連通孔よりも上方に位置するように傾斜しており、
前記仕切り板の前面は、前記上方連通孔と対面している上部が、下部よりも前方に位置するように、前方に向けて傾斜していることが好ましい。
【0011】
本発明の車載用発音装置は、例えば、前記仕切り板が金属板であり、前記前方ケースと前記後方ケースが、前記仕切り板に固定されている。
【0012】
本発明の車載用発音装置は、前記後方空間内の前記電子回路に設けられた発熱性電子部品が前記仕切り板に直接にまたは熱伝達部材を介して接触しているものとすることができる。
【0013】
本発明の車載用発音装置は、前記前方ケースに、前方に向く発音連通部と、前記発音連通部を連続して囲んで前記前方空間内に突出する連続突部が形成されており、前記スピーカの振動板の外周端を支持する振動板支持部が、前記連続突部に密着されて固定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車載用発音装置は、ケースの前方空間にスピーカが収納され、後方空間に電子回路が収納され、前方空間と後方空間とが仕切り板で区分されているため、後方空間を密閉して電子回路を保護することが可能である。また、前方ケースと仕切り板との対面部において前方ケースに連通孔が設けられているため、前方空間と外部空間との間に圧力変化があったときに、空気が仕切り板の前面に沿って流れるようにして通気孔から空気を出入りさせることができる。また、前方空間内に水分が侵入したときも、その水分を仕切り板の前面に沿って移動させ、連通孔から外部に排出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の車載用発音装置の外観を示す斜視図、
【
図2】
図1に示される車載用発音装置の分解斜視図、
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示される本発明の実施形態の車載用発音装置1は、ハイブリット車や純電気自動車に搭載されて車両接近通報装置(AVAS)として使用される。車載用発音装置1は車体の外部に近い位置に配置されるため、雨水や埃に耐えられるだけの密閉性が必要とされる。また、スピーカからの発熱による温度上昇に耐えることが必要とされる。さらに、外気温の急激な温度変化に耐えることが必要とされ、ハイブリット車の場合でエンジンルームの近くに配置されたときの高温の環境にも耐えることが求められる。
【0017】
図1ないし
図3に、互いに直交するX、Y、Zの座標軸が矢印で示されている。Y1-Y2方向が前後方向であり、Y1方向が前方で且つ主な発音方向で、Y2方向が後方である。Z1-Z2方向が上下方向であり、Z1方向が上方で、Z2方向が下方である。X1-X2方向は左右方向であり、X1方向が左方向で、X2方向が右方向である。互いに直交するX軸とY軸およびZ軸は車載用発音装置1を基準として設定されている。
【0018】
図1ないし
図3に、ケース2の中心線Oが示されている。中心線Oはケース2のX-Z面と平行な断面の中心を通っている。また、中心線Oは、ケース2の左右方向(X1-X2方向)の中心と上下方向(Z1-Z2方向)の中心を通っている。
図3には、車載用発音装置1が車体に設置された状態の断面が示されている。中心線Oは地上での水平方向Hに対して反時計方向へ傾斜した姿勢である。X-Y-Z軸は車載用発音装置1を基準として設定されているため、Y軸とZ軸も、X軸を中心として反時計方向に傾いている。
図3では、水平方向Hと直交する下方向が重力方向(g)である。
【0019】
ケース2は、前方ケース10と後方ケース20、および前方ケース10と後方ケース20の間に位置する仕切り板30とから構成されている。前方ケース10と後方ケース20は合成樹脂材料で形成されている。
図3に示されているように、後方ケース20の後部にコネクタ部21が設けられているが、コネクタ部21には、金属製のグロメットがインサートされている。仕切り板30は、鋼鈑やアルミニウム板などの金属板で形成されている。
図3の断面図に示されるように、前方ケース10の内部が前方空間S1で、後方ケース20の内部が後方空間S2である。前方空間S1と後方空間S2は、仕切り版30で、前後に区分されている。
【0020】
前方ケース10は、下方(Z2方向)に位置する下部壁部11と、上方(Z1方向)に位置する上部壁部12と、左右の側壁部13,13を有している。前方ケース10の前方(Y1方向)には前方壁部14が設けられている。
図1と
図2に示されるように、前方ケース10の後方にフランジ状の連結固定部15が一体に形成されている。連結固定部15は、下部壁部11と上部壁部12および側壁部13,13の後端部からケース2の外周方向に張り出している。前方ケース10の前方壁部14には、発音連通部16が設けられている。
図1と
図2に示されるように、発音連通部16は、中心線Oを中心とする円形の領域に多数の開口部を形成されたものである。
図3に示されるように、前方壁部14の内面には、発音連通部16の周囲の全周を囲むように連続する連続突部17が一体に形成されている。
【0021】
後方ケース20には、上下方向と左右方向の全域を囲む側壁部22と、後端部を塞ぐ後方壁部23とが一体に形成されており、後方壁部23に前記コネクタ部21が形成されている。後方ケース20の前方にフランジ状の連結固定部24が形成されている。連結固定部24は、側壁部22の前端部からケース2の外周方向に張り出している。
【0022】
図2に示されるように、金属板で形成された仕切り板30は、四角形状の隔壁部31と、左右方向(X1-X2方向)に突出する取付け片32とが設けられている。それぞれの取付け片32に取付け穴33が形成されている。車載用発音装置1は、取付け穴33を利用して車体に固定される。仕切り板30の隔壁部31の上部と下部および左右両側部のそれぞれには、後方固定穴34が2か所ずつ形成されている。隔壁部31の上部では、2か所の後方固定穴34よりも上方の2か所に前方固定穴35が形成され、隔壁部31の下部では、2か所の後方固定穴34よりも下方の2か所に前方固定穴35が形成されている。さらに、隔壁部31の左側部では、2か所の後方固定穴34よりも左側の2か所に前方固定穴35が、右側の2か所の後方固定穴34よりも右側の2か所に前方固定穴35が形成されている。後方固定穴34は上下左右の合計8か所に形成され、前方固定穴35は、上下左右において、後方固定穴34の外側の合計8か所に形成されている。
【0023】
図2に示されるように、後方ケース20の連結固定部24には、上部と下部および左部と右部のそれぞれに、雌ねじ穴25が2か所ずつ形成されている。合計8か所の雌ねじ穴25と、隔壁部31に形成された8か所の後方固定穴34は、前後方向に互いに一致する位置に形成されている。後方ケース20の連結固定部24の前方に向く面は平坦な固定平面24aである。この固定平面24aが仕切り板30の後面30aに密着させられ、それぞれの後方固定穴34に前方から挿入された固定ねじ(図示省略)が雌ねじ穴25に螺着されて、後方ケース20と隔壁部31とが固定される。なお、連結固定部24の固定平面24aと仕切り板30の後面30aの間に、弾性シートなどのパッキンが介在されることが好ましい。連結固定部24が隔壁部31に固定されることで、後方ケース20の内部の後方空間S2が隔壁部31で塞がれて、後方空間S2が密閉状態となる。
【0024】
図2に示されるように、前方ケース10の連結固定部15には、上部と下部および左部と右部のそれぞれに、雌ねじ穴18が2か所ずつ形成されている。合計8か所の雌ねじ穴18と、隔壁部31に形成された8か所の前方固定穴35は、前後方向に互いに一致する位置に形成されている。前方ケース10の連結固定部15の後方に向く面は平坦な固定平面15aである。この固定平面15aが仕切り板30の前面30bに密着させられ、それぞれの前方固定穴35に後方から挿入された固定ねじ(図示省略)が雌ねじ穴18に螺着されて、前方ケース10と隔壁部31とが固定される。なお、連結固定部15の固定平面15aと仕切り板30の前面30bの間に、弾性シートなどのパッキンが介在されることが好ましい。
【0025】
図2と
図3に示されるように、前方ケース10では、フランジ状の連結固定部15の固定平面15aに連通孔19a,19bが形成されている。連通孔19a、19bは、前方ケース10における仕切り板30の前面30bとの対面部に形成され、仕切り板30の面方向において互いに逆方向に向けられている。連通孔19a,19bは、固定平面15aに形成された凹部と仕切り板30の前面30bとの間に形成されており、連通孔19a,19bは、仕切り板30の前面30bに接触している。
図3に、車載用発音装置1が車両に取り付けられた姿勢が示されているが、一方の連通孔19aは、下部連通孔であり、重力方向(g)に向けられている。他方の連通孔19bは、上部連通孔であり、重力方向(g)と逆方向に向けられている。ここでの「重力方向に向けられている」とは、水平方向Hと直交する厳密な重力方向(g)に向けられている状態に限定されるものではなく、
図3の紙面において反時計方向へ傾斜しているZ軸に沿う下方向も含まれる。
【0026】
図3に示されるように、前方ケース10の内部の前方空間S1にスピーカ40が設置されている。スピーカ40は、フレーム41を有している。フレーム41の後部に磁気回路42が固定されている。磁気回路42は、磁石42aと、磁石42aの後面に固定された後方ヨーク42bと、磁石42aの前面に固定されたリング形状の前方ヨーク42cを有している。後方ヨーク42bと前方ヨーク42cは、磁性金属材料で形成されている。後方ヨーク42bの中央部は前方に延びるセンターヨーク42dとなっている。センターヨーク42dの外周面と前方ヨーク42cの内周面との対向部に磁気ギャップGが形成されている。
【0027】
スピーカ40は、フレーム41の前端部がリング形状の振動板支持部41aとなっている。前方ケース10の連続突部17の後端と振動板支持部41aとの間にエッジ部材43が挟まれて固定されており、エッジ部材43の内側にコーン形状の振動板44の外周端が接合されている。振動板44の中央部にボビン46が接合され、ボビン46の後端にボイスコイル47が巻かれて形成されている。ボイスコイル47は、磁気回路42の磁気ギャップG内に挿入されている。フレーム41とボビン46との間に、断面がコルゲート形状のダンパー部材45が設けられている。振動板44の中心部にはセッターキャップ48が固定されており、ボビン46の内部空間がセンターキャップ48で覆われている。このスピーカ40は、ボイスコイル47に流れるボイス電流と、磁気ギャップGを横断する磁界とにより、振動板44が前後方向に振動し、音圧が発音連通部16を通過して前方へ与えられる。
【0028】
図3に示されるように、前方ケース10では、前方壁部14に発音連通部16が開口している。前方壁部14の内側では発音連通部16の周囲を連続して囲む連続突部17が一体に形成されており、スピーカ40の振動板支持部41aが連続突部17の後端面に固定されている。前方ケース10の内部の前方空間S1は、前方壁部14と振動板44との間の前方空間領域S1aと、振動板44よりも後方の後方空間領域S1bとに区分される。前方空間領域S1aは、発音連通部16を経てケース2の前方の外部空間に通じている。発音連通部16は、内側からエッジ部材43と振動板44およびセンターキャップ48で覆われ、前方ケース10の後方は仕切り板30の隔壁部31で覆われているため、後方空間領域S1bは、実質的に、下部連通孔19aと上部連通孔19bのみで外部空間に連通されている。
【0029】
図3に示されるように、後方ケース20の内部の後方空間S2に電子回路50が内蔵されている。電子回路50は、後方ケース20の内部に固定された回路基板51を有し、回路基板51に複数の電子部品が実装されている。仕切り板30の一部には、後方空間S2の内方に隆起する隆起部36が一体に形成されており、隆起部36は、回路基板51に実装された発熱性電子部品52に接近しまたは直接接触している。あるいは熱伝達が可能なシート材やオイルなどの熱伝達部材を介して接触している。また、隆起部36は、回路基板51に実装されたコイルや熱が通過する導電パターンなどの発熱部に接近しまたは接触している。後方空間S2内の電子回路50から発せられる熱は、隆起部36から仕切り板30に伝導し、取付け片32など、ケース2の外へ露出している部分を介して外気中に放出される。
【0030】
図3に示されるように、車載用発音装置1が車体に設置された状態では、中心線Oが水平方向Hよりも反時計方向へ傾いた姿勢となっている。前方ケース10の下部壁部11の内面は、下部連通孔19aに連続する下部内壁面11aである。下部内壁面11aは、その前方部分が下部連通孔19aよりも上方に位置するように傾斜している。下部内壁面11aが水平方向Hと成す角度αは、時計方向へ0度を超えて90度未満である。仕切り板30の前面30bは、上部連通孔19bと対面している上部が、下部よりも前方に位置するように、前方に向けて傾斜している。仕切り板30の前面30bが水平方向Hと成す角度βは、時計方向へ0度を超えて90度未満である。前記角度αは5度以上で45度未満程度が好ましく、前記角度βは45度以上で85度未満程度が好ましい。
【0031】
次に、前記車載用発音装置1の奏する効果を説明する。
車載用発音装置1は、後方ケース20の前方の開口部が仕切り板30の隔壁部31で塞がれており、後方空間S2が密閉されている。よって、車載用発音装置1が雨水や埃に晒されたときでも、後方空間S2内の電子回路50が影響を受けるのを避けることができる。電子回路50には電源部やアンプなどを構成する発熱性電子部品52が設けられている。この発熱性電子部品52および回路基板51上の発熱部は、仕切り板30に形成された隆起部36と接近しまたは接触している。そのため、発熱部からの熱が隆起部36から仕切り板30を伝導してケース2の外部空間に放出されるようになり、後方空間S2の過剰な温度上昇を抑制することができる。
【0032】
前方ケース10の内部にはスピーカ40が設置されている。前方ケース10の前方壁部14に形成されている発音連通部16は、内側からエッジ部材43と振動板44およびセンターキャップ48で覆われている。そのため、振動板44よりも後方の後方空間領域S1bに、発音連通部16を通じて水分や埃が浸入するのを防止できるようになっている。
【0033】
スピーカ40が発音動作を行なっているときは、ボイスコイル47からの熱が後方空間領域S1bに留まって、磁気回路42の周囲の温度が上昇しやすい。また、後方空間S2内の発熱性電子部品52からの熱が仕切り板30を介して伝達されることによっても後方空間領域S1bの内部温度が上昇しやすい。後方空間領域S1bの温度が上昇すると、この領域と外部空間との間に圧力差が発生する。逆に、エンジンからの発熱などによって、外部温度が後方空間領域S1bの温度よりも高くなることによっても、後方空間領域S1bと外部空間との間に圧力差が発生する。この圧力差が大きくなると、スピーカ40の振動板44に前方に向けて圧力が作用しまたは後方に向けて圧力が作用する。この圧力が大きくなると、振動板44の振動に影響が与えられて音質が低下させられ、さらにはエッジ部材43が破損するなどの故障も生じやすい。しかし、車載用発音装置1では、前方ケース10と仕切り板30との対面部に連通孔19a,19bが形成されているため、この連通孔19a,19bを通じて、後方空間領域S1bと外部空間との圧力差を解消させることができる。
【0034】
下部連通孔19aと上部連通孔19bは金属製の仕切り板30に接触しているため、後方空間領域S1bと外部空間との間で出入りする空気は、仕切り板30の前面30bを沿って流れるようになる。前面30bによって空気が連通孔19a,19bに導かれるため、連通孔19a,19bによる通気効果を高めることができる。また、熱せられた空気は、仕切り板30の前面30bに接して流れ、連通孔19a,19bから外部へ流れ出るため、連通孔19a,19bから外部空間へ流れ出ようとする空気への冷却効果も期待できる。
【0035】
特に、
図3に示されるように、仕切り板30が、上部連通孔19bに対面する上部が下部よりも前方へ倒れる前傾姿勢になっていると、後方空間領域S1bで熱せられて上方に向かう空気が、仕切り板30の前面30bに接触し、前面30bを伝わって上部連通孔19bに導かれるようになり、上部連通孔19bから上方の外部空間に排気しやすくなる。
【0036】
車載用発音装置1では、雨水などの水分が上部連通孔19bから後方空間領域S1bに浸入することがある。しかし、前方ケース10の下部内壁面11aは後方に向かうにしたがって重力方向(g)に向けて下降する傾斜面になっているため、後方空間領域S1bに浸入した水分が、下部内壁面11aを伝わって後方に流れ、重力方向(g)に向けられている下部連通孔19aを経て下方の外部空間に排出されやすい。
【0037】
図3に示されるように、仕切り板30の下端部には前方に向けて折り曲げられた対向リブ30cが形成されており、この対向リブ30cが下部連通孔19aに下方へ距離を空けて対向している。仕切り板30の上端部にも前方に向けて折り曲げられた対向リブ30dが形成されており、この対向リブ30dが上部連通孔19bの上方へ距離を空けて対向している。対向リブ30c、30dが形成されているため、水分や埃が連通孔19a,19bを経て前方ケース10の内部に入りにくくなっている。
【符号の説明】
【0038】
1 車載用発音装置
2 ケース
10 前方ケース
11a 下部内壁面
15 連結固定部
15a 固定平面
16 発音連通部
17 連続突部
18 雌ねじ穴
19a 下部連通孔
19b 上部連通孔
20 後方ケース
24 連結固定部
24a 固定平面
25 雌ねじ穴
30 仕切り板
30a 後面
30a 前面
34 後方固定穴
35 前方固定部
36 隆起部
40 スピーカ
41 フレーム
41a 振動板支持部
44 振動板
50 電子回路
(g) 重力方向
S1 前方空間
S2 後方空間