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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/00 20060101AFI20240910BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F01N3/00 F
F01N3/08 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020202816
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090422
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】千葉 訓弘
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133394(JP,A)
【文献】特開2009-145219(JP,A)
【文献】特開2008-101564(JP,A)
【文献】特開2009-133238(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0363030(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104632335(CN,A)
【文献】特開2010-106715(JP,A)
【文献】特開2020-070728(JP,A)
【文献】特開2009-127552(JP,A)
【文献】特開2009-128237(JP,A)
【文献】特開2010-275892(JP,A)
【文献】特開2022-186289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(2)の排気通路(3)内に設けられた選択還元型触媒(5)の上流側に尿素水溶液を供給する噴射弁(50)と、前記噴射弁(50)と尿素水配管(65)を介して連通するポンプ(40)とを有する尿素SCRシステム(10)の制御装置(80)において、
前記制御装置(80)は、前記噴射弁(50)および前記ポンプ(40)の作動を制御し、かつ、前記選択還元型触媒の下流側に設けられたNOxセンサ(70)を診断する制御部(84)を備え、
前記内燃機関(2)が停止すると、前記制御部(84)は、大気圧(PA)が所定の圧力(PVth)以下の場合に、前記NOxセンサ(70)の診断を行い、その後、前記噴射弁(50)から尿素水溶液を回収する、
制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関(2)が停止すると、前記制御部(84)は、大気圧(PA)が所定の圧力(PVth)より大きい場合に、前記噴射弁(50)から尿素水溶液を回収するとともに、前記NOxセンサ(70)の診断を行う、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
内燃機関(2)の排気通路(3)内に設けられた選択還元型触媒(5)の上流側に尿素水溶液を供給する噴射弁(50)と、前記噴射弁(50)と尿素水配管(65)を介して連通するポンプ(40)とを有する尿素SCRシステム(10)の制御装置(80)において、
前記制御装置(80)は、前記噴射弁(50)および前記ポンプ(40)の作動を制御し、かつ、前記選択還元型触媒の下流側に設けられたNOxセンサ(70)を診断する制御部(84)を備え、
前記内燃機関(2)が停止すると、前記制御部(84)は、大気圧(PA)が前記噴射弁(50)内の圧力(PVT1)以下の場合に、前記NOxセンサ(70)の診断を行い、その後、前記噴射弁(50)から尿素水溶液を回収する、
制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関(2)が停止すると、前記制御部(84)は、大気圧(PA)が前記噴射弁(50)内の圧力(PVT1)より大きい場合に、前記噴射弁(50)から尿素水溶液を回収するとともに、前記NOxセンサ(70)の診断を行う、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部(84)は、前記噴射弁(50)から尿素水溶液を回収する際に、前記ポンプ(40)を回収モードで作動させ、第1の所定時間(T1)経過後に、前記噴射弁(50)を閉弁状態から開弁状態とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路内に設けられた選択還元型触媒の上流側に尿素水溶液を供給する尿素SCRシステムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガスにNOx(窒素酸化物)が含まれる場合がある。かかるNOxを還元して窒素や水等に分解することにより排気を浄化するための装置の一態様として、尿素SCR(Selective Catalystic Reduction)システムが実用化されている。尿素SCRシステムは、液体還元剤として尿素水溶液を使用し、尿素水溶液が分解することにより生成されるアンモニアを排気中のNOxと反応させることにより、NOxを分解するシステムである。
【0003】
尿素SCRシステムは、排気通路に配設された選択還元型触媒と、選択還元型触媒よりも上流側の排気通路に尿素水溶液を供給するための尿素水供給装置と、を備える。選択還元型触媒は、尿素水溶液が分解することにより生成されるアンモニアを吸着し、流入する排気中のNOxとアンモニアとの還元反応を促進する機能を有する。また、尿素水供給装置は、貯蔵タンク内に収容された尿素水溶液を圧送するポンプと、ポンプにより圧送される尿素水溶液を噴射する噴射弁とを備える。
【0004】
尿素SCRシステムにおいては、選択還元型触媒よりも下流側にNOxが流出していないかを監視するために、選択還元型触媒の下流側にNOxセンサが備えられる場合がある。選択還元型触媒の下流側に備えられるNOxセンサは、尿素水溶液の噴射量の制御にも用いられ得る。NOxセンサによる計測値と実際のNOx濃度とのずれが大きいと、尿素水溶液の噴射量に過不足を生じ、NOxあるいはアンモニアが選択還元型触媒の下流側に流出するおそれがある。
【0005】
特許文献1には、尿素SCRシステムにおいて、内燃機関の停止中に還元剤である尿素水溶液の温度が凝固点を下回ると、還元剤供給経路内で還元剤が凝固し、配管や還元剤噴射弁が破損するおそれがある。そのため、内燃機関の停止時に還元剤供給経路内に残留する還元剤を還元剤タンクに回収する制御が実施されることが記載されている。また、特許文献2には、尿素SCRシステムにおいて、内燃機関の停止時においてNOxセンサを診断することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-101564号公報
【文献】特開2017-133394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2には、内燃機関の停止時においてNOxセンサを診断することが記載されているが、内燃機関の停止時に行われるべき尿素水溶液の回収については言及されていない。尿素水溶液の回収時に、尿素水溶液の漏れが発生した場合には、それに起因したアンモニアが発生し、NOxセンサの診断を正確に行えないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、内燃機関の停止時においてNOxセンサの診断と尿素水溶液の回収を行う尿素SCRシステムの制御装置であって、NOxセンサの診断時において排気通路内に尿素水溶液が漏れることがなく、NOxセンサの診断を正確に行える尿素SCRシステムの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある観点によれば、内燃機関の排気通路内に設けられた選択還元型触媒の上流側に尿素水溶液を供給する噴射弁と、前記噴射弁と尿素水配管を介して連通するポンプとを有する尿素SCRシステムの制御装置において、前記制御装置は、前記噴射弁および前記ポンプの作動を制御し、かつ、前記選択還元型触媒の下流側に設けられたNOxセンサを診断する制御部を備え、前記内燃機関が停止すると、前記制御部は、大気圧が所定の圧力以下の場合に、前記NOxセンサの診断を行い、その後、前記噴射弁から尿素水溶液を回収する、制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内燃機関の停止時においてNOxセンサの診断と尿素水溶液の回収を行う尿素SCRシステムの制御装置であって、NOxセンサの診断時において排気通路内に尿素水溶液が漏れることがなく、NOxセンサの診断を正確に行える尿素SCRシステムの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が適用される尿素SCRシステムの全体構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る制御装置により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら本発明の実施形態について具体的に説明する。ただし、この実施形態は本発明の一態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
【0013】
<1.尿素SCRシステムの全体構成>
まず、本実施形態に係る制御装置を適用可能な尿素SCRシステムの構成例について説明する。図1は、尿素SCRシステム1の構成例を示す模式図である。
【0014】
尿素SCRシステム1は、ディーゼルエンジンに代表される内燃機関2の排気通路3の
途中に設けられた選択還元型触媒5と、選択還元型触媒5の上流側で排気通路3内に還元剤である尿素水溶液を供給するための尿素水供給装置10とを備える。選択還元型触媒5よりも下流の排気通路3には、NOx濃度を検出するNOxセンサ70が設けられている。NOxセンサ70のセンサ信号は制御装置80に送信される。この他、制御装置80には、大気圧センサ75、イグニッションスイッチ90からの信号が入力される。大気圧センサ75は公知の大気圧センサであり、独立したセンサとして内燃機関2が搭載された車両に取り付けられていても良いし、制御装置80内に大気圧を測定可能に配置されていても良い。
【0015】
NOxセンサ70は、ジルコニア固体電解質の積層構造を有する公知のNOxセンサである。本実施形態で使われるNOxセンサ70は検出したNOx濃度に応じた信号を出力する。すなわち、検出したNOx濃度が高くなるにしたがってNOxセンサ70は高い値、例えば高い電圧を出力する。一方NOxセンサ70はアンモニアにも反応するという特性を有する。すなわち、NOxに加えアンモニアも存在する環境においては、NOxセンサ70は、NOx濃度に応じた出力値に、アンモニア濃度に応じた出力値が加算された信号を出力する。
【0016】
選択還元型触媒5は、内燃機関2の排気ガス中に含まれるNOxを選択的に還元する。具体的に、選択還元型触媒5は、尿素水供給装置10により供給される尿素水溶液が分解して生成されるアンモニアを吸着し、流入する排気ガス中のNOxをアンモニアと反応させることにより還元する。尚、選択還元型触媒5は、パティキュレートフィルタの機能を併せ持つものであってもよい。また、選択還元型触媒5の上流側の排気通路3には、公知の酸化触媒7が設けられていても良い。
【0017】
<2.尿素水供給装置>
尿素水供給装置10は、選択還元型触媒5よりも上流側で排気通路3内に尿素水溶液を噴射する。尿素水供給装置10は、ポンプ40と噴射弁50とを備える。噴射弁50は選択還元型触媒5よりも上流で酸化触媒7よりも下流の排気通路3に固定されており、ポンプ40から圧送された尿素水溶液を排気通路3内に噴射する。ポンプ40及び噴射弁50は制御装置80によって駆動制御される。
【0018】
ポンプ40の吸入口には、他端が尿素水タンク20内に位置する第1尿素水配管60が接続されている。ポンプ40の吐出口には、他端が噴射弁50に接続された第2尿素水配管65が接続されている。ポンプ40は、第1尿素水配管60を介して尿素水タンク20内の尿素水溶液を吸い上げ、第2尿素水配管65を介して尿素水溶液を噴射弁50に供給する。
【0019】
ポンプ40としては、例えば電磁駆動式のダイヤフラムポンプ又はギヤポンプが用いられる。ポンプ40の出力は、制御装置80により制御される。制御装置80は、噴射弁50に供給される尿素水溶液の圧力が所定の目標値で維持されるようにポンプ40の出力を制御する。
【0020】
噴射弁50として、例えば通電制御により開弁及び閉弁が切り替えられる電磁駆動式の噴射弁が用いられる。制御装置80は、噴射弁50に供給される尿素水溶液の圧力が所定の目標値となるようにポンプ40の出力を制御しつつ、尿素水溶液の目標噴射量に応じて噴射弁50の開弁時間を調節する。
【0021】
また、尿素水供給装置10により、噴射弁50内の尿素水溶液を尿素水タンク20方向に回収することができる。尿素水溶液の凍結温度は低くても-11℃程度であるため、内燃機関2の停止中に尿素水溶液が凍結する場合がある。尿素水溶液が凍結すると、体積が膨張して、噴射弁50等を破損させるおそれがある。このため、制御装置80が内燃機関2の停止後において、ポンプ40を回収モードで作動させることにより、噴射弁50等に残留する尿素水溶液が尿素水タンク20方向に回収される。
【0022】
例えば、ポンプ40が還元剤圧送用ポンプと還元剤回収用ポンプを備えた場合には、当該還元剤回収用ポンプを駆動させることにより、噴射弁50等に残留する尿素水溶液を尿素水タンク20方向に移動させることができる。この場合、ポンプ40の回収モードとは、還元剤回収用ポンプを駆動させることである。また、ポンプ40が逆回転可能なポンプである場合には、当該ポンプ40を逆回転させることにより、噴射弁50等に残留する尿素水溶液を尿素水タンク20方向に移動させることができる。この場合、ポンプ40の回収モードとは、ポンプ40を逆回転させることである。また、ポンプ40に流路切換弁が付設されていてもよい。当該流路切換弁により、ポンプの吸入口の接続先を第1尿素水配管60から第2尿素水配管65に、ポンプの吐出口の接続先を第2尿素水配管65から第1尿素水配管60に切り換えることにより(回収方向接続)、尿素水溶液の流れを反転させ、噴射弁50等に残留する尿素水溶液を尿素水タンク20方向に移動させることができる。この場合、ポンプ40の回収モードとは、流路切換弁を回収方向接続に切り換えるとともに、ポンプ40を順方向に作動させることである。ポンプ40の回収モードは、ここに例示した以外のものであってもよい。
【0023】
NOxセンサ70は、選択還元型触媒5よりも下流での排気中のNOxの濃度を取得し、制御装置80へ送る。例えば、NOx濃度が所定の基準値を上回る場合には、尿素水溶液の噴射量を増量させる補正を行う。
【0024】
<3.制御装置>
次に、本実施形態に係る尿素SCRシステムの制御装置80の構成例について説明する。図2は、制御装置80の構成のうち本実施形態に関連する部分の機能構成を示すブロック図である。
【0025】
制御装置80の一部又は全部は、例えば、マイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよく、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよい。また、制御装置80の一部又は全部は、CPU(Central Processing
Unit)等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置80は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。
【0026】
制御装置80は、図2に示されるように、例えば、取得部82と、制御部84とを備える。
【0027】
取得部82は、内燃機関2が搭載されている車両の各装置から情報を取得し、制御部84へ出力する。例えば、取得部82は、NOxセンサ70、イグニッションスイッチ90及び大気圧センサ75から情報を取得する。
【0028】
制御部84は、判定部86と、尿素水制御部87と、診断部88とを含む。
【0029】
判定部86は、各種判定を行う。判定部86による判定結果は、尿素水制御部87と診断部88により行われる処理に利用される。
【0030】
尿素水制御部87は、尿素水供給装置10が備えるポンプ40および噴射弁50等の作動を制御する。例えば、尿素水制御部87は、ポンプ40によって尿素水タンク20から吸い上げた尿素水溶液を噴射弁50に圧送し、噴射弁50から排気通路3内に当該尿素水溶液を噴射するように制御する。詳細には、尿素水制御部87は、噴射弁50に供給される尿素水溶液の圧力が所定の目標値となるようにポンプ40の出力を制御しつつ、尿素水溶液の目標噴射量に応じて噴射弁50の開弁時間を調節する。
【0031】
内燃機関の停止後においては、尿素水制御部87は噴射弁50等に残留する尿素水溶液を尿素水タンク20方向に回収するように制御する。詳細には、内燃機関2の停止後において、尿素水制御部87は噴射弁50を閉弁し、ポンプ40を回収モードで作動させる。回収モード開始から第1の所定時間T1経過後、噴射弁50を開弁することにより、噴射弁50の開口部から気体が導入され、これに伴って噴射弁50等に残留する尿素水溶液が尿素水タンク20方向に移動する。
【0032】
第1の所定時間T1の間、噴射弁50を閉弁した状態でポンプ40を回収モードで作動させることにより、噴射弁50内の圧力PVは圧力値PVT1まで下がる。この圧力値PVT1は所定の圧力PVth以下の圧力となるように設定されている。一方、内燃機関2の停止後、排気通路3内の圧力は概ね大気圧PAと同じ圧力になる。所定の圧力PVthは標準気圧に比べ低い圧力であるので、標準気圧下において、噴射弁50を閉弁した状態でポンプ40を回収モードで作動させ、第1の所定時間T1経過後に噴射弁50を開弁すると、噴射弁50内の尿素水溶液は大気圧PAと噴射弁50内の圧力値PVT1との圧力差により、尿素水タンク20の方向に移動する。
【0033】
しかしながら、山岳地帯等の高地で、大気圧PAが所定の圧力PVth以下の場所においては、大気圧PAが圧力値PVT1以下となる場合がある。そのような大気圧PA下において、噴射弁50を閉弁した状態でポンプ40を回収モードで作動させ、第1の所定時間T1経過後に噴射弁50を開弁すると、大気圧PAと噴射弁50内の圧力値PVT1の圧力差により、噴射弁50内の尿素水溶液が噴射弁50の開口部から排気通路3内に漏れるおそれがある。噴射弁50の開口時にもポンプ40は連続して回収モードで作動しているので、排気通路3内に漏れる量は微量であるが、漏れた尿素水溶液は分解し、アンモニアとなり、その一部はNOxセンサ70が配置されている場所まで到達する可能性がある。
【0034】
尿素水溶液の回収を終了すると、尿素水制御部87は噴射弁50を閉弁するとともに、ポンプ40の回収モードでの作動を停止する。例えば、噴射弁50を開弁時から第2の所定時間T2を経過した場合に尿素水溶液の回収が終了したと判断してもよい。
【0035】
診断部88は、選択還元型触媒5よりも下流の排気通路3に取り付けられたNOxセンサ70の診断を行う。例えば、内燃機関2が停止して、尿素水供給装置10による尿素水溶液の噴射制御が停止している期間に、NOxセンサ70により計測されるNOx濃度を閾値NOx濃度Nthと比較することによりNOxセンサ70の診断を実行する。閾値NOx濃度Nthは、NOxセンサ70が検出すると推定される上限のNOx濃度であってもよいし、場合によっては、下限のNOx濃度を含んでいてもよい。閾値NOx濃度Nthは、内燃機関2の停止後の経過時間にともなって変化する値として定められても良い。内燃機関2が停止した状態でNOxセンサ70の診断を実行するのは、内燃機関2の停止により、排気の流れが概ね停止するので、排気管内、特にNOxセンサ70周囲におけるNOx濃度を推測し易いからである。例えば、制御装置80が内燃機関2および選択還元型触媒5等を含んだモデルを有しており、当該モデルを使って閾値NOx濃度Nthを算出してもよい。
【0036】
説明を簡単にするために、閾値NOx濃度Nthは、NOxセンサ70が検出すると推定される上限のNOx濃度ということで、以下説明する。内燃機関2の停止後において、診断部88はNOxセンサ70の検出値が閾値NOx濃度Nth以下を表す値か否かを判断する。NOxセンサ70の検出値が閾値NOx濃度Nth以下の場合には、診断部88は、NOxセンサ70が正常であると診断する。一方、NOxセンサ70の検出値が閾値NOx濃度Nthより高い場合には、診断部88はNOxセンサ70が異常であると診断する。診断部88がNOxセンサ70を異常であると診断した場合、診断部88は、例えば、運転者にNOxセンサ70に異常があることを伝えるように構成されていてもよい。
【0037】
NOxセンサ70はアンモニアにも反応する。したがって、NOxセンサの診断時において排気通路3内にアンモニアが残留していた場合には、診断部88はNOxセンサの診断を正確に行うことができないおそれがある。例えば、正常なNOxセンサ70の診断時において排気通路3内にアンモニアが残留していた場合に、NOxセンサ70が当該アンモニアに反応してその検出値が閾値NOx濃度Nthより高くなると、診断部88はNOxセンサ70が異常であるとの誤診断をする。
【0038】
尚、NOxセンサ70の診断機能はNOxセンサ70自身が有していてもよい。その場合、診断部88はNOxセンサ70に対して自己診断を促し、NOxセンサ70が自己診断を行い、診断部88はその診断結果を受け取り、NOxセンサ70に異常がある場合には、診断部88が運転者にNOxセンサ70に異常があることを伝えるように構成されていてもよい。この場合、診断部88がNOxセンサ70の診断を行うということは、診断部88がNOxセンサ70に対して自己診断を促し、NOxセンサ70が自己診断を行い、診断部88がその診断結果を受け取ることも含まれる。
【0039】
内燃機関2の停止の情報を得ると、制御部84は、大気圧PAが所定の圧力PVth以下か否かを判断し、大気圧PAが所定の圧力PVth以下の場合には、診断部88がNOxセンサ70の診断を行い、その後、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うように制御する。大気圧PAが所定の圧力PVth以下の場合に尿素水溶液の回収を行うと、尿素水溶液が噴射弁50の開口部から漏れ、これに起因したアンモニアがNOxセンサ70の設置個所周辺まで到達する可能性がある。尿素水溶液の回収を行った後、NOxセンサ70の診断を行った場合には、NOxセンサ70がこのアンモニアに反応し、診断部88が誤診断をするおそれがある。そこで、大気圧PAが所定の圧力PVth以下の場合には、NOxセンサ70の診断を先に行い、その後、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うことにより、診断部88の誤診断を避けることができる。
【0040】
一方、制御部84は、大気圧PAが所定の圧力PVth以下か否かを判断し、大気圧PAが所定の圧力PVthより大きい場合には、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うとともに、診断部88がNOxセンサ70の診断を行うように制御する。大気圧PAが所定の圧力PVthより大きい場合には、尿素水溶液の回収の際に噴射弁50の開口部から尿素水溶液が流出するおそれが無い。そこで、尿素水溶液の回収と並行してNOxセンサ70の診断を行うことにより、内燃機関2の停止後、診断部88の誤診断が無く、かつ、早期に尿素水溶液の回収を行うことができるので、各装置への通電時間が短く、バッテリーの消費電力を少なく抑えることができる。
【0041】
尚、第2尿素水配管65に配管内の圧力を測定する尿素水圧力センサが取り付けられていてもよい。尿素水圧力センサは、噴射弁50内の圧力PVを直接測定することができる。例えば、内燃機関2の停止後において、制御装置80が圧力値PVT1をまず測定し、大気圧PAが圧力値PVT1以下か否かを判断するように構成されていてもよい。制御部84は、大気圧PAが圧力値PVT1以下か否かを判断し、大気圧PAが圧力値PVT1以下の場合には、診断部88がNOxセンサ70の診断を行い、その後、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うように制御する。また、制御部84は、大気圧PAが圧力値PVT1以下か否かを判断し、大気圧PAが圧力値PVT1より大きい場合には、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うとともに、診断部88がNOxセンサ70の診断を行うように制御する。このように所定の圧力PVthの代わりに実測値である圧力値PVT1を使用することにより、より正確な制御ができる。
【0042】
尚、内燃機関2の停止は、例えば、イグニッションスイッチ90がオフになったことにより検知されてもよい。
【0043】
<4.フローチャート>
次に、制御装置80により実行される処理の一例について、図3を用いて説明する。
【0044】
取得部82がイグニッションスイッチ90の情報を取得する(ステップS10)。
【0045】
判定部86はイグニッションスイッチ90がオフか否かを判断する(ステップS20)。イグニッションスイッチがオフでない(NO)、すなわちオンの場合にはステップS10に戻り、イグニッションスイッチがオフの場合(YES)には、内燃機関2が停止したと判断し、ステップS30に進む。
【0046】
尿素水制御部87は、噴射弁50を閉弁し(ステップS30)、その後、ステップS40に進む。
【0047】
取得部82が大気圧センサ75から大気圧PAを取得する(ステップS40)。
【0048】
判定部86は大気圧PAが所定の圧力PVth以下か否かを判断する(ステップS50)。大気圧PAが所定の圧力PVth以下の場合(YES)にはステップS60に進み、大気圧PAが所定の圧力PVthより大きい場合(NO)にはステップS110に進む。所定の圧力PVthについては前述した通りである。
【0049】
ステップS60では、診断部88は、選択還元型触媒5よりも下流の排気通路3に取り付けられたNOxセンサ70の診断を行う。具体的には、診断部88はNOxセンサ70の検出値が閾値NOx濃度Nth以下か否かを判断する。NOxセンサ70の検出値が閾値NOx濃度Nth以下の場合には、診断部88は、NOxセンサ70が正常であると診断する。一方、NOxセンサ70の検出値が閾値NOx濃度Nthより高い場合には、診断部88はNOxセンサ70が異常であると診断する。診断部88がNOxセンサ70を異常であると診断した場合、診断部88は、例えば、運転者にNOxセンサ70が異常であることを伝えてもよい。診断部88はNOxセンサ70の診断後、ステップS70に進む。
【0050】
尚、NOxセンサ70の診断機能をNOxセンサ70自身が有している場合には、ステップS60では、診断部88はNOxセンサ70に対して自己診断を促し、診断部88はNOxセンサ70の自己診断結果を受け取ることとしてもよい。
【0051】
ステップS70では、尿素水制御部87は、噴射弁50等に残留する尿素水溶液を尿素水タンク20方向に回収するように制御する。具体的には、まず、尿素水制御部87はポンプ40を回収モードで作動させる。回収モード開始から第1の所定時間T1経過後、噴射弁50を開弁することにより、噴射弁50の開口部から気体が導入され、これに伴って噴射弁50等に残留する尿素水溶液が尿素水タンク20方向に移動する。その後、尿素水溶液の回収が終了すると、尿素水制御部87は噴射弁50を閉弁するとともに、ポンプ40の回収モードでの作動を停止する。
【0052】
このように、大気圧PAが所定の圧力PVth以下の場合には、NOxセンサ70の診断を先に行い、その後、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うことにより、診断部88の誤診断を避けることができる。
【0053】
一方、大気圧が所定の圧力PVthより大きい場合にはステップS110において、尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を開始し、ステップS120において診断部88がNOxセンサの診断を行う。その後、尿素水溶液の回収が終了すると、ステップS130において尿素水制御部87は噴射弁50を閉弁するとともに、ポンプ40の回収モードでの作動を停止する。NOxセンサの診断の詳細についてはステップS60で説明した通りである。また、尿素水溶液の回収についてはステップS70で説明した通りである。尚、NOxセンサ70の診断機能をNOxセンサ70自身が有している場合には、ステップS120では、診断部88はNOxセンサ70に対して自己診断を促し、診断部88はNOxセンサ70の自己診断結果を受け取ることとしてもよい。
【0054】
大気圧が所定の圧力PVthより大きい場合には、尿素水溶液の回収時に噴射弁50を開弁しても尿素水溶液が噴射弁50の開口部からリークするおそれがないので、噴射弁50から尿素水溶液を回収するとともに、NOxセンサ70の診断を行う。このように、尿素水溶液の回収と並行してNOxセンサ70の診断を行うことにより、内燃機関2の停止後、早期に尿素水溶液の回収を行うことができるので、制御装置80への通電時間が短く、バッテリーの消費電力を少なく抑えることができる。
【0055】
尚、第2尿素水配管65に配管内の圧力を測定する尿素水圧力センサが取り付けられている場合には、ステップS30において、尿素水制御部87が噴射弁50を閉弁し、かつ、取得部82が圧力値PVT1を取得するようにしてもよい。この場合、ステップS50において、判定部86は大気圧PAが圧力値PVT1以下か否かを判断する。大気圧PAが圧力値PVT1以下の場合(YES)にはステップS60に進み、大気圧PAが圧力値PVT1より大きい場合(NO)にはステップS110に進む。その他のステップにおいては、前述のフローチャートと同じである。尚、ステップS30における圧力値PVT1の取得は、例えば、尿素水制御部87が噴射弁50を閉弁するとともにポンプ40を回収モードで作動させ、回収モードでの作動開始から第1の所定時間T1経過時に、取得部82が尿素水圧力センサから圧力値PVT1を取得するようにしてもよい。
【0056】
大気圧センサ75の代わりに、排気通路3内の圧力を測定可能な排気圧センサを用いても良い。
【0057】
このように、本願発明によれば、内燃機関の停止後、大気圧PAに基づいて、NOxセンサ70の診断を先に行いその後尿素水制御部87が尿素水溶液の回収を行うか、または、尿素水溶液の回収と並行してNOxセンサ70の診断を行うかを決めることによって、NOxセンサ70の正しい診断を可能にするとともに、バッテリーの消費電力を少なく抑えることができる制御装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 尿素SCRシステム、2 内燃機関、3 排気通路、5 選択還元型触媒、7 酸化触媒、10 尿素水供給装置、20 尿素水タンク、40 ポンプ、50 噴射弁、60 第1尿素水配管、65 第2尿素水配管、70 NOxセンサ、75 大気圧センサ、80 制御装置、82 取得部、84 制御部、86 判定部、87 尿素水制御部、88 診断部、90 イグニッションスイッチ。
図1
図2
図3