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特許7553353正極材料ならびにそれを含む電気化学デバイス及び電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】正極材料ならびにそれを含む電気化学デバイス及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240910BHJP
   H01G 11/04 20130101ALI20240910BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20240910BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240910BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240910BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M4/525
H01G11/04
H01G11/24
H01G11/46
H01M4/36 C
H01M4/505
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020518445
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 CN2020073589
(87)【国際公開番号】W WO2021146943
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2020-06-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(73)【特許権者】
【識別番号】514257398
【氏名又は名称】東莞新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】DONGGUAN AMPEREX TECHNOLOGY LIMITED
【住所又は居所原語表記】No.1 Industrial West Road,Songshan Lake High-tech Industrial Development Zone, Dongguan City, Guangdong Province, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 文元
(72)【発明者】
【氏名】郎 野
(72)【発明者】
【氏名】彭 ▲剛▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 洋洋
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子によって形成される二次粒子を含み、前記二次粒子は、
粒径が前記二次粒子の平均粒径の1.25倍よりも大きい第1組の二次粒子と、
粒径が前記二次粒子の平均粒径の0.75倍よりも小さい第2組の二次粒子と、
粒径が前記二次粒子の平均粒径の0.75倍~1.25倍である第3組の二次粒子と、
を含み、
前記二次粒子の総数量で計算して、前記第3組の二次粒子の総数量は80%~93%であり、かつ前記第1組の二次粒子の総数量が1%~10%であり、
前記二次粒子の総数量で計算して、80%以上の前記二次粒子の長軸と短軸との長さの比が1~1.5であり、
前記二次粒子のDv10とDn10の比が1.0~1.9であり、
正極材料が、ニッケル含有量がすべての遷移金属元素の含有量の50%以上を占めるリチウム含有金属酸化物を含み、
前記二次粒子の平均粒径が5μm~30μmである、正極材料。
【請求項2】
前記二次粒子の総体積で計算して、前記第3組の二次粒子の総体積は50%以上である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記一次粒子の結晶構造は、六方晶構造及び岩塩構造のうちの1つ以上を含み、前記結晶構造がR-3空間群に属する、請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
(a)前記二次粒子の総体積で計算して、前記第3組の二次粒子の総体積が80%~95%であり、かつ前記第1組の二次粒子の総体積が1%~10%である、
)前記第1組の二次粒子の総数量と前記第2組の二次粒子の総数量の比が0.1~10であり、かつ前記第1組の二次粒子の総体積と前記第2組の二次粒子の総体積の比が0.1~10である
という特徴のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
前記リチウム含有金属酸化物が一般式LiM1M2で表されるものであり、式中:0.95≦x≦1.05、0<y≦1、0≦z≦0.1、y+z=1であり、M1はNi、Co、Mn、Al及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、M2は、Mg、Ti、Zr、Sc、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、ニッケル含有量がすべての遷移金属元素の含有量の50%以上を占める、請求項1に記載の正極材料。
【請求項6】
前記二次粒子は、B、Al、Zr、C及びSのうちの少なくとも1つの元素を含む表面層をさらに含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項7】
比表面積が0.300m/g~1.000m/gである、請求項1に記載の正極材料。
【請求項8】
負極と、
セパレータと、
請求項1~のいずれか1項に記載の正極材料を含む正極とを含む、電気化学デバイス。
【請求項9】
請求項に記載の電気化学デバイスを含む、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、エネルギー貯蔵の技術分野に関し、特に正極材料ならびに該正極材料を含む電気化学デバイス及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル電子技術の急速な発展に伴い、携帯電話、タブレット、ノートパソコン、ドローンなどのモバイル電子デバイスを使用する頻度や体験への要求がますます高まっている。したがって、電子デバイスにエネルギーを供給する電気化学デバイス(例えば、リチウムイオン電池)は、より高いエネルギー密度、より大きなレート、より高い安全性を有するとともに、充放電プロセスを繰り返した後の容量減衰をより低くする必要がある。
【0003】
電気化学デバイスのエネルギー密度とサイクル性能は、その正極材料と密接に関連している。これに鑑みて、正極材料に関してさらなる研究と改善が続けられている。新しい正極材料が求められることに加えて、正極材料の材料組成の改善及び最適化も重要な解決手段である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は、関連分野に存在する少なくとも1つの問題について少なくともある程度解決を図るために、正極材料ならびに該正極材料を含む電気化学デバイス及び電子デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の一態様によれば、本願は、一次粒子によって形成される二次粒子を含む正極材料を提供する。そのなか、二次粒子は、第1組の二次粒子、第2組の二次粒子及び第3組の二次粒子を含む。第1組の二次粒子の粒径は二次粒子の平均粒径の1.25倍よりも大きく、第2組の二次粒子の粒径は二次粒子の平均粒径の0.75倍よりも小さく、第3組の二次粒子の粒径は二次粒子の平均粒径の0.75倍~1.25倍である。
【0006】
本願の他の態様によれば、本願は、負極と、セパレータ(隔膜)と、上記正極材料を含む正極とを含む電気化学デバイスを提供する。
【0007】
本願の他の態様によれば、本願は、上記電気化学デバイスを含む電子デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本願の電気化学デバイスは、上記粒径条件を満たす正極材料を正極として採用し、正極製造過程における正極材料の分布状況を改善しており、それによって本願の電気化学デバイスは優れたサイクル性能及び保存性能を有する。
【0009】
本願の実施例の追加的な態様及び利点は、後続の説明において部分的に説明し、示し、又は本願の実施例の実施により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下、本願の実施例について詳しく述べるため、本願の実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に説明する。以下に説明する図面は、本願における実施例の一部のみであることは明らかである。当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの図面に例示された構造に基づいて、他の実施例の図面をも得ることができる。
【0011】
図1】従来技術に係る正極材料の500倍の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図2】本願の実施例に係る正極材料の500倍の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3】二次粒子の長軸と短軸の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願の実施例を詳細に説明する。本願の明細書全体において、同一又は同様の構成要素と同一又は同様の機能を有する構成要素は、同様の参照番号によって示される。図面に関して本明細書で説明される実施例は、例示的、図解的なものであり、本願に対する基本的な理解を提供するために使用される。本願の実施例は、本願を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0013】
本明細書において、「略」、「概ね」、「実質的に」及び「約」という用語は、小さな変化を記述し説明するために用いられる。事象又は状態と組み合わせて用いられる場合、該用語は、事象又は状態が正確に発生した例とその事象又は状態が極めて近似して発生する例を指すことができる。例えば、数値と組み合わせて用いられる場合、用語は、該数値の±10%以下の変化範囲、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下の変化範囲を表すことができる。例えば、2つの数値の間の差分値が該値の平均値の±10%以下(例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下)であれば、この2つの数値は「実質的に」同じであると考えられる。
【0014】
また、本明細書において、量、比率及び他の数値を範囲の形式で表す場合がある。このような範囲の形式は、便宜上及び簡略化のためであると理解されるべきで、範囲のより限定されていることを明示的に指定した数値を含むだけでなく、各数値及びサブ範囲が明示的に指定されたのと同様に、前記範囲内に含まれる全ての個々の数値又はサブ範囲をも含むものであると柔軟に理解されるべきである。
【0015】
発明を実施するための形態及び特許請求の範囲において、「うちの少なくとも一方」、「うちの少なくとも1つ」、「うちの少なくとも1種」という用語又はその他の類似用語で接続された項目の列挙は、列挙された項目の任意の組み合わせを意味し得る。例えば、項目A及びBが列挙された場合、「A及びBのうちの少なくとも一方」というフレーズは、Aのみ、Bのみ、又はA及びBを意味する。他の例では、項目A、B及びCが列挙された場合、「A、B及びCのうちの少なくとも一方」というフレーズは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB(Cを除く)、A及びC(Bを除く)、B及びC(Aを除く)、又はA、B及びCの全てを意味する。項目Aは、1つ以上の構成要素を含んでよい。項目Bは、1つ以上の構成要素を含んでよい。項目Cは、1つ以上の構成要素を含んでよい。
【0016】
発明を実施するための形態及び特許請求の範囲において、用語「長軸」及び「短軸」は、粒度の篩分析の意義を簡単に説明するための方法であり、「長軸」は、粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)試験で得られる画像における最大長さであり、「短軸」は、画像において「長軸」に垂直な粒子の最大長さである。また、用語「平均粒径」は、走査型電子顕微鏡試験で得られる画像における粒子の長軸平均値である。なお、「長軸」、「短軸」又は「平均粒径」で規定される粒子は、一次粒子又は二次粒子のうちの一方を含む。
【0017】
本願は、正極材料製造プロセスを調整して正極材料の二次粒子の粒径分布を小さな範囲に限定することにより、電気化学デバイスの製造プロセス(例えば、高速コーティング)における正極材料の加工性能を向上させ、さらに電気化学デバイスのサイクル性能を効果的に向上させる。現在、電気化学デバイス(例えば、リチウムイオン電池)の正極材料として、コバルト酸リチウムが多く用いられているが、コバルトは環境汚染が大きく、コストが高い元素である。したがって、高ニッケル材料(ニッケル含有量がすべての遷移金属元素の含有量の50%以上を占める)は、コバルト含有量が低く、実際のグラム容量がコバルト酸リチウムよりも高いため、広く注目されている。しかしながら、高ニッケル材料は、加工性が低く、正極にコーティングする際に、粒子及び気泡が発生しやすく、ひいては正極の重量分布が不均一となり、電気化学デバイスのサイクル性能及びレート性能に影響を及ぼす。
【0018】
図1は、従来技術に係る、粒径分布が広い正極材料(高ニッケル材料)の500倍の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0019】
本願の一態様によれば、本願の実施例は、一次粒子によって形成される二次粒子を含む正極材料を提供する、そのなか、二次粒子は、第1組の二次粒子、第2組の二次粒子及び第3組の二次粒子を含む。第1組の二次粒子の粒径は、二次粒子の平均粒径の約1.25倍よりも大きく、第2組の二次粒子の粒径は、二次粒子の平均粒径の約0.75倍よりも小さく、第3組の二次粒子の粒径は、二次粒子の平均粒径の約0.75倍~約1.25倍である。
【0020】
いくつかの実施例において、二次粒子の総数量を基準として、第3組の二次粒子の総数量は約60%以上であり、二次粒子の総体積を基準として、第3組の二次粒子の総体積は約50%以上である。
【0021】
いくつかの実施例において、二次粒子の総数量を基準として、第3組の二次粒子の総数量は約80%~約93%であり、第1組の二次粒子の総数量は約1%~約10%である。
【0022】
いくつかの実施例において、二次粒子の総体積を基準として、第3組の二次粒子の総体積は約80%~約95%であり、第1組の二次粒子の総体積は約1%~約10%である。
【0023】
いくつかの実施例において、第1組の二次粒子の総数量と第2組の二次粒子の総数量の比は約0.1~約10であり、かつ第1組の二次粒子の総体積と第2組の二次粒子の総体積の比は約0.1~約10である。
【0024】
図2は、本願の実施例に係る粒径分布を有する正極材料の500倍の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。図2に示すように、本願は、正極材料の製造方法を調整することにより、正極材料の二次粒子の粒径分布をより集中させる。本明細書においては、走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いて、粒子数量、平均粒径及び形状(長軸と短軸)を測定する。
【0025】
図3は二次粒子の長軸と短軸の模式図である。図3に示すように、正極材料の二次粒子の平均粒径は、顕微鏡画像において測定された各粒子の長軸aの平均値を粒子の粒径とし、同時に、顕微鏡画像において各粒子の長軸aに垂直な短軸bを記録する。
【0026】
いくつかの実施例において、正極粒子の二次粒子の総数量を基準として、80%以上の二次粒子は、長軸aの長さと短軸bの長さの比が約1~約2である。他の実施例において、総数量の80%以上の二次粒子は、長軸aの長さと短軸bの長さの比が、例えば、約1.0、約1.2、約1.4、約1.5、約1.6、約1.8、約2.0、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲内である。本願の実施例における正極材料の二次粒子の長軸aと短軸bの比の範囲によれば、粒子形状が良好になり、正極材料をコーティングする際のスラリーの流動性を向上させ、冷間圧延時の二次粒子間の摩擦力を低減することにより、正極材料の加工性を向上させることができる。
【0027】
いくつかの実施例において、二次粒子のDv10とDn10との比は、約1~約3である。二次粒子のDv10とDn10の比が1に近いほど、粒子の分布が集中することを意味する。他の実施例において、二次粒子のDv10とDn10の比は、例えば、約1.0、約1.2、約1.4、約1.5、約2.0、約2.5、約3.0、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲内である。
【0028】
本願の実施例の二次粒子の粒径分布を満たす正極材料を採用することにより、本願の正極製造過程において、高速コーティング時の粒子の傷及び気泡の発生率を低減することができる。また、本願の正極材料の製造方法は、焼結による微粉の発生を効果的に抑え、粒子の粒径が大きく異なるために発生するリチウム含有量及びニッケル含有量の不均一な分布を低減することができる。本願の正極材料及びその電気化学デバイスは、優れたサイクル安定性を有する。
【0029】
いくつかの実施例において、正極材料の二次粒子の平均粒径は、約1μm~約30μmである。他の実施例において、二次粒子の平均粒径は、例えば、約1μm、約5μm、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲内である。本願の実施例の正極材料の平均粒径範囲は、正極材料の動力学的性能を向上させ、電解液との陰性反応の発生リスクを低減することができる。
【0030】
いくつかの実施例において、二次粒子を構成する一次粒子の長軸の長さは、約100nm~約5μmであり、かつ一次粒子の短軸の長さは、約10nm~約1μmである。他の実施例において、一次粒子の長軸の長さは、例えば、約100nm、約200nm、約500nm、約1μm、約3μm、約5μm、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲内である。他の実施例において、一次粒子の短軸の長さは、例えば、約10nm、約50nm、約100nm、約200nm、約500nm、約800nm、約1μm、又はこれらの値のいずれか2つからなる範囲内である。本願の実施例の一次粒子の長軸と短軸の長さの範囲は、正極材料の動力学的性能を向上させ、電気化学デバイスの高温保存性能及びサイクル性能を向上させることができる。
【0031】
いくつかの実施例において、一次粒子の形状は、板状、針状、棒状、球状、楕円球状などの1つ以上の形状を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、一次粒子の結晶構造は、六方晶構造、スピネル構造、岩塩構造のうちの1つ以上を含み、その結晶構造はR-3m空間群に属する。
【0032】
本願のいくつかの実施例において、正極材料は、一般式LiM1M2で表されるリチウム含有金属酸化物を含み、式中:0.95≦x≦1.05、0<y≦1、0≦z≦0.1、y+z=1であり、M1はNi、Co、Mn、Al及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、M2は、Mg、Ti、Zr、Sc、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
リチウム含有金属酸化物(例えば、高ニッケル材料)は、それ自体の粒径分布が集中しており、粒度が大きく、高い電池容量を保証するとともに、材料のサイクル安定性をさらに保証する。なお、当業者であれば、本願の発明の精神を逸脱することなく、具体的な必要に応じて、本分野における任意の一般的な正極活物質を選択することができるが、それに限定されない。
【0034】
いくつかの実施例においては、正極材料の二次粒子は、B、Al、Zr、C、Sのうちの少なくとも1つの元素を含む表面層をさらに含む。
【0035】
いくつかの実施例において、正極材料の比表面積は、約0.300m/g~約1.000m/gである。
【0036】
いくつかの実施例において、本願の正極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0037】
1.前駆体の製造
前駆体の製造はバッチ法を採用する。一定量の遷移金属塩溶液をアルカリ液及びアンモニア水と共に基体の化学量論比で混合した後に、窒素ガスで満たされた反応器に注入し、アンモニア水含有量を調整することで反応器内の溶液のpH値を一定の範囲内に保持する。続いて、反応器内の反応液を約600回転/分~約1000回転/分の撹拌速度で高速撹拌し、高速撹拌時間は約6時間~約15時間である。高速撹拌した後、反応液を約600回転/分~約1000回転/分の撹拌速度で低速撹拌し、低速撹拌時間は約12時間~約30時間であり、反応液を熟成させて二次粒子を生成する。得られた固液混合物を濾過し、水洗し、乾燥させて前駆体を得る。
【0038】
2.正極材料の製造
一定の割合の前駆体を用意し、リチウム塩、ドーピング原料と共に基体の化学量論比で混合した後、一次焼結を行い、焼結温度は約750℃~約830℃であり、熱処理時間は約8時間~約20時間である。一次焼結を行った後、一次焼結物に対して水洗及び乾燥処理を行い、それと表面層の原料を混合して二次焼結を行い、焼結温度は約350℃~約450℃であり、熱処理時間は約2時間~約10時間であり、その後、冷却、乾燥、解砕及び分級処理を行って、正極材料を得る。
【0039】
本発明では、前駆体の製造において高速及び低速の二段階撹拌方式を採用して、撹拌速度及び時間を制御することにより、正極材料の二次粒子の粒径分布及び形状を制御する効果を達成する。分布の幅は、高速撹拌の速度と低速撹拌の時間の影響を同時に受け、球形度は、主に高速撹拌の速度の影響を受ける。撹拌時間も撹拌速度も合理的な範囲に制御される必要があり、撹拌時間が短すぎると、小粒子が十分に成長することができず、粒径分布が集中するという効果が得られず、撹拌時間が長すぎると、一次粒子全体の粒径が大きすぎ、レート性能に不利であり、資源を浪費する。撹拌速度が小さすぎると、反応が不十分になり、粒径分布が集中し球形を有する二次粒子の形成に不利である。撹拌強度が大きすぎると、成長した一次粒子が壊れやすくなり、微粉が発生し、同様に粒径分布が集中する二次粒子の形成に不利である。
【0040】
なお、本願の実施例の正極材料の製造方法における各ステップは、本願の精神から逸脱することなく、具体的な必要に応じて、本分野における他の従来の処理方法を選択するか又は置き換えることができるが、それに限定されないことを理解すべきである。
【0041】
本願の他の態様によれば、本願のいくつかの実施例は、本願の正極材料を含む電気化学デバイスをさらに提供する。いくつかの実施例において、電気化学デバイスは、リチウムイオン電池である。リチウムイオン電池は、負極と、正極と負極との間に設けられるセパレータと、上記実施例における正極材料を含む正極と、を含む。
【0042】
いくつかの実施例において、正極は、正極集電体をさらに含み、負極は、負極集電体をさらに含み、正極集電体は、アルミニウム箔又はニッケル箔であってもよく、負極集電体は、銅箔又はニッケル箔であってもよいが、本分野で一般に使用される他の正極集電体及び負極集電体を使用することができ、それに限定されない。
【0043】
いくつかの実施例において、負極は、リチウム(Li)を吸収及び放出可能な負極材料(以下、「リチウムLiを吸収/放出可能な負極材料」ということがある)を含む。リチウム(Li)を吸収/放出可能な負極材料の例としては、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiNなどのリチウム窒化物、リチウム金属、リチウムとともに合金を形成する金属及び高分子(ポリマー)材料を含んでよい。
【0044】
いくつかの実施例において、正極及び負極は、それぞれ独立して、接着剤及び導電剤のうちの少なくとも1つをさらに含んでよい。
【0045】
いくつかの実施例において、接着剤は、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、及びスチレンブタジエンゴムのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施例において、導電剤は、カーボンナノチューブ、カーボン繊維、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、グラフェン、及びケッチェンブラックのうちの少なくとも1つを含む。なお、当業者であれば、実際の必要に応じて、本分野における一般的な接着剤及び導電剤を選択することができるが、それに限定されない。
【0046】
いくつかの実施例において、セパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、及びアラミドから選択される少なくとも1つを含むが、これらに限定されない。例えば、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の成分を含む。特に、ポリエチレン及びポリプロピレンは、短絡防止に優れた作用を有し、かつシャットダウン効果により電池の安定性を向上させることができる。
【0047】
本願のリチウムイオン電池は、電解質をさらに含み、電解質はゲル電解質、固体電解質、及び電解液のうちの1つ以上であってよく、電解液はリチウム塩及び非水溶媒を含む。
【0048】
いくつかの実施例において、リチウム塩は、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiB(C、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiSiF、LiBOB及びジフルオロホウ酸リチウムから選択される1つ以上である。例えば、リチウム塩としてLiPFを採用するのは、LiPFが高いイオン伝導率を与え、サイクル性能を向上させることができるからである。
【0049】
非水溶媒は、カーボネート化合物、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、他の有機溶媒又はそれらの組み合わせであってよい。
【0050】
上記カーボネート化合物は、鎖状カーボネート化合物、環状カーボネート化合物、フッ素化カーボネート化合物又はそれらの組み合わせであってよい。
【0051】
上記他の有機溶媒の例は、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル、リン酸エステル、及びそれらの組み合わせである。
【0052】
いくつかの実施例において、非水溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸メチルエステル、プロピオン酸エチル、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0053】
なお、本願の実施例における正極、負極、セパレータ、及びリチウムイオン電池の製造方法は、本願の精神から逸脱することなく、具体的な必要に応じて、本分野における任意の適切な従来の方法を選択することができるが、それに限定されない。電気化学デバイスを製造する方法の1つの実施形態において、リチウムイオン電池の製造方法は、上記実施例における正極、セパレータ及び負極を順に巻回し、折り重ね又は積層して電極アセンブリを形成し、電極アセンブリを例えばアルミプラスチックフィルムに入れ、電解液を注入した後、真空封入、静置、化成、整形などの工程を経て、リチウムイオン電池を得ることを含む。
【0054】
以上、リチウムイオン電池を例として説明したが、当業者であれば、本願を読んだ後、本願の正極材料を他の適切な電気化学デバイスに応用できることを想到することができる。このような電気化学デバイスは、電気化学反応を起こす任意のデバイスを含み、具体的な例は、全ての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池又はキャパシタを含む。特に、該電気化学デバイスは、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池又はリチウムイオンポリマー二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0055】
本願のいくつかの実施例は、本願の実施例における電気化学デバイスを含む電子デバイスをさらに提供する。
【0056】
本願の実施例の電子デバイスは、特に限定されるものではなく、従来技術で知られている任意の電子デバイスであってよい。いくつかの実施例において、電子デバイスは、ノートパソコン、ペン入力型コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子ブックプレーヤ、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、フラッシュ、カメラ、家庭用大型蓄電池及びリチウムイオンキャパシタなどを含むが、それらに限定されない。
【実施例
【0057】
以下、いくつかの具体的な実施例及び比較例を挙げて、それぞれ正極材料に対してレーザーによる粒度分析及び走査型電子顕微鏡試験を行い、かつ電気化学デバイス(リチウムイオン電池)に対してサイクル性能試験、サイクル膨張率試験及び保存膨張率試験を行うことにより、本願の技術的解決手段をより好適に説明する。
【0058】
一、試験方法
1.1レーザーによる粒度分析:
レーザーによる粒度測定は、異なる大きさの粒子がレーザーに異なる強度の散乱を発生させるという原理を利用して、粒子分布を測定するものである。粒子の粒径特性を特徴付ける主な指標は、Dn10、Dv10、Dv50、Dv90、Dv99などであり、Dv50は、粒度と呼ばれ、体積基準の粒度分布において、小粒径側からの粒径分布の体積累積が総体積の50%に達した時の材料の粒径を示し、Dv10は、10%累積粒径と呼ばれ、粒径分布の体積累積が総体積の10%に達した時の粒径を示し、Dn10は、10%累積数量粒径と呼ばれ、数量基準の粒径分布において、小粒径側からの粒径分布の数量累積が総数量の10%に達した時の材料の粒径を示す。本願の実施例及び比較例は、Mastersizer 2000レーザー粒度分布測定装置を用いてサンプルの粒子の粒径を分析する。正極材料のサンプルを100mLの分散剤(脱イオン水)に分散し、遮光度を8~12%にする。次に、超音波強度40KHz、180wでサンプルを5分間超音波処理する。超音波処理した後、サンプルに対してレーザーによる粒度分布の分析を行って、粒径分布データを得る。
【0059】
1.2走査型電子顕微鏡試験:
本願の実施例及び比較例の正極材料を500倍の走査型電子顕微鏡(ドイツZEISS Sigma-02-33)で結像した後、形状が完全で遮蔽のない正極材料の二次粒子を約200~約600個、その電子顕微鏡画像からランダムに選択し、二次粒子の電子顕微鏡画像内の最大長さa(長軸)を粒径とし、顕微鏡画像内の各粒子の長軸に垂直な最大長さb(短軸)を記録するとともに、二次粒子の体積とそれに対応する数量を記録する。その後、正極材料の異なる領域をランダムに10個選択して結像し、異なる電子顕微鏡画像を10枚取得した後、上記ステップを繰り返し、全ての二次粒子の粒径の平均値を算出して、正極材料の二次粒子の平均粒径と、二次粒子の体積及び数量の分布と、第1組の二次粒子、第2組の二次粒子及び第3組の二次粒子のそれぞれの数量又は体積が二次粒子の総数量又は総体積に占める比とを取得する。
【0060】
1.3サイクル性能試験:
以下の実施例及び比較例のリチウムイオン電池を45℃±2℃のインキュベータに入れて2時間静置し、1.5Cの定電流で4.25Vまで充電し、その後4.25Vの定電圧で0.02Cまで充電して15分間静置し、さらに4.0Cの定電流で2.8Vまで放電し、これを1回の充放電サイクル過程として、リチウムイオン電池の1回目のサイクルの放電容量を記録し、そして、上記方法で充放電サイクル過程を500回繰り返し、500回のサイクル後の放電容量を記録する。
【0061】
各組から4個のリチウムイオン電池を取り出して、リチウムイオン電池の容量保持率の平均値を算出する。リチウムイオン電池のサイクル保持率=500回目のサイクルの放電容量(mAh)/1回目のサイクル後の放電容量(mAh)×100%。
【0062】
1.4サイクル膨張率試験:
厚さ測定装置を用いて500回のサイクル後のリチウムイオン電池の厚さを測定し、上記サイクル測定による500回のサイクル後の厚さの変化を記録する。各組から4個のリチウムイオン電池を取り出して、リチウムイオン電池の500回のサイクル後のサイクル膨張率を算出する。
【0063】
サイクル膨張率=(500回のサイクル後のリチウムイオン電池の厚さ/新しいリチウムイオン電池の厚さ-1)×100%。
【0064】
1.5保存膨張率試験:
以下の実施例及び比較例のリチウムイオン電池を25℃±2℃のインキュベータに入れて2時間静置し、1.5Cの定電流で4.25Vまで充電し、その後4.25Vの定電圧で0.05Cまで充電し、後にリチウムイオン電池を85℃±2℃のインキュベータに入れて12時間静置する。高温で保存した後、厚さ測定装置を用いて高温で保存されたリチウムイオン電池の厚さを測定し、高温で保存した後の厚さの変化を記録する。各組から4個のリチウムイオン電池を取り出して、リチウムイオン電池の高温保存膨張率を算出する。
【0065】
高温保存膨張率=(高温保存後のリチウムイオン電池の厚さ/新しいリチウムイオン電池の厚さ-1)×100%
【0066】
二、製造方法
2.1正極シートの製造
以下の実施例及び比較例の正極材料をアセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンと共に、重量比94:3:3の割合でN-メチルピロリドン(NMP)溶液に溶解して、正極スラリーを形成する。アルミニウム箔を正極集電体として採用し、正極スラリーを正極集電体にコーティングし、乾燥、冷間圧延、切断工程を経て正極シートを得る。
【0067】
2.2負極シートの製造
人造黒鉛、アセチレンブラック、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを重量比96:1:1.5:1.5の割合で脱イオン水に溶解して、負極スラリーを形成する。銅箔を負極集電体として採用し、負極スラリーを負極集電体にコーティングし、乾燥、冷間圧延、切断工程を経て負極シートを得る。
【0068】
2.3セパレータの製造
ポリフッ化ビニリデンを水に溶解し、機械撹拌により均一なスラリーを形成し、両面にもセラミックコーティング層がコーティングされた多孔質基材(ポリエチレン)の両側表面にスラリーをコーティングし、乾燥させて、セパレータを形成する。
【0069】
2.4電解液の調製
含水量が10ppmよりも小さい環境下で、六フッ化リン酸リチウムと非水有機溶媒(エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC):プロピレンカーボネート(PC):プロピオン酸プロピル(PP):ビニレンカーボネート(VC)=20:30:20:28:2(重量比))を重量比8:92で調製して、電解液を形成する。
【0070】
2.5リチウムイオン電池の製造
上記正極シート、上記セパレータ及び上記負極シートを順に積層し、セパレータを正極シートと負極シートとの間に配することで分離の機能を持たせ、次に巻回して電極アセンブリとする。そして、該電極アセンブリをアルミプラスチックフィルム包装袋に入れ、80℃で水分を除去して、ドライ電極アセンブリを得る。その後、上記電解液をドライ電極アセンブリ内に注入し、真空封止、静置、化成、整形などの工程を経て、以下の各実施例及び比較例のリチウムイオン電池の製造を完了する。
【0071】
[実施例1]
バッチ法を採用:硫酸ニッケル塩(NiSO・6HO)、硫酸コバルト塩(CoSO・7HO)及び硫酸マンガン塩(MnSO・HO)をNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)の化学量論比で配合して混合塩溶液とし、アルカリ液としての1Mの水酸化ナトリウム溶液(NaOH)と1Mのアンモニア水溶液(NH・HO)を用意する。水を入れた反応器内を窒素ガスで満たした後、上記3種類の溶液を添加し、反応器内のpH値を約11.0±0.1に保持する。その後、800回転/分の回転速度で12時間高速撹拌する。高速撹拌した後、300回転/分の回転速度で24時間低速撹拌する。得られた固液混合物を濾過し、水洗し、乾燥させて前駆体を得る。
【0072】
得られた前駆体とLiOH、AlをLiNi0.8Co0.08Mn0.1Al0.02の化学量論比で混合し、酸素雰囲気下で、780℃で一次焼結を行い、一次焼結時間は12時間であり、かつ水洗乾燥を行って一次焼結物を得る。一次焼結物とホウ酸(HBO)を均一に混合し、酸素雰囲気下で、400℃で二次焼結を行い、二次焼結時間は5時間であり、スクリーニング処理を経て正極材料を得る。
【0073】
[実施例2]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例2では600回転/分の回転速度で高速撹拌を行う点が異なる。
【0074】
[実施例3]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例3では700回転/分の回転速度で高速撹拌を行う点が異なる。
【0075】
[実施例4]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例4では900回転/分の回転速度で高速撹拌を行う点が異なる。
【0076】
[実施例5]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例5では1000回転/分の回転速度で高速撹拌を行う点が異なる。
【0077】
[実施例6]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例6では高速撹拌時間が6時間である点が異なる。
【0078】
[実施例7]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例7では高速撹拌時間が9時間である点が異なる。
【0079】
[実施例8]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例8では高速撹拌時間が15時間である点が異なる。
【0080】
[実施例9]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例9では200回転/分の回転速度で低速撹拌を行う点が異なる。
【0081】
[実施例10]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例10では400回転/分の回転速度で低速撹拌を行う点が異なる。
【0082】
[実施例11]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例11では低速撹拌時間が12時間である点が異なる。
【0083】
[実施例12]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例12では低速撹拌時間が18時間である点が異なる。
【0084】
[実施例13]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例13では低速撹拌時間が30時間である点が異なる。
【0085】
[実施例14]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例14では、硫酸ニッケル塩(NiSO・6HO)、硫酸コバルト塩(CoSO・7HO)及び硫酸マンガン塩(MnSO・HO)をNi0.6Co0.2Mn0.2(OH)の化学量論比で配合して混合塩溶液とし、かつ得られた前駆体とLiOH、AlをLiNi0.6Co0.18Mn0.2Al0.02の化学量論比で混合する点が異なる。
【0086】
[実施例15]
実施例1の製造方式と同じであるが、実施例15では、硫酸ニッケル塩(NiSO・6HO)、硫酸コバルト塩(CoSO・7HO)及び硫酸マンガン塩(MnSO・HO)をNi0.5Co0.2Mn0.3(OH)の化学量論比で配合して混合塩溶液とし、かつ得られた前駆体とLiOH、AlをLiNi0.5Co0.18Mn0.3Al0.02の化学量論比で混合する点が異なる。
比較例1
【0087】
[比較例1]
連続法の採用:
硫酸ニッケル塩(NiSO・6HO)、硫酸コバルト塩(CoSO・7HO)及び硫酸マンガン塩(MnSO・HO)をNi0.8Co0.1Mn0.1(OH)の化学量論比で配合して混合塩溶液とし、アルカリ液としての1Mの水酸化ナトリウム溶液(NaOH)と1Mのアンモニア水溶液(NH・HO)を用意する。水を入れた反応器内を窒素ガスで満たした後、上記3種類の溶液を添加し、反応器内のpH値を約11.0±0.1に保持する。その後、600回転/分の回転速度で48時間連続撹拌する。連続撹拌後、得られた固液混合物を濾過し、水洗し、乾燥させて前駆体を得る。
【0088】
得られた前駆体とLiOH、AlをLiNi0.8Co0.08Mn0.1Al0.02の化学量論比で混合し、酸素雰囲気下で、780℃で一次焼結を行い、一次焼結時間は12時間であり、かつ水洗乾燥を行って一次焼結物を得る。一次焼結物とホウ酸(HBO)を均一に混合し、酸素雰囲気下で、400℃で二次焼結を行い、二次焼結時間は5時間であり、スクリーニング処理を経て正極材料を得る。
【0089】
[比較例2]
比較例1の製造方式と同じであるが、比較例2では、反応器内の溶液を800回転/分の回転速度で24時間連続撹拌する点が異なる。
【0090】
以上の実施例及び比較例の正極材料に対してレーザーによる粒度測定及び走査型電子顕微鏡試験を行い、試験結果を記録した。そして、新しい正極シートを製造し、かつ厚さ測定装置を用いて新しい正極シートの厚さ、幅、長さ及び重量を測定した。その後、リチウムイオン電池に対して限界圧縮密度測定、サイクル性能試験及び保存膨張率試験を行い、その試験結果を記録した。
【0091】
実施例1~15と比較例1及び2の正極材料の統計数値とレーザーによる粒度測定及び走査型電子顕微鏡試験の結果を以下の表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1~15と比較例1及び2のリチウムイオン電池のサイクル性能試験、サイクル膨張率試験及び高温保存膨張率試験の試験結果を以下の表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表1に示すように、本願の実施例1~15において、バッチ法を採用:高速撹拌と低速撹拌により形成された前駆体は、正極材料の二次粒子の粒径範囲を効果的に制御することができる。具体的には、実施例と比較例の二次粒子のうち第3組の二次粒子の数量比及び体積比を比較して分かるように、本願の実施例の正極材料の粒径分布は比較的集中しており、実施例1では、第3組の二次粒子の数量比93%及び体積比95%を達成することができた。なお、本願の実施例における正極材料のDv10/Dn10値は1に近く、実施例の正極材料の粒径分布が比較的集中している又は均一であることを表しており、つまり、本願の実施例の正極材料内の微粒子の含有量が低いことを示している。これに対し、比較例1及び2の正極材料のDv10/Dn10値はいずれも10よりも大きく、比較例1及び2の正極材料内に大量の微粒子が存在することを示している。また、比較例1~5と比較例1~2を比較して分かるように、正極材料の二次粒子の長軸aと短軸bの比が正極材料の高速撹拌の撹拌速度の影響を受け、撹拌速度が高ければ高いほど二次粒子の球状度が高くなっている。
【0096】
表1及び表2から分かるように、比較例1及び2と比較して、本願の実施例1~15における本願の正極材料を有するリチウムイオン電池は、サイクル性能及び保存性能が大幅に向上している。比較例1及び2と実施例1~15を比較して分かるように、本願の実施例の粒径分布を有する正極材料を用いたリチウムイオン電池は、サイクル試験において70%以上のサイクル保持率を効果的に保持することができ、かつサイクル膨張率試験及び保存膨張率試験において、比較例1及び2と比較して、本願の実施例1~15のリチウムイオン電池は、サイクル膨張率及び高温保存膨張率が大幅に低下している。これは、本願の正極材料が、特定の粒径分布によって正極の正極材料の重量分布をより均一にすることができ、さらに最適な動力学的性能が得られることを示す。また、本願の正極材料は、正極材料内の大粒子と微粒子の含有量を低減し、正極材料と電解液の不均一な反応や、過度の反応を回避することにより、リチウムイオン電池のサイクル性能を向上させ、正極材料の高温保存時のガス発生を低減することができる。
【0097】
上記実施例及び比較例の比較により、本願の正極材料は、正極材料のうち第3組の二次粒子が二次粒子に占める総数量比及び総体積比を制御することにより、良好なサイクル性能及び安定した保存性能を有するリチウムイオン電池を効果的に取得できることが明らかになった。
【0098】
明細書全体において「いくつかの実施例」、「一部の実施例」、「一実施例」、「別の例」、「例」、「具体的な例」又は「部分的な例」の引用は、本願の少なくとも1つの実施例又は例が、該実施例又は例において説明された特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各部分に現れる説明、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一実施例において」、「別の例において」、「一例において」、「特定の例において」又は「例において」は、本願における同じ実施例又は例を必ずしも指すとは限らない。また、本明細書における特定の特徴、構造、材料又は特性は、1つ又は複数の実施例又は例において、任意の適切な方式で組み合わせることができる。
【0099】
例示的な実施例を示し説明してきたが、当業者であれば、上記実施例が本願を限定するものとして解釈され得ず、本願の精神、原理及び範囲から逸脱することなく実施例に対して変更、代替及び修正を行うことができることを理解すべきである。
<付記>
本発明は以下の態様を含む。
<項1>
一次粒子によって形成される二次粒子を含み、前記二次粒子は、
粒径が前記二次粒子の平均粒径の1.25倍よりも大きい第1組の二次粒子と、
粒径が前記二次粒子の平均粒径の0.75倍よりも小さい第2組の二次粒子と、
粒径が前記二次粒子の平均粒径の0.75倍~1.25倍である第3組の二次粒子と、
を含む、正極材料。
<項2>
前記二次粒子の総数量で計算して、前記第3組の二次粒子の総数量は60%以上である、項1に記載の正極材料。
<項3>
前記二次粒子の総体積で計算して、前記第3組の二次粒子の総体積は50%以上である、項1に記載の正極材料。
<項4>
前記二次粒子は、
(a)前記二次粒子のDv10とDn10の比が1~3である、
(b)前記二次粒子の総数量で計算して、80%以上の前記二次粒子の長軸と短軸との長さの比が1~2である、
(c)前記二次粒子の平均粒径が1μm~30μmである
という特徴のうちの少なくとも1つを満たす、項1に記載の正極材料。
<項5>
前記一次粒子の結晶構造は、六方晶構造、スピネル構造、岩塩構造のうちの1つ以上を含み、前記結晶構造がR-3空間群に属する、項1に記載の正極材料。
<項6>
(a)前記二次粒子の総数量で計算して、前記第3組の二次粒子の総数量が80%~93%であり、かつ前記第1組の二次粒子の総数量が1%~10%である、
(b)前記二次粒子の総体積で計算して、前記第3組の二次粒子の総体積が80%~95%であり、かつ前記第1組の二次粒子の総体積が1%~10%である、
(c)前記第1組の二次粒子の総数量と前記第2組の二次粒子の総数量の比が0.1~10であり、かつ前記第1組の二次粒子の総体積と前記第2組の二次粒子の総体積の比が0.1~10である
という特徴のうちの少なくとも1つを満たす、項1に記載の正極材料。
<項7>
一般式Li M1 M2 で表され、式中:0.95≦x≦1.05、0<y≦1、0≦z≦0.1、y+z=1であり、M1はNi、Co、Mn、Al及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、M2は、Mg、Ti、Zr、Sc、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、リチウム含有金属酸化物を含む、項1に記載の正極材料。
<項8>
前記二次粒子は、B、Al、Zr、C及びSのうちの少なくとも1つの元素を含む表面層をさらに含む、項1に記載の正極材料。
<項9>
比表面積が0.300m /g~1.000m /gである、項1に記載の正極材料。
<項10>
負極と、
セパレータと、
項1~9のいずれか1項に記載の正極材料を含む正極とを含む、電気化学デバイス。
<項11>
項10に記載の電気化学デバイスを含む、電子デバイス。
図1
図2
図3