(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】点火器組立体、及びガス発生器
(51)【国際特許分類】
B60R 21/264 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
B60R21/264
(21)【出願番号】P 2021016735
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 彬
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-142654(JP,A)
【文献】特開2006-284151(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10216702(DE,A1)
【文献】国際公開第2002/092400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の周壁部と前記周壁部の一端部を閉塞する蓋壁部とを有する金属製の収容器と、前記周壁部と前記蓋壁部とによって画定される収容空間に充填された点火薬と、を含み、作動時に前記蓋壁部が開裂することにより前記点火薬の燃焼生成物を前記収容器の外部に放出する点火器と、
前記周壁部を取り囲むように筒状に形成され、前記点火薬の燃焼生成物が放出される放出空間を内側に形成する樹脂製の筒状壁部と、を備え、
前記蓋壁部は、前記周壁部の径方向において前記周壁部よりも内側に配置された環状の外周領域部と、前記径方向において前記外周領域部よりも内側に配置された中央領域部と、を含み、
前記外周領域部は、前記中央領域部よりも厚肉に形成されている、
点火器組立体。
【請求項2】
前記外周領域部と前記中央領域部は、前記蓋壁部において前記放出空間に面する放出面が前記中央領域部において凹むように、接続されている、
請求項1に記載の点火器組立体。
【請求項3】
前記中央領域部には、前記中央領域部の中心部を起点として放射状に延びる複数の溝が形成されている、
請求項1又は2に記載の点火器組立体。
【請求項4】
前記中央領域部の中心部から前記外周領域部までの前記径方向における距離は、前記中心部から前記筒状壁部までの前記径方向における距離の1/2以下である、
請求項1から3の何れか一項に記載の点火器組立体。
【請求項5】
前記放出空間には、前記点火薬の燃焼生成物によって着火される第1のガス発生剤が充填される、請求項1から4の何れか一項に記載の点火器組立体。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の点火器組立体と、
前記点火器組立体が取り付けられたハウジングと、
前記ハウジングの内部に形成され、前記点火器の作動により燃焼する第2のガス発生剤が充填された燃焼室と、
前記ハウジングに形成され、前記燃焼室と前記ハウジングの外部空間とを連通するガス排出孔と、を備える、
ガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火器組立体、及び点火器組立体を備えたガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
点火器は、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトリトラクタ用ガス発生器等の起動装置として用いられ、主に着火電流によって作動する電気式点火器が広く知られている。点火器をガス発生器に取り付けるための構造としては、ハウジングに設けられた筒状の部材に対して、樹脂を介して点火器を取り付ける点火器組立体が知られている。
【0003】
これに関連して、特許文献1に示すガス発生器では、ハウジングの底板の中心部に、点火器が取り付けられる筒状の取付部が形成されており、点火器と取付部との間に設けられた樹脂により、点火器が取付部に固定されている。この樹脂は、更に、点火器を取り囲む周壁部を形成し、周壁部の内側の空間には、点火器の作動により燃焼するガス発生剤が充填される。点火器に電流を供給するためのコネクタが挿入される空間を取付部の他端側に形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7540241号明細書
【文献】米国特許第5005486号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
点火器の作動時は、点火薬を収容した金属製の収容器が開裂することで火炎が放出される。樹脂製の周壁部によって点火器を取り囲む構造において点火器の作動により開裂した収容器が周壁部に接触すると、周壁部に作用する荷重によって周壁部が変形し、周壁部に亀裂や破損が生じる虞がある。そのような場合、亀裂や破損の状態によっては、点火器の保持が不十分となったり、ガス発生器としてのシール性が損なわれたりすることが懸念される。
【0006】
本開示の技術は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂製の周壁部で点火器を取り囲む構造の点火器組立体において、点火器の作動時に開裂したカップ体の蓋壁部によって周壁部に大きな荷重が作用することを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の技術は、以下の構成を採用した。即ち、本開示の技術は、筒状の周壁部と前記周壁部の一端部を閉塞する蓋壁部とを有する金属製の収容器と、前記周壁部と前記蓋壁部とによって画定される収容空間に充填された点火薬と、を含み、作動時に前記蓋壁部が開裂することにより前記点火薬の燃焼生成物を前記収容器の外部に放出する点火器と、前記周壁部を取り囲むように筒状に形成され、前記点火薬の燃焼生成物が放出される放出空間を内側に形成する樹脂製の筒状壁部と、を備え、前記蓋壁部は、前記周壁部の径方向において前記周壁部よりも内側に配置された環状の外周領域部と、前記径方向において前記外周領域部よりも内側に配置された中央領域部と、を含み、前記外周領域部は、前記中央領域部よりも厚肉に形成されている、点火器組立体である。
【0008】
点火器の作動時には、点火薬の燃焼圧力により、蓋壁部は、周壁部の一端部を起点とし
て放出空間側へ開くように変形することになる。このとき、本開示の点火器組立体では、外周領域部が中央領域部よりも厚肉に形成されているため、外周領域部の方が中央領域部122よりも剛性が高く変形し難くなっている。これによると、周壁部に接続されている外周領域部が変形し難くなっているため、蓋壁部が大きく開くことが抑制される。そのため、開裂した蓋壁部が筒状壁部に対して強く接触することが抑制される。つまり、開裂した蓋壁部は、筒状壁部に対して接触しないか、接触したとしても大きな荷重は生じない。その結果、本開示に係る点火器組立体によると、点火器の作動時に開裂した蓋壁部により筒状壁部に大きな荷重が作用することを抑制でき、筒状壁部に亀裂や破損等の不具合が生じることを防止できる。
【0009】
また、上述の点火器組立体において、前記外周領域部と前記中央領域部は、前記蓋壁部において前記放出空間に面する放出面が前記中央領域部において凹むように、接続されていてもよい。
【0010】
また、上述の点火器組立体において、前記中央領域部には、前記中央領域部の中心部を起点として放射状に延びる複数の溝が形成されてもよい。
【0011】
また、上述の点火器組立体において、前記中央領域部の中心部から前記外周領域部までの前記径方向における距離は、前記中心部から前記筒状壁部までの前記径方向における距離の1/2以下であってもよい。
【0012】
また、上述の点火器組立体において、前記放出空間には、前記点火薬の燃焼生成物によって着火される第1のガス発生剤が充填されてもよい。
【0013】
また、本開示の技術は、上述の点火器組立体と、前記点火器組立体が取り付けられたハウジングと、前記ハウジングの内部に形成され、前記点火器の作動により燃焼する第2のガス発生剤が充填された燃焼室と、前記ハウジングに形成され、前記燃焼室と前記ハウジングの外部空間とを連通するガス排出孔と、を備える、ガス発生器であってもよい。
【0014】
なお、本開示のガス発生剤には、エアバッグを膨張させるための燃焼ガスを発生するガス発生剤や、ガス発生剤を燃焼させるための伝火薬が含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、樹脂製の周壁部で点火器を取り囲む構造の点火器組立体において、点火器の作動時に開裂したカップ体の蓋壁部によって周壁部に大きな荷重が作用することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る点火器組立体を備えるエアバッグ用ガス発生器の断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る点火器組立体の断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る点火器組立体において、点火器が作動する前のカップ体付近の状態を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る点火器組立体において、点火器が作動する前のカップ体の蓋壁部の状態を示す上面図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る点火器組立体において、点火器が作動してカップ体の蓋壁部が開裂した状態を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態1の変形例に係る点火器組立体において、点火器が作動する前のカップ体付近の状態を示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態2に係る点火器組立体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0018】
<実施形態1>
以下、実施形態1として、本開示の技術をエアバッグ用ガス発生器の点火器組立体に適用した態様について説明する。但し、実施形態1に係る点火器組立体の用途はこれに限定されず、例えばシートベルトリトラクタ用ガス発生器に適用してもよい。
図1は、実施形態1に係る点火器組立体X1を備えるエアバッグ用ガス発生器(以下、単にガス発生器)100の断面図である。
図1では、符号40で示す点火器の作動前の状態が示されている。ガス発生器100は、点火器を1つ備える所謂シングルタイプのガス発生器として構成されている。
図1に示すように、ガス発生器100は、ハウジング10、点火器40、保持部50、筒状壁部60、蓋部材70、ばね部材SP1、及びフィルタF1を備える。ガス発生器100は、ハウジング10内に配置された点火器40を作動させることでハウジング10の内部に充填された第1ガス発生剤110及び第2ガス発生剤120を燃焼させ、その燃焼生成物である燃焼ガスをハウジング10の外部に放出することでエアバッグ(不図示)を膨張させるように構成されている。以下、ガス発生器100の各構成について説明する。
【0019】
[ハウジング]
図1に示すように、ハウジング10は、夫々が有底筒状に形成された金属製の上部シェル20及び下部シェル30が互いの開口端同士を向き合わせた状態で接合されることによって、軸方向の両端が閉塞した短尺筒状に形成されている。但し、上部シェル20及び下部シェル30の構成についてはこれに限定されず、公知のものを適宜使用できる。ここで、ハウジング10の軸方向に沿う方向をガス発生器100の上下方向と定義し、上部シェル20側(即ち、
図1における上側)をガス発生器100の上側とし、下部シェル30側(即ち、
図1における下側)をガス発生器100の下側とする。
【0020】
上部シェル20は、筒状の上筒部201と、上筒部201の上端を閉塞する天板部202と、上筒部201の下端部から半径方向外側に延在した接合部203と、を有する。下部シェル30は、筒状の下筒部301と、下筒部301の下端を閉塞する底板部302と、下筒部301の上端部から半径方向外側に延在した接合部303と、を有する。上部シェル20の接合部203と下部シェル30の接合部303とが重ね合わされてレーザ溶接等によって接合されることで、ハウジング10が形成されている。また、上部シェル20の上筒部201には、ハウジング10の内外を連通するガス排出孔102が周方向に沿って複数並んで形成されている。点火器40の作動前において、ガス排出孔102は、図示しないシールテープにより閉塞されている。
【0021】
ここで、
図1に示すように、ハウジング10の下部シェル30には、点火器40が取り付けられる取付部304が設けられている。本実施形態では、取付部304が底板部302と一体となって形成されている。つまり、ハウジング10の一部によって金属製の取付部304が形成されている。
図1に示すように、取付部304は、下部シェル30の一部が底板部302から上方に突出することで、略筒状に形成されている。そして、取付部304の上端部には、点火器40の一対の通電ピン4が挿通される取付孔304aが形成されている。実施形態1に係る点火器組立体X1は、点火器40、取付部304、保持部50、筒状壁部60、及び蓋部材70を含んで構成される。
【0022】
[点火器]
図2は、実施形態1に係る点火器組立体X1の断面図である。
図2では、点火器40が作動する前の状態が示されている。
図2に示すように、点火器40は、本開示の「収容器」の一例である金属製のカップ体1と、金属ヘッダ2と、点火薬3と、一対の通電ピン4(41,42)と、を含む。カップ体1は、金属材料により有底筒状に形成されており、筒状の周壁部11と、周壁部11の一端部(上端部)を閉塞する蓋壁部12と、を有する。カップ体1を形成する金属材料は特に限定されないが、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄等が例示される。金属ヘッダ2は、金属材料により円柱状に形成された閉塞部材であり、周壁部11の他端部(下端部)に形成された開口を閉塞するようにカップ体1の内部に配置されている。金属ヘッダ2は、その外周面において周壁部11の内壁と溶接されている。
図2に示すように、金属ヘッダ2が周壁部11の開口を閉塞するようにカップ体1の内部に配置されることで、カップ体1の周壁部11は、その軸方向において、周壁部11に接触した接触領域A1と、接触領域A1よりも蓋壁部12側の領域であって金属ヘッダ2に接触しない非接触領域A2と、を含んでいる。周壁部11の非接触領域A2と蓋壁部12と金属ヘッダ2とによって、点火薬3が充填される空間である収容空間401が画定されている。一対の通電ピン4は、金属ヘッダ2から下方に延びている。一対の通電ピン4には、外部電源からの電力を供給するためのコネクタ(不図示)が接続される。
【0023】
点火器40は、コネクタを介して各通電ピン4に供給される電力により作動し、収容空間401に充填された点火薬3を点火する。点火薬3の燃焼圧力によりカップ体1の蓋壁部12が開裂することで、点火薬3の燃焼生成物がカップ体1の外部に放出される。
【0024】
[保持部]
保持部50は、樹脂材料により形成されており、点火器40と取付部304との間に設けられることで、点火器40を取付部304に対して固定する。このとき、
図2に示すように、保持部50は、カップ体1及び金属ヘッダ2がハウジング10内に位置し、一対の通電ピン4が取付孔304aを挿通し、その先端がハウジング10外に位置した状態となるように、点火器40を保持している。保持部50は、周壁部11の接触領域A1、金属ヘッダ2、及び取付部304を覆うことで点火器40を取付部304に固定し、取付孔304aを塞ぐことでハウジング10内の気密性を維持している。また、保持部50の一部は、通電ピン4に電力を供給するためのコネクタを挿入可能なコネクタ挿入空間501を取付部304の内側に形成している。保持部50は、周壁部11の非接触領域A2及び蓋壁部12が後述する放出空間601内に露出し、一対の通電ピン4の下端がコネクタ挿入空間501内に露出するように、点火器40を保持している。保持部50によって一対の通電ピン4の一部が覆われることで、一対の通電ピン4同士の絶縁性が保たれている。
【0025】
[筒状壁部]
図2に示すように、筒状壁部60は、カップ体1の周壁部11(より詳細には、周壁部11の非接触領域A2)を取り囲むように樹脂材料によって筒状に形成されており、保持部50から上方向に延在している。筒状壁部60の内側には、点火薬3の燃焼生成物が放出される空間である放出空間601が形成されている。放出空間601には、点火器40の作動により燃焼する第1ガス発生剤110が充填されている。第1ガス発生剤110は、点火器40の作動により放出される点火薬3の燃焼生成物によって着火され、燃焼ガスを生成する。保持部50と筒状壁部60は、一部材として一体に形成されており、互いに連続している。また、筒状壁部60には、放出空間601の内外を連通する連通孔602が周方向に沿って複数並んで形成されている。
【0026】
このような保持部50及び筒状壁部60は、点火器組立体X1の製造工程において、樹脂材料を射出成形することで一体に形成される。保持部50及び筒状壁部60を形成する樹脂材料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を好適
に利用することができる。このような樹脂材料としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が例示される。
【0027】
[蓋部材]
図1に示すように、蓋部材70は、筒状壁部60の上端部に形成された開口から筒状壁部60に嵌入されることで筒状壁部60と共に放出空間601を画定する部材である。また、
図1に示すように、蓋部材70は、点火器40の作動前においては連通孔602を筒状壁部60の内側から覆うことで、連通孔602を閉塞している。
【0028】
[ばね部材]
図1に示すように、ばね部材SP1は、蓋部材70と上部シェル20の天板部202との間に設けられた弾性部材である。ばね部材SP1は、その付勢力により蓋部材70を下方(即ち、放出空間601側)に押し付けることで、蓋部材70が筒状壁部60から抜け出すことや放出空間601に充填された第1ガス発生剤110のがたつきを抑制する。
【0029】
[フィルタ]
図1に示すように、フィルタF1は、筒状に形成されており、上端部が上部シェル20の天板部202に支持され、下端部が下部シェル30の底板部302に支持された状態で、点火器組立体X1とガス排出孔102との間に配置されている。これにより、点火器組立体X1とフィルタF1との間には、燃焼室101が形成されている。燃焼室101には、点火器40の作動により燃焼する第2ガス発生剤120が充填される。第2ガス発生剤120は、点火器40の作動により燃焼した第1ガス発生剤110の燃焼ガスによって着火され、燃焼ガスを生成する。フィルタF1は、燃焼ガスが通過可能に構成されており、燃焼室101の燃焼ガスは、フィルタF1を通過することで冷却される。このとき、フィルタF1は、燃焼ガスの燃焼残渣を捕集することで燃焼ガスを濾過する。
【0030】
[ガス発生剤]
第1ガス発生剤110には、比較的燃焼温度の低いガス発生剤が用いられる。第1ガス発生剤110の燃焼温度は、1000~1700℃の範囲にあることが望ましく、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる、単孔円柱状のものを用いることができる。また、第2ガス発生剤120にも、第1ガス発生剤110と同様のものを用いることができる。但し、第1ガス発生剤110や第2ガス発生剤120は、上記に限定されない。また、第1ガス発生剤110と第2ガス発生剤120は、同種類、同一形状、同一寸法のガス発生剤であってもよいし、別種類、別形状、別寸法のガス発生剤であってもよい。
【0031】
[動作]
次に、ガス発生器100の動作について説明する。ガス発生器100が自動車に組み付けられた状態では、コネクタ挿入空間501に挿入されたコネクタが点火器40と接続されており、点火器40に対して給電可能な状態となっている。この状態で、自動車に搭載されたセンサ(不図示)が衝撃を感知すると、外部電源からの電力がコネクタを介して一対の通電ピン4に供給されることで、点火器40が作動し、収容空間401内の点火薬3が燃焼する。
【0032】
点火薬3の燃焼に伴って収容空間401内の圧力が上昇することでカップ体1が破裂し、点火薬3の燃焼生成物である高温の火炎が放出空間601に放出される。これにより、放出空間601の第1ガス発生剤110が着火する。第1ガス発生剤110の燃焼ガスの圧力(以下、燃焼圧力とも呼ぶ)により、蓋部材70がばね部材SP1の付勢力に抗して
上方向(即ち、筒状壁部60の開口端部側)へスライドする。これにより蓋部材70による連通孔602の閉塞状態が解消され、第1ガス発生剤110の燃焼ガスが連通孔602から燃焼室101に排出される。
【0033】
連通孔602から燃焼室101に排出された第1ガス発生剤110の燃焼ガスにより第2ガス発生剤120が着火されることで、燃焼室101内に第2ガス発生剤120の燃焼ガスが生成される。燃焼室101内の燃焼ガスは、フィルタF1によって冷却及び濾過された後に、ガス排出孔102を閉塞していたシールテープを破り、ガス排出孔102からハウジング10の外部へと放出される。これにより、エアバッグが膨張し、乗員と堅い構造物の間にクッションが形成され、衝撃から乗員が保護される。
【0034】
[蓋壁部]
点火器40の作動時においては、収容空間401に充填された点火薬3の燃焼により収容空間401内の圧力が上昇することで、カップ体1の蓋壁部12が開裂する。これにより、点火薬3の燃焼生成物である火炎が放出空間601内へ放出され、放出空間601内の第1ガス発生剤110が着火される。このとき、カップ体1の蓋壁部12は、周壁部11の径方向における中央部を起点に開裂し、周壁部11の上端部を起点として該径方向の外側に開くように変形する。なお、以下の説明において「径方向」とは、特に指定しない限りは周壁部11の径方向のことを指すものとする。ここで、仮に、蓋壁部12が大きく開くことで開裂した蓋壁部12が筒状壁部60に対して強く接触し、筒状壁部60に大きな荷重が作用すると、筒状壁部60が変形し、筒状壁部60に亀裂や破損が生じる虞がある。そのような場合、亀裂や破損が保持部50へ伝搬して、点火器40の保持が不十分となったり、ガス発生器100のシール性が損なわれたりすることが懸念される。
【0035】
これに対して、本実施形態に係る点火器組立体X1では、点火器40の作動時に蓋壁部12が大きく開くことを抑制し、筒状壁部60に大きな荷重が作用することを抑制できるように、カップ体1の蓋壁部12が構成されている。以下、蓋壁部12について詳細に説明する。
【0036】
図3は、実施形態1に係る点火器組立体X1において、点火器40が作動する前のカップ体1付近の状態を示す断面図である。
図4は、実施形態1に係る点火器組立体X1において、点火器40が作動する前のカップ体1の蓋壁部12の状態を示す上面図である。
図3及び
図4に示すように、本実施形態に係るカップ体1の蓋壁部12は、周壁部11の上端部(一端部)に接続される環状の外周領域部121と、外周領域部121の径方向内側に位置する中央領域部122と、を含む。
【0037】
図3に示すように、外周領域部121は、周壁部11の上端部から径方向内側に延びており、周壁部11の中心軸CA1回りに環状に形成されている。中央領域部122は、蓋壁部12のうち、外周領域部121に囲まれた部位であり、外周領域部121の内周縁に接続されている。中央領域部122は、外周領域部121よりも径方向内側の位置に形成されており、中央領域部122の径方向における中心部C1は、周壁部11の中心軸CA1上に位置する。
図3に示すように、外周領域部121の肉厚(周壁部11の軸方向における厚み)をT1とし、中央領域部122の肉厚をT2とすると、T1>T2となっている。つまり、外周領域部121の方が中央領域部122よりも厚肉に形成されている。
【0038】
ここで、蓋壁部12において放出空間601に面する面(即ち、蓋壁部12の上面)を放出面S1とし、その反対側の面である、収容空間401を画定する面(即ち、蓋壁部12の下面)を収容面S2とする。このとき、
図3に示すように、放出面S1が中央領域部122において収容空間401側に凹むように、外周領域部121と中央領域部122とが接続されている。これにより、外周領域部121と中央領域部122との接続部分は、
放出空間601側に段差部123を形成している。
【0039】
また、
図4に示すように、中央領域部122には、中央領域部122の中心部C1を起点として放射状に延びる複数の溝13が形成されている。複数の溝13は、放出面S1側に形成されており、中心部C1から外周領域部121までの間において径方向に延在している。
図4に示すように、本実施形態では、8本の溝13が等角度間隔で形成されている。但し、本開示の技術はこれに限定されない。
【0040】
また、
図3に示すように、中央領域部122の中心部C1から外周領域部121までの径方向における距離をd1とし、中心部C1から筒状壁部60(より詳細には、筒状壁部60の内周面60a)までの径方向における距離をd2とすると、d1≦1/2×d2となっている。つまり、d1はd2の1/2以下となっている。
【0041】
[作用・効果]
図5は、実施形態1に係る点火器組立体X1において、点火器40が作動してカップ体1の蓋壁部12が開裂した状態を示す断面図である。上述のように、本実施形態に係る点火器組立体X1は、作動時に金属製のカップ体1の蓋壁部12が開裂することにより点火薬3の燃焼生成物をカップ体1の外部に放出する点火器40と、カップ体1の周壁部11を取り囲むように筒状に形成され、点火薬3の燃焼生成物が放出される放出空間601を内側に形成する樹脂製の筒状壁部60と、を備えている。そして、蓋壁部12は、周壁部11の径方向において周壁部11よりも内側に配置された環状の外周領域部121と、該径方向において外周領域部121よりも内側に配置された中央領域部122と、を含み、外周領域部121は、中央領域部122よりも厚肉に形成されている。
【0042】
中央領域部122が外周領域部121よりも薄肉であることから、点火器40が作動してカップ体1の蓋壁部12が開裂する場合には、
図5に示すように、中央領域部122が開裂の起点となる。このとき、点火薬3の燃焼圧力により、蓋壁部12は、周壁部11の上端部を起点として放出空間601側へ開くように変形することになる。ここで、点火器組立体X1では、外周領域部121が中央領域部122よりも厚肉に形成されているため、外周領域部121の方が中央領域部122よりも剛性が高く変形し難くなっている。これによると、周壁部11に接続されている外周領域部121が変形し難くなっているため、蓋壁部12が大きく開くことが抑制される。そのため、開裂した蓋壁部12が筒状壁部60に対して強く接触することが抑制される。つまり、開裂した蓋壁部12は、筒状壁部60に対して接触しないか、接触したとしても大きな荷重は生じない。
【0043】
従って、本実施形態に係る点火器組立体X1によると、点火器40の作動時に開裂した蓋壁部12により筒状壁部60に大きな荷重が作用することを抑制でき、筒状壁部60に亀裂や破損等の不具合が生じることを防止できる。
【0044】
また、
図5に示すように、点火器40の作動により蓋壁部12が開裂する場合には、中央領域部122は、外周領域部121との接続部分を起点として放出空間601側へ開くように変形することになる。ここで、点火器組立体X1では、蓋壁部12の放出面S1が中央領域部122において凹むように外周領域部121と中央領域部122が接続されることで、外周領域部121と中央領域部122との接続部分が放出空間601側に段差部123を形成している。そのため、
図5に示すように、段差部123が中央領域部122に当接することで、中央領域部122が更に開くことが抑制されている。その結果、点火器組立体X1によると、点火器40の作動時に開裂した中央領域部122が大きく開いて筒状壁部60に強く接触することを抑制できる。なお、本開示の技術はこれに限定されず、収容空間に面する収容面において中央領域部が凹むように外周領域部と中央領域部とが接続されていてもよい。
【0045】
更に、本実施形態に係る点火器組立体X1では、蓋壁部12の中央領域部122に、中央領域部122の中心部C1を起点として放射状に延びる複数の溝13が形成されている。中央領域部122のうち溝13が形成された部位は、他の部位よりも脆弱となる。点火器組立体X1では、複数の溝13が中心部C1を起点として放射状に形成されているため、蓋壁部12を開裂させ易くすることができる。更に、点火器組立体X1では、外周領域部121と122のうち、中央領域部122にのみ溝13が形成されている。このような点火器組立体X1によると、外周領域部121の変形を抑制しつつも蓋壁部12を開裂させ易くすることができる。なお、本開示の技術において、中央領域部の溝は必須の構成ではない。
【0046】
更に、本実施形態に係る点火器組立体X1では、蓋壁部12の中央領域部122の中心部C1から外周領域部121までの径方向における距離d1は、中心部C1から筒状壁部60までの径方向における距離の1/2以下である。これによると、点火器40の作動時に中央領域部122が外周領域部121との接続部分を起点として折り返されるように変形し、筒状壁部60側へ倒れた場合であっても、中央領域部122が筒状壁部60に届くことがない。その結果、点火器組立体X1によると、点火器40の作動時に開裂した中央領域部122が筒状壁部60に接触することを抑制できる。但し、本開示の技術はこれに限定されない。
【0047】
[変形例]
図6は、実施形態1の変形例に係る点火器組立体X1Aにおいて、点火器40が作動する前のカップ体1A付近の状態を示す断面図である。以下、変形例に係る点火器組立体X1Aについて、点火器組立体X1との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0048】
図6に示すように、変形例に係る点火器組立体X1Aは、カップ体1Aが、2部品により形成されている点で点火器組立体X1と相違する。より詳細には、カップ体1Aは、有底筒状に形成されたカップ本体1bと、環状のリング部材1cと、を含む。カップ本体1bは、周壁部11と、周壁部11の一端部(上端部)を閉塞する蓋壁部本体1b2と、を有する。この蓋壁部本体1b2の上にリング部材1cが設置されることで、蓋壁部12Aが形成されている。リング部材1cは、蓋壁部本体1b2に重なることで蓋壁部本体1b2と共に外周領域部121を形成する。蓋壁部12Aにおいて、蓋壁部本体1b2にリング部材1cが重なっている領域が外周領域部121を形成し、蓋壁部本体1b2にリング部材1cが重なっていない領域が中央領域部122を形成している。これにより、外周領域部121が中央領域部122よりも肉厚に形成されている。なお、
図6に示すように、リング部材1cには、蓋壁部本体1b2に嵌合する嵌合部1c1が形成されている。これにより、リング部材1cが蓋壁部本体1b2から脱落することが防止され、カップ本体1bとリング部材1cとが一体に保たれている。
【0049】
変形例に係る点火器組立体X1Aでは、カップ体1Aの蓋壁部12Aは、周壁部11の径方向において周壁部11よりも内側に配置された環状の外周領域部121と、該径方向において外周領域部121よりも内側に配置された中央領域部122と、を含み、外周領域部121は、中央領域部122よりも厚肉に形成されている。これによると、点火器組立体X1と同様に、点火器40の作動時に開裂した蓋壁部12Aにより筒状壁部60に大きな荷重が作用することを抑制でき、筒状壁部60に亀裂や破損等の不具合が生じることを防止できる。
【0050】
<実施形態2>
図7は、実施形態2に係る点火器組立体X2の断面図である。
図7では、点火器40が
作動する前の状態が示されている。実施形態2に係る点火器組立体X2は、本開示の技術をシートベルトリトラクタ用ガス発生器の点火器組立体に適用したものである。但し、実施形態2に係る点火器組立体X2の用途はこれに限定されず、例えばエアバッグ用ガス発生器に適用してもよい。以下、実施形態2に係る点火器組立体X2について、実施形態1に係る点火器組立体X1との相違点を中心に説明し、同様の構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0051】
実施形態2に係る点火器組立体X2は、シートベルトリトラクタ用ガス発生器(不図示)に組み込まれ、点火器40を作動させることで放出空間601に充填された第1ガス発生剤110を燃焼させ、その燃焼生成物である燃焼ガスを放出することで、シートベルトの緩みを巻き取るように構成されている。
【0052】
図7に示すように、実施形態2に係る点火器組立体X2は、点火器40、取付部80、保持部50、筒状壁部60、及び蓋部材90を含んで構成される。取付部80は、金属材料により筒状に形成されたカラー部材であり、ハウジングとは別体に形成されている点で実施形態1に係る取付部304と相違する。取付部80には、点火器40の一対の通電ピン4が挿通される。点火器40と取付部80との間に設けられた保持部50により、点火器40が取付部80に対して固定されている。この取付部80がガス発生器のハウジングに固定されることで、点火器組立体X2がガス発生器に取り付けられる。蓋部材90は、有底筒状に形成された部材であり、筒状壁部60の上端部に外嵌されることで筒状壁部60の開口603を閉塞し、筒状壁部60と共に放出空間601を画定する。また、実施形態2に係る筒状壁部60には連通孔602が形成されていない。
【0053】
実施形態2では、点火器40が作動すると、収容空間401内の点火薬3の燃焼によりカップ体1が破裂し、点火薬3の燃焼生成物である高温の火炎が放出空間601に放出される。これにより、放出空間601に充填された第1ガス発生剤110が着火する。第1ガス発生剤110の燃焼圧力により蓋部材90が開裂することで、第1ガス発生剤110の燃焼ガスが筒状壁部60の開口603から排出される。
【0054】
上述のように、実施形態2に係る点火器組立体X2においても、カップ体1の蓋壁部12は、周壁部11の径方向において周壁部11よりも内側に配置された環状の外周領域部121と、該径方向において外周領域部121よりも内側に配置された中央領域部122と、を含み、外周領域部121は、中央領域部122よりも厚肉に形成されている。これによると、実施形態1に係る点火器組立体X1と同様の効果が得られる。即ち、実施形態2に係る点火器組立体X2によると、点火器40の作動時に開裂した蓋壁部12により筒状壁部60に大きな荷重が作用することを抑制でき、筒状壁部60に亀裂や破損等の不具合が生じることを防止できる。
【0055】
<その他>
以上、本開示に係る点火装置及び点火装置組立体の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。また、上記実施形態においては、本開示の点火器組立体を点火器が一つのみ備えられたシングルタイプのガス発生器に適用する場合を例に説明したが、本開示の点火器組立体は、点火器を複数備えるガス発生器にも適用してもよい。また、上記実施形態においては、点火器組立体をエアバッグ用又はシートベルトリトラクタ用のガス発生器に適用する場合を例に説明したが、その他のガス発生器に適用してもよい。また、ガス発生器のハウジング以外のハウジングを、点火器組立体の取り付け対象物としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・・カップ体(収容器の一例)
11・・・周壁部
12・・・蓋壁部
121・・外周領域部
122・・中央領域部
13・・・溝
3・・・・点火薬
10・・・ハウジング
40・・・点火器
401・・収容空間
50・・・保持部
60・・・筒状壁部
601・・放出空間
100・・ガス発生器
101・・燃焼室
102・・ガス排出孔
110・・第1ガス発生剤
120・・第2ガス発生時
X1・・・点火器組立体
S1・・・放出面