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特許7553385スポイラ制御装置、スポイラ制御方法、及びスポイラ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】スポイラ制御装置、スポイラ制御方法、及びスポイラ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B64C 9/02 20060101AFI20240910BHJP
   B64C 3/58 20060101ALI20240910BHJP
   B64C 13/00 20060101ALI20240910BHJP
   B64C 13/16 20060101ALI20240910BHJP
   B64C 13/50 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B64C9/02 A
B64C3/58
B64C13/00 B
B64C13/16 Z
B64C13/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021035844
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2021142974
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2020041082
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆司
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0152582(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0176966(US,A1)
【文献】特開2004-050855(JP,A)
【文献】米国特許第06241183(US,B1)
【文献】特開2014-210574(JP,A)
【文献】特開2017-197173(JP,A)
【文献】特公平03-062596(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 9/00
B64C 3/58
B64C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、
左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出部と、
前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定部と、
前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力部とを有し、
前記信号出力部は、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力する
スポイラ制御装置。
【請求項2】
前記異常検出部は、前記スポイラの前記異常動作が、前記スポイラに連結されて前記アクチュエータにおけるシリンダ内を往復動されるロッドの前記シリンダに対する位置を検出する位置検出器の異常に起因するか否かを判定し、
前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因しない場合、前記ロッドの位置を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定し、
前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因する場合、前記スポイラの実際の角度を検出する実測センサの検出値を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定する
請求項1に記載のスポイラ制御装置。
【請求項3】
前記基本位置のときの前記スポイラの前記角度をゼロ、前記展開位置のときの前記スポイラの前記角度を正の最大値としたとき、
前記信号出力部は、前記左右のスポイラの双方の前記角度がゼロよりも大きい状態において前記左右のスポイラの一方に異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力する
請求項1または2に記載のスポイラ制御装置。
【請求項4】
前記信号出力部は、前記左右のスポイラの前記角度が互いに異なっている状態において前記左右のスポイラの一方に異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力する
請求項1または2に記載のスポイラ制御装置。
【請求項5】
前記基本位置のときの前記スポイラの前記角度をゼロ、前記展開位置のときの前記スポイラの前記角度を正の最大値としたとき、
前記信号出力部は、前記左右のスポイラの一方の前記角度がゼロよりも大きく且つ前記左右のスポイラの他方の前記角度がゼロである状態において前記一方に異常動作が検出された場合、前記左右のスポイラに同時に前記引き込み信号を出力する
請求項1または2に記載のスポイラ制御装置。
【請求項6】
左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、
左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出部と、
前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定部と、
前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力部とを有し、
前記信号出力部は、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力し、
前記異常検出部は、前記スポイラの前記異常動作が、前記スポイラに連結されて前記アクチュエータにおけるシリンダ内を往復動されるロッドの前記シリンダに対する位置を検出する位置検出器の異常に起因するか否かを判定し、
前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因しない場合、前記ロッドの位置を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定し、
前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因する場合、前記スポイラの実際の角度を検出する実測センサの検出値を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定する
スポイラ制御装置。
【請求項7】
左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、
左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出処理と、
前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定処理と、
前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力処理とを有し、
前記信号出力処理では、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された際、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力する
スポイラ制御方法。
【請求項8】
左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、
コンピュータに、
左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出処理と、
前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定処理と、
前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力処理とを実行させ、
前記信号出力処理では、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された際、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力させる
スポイラ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スポイラ制御装置、スポイラ制御方法、及びスポイラ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された航空機の主翼には、動翼であるスポイラが取り付けられている。スポイラは、左側の主翼と右側の主翼とに左右一対で複数対が設けられている。各スポイラは、スポイラ毎のアクチュエータで駆動される。アクチュエータは、各スポイラを、主翼と同一平面上に配置される基本位置と、主翼に対して上側に傾斜した展開位置との間で動作させる。アクチュエータは、パイロットによる操縦桿の操作等に応じたアクチュエータ毎の制御信号で制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平3-062596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような技術において、制御信号を出力する回路の故障等に起因してアクチュエータに対して不適切な制御信号が出力されると、左右一対のスポイラのいずれか一方が継続的に展開位置側に位置することがある。この場合、左右一対のスポイラの双方の使用を中止し、これらの双方を基本位置まで動作させる必要がある。ここで、左右一対のスポイラを基本位置まで引き込む間において左右一対のスポイラに角度の差があると、航空機にロールモーメントが作用するため好ましくない。
【0005】
この発明は、こうした事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、スポイラを基本位置に戻す際に航空機に作用するロールモーメントを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのスポイラ制御装置は、左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出部と、前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定部と、前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力部とを有し、前記信号出力部は、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力する。
【0007】
仮に、左右のスポイラの角度の差が相応に大きい状態でこれらの双方の引き込みを同時に開始するものとする。この場合、これらのスポイラを引き込んでいる間においてはこれらのスポイラの角度の差が維持され、且つ一方が基本位置に戻った後も他方が基本位置に戻るまでは角度の差が存在し続ける。したがって、双方の引き込みが完了するまでは航空機にロールモーメントが作用し続ける。
【0008】
この点、上記構成では、左右のスポイラのうち異常動作した一方のスポイラの引き込みを開始した後、左右のスポイラの角度の差が相当に小さくなってから、他方のスポイラの引き込みを開始する。この場合、上記他方のスポイラの引き込みを開始した以降では、左右のスポイラの角度の差が相当に小さいことから航空機にロールモーメントが略作用しない。そのため、スポイラを基本位置に戻す際に航空機に作用するロールモーメントを低減できる。
【0009】
スポイラ制御装置において、前記異常検出部は、前記スポイラの前記異常動作が、前記スポイラに連結されて前記アクチュエータにおけるシリンダ内を往復動されるロッドの前記シリンダに対する位置を検出する位置検出器の異常に起因するか否かを判定し、前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因しない場合、前記ロッドの位置を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定し、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因する場合、前記スポイラの実際の角度を検出する実測センサの検出値を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定してもよい。
【0010】
実測センサの検出値は、スポイラに作用する風圧に伴うスポイラの位置の変動分を含んでいる。このような実測センサの検出値をスポイラの角度として利用する場合に比べ、位置検出器が検出するロッドの位置をスポイラの角度として利用する場合のほうが、左右のスポイラの角度の差に係る誤差を小さくできる。そこで、上記構成では、位置検出器に異常が生じていない場合には、位置検出器が検出したロッドの位置を利用して角度の差を算出する。これにより、精度の高い角度の差を得ることができる。一方で、位置検出器に異常が生じたときには位置検出器による検出結果の信頼性が相当に低くなる。そこで、上記構成では、位置検出器に異常が生じたときには、実測センサの検出値をスポイラの角度として利用する。これにより、位置検出器に異常が生じたときでも、相応に精度の高い角度の差を得ることができる。
【0011】
スポイラ制御装置において、前記基本位置のときの前記スポイラの前記角度をゼロ、前記展開位置のときの前記スポイラの前記角度を正の最大値としたとき、前記信号出力部は、前記左右のスポイラの双方の前記角度がゼロよりも大きい状態において前記左右のスポイラの一方に異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力してもよい。上記構成は、左右のスポイラを使用した例えばブレーキ中にスポイラを引き込むうえで航空機に作用するロールモーメントを低減するのに好適である。
【0012】
スポイラ制御装置において、前記信号出力部は、前記左右のスポイラの前記角度が互いに異なっている状態において前記左右のスポイラの一方に異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力してもよい。上記構成は、左右のスポイラの角度が異なる例えばロール飛行中にスポイラを引き込むうえで航空機に作用するロールモーメントを低減するのに好適である。
【0013】
スポイラ制御装置において、前記基本位置のときの前記スポイラの前記角度をゼロ、前記展開位置のときの前記スポイラの前記角度を正の最大値としたとき、前記信号出力部は、前記左右のスポイラの一方の前記角度がゼロよりも大きく且つ前記左右のスポイラの他方の前記角度がゼロである状態において前記一方に異常動作が検出された場合、前記左右のスポイラに同時に前記引き込み信号を出力してもよい。上記構成によれば、左右のスポイラの角度の差を算出する必要がないため、左右のスポイラの角度の差を計算する負担がかからない。
【0014】
上記課題を解決するためのスポイラ制御装置は、左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出部と、前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定部と、前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力部とを有し、前記信号出力部は、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された場合、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力し、前記異常検出部は、前記スポイラの前記異常動作が、前記スポイラに連結されて前記アクチュエータにおけるシリンダ内を往復動されるロッドの前記シリンダに対する位置を検出する位置検出器の異常に起因するか否かを判定し、前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因しない場合、前記ロッドの位置を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定し、前記角度差判定部は、前記スポイラの前記異常動作が前記位置検出器の異常に起因する場合、前記スポイラの実際の角度を検出する実測センサの検出値を前記スポイラの前記角度として取得して前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内であるか否かを判定する。
【0015】
仮に、左右のスポイラの角度の差が相応に大きい状態でこれらの双方の引き込みを同時に開始するものとする。この場合、これらのスポイラを引き込んでいる間においてはこれらのスポイラの角度の差が維持され、且つ一方が基本位置に戻った後も他方が基本位置に戻るまでは角度の差が存在し続ける。したがって、双方の引き込みが完了するまでは航空機にロールモーメントが作用し続ける。
【0016】
この点、上記構成では、左右のスポイラのうち異常動作した一方のスポイラの引き込みを開始した後、左右のスポイラの角度の差が相当に小さくなってから、他方のスポイラの引き込みを開始する。この場合、上記他方のスポイラの引き込みを開始した以降では、左右のスポイラの角度の差が相当に小さいことから航空機にロールモーメントが略作用しない。そのため、スポイラを基本位置に戻す際に航空機に作用するロールモーメントを低減できる。
【0017】
さて、実測センサの検出値は、スポイラに作用する風圧に伴うスポイラの位置の変動分を含んでいる。このような実測センサの検出値をスポイラの角度として利用する場合に比べ、位置検出器が検出するロッドの位置をスポイラの角度として利用する場合のほうが、左右のスポイラの角度の差に係る誤差を小さくできる。そこで、上記構成では、位置検出器に異常が生じていない場合には、位置検出器が検出したロッドの位置を利用して角度の差を算出する。これにより、精度の高い角度の差を得ることができる。一方で、位置検出器に異常が生じたときには位置検出器による検出結果の信頼性が相当に低くなる。そこで、上記構成では、位置検出器に異常が生じたときには、実測センサの検出値をスポイラの角度として利用する。これにより、位置検出器に異常が生じたときでも、相応に精度の高い角度の差を得ることができる。
【0018】
上記課題を解決するためのスポイラ制御方法は、左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出処理と、前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定処理と、前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力処理とを有し、前記信号出力処理では、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された際、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力する。
【0019】
仮に、左右のスポイラの角度の差が相応に大きい状態でこれらの双方の引き込みを同時に開始するものとする。この場合、これらのスポイラを引き込んでいる間においてはこれらのスポイラの角度の差が維持され、且つ一方が基本位置に戻った後も他方が基本位置に戻るまでは角度の差が存在し続ける。したがって、双方の引き込みが完了するまでは航空機にロールモーメントが作用し続ける。
【0020】
この点、上記方法では、左右のスポイラのうち異常動作した一方のスポイラの引き込みを開始した後、左右のスポイラの角度の差が相当に小さくなってから、他方のスポイラの引き込みを開始する。この場合、上記他方のスポイラの引き込みを開始した以降では、左右のスポイラの角度の差が相当に小さいことから航空機にロールモーメントが略作用しない。そのため、スポイラを基本位置に戻す際に航空機に作用するロールモーメントを低減できる。
【0021】
上記課題を解決するためのスポイラ制御プログラムは、左側及び右側の主翼に左右一対で設けられているとともにアクチュエータで駆動されることによって前記主翼と同一平面上に配置される基本位置と前記主翼に対して傾斜した展開位置との間で動作するスポイラを備えた航空機に適用され、コンピュータに、左右の前記スポイラにおける前記展開位置側への異常動作を検出する異常検出処理と、前記左右のスポイラの前記主翼に対する角度を取得するとともに前記左右のスポイラの前記角度の差が規定値以内であるか否かを判定する角度差判定処理と、前記左右のスポイラを前記基本位置へ戻すための引き込み信号を出力する信号出力処理とを実行させ、前記信号出力処理では、前記左右のスポイラの一方に前記異常動作が検出された際、当該スポイラの一方に対する前記引き込み信号を出力するとともに前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号の出力を待機し、前記左右のスポイラの前記角度の差が前記規定値以内になると、前記左右のスポイラの他方に対する前記引き込み信号を出力させる。
【0022】
仮に、左右のスポイラの角度の差が相応に大きい状態でこれらの双方の引き込みを同時に開始するものとする。この場合、これらのスポイラを引き込んでいる間においてはこれらのスポイラの角度の差が維持され、且つ一方が基本位置に戻った後も他方が基本位置に戻るまでは角度の差が存在し続ける。したがって、双方の引き込みが完了するまでは航空機にロールモーメントが作用し続ける。
【0023】
この点、上記プログラムでは、左右のスポイラのうち異常動作した一方のスポイラの引き込みを開始した後、左右のスポイラの角度の差が相当に小さくなってから、他方のスポイラの引き込みを開始する。この場合、上記他方のスポイラの引き込みを開始した以降では、左右のスポイラの角度の差が相当に小さいことから航空機にロールモーメントが略作用しない。そのため、スポイラを基本位置に戻す際に航空機に作用するロールモーメントを低減できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、スポイラを基本位置に戻す際に航空機に作用するロールモーメントを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】航空機の概略図。
図2】スポイラの駆動に係る構成の概略図。
図3】スポイラ引き込み処理の処理手順を表したフローチャート。
図4】スポイラの角度の時間変化の例を表したタイムチャート。
図5】スポイラの角度の時間変化の例を表したタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、航空機に適用されたスポイラ制御装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の記載では、部品や信号に関して左右を区別して説明するときは部品や信号の名称に符号を付し、左右を区別なく説明するときは符号を省略する。例えばスポイラに関して、左右を区別するときには左スポイラ112及び右スポイラ212として記載し、左右を区別なく説明するときは単にスポイラと記載する。
【0027】
先ず、スポイラ及びアクチュエータの概略構成を説明する。
図1に示すように、航空機10の左右の主翼には、動翼であるスポイラが取り付けられている。スポイラは、航空機10の飛行中及び滑走状態の両方で作動するものである。左側の主翼110には、5つの左スポイラ112が取り付けられている。5つの左スポイラ112は、概ね航空機10の左右方向に並んでおり、且つ、航空機10の前後方向において左側の主翼110の中央よりも後ろ寄りに位置している。右側の主翼210には、5つの右スポイラ212が取り付けられている。5つの右スポイラ212は、概ね航空機10の左右方向に並んでおり、且つ、航空機10の前後方向において右側の主翼210の中央よりも後ろ寄りに位置している。なお、左側の主翼110、右側の主翼210、左スポイラ112、及び右スポイラ212は、概ね板状になっている。
【0028】
5つの左スポイラ112のうち左側の主翼110における最も外側に位置する左スポイラ112と、5つの右スポイラ212のうち右側の主翼210における最も外側に位置する右スポイラ212とは、対を成している。すなわち、これらの左スポイラ112と右スポイラ212とは、航空機10の中心軸線を挟んで対称な位置に配置されている。残りの4つの左スポイラ112及び4つの右スポイラ212についても同様で、左右で対を成している。このように、航空機10には、左側の主翼110と右側の主翼210とに左右一対で合計5対のスポイラが設けられている。以下では、5対のスポイラのうちの任意の一対のスポイラについて説明する。
【0029】
図2に示すように、左スポイラ112は、回転軸114を介して左側の主翼110に連結されている。左スポイラ112は、回転軸114を回転中心として主翼110に対して回転可能である。左スポイラ112は、回転軸114と一体回転する。左スポイラ112は、当該左スポイラ112の上面が主翼110の上面と同一平面上に配置される基本位置(図2の実線参照)と、当該左スポイラ112の上面が主翼110の上面に対して上側に傾斜した展開位置(図2の二点鎖線参照)との間を回転する。
【0030】
回転軸114の近傍には、回転軸114の回転位置である左スポイラ実測角度QAを検出する左実測センサ116が配置されている。左スポイラ実測角度QAは、左スポイラ112の実際の角度に相当する。左スポイラ112が基本位置に配置されている場合、左スポイラ実測角度QAはゼロである。左スポイラ112が展開位置側に動作するのに伴って左スポイラ実測角度QAの値は大きくなる。なお、本明細書においてスポイラの角度とは、主翼に対するスポイラの角度である。
【0031】
左スポイラ112には、当該左スポイラ112を駆動する左アクチュエータ130が取り付けられている。左アクチュエータ130は、電気油圧式になっている。左アクチュエータ130は、筒状の左シリンダ132を有する。左シリンダ132の内部は、作動油が給排される左流体室132Aになっている。この左流体室132Aには、棒状の左ロッド134が左シリンダ132と同軸で配置されている。左ロッド134における中心軸線方向一方側の先端部からは、左ピストン136が径方向外側に張り出している。左ピストン136は、左流体室132Aを二分している。左流体室132Aの油圧が左ピストン136に作用することに伴って、左ロッド134が、その中心軸線方向に往復動される。左ロッド134における中心軸線方向他方側の一部は、左シリンダ132から突出している。左ロッド134における中心軸線方向他方側の先端部は、略円環状の左取付部138となっている。左取付部138は、左スポイラ112に取り付けられている。左ロッド134が往復動されることに応じて、左スポイラ112が回転する。具体的には、左ロッド134がその中心軸線方向他方側に動作することで、左スポイラ112が展開位置側へ動作する。一方、左ロッド134がその中心軸線方向一方側へ動作することで、左スポイラ112は基本位置側へ動作する。
【0032】
左シリンダ132には、当該左シリンダ132に対する左ロッド134の位置を検出する左位置検出器139が取り付けられている。左ロッド134の位置は、所定の基準位置と、左ロッド134におけるその中心軸線方向一方側の端との離間距離として定められている。所定の基準位置は、左シリンダ132におけるその中心軸線方向の中央である。左位置検出器139は、上記離間距離の実測値である左ロッド実測距離R1Aを検出する。なお、基準位置が左シリンダ132におけるその中心軸線方向の中央であることから、左ロッド実測距離R1Aは、正負の値をとる。すなわち、左ロッド134が、左シリンダ132におけるその中心軸線方向中央よりも一方側に位置している場合には左ロッド実測距離R1Aが負の値になり、他方側に位置している場合には左ロッド実測距離R1Aが正の値になる。左ロッド実測距離R1Aが大きいほど、左スポイラ112の角度は大きくなる。なお、左位置検出器139は、詳細には、左ロッド134に取り付けられている鉄芯と、左ロッド134を全周に亘って取り囲むコイルとを有し、鉄芯が左ロッド134とともにコイルの内部を動作することで電圧が発生するように構成されている。そして、この電圧の大小が、左ロッド実測距離R1Aとして検出される。
【0033】
左シリンダ132の外面には、内部に作動油の油圧回路が区画された左マニホールド131が固定されている。油圧回路は、当該油圧回路の流路を切り替えるための油圧制御バルブ等を含んでいる。油圧回路の作動油は、左シリンダ132の内部に対して給排される。
【0034】
左スポイラ112と同様、右スポイラ212は、回転軸214を介して右側の主翼210に連結されている。そして、右スポイラ212は、左スポイラ112と同様の定義の基本位置及び展開位置の間を回転する。回転軸214の近傍には、回転軸214の回転位置である右スポイラ実測角度QBを検出する右実測センサ216が配置されている。
【0035】
右スポイラ212には、当該右スポイラ212を駆動する右アクチュエータ230が取り付けられている。右アクチュエータ230の構成は、左アクチュエータ130の構成と同じである。すなわち、右アクチュエータ230は、電気油圧式になっている。そして、右アクチュエータ230における筒状の右シリンダ232の内部には、棒状の右ロッド234が右シリンダ232と同軸で配置されている。右ロッド234における中心軸線方向一方側の先端部からは、右シリンダ232の内部の右流体室232Aを二分する右ピストン236が張り出している。右流体室232Aの油圧が右ピストン236に作用することに伴って、右ロッド234が往復動される。右ロッド234における中心軸線方向他方側の先端部は、右シリンダ232の外部に位置しているとともに略円環状の右取付部238となっている。右取付部238は、右スポイラ212に取り付けられている。
【0036】
右シリンダ232には、当該右シリンダ232に対する右ロッド234の位置を検出する右位置検出器239が取り付けられている。右位置検出器239は、左位置検出器139の場合と同様の定義の離間距離の実測値である右ロッド実測距離R1Bを検出する。また、右シリンダ232の外面には、左マニホールド131と同様の右マニホールド231が固定されている。
【0037】
次に、左アクチュエータ130及び右アクチュエータ230の制御構成について説明する。
航空機10には、当該航空機10の各種部位の動作を統括的に制御する統括制御装置50が搭載されている。統括制御装置50は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、統括制御装置50は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0038】
統括制御装置50には、航空機10のコックピットに設けられている操縦桿17の操作量P1が入力される。統括制御装置50は、操縦桿17の操作量P1に応じて、左スポイラ112の角度の目標値である左スポイラ目標角度P2Aを算出し、この左スポイラ目標角度P2Aに関する信号を出力する。また、統括制御装置50は、操縦桿17の操作量P1に応じて右スポイラ212の角度の目標値である右スポイラ目標角度P2Bを算出し、この右スポイラ目標角度P2Bに関する信号を出力する。
【0039】
航空機10には、左アクチュエータ130及び右アクチュエータ230を制御するスポイラ制御装置60が搭載されている。スポイラ制御装置60は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。スポイラ制御装置60すなわちプロセッサにより実行される処理には、スポイラ制御方法が含まれる。スポイラ制御方法は、後述する異常検出処理と角度差判定処理と信号出力処理とを含む。なお、スポイラ制御装置60は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。コンピュータ可読媒体に格納されたプログラムにはスポイラ制御プログラムが含まれる。スポイラ制御プログラムは、異常検出処理と角度差判定処理と信号出力処理とをコンピュータに実行させる。
【0040】
スポイラ制御装置60には、左位置検出器139が検出する左ロッド実測距離R1Aに関する信号が入力される。また、スポイラ制御装置60には、左実測センサ116が検出する左スポイラ実測角度QAに関する信号が入力される。また、スポイラ制御装置60には、右位置検出器239が検出する右ロッド実測距離R1Bに関する信号が入力される。また、スポイラ制御装置60には、右実測センサ216が検出する右スポイラ実測角度QBに関する信号が入力される。また、スポイラ制御装置60には、統括制御装置50が出力する左スポイラ目標角度P2Aに関する信号、及び右スポイラ目標角度P2Bに関する信号が入力される。
【0041】
スポイラ制御装置60は、ロッド実測距離とスポイラの角度との関係性を表した変換マップを予め記憶している。スポイラ制御装置60は、この変換マップを利用して、ロッド実測距離とスポイラの角度とを適宜変換する。なお、以下の記載では、ロッド実測距離とスポイラの角度との変換に際して変換マップを利用していることをその都度説明することは省略する。
【0042】
スポイラ制御装置60は、左ロッド134の目標操作量である左ロッド操作量R3Aを算出する左操作量算出部62を有する。左操作量算出部62は、左スポイラ目標角度P2Aを取得するとともに、この左スポイラ目標角度P2Aを、基準位置からの左ロッド134の離間距離である左ロッド目標距離R2Aに変換する。また、左操作量算出部62は、左ロッド実測距離R1Aを取得するとともに、左ロッド実測距離R1Aと左ロッド目標距離R2Aとの差を補償することができるように、左ロッド操作量R3Aを算出する。例えば左ロッド実測距離R1Aが左ロッド目標距離R2Aよりも小さい場合、左ロッド134を左シリンダ132の中心軸線方向他方側に動作させるべく、左ロッド操作量R3Aは正の値となる。一方、左ロッド実測距離R1Aが左ロッド目標距離R2Aよりも大きい場合、左ロッド操作量R3Aは負の値になる。左操作量算出部62は、左ロッド操作量R3Aを算出すると当該左ロッド操作量R3Aに関する信号を出力する。なお、左ロッド操作量R3Aに関する信号は、実質的には、左ロッド操作量R3Aを左マニホールド131の油圧制御バルブを駆動するための電気信号に変換したものである。
【0043】
左操作量算出部62を構成する回路は、通信線63を介して左マニホールド131の油圧制御バルブに接続されている。この通信線63の途中には、当該通信線63を接続状態または遮断状態に切り替える左アクチュエータ接続スイッチ64が設けられている。この左アクチュエータ接続スイッチ64が接続状態である場合、左ロッド操作量R3Aに関する信号が油圧制御バルブに入力される。一方、この左アクチュエータ接続スイッチ64が遮断状態である場合、油圧制御バルブへの上記信号の入力が遮断される。油圧制御バルブへの上記信号の入力が遮断された場合、左アクチュエータ130は、左スポイラ112を基本位置まで戻すように動作する設定になっている。
【0044】
スポイラ制御装置60は、右ロッド234の目標操作量である右ロッド操作量R3Bを算出する右操作量算出部72を有する。右操作量算出部72は、左操作量算出部62と同様にして右ロッド操作量R3Bを算出する。すなわち、右操作量算出部72は、右スポイラ目標角度P2Bを右ロッド目標距離R2Bに変換し、この右ロッド目標距離R2Bと右ロッド実測距離R1Bとの差を補償することができるように、右ロッド操作量R3Bを算出する。そして、右操作量算出部72は、右ロッド操作量R3Bに関する信号を出力する。
【0045】
左操作量算出部62を構成する回路と同様、右操作量算出部72を構成する回路は、通信線73を介して右マニホールド231の油圧制御バルブに接続されている。この通信線73の途中には、当該通信線73を接続状態または遮断状態に切り替える右アクチュエータ接続スイッチ74が設けられている。右アクチュエータ接続スイッチ74は、左アクチュエータ接続スイッチ64と同様に機能する。そして、左アクチュエータ130と同様、右アクチュエータ接続スイッチ74が遮断状態に切り替えられて右アクチュエータ230への右ロッド操作量R3Bに関する信号の入力が遮断された場合、右アクチュエータ230は、右スポイラ212を基本位置まで戻すように動作する設定になっている。
【0046】
スポイラ制御装置60は、左スポイラ112又は右スポイラ212における展開位置側への異常動作を検出する異常検出部82を有する。この異常動作とは、スポイラを展開位置側へ動作させるように操縦桿17が操作されていないにも拘わらず、スポイラが展開位置側へ動作することである。
【0047】
異常検出部82は、3つの異常モードに係る左スポイラ112又は右スポイラ212の異常動作を検出する。ここでは、左スポイラ112を例として3つの異常モードを説明するが、右スポイラ212についても同様である。なお、3つの異常モードのいずれの場合も、左スポイラ112を動作させるための指令値である左ロッド操作量R3Aが不適切な値として算出され、その結果として左スポイラ112が展開位置側へ異常動作する。左ロッド操作量R3Aが不適切な値になるとは、詳細には、左ロッド操作量R3Aが不適切に正の値になることである。
【0048】
上記のとおり、左ロッド操作量R3Aは、左スポイラ目標角度P2A及び左ロッド実測距離R1Aを入力として算出される。第1異常モードは、上記入力の一方である左スポイラ目標角度P2Aを算出する統括制御装置50の回路に異常が生じる異常モードである。この第1異常モードでは、統括制御装置50の回路の異常に起因して左スポイラ目標角度P2Aが不適切な値、すなわち左スポイラ112を展開位置側に動作させる値として算出され、それに付随して左ロッド操作量R3Aが正の値になる。
【0049】
第2異常モードは、左ロッド操作量R3Aの算出に係るもう一つの入力である左ロッド実測距離R1Aを検出する左位置検出器139に異常が生じる異常モードである。この第2異常モードでは、左位置検出器139の異常に起因して左ロッド実測距離R1Aが不適切な値として検出され、それに付随して左ロッド操作量R3Aが正の値になる。詳細には、左位置検出器139のコイルが何らかの原因でショートすると、コイルに適切な電圧が発生せず、左ロッド134の位置に拘わらず左位置検出器139が左ロッド実測距離R1Aをゼロとして出力する。こうした場合において、左ロッド目標距離R2Aが正の値である場合、この左ロッド目標距離R2Aに左ロッド実測距離R1Aを近づけるべく左ロッド操作量R3Aが決定されることから、左ロッド操作量R3Aは正の値となる。このような、左ロッド実測距離R1Aがゼロ、且つ左ロッド目標距離R2Aが正、の状態が継続すると、左ロッド操作量R3Aは継続して正の値となる。この結果、左スポイラ112は展開位置側に異常動作し続ける。
【0050】
第3異常モードは、左ロッド操作量R3Aを算出する左操作量算出部62の回路に異常が生じる異常モードである。この第3異常モードでは、左操作量算出部62の回路の異常に起因して左ロッド操作量R3Aが正の値として算出され、それに伴って左スポイラ112が展開位置側に異常動作する。
【0051】
スポイラ制御装置60は、左スポイラ112の角度と、右スポイラ212の角度との差が規定値ZK以内であるか否かを判定する角度差判定部84を有する。角度差判定部84は、異常検出部82が3つの異常モードのいずれかに係る左スポイラ112又は右スポイラ212の異常動作を検出した場合に、上記角度の差に関する判定を行う。
【0052】
角度差判定部84は、異常検出部82が第1異常モード又は第3異常モードに係る異常動作を検出した場合、すなわち異常検出部82が位置検出器の異常に起因しない異常動作を検出した場合、左ロッド実測距離R1A及び右ロッド実測距離R1Bを取得するとともに、これらをスポイラの角度に変換して保持する。すなわち、角度差判定部84は、左ロッド実測距離R1Aを左スポイラ112の角度として取得し、右ロッド実測距離R1Bを右スポイラ212の角度として取得する。そして、角度差判定部84は、両スポイラの角度の差が規定値ZK内であるか否かを判定する。
【0053】
一方、角度差判定部84は、異常検出部82が第2異常モードに係る異常動作、すなわち位置検出器の異常に起因する異常動作を検出した場合、左スポイラ実測角度QA及び右スポイラ実測角度QBを取得するとともに、これらを補正した値を保持する。ここで、左スポイラ実測角度QAは、左スポイラ112に作用する風圧に伴う左スポイラ112の位置の変動分を含んでいる。右スポイラ実測角度QBについても同様である。上記補正は、このような変動分を除去するための補正である。このように、角度差判定部84は、上記変動分に係る補正を考慮しつつ、左スポイラ実測角度QAを左スポイラ112の角度として取得し、右スポイラ実測角度QBの補正値を右スポイラ212の角度として取得する。そして、角度差判定部84は、両スポイラの角度の差が規定値ZK内であるか否かを判定する。
【0054】
角度差判定部84は、上記規定値ZKを予め記憶している。ここで、左スポイラ112の角度と、右スポイラ212の角度とが異なっている場合、航空機10にはロールモーメントが作用する。上記規定値ZKは、航空機10の運航上無視できる程度のロールモーメントを生じる角度差のうちの最大値として、実験やシミュレーション等によって定められている。
【0055】
スポイラ制御装置60は、左スポイラ112を基本位置へ戻すための指令信号である左引き込み信号FAを出力する信号出力部86を有する。左引き込み信号FAは、左アクチュエータ接続スイッチ64を遮断状態に切り替える遮断信号となっている。信号出力部86は、右スポイラ212を基本位置へ戻すための指令信号である右引き込み信号FBも出力する。右引き込み信号FBは、右アクチュエータ接続スイッチ74を遮断状態に切り替える遮断信号となっている。
【0056】
信号出力部86は、異常検出部82が左スポイラ112及び右スポイラ212のいずれかの異常動作を検出した場合、異常動作しているスポイラに対する引き込み信号を出力する。一方で、信号出力部86は、異常動作していないスポイラに対する引き込み信号の出力を待機する。そして、信号出力部86は、角度差判定部84が左スポイラ112の比較用角度及び右スポイラ212の比較用角度の差が規定値ZK以内である判定すると、異常動作していないスポイラに対する引き込み信号を出力する。信号出力部86は、このような時間差信号出力処理を行う。
【0057】
信号出力部86は、例えば航空機10の着陸時のブレーキ中やロール飛行中といった、航空機10の様々な状態において上記時間差信号出力処理を行う。なお、航空機10の着陸時のブレーキ中では、左スポイラ112及び右スポイラ212は、同一の所定角度であってゼロよりも大きい所定角度に制御される。また、航空機10のロール飛行中では、左スポイラ112及び右スポイラ212は、互いに異なる角度に制御される。
【0058】
信号出力部86は、左スポイラ112及び右スポイラ212の一方の角度がゼロよりも大きく且つ他方の角度がゼロである状態において上記一方に異常動作が検出された場合、上記時間差信号出力処理を実行することなく双方のスポイラに同時に引き込み信号を出力する同時信号出力処理を行う。また、信号出力部86は、左スポイラ112及び右スポイラ212の一方の異常動作が検出されたときに他方のスポイラの角度が上記一方の角度より大きい場合も、上記時間差信号出力処理を実行することなく双方のスポイラに同時に引き込み信号を出力する同時信号出力処理を行う。時間差信号出力処理及び同時信号出力処理はいずれも、上記信号出力処理である。
【0059】
次に、異常検出部82が実行する異常検出処理について説明する。この異常検出処理は、左スポイラ112又は右スポイラ212の展開位置側への異常動作を検出するための処理である。この異常検出処理では、第1異常モード、第2異常モード、及び第3異常モードのそれぞれに係る異常動作が検出される。
【0060】
異常検出部82は、左スポイラ112の第1異常モードに係る異常動作の検出用に、操縦桿17の操作量P1と、統括制御装置50が算出する左スポイラ目標角度P2Aと、左操作量算出部62が算出する左ロッド操作量R3Aとを継続的に取得する。異常検出部82は、左ロッド操作量R3Aが正の値である状況が継続しており、且つ、操縦桿17の操作量P1に対して左スポイラ目標角度P2Aが過度に大きい状態が継続している、という第1条件が成立した場合、左スポイラ112に関する第1異常モードの異常動作を検出する。例えば、操縦桿17の操作量P1が、左スポイラ112を基本位置に配置すべき値であるにも拘わらず、左スポイラ目標角度P2Aが過度に大きい場合、統括制御装置50の回路の異常が疑われる。こうした状況を踏まえ、異常検出部82は、第1条件が成立した場合には統括制御装置50の回路に異常が生じていると判定して第1異常モードの異常動作を検出する。異常検出部82は、右スポイラ212についても、左スポイラ112と同様にして第1異常モードに係る異常動作を検出する。
【0061】
異常検出部82は、左スポイラ112の第2異常モードに係る異常動作の検出用に、左位置検出器139が検出する左ロッド実測距離R1Aと、左実測センサ116が検出する左スポイラ実測角度QAと、左操作量算出部62が算出する左ロッド操作量R3Aとを継続的に取得する。そして、異常検出部82は、左ロッド操作量R3Aが正の値である状況が継続しており、且つ、左ロッド実測距離R1Aがゼロである状況が継続しており、且つ、左ロッド実測距離R1Aの時間変化と左スポイラ実測角度QAの時間変化とが整合していない、という第2条件が成立した場合、左スポイラ112に関する第2異常モードの異常動作を検出する。例えば、左スポイラ実測角度QAが増加し続けているにも拘わらず左ロッド実測距離R1Aがゼロのままであれば、左位置検出器139の異常が疑われる。このような状況を踏まえ、異常検出部82は、第2条件が成立した場合には左位置検出器139に異常が生じていると判定して第2異常モードの異常動作を検出する。異常検出部82は、右スポイラ212についても、左スポイラ112と同様にして第2異常モードに係る異常動作を検出する。
【0062】
異常検出部82は、左スポイラ112の第3異常モードに係る異常動作の検出用に、統括制御装置50が算出する左スポイラ目標角度P2Aと、左操作量算出部62が算出する左ロッド操作量R3Aとを継続的に取得する。そして、異常検出部82は、左ロッド操作量R3Aが正の値である状況が継続しており、且つ、左スポイラ目標角度P2Aの時間変化と左ロッド操作量R3Aの時間変化とが整合していない、という第3条件が成立した場合、左スポイラ112に関する第3異常モードの異常動作を検出する。例えば、左スポイラ目標角度P2Aが一定のままであるのに対し、左ロッド操作量R3Aが過度に長時間に亘って正の値となっている場合、左操作量算出部62の回路の異常が疑われる。このような状況を踏まえ、異常検出部82は、第3条件が成立した場合には左操作量算出部62の回路に異常が生じていると判定して第3異常モードの異常動作を検出する。異常検出部82は、右スポイラ212についても、左スポイラ112と同様にして第3異常モードに係る異常動作を検出する。
【0063】
なお、各異常モードの検出に際して左ロッド操作量R3Aが正の値である状況が継続していることを判定するための基準時間に関して、異常検出部82は、左ロッド操作量R3Aが小さいときには大きいときよりも上記基準時間を長く設定する。そのため、左ロッド操作量R3Aが小さい正の値である場合、左ロッド操作量R3Aが大きい正の値である場合に比べて、異常動作を検出するまでに時間がかかる。
【0064】
次に、角度差判定部84及び信号出力部86が実行するスポイラ引き込み処理について説明する。このスポイラ引き込み処理は、左スポイラ112及び右スポイラ212のいずれかに異常動作が検出された際にこれらの双方を基本位置まで引き込むための処理である。
【0065】
異常検出部82が左スポイラ112及び右スポイラ212の一方に関して第1異常モード、第2異常モード、及び第3異常モードのいずれかに係る異常動作を検出すると、信号出力部86がスポイラ引き込み処理を開始する。図3に示すように、信号出力部86は、先ずステップS1の処理を実行する。ステップS1において、信号出力部86は、異常動作が検出されたスポイラ(以下、異常検出側のスポイラと称する。)に対する引き込み信号を出力する。すなわち、信号出力部86は、異常検出側のスポイラに係るアクチュエータ接続スイッチに遮断信号を出力する。これに伴い、アクチュエータ接続スイッチが遮断状態に切り替わる。そして、その切り替わり応じたアクチュエータの動作により、異常検出側のスポイラが基本位置側へ動作を開始する。ステップS1の処理は、信号出力処理である。信号出力部86は、ステップS1の処理を実行すると、処理をステップS2に進める。
【0066】
ステップS2において、角度差判定部84は、異常検出側のスポイラの異常動作が位置検出器の異常に起因したものであるか否かを判定する。角度差判定部84は、異常検出部82が第1モード又は第3モードに係る異常動作を検出している場合、スポイラの異常動作が位置検出器の異常に起因したものではないと判定する(ステップS2:NO)。この場合、角度差判定部84は、処理をステップS3Bに進め、異常検出側のスポイラ及びもう一方のスポイラである非検出側のスポイラに係るロッド実測距離の取得を開始する。角度差判定部84は、双方のスポイラに係るロッド実測距離を取得すると、それぞれのロッド実測距離をスポイラの角度に変換して保持する。なお、角度差判定部84は、スポイラ引き込み処理が終了するまでロッド実測離間の取得を継続する。角度差判定部84は、ステップS3Bの処理を実行すると、処理をステップS4に進める。
【0067】
一方、ステップS2の判定において、角度差判定部84は、異常検出部82が第2モードに係る異常動作を検出している場合、スポイラの異常動作が位置検出器の異常に起因したものであると判定する(ステップS2:YES)。この場合、角度差判定部84は、処理をステップS3Aに進め、異常検出側及び非検出側の双方のスポイラ実測角度の取得を開始する。角度差判定部84は、取得したスポイラ実測角度を補正してそれぞれのスポイラの角度として扱う。なお、角度差判定部84は、スポイラ引き込み処理が終了するまでスポイラ実測角度の取得を継続する。角度差判定部84は、ステップS3Aの処理を実行すると、処理をステップS4に進める。
【0068】
ステップS4において、角度差判定部84は、非検出側のスポイラの角度がゼロよりも大きいか否かを判定する。角度差判定部84は、非検出側のスポイラの角度がゼロである場合(ステップS4:NO)、処理をステップS7に進める。
【0069】
ステップS7において、信号出力部86は、非検出側のスポイラに係るアクチュエータ接続スイッチに対して、引き込み信号である遮断信号を出力する。これに伴い、アクチュエータ接続スイッチが遮断状態に切り替わる。ここで、ステップS4がNOと判定されてステップS7に処理が進む場合、既に非検出側のスポイラは基本位置に配置されていることから、スポイラはそのままの状態が維持される。ただし、アクチュエータ接続スイッチが遮断状態に切り替えられることで、その後のスポイラの使用が中止されることになる。ステップS7の処理を実行すると、信号出力部86は、スポイラ引き込み処理の一連の処理を終了する。ステップS7の処理は、信号出力処理である。また、ステップS4がNOと判定された場合のステップS7の処理は、上記同時信号出力処理である。
【0070】
さて、ステップS4の判定において、角度差判定部84は、非検出側スポイラの角度がゼロよりも大きい場合(ステップS4:YES)、処理をステップS5に進める。
ステップS5において、角度差判定部84は、異常検出側のスポイラの角度が非検出側のスポイラの角度よりも大きいか否かを判定する。角度差判定部84は、異常検出側のスポイラの角度が非検出側のスポイラの角度以下の場合(ステップS5:NO)、処理をステップS7に進める。この場合、ステップS7において、信号出力部86は、非検出側のスポイラに係るアクチュエータ接続スイッチに対して引き込み信号を出力する。これに伴いアクチュエータ接続スイッチが遮断状態に切り替わり、非検出側のスポイラが基本位置側へ動作を開始する。上記のとおり、ステップS7の処理を実行すると、信号出力部86はスポイラ引き込み処理の一連の処理を終了する。また、ステップS5がNOと判定された場合のステップS7の処理は、上記同時信号出力処理である。
【0071】
一方、ステップS5において、角度差判定部84は、異常検出側のスポイラの角度が非検出側のスポイラの角度よりも大きい場合(ステップS5:YES)、処理をステップS6に進める。
【0072】
ステップS6において、角度差判定部84は、異常検出側のスポイラの角度と、非検出側のスポイラの角度との差が規定値ZK以内であるか否かを判定する。角度差判定部84は、異常検出側のスポイラの角度と、非検出側のスポイラの角度との差が規定値ZKよりも大きい場合(ステップS6:NO)、再度ステップS6の処理を実行する。角度差判定部84は、両スポイラの角度の差が規定値ZK以内になるまでステップS6の処理を繰り返す。そして、角度差判定部84は、両スポイラの角度の差が規定値ZK以内になると(ステップS6:YES)、ステップS7に処理に進める。なお、ステップS6の処理は、角度差判定処理である。
【0073】
ステップS7において、信号出力部86は、非検出側のスポイラに係るアクチュエータ接続スイッチに対して引き込み信号を出力する。これに伴い、非検出側のスポイラが基本位置側へ動作を開始する。この後、信号出力部86は、スポイラ引き込み処理の一連の処理を終了する。なお、ステップS1の処理、及びステップS6がYESと判定されてその後ステップS7を行う一連の処理は、時間差信号出力処理である。
【0074】
次に、本実施形態の作用について説明する。
(A)ブレーキ中の例
航空機10のブレーキ中の時刻A1以降において、図4の実線で示すように左スポイラ112が基本位置と展開位置との間の所定のブレーキ角度に制御され、図4の点線で示すように右スポイラ212も上記ブレーキ角度に制御されているものとする。そして、時刻A1よりも後の時刻A2において左スポイラ112に第2異常モードに係る異常、すなわち左位置検出器139に起因した異常が発生したものとする。この場合、図4の実線で示すように、時刻A2以降は左スポイラ112が展開位置側に異常動作する。そして、時刻A2よりも後の時刻A3になると、異常検出部82が左スポイラ112に係る第2異常モードの異常動作を検出する。
【0075】
異常検出部82が時刻A3で異常動作を検出すると、信号出力部86は異常動作が検出された左スポイラ112に対する左引き込み信号FAを出力する(ステップS1)。これに伴い、図4の実線で示すように左スポイラ112が基本位置側への動作を開始する。このとき、信号出力部86は右スポイラ212に対する右引き込み信号FBの出力を待機することから、左スポイラ112が基本位置側への動作を開始した時刻A3の後も、図4の点線で示すように右スポイラ212はブレーキ角度に維持される。
【0076】
時刻A3以降では、左スポイラ112が基本位置側に動作することで、当該左スポイラ112は徐々に右スポイラ212の位置に近づき、互いの角度の差が小さくなっていく。なお、左スポイラ112の異常動作が左位置検出器139に起因するものであることから(ステップS2:YES)、角度差判定部84は、左スポイラ実測角度QA及び右スポイラ実測角度QBをそれぞれのスポイラの角度として取得している(ステップS3A)。時刻A3よりも後の時刻A4において両スポイラの角度の差が規定値ZK以下になると(ステップS6:YES)、信号出力部86が右スポイラ212に対する右引き込み信号FBを出力する(ステップS7)。これに伴い、図4の点線で示すように右スポイラ212が基本位置側への動作を開始する。
【0077】
この後、左スポイラ112と右スポイラ212とは互いの角度差が相当に小さい状態を維持しながら基本位置側へ動作する。そして、時刻A5で左スポイラ112及び右スポイラ212の双方が基本位置に配置される。
【0078】
(B)ロール飛行中の例
ロール飛行中の時刻B1以降において、図5の実線で示すように左スポイラ112が基本位置に制御され、図5の点線で示すように右スポイラ212が所定のロール用角度に制御されているものとする。そして、時刻B2において左スポイラ112に第1異常モードに係る異常、すなわち統括制御装置50の回路に起因した異常が発生したものとする。この場合、図5の実線で示すように、時刻B2以降は左スポイラ112が展開位置側に異常動作する。そして、時刻B2よりも後の時刻B3になると、異常検出部82が左スポイラ112に係る第1異常モードの異常動作を検出する。なお、本例では、時刻B3では、左スポイラ112が右スポイラ212よりも展開位置側に位置しているものとする。
【0079】
異常検出部82が時刻B3で異常動作を検出すると、ブレーキ中の場合と同様、信号出力部86が左スポイラ112に対する左引き込み信号FAを出力し(ステップS1)、それに伴って、図5の実線で示すように左スポイラ112が基本位置側への動作を開始する。このとき、信号出力部86は右スポイラ212に対する右引き込み信号FBの出力を待機することから、左スポイラ112が基本位置側への動作を開始した時刻B3の後も、図5の点線で示すように右スポイラ212はロール用角度に維持される。
【0080】
時刻B3以降では、左スポイラ112が基本位置側に動作することで、当該左スポイラ112は徐々に右スポイラ212の位置に近づき、互いの角度の差が小さくなっていく。なお、左スポイラ112の異常動作が左位置検出器139の異常に起因するものではないことから(ステップS2:NO)、角度差判定部84は、左ロッド実測距離R1A及び右ロッド実測距離R1Bをそれぞれのスポイラの角度として取得している(ステップS3A)。時刻B3よりも後の時刻B4において両スポイラの角度の差が規定値ZK以下になると(ステップS6:YES)、信号出力部86が右スポイラ212に対する右引き込み信号FBを出力する(ステップS7)。これに伴い、図5の点線で示すように右スポイラ212が基本位置側への動作を開始する。
【0081】
この後、ブレーキ中の場合と同様、左スポイラ112と右スポイラ212とは互いの角度差が相当に小さい状態を維持しながら基本位置側へ動作する。そして、時刻B5で左スポイラ112及び右スポイラ212の双方が基本位置に配置される。
【0082】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)左スポイラ112の角度と右スポイラ212の角度とが異なっている場合、航空機10にはロールモーメントが作用する。さて、上記作用に記載したブレーキ中の例において、仮に、左スポイラ112に対する左引き込み信号FAを出力した時刻A3で、右スポイラ212に対しても右引き込み信号FBを出力するものとする。この場合、図4の二点鎖線で示すように、右スポイラ212も時刻A3から基本位置側への動作を開始する。すなわち、両スポイラの角度の差が相応に大きい状態でこれらの引き込みを開始することになる。この場合、これらのスポイラを引き込んでいる間においてはこれらのスポイラの角度の差が維持され、且つ右スポイラ212が基本位置に戻った後も左スポイラ112が基本位置に戻るまでは角度の差が存在し続ける。したがって、双方の引き込みが完了するまでは航空機10にロールモーメントが作用し続ける。また、上記作用に記載したロール飛行中の例において、仮に、左スポイラ112に対する左引き込み信号FAを出力した時刻B3で右スポイラ212に対しても右引き込み信号FBを出力した場合も、図5の二点鎖線で示すように右スポイラ212は時刻B3から基本位置側へ動作を開始することから、両スポイラの角度の差が相応に大きい状態でこれらの引き込みが行われる。そして、左スポイラ112が基本位置に戻るまでは航空機10にロールモーメントが作用し続ける。このようにロールモーメントが作用し続ける状況は好ましくない。特に、第2モードに係る異常動作が発生したとき、すなわち左位置検出器139に異常が生じて左ロッド実測距離R1Aがゼロである場合において、さらに左ロッド目標距離R2Aがゼロよりも僅かに大きい状況であれば、左ロッド操作量R3Aが小さな正である状況が継続される。この場合、上記した異常検出のための条件に因り、異常検出部82が異常動作を検出するまでに相当に時間がかかる。この場合、航空機10にロールモーメントが作用し続ける時間が相当に長くなり、好ましくない。
【0083】
この点、上記実施形態のスポイラ引き込み処理では、時間差信号出力処理を行う。すなわち、左スポイラ112の引き込みを開始(ステップS1)した後、両スポイラの角度の差が相当に小さくなってから(ステップS6:YES)、右スポイラ212の引き込みを開始する(ステップS7)。この場合、右スポイラ212の引き込みを開始した以降では、両スポイラの角度の差が相当に小さいことから、航空機10にロールモーメントが略作用しない。そのため、例えば航空機10のブレーキ中やロール飛行中において、左スポイラ112の異常動作したことに付随して両スポイラを基本位置に戻す際に航空機10に作用するロールモーメントを低減できる。
【0084】
(2)左実測センサ116が検出する左スポイラ実測角度QAは、左スポイラ112に作用する風圧に伴う左スポイラ112の位置の変動分を含んでいる。そのため、左スポイラ実測角度QAを左スポイラ112の角度として利用する場合、上記変動分を補正した値を左スポイラ112の角度として扱うことになる。このような補正値を利用する場合に比べ、左位置検出器139が検出する左ロッド実測距離R1Aを変換して左スポイラ112の角度として利用する場合のほうが、左スポイラ112の角度を精度よく把握できる。右スポイラ212の角度についても同様である。
【0085】
そこで、スポイラ引き込み処理では、左位置検出器139に異常が生じていない場合には、左ロッド実測距離R1Aを変換して左スポイラ112の角度として扱う。同様に、右位置検出器239に異常が生じていない場合には、右ロッド実測距離R1Bを変換して右スポイラ212の角度として扱う。こうした角度を用いて角度の差の判定を行うことで、当該判定を精度よく行うことができる。
【0086】
一方で、左位置検出器139に異常が生じたときには、左位置検出器139の検出結果を信頼できないことから、左ロッド実測距離R1Aを左スポイラ112の角度として扱うのは不適切である。右位置検出器239についても同様である。そこで、スポイラ引き込み処理では、左位置検出器139や右位置検出器239に異常が生じたときには、左実測センサ116や右実測センサ216の検出値であるスポイラ実測角度を補正してスポイラの角度として利用する。これにより、左位置検出器139や右位置検出器239に異常が生じたときでも、相応に精度よく角度の差を判定できる。
【0087】
(3)スポイラ引き込み処理では、一方のスポイラに異常動作が検出されたときに他方のスポイラが基準位置に配置されている場合(ステップS4:NO)、角度差判定処理を行うことなく同時信号出力処理を実行して双方のスポイラに係るアクチュエータ接続スイッチを遮断状態にする。この場合、角度差判定処理を行わないため、角度差判定処理を行うための計算処理の負担がスポイラ制御装置60にかからない。同様に、スポイラ引き込み処理では、一方のスポイラに異常動作が検出されたときに他方のスポイラの角度が上記一方のスポイラの角度よりも大きい場合(ステップS5:NO)、角度差判定処理を行うことなく同時信号出力処理を行う。この場合も、上と同様の効果を得られる。
【0088】
(4)上記(3)に記載したとおり、スポイラ引き込み処理では、一方のスポイラに異常動作が検出されたときに他方のスポイラの角度が上記一方のスポイラの角度よりも大きい場合(ステップS5:NO)、同時信号出力処理を行う。これにより、双方のスポイラの使用を速やかに中止できる。
【0089】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・異常検出処理に関して、第1異常モードに係る異常動作の検出条件である第1条件の内容は、上記実施形態の内容に限定されない。第1条件は、統括制御装置50の回路の異常を検出できる内容であればよい。
【0090】
・上記変更例と同様、第2異常モードに係る異常動作の検出条件である第2条件の内容は、上記実施形態の内容に限定されない。第2条件は、左位置検出器139や右位置検出器239の異常を検出できる内容であればよい。
【0091】
・上記変更例と同様、第3異常モードに係る異常動作の検出条件である第3条件の内容は、上記実施形態の内容に限定されない。第3条件は、左操作量算出部62や右操作量算出部72の回路の異常を検出できる内容であればよい。
【0092】
・左スポイラ112に異常動作が検出されたときに右スポイラ212が基準位置に配置されている場合(ステップS4:NO)、ステップS7の処理によって即座に右アクチュエータ接続スイッチ74を遮断状態にするのではなく、左スポイラ112が基本位置に戻ったタイミングで右アクチュエータ接続スイッチ74を遮断状態にしてもよい。すなわち、ステップS4がNOの状況において時間差信号出力処理を行ってもよい。
【0093】
・位置検出器の異常の有無に拘わらず、左スポイラ実測角度QA及び右スポイラ実測角度QBを利用して角度差判定処理を行ってもよい。
・左引き込み信号FAは、左アクチュエータ接続スイッチ64に対する遮断信号に限定されない。左引き込み信号FAは、左スポイラ112を基本位置に戻すための指令信号であればよい。例えば、左引き込み信号FAは、左スポイラ112を基本位置に戻すように左ロッド134を強制的に動作させる左ロッド操作量R3Aを算出する指令信号でもよい。右引き込み信号FBについても同様である。
【0094】
・左アクチュエータ130は、電気油圧式に限定されない。左アクチュエータ130は、例えば左ロッドの動作がモータによって駆動される電気機械式でもよい。右アクチュエータ230についても同様である。
【0095】
・異常検出部82、角度差判定部84、及び信号出力部86と、左操作量算出部62及び右操作量算出部72とは別々の制御装置に設けられていてもよい。すなわち、スポイラ制御装置60は、異常検出部82、角度差判定部84、及び信号出力部86のみで構成されていてもよい。またスポイラ制御装置60は、左操作量算出部62及び右操作量算出部72以外の機能部を含んで構成されていてもよい。
【0096】
・左シリンダ132に対する左ロッド134の位置を規定するための基準位置は、上記実施形態の位置に限定されない。基準位置は、例えば、左シリンダ132におけるその中心軸線方向一方側の端でもよい。右シリンダ232に対する右ロッド234の位置を規定するための基準位置についても同様である。
【0097】
・左実測センサ116は、回転軸の回転位置を検出するものに限定されない。左実測センサ116は、左側の主翼110に対する左スポイラ112の角度を検出できるものであればよい。例えば、左実測センサ116は、主翼110に対する左スポイラ112の位置を撮像するイメージセンサでもよい。右実測センサ216についても同様である。
【符号の説明】
【0098】
10…航空機、60…スポイラ制御装置、82…異常検出部、84…角度差判定部、86…信号出力部、110…主翼、112…左スポイラ、116…左実測センサ、130…左アクチュエータ、132…左シリンダ、134…左ロッド、139…左位置検出器、210…主翼、212…右スポイラ、216…右実測センサ、230…右アクチュエータ、232…右シリンダ、234…右ロッド、239…右位置検出器。
図1
図2
図3
図4
図5