IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特許7553400積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム
<>
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図1
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図2
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図3
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図4
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図5
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図6
  • 特許-積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240910BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20240910BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240910BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240910BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
B33Y50/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021070002
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164485
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 旭則
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158382(JP,A)
【文献】特開2018-027558(JP,A)
【文献】特開2018-149570(JP,A)
【文献】特開2020-001059(JP,A)
【文献】特開2020-006378(JP,A)
【文献】特開2019-089108(JP,A)
【文献】特開2020-049506(JP,A)
【文献】特開2014-018809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/032
B33Y 10/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する工程と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める工程と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定する工程と、
測定された前記溶着ビードの実測高さと、予め定めた前記溶着ビードの計画高さに対応する前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分を低減するように、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める工程と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する工程と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成する工程と、
を備え
前記溶着ビードの形成パスの始端部及び終端部の少なくともいずれかの部位において、前記基準溶接速度に前記差分を補償する溶接速度の増減調整量を加算することにより、前記溶接速度が決定されることを特徴とする
積層造形方法。
【請求項2】
前記基準溶接速度は、予め定めた前記溶着ビードの計画高さと、測定された前記溶加材送給速度から推定される前記溶着ビードの推定高さとの差分を低減する速度に設定される、
請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記計画高さと前記推定高さとの差分は、前記溶加材送給速度の設定値と、測定された前記溶加材送給速度との相違によって生じたものである、請求項2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記計画高さと前記推定高さとの差分を、同一層内における前記溶着ビードの平均高さで求める、
請求項2又は3に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記計画高さと前記推定高さとの差分を、前記溶着ビードの層毎又はビード形成パス毎に求める、請求項2又は3に記載の積層造形方法。
【請求項6】
溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する溶加材速度測定部と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める基準溶接速度設定部と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定するビード高さ測定部と、
測定された前記溶着ビードの実測高さと、予め定めた前記溶着ビードの計画高さに対応する前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分を低減するように、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める補正値設定部と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する溶接速度決定部と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成するビード形成部と、
を備え、
前記溶接速度決定部は、前記溶着ビードの形成パスの始端部及び終端部の少なくともいずれかの部位において、前記基準溶接速度に前記差分を補償する溶接速度の増減調整量を加算することにより、前記溶接速度を決定する積層造形装置。
【請求項7】
溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する機能と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める機能と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定する機能と、
測定された前記溶着ビードの実測高さと、予め定めた前記溶着ビードの計画高さに対応する前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分を低減するように、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める機能と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する際、前記溶着ビードの形成パスの始端部及び終端部の少なくともいずれかの部位において、前記基準溶接速度に前記差分を補償する溶接速度の増減調整量を加算することにより、前記溶接速度を決定する機能と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタには、レーザ又は電子ビーム、更にはアーク等の熱源を用いて、金属粉体又は金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層することで積層造形物を作製するものがある。例えば、特許文献1には、ワイヤ状の金属材料(溶加材)を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して、積層造形物を製造する場合に、溶接出力電流及び溶加材送給速度をサンプリングして、これらの情報から溶接トーチのコンタクトチップから溶接母材までの距離を推定し、ビード高さの誤差が小さくなるように溶接速度及び溶加材送給速度を調整する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-158382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による溶接層の高さの調整は、必ずしも適切に行われるとは限らない。例えば、溶接条件に何らかの変動が生じた場合に、その変動の原因となる特定の溶接条件の設定値はそのままにされ、他の溶接条件の設定値が変更されることで、発生した変動を調整する動作になることがある。その場合、期待した調整動作にならない場合がある。
例えば、溶加材を溶接トーチに供給する溶加材送給速度については、ビード形成時に装置の制御システムがその速度を設定して溶加材を送給している。この溶加材送給速度に応じて他の溶接条件の設定値を変更する場合には、制御で設定された指令値を、実際の溶加材供給速度と同一であるとみなして駆動制御に用いることが多い。
そのため、制御の指令値と実際の送給速度とが何らかの要因によって相違した場合には、適正な駆動制御が行われず、その結果、溶接層の高さが変動して、積層造形物に形状誤差が発生してしまう。
【0005】
そこで本発明は、溶加材の送給速度が正確に把握されて、より正確に溶着ビードの高さ管理が行え、高精度な積層造形物が得られる積層造形方法、積層造形装置、及び積層造形物を造形するプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する工程と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める工程と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定する工程と、
測定された前記溶着ビードの高さと、前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分に応じて、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める工程と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する工程と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成する工程と、
を備える積層造形方法。
(2) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する溶加材速度測定部と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める基準溶接速度設定部と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定するビード高さ測定部と、
測定された前記溶着ビードの高さと、前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分に応じて、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める補正値設定部と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する溶接速度決定部と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成するビード形成部と、
を備える積層造形装置。
(3) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する機能と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める機能と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定する機能と、
測定された前記溶着ビードの高さと、前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分に応じて、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める機能と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する機能と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶加材の送給速度が正確に把握されて、より正確に溶着ビードの高さ管理が行える。これにより、高精度な積層造形物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、積層造形装置を示す概略構成図である。
図2図2は、制御部と、制御部に接続される各部との機能ブロック図である。
図3図3は、積層造形物の造形手順を示すフローチャートである。
図4図4は、データベースに登録される溶加材送給速度と基準溶接速度との関係を示すグラフである。
図5図5は、形成した溶着ビードと、その溶着ビードの計画線とを示す説明図である。
図6図6は、溶着ビードの計画高さ誤差と溶接速度との対応関係を示す説明図である。
図7図7は、溶着ビードのビード形成パスの始端部と終端部とにおけるビード高さの変化特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<積層造形装置>
図1は、積層造形装置を示す概略構成図である。
本構成の積層造形装置100は、積層造形物11を製造する装置であって、溶接ロボット13と、ロボットコントローラ15と、電源部17と、溶加材供給部19と、形状センサ27及びセンサコントローラ21と、制御部23とを備える。
【0010】
溶接ロボット13は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けた溶接トーチ25には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。溶接トーチ25の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0011】
溶接トーチ25は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。ここで用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接及び炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、又は、TIG溶接及びプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0012】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流を給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ25は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0013】
また、溶接ロボット13には、溶接トーチ25の近傍に形状センサ27が設けられている。形状センサ27は、照射したレーザ光の反射光を検出して、高さ情報を取得するレーザセンサであってもよく、3次元形状の計測が可能なカメラであってもよい。センサコントローラ21は、形状センサ27の出力に応じて求められる積層造形物11(後述する溶着ビード)の形状プロファイルを制御部23に出力する。
【0014】
ロボットコントローラ15は、制御部23からの指令を受けて溶接ロボット13の各部を駆動する。電源部17は、ロボットコントローラ15を通じて溶接ロボット13の溶接トーチ25に溶接電流、溶接電圧を供給する。
【0015】
溶加材供給部19は、溶加材Mが巻回されたリール29と、リール29からに引き出され、溶接ロボット13に向けて送給される溶加材Mの送給速度を測定するエンコーダ31と、を備える。
【0016】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、又は、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0017】
制御部23は、積層造形装置100の上記した各部を統括制御する。この制御部23は、CPU、メモリ、及びストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、メモリ又はストレージ上のプログラム(造形プログラム)を実行することで、積層造形物11を造形する。
【0018】
この積層造形装置100では、制御部23が、メモリ又はストレージに記憶された造形プログラムを実行して、溶接ロボット13及び電源部17を駆動する。つまり、制御部23は、造形プログラムに設定された手順(ビード形成パス)に従って溶接ロボット13及び電源部17を駆動して、溶接トーチ25をビード形成パスに沿って移動させると共に、トーチ先端で溶加材Mをアークにより加熱して、溶融した溶加材Mをベースプレート33上に盛り付ける。これにより、ベースプレート33上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードが形成され、この溶着ビードを順次に積層することで積層造形物11を造形する。ここでいう造形プログラムとは、溶接ロボット13の移動又は電源部17の制御等の手順がシーケンシャルに記録された命令コード群であり、制御部23は、造形プログラムの命令コードを順次に実行する。
【0019】
つまり、上記した溶接ロボット13、ロボットコントローラ15、及び電源部17がビード形成部35として機能して、積層造形物11が造形される。
【0020】
なお、ここで示す積層造形装置100の構成は一例であって、他の構成であってもよい。例えば、溶接トーチ25を固定してベースプレート33を移動させたり、溶接トーチ25及びベースプレート33を移動させたりすることで、溶接トーチ25とベースプレート33とを相対移動させ、積層造形物11を造形してもよい。
【0021】
また、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム若しくはレーザを用いる加熱方式等、又は他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0022】
次に、上記構成の積層造形装置100により積層造形物を造形する手順を説明する。
図2は、制御部23と、制御部23に接続される各部との機能ブロック図である。
制御部23は、溶加材速度測定部41と、基準溶接速度設定部43と、ビード高さ測定部45と、補正値設定部47と、溶接速度決定部49と、を備え、各部を概略的に次のように機能させて、所望の形状の積層造形物をビード形成部35に造形させる。
【0023】
溶加材速度測定部41は、溶着ビードの形成時にエンコーダ31の出力から溶加材Mを溶接トーチ25へ送る溶加材送給速度を測定する。
【0024】
基準溶接速度設定部43は、詳細は後述するが、測定された溶加材送給速度と、その溶加材送給速度に応じて設定される基準溶接速度との関係を表すデータベースDBを参照して、測定された溶加材送給速度から、予め用意された所定の換算式、又は対応表等によって、対応する基準溶接速度を求める。
【0025】
ビード高さ測定部45は、形状センサ27からの出力に応じてセンサコントローラ21が作成した形状プロファイルの情報から、形成した溶着ビードの高さを測定する。
【0026】
補正値設定部47は、測定された溶着ビードの高さと、溶接トーチ25の先端から突出した溶加材Mの先端の高さとの差に応じて、これから形成する溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める。
【0027】
溶接速度決定部49は、基準溶接速度を、溶接速度補正値を用いて補正して、高さ調整された溶着ビードを形成するための溶接速度を決定する。
【0028】
そして、制御部23は、決定した溶接速度で溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成させる指令をビード形成部35に出力し、溶着ビードを、ビード高さを調整しながら形成させる。
【0029】
次に、上記した積層造形物の具体的な造形手順を更に詳細に説明する。
図3は、積層造形物の造形手順を示すフローチャートである。以下、図1図2を適宜参照しながら説明する。
制御部23は、造形する積層造形物の形状に応じた造形プログラムを読み込み、読み込んだ造形プログラムに応じて積層造形装置100の各部を駆動して溶着ビードを形成する(S11)。
【0030】
溶着ビードを形成する工程(S11)においては、溶接ロボット13により溶接トーチ25を移動させながら溶着ビードを形成するとともに、溶加材速度測定部41が溶接トーチ25に供給する溶加材Mの溶加材送給速度Vwireを、エンコーダ31の出力信号により測定する(S1a)。また、センサコントローラ21が、形成後の溶着ビードの高さを検出した形状センサ27の出力信号から形状プロファイルを測定する(S1b)。
【0031】
次に、基準溶接速度設定部43は、予め用意されたデータベースDBを参照して、測定された溶加材送給速度Vwireに対応する基準溶接速度V(Vwire)を求める(S2)。このデータベースDBには、溶加材送給速度Vwireと、その速度で溶接可能な基準溶接速度Vとの関係が保存されている。データベースDBは、溶加材送給速度Vwireと基準溶接速度Vとの対応表であってもよく、演算式であってもよい。
【0032】
基準溶接速度V(Vwire)の計算方法としては、例えば、溶接中に計測した溶加材送給速度Vwireからリアルタイムで計算する方法と、前層又は前パスの溶着ビード形成時における溶加材送給速度Vwireの平均値から計算する方法とがある。
【0033】
図4は、データベースDBに登録される溶加材送給速度Vwireと基準溶接速度Vとの関係を示すグラフである。このグラフは一例であって、装置構成、材料等の条件によって双方の関係は変化する。
図4に示すように、データベースDBは、溶加材送給速度Vwireが増えるほど、基準溶接速度Vが増加する特性となっており、この関係は、実験的に又はモデルを用いた解析により求められる。例えば、エンコーダ31により溶加材送給速度Vwireを測定したところ、設定値であるQ1からQ2にずれていた場合、基準溶接速度設定部43は、基準溶接速度V(Vwire)を、R1からR2に変更する。この基準溶接速度V(Vwire)の設定については、詳細を後述する。
【0034】
図5は、形成した溶着ビードBと、その溶着ビードBの計画線51とを示す説明図である。
計画線51は、溶着ビードBの目標形状であって、溶着ビードBの高さHは、溶接トーチ25の先端から突出した溶加材Mの先端の高さに対応する。この高さHの寸法は、溶接ロボット13を駆動させる座標情報から幾何学的に求められる。
【0035】
ビード高さ測定部45は、センサコントローラ21からの形状プロファイルの情報から得られる溶着ビードの高さHの実測値と、造形プログラムから求められる溶着ビードの計画高さHとの差(計画高さ誤差)Δh(=H-H)を求める(S3)。
【0036】
そして、補正値設定部47は、求めた計画高さ誤差Δhに応じた溶接速度補正値を求める。
図6は、溶着ビードの計画高さ誤差と溶接速度との対応関係を示す説明図である。
図6に示すように、溶接トーチ25を移動させる溶接速度は、計画高さ誤差Δhに応じて補正して、この補正された溶接速度で溶着ビードを形成する。
【0037】
例えば、計画高さ誤差Δhが0であった場合の溶接速度(溶加材送給速度Vwireから求められる基準溶接速度V)が、点P1で示す溶接速度Vaであるとする。仮に、計画高さ誤差Δhが-δだけ生じた場合、溶接速度を予め設定された基準の特性線L1に沿った点P2における溶接速度Va2に変化させる。しかし、その場合には溶接速度の補正量が過大となってビード高さの制御が不安定になることがある。そこで、特性線L1のゲイン(特性線の傾斜)を意図的に軽減させた特性線L2を用いて、-δに対応する点P3における溶接速度Va3を設定する。
【0038】
ここでは特性線L2のゲインを特性線L1の1/4にしているが、ゲインは実験、解析等による知見に基づいて適宜に設定される。また、特性線L1、L2及び後述するL3は、基準とする溶接速度Vaの±30%の範囲で設定して、補正量の上限を設定するのが好ましい。
【0039】
このようにして、計画高さ誤差Δhが生じた場合に、この計画高さ誤差Δhに応じて溶接速度を調整(VaからVa3に変更)する補正値を設定する(S4)。この補正値で溶接速度を補正することで、形成する溶着ビードの高さを、オーバーシュート及びハンチングを抑制しつつ計画高さにいち早く一致させることができる。
【0040】
そして、本構成による積層造形方法においては、上記の補正に加え、溶加材供給部19で溶加材送給速度Vwireを測定することにより、上記した溶接速度Vaの設定値の信頼性をより高めている。
例えば、溶加材送給速度Vwireの設定値が前述した図4に示すQ1であったとき、実際にはQ2の速度であったとする。従来では、その場合であっても基準溶接速度R1を図6の点P1とし、点P1を中心に計画高さ誤差Δhに応じて特性線L2に沿った溶接速度に設定していた。この方法では、溶着ビードの高さを、設定高さに制御することが難しくなる。
【0041】
そこで、本構成では、溶加材送給速度Vwireを実測して、その測定結果がQ2であったとすると、基準溶接速度Vを、Q2に対応するR2とし、このR2を中心に計画高さ誤差Δhに応じた溶接速度に設定する。つまり、図6に示す点P1からR1-R2だけ溶接速度を補正した点P4を中心とし、特性線L2を、点P4を通るように平行移動した特性線L3を設定する。そして、この特性線L3に沿って、設定高さ誤差Δhに応じた溶接速度を求める(S5)。
【0042】
つまり、溶接速度Vweld は、下式により設定される。
Vweld =V(Vwire) + V(Δh)
【0043】
ここで、V(Vwire)は、溶加材送給速度の実測値に応じた基準溶接速度であり、V(Δh)は、計画高さ誤差Δhを補償する溶接速度の増減調整量を意味する。
【0044】
そして、求めた溶接速度Vweldをリアルタイムで変更する(S6)。このようにして、上記のS11の手順(S1a,S1b~S6までの各手順)を、全ての溶接ビードを形成が終了するまで繰り返す(S12)。
【0045】
以上より、溶加材送給速度の設定値と、実際の溶加材送給速度とが一致していない場合に、制御が不正確となり形状誤差を生じることを未然に防止し、計画通りの正確なビード高さへの補正が確実に行え、積層造形物を設計した通りに精度よく造形できる。
【0046】
図7は、溶着ビードのビード形成パスの始端部と終端部とにおけるビード高さの変化特性を示す説明図である。
上記した積層造形方法による造形手順は、形成する溶着ビードの全てに対して行うことが好ましいが、造形の一部のみに適用することであってもよい。
【0047】
溶着ビードBを形成する際、溶着ビードBの厚さは、ビード形成パスの始端部61では他の部位よりも厚くなり、終端部63では他の部位よりも薄くなりやすい。そのため、始端部61及び終端部63においては、他の部位よりも特にビード高さを正確に形成することが求められる。そこで、始端部61及び終端部63の少なくともいずれかは、上記した溶加材送給速度とビード高さとを測定して、溶接速度Vweldを決定することが好ましい。その場合、溶着ビードの始端部61及び終端部63の位置によらず、積層造形物の全体を高い寸法精度で正確に造形できる。
【0048】
また、本構成による積層造形方法においては、溶着ビードのビード高さを、溶加材送給速度から推定して求めること、及び、形成した溶着ビードを測定すること、によって求め、計画高さからのずれ、即ち、ビード高さの誤差を求めている。このビード高さの誤差は、溶着ビードの層毎又はビード形成パス毎、更には前層又は前ビード形成パスとの比較により求めることができる。
【0049】
例えば、溶加材送給速度Vwireを測定し、この測定された溶加材送給速度に応じた基準溶接速度を、溶接トーチを相対移動させる基準の速度(溶接速度)とした上で、形成した溶着ビードの高さの実測値と計画高さとの差分をリアルタイムで求め、求めた差分に応じて基準の溶接速度を変更することが好ましい。
【0050】
これにより、溶接条件、溶接位置等によって溶着ビードの高さが変動しても、この変動をリアルタイムで測定し、変動を補償するように溶接速度を変更することで、常に適正な計画高さ通りの溶着ビードを形成できる。その結果、複数の溶着ビードからなる積層造形物を、形状精度よく造形できる。
【0051】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0052】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する工程と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める工程と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定する工程と、
測定された前記溶着ビードの高さと、前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分に応じて、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める工程と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する工程と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成する工程と、
を備える積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶加材送給速度の測定値に応じて基準溶接速度が設定され、この設定された基準溶接速度が、溶着ビードの高さが適正に保たれるように補正された溶接速度が決定される。この溶接速度で溶着ビードを形成すると、そのビード高さが計画通りの高さになり、高い形状精度の積層造形物が得られるようになる。
【0053】
(2) 前記基準溶接速度は、予め定めた前記溶着ビードの計画高さと、測定された前記溶加材送給速度から推定される前記溶着ビードの推定高さとの差分を低減する速度に設定される、(1)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶着ビードの計画高さと推定高さとのずれが低減される溶接速度となるため、溶着ビードを計画通りのビード高さに形成できる。
【0054】
(3) 前記計画高さと前記推定高さとの差分は、前記溶加材送給速度の設定値と、測定された前記溶加材送給速度との相違によって生じたものである、(2)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶加材送給速度の設定値と実際の溶加材送給速度とが相違していても、この相違分に応じて溶接速度が変更されるため、溶着ビードを適切な溶接速度で、計画通りのビード高さに形成できる。
【0055】
(4) 前記計画高さと前記推定高さとの差分を、同一層内における前記溶着ビードの平均高さで求める、(2)又は(3)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶着ビードの形成に、局所的な高さ変動の影響が及びにくくなる。
【0056】
(5) 前記計画高さと前記推定高さとの差分を、前記溶着ビードの層毎又はビード形成パス毎に求める、(2)又は(3)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶着ビードの層毎又はビード形成パス毎に正確にビード高さが求められ、複数の溶着ビードを纏めて測定してビード高さを調整する場合と比較して、より計画高さに近い高精度な溶着ビードの形成が可能となる。
【0057】
(6) 前記溶接速度補正値は、予め定めた前記溶着ビードの計画高さと、測定された前記溶着ビードの実測高さとの差分を低減する値に設定される、(1)~(5)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶接速度を、溶着ビードの計画高さからの誤差が低減される溶接速度に補正できる。
【0058】
(7) 前記計画高さと前記実測高さとの差分は、前記溶着ビードの形成パスの始端部及び終端部の少なくともいずれかの部位で求める、(6)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、ビード高さの変動が比較的大きい領域で、計画高さと実測高さとの差分を求めることで、溶着ビードの全体にわたって計画通りの高さにできる。
【0059】
(8) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する溶加材速度測定部と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める基準溶接速度設定部と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定するビード高さ測定部と、
測定された前記溶着ビードの高さと、前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分に応じて、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める補正値設定部と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する溶接速度決定部と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成するビード形成部と、
を備える積層造形装置。
この積層造形装置によれば、溶加材送給速度の測定値に応じて基準溶接速度が設定され、この設定された基準溶接速度が、溶着ビードの高さが適正に保たれるように補正された溶接速度が決定される。ビード形成部がこの溶接速度で溶着ビードを形成すると、そのビード高さが計画通りの高さになり、高い形状精度の積層造形物が得られるようになる。
【0060】
(9) 溶加材が先端部に供給される溶接トーチを移動しながら、供給された前記溶加材を溶融及び凝固させて溶着ビードを形成し、複数層の前記溶着ビードが積層された積層造形物を造形する積層造形手順をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記溶着ビードの形成時に前記溶加材を前記溶接トーチへ送る溶加材送給速度を測定する機能と、
測定された前記溶加材送給速度に対応する前記溶接トーチの移動速度である基準溶接速度を求める機能と、
形成した前記溶着ビードの高さを測定する機能と、
測定された前記溶着ビードの高さと、前記溶接トーチの先端から突出した前記溶加材の先端の高さとの差分に応じて、これから形成する前記溶着ビードの高さを調整する溶接速度補正値を求める機能と、
前記基準溶接速度を前記溶接速度補正値で補正して、前記溶着ビードを形成する溶接速度を決定する機能と、
前記決定した溶接速度で前記溶着ビードを形成する機能と、
を実現させるプログラム。
このプログラムによれば、溶加材送給速度の測定値に応じて基準溶接速度が設定され、この設定された基準溶接速度が、溶着ビードの高さが適正に保たれるように補正された溶接速度が決定される。この溶接速度で溶着ビードを形成すると、そのビード高さが計画通りの高さになり、高い形状精度の積層造形物が得られるようになる。
【符号の説明】
【0061】
11 積層造形物
13 溶接ロボット
15 ロボットコントローラ
17 電源部
19 溶加材供給部
21 センサコントローラ
23 制御部
25 溶接トーチ
27 形状センサ
29 リール
31 エンコーダ
33 ベースプレート
41 溶加材速度測定部
43 基準溶接速度設定部
45 ビード高さ測定部
47 補正値設定部
49 溶接速度決定部
51 計画線
61 始端部
100 積層造形装置
M 溶加材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7