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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】水晶振動子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20240910BHJP
   H03H 9/10 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H03H9/19 D
H03H9/10
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021125780
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020423
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕也
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-098814(JP,A)
【文献】特開2004-088138(JP,A)
【文献】特開2011-041040(JP,A)
【文献】特開2017-069931(JP,A)
【文献】特開2021-035028(JP,A)
【文献】特開2014-022792(JP,A)
【文献】特開2007-208771(JP,A)
【文献】特開2017-085386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/19
H03H 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動部と、固定部と、これらを連結している連結部と、前記連結部の両側に設けた切欠き部と、を具えたATカットの水晶片を、導電性接着剤によって容器に実装した構造の水晶振動子において、
前記振動部は、長辺が水晶のX軸に平行で、短辺が水晶のZ′軸に平行で、平面視で長方形状であり、
前記固定部は、前記Z′軸に沿う方向に長尺な長方形状で、長辺寸法が前記振動部の短辺寸法と同じであり、
前記連結部は、前記振動部の短辺の中央と前記固定部の長辺の中央に渡っており、
前記導電性接着剤は、前記固定部の前記連結部と接する部分以外の両側それぞれで、前記固定部を前記容器に固定してあり、
前記連結部の幅をWと表したとき、W=0.38~0.52mmであり、
前記固定部は、長辺寸法が1.357±0.05mm、短辺寸法が0.15~0.30mmであることを特徴とする水晶振動子。
【請求項2】
前記連結部の幅Wが、0.39~0.49mmであることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項3】
前記連結部の幅Wが、0.40~0.46mmであることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動子。
【請求項4】
前記切欠き部の間隔が、0.05~0.20mmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【請求項5】
前記導電性接着剤がポリイミド系の導電性接着剤又はエポキシ系の導電性接着剤であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【請求項6】
前記振動部は、長辺寸法が1.75±0.05mm、短辺寸法が1.357±0.05mmであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【請求項7】
前記振動部は、発振周波数が30~80MHzであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の水晶振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤の応力の、水晶片への影響を軽減できる、水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な水晶振動子は、水晶片と、水晶片を実装する容器と、水晶片を容器に接続固定する導電性接着剤と、によって構成されている。水晶振動子の小型化が進むに従い、導電性接着剤の応力の、水晶片への影響が顕著になり、水晶振動子の特性が悪化し易くなる。それを防止するため、例えば特許文献1に、振動部と、固定部とを、連結部で接続した構造を有した水晶振動子が、開示されている。
【0003】
具体的には、図6(A)に示したように、特許文献1に開示された水晶振動子50は、振動部51aと、固定部51bと、これらの間に設けた連結部51cとを具えた水晶片51が、導電性接着剤53によってセラミック製容器55に接続固定されたものである。振動部51aは平面形状が四角形状となっている。連結部51cの幅は、振動部51aの幅より狭くされている。連結部51c以外の両側は切り欠き部51dとなっている(特許文献1の段落0003)。振動部51a、固定部51bおよび連結部51cはフォトリソグラフィ技術によって一体形成されている(特許文献1の段落0020)。
また、特許文献1には、図6(B)に示したように、連結部51cの断面積をみたとき、振動部51a側の方が固定部51b側より狭くされた水晶片60も開示されている(特許文献1の請求項1等)。具体的には、連結部51cにおいて、固定部側の幅をW1、振動部側の幅W2と表したとき、W1>W2とすることで、上記断面積の大小関係を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-41040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された水晶振動子の構造によれば、導電性接着剤の応力の、水晶片への影響を軽減できる。しかし、特許文献1の場合、細部を考慮した具体的な構造は開示されていない。
この出願は、上記の点に鑑みなされたものであり、従って本発明の目的は、固定部に対する導電性接着剤の位置や、連結部の寸法に着目し、水晶振動子に急激な熱変動が及んだ際の導電性接着剤に生じる残留応力の影響を軽減できる新規な構造を有した水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この発明の水晶振動子によれば、振動部と固定部とこれらを連結している連結部と、この連結部両側に設けた切欠き部と、を具えたATカットの水晶片を、前記固定部の一部領域で容器に、導電性接着剤によって接続固定した構造の水晶振動子において、
前記振動部は、長辺が水晶のX軸に平行で、短辺が水晶のZ′軸に平行で、平面視で長方形状であり、
前記固定部は、前記Z′軸に沿う方向に長尺な長方形状で、長辺寸法が前記振動部の短辺寸法と同じであり、
前記連結部は、前記振動部の短辺の中央と前記固定部の長辺の中央とに渡っており、
前記導電性接着剤は、前記固定部の、前記連結部と接する部分以外の両側それぞれで、前記固定部を前記容器に固定しており、
前記連結部の幅をWと表したとき、Wが0.38~0.52mmであることを特徴とする。
【0007】
この発明を実施するに当たり、前記Wが0.39~0.49mmであることが好ましく、さらに好ましくは、Wが0.4~0.46mmであることが良い。
【発明の効果】
【0008】
この発明の水晶振動子では、導電性接着剤を、固定部の、連結部と接する部分以外の両側部分にそれぞれ設けて、固定部を介して水晶片を容器に固定している。しかも、連結部の幅Wを、0.38~0.52等の上記した所定の幅としてある。このような構成であると、そうで無い場合に比べ、振動部への導電性接着剤の応力の影響を軽減でき、かつ、連結部が細すぎることによる水晶振動子の破損も防止でき、振動部の励振用電極から固定部に引き出す引出配線の形成領域を連結部に確保できる。
従って、水晶振動子に急激な熱変動が及んだ際の導電性接着剤に生じる残留応力の影響を軽減できる新規な構造を有した水晶振動子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)~(C)は、実施形態の水晶振動子10の説明図である。
図2】(A)~(E)は、本発明に至るまでにシミュレーションをした5種類のモデルの説明図である。
図3】(A)~(E)は、図2に示した各モデルに対し所定の温度変化を与えた際の応力分布を示した図である。
図4】(A)は、図2に示した各モデルに対し所定の温度変化を与えた際の、各モデルでの周波数変動率(ΔF/F)をまとめた図、(B)は連結部の幅を変えた4種類のモデル5-1~5-4に対し、所定の温度変化を与えた際の、各モデルでの周波数変動率(ΔF/F)をまとめた図である。
図5】(A)は、実施例の水晶振動子にリフローを実施した後の周波数変化の動向を示した図、(B)は、比較例の水晶振動子にリフローを実施した後の周波数変化の動向を示した図である。
図6】(A)、(B)は、従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照してこの発明の水晶振動子の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0011】
1. 水晶振動子の構造
図1は、実施形態の水晶振動子10の説明図である。特に、図1(A)は水晶振動子10の平面図、図1(B)は図1(A)中のP-P線に沿った水晶振動子10の断面図、図1(C)は、水晶振動子10に具わる水晶片11に着目した平面図である。
なお、図1(A)では、水晶振動子10に具わる蓋部材12(図1(B)参照)の図示は、省略してある。
【0012】
水晶振動子10は、振動部11aと、固定部11bと、これらを連結している連結部11cと、連結部13cの両脇に設けた切欠き部11dと、を具えたATカットの水晶片11を、固定部11bの一部領域で容器13に、導電性接着剤15によって接続固定した構造の水晶振動子である。
水晶片11は、典型的には、振動部11a、固定部11b及び連結部11cともども、フォトリソグラフィ技術によって、ATカットウエハから一体物として形成したものである。
振動部11aは、長辺が水晶のX軸に平行で、短辺が水晶のZ′軸に平行で、平面視で長方形状のATカット水晶片である。振動部11aの長辺寸法は、L1としてあり、短辺寸法は、W1としてある。長辺寸法L1及び短辺寸法W1の好ましい値は、後述する。
【0013】
固定部11bは、水晶のZ′軸に沿う方向に長尺な長方形状であり、長辺寸法W3が、振動部11aの短辺寸法W1と同じとしてある。なお、固定部11bの長辺寸法W3が振動部11aの短辺寸法W1と同じとは、真に同じ場合、及び、例えば±5%の範囲で同じで場合であっても良い。±5%の範囲であれば、水晶片が大きくなりすぎる影響も少ないし、固定部としての機能も損ねることは無い。また、固定部11bの短辺寸法は、L3としてある。固定部11bの長辺寸法W3及び短辺寸法L3の好ましい値は、後述する。
なお、固定部11bの、連結部11cと接続された側とは反対側に、連結部11c側に凹んだ凹部11baを設けてある。凹部11baを設けた主な目的は、固定部11bの両端に設ける導電性接着剤がショートすることを防止するためである。凹部11baの大きさは、0.04~0.05mm角である。ただし、凹部11baが無い場合であっても、本発明は適用できる。
【0014】
連結部11cは、振動部11aの短辺の中央と固定部11bの長辺の中央に渡っていて、かつ、幅Wを有したものである。連結部11cの幅Wの好ましい値は、後述する。
切欠き部11dは、連結部11c以外の部分で、振動部11aと固定部11bとを間隔Sをもって分離しているものである。間隔Sの好ましい値は、後述する。
【0015】
励振用電極11eは、平面視で四角形状としてあり、かつ、水晶片11の中心Oと励振用電極の中心Oとが一致するように、水晶片11の表裏に設けてある。しかも、励振用電極11eは、連結部11c側の辺が、切欠き部11dの縁から距離L4だけ離れるように、水晶片11の表裏に設けてある。なお、励振用電極11eの寸法L2,W2,距離L4の好ましい値は、後述する。
【0016】
水晶片11の表裏の励振用電極11e各々から、固定部11bに、引出配線11fを引き出してある。水晶片11の表裏の引出配線11fは、連結部11cの箇所で水晶片11を挟んで非対向となるように、すなわち平面的に見たとき、表裏の引出電極は互いが平行な関係で、引き出してある。水晶片11の表裏の引出配線11fが、連結部11cの箇所で水晶片11を挟んで対向すると、不要な容量が発生して好ましくないので、それを防止するためである。
【0017】
容器13は、水晶片11を収容できる平面視四角形状の凹部を有したもので、典型的には、セラミック製の容器である。容器13は、水晶片を収納する凹部の底面の、凹部の一つの辺の近傍に、水晶片11用の接着パッド13aを具えている。さらに容器13は、外側底面に、水晶振動子10を任意の外部電子装置と接続するための外部接続端子13bを具えている。接着パッド13aと外部接続端子13bとは、図示しないビア配線又はキャスタレーションによって、接続してある。
【0018】
導電性接着剤15は、典型的には、シリコーン系の導電性接着剤又はポリイミド系の導電性接着剤である。シリコーン系の導電性接着剤の場合、時間経過に従って、シラノールが出ガスとして現れて水晶片11に付着して周波数変動の一因になる場合があるので、高安定の水晶振動子を実現したい場合は、導電性接着剤は、ポリイミド系のもの又はエポキシ系のものを用いることが好ましい。ただし、ポリイミド系又はエポキシ系の導電性接着剤は、シリコーン系の導電性接着剤に比べ、弾性が低いすなわち硬いので、導電性接着剤自体の応力が大きくなり易い。この実施形態の場合、高安定の水晶振動子を意識しているので、後のシミュレーションでは、導電性接着剤として、ポリイミド系のものを用いて、連結部の幅等々を検討している。
【0019】
水晶片11は、固定部11bの位置及び接着パッド13aの位置で、導電性接着剤15によって、容器13に接続固定してある。そして、容器13に蓋部材12が接合されて(図1(B)参照)、水晶片11は容器13内に密閉封止される。なお、容器13と蓋部材との接合は、封止方式に応じた任意の方法、例えばシーム封止法、ガラス封止法、ロー材による封止法等で行える。高安定の水晶振動子を構成したい場合は、好ましくは、シーム封止法が良い。
なお、容器として凹部を有した容器13を用いたが、容器として平板状のベースと、水晶片11を内包する凹部を有したキャップ状の蓋部材とで構成した容器を用いても良い。
【0020】
2. シミュレーション
次に、本発明の水晶振動子を完成するに至ったシミュレーションについて説明する。
2-1.シミュレーションモデル
この出願に係る発明者は、有限要素法によるシミュレーションを実施した。そのため、図2(A)~(E)に示す5種類のシミュレーションモデルを用意した。
モデル1の水晶片21は、単純な平板状のATカットの水晶片であり、長辺Loが2.1mm、短辺Woが1.357mmのものである。
モデル2の水晶片23は、モデル1の水晶片21の一方の短辺近傍に、長尺な楕円状の貫通孔23aを有したものである。貫通孔23aの長辺Waは1mm、短辺Laは、0.1mm、水晶片の短辺からの貫通孔23aの縁までの距離Lbは0.25mmである。
モデル3の水晶片25は、モデル2の水晶片23の貫通孔と同様な貫通孔25aと、貫通孔25aの両端に、水晶片25の長辺に沿ってかつ水晶片25の短辺側に向かっている、長さがLcの第2の貫通孔25bと、を具えたものである。上記長さLcは、0.15mmである。
【0021】
モデル4の水晶片27は、モデル2の水晶片23の貫通孔23aの代わりに、貫通孔のあった箇所に幅Waの連結部27aを設け、かつ、連結部27aの両脇を切欠き部27bとしたものである。連結部27aの幅Wbは、0.657mmである。また、切欠き部11dの間隔Sは、0.1mmである。
モデル5の水晶片29は、モデル4の水晶片27の構造に対し、連結部29aの幅を、0.2mm狭くして0.457mmとし、その両脇を切欠き部29bとしたものである。従って、連結部29aの幅Wcは、0.457mmである。
【0022】
なお、モデル1~モデル5各々は、平面視で四角形状の励振用電極31を、水晶片21の中心Oに励振用電極の中心Oが一致するように設けたものとしてある。励振用電極31は、水晶片21の長辺に平行な寸法が0.86mm、水晶片21の短辺に平行な寸法が0.95mmのものとした。従って、励振用電極11eの連結部11c側の辺と、切欠き部11dの縁との距離L4は、0.17mmである。
また、モデル1~モデル5各々は、発振周波数が40MHzのものとした。従って、モデル1~モデル5各々の水晶片の厚みは、約0.042mmである。
また、モデル1~モデル5各々は、モデル5の水晶片29で説明するように、固定部の連結部29aと接する領域以外、すなわち、固定部の両端付近に、塗布径が0.3mmであるポリイミド系の導電性接着剤33を塗布したモデルとしてある。
【0023】
2-2.シミュレーション
上記したモデル1~モデル5各々に、25℃から260℃の2段階の温度変化を与えた際に、各モデルに生じる応力分布の状態を、有限要素法によって抽出した。なお、シミュレーションの際に、温度25℃及び温度260℃を用いた理由は、水晶振動子のリフロー条件が、260℃の温度を約80秒間維持する温度プロファイルであるため、その条件に即したシミュレーションを実施したいためである。
【0024】
図3(A)~(E)は、上記の温度変化試験における各モデルでの応力分布の概要を示した図である。すなわち、図2に示した水晶片21,23,25,27,29に対応する応力分布21x、23x、25x、27x、29xを、示してある。
図3(A)~(E)各々において、固定部に当たる領域の黒色になった領域が、大きな応力が生じている領域である。図3(A)~(E)を比較することで明らかなように、モデル3及びモデル5が、導電性接着剤の応力の、振動部への影響が小さいことが分かる。ただし、モデル3の場合は、振動部の短辺に沿う両端付近に応力の大きい領域が生じていることも分かる。
【0025】
また、上記のモデル1~モデル5各々に、25℃から260℃の2段階の温度変化を与えた際に、各モデルで生じる周波数変化量を有限要素法により抽出し、その結果を図4(A)に示した。具体的には、各モデルについて、25℃のときの発振周波数Fと、260℃にした後の発振周波数Fxとの差ΔF=(F-Fx)を、25℃のときの発振周波数Fで除して求まる周波数変化率ΔF/F(ppm)を、図4(A)に示した。
図4(A)から、モデル1では、周波数変化率は65ppmであり、モデル2~モデル4では、周波数変化率はいずれも20ppm程度であり、モデル5では、周波数変化率はゼロ近くと一番小さいことが分かる。
【0026】
モデル5は、連結部の幅が0.457mmとしたものなので、次に、連結部の幅を0.357mm、0.457mm、0.557mm、0.657mmに変えた4種類のシミュレーションモデル5-1~5-4を作成し、上記と同様の温度変化試験によるシミュレーションを実施し、かつ、上記同様の周波数変化率ΔF/F(ppm)を求めた。その結果を、図4(B)に、図4(A)と同様な表記法で示した。
【0027】
図4(B)から、連結部の幅Wを狭くする方が、周波数変化率を小さくできることが分かる。また、図4(B)中の4つのプロットに基づいて、ΔF/Fと連結部の幅との関係を、最小二乗法による近似式で検討したところ、ΔF/Fと連結部の幅Wとは、下記(1)式の関係があることが分かった。また、この近似式の相関係数はほぼ1に近いものであった。
ΔF/F=160*W*W-97*W+12.3 ・・・(1)
【0028】
3. 考察
上記のシミュレーション結果から、実施形態の水晶振動子10の後述する各部分の好ましい寸法等について考察した。
【0029】
3-1.連結部の幅
図4(B)から、連結部11cの幅Wは狭い方が上記温度変化試験での周波数変動率を小さくできる。しかし、連結部11cの幅Wを狭くし過ぎると、連結部11cを起点として水晶片11が破損し易くなり、かつ、水晶片11を挟んで引出配線11fを非対向で連結部11cに形成する面積が狭くなりすぎてしまう。これらの点を考慮すると、連結部11cの幅Wの下限は0.38mmが良く、好ましくは0.39mmが良く、さらに好ましくは0.4mmが良い。
一方、水晶振動子10に対する上記の温度変化試験での周波数変動率を、一般的な仕様である5ppm以内にするためには、図4(B)や近似式(1)から、連結部11cの幅Wは、0.52mm以下が良い。周波数変動率をさらに厳しい3ppm以内にするためには、図4(B)や近似式(1)から、連結部11cの幅Wは、0.49mm以下が良い。周波数変動率を一層厳しい1.5ppm以内にするためには、図4(B)や近似式(1)から、連結部11cの幅Wは、0.46mm以下が良い。
従って、上記を総合すると、連結部11cの幅Wは、0.38~0.52mmが良く、より好ましくは、0.39~0.49mmが良く、さらに好ましくは、0.40~0.46mmが良い。
【0030】
また、上記した連結部11cの幅Wの好ましい範囲を適用できる水晶振動子の範囲について考察すると、以下のことが言えると考える。
すなわち、導電性接着剤15の塗布面積が極端に変わらない限り導電性接着剤で生じる応力は同様であると言える。また、現状の水晶振動子では導電性接着剤の塗布径は0.3±0.1mm程度といえ、上記のシミュレーションでの塗布径0.3mmは妥当な値である。従って、連結部11cの幅Wの上記した好ましい範囲は、現在量産化されているパッケージサイズで言って、5032サイズ、3225サイズ、2520サイズ、さらにそれより小さいサイズの水晶片に広く適用できると考えられる。
しかし、上記シミュレーションを考慮すると、振動部11aの大きさや固定部11bの大きさや、励振用電極11eの配置位置の適用範囲は考察する必要がある。以下、それらについて考察する。
【0031】
3-2.振動部11aの寸法
上記シミュレーションでは、振動部11aの長辺寸法L1は1.75mm、短辺寸法W1は1.357mmであった。ここで、導電性接着剤の応力の影響を考慮する場合は、振動部の大きさとの関係は薄いといえ、振動部の大きさは連結部の機械的強度に影響すると言える。従って、本発明は、振動部の大きさが妥当な範囲の種々の水晶振動子に適用できる。少なくとも、上記シミュレーションでの振動部の大きさに対し、±0.05mmの範囲で寸法を変えてシミュレーションを実施したところ、上記のシミュレーションと同様な効果が得られた。
また、本発明は以下の観点で表される大きさの振動部に対しても適用できると考える。すなわち、上記したシミュレーショは、周波数が40MHzの水晶片、従って水晶片の厚みtが0.042mmの水晶片で、かつ、単純平板状の水晶片を用いて行った。しかも、振動部の長辺寸法L1(図1(C)参照)が1.75mm、水晶片の長辺寸法L0(図2(A))が2.1mmの水晶片に対し行った。この場合の、厚みtと、長辺寸法L1やL0との関係は、L1/t≒41.7、L0/t=50である。ここで、より高い周波数の水晶振動子を構成する場合、水晶片の厚みtは薄くし、かつ、励振電極の面積を小さくしてゆくので、さらには、励振用電極を水晶片の先端側に偏心させることもより可能になるため、振動領域は連結部からどんどん遠い位置になり、導電接着剤の応力の影響を受けにくくなる。一方、シミュレーションの場合より低い周波数の水晶振動子を構成する場合、この出願にかかる発明者の研究では、L1/tが30より小さくなると、また、L0/tが35より小さくなると、平板状の水晶片では特性が悪化しやくなり、水晶片をベベル加工したものにする等の設計変更が必要になるため、本願発明の適用が難しくなる。従って、本願発明は、L1/t≧30を満たすか、又は、L0/t≧35を満たす種々の水晶片であれば、適用できると考えられる。
【0032】
3-3.固定部11bの寸法
上記シミュレーションでは、固定部11bの長辺寸法W3は1.357mm、短辺寸法L3は0.25mmであった。長辺寸法W3を±0.05mmの範囲で変え、短辺寸法L3を0.15~0.3mmの範囲で変えてシミュレーションを実施したところ、上記のシミュレーションと同様な効果が得られた。
【0033】
3-4.切欠き部11dの間隔S
上記シミュレーションでは、切欠き部11dの間隔Sは0.1mmであった、切欠き部11dの間隔Sは、そのまま連結部11cの長さに相当する。従って、間隔Sが広すぎると連結部11cの箇所で水晶片が破損し易くなり、反対に間隔Sが狭すぎると、導電性接着剤の応力が振動部に及び易くなる。それらを考慮すると、間隔Sは、0.1~0.2mm、好ましくは0.05~0.20mmが良い。
【0034】
3-5.励振用電極11eの大きさ及び位置
上記シミュレーションでは、励振用電極11eは、図1(C)に示したように、水晶片21の長辺に平行な寸法L2が0.86mm、水晶片21の短辺に平行な寸法W2が0.95mmのものとした。また、励振用電極11eの連結部11c側の辺と、切欠き部11dの縁との距離L4が0.17mmのものとした。ここで、導電性接着剤15の応力の影響は、励振用電極11eの大きさに対してより、励振用電極11eが連結部11cに近すぎるほど顕在化すると言えるので、距離L4は考慮する方が良い。発明者の検討によれば、距離L4は、0.15mm以上とすることが良い。
また、上記シミュレーションでは、図1(C)に示したように、水晶片11の中心Oと励振用電極11eの中心Oとが一致するように、励振用電極を水晶片表裏に配置したが、励振用電極11eは、水晶片の先端側に偏在させても良い。
【0035】
3-6.発振周波数すなわち水晶片の厚み
上記シュミュレーションでは、発振周波数が40MHzの水晶片を用いた。ここで、導電性接着剤15の応力の影響は、水晶片11の厚みが極端に違わない限り、同様と考えられるので、本発明は妥当な範囲の他の周波数の水晶振動子に対しても適用でき、例えば30~80MHzの周波数範囲の商用されている種々の周波数の水晶振動子に適用できると考える。周波数が高い側で商用されているものの一例としては、77.76MHzの水晶振動子がある。
また、振動部の寸法の考察にて説明したが、30MHzの水晶振動子の水晶片の厚みは≒0.055mmであるから、上記した辺比L0/t=37.5、又はL1/t=31.3であるため、この点からも、30MHz以上の周波数の水晶振動子に本発明を適用できる。
より確実には、シミュレーションを行った周波数が40MHzに近い周波数帯で商用されている例えば38MHz、38.4MHz、38.88MHz、48MHz等の各種水晶振動子に本発明は適用できると考える。
【0036】
4. 試作結果
上記のシミュレーションの結果を考慮して、連結部11cの幅Wを0.43mmとし、図1に示した各部の寸法L1.W1.L2,W2L3,L4,Sをそれぞれ上記のシミュレーション時の寸法とし、導電性接着剤としてポリイミド系のものを用いて、実施例の水晶振動子を製作した。また、比較例として、図2(A)に示した単純な平板状の水晶振動子を製作した。
次に、実施例及び比較例の水晶振動子それぞれ5個ずつの周波数を測定した。
次に、これら水晶振動子を、リフロー炉に投入した。リフロー条件は、室温から徐々に160℃まで160秒程度の時間で昇温し、その後、260℃のピーク温度で70秒程度保持し、その後、室温に80秒程度で戻るという条件である。
リフロー炉から取り出した実施例及び比較例の水晶振動子を60分室温で放置した後、周波数を測定した。その後、リフロー後から24時間経過後、72時間経過後各々で、実施例及び比較例の水晶振動子の周波数をそれぞれ測定した。
【0037】
図5(A)は、実施例の水晶振動子の上記の周波数測定結果及び変動率を示した図であり、図5(B)は、比較例の水晶振動子の上記の周波数測定結果及び変動率を示した図である。いずれの図も、横軸に測定タイミングをとり、縦軸にリフロー前の周波数を初期値とした周波数変動率ΔF/F(ppm)をとって、示してある。
比較例の水晶振動子の場合、リフロー直後の周波数低下率は5ppmもあり、その後の3日間で徐々に小さくなるが、3日間経過しても初期値に戻らないことが分かる。実施例の水晶振動子の場合、リフロー直後の周波数低下率は0.5ppmであり、比較例に比べて小さく、5分の1以下であり、然も、リフロー後の1日で初期値に戻ることが分かる。本発明の構造が優れていることが理解できる。
【0038】
上述においては、導電性接着剤としてポリイミド系のものを用いた例を説明したが、本発明は、導電性接着剤としてエポキシ系の導電性接着剤を用いた場合にも適用できると考える。なぜなら、シリコーン系の導電性接着剤のヤング率0.03GPaに対し、ポリイミド系の導電性接着剤のヤング率は2GPa程度であり、エポキシ系の導電性接着剤のヤング率は1GPa程度であり、エポキシ系の導電性接着剤はポリイミド系の導電性接着剤に近いヤング率を持つからである。従って、エポキシ系の導電性接着剤に由来する応力の影響は、ポリイミド系のものの場合と同様であるため、エポキシ系の導電性接着剤を用いる場合にも、本発明でいう連結部の幅の効果を享受できると考える。
【符号の説明】
【0039】
10:実施形態の水晶振動子、 11:ATカットの水晶片
11a:振動部、 11b:固定部
11ba:固定部11bに設けた凹部
11c:連結部、 11d:切欠き部
11e:励振用電極、 11f:引出配線
13:容器 15:導電性接着剤
21、23,25,27,29:シミュレーションモデル
31:励振用電極、 33:導電性接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6