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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】自動運転方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/064 20120101AFI20240910BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20240910BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240910BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240910BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
B60W40/064
B60W30/10
B60W60/00
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021135650
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030490
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】515213711
【氏名又は名称】先進モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】番場 健一
(72)【発明者】
【氏名】相馬 史典
(72)【発明者】
【氏名】椋本 博学
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】籾山 冨士男
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-011555(JP,A)
【文献】特開2021-070377(JP,A)
【文献】特開2018-024265(JP,A)
【文献】特開平11-083685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/064
B60W 30/10
B60W 60/00
B62D 6/00
B62D 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の状態量で記述される運転を制御する数式が車載コンピュータ(ECU)に組み込まれ、リアルタイムで推定した車両の状態量を前記数式に更新しつつ入力し、前記数式で計算された運転を制御する信号が車載コンピュータから出力される自動運転方法であって、前記状態量は自重、坂の勾配、重心位置およびタイヤコーナリング係数であり、前記自重と勾配はアクセル入力に対する発生加速度の式によって推定し、前記重心位置およびタイヤコーナリング係数はGPSと車輪速によって推定し、前記重心位置の推定は、GPSと車輪速により各輪の横すべり角を算出し、以下の式(32)により前記重心位置の移動量を求めて推定することを特徴とする自動運転方法。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客・荷物の変化に伴う自車両の状態量、即ち車両総重量(自重)・勾配・重心位置・タイヤコーナリング係数(タイヤ荷重)の変化量をリアルタイムで検出して、その変化量に対応する制御モデルの状態量を更新しつつ制御する自動運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運動は、ニュートンの第二法則で律せられる。即ち、力と質量と加速度、或いは、トルクと慣性モーメントと回転加速度の関係で律せられる。作用と反作用の関係から「車両からの走る、曲がる、止まる、の作用」に対する「路面からの反作用」との関係で、律せられる。
【0003】
自動運転車両の制御は、その作用と反作用の関係を制御して行われる。制御応答を見ながら、制御技術者の経験則でチューニングされるPID制御が、最も広く使われている。
【0004】
自動運転車両の制御は、乗客・荷物などの変化に伴う、質量・重心位置・タイヤ荷重などの状態量の変化がある。その変化は、駅・バス停での乗客乗降、物流ターミナルでの荷物の積み下ろしの際に、急変するので、PID制御のためのチューニングしている時間余裕はない。
【0005】
チューニングとは、与えられた特性の上で目標とのずれを修正する作業である。状態量が変化する制御対象のチューニングには限界がある。モデルを用いずに、或いは固定仕様諸元モデルのままで合わせ込むのではなくて、状態量で記述される制御モデル(数式モデル)を用いて状態量の変化に合わせて、モデルの状態量を書き換える(入れ替える)ようにして変化に適応することが求められる。
【0006】
非特許文献1には、その第9章、状態フィードバック制御とオブザーバにて、状態フィードバック制御は制御対象の状態をすべて観測できるという前提で可能となるとし、しかしながら、実際の制御対象ですべての状態を観測できる場合は少なく、この場合、観測機を用いて状態を推測する必要があるとあるが、その実際の記述はない。
【0007】
非特許文献2は、大型トラックの前後運動のモデル化手法を報告しているが、車両重量の変化などの状態量推定には言及していない。
【0008】
非特許文献3は、トラックのバウンシングとピッチングの固有振動数を検出して積載量と重心位置の変化を推定する方法を紹介しているが、懸架系(サスペンション)の仕様に依存するため汎用性に欠ける。
【0009】
特許文献1は、アクセル開度と車両重量と発生加速度の計算図表を示しているが、道路勾配の影響が含まれていない。また、動力性能の状態量に限られている。
【0010】
特許文献2は、車両運動方程式から導出される重心位置変化の計算式を示し、GPSによって検出される車速、ヨーレイト及び横すべり角から、重心位置変化を算出する方法を示しているが、2軸車両に関するものであり3軸、4軸の多軸車には言及していないし、重心位置変化の原因である自重変化を推定する方法は示していない。
【0011】
特許文献3は、4軸車について、GPSを用いず車輪速センサと偏揺角センサを用いて重心位置を検出する方法を示しているが、重心位置変化の原因である自重変化を推定する方法は示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2020-011555号公報
【文献】特開2021-70377号公報
【文献】特開2021-84587号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】野波健蔵編著、西村秀和共著;MATLAB(登録商標)による制御理論の基礎
【文献】籾山冨士男ほか; “大型トラックの前後運動の同定とそのモデル化手法”自動車技術開論文集, Vol.43, No.2, March 2012, No.20124209, pp.211-216
【文献】籾山冨士男ほか;自動運転大型トラックのための横運動モデルの積載状態推定、自動車技術会論文集,Vol.44,No.6,November 2013.,No.20134847,p.1377-1382.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した従来技術にあっては、走行中に刻々と変化する自動運転車両の制御モデルの諸元(状態量)の変化量を正確に推定し、その変化量をリアルタイムで制御モデルに反映させて継続的に自動運転することができない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解消するため本発明は、車両の状態量で記述される運転を制御する数式が車載コンピュータ(ECU)に組み込まれ、リアルタイムで推定した車両の状態量を前記数式に更新しつつ入力し、前記数式で計算された運転を制御する信号が車載コンピュータから出力される自動運転方法であって、前記状態量は自重、坂の勾配、重心位置およびタイヤコーナリング係数であり、前記自重と勾配はアクセル入力に対する発生加速度の式によって推定し、前記重心位置およびタイヤコーナリング係数はGPSと車輪速によって推定し、前記重心位置の推定は、GPSと車輪速により各輪の横すべり角を算出し、前記重心位置の移動量を求める式から重心位置の移動量を求め重心位置を推定するようにした。
【0016】
上記において、勾配および自重は、車両の前後運動モデル式、即ちエンジン出力と走行抵抗のつり合い式から導出される「アクセル入力に対する発生加速度の式」を用いて推定する。具体的には、アクセルOFFしたときに生じる減速度から道路勾配を推定し、その後アクセルONしたときに生じる加速度から自重を推定する。
本発明では、車両の横運動モデル式から導出される「重心位置変化の式」を備えて、この式に、先に求めた自重及び、GPSによる「前第1軸及び前第2軸横すべり角」と「後第1軸及び後第2軸横すべり角」を代入して、重心位置変化長を求め、求めた「重心位置変化長」を「空車時重心位置」に加算して、積車時重心位置を求める。加えて、操向輪及び非操向輪に備える車輪速センサによっても重心位置を推定する。
そして、車両の横運動モデル式から導出されるタイヤコーナリング係数の式を備えて、この式に先に求めた自重・重心位置を代入し、定常円旋回して得られるスタビリティファクタと横すべり係数を代入して、実装しているタイヤコーナリング係数を推定する。かくして、その場・その時の状態に適応しての、前後方向の加減速運動・横方向の横運動回転運動の自動運転制御を可能にする。
【0017】
また、状態量(自重、勾配、重心位置およびタイヤコーナリング係数)の変化を検出し、これを制御モデルの式に代入して自動運転に反映させるまでには、極めて短い時間ではあるがタイムラグが生じる。このタイムラグが生じても問題がない速度で自動運転を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、自動運転車両の前後及び横運動の制御のために必要な制御モデルとそのモデルの状態量の変化に適応する状態フィードバック制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】前後運動モデルと自重推定及び勾配推定の説明図である。
図2】加速度で表現した動力性能線図の積載変化の説明図である。
図3】横運動モデルと内部状態量の説明図である。
図4】GPSを装備し、積車に伴うタイヤ横すべり角変化を検出して、重心位置変化を推定する方法の説明図である。
図5】空車から積車に伴う重心位置移動(Δl)による軸荷重変化の説明図である。
図6】車輪速から推定される前輪実舵角および重心位置の近似解の説明図である。
図7】車速に対する車両の旋回特性変化の説明図である。
図8】「旋回保舵軌跡」の「計画経路」への設定の仕方の説明図である。
図9】状態推定のフローの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図1から図9にもとづいて説明する。
図1に前後運動モデルと自重推定及び勾配推定を示す。(A)は、駆動軸まわりに車両の等価慣性モーメントをIeqと置いた駆動系の簡略図である。TEはエンジントルク、ωはエンジン回転速度、imnは変速機のギヤ比、ifは終減速比、ωwは車輪回転速度、vは車速、rは車輪の回転半径、Rr,Rd,Rθは、それぞれころがり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗である。エンジン出力と走行抵抗のつり合い関係は伝達効率などを無視して簡単表現すると図中(B)の式(1)になる。
【0021】
【数1】
【0022】
式(1)から図中(C)に示すアクセル入力に対する発生加速度の式(2)になる。
左辺が車両加速度α、右辺の第1項はエンジントルクTEを変速機のギヤ比imn及び終減速比if倍してタイヤ半径rで除した駆動力を駆動軸回りに換算した車両質量で除したエンジンから発せられる加速度である。右辺第2項はころがり抵抗相当減速度αr、空気抵抗騒動減速度αd、勾配抵抗相当減速度αθである。
【0023】
【数2】
【0024】
式(2)の左辺の車両加速度αをY、右辺の中カッコ部をAとし、アクセル開度X=エンジントルクTEとおいて、右辺第2項のカッコ内減速度をBとすると、アクセル開度(X)に対する車両加速度(Y)の関係は、Y=AX-Bの直線式になる。Aが後述図2の加速抵抗に相当し、Bが惰行抵抗(但し、平地データのため勾配抵抗は含まれていない)に相当する。
【0025】
即ち、アクセル入力に対する発生加速度は、Y=AX-Bの直線式になり、直線の勾配Aから車両等価質量meqの変化、即ち自重変化が検出でき、Y軸切片Bから勾配抵抗αθが検出できる(参照:図2)。
【0026】
図中(D)に実走行中に加速度・減速度を取得する方法を示す。AMTのギヤ変速が入らない車速(この場合は25km/h)を選び、アクセルを放した時の減速度とアクセル開度例えば80%のパルス入力を入れた時の加速度を取得して、図中(E)に示すアクセル開度に対する発生加速度図を得る。
得られたA値と空車A値との比(参照:図2)から自重を算出し、平地でのB値と現在地B値との差から現在地勾配を認識する。DCCの平均とACCの平均を結ぶ直線式Y=AX-BからX=(Y+B)/Aを得て要求加速度Yに対するアクセル開度Xを決めることができる。
【0027】
図2に加速度で表現した動力性能線図の積載変化を示す。全自動電子機械式12段変速機の例を示す。図中左側に空積載(車両総重量11.7トン)、右側に12トン積載(車両総重量23.7トン)の例を示す。アクセル100%で加速して車速90km/hに至る過程における変速機ギヤ1stから12thの各段ギヤ位置での発生加速度及び、車速80km/hからアクセルを放して車速ゼロに至る過程の減速度を示す。車速と加速度の関係は、加速度をyとし、車速をxとする双曲線xy=aの関係になり、双曲線定数aは、車両総重量(自重)の変化に反比例することがわかる。
また、減速度は車速の二乗に反比例して車両総重量の変化に依存しない(但し巨視的に見て)ことがわかる。a/xが、前出のY=AX-BのAに対応する。即ち、Aから自重の変化を検出できる。又、図中のy=-0.0003449x2-0.006の0.0003449が空気抵抗の抗力係数、0.06がころがり抵抗と解することができる。即ち、ころがり抵抗から勾配変化が検出できる。
【0028】
図3に横運動モデルとその内部状態量を示す。図の左側に、車両前方をx軸、車両左側方をy軸とするISO座標系をとる前第1軸、前第2軸、後第1軸、及び後第2軸で構成される4軸車両の平面図を示し、その右側に各軸の左右輪をX軸上の単輪で表現して簡単化した図を示す。以下、その簡単化した図について説明する。
【0029】
xy座標は、車両の重心に原点を置く移動座標である。この場合の運動のつり合い式は次の通りである。
【0030】
【数3】
【0031】
ここに、
mは車両質量、Iは慣性モーメント、vは車速、rはヨーレイト、βは車体横すべり角、CF1,CF2,CF3,CF4は、前第1軸、前第2軸、後第1軸、後第2軸のコーナリングフォース、Kf1,Kf2,Kr1,Kr2は、前第1軸、前第2軸、後第1軸、後第2軸のコーナリングパワー、βf1, βf2, βr1, βr2,は、前第1軸、前第2軸、後第1軸、後第2軸のタイヤ横すべり角、Ccf,Ccrは、前第1軸及び前第2軸タイヤ、後第1軸及び後第2軸タイヤのコーナリング係数、Nf1,Nf2,Nr1,Nr2,は、前第1軸、前第2軸、後第1軸、後第2軸の軸荷重、δ12は、前第1軸、前第2軸の実舵角、akは、δ2に対するδ1の角度比である。lf1をゼロと置くことによって、前2軸後2軸の4軸車から前1軸後2軸の3軸車への適用、lr1をゼロと置くことによって、前2軸後1軸の3軸車への適用、lf1およびlr1をゼロと置くことによって、前1軸後1軸の2軸車への適用を可能にしている。
【0032】
図4に、GPSを装備し積車に伴うタイヤ横すべり角変化を検出して、重心位置変化を推定する方法を説明する。車両前後軸(X軸)上の任意の位置にGPSを設置する。その任意の位置においてGPSから出力される速度VGPSと横すべり角βGPSを記録する。車速VGPSに横すべり角βGPSの余弦を乗じるとVxGPSが得られ、車速VGPSに横すべり角βGPSの正弦を乗じるとVyGPSが得られる。VxGPSは、車体前後方向(x軸方向)の前後速度であり、非操舵輪の車輪速Vwheelに等しい。VyGPSは、GPS装備位置における車体横方向(y軸方向)の横速度である。このGPS出力値VGPS、βGPS及びVxGPS、VyGPSから前第1軸位置、前第2軸位置、後第1軸、後第2軸における速度と横すべり角は、式(13)から式(18)のようにして算出できる。
【0033】
【数4】
【0034】
ここに、Vf1は前第1軸位置の速度、Vf2は前第2軸位置の速度、Vr1は後第1軸位置の速度、Vr2は後第2軸位置の速度、βf1GPSは前第1軸位置の横すべり角、βf2GPSは前第2軸位置の横すべり角、βf1は前第1軸タイヤの横すべり角、βf2は前第2軸タイヤの横すべり角、βr1は後第1軸タイヤの横すべり角、βr2は後第2軸タイヤの横すべり角である。
尚、空積載から積載状態の場合の横すべり角についてもサフィックスL付にしての同じ式で求めることができる。即ち、空積から積載に伴うタイヤ横すべり角の変化は、式(5)~式(8)からタイヤが発するコーナリングフォースの変化を意味するので、これらの式に含まれるタイヤ荷重(軸荷重)の空車から積車への変化、Nf1→NLf1,Nf2→NLf2,Nr1→NLr1, Nr2→NLr2、を求めて、後述する空車重心位置から積車重心位置への変化長(Δl)算出へつなげる。式(19)(20)に含まれるδ2、δ1、akについては図6にて、後述する。
【0035】
図5により、空車から積車に伴う重心位置移動(Δl)による軸荷重変化について述べて、図7におけるタイヤコーナリング係数の同定の説明につなげる。図5において、空車質量mが積車質量mになり、それに重力の加速度gが作用して、荷重mgになり荷重mgになる。それを、前第1軸と前第2軸で等分及び後第1軸と後第2軸で等分して支持する。前軸における等分はイコライザ機構によってなされ、後軸における等分はエアサスペンションの空気ばねを連通させることでなされる。かくして、前軸荷重は、式(23)後軸荷重は、式(24)になる。
【0036】
【数5】
【0037】
前出の図3における空車質量(m)での重心位置(lf1,lf2,lr1,lr2)を既知として、積載質量(m)及び各軸の積車横すべり角(βLf1Lf2Lr1lr2)が分かると、横運動のつり合い式から、積車重心位置を計算できる。その計算方法を示す。
先ず、前出の式(3)に式(5)~(8)を代入すると式(25)になる。
【0038】
【数6】
【0039】
積載により、m→m, r→rL, β→βL, βf1→βLf1, βf2→βLf2,の状態変化が生じ、且つ重心位置がΔlだけ後退すると、前出の式(23)(24)及び式(26)になる。
【0040】
【数7】
【0041】
【数8】
【0042】
【数9】
【0043】
【数10】
【0044】
【数11】
【0045】
【数12】
【0046】
【数13】
【0047】
ここに、式中のβは横すべり角速度である。定常状態ではゼロになるので、定常状態を保持走行中のヨーレイトrL、タイヤ横すべり角(βLf1Lf2Lr1lr2)をGPSによって実測し式(32)に代入することによって、重心位置の移動距離Δlを求めることができる。
【0048】
前述の、タイヤ横すべり角、ヨーレイトをGPSによって実測して、横運動モデル式から展開される重心位置移動距離の式(32)に代入し計算して、積載に伴う重心位置を求め、制御を継続する方法に加え、車輪速から推定される前輪実舵角及び近似的重心位置を得る方法を図6により説明する。
【0049】
ABS、ASR或いはEBSのために各軸車輪に車輪速センサが装備されている。この車輪速センサによって取得される車輪速から式(33)によりヨーレイト、式(34)により前後速度、式(35)により前第2軸実舵角、式(36)により車両前後軸から旋回中心までの距離、式(37)により重心の旋回半径、式(38)により重心点の横すべり角、式(39)により後2軸間中心から重心までの距離が得られる。
【0050】
【数14】
【0051】
ここに、式(33)のvrR、vrL、は後軸右輪及び左輪の車輪速度、Trは後軸のトレッド、a1は、GPSによって検出される車速との整合調整項としての修正係数である。式(34)におけるa2はGPSによって検出される対地実速度の車両前後軸成分との整合調整項としての修正係数である。式(35)におけるaは、非操舵軸の車輪速と、操舵軸の車輪速その余弦から求める実舵角を操舵軸のタイロッドストロークから求める実舵角との整合調整項としての修正項である。
【0052】
図1の(E)におけるアクセル開度と発生加速度の関係式Y=Ax-Bから自重推定ができ、図4乃至図5のΔl、即ち式(32)及び式(39)から重心位置が推定できると、前出の式(3)と式(4)の状態方程式の状態量(諸元値)が、タイヤのコーナリング係数(Ccf,Ccr)を除き既知になる。このCcf,Ccrの推定は、状態方程式(3)と(4)から計算して求められる旋回特性と実車実験から取得される旋回特性を等しいと置いて、計算式に含まれるCcf,Ccrの値を求める。
【0053】
図7に、車速に対する車両の旋回特性変化を示す。半径R0の円旋回をする。微速旋回して、半径R0一定で周回できるハンドル角(保舵角)を決めて、徐々に増速(Vlow→Vhigh)すると、図の様に回転半径が変化(Rv_low→Rv_high)し、車体横すべり角が変化(β0→βv)する。この変化を横軸に車速の二乗、縦軸にβv0及びRv/R0をとって、横すべり角の変化特性及び回転半径の変化特性を取得して、横すべり角係数Kβ0及びスタビリティファクタKsfを得る。ここで、βv0及びRv/R0の車速ゼロにおける“1.0”の点は一義的に決まるので、×印で示す実測点v2を少なくとも1水準以上取得し、“1.0”の点と結ぶことによって、横すべり係数、スタビリティファクタを取得する。
【0054】
横すべり係数およびスタビリティファクタは、状態方程式(3)及び(4)から展開(参照:別添資料)導出されて式(40)、式(41)になる。
【0055】
【数15】
【0056】
ここに、式(40)式(41)共に、lf1をゼロと置くことによって、前2軸後2軸の4軸車から前1軸後2軸の3軸車への適用、lr1をゼロと置くことによって、前2軸後1軸の3軸車への適用、lf1およびlr1をゼロと置くことによって、前1軸後1軸の2軸車への適用を可能にしている。
【0057】
【数16】
【0058】
【数17】
【0059】
【数18】
【0060】
【数19】
【0061】
以上、式(42-2)に含まれる横すべり係数Kβ0、及び、式(43-1)式(43-2)にスタビリティファクタKsfに実験同定値を代入して、式(42-1)式(43-3)と共に、式(46)式(47)に代入することにより後軸及び前軸のタイヤコーナリング係数を推定することができる。
【0062】
図8に「旋回保舵軌跡」の「計画経路」への設定の仕方を示す。前述図7の旋回ができる広い場所に限定されずに、公道において車線移行しながら「旋回保舵軌跡」を描いて横すべり角係数Kβ0、スタビリティファクタKsfを取得するための「旋回保舵軌跡」と、その「旋回保舵軌跡」を運行計画経路の任意の位置に設定する方法を示す。
【0063】
図8の上部に「旋回保舵軌跡」を示す。片側2車線以上の道路を想定する。図の右側から左側に向けての走行軌跡である。走行車線を走っていてP0からP1のL01間にて右舵してP1からP3のL123間で右舵から左舵への操舵切替をし、P3からP4間で保舵角を定めて、P4-P5-P6のL456間で速度と舵角を保持してデータ取得して、P6-P7のL67間で保舵を解除して、P7-P8-P9のL789間で左舵から右舵して、P9-P10のL910にて右舵から直進に戻す。
【0064】
図8の下部に、予め用意しておいた上述の「旋回保舵軌跡」を計画経路に組み込む方法を示す。公道において車線移行しながら「旋回保舵軌跡」を描こうとするも、その公道は直線とは限らないので、曲線路上でも「旋回保舵軌跡」を描けるようにする。(A)の直線路にたいして、(B)に右旋回路、(C)に左旋回路を想定する。これら(A)(B)(C)の経路曲率を予め取得して置く。その曲率にその場所での車速を乗ずるとヨーレイトになり、そのヨーレイトを積分して計画経路の進路角を得て、それに「旋回保舵角軌跡」の進路角を加えて、積分し、それに車速を乗じるとによって計画経路へ設定された「旋回保舵軌跡」をえることができる。この計画経路へ設定された「旋回保舵軌跡」にて、図7に準じて、横すべり係数Kβ0とスタビリティファクタKsfを取得する。
【0065】
図9に状態推定のフローを示す。このフローは自重と重心位置とタイヤコーナリング係数の状態量推定のはじめから終了までに関する。推定取得した状態量に制御諸元(パラメータ)に切替えての制御に関する説明は本件発明には含まない。工程1では、状態推定しようとする自重、重心位置、タイヤコーナリング係数が、制御モデルが必要とするパラメータ(状態量)であること、その数値が、空車状態値になっていること(設定されていること)の確認工程である。工程2では、タイヤコーナリング係数の空車同定実験は実施されていて、その同定された数値がモデルに装備されていることの確認である。工程3は、運行計画、運行ダイヤは設定されていて、効果的なリアルタイム状態推定の実行場所・実行時間の実施計画の整備の確認工程である。工程4にて、
(1)アクセルによる自重推定、勾配推定をして前後モデル修験の更新
(2)「旋回保舵軌跡」相応の部分定常旋回を実行しての、重心位置推定をして横運動モデル諸元の更新
(3)「旋回保舵軌跡」相応の部分定常旋回を実行しての、タイヤコーナリング係数の確認・更新の順で実施しつつ運行する。
【0066】
以上述べた様に、本発明は、乗客・荷物の変化に伴う自車両の状態量、即ち車両総重量・重心位置・タイヤ荷重、の変化を検出して、その変化に対応する制御モデルの状態量を更新しつつ適応制御するための状態量検出の方法に関する。
・式(2)に対応するアクセル開度Xに対する車両加速度YのY=AX-Bの直線式を備え、直線の勾配Aから自重変化を検出し、Y切片Bから勾配を検出する方法である。
・GPSを装備し、積車に伴うタイヤ横すべり角を検出して、重心位置変化を式(32)により推定する方法である。
・自重変化が分かり、重心位置変化が分かると、前後荷重が分かり、車両としての横すべり角係数、スタビリティファクタを把握する「旋回保舵軌跡」を備えて、その旋回保舵走行できる場所にて、それらを検出して、式(46)式(47)に代入して、タイヤコーナリング係数の推定ができる。
かくして、乗客変化、積載変化に伴う車両の前後運動特性、横運動特性の変化に適応する自動運転車両の適応制御の必要に応えるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9