(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】接合部除去システム及び接合部除去方法
(51)【国際特許分類】
B23B 49/00 20060101AFI20240910BHJP
B23B 41/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B23B49/00 A
B23B41/00 Z
(21)【出願番号】P 2021169130
(22)【出願日】2021-10-14
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一朗
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-509653(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0071562(US,A1)
【文献】実開昭52-017991(JP,U)
【文献】特開2018-034164(JP,A)
【文献】米国特許第5051043(US,A)
【文献】実開昭59-120516(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 35/00 - 49/06
B23B 51/00 - 51/14
B23C 3/12
B23K 31/00
B25F 1/00 - 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに重ね合わされてスポット溶接された第一板及び第二板を有する溶接継手
と、前記溶接継手のスポット接合部を除去するための接合部除去装置
と、を備える接合部除去システムであって、
前記第一板は、前記第二板との重ね合わせ面に臨む孔を有し、
前記溶接継手は、前記第一板の前記孔に挿入される挿入部と、前記孔に挿入されない非挿入部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記挿入部及び前記非挿入部を貫通する中空部が形成される接合補助部材をさらに備え、
前記接合補助部材の前記中空部は、溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第二板及び前記接合補助部材の一部と、によって溶融部が形成され、
前記接合補助部材と前記溶融部によって前記スポット接合部が形成され、
前記スポット接合部は、前記接合補助部材の前記非挿入部と、前記非挿入部の径方向内側の前記溶融部と、によって、前記第一板の上面よりも突出した突出部が形成され、
前記接合部除去装置は、
中心に配置されたドリルと、
前記ドリルの外周側に配置され、前記ドリルと同期して回転しないガイド部と、
を備え、
前記ガイド部の先端部は、
前記接合補助部材の前記非挿入部よりも径方向外側において前記第一板の前記上面に面接触可能な先端面と、
前記スポット接合部の前記突出部を収容して位置決めする溝部と、
を有し、
前記溝部は、
前記スポット接合部の前記突出部と軸方向に当接可能である軸方向側面と、
前記スポット接合部の前記突出部の軸方向長さと略同一の軸方向長さであり、前記突出部の外径よりも大径である周面と、
を有する、
ことを特徴とする
接合部除去システム。
【請求項2】
前記溝部の軸方向側面は、前記スポット接合部の前記突出部のうち、前記接合補助部材の前記非挿入部と軸方向に当接する、
請求項1に記載の
接合部除去システム。
【請求項3】
前記ガイド部は、前記ドリルの軸方向において前記ドリルに対して移動可能であり、
前記ガイド部が、前記軸方向において前記ドリルの先端部側とは反対方向に移動することにより、前記ドリルは前記ガイド部の前記先端部から露出する
請求項1又は2に記載の
接合部除去システム。
【請求項4】
前記ドリル及び前記ガイド部は、ハウジングに収容されており、
前記ドリルは、前記ハウジングに回転可能に固定され、
前記ガイド部は、前記ハウジングに対して前記軸方向に移動可能であり、
前記ガイド部は、弾性部材によって、前記軸方向における前記ドリルの先端部側へ付勢されている
請求項3に記載の
接合部除去システム。
【請求項5】
汎用のドリル装置に取付可能である
請求項1~4のいずれか1項に記載の
接合部除去システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の
接合部除去システムを用いて、前記溶接継手の前記スポット接合部を除去する接合部除去方法であって、
前記ガイド部の前記先端面を前記溶接継手に面接触させた状態で、前記ドリルによって前記スポット接合部を除去する、接合部除去方法。
【請求項7】
前記第一板は、アルミニウム合金製又はマグネシウム合金製であり、
前記第二板は、鋼製であり、
前記接合補助部材は、鋼製であり、
前記溶接金属は、鉄合金、または、Ni合金であり、
前記ガイド部の前記先端面を前記突出部よりも径方向外側において前記第一板の前記上面に面接触させた状態で、前記ドリルによって前記スポット接合部の中心部を切削加工することで前記溶融部の少なくとも一部を除去する、請求項6に記載の接合部除去方法。
【請求項8】
前記ドリルによって前記スポット接合部を除去する際に、前記ドリルは前記接合補助部材を貫通する一方で前記第二板を貫通せず、前記第二板に形成された前記溶融部を一部残した状態で切削加工を終了する、
請求項6又は7に記載の接合部除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合部除去システム及び接合部除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(a)有限資源である石油燃料消費、(b)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO2、(c)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素繊維などに置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
【0003】
鋼と上記軽量素材を組み合わせるには、必然的にこれらを接合する箇所が出てくる。鋼同士やアルミニウム合金同士、マグネシウム合金同士では容易である溶接が、異材では極めて困難であることが知られている。この理由として、鋼とアルミニウムあるいはマグネシウムの溶融混合部には極めて脆い性質である金属間化合物(IMC)が生成し、引張や衝撃といった外部応力で溶融混合部が容易に破壊してしまうことにある。このため、抵抗スポット溶接法やアーク溶接法といった溶接法が異材接合には採用できず、他の接合法を用いるのが一般的である。鋼と炭素繊維の接合も、後者が金属ではないことから溶接を用いることができない。
【0004】
ここで、特許文献1には、鋼同士の溶接を結合力として用いる一方、アルミニウム合金やマグネシウム合金を溶融させず、拘束力で鋼との接合を達成する異材接合用アークスポット溶接法が開示されている。より具体的には、この異材接合用アークスポット溶接法は、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第一板に穴を空ける工程と、第一板と鋼製の第二板を重ね合わせる工程と、中空部を有する鋼製の接合補助部材を第1の板に設けられた穴に挿入する工程と、接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、を有する。
【0005】
このような、異材である第一板及び第二板がスポット溶接された溶接継手が、自動車等の輸送機器に用いられた場合、当該輸送機器を分解・廃棄するために、第一板と第二板とを綺麗に分離したいという要求がある。また、不慮の事故等が起こった場合に第一板又は第二板を交換・修理するために、スポット接合部を除去したいという要求も存在する。
【0006】
従来から、自動車のボディ等を分解する際には、同材の金属板同士を重ね合わせてスポット溶接されたスポット溶接部を切削加工により除去して、金属板同士を分離することが行われている。例えば、特許文献2には、板金を重ねてスポット溶接された構造物のスポット溶接部を加工するドリルが開示されている。このドリルは、ドリル本体の外周側に形成された外側切刃と、ドリル本体の軸線に沿って外側切刃よりも先端側に突出する中心切刃と、を備えたいわゆるスポットドリルである。そして、中心切刃と主切刃の高さの差と円錐状の中心切刃の角度を工夫することで、穴加工時に重ねた板金の下板を損傷することなく正確かつ安全に加工することを目的としている。
【0007】
しかしながら、特許文献2のようなドリルを汎用の電動ドリル装置に取り付けてスポット接合部を除去しようとした場合、スポット接合部に対するドリルの狙い位置のズレや、ドリルの中心ズレが発生する可能性がある。この場合、安定してスポット接合部を除去できないため、除去に時間がかかり、作業者に技量を要することとなる。また、ドリルがスポット接合部から逸れて、作業者が怪我をする恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-034164号公報
【文献】特開2005-081522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安定してスポット接合部を除去可能な接合部除去システム及び接合部除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、接合部除去装置に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 互いに重ね合わされてスポット溶接された第一板及び第二板を有する溶接継手のスポット接合部を除去するための接合部除去装置であって、
前記接合部除去装置は、
中心に配置されたドリルと、
前記ドリルの外周側に配置され、前記ドリルと同期して回転しないガイド部と、
を備え、
前記ガイド部の先端部は、前記溶接継手に面接触可能な先端面を有する、
ことを特徴とする接合部除去装置。
【0011】
また、本発明の上記目的は、接合部除去方法に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 上記[1]に記載の接合部除去装置を用いて、前記溶接継手の前記スポット接合部を除去する接合部除去方法であって、
前記ガイド部の前記先端面を前記溶接継手に面接触させた状態で、前記ドリルによって前記スポット接合部を除去する、接合部除去方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安定してスポット接合部を除去可能な接合部除去システム及び接合部除去方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、接合部除去装置を他の角度から見た斜視図である。
【
図5】
図5は、接合部除去装置のガイド部を溶接継手に接触させた状態を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、異材接合用アークスポット溶接法の穴開け作業を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、異材接合用アークスポット溶接法の重ね合わせ作業を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、異材接合用アークスポット溶接法の挿入作業を示す図である。
【
図8D】
図8Dは、異材接合用アークスポット溶接法の溶接作業を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、溶接金属の溶込みを説明するための異材溶接継手の断面図である。
【
図9B】
図9Bは、溶接金属の溶込みを説明するための異材溶接継手の断面図である。
【
図10】
図10は、ガイド部からドリルが露出した状態を示す図である。
【
図11】
図11は、溶融部が除去される前の、異材溶接継手の断面図である。
【
図12】
図12は、溶融部が除去されている最中の、異材溶接継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る接合部除去装置及び接合部除去方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1は、接合部除去装置1の斜視図である。
図2は、接合部除去装置1の他の角度から見た斜視図である。
図3は、接合部除去装置1の正面図である。
図4は、接合部除去装置1の断面図である。
図5は、接合部除去装置1のガイド部20を溶接継手100に接触させた状態を示す図である。
図6は、
図5の要部拡大図である。
【0016】
接合部除去装置1は、
図5及び
図6に示すような、互いに重ね合わされてスポット溶接された上板110及び下板120を有する溶接継手100のスポット接合部150を除去するために用いられる。接合部除去装置1は、中心に配置されたドリル10と、ドリル10の外周側に配置され、ドリル10と同期して回転しないガイド部20と、ドリル10及びガイド部20を収容するハウジング30と、を備える。
【0017】
なお、本明細書において、ドリル10の軸方向とは図中の上下方向である。ドリル10の先端部側とは図中の下方向であり、「軸方向一方側」と呼ぶことがある。ドリル10の先端部側とは反対方向とは図中の上方向であり、「軸方向他方側」と呼ぶことがある。
【0018】
ハウジング30は、軸方向他方側に配置された第一ハウジング40と、軸方向一方側に配置された第二ハウジング50と、を有する。
【0019】
第一ハウジング40は、略円環状の第一底部41と、第一底部41の径方向外側端部から軸方向一方側、すなわち第二ハウジング50側に延びる第一筒部43と、を有する。
【0020】
図4に示すように、第一底部41は、その中心を軸方向に貫く第一貫通孔41aを有し、当該第一貫通孔41aにドリル10が挿通される。第一貫通孔41aの軸方向他方側端部には、径方向外側に向かって大径凹部41bが凹設されている。大径凹部41bには、ドリル10を回転可能に支持する軸受5が配置される。ドリル10の外周面のうち軸受5に支持される部分の軸方向両側には、スナップリング3がプライヤ等により外嵌されており、軸受5からドリル10が軸方向に抜け出てしまうことが防止される。第一底部41の軸方向一方側面は、軸方向他方側に向かって凹設された環状のバネ受け溝41cを有する。バネ受け溝41cには、後述するコイルバネ7が配置される。
【0021】
第一筒部43は、略筒状であり、その内周面の軸方向一方側部には雌ネジ部43aが形成される。この雌ネジ部43aには、後述するように、第二ハウジング50の雄ネジ部53aが螺合可能である。
【0022】
第二ハウジング50は、略円環状の第二底部51と、第二底部51の径方向外側端部から軸方向他方側、すなわち第一ハウジング40側に延びる第二筒部53と、を有する。
【0023】
第二底部51は、その中心を軸方向に貫く第二貫通孔51aを有し、当該第二貫通孔51aにドリル10及びガイド部20の突起部23が挿通される。第二筒部53は、略筒状であり、その外周面の軸方向他方側部には雄ネジ部53aが形成される。そして雄ネジ部53aと雌ネジ部43aとが螺合されることにより、第二ハウジング50と第一ハウジング40とが互いに固定される。
【0024】
ガイド部20は、ドリル10を適切な切削位置にガイドするための略筒状の部材である。ガイド部20は、第二ハウジング50内に配置される本体部21と、本体部21よりも小径であり、本体部21の中心から軸方向一方側に突出する突起部23と、本体部21及び突起部23を軸方向に貫き、ドリル10が挿通される貫通孔25と、を有する。
【0025】
貫通孔25の軸方向他方側部には、複数(図示の例では5つ)の略筒状の滑り軸受9が軸方向に並んで配置されている。複数の滑り軸受9は、後述する突起部23の開口23aの近傍まで設けられている。複数の滑り軸受9は、その内部を挿通するドリル10を、回転可能且つ軸方向移動可能に支持する。
【0026】
本体部21は、中心に貫通孔25を有する略筒状であり、軸方向一方側の大径部21Aと、軸方向他方側の小径部21Bと、を含む。大径部21Aの外径は、第二ハウジング50の第二筒部53の内径と略同一か僅かに小さく設定される。これにより、大径部21Aは、第二筒部53に対して軸方向に摺動自在に収容される。すなわち、ガイド部20は、ハウジング30(第一及び第二ハウジング40,50)に対して軸方向に移動可能である。小径部21Bは、大径部21Aの中心から軸方向他方側に突出している。小径部21Bの外周面には、軸方向に延びる圧縮バネであるコイルバネ7(弾性部材)が配置される。
【0027】
コイルバネ7の軸方向他端部は第一ハウジング40のバネ受け溝41cに収容され、コイルバネ7の軸方向一方側部は小径部21Bの外周面に支持され、コイルバネ7の軸方向一端部は大径部21Aの軸方向他方側側面に当接する。このようにコイルバネ7によって、ガイド部20は軸方向一方側、すなわち軸方向におけるドリル10の先端部側に付勢されている。
【0028】
図4に示すようにガイド部20に軸方向荷重が負荷されていない状態では、ガイド部20はコイルバネ7によって軸方向一方側に付勢されるが、ガイド部20の大径部21Aが第二底部51と軸方向に当接することで、ガイド部20の軸方向位置が規制される。
【0029】
突起部23は、中心に貫通孔25を有する略筒状である。突起部23の外径は、第二ハウジング50の第二貫通孔51aの内径よりも小さい。したがって、突起部23は、第二貫通孔51aに干渉することなく、第二貫通孔51aを貫通し、第二底部51よりも軸方向一方側に突出する。
【0030】
図4に示すようにガイド部20に軸方向荷重が負荷されていない状態では、突起部23はドリル10の先端部よりも軸方向一方側に延在しており、ドリル10はガイド部20に覆われている。したがって、作業者が不用意にドリル10に触れることが防止され、安全性が高い。
【0031】
突起部23には、径方向に貫通する開口23aが設けられている。作業者は、開口23aを介して外部からドリル10の先端を視認可能であり、ドリル10の狙い位置が適切か確認することができる。また、ドリル10によって切削された溶接継手100の切屑を、ガイド部20の内部に溜まらないよう、開口23aから外部に排出することができる。開口23aの個数や形成位置、形状等は特に限定されない。
図3には開口23aが2個設けられた例が示され、
図4には開口が1個設けられた例が示されている。
【0032】
ガイド部20の先端部、すなわち突起部23の先端部は、溶接継手100に面接触可能な先端面27を有する。先端面27の形状は、溶接継手100と面接触可能となるように適宜設定される。本実施形態では、溶接継手100の上板110の上面が平面であるので(
図5及び
図6参照)、先端面27の形状も平面とされる。
【0033】
また、ガイド部20の先端部は、すなわち突起部23の先端部は、スポット接合部150の突出部151を収容して位置決めする溝部29を有する。スポット接合部150の突出部151については後に詳述するが、当該突出部151は、スポット接合部150のうち、溶接継手100の表面すなわち上板110の上面よりも軸方向他方側に突出した部分である。
【0034】
溝部29は貫通孔25に接続して設けられており、溝部29の外径は貫通孔25よりも大径である。
図6に示すように、溝部29のうち貫通孔25と接続する軸方向側面29aは、スポット接合部150の突出部151と軸方向に当接可能である。また、溝部29の周面29bの軸方向長さは、スポット接合部150の突出部151の軸方向長さと略同一である。また、溝部29の周面29bの径は、溝部29への突出部151の収容を容易とするため、突出部151の外径よりも僅かに大径とされている。そして、溝部29に突出部151を収容することで、スポット接合部150に対してガイド部20が位置決めされ、ひいては、スポット接合部150に対してドリル10が位置決めされる。
【0035】
本発明の接合部除去装置1は、互いに重ね合わされてスポット溶接された同材(例えば鋼)の第一板及び第二板を有する溶接継手100のスポット接合部を除去するためにも用いることができるが、溶接継手100が以下に述べる異材接合用スポット溶接法によって得られた異材溶接継手100である場合に特に好適に用いられる。
【0036】
図7Aは、異材溶接継手100の斜視図である。
図7Bは、
図7AのVII-VII線に沿った異材溶接継手100の断面図である。
図8Aは、異材接合用アークスポット溶接法の穴開け作業を示す図である。
図8Bは、異材接合用アークスポット溶接法の重ね合わせ作業を示す図である。
図8Cは、異材接合用アークスポット溶接法の挿入作業を示す図である。
図8Dは、異材接合用アークスポット溶接法の溶接作業を示す図である。
図9Aは、溶接金属140の溶込みを説明するための異材溶接継手100の断面図である。
図9Bは、溶接金属の溶込み140を説明するための異材溶接継手100の断面図である。
【0037】
本実施形態の異材接合用スポット溶接法は、互いに重ね合わせされる、アルミニウム合金又はマグネシウム合金製の上板110(第一板)と、鋼製の下板120(第二板)とを、鋼製の接合補助部材130を介して、後述するスポット溶接法によって接合することで、
図7A及び
図7Bに示すような異材溶接継手100を得るものである。
【0038】
上板110には、板厚方向に貫通して、下板120の重ね合わせ面に臨む孔111が設けられており、この孔111に接合補助部材130が挿入される。
【0039】
接合補助部材130は、上板110の孔111に挿入される挿入部131と、上板110の上面に配置され、孔111に挿入されないフランジ形状の非挿入部132と、を持った段付きの外形形状を有する。また、接合補助部材130には、挿入部131及び非挿入部132を貫通する中空部133(
図8C参照)が形成される。なお、非挿入部132の外形形状は、
図7Aに示すような円形に限定されず、任意の形状とすることができる。また、中空部133の形状も、円形に限定されず、任意の形状とすることができる。
【0040】
さらに、接合補助部材130の中空部133には、アークスポット溶接によってフィラー材(溶接材料)が溶融した、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属140が充填される。そして、溶接金属140と、溶融された下板120及び接合補助部材130の一部と、によって溶融部Wが形成される。
【0041】
異材溶接継手100においては、接合補助部材130の溶融していない部分と溶融部Wとが、上板110と下板120とを接合するスポット接合部150を構成する。スポット接合部150は、異材溶接継手100の表面、すなわち上板110の上面よりも突出した突出部151を有する。突出部151は、接合補助部材130の非挿入部132や、非挿入部132の径方向内側の溶融部Wによって構成される。
【0042】
以下、異材溶接継手100を構成するための異材接合用アークスポット溶接法について、
図8A~
図8Dを参照して説明する。
【0043】
まず、
図8Aに示すように、上板110に孔111を空ける穴開け作業を行う(ステップS1)。次に、
図8Bに示すように、上板110と下板120を重ね合わせる重ね合わせ作業を行う(ステップS2)。さらに、
図8Cに示すように、接合補助部材130の挿入部131を、上板110の上面から、上板110の孔111に挿入する(ステップS3)。そして、
図8Dに示すように、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法、(b)ノンガスアーク溶接法、(c)ガスタングステンアーク溶接法、(d)プラズマアーク溶接法、(e)被覆アーク溶接法のいずれかのアーク溶接作業を行うことで、上板110と下板120とを接合する(ステップS4)。なお、
図8Dは、(a)溶極式ガスシールドアーク溶接法を用いてアーク溶接作業が行われた場合を示している。
【0044】
ステップS1の穴開け作業の具体的な手法としては、a)電動ドリルやボール盤といった回転工具を用いた切削、b)ポンチを用いた打抜き、c)金型を用いたプレス型抜きがあげられる。
【0045】
また、ステップS4のアーク溶接作業は、接合補助部材130と下板120を接合し、かつ接合補助部材130に設けられた中空部133を充填するために必要とされる。したがって、アーク溶接には充填材となるフィラー材(溶接材料)の挿入が不可欠となる。上述の4つのアーク溶接法のいずれかにより、フィラー材が溶融して溶接金属140が形成される。
【0046】
フィラー材(溶接材料)の材質については、溶接金属140がFe合金となるものであれば、一般的に用いられる溶接用ワイヤが適用可能である。なお、Ni合金でも鉄との溶接には不具合を生じないので適用可能である。具体的には、JISとして(a)Z3312,Z3313,Z3317,Z3318,Z3321,Z3323,Z3334、(b)Z3313、(c)Z3316,Z3321,Z3334,(d)Z3211,Z3221,Z3223,Z3224、AWS(American Welding Society)として、(a)A5.9,A5.14,A5.18,A5.20,A5.22,A5.28,A5.29,A5.34、(b)A5.20、(c)A5.9,A5.14,A5.18,A5.28,(d)A5.1,A5.4,A5.5,A5.11といった規格材が流通している。
【0047】
上記のアーク溶接法を用いて接合補助部材130の中空部133をフィラー材で充填するが、一般的にフィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置は移動させる必要がなく、適切な送給時間を経てアークを切って溶接を終了させれば良い。ただし、中空部133の面積が大きい場合は、フィラーワイヤもしくは溶接棒の狙い位置を中空部内で円を描くように移動させても良い。
【0048】
溶接金属140は接合補助部材130の中空部133を充填し、さらに接合補助部材130の表面に余盛りWaを形成するのが望ましい(
図7B参照)。余盛りを形成しない、すなわち、中空部133が溶接後に外観上残る状態だと、接合強度が不足となる可能性があるためである。特に、板厚方向(3次元方向)の外部応力に対しては、余盛りを形成させたほうが高い強度が得られる。
【0049】
一方、余盛り側と反対側の溶込みについては、
図9Aに示すように、下板120を適度に溶融していることが必要である。なお、
図9Bに示すように、下板120の板厚を超えて溶接金属140が形成される、いわゆる裏波が出る状態にまで溶けても問題はない。ただし、下板120が溶けずに、溶接金属140が乗っかっているだけであると、高い強度は得られない。また、溶接金属140が深く溶け込みすぎて、溶接金属140と下板120が溶け落ちてしまわないように溶接する必要がある。
【0050】
以上の作業によって、Al合金やMg合金製の上板110と鋼製の下板120は、接合補助部材130と溶融部Wとからなるスポット接合部150によって、高い強度で接合されて、異材溶接継手100が形成される。
【0051】
接合部除去装置1を用いて、このような異材溶接継手100のスポット接合部150を除去する方法を、
図5~
図6及び
図10~
図13を用いて説明する。
【0052】
図10は、ガイド部20からドリル10が露出した状態を示す図である。
図11は、溶融部Wが除去される前の、異材溶接継手100の断面図である。
図12は、溶融部Wが除去されている最中の、異材溶接継手100の断面図である。
図13は、
図12は、溶融部Wの一部が除去された、異材溶接継手100の断面図である。
【0053】
図5及び
図6を参照して上述したように、ガイド部20の先端部、すなわち突起部23の先端部は、異材溶接継手100の上板110の上面に面接触可能な先端面27を有する。したがって、ドリル10と同期して回転しない無回転のガイド部20が、異材溶接継手100と面接触するので、ドリル加工における直進安定性を確保できる。これにより、安全に短時間でスポット接合部150の除去が可能となる。
【0054】
また、上述したように、ガイド部20の先端部、すなわち突起部23の先端部は、スポット接合部150の突出部151を収容して位置決めする溝部29を有する。したがって、溝部29に突出部151を収容することで、スポット接合部150に対してガイド部20が位置決めされ、ひいては、スポット接合部150に対してドリル10が位置決めされる。このように、ドリル10をスポット接合部150の中心に対して容易に狙いを定めることができる。
【0055】
図5及び
図6に示す状態においては、ガイド部20の先端面27が上板110の上面に軽く接触しているだけであり、ガイド部20に対する上板110からの軸方向負荷は、コイルバネ7の付勢力を上回っていない。したがって、ガイド部20は第二ハウジング50内で軸方向他方側に変位しておらず、ガイド部20は第二ハウジング50内の軸方向一方側端部に位置しており、ガイド部20の本体部21が第二ハウジング50の第二底部51に接触している。
【0056】
次に、
図10において白抜き矢印で示すように、接合部除去装置1を異材溶接継手100に向かって押し付けると、ガイド部20は上板110から軸方向他方側に向かって負荷を受け、当該負荷がコイルバネ7の付勢力を上回ると、第二ハウジング50内を軸方向他方側に摺動して変位する。これにより、ガイド部20がハウジング30やドリル10に対して軸方向他方側に移動するので、ドリル10はガイド部20の先端部から露出することになる。この際に、ドリル10は、回転駆動されており、スポット接合部150を構成する溶融部Wや接合補助部材130を切削する。
【0057】
図10においては、ドリル10が異材溶接継手100の下板120の裏面まで貫通している様子が示されているが、必ずしも下板120を貫通させなくても、スポット接合部150を除去して、上板110と下板120とを分離することは可能である。これについて、
図11~
図13を参照して説明する。
【0058】
図11に示すような異材溶接継手100に対し、
図12に示すようにドリル10を回転駆動させながら近づける。なお、
図12においてガイド部20の図示は省略されているが、上述したようにドリル10はガイド部20によって適切に位置決めされており、ガイド部20の先端面27を上板110に面接触させた状態で、ドリル10はスポット接合部150の中心部を切削加工する。溶融部W及び接合補助部材130が切削加工されることにより発生する切屑160は、ガイド部20の開口23aから、接合部除去装置1の外部に排出される
【0059】
そして、
図13に示すように、ドリル10が接合補助部材130を貫通する一方で下板120を貫通しないようにし、下板120に形成された溶融部Wを一部残した状態で切削加工を終了する。これにより、接合補助部材130及び溶融部Wによる上板110及び下板120の接合が解消されるので、スポット接合部150が除去される。これにより、上板110及び下板120を分離することが可能となる。
【0060】
なお、
図13に示す状態では、接合補助部材130は、上板110の孔111に挿入されているだけで未固定であるので、上板110から容易に外すことが可能である。
【0061】
このように、下板120を貫通しないようにドリル加工を行うことで、下板120が大きく損傷することが抑制され、修理復元をそれ程ともなわず下板120を再度利用可能となる。また、下板120を貫通しないようにドリル加工を行うことで、下板120に超高張力鋼板等が用いられた場合であっても、ドリル10を長寿命化することができる。
【0062】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、上述の実施形態においては、接合部除去装置1が異材溶接継手100のスポット接合部150を除去するために用いられる例を説明したが、本発明の接合部除去装置1は同材(例えば鋼)の第一板及び第二板がスポット溶接されてなる溶接継手(便宜上「同材溶接継手」と呼ぶ)にも用いることができる。
【0063】
すなわち、接合部除去装置1が同材溶接継手のスポット接合部を除去するために用いられる場合であっても、ガイド部20の先端面27が同材溶接継手に面接触可能であるので、ドリル加工における直進安定性を確保できる。
【0064】
また、スポット接合部が、同材溶接継手の表面よりも突出した突出部を有する場合には、当該突出部をガイド部20の溝部29に収容して、スポット接合部に対するドリル10の位置決めを容易に行うことができる。なお、同材溶接継手の場合には、接合補助部材130を用いる必要はないので、スポット接合部は、溶接金属と、溶融された第一板及び第二板の一部と、によって形成された溶融部によって構成される。
【0065】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0066】
(1) 互いに重ね合わされてスポット溶接された第一板及び第二板を有する溶接継手のスポット接合部を除去するための接合部除去装置であって、
前記接合部除去装置は、
中心に配置されたドリルと、
前記ドリルの外周側に配置され、前記ドリルと同期して回転しないガイド部と、
を備え、
前記ガイド部の先端部は、前記溶接継手に面接触可能な先端面を有する、
ことを特徴とする接合部除去装置。
この構成によれば、ドリルと同期して回転しないガイド部が、溶接継手と面接触するので、ドリル加工における直進安定性を確保できる。これにより、安全に短時間でスポット接合部の除去が可能となる。
【0067】
(2) 前記スポット接合部は、前記溶接継手の表面よりも突出した突出部を有し、
前記ガイド部の前記先端部は、前記スポット接合部の前記突出部を収容して位置決めする溝部を有する、
(1)に記載の接合部除去装置。
この構成によれば、溝部にスポット接合部の突出部を収容することで、スポット接合部に対してガイド部が位置決めされ、ひいては、スポット接合部に対してドリルが位置決めされる。このように、ドリルをスポット接合部の中心に対して容易に狙いを定めることができる。
【0068】
(3) 前記ガイド部は、前記ドリルの軸方向において前記ドリルに対して移動可能であり、
前記ガイド部が、前記軸方向において前記ドリルの先端部側とは反対方向に移動することにより、前記ドリルは前記ガイド部の前記先端部から露出する
(1)又は(2)に記載の接合部除去装置。
この構成によれば、ガイド部によってドリル加工における直進安定性を確保しつつ、ドリルのみガイド部から露出させてスポット接合部を切削することができる。したがって、安全にスポット接合部の除去が可能である。
【0069】
(4) 前記ドリル及び前記ガイド部は、ハウジングに収容されており、
前記ドリルは、前記ハウジングに回転可能に固定され、
前記ガイド部は、前記ハウジングに対して前記軸方向に移動可能であり、
前記ガイド部は、弾性部材によって、前記軸方向における前記ドリルの先端部側へ付勢されている
(3)に記載の接合部除去装置。
この構成によれば、切削時以外にはガイド部がドリルの先端部側に付勢されて、ドリルがガイド部から露出することが防止されるので、作業者がドリルに不用意に触れることが防止され、安全性が高められる。
【0070】
(5) 汎用のドリル装置に取付可能である
(1)~(4)のいずれか1つに記載の接合部除去装置。
この構成によれば、汎用性が高い。
【0071】
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の接合部除去装置を用いて、前記溶接継手のスポット接合部を除去する接合部除去方法であって、
前記ガイド部の前記先端面を前記溶接継手に面接触させた状態で、前記ドリルによって前記スポット接合部を除去する、接合部除去方法。
この構成によれば、特殊な動力機構が不要であり、汎用性が高い。
【0072】
(7) 前記第一板は、アルミニウム合金製又はマグネシウム合金製であり、
前記第二板は、鋼製であり、
前記第一板は、前記第二板との重ね合わせ面に臨む孔を有し、
前記溶接継手は、前記第一板の前記孔に挿入される挿入部と、前記孔に挿入されない非挿入部と、を持った段付きの外形形状を有し、且つ、前記挿入部及び前記非挿入部を貫通する中空部が形成される鋼製の接合補助部材をさらに備え、
前記接合補助部材の前記中空部は、鉄合金、または、Ni合金の溶接金属で充填されると共に、前記溶接金属と、溶融された前記第二板及び前記接合補助部材の一部と、によって溶融部が形成され、
前記ガイド部の前記先端面を前記第一板に面接触させた状態で、前記ドリルによって前記溶融部の少なくとも一部を除去する、(6)に記載の接合部除去方法。
この構成によれば、異材である第一板及び第二板と、接合補助部材と、を含む溶接継手のスポット接合部を好適に除去できる。
【0073】
(8) 前記ドリルによって前記スポット接合部を除去する際に、前記ドリルは前記第二板を貫通しない、
(6)又は(7)に記載の接合部除去方法。
この構成によれば、第二板が大きく損傷することが抑制され、修理復元をそれ程ともなわず第二板を再度利用可能である。ドリルの摩耗量を抑制し、ドリルを長寿命化できる。
【符号の説明】
【0074】
1 接合部除去装置
3 スナップリング
5 軸受
7 コイルバネ
9 滑り軸受
10 ドリル
20 ガイド部
21 本体部
21A 大径部
21B 小径部
23 突起部
23a 開口
25 貫通孔
27 先端面
29 溝部
29a 軸方向側面
29b 周面
30 ハウジング
40 第一ハウジング
41 第一底部
41a 第一貫通孔
41b 大径凹部
41c バネ受け溝
43 第一筒部
43a 雌ネジ部
50 第二ハウジング
51 第二底部
51a 第二貫通孔
53 第二筒部
53a 雄ネジ部
100 異材溶接継手
110 上板(第一板)
111 孔
120 下板(第二板)
130 接合補助部材
131 挿入部
132 非挿入部
133 中空部
140 溶接金属
150 スポット接合部
151 突出部
160 切屑
W 溶融部
Wa 余盛り