(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】低抵抗率を有する銅部品を製造するための光造形プロセス
(51)【国際特許分類】
B22F 10/12 20210101AFI20240910BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240910BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240910BHJP
B22F 1/103 20220101ALI20240910BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240910BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240910BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20240910BHJP
【FI】
B22F10/12
B22F1/00 L
B22F10/64
B22F1/103
B33Y10/00
B33Y70/00
B29C64/165
(21)【出願番号】P 2021559867
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2020060326
(87)【国際公開番号】W WO2020208231
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-04-05
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マリリーヌ・ルマニエ
(72)【発明者】
【氏名】セシル・フラセイエ
(72)【発明者】
【氏名】デニス・ヴァンサン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084388(JP,A)
【文献】特表2004-504490(JP,A)
【文献】特開2009-075307(JP,A)
【文献】特表2019-502028(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109535330(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
B22F 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の順次的工程:
a)光造形により部品を造形する工程であって、前記造形は、
a1)銅粒子の粉末、第1の樹脂の1種又は複数の光重合性前駆体、光開始剤、及び場合によって光学添加剤を含む、ペースト層を形成する工程、
a2)前記第1の樹脂の前記光重合性前駆体を光重合する工程、
によって実行され、工程a1)及びa2)は、複数回繰り返し得るサイクルを形成する、工程、
b)第1の雰囲気中で、第1の温度T
dにて、第1の熱処理を実行し、前記第1の樹脂を除去する工程、
c)第2の雰囲気中で、前記第1の温度T
dより高い第2の温度T
fにて、第2の熱処理を実行し、前記銅粒子を焼結して銅部品を得る工程
を含む銅部品を製造する方法であって、
前記第1の雰囲気は、少なくとも10容積%の酸化
剤を含有する酸化性雰囲気からなり、前記第2の雰囲気は、還元性雰囲気からな
り、前記光重合性前駆体が、四官能性アクリレート及び二官能性アクリレートからなり、前記光開始剤が、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンからなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記酸化剤が二酸素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の雰囲気が、少なくとも15容積%の二酸素を含有することを特徴とする、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の雰囲気が、空気からなることを特徴とする、請求項1
から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の雰囲気が、二水素又は二水素とアルゴンの混合物からなることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の熱処理が、300~800℃の温度で実行されることを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の熱処理が、2~7時間にわたって実行されることを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の熱処理が、980~1080℃の温度で実行されることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の熱処理が、1~7時
間にわたって実行されることを特徴とする、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記四官能性アクリレート/前記二官能性アクリレートの質量比が、1~5の範囲にあることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記四官能性アクリレート/前記二官能性アクリレートの質量比が
、2~4の範囲に
あることを特徴とする、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記四官能性アクリレートが、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレートであり、前記二官能性アクリレートが、ビスフェノールAエトキシレートジメタクリレートであることを特徴とする、請求項
1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記銅粉末が、前記ペースト
層の少なくとも35容積
%を占めることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記銅粉末が、前記ペースト層の35~65容積%を占めることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記光学添加剤が、シリカ、ポリチオフェン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、及び事前に架橋され粉砕された第2の樹脂から選択されることを特徴とする、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
光造形方法において使用して、銅部品を製造することを意図しており、
- 銅粒子の粉末、
- 第1の樹脂の光重合性前駆体、
- 光開始剤、並びに
- 場合により、光学添加
剤、
を含むペーストであって、
前記光重合性前駆体が、四官能性アクリレート及び二官能性アクリレートからなり、前記光開始剤が、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンからなることを特徴とする、ペースト。
【請求項17】
前記光学添加剤が、シリカ、ポリチオフェン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、及び事前に架橋され粉砕された第2の樹脂から選択される、請求項16に記載のペースト。
【請求項18】
前記四官能性アクリレート/前記二官能性アクリレートの質量比が、1~5の範
囲にあることを特徴とする、請求項
16又は17に記載の
ペースト。
【請求項19】
前記四官能性アクリレート/前記二官能性アクリレートの質量比が、2~4の範囲にあることを特徴とする、請求項18に記載のペースト。
【請求項20】
前記四官能性アクリレートが、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレートであり、前記二官能性アクリレートが、ビスフェノールAエトキシレートジメタクリレートであることを特徴とする、請求項
16から19のいずれか一項に記載のペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅部品を製造するための3Dプリンティング方法、特に光造形方法に関する。
【0002】
本発明は、複雑な及び/又は表面模様付きの外形を有し、非常に高い純度を有し、したがって低抵抗率を有する一方で、製造コストを増大させない、高密度部品を得ることを可能にするため、特に興味深い。
【0003】
本発明は、多くの産業分野、特にエネルギー分野における用途を見出しており、これは、銅が高い熱的特性(385W/m・K)及び電気的特性(59.6×106S・m-1)を有するためである。このような方法により、例えば、熱交換器又は電気コンバーターを製造するための、新しい形状寸法を設計することが可能になっている。
【0004】
本発明はまた、光造形により銅部品を製造するためのペーストに関する。特に、ペーストにより、亀裂のない部品を得ることが可能になり、このことは重い銅部品を製造する際に特に有利である。
【背景技術】
【0005】
現在、複雑な外形を有する金属部品は、主に積層造形(AM)により製作されている。
【0006】
金属積層造形は主に、粉末床上での溶融の技術:粉末床上でのレーザー溶融(又は「レーザービーム溶融」を意味するLBM)又は粉末床上での電子ビームによる溶融(「電子ビーム溶融」を意味するEBM)により表わされる。
【0007】
しかしながら、これらの技術は、溶融による他の3Dプリンティング技術と同様に、以下の欠点を有する。
- 製造後、部品に残留応力が存在し、熱機械的応力を解放するために以後の熱処理を行う必要があること、
- 成分の蒸発による局所的組成の変化、
- 表面品質が低く、研磨工程が必要となること、
- 最適な層化を実行するために特定の粒度分布の粉末を必要とし、原料購入に無視できない規模のコストが生じること、
- 研磨及び洗浄工程における粉末の管理及び取り扱いがあり、したがって、健康、安全性及び環境の点で特定の注意を要すること。
【0008】
最後に、レーザー/材料相互作用は、特に非常に良好な熱伝導体であり反射性材料である銅の場合、高密度部品を製造するのに効果的ではなく、したがって、特定の機械(1064nmの代わりに緑色の520nmでのレーザー放出を行うもの)を開発する必要がある。
【0009】
これらの問題を克服するため、光造形(SLA)による金属部品の製造が拡大している。この技術は、銅粉末、光重合性樹脂、及び光開始剤を含有する第1のペースト層を支持体の上に堆積させる工程、並びに適切な放射線、一般的にUV (典型的には365nm)の作用により、選択された領域の1つ又は複数で、この層を重合する工程で構成される。その後、同じ原理に従って処理される第2の層が、この第1の層の上に重ねられ、所望の外形を有する三次元重合部品が形成されるまで、これらの動作が繰り返される。
【0010】
ポリマーは、部品の製造中に、十分な機械的強度を部品に与える。その後、このポリマーは脱バインダー工程において、熱的に除去され、次いで、部品は焼結により強固にされる。金属の脱バインダー及び焼結の熱サイクルは、銅の酸化を避けるために、主に真空中又はアルゴン中で行われる。粉末床上での溶融による積層造形と比較すると、これらの技術は、脱バインダー/焼結に関して粉末冶金のノウハウに頼ることができ、この分野の製造業者によって容易に統合可能であるという利点を有する。
【0011】
Lee等の論文(「Development of micro-stereolithography technology using metal powder」、Microelectronic Engineering 83 (2006)、1253~1256頁)では、直径3μmの銅粒子を容量で30%まで充填した配合物が、SLAレーザーによって造形される。例えば、上記配合物は、アクリレート樹脂の前駆体として1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)及びトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、反応性希釈剤としてN-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、光開始剤としてジメトキシフェニルアセトフェノン(DMPA)を含有し得る。第1の脱バインダー熱処理は真空中にて600℃で1時間実行され、次いで、第2の焼結熱処理は真空中にて960℃で3時間実行される。焼結部品の電気抵抗は、200~300nΩ・m(すなわち、純粋な銅の電気抵抗値の10倍超)となり、この値は炭素による汚染及び/又は高気孔率の存在によって引き起こされ得る。
【0012】
国際公開第02/07918(A1)号では、アクリレート樹脂の前駆体を含有するペースト組成物及び金属粉末が研究されている。膨張及び亀裂の起点において応力を制限するため、真空中にて焼結解除工程を実行することが好ましいと指摘されている。この工程は、炭素残留物を除去するために掃気する還元ガス下で実行され得る。粒子の酸化は、収縮差につながることがあり、したがって、応力及び歪につながることがあるため、金属粒子の酸化を避けるために、制御された方式で、酸素、一酸化炭素又は二酸化炭素を含有する雰囲気の存在下で、炭酸化した残留物を投与する追加処理を用意することが可能である。焼結工程は、中性雰囲気(アルゴン又は窒素)中、還元性雰囲気中、又は真空中で実行され得ることも示されている。より具体的には、実施例において、脱バインダー工程が一次真空(10-2~10mbar)中で40時間実行され、焼結工程が、アルゴンの存在下で又は二次真空中(10-6~10-4mbar)で実行される。しかしながら、このような方法は、長い時間がかかり工業化が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Lee等、「Development of micro-stereolithography technology using metal powder」、Microelectronic Engineering 83 (2006)、1253~1256頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、低抵抗率を有する銅部品の製造方法であって、実現が簡単で工業化が可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、以下の順次的工程:
a)光造形により部品を造形する工程であって、造形は、
a1)銅粒子の粉末、第1の樹脂の1種又は複数の光重合性前駆体、光開始剤及び場合によっては光学添加剤を含むペースト層を形成する工程、
a2)第1の樹脂の光重合性前駆体を光重合する工程
によって実行され、工程a1)及びa2)は、複数回繰り返し得るサイクルを形成する、工程、
b)第1の雰囲気中で、第1の温度Tdにて、第1の熱処理を実行し、第1の樹脂を除去する工程、
c)第2の雰囲気中で、第1の温度Tdより高い第2の温度Tfにて、第2の熱処理を実行し、銅粒子を焼結して銅部品を得る工程
を含み、
第1の雰囲気は、少なくとも10容積%の酸化剤、例えば二酸素を含有する酸化性雰囲気からなり、第2の雰囲気は、還元性雰囲気からなる、
3Dプリンティングによる銅部品の製造方法、特に光造形によって、達成される。
【0017】
本発明は、還元性雰囲気中で焼結する工程の実施に付随する、酸化性雰囲気中で脱バインダーする工程の実施において、先行技術とは本質的に異なる。
【0018】
これらの2つの雰囲気の組み合わせにより、低炭素含有量及び低酸素含有量を有する焼結部品が得られる。得られる部品は、高い純度を有し、したがって、低い電気抵抗率を有する。
【0019】
低炭素含有量については、0.1質量%より低い炭素含有量、好ましくは0.05質量%より低い炭素含有量、更により好ましくは0.02質量%より低い炭素含有量と理解されるべきである。
【0020】
低酸素含有量については、0.1質量%より低い酸素含有量と理解されるべきである。
【0021】
先行技術の方法では、脱バインダー工程において、二酸素の量は、0であるか、金属粒子の酸化が避けられるように制御される。したがって、未燃焼樹脂の炭酸化した残留物が部品中に残る。したがって、このような方法で得られる材料は、純金属ではなく、むしろ金属/セラミック又は金属/炭素複合材料である。これらの材料は、低炭素含有量と低酸素含有量のいずれの特徴も有していない。
【0022】
本発明の方法では、脱バインダー工程は、酸化剤豊富な雰囲気中で実行される(10容積%より高い)。酸化性雰囲気中での作業は、金属の酸化につながり、したがって、得られる部品の機械的脆性及び/又はより貧弱な熱的若しくは電気的特性を有する部品につながることが知られているため、このような工程は、反直感的に見える。しかしながら、得られる部品は、低抵抗率及び非常に良好な機械的強度を有する。理論に拘束されるものではないが、おそらく、ペースト中に存在する有機マトリックス(樹脂、光重合性前駆体)は、第1の熱処理中に、CO又はCO2の形成又は脱気によって、大幅に又は完全に分解する。第1の熱処理の完了時に得られる部品中の酸素含有量は、還元性雰囲気中での第2の熱処理のおかげで低下する。
【0023】
還元性雰囲気については、二水素を含有する雰囲気と理解されるべきである。二水素は、単独で又はアルゴン若しくは窒素等のいわゆる天然ガスと混合して使用することができる。
【0024】
銅製とは、部品が銅から構成されていることと理解されるべきである。場合により、不純物が存在することもある(典型的には、不純物は0.2質量%未満を占める)。
【0025】
銅部品の製造方法は実施が簡単であり、酸素量を正確にモニタリングすることを必要としない。得られる部品は、より均質である。光造形方式の作製方法は、種々の複雑な外形を有する部品を作製することを可能にする。更に、SLMプロセスとは対照的に、SLAによる銅部品の製造は、異種の粉末を混合する工程を含まない。
【0026】
有利には、第1の雰囲気は、少なくとも15容積%、好ましくは少なくとも20容積%の二酸素を含有する。
【0027】
有利には、第1の熱処理は空気中で実行される。このことにより本方法は大幅に簡素化されている。
【0028】
有利には、第1の熱処理は、300~800℃の温度で実行される。脱バインダー温度Tdは、実施されるバインダーに依存する。
【0029】
有利には、第1の熱処理は、2~7時間にわたって実行される。
【0030】
有利には、第2の熱処理は、980~1080℃、有利には、980~1075℃の温度で実行される。銅の焼結温度は、明白に示され、粉末の調製方法、粒子の大きさ、及び添加され得る補助剤に依存する。
【0031】
有利には、第2の熱処理は、1~7時間にわたって、好ましくは1~4時間にわたって、実行される。
【0032】
焼結の持続時間の延長及び/又は焼結温度の増加は、部品中に存在する酸素量を低下させるだけでなく、より高密度の部品をもたらす。
【0033】
有利には、工程a2)は、レーザー又はデジタル光処理(DLP)により実行される。DLP光源の使用により、部品全体を一度に照明することが可能になる。これにより、プロセスが簡素化され、照明、したがって架橋がより均質になり、生産速度が向上する。
【0034】
有利には、ペーストは、四官能性アクリレート、二官能性アクリレート及び2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンを含む。意外にも、このようなペースト組成を用いると、部品に亀裂は全く又はほとんど生じないことが観察された。したがって、非常に良好な品質の重量部品を作製することが可能である。
【0035】
更により有利には、四官能性アクリレートはジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレートであり、二官能性アクリレートはビスフェノールAエトキシレートジメタクリレートである。
【0036】
有利には、銅粉末は、ペーストの少なくとも35容積%、好ましくは35~65容積%を占める。樹脂に対する銅粒子粉末の比率は、複合材料において求められる機械的特性に従って調整される。容積百分率は、本明細書及び以降の記載では、ペーストの総容量を基準として理解されるべきである。
【0037】
有利には、銅粒子は、45μmより小さい最大寸法、好ましくは25μmより小さい最大寸法を有する。
【0038】
有利には、光学添加剤は、シリカ、ポリチオフェン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、及び事前に架橋され粉砕された第2の樹脂から選択される。これら添加剤のいずれかをペーストに添加することにより、前述したSLMプロセスの欠点を避けながら、生産速度の点でSLM型プロセスに匹敵する、良好な反応性(すなわち、30秒より短い反応性、光学添加剤の性質に依存して、場合によっては、2秒より短い反応性)を有するペーストが得られる。
【0039】
本発明は、光造形方法において使用して、銅部品を製造することを意図したペーストであって、
- 銅粒子の粉末、
- 第1の樹脂の複数の光重合性前駆体、
- 光開始剤、及び
- 場合により、シリカ、ポリチオフェン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、及び事前に架橋され粉砕された第2の樹脂から選択される光学添加剤、四官能性アクリレート及び二官能性アクリレートからなる光重合性前駆体並びに2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンからなる光開始剤
を含むペーストにも関する。
【0040】
有利には、四官能性アクリレートはジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレートであり、二官能性アクリレートはビスフェノールAエトキシレートジメタクリレートである。
【0041】
このようなペーストは、得られる部品に亀裂が生じることが全くないか極めてまれであるため、部品、特に重量部品を作製するうえで特に興味深い。
【0042】
ペーストは、特に、粘稠又は液体状である、樹脂の光重合性前駆体と、混合物の完全な均質性を確保する銅粉末とを混合することで得られる。粉末を取り扱う工程は削減され、粉末の取り扱いに関連する環境及び健康上のリスクは抑えられている。
【0043】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の補足的説明から明らかになるであろう。
【0044】
言うまでもないが、この補足的説明は本発明の対象を具体的に説明することのみを目的として提供されており、この対象を制限するものと解釈されるべきではない。
【0045】
本発明は、添付図面に関して単なる表示及び非制限的目的のために提供された実施形態の記載を読むことで、より的確に理解される。図面中、
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明の特定の実施形態に従い、ペーストの異なる組成に関して、曝露時間の関数として、365nmで架橋した、銅粒子を充填した異なるペースト層の厚さを表すグラフである。
【
図2】本発明の特定の実施形態に従い、SLAにより作製した30*30mm
2未加工銅部品を表す。
【
図3a】本発明の別の特定の実施形態に従った、脱バインダー前における、(光架橋樹脂を使用した)未加工銅部品を表す。
【
図3b】本発明の別の特定の実施形態に従った、空気下での脱バインダー及び水素下での焼結後における、(光架橋樹脂を使用した)未加工銅部品を表す。
【
図4】本発明の別の特定の実施形態に従った、空気下での脱バインダー及び94.5%の密度を有するH
2下での焼結後における部品の切片の光学画像を表す。
【
図5a】本発明の方法の異なる実施形態に従って得られた部品の写真画像である。
【
図5b】本発明の方法の異なる実施形態に従って得られた部品の写真画像である。
【
図5c】本発明の方法の異なる実施形態に従って得られた部品の写真画像である。
【
図5d】本発明の方法の異なる実施形態に従って得られた部品の写真画像である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、三次元プリンティングによる銅部品の製造方法に関する。
【0048】
本方法は、少なくとも以下の順次的工程:
a)光造形により部品を造形する工程であって、造形は、
a1)銅粉末、光重合性樹脂、光開始剤、並びに場合によって光学添加剤及び/又は反応性希釈剤を含む、ペースト層を形成する工程、
a2)第1の樹脂の光重合性前駆体を光重合し、第1の樹脂を形成する工程
によって実行され、工程a1)及びa2)は、複数回繰り返し得るサイクルを形成する、工程、
b)少なくとも10容積%の酸化剤を含有する酸化性雰囲気中で、部品上で第1の温度Tdにて第1の熱処理を実行し、第1の樹脂を除去する工程、
c)還元性雰囲気中で、第1の温度Tdより高い第2の温度Tfにて、第2の熱処理を実行し、銅粒子を焼結して銅部品を得る工程
を含む。
【0049】
部品の造形:
部品は、工程a)において、光造形により造形される。すなわち、複数のペースト層の順次的重合によって得られる。
【0050】
ペーストは、銅粉末、第1の樹脂の1種又は複数の光重合性前駆体(いわゆる高分子バインダー又は有機バインダー)、1種又は複数の光開始剤、及び場合によっては光学添加剤を含む。ペーストは粘稠であり、場合によって液体状であり、その構成成分は有利には均質に分散している。
【0051】
銅粉末は、熱処理後に高密度部品を得るために、少なくとも35容積%を占める。好ましくは、粉末は、ペーストの35~65容積%、より好ましくは40~65容積%、更により好ましくは45~65容積%を占める。この百分率は、いわゆる充填率である。このような充填率は、ポリマー中での粉末の適切な分布につながり、銅マトリックス中で均質に分布した十分な量の沈着物につながる。
【0052】
銅粉末を形成する粒子は、好ましくは、50μmより小さい直径、例えば49μmの直径、更により好ましくは30μmより小さい直径を有する。例えば、粒子は、25μmより小さい直径を有する。有利には、銅粒子は、5μmより大きい直径、例えば8μm以上の直径を有する。例えば、粒子の直径は、5~25μm又は8~25μmに及ぶ。例えば、粒子は、8μm、14μm又は24μmの直径を有する。
【0053】
粒子の大きさは、工程a1)で成形される層の厚さより小さいことが好ましい。
【0054】
好ましくは、粒子は、一方では、より良好な反応性を樹脂に付与するために、他方では、より良好な緻密性及びより高い密度を有する最終部品を得るために、球形となっている。
【0055】
有利には、銅粒子は、使用される前に、非酸化性雰囲気中で保存される。或いは、銅粒子の表面に形成されることがある酸化物層を除去するために、化学処理を実施してもよい。銅粒子の表面に存在する酸素含有量に応じて、例えば1~4時間、500℃より低い温度にて還元性雰囲気中で熱処理を実行することも可能である。
【0056】
酸化銅は、アクリレート型樹脂の屈折率(1.5)と比較して、高屈折率(2.6)を有する。この屈折率の違いは、粉末によるUV光吸収と、配合物中に存在する光開始剤の活性化(したがってアクリレートの架橋)との間の競合につながる。したがって、これらの現象は、これらの充填樹脂の低反応性につながる。非酸化銅は、樹脂に近い1.3621の屈折率を有する。
【0057】
ペーストは、第1の樹脂の1種又は複数の前駆体を含む。前駆体については、ポリマーの形成につながる、モノマー及び/又はオリゴマー及び/又はプレポリマーと理解するべきである。例示として、SLAプロセスについて、エポキシド(「エポキシ」とも呼ばれる)、アクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、アミンによって修飾されたポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、又はポリエステルアクリレート型のモノマー及びオリゴマーを挙げることができる。
【0058】
有利には、官能性アクリレート、例えばウレタンアクリレート、アミンにより修飾されたポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート若しくはポリエステルアクリレート、又はこれらの混合物が選択される。これらは粒子上の樹脂のぬれに寄与する。
【0059】
好ましくは、ペーストは、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート等の四官能性アクリレート、及びビスフェノールAエトキシレートジメタクリレート等の二官能性アクリレートを含む。
【0060】
有利には、1~5、好ましくは2~4、例えば3の四官能性アクリレート/二官能性アクリレート重量比が、選択される。二官能性アクリレートを四官能性アクリレートに添加することにより、架橋される鎖の長さを延ばし、収縮を制限し、したがって亀裂が一切ない部品を得ることができる。このような比率により、有孔であるか無孔であるかを問わず、シリンダー等のいわゆる個体部品(典型的に、3mmより大きい厚さを有する)を得ることが可能である。
【0061】
有利には、ペーストは、粘度及び架橋度を調節するためのアクリル系反応性希釈剤をも含む。アクリル反応性希釈剤は、下記の式(化1)に定義される化合物でもよい。
【0062】
【0063】
ここで、
Rは、多価の基、例えば炭化水素、ポリアルキルエーテル、又はアルコキシル化ポリオール型の基であり;
Mは、R基に応じた整数である。
【0064】
例示として、反応性希釈剤は、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリプロピルグリコールトリアクリレート(tripropylglycoltriacrylate)(TPGDA)、グリセリルプロポキシル化トリアクリレート(GPTA)から選択されてよい。
【0065】
ペーストは、1種又は複数の重合開始剤(光開始剤とも呼ばれる)を更に含む。光造形の場合、アクリレートの重合の開始は、紫外線の吸収によって得られる。アクリレートの開始剤は、ラジカル型のものであり、開始剤の選択は、主に、開始剤が吸収する光源の波長によって誘導される。
【0066】
UVの範囲は100nm~450nmの波長に及ぶことを想起するべきである。UVCは表面で材料を架橋することができ、UVBは層を貫通し、315~400nmに含まれるUVAは例えば20μmより大きく20mmより小さい厚さを有する厚い層を架橋することができる。本発明の文脈において、光源は、有利には、365nmに設定された波長を有する。
【0067】
アクリレート型前駆体に適した光開始剤は、アセトフェノン、アルコキシアセトフェノン若しくはフェニルアセトフェノンの群、例えば、2,2’-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPAとも呼ばれる)(例えば、IGM社製lrgacure 651);アルキルアミノアセトフェノン若しくはモルホリノブチロフェノンの群、例えば、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン(例えば、IGM社製Irgacure 369)若しくは2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルフォリノプロピオフェノン(例えば、IGM社製Irgacure 907);又はヒドロキシアルキルフェノンの群、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(例えば、IGM社製Darocure 1173)に由来する。アクリレート型前駆体に適した光開始剤はまた、ホスフィンオキシド誘導体、例えばフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(例えば、CIBA社製Irgacure 819)で構成されてもよい。
【0068】
好ましくは、光開始剤は、2,2’-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである。この光開始剤の使用は、層中でのより均質な架橋につながり、より低い架橋速度につながる。架橋は、均質に、亀裂が形成されることなく、脱バインダー開始時の温度で実行される。
【0069】
光学添加剤は、ペースト層内部での散乱及び/又は反射光を可能にし、それにより樹脂の反応性を向上させる。例えば、光学添加剤は、シリカ(SiO2)、ポリシロキサン、ポリチオフェン、事前に架橋され粉砕された樹脂、ポリプロピレン、及びポリビニルアルコールから選択される。好ましくは、光学添加剤は、ポリプロピレン又は架橋され粉砕された樹脂である。
【0070】
ポリプロピレンは、通常、注入等のプラスチック技術に使用されるポリプロピレン類から選択されてもよい。例示として、Basel社によってHP500Nという名称で商業化されたポリプロピレン、Borealis社によって商業化されたポリプロピレン、又はMicro Powders社によるPropylmatte 31を使用することが可能である。
【0071】
ポリプロピレンは官能化してもよい。例えば、ポリプロピレンは、入射光のより良好な散乱を可能にする基で官能化される。
【0072】
有利には、光学添加剤がポリマー又は樹脂であるとき、光学添加剤は脱バインダー工程で除去され、これにより、最終部品の緻密性、密度及び品質が向上する。好ましくは、脱バインダー工程後にごくわずかの炭酸化した残留物を残すポリプロピレンが選択される。有利には、ポリシロキサンが湿潤剤となる。
【0073】
有利には、第2の樹脂は、アクリレート型のものである。第2の樹脂は、熱処理中に容易に除去される。
【0074】
光学添加剤は、高密度部品を得るために、銅粒子に対して0.1~20質量%を占める。20%を超えると、脱バインダー及び焼結後に、多孔質部品が得られる。このような比率では、光学添加剤の量は光を散乱させるために十分なものであり、得られる部品は低気孔率を有する。
【0075】
添加剤が粒子の形態をとる場合、それらの粒子は、好ましくは、最終部品における気孔率を制限して高密度部品を得るために、粉末の粒子より小さい寸法を有する。例えば、添加剤粒子は、銅粉末の粒子の最大径よりも、少なくとも2倍小さい最大径、好ましくは10倍小さい最大径を有する。例えば、光学添加剤は、10μm以下の寸法を有し、例えば、最終部品の気孔率を制限するために1~2μmの範囲の寸法を有し、例えば、わずかに多孔質の材料を得るために8μmの範囲の寸法を有する。好ましくは、光学添加剤は、2μm以下の最大寸法を有する。得られる最終部品は低気孔率を有する。
【0076】
例えば湿潤剤、レオロジー剤等の他の成分がペーストに添加されてもよい。
【0077】
均質な充填ペーストを得るために、異なる構成成分が混合される。ペーストは櫂形撹拌機で均質化されてもよい。
【0078】
有利には、ペーストの閾値挙動は、ハーシェル・バルクレイずり減粘(Herschel Bulkley shear thinner)(n<1)又はビンガム流体式によるものである。
【0079】
5Pa・sより高い粘度、好ましくは25℃にて100-1秒で10Pa・s以上の粘度を有するペーストを選択することが可能になる。ペーストは、広げやすく、均質層を形成するのに十分に粘稠である。ペーストの粘度は、平板/平板又は円錐/平板型の装置で測定され得る。例えば、粘度は、MCR300レオメーターで測定される。
【0080】
粘度は、例えばレオロジー剤及び分散剤を添加することにより、機械に応じて適合させてよい。
【0081】
例示として、ペーストの粘度は、円錐/平面ヘッド装置CP50/1で測定することができ、測定は、ペースト間の距離を100μmにして、3分~2-1秒の予備せん断(pre-shear)を実行し、次いで2~200-1秒のせん断速度で5分のライズ(rise)及び5分~2-1秒のリターン(return)を実行する。
【0082】
有利には、ペーストは、室温(20~25℃)にて調製される。
【0083】
例えば、ペーストは、
- 80~95質量%、好ましくは90~95質量%の銅粒子、
- 0.1~5質量%、好ましくは0.1~1質量%の1種又は複数の光開始剤、
- 2~15質量%、好ましくは2~10質量%の樹脂の1種又は複数の光重合性前駆体、例えば、四官能性前駆体と二官能性前駆体の混合物、
- 場合によって、0.1~10質量%、好ましくは0.5~1質量%の光学添加剤、
- 場合によって、1~5質量%、好ましくは1~2質量%の反応性希釈剤
を含む。
【0084】
部品は、10~200μm、好ましくは25~200μmの厚さの一連のペースト層を形成し(工程a1)、例えばレーザー又はデジタル光処理(若しくはDLP)により光重合する(工程a2)ことにより、作製される。
【0085】
有利には、工程a2)は、30秒未満、好ましくは10秒未満、更により好ましくは2秒未満の時間にわたって、UV照射下で実行される。
【0086】
有利には、ペースト層は30~50μmの厚さを有し、UV照射は0.5~1秒の時間にわたって実行される。
【0087】
SLAによって形成される部品は、種々のサイズ及び外形の空隙を備えた、複雑な外形を有することができる。
【0088】
部品は、室温にて、光造形により造形され得る。
【0089】
光造形による造形の完了時に得られる部品は中実であり、内部に銅粉末が分散した第1の樹脂を含む。
【0090】
部品の熱処理:
造形(工程a)において、樹脂は、未加工部品(グリーンパーツとも呼ばれる)へのバインダーとしての役割を果たし、粘着力を確保する。
【0091】
その後、このバインダーは、銅骨組の形態の脱バインダーされた部品(ブラウンパーツと呼ばれる)を得るために、脱バインダー工程(工程b)において除去される。
【0092】
次いで、部品は焼結され、最終部品が得られる。
【0093】
いわゆる脱バインダーを行う第1の熱処理は、少なくとも10容積%、好ましくは少なくとも15容積%、更により好ましくは少なくとも20容積%の酸化性成分を含有する、酸化性雰囲気中で実行される。好ましくは、酸化性成分は、ガス状の形態をとる。酸化性成分は、二酸素、一酸化炭素又は二酸化炭素でもよい。これらの分子は、炭酸残留物の除去を可能にする十分な量で投入される。例えば、酸化性雰囲気は、酸化剤及び1種又は複数の他のガス、例えばアルゴン及び/又は窒素を含有する、ガス状混合物である。酸化性雰囲気は、複数の酸化剤、例えば二酸素と二酸化炭素を含有してよい。
【0094】
有利には、酸化性雰囲気は空気である。
【0095】
有利には、第1の熱処理は、大気圧(約1bar)にて実行される。
【0096】
樹脂中に分散した銅粒子によって形成された部品に適用される第1の熱処理は、有利には、部品の変質及び亀裂の出現を避けるために、低温度勾配(3℃/分以下、例えば1℃/分、場合によって0.1℃/分未満)で実行される。有利には、このような昇温は、50℃から脱バインダー温度Tdまでの範囲にわたって実行される。より広い範囲、例えば、100℃、200℃又は室温(20~25℃)から脱バインダー温度までの範囲にわたって、実行することも可能であろう。例示として、脱バインダー温度が400℃である場合、低昇温、例えば1℃/分の昇温が、350℃から400℃まで実行される。室温(25℃)から脱バインダー温度まで(例えば0.1℃/分で)極めて低い昇温を実行することも可能である。
【0097】
有利には、1つ又は複数の温度工程が、脱バインダー温度Tdまで実行される。有利には、T1=Td-50℃及び/又はT2=Td-100℃において1つの工程が実施されてよい。各工程の持続時間は、少なくとも30分、好ましくは少なくとも1時間、更により好ましくは少なくとも2時間である。各工程は異なる持続時間を有していてもよい。例えば、脱バインダー温度450℃の場合、第1の工程は、350℃で30分実施されてよく、第2の工程は、400℃で2時間実施されてよい。
【0098】
焼結と呼ばれる第2の熱処理は、還元性雰囲気、例えば二水素を含有する雰囲気中で実行される。この雰囲気は、脱バインダー工程の完了時に部品中に存在する酸素量を低減することができる。
【0099】
第2の熱処理は、50~800mbarの範囲の分圧で実行されてよい。
【0100】
有利には、温度工程は、少なくとも30分、好ましくは少なくとも1時間、更により好ましくは少なくとも2時間にわたって、焼結温度Tfにて実施される。
【0101】
脱バインダー温度Td及び焼結温度Tfは、樹脂に応じて当業者によって定義される。
【0102】
当業者はまた、工程数に加えて、各工程の温度及び持続時間を選択することもできる。これらのパラメーターはまた、粉末の充填率及び形態学に従って決定されてもよい。
【0103】
例えば、脱バインダー温度Tdは、300~800℃の範囲、好ましくは400~700℃の範囲に含まれる。脱バインダー温度は、一般に、熱重量分析(TGA)によって決定され、次いで、バインダーのオフガスによる亀裂を制限するために、工程時間及び勾配サイクルが調整される。
【0104】
例えば、焼結温度Tfは、980~1080℃、有利には980~1075℃の範囲内に含まれる。通常、焼結温度は、膨張計によって評価される。
【0105】
有利には、温度降下勾配も実施される。例えば、5℃/分より低い温度勾配又は1つの変形例によれば5~10℃/分の温度勾配からなる。
【実施例】
【0106】
光造形による銅部品の実施形態の例示的且つ非限定的実施例:
最初に、異なるペースト(配合物)を調製する。使用する銅粒子は、Ecka社によって販売されるものであり、粒径は<45μmである。
【0107】
配合物1:
- HDDA (Sigma aldrich社) 1.7質量%
- 四官能性オリゴアクリレート(Sartomer社 SR355) 4.9質量%
- 三官能性オリゴアクリレート(Sartomer社 CN509) 1.7質量%
- 2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルフォリノプロピオフェノン(Sigma Aldrich社) 0.2質量%
- フェニルビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)ホスフィンオキシド(Sigma Aldrich社) 0.2質量%
- 樹脂中90.8質量%(すなわち54容積%)の銅
- 0.5質量%の光学添加剤
【0108】
配合物2:
- HDDA (Sigma aldrich社) 1.3質量%
- 四官能性オリゴアクリレート(Sartomer社 SR355) 2.2質量%
- 三官能性オリゴアクリレート(Sartomer社 CN509) 1.3質量%
- アクリレートアミン(Sartomer社 CN371EU) 2.2質量%
- メチル-4’-メチルチオ-2-モルフォリノプロピオフェノン(Sigma Aldrich社) 0.2質量%
- フェニルビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)ホスフィンオキシド(Sigma Aldrich社) 0.2質量%
- 樹脂中92.2質量%(すなわち58.6容積%)の銅
- 0.5質量%の光学添加剤
【0109】
配合物3:
- HDDA (Sigma aldrich社) 1.5質量%
- 四官能性オリゴアクリレート(Sartomer社 SR355) 4.2質量%
- 二官能性オリゴアクリレート(Diacryl 101) 1.4質量%
- メチル-4’-メチルチオ-2-モルフォリノプロピオフェノン(Sigma Aldrich社) 0.2質量%
- フェニルビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)ホスフィンオキシド(Sigma Aldrich社) 0.2質量%
- 樹脂中92.5質量%(60容積%に相当する)の銅
【0110】
配合物4:
- HDDA (Sigma aldrich社) 1.5質量%
- 四官能性オリゴアクリレート(Sartomer社 SR355) 4.2質量%
- 二官能性オリゴアクリレート(Diacryl 101) 1.4質量%
- 2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン0.4質量%
- 樹脂中92.5質量%(60容積%に相当する)の銅
【0111】
均質な充填ペーストを得るために、櫂形撹拌機で配合物の異なる構成成分を混合する。
【0112】
開発された配合物は、閾値挙動とともに100-1秒で5Pa・sより高い粘度を有する。
【0113】
異なる銅部品の製造は、DLP (「デジタル光処理」)型光造形によって実行し、第1の薄いペースト層を支持体の上に堆積させ、適切な放射線、一般にUV放射線の作用により選択された領域の1つ又は複数において、この層を重合することで実行した。その後、同様に部分的又は完全に重合された第2の層を、この第1の層の上に堆積させる。これらのペースト堆積/重合サイクルは、すべての重合された部分が、未加工状態で所望の部品を形成するまで繰り返される。
【0114】
図1に示されているように、ペーストの組成に従い、UV曝露(365nm)下で、異なる厚さが架橋され得る。
【0115】
例示として、
図2は、1層当たり架橋持続時間0.6秒で、45μmの厚さを有する配合物1からペースト層を堆積させることで、SLAによって作製された30*3mm
2の銅部品を示している。
【0116】
異なる雰囲気中(真空中、水素中、アルゴン中、Ar/O2混合雰囲気中、空気中)で、400℃にて4時間、脱バインダーの熱処理を実行し、次いで、水素中で、980℃にて4時間、焼結の工程を実行することで、部品を製造した。銅部品はペーストの60容積%を占める。元素分析(機器ガス分析(Instrumental Gas Analysis):IGA)により、異なる部品の炭素及び酸素含有量を測定した。以下のTable I(表I)で結果を報告する。
【0117】
【0118】
脱バインダー雰囲気は、最終部品中の炭素含有量に関して重要な役割を持つ。空気中では、この含有量は非常に低い(0.019質量%)が、他の条件では、平均0.385質量%に及ぶ。この値は20倍高い値である。空気中で脱バインダーした部品の炭素含有量は、開始時の銅粉末の炭素含有量に近い。
【0119】
Table II(表II)は、空気中で脱バインダーを行う第1の熱処理、並びに二水素中で400mbarにて焼結を行う工程で得られた部品について測定した炭素含有量及び酸素含有量を、異なる持続時間及び異なる温度に関して示している。
【0120】
【0121】
焼結持続時間及び/又は温度を増加させることで、酸素含有量を低減させることが可能であり、密度を増加させることも可能である。
【0122】
図3Aは、焼結前の未加工銅部品を示している。
図3Bは、空気中での脱バインダー及び水素中での焼結後の同じ部品を示している。
【0123】
光学顕微鏡で部品を観測すると、部品の高密度が確認できる(
図4)。
【0124】
Table III(表III)は、空気中で400℃にて4時間、脱バインダーを行う第1の熱処理、並びに二水素中で980℃にて4時間、焼結を行う工程で得られた部品について測定した炭素、酸素含有量を、前述の4つの配合物に関して示している。
【0125】
【0126】
異なる配合物から製造された部品は、低い含有量の軽い成分を有している。炭素含有量は、開始銅粉末のものと同様である。
【0127】
配合物1、2、3及び4を使用して、この方法で製造した部品を、それぞれ
図5a、5b、5c及び5dに示す。部品は良好な機械的強度を有している。より詳細には、配合物4は、良好な機械的強度を有し亀裂がない部品につながる。更に、配合物4は、リンを導入しておらず、良好な熱的及び電気的特性を有する部品につながる。特に、部品の熱伝導率は、プレスされ焼結された開始粉末の熱伝導率と同一である。