(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240910BHJP
C12Q 1/6823 20180101ALI20240910BHJP
C12Q 1/6825 20180101ALI20240910BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20240910BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6823 Z
C12Q1/6825 Z
C12Q1/6844 Z
(21)【出願番号】P 2021560167
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 GB2020050809
(87)【国際公開番号】W WO2020193980
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-01
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521438803
【氏名又は名称】ナノベリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】コジラ ジャージー
(72)【発明者】
【氏名】リー ムン チン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-067914(JP,A)
【文献】特表2012-506711(JP,A)
【文献】特表2002-505846(JP,A)
【文献】特表2015-533297(JP,A)
【文献】E.M.Linardy, et al.,Biosensors and Bioelectronics ,2016年,Vol.75,p.59-66
【文献】E.Xiong et al.,Analyst,2019年,Vol.144,p.634-640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマーカーを検出するための複数のDNA形成物の集合であって、前記複数の形成物は、
標的バイオマーカーを受け入れてこれにより
競合的なハイブリダイゼーションによってトリガDNA配列を放出するように適合されたディテクタと、
前記トリガDNA配列とハイブリダイズし、これによりキーDNA配列及び前記トリガDNA配列又はさらなるトリガDNA配列を放出するように適合されたアンプリファイア
であって、放出が競合的なハイブリダイゼーションにより、と、
前記キーDNA配列とハイブリダイズし、これにより観察者が検出可能な信号を生成するように適合されたレスポンダと
を含む複数のDNA形成物の集合。
【請求項2】
競合的なハイブリダイゼーションが、トーホールドを介した鎖置換又はトーホールド交換である、請求項1に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項3】
前記複数の形成物のうちの2つ以上が共通の本体に取り付けられている請求項1
又は2に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項4】
前記共通の本体が、DNA形成物、ナノ粒子又は基板である請求項
3に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項5】
前記複数の形成物のうちの2つ以上が所定の配置で前記共通の本体に取り付けられている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項6】
前記ディテクタが、標的DNA配列を受け入れ、これによりトリガDNA配列を放出するように適合されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項7】
前記標的DNA配列が循環腫瘍DNAである請求項6に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項8】
前記ディテクタが、複数のバイオマーカーとハイブリダイゼーションし、これにより1つ以上のトリガDNA配列を放出するように適合されている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項9】
前記ディテクタが、DNA本体に取り付けられた、標的DNA配列とハイブリダイズしてトリガDNA配列を放出するように適合されている1種以上のプローブDNA配列を含む請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項10】
干渉するDNA配列とハイブリダイズし
、これにより非干渉性DNA配列を放出するように適合されたブロッカーをさらに含む請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項11】
前記干渉するDNA配列がセルフリーDNAである請求項
10に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項12】
前記アンプリファイアが複数のアンプリファイアサブユニットを含み、各アンプリファイアサブユニットが、トリガDNA配列とハイブリダイズし、キーDNA配列及び前記トリガDNA配列又はさらなるトリガDNA配列を放出するように適合されている請求項1から請求項
11のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項13】
前記アンプリファイアが、トリガDNA配列とハイブリダイズするように適合された1種以上のアンプリファイアDNA配列の1つ以上のインスタンスと、キーDNA配列を放出するように適合されたキーホルダーDNA配列の1つ以上のインスタンスとを含む請求項1から請求項
12のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項14】
第1のアンプリファイアDNA配列が、前記トリガDNA配列とのハイブリダイゼーションによって立体構造を変化させるように適合されている請求項
13に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項15】
第2のアンプリファイアDNA配列が、前記第1の
アンプリファイアDNA配列とのハイブリダイゼーションによって立体構造を変化させ、これにより前記トリガDNA配列を放出するように適合されている請求項
14に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項16】
前記キーホルダーDNA配列が、前記キーDNA配列にハイブリダイズし、かつ前記アンプリファイアDNA配列又はその一部とハイブリダイズし、これにより前記キーDNA配列を放出するように適合されている請求項
13から請求項
15のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項17】
前記アンプリファイアが、異なる種のキーDNA配列を放出するための複数の増幅経路を含む請求項1から請求項
16のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項18】
前記レスポンダが、第1の構成でレポーターを囲み、第2の構成で前記レポーターを放出するように少なくとも部分的に適合されたDNA捕捉形成物を含む請求項1から請求項
17のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項19】
前記レポーターがプロモーター部分を有するレポーター遺伝子であり、前記DNA捕捉形成物が、前記第1の構成において前記プロモーター部分を囲むように少なくとも部分的に適合されている請求項
18に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項20】
前記DNA捕捉形成物が、少なくとも1つのキーDNA配列と前記DNA形成物の少なくとも1つのロックDNA配列部分とのハイブリダイゼーションにより、前記第1の構成から第2の構成に変化するように適合されている請求項
18又は請求項
19に記載の複数のDNA形成物の集合。
【請求項21】
標的バイオマーカーの検出方法であって、請求項1から請求項
20のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合を、
体液に導入する工程を含む方法。
【請求項22】
標的バイオマーカーの検出方法であって、
標的バイオマーカーをプローブにハイブリダイズさせて、
競合的なハイブリダイゼーションによりトリガDNA配列を放出させる工程と、
前記トリガDNA配列をアンプリファイアDNA配列にハイブリダイズさせて、これにより前記アンプリファイアDNA配列の1つ以上の立体構造変化を引き起こし、キーDNA配列を放出し、前記トリガDNA配列又は別のトリガDNA配列を放出する工程
であって、放出が競合的なハイブリダイゼーションによる工程と、
前記キーDNA配列をDNA捕捉形成物のロックDNA配列部分にハイブリダイズさせ、これによ
り観察者が検出可能な信号を生成させる工程と
を含む方法。
【請求項23】
前記プローブ、前記アンプリファイアDNA配列の少なくとも一部、及び/又はDNA捕捉形成物が、共通の本
体上に並置されている請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
実行されたときに、請求項1から請求項
20のいずれか1項に記載の複数のDNA形成物の集合のシミュレーションを生成するように適合されたソフトウェアコードを含むコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAナノ構造体、及びDNAナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環腫瘍デオキシリボ核酸(ctDNA)は、血液中を循環しているDNAであり、腫瘍及びその進行状態に特異的であり、またそれを示すものである。これにより、患者から生検を採取するという負担なく、腫瘍の状態に関する貴重な情報を得ることができる一方で、血液試料中のctDNAには、複雑な試料の中で分析対象が少ないという問題がある。血液試料には、腫瘍とは関係のないDNA、すなわち無細胞DNA(cfDNA)も含まれているため、ctDNAとこのようなcfDNAを区別することも必要である。微量のDNAを高い特異性及び高い感度で検出するために、新しいアプローチが求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
第1の態様によれば、バイオマーカーを検出するための複数のDNA形成物の集合(DNA群)であって、この形成物は、標的バイオマーカーを受け入れてこれによりトリガDNA配列を放出するように適合されたディテクタ(検出要素)と、このトリガDNA配列とハイブリダイズし、これによりキーDNA配列及び上記トリガDNA配列又はさらなるトリガDNA配列を放出するように適合されたアンプリファイア(増幅要素)と、このキーDNA配列とハイブリダイズし、これにより観察者が検出可能な信号を生成するように適合されたレスポンダ(応答要素)とを含む複数のDNA形成物の集合(DNA群)が提供される。
【0004】
検出のための経路を形成するDNA配列の集合により、経路の機能を正確に設計し制御することができる。検出、増幅及び応答を組み合わせることで、非常に高感度な検出が可能になる。
【0005】
好ましくは、上記形成物のうちの2つ以上が共通の本体に取り付けられている。このように形成物を並置することで、形成物間の効率的な相互作用を可能にすることができる。好ましくは、上記ディテクタ、上記アンプリファイアの少なくとも一部、及び上記レスポンダが、共通の本体に取り付けられている。上記形成物は、テザー又はアンカーを介して共通の本体に取り付けられてもよい。このテザーは、異なるDNA形成物が互いに接近することができるように適合されていてもよい。あるいは、上記DNA形成物は、DNA形成物のアンカー部分で共通の本体に取り付けてもよい。
【0006】
汎用性のため、並びに精密な設計及び組み立てを可能にするために、上記共通の本体はDNA形成物であってもよい。簡単にするために、上記共通の本体はナノ粒子であってもよい。さらなる巨視的な特徴部と統合するために、上記共通の本体は基板であってもよい。
【0007】
相互作用を制御するために、上記形成物のうちの2つ以上が所定の配置で共通の本体に取り付けられてもよい。例えば、ディテクタとレスポンダの間にアンプリファイアが配置されてもよい。
【0008】
上記ディテクタは、標的DNA配列を受け入れ、これによりトリガDNA配列を放出するように適合されてもよい。バイオマーカーとしての標的DNA配列の検出は、非常に選択的な検出を可能にし、高い特異性を提供することができる。標的DNA配列は、循環腫瘍DNAであってもよい。上記ディテクタは、標的RNA配列(好ましくは循環腫瘍RNA)を受け入れ、これによりトリガDNA配列を放出するように適合されていてもよい。上記ディテクタは、標的タンパク質(好ましくは循環腫瘍タンパク質)を受け入れ、これによりトリガDNA配列を放出するように適合されていてもよい。
【0009】
より特異性を高めるために、上記ディテクタが、複数のバイオマーカーとハイブリダイズして、これにより1種以上のトリガDNA配列を放出するように適合されていてもよい。
【0010】
好ましくは、上記ディテクタは、DNA本体に(好ましくは所定の配置で、任意にテザーを用いて)取り付けられ、標的DNA配列とハイブリダイズしてトリガDNA配列を放出するように適合された1種以上のプローブDNA配列を含む。
【0011】
上記プローブDNA配列は、競合的なハイブリダイゼーションによって、好ましくはトーホールドを介した鎖置換によって、又はトーホールド交換によって、標的DNA配列とハイブリダイズし、トリガDNA配列を放出するように構成されていてもよい。好ましくは、このプローブDNA配列は、トリガDNA配列にハイブリダイズし、そして標的DNA配列と優先的にハイブリダイズし、これによりトリガDNA配列を放出するように適合されている。
【0012】
より高い特異性及びより少ない偽陽性のために、当該複数のDNA形成物の集合は、干渉するDNA配列とハイブリダイズし、任意にこれにより非干渉性DNA配列を放出するように適合されたブロッカーをさらに含んでもよい。干渉するDNA配列は、好ましくは無細胞DNAである。ブロッカーは、競合的なハイブリダイゼーション、好ましくはトーホールドを介した鎖置換、又はトーホールド交換によって、干渉するDNA配列とハイブリダイズし、任意に非相互作用性DNA配列を放出するように構成されたブロッカーDNA配列であってもよい。
【0013】
好ましくは、上記アンプリファイアは複数のアンプリファイアサブユニットを含み、各アンプリファイアサブユニットは、トリガDNA配列とハイブリダイズし、キーDNA配列及びトリガDNA配列又はさらなるトリガDNA配列を放出するように適合されている。このさらなるトリガDNA配列は、好ましくは、トリガDNA配列と同じDNA配列を有する。上記複数のアンプリファイアサブユニットは、好ましくは、互いに機能的に同一であり、好ましくは、同じキーDNA配列のコピーを放出する。複数の第1のアンプリファイアサブユニットは、第1のキーDNA配列を放出するように適合されていてもよく、複数の第2のアンプリファイアサブユニットは、第2のキーDNA配列を放出するように適合されていてもよい。
【0014】
上記アンプリファイアは、トリガDNA配列とハイブリダイズするように適合された(任意に、共通の本体、好ましくはDNA本体に、好ましくは所定の配置で、任意にテザーを介して固定されている)1種以上のアンプリファイアDNA配列の1つ以上のインスタンス(個物)と、キーDNA配列を放出するように適合された(任意に、共通の本体、好ましくはDNA本体に、好ましくは所定の配置で、任意にテザーを介して固定されている)キーホルダーDNA配列の1つ以上のインスタンスとを含んでもよい。
【0015】
第1のアンプリファイアDNA配列は、トリガDNA配列とのハイブリダイゼーションによって立体構造を変化させるように適合されていてもよい。第2のアンプリファイアDNA配列は、第1のDNA配列とのハイブリダイゼーションによって立体構造(コンフォメーション)を変化させ、これによりトリガDNA配列を放出するように適合されてもよい。第1のアンプリファイアDNA配列は、競合的なハイブリダイゼーション(好ましくは、トーホールドを介した鎖置換若しくはトーホールド交換による)並びに/又は1つ以上の立体構造変化(好ましくは、第1のアンプリファイアDNA配列の立体構造変化及び第2のアンプリファイアDNA配列の立体構造変化による)によって、第2のアンプリファイアDNA配列とハイブリダイズし、トリガDNA配列を放出するように構成されてもよい。
【0016】
キーホルダーDNA配列は、キーDNA配列にハイブリダイズしてもよい。キーホルダーDNA配列は、好ましくは競合的なハイブリダイゼーション(好ましくは、トーホールドを介した鎖置換若しくはトーホールド交換による)及び/又は立体構造変化(好ましくは、1つ以上のアンプリファイアDNA配列の立体構造変化による)によって、アンプリファイアDNA配列又はその一部と優先的にハイブリダイズし、これによりキーDNA配列を放出するように適合されてもよい。
【0017】
堅牢性のため及び偽陽性の回避のために、上記アンプリファイアは、異なる種のキーDNA配列を放出するための複数の増幅経路を含んでいてもよい。複数の第1のアンプリファイアサブユニットは、第1のキーDNA配列を放出するように適合されていてもよく、複数の第2のアンプリファイアサブユニットは、第2のキーDNA配列を放出するように適合されていてもよい。フィードフォワードループによる高い増幅のために、複数の増幅経路が互いに増幅するように適合されてもよい。
【0018】
好ましくは、上記レスポンダは、少なくとも部分的に、第1の構成でレポーターを囲み、第2の構成でレポーターを放出するように適合されたDNA捕捉形成物を含む。これにより、条件付き放出を可能にすることができる。
【0019】
観察者が検出可能な信号の生成を容易にするために、上記レポーターは、プロモーター部分を有するレポーター遺伝子であってもよく、上記DNA捕捉形成物は、第1の構成においてプロモーター部分を囲むように少なくとも部分的に適合されていてもよい。
【0020】
上記DNA捕捉形成物は、少なくとも1つのキーDNA配列とDNA捕捉形成物の少なくとも1つのロックDNA配列部分とのハイブリダイゼーションにより、第1の構成から第2の構成へと変化するように適合されてもよい。このロックDNA配列は、競合的なハイブリダイゼーションによって(好ましくは、トーホールドを介した鎖置換又はトーホールド交換によって)キーDNA配列とハイブリダイズするように構成されてもよい。
【0021】
別の態様によれば、標的バイオマーカーの検出方法であって、先行する請求項のいずれかに記載の複数のDNA形成物の集合を、体液、好ましくは血液の試料に、好ましくはインビトロで導入する工程を含む方法が提供される。
【0022】
別の態様によれば、標的バイオマーカーの検出方法であって、標的バイオマーカーをプローブにハイブリダイズさせて、これによりトリガDNA配列を放出させる工程と、このトリガDNA配列をアンプリファイアDNA配列にハイブリダイズさせて、これによりこのアンプリファイアDNA配列に1つ以上の立体構造変化を引き起こし、キーDNA配列を放出し、(任意に、上記アンプリファイアDNA配列にハイブリダイズするように適合された第2のアンプリファイアDNA配列によって)上記トリガDNA配列又は別のトリガDNA配列を放出する工程と、上記キーDNA配列をDNA捕捉形成物のロックDNA配列部分にハイブリダイズさせ、これにより(任意に、レポーターを放出するために上記DNA捕捉形成物の構成を変化させることにより)観察者が検出可能な信号を生成させる工程とを含む方法が提供される。
【0023】
上記アンプリファイアDNA配列は、トリガDNA配列とハイブリダイズするように適合された1種以上のアンプリファイアDNA配列の1つ以上のインスタンスと、キーDNA配列を放出するように適合されたキーホルダーDNA配列の1つ以上のインスタンスを含んでいてもよい。
【0024】
プローブ、アンプリファイアDNA配列及び/又はDNA捕捉形成物は、上述の通りであってよい。当該方法は、上述のような複数のDNA形成物の集合を使用してもよい。
【0025】
プローブ、アンプリファイアDNA配列、及び/又はDNA捕捉形成物は、共通の本体、好ましくはDNA構造体上に並置されてもよい。
【0026】
当該方法は、上記DNA構造体を、体液、好ましくは血液の試料に、好ましくはインビトロで導入することをさらに含んでもよい。
【0027】
別の態様によれば、実行されたときに、上述のような複数のDNA形成物の集合のシミュレーションを生成するように適合されたソフトウェアコードを含むコンピュータプログラム製品が提供される。
【0028】
別の態様によれば、上述の複数のDNA形成物の集合の製造方法であって、上記複数のDNA形成物の集合をシミュレーションする工程と、そのシミュレーションに基づいて、上記DNA形成物のためのDNA配列を決定する工程と、これにより決定されたDNA配列に基づいて、複数のDNA形成物の集合を製造する工程とを含む方法が提供される。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「DNA配列」及び「DNA鎖」は、好ましくは交換可能であり、好ましくは、所定の配列を有するDNA鎖を指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「増幅」は、好ましくは、ある数の入力種のインスタンスを入力した結果、より多数の出力種のインスタンスが放出されるプロセスを指す。「アンプリファイア」は、好ましくは、ある数の入力種のインスタンスを受け入れ、その結果、より多数の出力種のインスタンスを放出するように適合された機能的ユニットを指す。
【0031】
本明細書で使用する場合、用語「複数のDNA形成物の集合」は、共通の溶液中にある、共通の基板に取り付けられている、又は共通の本体に取り付けられている複数のDNA形成物を指すことが好ましい。本明細書で使用する場合、用語「DNA形成物」は、好ましくは特定の配列を有する及び/又は特定の構造を形成するDNA鎖を指す。そのようなDNA鎖は、それにハイブリダイズした更なるDNA鎖を有していても、有していなくてもよい。そのようなDNA鎖は、異なる可能な立体構造の1つの状態にあってもよい。
【0032】
本発明は、添付の図面を参照しながら本明細書で実質的に説明される方法及び/又は装置に及ぶ。
【0033】
別の態様によれば、本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための、及び/又は本明細書に記載された装置の特徴のいずれかを具現化するための、コンピュータプログラム並びにコンピュータプログラム製品が提供される。別の態様によれば、本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための、及び/又は本明細書に記載された装置の特徴のいずれかを具現化するためのプログラムを格納した非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。別の態様によれば、本明細書に記載された任意の方法を実施するためのソフトウェアコードを含むコンピュータプログラム製品が提供される。ハードウェアに実装されている特徴は、一般的にソフトウェアに実装されていてもよく、その逆もまた然りである。本明細書において、ソフトウェアの特徴及びハードウェアの特徴に関するあらゆる言及は、それに応じて解釈されるべきである。
【0034】
本発明は、本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための、及び/又は、本明細書に記載された装置の特徴のいずれかを具現化するためのコンピュータプログラムを具現化した信号、そのような信号を送信する方法、並びに、本明細書に記載された方法のいずれかを実施するための、及び/又は本明細書に記載された装置の特徴のいずれかを具現化するためのコンピュータプログラムをサポートするオペレーティングシステムを有するコンピュータ製品も提供する。
【0035】
本明細書に記載されているような任意の装置の特徴は、方法の特徴としても提供されてよく、その逆もまた然りである。
【0036】
本発明の一態様における任意の特徴は、任意の適切な組み合わせで、本発明の他の態様に適用されてもよい。特に、方法の態様は、装置の態様に適用されてもよく、その逆もまた然りである。さらには、1つの態様におけるいずれかの、いくつかの及び/又はすべての特徴は、任意の適切な組み合わせで、任意の他の態様におけるいずれかの、いくつかの及び/又はすべての特徴に適用することができる。
【0037】
また、本発明のいずれかの態様で説明され、定義された様々な特徴の特定の組み合わせは、独立して実装及び/又は供給及び/又は使用することができることを理解すべきである。
【0038】
本明細書で使用する場合、ミーンズ・プラス・ファンクションの特徴は、適切にプログラムされたプロセッサ及び関連するメモリ等、対応する構造の観点から代替的に表現されてもよい。
【0039】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の図を参照して説明される以下の例示的な実施形態から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、DNAナノデバイスの模式図である。
【
図2a】
図2aは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのディテクタ部分の図である。
【
図2b】
図2bは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのディテクタ部分の図である。
【
図2c】
図2cは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのディテクタ部分の図である。
【
図3a】
図3aは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのアンプリファイア部分の図である。
【
図3b】
図3bは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのアンプリファイア部分の図である。
【
図3c】
図3cは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのアンプリファイア部分の図である。
【
図3d】
図3dは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのアンプリファイア部分の図である。
【
図4a】
図4aは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのレスポンダ部分の図である。
【
図4b】
図4bは、異なる状態にあるDNAナノデバイスのレスポンダ部分の図である。
【
図5a】
図5aは、異なる状態にあるDNAナノデバイスの代替のアンプリファイア部分の図である。
【
図5b】
図5bは、異なる状態にあるDNAナノデバイスの代替のアンプリファイア部分の図である。
【
図5c】
図5cは、異なる状態にあるDNAナノデバイスの代替のアンプリファイア部分の図である。
【
図5d】
図5dは、異なる状態にあるDNAナノデバイスの代替のアンプリファイア部分の図である。
【
図6】
図6は、DNAナノデバイスの別の代替のアンプリファイア部分の図である。
【
図7】
図7は、ブロッキング部分を有するDNAナノデバイスの図である。
【
図8】
図8は、DNAナノデバイスのブロッキング部分の図である。
【
図9】
図9は、DNAナノデバイスの生成方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、DNAナノデバイス2(ナノロボットともいう)を示す。DNAナノデバイス2は、血液試料を用いて、癌の早期発見を可能にするために設計されている。このDNAナノデバイスは、ともに血液中に存在する循環腫瘍DNA(ctDNA)18及び無細胞DNA(cfDNA)を区別するのに十分な感度を有しており、ctDNA標的フラグメント18は、cfDNAと比較して、単に1つの点変異19を有しているだけであってもよい。ctDNAが検出されると、DNAナノデバイスは、ユーザーが観察可能な信号(例えば、蛍光信号)を引き起こし、これによって臨床医に診断のための迅速な応答を与える。このDNAナノデバイスは、腫瘍細胞に由来する特定の遺伝子変異を識別するため、疾患の種類やステージを知らせることができる。
【0042】
DNAナノデバイス2は、オリゴヌクレオチド、つまり短い一本鎖のDNA分子、を用いて、この分野で周知の自己組織化プロセスによって形成されている。
【0043】
DNAナノデバイス2は、より大きな共通のDNA構造体(図示の例では矩形体3)に固定(繋留)された多数の機能的DNA形成物を含む。機能的DNA形成物は、いくつかの例では10~90塩基対の長さであることができるが、同様に長く(又は短く)てもよく、例えば100塩基対の長さ、250塩基対の長さ、300塩基対の長さ、400塩基対の長さ、又はこれより長くてもよい。
【0044】
図では、機能的DNA形成物を構成するDNA鎖を線で示し、DNA鎖の3’末端をフックで示し、本体3に対するDNA形成物のアンカーポイントを
図1の凡例に示した記号で示している。標的となるcfDNA鎖上の点変異の位置は、
図1の凡例に示した記号で示されている。DNA鎖をより詳細に示す図では、ドメインとも呼ばれるDNA塩基のグループは、a、b、c等の小文字で表されている。星印の付いた文字は、相補的なドメインを示しており、例えば、ドメインa
*はドメインaと相補的である。相補的なドメインどうしのハイブリダイゼーションは、図中で相補的なドメイン間の接続線の配列によって示されている。ドメインは、DNA鎖の挙動や相互作用を理解するための概念である。ドメイン内のDNA塩基の配列は、(例えば、特定の標的のために)決められていてもよいし、DNA鎖の挙動(例えば、ヘアピンループを形成する傾向)を設計するために選択されてもよい。一例では、ドメインは5~50塩基対の長さ、例えば10塩基対の長さ、15塩基対の長さ、20塩基対の長さ、25塩基対の長さ、30塩基対の長さ、又は40塩基対の長さであることができる。同じ鎖上にある異なるドメインは、異なる長さを有してもよい。
【0045】
ナノデバイス2の本体3には、例えば管状、不定形、あるいは図示のようなDNAシート等、多種多様な二次元及び三次元の形状や形態を用いることができる。DNAナノデバイス2は、環境(試料を含む)と相互作用するように、及び相互に作用するように設計された多数の機能的形成物を含む。機能的形成物は、適切な位置で本体3に固定されている。これにより、互いに相互作用するように意図された機能的特徴部の並置を可能にし、その相互作用を促進することができる。DNAは、機能的特徴部を互いに相対的に特定の位置に高度に制御可能に固定することを可能にすることができるので、本体3にとって特に有利な材料である。この機能的形成物は、放出されたり、交換されたり、他の部分を受け入れたりすることができる部分を含む。これにより、機能的特徴部を環境と相互作用させ、及び相互に作用させることができる。並置と、異なる機能を実行する形成物を組み込む能力とにより、観察可能な信号をもたらす分子イベントを、DNAナノデバイス2の性能を最適化するように設計することができる。
【0046】
図1に示されたDNAナノデバイス2は、3つの機能的部分又はモジュールを含む。
・ディテクタ4、
・アンプリファイア6、及び
・レスポンダ8
【0047】
各モジュールは特定の機能を果たし、それらが相互に作用することで、意図された検出及び信号伝達を行う。
【0048】
機能的DNA形成物は、競合的なハイブリダイゼーションの原理に基づいて相互に作用し、特にトーホールドを介した鎖置換及びトーホールド交換によって、自発的にお互いを受け入れたり放出したりする。機能的DNA形成物の中の一部は、双安定構成を持つ部分を含み、お互いの相互作用に応じて構成を変えることができる(これは、分子論理とも呼ばれる)。
【0049】
ディテクタモジュール4及びアンプリファイアモジュール6は、トーホールドを介した鎖置換、トーホールド交換、分子論理ゲート(1つ以上の物理的又は化学的な入力及び1つの出力に基づいて論理演算を行う分子)等のDNAコンピューティングの原理に基づいている。
【0050】
レスポンダ8は、ダイナミックなDNAナノテクノロジーの原理(DNAオリガミ)、及び蛍光信号を生成するための無細胞発現系に基づいている。
【0051】
これより、個々のモジュールとその相互作用について、より詳しく説明する。
【0052】
図2a~
図2cは、異なる動作状態にあるディテクタ4をより詳細に示す。
図2a及び
図2bは、標的Tへの曝露前及び曝露後のディテクタ4を示し、
図2cは、ディテクタ4のDNA鎖をより詳細に示す。
【0053】
ディテクタ4は、プローブPとして機能するDNA鎖を含む。プローブPは、アンカーポイント12でDNAナノデバイス2の本体3に固定されている(図では、全般的に、アンカーポイントは
図1の凡例に示されているような記号で示されている)。
図2aのプローブPは、標的T(検出すべきctDNA配列)に曝露される前の状態を示している。初期構成では、「トリガ」DNA鎖又は「トリガ」DNA配列とも呼ばれる出力鎖Oがプローブ鎖Pに(部分的に)ハイブリダイズしている。
【0054】
図2bでは、標的Tが、トーホールドを介した鎖置換により、出力Oを置換している。標的TはプローブPにハイブリダイズし、出力Oは放出(解放)される。
【0055】
使用時には、標的DNA鎖TはプローブPのトーホールド領域に付着し、出力鎖Oを凌駕して出力鎖OをプローブPから置換する(追い出す)。
【0056】
プローブP及び出力Oは、プローブPが標的TのctDNA(癌の突然変異を持つ)とcfDNAとを区別できるように設計されている。プローブPは標的Tに相補的であり、出力OはcfDNAよりもプローブへの親和性が高いが、標的Tよりも相補性が低い。
【0057】
出力Oは、下流のモジュールであるアンプリファイア6をトリガする。
【0058】
図3a、
図3b、
図3c及び
図3dは、異なる動作状態にあるアンプリファイア6のサブユニットをより詳細に示す。
【0059】
図示されたアンプリファイア6サブユニットは、アンプリファイアA1及びA2として機能する2つの鎖と、キーホルダーHとして機能する第3の鎖の、3つのDNA鎖を含む。アンプリファイアA1、A2及びキーホルダーHの両方は、アンカーポイント12で本体3に取り付けられたテザー13を介して、DNAナノデバイス2の本体3に繋がれている(テザーで接続されている)。
【0060】
図3aでは、アンプリファイア6サブユニットが、出力Oに曝露される前の初期構成で示されている。初期構成では、キーDNA鎖KがキーホルダーHにハイブリダイズしている。2つのアンプリファイア鎖A1、A2はそれぞれ、分子論理ゲートを含んでおり、すなわち、それぞれが、状況に応じて開いたり閉じたりすることができるヘアピンループの準安定構成を有している。
【0061】
図3bでは、(ディテクタモジュール4からの)出力Oに曝露された後のアンプリファイア6サブユニットが示されている。トリガ鎖Oは、第1のアンプリファイア鎖A1の論理ゲートの立体構造変化を促進し、すなわちOがA1にハイブリダイズし、これによりA1の構成が変化する(ヘアピンループが開く)。
【0062】
図3cでは、増幅手順のさらなる段階でのアンプリファイア6サブユニットが示されている。その後、A1の露出した部分がA2にハイブリダイズし、その間にA2のヘアピンループが開き、A2がOを置換する。その後、又は同時に、HがA1にハイブリダイズし、これによりKが放出される。
【0063】
図3dは、第2のアンプリファイア鎖A2及びキーホルダー鎖Hの両方が第1のアンプリファイア鎖A1にハイブリダイズし、キーK及びトリガ鎖Oが解放された状態のアンプリファイア6サブユニットを示す。
【0064】
アンプリファイア6サブユニットの動作の結果、2本の鎖、つまり1本のキー鎖K及び元のトリガ鎖Oが放出される。次いで、トリガ鎖Oは別の同様のアンプリファイア6サブユニットにリサイクルされる。放出された出力Oは、
図3aに示すように、初期状態のさらなるアンプリファイアサブユニットへと続き、そのサブユニットでの類似した一連の工程により、出力鎖Oと同様に、さらなるキーK28が放出される。
【0065】
キーKは、下流のモジュールであるレスポンダ8を活性化する。
【0066】
触媒的に、単一の入力Oを再利用して、複数のアンプリファイアサブユニットから複数のキー鎖Kを放出することができる。各アンプリファイア6サブユニットは、出力Oを受け取り、キーKを出力するとともに、さらなる消費のために出力Oも出力する。
図1に示された例では、3つのアンプリファイア6サブユニットが示されているが(それぞれが2つのアンプリファイア鎖とキーホルダーを含む)、任意の数のサブユニットがアンプリファイア6に含まれてもよい。アンプリファイアサブユニットの数を変化させることで、所望の増幅率、すなわち、各活性化鎖(ディテクタからの出力O)に対して放出されるキー鎖の数を変化させることができる。n個のアンプリファイアサブユニットを含めることで、n個のキーKが放出される。最初の1本の出力鎖Oは、n個のキー鎖Kに増幅される。これは、単一の標的鎖Tに対してn個のキー鎖Kの形で増幅された応答を提供することにより、低濃度の標的ctDNAの検出を可能にする。
【0067】
他の特定の増幅プロセス(一般にヘアピンDNAカスケード増幅として知られる)を使用して、単一のトリガ鎖(ディテクタからの出力鎖O)から触媒的に複数のキー鎖を生成してもよい。
【0068】
図4a及び
図4bは、異なる動作状態にあるレスポンダ8をより詳細に示す。
図4aは、キーKに曝露される前のレスポンダ8を示す。
【0069】
図4aに示す初期構成では、図示されたレスポンダ8は、捕捉ボックスCと、捕捉ボックスCによって捕捉されたレポーター遺伝子Rとを含む。
【0070】
捕捉ボックスCは、レポーター遺伝子Rを拘束し、囲まれた部分の露出を防止する囲いを形成することができる多数のDNA鎖を含む。レポーター遺伝子の囲まれた部分はプロモーター配列であるため、レポーター遺伝子Rが捕捉ボックスCから解放されてプロモーター部分が露出する時まで、レポーター遺伝子の発現が阻止される。レポーター遺伝子Rは、緑色蛍光タンパク質等の蛍光タンパク質をコードしており、当該技術分野で公知のように、無細胞タンパク質発現によって産生することができる。
【0071】
捕捉ボックスCは、閉じた構成と開いた構成とを有する双安定なDNA形成物である。レスポンダ8は、ロックDNA鎖Lを含む。キー鎖Kとロック鎖Lとのハイブリダイゼーションにより、捕捉ボックスCは、閉じた構成から開いた構成へと変化する。
【0072】
図4bでは、キー鎖Kがロック鎖Lにハイブリダイズし、捕捉ボックスCが開状態になり、レポーター遺伝子Rが放出されている。
【0073】
放出されたレポーター遺伝子は発現され、発現されたタンパク質の蛍光は、試料中の標的ctDNAの存在を観察者に示すことができる。
【0074】
レスポンダは、それぞれがレポーター遺伝子Rを有する捕捉ボックスCの多数のインスタンスを含んでもよい。各捕捉ボックスCは、キー配列Kの1つによって開かれ、これにより、微量の分析物について観察可能な蛍光信号を生成することができる。
【0075】
図5a~
図5dは、各増幅サブユニットが、アンカーポイント12でDNA本体3にともに固定されたアンプリファイア鎖A及びキーホルダー鎖Hを含む、別のアンプリファイア6サブユニットを示す。
図5a~
図5cは、異なる動作状態にあるアンプリファイア6サブユニットを示し、
図5dは、アンプリファイア6サブユニットのDNA鎖をより詳細に示す。
【0076】
図5aは、出力鎖Oのさらなるコピーと中間DNA鎖Iとの2本のDNA鎖がアンプリファイアAに(部分的に)ハイブリダイズしている初期構成を示す。図示された例では、出力鎖Oは、ヘアピンループの準安定構成の状態にある。
【0077】
図5bでは、出力Oは、トーホールドを介した鎖置換により、アンプリファイアAにハイブリダイズしている。出力Oは、アンプリファイアAのトーホールド領域に付着し、中間体IをアンプリファイアAから追い出すために中間体Iを凌駕する。{中間体I+出力O}ハイブリッドが解放される。
【0078】
図5cでは、中間体Iは、トーホールドを介した鎖置換により、キーホルダーHとハイブリダイズしている。出力OはキーKと同様に放出されている。
【0079】
次の工程では、放出された出力Oは、
図4aに示されるような初期状態のさらなるアンプリファイアサブユニットへと続き、出力鎖Oは、さらなるアンプリファイアAにハイブリダイズされ、従って、さらなる{中間体I+出力O}ハイブリッドを追い出し、類似した一連の工程により、さらなるキーKが放出される。
【0080】
図6は、
図3a~
図3dを参照して上述したようなアンプリファイアサブユニットの変形例を示す。この変形例では、レスポンダは、操作する(すなわち、レポーターを解放するために構成を閉から開に変える)ために2つのキーK1、K2を必要とする。このアンプリファイアは、右側の経路と左側の経路(検出される最初のctDNAに対応)の2つの経路を含み、各経路に対してプローブPR、PLが適切なトリガOR、OLを提供する。この例では、レスポンダが2つのキーを必要とするため、初期構成でのレスポンダの高い安定性を可能にすることができ、レスポンダの自発的な起動を防止することができ、従って偽陽性の率を低くすることができる。関連する変形例では、単一のプローブPが2つのトリガ、OR及びOLを持ち、標的TがプローブPにハイブリダイズすると両方が放出される。
【0081】
さらなる変形例では、両方の経路(右及び左)が互いに増幅し、フィードフォワードループを形成するように適合されている。この場合、単一の標的ctDNA分子の検出が連鎖反応を引き起こすことができ、高感度、及びDNAナノデバイスの応答時間が非常に短くなるという効果が達成される。
【0082】
図7は、上述したDNAナノデバイスの変形例を示す。DNAナノデバイス50は、上述したように、ディテクタ4、アンプリファイアモジュール6、及びレスポンダ8を含む。加えて、DNAナノデバイス50は、cfDNA(血液中に自然に存在する)を捕捉し、デバイスの残部と相互作用しない鎖を放出するためのブロッキング部分(又はブロッキングモジュール)40を含む。ブロッキングモジュール40は、多数のブロッキングプローブBを含む。ディテクタ4のプローブPが標的ctDNA鎖Tと最もよくハイブリダイズするのに対し、ブロッキングプローブBは、干渉するcfDNA鎖Xと最もよくハイブリダイズすることを除いて、ブロッキングプローブBは、上述したディテクタ4のプローブPと同様である。
【0083】
図8は、ディテクタ8を参照して上述したようなプローブPと、ブロッキングプローブBとをより詳細に示す。ブロッキングプローブBは、DNAナノデバイス50の本体3にアンカーポイントで固定されているDNA鎖である。初期構成では、非相互作用鎖NがブロッキングプローブBに(部分的に)ハイブリダイズしている。cfDNA鎖等の干渉鎖Xは、ブロッキングプローブBにハイブリダイズしており、トーホールドを介した鎖置換によって非相互作用鎖Nを置換する。ブロッキングプローブBから解放された非相互作用性鎖Nは、DNAナノデバイス50の残部とは相互作用しない。cfDNA等の干渉鎖Xを捕捉することにより、ブロッキングプローブ40は、非標的DNA鎖XがトリガDNA配列Oの意図しない放出を引き起こすことを防止し、これによりクロストークを低減又は防止し、ディテクタの特異性を高めることができる。
【0084】
ブロッキング部分40は、
図7に例示されているように、同じ種のブロッキングプローブの多数のインスタンスを含んでいてもよく、又はブロッキング部分40は、多数の異なる種のブロッキングプローブ(各種のブロッキングプローブの1つ以上のインスタンスを有する)を含んでいてもよい。
【0085】
上に例示した例では、設計されたハイブリダイゼーションに参加する機能的DNA鎖は、アンカーポイント12で主DNA本体3に直接固定されているか(例えば
図2aに図示)、又は機能的DNA鎖をアンカーポイント12で主本体3に接続するテザー13を介して繋留されている(例えば
図3aに図示)。変形例では、いくつかの機能的DNA鎖は直接固定され、いくつかはテザーを介して繋留される。任意に、いくつかの(又はすべての)機能的DNA鎖は、DNAナノデバイスを囲む自由な溶液中に、テザーなしで提供されてもよい(例えば、アンプリファイアサブユニットの第2のアンプリファイア鎖A2)。直接固定することで、異なる種類の機能的DNA鎖の位置及び並置を良好に制御し、それらの相互作用を促進する。テザーで繋ぐこと(テザー接続)は、位置の制御性はより低いが、移動の自由度及び立体構造の変化の自由度がより高く、他の機能的DNA鎖との相互作用(ハイブリダイゼーション)が可能であり、機能的DNA鎖の露出度が良好になる可能性がある。自由溶液の提供は、十分な利用可能性を確保するために、比較的高い濃度を必要とする場合がある。テザーは、系の他の部分との相互作用を阻止し、ヘアピンループ等の二次構造の形成を阻止するように選択されたDNA配列であってもよい。テザーは、バイオポリマー(例えばアクチン、リグニン、チューブリン)等のDNA以外の材料のものであってもよい。テザーの長さは、上述の機能的DNA鎖に一定の範囲の動きを与えるように選択されてもよい。
【0086】
変形例では、機能的ユニット(DNA鎖)が取り付けられた本体は、上述のDNA構造体ではなく、別の材料である。例えば、本体は、ナノ粒子(有機物又は無機物)、カーボンナノチューブ、ミセル又はリポソームであってもよい。変形例では、本体は基板(例えばガラス、シリコン、ポリマー、セラミック)であり、この基板は、マイクロ流体デバイス、フローセル、ウェルプレート、キュベット、テストストリップ、又は他のアッセイデバイス等、より大きなデバイスの一部を形成してもよい。異なる機能的ユニットを基板にパターニングするには、フォトリソグラフィーやソフトリソグラフィー等の微細加工技術を用いてもよい。共有結合を形成することで、例えば、機能的ユニットを本体に固定したり、デザー接続したりすることができる。
【0087】
上述のようなDNAナノデバイスの設計には、コンピュータプログラム製品が用いられる。DNAナノデバイスの設計は多変量の問題であり、適切なDNAナノデバイスを構築するために必要なDNA鎖の正確な配列は、多くの要因に依存する。この多くの要因には以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
・医療診断又は他の目的で関心のある遺伝子変異又はバイオマーカーによって決まる、目的とする標的DNA配列。
・試料環境におけるナノロボット全体の化学的安定性。
・反応速度。
・個々のモジュールの構造、すなわち、所望の感度に必要なプローブ及びアンプリファイアの数、並びにそれらの間の出力/入力の望ましい伝達メカニズム。
・クロストークの最小化:例えば、ディテクタ部分の特異性、ブロッキングプローブの数及び構造、同じDNAナノデバイスの機能的部分や機能的ユニット間のクロストーク、また、異なる標的を検出することを目的とした(共通のDNAナノデバイス上のものであれ、別々のDNAナノデバイス上のものであれ)異なる経路間のクロストーク。例えば、X型のトリガ(X型のctDNAを検出することによって放出される)は、X型のアンプリファイアとのみ相互作用するはずである。X型のトリガは、他のタイプの変異及びおそらく他のタイプの癌を示すY型及びZ型のアンプリファイアとは相互作用しないはずである。
【0088】
これらの要素を考慮して、DNAナノデバイスの性能を最適化することができる。機械学習システムが、このような多変量最適化を行い、所望の特性に応じてDNAナノデバイスを設計し、検出すべき癌の変異のプールを与える。
【0089】
AIの訓練データは、シミュレーションデータ、実験データ、又はその両方によって提供することができる。
【0090】
図8は、入力、出力、及び結果として得られるDNAナノデバイス2のセットの一例を示す。ソフトウェア62は、入力に依存して、DNAナノデバイス2の性能をシミュレーション60する。最適にシミュレートされたDNAナノデバイス2に対して、ソフトウェア50は、DNAナノデバイスを形成するためのDNA配列を出力し、潜在的には、特徴的なレイアウト及び/又はさらなる製造情報を出力する。
【0091】
出力によって指定された通りに、DNAナノデバイス2が生成される。DNAナノデバイス2の特性がテストされ、シミュレーション60を検証するためにソフトウェア50にフィードバックされる。
【0092】
上述の例では、当該DNAナノデバイスは、血液試料のインビトロ分析のためのものであり、この血液試料は、例えば、血漿成分の分離、DNA増幅、試薬の添加、又は他の処理等の準備を受けてもよいことが理解されよう。変形例では、当該DNAナノデバイスは、リンパ液、脳脊髄液、膵液、胆汁液、尿、唾液、痰、糞便、胸水、羊水、涙液、汗等の別の体液又は排泄物にも同様に使用することができる。変形例では、当該DNAナノデバイスをインビボ検出に使用することができる。
【0093】
上述の例では、当該DNAナノデバイスはctDNAの検出用であり、変形例では、当該DNAナノデバイスは循環腫瘍RNAの検出に適合している。
【0094】
他の例では、当該DNAナノデバイスは、循環腫瘍タンパク質、又はα-フェトプロテイン、イオンチャネルタンパク質、若しくは炎症マーカー等の他のバイオマーカーの検出に適合している。この例では、上述のプローブは、バイオマーカーへの曝露時にトリガDNA配列を放出するように適合されていてもよく、このトリガDNA配列は、上述のように増幅及び応答を進行させる。一例として、
図1を参照して上述したディテクタは、バイオマーカー等の標的分子と結合することができるアプタマーを形成するように(適切な配列を選択することによって)適合されたプローブDNA配列を含む。アプタマーは、ユニークな3次元構造を持つ一本鎖のオリゴヌクレオチドであり、高い選択性及び特異性で標的(典型的にはリガンド)を結合することができる。アプタマーは、標的分子との結合により、アプタマーの立体構造変化(例えば、アプタマーの二次構造の変化)が生じるように選択される。そして、アプタマーの立体構造変化は、トリガDNA配列の放出を引き起こし、このトリガDNA配列は、上述したように増幅と応答を進行させる。別の変形例では、当該DNAナノデバイスのディテクタモジュールは、
図1を参照して説明したプローブDNA配列PとトリガDNA配列Oとのハイブリッドに加えて、標的バイオマーカーと結合するように適合されたアプタマー(任意に、DNA本体にテザー接続されている)を含む。初期構成では、アプタマーはプローブPに結合しない。アプタマーは、標的バイオマーカーの結合時に立体構造を変化させ、従って、プローブPとハイブリダイズする領域を露出させて、これによりプローブPからトリガDNA配列Oを放出させるようになっている。その後、トリガDNA配列は、上述のように増幅及び応答を進行させる。
【0095】
別の例では、当該DNAナノデバイスは、例えば、法医学的分析において、他の微量DNA、RNA又は他のバイオマーカーを検出するためのものである。
【0096】
上述の例は、単一のctDNA標的種を検出するためのDNAナノデバイスに言及しているが、変形例では、DNAナノデバイスは、それぞれが異なるctDNA種のための複数のプローブのライブラリを担持する。この複数のプローブはすべて同じ経路を使用してもよいし、各プローブがDNAナノデバイスに収容された異なる経路をトリガしてもよく、プローブの種類に固有の観測可能な信号を生成してもよい。
【0097】
上述の例では、当該DNAナノデバイスは、蛍光タンパク質の無細胞発現についてのレポーター遺伝子によって応答する。変形例では、他の方法としては、例えば、以下のような他の信号伝達手段が実行されてもよい。
・増幅段階で出力されるキーKが、適切な蛍光タグからクエンチャーを置換するように適合されている場合の蛍光。
・増幅段階で出力されるキーKがFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)におけるドナー分子又はアクセプター分子を含むように適合され、レポーター鎖が相補的なFRETアクセプター/ドナーを含み、キーK鎖を受け入れるように適合されている場合の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)。
・放射性標識、磁気ビーズの装飾、表面増強ラマン分光法(SERS)、金又は銀のナノ粒子の装飾。
【0098】
本発明は、純粋に例示のために上記で説明されており、本発明の範囲内で細部の変更が可能であることが理解されるであろう。
【0099】
請求項に記載されている参照番号は、例示を目的としたものにすぎず、請求項の範囲を限定するものではない。
【0100】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される用語「含む」は、好ましくは「少なくとも一部で…からなる」を意味する。