(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】2つの非対称の吸気ダクトを有するガス吸気装置
(51)【国際特許分類】
F02B 31/08 20060101AFI20240910BHJP
F02B 31/04 20060101ALI20240910BHJP
F02F 1/42 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F02B31/08 524E
F02B31/04 540A
F02F1/42 F
(21)【出願番号】P 2021560659
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2020058559
(87)【国際公開番号】W WO2020212112
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-14
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ゴートロト、 グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】トロスト、 ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】リッター、 マーティン
(72)【発明者】
【氏名】クリーゲル、 アーノルド
(72)【発明者】
【氏名】シャルマソン、 セバスチャン
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-106451(JP,A)
【文献】特開平08-260990(JP,A)
【文献】特開2007-032560(JP,A)
【文献】特開2007-247618(JP,A)
【文献】特開2016-200042(JP,A)
【文献】実開昭58-142330(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 31/00
F02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関エンジンのシリンダ用のガスの吸気装置であって、前記吸気装置(1)は、
2つの吸気管(5a、5b)と、
前記各吸気管(5a、5b)に配置された吸気弁(4)と、
前記各吸気管(5a、5b)の一端に配置され、前記シリンダの触火面(FF)に向けられた弁校正部(6a、6b)と、
前記各吸気管(5a、5b)の中で、前記シリンダの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダの内部に前記ガスの空気力学的運動を生成する手段と、を含み、
前記各吸気管は、断面が実質的に角の丸い長方形であり
前記2つの吸気管(5a、5b)の夫々の内弧面において、前記各吸気管(5a、5b)と前記弁校正部(6a、6b)との間の交差部(7a、7b)は、前記吸気管と前記弁校正部との間の交点を通る直線母線(YaYa、YbYb)上にある線分を形成し、前記直線母線(YaYa、YbYb)は、前記シリンダの前記触火面(FF)に平行な平面に対して0度
と45度の
間の角度αを形成し、それにより、前記吸気管の端部が捩れている、吸気装置において、
前記2つの吸気管(5a、5b)の前記角度αは互いに異なることを特徴とする、吸気装置。
【請求項2】
前記2つの吸気管(5a、5b)の前記角度αの間の差は、0度
と45度の
間のゼロ以外の角度δである、請求項1に記載の吸気装置。
【請求項3】
前記角度αがより大きい前記吸気管(5a)は、前記シリンダ内で、前記シリンダの軸(O)に最も近い方向を向いた前記空気力学的運動を生成する吸気管である、請求項1または2に記載の吸気装置。
【請求項4】
前記2つの吸気管(5a、5b)の前記角度αは、0度
と20度の
間である、請求項1から3の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項5】
前記角度αは、前記2つの吸気管(5a、5b)についてゼロ以外である、請求項1から4の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項6】
前記シリンダの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダの内部に前記空気力学的運動を生成する前記手段は、前記2つの吸気管の夫々の傾斜路形状(9)を含む形状と、前記2つの吸気管(5a、5b)の前記断面の収束(8)と、前記吸気管と前記弁校正部との間の交点
を通り前記触火面(FF)に平行な平面に対する前記吸気管の下面の角度によって画定される前記各吸気管(5a、5b)の傾斜との少なくともいずれかによって構成されている、請求項1から5の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項7】
前記2つの吸気管(5a、5b)は、前記シリンダへの2つのガス出口と2つの吸気弁とを含むサイアミーズ吸気管を形成する、請求項1から6の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項8】
前記2つの吸気管(5a、5b)の夫々は、前記2つの吸気管(5a、5b)を部分的に閉鎖するマスクを含む、請求項1から7の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項9】
前記2つの吸気管(5a、5b)は実質的に平行である、請求項1から8の何れか1項に記載の吸気装置。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の少なくとも1つの吸気装置を備えた少なくとも1つのシリンダと、少なくとも1つの排気装置と、燃料噴射手段とを含む内燃機関エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関エンジンのガス吸気装置の分野に関する。特に、本発明は、エンジンシリンダ内で空気力学的ガス運動を生成することを可能にする2つの吸気管を備えたガス吸気装置に関する。
【0002】
この型のエンジンは一般的に、少なくとも1つのシリンダと、このシリンダ内を往復直線運動で摺動するピストンと、シリンダ内に酸化剤を供給する吸気手段と、シリンダから燃焼ガスを排出する排気手段と、燃焼室と、シリンダ内に燃料を噴射する噴射手段とを含む。
一般的に認められているように、エンジンを設計する場合、性能と汚染物質の排出の制約がますます高くなっている。したがって、最終的なエンジン効率を高めるために新しい解決策を見つける必要がある。
したがって、燃焼効率を向上させることは、同等以上の性能を得るために排出量を制限するための重要なポイントである。したがって、燃焼室内に存在するすべての燃料が、例えば、大気圧の空気、過給空気、または空気混合物(過給されているか否かにかかわらず)と再循環した燃焼ガスとの混合物を含む酸化剤によって使用されることが非常に重要である。
実際、燃焼室内の燃料混合物(酸化剤/燃料)は、可能な限り均質である必要がある。
【0003】
さらに、良好な効率および燃焼率を確保するため、燃料混合物の点火時およびその後の燃焼中に、高い乱流レベル、より具体的には、高い乱流運動エネルギーレベルを有することが望ましい。
この高い乱流運動エネルギーレベルは、特定の吸気空気力学、スワンブルによって得ることができる。このタイプの空気力学は、燃料混合物の巨視的な運動が、スワール(垂直シリンダ軸の周りのシリンダ内のガスの回転運動)とタンブル(縦置きエンジン軸の周りのシリンダ内のガスの回転運動)の組合せであることを特徴とする。
【0004】
スワールは、シリンダ軸と同一直線上にある軸の周りの燃料混合物の巨視的な回転運動であり、吸気プロセスの間、より具体的にはピストンの上昇中の良好な運動保存によって特徴付けられる。それは、燃料混合物を均質化するための優れた方法である圧縮点火内燃機関エンジンに一般的に使用される空気力学的巨視的運動である。
タンブルも燃料混合物の巨視的な回転運動であるが、シリンダ軸に全体的に垂直な軸の周りの回転運動である。タンブルは、ピストンが上昇するにつれて乱流を作り出す微視的な空気力学的運動に変わるという特有の特徴を有している。それは火花点火内燃機関エンジンに一般的に用いられる空気力学的巨視的運動であり、適切な燃焼率を得るための優れた方法である。その上、この運動は、最大リフト高さだけでなく広がりの点でも、燃焼室の形状とリフト法則に非常に敏感である。
スワンブルを使用すると、上で詳細に述べた2つの空気力学的構造の利点から利益を得ることができる。したがって、現在の最良の火花点火エンジンで観察されるレベルよりも圧縮段階中のより高い乱流レベルのため、優れた均質化とより良い燃焼率から利益を得ることができる。
【背景技術】
【0005】
シリンダ内のこれらの乱流を達成するために種々の技術的解決策が開発されている。
第1の解決策は、特に米国特許第6,606,975号に記載されている。この解決策は、乱流を生成するように吸気管に配置されたフラップを制御することで構成されている。この特許はさらに、低負荷でのスワンブルの概念に言及している。このような解決策は複雑であり、シリンダの充填に関して不利である。
第2の解決策は、特に米国特許第5,056,486号に記載されている。この解決策は、非対称の吸気管の定義を提供し、複雑な空気力学を生成できるようにする。しかしながら、この解決策は吸気弁の開口部を位相シフトする必要があり、これは、高い負荷において不利である。
第3の解決策は、特に独国特許出願10,128,500号および欧州特許出願1,783,341に記載されている。この解決策は、吸気管内の受動的または能動的な付属物によって複雑な空気力学を生成することができる。どちらの場合も、これらの付属物は、シリンダへのガスの充填を制限する。さらに、能動的な付属物は、解決策をより複雑にする制御システムを必要とする。
第4の解決策は、特に米国特許出願公開第2008/0,149,063号明細書、特開2010-261,314号公報および米国特許出願公開第2012/160,198号明細書に記載されている。この解決策は、吸気管の端部に配置されたマスクによってシリンダ内で空気力学的ガス運動を生成することで構成されている。しかしながら、スワンブル型の空気力学的ガス運動を得るためには、吸気管当たり2つのマスクを使用する必要があるようであり、または特定の弁リフト法則を使用する必要があるようであり、これはこの解決策を複雑にする。さらに、使用されるマスクは、シリンダをガスで充填することを制限する。
【0006】
さらに、シリンダが2本の吸気管またはサイアミーズ管(言い換えれば、2つの吸気弁を有するシリンダ)が設けられている内燃機関エンジンは一般的である。従来、これらのシリンダは、2つの排気管と2つの排気弁を設けることもでき、そのうえ、これらは4バルブエンジンと呼ばれる。シリンダあたり2つの弁を備えた構成に関して、可動部分の軽量化に起因する4バルブエンジンのわずかな機械的慣性は、エンジンの速度をより速くすることを可能にし、そして内燃機関エンジンの高効率化と高出力化を提供することを可能にする。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、簡単な方法で、とりわけ、高い乱流エネルギーとシリンダに適切に向けられたスワンブル型のガスの空気力学的構造とによって良好なエンジン性能を得ることを可能にする吸気装置によって、これらの欠点を克服することである。したがって、本発明は、内燃機関エンジンのシリンダ用のガス吸気装置に関する。ガス吸気装置は、2つの吸気管と、2つの吸気弁と、2つの吸気弁校正部と、夫々の吸気管においてシリンダ内でタンブル型の空気力学的ガス運動を形成する手段とを含む。さらに、各吸気管について、吸気管と校正部の間の交差部は、触火面の平面に非平行な線に沿って生じる。この傾斜は、スワール型の空気力学的運動がシリンダ内で生成されることを可能にし、スワール型の空気力学的運動はタンブルと結合して、スワンブル型の空気力学的運動を形成する。さらに、この交点の傾斜角度は管ごとに異なる。したがって、2つの吸気管のこの非対称性は、圧縮の終わりにタンブル型の空気力学的ガス運動により近い立体構造を有するシリンダ内でスワンブル型の空気力学的ガス運動を生成することを可能にし、これは乱流運動エネルギーの生成を最大にする。
【0008】
本発明は内燃機関エンジンのシリンダ用のガス吸気装置に関し、前記ガス吸気装置は、2つの吸気管と、各吸気管に配置された吸気弁と、各吸気管の一端に配置され、前記シリンダの前記触火面に向けられた弁校正部と、各吸気管の中で、前記シリンダの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダの内部に前記ガスの空気力学的運動を生成する手段と、を含み、各吸気管と前記弁校正部との間の前記交差部は、前記2つの吸気管の夫々の内弧面に直線母線上にある線分を形成し、前記直線母線は、前記シリンダの前記触火面(FF)に平行な平面に対して0度と45度の間の角度αを形成し、前記直線母線は、前記吸気管と前記弁校正部との間の交点を通る。前記2つの吸気管の前記角度αは互いに異なる。
【0009】
一実施形態によれば、前記2つの吸気管の前記角度αの間の差は、0度と45度の間、好ましくは0度と15度の間、より好ましくは1度と15度の間のゼロ以外の角度δである。
一実施形態によれば、角度αがより大きい前記吸気管は、前記シリンダ内で前記シリンダの軸に最も近い方向を向いた前記ガスの空気力学的運動を生成する吸気管である。
一態様によれば、前記2つの吸気管の前記角度αは、0度と20度の間、好ましくは0度と16度の間である。
好ましくは、前記角度αは、前記2つの吸気管についてゼロ以外である。
【0010】
一実施形態の選択によれば、前記シリンダの前記軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダの内部にガスの空気力学的運動を生成する前記手段は、前記2つの吸気管の夫々の前記形状、とりわけ傾斜路形状によって、および/または前記2つの吸気管の前記断面積の収束(8)によって、および/または前記2つの吸気管の傾斜によって構成されている。
【0011】
有利には、前記2つの吸気管は、前記シリンダへの2つのガス出口と2つの吸気弁とを含むサイアミーズ吸気管を形成する。
一実施形態によれば、前記2つの吸気管の夫々は、前記2つの吸気管を部分的に閉鎖するマスクを含む。
一実施形態によれば、前記2つの吸気管は実質的に平行である。
【0012】
さらに、本発明は、上記特徴のうちの1つによる少なくとも1つの吸気装置を備えた少なくとも1つのシリンダと、少なくとも1つの排気装置と、燃料噴射手段とを含む内燃機関エンジンに関する。
本発明による装置の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、非限定的な例として与えられる以下の説明を読むことによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による動作位置における吸気装置を示す図である。
【
図2】従来技術による動作位置、および本発明の一実施形態による動作位置におけるガス吸気装置の吸気管の内弧面を夫々示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態による動作位置におけるガス吸気装置の内弧面を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態による動作位置におけるガス吸気装置を備えたシリンダの上面図である。
【
図5】クランク角度(CAD)の関数として2つのタンブル曲線を示し、本発明による吸気管のタンブル曲線である一方、本発明によらない実施形態による吸気管のタンブル曲線である。
【
図6】クランク角度の関数として2つの乱流運動エネルギー曲線を示し、本発明による吸気管の乱流運動エネルギー曲線である一方、本発明によらない実施形態による吸気管の乱流運動エネルギー曲線である。
【
図7】従来技術による吸気装置および本発明による吸気装置についてタンブル透過性の折衷案のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、内燃機関エンジンのシリンダ用のガス吸気装置に関する。ガス吸気装置は2つの吸気管を備えた吸気装置である。
ガス吸気装置は、
シリンダにガスを入れるための2つのガス吸気管、
各吸気管に挿入された吸気弁、ガスをシリンダに供給することを可能にする弁の開口、
シリンダ側の各吸気弁の端部に配置された吸気弁校正部であって、校正部はシリンダの触火面に向けられ、吸気弁校正部は弁が移動する実質的に円筒形の機械部分であり、
夫々の吸気管内には、シリンダ内の空気力学的ガス運動をシリンダ軸に垂直な方向に生成するための、言い換えれば、タンブル型の空気力学的ガス運動を形成するためのガスの方向転換手段、を含む。
【0015】
触火面または燃焼面は、シリンダ軸に直交する(内燃機関エンジンの)シリンダヘッドの下面であると理解される。弁校正部は、シリンダにガスを供給するようにシリンダヘッドの下面に挿入される。
シリンダあたり1つの吸気弁の構成に関して、可動部分の軽量化に起因するシリンダあたり2つの吸気弁を備えたエンジンの最も少ない機械的慣性は、エンジンの速度をより高くすることを可能にし、このようにして内燃機関エンジンの高効率化と高出力化を提供する。
【0016】
本発明によれば、吸気装置はこのような方法で形成される。それは、各吸気管の内弧面において、吸気管と弁校正部の間の交差部は触火面に平行な平面に対して0度と45度の間の角度αを形成し、吸気管と弁校正部の間の交点を通る直線母線上にある線分を形成する。吸気管の内弧面は、(吸気管がその作動位置にあるとき)吸気管の下面であると理解される。これにより、吸気管の下面と弁校正部との(線分である)交差部は触火面に平行な平面に対して傾斜する。この傾斜は、校正部の入口、何にもましてシリンダの入口でガスの方向転換を提供する。このガスの方向転換は、シリンダ軸に平行な方向にシリンダ内に空気力学的ガス運動を生成し、言い換えればスワール型の空気力学的ガス運動を生成する。この傾斜は、吸気管の端部において吸気管の回転(そして吸気管の端部が捩れる)という結果になり、これはスワール型の空気力学的ガス運動を促進する。さらに、この実施形態はマスク、フラップまたはブレード型の如何なる特別の付属物(付加物)なしで、スワール型の空気力学的運動を提供する。さらに、この吸気装置の構造は、単気筒または多気筒内燃機関エンジンのシリンダヘッド内の配置に関する追加の制約を伴わない。
【0017】
0度と45度の間の角度αの傾斜により、スワール型の空気力学的ガス運動を生成することができる。45度以上では、吸気管の幾何学的形状は複雑であり達成することが困難である。
タンブル型およびスワール型の空気力学的ガス運動を組み合わせることによって、本発明によるガス吸入装置はシリンダ内にスワンブル型の空気力学的ガス運動を提供し、これにより、現在最良の火花点火エンジンで観察される乱流レベルよりも圧縮段階中のより高い乱流レベルのため、優れた均質化およびより良い燃焼率から利益を得ることを可能にする。
【0018】
本発明の一態様によれば、吸気管の断面積は、角が丸い実質的に長方形の形状を有することができる。この場合、吸気管と弁校正部との交差部は4つの縁部、すなわち、1つの縁部は内弧面側、1つの縁部は外弧面および2つの縁部は側縁部から構成される。
【0019】
この実施形態の一例によれば、弁校正部との交差部における吸気管の長方形の断面積は、触火面の方向に対して傾斜する。言い換えれば、長方形の断面積の何れの縁部も、触火面に平行な面に対して平行または垂直でない。
【0020】
本発明によれば、2本の吸気管は非対称である。各吸気管の角度αは互いに異なる。言い換えれば、校正部と2つの吸気管の内弧面の間の交差部によって形成される母線は平行でない。この非対称性はシリンダ内にスワンブル型の空気力学的ガス運動の良好な方向性を提供し、特に圧縮の終わりに良好な方向性を提供する。空気力学的ガス運動は乱流運動エネルギーの生成を最大にするタンブル型の空気力学的ガス運動により近い構造を有する。さらに、本発明による吸気装置のアーキテクチャはエンジンのシリンダヘッド内の配置に対する追加の制約を含まず、これはスワンブル型の空気力学的ガス運動を得ることを可能にする現在の解決策との比較によって顕著な利点を提供する。
好ましくは、2つの管は実質的に平行とすることができる。
有利には、2つの管はタンブル型の空気力学的運動を生成する同一の手段を含むことができる。
これらの2つの特徴は、シリンダ内のガス吸気装置の設計を容易にする。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、2つの吸気管の角度αの間の差δは、0度と45度の間、好ましくは0度と15度の間、より好ましくは1度と15度の間のゼロ以外の角度とすることができる。これらの角度範囲は、シリンダ内にスワンブル型の空気力学的ガス運動の適切な方向付けが最適化されることを可能にする。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、より大きい角度αで傾斜した吸気管はシリンダ内に空気力学的ガス運動を生成する吸気管であり、その方向はシリンダの軸(中心)により近い。そして、この吸気管は内管と呼ぶことができ、そして第2の吸気管は外管と呼ぶことができる。言い換えれば、出口での空気力学的ガス運動がシリンダ軸に近い吸気管は、出口での空気力学的ガス運動がシリンダの壁に近い吸気管の角度αよりも大きい角度αで傾斜する。このように、内管は外管よりも大きいスワール型の空気力学的運動を生成し、外管はタンブル型の空気力学的運動により近い空気力学的ガス運動を生成する。しかしながら、(外管に近い)シリンダ壁は外管からシリンダ軸に向かう空気力学的ガス運動を巻き付け、方向を変え、そしてシリンダ壁は結局スワンブル型の空気力学的ガス運動ということになる。したがって、内管からのガス流は、強力に流れをスワンブル型の空気力学的ガス運動にする。この構成は対称的な吸気管構成に対して、上死点でのシリンダ内の著しい乱流利得を提供し、それによって燃焼効率利得を可能にする。
【0023】
ガスは、酸化剤または(間接噴射)燃料混合物であり、特に、周囲圧力の空気、過給空気、または(過給または非過給)空気および燃焼ガスの混合物を含むことができる。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、角度αは、0度と20度の間、好ましくは0度と16度の間とすることができる。角度範囲はスワール型の空気力学的ガス運動を最適化することを可能にし、それによって、スワンブル型の結合された空気力学的ガス運動を最適化することを可能にする。2つの傾斜の角度差により、吸気管の少なくとも1つの角度αはゼロ以外である。好ましくは、少なくとも1つの吸気管の角度αは5度以上である。5度未満では、傾斜はシリンダ内の空気力学的ガス運動に重大な影響を与えるのに十分ではない。
【0025】
好ましい実施形態によれば、角度αは、両方の吸気管についてゼロ以外とすることができる。この実施形態は、スワンブル型のより大きい空気力学的ガス運動を生成することを可能にする。
好ましくは、角度δは、0度と2つの管の間の角度αの最高値の間である(境界を除く)。言い換えれば、2つの管の間で最大値のαmaxを伴う不等式0<α<αmaxを作ることができる。
本発明の一実施形態によれば、ガスの方向転換手段は、吸気管の形状で構成されるだけでもよい。したがって、如何なる能動的または受動的な要素も、吸気管内のガスの流れを妨げることはない。
【0026】
第1の例示的な実施形態によれば、ガスの方向転換手段は、各吸気管の下側の外形に傾斜路形状を含むことができる。この傾斜路形状は、吸気管の下側の外形の凹部の変化を通じて得ることができる。傾斜路形状はタンブル型の空気力学的ガス運動を最大にするように吸気管のガス流の分離を促進し、ガス流を吸気管の上部へ送り、それによってシリンダの上部へ送る。
【0027】
第2の例示的な実施形態(第1の例示的な実施形態と結合してもよい)によれば、ガスの方向転換手段は、弁校正部に近い断面積の収束部を含むことができる。言い換えれば、各吸気管の断面積は、弁校正部に近い吸気管の端部で狭くなる。この収束部は、充填と空気力学的ガス運動の両方を促進するガスの流れの加速を生成する。
【0028】
第3の例示的な実施形態(第1および/または第2の例示的な実施形態と結合してもよい)によれば、ガスの方向転換手段は、各吸気管の傾斜を含むことができる。各吸気管のこの傾斜は、0度と45度の間の校正部と吸気管の交点に対する接線の角度によって画定することができる。この傾斜はシリンダの燃焼室の上部の傾斜と連結することができる。吸気管の傾斜は、シリンダに入るガス流を傾斜させることを可能にし、タンブル型の空気力学的ガス運動を形成する。例えば、タンブル型の空気力学的ガス運動の最適化は、吸気管の角度と燃焼室の上部の傾斜の角度の間の接触で実現することができる。
【0029】
本発明の一態様によれば、各吸気管は、シリンダ内に開口する吸気管の端部を部分的に閉鎖する吸気マスクを含むことができる。吸気マスクは吸気弁座に近い特定の燃焼室の機械加工として画定され、吸気マスクはガス流を加速し、それによって燃焼室の乱流を増大させるために、吸気管の断面積を越える部分の通路を弁座で遮断することを可能にする。
【0030】
本発明の一態様によれば、ガス吸気装置は、サイアミーズ型とすることができる。言い換えれば、サイアミーズ吸気管はシリンダに向けられた1つの入口と2つの出口とを含み、各出口は吸気弁と吸気弁校正部とを含む。このサイアミーズ吸気管は、シリンダにスワンブル型の空気力学的ガス運動を生成する上述した特徴を有する2つの吸気管からなる。この型のサイアミーズ吸気装置は、2つの吸気弁を有するシリンダに適しており、サイアミーズ吸気装置は吸気プレナム(吸気プレナムは吸気管から上流の容積である)の設計を簡略化することを可能にする。
【0031】
図1は、非限定的な例として、本発明の一実施形態による吸気装置1を概略的に示す。
図1は、吸気装置1の動作の側面図である。この図には、2つの吸気管が実質的に平行であり、2つの吸気管が図の平面に垂直な方向に離れているので、1つの吸気管5だけが図示されている。吸気装置1は、吸気管5と、吸気管の弁4と、吸気弁校正部6とを含む。吸気弁4の開口部のためにガスの通路を提供する吸気弁4の端部は示されていない。吸気管5はガス入口2とガス出口3を含み、その中に吸気弁4と吸気弁4の校正部6が配置される。
【0032】
吸気装置1は、シリンダ軸に垂直な方向にシリンダ内で空気力学的ガス運動(タンブル型の空気力学的ガス運動)を生成するガスの方向転換手段をさらに含む。これらのガスの方向転換手段は、弁の校正部6に近い吸気管5の断面積の収束部8を含む。この収束部8は、弁の校正部6に近い断面積の縮小に対応する。さらに、ガスの方向転換手段は、吸気管5の下側の外形の凹部の変化を通じて吸気管5の下側の外形に設けられた傾斜路9を含む。さらに、ガスの方向転換手段は、吸気管5と校正部6との交点7への接線と方向AAによって画定される吸気管5の傾斜を含む。この図はまた、触火面の平面に属する線FFをも示す。方向AAは線FFと平行であり、方向AAは吸気管5の傾斜を画定することを可能にする。
【0033】
図2は、非限定的な例として、吸気管の内弧面(下面)の部分図を概略的に示す。
図2は触火面に垂直な面(吸気装置の動作位置)にある。左の図は、スワール型の空気力学的ガス運動を生成するガスの方向転換手段のない従来技術による管に対応する。右の図は本発明の変形例による装置に対応し、内弧面において吸気管と弁校正部の間の交差部の傾斜を有し、スワール型の空気力学的ガス運動を生成する。図示の実施形態において、(吸気)管の断面は実質的に長方形である。
これらの図において、線FFは(図示しないシリンダによって画定される)触火面の平面に属し、方向F’F’は、吸気管5と吸気弁校正部6の間の交点を通る触火面FFに平行な平面に属する線である。
左図に図示する従来技術によれば、吸気管5と吸気弁校正部6の間の交差部7は、線F’F’と合流する線分である。
【0034】
他方では、右の図に示す本発明によれば、吸気管5と吸気弁校正部6の間の交差部7は、平面F’F’に対して角度αで傾斜する軸YYの直線母線状にある線分を形成する。このゼロ以外の角度αは0度と45度の間である。この傾斜は、弁校正部と交差部の近くで、実質的に長方形の断面積を有する吸気管5の僅かな回転を生成することが右の図で分かる。
【0035】
図3は、非限定的な例として、本発明の一実施形態による吸気装置1の内弧面(下面)の部分図を概略的に示す。
図3は触火面に垂直な面(吸気装置の動作位置)にある。吸気装置1は、第1の吸気管5aと第2の吸気管5bとを含む。2つの吸気管5a、5bは実質的に平行である。校正部6aは第1の吸気管5aの端部に設けられ、校正部6bは第2の吸気管5bの端部に設けられる。
【0036】
この図において、線FFは(図示しないシリンダによって画定される)触火面の平面に属し、方向F’F’は吸気管5aおよび5bと吸気弁の校正部6aおよび6bの間の交点を通る触火面FFに平行な平面に属する線である。
【0037】
第1の吸気管5aと吸気管の校正部6aの間の交差部7aは、平面F’F’に対して角度α1で傾斜する母線YaYa上にある線分を形成する。第2の吸気管5bと吸気弁の校正部6bの間の交差部7bは平面F’F’に対して角度α2で傾斜する母線YbYb上にある線分を形成し、角度α2は厳密に言えば角度α1未満である。母線YaYaとYbYbの間の(ゼロ以外の)角度差δはδによって表示され、0度と45度の間、好ましくは0度と15度の間である。
【0038】
図4は、非限定的な例として、本発明の一実施形態による吸気装置を備えたシリンダ10の上面図を概略的に示す。排気装置はこの図に示されていない。吸気装置は、第1の吸気管5aと第2の吸気管5bとを含む。校正部6aは第1の吸気管5aの端部に設けられており、校正部6aはシリンダ10内に開口する。校正部6bは第2の吸気管5bの端部に設けられており、校正部6bはシリンダ10内に開口する。この図は、第1の吸気管5aの出口と第2の吸気管5bの出口におけるシリンダの空気力学的ガス運動を夫々矢印MaとMbで概略的に示す。第1の吸気管5aの出口における空気力学的ガス運動Maは、図の平面においてシリンダの中心O(点Oはシリンダ軸に属する)に接近し、第2の吸気管5bの出口における空気力学的ガス運動Mbはシリンダ壁に接近する。このように、第1の吸気管5aは吸気装置の内管であり、第2の吸気管5bは吸気装置の外管である。一実施形態によれば、第1の吸気管5aの角度αは、第2の吸気管5bの角度αよりも大きい。この場合、
図4は、
図3の吸気装置の上面図である。
【0039】
本発明はまた、上記の変形例または変形例の組み合わせの1つによる内燃機関エンジンのシリンダと吸気装置を含む組立体にも関する。
【0040】
さらに、本発明は少なくとも1つのシリンダを含む内燃機関エンジンに関し、各シリンダは、
シリンダにガスを供給するため、上記の変形例または変形例の組み合わせの1つによる少なくとも1つの吸気装置、
排気弁を有利に備えた排気装置であって、燃焼ガスをシリンダから排出する少なくとも1つの排気装置、
燃焼から機械的エネルギーを生成するため(クランク軸の回転によって)シリンダ内の往復直線並進運動を有するピストン、
燃焼を生成する燃料噴射手段、が備えられている。
【0041】
一実施形態によれば、燃料噴射手段は直接噴射手段とすることができ、言い換えれば、燃料噴射手段はシリンダ内に直接配置される。
あるいは、燃料噴射手段は間接噴射手段とすることができ、言い換えれば、燃料噴射手段は吸気装置内に配置される。
【0042】
本発明の実施によれば、内燃機関エンジンは火花点火エンジンである。この場合、エンジンは、ガス/燃料混合物の燃焼を生成する少なくとも1つのプラグをさらに含む。
あるいは、内燃機関エンジンは圧縮点火エンジンである。この場合、エンジンは、ガス/燃料混合物の燃焼を生成するプラグを含まない。
内燃機関エンジンは、複数のシリンダ、とりわけ3つ、4つ、5つまたは6つのシリンダを含むことができる。
好ましくは、燃焼エンジンはシリンダあたり4つの弁(2つの吸気弁および2つの排気弁)を備えたエンジンとすることができる。
【0043】
さらに、本発明は、ミラーサイクルまたはアトキンソンサイクルによる、上記の変形例または変形例の組み合わせのうちの1つによる内燃機関エンジンの使用に関する。
アトキンソンサイクルは、可変燃焼エンジンで使用される標準的な熱力学的サイクルである。
ミラーサイクルは、吸気段階中のピストンの下死点前に吸気弁の閉鎖によって特徴付けられた熱力学的サイクルである。これは、許可された装入物の冷却に加えて、作業の回収率を引き上げることを提供する。本発明による吸気装置は、スワンブル型の空気力学的ガス運動の生成のため、広い動作範囲にわたって所謂ミラーサイクルでの使用に特に適している。
【0044】
図7は、ミラーサイクルに対する透過係数Cfの関数としてのタンブル係数のグラフである。タンブル係数は、方向x(シリンダ軸に垂直な方向)における質量の中心の周りのガスの角速度のクランクシャフトの角速度に対する比として画定され、透過係数は利用可能な断面積に対して空気流が通ることを可能にする吸気管の力量に対応する。このように透過係数はシリンダ充填に関係する。図において、(従来技術による)市販されている吸気管AAは三角形で表示され、本発明による吸気装置INVは四角形で表示される。本発明による吸気装置INVは、従来技術AAからの解決策よりも、高いタンブル係数と透過係数の間のより良い折衷案を提供するように思われる。実際、同一の透過係数Cfについて、本発明による吸気管で得られるタンブル係数は、従来技術による吸気管のタンブル係数の2倍である。
【0045】
本発明による内燃機関エンジンは、道路、海、または航空輸送などの埋め込みアプリケーションの分野、または発電設備などの固定設備の分野で使用することができる。
本発明は、もちろん、一例として上述した吸気装置の実施形態に限定されず、任意の変形実施形態を包含する。
【0046】
(実施例)
本発明による方法の特徴および利点は、以下の比較例を読むことによって明らかになるであろう。
【0047】
この比較例のため、タンブル型の空気力学的ガス運動を生成する同一の手段と、スワール型の空気力学的ガス運動を生成する互いに異なる手段を持つ、夫々2つの実質的に平行な吸気管を含む2つの吸気装置を比較した。実際、第1の吸気装置は本発明によるものではないが、同一の角度αを有する2つの対称な吸気管を含み、本発明による第2の吸気装置は内管の角度α1が外管の角度α2よりも大きくなるように、互いに異なるの角度αを有する2つの非対称な吸気管を含む。比較例において、角度α1は本発明によらない実施例の角度αと同じ値を有し、角度α2はゼロである。
【0048】
図5は、クランク角度CADの関数として、各吸気型のタンブル数Tを示す。方向xのタンブル数は、(シリンダ軸に垂直な)方向xの質量の中心の周りのガスの角速度の、クランクシャフトの角速度に対する比として画定される。タンブル数は無次元数である。本発明によらない吸気装置に対する曲線はNCで示され、本発明の一実施形態による装置に対する曲線はINVで示される。下の図は、CAD範囲が600と740の間の上の図を拡大表示したものである。タンブル数の利得は、本発明によらない吸気装置に対して本発明による吸気装置において観察される。
【0049】
図6はクランク角度CADの関数として各吸気型の乱流運動エネルギーTKEを示す。乱流運動エネルギーTKEは、気団内に「取り込まれた」エネルギー量を表す。本発明によらない吸気装置に対する曲線はNCで示され、本発明の一実施形態による吸気装置に対する曲線はINVで示される。下の図は、CAD範囲が600と740の間の上の図を拡大表示したものである。乱流運動エネルギー利得は上死点の近くで観察される。これは、より良い流れのエネルギー保存と、上死点に近い圧縮の終わりにおける乱流運動エネルギーへのより良い変換を反映し、特に先進的なミラーサイクルにおける動作のためのものである。
【0050】
したがって、本発明による吸気管を使用することで、著しい燃焼効率利得が得られる。