IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メドスニクの特許一覧

特許7553476ヒ素の治療効果を増強するための金属イオンの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ヒ素の治療効果を増強するための金属イオンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/36 20060101AFI20240910BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 33/242 20190101ALI20240910BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 33/32 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K33/36
A61P35/00
A61P37/06
A61P29/00
A61P25/00
A61P35/02
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P1/04
A61P7/00
A61K33/34
A61K33/242
A61K33/26
A61K33/30
A61K33/32
A61K33/06
A61P43/00 121
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021569115
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 EP2020064189
(87)【国際公開番号】W WO2020234414
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】19305644.7
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】201910469782.6
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521507040
【氏名又は名称】メドスニク
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ リージェ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク バトゥ
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/028154(WO,A1)
【文献】特表2010-518022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患、炎症性疾患並びに多発性硬化症(MS)からなる群より選択される疾患の治療に使用するためのCu2+塩とヒ素化合物の組み合わせ医薬であって、前記ヒ素化合物及び前記Cu2+塩が順次、患者に投与され、かつ、1日投与量中のAs元素の量が0.1μmol/kgと1.6μmol/kgの間であり、1日投与量中のCu2+の量が0.05μmol/kgと2μmol/kgの間である、組み合わせ医薬。
【請求項2】
前記ヒ素化合物及び前記Cu 2+ 塩が、同じ又は異なる投与経路を通して投与される、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項3】
前記ヒ素化合物及び前記Cu 2+ 塩が、経口、静脈内、局所的に、又はエーロゾルとして、投与される、請求項1又は2に記載の組み合わせ医薬。
【請求項4】
前記ヒ素化合物が、As 、AsI 、As 、As 、As 、As 、As 、As 及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項5】
自己免疫疾患、炎症性疾患並びに多発性硬化症(MS)からなる群より選択される疾患の治療に使用するためのCu2+塩と三酸化二ヒ素の組み合わせ医薬であって、前記ヒ素化合物及び前記Cu2+塩が、同時に又は順次、患者に投与され、かつ、1日投与量中の三酸化二ヒ素の量が0.01mg/kg/日と0.10mg/kg/日の間であり、1日投与量中のCu2+の量が0.05μmol/kgと2μmol/kgの間である、組み合わせ医薬。
【請求項6】
前記三酸化二ヒ素及び前記Cu2+塩が、同じ又は異なる投与経路を通して投与される、請求項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項7】
前記三酸化二ヒ素及び前記Cu2+塩が、経口、静脈内、局所的に、又はエーロゾルとして、投与される、請求項5又は6に記載の組み合わせ医薬。
【請求項8】
1日投与量中の前記三酸化二ヒ素の量が0.01mg/kg/日と0.05mg/kg/日の間である、請求項5~7のいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項9】
前記Cu2+塩が、銅硫酸塩又は銅(ll)塩化物である、請求項1~のいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項10】
前記疾患が、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、シェーグレン症候群、関節リウマチ、クローン病、及び慢性移植片対宿主疾患(GvHD)からなる群より選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項11】
前記Cu2+塩が、さらにAu2+、Fe2+、Zn2+,Mn2+及びMg2+の群から選択されるその他の金属イオンと組み合わされる。請求項1~10のいずれか一項に記載の組み合わせ医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療分野に関し、ヒ素の治療効果が、2価の金属イオン、最も具体的にはCu2+イオンの投与によって増強できるという予想外の発見に基づくものである。
【背景技術】
【0002】
ヒ素の治療への使用及び考えられる作用機序
ヒ素化合物は、2,000年以上前から世界の多くの地域で伝統的な薬として、乾癬や梅毒、関節リウマチなどの様々な疾患の治療に広く使用されてきた。これらの薬剤の長い歴史の中で、多くの様々なヒ素製剤が開発され、使用されてきた。例えば、1%の亜ヒ酸カリウム(KAsO)を含有するファウラー液は、白血病の治療薬、さらには強壮剤として長年処方されていた。
【0003】
ヒ素化合物には、肝硬変、特発性門脈圧亢進症、膀胱がん、皮膚がんなどの副作用を伴う毒性や発がん性が顕著なものがある。しかし、ヒ素化合物のなかには、最近になって再発見され、がんなどの様々な疾患を治療するために製剤化されているものが数種ある。
【0004】
特に、三酸化二ヒ素(As、この本文では「ATO」と表記)は、最も効果的な新規抗がん剤(「抗悪性腫瘍剤」又は「細胞毒性剤」)の1つと考えられている。ATOは、「第1選択」薬、具体的には全トランス型レチノイン酸(ATRA)に抵抗性のある急性前骨髄球性白血病(APL)の治療に米国FDAによって承認されている。三酸化二ヒ素は、がん細胞がアポトーシスを経るように誘導することが示されている。
【0005】
また、三酸化二ヒ素は、自己免疫疾患などの他の疾患に対する薬剤としても知られている、又はそのような薬剤として現在研究されている。
【0006】
Bobeら(Blood, 108, 13, p3967-3975, 2006)は、全身性エリテマトーデスのモデルマウスを用いて三酸化二ヒ素の効果を調べた。Asは、若いマウスではその症候群が発症するのを予防することによって、また、老齢の動物では既に罹患した疾患がほぼ完全に回復することによって、MRL/lprマウスの生存期間を有意に延ばした。その著者らは、この化合物は、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患の治療に有用でありうる可能性があることを示唆した。
【0007】
米国特許第8,394,422号では、Chelbi-Alix及びBobeは、三酸化二ヒ素が自己免疫疾患及び/又は炎症性疾患を治療するのに使用できうることを示唆した。
【0008】
Kavianら(J Immunol. 2012;188(10):5142-9)は、マウスの強皮症様皮膚硬化性GvHDにおけるATOの使用に成功したことを報告した。
【0009】
さらに最近では、Maierら(J. Immunol. 2014 Jan 15;192(2):763-70)は、FDA承認抗がん剤である三酸化二ヒ素を含むヒ素化合物が、カスパーゼ1及び自然免疫応答(すなわちインターロイキン1β)の強力な阻害剤であり、したがって自己免疫異常の炎症性要素の治療に可能性がありうることを示した。さらに、Liらは、三酸化二ヒ素が関節リウマチ患者のTregとT17のバランスを改善し、したがって有用な免疫調節剤となる可能性があることを示した(Int. Immunopharmacology, 2019, Arsenic trioxide improves Treg and Th17 balance by modulating STAT3 in treatment-naive rheumatoid arthritis patients)。
【0010】
Asによって誘導されるAPL細胞の分化は、PML-RARα融合タンパク質のRINGフィンガー-Bボックス-コイルドコイル(RBCC)ドメインの亜鉛フィンガーのシステイン残基にAsが直接結合する結果として起こり、PML-RARα融合タンパク質のSUMO化/ユビキチン化の増強及びその後の分解をもたらし、細胞の分化が促進され、臨床的寛解を導くことがこれまでに報告されている(Zhang et al., Science. 2010;328(5975):240-3; Chen et al., Blood. 2011 Jun 16; 117(24):6425-37)。しかし、そのことは、その稀ながんにおけるヒ素の有益な作用を説明することはできても、有効性が試験された他のがん様の状態(及び現在も試験されている他のがん様状態)(clinicaltrials.govで報告されているように、2019年までにヒ素化合物を用いて100を超える臨床試験が行われる、又は行われている)おいても、自己免疫疾患や移植片対宿主病においても、明らかにヒ素の作用を説明できる一般的な現象ではなかった。
【0011】
最近観察された免疫系に対するAsの有益な作用を説明するために、新しい作用機序が提案された。実際、インビトロ(正常又は疾患のある細胞株又は初代培養物)及び生体内(自己免疫疾患のための動物モデル)ともに、数多くの種類の細胞がAsに曝されると、その主な結果の1つは、全体として仮説的ではあるが、様々なアポトーシス促進性プログラムを刺激することを通した特異的な細胞死の誘導であり、予想されるように、しばしばサイトカインレベルの低下や細胞間コミュニケーションの改変を伴う細胞部分集団(subpopulations)の変化につながることが明らかになった。
【0012】
ROS生成(興味深いことに、一般的な抗酸化剤(N-アセチルシステイン-NACなど)によって阻害されないことが時に観察されている)とともに、いくつかの酸化ストレス経路が活性化され、グルタチオン消費及び他の細胞ストレス誘導プロセスを引き起こし、特に病的に免疫活性化された細胞では細胞死が起こるというのが主要な仮説の1つであった(例えばBobe et al. 2006、上記、及びKavian et al.、上記、を参照、形質細胞様樹状細胞死を示唆)。
【0013】
ヒ素の抗腫瘍機序をさらに理解するために、Zhangら(PNAS 2015; Vol. 112, No. 49)は、ヒトプロテオームマイクロアレイを使用してヒ素結合タンパク質を同定した。360個のヒ素結合タンパク質が同定され、解糖系のタンパク質が非常に多く含まれていることが見出された。解糖系全般と、特に解糖経路の律速酵素であるヘキソキナーゼ-2が、ヒ素の抗がん作用に重要な役割を果たすことが示唆されている。
【0014】
さらに、ヒ素はPin1を標的とすることが報告されており、そのPin1は、がん及び他の疾患における重要な「ドライバー(driver)」であり、ユニークな薬物標的であるといわれている。Kozonoらは、ATO及びATRAは、臨床的に安全な投与量で、Pin1の直接的な可逆的阻害を介して、多数のがんを進行させる経路を協調的に遮断し、その結果それらの組み合わせは、乳がん及びその他と闘うための魅力的なアプローチを提供することが示唆されている(Nat Commun. 2018 Aug 9;9(1):3069)。
【0015】
しかし、Asの詳細な作用機序は完全な解明から程遠い。
【0016】
ヒ素のよくみられる有害な作用
Asは薬理学的に活性な化合物であり、高濃度又は長期間の曝露では非常に強い毒性を伴う。
【0017】
興味深いことに、急性前骨髄球性白血病の治療(FDA及びEMAの承認取得済み)、SLEの治療(フェーズ2a、中止)又はGvHDcの治療(フェーズ2、進行中)では、一般的に採用されている静脈内(IV)投与量(0.15mg/kg/日を1~2か月(時として最大5か月)の期間のIV投与)に対して可逆的な有害な作用(AE)しか示されていない。
【0018】
そのAEは、患者の健康状態を脅かす可能性のある重大なものであり、最も好ましくないのは、心臓のQT幅の一過性の増加であり、血中電解質レベルの変化及び肝臓の酵素の放出の増加を一緒に伴う可能性がある。これらのAEは注意深くモニターされ、本質的には可逆的であるが、治療の一時的中断を数日間必要とし、重要な(important)割合の患者に発生する。典型的には、厳格な包組み入れ/除外規定の下に患者を集めた際でも、約3分の1の患者がAEを発症する。
【0019】
したがって、三酸化二ヒ素や他のヒ素化合物で治療を受けている患者に投与するヒ素の量を減らして、薬理学的有効成分(API;三酸化二ヒ素又はその他のヒ素化合物)の負の効果を減らしつつ、同じレベルの好ましい生体活性を保つ必要性が残されている。
【0020】
しかし、一方では、ヒ素の効能は投与量に依存しており、通常採用されている投与量は、関連する有害な作用を最小限に抑えるように既に計算されている。一方、上記で説明したように、ヒ素剤の作用機序は部分的にしか明らかにされておらず、現時点では、観察されるいくつかの生化学的及び生理学的効果のみが、期待される治療効果を評価する上で高い価値をもつ。腫瘍学及び免疫病理学の分野で最も重要なものは、サイトカインの放出や特異的な細胞死を導く細胞ストレスプロセスを活性化する能力及びある特定の疾患に関連する特異的な免疫メカニズムを確実に妨害する能力である。
【0021】
したがって、現在、ヒ素の毒性プロファイルを呈することなく医薬品として使用されるヒ素の効能を高めることになる薬物を見出す必要がある。実際、これにより、所与の治療のために送達されるヒ素塩の量を適宜減らすことができ、前記(said)投与ヒ素塩の量を増やすことなく治療の有効性を高めることができることになる。
【0022】
ROSの生成と関連する調節抗酸化物質
この状況において本発明の発明者らは、細胞のストレスを増加できる薬物又は分子を並行して使用することによって、所与の投与量のAPIの効果を高める可能性について検討した。
【0023】
細胞のストレスは、主に活性酸素種(ROS)の増加によって媒介される。主な細胞ストレスの酸化経路はよく知られており、以下を含むステップのカスケードを伴う。
i.スーパーオキサイドラジカルの発生:O+1e -> O ・-
ii.過酸化水素の発生:O ・-+O ・-+2H -> H+O
iii.ヒドロキシルラジカルの発生:H+Fe2+ -> OH+Fe3++OH
【0024】
過酸化水素の量は、その分解を加速させるヘムペルオキシダーゼ及びグルタチオン(GSH)によるその還元を触媒するグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)によって調節される。
【0025】
ペルオキシルラジカルRO 、ヒドロペルオキシドROH、アルコキシルラジカルROなどの他のROSが存在する。
【0026】
を分解するフェントン反応(上記の反応(iii))は、典型的には遊離の2価の鉄イオンによって触媒され、OHの発生をもたらす。フェントン反応は、小胞体又は核周辺に局在するが、ミトコンドリアにも他の細胞コンパートメントにも局在しないことが認められる(Liu Q, et at. Proc Natl Acad Sci USA 2004;101:4302-7)。Hの供給源は、ミトコンドリア(スーパーオキシドディスムターゼ反応)、ペルオキシソーム(アシルCoAオキシダーゼ反応)及び老人斑のアミロイドβ(スーパーオキシドディスムターゼ様反応)でありうる。グルタチオンペルオキシダーゼ及びカタラーゼなどの細胞の抗酸化機構を逃れたHは、核周辺に局在するフェントン反応で非酵素的に変換され、RNAやDNAを損傷する物質として作用しうる可能性がある。
【発明の概要】
【0027】
本発明の発明者らは、フェントン反応の活性化を通して細胞ストレスを増加できる薬剤又は分子を並行して使用することによって、所与の投与量のヒ素化合物の効果を高める可能性を検討した。この目的のために、この反応を増加させることが知られているいくつかの元素を、よく知られている鉄塩から始めて、Zn、Mn、Mg、Cu、Auなどの他の元素を調べた。
【0028】
後述の実験のパートで説明されるように、まったく想定外で、かつ単なるフェントン反応の活性化では説明できない方法で、Cu2+イオンが、検索されたすべての特徴、すなわち、遺伝的背景の異なるマウスの細胞を用いて開発された免疫系機能の基本的で、かつ非常に重要な試験である混合リンパ球反応(MLR)において、Hの細胞による生成、アポトーシス誘導の増加、生理作用を含む、ヒ素との作用の強い相乗的な特徴を特異的に示すことを見出した。
【0029】
したがって、本発明は、Au2+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Mg2+及びこれらの混合物など、より古典的なフェントン剤を省略することなく、Cu2+からなる群から選択される金属イオンとヒ素化合物とを含む医薬品に関する。
【0030】
本発明はまた、新生物疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患及び神経変性疾患を含む様々な疾患の治療におけるCu2+塩とヒ素化合物の組み合わせの使用に関し、ヒ素化合物及びCu2+塩は同時又は逐次的に、患者に投与される。そのような併用療法では、Cu2+イオンがヒ素の治療効果を高める。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1:HL60細胞のH、GSHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のAsの効果。
図2図2:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のFeSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図3図3:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のHAuClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図4図4:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のZnSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図5図5:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のZnClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図6図6:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のMnSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図7図7:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のMnClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図8図8:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のCuSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図9図9:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のCuClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図10図10:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対するCuCl(1又は4μM)と組み合わせたAs(1μM)の効果。
図11図11:HL60細胞のGSHの生成及び細胞の生存に対する増加する濃度(0.5~4μM)のCuClと組み合わせたAs(1μM)の効果。
図12図12:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対するAsの効果。縦軸:細胞の代謝活性を測定する(かつ直接的な成長指標と考えられている)DO UptiBlue。
図13図13:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のFeSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図14図14:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のHAuClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図15A図15A:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のZnSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図15B図15B:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のびZnClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図16A図16A:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のMnSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図16B図16B:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のMnClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図17A図17A:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のCuSOの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図17B図17B:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のCuClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図18A図18A:A20細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のCuClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図18B図18B:A20細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のCuClの単独での又は1μMのAsと組み合わせたときの効果。
図19図19:A20細胞のGSHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度(0.5~4μM)のCuClと組み合わせたAs(1μM)の効果。
図20図20:HL60細胞のH、GSHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のAsIの効果。
図21図21:HL60細胞のHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のCuClの単独での又は1μMのAsIと組み合わせたときの効果。
図22図22:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対するに対するAs及びAsIの効果。
図23図23:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対する、増加する濃度のCuClの単独での又は1μMのAsIと組み合わせたときの効果。
図24A-B】図24A-B:慢性GvHDにおける皮膚異常(脱毛症)の発症に対する投与の効果。写真は、様々な実験群での脱毛症の発症を表している。A:同系(8匹のマウス)。B:同種異系(9匹のマウス-7匹の脱毛症)。
図24C-E】図24C-E:慢性GvHDにおける皮膚異常(脱毛症)の発症に対する投与の効果。写真は、様々な実験群での脱毛症の発症を表している。C:同種異系+As 2.5μg/g(9匹のマウス-3匹の脱毛症)。D:同種異系+As 2.5μg/g+CuCl 2.5μg/g(3匹のマウス-脱毛症なし)。E:同種異系+CuCl 2.5μg/g(2匹のマウス-1匹の脱毛症)。
図24F-H】図24F-H:慢性GvHDにおける皮膚異常(脱毛症)の発症に対する投与の効果。写真は、様々な実験群での脱毛症の発症を表している。F:同種異系+As 2.5μg/g+CuCl 10μg/g(2匹のマウス-脱毛症なし)。G:同種異系+CuCl 10μg/g(5匹のマウス-脱毛症なし)。H:同種異系+As 5μg/g(5匹のマウス-1匹の脱毛症)。
図25図25:GVHDが進行する間のマウスの体重に対する投与の効果。A.As(2.5μg/g又は5μg/g、図示の通り)で投与した、又はしなかった同系群及び同種異系群。B.As(2.5μg/g)及びCuCl(2.5μg/g)で投与した、又はしなかった同系群及び同種異系群。C.As(2.5μg/g)及びCuCl(10μg/g)で投与した、又はしなかった同系群及び同種異系群。
図26図26:GVHDが進行する間の血管炎(臨床的採点評価:耳の厚さ)に対する投与の効果。A.Asを2.5μg/g及び5μg/gで投与した、又はしなかった同系群及び同種異系群のマウスの耳の厚さ。B.Asを2.5μg/gで、かつCuClを2.5μg/gで投与した、又はしなかった同系群及び同種異系群のマウスの耳の厚さ。C.Asを2.5μg/gで、かつCuClを10μg/gで同系群及び同種異系群のマウスの耳の厚さ。
図27図27:肝臓に対する各投与の効果:各マウスの血液中のトランスアミナーゼレベル。A.投与に応じた同系マウス及び同種異系マウスの血清中のALAT。B.投与に応じた同系マウス及び同種異系マウスの血清中のASAT。
図28図28:GVHDが進行する間のマウスの体重に対する投与の効果。銅を0/0.2μg/g及び0.5μg/gで投与したマウス。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書で使用される場合、「治療する(treat)」、「治療(treatment)」及び「治療すること(treating)」という用語は、例えば、自己免疫疾患における症状の発生及び/若しくは重症度の軽減、並びに/又は、本発明による組成物のがん患者への投与の結果起こる生存の増加など、疾患に合併する1つ又は複数の症状のいずれかの軽減を指す。これらの用語は、一般に所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために本明細書で使用される。その効果は、疾患を完全に若しくは部分的に予防するという点で予防的あってもよい、かつ/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する有害な作用を部分的に若しくは完全に治癒するという点で治療的であってもよい。本明細書で使用される「治療」は、哺乳類における疾患のいずれの治療もカバーし、次のことを含む:疾患の素因がありうるが、まだ疾患を有すると診断されていない対象において疾患が生じるのを予防すること;疾患を抑制すること、すなわちその発症を阻止すること;又は疾患を和らげること、すなわち疾患の退行を引き起こすこと。治療薬は、疾患や外傷の発生前、発生中、又は発生後に投与することができる。患者の望ましくない臨床症状を安定させる、又は軽減する進行中の疾患の治療は、特に関心が高い。
【0033】
本明細書で使用される場合、「の少なくとも1つの症状を改善すること」という表現は、対象が治療を受けている疾患又は病態の1つ又は複数の症状を減少させることを指す。特定の実施形態では、治療対象の疾患又は病態は血液悪性腫瘍であり、改善される1つ又は複数の症状としては、脱力感、疲労、息切れ、あざができやすく出血しやすい、頻繁な感染、リンパ節の肥大、腹部の膨張又は痛み(腹部臓器の肥大による)、骨又は関節の痛み、骨折、意図されたものではない体重減少、食欲不振、寝汗、持続的な微熱、及び排尿の減少(腎機能の低下による)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」及び「prevented(予防される)」、「preventing(予防すること)」などの類似の語は、疾患や病態の発生又は再発の可能性を予防する、抑制する、又は減少させるためのアプローチを示す。また、疾患若しくは病態の発症若しくは再発を遅らせること、又は疾患若しくは病態の症状の発生や再発を遅らせることも指す。さらに、本明細書で使用される場合、「予防」及び類似の語には、疾患又は病態の発症又は再発の前に、疾患又は病態の強度、影響、症状及び/又は負担を軽減することも含まれる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「量」という用語は、臨床結果を含む有益な又は所望の予防的又は治療的な結果を達成するのに充分なヒ素+金属イオンの「有効な量(an amount effective)」又は「有効量(an effective amount)」を指す。1つの実施形態では、有効量とは、疾患、例えば、本明細書で企図されている血液悪性腫瘍又は自己免疫疾患を予防する、その1つの症状を改善する、又はそれを治療するのに充分なヒ素含有化合物及び金属イオンの量を指す。
【0036】
「予防的に有効な量」とは、所望の予防的な結果を達成するのに有効なヒ素含有化合物+金属イオンの量を指す。典型的には、しかし必ずしもそうではないが、予防的な投与量は、疾患の前又は早期の段階の対象に使用されるので、予防的に有効な量は、治療上有効な量よりも少ない。
【0037】
ヒ素含有化合物+金属イオンの「治療上有効な量」は、疾患の状態、年齢、性別、体重などの要因や、個人において所望の反応を引き起こすための薬剤(ヒ素化合物)及び共剤(金属イオン)の性質によって異なりうる。また、治療上有効な量とは、薬剤のいずれの毒性又は有害な作用を治療上の有益な効果が上回る量のことである。「治療上有効な量」という用語は、対象(例えば患者)を「治療する」のに有効である量を包含する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「含む(comprise)」又は「含む(include)」という用語は、組成物及び方法が記載されている要素を含むが、他の要素を除外しないことを意味することを意図する。「本質的にからなる(Consist essentially of)」とは、組成物及び方法を画定するために使用される場合、組み合わせに何らかの本質的な意義がある他の要素を除外することを意味するものとする。例えば、本明細書で画定されている要素から本質的になる組成物は、クレームされている発明の基本的でかつ新規な特性(単数又は複数)に重大な影響を及ぼさない他の要素を除外しないことになる。「からなる(Consist of)」とは、記載されている微量を超える他の成分や実質的な方法ステップを除外することを意味するものとする。これらの移行用語それぞれによって画定される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0039】
「約」という用語は、数値の前に使用されたとき、その数値が±10%、±5%、及び±1%など、合理的な範囲内で変動する可能性があることを示す。「約x」という表現は、「x」という値を含む。
【0040】
単数形の「a」及び「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されていない限り、複数を指し示すことを含む。したがって、例えば、「金属イオン(a metal ion)」への言及は、複数の金属イオンが含まれる。
【0041】
他の定義は以下で必要に応じて明記する。
【0042】
第1の態様によれば、本発明は、ヒ素化合物と、Cu2+、Au2+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Mg2+及びそれらの混合物のなかから選択される金属イオンを含む医薬品に関する。
【0043】
本発明による組成物の有効成分として使用できるヒ素化合物(一般的には塩)の例としては、As、AsI、As、As、As、As、As、As及びそれらの混合物が挙げられる。
【0044】
本発明の医薬品は、三酸化二ヒ素又は三ヨウ化ヒ素と、Cu2+などの上記の金属イオンを、単独又はAu2+、Fe2+、Zn2+、Mn2+及びMg2+のなかから選択される任意の他の金属イオンに組み合わせて含むことが好ましい。
【0045】
下の実施例で示されている特定の実施形態によれば、Cu2+イオンは、銅硫酸塩(CuSO)又は銅(ll)塩化物(CuCl)などの塩の形態である。
【0046】
血液がんに使用するとき、ATOの実際の投与量は0.15mg/kg/日である。後述の実験のパートで開示の結果は、ATOがCu2+と組み合わせて使用されたとき、その効果が増強されることを示している。したがって、Cu2+の存在下では、より少ない投与量のATOで、現在使用されているATO製剤と同じ治療有効性が得られるべきである。また、状況に応じて、医師は、併用において現在承認されている濃度と同じ濃度のATOをCu2+イオンと組み合わせることを選択して、ATOの治療効果を高めることもできる。
【0047】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、1日投与量が、0.01mg/kg/日と0.15mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素(0.1~1.6μmol/kgのヒ素原子に相当)を含むように製剤化される。
【0048】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、1日投与量が、0.01mg/kg/日と0.05mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含むように製剤化される。
【0049】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、1日投与量が、0.05mg/kg/日~0.10mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含むように製剤化される。
【0050】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、1日投与量が、0.10mg/kg/日と0.15mg/kg/日の三酸化二ヒ素を含むように製剤化される。
【0051】
三酸化二ヒ素と異なるヒ素化合物が本発明の枠内で使用されるとき、患者に投与されるヒ素原子の量が、三酸化二ヒ素について上で示されたのと同じになるように投与量を選択することができる。
【0052】
本発明の別の特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、1日投与量が、0.05μmol/kgと10μmol/kgの間のCu2+、好ましくは0.06μmol/kgと2μmol/kgの間のCu2+、例えば0.3μmol/kgと1.1μmol/kgの間のCu2+を含むように製剤化される。特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、1日投与量が、約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.15、0.2、0.25、0.30、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9又は10μmol/kgのCu2+を含むように製剤化される。
【0053】
当然のことながら、当業者は、1日おきに1回、3日毎に1回、さらには1週間に1回など、銅の投与の他のスキームを選択して、上記の1日投与量と同等の投与量にすることができる。
【0054】
ヒ素とCu2+などの金属イオンとの組み合わせによりヒ素の有益な効果が高まるので、ATO又は他のヒ素化合物による治療が成功したことのあるいずれの疾患も、上記の組成物による治療から有益な効果がもたらされる。さらに、ヒ素による治療が既に成功している疾患及び障害と病態生理学的な機序を共有しているが、安全性との両立が難しく、より高い投与量の有効成分が必要になるのでこれまでヒ素の有益な効果を享受できなかった疾患が、今般ヒ素とCu2+などの金属イオンとの相乗効果のある組み合わせで治療できる可能性も想定されうる。
【0055】
したがって、本発明は、上記の組成物を、以下のなかから選択された疾患を治療するのに使用することに関する。
- 新生物疾患、
- 自己免疫疾患及び
- 炎症性疾患。
【0056】
本発明はまた、新生物疾患、自己免疫疾患及び炎症性疾患からなる群より選択される疾患の治療におけるCu2+塩(例えばCuSO又はCuCl)とヒ素化合物(上記)の組み合わせの使用であって、前記ヒ素化合物及び前記Cu2+塩は、患者に同時に又は順次投与される使用に関する。
【0057】
したがって、本発明はまた、新生物疾患、自己免疫疾患及び炎症性疾患からなる群より選択される疾患を治療するためのヒ素化合物を含む組成物に使用であって、前記ヒ素化合物が、Cu2+塩又は同様の特性をもつ他の金属イオンと組み合わせて患者に投与される使用に関する。特定の実施形態によれば、ヒ素化合物を含む組成物は、Cu2+塩を含む組成物の前に投与される。特定の別の実施形態によれば、ヒ素化合物を含む組成物は、Cu2+塩を含む組成物の後に投与される。いずれの場合も、ヒ素化合物及びCu2+塩は、好ましくは12時間を超えない時間間隔で投与される。特定の別の実施形態によれば、ヒ素化合物を含む組成物及びCu2+塩を含む組成物は同時に投与される。どのような投与順序であっても、ヒ素化合物及びCu2+塩は、同じ経路又は異なる経路のいずれかで投与される。
【0058】
その態様の別のもの(another of its aspects)によれば、本発明は、上記ヒ素化合物の治療効果を増強する/高めるための、金属イオンの塩、例えばCu2+塩の使用に関する。例えば、Cu2+イオン又は同種のものは、新生物疾患、自己免疫疾患、又はより一般的には炎症性疾患などの疾患の治療に使用されるATO又は他のヒ素化合物の治療効果を増強するために用いることができる。「増強すること」とは、本明細書において、Cu2+イオン単独の投与は測定可能な効果は全くないにもかかわらず、同じ量のヒ素化合物(例えばATO)を使用して、患者がCu2+イオンも投与されたときに、ヒ素の治療効果が有意に高まることを意味する。この増強又は相乗効果は、(Hの細胞による生成及びアポトーシス誘導の有意な増加、並びに免疫系機能の非常に重要なアッセイである混合リンパ球反応(MLR)における生理作用を示す)後述の実施例1~9に示されているように少なくともインビトロで実証されている。実施例10に示されている結果は、生体内でこの相乗効果を動物モデルにおいて示している。
【0059】
別の態様によれば、本発明はまた、それを必要とする患者において、新生物疾患、自己免疫疾患、又はより一般的には炎症性疾患からなる群より選択される疾患を治療する方法であって、ヒ素化合物(上記で定義)並びにCu2+、Au2+、Fe2+、Zn2+、Mn2+、Mg2+及びそれらの混合物のなかから選択される金属イオンの有効な投与量を、前記患者に投与するステップを含む方法に関する。特定の実施形態によれば、Cu2+塩が患者に投与される。
【0060】
臨床医であれば、状況(ヒ素化合物の性質、関係する疾患、その疾患のステージ及び患者の一般的なパラメーター)に応じて、ヒ素化合物及びCu2+塩又は同種のものの投与の量及びスキームを調整するであろう。
【0061】
特定の実施形態によれば、ヒ素化合物は三酸化二ヒ素である。そのような場合、治療上有効な量は最大で0.30mg/kg/日のATO、例えば0.30、0.25、0.20又は0.15mg/kg/日のATOであり、予防的に有効な量は最大で0.15mg/kg/日のATO、例えば0.15、0.10若しくは0.05mg/kg/日のATO又はさらにより少ない0.01mg/kg/日に至るATOである。
【0062】
特定の実施形態によれば、患者は、0.01mg/kg/日と0.15mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含む1日投与量を1~80日の間投与される。
【0063】
特定の別の実施形態によれば、患者は、0.01mg/kg/日と0.05mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含む1日投与量を1~80日の間投与され、満足のいくレベルの臨床有効性を得るために必要であれば、治療を繰り返す可能性がある。
【0064】
特定の別の実施形態によれば、患者は、0.05mg/kg/日と0.10mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含む1日投与量を1~80日の間投与される。
【0065】
特定の別の実施形態によれば、患者は、0.10mg/kg/日と0.15mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含む1日投与量を1~80日の間投与される。
【0066】
本発明の別の特定の実施形態によれば、患者は、0.05μmol/kgと10μmol/kgのの間Cu2+、好ましくは0.06μmol/kgと2μmol/kgの間のCu2+、例えば0.3μmol/kgと1.1μmol/kgの間のCu2+を含む1日投与量を、その患者がヒ素化合物の投与を受ける限りにおいて投与される。特定の実施形態によれば、患者は、約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.15、0.2、0.25、0.30、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.2、2.2、2.4、2.6、2.8、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9又は10μmol/kgのCu2+を、毎日、その患者がヒ素化合物の投与を受ける限りにおいて投与される。
【0067】
例えば、Cu2+イオンは、銅硫酸塩又は銅(ll)塩化物の形態であることができる。
【0068】
すでに言及したように、ヒ素化合物及びCu2+塩は、同じ投与経路又は異なる投与経路を通して、同時に又は順次、患者に投与される。Cu2+塩は、毎日、1日おき、週に2回若しくは3回でも、又は週に1回でさえも、患者に投与することができる。
【0069】
特定の実施形態によれば、ヒ素化合物は静脈内に投与される。
【0070】
特定の別の実施形態によれば、ヒ素化合物は経口で投与される。
【0071】
特定の別の実施形態によれば、ヒ素化合物は局所的に投与される。
【0072】
特定の別の実施形態によれば、ヒ素化合物はエアロゾルとして投与される。
【0073】
特定の別の実施形態によれば、ヒ素化合物及びCu2+塩は同じ医薬組成物中に存在する。したがって、本発明は、ヒ素化合物及びCu2+塩を含む医薬組成物を対象者に投与する方法であって、前記医薬組成物を用意するステップ及び前記医薬組成物を前記対象に投与するステップを含む方法に関する。本発明はさらに、それを必要とする患者において、自己免疫疾患、より一般的には炎症性疾患、又は癌若しくは腫瘍などの新生物疾患を治療する方法であって、ヒ素化合物及びCu2+塩を含む医薬組成物の治療上有効な量を患者に投与するステップを含む方法に関する。
【0074】
新生物疾患
「新生物疾患」という用語は、本明細書において、同じ種類の組織の正常な増殖と比較して、対象の組織の細胞の病的な増殖を指すのに使用される。新生物には、浸潤性又は非浸潤性のいずれかである、良性腫瘍及び悪性腫瘍(例えば白血病又は大腸腫瘍又は前立腺がん)が含まれる。悪性新生物は、それが、より大きい程度の退形成、又は細胞の分化及び配向の喪失を示し、浸潤や転移の特性を有する点で良性新生物と異なる。
【0075】
本発明に従って治療できるがんには、固形癌及び非固形癌が含まれる。特定の実施形態によれば、がんは血液悪性腫瘍である。本発明に従って治療できる血液悪性腫瘍の例としては、急性骨髄性白血病、急性非リンパ性白血病、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、慢性骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病、急性好中球性白血病、骨髄異形成症候群、急性前骨髄球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病、骨髄増殖性腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄腫、巨細胞性骨髄腫、無症候性骨髄腫、限局性骨髄腫、多発性骨髄腫、形質細胞性骨髄腫、硬化性骨髄腫、孤立性骨髄腫、くすぶり型多発性骨髄腫、非分泌性骨髄腫、骨硬化性骨髄腫、形質細胞白血病、孤立性形質細胞腫、及び髄外性形質細胞腫が挙げられる。
【0076】
別の実施形態では、前記血液悪性腫瘍は急性前骨髄球性白血病(APL)である。1つの実施形態では、前記APLは新たに診断されたAPLである。別の実施形態では、前記APLは再発性又は難治性のAPLである。
【0077】
本発明に従って治療できる他のがんとしては、限定されないが、癌腫(例えば、扁平上皮癌、腺癌、肝細胞癌、及び腎細胞癌)、特に膀胱、腸、乳房、子宮頸部、結腸、食道、頭部、腎臓、肝臓、肺、首、卵巣、膵臓、前立腺、及び胃のもの良性及び悪性のメラノーマ;骨髄増殖性疾患;肉腫、特にユーイング肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、脂肪肉腫、筋肉腫、末梢神経上皮腫、滑膜肉腫;中枢神経系の腫瘍(例えば、神経膠腫、星細胞腫、乏突起膠腫、上衣腫、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、神経節腫、神経節膠腫、髄芽細胞腫、松果体細胞腫、髄膜腫、髄膜肉腫、神経線維腫、及びシュワン細胞腫);生殖細胞系腫瘍(例えば、腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮がん、肺がん、卵巣がん、精巣がん、甲状腺がん、星細胞腫、食道がん、膵がん、胃がん、肝がん、大腸がん、及びメラノーマ);混合型腫瘍、特に癌肉腫とホジキン病;及びウィルムス腫瘍や奇形がんなどの混合起源の腫瘍が挙げられる。
【0078】
自己免疫疾患及び炎症性疾患
自己免疫疾患は、患者の組織に由来する抗原(自己抗原と呼ばれる)に反応する抗体(自己抗体と呼ばれる)が産生されることを特徴とする免疫系の疾患、又は抗体の産生を伴うか、伴わないかにかかわらず、免疫細胞(例えば細胞傷害性細胞)が活性化されることを特徴とする疾患である。
【0079】
炎症性疾患には、二次性若しくは原発性のいずれか、又はさらにユニークな(他の免疫機序よりも優勢な)炎症プロセスを特徴とする膨大な数の疾患や状態が含まれる。
【0080】
本発明によるヒ素化合物とCu2+などの金属イオンの組み合わせを用いて治療できる自己免疫疾患及び炎症性疾患としては、限定されないが、全身性エリテマトーデス(SLE);急性播種性エリテマトーデス;ベーチェット病;若年性関節炎;フィッシャー・レロイ・ライター症候群;痛風;骨関節症;多発性筋炎;心筋炎;自己免疫性関節リウマチ(RA);全身性血管炎;インスリン依存性糖尿病(IDDM);I型糖尿病、炎症性腸疾患(IBD);セリアック病、自己免疫性甲状腺疾患;シェーグレン症候群、自己免疫性胃炎、潰瘍性大腸炎;クローン病;自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変;原発性硬化性胆管炎;皮膚自己免疫疾患;自己免疫性拡張型心筋症、多発性硬化症(MS)及び他の脱髄疾患;重症筋無力症(MG);血管炎(例えば、高安動脈炎及びウェゲナー肉芽腫症);再生不良性貧血、非腫瘍性リンパ増殖を伴う疾患;Bリンパ球性リンパ腫;シモンズ症候群;亜急性甲状腺炎及び橋本病;アジソン病;筋肉の自己免疫疾患、強直性脊椎炎、多発性硬化症などの自己免疫性神経筋疾患、小児症候群及び急性播種性脳炎を含むその多様な形態;免疫介在性神経障害;精巣の自己免疫疾患、自己免疫性卵巣疾患、自己免疫性ぶどう膜炎、バセドウ病、乾癬、強直性脊椎炎、アジソン病、橋本甲状腺炎、特発性血小板減少性紫斑病、ウェゲナー病やチャーグ・ストラウス症候群などの自己免疫性肺疾患;喘息、浸潤性肺疾患、過敏性肺疾患及びサルコイドーシスなどの免疫性肺疾患;強皮症及び多発性筋炎を含む皮膚筋炎;並びに白斑が挙げられる。
【0081】
本発明の生成物はまた、予防的又は治癒的のいずれにも、移植片対宿主病(GvHD)を治療するのに使用することができる。
【0082】
多発性硬化症
ヒ素化合物、とりわけ三酸化二ヒ素の有益な効果は、多発性硬化症に対して既に報告されている(米国特許出願公開第2018/325944号)。したがって、多発性硬化症及びその関連症候群は、本発明に従ってヒ素化合物及びCu2+などの金属イオンを組み合わせて治療することができる。
【0083】
本発明に従って治療できる特定の疾患は、急性前骨髄球性白血病、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性移植片対宿主疾患(GvHD)、多発性硬化症(MS)、シェーグレン症候群、関節リウマチ、クローン病、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性神経膠腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫及び肝がんなど、既にATOによる治療に成功しているヒトの疾患又はそれに対応する動物疾病である。上で説明したように、本発明は、これらの疾患の治療に使用したときに、ヒ素の効果を増強する手段を提供し、したがってATOの1日投与量をより少なくして使用したり、現在使用されている量と同じ投与量でより良好な治療結果を得ることを可能にする。
【0084】
本発明の他の特徴はまた、本発明の枠組みの中で行われ、その範囲を限定することなく、必要な実験的支援を提供する生物学的アッセイについての以下の説明の過程で明らかになるであろう。
【実施例
【0085】
反対を示すものが何もない限り、実施例1~9に示す実験結果は、以下の材料と方法を用いて得られた。
【0086】
a- 細胞、動物及び化学薬品
HL60細胞培養:HL-60細胞株はヒトコーカソイド前骨髄球性白血病細胞株(ATCC番号CCL-240)である。この株は、実験を通して、フラスコ(ファルコン250mL 75cm、リファレンス:353135)で、10%ウシ胎児血清(ギブコ、米国)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ギブコ、米国)、1%のシプロフロキサシン及び1%ファンギゾン(ギブコ、米国)が入ったRPMI1640+グルタマックス培養液(シグマアルドリッチ(サン-カンタン・ファラヴィエ(Saint-Quentin Fallavier)、フランス)に1mlあたり2x10細胞を保って維持した。
【0087】
A20細胞培養:A20細胞株はマウス細胞株(ATCC番号TIB-208)である。この株は、実験を通して、フラスコ(ファルコン250mL 75cm、リファレンス:353135)で、10%ウシ胎児血清(ギブコ、米国)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ギブコ、米国)、1%のシプロフロキサシン、1%ファンギゾン(ギブコ、米国)及び1%2-メルカプトエタノール(ギブコ、米国)が入ったRPMI1640+グルタマックス培養液(シグマアルドリッチ(サン-カンタン・ファラヴィエ、フランス)に1mlあたり2x10細胞を保って維持した。
【0088】
動物:8週齢の雌のBALB/cマウスと雌のC57BI6マウスをJanvier Labs(ル・ジュネスト-サン-ティスル(Le Genest-Saint-lsle)、フランス)から購入し、餌と水を自由に摂れるようにして維持した。それらの動物には国のガイドラインに従って人道的なケアを施した。それぞれの種類のマウスの脾細胞をリンパ球の混合培養(モデルMLR)で使用した。
【0089】
化学薬品:
- 最初に試験した5つの2価のカチオン、CuSO、FeSO、MnS0、ZnSO及びHAuCl(実験室グレード)は、シグマアルドリッチ(サン-カンタン・ファラヴィエ、フランス)から購入した。
- 試験した他の3つの2価のカチオン、CuCl、MnCl及びZnCl(GMPグレード)は、ChemCon(フライブルク、ドイツ)から購入した。
- 三酸化二ヒ素(Arscimed、高品質臨床バッチ(quality clinical batch)、原液1mg/ml)はMEDSENIC(ストラスブール、フランス)から入手。
【0090】
b- 統計解析
すべての定量データはグラフパッドプリズム5で1元配置分散分析と事後検定(テューキー)を用いて解析した。p値<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0091】
c- HL-60培養細胞のH の生成及びGSHの生成に対する2価の陽イオン有り又は無しでのAs の効果
培養及び処理の条件
細胞(1ウェルあたり5×10)を、96ウェル丸底プレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、37℃、5%C0のインキュベーター内で様々な実験条件で48時間インキュベートした。2枚のプレートを並行して調製し、H生成とHL-60細胞の生存をそれぞれ測定した。
【0092】
の生成の測定
48時間後、上清を除去し、同じ処理条件(培地、又はカチオン有リ若しくは無しでのAs)の細胞に、PBSに溶かした50μg/mLの2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(シグマアルドリッチ、サン-カンタン・ファラヴィエ、フランス)を1ウェルあたり50μL加えた。
【0093】
の生成を、フュージョン分光蛍光光度計(パッカード)を使用した分光蛍光光度法によって評価した。蛍光強度を、直ちに(T0時間)及び6時間のインキュベーション後(T6時間)に記録した。蛍光の励起/発光の最大値は、2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテートに関して485/530nmであった。
【0094】
GSHの生成の測定
48時間後、上清を除去し、同じ処理条件(培地、又はカチオン有リ若しくは無しでのAs)の細胞に、PBS中の50μg/mLのモノクロロビマン(シグマアルドリッチ サン-カンタン・ファラヴィエ、フランス)を1ウェルあたり50μL加えた。
【0095】
GSHの生成を、フュージョン分光蛍光光度計(パッカード)を使用した分光蛍光光度法によって評価した。蛍光強度を、直ちに(T0時間)及び6時間のインキュベーション後(T6時間)に記録した。蛍光の励起/発光の最大値は、モノクロロビマンに関して380/461nmであった。
【0096】
HL-60細胞の生存
培地を除去し、PBS中の0.5%クリスタルバイオレット及び30%エタノールで室温にて30分間細胞を染色した。PBSで2回洗浄した後、染色した細胞をメタノールに懸濁し、(Ngo et al., Reactive Oxygen Species Controls Endometriosis Progression; The American journal of pathology; 2009, 175(1):225-34にあるように)フュージョン分光蛍光光度計で550nmにおける吸光度を測定した。
【0097】
6時間で生成されるH 又はGSHの計算
細胞によるH又はGSH生成を、処理条件ごとに以下のように計算した。
【数1】
【0098】
処理の条件及び関連実験(2回のテスト)
- H又はGSHの生成及び細胞の生存:Asの範囲:0.5、1、5及び10μM
- As(1μM)有り又は無しでのHの生成:4つの濃度における5つの2価のカチオンの比較:
・シグマ:
CuSO:0.5、1、2及び4μM
FeSO:0.5、1、2及び4μM
ZnSO:6、12.5、25及び50μM
HAuCI:0.125、0.25、0.5、1μM
MnS0:0.125、0.25、0.5、1μM
・Chemcon:
CuCl:0.5、1、2及び4μM
ZnCl:6、12.5、25及び50μM
MnCl:0.125、0.25、0.5、1μM
【0099】
追加結果
- H又はGSHの生成及び細胞の生存:As濃度0.5、1、5及び10μMとCuCl濃度1及び4μMの範囲(1回の試験)
- GSHの生成及び細胞の生存:As(1μM)とCuClを0.5、1、2及び4μM(2回の試験)
【0100】
d- A20培養細胞におけるH の生成及びGSHの生成に対する2価カチオン有り又は無しでのAs の効果
培養及び処理の条件
細胞(1ウェルあたり1×10)を、96ウェル丸底プレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、37℃、5%C0
のインキュベーター内で様々な実験条件で48時間インキュベートした。2枚のプレートを並行して調製し、H生成とA20細胞の生存をそれぞれ測定した。
【0101】
の生成、GSHの生成及び細胞の生存を、H60細胞に対して上記したのと同じプロトコールを用いて測定した。
【0102】
処理の条件と関連実験:1回の試験 H - 1回の試験 GSH
- H又はGSHの生成及び細胞の生存:As(1μM)と0.5、1、2及び4μMのCuCl
【0103】
e- C57BI6 CD4T細胞のインビトロでの増殖(混合リンパ球反応における細胞の増殖)に対する2価カチオン有り又は無しでのAs
モデルは、30Gyの放射線を照射した雌C57BI6マウス及び雌BALB/cマウスの脾細胞の懸濁液から得たリンパ球の混合培養に基づいている。脾細胞を機械的に分離し、赤血球を(ACK-0.15MのNHCl+1μMのKHCO+0.1μMのNaEDTA)の低張溶解で取り除いた。
【0104】
UptiBlue生細胞計数(Viable Cell Counting)アッセイを使用して、インビトロでの細胞の増殖を定量的に測定した。C57BI6細胞(応答細胞)を、照射したBALB/細胞(刺激細胞)と1系統あたり6x10/ウェルで、96ウェル丸底プレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播いた。混合細胞の培養は、37℃で5%COのインキュベーター内で、様々な実験条件で48時間インキュベートした。
【0105】
48時間後、UptiBlue生細胞計数アッセイ(Interchim、リファレンス:UP669413)を培地に直接10μl添加し、UptiBlueとともに37℃、5%COで24時間培養した後、分光蛍光光度計(フュージョンマイクロプレートリーダー蛍光光度計、パッカード)を使用してC57細胞の増殖を測定した。
【0106】
処理の条件:2回の試験を行った(ZnCl及びMnClを除く)。
・シグマ:
CuSO:0.5、1、2及び4μM
FeSO:0.5、1、2及び4μM
ZnSO:6、12.5、25及び50μM
HAuCI:0.125、0.25、0.5、1μM
MnS0:0.125、0.25、0.5、1μM
・Chemcon:
CuCl:0.5、1、2及び4μM
ZnCl:6、12.5、25及び50μM
MnCl:0.125、0.25、0.5、1μM
【0107】
実施例1:HL60細胞のH 及びGSH産生並びに細胞の生存に対するAs の効果
HL60細胞株はヒト白血病細胞株である。白血病になると、患者は化学療法を経て白血病細胞を除去され、その後、健康な患者からの骨髄移植を受ける。いくつかの症例では、造血幹細胞移植が慢性の移植片対宿主病(GvHD)を引き起こすことがある。慢性GVHDの第一選択薬は、免疫抑制剤(シクロスポリンの併用した、又は併用なしのコルチコステロイド)をベースとし、30%前後の患者で満足な反応が得られている。標準的な治療法に三酸化二ヒ素を追加することが、慢性GvHDの抑えること及びコルチコステロイド治療法の期間を短縮することに効果的であるかどうかを評価するための第II相試験がMedsenicによって現在実施されている。その試験では、三酸化二ヒ素は0.15mg/kg/日で患者に投与されている。その試験の一つの側面は、三酸化二ヒ素が、慢性GvHDの自己免疫の特徴に対する効果にくわえて、細胞に対して細胞ストレスの誘発することを含むプロセスを通して、化学療法に抵抗して生き残っている可能性のある白血病細胞に作用できるかどうかを調べることである。
【0108】
細胞は、活性酸素種の生成を誘導することによって細胞ストレスに対応することができる。本研究において、研究者は、2価のカチオンの存在下でAs化合物/Asによって誘発される細胞ストレスが、過酸化水素(H)の生成、グルタチオンの生成(GSH)、及び細胞の生存に対する効果を観察した。
【0109】
細胞ストレスを誘発するために、HL60細胞(5×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、三酸化二ヒ素(As)をいくつかの濃度:0.1、0.5、1、5及び10μMで含む、又は含まない完全培地で48時間インキュベートした。
【0110】
Asの効果
図1は、H、GSHの生成及び細胞の生存に対する、増加する濃度のAsの効果を示す(4回の独立した試験)。
【0111】
Asの存在下でのHの生成は有意でないが、5μMで増加する(図1A)。
【0112】
Asの存在下では、0.5、1及び5μMでGSHの生成が有意に増加し、10μMで消失した(図1C)。
【0113】
1、5及び10μMでのAsの存在下では、HL-60細胞の生存は有意に減少する(それぞれp<0.05、p<0.001及びp<0.001;図1B及び図1D)。
【0114】
5及び10μMでの細胞死は、これらのAs濃度でのH及びGSH生成の減少を説明している。
【0115】
結論
HL60細胞のH生成及び細胞の生存に対するAsと金属イオンの組み合わせの効果を調べるのにAsの1μMの投与量を選択した。
【0116】
この濃度で、依然としてHの生成による生物学的効果はGSHの生成によって補われ、細胞の生存は保たれている。よって、As効果は、金属イオンによって調節することができる。
【0117】
実施例2:HL60細胞のH の生成及び細胞の生存のAs と金属イオンの組み合わせの効果
細胞ストレスを誘発するために、HL60細胞(5×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、1μMの三酸化二ヒ素(As)を含む、若しくは含まない、様々なカチオンを含む、若しくは含まない完全培地、又は培地のみで48時間培養した。提示の結果は2回の独立した実験から得た(MnCl及びZnClを除く)。カチオンは品質レベルが異なる。実験室グレードCuSO(0.5、1、2及び4μM)、FeSO(0.5、1、2及び4μM)、ZnSO(6、12.5、25及び50μM)、HAuCI(0.125、0.25、0.5、1μM)、MnSO(0.125、0.25、0.5、1μM)及びGMPグレードCuCl(0.5、1、2及び4μM)、ZnCl(6、12.5、25及び50μM)、MnCl(0.125、0.25、0.5、1μM)。
【0118】
As と金属イオンの組み合わせの効果
HL60細胞について、FeSO、HAuCl、ZnSO、ZnCl、MnSO、MnCl、CuS及びCuClを用いて、H生成及び細胞の生存に関するこれらの実験結果をそれぞれ図2~9に示す。
【0119】
統計的に有意な差は次の通り図に示される。
-対照細胞 対 Asで処理した細胞
-対照細胞 対 カチオンのみで処理した細胞
-Asで処理した細胞 対 As+カチオンで処理した細胞
【0120】
FeSO単独では、4μMでのみHの生成に有意な効果がある(試験1)、又はAs(1μM)と併用すると、4μM(試験1、p<0.001)並びに2及び4μM(試験2、それぞれp<0.01及び0.001)で有意な効果がある(図2、上のパネル)。FeSO単独及びAs(1μM)との併用では、HL60の生存に有意な効果はない(図2、下のパネル)。
【0121】
HAuCl単独ではHの生成に有意な効果はなく、この効果はAsと併用した1μMでは制限され(p<0.01、試験1)、Asと併用した0.5μMに限られる(p<0.01、試験2、図3の上のパネル)。HAuCl単独及びAs(1μM)との併用では、HL60の生存に有意な効果はない(図3、下のパネル)。
【0122】
ZnSO及びZnCl単独では、Hの生成に再現性のある効果はない(図4及び5、上のパネル)。As(1μM)と併用して、ZnSOは12.5、25及び50μMでHの生成を有意に増加させる(p<0.001、試験2のみ、図4、右側の上のパネル)。Asと併用して、ZnSO及びZnClは、細胞の生存に有意で再現性のある効果はない(図4及び5、下のパネル)。
【0123】
MnSOは、0.25、0.5及び1μMでHの生成に有意な投与量依存性があり(試験1及び2、図6、上のパネル)、Asとともに0.5及び1μMで(p<0.001、試験1及び2、図6、上のパネル)、さらにAsとともに0.25でさえ(p<0.001、試験2、図6、左側の上のパネル)さらなる効果を有する。MnSOは、Asの有無にかかわらず、細胞の生存に実質的な効果はない(図6、下のパネル)。
【0124】
MnClは、Asの有無にかかわらず、Hの生成に投与量依存的な効果があるが、その増加は1μMでのみ有意である(p<0.001、試験1、図7、上のパネル)。MnClは、Asの有無にかかわらず、細胞の生存に実質的な効果はない(図7、下のパネル)。
【0125】
CuSO及びCuCl単独では、Hの生成に有意な効果はない(図8と9、上のパネル)。試験2でのHの生成に対するCuSOの明らかな効果は、対照の値が異常に低かったことで説明することできる。CuSOとCuClはともに、試験したすべての濃度でAsの効果を増加させる(p<0.001、図8及び9、上のパネル)。CuSOとCuClは、Asの有無にかかわらず、細胞の生存に実質的な効果はないようある(図8及び9、下のパネル)。
【0126】
FIL60によるHの生成について得られた結果を表1にまとめた。
【表1】
【0127】
注:Asとそれに続く金属イオン(若しくはその逆に金属イオン+As)の順次投入又は2つの有効成分の混合物の効果を確認するためにいくつかの試験を行った。一連の試験の間に有意な差は見られなかった(データは示されていない)。
【0128】
結論
銅イオンは、単独又はAsの存在下でHL60の生存に対する効果はないが、Hの生成に対するAsの効果を投与量依存的に有意に増加させる。GMP品質グレードを有し(かつその工業的な量がすぐに入手できる)ので、CuClをさらなる分析に選んだ。
【0129】
実施例3:HL60細胞のH 及びGSHの生成並びに細胞の生存に対するAs とCuCl の組み合わせの効果
細胞ストレスを誘発するために、HL60細胞(5×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレートに播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、三酸化二ヒ素をいくつかの濃度(0.1、0.5、1、5及び10μM)で含む、又は含まない、かつCuClを1及び4μMで含む、又は含まない完全培地で48時間培養した。
【0130】
As とCuCl の組み合わせの効果:
1及び4μMの CuClは、すべての濃度でAsによって誘発されるHの生成を有意に増加させる(図10、左上のパネル)。
【0131】
1及び4μMのCuClは、主にAsの1及び5μMで、Asによって誘発されるGSHの生成を減少させた(図10、左下のパネル)。
【0132】
1及び4μMのCuClは、Asの存在下でのHL60の生存に対して、追加的な効果も保護的な効果もない(図10、右側のパネル)。
【0133】
結論
CuClは、広い範囲のAs濃度とともに1及び4μMで試験したところ、HL60の生存には追加的な効果も保護的な効果も示さないが、Hの生成には追加的な効果があり、GSHの生成には負の効果があった。
【0134】
実施例4:HL60細胞のGSHの生成及び細胞の生存に対するAs とCuCl の組み合わせの効果
細胞ストレスを誘発するために、HL60細胞(5×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレートに播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、三酸化二ヒ素を1μMで含む、又は含まない、かつCuClを0.5、1、2及び4μMで含む、又は含まない完全培地で48時間培養した。
【0135】
As (1μM)とCuCl (0.5、1、2及び4μM)を組み合わせの効果
Asは1μMでGSHの生成を有意に増加させる。試験1では、CuClはAsによって誘発されたGSHの増加を減少させるが、この効果は高濃度でのみ観察された(図11、上のパネル)。
【0136】
CuClは単独では、4つの試験濃度のいずれでも、GSHの生成に有意な効果はない(図11、上のパネル)。
【0137】
CuClは、4つの試験濃度のいずれでも、単独でもAsと組み合わせても、細胞の生存に有意な効果はない(図11、下のパネル)。
【0138】
表2は、GSHの生成に対する有意な結果を示す。
【表2】
【0139】
結論
これら結果は、HL60細胞のAs誘発酸化ストレスに対する銅の強い増強作用を裏付ける。
【0140】
実施例5:混合リンパ球反応(MLR)におけるC57BL6マウスの脾細胞の増殖に対するAs と金属イオンの組み合わせの効果
混合リンパ球反応(MLR)は、2つの同種異系の(同種であるが遺伝的に異なる)リンパ球集団間で起こる生体外細胞性免疫アッセイである。この2つのリンパ球集団を一緒にインキュベートし、生じた反応を測定する。
【0141】
ここでは、照射したBalbCマウスの脾細胞に曝露され、刺激されたC57BL6マウスの脾細胞のインビトロでの増殖に対応する自己免疫反応のモデルとしてMLRを使用する。このインビトロの技術は、同種異系の造血幹細胞の移植後の移植片対宿主病(GvHD)において生体内で起こるリンパ球反応を模倣する。
【0142】
あらかじめインビトロで照射(30Gray)したBALB/cの脾細胞と共培養したC57BL6マウスの脾細胞でインビトロ細胞増殖アッセイを行った。
【0143】
増殖アッセイでは、細胞(6×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、三酸化二ヒ素(As)1μMを含む、若しくは含まない、様々なカチオンを含む、若しくは含まない完全培地、又は培地のみで48時間インキュベートした。提示の結果は2回の独立した実験からであり、材料と方法に関するセクションで上記したように、カチオンは品質レベルが異なる。
【0144】
これらの脾細胞に対する対照、FeSO、HAuCl、Zn2+塩(ZnSO及びZnCl)、Mn2+塩(MnSO、MnCl)、Cu2+塩(CuSO、CuCl)についての実験の結果をそれぞれ図12図17に示す。
統計的に有意な差は次の通り図に示される。
-対照細胞 対 Asで処理した細胞
-対照細胞 対 カチオンのみで処理した細胞、及び
-Asで処理した細胞 対 As+カチオンで処理した細胞。
【0145】
培養条件の検証図12は増殖測定の対照(4回の独立試験):C57BL6マウスの脾臓細胞のみ及びBALB/cマウスの脾臓細胞のみは増殖しないことを示す。これに対して、混合細胞は、マイトジェン(CD3 5μg/ml/CD28 2μg/ml)の存在下で得られたものと同等のリンパ球反応と増殖を示す。三酸化二ヒ素(1μM)は、マイトジェン存在下の細胞の増殖を完全に阻害する。
【0146】
:Asとそれに続く金属イオン(若しくは反対に金属イオン+As)の順次投入又は2剤の溶液の効果を確認するためにいくつかの試験を行った。一連の試験の間に有意な差は見られなかった(データは示されていない)。
【0147】
As と金属イオンの組み合わせの効果
FeSOは、単独でもAsと併用しても、細胞の増殖に大きな効果はない(図13)。
【0148】
HAuClは単独で細胞の増殖を低下させるが、この効果はAsでは1μMに限定され、試験1のみである(p<0,001、図14)。
【0149】
ZnSOとZnClは単独で細胞の増殖を低下させるが、この効果はAsでは50μMに限定され、試験1のみである(それぞれp<0,01及びp<0,001、図15)。
【0150】
MnSO及びMnClは、単独で細胞の増殖を有意に低下させるが、この効果はAsと併用した1μMに限定され、試験1でのみである(図16)。
【0151】
CuSO及びCuClは、単独で細胞の増殖を有意に低下させ、この効果は4μM又はAsと併用した2及び4μMで有意である(p<0.001、図17)。
【0152】
表3は細胞の増殖の低下についての有意な結果を示す。
【表3】
【0153】
結論
Cu2+が混合リンパ球反応を減少させる最も効率的な金属イオンであり、塩の組成(CuSO若しくはCuCl)又は品質グレードを変えることは、標的とする効果には何ら影響しない。
【0154】
実施例6:A20細胞のH 及びGSHの生成並びの細胞の生存に対するAs とCuCl の組み合わせの効果
A20は、Balb/C AnNマウスの自然発生細網細胞新生物に由来するマウスリンパ腫細胞株である。この研究では、HL60細胞と同じようにヒ素の効果を調べるためにマウスのがん細胞株で試験を行った。実際にこの先、生体内モデルはマウスで行われるので、これらのマウス細胞に対するAsの効果をインビトロで確認する必要があった。
【0155】
細胞ストレスを誘発するために、A20細胞(1×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレートに播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、三酸化二ヒ素を1μMで含む、又は含まない、かつCuClを4つの濃度(0.5、1、2及び4μM)で含む、又は含まない完全培地で48時間インキュベートした。
【0156】
統計的に有意な差は次の通り図に示される。
-対照細胞 対 Asで処理した細胞
-対照細胞 対 カチオンのみで処理した細胞
-Asで処理した細胞 対 As+カチオンで処理した細胞
【0157】
As 及びCuCl の組み合わせの効果
Asは1μMで、Hの生成を有意に増加させ、A20の生存を低下させた(p<0.001、試験1、図18A)が、試験2ではAsのみがA20の生存を有意に低下させた(p<0.001、図18B)。
【0158】
CuCl単独では、試験した4つの濃度のいずれでも(試験1、p<0.001)及び高いほうの3つの濃度(試験2、p<0.001)でHの生成が増加した。CuCl単独では、高いほうの3つ又は2つの濃度でA20の生存が明らかに上昇した(図18)。
【0159】
試験した4つの濃度のいずれにおいても、CuClは、Hの生成に対するAsによって誘発される効果を増加させた(試験1及び2、図18、左側のパネル)。Asの存在下では、CuClは高濃度でA20の生存をわずかながらではあるが有意に増加させた(試験1:2及び4μM、試験2:4μM、図18、右側のパネル)。
【0160】
Asは1μMで、GSHの生成を有意に増加させ、A20細胞の生存を有意に低下させた(p<0.001、試験1、図19)。
【0161】
CuCl単独では、2及び4μMでGSHの生成が有意に減少し、A20細胞の生存が上昇した(試験1、図19)。Asの存在下で、CuClは高濃度でヒ素によって誘発されるGSHの生成を有意に減少させ、4μMでのみA20細胞の生存を増加させた(試験1、図19)。
【0162】
及びGSHの生成並びにA20生存に関する有意な結果を表4及び表5に示す。
【表4】
【表5】
【0163】
結論
Asの存在下で、A20細胞の生存に対する有意な効果なしに、CuClはHの生成を有意に増加させ、GSHの生成を減少させた。
【0164】
実施例7:HL60細胞のH 及びGSHの生成並びに細胞の生存に対するAsI の効果
細胞ストレスを誘発するために、HL60細胞(5×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、AsIをいくつかの濃度:0.1、0.5、1、5及び10μMで含む、又は含まない完全培地で48時間インキュベートした。
【0165】
HL60細胞に対するAsI の効果:
図20~23は、増加する濃度のAsIがH及びGSHの生成、並びに細胞の生存に及ぼす効果を示す(1回の試験)。
【0166】
AsIは、試験したすべての濃度でHの生成を有意に減少させた(p<0.001、図20A)。
【0167】
AsIは、0.1、1及び5μMでGSHの生成を有意に増加させた(それぞれp<0.01、p<0.001、p<0.001、図20B)。
【0168】
AsIは、10μMでHL60細胞の生存を有意に低下させた(p<0.001、図20C)。
【0169】
結論
の生成とHL60生存に対するCuClとの組み合わせの効果を調べるのに1μMのAsI投与量を選択した。
【0170】
実施例8:HL60細胞のH の生成及び細胞の生存に対するAsI 及びCuCl の組み合わせの効果
細胞ストレスを誘発するために、HL60細胞(5×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレートに播き、37℃、5%COのインキュベーター内で、AsIを1μMで含む、若しくは含まない、かつCuClを0.5、1、2及び4μMで含む、若しくは含まない完全培地で48時間インキュベートした。
【0171】
AsI とCuCl の組み合わせの効果
AsIは1μMで、Hの生成及び細胞の生存に対して効果がない(図21)。
【0172】
試験濃度が何であっても、CuClは、Hの生成に対するAsI(1μM)の効果を有意に増加させた(図21、左側のパネル)。CuClは、AsIの存在下で細胞の生存に効果がなかった(図21、右側のパネル)。
【0173】
結論
Asの存在下で測定されたものよりも低いようであるが、AsI(1μM)の存在下で、Hの生成に対するCuClの有意な増強効果が充分に存在する。
【0174】
実施例9:混合リンパ球反応(MLR)の間のC57BI6脾細胞の増殖性に対するAsI の効果
あらかじめインビトロで照射(30Gray)したいわゆる「刺激性」BALB/cマウスの脾細胞と共培養したC57BL6マウスの脾細胞でインビトロ細胞増殖アッセイを行った。
【0175】
増殖試験では、細胞(6×10細胞/ウェル/株)を96ウェルプレート(ファルコン、コーニング、リファレンス:353077)に播き、1μMの三酸化二ヒ素(As)若しくは1μMの三ヨウ化ヒ素(AsI)をマイトジェンの存在下で、又は0.5から4μMのCuClの増加する濃度の銅を補充した、又はしていない完全培地で48時間インキュベートした。
【0176】
細胞の増殖は、10%UptiBlue(200μLの培地に20μL)とともに24時間インキュベートした後、分光蛍光光度計によるアッセイで測定した。
【0177】
三酸化二ヒ素(As)を1μM、三ヨウ化ヒ素(AsI)を1μMで用いたときのマイトジェン存在下での細胞の増殖に対する結果を図22に示す。AsIは試験2でのみ有意に活性がある(図22及び23、右側のパネル)
【0178】
これらの実験のうち、CuClをより多く用いた、又はCuClをより少なく用いたときの三ヨウ化ヒ素(AsI)について脾細胞の結果を図23に示す。
【0179】
AsIの存在下で、CuClは1、2及び4μM(試験1)並びに4μM(試験2)で、C57BL6の脾細胞の増殖を有意に低下させた。
【0180】
結論
AsIは活性があるが、Asよりもわずかに少なく、CuClとの相乗効果も減っているようであり、これは重要な点がおそらくAsイオンの濃度であることを示唆している。
【0181】
実施例10:移植片対宿主病(GvHD)のモデルマウスにおけるAs 及びCuCl の効果
三酸化二ヒ素(As)と銅分子(CuCl)の関連性を、慢性硬化性皮膚(強皮症様皮膚)移植片対宿主病の確立されたマウスモデルで評価した(Arsenic Trioxide Prevents Murine Sclerodermatous Graft-versus-Host Disease, Kavian et al, 2012)。このモデルでは、ガンマセル線源から7.5グレイで事前に亜致死的に放射線照射したマウス(雌のBALB/cマウス-H-2d)に、免疫適合性が低いマウス(雄のB10.D2マウス-H-2b)の骨髄(1×10細胞)及び脾細胞(2×10細胞)を移植している。
【0182】
移植の7日後に、塩化銅(「銅」)を併用した、又は併用していない三酸化二ヒ素を、週に5回、5週間腹腔内に注射した。照射の対照群は、照射の有効性と移植がレシピエントマウスに成功したことを確認するために行った。同系群は、同一遺伝背景のマウスの脾細胞及び骨髄を移植した。この対照群は、慢性GvHDを発症しないはずである。週に1回、脱毛症、体重減少、下痢、血管炎などの兆候をスコア化する臨床的な評価により、疾患の進行を評価することを可能にした。
【0183】
【表6】
【0184】
当初のプロトコール:慢性GvHDに冒された臓器(皮膚、肺、肝臓……)に対する銅と三酸化二ヒ素の併用の効果を評価するために、5週間後にマウスを安楽死させるはずであった。
【0185】
プロトコールの調整:銅を投与した群のマウスが著しく減少したため、4日目の終わりに注射を中止する必要があった。その次の週の8日目から、5週間の治療が終わるまで、異なる速度で治療を再開した。その後、銅を投与しているマウスでは週に5回の代わりに週に2回のみ銅を注射し、ヒ素を単独又は銅と併用して投与したマウスは、依然とし週に5回のATO注射をした。この新しい投与条件では、銅を投与したマウスの死亡はなかった。
【0186】
マウスの数が大幅に減ったので、トランスアミナーゼ検査を行うためのマウスの採血のみをすることにし、臓器は採取しなかった。これらの実験から、少なくとも腹腔内の経路を介して投与する場合、マウスに対するその毒性作用をなくすために銅を減らす必要があることが示されている。
【0187】
【表7】
【0188】
この実験の結果を下の表8と図24~27に示す。
【0189】
【表8】
【0190】
各群のマウスの数は有意な統計をとるには不足しているが、それでも、2.5μg/gのAsとCuCl(2.5又は10μg/g)の併用投与を受けたマウスはいずれも脱毛症を生じず、2.5μg/gのAsのみを投与したマウス(33%の脱毛症)よりも良好であり、5μg/gのAsを投与したマウス(20%の脱毛症)よりもさらに良好であったことが観察することができる(図24)。このことは、銅と共投与したとき、ヒ素の効果が増強されることを裏付ける。
【0191】
マウスの体重については、投与の終了時に、同系群のマウスが他の群のマウスよりも体重が重いように感じられる場合でも、群間に明らかな差はなかった(図25)。
【0192】
同種異系群のマウスは、同系群のマウスと比較して、耳の厚さの増加(血管炎)を示す。また、同種異系群+2.5μg/gのAsでは血管炎が減少し、同種異系群+5μg/gでは同系群の値と同じ値に達するまでさらに減少したことも観察されている(図26)。
【0193】
動物の肝バランス(hepatic balance)については、血清トランスアミナーゼに関して得られた結果が一貫していない。これは、三酸化二ヒ素及び銅の腹腔内注射を繰り返したことによる毒性作用に起因する可能性があり、肝臓は、各回の注射の特定部位によって異なる量に曝され、よって有害な作用も変動する(図27)。
【0194】
実施例11:移植片対宿主病(GvHD)のモデルマウスにおける、CuCl の投与量を少なくしたときのAs 及びCuCl の効果
これらの結果を受けて、銅の細胞毒性評価を行うことにした。そこで、新しい一連のBALB/cマウスに、低投与量の銅(0.2及び0.5μg/g)を週に5回、5週間注射した。毎日、マウスを観察し、体重をモニターし、生存を追跡して、銅の毒性を評価した。
【0195】
5週間後、死亡はなく、平均体重は、PBSを投与した対照群と、0.2及び0.5μg/gの銅を投与した群との間で同程度であった。したがって、実施例10に記載のものと同じプロトコールを用いた、下記の表9に記載の条件での新たな一連の実験に向けて、0.5μg/gの投与量を選択した。
【0196】
【表9】
【0197】
残念ながら、この一連の実験は、2020年3月11日のCOVID-19危機による研究所閉鎖のため中断された。研究所が再開すれば、実験は再び始められるであろう。
以下に本発明の態様の例を非限定的に示す。
(態様1)
ヒ素化合物と、Cu 2+ 、Au 2+ 、Fe 2+ 、Zn 2+ 、Mn 2+ 、Mg 2+ 及びそれらの混合物からなる群より選択される金属イオンを含む、医薬品として使用するための組成物であって、1日投与量中のAs元素の量が0.1μmol/kgと1.6μmol/kgの間であるように製剤化されている組成物。
(態様2)
前記ヒ素化合物が、As 、AsI 、As 、As 、As 、As 、As 、As 及びそれらの混合物からなる群より選択され、好ましくは三酸化二ヒ素、三ヨウ化ヒ素又は五酸化二ヒ素である、態様1に記載の組成物。
(態様3)
前記Cu 2+ イオンが、銅硫酸塩及び銅(ll)塩化物からなる群より選択される塩の形態である、態様1又は態様2に記載の組成物。
(態様4)
1日投与量が0.01mg/kg/日と0.15mg/kg/日の間の三酸化二ヒ素を含むように製剤化されている、態様1~3のいずれか一項に記載の組成物。
(態様5)
1日投与量が、0.05μmol/kgと10μmol/kgの間のCu 2+ 、好ましくは0.06μmol/kgと2μmol/kgの間のCu 2+ 、より好ましくは0.3μmol/kgと1.1μmol/kgの間のCu 2+ を含むように製剤化されている、態様1~4のいずれか一項に記載の組成物。
(態様6)
新生物疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患並びに種々の形態の多発性硬化症(MS)及び関連症候群からなる群より選択される疾患の治療に使用するための、態様1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(態様7)
急性前骨髄球性白血病、全身性エリテマトーデス(SLE)、種々の形態の多発性硬化症(MS)及び関連症候群、シェーグレン症候群、関節リウマチ、クローン病、慢性移植片対宿主疾患(GvHD)、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性神経膠腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、並びに肝がん、乳がん及び前立腺がんからなる群より選択される疾患の治療に使用するための、態様1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(態様8)
新生物疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患並びに種々の形態の多発性硬化症(MS)及び関連症候群からなる群より選択される疾患の治療に使用するためのCu 2+ 塩とヒ素化合物の組み合わせであって、前記ヒ素化合物及び前記Cu 2+ 塩が、同時に又は順次、患者に投与される、組み合わせ。
(態様9)
新生物疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患並びに種々の形態の多発性硬化症(MS)及び関連症候群からなる群より選択される疾患の治療のためのヒ素化合物を含む組成物であって、1日投与量中のAs原子の量が0.1μmol/kgと1.6μmol/kgの間であるような1日投与量で前記ヒ素化合物がCu 2+ 塩と組み合わせて患者に投与される、組成物。
(態様10)
前記ヒ素化合物が、As 、AsI 、As 、As 、As 、As 、As 、As 及びそれらの混合物からなる群より選択され、好ましくは三酸化二ヒ素又は三ヨウ化ヒ素である態様8又は9に記載の使用のための、態様8又は9に記載の組成物。
(態様11)
前記Cu 2+ 塩が銅硫酸塩又は銅(ll)塩化物である、態様8~10のいずれか一項に記載の使用のための、態様8~10のいずれか一項に記載の組成物。
(態様12)
前記疾患が、急性前骨髄球性白血病、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、シェーグレン症候群、関節リウマチ、クローン病、慢性移植片対宿主疾患(GvHD)、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性神経膠腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫並びに肝がん、乳がん及び前立腺がんからなる群より選択される、態様8~10のいずれか一項に記載の使用のための、態様8~10のいずれか一項に記載の組成物。
(態様13)
ヒ素化合物を投与されている患者おける、新生物疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患並びに種々の形態の多発性硬化症(MS)及び関連症候群からなる群より選択される疾患の治療に使用するためのCu 2+ 塩を含む組成物であって、前記Cu 2+ 塩が前記ヒ素化合物の効果を増強する、組成物。
(態様14)
前記疾患が、急性前骨髄球性白血病、全身性エリテマトーデス(SLE)、種々の形態の多発性硬化症(MS)、シェーグレン症候群、関節リウマチ、クローン病、慢性移植片対宿主疾患(GvHD)、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性神経膠腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、並びに肝がん、乳がん及び前立腺がんからなる群より選択される態様13に記載の使用のための、態様13に記載の組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23
図24A-B】
図24C-E】
図24F-H】
図25
図26
図27
図28