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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】HCFO-1233zdの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20240910BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240910BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022070555
(22)【出願日】2022-04-22
(62)【分割の表示】P 2020164363の分割
【原出願日】2016-04-25
(65)【公開番号】P2022105072
(43)【公開日】2022-07-12
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】62/160,021
(32)【優先日】2015-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/088,599
(32)【優先日】2016-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500575824
【氏名又は名称】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Honeywell International Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ハイユー
(72)【発明者】
【氏名】トゥン,シュー・スン
(72)【発明者】
【氏名】コットレル,ステファン・エイ.
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-500882(JP,A)
【文献】特表2014-509310(JP,A)
【文献】特表2013-520421(JP,A)
【文献】特表2013-522196(JP,A)
【文献】特表2013-538809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)1,1,3,3-テトラクロロ-1-フルオロプロパン(HCFC-241fa)、1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)、1,1,3-トリクロロ-1,3-ジフルオロプロパン(HCFC-242fb)、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa)、1,3-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fb)、及びこれらの混合物からなる群から選択されるプロパン供給材料を与え、プロパン供給材料とHFを蒸気相反応器に共供給し;
(ii)蒸気相反応器内において、プロパン供給材料を、HFの存在下、及び固体触媒の存在下において、HCFO-1233zdの異性体、HCl、及び未転化の出発材料を含む生成物流を形成するのに有効な条件下で反応させ、ここで供給材料中のプロパンに対するHFのモル比が0.5:1~3:1の範囲であり;
(iii)HCl及びHFを回収又は除去し;そして
(iv)HCFO-1233zd-E異性体を単離するか、またはHCFO-1233zd-E異性体及びHCFO-1233zd-Z異性体の両方を別個に単離し、単離が生成物流を蒸留カラムで蒸留してHCFO-1233zd-E異性体を含む塔頂流およびHCFO-1233zd-Z異性体を含む塔底流を提供することを含むものである
工程を含む、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)の製造方法であって、前記触媒が、
(a)フッ素化Cr、フッ素化Al、及びフッ素化MgOからなる群から選択される1種類以上のハロゲン化金属酸化物、又は
(b)CrF、AlF、AlCl、FeCl、及びFeCl/Cからなる群から選択される1種類以上の金属ハロゲン化物
を含む、前記方法。
【請求項2】
供給材料中のプロパンが、1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)、1,1,3-トリクロロ-1,3-ジフルオロプロパン(HCFC-242fb)、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa)、1,3-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン(HCFC-24
3fb)、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒がフッ素化Crを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
HFが硫酸吸着システムを用いて硫酸に溶解されるか、または相分離によって除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
プロパン供給材料は、蒸気相反応器に導入される前に予め気化又は予め加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応温度は200℃~600℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
供給材料と触媒の接触時間は0.5秒間~120秒間である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
塔頂流および塔底流をさらに精製して、精製されたHCFO-1233zd-E異性体および精製されたHCFO-1233zd-Z異性体を得ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
プロパン供給材料がジクロロトリフルオロプロパン(HCFC-243)および1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年5月12日出願の共に係属中の米国仮特許出願62/160,021(その開示事項は参照として本明細書中に包含する)に対する国内優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、特にトランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
クロロフルオロカーボン(CFC)ベースの化学物質は、産業において、とりわけ冷媒、エアゾール噴射剤、発泡剤、及び溶媒などとして種々の異なる用途で広く用いられている。しかしながら、幾つかのCFCは地球のオゾン層を激減させると考えられている。したがって、CFCに代わるものとしてより環境に優しい代替物が導入されている。例えば、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)は、フォーム発泡剤及び溶媒のような幾つかの工業用途のために好ましい物理特性を有すると認識されており、したがってこれらの用途のためにこれまで用いられていたCFCに対する良好な代替物であると考えられている。残念なことに、HFC-245faなどの幾つかのヒドロフルオロカーボンを工業用途において使用することは、現在では地球温暖化に寄与すると考えられている。したがって、ヒドロフルオロカーボンに対するより環境に優しい代替物が現在探し求められている。
【0004】
HCFO-1233zd又は簡単に1233zdとしても知られる1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンという化合物は、発泡剤及び溶媒としての使用などの幾つかの用途においてHFC-245faに代わる候補物質である。1233zdは、異なる物理特性を有する2つの異性体を有する。2つの異性体の間の異なる特性の1つの例として、1233zd(Z)は約38℃の沸点を有し、これに対して1233zd(E)は約19℃の沸点を有する。幾つかの用途においては、純粋な1233zd(E)、純粋な1233zd(Z)、(Z)及び(E)異性体の特定のブレンド、又は1233zdの異性体
の一方又は両方と溶液の特性を制御するための他の化合物の特定のブレンドのいずれかを用いることが望ましい。例えば、幾つかの溶媒用途においては、比較的高い沸点を有することが望ましい。幾つかのかかる用途において、純粋な1233zd(Z)は、純粋な1233zd(E)又は2つの1233zd異性体の混合物のいずれかよりも望ましい物理特性(例えばより高い沸点)を有する可能性がある。
【0005】
1233zdを合成する方法は公知である。例えば、PCT公開WO-97/24307においては、1,1,1,3,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240fa)とフッ化水素(HF)との気相反応によって1233zdを生成させる方法が開示されている。しかしながら、このプロセスは1233zdを比較的低い収率で生成する。
【0006】
米国特許6,844,475においては、HCC-240faをHFと接触液相反応させて1233zdをより高い収率で生成させることが記載されている。しかしながら、フッ素化触媒の存在によって、重質副生成物、オリゴマー、及びタールの形成が促進され、これらが時間と共に反応器内に蓄積し、触媒の希釈及び触媒の失活を引き起こし、これらの副生成物を反応器から周期的に取り出すための過剰の休止時間のために生産性の損失がもたらされる可能性がある。
【0007】
米国特許8,704,017においては、HCC-24faをHFと非接触液相反応させて、重質副生成物の形成を減少させることが開示されている。しかしながら、触媒を用いない1つの欠点は、反応速度がより遅くなって、1,1,3,3-テトラクロロ-1-フルオロプロパン(HCFC-241fa)などのテトラクロロフルオロプロパン、1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)及び1,1,3-トリクロロ-1,3-ジフルオロプロパン(HCFC-242fb)などのトリクロロジフルオロプロパン、並びに1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa)及び1,3-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fb)などのジクロロトリフルオロプロパンを含む相当量の安定な過少フッ素化中間体が形成される可能性があり、これによってHCFC-1233zdのシングルパス生産性が大きく減少することである。
【0008】
米国特許9,045,386においては、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))を商業スケールで高い純度で製造する方法が記載されている。この特許公報は参照として本明細書中に包含する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】PCT公開WO-97/24307
【文献】米国特許6,844,475
【文献】米国特許8,704,017
【文献】米国特許9,045,386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に基づき、部分フッ素化中間体を目標生成物、即ちHCFO-1233zdに転化させることができる手段に対する必要性が未だ存在する。本発明はこの必要性を満足する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)の製造方法を提供する。本方法は、一般に、次の4つの工程:
(1)テトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを含む供給材料を与え;
(2)蒸気相反応器内において、供給材料を、HFの存在下、及び固体触媒の存在下において、HCFO-1233zd、HCl、及び未転化の出発材料を含む生成物流を形成するのに有効な条件下で反応させ;
(3)HCl及びHFを回収又は除去し;そして
(4)HCFO-1233zd(E)、HCFO-1233zd(Z)、又は両方を単離する;
工程を含む。
【0012】
テトラクロロフルオロプロパンの非限定的な例としては、1,1,3,3-テトラクロロ-1-フルオロプロパン(HCFC-241fa)が挙げられるが、これに限定されない。トリクロロジフルオロプロパンの非限定的な例としては、1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)及び1,1,3-トリクロロ-1,3-ジフルオロプロパン(HCFC-242fb)が挙げられるが、これらに限定されない。ジクロロトリフルオロプロパンの非限定的な例としては、1,1,-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa)及び1,3-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fb)が挙げられるが、これらに限定
されない。好ましい供給材料は、HCFC-241、HCFC-242及びHCFC-243の混合物(HCFC-242/HCFC-243)を含む。
【0013】
幾つかの態様においては、供給材料は、合計で少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも95重量%のテトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを含む。
【0014】
幾つかの態様においては、固体触媒は、バルク形態又は担持型のハロゲン化金属酸化物、バルク形態又は担持型の金属ハロゲン化物、及び炭素担持型の遷移金属の1以上であってよい。好適な触媒としては、非排他的に、ハロゲン化金属酸化物(例えば、フッ素化Cr、フッ素化Al、フッ素化MgO),金属ハロゲン化物(例えば、CrF、AlF、AlCl、FeCl、FeCl/C)、並びに炭素担持型の遷移金属(ゼロの酸化状態)、例えばFe/C、Co/C、Ni/C、及びPd/Cが挙げられる。
【0015】
而して、本発明の一態様は、次の工程:
テトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを含む供給材料を与え;
蒸気相反応器内において、供給材料を、無水HFの存在下、及び固体触媒の存在下において、HCFO-1233zd、HCl、及び未転化の出発材料を含む生成物流を形成するのに有効な条件下で反応させ;
HCl及びHFを回収又は除去し;そして
HCFO-1233zd(E)、HCFO-1233zd(Z)、又は両方を単離する;
工程を含む、クロロフルオロアルケンの製造方法を提供する。
【0016】
本発明の他の態様は、次の工程:
テトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを含む供給材料を与え;
蒸気相反応器内において、供給材料を、固体触媒の存在下において、HCFO-1233zd、HCl、及び未転化の出発材料を含む生成物流を形成するのに有効な条件下で反応させ;
HCl及びHFを回収又は除去し;そして
HCFO-1233zd(E)、HCFO-1233zd(Z)、又は両方を単離する;
工程を含む、クロロフルオロアルケンの製造方法を提供する。
【0017】
本発明の任意の特定の形態及び/又は態様に関して本明細書に記載する任意の特徴を、組合せの適合性を確保するために必要に応じて修正を加えて、本明細書に記載する本発明の任意の他の形態及び/又は態様の1以上の任意の他の特徴と組み合わせることができることは、本発明が関係する技術の当業者によって認識される。かかる組合せは、本開示によって意図される本発明の一部であるとみなされる。
【0018】
上記の概説及び下記の詳細な説明は両方とも例示及び例証のみのものであり、特許請求する発明を限定しないことを理解すべきである。他の態様は、本明細書及びそこに開示する発明の実施を考察することによって当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記に示したように、本発明は、
テトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを含む供給材料を与え;
蒸気相反応器内において、供給材料を、HFの存在下、及び固体触媒の存在下において、HCFO-1233zd、HCl、及び未転化の出発材料を含む生成物流を形成するのに有効な条件下で反応させ;そして
HCFO-1233zd(E)、HCFO-1233zd(Z)、又は両方を単離する;
ことを含む1233zdの製造方法に関する。
【0020】
幾つかの態様においては、供給材料は、合計で少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは少なくとも95重量%のテトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを含む。テトラクロロフルオロプロパンの非限定的な例としては、1,1,3,3-テトラクロロ-1-フルオロプロパン(HCFC-241fa)が挙げられるが、これに限定されない。トリクロロジフルオロプロパンの非限定的な例としては、1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)及び1,1,3-トリクロロ-1,3-ジフルオロプロパン(HCFC-242fb)が挙げられるが、これらに限定されない。ジクロロトリフルオロプロパンの非限定的な例としては、1,1,-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa)及び1,3-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fb)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
好ましい態様においては、蒸留を用いて、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1233zd(Z)、HCFC-241fa、HCFC-242fa、HCFC-242fb、HCFC-243fa、及びHCFC-243fbを含む生成物流から、テトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、及びジクロロトリフルオロプロパンを単離する。これらの中間体は、個々の化合物としてか、又は混合物として単離することができる。米国特許8,835,700において開示されているように、かかる生成物流は、液相反応器内において、HCC-240faを触媒の不存在下で無水HFと反応させることによって得ることができる。この特許は参照として本明細書中に包含する。
【0022】
テトラクロロフルオロプロパン(HCFC-241)、トリクロロジフルオロプロパン(HCFC-242)、及びジクロロトリフルオロプロパン(HCFC-243)の反応は、任意の好適な反応容器又は反応器内で行うことができるが、これは好ましくは、ニッケル、並びにハステロイ、インコネル、インコロイ、及びモネルなどのその合金、或いはフルオロポリマーでライニングされている容器のような、フッ化水素の腐食作用に対して抵抗性の材料から構成する。これらは、固体触媒を充填した単一のパイプ又は複数のチューブであってよい。(1)バルク又は担持型の金属ハロゲン化物、(2)バルク又は担持型のハロゲン化金属酸化物、及び(3)バルク又は担持型のゼロ価金属を含む3種類の触媒を用いることができる。有用な触媒としては、非排他的に、フッ素化Cr、フッ素化Al、フッ素化MgO、CrF、AlF、AlCl、FeCl、MgF、FeCl/C、並びにFe/C、Co/C、Ni/C、及びPd/Cのような炭素担持型の遷移金属(ゼロの酸化状態)が挙げられる。HCFC-242/HCFC-243供給流は、純粋形態、不純形態、又は窒素、アルゴンなどのような随意的な不活性ガス希釈剤と一緒のいずれかで反応器中に導入する。
【0023】
本発明の幾つかの態様においては、HCFC-241/HCFC-242/HCFC-243供給材料は、反応器に導入する前に予め気化又は予め加熱する。或いは、HCFC-241/HCFC-242/HCFC-243供給流は、反応器の内部で気化させる。有用な反応温度は、約200℃~約600℃の範囲であってよい。好ましい温度は約25
0℃~約450℃の範囲であってよく、より好ましい温度は約300℃~約350℃の範囲であってよい。反応は、大気圧、大気圧以上の圧力、又は真空下で行うことができる。真空圧は、約5Torr~約760Torrであってよい。HCFC-241/HCFC-242/HCFC-243供給流と触媒の接触時間は約0.5秒間~約120秒間の範囲であってよいが、より長い時間又はより短い時間を用いることができる。
【0024】
好ましい態様においては、HFを、HCFC-241/HCFC-242/HCFC-243供給流と一緒に反応器に共供給する。HFは、反応器に導入する前に予め気化又は予め加熱する。或いは、HFは反応器の内部で気化させる。本出願人らは、予期しなかったことに、HF共供給流を存在させることによって、非排他的にジクロロジフルオロプロペン(HCFO-1232の異性体)、トリクロロフルオロプロペン(HCFO-1231の異性体)、テトラクロロプロペン(HCO-1230の異性体)等などの幾つかの望ましくない副生成物の形成を大きく抑制することができることを見出した。HF/有機化合物のモル比は、0.01:1~10:1、好ましくは0.1:1~5:1、より好ましくは0.5:1~3:1の範囲であってよい。
【0025】
好ましい態様においては、プロセス流は、触媒の床を通して下向き又は上向きのいずれかである。また、触媒を、長期間の使用の後に反応器内に配置されている状態で周期的に再生することが有利である可能性もある。触媒の再生は、当該技術において公知の任意の手段によって、例えば空気又は窒素で希釈した空気を、約200℃~約500℃、好ましくは約300℃~約400℃の温度において、約0.5時間~約3日間、触媒の上に通すことによって行うことができる。この後、担持型遷移金属触媒に関しては約100℃~約400℃、好ましくは約200℃~約300℃の温度におけるH処理、或いはハロゲン化金属酸化物触媒及び金属ハロゲン化物触媒に関しては約200℃~約600℃、好ましくは約300℃~約400℃の温度におけるHF処理を行う。
【0026】
反応によって、通常はHCFO-1233zd、及びHCFO-1233zd以外の1種類以上の化合物を含む反応生成物が生成する。反応生成物は、通常は次のもの:未反応の出発材料、例えばHCFC-241の異性体、HCFC-242の異性体、及びHCFC-243の異性体、並びにHFを共供給する場合にはHF;目標生成物、例えばHCFO-1233zd;及び副生成物、例えばHCl、HF、HFO-1234ze、HFC-245fa、HCFC-244fa、HCFO-1232の異性体、HCFO-1231の異性体、HCO-1230の異性体等の混合物の形態をとる。
【0027】
原材料の転化率及びHCFO-1233zdの選択率の所望のレベルは、反応温度、圧力、及び滞留時間のような条件などの運転パラメーターによって影響を受ける可能性がある。反応は、目標生成物の形成を達成するのに十分な条件において行う。好ましい触媒を用いたHCFC-1233zdへの選択率(2つの異性体の合計)は、約50%以上、より好ましくは約70以上、最も好ましくは約90%以上である。原材料の転化率は、好ましくは約10%以上、より好ましくは約40%以上、最も好ましくは約70%以上である。
【0028】
HCFC-1233zdは、そのE及びZ異性体のいずれか又は両方として反応生成物から回収することができる。反応生成物からの化合物の回収は、当該技術において公知の任意の手段によって、例えば抽出及び好ましくは蒸留によって行うことができる。例えば、蒸留は、標準的な蒸留カラム内において、約300psig未満、好ましくは約150psig未満、最も好ましくは100psig未満の圧力で行うことができる。蒸留カラムの圧力によって、蒸留運転温度が固有に定まる。HClは、蒸留カラムを約-40℃~約25℃、好ましくは約-40℃~約-20℃で運転することによって回収することができる。HCFO-1233zdは、蒸留カラムを約-10℃~約60℃で運転することに
よって回収することができる。単一又は複数の蒸留カラムを用いることができる。所望の場合には、HCFO-1233zd(E)とHCFO-1233zd(Z)を、抽出及び蒸留のような当該技術において公知の手段によって互いから分離することができる。
【0029】
好ましい態様においては、HClを反応生成物から除去する。より好ましくは、HCFC-1233zdを反応生成物混合物から回収する前にHClを除去する。生成物流中のHClは、HClカラムを用いて回収する。高純度のHClがカラムの頂部から単離され、これを脱イオン水中に濃HClとして吸収する。或いは、HClは、水又は苛性スクラバーを用いることによって生成物流から回収又は除去することができる。水抽出装置を用いる場合には、種々の濃度のHCl水溶液が形成される。苛性スクラバーを用いる場合には、HClは水溶液中で塩化物塩として中和される。
【0030】
幾つかの態様においては、実質的にHClを含まない有機化合物/HF混合物を、この混合物からHFを除去するために硫酸抽出器または相分離器に供給する。HFは、硫酸中に溶解するか、又は有機混合物から相分離する。硫酸吸着システムを用いる態様に関しては、硫酸は、好ましくは硫酸とフッ化水素との重量比が約1:1~約10:1の範囲になるように加える。より好ましくは、この重量比は、約1:1~約8:1、最も好ましくは約2:1~約4:1の範囲である。次に、ストリッピング蒸留によって硫酸/HF混合物からHFを脱着して、フッ素化反応器に再循環して戻す。相分離器を用いる態様に関しては、好ましくは、約-20℃~約100℃、より好ましくは約-10℃~約60℃、最も好ましくは約0℃~約40℃の温度で抽出を行う。次に、HFを相分離して反応器に再循環して戻す。硫酸抽出器の塔頂又は相分離器の底層のいずれかからの有機混合物は、それを生成物の単離のための次の単位操作に送る前に、微量のHFを除去するために処理(スクラビング又は吸着)することが必要な可能性がある。
【0031】
幾つかの態様においては、異性体のHCFO-1233zd(E)及びHCFO-1233zd(Z)を2つの生成物として単離する。酸を含まない粗生成物をまず蒸留カラムに送って、それからHCFO-1233zd(E)を、HCFO-1233zd(E)よりも低い沸点を有する幾つかの軽質成分と一緒にカラムの頂部から排出し、一方で、HCFO-1233zd(Z)は、HCFO-1233zd(Z)よりも高い沸点を有する幾つかの重質成分と一緒にカラムの底部から排出する。次に、塔頂流及び塔底流を、更なる精製のための2つの別々のカラムに送って、HCFO-1233zd(E)及びHCFO-1233zd(Z)生成物を得る。
【実施例
【0032】
以下の実施例は本発明を更に説明するために与えるものであり、発明の限定と解釈すべきではない。
実施例1:
本実施例においては、5重量%のFeCl/炭素を触媒として用いた。3/4インチ×0.035インチのチューブ型インコネル625反応器を用いた。3区域に分かれた電気炉の中央部に反応器を設置した。反応器の内部の触媒床内に配置した多点式熱電対を用いてプロセス温度を記録した。2つの隣接するプローブポイントの間の距離は4インチであった。40mLの固体触媒を、その床が3つの隣接するプローブポイントの内側になるように装填した。反応器を窒素流中において所望の温度に加熱し、次に51.6GC面積%の243(2つの異性体で、243fbが主要成分であった)/47.5GC面積%の242fa供給流を、垂直に設置した反応器の底部中に供給して反応を開始した。反応流出流を、その組成に関して周期的に試験した。
【0033】
表1に示すように、蒸気相中及び液相中の1233zd(1233zd-E+1233zd-Z)のパーセントは、それぞれ約33%及び約2.5%であった。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例2:
本実施例においては、フッ素化Crを触媒として用いた。3/4インチ×0.035インチのチューブ型インコネル625反応器を用いた。3区域に分かれた電気炉の中央部に反応器を設置した。反応器の内部の触媒床内に配置した多点式熱電対を用いてプロセス温度を記録した。2つの隣接するプローブポイントの間の距離は4インチであった。20mLの固体触媒を、その床が2つの隣接するプローブポイントの内側になるように装填した。反応器を窒素流中において所望の温度に加熱し、次に51.6GC面積%の243(2つの異性体で、243fbが主要成分であった)/47.5GC面積%の242fa供給流を、垂直に設置した反応器の底部中に供給して反応を開始した。反応流出流を、その組成に関して周期的に試験した。表2に示すように、蒸気相中及び液相中の1233zd(1233zd-E+1233zd-Z)のパーセントは、それぞれ約81%及び約35%であった。
【0036】
【表2】
【0037】
実施例3:
本実施例においては、実施例2と同じフッ素化Cr触媒を用いた。3/4インチ×0.035インチのチューブ型インコネル625反応器を用いた。3区域に分かれた電気炉の中央部に反応器を設置した。反応器の内部の触媒床内に配置した多点式熱電対を用いてプロセス温度を記録した。2つの隣接するプローブポイントの間の距離は4インチであった。20mLの固体触媒を、その床が2つの隣接するプローブポイントの内側になるように装填した。反応器を窒素流中において所望の温度に加熱し、次に51.6GC面積%の243(2つの異性体で、243fbが主要成分であった)/47.5GC面積%の242fa供給流、及び無水HFを、垂直に設置した反応器の底部中に供給して反応を開始した。反応流出流を、その組成に関して周期的に試験した。
【0038】
本出願人らは、予期しなかったことに、共供給によって、生成する1230異性体の量が(HFの不存在下における約18%に対して)1%を下回る値まで大きく減少し、一方
で残留する1233zdの量はほぼ同じであったことを見出した。
【0039】
本明細書において用いる単数形の「a」、「an」、及び「the」は、記載が他に明確に示していない限りにおいて、複数のものを包含する。更に、量、濃度、又は他の値若しくはパラメーターを、範囲、好ましい範囲、又はより高い好ましい値とより低い好ましい値のリストのいずれかとして与える場合には、これは、範囲が別々に開示されているかどうかにかかわらず、任意のより高い範囲限界又は好ましい値と、任意のより低い範囲限界又は好ましい値の任意の対から形成される全ての範囲を具体的に開示すると理解すべきである。明細書において数値の範囲が示されている場合には、他に示されていない限りにおいて、この範囲はその端点及びこの範囲内の全ての整数及び小数を含むと意図される。本発明の範囲を、範囲を規定する際に示される具体的な値に限定することは意図しない。
【0040】
上記の記載は本発明の例示に過ぎないことを理解すべきである。種々の代替及び修正は、本発明から逸脱することなく当業者によって想到することができる。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲内に含まれる全てのかかる代替、修正、及び変更を包含すると意図される。
本明細書は、以下の発明の態様を包含する。
[1]
(i)テトラクロロフルオロプロパン、トリクロロジフルオロプロパン、ジクロロトリフルオロプロパン、及びこれらの混合物からなる群から選択されるプロパン供給材料を与え;
(ii)蒸気相反応器内において、プロパン供給材料を、HFの存在下、及び固体触媒の存在下において、HCFO-1233zdの異性体、HCl、及び未転化の出発材料を含む生成物流を形成するのに有効な条件下で反応させ;
(iii)HCl及びHFを回収又は除去し;そして
(iv)HCFO-1233zd-E異性体、HCFO-1233zd-Z異性体、又は両方の化合物を単離する;
工程を含む、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)の製造方法。
[2]
供給材料中のプロパンが1,1,3,3-テトラクロロ-1-フルオロプロパン(HCFC-241fa)を含む、[1]に記載の方法。
[3]
供給材料中のプロパンが1,3,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242fa)を含む、[1]に記載の方法。
[4]
供給材料中のプロパンが1,1,3-トリクロロ-1,3-ジフルオロプロパン(HCFC-242fb)を含む、[1]に記載の方法。
[5]
供給材料中のプロパンが1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fa)を含む、[1]に記載の方法。
[6]
供給材料中のプロパンが1,3-ジクロロ-1,1,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243fb)を含む、[1]に記載の方法。
[7]
触媒が、フッ素化Cr、フッ素化Al、及びフッ素化MgOからなる群から選択される1種類以上のハロゲン化金属酸化物を含む、[1]に記載の方法。
[8]
触媒が、CrF、AlF、AlCl、FeCl、及びFeCl/Cからなる群から選択される1種類以上の金属ハロゲン化物を含む、[1]に記載の方法。
[9]
触媒が、Fe/C、Co/C、Ni/C、及びPd/Cからなる群から選択される1種類以上の炭素担持型のゼロ酸化状態の遷移金属を含む、[1]に記載の方法。
[10]
供給材料中のHFとプロパンのモル比が0.01:1~10:1の範囲である、[1]に記載の方法。