(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】車両用操作ペダル装置
(51)【国際特許分類】
G05G 1/323 20080401AFI20240910BHJP
G05G 1/30 20080401ALI20240910BHJP
B60T 7/04 20060101ALI20240910BHJP
B60T 7/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G05G1/323
G05G1/30 E
B60T7/04 B
B60T7/06 A
B60T7/04 A
(21)【出願番号】P 2022092267
(22)【出願日】2022-06-07
【審査請求日】2024-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】津隈 智弘
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-231547(JP,A)
【文献】特開2017-024584(JP,A)
【文献】特開平11-198776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 1/323
G05G 1/30
B60T 7/04
B60T 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を、車体における前記車室よりも前方部分から区画する隔壁と、前記隔壁よりも後方に配置された車体構成部材とを備える車両に適用されるものであり、
前記隔壁に固定されるペダルブラケットと、
前記ペダルブラケットに回転可能に支持されたペダルアームを有する操作ペダルと
を備え、前記操作ペダルの踏力を伝達する装置の入力軸を前記ペダルアームの回転に連動して駆動する車両用操作ペダル装置において、
当接部及び押圧部を有し、かつ回転軸部により前記ペダルアームに支持されたレバーであり、前記車両の衝突に伴い、前記当接部が前記車体構成部材に当接したときに閾値以上の荷重を受けることにより、前記押圧部が前記入力軸の軸線に交差する方向へ前記入力軸を押圧するように、前記回転軸部を中心として回転する回転レバーと、
前記回転レバーが前記車体構成部材から受ける前記荷重が前記閾値未満の場合に、前記回転レバーを前記ペダルアームに固定し、かつ前記荷重が前記閾値以上の場合に破断されて前記固定を解除するシェア部とがさらに設けられ、前記入力軸は前記ペダルアームに連結されている車両用操作ペダル装置。
【請求項2】
前記押圧部は、前記車体構成部材よりも下方であり、かつ前記入力軸よりも上方に配置されている請求項1に記載の車両用操作ペダル装置。
【請求項3】
前記回転レバーは、前記回転軸部の軸線に沿う方向を自身の厚み方向とし、かつ前後方向よりも上下方向に長い板状のレバー本体部と、前記レバー本体部の前縁部及び後縁部の少なくとも一方に沿って上下方向へ延びるフランジ部とを備えている請求項1に記載の車両用操作ペダル装置。
【請求項4】
前記ペダルアームにはアーム孔が形成され、前記回転レバーには前記アーム孔よりも大径のレバー孔が形成され、
前記回転軸部は、前記レバー孔に嵌合状態で挿通された大径部と、前記アーム孔に嵌合状態で挿通され、かつ前記ペダルアームに固定された小径部と、前記レバー孔から露出する前記大径部の端部に形成され、かつ前記レバー孔よりも大径の鍔部とを備え、前記鍔部は、前記回転レバーに対し前記ペダルアームから遠ざかる側へ離間している請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用操作ペダル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操作ペダル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、ブレーキ装置、クラッチ装置等における車両用操作ペダル装置が設けられている。例えば、特許文献1には、
図20に示すように、ブレーキ装置におけるブレーキペダル装置100が記載されている。ブレーキペダル装置100は、基本構造として、ペダルブラケット101及びブレーキペダル103を備えている。ペダルブラケット101は、ダッシュパネル102に固定されている。ブレーキペダル103は、ペダルブラケット101に回転可能に支持されたブレーキアーム104を有している。そして、ブレーキペダル装置100は、ブレーキブースタ105の入力軸であるプッシュロッド106をブレーキアーム104の回転に連動して駆動することで、ブレーキブースタ105を作動させる。
【0003】
上記ブレーキペダル装置100は、さらに、車両の衝突により車体108に前方から衝撃が加わった場合に、ブレーキペダル103が後方へ移動する現象(以下「後退」という)を抑制する機構(後退抑制機構)を備えている。この後退抑制機構は、連結アーム107、回転アーム110及びリベット軸116を備えている。
【0004】
連結アーム107は、ペダルブラケット101に回転可能に支持されている。連結アーム107は、上記プッシュロッド106とブレーキアーム104とを連結している。回転アーム110は、第1連結シャフト112により連結アーム107に回転可能に支持された第1リンク111と、第2連結シャフト114により連結アーム107に回転可能に支持された第2リンク113とを備えている。第1リンク111及び第2リンク113は、第3連結シャフト115によって連結されている。リベット軸116は、第1リンク111、第2リンク113及び連結アーム107に挿通されている。
【0005】
上記ブレーキペダル装置100によれば、車両の衝突時には、ダッシュパネル102がブレーキペダル装置100を伴って後方へ移動する。第1リンク111が、ダッシュパネル102よりも後方に配置された車体構成部材であるインパネリーンフォース117に当接する。この当接により、第1リンク111がインパネリーンフォース117から閾値以上の荷重を受けると、リベット軸116が剪断等により破断される。第1リンク111及び第2リンク113は、いずれも連結アーム107に対して回転可能になる。第1リンク111の回転が第3連結シャフト115を介して第2リンク113に伝達される。第2リンク113は、連結アーム107に対し回転すると、プッシュロッド106を下方から押圧する。この押圧により、プッシュロッド106が折り曲げられると、ブレーキペダル103が前方へ移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、プッシュロッド106が連結アーム107に連結されている上記特許文献1では、連結アーム107が変形したり、プッシュロッド106の連結アーム107に対する連結が外れたりすると、車両の非衝突時に、次の問題が起こる懸念がある。それは、ブレーキペダル103を踏み込んだ場合にプッシュロッド106を押し込むことが困難となる等、安定した踏み込み操作が困難になることである。
【0008】
上記問題は、ブレーキペダル装置100に限られるものではなく、操作ペダルの踏力を伝達する装置の入力軸を駆動する車両用操作ペダル装置に共通して起こり得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための車両用操作ペダル装置は、車室を、車体における前記車室よりも前方部分から区画する隔壁と、前記隔壁よりも後方に配置された車体構成部材とを備える車両に適用されるものであり、前記隔壁に固定されるペダルブラケットと、前記ペダルブラケットに回転可能に支持されたペダルアームを有する操作ペダルとを備え、前記操作ペダルの踏力を伝達する装置の入力軸を前記ペダルアームの回転に連動して駆動する車両用操作ペダル装置において、当接部及び押圧部を有し、かつ回転軸部により前記ペダルアームに支持されたレバーであり、前記車両の衝突に伴い、前記当接部が前記車体構成部材に当接したときに閾値以上の荷重を受けることにより、前記押圧部が前記入力軸の軸線に交差する方向へ前記入力軸を押圧するように、前記回転軸部を中心として回転する回転レバーと、前記回転レバーが前記車体構成部材から受ける前記荷重が前記閾値未満の場合に、前記回転レバーを前記ペダルアームに固定し、かつ前記荷重が前記閾値以上の場合に破断されて前記固定を解除するシェア部とがさらに設けられ、前記入力軸は前記ペダルアームに連結されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態におけるブレーキペダル装置をブレーキブースタとともに示す側面図である。
【
図2】
図1におけるブレーキペダル装置の斜視図である。
【
図3】
図2におけるブレーキペダル装置を、ペダルアームの一部を省略した状態で示す部分正面図である。
【
図5】比較例を示す図であり、
図4に対応する平面図である。
【
図7】
図1の状態から操作ペダルが踏み込まれたブレーキペダル装置をブレーキブースタとともに示す部分側面図である。
【
図8】上記実施形態において、車両の衝突時に押圧部により入力軸が折り曲げられる途中のブレーキペダル装置を示す部分側面図である。
【
図9】上記実施形態において、入力軸が
図8の状態からさらに折り曲げられたブレーキペダル装置を示す部分側面図である。
【
図10】上記実施形態のブレーキペダル装置におけるレバー比を説明する部分側面図である。
【
図11】同じく、上記実施形態のブレーキペダル装置におけるレバー比を説明する部分側面図である。
【
図12】
図6に対応する図であり、回転軸部及びシェア部の変更例を示す部分断面図である。
【
図13】同じく、
図6に対応する図であり、回転軸部及びシェア部の変更例を示す部分断面図である。
【
図14】
図13の変更例の効果を説明するブレーキペダル装置の部分側面図である。
【
図15】
図6に対応する図であり、回転軸部及びシェア部の変更例を示す部分断面図である。
【
図16】同じく、
図6に対応する図であり、回転軸部及びシェア部の変更例を示す部分断面図である。
【
図17】同じく、
図6に対応する図であり、回転軸部及びシェア部の変更例を示す部分断面図である。
【
図18】回転レバーにフランジ部が形成されたブレーキペダル装置の変更例を示す側面図である。
【
図20】従来のブレーキペダル装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両用操作ペダル装置をブレーキペダル装置に具体化した一実施形態について、
図1~
図11を参照して説明する。
なお、以下の記載に関し、車両10の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両10の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両10の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0012】
図1に示すように、車両10では、車室11が隔壁としてのダッシュパネル12によって、車体15における車室11よりも前方部分、例えばエンジンルームから区画されている。ダッシュパネル12よりも後方には、車体構成部材として、インパネリーンフォース13及び衝突用ブラケット14が配置されている。インパネリーンフォース13は、車体15の補強を行うべく左右方向に延びるパイプ状の部材である。衝突用ブラケット14は、インパネリーンフォース13の前下部に固定されている。
【0013】
<ブレーキ装置20の基本構造>
車両10には、車輪(図示略)に制動力を付与するブレーキ装置20が設けられている。ブレーキ装置20は、ブレーキペダル装置21と、ブースタ装置としてのブレーキブースタ40とを備えている。
【0014】
図1~
図3に示すように、ブレーキペダル装置21は、ペダルブラケット22及び操作ペダル25を備えている。ペダルブラケット22は、ダッシュパネル12に対し、直接、又はダッシュパネル12に取り付けられた別部材に対し、固定されている。ペダルブラケット22は、互いに左右方向に離間した状態で平行に配置された一対の側板部23を備えている。両側板部23には、操作軸部24が架け渡されている。
【0015】
操作ペダル25は、ペダルアーム26及び踏部28を備えている。ペダルアーム26は、金属製の板材によって、前後方向よりも上下方向に細長い形状に形成されている。ペダルアーム26は、自身の上端部において、上記操作軸部24によってペダルブラケット22に回転可能に支持されている。踏部28は、運転者によって踏み込み操作される部分であり、ペダルアーム26の下端部に固定されている。
【0016】
図1に示すように、ブレーキブースタ40(ブースタ装置)は、操作ペダル25の踏力を伝達する装置として用いられている。ブレーキブースタ40は、操作ペダル25の踏力を低減するためのものであり、プランジャ41及び入力軸42を備えている。プランジャ41は、前後方向へ移動可能である。入力軸42は、プッシュロッド43及びクレビス44を備えている。プッシュロッド43は、前後方向に延びる軸線L1を、入力軸42の軸線として有している。プッシュロッド43は、プランジャ41に係合されたボール部43aを自身の前端部に有している。プッシュロッド43は、ボール部43aを支点としてプランジャ41に対し揺動可能である。
図4に示すように、クレビス44は、互いに左右方向に離間した状態で平行に配置された一対の側板部45と、両側板部45の前端部同士を連結する連結板部46とを備えており、平面視でU字状をなしている。両側板部45の後端部には連結ピン47が架け渡されている。連結板部46の左右方向における中央部は、プッシュロッド43の後端部に固定されている。この固定は、例えば、ボルト、ナット等の締結部材48によってなされている。この固定により、プッシュロッド43及びクレビス44が一体になっている。
【0017】
そして、
図1に示すように、ブレーキペダル装置21では、入力軸42をペダルアーム26の回転に連動して駆動する(押し込む)ことでブレーキブースタ40を作動させる。
ブレーキペダル装置21は、さらに、回転レバー51、回転軸部60及びシェア部80を有する後退抑制機構50を備えている。回転軸部60の軸線L2、及びシェア部80の軸線L3は、いずれも左右方向へ延びている。本実施形態では、ペダルアーム26として、後退抑制機構50を備えない図示しないブレーキペダル装置におけるペダルアームと同一又は同様な外形形状を有するものが用いられている。後退抑制機構50の付加のために、ペダルアームの大幅な形状変更はなされていない。
【0018】
<回転レバー51>
図2及び
図6に示すように、回転レバー51は、鉄等の金属材料からなり、かつ上記ペダルアーム26よりも板厚の小さな板材によって形成されている。回転レバー51の骨格部分は、回転軸部60の軸線L2に沿う方向である左右方向を自身の厚み方向とし、かつ前後方向よりも上下方向に長い板状のレバー本体部52によって構成されている。
図1及び
図2に示すように、レバー本体部52の上端部は、衝突用ブラケット14の上下方向における中間部と同程度の高さに位置している。レバー本体部52の前下端部は、上記操作軸部24の下方に位置している。レバー本体部52は、ペダルアーム26の厚み方向における一方、本実施形態では左方に重ねられた状態で配置されているが、右方に重ねられた状態で配置されてもよい。
【0019】
回転レバー51は、さらに当接部53及び押圧部54を有している。当接部53は、レバー本体部52の上端部の後面であって、衝突用ブラケット14の前方となる箇所に形成されている。
【0020】
図2及び
図4に示すように、押圧部54は、レバー本体部52における前下端部の前縁部から、同レバー本体部52の厚み方向におけるペダルアーム26側、ここでは右側へ突出している。押圧部54は、レバー本体部52の板厚よりも左右方向に大きな寸法で上下方向へ延びる板状をなしている。本実施形態では、押圧部54の左右方向の寸法は、クレビス44における両側板部45の間隔に近い寸法に設定されている。押圧部54は、レバー本体部52の形成に用いられる板材の前下端部を曲げることによって、同レバー本体部52に一体に形成されている。
【0021】
図1及び
図4に示すように、押圧部54は、インパネリーンフォース13及び衝突用ブラケット14よりも下方であり、かつ入力軸42よりも上方となる箇所に配置されている。また、押圧部54は、左右方向における中間部分が上記軸線L1の上方となる箇所に位置するように配置されている。
【0022】
回転レバー51は、レバー本体部52のうち、当接部53及び押圧部54とは異なる箇所である後下端部で、回転軸部60によりペダルアーム26に支持されている。
回転レバー51は、次の条件が満たされた場合に、押圧部54が連結板部46を、上記軸線L1に対し交差、本実施形態では直交する方向に押圧するように、回転軸部60を中心として回転する。その条件とは、車両10の衝突に伴い当接部53が衝突用ブラケット14に当接したときに、同衝突用ブラケット14から回転レバー51が、予め定められた閾値以上の荷重を受けることである。
【0023】
図6に示すように、回転軸部60によって回転レバー51をペダルアーム26に支持するために、ペダルアーム26において入力軸42の後方となる箇所には、アーム孔31が形成されている。レバー本体部52において入力軸42の後方となる箇所には、アーム孔31よりも孔径の大きなレバー孔55が形成されている。
【0024】
<回転軸部60>
回転軸部60は、小径部61、大径部62及び鍔部63を備えた金属製の段付きピンによって構成されている。小径部61は、アーム孔31に嵌合状態で挿通されている。小径部61のレバー本体部52から遠い側(右側)の端部は、アーム孔31から露出している。この露出した端部には、同端部をかしめることにより、小径部61よりも径方向に大きなかしめ部64が形成されている。大径部62は小径部61よりも大径状をなし、かつレバー孔55に嵌合状態で挿通されている。小径部61は、大径部62とかしめ部64とによって、ペダルアーム26を左右両側から挟み込むことで、同ペダルアーム26に固定されている。大径部62のペダルアーム26から遠い側(左側)の端部は、レバー孔55から露出している。鍔部63は、大径部62の上記端部に形成されており、レバー孔55よりも大径状をなしている。鍔部63は、レバー本体部52に対しペダルアーム26から遠ざかる側(左側)へ、隙間G1を介して離間している。回転軸部60は、車両10の衝突時に回転レバー51が衝突用ブラケット14から荷重を受けても破断されない剪断強度を有している。
【0025】
<シェア部80>
シェア部80は、一般にシェアピン(SHEAR PIN)と呼ばれるものと同様の機能を有している。より詳しくは、シェア部80は、回転レバー51が衝突用ブラケット14から受ける荷重が上記閾値未満の場合には、同回転レバー51をペダルアーム26に固定する。シェア部80は、回転レバー51が受ける荷重が上記閾値以上の場合には、破断されて、上記固定を解除する。なお、シェア部80による上記固定は、回転レバー51が回転軸部60を中心としてペダルアーム26に対し回転するのを規制する状態をいう。この固定は、回転レバー51がペダルアーム26に対し、同回転レバー51の厚み方向へ移動不能な状態だけでなく、移動可能な状態も含む。
【0026】
上記の機能をシェア部80に発揮させるために、ペダルアーム26において、アーム孔31に対し斜め前上方となる箇所には、アーム孔32がプレス加工によって形成されている。レバー本体部52において、レバー孔55に対し斜め前上方となる箇所には、アーム孔32よりも孔径の小さなレバー孔56が形成されている。
【0027】
シェア部80は、大径部81、鍔部82及び小径部83を備えた金属製の段付きピンによって構成されている。大径部81は、アーム孔32に嵌合状態で挿通されている。大径部81のレバー本体部52から遠い側(右側)の端部は、アーム孔32から露出している。鍔部82は、大径部81の上記端部に、アーム孔32よりも大径状に形成されている。
【0028】
小径部83は、大径部81よりも小径状をなし、レバー孔56に嵌合状態で挿通されている。小径部83は、回転軸部60の小径部61よりも小径に形成されている。上記径の設定により、シェア部80の剪断強度は、回転軸部60の剪断強度よりも小さくされている。小径部83のペダルアーム26から遠い側(左側)の端部は、レバー孔56から露出している。この露出した端部には、同端部をかしめることにより、小径部83よりも径方向に大きなかしめ部84が形成されている。
【0029】
ここで、車両10の衝突時にシェア部80を破断させる観点からは、シェア部80として、大径部81も小径部83と同様に小径であるストレートピンを用いることが望ましい。そのためには、アーム孔32の孔径をレバー孔56の孔径と同様に小さくすることとなる。それにもかかわらず、アーム孔32の孔径をレバー孔56の孔径よりも大きくし、段付きピンを用いたのは、次の理由による。上述したように、ペダルアーム26の板厚は、レバー本体部52の板厚よりも大きい。板厚の大きなペダルアーム26に、レバー孔56と同様に小径のアーム孔32を形成しようとすると、機械加工(下孔の形成、径出し、面取り)を行なう必要があり、形成に要するコストが高くなる。
【0030】
これに対し、プレス加工によると、機械加工によるよりも低いコストでアーム孔32を形成することが可能であり、シェア部80による回転レバー51の固定構造全体のコスト低減に繋がる。
【0031】
さらに、本実施形態では、
図1及び
図4に示すように、ブレーキブースタ40の入力軸42がペダルアーム26に連結されている。より詳しくは、ペダルアーム26の前部の一部、本実施形態では、回転軸部60(アーム孔31)の前方となる箇所には、クレビス孔27が形成されている。ペダルアーム26におけるクレビス孔27及びその周辺部分は、クレビス44の両側板部45間に配置されている。そして、上述したように、両側板部45に架け渡された連結ピン47が、上記クレビス孔27に挿通されている。プッシュロッド43は、クレビス44及び連結ピン47を介してペダルアーム26に連結されている。
【0032】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。
<車両10の非衝突時>
図1は、車両10の非衝突時に、運転者によって操作ペダル25が踏み込まれない場合のブレーキペダル装置21を示している。回転レバー51の当接部53が衝突用ブラケット14から前方に離間している。シェア部80は、回転軸部60を中心とする回転レバー51の回転方向における位置決めを行なった状態で、同回転軸部60とともに回転レバー51をペダルアーム26に固定している。押圧部54は、連結板部46から上方へ離間している。
【0033】
図7は、車両10の非衝突時に、運転者によって踏部28に踏力が加えられて操作ペダル25が踏み込み操作される際のブレーキペダル装置21を示している。上記踏み込み操作に伴い、操作ペダル25が操作軸部24を中心として前方へ回転される。この回転が連結ピン47及びクレビス44を介してプッシュロッド43に伝達される。プッシュロッド43が駆動され(前方へ押し込まれ)、ブレーキブースタ40が作動する。シェア部80は、回転軸部60とともに回転レバー51をペダルアーム26に固定している。そのため、回転レバー51は操作ペダル25と一体となって、操作軸部24の周りであって、衝突用ブラケット14から離れた箇所を移動する。押圧部54は、連結板部46から斜め後上方へ離間する。
【0034】
<車両10の衝突時>
図1の状態から、車両10の衝突により、車体15に対し前方から外力(衝撃)が加わると、ダッシュパネル12がブレーキペダル装置21を伴って後方へ移動する。ダッシュパネル12と衝突用ブラケット14との距離が縮まる。回転レバー51が当接部53において衝突用ブラケット14に当接すると、回転レバー51が衝突用ブラケット14から荷重(反力)を受ける。この荷重は、回転軸部60及びシェア部80に作用する。
【0035】
回転レバー51が衝突用ブラケット14から受けた荷重が閾値以上であると、シェア部80が剪断等により破断される(断ち切られる)。回転軸部60は破断されない。シェア部80による回転レバー51のペダルアーム26に対する固定が解除される。回転レバー51がペダルアーム26に対して、回転軸部60を中心として回転することが可能となる。
【0036】
回転レバー51が前方へ回転し、押圧部54が連結板部46に対し上方から当接する。
図8及び
図9に示すように、押圧部54が連結板部46を、プッシュロッド43の軸線L1に対し交差する方向、ここでは直交する方向である下方へ押圧する。この押圧により、入力軸42が下方へ折り曲げられる。この折り曲げにより、操作ペダル25、特に踏部28が踏み込み方向である前方へ移動する。なお、
図8及び
図9中、二点鎖線のペダルアーム26は、車両10の衝突前におけるペダルアーム26の位置を示している。このようにして、車両10の衝突時における操作ペダル25の後退が抑制される。
【0037】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)
図1に示すように、本実施形態では、ブレーキブースタ40の入力軸42がペダルアーム26に連結されている。
図20に示す特許文献1における連結アーム107に連結されているプッシュロッド106が、同連結アーム107から外れる現象は、本実施形態では起こらない。また、
図1に示すように、本実施形態では、回転レバー51がたとえ変形しても、入力軸42のペダルアーム26に対する連結状態に影響しない。そのため、本実施形態では、車両10の非衝突時には、回転レバー51の状態に拘わらず、入力軸42をペダルアーム26の回転に連動して安定して駆動する(押し込む)ことができる。車両10の非衝突時には、後退抑制機構を備えないブレーキペダル装置と同様に、操作ペダル25の踏み込み操作を安定して行なってブレーキブースタ40を作動させることができる。
【0038】
(2)車体構成部材(インパネリーンフォース13、衝突用ブラケット14)が本実施形態と同じ高さに位置していることを前提に、入力軸42を押圧部54によって下方から押すことによっても、上記(1)の効果を得ることが可能である。ただし、その場合には、押圧部54を下方から回り込ませるため、回転レバー51が複雑な形状となり大型化する。この点、本実施形態では、
図1に示すように、押圧部54が、車体構成部材(衝突用ブラケット14)よりも下方であり、かつ入力軸42よりも上方に配置されている。そのため、入力軸42をその上方から押圧部54によって押すことができ、回転レバー51を簡単な形状であり、かつ小型にすることができる。
【0039】
(3)車両10の衝突時にシェア部80が破断されることで、回転レバー51がペダルアーム26に対し回転可能になる点については上述した通りである。この状況下で、仮に、回転軸部60における鍔部63がレバー本体部52に当接していると、同鍔部63とレバー本体部52との間の摺動抵抗により、回転レバー51が回転しにくくなるおそれがある。この点、本実施形態では、
図6に示すように、大径部62とかしめ部64とによってペダルアーム26を左右両側から挟み込んで、小径部61をペダルアーム26に固定している。この状態で、鍔部63をレバー本体部52から隙間G1を介して離間させている。この隙間G1の設定により、鍔部63とレバー本体部52との間の摺動抵抗を減少させ、回転レバー51を回転しやすくすることができる。後退抑制機構50の後退抑制性能を高めることができる。
【0040】
(4)
図1~
図4に示すように、本実施形態では、押圧部54が上下方向へ延びる板状をなしている。そのため、入力軸42の折り曲げ方向である上下方向に対する押圧部54の強度を高めることができる。入力軸42の折り曲げ時に押圧部54が変形するのを抑制できる。このように、回転レバー51の形状を工夫することで、押圧部54の上下方向の強度を高めているため、同目的のために別部品を追加しなくてもすむ。
【0041】
(5)
図5に示すように、レバー本体部52の前端部であって、プッシュロッド43の軸線L1に対し平行な部分を押圧部54とすることも可能である。この場合、押圧部54の左右方向の寸法は、レバー本体部52の板厚と同一である。押圧部54の連結板部46との当接面積は小さい。入力軸42がボール部43aを支点として揺動可能であることから、押圧部54が軸線L1から左右方向へ外れた箇所で連結板部46を押圧すると、次の懸念がある。それは、連結板部46の上記箇所を押圧部54の小さな当接面で押圧すると、矢印Bで示すように、入力軸42を軸線L1の周りで回転させようとする力が発生する。押圧部54は、左右方向のバランスが崩れた状態で連結板部46を下方へ押す。表現を変えると、押圧部54の押圧力が、入力軸42を軸線L1の周りで回転させようとする力に使われる。その分、入力軸42の折り曲げに使われる押圧力が小さくなり、折り曲げ効率が低下する懸念がある。
【0042】
この点、本実施形態では、
図4に示すように、押圧部54の左右方向の寸法が、レバー本体部52の板厚よりも大きい。押圧部54の連結板部46との当接面積が
図5の比較例よりも大きい。押圧部54は、左右方向にバランスのとれた状態で連結板部46を下方へ押す。そのため、軸線L1を中心とした入力軸42の回転を抑制できる。押圧部54の押圧力が、入力軸42を軸線L1の周りで回転させようとする力に使われにくくなる。押圧部54の押圧力を、入力軸42の折り曲げに多く使うことができ、折り曲げ効率の低下を抑制できる。入力軸42の安定した折り曲げが可能となる。
【0043】
なお、回転レバー51に別部品を追加することで、連結板部46との当接面を大きくすることも可能であるが、部品点数が多くなる。本実施形態では、回転レバー51の一部である押圧部54が連結板部46との当接面を大きくしているため、別部品の追加が不要である。
【0044】
(6)
図4に示すように、本実施形態では、レバー本体部52の形成に用いられる板材の一部(前端部)を折り曲げることによって押圧部54を形成している。表現を変えると、押圧部54をレバー本体部52に一体に形成している。そのため、押圧部54を形成するための別部材が不要となる。
【0045】
(7)特許文献1では、
図20に示すように、後退抑制機構が、連結アーム107、第1リンク111、第2リンク113、第1連結シャフト112、第2連結シャフト114、第3連結シャフト115及びリベット軸116によって構成されている。後退抑制機構を構成する部品の数が多い。特に、回転のための軸(第1連結シャフト112、第2連結シャフト114)が多い。そのため、部品のコスト及び組み付けに要するコストが増加するとともに、後退抑制機構が大型になる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、
図1に示すように、後退抑制機構50が、回転レバー51、回転軸部60及びシェア部80といった少ない数の部品によって構成されている。回転のための軸は、1つ(回転軸部60のみ)である。さらに、レバー本体部52、当接部53及び押圧部54が一部品によって構成されている。そのため、部品のコスト及び組み付けに要するコストを低減できる。また、後退抑制機構50を小型にして、省スペース化を図ることができる。
【0047】
(8)後退抑制機構50では、回転軸部60及びシェア部80の少なくとも一方の位置を変更することで、車両10の衝突時に衝突用ブラケット14から当接部53に加わる荷重や、押圧部54が入力軸42を折り曲げる強度を調整することが可能である。
【0048】
ここで、
図10及び
図11に示すように、回転軸部60の軸線L2から当接部53までの距離をR1とし、同軸線L2から押圧部54の連結板部46との当接箇所までの距離をR2とし、同軸線L2からシェア部80の軸線L3までの距離をR3とする。
図10において実線で示す距離R1~R3は、本実施形態の後退抑制機構50における距離R1~R3を示している。
【0049】
距離R2に対する距離R1の割合(R1/R2)を折り曲げレバー比とする。回転軸部60の位置を変更することで、距離R1,R2の少なくとも一方を変更し、折り曲げレバー比(R1/R2)を変更することが可能である。
【0050】
折り曲げレバー比(R1/R2)を大きくすることにより、当接部53に加わる荷重を小さくすることが可能である。例えば、回転軸部60の位置を斜め前下方へ変更すると、
図10において二点鎖線で示すように、本実施形態に比べ距離R1が長くなり、距離R2が短くなる。すると、本実施形態に比べ折り曲げレバー比(R1/R2)が大きくなり、当接部53に加わる荷重が小さくなる。
【0051】
上記とは逆に、折り曲げレバー比(R1/R2)を小さくすることにより、押圧部54が入力軸42を折り曲げる量を増やすことが可能で、後退抑制効果が向上する。例えば、回転軸部60の位置を斜め後上方へ変更すると、
図11において二点鎖線で示すように、本実施形態に比べ距離R1が短くなり、距離R2が長くなる。すると、本実施形態に比べ折り曲げレバー比(R1/R2)が小さくなり、押圧部54が入力軸42を折り曲げる量が増える。
【0052】
また、
図10及び
図11に示すように、距離R3に対する距離R1の割合(R1/R3)を破断レバー比とする。回転軸部60及びシェア部80の少なくとも一方の位置を変更することで、距離R1,R3を変更し、破断レバー比(R1/R3)を変更することが可能である。
【0053】
破断レバー比(R1/R3)を大きくすることにより、当接部53に加わる荷重を小さくすることが可能である。例えば、シェア部80の位置を下方へ変更すると、
図11において破線で示すように、本実施形態に比べ距離R3が短くなる。すると、本実施形態に比べ破断レバー比(R1/R3)が大きくなり、当接部53に加わる荷重が小さくなる。
【0054】
また、
図1に示すように、本実施形態の後退抑制機構50では、回転のための軸として、回転軸部60が1つ用いられているだけである。そのため、本実施形態では、回転軸部60及びシェア部80の各位置の設計がしやすく、ひいては、車両10毎に後退抑制機構50に要求される後退抑制性能の目標値を達成するための最適な設定がしやすい。また、後退抑制機構50の各部の作動が複雑になりにくい。
【0055】
なお、
図20に示す特許文献1の後退抑制機構でも、本実施形態と同様なレバー比の設計を行なうことが可能である。ただし、特許文献1の後退抑制機構では、回転のための軸として、複数の部材(第1連結シャフト112、第2連結シャフト114)が用いられている。そのため、複雑な設計が要求され、設計がしづらい。また、後退抑制機構の各部の作動が複雑になる。
【0056】
(9)
図1及び
図6に示すように、本実施形態のペダルアーム26は、後退抑制機構50を備えない図示しないブレーキペダル装置におけるペダルアームと同一又は同様な外形形状を有している。アーム孔31,32の形成のために、ペダルアームの形状を大幅に変更していない。そのため、後退抑制機構50の付加に伴うペダルアーム26の大型化を抑制できる。
【0057】
これに対し、
図20に示すように、特許文献1では、ブレーキアーム104と、同ブレーキアーム104に連結された連結アーム107とが、本実施形態におけるペダルアーム26に相当する。また、特許文献1に記載されたブレーキペダル装置100が、仮に、後退抑制機構を備えない場合には、連結アーム107は、
図20中、二点鎖線で示すような形状となる。第1連結シャフト112、第2連結シャフト114及びリベット軸116がそれぞれ挿通される部分を形成するためには、連結アーム107を
図20において実線で示すように上方へ拡張せざるを得ない。本実施形態のペダルアーム26に相当する部分であるブレーキアーム104及び連結アーム107のうち、連結アーム107が大型化する。
【0058】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
<回転レバー51について>
・
図18及び
図19に示すように、レバー本体部52が前後方向よりも上下方向に長い板状をなしている場合、レバー本体部52の後縁部に沿って上下方向へ延びるフランジ部57が形成されてもよい。フランジ部57は、レバー本体部52の形成に用いられる板材を、厚み方向における一方側、
図18及び
図19では、左側へ折り曲げることによって形成されている。フランジ部57の形成により、回転レバー51の剛性を高めることができる。このようにすると、回転レバー51が衝突用ブラケット14から大きな荷重を受けても、同回転レバー51が変形したり、左右方向へ傾いたりするのを抑制できる。また、押圧部54によって入力軸42を折り曲げるときに、その入力軸42から受ける反力によって回転レバー51が変形するのを抑制できる。また、レバー本体部52の剛性を高めるために別部品を追加しなくてすみ、回転レバー51のコスト低減を図ることができる。
【0060】
なお、フランジ部57は、レバー本体部52の後縁部に代え、又は加え、前縁部に沿って上下方向へ延びるように形成されてもよい。また、フランジ部57がレバー本体部52とは別部材によって構成されてもよい。
【0061】
・
図5に示すように、レバー本体部52の一部であって、プッシュロッド43の軸線L1に対し平行な部分が押圧部54とされてもよい。また、押圧部54がレバー本体部52から左方又は右方へ突出する場合、同押圧部54の左右方向の寸法が、上記実施形態よりも大きく、又は小さく変更されてもよい。
【0062】
・押圧部54がクレビス44を押圧する箇所が、連結板部46とは異なる箇所に変更されてもよい。また、押圧部54が入力軸42を押圧する箇所が、クレビス44とは異なる箇所に変更されてもよい。
【0063】
・当接部53及び押圧部54の少なくとも一方が、レバー本体部52とは別部材によって構成されてもよい。
・押圧部54は、入力軸42を、軸線L1に対し斜めに交差する方向に押圧してもよい。
【0064】
<回転軸部60及びシェア部80について>
図12~
図17に示すように、回転軸部60及びシェア部80が、上記実施形態とは異なる構成を有するものに変更されてもよい。
【0065】
・
図12に示す変更例では、アーム孔31とレバー孔55とが互いに同一の孔径となるように形成されている。回転軸部60として、アーム孔31及びレバー孔55に嵌合状態で挿通され、かつ径の均一な軸部65と、鍔部66とを備える金属製のストレートピンが用いられてもよい。この場合、軸部65のペダルアーム26から遠い側(左側)の端部は、レバー孔55から露出している。鍔部66は、この露出した端部に形成され、レバー孔55よりも大径状をなしている。軸部65のレバー本体部52から遠い側(右側)の端部は、アーム孔31から露出している。この露出した端部には、同端部をかしめることにより、軸部65よりも径方向に大きなかしめ部67が形成されている。
【0066】
回転軸部60は、上記実施形態と同様に、車両10の非衝突時には、シェア部80とともに回転レバー51をペダルアーム26に固定し、衝突時には回転レバー51の回転中心として機能する。この点は、
図13~
図17の各変更例における回転軸部60についても同様である。
【0067】
・
図12に示す変更例では、アーム孔32とレバー孔56とが互いに同一の孔径を有するように形成されている。シェア部80として、アーム孔32及びレバー孔56に嵌合状態で挿通され、かつ径の均一な軸部85と、鍔部86とを備える金属製のストレートピンが用いられてもよい。この場合、軸部85のペダルアーム26から遠い側(左側)の端部は、レバー孔56から露出している。鍔部86は、この露出した端部に形成され、レバー孔56よりも大径状をなしている。軸部85のレバー本体部52から遠い側(右側)の端部は、アーム孔32から露出している。この露出した端部には、同端部をかしめることにより、軸部85よりも径方向に大きなかしめ部87が形成されている。
【0068】
シェア部80は、上記実施形態と同様、車両10の非衝突時には、回転軸部60を中心とする回転レバー51の回転方向における位置決めを行なった状態で、同回転軸部60とともに回転レバー51をペダルアーム26に固定する。この点は、
図13~
図15の各変更例についても同様である。
【0069】
・
図13に示すように、回転軸部60が、頭部68a及び軸部68bを備えるボルト68と、ナット69との組み合わせによって構成されてもよい。この場合、アーム孔31とレバー孔55とが互いに同一の孔径を有するように形成されている。軸部68bがアーム孔31及びレバー孔55に挿通されている。頭部68aは、ペダルアーム26に対し、レバー本体部52とは反対側(右側)に配置されてもよいし、レバー本体部52に対しペダルアーム26とは反対側(左側)に配置されてもよい。そして、ナット69は、軸部68bの頭部68aとは反対側の端部に締め付けられている。
【0070】
この変更例の回転軸部60では、ボルト68の頭部68aとナット69との間隔を変更可能である。そのため、回転軸部60は、板厚の異なる複数種類のペダルアーム26が用いられた場合にも、それぞれのペダルアーム26に適用可能である。ボルト68及びナット69の締結によって、板厚の相違を吸収でき、製造コストを低減できる。
【0071】
また、次の効果を期待できる。これは、
図14に示すように、ナット69の緩む回転方向と、後退抑制機構50の作動時に回転レバー51が回転する方向とが同一であることによる。そのため、後退抑制機構50の作動時に回転レバー51が、ナット69を緩める工具として機能する。すなわち、回転レバー51が
図14において矢印Cで示すように、前方へ回転することにより、ナット69が緩む。ボルト68及びナット69による締結力が低下し、回転レバー51が前方へ回転しやすくなる。後退抑制機構50の後退抑制性能を高めることが可能となる。
【0072】
なお、ボルト68及びナット69の組み合わせからなる回転軸部60は、
図15~
図17の各変更例における回転軸部60としても用いられている。
・
図13に示すように、シェア部80が、同
図13における回転軸部60と同様に、ボルト88とナット89との組み合わせによって構成されてもよい。この場合、レバー孔56は、上記実施形態と同様、アーム孔32よりも小さな孔径を有するように形成されている。ボルト88は、頭部88aと、大径軸部88bと、大径軸部88bよりも小径の小径軸部88cとを備えている。頭部88aは、ペダルアーム26に対し、レバー本体部52とは反対側(右側)に配置されている。大径軸部88bは、アーム孔32の多く部分に挿通されている。小径軸部88cは、レバー孔56の全体と、アーム孔32の一部とに跨がった状態で挿通されている。そして、ナット89は、小径軸部88cの頭部88aとは反対側(左側)の端部に締め付けられている。
【0073】
・
図15に示すように、レバー本体部52の一部をプレス加工によって塑性変形させることで、円形の外形形状を有する突部91が形成され、この突部91がシェア部80とされてもよい。突部91はアーム孔32に係合されている。シェア部80は、レバー本体部52及びペダルアーム26を左右両側から挟み込まない。しかし、回転軸部60がレバー本体部52及びペダルアーム26を左右両側から挟み込んでいるため、問題とはならない。
【0074】
この変更例によると、レバー本体部52の一部がシェア部80として機能するため、段付きピン、ストレートピン等の固定用の別部品が不要となる。また、レバー孔56も不要となる。また、シェア部80の形成に要するコストを低減できる。
【0075】
なお、上記突部91は、円形とは異なる形状の外形形状を有していてもよい。この場合には、アーム孔32の形状を突部91の外形形状に合わせて変更する。
・
図16に示すように、シェア部80が、樹脂材料を用いた樹脂成形によって形成されてもよい。この場合、アーム孔32とレバー孔56とが互いに同一の孔径を有するように形成されている。シェア部80は、軸部92と、鍔部93と、複数の係止片94とを備えている。軸部92は、レバー孔56と、アーム孔32のうち少なくともレバー孔56に隣接する部分とに対し、嵌合状態で挿通されている。軸部92の一部は、アーム孔32に入り込んでいる。軸部92のペダルアーム26から遠い側(左側)の端部は、レバー孔56から露出している。鍔部93は、この露出した端部に形成され、レバー孔56よりも大径状をなしている。複数の係止片94は、軸部92の外周部から、軸線L3に沿う方向のうち、レバー本体部52から遠ざかる側(右側)へ延びていて、同軸部92の径方向へ弾性変形可能である。各係止片94の先端部は、アーム孔32から露出している。各係止片94は、この露出した部分に、軸部92の径方向外方へ突出する爪部94aを有している。軸部92と爪部94aとの距離は、ペダルアーム26の板厚よりも小さい。そして、係止片94毎の爪部94aが、ペダルアーム26におけるアーム孔32の周辺部分に係止されている。
【0076】
この変更例のシェア部80によって回転レバー51をペダルアーム26に固定する場合には、爪部94aを先頭にしてシェア部80が、レバー孔56及びアーム孔32の順に挿通される。この挿通は、各係止片94を軸部92の径方向内方へ弾性変形させた状態で行なわれる。爪部94aがアーム孔32から露出する位置までシェア部80が挿通されると、各係止片94が弾性復元力によって径方向外方へ弾性変形する。係止片94毎の爪部94aが、ペダルアーム26におけるアーム孔32の周辺部分に係止される。このように、係止片94の弾性を利用して、シェア部80をレバー孔56及びアーム孔32に挿通して係止することで、回転レバー51をペダルアーム26に固定する方法は、スナップフィット固定とも呼ばれる。
【0077】
この変更例によると、シェア部80によって回転レバー51をペダルアーム26に固定する作業が簡単になる。また、鉄製のピンをシェア部80とする場合よりも、シェア部80を安価に形成できるといったメリットもある。
【0078】
また、軸部92のうち、アーム孔32に入り込んでいる部分は、回転軸部60を中心とする回転レバー51の回転方向における位置決めを行なう。シェア部80は、上記位置決めがされた状態で、回転軸部60とともに回転レバー51をペダルアーム26に固定する。
【0079】
ここで、樹脂成形されたピンからなるシェア部80の場合、
図15のプレス加工による突起形状(突部91)からなるシェア部80よりも高い精度で形成でき、上記位置決めの精度を安定させることが可能である。
【0080】
なお、
図17は、ペダルアーム26として、
図16で用いられたものよりも板厚の小さなものが用いられた場合を示している。この場合でも、軸部92の少なくとも一部がアーム孔32に嵌合されるため、上記位置決め機能が失われない。表現を変えると、この変更例のシェア部80は、板厚の異なる複数種類のペダルアーム26が用いられた場合にも、それぞれのペダルアーム26に適用可能である。従って、部品(シェア部80)の共通化を図ることができる。
【0081】
上記
図17に示すように、
図16よりも板厚の小さなペダルアーム26が用いられると、同ペダルアーム26及びレバー本体部52のそれぞれの板厚の合計値T2が、鍔部93と爪部94aとの距離T1よりも小さくなる。ペダルアーム26を爪部94aに当接させ、かつレバー本体部52をペダルアーム26に当接させた状態では、レバー本体部52と鍔部93との間に隙間G2が生ずる。この隙間G2により、回転レバー51が、シェア部80の軸線L3に沿う方向へ移動可能となる。しかし、その移動は、鍔部93によって規制される。
【0082】
この場合、シェア部80が、レバー本体部52及びペダルアーム26を左右両側から挟み込む力が小さい。しかし、回転軸部60によってレバー本体部52及びペダルアーム26を左右両側から挟み込んでいるため、問題とはならない。
【0083】
また、一般に、樹脂製品の強度は、鉄等の金属製品の強度よりも低い。そのため、変更例の軸部92を上記実施形態(
図6参照)における小径部83よりも太くしても、剪断等により破断させることが可能である。
【0084】
・後退抑制機構50における回転軸部60及びシェア部80の組み合わせが、上記実施形態、及び
図12~
図17の変更例で用いられた組み合わせとは異なる組み合わせに変更されてもよい。
【0085】
<その他>
・車両10の衝突時に回転レバー51が当接する車体構成部材は、衝突用ブラケット14に代えて、インパネリーンフォース13であってもよいし、同インパネリーンフォース13に固定され、かつ上記衝突用ブラケット14とは異なる別部材であってもよい。
【0086】
・入力軸42を押圧部54によって下方から押す構成が採用されてもよい。
・ペダルアーム26として、後退抑制機構50を備えない図示しないブレーキペダル装置におけるペダルアームとは異なる形状を有するものが用いられてもよい。
【0087】
・上記車両用操作ペダル装置は、操作ペダルの踏力を伝達するブースタ装置等の装置全般に広く適用可能である。該当する装置としては、上記ブレーキペダル装置21のほかに、クラッチペダル装置、アクセルペダル装置等が挙げられる。
【0088】
上記各実施形態は、以下の付記に記載する構成を含む。
[付記1]車室を、車体における前記車室よりも前方部分から区画する隔壁と、前記隔壁よりも後方に配置された車体構成部材とを備える車両に適用されるものであり、前記隔壁に固定されるペダルブラケットと、前記ペダルブラケットに回転可能に支持されたペダルアームを有する操作ペダルとを備え、前記操作ペダルの踏力を伝達する装置の入力軸を前記ペダルアームの回転に連動して駆動する車両用操作ペダル装置において、当接部及び押圧部を有し、かつ回転軸部により前記ペダルアームに支持されたレバーであり、前記車両の衝突に伴い、前記当接部が前記車体構成部材に当接したときに閾値以上の荷重を受けることにより、前記押圧部が前記入力軸の軸線に交差する方向へ前記入力軸を押圧するように、前記回転軸部を中心として回転する回転レバーと、前記回転レバーが前記車体構成部材から受ける荷重が前記閾値未満の場合に、前記回転レバーを前記ペダルアームに固定し、かつ前記荷重が前記閾値以上の場合に破断されて前記固定を解除するシェア部とがさらに設けられ、前記入力軸は前記ペダルアームに連結されている車両用操作ペダル装置。
【0089】
[付記2]前記押圧部は、前記車体構成部材よりも下方であり、かつ前記入力軸よりも上方に配置されている[付記1]に記載の車両用操作ペダル装置。
[付記3]前記回転レバーは、前記回転軸部の軸線に沿う方向を自身の厚み方向とし、かつ前後方向よりも上下方向に長い板状のレバー本体部と、前記レバー本体部の前縁部及び後縁部の少なくとも一方に沿って上下方向へ延びるフランジ部とを備えている[付記1]又は[付記2]に記載の車両用操作ペダル装置。
【0090】
[付記4]前記ペダルアームにはアーム孔が形成され、前記回転レバーには前記アーム孔よりも大径のレバー孔が形成され、前記回転軸部は、前記レバー孔に嵌合状態で挿通された大径部と、前記アーム孔に嵌合状態で挿通され、かつ前記ペダルアームに固定された小径部と、前記レバー孔から露出する前記大径部の端部に形成され、かつ前記レバー孔よりも大径の鍔部とを備え、前記鍔部は、前記回転レバーに対し前記ペダルアームから遠ざかる側へ離間している[付記1]~[付記3]のいずれか1つに記載の車両用操作ペダル装置。
【符号の説明】
【0091】
10…車両
11…車室
12…ダッシュパネル(隔壁)
13…インパネリーンフォース(車体構成部材)
14…衝突用ブラケット(車体構成部材)
15…車体
21…ブレーキペダル装置(車両用操作ペダル装置)
22…ペダルブラケット
25…操作ペダル
26…ペダルアーム
31,32…アーム孔
40…ブレーキブースタ(踏力を伝達する装置)
42…入力軸
51…回転レバー
52…レバー本体部
53…当接部
54…押圧部
55,56…レバー孔
57…フランジ部
60…回転軸部
61…小径部
62…大径部
63…鍔部
80…シェア部
L1,L2,L3…軸線