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特許7553527MPS1を治療するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】MPS1を治療するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20240910BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/85 Z
C12N9/14
C12N7/01
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022172314
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2020148103の分割
【原出願日】2014-03-13
(65)【公開番号】P2023011752
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】61/788,724
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジエームズ・エム
(72)【発明者】
【氏名】ガーダ,ブリトニー・エル
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-514429(JP,A)
【文献】国際公開第2011/154520(WO,A1)
【文献】Human Molecular Genetics,2006年,Vol. 15, No. 7,pp.1225-1236
【文献】Molecular Therapy,2004年,Vol. 9, No. 6,pp.866-875
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子であってその発現を制御する調節配列の制御下にある前記遺伝子を含む、発現カセットを含む、核酸分子であって、前記発現カセットが、その5'末端及び3'末端においてAAV逆方向末端反復(ITR)配列に隣接し、前記hIDUA遺伝子が、配列番号1の核酸配列か又は配列番号1と少なくとも95%同一であり機能的hIDUAをコードする核酸配列を有する、核酸分子。
【請求項2】
前記調節配列が、エンハンサー、プロモーター、イントロン及びポリアデニル化(ポリA)シグナル配列の1以上を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記ポリAシグナル配列が、ウサギグロビンポリAシグナル配列である、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記hIDUAが、リーダーペプチド配列を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記リーダーペプチド配列が、インターロイキン2(IL-2)リーダーペプチドである、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記hIDUA遺伝子が、配列番号1の核酸列を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記AAV ITR配列が、AAV2からのものである請求項1~6のいずれか1に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記分子が、発現カセット並びに前記発現カセットの5'及び3'末端におけるAAV ITR配列を含む、プラスミドである、請求項1~7のいずれか1に記載の核酸分子。
【請求項9】
AAVカプシドと、ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子であってその発現を制御する調節配列の制御下にある前記hIDUA遺伝子を含む発現カセットを含む核酸配列とを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)であって、前記hIDUA遺伝子が、配列番号1の核酸配列か又は配列番号1と少なくとも95%同一であり機能的ヒトα-L-イズロニダーゼをコードする核酸配列を有する、rAAV。
【請求項10】
hIDUA遺伝子が配列番号1の核酸配列を有する、請求項9に記載のrAAV。
【請求項11】
前記rAAVが、AAV5'逆方向末端反復(ITR)配列、発現カセット及びAAV3'ITR配列を含む、請求項9に記載のrAAV。
【請求項12】
前記AAV5'ITR配列及び前記AAV3'ITR配列がAAV2からのものである、請求項11に記載のrAAV。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ムコ多糖症は、ムコ多糖とも呼ばれるグリコサミノグリカン(GAG)の分解に関与する特定のリソソーム酵素の欠損を原因とする一群の遺伝障害である。部分的に分解されたGAGの蓄積により、細胞、組織、および器官の機能が干渉を受ける。時間の経過につれて、GAGは、細胞、血液、および結合組織の内部に蓄積し、その結果、細胞および器官の損傷が増大する。ムコ多糖症(MPS)障害の中で最も重篤なMPS Iは、酵素α-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損を原因とする。これにより、重症度の順でハーラー症候群、ハーラー-シャイエ症候群、およびシャイエ症候群となる、3つの臨床症候群がもたらされる。それぞれは常染色体劣性遺伝形式で遺伝し、酵素欠損症の程度が臨床表現型の重症度に直接関連する。
【0002】
IDUA遺伝子は、グリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれる大きな糖分子の分解に必須であるα-L-イズロニダーゼと呼ばれる酵素を生成するためのインストラクションを与えることが報告されている。具体的には、α-L-イズロニダーゼは、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸と呼ばれる2種のGAG中に存在する硫酸化α-L-イズロン酸として知られている分子からスルフェートを除去することが報告されている。α-L-イズロニダーゼは、種々のタイプの分子を消化し、再利用する、細胞内コンパートメントであるリソソーム中に存在する。IDUA遺伝子における100を超える突然変異が、ムコ多糖症I型(MPS I)の原因となることが見出されている。1つのDNAビルディングブロック(ヌクレオチド)を変化させる突然変異が最も一般的である。MPS Iを引き起こし、α-L-イズロニダーゼの機能を低下または完全に消失させる突然変異。
【0003】
臨床症候群に関しては、ハーラー症候群に対する現行の標準治療は、骨髄移植(BMT)または臍帯血移植(UCBT)などの造血幹細胞移植(HSCT)である。この処置は、できるだけ早期に、かつ、この疾患が身体およびCNSの両面に影響を及ぼす2歳になる前に施される。しかしながら、MPS Iに対するHSCTには、罹患率の顕著な値および20%の死亡率が依然として伴っている。移植が選択肢でない場合には、患者の生命のために毎週1回の酵素注入を必要とする酵素補充療法(ERT)を開始することができる。ERTは、CNS疾患の進行には影響を及ぼさないが、身体症状を部分的に改善する。臓器肥大は顕著に改善されるが、骨格系、眼、および心臓における疾患の様相は部分的にのみ改善される。患者は、腰および膝を安定化するための外科手術ならびに手根管症候群および指収縮を治療するための外科手術を必要とすることがある。心臓疾患は内科的に治療されるが、結局は外科手術が必要となることがある。
【0004】
MPS Iに対するERTは、リソソームに取り込ませる外因性酵素を提供し、GAGの異化を増大させた。リソソーム酵素は内部で機能するが、細胞表面マンノース-6-リン酸受容体は、これらの酵素に結合し内部移行して、それらをリソソームに送達することができる。組換えIDUA(Aldurazyme(登録商標)、BioMarin)は、MPS Iのハーラー形態およびハーラー-シャイエ形態の患者および中等度から重度の症候を示すシャイエ形態の患者に対してFDAにより認可されており、肺機能および歩行能力を改善することが示されている。ERTはまた、MPS I患者における肝臓肥大および尿中GAGレベルを低減することが観察されている。しかしながら、静脈内の酵素は脳に容易に移行しないため、ERTでは、一部のMPS I患者が経験する神経症候に対する取り組みは現在行われていない。
【0005】
ERTの合併症は、軽度から最も悪化したアナフィラキシーに及び得る組換え酵素に対する免疫応答ならびに局所および全身感染などの一生涯の末梢性発症の合併症を中心に展
開する。Aldurazymeを投与された患者の最大91%がこの酵素に対する抗体を生じるが、それがどの程度効力に影響を及ぼすかは明らかではない。さらに、ERTは、病院環境における、毎週の3~8時間にわたる静脈内(i.v.)注入を必要とし、これは、患者の生活の質に多大な影響を与え、費用が高い点で、医療償還制度への主要な重圧となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの制限を考慮すると、MPS Iに関する罹患率をより効果的に改善することができる治療が、未だ対処されていない医療上の必要性として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、配列番号1のヌクレオチド配列またはヒト細胞において機能的なヒトα-L-イズロニダーゼをコードする配列番号1に対して少なくとも約95%同一である配列を有するヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子を含む発現カセットであって、前記発現カセットがヒト細胞においてヒトα-L-イズロニダーゼの発現を指示する調節性制御配列をさらに含み、前記調節性制御配列が肝臓特異的プロモーターを含む、発現カセットを提供する。
【0008】
別の態様では、本発明は、発現カセットを含有するベクターを提供する。一実施形態では、発現カセットはシスプラスミド上に位置する。別の実施形態では、発現カセットはpENN.TBG.hIDUA.nRBG上に位置する。
【0009】
さらに別の態様では、本発明は、AAVカプシドを有し、かつ左側逆方向末端反復配列(ITR)、その発現を制御する調節配列の制御下にあるヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子、およびAAVの右側ITRをその中にパッケージングしている組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子であって、前記hIDUA遺伝子が、配列番号1(図1)に示す配列または機能的なヒトα-L-イズロニダーゼをコードする、配列番号1に対して少なくとも約95%同一である配列を有する、組換えアデノ随伴ウイルス粒子を提供する。一実施形態では、機能的なhIDUA遺伝子は、肝臓特異的プロモーターの制御下で発現される。そのようなプロモーターはチロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーターであってもよい。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、組換えアデノ随伴ウイルス粒子AAV2/8.TBG.hIDUA.coを提供する。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書に記載する発現カセット含むrAAVおよび薬学的に許容される担体を含む、ムコ多糖症I型(MPS I)を治療するために有用な組成物を提供する。
【0012】
なおもさらなる態様では、本発明は、ムコ多糖症I型を治療するための方法であって、薬学的に許容される担体および本明細書に記載するrAAVを含む有効量の組成物を送達することを含む方法を提供する。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、ハーラー症候群、ハーラー-シャイエ症候群、および/またはシャイエ症候群の症候を治療または寛解するための方法を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の態様および利点が、本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A-1D】機能的なヒトIDUA遺伝子の核酸配列を含む、本明細書に記載するpENN.AAV.TBG.PI.hIDUA.RGBプラスミドの配列[配列番号3]を示す。図1の位置1251~3213に位置する機能的なIDUAの遺伝子およびそのコードされた酵素配列はまた、配列番号1および2にも示す。この配列にはさらに、アルファmic/bikエンハンサー、イントロン1、ウサギグロブリンポリA、ITR、複製起点の配列を特定するための注釈が付けられている。
図2】pENN.AAV.TBG.PI.hIDUA.RGBの環状マップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載する組成物は、ヒト被験体において治療有効量の機能的なヒトα-L-イズロニダーゼ酵素を発現するヒトIDUA遺伝子を担持する発現カセットを提供する。
【0017】
本明細書で使用する場合、「治療有効量」は、ハーラー症候群、ハーラー-シャイエ症候群、および/もしくはシャイエ症候群、ならびに/またはMPS Iの症候を寛解または治療するために十分な酵素量を標的細胞に送達し発現させる組成物量を指す。「治療」には、これらの症候群(またはMPS I)の1つの症候の悪化の予防と、おそらくはそれらの症候の1つまたは複数の回復とが含まれ得る。
【0018】
本明細書で使用する場合、「機能的なヒトα-L-イズロニダーゼ」は、MPS1またはハーラー症候群、ハーラー-シャイエ症候群、および/またはシャイエ症候群などの関連症候群に罹患していないヒトにおいて、正常に機能するヒトα-L-イズロニダーゼ酵素を指す。逆に、MPS1またはこれらの症候群の1つの原因となるヒトα-L-イズロニダーゼ酵素変異体は、非機能的であると見なされる。一実施形態では、機能的なヒトα-l-イズロニダーゼは、Bremer et al,Mol.Genet.Metab.104(3):289-294(2011)、配列番号2(653個のアミノ酸)に再現されているNCBI参照配列NP_000194.2によって記載される野生型ヒトα-L-イズロニダーゼのアミノ酸配列を有している。しかしながら、この配列のいくつかの天然に存在する機能的な遺伝子多型(変異体)が記載されており、それらは本発明の範囲内に包含され得る。これらの変異体としては、配列番号2に関連して、位置110でのNに連結した糖鎖付加[Chen et al,J Proteome Res.,8:651-661(2009)]、アミノ酸位置33でのHからQへの変化[配列番号7、VAR_003350;Scott,HS,et al,Proc Natl Acad.Sci,88:9695-9699(1991);Scott,HS,et al,Genomics,12:1311-1313(1992);Scott HS,et al,Hum Genet,90:327-327(1992);Bertola F.,et al,Hum Mutat,32:E2189-E2210(2011)]、アミノ酸位置82でのHからQへの縮小[配列番号8、VAR_020976;Scott,HS,Hum Genet、上記に引用]、位置105でのRからQへの変化[配列番号9、VAR_003356;Scott,Hum Genet、上記に引用;Bertola et al、上記に引用]、位置116でのGからRへの変化[配列番号12、VAR_003367]、位置279でのVからAへの変化[配列番号11、VAR_003359、]、位置346でのLからRへの変化[配列番号12、VAR_017436、Teng,YN,et al,Clin.Genet,57:131-136(2000)]、位置361でのAからTへの変化[配列番号13、VAR_003364;Scott,HS,et al,Hum Mol Genet,2:1471-1473(1993);Yogalingam et al,Hum Mutat,24:199-207(2004);Bertola,et al、上記に引用]、位置449でのHからNへの変化[配列番号14、VAR_066228、Bertola et al、上記
に引用]、位置454でのVからIへの変化[配列番号15、VAR_003372;Yogalingam et al、上記に引用;Bertola,et al、上記に引用]、位置591でのAからTへの変化[配列番号16、VAR_0066231、Bertola et al、上記に引用]、および位置622でのAからTへの変化[配列番号17、Scott et al,Genomics、上記に引用]が挙げられる。例えば、UniProtKB/Swiss-Prot;www.uniprot.org/uniprot/P35475を参照されたい。別の実施形態では、機能的なヒトα-L-イズロニダーゼは、リーダー(シグナル)ペプチドに相当する配列番号2の最初の26個のアミノ酸のすべてまたは一部が異種のリーダーペプチドに置換されている合成アミノ酸配列を含むことができる。酵素をその分泌経路を介して細胞から循環に輸送する役割を果たすこのリーダーペプチドは、例えば、インターロイキン2(IL-2)またはオンコスタチンからのリーダーペプチドなど、別の適切なリーダーペプチドで置換することができる。適切なリーダーペプチドは、必ずしもそうである必要はないが、ヒト起源が好ましい。適切なリーダーペプチドは、参照により本明細書に組み込まれるhttp://proline.bic.nus.edu.sg/spdb/zhang270.htmから選択することも、または選択されたタンパク質中のリーダー(シグナル)ペプチドを判定するための種々の計算プログラムを使用して決定することもできる。限定されるものではないが、このような配列の長さは、約15~約50個のアミノ酸、もしくは約20~約28個のアミノ酸、または必要に応じてより長いかもしくはより短いものになり得る。加えて、in vitroアッセイの少なくとも1つが、IDUA酵素の酵素活性を評価するために有用であると記載されている[例えば、Kakkis et al,Mol Genet Metabol,2001 Mar;72(3):199-208を参照されたい]。
【0019】
適切には、本明細書に記載する組成物および方法は、長期間にわたる毎週の治療量の反復注射を必要としない。理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書に記載する方法は、MPSI障害に付随した身体症候に加えて中枢神経系表現型を修復するのに有用であると考えられる。
【0020】
発現カセット
発現カセットは、遺伝子およびその調節配列で最低限構成される。カセットが組換えアデノ随伴ウイルスから発現されるように設計されている場合、発現カセットはさらに、5’および3’AAV逆方向末端反復配列(ITR)を含有する。これらのITRは、完全長であっても、ITRの一方もしくは両方が短縮されていてもよい。例えば、D配列の欠失および末端分解部位(trs)の欠失を含有する短縮5’ITRは、例えば自己相補的AAVのために使用することができる。一実施形態では、rAAVは偽型である。すなわち、AAVカプシドはITRを提供するAAVとは異なる供給源AAVに由来する。一実施形態では、AAV血清型2のITRが使用される。しかしながら、他の適切な供給源に由来するITRを選択してもよい。
【0021】
本明細書に記載するように、本明細書に記載する病態の1つに罹患する患者に、細胞において機能的なヒトα-L-イズロニダーゼ酵素の発現を指示する調節配列の制御下にある機能的なヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子を担持する発現カセットを送達する。
【0022】
発現カセットは、配列番号1のヌクレオチド配列を有することを特徴とするhIDUA遺伝子を含有する。本発明者らにより開発されたこの配列は、配列番号2をコードするGenbank NP000194.2の公開遺伝子配列と約83%の同一性を有する。別の実施形態では、発現カセットは、配列番号1に対して少なくとも約80%同一であるヌクレオチド配列を有することを特徴とするhIDUA遺伝子を含有し、機能的なヒトα-
L-イズロニダーゼをコードする。別の実施形態では、配列は、配列番号1に対して少なくとも約85%同一であるかまたは配列番号1に対して少なくとも約90%同一であり、機能的なヒトα-L-イズロニダーゼをコードする。別の実施形態では、配列は、配列番号1に対して少なくとも約95%同一であるか、配列番号1に対して少なくとも約97%同一であるか、または配列番号1に対して少なくとも約99%同一であり、機能的なヒトα-L-イズロニダーゼをコードする。一実施形態では、これは、配列番号lのおよそ1~およそ78に相当する、ヒトα-L-イズロニダーゼ(すなわち、配列番号2のおよそアミノ酸26またはおよそアミノ酸27~およそアミノ酸653をコードする)のリーダーペプチド配列を含む完全長hIDUA遺伝子を包含する。別の実施形態では、hIDUA遺伝子は、機能的なα-L-イズロニダーゼ酵素の分泌部分、すなわち、配列番号2のおよそアミノ酸27~およそ653に融合した異種リーダー配列を含む合成ペプチドである機能的な合成ヒトα-L-イズロニダーゼ酵素または本明細書で特定されるその機能的な変異体の1つをコードする。
【0023】
配列に関する同一性または類似性は、本明細書では、配列をアライメントし、必要とする場合、最大パーセント配列同一性を達成するためにギャップを導入した後の、本明細書に提供するペプチドおよびポリペプチド領域と同一(すなわち、同じ残基)または類似(すなわち、共通側鎖特性に基づいて同じグループに属するアミノ酸残基、下記を参照のこと)の候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセント(%)同一性は、2つのポリヌクレオチド間または2つのポリペプチド間の類縁性の尺度であり、それぞれ、そのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を比較することによって決定される。一般に、比較される2つの配列は、配列間で最大の相関を与えるようにアライメントされる。2つの配列のアライメントを検査し、2つの配列間の正確なアミノ酸またはヌクレオチドの一致を与える位置の数を決定し、それをアライメントの全長で割り、100を掛けて、%同一性の数値を得る。この%同一性の数値は、比較される配列の全長にわたって決定しても(これは、同じかまたは極めて類似した長さで、高度に相同である配列に特に適している)、より短い指定の長さにわたって決定してもよい(これは、長さが等しくないかまたは相同性が低レベルである配列により適している)。いくつかのアルゴリズムおよびそれらに基づいたコンピュータプログラムが存在し、それらは、アライメントおよびパーセント同一性を得るために、文献上および/または公的もしくは商業的に利用可能である。アルゴリズムまたはプログラムの選択により本発明が限定されることはない。
【0024】
適切なアライメントプログラムの例としては、例えば、Unix下のものであるが、その後Bioeditプログラム(Hall,T.A.1999,BioEdit:a user-friendly biological sequence alignment editor and analysis program for Windows 95/98/NT.Nucl.Acids.Symp.Ser.41:95-98);Wisconsin Sequence Analysis Package,version 9.1(Devereux J.et al.,Nucleic Acids Res.,12:387-395,1984、Genetics Computer
Group,Madison,Wis.,USAより入手可能)にインポートされたソフトウェアCLUSTALWが挙げられる。プログラムBESTFITおよびGAPは、2つのポリヌクレオチド間の%同一性および2つのポリペプチド配列間の%同一性を決定するために使用することができる。
【0025】
配列間の同一性および/または類似性を決定するための他のプログラムとしては、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCB),Bethesda,Md.,USAから入手可能であり、またwww.ncbi.nlm.nih.gov)でNCBIのホームページを介してアクセス可能なBLASTファミリーのプログラム群、GCG配列アライメントソフトウェア
パッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)が挙げられる。アミノ酸配列の比較のためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重み残基表、12のギャップ長ペナルティ、および4のギャップペナルティを使用することができる;およびFASTA(Pearson W.R.and Lipman D.J.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444-2448,1988、Wisconsin Sequence Analysis Packageの一部として入手可能)。SeqWebソフトウェア(GCG Wisconsin Packageへのウェブベースのインターフェース:Gapプログラム)。
【0026】
本明細書および特許請求の範囲の全体にわたって使用する場合、「含む(comprising)」および「含む(including)」という用語は、他の成分、要素、整数、工程等について包括的である。逆に、「からなる(consisting)」という用語およびその変形体は、他の成分、要素、整数、工程等について排他的である。「約」という用語は、特に明記されない限り、±10%以内の変動を包含する。
【0027】
一実施形態では、発現カセットは、ヒト肝臓指向性の発現のために設計される。したがって、肝臓特異的プロモーターは、この発現カセットに特によく適合している。一実施形態では、チロキシン結合グロブリンプロモーターが選択される。一実施形態では、TBGプロモーターは、図1のヌクレオチド442~901の配列を有する。あるいは、別の肝臓特異的プロモーターが選択されてもよい。組織特異的なプロモーターの例は、肝臓および他の組織についてよく知られており(アルブミン、Miyatake et al.,(1997)J.Virol,71:5124-32;B型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandig et al.,(1996)Gene Ther.,3:1002-9;α-フェトプロテイン(AFP)、Arbuthnot et al.,(1996)Hum.Gene Ther.,7:1503-14)、骨オステカルシン(Stein et al.,(1997)Mol.Biol.Rep.,24:185-96);骨シアロタンパク質(Chen et al.,(1996)J.Bone Miner.Res.,11:654-64)、リンパ球(CD2、Hansal et al.,(1998)J.Immunol,161:1063-8;免疫グロブリン重鎖;T細胞受容体鎖)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersen et al.,(1993)Cell.Mol.Neurobiol.,13:503-15)、神経フィラメント軽鎖遺伝子(Piccioli et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5611-5)、およびニューロン特異的vgf遺伝子(Piccioli et al.,(1995)Neuron,15:373-84)などのニューロン性が挙げられる。他のプロモーター(肝臓特異的でない)を選択することもできるが、それを含有する発現カセットは、TBGまたは別の肝臓特異的プロモーターを有する発現カセットの利点を必ずしもすべて有するとは限らない。あるいは、調節可能なプロモーターが選択されてもよい。例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2011/126808B2号パンフレットを参照されたい。
【0028】
一実施形態では、発現カセットは1つまたは複数の発現エンハンサーを含む。一実施形態では、発現カセットは2つ以上の発現エンハンサーを含有する。これらのエンハンサーは同じであっても、互いに異なっていてもよい。例えば、エンハンサーには、アルファmic/bikエンハンサーが含まれ得る。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2つのコピー中に存在させることができる。あるいは、このエンハンサーのデュアルコピーを、1つまたは複数の配列により分離させることもできる。さらに別の実施形態では、発現カセットは、イントロン、例えばPromegaイントロンをさらに含有する。他の適切なイントロンとしては、例えば国際公開第2011/126808号パンフレットに記載されているものなど、当技術分野で公知のものが挙げられる。
【0029】
さらに、本発明の発現カセットは、適切なポリアデニル化シグナルを備えている。一実施形態では、ポリA配列は、ウサギグロブリンポリAである。一実施形態では、ポリA配列は、図1のnt3261~3387の配列を特徴とする。あるいは、別のポリA、例えば、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化配列、SV40ポリA、または合成ポリAもある。さらに他の従来の調節エレメントを追加するか、または任意選択的に発現カセットに含めることができる。
【0030】
一実施形態では、発現カセットは、当業者に公知の技術を使用して、適切なベクター、例えばプラスミドベクター上に遺伝子操作される。任意選択的に、本発明の組成物は、改変ヒトIDUA遺伝子を含む第1の発現カセットと、異なる遺伝子を含む第2の発現カセットとを含有することができる。さらに別の実施形態では、機能的なヒトIDUAは、例えば、国際公開第2011/126808号パンフレットに記載されているように、複数ベクター上に位置してもよい2つ以上の発現カセットから発現させることができる。
【0031】
一実施形態では、発現カセットは、pENN.TBG.hIDUA.nRBGにより担持され、このプラスミドは、発現カセットを担持する組換えアデノ随伴ウイルスを作製するために使用される。
【0032】
AAVウイルス粒子の生成
一実施形態では、本発明は、AAVカプシドを有し、かつ5’逆方向末端反復配列(ITR)、その発現を制御する調節配列の制御下にあるヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)遺伝子、およびAAVの3’ITRをその中にパッケージングしている組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子であって、前記hIDUA遺伝子が、配列番号1(図1)に示す配列または機能的なヒトα-L-イズロニダーゼをコードする、配列番号1に対して少なくとも約95%同一である配列を有する、組換えアデノ随伴ウイルス粒子を提供する。特に望ましい1つのrAAVは、AAV2/8.TBG.hIDUA.coである。
【0033】
AAVベースのベクターを調製する方法は公知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2007/0036760号明細書(2007年2月15日)を参照されたい。AAV8のAAVカプシドの使用は、本明細書に記載する組成物および方法に特によく適合している。AAV8の配列、およびAAV8カプシドに基づくベクターの作製方法は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,282,199B2号明細書、米国特許第7,790,449号明細書、および米国特許第8,318,480号明細書に記載されている。また、AAV9カプシドも本発明での使用によく適合している。AAV9の配列、およびAAV9カプシドに基づいたベクターの作製方法は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,906,111号明細書に記載されている。しかしながら、他のAAVカプシドを本発明での使用のために選択または作製してもよい。いくつかのそのようなAAVの配列は、上記に引用の米国特許第7,282,199B2号明細書、米国特許第7,790,449号明細書、米国特許第8,318,480号明細書、および米国特許第7,906,111号明細書に提供されており、かつ/またはGenBankから入手可能である。任意のAAVカプシドの配列は、合成的にまたは種々の分子生物学および遺伝子工学技術を使用して容易に作製することができる。適切な生成手法が当業者には周知である。例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press(Cold Spring Harbor,NY)を参照されたい。あるいは、ペプチド(例えば、CDR)をコードするオリゴヌクレオチドまたはペプチド自体を合成的に、例えば周知の固相ペプチド合成法によって作製することができる(Merrifield,(1962)J.Am.Chem.S
oc.,85:2149;Stewart and Young,Solid Phase Peptide Synthesis(Freeman,San Francisco,1969)pp.27-62)。また、D M McCarty et al,“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV)vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol
8,Number 16,Pages 1248-1254も参照されたい。自己相補的AAVは、例えば、米国特許第6,596,535号明細書;同第7,125,717号明細書;および同第7,456,683号明細書に記載されており、これらのそれぞれは、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらおよび他の適切な生成方法は、当業者の知識の範囲内であり、本発明を限定するものではない。
【0034】
本明細書に記載する組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、公知の技術を使用して作製することができる。そのような方法は、AAVカプシドをコードする核酸配列;機能的なrep遺伝子;AAV逆方向末端反復配列(ITR)および導入遺伝子で最低限構成される発現カセット;ならびにAAVカプシドタンパク質への発現カセットのパッケージングを可能にするための十分なヘルパー機能を含有する宿主細胞を培養することを含む。
【0035】
AAVカプシドの中にAAV発現カセットをパッケージングするために宿主細胞中で培養される必要がある成分は、トランスで宿主細胞に提供されてもよい。あるいは、必要な成分(例えば、発現カセット、rep配列、cap配列、および/またはヘルパー機能)の任意の1つまたは複数は、当業者に公知の方法を使用して、必要な成分の1つまたは複数を含有するように操作された安定な宿主細胞により提供されてもよい。最適には、そのような安定な宿主細胞は、誘導プロモーターの制御下にある、必要な成分を含有することになる。しかしながら、必要な成分は、構成的プロモーターの制御下にあってもよい。適切な誘導性プロモーターおよび構成的プロモーターの例が、導入遺伝子との使用に適した調節エレメントの論述の中で本明細書に提供される。さらに別の代替形態では、選択された安定な宿主細胞は、構成的プロモーターの制御下にある選択された成分および1つまたは複数の誘導性プロモーターの制御下にある他の選択された成分を含有することができる。例えば、293細胞(構成的プロモーターの制御下にあるE1ヘルパー機能を含有する)に由来するが、誘導性プロモーターの制御下にあるrepおよび/またはcapタンパク質を含有する安定な宿主細胞を作製することができる。さらに他の安定な宿主細胞は、当業者により作製可能である。
【0036】
本発明のrAAVを生成するのに必要な発現カセット、rep配列、cap配列、およびヘルパー機能は、その上に担持される配列を移入する任意の遺伝エレメントの形態でパッケージング宿主細胞に送達することができる。選択された遺伝エレメントは、本明細書に記載のものを含む任意の適切な方法によって送達することができる。本発明の任意の実施形態を構築するために使用される方法は、核酸操作の技術者には公知であり、遺伝子工学、組換え工学、および合成手法を含む。例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold
Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NYを参照されたい。同様に、rAAVビリオンを作製する方法は周知であり、適切な方法の選択により、本発明が限定されることはない。例えば、K.Fisher et al,(1993)J.Virol.,70:520-532および米国特許第5,478,745号明細書を参照されたい。
【0037】
他に明記されない限り、AAV ITR、および本明細書に記載の他の選択されたAAV成分は、任意のAAVの中から容易に選択することができる。これらのITRまたは他
のAAV成分は、当業者に利用可能な手法を使用して、AAV配列から容易に単離することができる。そのようなAAVは、学術的、商業的、または公的な供給源(例えば、米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)、Manassas、VA)から単離または入手することができる。あるいは、AAV配列は、文献または例えばGenBank(登録商標)、PubMed(登録商標)等のデータベースから入手可能であるものなど公表された配列を参照して、統合的または他の適切な手段によって得ることができる。
【0038】
A.発現カセット
発現カセットは本明細書に定義された通りである。加えて、本明細書に記載する発現カセットおよび/またはベクターはさらなる導入遺伝子または調節配列を含有することができる。カプシドタンパク質の中にパッケージングされ、選択された宿主細胞に送達される発現カセット。
【0039】
1.導入遺伝子
本発明は、複数の導入遺伝子の使用を含むことができる。適切な導入遺伝子は、当業者により容易に選択可能である。導入遺伝子の選択により、本発明が限定されるとは見なされない。
【0040】
2.調節エレメント
発現カセットについて上記に特定された主要なエレメントに加え、ベクターはまた、プラスミドベクターでトランスフェクトされたかまたは本発明により生成されたウイルスに感染した細胞中でのその転写、翻訳、および/または発現を可能にするように導入遺伝子に作動的に連結される従来の調節エレメントを含む。本明細書で使用する場合、「作動的に連結される」配列には、目的の遺伝子に近接する発現制御配列と、目的の遺伝子を制御するためにトランスでまたは離れて作用する発現制御配列の両方が含まれる。
【0041】
発現調節配列には、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列;スプライシングおよびポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの効率的なRNAプロセシングシグナル;細胞質のmRNAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);タンパク質の安定性を高める配列;および必要に応じて、コードされた産物の分泌を高める配列が含まれる。天然、構成的、誘導性、および/または組織特異的プロモーターを含む、多数の発現制御配列が当技術分野で公知であり、かつ利用することができる。
【0042】
構成的プロモーターの例としては、限定はされないが、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意選択的に、RSVエンハンサーと共に)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(任意選択的に、CMVエンハンサーと共に)[例えば、Boshart et al,(1985)Cell,41:521-530を参照のこと]、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1プロモーター[Invitrogen]が挙げられる。誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外因性に供給される化合物、温度などの環境因子、もしくは特定の生理学的状態の存在、例えば細胞の急性期、特定の分化状態により、または複製細胞においてのみ調節され得る。誘導性プロモーターおよび誘導性システムは、限定はされないが、Invitrogen、Clontech、およびAriadを含む、種々の商業的供給源から入手可能である。他の多くのシステムが記載されており、当業者により容易に選択可能である。外因性に供給される化合物により調節される誘導性プロモーターの例としては、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオニン(MT)プロモーター、デキサメサゾン(Dex)誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモ
ーターシステム[国際特許公開国際公開第98/10088号パンフレット];エクジソン昆虫プロモーター[No et al,(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:3346-3351]、テトラサイクリン抑制系[Gossen
et al,(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5547-5551]、テトラサイクリン誘導系[Gossen et al,(1995)Science,268:1766-1769、さらにHarvey et al,(1998)Curr.Opin.Chem.Biol.,2:512-518も参照のこと]、RU486誘導系[Wang et al,(1997)Nat.Biotech.,15:239-243、およびWang et al,(1997)Gene Ther.,4:432-441]、ならびにラパマイシン誘導系[Magari et al,(1997)J.Clin.Invest.,100:2865-2872]が、例えばAriadから入手可能なArgent(商標)系を含めて挙げられる。これに関連して有用となり得る他のタイプの誘導性プロモーターは、特定の生理学的状態、例えば細胞の温度、急性期、特定の分化状態により、または複製細胞においてのみ調節されるものである。
【0043】
導入遺伝子の別の実施形態では、組織特異的プロモーターに作動的に連結された遺伝子が含まれる。例えば、骨格筋での発現が必要な場合、筋で活性なプロモーターが使用されるべきである。これらには、骨格β-アクチン、ミオシン軽鎖2A、ジストロフィン、デスミン、MHC、筋クレアチンキナーゼをコードする遺伝子由来のプロモーター、および天然のプロモーターよりも高活性を有する合成の筋プロモーターが含まれる(Li et
al.,(1999)Nat.Biotech.,17:241-245を参照のこと)。組織特異的なプロモーターの例は、例えば、とりわけ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersen et al.,(1993)Cell.Mol.Neurobiol.,13:503-15)、神経フィラメント軽鎖遺伝子(Piccioli et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:5611-5)、およびニューロン特異的vgf遺伝子(Piccioli et al.,(1995)Neuron,15:373-84)など、CNS/ニューロン性について知られている。別の実施形態では、導入遺伝子の天然のプロモーターを使用することになる。導入遺伝子の発現が天然の発現を模倣することが望ましい場合、天然のプロモーターが好ましくなり得る。導入遺伝子の発現を、一時的にもしくは発生的に、または組織特異的に、または特定の転写刺激に応答して調節しなければならない場合、天然のプロモーターを使用することができる。さらなる実施形態では、エンハンサーエレメント、ポリアデニル化部位、またはコザックコンセンサス配列などの他の天然の発現制御エレメントも、天然の発現を模倣するために使用することができる。
【0044】
導入遺伝子、プロモーター/エンハンサー、ならびに5’および3’AAV ITRの組合せは、本明細書での言及を容易にするために発現カセットと呼ぶ。本発明の教示が与えられれば、そのような発現カセットの設計は、従来の手法により行うことができる。
【0045】
3.AAVパッケージング宿主細胞への発現カセットの送達
発現カセットは、宿主細胞に送達される任意の適切なベクター、例えばプラスミド上に担持することができる。本発明に有用なプラスミドは、複製および任意選択的に原核細胞、哺乳動物細胞、またはその両方における組み込みに適するように操作することができる。これらのプラスミド(または発現カセットを担持する他のベクター)は、真核生物および/または原核生物における発現カセットならびにこれらの系の選択マーカーの複製を可能にする配列を含有する。選択可能マーカーまたはレポーター遺伝子としては、とりわけ、カナマイシン、ジェネテシン、ハイグロマイシン、またはピューリマイシン(purimycin)抵抗性をコードする配列を挙げることができる。プラスミドはまた、アンピシリン抵抗性など、細菌細胞中でベクターの存在を伝達するために使用できる特定の選択
可能レポーターまたはマーカー遺伝子を含有することができる。プラスミドの他の成分としては、複製起点、およびエプスタインバーウイルス核抗原を使用するアンプリコンシステムなどのアンプリコンを挙げることができる。このアンプリコンシステムまたは他の同様のアンプリコン成分は、細胞中での高コピーのエピソーム複製を可能にする。好ましくは、発現カセットを担持する分子は、細胞にトランスフェクトされ、そこで一過性に存在することができる。あるいは、発現カセットは、染色体性にまたはエピソームとしてのいずれかで、宿主細胞のゲノムに安定に組み込まれてもよい。特定の実施形態では、発現カセットは、複数コピーで、任意選択的にヘッドトゥーヘッド、ヘッドトゥーテール、またはテールトゥーテールのコンカテマーで存在することができる。適切なトランスフェクション手法は公知であり、宿主細胞に発現カセットを送達するために容易に利用することができる。
【0046】
一般に、トランスフェクションにより発現カセットを含むベクターを送達する場合、ベクターは、約5μg~約100μgDNA、約10μg~約50μgDNAの量で、約1×104細胞~約1×1013細胞、または約1×105細胞に送達される。しかしながら、宿主細胞に対するベクターDNAの相対量は、選択されたベクター、送達方法、および選択された宿主細胞などの因子を考慮に入れて調節することができる。
【0047】
B.パッケージング宿主細胞
発現カセットに加えて、宿主細胞は、宿主細胞において本発明のAAVカプシドタンパク質の発現を駆動する配列、および発現カセットに見出されるAAV ITRの供給源と同じ供給源のrep配列または交差相補(cross-complementing)供給源のrep配列を含有する。パッケージング宿主細胞はまた、本発明のrAAVをパッケージングするためにヘルパー機能を必要とする。そのようなヘルパー機能は、当技術分野で周知であり、本明細書で繰り返されることはない。同様に、AAVカプシドを有する適切なベクターを作製する方法は公知である。[例えば、米国特許出願公開第2007/0036760号明細書を参照のこと]。
【0048】
本明細書に記載する発現カセットをコードするrAAVのコンストラクトは、生理学的に適合する担体に懸濁することができ、被験体に投与可能となる。一実施形態では、担体は、滅菌生理食塩水単独であるか、または任意選択的に、いくつかの緩衝液のうちのいずれかと一緒の滅菌生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)である。他の代表的な担体としては、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ゴマ油、および水が挙げられる。担体の選択により本発明が限定されることはない。
【0049】
任意選択的に、本発明の組成物は、rAAVおよび担体に加えて、防腐剤または化学安定剤などの他の従来の医薬成分を含有することができる。一実施形態では、送達は静脈内送達を介するものである。しかしながら、さらに他の投与経路も選択することができる。代替的または追加的に、投与経路を、必要に応じて組み合わせてもよい。
【0050】
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載するrAAVまたはrAAVの混合物を凍結乾燥形態で含有する凍結乾燥組成物を含む。任意選択的に、1つまたは複数の安定剤または防腐剤がこの組成物中に存在する。適切には、使用のために、凍結乾燥組成物は、適切な希釈剤、例えば、滅菌生理食塩水または緩衝食塩水で再構成される。
【0051】
ウイルスベクターの投薬量は、主として、治療される症状、患者の年齢、体重、および健康などの因子に依存することになり、したがって、患者間で変動し得る。例えば、ウイルスベクターの治療有効投薬量は、一般に、約3×109~3×1013ゲノムウイルスベ
クター(粒子)/mL水性懸濁剤の濃度を含有する溶液の約0.1mL~約100mL、
または約0.1mL~約10mL、または約0.1mL~約5mL、または約0.5mL~約1mLの範囲である。別の例示的な投薬量は、1kg当たり約3×109~3×1013AAVゲノムである。1つの適切な容量は約1mLである。別の実施形態では、rAA
Vコンストラクトの治療有効用量は、約0.001ng~約1000mg/70kg動物の範囲であり、これは単回投与で送達しても、一連の2回以上にわたる投与で送達してもよい。他の適切な投薬量を決定してもよい。投薬量は、いかなる副作用に対しても治療効果とのバランスを取るように調節されることになり、そのような投薬量は、組換えベクターが使用される治療用途に応じて変動し得る。
【0052】
治療方法
本発明の組成物は、軽度から最も悪化したアナフィラキシーに及び得る、組換え酵素に対する免疫応答に関連した、酵素補充療法の合併症ならびに局所および全身感染などの一生涯の末梢性発症の合併症を回避する。さらに、ERTとは対照的に、本明細書の組成物は、長期間にわたる毎週の反復注射を必要としない。理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書に記載する肝臓指向性の治療方法は、高い形質導入効率でベクターにより提供される効率的で長期間の遺伝子移入(これは血液脳関門を横断する治療レバレッジ(therapeutic leverage)を提供する、継続して高い循環IDUAレベルを提供することができるであろう)を実現することにより、MPSI障害に関連した中枢神経系表現型を修復するために有用であると考えられる。加えて、AAV肝臓遺伝子移入は、能動的な寛容性を惹起し、酵素に対する抗体産生を防止することができる。
【0053】
ムコ多糖症I型を治療する方法であって、本明細書に記載する治療有効量の改変hIDUA発現カセットを送達することを含む方法を提供する。また、ハーラー症候群、ハーラー-シャイエ症候群、およびシャイエ症候群の症候を治療および/または寛解するための方法も提供する。
【0054】
一実施形態では、rAAVは静脈内送達される。
【0055】
別の実施形態では、rAAVは、約3×109~約3×1012の量で送達され、被験体
に送達される。rAAVの単回投与は効果的であると予想されるが、肝臓は再生器官であるため、投与は反復されてもよい(例えば、年4回、年2回、年1回、または必要に応じて)。任意選択的に、治療有効量の初回用量を、被験体の年齢および注入に耐える能力を考慮して、注入時間を分割して送達してもよい。しかしながら、十分な治療用量を毎週反復注射することは必要ではなく、これは、快適さと治療アウトカムの両方の点から患者にとって利点となる。
【0056】
以下の実施例は、単なる例示であり、本明細書に記載する本発明を限定するものではない。
【実施例
【0057】
実施例1 - 導入遺伝子およびベクター生成
機能的なヒトα-L-イズロニダーゼをコードする改変ヌクレオチド配列を合成した。得られた配列は、ヒト発現に特によく適合しており、機能的なヒトIDUA遺伝子(hIDUA;Genbank NP000194.2)に対して約90%未満の同一性を有する。次いで、得られた導入遺伝子を、操作されたMluIおよびSalI部位を使用してUPenn Vector Coreから入手可能であるAAVベクター中にパッケージングするために必要なシスエレメントを含有するプラスミドに挿入した。遺伝子発現はヒトサイロキシン結合グロブリンにより駆動した(TBG,Hayashi Y,Mori
Y,Janssen OE,et al.Human thyroxine-binding globulin gene:complete sequence and
transcriptional regulation.Mol Endocrinol 1993;7:1049-1060)。図2に示す得られたプラスミドpENN.AAV.TBG.PI.hIDUA.RGBは、肝臓特異的TBGプロモーターを含む発現制御配列の制御下にある改変hIDUA遺伝子を含有する。このプラスミドはさらに、AAV2の5’ITR、アルファmic/bicエンハンサーの縦列反復、TBGプロモーター、Promegaイントロン配列、配列番号1の改変ヒトIDUA遺伝子、ウサギグロブリンポリA、およびAAV2-3’ITRを含有する。
【0058】
大規模ベクター調製は、基本的に、Lock et al.[Rapid,simple,and versatile manufacturing of recombinant adeno-associated viral vectors at scale.Hum Gene Ther 21(10):1259-1271.(2010)]によって記載されるように行った。PEIベースのトランスフェクションは、75%コンフルエントの単層HEK293細胞を含有する、10層の細胞スタックで行った。細胞スタックからの10Lのフィードストック培地を澄明にした後、接線フロー濾過により濃縮した。濃縮した澄明フィードストックを、イオジキサノール(Optiprep;Sigma Chemical Co.,St Louis,MO)勾配上で精製した。可視の夾雑タンパク質バンドの直下にあるすべての分画を回収し、プールした。プールした分画を、Amicon Ultra 15スピン濃縮器(Millipore)を使用して、PBS/35mM NaClに対してダイアフィルトレートして濃縮した。ダイアフィルトレートして濃縮した生成物にグリセロールを最終5%になるまで加え、この調製物を小分けして-80℃に保存した。得られたベクターは、本明細書では、AAV8.TBG.hIDUAまたはAAV2/8.TBG.hIDUAと称される。特定の場所では、組換えAAV粒子は、AAV8.TBG.hIDUAcoまたはAAV2/8.TBG.hIDUAcoと呼ばれる。このプラスミドはさらに、AAV2の5’ITR、アルファmic/bicエンハンサーの縦列反復、TBGプロモーター、Promegaイントロン配列、配列番号1の改変ヒトIDUA遺伝子、ウサギグロブリンポリA、およびAAV2-3’ITRを含有する。
【0059】
実施例2 - A.細胞ベースのアッセイ
HEK 293細胞は、5%ウシ胎児血清(FBS;XXX)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(p/s;Life Technologies(商標))含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;Gibco(登録商標)、Life Technologies(商標))を含有する増殖培地で維持した。プラスミドDNAトランスフェクションは、製造業者の推奨に従い、Lipofectamine(商標)2000(Invitrogen(商標)、Life Technologies(商標))を使用して行った。手短に言えば、トランスフェクション培地(DMEM+5%FBS、p/sなし)中、6ウェル組織培養ディッシュに5×105細胞/ウェルの密度で、細胞を播種し、5
%CO2中、37℃で一晩付着させた。翌日、90~95%コンフルエントであるか細胞
をチェックし、培地をリフレッシュした。プラスミドDNAおよびLipofectamine(商標)2000を、最終的な比が1:2.5(DNA:Lipofectamine(商標)2000)になるようにOpti-MEM I(登録商標)Reduced
Serum Medium(無血清)で希釈した。Lipofectamine(商標)2000トランスフェクション溶液を22℃で5分間インキュベートした後、DNA溶液と混合した。DNA:Lipofectamine(商標)2000溶液を含有する、この最終的なトランスフェクション混合物を、20分間(22℃)さらにインキュベートした後、細胞および培地を含有するウェルに加えた。プラスミドDNAを受容せずかつeGFPをコードするプラスミドを受容したmock細胞を、トランスフェクション対照として使用した。試験する各コンストラクトについて、3つのウェルにトランスフェクトした。細胞を5%CO2中、37℃でインキュベートし、4時間後に、培地を増殖培地に置
き換えた。各ウェルの内容物を72時間後に回収し、4℃で15分間、4000rpmで収集した。100μl/ウェル溶解緩衝液(0.2%Triton X-100、0.9%NaCl、pH4.0)に細胞を再懸濁し、ボルテックスすると共に凍結/解凍を3回行った。さらに、ベンゾナーゼで溶解物を37℃で30分間処理した後、最終的な凍結/解凍を行った。10000rpm(4℃)で10分間、細胞片をペレット化し、最終的に澄明にした細胞溶解物を氷上に置き、直ちに酵素活性についてアッセイした。
【0060】
B.組織溶解およびタンパク質抽出
凍結した組織を、1層のドライアイス上、ボックス中で半解凍し、小断片の湿った組織を小ペトリ皿に切り分けた(約20mg、脾臓について約10mg)。次いで、1mlの溶解緩衝液(0.2%Triron X-100、0.9%NaCl、pH4.0)および5mmの鋼ビーズを入れた2mlのエッペンドルフ中に、前処理した組織を沈めた。試料をtissue-lyzer上、30Hzで2分間ホモジナイズした。ホモジナイズした試料を、6000rpmで30秒間、短く回転させ、5mmの鋼ビーズを除去した。組織溶解物をさらに、直径1~1/16インチのマイクロホーン(microhorn)を使用する超音波処理により破壊し、-80℃で一晩凍結した。翌日、処理した試料を22℃で解凍し、遠心分離(10000rpm/10分間/4℃)により澄明にした。脳からの浮遊脂質層または他の脂肪組織をアッセイ前に吸引した。次いで、試料を湿った氷上に用意し、直ちに酵素活性についてアッセイした。
【0061】
C.タンパク質評価
総タンパク質を、製造業者のプロトコールに従い、CoomassieベースのBradfordアッセイ(Thermo Scientific)を使用して評価した。手短に言えば、l~25μg/mlの評価範囲になるように、ウシ血清アルブミン(BSA)を使用して標準曲線を作成し、BSA不含タンパク質希釈緩衝液をブランクとした。試料を、96ウェル平底ディッシュ中で、1/300~1/1200まで2倍希釈し、希釈タンパク質:Bradford試薬を1:1の比で混合した。試料を22℃で15分間平衡化し、プレートリーダー上、推奨波長595nmで吸光度を収集した。ブランク補正した標準曲線を使用して、生の数値をμg/ml濃度に変換した。次いで、マイクログラム量を変換して、ミリグラム単位で報告した。
【0062】
D.酵素活性アッセイ
IDUA酵素活性は、以前に公表された方法[Kakkis et al,Mol Genet Metab,2001 Mar;72(3):199-208]に従い、4-メチルウンベリフェリル-α-L-イドピラノシドウロン酸,シクロヘキシルアンモニウム塩(4-MU-Ido;Toronto Research Chemicals,Inc.)を基質として使用してアッセイした。手短に言えば、溶解物または血清5~15μlを再蒸留水(ddH20)で100μlに合わせ、反応緩衝液(0.1M酢酸ナトリ
ウムpH3.5、0.15M NaCl、0.05%Triton X-100)で希釈した100μΜ 4-MU-Ido基質100μlをアクリル酸メチルキュベット(Thermo Scientific)中で混合した。反応物を37℃水浴中で1~3時間インキュベートし、1倍停止緩衝液(290mMグリシン、180mM炭酸ナトリウム、pH10.5)で終了させた。生成物を、QuantiFluor(商標)-ST上、UVチャネル(Ex365nm、Em440-470nm)により読み取った。蛍光の生数値を記録し、既知量の4-メチルウンベリフェロン(M-5410;Biosynth(登録商標))の標準曲線を使用して、nmol/ml/時に変換した。細胞および組織の溶解物をタンパク質評価値に規準化した(nmol/mg/時;「タンパク質評価」と題する方法の項を参照のこと)。
【0063】
E.DNA抽出およびゲノムコピー分析
二倍体細胞におけるベクターDNA負荷を決定するために、Taqman PCRを使用した。リアルタイムPCRによるベクターゲノムの検出および定量のために、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen,Valencia,CA,USA)を使用して、全細胞DNAを組織から抽出した。プライマーおよびプローブのセットを、以下の配列;順方向:GCCAAAAATTATGGGGACAT、逆方向:ATTCCAACACACTATTGCAATG、プローブ:6FAM-ATGAAGCCCCTTGAGCATCTGACTTCT-TAMRAを使用して、ベクターのnRBGポリA領域を標的化するように設計した。ベクターゲノム定量のための標準曲線は、対応するベクターの生成に使用したシスプラスミドで確立した。PCRは、鋳型として200ngの全細胞DNA、300nMのプライマー、および200nMのプローブをそれぞれ含む、TaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)で行った。サイクルは、50℃で2分間、95℃で10分間、95℃で15秒間の40サイクル、および60℃で1分間とした。
【0064】
F.免疫ブロッティング
免疫ブロッティングは標準的方法により行った。手短に言えば、NuPAGEゲルシステム(Life Technologies)、4~12%bis-trisゲルを使用した。20Vで30分間後に、PVDFメンブレンへの転写を行った。ブロックはT-PBS中の10%NFDM(一晩)であった。一次MAbはマウス抗ヒトIDUA 1:300(1.5時間);T-PBS中の1%NFDMであった。二次:HRP連結ウサギ抗マウス 1:3000(1時間);T-PBS中の1%NFDM。検出は、SuperSignal West Dura Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific)により、X線フィルム上の30秒間露出で行った。
【0065】
実施例3 - マウスおよびイヌにおけるin vivo試験
IDUA欠損はイヌで見出され得るものであり、これにより、大動物における疾患および治療の試験が可能になる。MPS Iイヌは、IDUA遺伝子の劣性(ヌル)突然変異を担持しており、イントロン1のドナースプライス部位におけるG>A突然変異により、エキソンイントロンジャンクションにおける中途での終止コドンが生成される[Menon,K.P.,P.T.Tieu,and E.F.Neufeld,Architecture of the canine IDUA gene and mutation underlying canine mucopolysaccharidosis I.Genomics,1992.14(3):p.763-8.]。イヌにおける疾患過程はハーラー-シャイエ症候群に類似しており、疾患症状には、胸変形を含む顕著な骨疾患が含まれる。
【0066】
尿中GAG分析は、臨床環境におけるMPS Iに対する治療効力を判定するために使用される生化学マーカーである。
【0067】
グリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を、パラフィン切片のアルシアンブルー(pHl)染色により主要な器官で評価した。細胞内のプロセシングされていないGAGの蓄積は、トルイジンブルーで染色された、プラスチック包埋組織からの1μm薄切片上で特によく可視化される。トルイジンブルーで染色された、エポン包埋組織の薄切片(1μm)。これにより、貯蔵物質を含有する細胞(「泡沫状スポンジ細胞」)が示される。
【0068】
脳において、ガングリオシドGM3に対する抗体を用いて免疫組織化学を行った。ニューロン中にGM3の異常な貯蔵が示される。イヌでは皮質を評価し、マウスでは皮質および視床下部を評価した。肝臓におけるヒトIDUAの発現を免疫蛍光法により評価した。
【0069】
A.マウス試験
実施例1に記載するように、AAV8.TBG.改変hIDUAを調製した。マウス(約3か月)に、約1×1011GC、3×1010GC、3×109GC、1×109GCの用量で静脈内注射し、注射約2週間後に評価した。
【0070】
結果から、1×1011、3×1010、および3×109を投与した動物では、GAG染
色が減少または完全に欠如していることがわかった。これらの動物では、貯蔵病変の減少または完全な欠如が、薄切片で観察された。
【0071】
1×109GAGを投与した動物では、貯蔵は無処置のマウスと多かれ少なかれ同じよ
うに見え、貯蔵病変も無処置のマウスと多かれ少なかれ同じように見えた。
【0072】
GM3貯蔵については、1×1011GCおよび3×1010GCを投与した動物のみを評価し、ニューロン中のGM3貯蔵の若干の改善が観察された。
【0073】
IDUAの強力な発現(肝細胞の100%)が1×1011GCを投与した動物で観察された。これは低用量になると低減し、1×109GCではほんのわずかな陽性肝細胞しか
見えなかった。
【0074】
B.イヌ試験
実施例1に記載するように、AAV8.TBG.改変hIDUAを調製した。イヌ(約8か月齢)に、1×1011GCの用量を静脈内注射し、注射4か月後(すなわち1歳)に、評価した。
【0075】
この試験では、貯蔵病変の回復が示される。より具体的には、すべての主要器官におけるGAG貯蔵の実質的に完全なクリアランスがアルシアンブルー染色によって認められる。心臓、腎臓、または肝臓の薄切片では貯蔵病変が観察されない。GM3蓄積の低下または完全なクリアランスがニューロンで観察される。肝臓におけるIDUAの発現は、肝細胞の95%超で免疫蛍光法により観察される。
【0076】
実施例4 - AAV2/8.TBG.hIDUAによるハーラー-シャイエの治療 IDUAのAAV8媒介遺伝子移入を、ハーラー-シャイエ患者で評価する。被験体は、末梢静脈へのベクターの単回注入を受けることになる。これは、前臨床データに基づくと、正常な患者で得られるものに近いレベルで酵素の安定な産生をもたらすはずである。この試験は、種々の用量のベクター、例えば3×1011GC/kg;l×1012GC/kg;3×l012GC/kgを含み得、用量範囲を加えてもよい。最も非侵襲性の効力評価は、この疾患で上昇し、ERT後に部分的に修復する尿中GAGレベルである。導入遺伝子生着およびその発現レベルを、血清IDUAを測定することより判定する。尿中GAGはまた遺伝子療法の前後にも測定する。
【0077】
配列表フリーテキスト
以下の情報が、数値識別子<223>の下でフリーテキストを含む配列に対して提供される。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
「Z6622PCT_ST25.txt」と標識の付いた配列表は、電子形態で本明細書と共に提出されている。この配列表は、参照により本明細書に組み込まれる。2013年3月15日に出願された優先権出願米国特許出願第61/788,724号明細書を含む、本出願に引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれるように具体的かつ個々に指示されているかのように、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明は、理解が明瞭になるように、例示および実施例によってある程度詳細に記載されているが、特定の変更形態および改変形態が、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、それらになされ得ることは、本発明の教示に照らして、当業者には容易に明らかであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
【配列表】
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