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特許7553545機械的特性が改善されたPMMA系のキャストポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】機械的特性が改善されたPMMA系のキャストポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20240910BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
C08J9/04 102
C08J9/04 CEY
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022507616
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2020068757
(87)【国際公開番号】W WO2021023444
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】19190732.8
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス リヒター
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ザイペル
(72)【発明者】
【氏名】カイ ベアンハート
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-139433(JP,A)
【文献】特表2018-510248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60
C08J 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PMMA系キャストポリマーを製造するための組成物であって、前記組成物が1質量%~10質量%の尿素および/または尿素誘導体と、0.001質量%~2.0質量%の開始剤と、0質量%~20質量%の追加的な非重合性発泡剤と、0質量%~5質量%の連鎖移動剤と、前記組成物に本質的に溶解しない0.5質量%~10質量%の親水性無機化合物と、53質量%~98.498質量%のモノマー混合物とを含み、前記モノマー混合物が、60質量%~95質量%のMMAと、5質量%~40質量%のアクリル酸、メタクリル酸、および/またはイタコン酸と、尿素誘導体以外の0質量%~35質量%の追加的なMMA共重合性モノマーとからなり、前記親水性無機化合物が、メタノール/水混合物中のメタノールの30体積%未満のメタノール濡れ性を有し、かつ前記モノマー混合物が、スチレン、α-メチルスチレン、および/またはクロロスチレンを本質的に含まないことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、2質量%~8質量%の尿素および/または尿素誘導体と、0.002質量%~1.0質量%の開始剤と、0質量%~20質量%の追加的な非重合性発泡剤と、0質量%~5質量%の連鎖移動剤と、1質量%~8質量%の親水性無機化合物と、57質量%~96.999質量%のモノマー混合物とを含み、前記モノマー混合物が、70質量%~90質量%のMMAと、10質量%~30質量%のアクリル酸、メタクリル酸、および/またはイタコン酸と、尿素誘導体以外の0質量%~35質量%の追加的なMMA共重合性モノマーとからなることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記親水性無機化合物が、シリカ、金属酸化物、金属水酸化物、金属ケイ酸塩、タルカム、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記親水性無機化合物が、ASTM 690-1992に従って決定される5~1000nmの平均径d50を有することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記モノマー混合物が少なくとも0.01質量%の追加的なMMA共重合性モノマーを含み、これらのモノマーが、架橋剤、特にエチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、アリルメタクリレート、またはこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記尿素誘導体が、N-アルキル尿素、N,N’-ジアルキル尿素、2-イミダゾリドン、1-メチル-2-イミダゾリジノン、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記尿素誘導体が、MMA尿素誘導体、特にN-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素と少なくとも部分的に共重合可能であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記モノマー混合物が5質量%~10質量%のtert-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、および/またはイソプロピルアクリレートを含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物の重合によって得られる、PMMA系キャストポリマー。
【請求項10】
請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物が20℃~100℃の温度で重合されることを特徴とする、PMMA系キャストポリマーの製造方法。
【請求項11】
請求項記載のキャストポリマーの発泡によって、または請求項1からまでのいずれか1項記載の少なくとも部分的に重合された組成物の発泡によって得られる、PMMA系発泡体。
【請求項12】
前記発泡体が、DIN EN ISO 1183に従って決定される30kg/m~350kg/mの密度を有する、請求項11記載のPMMA系発泡体。
【請求項13】
請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物が20℃~100℃の温度で重合され、続いて130℃~250℃の温度で発泡されることを特徴とする、請求項11から12までのいずれか1項記載のPMMA系発泡体を製造するための方法。
【請求項14】
前記重合および発泡が少なくとも部分的に同時に行われることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合成分として尿素(誘導体)を使用し、充填剤として親水性無機化合物を使用する、スチレン含有量の低いPMMA系キャストポリマーを製造するための組成物に関する。本発明による組成物から、驚くほど高い機械的安定性を有するPMMA系のキャストポリマーおよび成形品を製造することが可能である。
【0002】
ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)発泡体は、文献に広く記載されているものの、これまで産業上の重要性はほとんど認められていない。その理由の1つは、たびたび説明されているが、非常に複雑なオートクレーブプロセスによる製造であり、このプロセスでは、オートクレーブ内で高圧下にて、例えばCOやNなどのガス状発泡剤をPMMAに充填し、その後、圧力の開放によって膨張させる。
【0003】
PMMAプラスチックは、様々なプロセスで製造することができる。これらのプロセスのうちの1つは、キャスト重合としても知られるチャンバー重合である。これは、シーリングロープによって互いに分離された2枚のガラス板の間の注入可能なモノマー溶液の熱的または光化学的重合を含む。このモノマー溶液は、少なくともモノマー(MMA)と重合開始剤とを含む。重合が完了した後、得られたポリマーからガラス板が取り除かれ、ポリマーシートが得られる。
【0004】
PMMA製のこれらのキャストポリマーは、約3000~3300MPaの弾性率を有する。
【0005】
キャスト重合では、コモノマーおよび添加剤を使用することも可能である。ここで使用可能なものは、原則として、それぞれのモノマー溶液に可溶性であり、かつMMAと共重合可能な全てのコモノマーである。
【0006】
このようにして得られるPMMA系ポリマーの機械的特性は、コモノマーの選択により特定の狭い範囲内で調整することができる。しかしながら、例えばこの方法で例えば4000MPaの値を超えて弾性率を増加させることができることは知られていない。
【0007】
ポリメチルメタクリルイミド(PMMI)は、PMMAに基づくポリマーであり、約4000MPaの弾性率を有する(例えばRoehm GmbH製のPleximid(登録商標)TT70)。しかしながら、このポリマーはキャスト重合によって製造することはできない。
【0008】
米国特許第4,816,492号明細書には、モノマー混合物が発泡剤の存在下で重合される、(メタ)アクリレート系発泡体の製造が記載されている。使用される発泡剤はハロゲン化炭化水素である。しかしながら、ハロゲン化炭化水素は、オゾン層に深刻な悪影響を及ぼすため、かなりの環境的制約を受けるという点で問題を有している。さらに、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、および塩素含有モノマーのみから製造された記載されている発泡体は、十分な圧縮強さを有していない。
【0009】
欧州特許第0068439号明細書には、発泡剤の存在下でのMMAの重合およびそれに続く発泡によるPMMA系発泡体の製造が開示されている。発泡体を得るために、アルキル基の中に少なくとも3つの炭素原子を有するメタクリル酸アルキルなどの可塑剤が5質量%~40質量%使用されている。発泡剤としての炭化水素および/またはハイドロフルオロカーボンの使用が報告されている。
【0010】
特開2006-045256号公報には、熱可塑性アクリル発泡体を製造するために、50質量%~70質量%のMMAと、14質量%~30質量%の(メタ)アクリル酸と、10質量%~20質量%のスチレンとを含むモノマー混合物、および発泡剤としての尿素を使用することが開示されている。
【0011】
同様に、特開2002-003635号公報には、熱可塑性アクリル発泡体を製造するために、50質量%~75質量%のMMAと、14質量%~27質量%の(メタ)アクリル酸と、10質量%~20質量%のスチレンとを含むモノマー混合物、および発泡剤としての尿素または尿素誘導体を使用することが記載されている。
【0012】
特開2013-203954号公報には、(a)無水マレイン酸およびメタクリルアミドを含む重合性モノマーと、尿素を含む発泡剤と、重合開始剤を含む重合性溶液とを準備する工程;(b)重合性モノマー混合物を重合する工程;およびその後の(c)工程(b)で得られた発泡性ポリマーを発泡させる工程;を含む、アクリル樹脂発泡体の製造方法が開示されている。発泡剤は、70℃~180℃の沸点を有するアルコールをさらに含む。具体的には、35質量%~60質量%のMMAと、14質量%~35質量%の(メタ)アクリル酸と、10質量%~20質量%のスチレンと、1質量%~10質量%の無水マレイン酸およびメタクリルアミドとを含む重合性モノマー混合物を使用することが提案されている。
【0013】
特許出願である特開2006-045256号公報、特開2002-003635号公報、および特開2013-203954号公報の全てには、重合性組成物中で少なくとも10質量%のスチレン含有量が記載されている。スチレンは「ヒトの発がん性物質であると合理的に予想される」ものであるとみなされている。そのため、可能であれば、ポリマー組成物中で使用されるスチレンモノマーの量は最小限まで減らされる。
【0014】
モノマー混合物の必須成分の1つとしてスチレンを使用すると、発泡剤として使用される尿素または尿素誘導体の溶解度が大幅に低下することが見出された。さらに、重合速度も低下する。加えて、スチレンは得られる発泡体の耐候性を低下させる。
【0015】
特開昭55-139433公報には、50質量%~96質量%のMMAと、コモノマーとしての4質量%~35質量%のアクリル酸および/またはメタクリル酸と、尿素発泡剤と、0.05質量%~4質量%の水とを含むアクリル発泡体の製造方法が記載されている。モノマー混合物中のスチレンモノマーの好ましい量は5質量%未満である。この特許出願は、アクリル発泡体またはそれを製造するためのキャストポリマーの機械的強度をさらに高めるための手段について言及も示唆もしていない。
【0016】
従来技術で開示されている全てのPMMA系発泡体に関して、特にサンドイッチ構造などの複合材料で使用するためには、その圧縮強さが一般に低すぎる。サンドイッチ複合材料のコア材料として使用するためには、機械的特性、特に圧縮強さは、サンドイッチ要素の製造プロセスおよびサンドイッチ要素の機械的特性に影響を与えるため、非常に重要である。
【0017】
課題
本発明が解決すべき課題は、従来技術で説明された欠点を示さないPMMA系発泡体を製造するための新規な方法を提供することであった。特に、製造後の発泡したPMMA系材料は、機械的応力に対して非常に耐性を有している必要がある。発泡体は特に非常に大きい圧縮強さを有している必要がある。さらに、このようなPMMA系発泡体は、低い密度、好ましくは30kg/m~350kg/mの密度を有している必要がある。
【0018】
本発明が解決すべきさらなる課題は、セルサイズ、セル分布、および発泡密度を規定することに関して高い自由度を可能にしながらも、容易に発泡可能なPMMA系キャストポリマーを提供することであった。そのような未発泡キャストポリマーは、非常に優れた機械的特性を示す必要がある。特に、PMMA系キャストポリマーは、室温で測定されて少なくとも4500MPaの弾性率を有している必要がある。
【0019】
本発明が解決すべきさらなる課題は、発泡体として、接着剤による接合、溶融、または表面での樹脂硬化によって、例えば外層の形態で、第2の材料に容易かつ簡単に接合することができる適切なPMMA系ポリマーを提供することであった。この目的のためには、得られるPMMA発泡体がサンドイッチ要素の製造に使用される樹脂系または接着剤と適合性を有していることも重要である。
【0020】
解決策
上記技術的課題は、PMMA系キャストポリマーおよび任意でそのPMMA系発泡体を製造するために使用できる新規な組成物によって解決される。
【0021】
とりわけ、入念な実験の過程で、驚くべきことに、モノマー混合物中に溶解しない親水性無機化合物が存在することにより、PMMA系キャストポリマーの機械的強度を大幅に増加できることが見出された。そのような親水性無機化合物とポリマーマトリックスとの優れた相溶性、およびそのような化合物の十分な分布を実現するために、スチレンまたはその誘導体の量を4質量%未満に減らす必要があった。
【0022】
本発明の対象は、PMMA系キャストポリマーを製造するための組成物であって、該組成物が、1質量%~10質量%の尿素および/または尿素誘導体と、0.001質量%~2.0質量%の開始剤と、0質量%~20質量%の追加的な非重合性発泡剤と、0質量%~5質量%の連鎖移動剤と、組成物に本質的に溶解しない0.5質量%~10質量%の親水性無機化合物と、53質量%~98.498質量%のモノマー混合物とを含み、該モノマー混合物が、60質量%~95質量%のMMAと、5質量%~40質量%のアクリル酸、メタクリル酸、および/またはイタコン酸と、4質量%未満のスチレン、α-メチルスチレン、および/またはクロロスチレンと、尿素誘導体以外の0質量%~35質量%の追加的なMMA共重合性モノマーとからなり、無機親水性化合物が、メタノール/水混合物中のメタノールの30体積%未満のメタノール濡れ性を有することを特徴とする、PMMA系キャストポリマーを製造するための組成物である。
【0023】
「メタノール濡れ性」という用語は、本発明の文脈においては、欧州特許第2515829号明細書に記載されているメタノール濡れ性の決定のために、それぞれの場合において0.2g(±0.005g)の疎水性または疎水化された粒子が透明な遠沈管の中に秤量されることを意味する。10体積%、20体積%、30体積%、40体積%、50体積%、60体積%、70体積%、または80体積%のメタノールを含むメタノール/水混合物8.0mlを各サンプルに添加する。管を30秒間振とうした後、2500分-1で5分間遠心分離する。メタノール濡れ性は、沈殿物の体積が100%であるメタノールの体積パーセントとして定義される。数値が大きいほど疎水性が高い。
【0024】
本発明の組成物の必須成分は、組成物に本質的に不溶性の親水性無機化合物である。親水性無機化合物は、シリカ、金属酸化物、金属水酸化物、金属ケイ酸塩、タルク、およびこれらの混合物からなる群から選択される。親水性無機化合物は5~1000nmの平均径d50を有する。
【0025】
粒径d50は、ASTM690-1992に従って決定される。
【0026】
「無機化合物」という用語は、本発明の文脈において、化合物の各分子中に最大で1個の炭素原子が存在することを意味する。したがって、本発明の文脈においては、SiCは無機化合物である一方で、Naはそうではない。
【0027】
「本質的に不溶性」という用語は、本発明の文脈において、組成物中で使用されるそのような親水性無機化合物の全量の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%が粒子状態のままであり、組成物中に少なくとも1時間存在した後でも組成物に溶解していないことを意味する。本発明の組成物の1つ以上の成分と反応する無機化合物は、「本質的に不溶性」ではない。したがって、酸化リチウムは、存在する(メタ)アクリル酸またはイタコン酸と反応するため、「本質的に不溶性」ではない。組成物の成分としての尿素および/または尿素誘導体の使用は、本発明の本質的な部分であり、他の特徴と組み合わせて、結果として得られたキャストポリマーおよびそれから製造される発泡体の機械的特性の著しい改善をもたらす。
【0028】
本発明による尿素の代替として組成物中に存在する尿素誘導体は、好ましくは、N-アルキル尿素、例えばN-メチル尿素、またはN,N’-ジアルキル尿素、例えばN,N’-ジメチル尿素、無置換若しくは置換2-イミダゾリドン、例えば2-イミダゾリドンまたはN,N-ジメチル2-イミダゾリドン、任意でさらに置換された1-メチル-2-イミダゾリジノンおよびその他の環状尿素誘導体である。
【0029】
さらなる実施形態では、尿素誘導体は、MMA尿素誘導体、特にN-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素と少なくとも部分的に共重合可能である。以降、全体の組成に関しての曖昧さを回避するために、MMA尿素誘導体と共重合可能であるようなものは、モノマー混合物の一部であるとはみなされない。
【0030】
PMMA系キャストポリマーを製造するための組成物は、1質量%~10質量%、好ましくは2質量%~8質量%、特に好ましくは3質量%~7質量%の尿素および/または尿素誘導体と、0.001質量%~2.0質量%、好ましくは0.002質量%~1.0質量%、特に好ましくは0.003質量%~0.5質量%の少なくとも1種以上の開始剤と、0質量%~20質量%の追加的な非重合性発泡剤と、0質量%~5質量%の連鎖移動剤と、0.5質量%~10質量%、好ましくは1質量%~8質量%、特に好ましくは2質量%~6質量%の親水性無機化合物と、53質量%~98.498質量%、好ましくは57質量%~96.999質量%、より好ましくは64.5質量%~95.997質量%のモノマー混合物とからなる。
【0031】
同様に、上記モノマー混合物は、60質量%~95質量%、好ましくは70質量%~90質量%、特に好ましくは75質量%~85質量%のMMAと、5質量%~40質量%、好ましくは10質量%~30質量%、特に好ましくは15質量%~25質量%のアクリル酸、メタクリル酸、および/またはイタコン酸と、4質量%未満、好ましくは2質量%未満、特に好ましくは1質量%未満のスチレン、α-メチルスチレン、および/またはクロロスチレンと、0質量%~35質量%、好ましくは0質量%~20質量%、特に好ましくは0質量%~10質量%、非常に特に好ましくは少なくとも0.1質量%の、尿素誘導体以外の追加的なMMA共重合性モノマーとからなる。
【0032】
特に好ましくは、本発明による組成物は、2質量%~8質量%の尿素および/または尿素誘導体と、0.002質量%~2.0質量%の開始剤と、0質量%~20質量%の追加的な非重合性発泡剤と、0質量%~5質量%の連鎖移動剤と、1質量%~8質量%の親水性無機化合物と、57質量%~96.998質量%のモノマー混合物とからなり、モノマー混合物は、70質量%~90質量%のMMAと、10質量%~30質量%のアクリル酸、メタクリル酸、および/またはイタコン酸と、4質量%未満のスチレン、α-メチルスチレン、および/またはクロロスチレンと、尿素誘導体以外の0質量%~35質量%のMMA共重合性モノマーとからなる。
【0033】
特に好ましくは、モノマー混合物は、スチレン、α-メチルスチレン、および/またはクロロスチレンを本質的に含まない。すなわち、スチレン、α-メチルスチレン、および/またはクロロスチレンの量は、モノマー混合物の0.1質量%未満、さらに好ましくは0.01質量%未満である。
【0034】
スチレンと任意選択的なマレイン酸誘導体とを含むPMMA系発泡体は機械的に非常に安定であることが証明されているものの、スチレンの比率は発泡体と特定の樹脂との非相溶性につながることがわかっている。したがって、本発明による組成物から製造される発泡体は、好ましくはスチレンおよびマレイン酸誘導体を含まない。
【0035】
モノマー混合物中の任意選択的な追加的なMMA共重合性モノマーは、架橋剤であってよい。そのような架橋剤は、特にエチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、および/またはアリルメタクリレートであってよい。さらなる代替物は、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート、またはテトラ(メタ)アクリレートである。存在するあらゆる架橋剤は、これらの架橋剤のうちの少なくとも2種を含む混合物であってもよい。しかしながら、好ましくは高度の共有結合架橋は望ましくない。
【0036】
本発明の組成物中に存在するモノマー混合物は、好ましくは、少なくとも0.1質量%の追加的なMMA共重合性モノマーを含み、これらは、架橋剤、特にエチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、アリルメタクリレート、またはこれらの混合物である。
【0037】
追加的な任意選択的なMMA共重合性モノマーは、アルキルアクリレートであってよい。これらのアルキルアクリレートは、好ましくは、アルキルラジカル中に1~8個の炭素原子を有するアルキルアクリレート、特に好ましくはエチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、またはn-ブチルアクリレートである。ポリマー中の繰り返し単位としてのアクリレートは、特に前記ポリマーの熱安定性を増加させる。
【0038】
MMAに加えて任意選択的に存在するモノマーは、MMA以外のアルキルメタクリレートも、または追加的に含み得る。そのようなアルキルメタクリレートは、特に、アルキルラジカル中に2~8個の炭素原子を有するものである。特に、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、または2-エチルヘキシルメタクリレートが好ましい。
【0039】
このカテゴリーのさらに有利に使用可能なモノマーは、特にヒドロキシル官能性アルキル(メタ)アクリレートである。これらは、好ましくは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートである。
【0040】
モノマー混合物は、好ましくは、5質量%~10質量%のtert-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、および/またはイソプロピルアクリレートを含む。
【0041】
モノマー混合物は、任意選択的に、アルキル基中に1~12個の炭素原子を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミドを含んでよく、MMA共重合性モノマーとしてのメタクリルアミドまたはN,N-ジアルキルメタクリルアミドを含まなくてよい。N-アルキル(メタ)アクリルアミドは、特に好ましくは、N-メチロールメタクリルアミド、2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド、またはN-イソプロピルメタクリルアミド、特に好ましくはN-イソプロピルメタクリルアミドである。
【0042】
そのようなN-アルキル(メタ)アクリルアミドは、例えば後に外層と接合してサンドイッチ構成要素または他の複合材料が得られるという点で大きな利点を伴い、かつ接着剤結合、溶接、または表面樹脂硬化に関して全体としてさらに優れた加工性を伴う。これは、本発明の発泡体がスチレンもマレイン酸誘導体も含まない場合に特に当てはまる。
【0043】
本発明の組成物中に任意選択的に存在する連鎖移動剤は、好ましくは、1~5個のメルカプタン基を有する化合物、γ-テルピネン、またはこれらの連鎖移動剤のうちの少なくとも2種の混合物である。連鎖移動剤は、特に好ましくは、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート、2-メルカプトエタノール、2~12個の炭素原子を有するアルキルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコレート、γ-テルピネン、またはこれらの連鎖移動剤のうちの少なくとも2種の混合物である。
【0044】
尿素または尿素誘導体以外の特に適切な非共重合性発泡剤は、好ましくは、n-ヘプタン、MTBE、メチルエチルケトン、1~4個の炭素原子を有するアルコール、例えばtert-ブタノール、水、メチラール、および/またはtert-ブチルメチルエーテルである。
【0045】
組成物は、追加的な成分も含むことができる。これらの追加的な成分の例としては、離型剤、ワックス、顔料、安定剤、特にUV安定剤、および/または接着促進剤が挙げられる。
【0046】
本発明のさらなる目的は、本発明による組成物の重合によって得られるPMMA系キャストポリマーである。
【0047】
本発明の別の目的は、PMMA系キャストポリマーを製造するための方法であり、この中で、本発明による組成物は、上述した通り、20℃~100℃の温度で重合される。
【0048】
任意選択的には、組成物の全体または組成物の一部は、重合の開始時に最大80質量%の程度までポリマーおよび/またはオリゴマーの形態であってよい。これは「シロッププロセス」として知られているものであり、以降で詳しく説明する。
【0049】
オリゴマーまたはポリマーを使用する場合、重合はいわゆるシロップ重合であり、これは特に2枚のプレート間のキャストプロセスで有用であることが示されている。そのようなシロップ重合の終わりに、発泡に関連する影響なしにキャストポリマーまたは成形品またはそれから製造された発泡体中に、異なる組成を有する2種のPMMAが混合物として同時に存在し得る。
【0050】
重合プロセスは、好ましくは塊状重合の形態で、20℃~100℃、好ましくは30℃~70℃の温度で行われる。
【0051】
本発明のさらなる目的は、本発明のキャストポリマーの発泡によって、または本発明による少なくとも部分的に重合された組成物の発泡によって得られる、PMMA系発泡体である。
【0052】
PMMA系発泡体は、好ましくは、DIN EN ISO 1183(発行:2013-04)に従って決定される30kg/m~350kg/m、特に好ましくは50~300kg/mの密度を有する。
【0053】
本発明の別の目的は、本発明によるPMMA系発泡体の製造方法であり、本発明の組成物は20℃~100℃の温度で重合され、続いて130℃~250℃の温度で発泡される。
【0054】
発泡は、好ましくは、使用される発泡剤に応じて、130℃~250℃、より好ましくは150℃~230℃の温度で行われる。
【0055】
重合および/または発泡は、好ましくは、異なる温度で段階的に行われる。その代わりに、または加えて、重合および発泡を少なくとも部分的に同時に実施することが可能である。
【0056】
そのような同時運転形式では、プロセスは、任意で、特に重合が不完全にのみ行われるように行うことができ、この場合は好ましくは少なくとも80%の転化率まで重合を行い、最終重合は発泡中に行われる。このようなプロセスには、発泡処置の開始時に残留しているモノマーが可塑化効果を有し、完成した発泡体中には可塑化化合物が残らないという利点がある。したがって、そのような実施形態では、重合および発泡は、1つの発泡温度で部分的に同時に行われるであろう。
【0057】
重合は、好ましくは、形状を付与する容器内で、特に2枚のプレート、例えばガラスプレート間でのチャンバー重合の形で行われる。最も単純な場合では、例えば長方形の槽が関与する場合がある。そのような槽の中での重合は、後に、タンク内の充填レベル/プレート間隔によって厚さが決定されるシートが得られる。ただし、容器についてはより複雑な形状も考えられる。重合は、好ましくは30℃~70℃の温度で行われる。使用可能な開始剤には、例えば過酸化物やアゾ開始剤などの周知のフリーラジカル開始剤のみならず、レドックス系またはUV開始剤も含まれる。
【0058】
特にこれらのレドックス系およびUV開始剤には、40℃未満の重合温度が適用される。UV開始剤は、適切なUV光の照射によって開始される一方で、レドックス開始剤は、2つの成分とモノマーとを混合することによって開始される2成分系を含む。
【0059】
発泡は、その後、同じ容器内で行うことができる。その場合、体積の増加は、容器の開放側である一方向に制限される。しかしながら、重合した材料は、囲いなしで、または懸濁された形で発泡させることもできる。発泡は、好ましくはオーブン内で行われる。代替形態として、IR放射、特に0.78~2.20μmの範囲、好ましくは1.20~1.40μmの範囲の波長を有する放射を照射することによって発泡させることも可能である。さらなる代替手段としてはマイクロ波による発泡が挙げられる。IR放射、マイクロ波、および/またはオーブン中での加熱など、異なる方法の組み合わせも考えられる。
【0060】
発泡および重合は、それぞれ前述した複数の温度段階で実施することができる。重合の後半で温度を上げて転化率をさらに高め、それによって残留モノマー含有量を低減することができる。セルの分布、セルのサイズ、およびセルの数に影響を与えるために、発泡中に発泡温度を段階的に上げることができる。
【0061】
驚くべきことに、本発明による組成物を使用して、室温で測定した場合に4500MPaを超える弾性率を有するPMMA系ポリマーを得ることが可能であることが見出された。比較すると、純粋なPMMAキャストポリマーは2800~3300MPaの範囲の弾性率を有する。
【0062】
本発明により製造されたPMMA系発泡体は、驚くほど低い脆性と共に驚くほど高い強度を備えており、したがって、例えば、軽量構造に有用な可能性がある。さらに、優れた材料特性のため、例えば比較的長鎖のアルキル(メタ)アクリレートまたはフタル酸エステルなどの可塑剤を使用する必要がない。これらは、これまでの知識によれば、流動性または発泡性に対してはプラスの影響を与えるものの、それと同時にPMMA発泡体の機械的特性、特に強度に悪影響を及ぼす。
【0063】
従来技術に記載されているものと同じセル構造に関し、X>Yの場合に、弾性率Xを有するポリマーから製造された発泡体は、弾性率Yを有するポリマーから製造された発泡体よりも優れた機械的特性を示すことが見出された。したがって、ポリマーの高い弾性率は、優れた機械的特性の発泡体を得るための前提条件である。
【0064】
本発明により製造されたPMMA系キャストポリマーは、様々な異なる用途で使用することができる。そのような用途の例としては、広告材料における、フィルム製造のための、建築構造物の要素における、照明用途のディフューザーとしての、家具構造物における、造船における、車両構造物における、航空宇宙産業における、またはモデル建造物における、充填されたまたは透明の成形品やグレージングが挙げられる。前記ポリマーが同様に本発明のPMMA発泡体を製造するために使用される場合が特に好ましい。
【0065】
本発明により製造されたPMMA系発泡体は、非常に多種多様な用途を見出すこともできる。そのような用途の例は、風力発電所のブレードにおける、造船および海底用途における、軽量構造物における、包装材料としての、衝突要素のエネルギー吸収材としての、建築構造物の要素における、照明用途のディフューザーとしての、家具構造物における、車両構造物における、航空宇宙産業における、またはモデル建造物における、耐候性断熱材料やサンドイッチ複合材料のコア材料である。
【0066】
実施例
PMMAポリマーは、キャストプロセスで製造した。この目的のために、離して保持されており、シーリングテープ(厚さ13mm)でシールされた2枚のガラス板(400×300mm)からなるガラスチャンバーにモノマー溶液を充填した。
【0067】
モノマー溶液を製造するために、以下に記載の配合(表1~4)に従って成分を一緒に添加し、全ての成分が溶解するまで撹拌した。
【0068】
このようにして製造され充填されたガラスチャンバーを、重合のために40℃の水浴の中で保管した。約27時間後、ガラスチャンバーを115℃で最終重合させた。その後、ガラス板とシーリングロープを取り外した。全ての場合で硬い半透明のポリマーが得られた。
【0069】
親水性無機化合物としてAEROSIL(登録商標)OX50(メーカー:Evonik Resource Efficiency GmbH)を使用した。
【0070】
ポリマーの弾性率を決定するための引張試験は、Zwick/Roell Z030装置を使用して行った。測定は23℃、湿度50%の標準条件で行った。サンプルは、測定前に同一条件(23℃-湿度50%)で少なくとも16時間保管した。結果を表5に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
表5は、実施例1および比較例1~3で製造されたポリマーの弾性率の測定結果を示している。発泡剤としての尿素および充填剤としてのシリカを使用せずに製造したポリマー(比較例2)は、最も低い弾性率を示す。尿素とシリカの両方を使用するがスチレンを使用しない場合(実施例1)が最も優れた結果を示す。尿素、シリカ、およびスチレンを使用すると、実施例1よりも結果が悪くなり(比較例1)、シリカを使用せずに尿素を使用する場合(比較例3)も同様である。