(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】腎機能障害を予防または治療するための組成物の製造におけるペディオコッカス・アシディラクティシGKA4の使用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240910BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20240910BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240910BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240910BHJP
【FI】
C12N1/20 E
A61K35/744
A61P13/12
A23L33/135
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023060896
(22)【出願日】2023-04-04
【審査請求日】2023-04-18
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03311
【微生物の受託番号】FIRDI BCRC 910876
(73)【特許権者】
【識別番号】517344446
【氏名又は名称】葡萄王生技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】陳 勁初
(72)【発明者】
【氏名】陳 炎錬
(72)【発明者】
【氏名】林 詩偉
(72)【発明者】
【氏名】王 啓憲
(72)【発明者】
【氏名】蔡 侑珊
(72)【発明者】
【氏名】侯 毓欣
(72)【発明者】
【氏名】林 子淳
(72)【発明者】
【氏名】石 仰慈
(72)【発明者】
【氏名】林 静▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 雅君
(72)【発明者】
【氏名】江 佳琳
(72)【発明者】
【氏名】呉 姿和
(72)【発明者】
【氏名】陳 彦博
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0064885(US,A1)
【文献】特開2008-044945(JP,A)
【文献】Nutrients,2022年07月13日,vol. 14, no. 14,article no. 2877 (pp. 1-20)
【文献】Hans J Food Nutr Sci,2022年02月09日,vol. 11, no. 1,pp. 44-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4および/またはその活性物質の、腎機能障害を予防または治療するための組成物の製造における使用であって、前記ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4は、中華民国食品工業発展研究所の生物資源保存研究センターに受託番号BCRC910876で寄託されて
おり、
前記ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4の前記活性物質は、以下のステップ:
(a)前記ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4の菌体を固体培養用固形培地に接種してコロニーを形成するステップ;
(b)ステップ(a)で培養された前記コロニーを液体培養用液体培地に接種して、細菌細胞を含有する液体培地を得るステップ;
(c)ステップ(b)の前記細菌細胞を含有する液体培地を発酵槽に接種して液体増幅し、菌液を得るステップ;
(d)ステップ(c)の前記菌液を遠心分離して細菌スラッジを得るステップ;および
(e)ステップ(d)の前記細菌スラッジを凍結乾燥して細菌粉末を得るステップ、
によって調製され、
前記液体培地は、0~10重量%の炭素源、0.1~5重量%の豆乳、0.1~5重量%の窒素源、0.01~2重量%のイオンを含み、かつ残りは水であり、pH値はpH5.5~6.5である、使用。
【請求項2】
前記組成物は、0.05~25g/60kg体重/日の有効量で対象に投与される、請求項
1に記載の使用。
【請求項3】
前記腎機能障害は急性腎障害(AKI)を指す、請求項
2に記載の使用。
【請求項4】
前記腎機能障害を予防することまたは治療することは、前記組成物の投与後の対象の血清中の血中尿素窒素(BUN)の濃度が、同組成物の投与前の濃度よりも低いことを意味する、請求項
1に記載の使用。
【請求項5】
前記腎機能障害を予防することまたは治療することは、前記組成物の投与後の対象の血清中のクレアチニン(Cr)の濃度が、同組成物の投与前の濃度より低いことを意味する、請求項
1に記載の使用。
【請求項6】
前記腎機能障害を予防することまたは治療することは、前記組成物の投与後の対象の腎指数が同組成物の投与前のものより低いことを意味し、前記腎指数は、前記対象の体重に対する同対象の腎臓重量の割合(%)を指す、請求項
1に記載の使用。
【請求項7】
腎組織の壊死は、近位尿細管の壊死および硝子円柱の異常な外観を指す、請求項
1に記載の使用。
【請求項8】
前記腎機能障害を予防することまたは治療することは、前記組成物の投与後の対象の腎組織の壊死の程度が、同組成物の投与前より低いことを意味する、請求項
1に記載の使用。
【請求項9】
前記腎機能障害は癌治療薬によって引き起こされる、請求項
1に記載の使用。
【請求項10】
前記癌治療薬はシスプラチンである、請求項
9に記載の使用。
【請求項11】
前記凍結乾燥の温度は-196℃~-40℃の範囲である、請求項
1に記載の使用。
【請求項12】
前記組成物は、賦形剤、保存剤、希釈剤、充填剤、吸収促進剤、甘味剤またはそれらの組合せからなる群から選択される添加剤を含む、請求項
1に記載の使用。
【請求項13】
前記組成物は、医薬品、飼料、飲料、栄養補助食品、乳製品、食品または健康食品である、請求項
1に記載の使用。
【請求項14】
前記組成物が、散剤、錠剤、坐剤、マイクロカプセル、アンプル、液体スプレーまたは坐剤の形態である、請求項
13記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に関し、より詳細には、腎機能障害を予防または治療するための組成物の製造におけるペディオコッカス・アシディラクティシGKA4の使用、その培地およびその培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シスプラチンが細菌細胞分裂を阻害できることが1960年代に偶然発見され、その後、腫瘍を治療するための化学療法薬において世界的に最も不可欠な薬物の1つになった。癌細胞の阻害におけるシスプラチンの機構は完全に理解されてはいないが、現在の実験によって確認された機構には、シスプラチンとデオキシリボ核酸(DNA)との交差結合が含まれ、これは、DNAの複製および合成の進行を妨げるものである。したがって、癌細胞などの急速に分裂する細胞において、シスプラチンはDNAに対する損傷を引き起こす可能性がある。その化学療法活性にもかかわらず、心臓、肝臓、脳、脾臓を含む人体のいくつかの重要な器官におけるこの分子の毒性、そして腎組織における最も顕著な有害作用が異なる研究によって報告されている。
【0003】
しかしながら、現在でもシスプラチンは、いくつかの癌に対して選択される唯一の薬物のままである。シスプラチン投与によって引き起こされる腎機能不全または腎毒性は、いくつかの様式に分類されるものであるが、そのうち、急性腎障害(AKI)は、患者の30%超において問題であることが見出されている。AKIの一般的かつ重篤な病態生理学的状態は、ショック、虚血-再灌流、敗血症などであり、これらは腎臓機能の急速な低下および広範な腎尿細管損傷によって分類され得るものであり、非常に高い死亡率を有する。
【0004】
腎臓におけるシスプラチンの高濃度の分布および長期蓄積は、様々な程度の腎障害をもたらし得る。シスプラチン腎毒性の病理学的メカニズムは主に2つの態様に分けられる:第1の態様は、糸球体濾過量を減少させ、血清中のクレアチニン(Cr)および血中尿素窒素(BUN)の含有量を増加させることであり;第2の態様は、腎近位尿細管上皮細胞の虚血およびさらには壊死である。組織病理学的分析では、シスプラチンが腎組織構造に深刻な損傷を与え、広範な領域の壊死、細胞の配列の緩み、刷子縁の消失、糸球体の明らかな萎縮、および腎尿細管液胞の変性をもたらし得ることが見出されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
癌治療後の腎臓への回復不能な損傷を回避するために、腎臓を保護するための組成物および腎臓を保護するための方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本開示は、中華民国の食品工業発展研究所(Food Industry Research and Development Institute)の生物資源保存研究センター(Bioresource Collection and Research Center)に寄託され、受託番号がBCRC 910876であるペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)GKA4を提供する。
【0007】
本開示の別の目的によれば、スクロース、酵母抽出物またはそれらの組み合わせを含む、ペディオコッカス・アシディラクティシを培養するための培養培地が提供される。
本開示のさらなる目的によれば、ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4および/またはその活性物質の、腎機能障害を予防または治療するための組成物の製造における使用であって、同Pediococcus acidilactici GKA4は、中華民国の食品工業発展研究所の生物資源保存研究センターに受託番号BCRC 910876で寄託されている、使用が提供される。
【0008】
好ましくは、組成物は、0.05~25g/60kg体重/日の有効量で対象に投与される。
好ましくは、腎機能障害は急性腎障害(acute kidney injury)(AKI)を指す。
【0009】
好ましくは、腎機能障害を予防することまたは治療することは、組成物の投与後の対象の血清中の血中尿素窒素(BUN)の濃度が、同組成物の投与前よりも低いことを意味する。
【0010】
好ましくは、腎機能障害を予防することまたは治療することは、組成物の投与後の対象の血清中のクレアチニン(Cr)の濃度が、同組成物の投与前よりも低いことを意味する。
【0011】
好ましくは、腎機能障害を予防することまたは治療することは、組成物の投与後の対象の腎指数が組成物の投与前のものより低いことを意味し、ここで、腎指数は、対象の体重に対する対象の腎臓重量のパーセンテージを指す。
【0012】
好ましくは、腎組織の壊死は、近位尿細管の壊死および硝子円柱(hyaline cylinders)の異常な外観を指す。
好ましくは、腎機能障害を予防することまたは治療することは、組成物の投与後の対象の腎組織の壊死の程度が、前記組成物の投与前より低いことを意味する。
【0013】
好ましくは、腎機能障害は癌治療薬によって引き起こされる。
好ましくは、癌治療薬はシスプラチンである。
好ましくは、乳酸菌の活性物質は、以下のステップ:
(a)前記乳酸菌の細菌細胞を固体培養用固形培地に接種してコロニーを形成させるステップと;
(b)ステップ(a)で培養されたコロニーを液体培養用液体培地に接種して、細菌細胞を含有する液体培地を得るステップと;
(c)ステップ(b)の細菌細胞を含む液体培地を発酵槽に接種して液体増幅し、菌液を得るステップと;
(d)ステップ(c)の菌液を遠心分離して細菌スラッジを得るステップと;
(e)ステップ(d)の細菌スラッジを凍結乾燥して細菌粉末とするステップと、
によって調製される。
【0014】
好ましくは、凍結乾燥の温度は-196℃~-40℃の範囲である。
好ましくは、組成物は、賦形剤、保存剤、希釈剤、充填剤、吸収促進剤、甘味剤またはそれらの組合せからなる群から選択される添加剤を含む。
【0015】
好ましくは、組成物は、医薬品、飼料、飲料、栄養補助食品、乳製品、食品または健康食品である。
好ましくは、組成物は、散剤、ロゼンジ、坐剤、マイクロカプセル、アンプル、液体スプレーまたは坐剤の形態である。
【発明の効果】
【0016】
上記の技術的特徴により、本開示によって提供されるペディオコッカス・アシディラクティシGKA4及びそれを含む組成物は、腎機能障害を予防又は治療する効果を達成することができる。同時に、本開示によって提供されるGKA4の培地、培養方法および使用に基づいて、GKA4を製造および産生する目的を達成することができ、シスプラチンによって引き起こされる急性腎障害を予防する効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】血清中の血中尿素窒素に対するペディオコッカス・アシディラクティシGKA4の影響を示す図である。
【
図2】血清中のクレアチニンに対するペディオコッカス・アシディラクティシGKA4の効果を示す図である。
【
図3】ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4が、シスプラチンによって引き起こされる腎指数増加を減少させることを示す。
【
図4】ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4がシスプラチンによる腎多病巣性尿細管壊死(renal multifocal tubular necrosis)を低減させることを示す、実験動物の屠殺後の腎尿細管壊死の組織染色図である。
【
図5】ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4が、シスプラチンによって引き起こされる腎臓壊死の程度を低減させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に記載の「腎機能障害」は、腎臓の異常な排泄機能を指す。一実施形態において、腎機能障害は、腎機能の生化学的指標が一般的な基準範囲外であること(腎機能が低いことを示す)を意味する。好ましい実施形態において、腎機能の生化学的指標は、血清中の血中尿素窒素(BUN)の濃度、血清中のクレアチニン(Cr)の濃度、腎指数、腎組織の壊死の程度、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、インターロイキン-18(IL-18)、腎障害分子-1(KIM-1)および血清システインタンパク質阻害剤(シスタチンC)を指す。
【0019】
一実施形態において、腎機能障害は、高い死亡率を有する「急性腎障害」を指す。「急性腎障害」の診断上の定義は、48時間以内の0.3mg/dL以上の血清クレアチニンの増加、または48時間以内の50%以上の血清クレアチニンの増加率(%)、または6時間にわたる0.5mL/kg/hr未満の尿量低下である。
【0020】
癌の治療には、外科的治療、放射線療法および化学療法が含まれる。本明細書において記載されている「癌を治療するための薬物」とは、化学療法に用いられる薬剤を指す。好ましい実施形態において、腎臓に対して毒性を引き起こす化学薬剤は、白金イオン調製物のシスプラチン、アルキル化剤のシクロホスファミド、亜硝酸尿素のカルムスチン(BCNU)、マイトマイシンC等の抗生物質を含む。一実施形態において、「癌を治療するための薬物」は、シスプラチンを指す。
【0021】
本明細書で使用される「予防」または「予防する」は、個体が疾患、障害、または有害な状態を発症するのを予防することを指す。一実施形態において、本明細書における「予防」または「予防すること」は、患者が腎機能障害の症状を有していない場合に、患者における腎機能障害の症状の発生を回避することを指す。本明細書で使用される場合、「治療」または「治療すること」は、対象における疾患、障害、または有害症状を排除、終結、または低減するプロセスを指す。好ましい実施形態において、本明細書で言及される「治療」または「治療すること」は、腎機能障害の症状が生じた場合に患者の腎機能障害の症状を軽減すること;または腎機能障害の症状を経験した患者については、腎臓機能があるレベルに戻った後に腎臓機能を維持または改善することを指す。
【0022】
本明細書に記載される「細菌細胞」は、本開示で使用されるペディオコッカス・アシディラクティシの様々な培養段階におけるペディオコッカス・アシディラクティシ自体の構造(structure)を指す。一実施形態において、細菌細胞は、ペディオコッカス・アシディラクティシの完全または部分構造を指す。好ましい実施形態において、細菌細胞は、単一の細菌の分裂および繁殖によって形成されるペディオコッカス・アシディラクティシ群のコロニーを指す。好ましい実施形態において、培養段階は、固体状態培養、液体培養、または発酵槽における接種の液体状態スケールアップを指す。
【0023】
本明細書に記載の「活性物質」は、特定の実験ステップを通して処理された後の本開示で使用されるペディオコッカス・アシディラクティシ細菌細胞、または細菌細胞と培養培地もしくは培養液との混合物から選択される物質を指す。一実施形態において、活性物質は、遠心分離された細菌スラッジ、凍結乾燥された細菌粉末または溶媒抽出された抽出物を指す。好ましい実施形態において、活性物質は、細菌細胞を含有する固形培地、細菌細胞を含有する液体培地、または発酵槽中で液体状態増幅後の細菌液を指す。
【0024】
シスプラチンは、特定の種類の癌の化学療法において不可欠な薬物であるが、患者の多数の臓器に対して毒性を引き起こす可能性があり、その中でも腎臓機能に対する損傷が最も重大である。腎機能障害のうち、急性腎障害は、死亡率が高く、初期診断が困難であるため、最も難治性である。これに関して、臨床癌治療において、ラクトバチルスまたはその活性物質は、腎機能障害の複数の生化学的指標を有意に減少させて、シスプラチンによって引き起こされる急性腎機能障害を効果的に軽減できることが期待される。
【0025】
腎機能障害を予防または治療するために、本開示は、腎機能障害を予防するまたは治療するための組成物の製造のためのペディオコッカス・アシディラクティシGKA4および/またはその活性物質の使用を開発した。好ましい実施形態において、上記ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4は、受託番号BCRC910876で中華民国食品工業発展研究所の生物資源保存研究センターに寄託されている。
【0026】
菌株の固体培養に関して、ペディオコッカス・アシディラクティシの細菌を固体培養用固形培地に接種して、細菌を活性化し、コロニーを形成させる。好ましい実施形態において、固体培養の温度は、30~55℃、より好ましくは32~45℃の範囲である。好ましい実施形態において、固体培養の時間は、0.5~3日、より好ましくは1~2.5日の範囲である。好ましい実施形態において、固形培地はMRS寒天である。
【0027】
液体培養に関しては、固形培地上でのコロニー増殖が完了した後、単一コロニーを採取し、MRS液体培地を含有する試験管に接種し、液体培養によって活性化させる。好ましい実施形態において、MRS液体培養の温度は30~55℃、より好ましくは32~45℃である。好ましい実施形態において、MRS液体培養の時間は12~25時間であり、より好ましくは20時間である。好ましい実施形態において、液体培養のpH値は、pH5.0~7.0、より好ましくはpH5.5~6.5である。好ましい実施形態において、液体培地の配合を以下の表1に示す。
【0028】
【0029】
発酵培養に関し、MRS液体培地中の細菌を、1リットルの液体培養液を含む三角フラスコに接種した。液体培地中での細菌の増殖が完了した後、細菌および液体培地を発酵槽に接種し、液体増幅(liquid amplification)を行い、細菌細胞含有液を得る。好ましい実施形態において、発酵槽における培養温度は、30~55℃、より好ましくは35~39℃である。好ましい実施形態において、発酵槽における培養時間は16~20時間であり、より好ましくは17~19時間である。
【0030】
細菌粉末の調製に関して、液体培養における細菌の増殖が完了した後、細菌を含有する液体培地の菌液が回収される。次に、菌液を遠心分離して発酵に使用した液状培地を除去し、細菌スラッジを得る。好ましい実施形態において、細菌を含有する液体培地の遠心分離速度は、1000rpm~15000rpm、好ましくは5000rpm~7000rpmである。得られた細菌スラッジを保護剤と混合した後、凍結乾燥して細菌粉末を得、凍結乾燥後に低温で保存する。好ましい実施形態において、保護剤は、1%~30%の脱脂粉乳、好ましくは3~10%の脱脂粉乳である。好ましい実施形態において、貯蔵温度は、-30℃~0℃、より好ましくは-25℃~-15℃である。保存された細菌粉末は、以下の動物実験において試験物質として使用される。
【0031】
本開示において、ペディオコッカス・アシディラクティシの細菌およびその活性物質を含む組成物は、添加剤をさらに含む。好ましい実施形態において、添加剤は、賦形剤、保存剤、希釈剤、充填剤、吸収促進剤またはそれらの組合せであり得る。賦形剤は、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、スクロースまたはそれらの組合せから選択され得る。防腐剤、例えばベンジルアルコール、パラベンは、医薬組成物の貯蔵寿命を延長することができる。希釈剤は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンまたはそれらの組合せから選択することができる。充填剤は、ラクトース、ガラクトース、高分子量のポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせから選択され得る。吸収促進剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ラウロカプラム(laurocapram)、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、またはそれらの組み合わせから選択され得る。甘味剤は、アセスルファムK、アスパルテーム、サッカリン、スクラロース、ネオテームまたはそれらの組み合わせから選択され得る。上記に列挙した添加剤に加えて、組成物の薬効に影響を及ぼさない限り、他の適切な添加剤を必要に応じて選択して使用することができる。
【0032】
本組成物は、医療分野において様々な商品に開発することができる。好ましい実施形態において、組成物は、医薬、飼料、飲料、栄養補助食品、乳製品、食品または健康食品である。
【0033】
本組成物は、レシピエントの必要性に応じて異なる形態をとることができる。好ましい実施形態において、組成物は、散剤、錠剤、顆粒剤、坐剤、マイクロカプセル、アンプル(ampoule)/アンプル(ampule)、液体スプレーまたは坐剤の形態である。
【0034】
本開示の組成物は、動物またはヒトにおいて使用することができる。ペディオコッカス・アシディラクティシの活性物質の効果に影響を及ぼさないという前提で、ペディオコッカス・アシディラクティシの活性物質を含有する組成物は、任意の薬物形態に作製され得、薬物形態に従って適切な方法で動物またはヒトに投与され得る。本発明の組成物の形態によれば、適切な用量の組成物が、所定の時点で適切な経路を介して対象に投与される。
【0035】
好ましい実施形態において、投与経路は、経口投与、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などを含む。好ましい実施形態において、所定の時点は、毎食、毎日、および毎週を含む。
【0036】
本明細書において記載されている「有効量」とは、上述した腎臓保護効果を発揮するのに十分な使用量を指す。
インビトロ細胞培養実験における有効量に関して、各培養において使用される細胞培養培地の総体積は、「μg/ml」として定義される。動物実験において、有効量は「g/60kg体重/日」として定義される。以下の計算式により、インビトロ細胞培養実験から得られた有効量を動物に対する有効量に変換することができ、動物に対する有効量を代謝率に従ってヒトに対する有効量に変換することができる。
【0037】
I.一般に(Reagan-Shaw他,2008)、1「μg/ml」単位(インビトロ細胞培養実験から得られた有効量に基づく)は、1「mg/kg体重/日」単位(マウスモデル実験から得られた有効量に基づく)に相当し得る。マウスの代謝率がヒトの12.3倍であるという事実に基づいて、ヒトに対する有効用量をさらに得ることができる。
【0038】
II.以下の試験結果によれば、マウス試験に基づく有効量は250mg/kg体重/日であり、ヒトに対する有効投与量は、上記の換算式により約2420mg/60kg体重/日である。
【0039】
好ましい実施形態において、組成物中に含有されるペディオコッカス・アシディラクティシまたは活性物質の有効量は、1~5g/60kg体重/日、好ましくは2~3g/60kg体重/日である。
【実施例】
【0040】
以下、具体的な実施例を通じて本開示の腎臓を保護するための組成物を説明する。
実施例1:菌株源
本開示の実施例において試験物質を調製するために使用される菌株は、食品工業発展研究所の生物資源保存研究センターから購入した。本開示で使用される菌株は、ペディオコッカス・アシディラクティシのGKA4菌株であり、これは、食品工業発展研究所の生物資源保存研究センターにBCRC910876として寄託されたものである。しかしながら、本開示に記載される菌株は、そのような供給源から得られるものに限定されず、当業者は、他の微生物株保存ユニットからペディオコッカス・アシディラクティシの菌株を得ることもできる。
【0041】
実施例2:菌株の培養
ペディオコッカス・アシディラクティシの菌体を固体培地であるMRS寒天に接種し、37℃で2日間固体培養して菌体を活性化してコロニー形成を行った。MRS寒天培地上でのコロニーの増殖が完了した後、単一のコロニーを採取し、MRS液体培地を含有する試験管に接種し、液体状態で37℃で16時間培養して活性化し、次いで、三角フラスコ中、pH値6.0の1リットル液体培地に接種した。液体培地の配合を上記した表1に示す。液体培地中での細菌の増殖が完了した後、細菌および液体培地を発酵槽に接種し、液体増幅のために37℃で18時間培養して、菌液を得た。
【0042】
実施例3:細菌粉末の調製
液体培養における細菌の増殖が完了した後、細菌を含む液体培地の菌液を回収した。菌液を6000rpmで遠心分離して液体培地を除去し、細菌スラッジを得た。細菌スラッジを保護剤として機能する5%の脱脂粉乳と混合し、次いで凍結乾燥して細菌粉末を得、これを約-20℃で保存し、以下の動物実験において試験物質として使用した。
【0043】
実施例4:ペディオコッカス・アシディラクティシGKA4を給餌したマウスの生理学的試験。
試験動物
体重18~22グラムの32匹の雄ICRマウスを、BioLASCO Taiwan Co.,LTD.(台湾)から購入した。動物室の温度は23℃~25℃に制御し、湿度は55%~65%に制御し、明暗はそれぞれ12時間であった。実験の間、マウスは飼料および蒸留水に自由にアクセスできた。
【0044】
実験計画
32匹のマウスを、生理食塩水(normal saline)群、シスプラチン群、アミフォスチン群およびGKA4を含む4つの群に分け、各群8匹のマウスとした。生理食塩水群、シスプラチン群、アミフォスチン群には生理食塩水を、GKA4群にはGKA4を1日1回、10日間経口経管栄養(oral tube feeding)で投与した。投与7日目に、シスプラチン群、アミフォスチン群およびGKA4群にシスプラチン20mg/kg B.W.(体重)を腹腔内注射して急性腎障害を誘発し、アミフォスチン投与群にはシスプラチンの腹腔内注射の30分前にアミフォスチンを腹腔内注射した。群および投与した試験試料を以下の表2に示す。
【0045】
【0046】
この実験においてマウスに投与されるアミフォスチンは保護剤である。腎臓はシスプラチン薬物を除去する主要な器官であるため、尿細管上皮細胞は高濃度のシスプラチンに曝露され、腎臓損傷を引き起こすであろう。したがって、シスプラチン注射の初期段階では、ナトリウムおよび水に対する患者の近位尿細管の再吸収能力が著しく低下し、これが糸球体濾過効率を低下させ、遠位尿細管に異常を引き起こす。アミフォスチンは、肺癌患者における高用量シスプラチン投与によって引き起こされる腎毒性を軽減するための、食品医薬品局(FDA)によって承認された既知の保護剤である。
【0047】
試験記録および分析
11日目(試験の終了時)に、動物をCO2で屠殺し、胸部および腹部における外観ならびに組織および器官を観察し、記録した。血液を採取し、Randox Laboratories Ltd.から購入した試験キットを血清中の生化学的指標の分析に使用した。マウスの体重を測定し、腎臓をマウスから分離して腎臓の重量を測定した。腎臓指数は、下記式1により算出した。
【0048】
式1:腎臓指数=[(マウスの腎臓重量/マウス体重)×100]
腎臓を10%緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋して約5μmの切片を作製し、切片をスライドに載せてヘマトキシリン・エオジン染色した。スライド上の切片組織を400倍の光学顕微鏡で観察し、切片組織の病理変化を記録した。切片における組織病変の重症度に応じて、獣医に腎壊死スコアを評価させた。スコアは0~5の範囲であり、1は非常に軽度(<1%)を表し、2は軽度(1%~25%)を表し、3は中等度(26%~50%)を表し、4は中等度/重度(51%~75%)を表し、5は重度/非常に重度(76%~100%)を表す。スコアが高いほど、腎壊死の程度はより重度である。
【0049】
炎症試験(NOアッセイ)
グリース(Griess)試薬(0.1%(w/v)スルホンアミドおよび0.1%(w/v)ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩を採取し、新たに調製し、体積比1:1で使用した)を使用して、培養液中の亜硝酸塩(NO2-)の含有量を決定した。LPSによってNOが生成された後、NOは速やかに酸化されて亜硝酸アニオン(NO2-)と硝酸アニオン(NO3-)に変換されるので、亜硝酸アニオンを測定することによって生成されたNOの量を間接的に測定することができる。100mlの培養液に100mlのグリース試薬を添加した。ウェルプレートを振盪機上に置き、100rpmで5分間振盪した。亜硝酸アニオンはグリース試薬と反応して青紫色を呈し、ELISAリーダーにより550nmでの吸光度値を測定することができる。培養液中に含まれる亜硝酸アニオンは、生成されたNOの量を間接的に表すNaNO2で作成した検量線と比較することにより知ることができる。
【0050】
データは、実験結果の平均プラスマイナス±標準偏差(SD)によって表される。体重の統計分析方法は、スチューデントt検定を採用して、試験物質群と対照群との間の差を検定し、p<0.05は有意差を示す。
【0051】
試験結果
(1)血中尿素窒素(BUN)含有量
図1を参照し、かつ表3に示すように、各群の血清中の血中尿素窒素濃度を比較すると、GKA4を投与し、シスプラチンによって誘導したGKA4群のマウス血清中の血中尿素窒素濃度は、シスプラチンによって同様に誘導したがGKA4を与えなかったシスプラチン群の血中尿素窒素濃度よりも有意に低かった(p<0.05)。GKA4群のマウス血清中の血中尿素窒素濃度は、アミフォスチン群のものと同様であった。この結果は、GKA4が、腎臓機能の指標としての血清尿素窒素の濃度を低下させ、シスプラチンによって引き起こされる急性腎障害を遅らせ、腎臓機能を回復させる効果を達成することができることを示す。現在使用されている保護剤(アミフォスチン群)と比較して、GKA4は腎臓機能の回復に対してかなりの効果を有する。
【0052】
【0053】
(2)クレアチニン含有量
図2を参照し、かつ表4に示すように、各群の血清中のクレアチニン濃度を比較すると、GKA4を投与し、シスプラチンによって誘導したGKA4群のマウス血清中のクレアチニン濃度は、シスプラチンによって同様に誘導したがGKA4を与えなかったシスプラチン群のそれよりも有意に低かった(p<0.05)。GKA4群のマウス血清中のクレアチニン濃度は、アミフォスチン群のものと同様であった。この結果は、GKA4が、腎臓機能の指標としての血清クレアチニンの濃度を低下させ、シスプラチンによって引き起こされる急性腎障害を遅らせ、腎臓機能を回復させる効果を達成することができることを示す。現在使用されている保護剤(アミフォスチン群)と比較して、GKA4は腎臓機能の回復に対してかなりの効果を有する。
【0054】
【0055】
図3を参照し、かつ表5に示すように、動物の体重および腎臓重量を実験の最後に記録した。
腎指数は、式1に従って算出することができる。各群の腎指数を比較すると、GKA4を投与され、シスプラチンによって誘導されたGKA4群のマウス腎指数は、シスプラチンによって同様に誘導されたがGKA4を給餌されなかったシスプラチン群のものより有意に低かった(p<0.05)。GKA4群のマウス腎指数はアミフォスチン群のものと類似しており、生理食塩水群のものに近かった。この結果は、GKA4が、腎臓機能の指標としての腎指数を低下させ、シスプラチンによって引き起こされる急性腎障害を遅らせ、腎臓機能を回復させる効果を達成することができることを示す。
【0056】
【0057】
図4を参照すると、病理組織学的検査において、シスプラチン群の腎組織における腎近位尿細管蓄積に起因する明らかな多病巣性腎尿細管壊死が存在する一方で、GKA4群の腎臓の病理組織学的変化は保護効果を有する。
【0058】
図5を参照し、かつ表6に示されるように、腎臓壊死指数は、近位尿細管の壊死および硝子円柱の異常な存在を評価することによってスコア化された。マウスの腎近位尿細管に多病巣性尿細管壊死が蓄積し、細胞の配置が完全ではなく、液胞および透明な円柱が出現する場合、腎臓が炎症を起こしていることを示すことになる。各群の腎組織壊死のスコアを比較すると、シスプラチンによって誘導されるGKA4を投与したGKA4群のマウスの腎組織壊死のスコアは、シスプラチンによって同様に誘導されたがGKA4を与えなかったシスプラチン群のものより有意に低く(p<0.05)、アミフォスチン群のものに近かった。この結果は、GKA4が、腎臓機能の指標としての腎組織壊死のスコアを低下させ、シスプラチンによって引き起こされる急性腎障害を遅らせ、腎臓機能を回復させる効果を達成することができることを示す。
【0059】
【0060】
要約すると、GKA4の細菌または活性物質を有する組成物を対象に事前に投与することによって、シスプラチンによって引き起こされる腎臓に対する急性障害を効果的に低減することができ、それによって腎臓を保護し、腎臓機能を維持する効果を達成することができることが分かる。
【0061】
実施例5:組成物の調製
本開示は、GKA4を含み、腎臓を保護する効果を発揮する組成物を提供する。
本開示のGKA4が食品用途に適用される場合、以下の組成物1を例示的な例として使用することができる。
【0062】
組成物1:ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)の活性物質としてのGKA4の凍結乾燥粉末(20重量%)を、保存剤としてのベンジルアルコール(8重量%)および希釈剤としてのグリセリン(7重量%)と完全に混合し、純水(65重量%)に溶解し、後の使用のために4℃で保存した。前記重量%は、組成物の総重量に対する各成分の割合を意味する。
【0063】
本開示のGKA4が液体剤形で医療目的に適用される場合、以下の組成物2が例示的な例として使用される。
組成物2:ペディオコッカス・アシディラクティシの活性物質としてのGKA4の凍結乾燥粉末(20重量%)を、保存剤としてのベンジルアルコール(8重量%)、希釈剤としてのグリセリン(7重量%)および希釈剤としてのスクロース(10重量%)と完全に混合し、純水(55重量%)に溶解し、後の使用のために4℃で保存した。前記重量%は、組成物の総重量に対する各成分の割合を意味する。