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▶ ライカ ミクロジュステーメ ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7553644ミクロトームシステムおよび対応する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ミクロトームシステムおよび対応する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/06 20060101AFI20240910BHJP
   G02B 21/34 20060101ALI20240910BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G01N1/06 G
G02B21/34
G02B21/26
G01N1/06 H
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023071583
(22)【出願日】2023-04-25
(65)【公開番号】P2023162152
(43)【公開日】2023-11-08
【審査請求日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】22169921
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501129941
【氏名又は名称】ライカ ミクロジュステーメ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス カッツェングルーバー
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト ランナー
(72)【発明者】
【氏名】パウル ヴアツィンガー
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-037459(JP,A)
【文献】特開2008-076251(JP,A)
【文献】特開2010-066006(JP,A)
【文献】特開昭51-126888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G02B 21/34
G02B 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本(122)から切片を切削するためのミクロトームシステム(100,200,300)であって、前記ミクロトームシステム(100,200,300)は、
-前記標本(122)から切片を切削するように構成されているナイフエッジ(114)を有するナイフ(112)と、
-前記ナイフ(112)を保持するナイフホルダ(110)と、
-前記標本(122)を保持するように構成されている標本ホルダ(120)と、
-照明部(230)と、
-第1のアクタ(260.1)と、
-検出器(240)と、
-コントローラ(250)と、
を備え、
前記ナイフホルダ(110)および標本ホルダ(120)は、切削方向(c)で相互に相対的に移動可能に構成されており、
前記ナイフホルダ(110)または標本ホルダ(120)は、第1の軸線(z,z’)を中心として回転可能に取り付けられており、
前記第1のアクタ(260.1)は、前記第1の軸線(z’)を中心とした前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)の回転を引き起こすように構成されており、
前記照明部(230)は、光ギャップ(236)を生成するために、前記標本ホルダ(120)によって保持されているときの前記標本(122)の前面(124)と前記ナイフエッジ(114)との間のギャップ(235)を照明するように構成されており、
前記光ギャップ(236)は、前記ギャップ(235)を通過し、前記ナイフ(112)の側面(218)および前記標本(122)の前面(124)で反射した光であり、
前記検出器(240)は、前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)を検出するように構成されており、
前記少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)は、前記ナイフエッジ(114)とミラーリングされたナイフエッジ(114’)との距離である幅、または、前記ナイフエッジ(114)に対応するエッジ(436.2)と前記ミラーリングされたナイフエッジ(114’)に対応するエッジ(436.1)との間の角度であり、
前記コントローラ(250)は、
a)検出された前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)に応じて、前記第1のアクタ(260.1)を制御することにより、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と自動的に位置合わせするように、かつ/または、
b)検出された前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)に応じて、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と位置合わせするために、前記第1のアクタ(260.1)をどのように手動で制御するかについての指示(374)をユーザに提供するように、
構成されている、
ミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項2】
前記コントローラ(250)は、前記第1のアクタ(260.1)を制御して、検出された前記光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴が光ギャップ長さ(L)に沿って一定の幅(W)を含むよう、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)に対して平行に配置させるように構成されている、
請求項1記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項3】
前記ナイフホルダ(110)は、前記第1の軸線(z’)を中心として回転可能に取り付けられており、前記切削方向(c)は、前記第1の軸線(z’)に対して平行である、
請求項1記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項4】
前記ミクロトームシステム(100,200,300)は、第2のアクタ(260.2)をさらに備え、
前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)は、第2の軸線(x)を中心として回転可能に取り付けられており、
前記第2のアクタ(260.2)は、前記第2の軸線(x)を中心とした前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)の回転を引き起こすように構成されており、
前記コントローラ(250)は、前記第2のアクタ(260.2)を制御して、前記標本(122)の前面(124)を前記切削方向(c)に対して平行に配置させるように構成されている、
請求項1記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項5】
前記コントローラ(250)は、検出された前記光ギャップ(236)の前記少なくとも1つの幾何学的特徴が、前記ナイフエッジ(114)と、前記標本ホルダ(120)によって保持されているときの前記標本(122)と、の間の前記切削方向(c)の相対移動中に一定のままである前記光ギャップ(236)の幅(W)を含むように、前記標本(122)の前面(124)を前記切削方向(c)に対して平行に配置するための前記第2のアクタ(260.2)を制御するように構成されている、
請求項4記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項6】
前記標本ホルダ(120)は、前記第2の軸線(x)を中心として回転可能に取り付けられている、
請求項4または5記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項7】
前記ミクロトームシステム(100,200,300)は、第3のアクタ(260.3)をさらに備え、
前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)は、第3の軸線(y)を中心として回転可能に取り付けられており、前記ナイフホルダ(110)に対する前記標本ホルダ(120)の送り方向(b)は、前記第3の軸線(y)に対して平行であり、
前記第3のアクタ(260.3)は、前記第3の軸線(y)を中心とした前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)の回転を引き起こすように構成されており、
前記コントローラ(250)は、前記第3のアクタ(260.3)を制御して、前記標本(122)の前面(124)の上部エッジ(424.1)および/または下部エッジ(424.2)を前記ナイフエッジ(114)に対して平行に配置させるように構成されている、
請求項1記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項8】
前記コントローラ(250)は、前記第3のアクタ(260.3)を制御して、前記標本(122)の前面(124)の前記上部エッジ(424.1)および/または前記下部エッジ(424.2)を前記ナイフエッジ(114)に対して平行に配置し、これにより、前記ナイフエッジ(114)と前記標本ホルダ(120)によって保持されているときの前記標本(122)との間の前記切削方向(c)の相対移動中に、検出された前記光ギャップ(236)の前記少なくとも1つの幾何学的特徴は、前記標本(122)の前面(124)の前記上部エッジまでの所定の上部領域にわたって前記光ギャップ(236)の長さ(L)に沿って一定のままでありかつその後前記光ギャップ(236)の長さ(L)に沿って均一に減少する前記光ギャップ(236)の幅(W)、および/または、前記標本(122)の前面(124)の前記下部エッジまでの所定の下部領域にわたって前記光ギャップ(236)の長さ(L)に沿って一定のままでありかつその後前記光ギャップ(236)の長さ(L)に沿って均一に減少する前記光ギャップ(236)の幅(W)を含むようにすべく構成されている、
請求項7記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項9】
前記標本ホルダ(120)は、前記第3の軸線(y)を中心として回転可能である、
請求項7または8記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項10】
前記検出器(240)は、前記光ギャップ(236)を撮像するように構成されたデジタルカメラを備える、
請求項1記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項11】
前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴の値は、前記ナイフホルダ(110)と前記標本ホルダ(120)との間の同じ相対位置で取得された複数の画像(380.1,380.2,380.3)に基づいて前記デジタルカメラにより検出される、
請求項10記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項12】
前記検出器(240)は、前記標本ホルダ(120)と前記ナイフホルダ(110)との間の複数の異なる相対位置に対する前記光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴の複数の値(φ1,φ2,φ3,φ4,φ5)を検出するように構成されており、
前記コントローラ(250)は、前記少なくとも1つの検出された幾何学的特徴の複数の値(φ1,φ2,φ3,φ4,φ5)に基づいて、
a)前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と自動的に位置合わせするように、かつ/または、
b)前記ユーザに指示(374)を提供するように、
構成されている、
請求項1記載のミクロトームシステム(100,200,300)。
【請求項13】
標本(122)から切片を切削するために、ナイフ(112)のナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と位置合わせするための方法であって、
前記ナイフ(112)は、ナイフホルダ(110)によって保持されており、前記標本(122)は、標本ホルダ(120)によって保持されており、前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)は、第1の軸線(z,z’)を中心として回転可能に取り付けられており、第1のアクタ(260.1)は、前記第1の軸線(z’)を中心とした前記ナイフホルダ(110)または前記標本ホルダ(120)の回転を引き起こすように構成されており、
前記方法は、
-光ギャップ(236)を生成するために、照明部(230)により、前記標本(122)の前面(124)とナイフエッジ(114)との間のギャップ(235)を照明するステップ(702)と、
-検出器(240)により、前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)を検出するステップ(704)と、
を含み、
前記光ギャップ(236)は、前記ギャップ(235)を通過し、前記ナイフ(112)の側面(218)および前記標本(122)の前面(124)で反射した光であり、
前記少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)は、前記ナイフエッジ(114)とミラーリングされたナイフエッジ(114’)との距離である幅、または、前記ナイフエッジ(114)に対応するエッジ(436.2)と前記ミラーリングされたナイフエッジ(114’)に対応するエッジ(436.1)との間の角度であり、
前記方法は、
-a)検出された前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、コントローラ(250)で前記第1のアクタ(260.1)を制御することにより、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と自動的に位置合わせするステップ(706)
および/または
b)検出された前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と位置合わせするために、前記第1のアクタ(260.1)をどのように手動で制御するかについての指示をユーザに提供するステップ(712)
を含む方法。
【請求項14】
プログラムコードを有するコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、プロセッサ上で実行されるとき、
検出器(240)から、光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)を受信するステップであって、前記光ギャップ(236)は、照明部(230)により、標本(122)の前面(124)とナイフ(112)のナイフエッジ(114)との間のギャップ(235)を照明することによって生成されているステップを実行するためのプログラムコードを含み、
前記光ギャップ(236)は、前記ギャップ(235)を通過し、前記ナイフ(112)の側面(218)および前記標本(122)の前面(124)で反射した光であり、
前記少なくとも1つの幾何学的特徴(W,φ)は、前記ナイフエッジ(114)とミラーリングされたナイフエッジ(114’)との距離である幅、または、前記ナイフエッジ(114)に対応するエッジ(436.2)と前記ミラーリングされたナイフエッジ(114’)に対応するエッジ(436.1)との間の角度であり、
前記コンピュータプログラムは、プロセッサ上で実行されるとき、
a)第1のアクタ(260.1)を制御して、検出された前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と自動的に位置合わせさせるための命令を生成するステップ
および/または
b)検出された前記光ギャップ(236)の少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、前記ナイフエッジ(114)を前記標本(122)の前面(124)と位置合わせするために、前記第1のアクタ(260.1)をどのように手動で制御するかについての指示(374)を生成してユーザに提供するステップ
を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に、標本から切片を切削するためのミクロトームシステム、対応する方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロトームまたはミクロトームシステムを使用して、生体試料または組織学的試料のような標本から切片を切削することができる。こうしたミクロトームシステムは、通常、ナイフと試料とを備えるが、試料から薄い薄片を切削するために、これらは相互に相対的に、かつ相互に沿ってガイドされる。均一なカットまたは薄片を生成するために、ナイフは、通常、標本または標本ホルダと位置合わせをする必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
上記の状況に鑑みて、ミクロトームシステムの改良が必要である。本発明の実施形態によれば、独立請求項の特徴を有するミクロトームシステム、方法およびコンピュータプログラムが提案される。有利な更なる発展形態が、従属請求項および後続の説明の主題を形成する。
【0004】
本発明の一実施形態は、標本から切片を切削するためのミクロトームシステムに関する。例えば、こうしたミクロトームシステムは、ウルトラミクロトーム(標本から非常に薄いまたは極薄の薄片を切削するためのミクロトーム)を備えることができる。ミクロトームシステムは、標本から切片を切削するように構成されているナイフエッジを有するナイフと、前述のナイフを保持するナイフホルダと、標本を保持するように構成されている標本ホルダと、照明部(または光源)と、第1のアクタ(actor)と、検出器と、コントローラと、を備える。ナイフホルダと標本ホルダとは、切削方向で相互に相対的に移動可能に構成されている。さらに、ナイフホルダと標本ホルダとは、好ましくは、後で説明するように、送り方向のような1つまたは複数の更なる方向で相互に相対的に移動可能に構成されている。ナイフホルダまたは標本ホルダは、第1の軸線を中心として回転可能に取り付けられている。特に、切削方向は、第1の軸線に対して平行である。好ましくは、ナイフホルダと標本ホルダとの各々は、後述するように、1つまたは複数の軸線を中心として回転可能に取り付けることができる。第1のアクタは、第1の軸線を中心としたナイフホルダまたは標本ホルダ(いずれか一方が第1の軸線を中心として回転可能)の回転を引き起こすように構成されている。
【0005】
照明部は、標本ホルダによって保持されているときの標本の前面とナイフエッジとの間のギャップを照明するように構成されている。このようにして、光ギャップが生成される。光ギャップの測定値は、ナイフと前面との間で光がどのように反射されるかに応じてギャップの測定値とは異なることがある(これについては、後でより詳細に説明する)。検出器は、光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴を検出するように構成されている。こうした幾何学的特徴は、例えば、光ギャップもしくはその境界の長さ、幅もしくは平行度、または後でより詳細に説明する変動性を含むことができる。コントローラは、a)検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、第1のアクタを制御することにより、ナイフエッジを標本の前面と自動的に位置合わせするように、かつ/またはb)検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、ナイフエッジを標本の前面と位置合わせするために、第1のアクタをどのように手動で制御するかについての指示(例えば、ガイディングライン)をユーザに提供するように構成されている。
【0006】
上述のように、ミクロトームシステムのナイフまたはナイフエッジと標本(または標本ホルダ)とは、標本から均一かつ良好なカットまたは薄片を生成するために位置合わせされる必要がある。一般に、こうした位置合わせは手動で行うことができ、例えば、ナイフまたは標本ホルダを回転させるための様々なノブまたはハンドホイールを回すような調整操作中に、ユーザが前述の光ギャップを視覚的に監視することができる。しかしながら、こうした手動調整は、ユーザの十分な経験を必要とする。設定を誤ると、例えばダイヤモンドを含んでいる場合が多いナイフが破損することがある。また、試料が破損することもある。
【0007】
本発明者らは、検出器によって検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴を使用することが、位置合わせ手順を自動化するために使用されうることを認識している。こうした自動化は、手段a)について説明したように、例えば完全自動位置合わせを含むことができ、代替的な手段b)について説明したように、ユーザに役立つ表示または指示を自動的に提供することによる部分自動位置合わせも含むことができる。使用される手段に応じて、第1のアクタは、電動式および/または手動式に操作することができる。検出された少なくとも1つの幾何学的特徴は、例えば、画像処理またはビデオ処理によって解析することができる。こうした自動化により、未経験のユーザがミクロトームシステムのナイフまたはナイフエッジを試料と簡単かつ効率的に位置合わせすることが可能になる。損傷につながることのある誤った設定を回避することができるかまたは少なくとも低減することができる。
【0008】
本発明の実施形態では、コントローラは、第1のアクタを制御して、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴が光ギャップ長さに沿って一定の幅を含むよう、ナイフエッジを標本の前面に対して平行に配置させるように構成されている。これにより、ナイフエッジを標本の前面に対して平行に設定することが可能となる。
【0009】
本発明の別の実施形態によれば、ミクロトームシステムは、第2のアクタをさらに備え、ナイフホルダまたは標本ホルダは、第2の軸線を中心として回転可能に取り付けられている。これは、好ましくは、ナイフホルダに対する試料ホルダの傾きに対応しうる。第2のアクタは、第2の軸線を中心としたナイフホルダまたは標本ホルダの回転を引き起こすように構成されており、コントローラは、第2のアクタを制御して、標本の前面を切削方向に対して平行に配置させるように構成されている。特に、これは、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴が、ナイフエッジと、標本ホルダによって保持されているときの標本と、の間の切削方向の相対移動中に一定のままである寸法を含むように行うことができる。これにより、ナイフと標本ホルダとを、切削方向に沿って等しい厚さを有する薄片を生成するために設定することが可能となる。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、ミクロトームシステムは、第3のアクタをさらに備える。ナイフホルダまたは標本ホルダは、第3の軸線を中心として回転可能に取り付けられており、ナイフホルダに対する標本ホルダの送り方向は、第3の軸線に対して平行である。第3のアクタは、第3の軸線を中心としたナイフホルダまたは標本ホルダの回転を引き起こすように構成されており、コントローラは、第3のアクタを制御して、標本の前面の上部エッジおよび/または下部エッジをナイフエッジに対して平行に配置させるように構成されている。特に、これは、ナイフエッジと、標本ホルダによって保持されているときの標本と、の間の切削方向の相対移動中に、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴が、標本の前面の上部エッジまでの所定の上部領域にわたって光ギャップの長さに沿って一定のままでありかつその後光ギャップの長さに沿って均一に減少する寸法、および/または、標本の前面の下部エッジまでの所定の下部領域にわたって光ギャップの長さに沿って一定のままでありかつその後光ギャップの長さに沿って均一に減少する寸法を含むようにするために行うことができる。これにより、例えば、ナイフと標本ホルダとを、前面のエッジ全体で同時に切削を開始するように設定することが可能となる。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、検出器は、光ギャップを撮像する、すなわち光ギャップの画像を取得するように構成されているデジタルカメラを備える。特に、光ギャップのこうした画像は、隣接するナイフエッジおよび/またはナイフエッジに対向する標本の前面の少なくとも一部を含んでいる。このようにして、例えば、画像解析に必要な光ギャップの境界またはエッジを十分に解析することができる。
【0012】
本発明の別の実施形態によれば、光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴の値が、ナイフホルダと試料ホルダとの間の同じ相対位置で取得された複数の画像に基づいてカメラにより検出される。例えば、複数の画像の強度(または画像の各ピクセルの強度)を平均化することができる。このようにして、検出された幾何学的特徴の精度を向上させることができる。特に、カメラの実際の解像度が提供する精度よりも高い精度を、このようにして達成することができる。この場合、こうした画像に含まれるノイズが有利に働くことさえある。少なくとも1つの幾何学的特徴の値を決定する方法のこの手法は、言及した幾何学的特徴の各々(および言及した回転の各々について)適用できることに留意されたい。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、検出器は、試料ホルダとナイフホルダとの間の複数の異なる相対位置に対する光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴の複数の値を検出するように構成されている。コントローラは、検出された特徴の複数の値に基づいて、a)ナイフエッジを標本の前面と自動的に位置合わせするように、かつ/またはb)ユーザに指示を提供するように構成されている。例えば、相対位置の各々の値を補間することができる。このようにして、(補間による)2つの検出値の間の値も取得することができる。このようにして、カメラの実際の解像度が提供する精度よりも高い精度をこのように達成することができる。少なくとも1つの幾何学的特徴の値を決定する方法のこの手法は、言及した幾何学的特徴の各々(および言及した回転の各々について)適用できることに留意されたい。
【0014】
本発明の別の実施形態は、標本から切片を切削するために、ナイフのナイフエッジを標本の前面と位置合わせするための方法に関する。ナイフはナイフホルダによって保持されており、標本は標本ホルダによって保持されている。ナイフホルダまたは標本ホルダは、第1の軸線を中心として回転可能に取り付けられており、第1のアクタは、第1の軸線を中心としたナイフホルダまたは標本ホルダの回転を引き起こすように構成されている。前述の方法は、光ギャップを生成するために、照明部により、標本の前面とナイフエッジとの間のギャップを照明すること、検出器により、光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴を検出すること、ならびにa)検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、コントローラで第1のアクタを制御することにより、ナイフエッジを標本の前面と自動的に位置合わせすること、および/またはb)検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、ナイフエッジを標本の前面と位置合わせするために、第1のアクタをどのように手動で制御するかについての指示をユーザに提供することを含む。
【0015】
本発明の別の実施形態は、コンピュータプログラムがプロセッサ上で実行されるときに、以下のステップ、すなわち、検出器から、光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴を受信するステップであって、光ギャップは、照明部により、標本の前面とナイフエッジとの間のギャップを照明することによって生成されている、ステップと、a)第1のアクタを制御して、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、ナイフエッジを標本の前面と自動的に位置合わせさせるための命令を生成するステップ、および/またはb)検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、ナイフエッジを標本の前面と位置合わせするために、第1のアクタをどのように手動で制御するかについての指示を生成してユーザに提供するステップとを実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムに関する。
【0016】
本方法およびコンピュータプログラムの利点および更なる実施形態に関しては、ミクロトームシステムの実施形態ならびにその特徴および利点に関する上記の説明が参照され、それらはここで同様に適用される。
【0017】
本発明の更なる利点および実施形態は、説明および添付の図面から明らかになるであろう。
【0018】
前述の特徴および以下でさらに説明される特徴は、それぞれ示された組み合わせだけでなく、本発明の範囲を逸脱することなく、更なる組み合わせまたは単独で使用可能であることにも留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態によるミクロトームシステムを概略的に示す図である。
図2A】本発明の別の実施形態によるミクロトームシステムを概略的に示す図である。
図2B】光ギャップを生成する方法の手法を概略的に示す図である。
図3】本発明の別の実施形態によるミクロトームシステムを概略的に示す図である。
図4A】本発明の実施形態の説明のための光ギャップを概略的に示す図である。
図4B】本発明の実施形態の説明のための光ギャップを概略的に示す図である。
図4C】本発明の実施形態の説明のための光ギャップを概略的に示す図である。
図4D】本発明の実施形態の説明のための光ギャップを概略的に示す図である。
図4E】本発明の実施形態の説明のための光ギャップを概略的に示す図である。
図5】光ギャップの上部エッジの画像を概略的に示す図である。
図6A】複数の異なる相対位置に対する光ギャップの幾何学的特徴の値を有する図を概略的に示す。
図6B】複数の異なる相対位置に対する光ギャップの幾何学的特徴の値を有する図を概略的に示す。
図7】本発明の別の実施形態による方法をフロー図で概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態によるミクロトームシステム100を透視図で概略的に示している。ミクロトームシステム100は、好ましくは、ウルトラミクロトームシステムであるか、またはウルトラミクロトームを備える。ミクロトームシステム100は、ナイフホルダ110と標本ホルダ120とを備える。典型的なミクロトームは、説明のために図1には示していないハウジング等のような別の構成要素も備えていることに留意されたい。
【0021】
ナイフホルダ110はナイフ112を保持し、ナイフ112は、ナイフ112の右上にナイフエッジ114を有する。さらに、ナイフ112には、例えば、収容ボックス116を配置することができる。標本ホルダ120は、標本122を保持するように構成されている。例えば、こうした標本122はブロックの形態を有することができ、これは、標本122の前面124がナイフ112の方を向くように標本ホルダ120に取り付けることができる。
【0022】
こうしたミクロトームシステム100の移動機構は、一般に、標本122がナイフエッジと適切に位置合わせされたときに、標本122がナイフエッジ114に対して切削方向cに沿って移動されることである。ナイフエッジ114は、標本122から切片(または薄片)を切削するように構成されている。標本122から切り出された切片は、例えば、回収ボックス116に回収することができる。こうした移動を提供するために、ナイフホルダ110と標本ホルダ120とは、切削方向cで相互に相対的に移動可能に構成されている。基本的には、ナイフホルダ110と標本ホルダ120とのいずれか一方または両方は、切削方向cに沿って移動可能に構成することができる。実施形態では、標本ホルダ120(のみ)が切削方向c(上下の両様)に移動可能に構成されている。さらに、ナイフホルダ110と標本ホルダ120とは、ナイフエッジ114を標本122に接触させるため、特に、標本122から切片または薄片が切削された後に標本122を送るために、送り方向bで相互に相対的に移動可能となるように構成することができる。
【0023】
実施形態では、ナイフホルダ110、したがってナイフ112は、送り方向bで、すなわち標本122または標本ホルダ120に向かって(またそこから離れるように)移動可能に構成されている。しかしながら、基本的には、標本ホルダ120も、ナイフ112に向かう送り方向bで(またはこれと反対に向かうように)移動可能に構成されていてよい。
【0024】
前述のように、標本から適切かつ正確な切片を生成するために、ナイフ112またはナイフエッジ114と標本122または標本ホルダ120とは、切削前に位置合わせされる必要がある。
【0025】
このため、ナイフホルダ110または標本ホルダ120が、少なくとも1つの軸線を中心として回転可能に取り付けられることが必要となる場合がある。図1では、説明のために4つの軸線である第1の軸線z’、第2の軸線x、第3の軸線yおよび更なる軸線zが示されている。ナイフホルダ110および/または標本ホルダ120をこれらの軸線の1つまたは複数を中心として回転させることにより、後でより詳細に説明するように、ナイフエッジ114を標本122の前面124と位置合わせすることが可能となる。
【0026】
図1から分かるように、一般に、標本ホルダ120は、例えば、3つの異なる軸線x、yおよびzの各々を中心として回転可能に構成されていてよい。同様に、ナイフホルダ110も、例えば、軸線z’のみが示されている(同様に、軸線x’およびy’が使用されてよい)3つの異なる軸線の各々を中心として回転可能に構成されていてよい。示されている軸線は、こうしたミクロトームシステムに典型的であるように、デカルト座標系に従って配向されていることに留意されたい。ただしこれは説明のためのみであり、こうした軸線を定義する他の手法も可能である。ナイフホルダ110と標本ホルダ120とを各々3つの異なる軸線を中心として回転させることにより、ナイフエッジ114と標本前面124との位置合わせのための自由度が大きくなる。とはいえ、ナイフホルダ110と標本ホルダ120との両方の合計で3つの異なる軸線は、十分に多くの手法で位置合わせを提供するのに十分でありうる。
【0027】
実施形態では、ナイフホルダ110は、第1の軸線z’を中心として回転可能に取り付けられており、第1の軸線z’は切削方向cに対して平行である。標本ホルダ120は、第2の軸線xおよび第3の軸線yを中心として回転可能に取り付けられる。第3の軸線yは、送り方向bに対して平行である。図1から分かるように、ナイフホルダ110が第1の軸線z’を中心として回転可能に取り付けられているのと同様に、標本ホルダ120は軸線zを中心として回転可能に取り付けられている。両方の選択肢において、ナイフエッジ114は、標本122またはその前面124に対して同じまたは同様の手法で回転させることができる。同様に、ナイフホルダ110は、更なる軸線x’および/またはy’(図1には示されていない)を中心として回転可能であってよく、これは、標本ホルダが軸線xおよび/またはyを中心として回転可能であることと同様である。ナイフホルダおよび標本ホルダのどの構成要素がどの軸線を中心として回転可能であるかは、特定のミクロトームシステムの好ましい実装手法に応じて選択することができる。
【0028】
さらに、基本的には、ナイフホルダと標本ホルダとのうちの一方が回転可能な1つまたは2つの中心軸線のみでナイフエッジ114と標本前面124との位置合わせに十分でありうることに留意されたい。それぞれの軸線を中心として必要な回転を容易にするために、ナイフホルダ110および/または標本ホルダ120にアクタを設けることができることに留意されたい。このことについては後述する。
【0029】
図2Aは、本発明の別の実施形態によるミクロトームシステム200を概略的に示している。ミクロトームシステム200は、基本的には、図1のミクロトームシステム100に対応する。図1とは対照的に、ミクロトームシステムは、断面図で回転されて示されている(ナイフホルダと標本ホルダとの位置が入れ替わっている)。図1に示されている軸線および方向は、図2Aに示されている軸線および方向に対応する。図1のミクロトーム100のうちのいくつかの構成要素は図2Aに示されておらず、いくつかの構成要素は(同一の参照数字で)示されており、いくつかの別の構成要素も示されていることに留意されたい。
【0030】
特に、ミクロトームシステム200は、ナイフ112を有するナイフホルダ110および標本122を有する標本ホルダ120の他に、照明部230、検出器240およびコントローラ250を備える。照明部230は、実施形態では、LED等の光源232と、光源232による均一な照明を提供するための拡散素子またはフィルタ234と、を備える。実施形態では、検出器240は、カメラを備えることができる。
【0031】
照明部230は、照明部230(または光源232)から出射される光ビーム238が、標本122の前面124とナイフエッジ114とが配置される領域に配向されるように配置される。標本122の前面124とナイフエッジ114との間のギャップ235を通過する光は、検出器240に到達する。このようにして、光ギャップ236が作り出され、この光ギャップ236が検出器240により検出されるかまたは検出可能となる。ナイフ112と標本122との現在の位置合わせまたは配置に応じて、光ビーム238の光は、ナイフ112の側面218および/または標本122の前面124で反射されうる。
【0032】
図2Bは、実施形態において、光ギャップ236がどのように作り出されうるかをより詳細に示している。図2Aからのいくつかの構成要素が、図2Bにおいては拡大表示されている。光源232から出射されて拡散素子234を通過する光は、ナイフ112の側面218で反射され、その後、標本122の前面124で反射される。次に、光ビーム238の光は、検出器240に到達する。したがって、検出器は、光ギャップ236の境界として、ナイフエッジ114とナイフ112とが前面124でミラーリングすることによって生成される、ミラーリングされたナイフ112’のミラーリングされたナイフエッジ114’を検出する。したがって、光ギャップ236の幅Wは、ナイフエッジ114とミラーリングされたナイフエッジ114’との距離によって形成される。幅Wは、前面124と検出器240との間の光ビーム238のわずかな傾斜の角度に応じて、前面124とナイフエッジ114との間の実際のギャップ236の幅dのおよそ2倍である。
【0033】
側面218または前面124のいずれかで反射することなくギャップ235を通過する光は、この例では検出される光ギャップに寄与しないことに留意されたい。
【0034】
コントローラ250は、検出器240によって検出または取得されたデータまたは情報を受信するために、検出器240に電気的にかつ/または通信可能に接続することができる。実施形態では、コントローラ250はまた、照明部230に電気的にかつ/または通信可能に接続することもできる。
【0035】
実施形態では、ミクロトームシステム200は、第1のアクタ260.1、第2のアクタ260.2および第3のアクタ260.3をさらに備える。ナイフホルダ110および/または標本ホルダ120が回転可能に取り付けられる軸線が1つまたは2つしか使用されない場合、1つまたは2つのアクタで十分であることに留意されたい。
【0036】
第1のアクタ260.1は、第1の軸線z’を中心としたナイフホルダ110の回転を引き起こすように構成されている。図2Aではナイフホルダ110は示されていないことに留意されたいが、ただし、図1および図2Aから、ナイフホルダの回転が軸z’を中心としたナイフ112の対応する回転をもたらすことは明らかである。第2のアクタ260.2は、第2の軸線xを中心とした標本ホルダ120の回転を引き起こすように構成されており、こうした回転は、標本ホルダ120の、したがって標本122の傾きに対応する。第3のアクタ260.3は、第3の軸線yを中心とした標本ホルダ120の回転を引き起こすように構成されている。第1、第2および第3のアクタ260.1,260.2,260.3の各々は、モータ駆動されるものであってよい。コントローラ250は、それらを操作し、したがって、それぞれの軸線を中心とした前述の回転を引き起こすために、第1、第2および第3のアクタ260.1,260.2,260.3の各々に電気的にかつ/または通信可能に接続することができる。
【0037】
実施形態では、第1、第2および第3のアクタ260.1,260.2,260.3の1つ、2つまたは3つ全てがモータ駆動されるものでなくてもよく、言及した回転を引き起こすために、例えばハンドホイールのように手動で作動されるまたは操作されるように構成されていてもよい。また、第1、第2および第3のアクタ260.1,260.2,260.3の1つまたは複数がモータ駆動されるものであってよいが、例えば、ユーザがアクチュエータを作動させるためにスイッチのような操作素子を作動させる必要があるような手動操作のために構成されていてもよい。
【0038】
実施形態では、ミクロトームシステム200は、ハンドホイールまたは作動ホイール262を備える。ハンドホイール262は、標本から切片を切削するために、標本ホルダ120が切削方向cに上下に移動するような切削移動を引き起こすように(特に、ここでは示されていない機構によって)構成されている。また、ハンドホイール262は、送り方向bに(例えばナイフホルダ110の)送り動作を引き起こすように構成することもできる。切削移動と送り動作との両方の移動を結合することで、複数の薄片を効率的に切削することが可能となりうる。ハンドホイール262はまた、モータ駆動されるものであってよく、かつ/または手動操作されるものとして構成することができる。ハンドホイールがモータ駆動されている場合、自動化された切削移動が可能であり、ハンドホイールは付加的なかつ/または修正的な移動にのみ使用することができるようになる。
【0039】
さらに、切片または薄片が切削された後、最初の切片または薄片の隣にある別の切片または薄片を切削すべく標本を移動させるために、第2の軸線xの方向への横方向の動きが可能であってよい。ハンドホイール262はまた、こうした横方向の動きを提供するように構成することもできる。また、こうした横方向の動きは、例えば、追加の(モータ駆動された)ハンドホイールによって、別の手法で実行することもできる。
【0040】
図3は、本発明の別の実施形態によるミクロトームシステム300を概略的に示している。ミクロトームシステム300は、基本的に、図1のミクロトームシステム100および図2A図2Bのミクロトームシステム200に対応する。図1および図2A図2Bに加えて、ミクロトームシステム300のハウジング302が示されており、このハウジング302内に必要な構成要素が配置されている。図1のミクロトーム100および図2A図2Bのミクロトームシステム200のうちのいくつかの構成要素は図3に示されておらず、いくつかの構成要素は(同一の参照数字で)示されており、いくつかの別の構成要素が示されていることに留意されたい。
【0041】
ミクロトームシステム300は、実施形態では、ハウジング302に配置されかつユーザが標本122とナイフ112(ナイフエッジ114を有する、図3には示されていない)の領域を見る(および検査する)ことができるように構成されている顕微鏡372をさらに備える。例えば、ユーザは、このようにして切削移動および/またはナイフエッジ114の品質を検査することができる。照明部230により、標本122(またはその前面124)とナイフ112(またはそのナイフエッジ114)との間の(物理的)ギャップを照明することによって生成される光ギャップが、検出器240により検出される。このため、検出器240の適切な配置および/または配向が必要となることがある。
【0042】
また、顕微鏡372は、この光ギャップを顕微鏡372によって見えるように配置および/または配向される場合がある。さらに、顕微鏡372は、光学顕微鏡である必要はなく、統合されたディスプレイ上に領域の画像を提供するために、検出器240を使用することができる。実施形態では、検出器240は、顕微鏡372に統合することもできる。
【0043】
ミクロトームシステム300は、実施形態では、切削プロセスに関する情報および/またはナイフエッジ114と標本122の前面124との位置合わせのための指示374をユーザに表示することのできるディスプレイ370をさらに備える。実施形態では、ミクロトームシステム300はまた、特に、ディスプレイ370を使用することによって、ユーザインタフェースまたはグラフィカルユーザインタフェースをレンダリングするように構成されている。さらに、スイッチ、ボタン、キーボードおよびコンピュータマウスのような入力デバイスが使用されることがある。また、ディスプレイ370は、タッチスクリーンを含むことができる。
【0044】
図4A図4B図4Cおよび図4Dは、本発明の実施形態の説明のために、光ギャップ236と、前面124およびナイフエッジ114のそれぞれの相対位置と、を示している。さらに、第1の軸線z’、第2の軸線xおよび第3の軸線yならびに切削方向cがこれらの図に示されている。これらの軸線および方向の配向は、前の図に従ったものである。
【0045】
図4Aでは、光ギャップ236は、例えば図3の顕微鏡372によってまたは例えば検出器240から見たときのような平面図で示されている。この図は、切削方向cにほぼ沿ったものであり、特に図2A図2Bに示されているような光ビーム238に沿ったものである。前述したように、光ビーム238は、切削方向cに対してわずかに傾斜することができる。光ギャップ236は、実施形態では、長さまたは光ギャップ長さLを有する。長さLは、例えば、ナイフエッジ114に沿って画定される。長さLは、典型的には、この方向における前面124の長さに対応する。さらに、光ギャップは、幅Wを有する。幅Wは、例えば図2Bに示されているように、ミラーリングされたナイフエッジ114’からのナイフエッジ114の距離(すなわち、前面124におけるナイフエッジ114の反射)に対応する。図2Bについて述べたように、幅Wは、ナイフエッジ114と前面124との間の距離dのおよそ2倍である。ミラーリングされたナイフエッジ114’は前面124に現れることに留意されたい。
【0046】
一定のまたは均一な厚さを有する標本122からの切片または薄片を切削するために、ナイフエッジ114は、ナイフエッジ114が前面124に対して平行であるように前面124と位置合わせする必要がある。図4Aから分かるように、ナイフエッジ114が前面124に対して平行であることは、幅Wが全長Lに沿って同じもしくは一定の値を有することに対応するかまたはその結果である。幅Wの値が、例えば長さLの左端(図4A)で長さLの右端よりも小さい場合、ナイフエッジ114は前面124に対して平行ではない。
【0047】
長さLに沿った幅Wのような幾何学的特徴が検出器で検出されて解析されることにより、ナイフエッジ114を前面124と位置合わせすることが可能となる。検出された幅Wが長さLに沿って一定になるまで、ナイフホルダ、したがってナイフ112およびナイフエッジ114を第1の軸線z’を中心として回転させるように、第1のアクタを制御することができる。図4Aから、ナイフエッジ114を第1の軸線z’を中心として回転させれば、長さLに沿ってあらゆる位置で幅Wの変化が生じることが明らかである。
【0048】
長さLに沿ったここでの一定の幅Wは、ナイフエッジ114を前面124と位置合わせするために使用できる、検出された光ギャップ236の幾何学的特徴の一例であることに留意されたい。別の可能な幾何学的特徴は、光ギャップ236の長辺436.1,436.2、すなわち、ナイフエッジ114にある、または対応するエッジ436.2と、ミラーリングされたナイフエッジ114’に対応するエッジ436.1と、の間の角度とすることができる。前述のように、ミラーリングされたナイフエッジ114’、したがってエッジ436.1は、前面124に現れる。こうした角度がゼロである場合、これら2つのエッジは平行である。その結果、ナイフエッジ114と前面124とは相互に平行である。別の可能な幾何学的特徴は、幅Wの変動性とすることができる。この場合、こうした変動性はゼロであることが望ましく、すなわち、幅は最終的な位置合わせ後に変動しないことが望ましい。
【0049】
実施形態では、こうした位置合わせは自動的に行うことができるが、別の実施形態では、幾何学的特徴から指示を生成し、例えば、図3に示すディスプレイ上でユーザに提供することができる。幅Wの値が、例えば、長さLの左端(図4A)で長さLの右端よりも小さければ、こうした指示は、第1のアクタを操作して、ナイフホルダ110(したがって、ナイフ112およびナイフエッジ114)が第1の軸線z’を中心として一定の方向(例えば時計回り)へ回転するように促すユーザへの指示を含むことができる。さらに、こうした指示は、ナイフホルダが第1の軸線z’を中心としてどれだけ回転させなければならないか、またはどれぐらい回転させる必要があるかという尺度を含むことができる。
【0050】
実施形態では、切削プロセスは、各切削後または一定数の切削後に、ナイフ112を第3の軸線xに対して平行な方向に一定量だけ移動させることにより、ナイフに対する標本122の異なる位置で、標本122から側方方向に切片または薄片を切削することを含むことができる。次に、新たにまたは新たに一定数の切片を切削するごとに、ナイフ112を軸線xの方向に沿って一定の距離(例えば1mm等)だけ、こうした横方向の動きで移動させることができる。
【0051】
この場合、ナイフ112は、光ギャップの長さLに対応する前面124の長さに沿ってだけでなくナイフエッジ114の全長Mにわたって幅Wが一定であるように位置合わせされると有利である。実際には、ナイフエッジ114の全長Mは、前面124の長さまたは長さLの倍数であることに留意されたい(図4Aの例を除く)。このため、必要な位置で幅Wの値を取得するために、ナイフを軸線xの方向に沿って移動させる必要が生じることがある。
【0052】
図4Bでは、光ギャップ236が軸線xに沿った側面図で示されている。左側と右側とで2つの異なる状況が示されている。両方の状況とも図4Aに示されているA-Aに沿った図に対応しうる。両方の状況において、標本122とナイフエッジ114を有するナイフ112とが示されている。標本122の前面124の上部エッジ424.1と下部エッジ424.2とが示されている。
【0053】
左側では、標本122とナイフ112との間の(したがって標本ホルダ120とナイフホルダ110との間の)相対位置は、切削方向cで見て、前面124のほぼ全体がナイフエッジ114の上方に位置するようになっている。光ギャップ236の幅Wは(物理的な)ギャップの距離dに加えて示されている(幅Wを決定することができる方法については図2Aを参照されたい)。右側では、標本122とナイフ112との間の(したがって標本ホルダ120とナイフホルダ110との間の)相対位置は、切削方向cで見て、前面124のほぼ全体がナイフエッジ114の下方に位置するようになっている。光ギャップの幅Wと(物理的な)ギャップの距離dとがここでも指示されている。
【0054】
一定のまたは均一な厚さを有する標本122からの切片または薄片を切削するために、ナイフエッジ114は、標本122の前面124が切削方向cに対して平行に配置されるように前面124と位置合わせする必要がある。図4Bから分かるように、前面124が切断方向cに対して平行であることは、ナイフエッジ114と、標本ホルダ120によって保持されているときの標本122と、の間の切削方向cの相対移動中に幅Wが同じまたは一定の値を有することに対応するかまたはその結果である。これは、切削方向cに沿ったナイフエッジ114と標本122との間の異なる相対位置に対して同じまたは一定の値を有する幅Wに対応する。これらの異なる位置の2つが、図4Bの2つの状況とともに示されている。これはまた、ナイフエッジ114と、標本ホルダ120によって保持されているときの標本122と、の間の切削方向cの相対移動中に、同じまたは一定の値を有する距離dをもたらすことに留意されたい。
【0055】
ナイフエッジ114と、標本ホルダ120によって保持されているときの標本122と、の間の切削方向cのこうした相対移動、したがって幅Wの値を検出または取得することができる異なる相対位置は、例えば上述のハンドホイール262を操作する手段によって達成することができる。当該手段は、例えば手動であってもまたは自動であってもよい。
【0056】
幅Wの値が、例えば下部エッジ424.2(図4Bの左側を参照)付近で上部エッジ424.1(図4Bの右側を参照)付近よりも小さければ、前面124は切削方向cに対して平行ではない。ナイフエッジ114と、標本ホルダ120によって保持されているときの標本122と、の間の切削方向cの相対移動中の幅Wのような幾何学的特徴が検出器で検出されて解析されることにより、前面124を切削方向cに対して平行に位置合わせすることが可能となる。これは、切削方向cに沿ってナイフエッジ114と標本122との間の異なる相対位置に対して同じまたは一定の値を有する幅Wに対応する。
【0057】
第2のアクタは、検出された幅Wが切削方向cに沿った異なる相対位置に対して一定となるまで、第2の軸線xを中心として標本ホルダ120、したがってその前面124を有する標本122を回転させるように制御可能である。図4Bから、第2の軸線xを中心とした標本ホルダ120(したがって前面124)の回転が、切削方向に沿った前面124とナイフエッジ114との間のあらゆる相対位置での幅Wの変化を生じさせることは明らかである。
【0058】
切削方向cの相対移動中のここでの一定の幅Wは、検出された光ギャップ236の幾何学的特徴の一例であり、これは前面124を切削方向cに対して平行になるように位置合わせするために使用できることに留意されたい。別の可能な幾何学的特徴は、幅Wの変動性とすることができる。この場合、こうした変動性はゼロであることが望ましく、すなわち、幅は最終的な位置合わせ後に変動しないことが望ましい。
【0059】
複数の実施形態でこうした位置合わせを自動的に行うことができるが、別の実施形態において幾何学的特徴から指示を生成し、例えば図3に示したディスプレイ上でユーザに提供することもできる。幅Wの値が、例えば図4Bの左側に示されている状況において、右側に示されている状況よりも小さければ、こうした指示は、第2のアクタを操作して、標本ホルダ120(したがって、標本122およびその前面124)を第2の軸線xを中心として一定の方向(例えば時計回り)へ回転させるように促すユーザへの指示を含むことができる。さらに、こうした指示は、標本ホルダが第2の軸線xを中心としてどれだけまたはどれくらい回転させる必要があるかという尺度を含むことができる。
【0060】
典型的には、光ギャップ長さL(図4Aを参照)に沿って、前面124とナイフエッジ114との間の異なる相対位置に対する幅Wの値がどこで取得されるかは大きな問題とならないことに留意されたい。特に、図4Aに関して説明した前の位置合わせステップである、第1の軸線z’を中心とした回転が行われた場合、ある相対位置に対する幅Wの値は、いずれにしても長さLに沿って等しい。
【0061】
図4Cでは、光ギャップ236が軸線xに沿った側面図で示されている。前面124の上部エッジ424.1とナイフエッジ114との間の異なる相対位置が、左側と右側との2つで示されている。
【0062】
左側では、標本122とナイフエッジ114との間の相対位置は、上部エッジ424.1が、切削方向cで見て、ナイフエッジ114の上方に位置するようになっている。右側では、標本122とナイフエッジ114との間の相対位置は、上部エッジ424.1が、切削方向cで見て、ナイフエッジ114の箇所にほぼ位置するかまたはわずかに下方に位置するようになっている。
【0063】
検出器によって検出される光ギャップは、前面124の上部エッジ424.1全体が、切削方向cで見て、ナイフエッジ114の十分上方に位置する場合にのみ、(鋭利なエッジを有するスリットまたは長方形の形で)そのまま見える。この状況は、図2Bに示されている状況である。つまり、光ギャップは、上部エッジ424.1がナイフエッジ114に対して平行であり、標本122が切削方向cに下向きに移動する状態で狭くなり、上部エッジ424.1がナイフエッジ114より十分に下方に移動すると消える。このことは、前面124の下部エッジ424.2が、切削方向cで見て、ナイフエッジ114に十分に近接するか、またはナイフエッジ114の上方に移動する場合と同様である。
【0064】
上部エッジ424.1がナイフエッジ114に対して平行でない場合、図4Cの左側の相対位置と右側の相対位置とが同時に存在する状況が発生する。例えば、左側の相対位置は、図4Aに示されているA-Aに沿った図に対応しうるものであり、右側の相対位置は、図4Aに示されているB-Bに沿った図に対応しうるものである。換言すれば、上部エッジ424.1(したがって標本122)は、第3の軸線yを中心として回転している。
【0065】
図4Cに示されている状況では、標本122が切削方向cで下向きに移動すると、光ギャップは、上部エッジ424.1がナイフエッジ114の下方に到達したときまたは移動したときにのみ(幅Wに関して)狭くなる。光ギャップの狭まりは、図4Bによれば右側から始まって左側へ移動する。この結果、実際の光ギャップは、どんどん小さくなっていき、消える。こうした動きの間、光ギャップはくさび形状に見えることがある。これは、図4Dにおいて、軸線yに沿って見たとき、下側にナイフエッジ114および前面124があり、上側にくさび形の光ギャップ236(切削方向cに沿って見た光ギャップ)がある状態で示されている。
【0066】
換言すれば、光ギャップの幅Wは、標本122が切削方向で下向きに移動するにつれて、長さLに沿って変化(減少)する。標本が下向きに移動するにつれ、減少する幅は長さLの端部へ向かって移動する。この変化は、切削方向の一定の距離で起こり、この距離は、上部エッジ424.1がナイフエッジに対して平行な位置からどれくらい回転されるかに依存する。その後、光ギャップはくさび形になり、小さくなっていき、最終的には消える。
【0067】
図4Eは、上部エッジ424.1が下向きにナイフエッジ114の下方へと移動するにつれて、光の幅Wがどの程度狭くなるかを示している。図4Eに示されている状況は、図2Bの状況と同様であるが、上部エッジ424.1が、切削方向cに見て、ナイフエッジ114にほぼ位置するかまたはわずかに下に位置する(図4Cの右側も参照)。側面218の上端で反射される図4Eに示す光線238.1は、上部エッジ424.1が低すぎるため、前面124ではもはや反射されない。したがって、この光線はもはや光ギャップに寄与することができず、結果として光ギャップが狭くなる。
【0068】
前面124のエッジ全体で開始する切削により標本122から切片または薄片を同時に切削するために、ナイフエッジ114は、前面124の上部エッジ424.1および/または下部エッジ424.2がナイフエッジ114に対して平行に配置されるように前面124と位置合わせする必要がある。前面124の上部エッジ424.1と下部エッジ424.2とは、典型的には相互に平行であることに留意されたい。換言すれば、図4Dに示されている状況は、位置合わせ後に発生するものではない。
【0069】
このことは、第3のアクタ260.3を制御して、標本ホルダ120、したがって前面124の上部エッジ424.1および/または下部エッジ424.2を第3の軸線yを中心として回転させることによって達成することができる。ナイフエッジ114と標本122との間の切削方向cの相対移動中、幅Wが、前面124の上部エッジ424.1までの所定の上部領域にわたって光ギャップ236の長さLに沿って一定のままであり、その後(例えば、ナイフエッジ114と上部エッジ424.1との間の一定の距離ΔHに達すると)光ギャップ236の長さLに沿って均一に減少すると、前面124の上部エッジ424.1および/または下部エッジ424.2は少なくともナイフエッジ114にほぼ平行となる。ここでの距離ΔHが図2Bに示されている。標本122が下向きに移動している状態で、上部エッジ424.1がナイフエッジ114からΔHだけ離れているとき、最も左側の光線はもはや前面124で反射されない。したがって、幅Wは狭くなる。上部エッジまでの上部領域については、上部エッジ424.1から離れる距離ΔHに達するまで、幅Wは一定である。
【0070】
3つの位置合わせ手順、すなわち、i)ナイフエッジ114が標本122の前面124に対して平行になること、ii)標本122の前面124が切削方向cに対して平行になること、iii)標本122の前面124の上部エッジ424.1および/または下部エッジ424.2がナイフエッジ114に対して平行になることを、それぞれの第1、第2および第3のアクタを用いて、個別に任意の順序で行うこともできるし、これらのうちの1つまたは2つのみを使用できることにも留意されたい。例えば、こうした位置合わせ手順のうちの1つまたは2つを何らかの理由で行うことができないかまたは必要としないこともある。
【0071】
図5は、検出器240またはそのカメラによって取得された、光ギャップの上部エッジの画像を示している。検出器は、典型的には、マトリクスアレイとして配置された複数のピクセルを有する。この結果、光ギャップの画像を取得する際に、検出器の各ピクセルが高い光強度または低い光強度に対して露光されることになる。カメラ(または検出器)の光学系の倍率で評価されるこうしたピクセルの典型的なサイズは、1μmの範囲内にある。つまり、光ギャップの寸法は、こうした検出器で取得された1枚の画像から、1μmまでの精度でのみ決定することができる。
【0072】
しかしながら、ミクロトームシステムによって標本から切り出される切片または薄片の典型的な厚さは、1μm未満であることが多い。したがって、ナイフエッジ114と前面124とを位置合わせしなければならない精度は、1μmよりも高くなければならない。例えば、ナイフエッジ114と前面124との間の角度は、0.1°未満(十分に平行と見なすことができるもの)であるべきである。これは、上述のような典型的な検出器では、ナイフホルダ110と試料ホルダ120との間の同じ相対位置で複数の画像を取得することによって達成することができる。
【0073】
例として、3つの画像580.1,580.2,580.3が図5に示されており、各々が光ギャップのエッジを示している。例えば、これは、図4Aに示されているエッジ436.1でありうる。個々のピクセル580が示されており、これらは高い光強度または低い光強度のいずれかで露光されている(暗い陰影)。精度が低いため、個々のピクセルは、取得された画像が異なる場合、異なる強度を示すことがある。これはノイズによるものでもある。なお、典型的には、高低だけでなく、他のグレードの強度も現れることになる。各画像から直線またはエッジ(エッジベクトル)を決定することができる。次に、これら複数のエッジ(またはエッジベクトル)から、平均的なエッジ(またはエッジベクトル)を決定することができる。画像数(この例では3つ)にわたってエッジを平均化することで、より正確な値を得ることができる。この結果、サブピクセルの解像度でも、ナイフエッジ114と前面124との非常に正確な位置合わせを達成することができる。
【0074】
精度を向上させるこの手法は、上述した位置合わせのためのステップの一つ一つ、すなわち、第1の軸線、第2の軸線および第3の軸線を中心とした回転に基づく位置合わせに使用できることに留意されたい。例えば、光ギャップの幾何学的特徴または寸法をある相対位置に対して検出または決定する必要があるときに、毎回または少なくとも時々、1つの画像だけではなく、複数の画像を取得することができる。
【0075】
図6Aおよび図6Bは、試料ホルダとナイフホルダとの間の複数の異なる相対位置に対する光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴の値を図で示している。
【0076】
図6Aでは、長さLに沿った幅Wに関連する光ギャップ(図4Aを参照)の2つのエッジ436.1と436.2との間の角度φの値φ1,φ2,φ3,φ4,φ5が角度αに対して示されている。角度αは、第1の軸線z’を中心としたナイフホルダの回転角に対応する。なお、角度αの基準値は適宜設定することができる。図示の例では、角度φの5つの値φ1,φ2,φ3,φ4,φ5は、ゼロ未満またはゼロ超のいずれかである。しかしながら、図4Aに関して説明したように、角度φはゼロであることが望ましく、これは、光ギャップのエッジ436.1および436.2が平行であることに対応する。
【0077】
検出器の解像度の問題により、例えば、示されている値の間の別の値を得ることはできない。ただし、値636.1,636.2,636.3,636.4,636.5の補間によって、図6Aの曲線を参照して、角度αの値α’を決定することができ、これは、角度φがゼロであることに対応する。次に、こうした値α’を、ナイフエッジ114が標本122の前面124と位置合わせされて特に平行となるように、第1のアクタによって設定することができる。このようにして、精度を向上させることができる。
【0078】
図6Bでは、光ギャップの幅W(図4B参照)の値が、角度βに対して示されている。角度βは、第2の軸線xを中心とした標本ホルダの回転角(チルト角)に対応する。図4Bに関して上述したように、ナイフエッジ114と標本122との間の切削方向cの相対移動は、標本122の前面124を切削方向cに対して平行に配置するために行うことができる。したがって、ナイフエッジ114に沿った標本の1回の移動中に、幅Wのいくつかの値を、試料ホルダ120とナイフホルダ110との間の異なる相対位置で取得することができる。例えば、ナイフエッジ114が前面124の上部エッジ424.1付近にある相対位置(図4Bの右側を参照)で第1の値を取得することができ、ナイフエッジ114が前面124の下部エッジ424.2付近にある相対位置(図4Bの左側を参照)で第2の値を取得することができる。
【0079】
こうした値は、角度βの様々な設定で取得することができる。図6Bでは、例として、βの3つの設定に対して取得されたこうした第1の値W11,W12,W13の3つと、こうした第2の値W21,W22,W23の3つと、が示されている。さらに、第1の値と第2の値とのそれぞれの補間曲線が追加されている。これにより、例えば角度βの値を増大させると、上部エッジ付近の幅Wは減少し、下部エッジ付近の幅Wは増大することが分かる。上述のように、幅Wは、いずれの相対位置においても等しいものとする。これが達成される角度βの適切な値は、両方の曲線が交差する位置、すなわち、値β’である。次に、こうした値β’を、ナイフエッジ114が標本122の前面124と位置合わせされて前面124が切削方向cに対して平行となるように、第2のアクタによって設定することができる。このようにして、精度を向上させることができる。
【0080】
精度を向上させる両方の手法、相対位置ごとの複数の画像および異なる相対位置に対する複数の値の各々が、精度を高めるのに役立つことに留意されたい。また、両方の手法を組み合わせることで、さらに精度を高めることもできる。
【0081】
図7は、本発明の別の実施形態による方法をフロー図によって示している。こうした方法は、例えば、図1図3に例示されており、上述したようなミクロトームシステム100,200または300を使用して行うことができる。
【0082】
ステップ700において、ナイフ112をナイフホルダ110にまたはナイフホルダ110内に配置することができ、標本122を標本ホルダ120にまたは標本ホルダ120内に配置することができる。ステップ702において、標本122の前面124とナイフエッジ114との間に光ギャップが生成される。これは、照明部230を使用してかつ/または制御して行うことができる。ステップ704において、光ギャップ236の少なくとも1つの幾何学的特徴が検出器240(またはそのカメラ)により検出される。こうした幾何学的特徴は、例えば上述の幅Wまたは角度φでありうる。
【0083】
ステップ706において、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、コントローラ250で第1のアクタ260.1を制御することによって、ナイフエッジ114が標本122の前面124と自動的に位置合わせされる。これは、特に図4Aに関して上記で説明したように、ナイフエッジ114が前面124に対して平行に配置されるように第1のアクタ260.1を制御することを含みうる。
【0084】
実施形態では、ステップ708において、コントローラ250で第2のアクタ260.2を制御することによって、標本122の前面124が切削方向cに対して平行に配置される。これは、特に図4Bに関して上記で説明したように、ナイフエッジ114と標本122との間の切削方向cの相対移動中に幅Wが一定のままとなるように第2のアクタ260.2を制御することを含みうる。
【0085】
実施形態では、ステップ710において、コントローラ250で第3のアクタ260.3を制御することによって、標本の前面124の上部エッジおよび/または下部エッジがナイフエッジ114に対して平行に配置される。これは、ナイフエッジ114と、標本ホルダ120によって保持されているときの標本122と、の間の切削方向cの相対移動中、検出された光ギャップ236の少なくとも1つの幾何学的特徴が、標本122の前面124の上部エッジまでの所定の上部領域にわたって光ギャップ236の長さLに沿って一定のままであり、その後、光ギャップ236の長さLに沿って均一に減少する寸法、例えば幅Wを含むように、第3のアクタ260.3を制御することを含みうる。代替的に、または付加的に、寸法、例えば幅Wは、標本122の前面124の下部エッジまでの所定の下側領域にわたって光ギャップ236の長さLに沿って一定のままであり、その後、光ギャップ236の長さLに沿って均一に減少する。
【0086】
実施形態では、ステップ706に加えてまたはステップ706に代えて、ステップ712を行うことができる。ステップ712では、検出された光ギャップ236の少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、ナイフエッジ114を標本122の前面124と位置合わせするために、第1のアクタをどのように手動で制御するかについての指示がユーザに提供される。こうした指示は、テキスト形式の指示および/またはディスプレイ上の補助線のようなグラフィックであってよい。次に、こうした指示に基づいて、ユーザは、ナイフエッジ114と標本122の前面124との位置合わせを達成するために、第1のアクタを操作することができる(モータ駆動によって行ってもよいが、この実施形態ではそうである必要はない)。
【0087】
ステップ708と同様に、ステップ714において、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、切削方向cに対して平行に標本122の前面124を配置するために第2のアクタをどのように手動で制御するかについての指示がユーザに提供されうる。
【0088】
ステップ710と同様に、ステップ716において、検出された光ギャップの少なくとも1つの幾何学的特徴に応じて、標本の前面124の上部エッジおよび/または下部エッジをナイフエッジ114に対して平行に配置するために第3のアクタをどのように手動で制御するかについての指示がユーザに提供されうる。
【0089】
本明細書で使用されるように、用語「および/または(かつ/または)」は、関連する記載項目のうちの1つまたは複数の項目のあらゆる全ての組み合わせを含んでおり、「/」として略記されることがある。
【0090】
いくつかの態様を装置の文脈において説明してきたが、これらの態様が、対応する方法の説明も表していることが明らかであり、ここではブロックまたは装置がステップまたはステップの特徴に対応している。同様に、ステップの文脈において説明された態様は、対応する装置の対応するブロックまたは項目または特徴の説明も表している。
【0091】
いくつかの実施形態は、図1図3の1つ以上に関連して説明したようなコントローラを含むミクロトームシステムに関する。代替的に、顕微鏡が、図1図3の1つ以上に関連して説明したようなシステムの一部またはシステムに接続されていてもよい。図3は、本明細書に記載の方法を実施するように構成されているミクロトームシステム300の概略図を示している。ミクロトームシステム300は、検出器240と、コンピュータシステムまたはコントローラ250と、を備える。検出器240は、撮像を行うように構成されており、コンピュータシステム250に接続されている。コンピュータシステム250は、本明細書に記載される方法の少なくとも一部を実行するように構成されている。コンピュータシステム250は、機械学習アルゴリズムを実行するように構成されていてもよい。コンピュータシステム250および検出器240は、別個のエンティティであってもよいが、1つの共通のハウジングに一緒に統合されていてもよい。コンピュータシステム250は、検出器240の中央処理システムの一部であってもよく、かつ/またはコンピュータシステム250は、検出器240のセンサ、アクタ、カメラまたは照明ユニットなどの検出器240のサブコンポーネントの一部であってもよい。
【0092】
コンピュータシステム250は、1つまたは複数のプロセッサおよび1つまたは複数のストレージデバイスを備えるローカルコンピュータデバイス(例えば、パーソナルコンピュータ、ラップトップ、タブレットコンピュータまたは携帯電話)であってもよく、または分散コンピュータシステム(例えば、ローカルクライアントおよび/または1つまたは複数のリモートサーバファームおよび/またはデータセンター等の様々な場所に分散されている1つまたは複数のプロセッサおよび1つまたは複数のストレージデバイスを備えるクラウドコンピューティングシステム)であってもよい。コンピュータシステム250は、任意の回路または回路の組み合わせを含んでいてもよい。1つの実施形態では、コンピュータシステム250は、任意の種類のものとすることができる、1つまたは複数のプロセッサを含んでいてもよい。本明細書で使用されるように、プロセッサは、例えば、顕微鏡または顕微鏡部品(例えばカメラ)のマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、複合命令セットコンピューティング(CISC)マイクロプロセッサ、縮小命令セットコンピューティング(RISC)マイクロプロセッサ、超長命令語(VLIW)マイクロプロセッサ、グラフィックプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、マルチコアプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または任意の他の種類のプロセッサまたは処理回路等のあらゆる種類の計算回路を意図していてもよいが、これらに限定されない。コンピュータシステム250に含まれうる他の種類の回路は、カスタム回路、特定用途向け集積回路(ASIC)等であってもよく、例えばこれは、携帯電話、タブレットコンピュータ、ラップトップコンピュータ、双方向無線機および類似の電子システム等の無線装置において使用される1つまたは複数の回路(通信回路等)等である。コンピュータシステム250は、ランダムアクセスメモリ(RAM)の形態のメインメモリ等の特定の用途に適した1つまたは複数の記憶素子を含みうる1つまたは複数のストレージデバイス、1つまたは複数のハードドライブおよび/またはコンパクトディスク(CD)、フラッシュメモリカード、デジタルビデオディスク(DVD)等のリムーバブルメディアを扱う1つまたは複数のドライブ等を含んでいてもよい。コンピュータシステム250はディスプレイ装置、1つまたは複数のスピーカーおよびキーボードおよび/またはマウス、トラックボール、タッチスクリーン、音声認識装置を含みうるコントローラ、またはシステムのユーザがコンピュータシステム250に情報を入力すること、およびコンピュータシステム250から情報を受け取ることを可能にする任意の他の装置も含んでいてもよい。
【0093】
ステップの一部または全部は、例えば、プロセッサ、マイクロプロセッサ、プログラマブルコンピュータまたは電子回路等のハードウェア装置(またはハードウェア装置を使用すること)によって実行されてもよい。いくつかの実施形態では、極めて重要なステップのいずれか1つまたは複数が、そのような装置によって実行されてもよい。
【0094】
一定の実装要件に応じて、本発明の実施形態は、ハードウェアまたはソフトウェアで実装されうる。この実装は、非一過性の記録媒体によって実行可能であり、非一過性の記録媒体は、各方法を実施するために、プログラマブルコンピュータシステムと協働する(または協働することが可能である)、電子的に読取可能な制御信号が格納されている、デジタル記録媒体等であり、これは例えば、フロッピーディスク、DVD、ブルーレイ、CD、ROM、PROMおよびEPROM、EEPROMまたはFLASHメモリである。したがって、デジタル記録媒体は、コンピュータ読取可能であってもよい。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法が実施されるように、プログラマブルコンピュータシステムと協働することができる、電子的に読取可能な制御信号を有するデータ担体を含んでいる。
【0096】
一般的に、本発明の実施形態は、プログラムコードを備えるコンピュータプログラム製品として実装可能であり、このプログラムコードは、コンピュータプログラム製品がコンピュータ上で実行されるときにいずれかの方法を実施するように作動する。このプログラムコードは、例えば、機械可読担体に格納されていてもよい。
【0097】
別の実施形態は、機械可読担体に格納されている、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのコンピュータプログラムを含んでいる。
【0098】
したがって、換言すれば、本発明の実施形態は、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムである。
【0099】
したがって、本発明の別の実施形態は、プロセッサによって実行されるときに本明細書に記載のいずれかの方法を実施するために、格納されているコンピュータプログラムを含んでいる記録媒体(またはデータ担体またはコンピュータ読取可能な媒体)である。データ担体、デジタル記録媒体または被記録媒体は、典型的に、有形である、かつ/または非一過性である。本発明の別の実施形態は、プロセッサと記録媒体を含んでいる、本明細書に記載されたような装置である。
【0100】
したがって、本発明の別の実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのコンピュータプログラムを表すデータストリームまたは信号シーケンスである。データストリームまたは信号シーケンスは例えば、データ通信接続、例えばインターネットを介して転送されるように構成されていてもよい。
【0101】
別の実施形態は、処理手段、例えば、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するように構成または適合されているコンピュータまたはプログラマブルロジックデバイスを含んでいる。
【0102】
別の実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するために、インストールされたコンピュータプログラムを有しているコンピュータを含んでいる。
【0103】
本発明の別の実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのコンピュータプログラムを(例えば、電子的にまたは光学的に)受信機に転送するように構成されている装置またはシステムを含んでいる。受信機は、例えば、コンピュータ、モバイル機器、記憶装置等であってもよい。装置またはシステムは、例えば、コンピュータプログラムを受信機に転送するために、ファイルサーバを含んでいてもよい。
【0104】
いくつかの実施形態では、プログラマブルロジックデバイス(例えばフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)が、本明細書に記載された方法の機能の一部または全部を実行するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイは、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためにマイクロプロセッサと協働してもよい。一般的に、有利には、任意のハードウェア装置によって方法が実施される。
【符号の説明】
【0105】
100,200,300 ミクロトームシステム
110 ナイフホルダ
112 ナイフ
112’ ミラーリングされたナイフ
114 ナイフエッジ
114’ ミラーリングされたナイフエッジ
116 回収ボックス
120 標本ホルダ
122 標本
124 標本の前面
218 ナイフの側面
230 照明部
232 光源
234 拡散素子
235 ギャップ
236 光ギャップ
238 光ビーム
238.1 光線
240 検出器
250 コントローラ
260.1 第1のアクタ
260.2 第2のアクタ
260.3 第3のアクタ
262 ハンドホイール
302 ハウジング
370 ディスプレイ
372 顕微鏡
374 ユーザへの指示
424.1 標本の前面の上部エッジ
424.2 標本の前面の下部エッジ
436.1,436.2 光ギャップのエッジ
580.1,580.2,580.3 画像
582 ピクセル
700~716 方法ステップ
x,y,z,z’ 軸線
b 送り方向
c 切削方向
d ギャップの幅
W 光ギャップの幅
W11,W12,W13,W21,W22,W23 幅Wの値
L 光ギャップの長さ
α 軸線z’を中心とした回転角
α’ 角度αの値
β 軸線xを中心とした回転角β
β’ 角度βの値
φ 光ギャップのエッジ間の角度
φ1,φ2,φ3,φ4,φ5 角度φの値
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図7