(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20240910BHJP
【FI】
C01B32/174
(21)【出願番号】P 2023163937
(22)【出願日】2023-09-26
【審査請求日】2023-09-27
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】小川 歩
(72)【発明者】
【氏名】飯田 薫
(72)【発明者】
【氏名】安間 祐人
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194625(JP,A)
【文献】特開2021-059473(JP,A)
【文献】特開2020-011872(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115708(WO,A1)
【文献】特開2017-206412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のカーボンナノチューブと溶媒とを用意する用意工程と、
前記所定量のカーボンナノチューブを、少なくとも3回に分割して前記溶媒中に投入し、前記投入ごとに混合する、混合工程と、
を含み、
前記所定量は、最終的なカーボンナノチューブ分散液の全体を100質量%としたときに、0.1質量%以上20質量%以下となる量であり、
前記用意工程において、平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブを用意し、
前記混合工程において、
1回目の前記カーボンナノチューブの投入量は、2回目以降の各回の前記カーボンナノチューブの投入量よりも多くし、かつ
各回の前記カーボンナノチューブの投入量は、1回分の前記カーボンナノチューブを投入した後、25℃の環境下、E型粘度計により、ローターの回転数1rpmで測定される粘度のピーク値が50,000mPa・sを超えない量とする、
む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、2回目以降は、分割投入の回数に応じて、投入量が均等ないし漸減するように前記カーボンナノチューブを投入する、
請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、2回目以降の前記カーボンナノチューブの投入は、直前の前記カーボンナノチューブの投入後の前記粘度が、前記ピーク値の1/n(2≦nの整数)まで低下した時点で行う、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記nが、2以上5以下である、
請求項
3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において、前記所定量を全量M
allとし、1回目の前記カーボンナノチューブの投入量を第1の量M1とし、分割投入の回数をTとすると、前記M
allと前記M1と前記Tとが、次の関係:(M
all/T)<M1;を満たす、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において、1回目の前記カーボンナノチューブの投入量を、前記所定量の30質量%以上とする、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程において、1回目の前記カーボンナノチューブの投入の際に、前記用意工程で用意した前記溶媒を全量添加する、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記用意工程において、前記溶媒に可溶な分散剤をさらに用意し、
前記混合工程において、1回目の前記カーボンナノチューブの投入の際に、前記用意工程で用意した前記分散剤を全量添加する、
請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ分散液は、固形分全体を100質量%としたときに、前記カーボンナノチューブが50質量%以上を占めている、
請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば二次電池の導電助剤等として、カーボンナノチューブ(CNT)を所定の溶媒に分散させてなるCNT分散液が汎用されている。これに関連する従来技術文献として、特許文献1、2が挙げられる。例えば特許文献1には、所定量のCNTを秤量し、溶媒(例えばトルエン)を加えて分散装置(例えば超音波ホモジナイザー)で分散処理することにより、CNT分散液を調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2022/075387号
【文献】特開2019-81676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、例えばCNTの種類や性状等によっては、所定量のCNTを溶媒中に一気に投入すると、過度に増粘して分散処理が困難になったり、溶媒中で凝集体が形成されて均一に分散させにくかったりすることがあった。特に、繊維長が長いCNTは絡まって凝集しやすい傾向があるため、このような傾向が強かった。分散液の分散が不均一になると、製品(例えば二次電池)の性能にばらつきが生じたり、抵抗が高くなって製品の性能が低下したりすることがありうる。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、カーボンナノチューブの分散性を向上できるカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、所定量のカーボンナノチューブと溶媒とを用意する用意工程と、上記所定量のカーボンナノチューブを、少なくとも3回に分割して上記溶媒中に投入し、上記投入ごとに混合する、混合工程と、を含む、カーボンナノチューブ分散液の製造方法が提供される。
【0007】
本発明に係る製造方法によれば、所定量のカーボンナノチューブを溶媒中に一気に投入して混合する場合に比べて混合液の粘度が上昇しすぎることを抑えられ、分散処理をしやすくなる。また、凝集体の発生が抑制されて、カーボンナノチューブの分散性を向上できる。ひいては、均質なカーボンナノチューブ分散液を安定して調製できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カーボンナノチューブの分散性を向上できるカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施例1~4に係る混合液の粘度の推移を表すグラフである。
【
図3】
図3は、比較例1,2に係る混合液の粘度の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化することがある。また、本明細書において範囲を示す「X~Y」(X,Yは任意の数値)の表記は、X以上Y以下の意と共に、「Xより大きい」および「Yより小さい」の意を包含する。
【0011】
<カーボンナノチューブ(CNT)分散液の製造方法>
図1は、一実施形態に係るカーボンナノチューブ(以下、単に「CNT」ということがある。)分散液の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の製造方法は、用意工程S1と、混合工程S2と、を含んでいる。混合工程S2は、ここでは、3段階でCNTを投入するものであり、第1~第3混合工程S21~S23を含んでいる。本実施形態の製造方法は、CNTの濃度が、概ね0.1~3質量%、例えば0.5~1質量%のCNT分散液を製造する場合に、特に好適に採用することができる。また、詳しくは後述するが、例えばCNTの濃度が概ね3質量%を超えるCNT分散液を製造する場合には、混合工程S2をさらに多段階とすることが好ましい。
【0012】
用意工程S1は、少なくとも、所定量の(A)CNTと、(C)溶媒と、を用意する工程である。本実施形態では、所定量の(A)CNTと、所定量の(B)分散剤と、所定量の(C)溶媒と、を用意する工程である。本工程では、必要に応じて、その他の材料、例えば(D)添加剤等をさらに用意してもよい。
【0013】
(A)CNTは、炭素六角網をなすグラファイトが筒状に丸められた構造を有する繊維状の炭素である。CNTとしては特に限定されず、従来公知のものを1種または2種以上、適宜使用できる。CNTは、1層のグラファイトが筒状に丸められた構造を有する単層カーボンナノチューブであってもよく、2層以上のグラファイトが筒状に丸められた構造を有する多層カーボンナノチューブであってもよい。CNTは、例えば製造プロセスに由来して、不純物(例えば、触媒やアモルファスカーボン)を含んでいてもよい。
【0014】
CNTの平均直径は特に限定されないが、5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。CNTの平均直径が所定値以上であると、CNT同士の凝集が抑えられ、分散性を向上できる。また、CNTの平均直径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。CNTの平均直径が所定値以下であると、単位質量あたりのCNTの本数が増え、効率的に導電ネットワークを形成できる。したがって導電性を向上できる。なお、CNTの平均直径は、透過型電子顕微鏡によって、複数のCNTを観察し、短軸の長さを計測し、その数平均値により、算出することができる。
【0015】
CNTの平均繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、例えば5μm以上、10μm以上であることがさらに好ましい。平均繊維長が所定値以上であると、導電ネットワークを効果的に形成しやすくなり、導電性を向上できる。CNTの平均繊維長は、例えば100μm以上、さらには200μm以上であってもよい。このように平均繊維長が長い場合、溶媒中でCNT同士が絡まって凝集しやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。また、CNTの平均繊維長は、例えば500μm以下、300μm以下、250μm以下であってもよい。平均繊維長が所定値以下であると、CNT同士が絡まりにくくなり、良好な導電ネットワークを形成しやすくなる。なお、CNTの平均繊維長は、透過型電子顕微鏡によって、複数のCNTを観察し、長軸の長さを計測し、その数平均値により、算出することができる。
【0016】
CNTのアスペクト比(平均繊維長/平均直径)は特に限定されないが、100~100000が好ましく、1000~50000がより好ましく、5000~25000がさらに好ましい。アスペクト比が上記範囲であると、分散性と導電性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0017】
CNTは、半導体レーザーを用いたレーザーラマン分光法で測定されるラマンスペクトルにおいて、1350cm-1付近に現れるDバンドの強度IDに対する1580cm-1付近に現れるGバンドの強度IGの比(IG/ID)が、概ね10以下であることが好ましく、例えば1~8であることがより好ましく、いくつかの実施形態において1~2であることがさらに好ましい。Gバンドは、CNTの結晶構造に由来するピークであり、Dバンドは、CNTの欠陥構造に由来するピークである。そのため、上記比(IG/ID)が大きいほど、結晶性が高く、高い導電性を実現できる。また、上記比(IG/ID)が所定値以下であると、CNT同士の凝集が抑えられ、分散性を向上できる。
【0018】
本工程で用意する(言い換えれば、CNT分散液に含ませる)CNTの質量は、例えばCNT分散液の用途や、使用する溶媒の種類ないし量等によって適宜変更すべき設計事項である。一例では、最終的なCNT分散液において、CNTの濃度が、概ね0.1~3質量%、例えば0.5~1質量%となる量のCNTを用意することが好ましい。
【0019】
(B)分散剤は、CNTを分散安定化するための成分である。分散剤としては特に限定されず、例えばCNT分散液の用途や溶媒の種類等に応じて、従来公知のものを1種または2種以上、適宜使用できる。分散剤は、親水基と疎水基からなる界面活性剤型であってもよく、高分子型(樹脂型)であってもよい。分散剤は、使用する溶媒に可溶ないし分散可能なものが好ましく、なかでも使用する溶媒に可溶なものがより好ましい。なお、本明細書において、「可溶」とは、25℃の環境下において、使用する溶媒に対する溶解度が1質量%以上であることをいう。
【0020】
界面活性剤型の分散剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性(ノニオン性)、両性、のいずれであってもよい。高分子型(樹脂型)の分散剤としては、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレン無水マレイン酸)、ポリ(スチレン無水マレイン酸)等が挙げられる。
【0021】
なかでも、溶媒として水系溶媒を用いる場合は、分散剤として水溶性高分子が好ましく、特に水溶性のセルロース誘導体や、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)等が好ましい。水溶性のセルロース誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース、およびこれらの塩等が挙げられる。上記塩としては、アンモニウム塩や、リチウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。なかでも、CMCおよびその塩が好ましく、減粘効果が大きいことから、特にCMCのアンモニウム塩が好ましい。
【0022】
また、溶媒として非水系溶媒(有機溶剤)を用いる場合は、分散剤として、無水マレイン酸部分を含む高分子型のもの(ポリマー)や、ポリビニルピロリドン(PVP)ポリアクリロニトリル等が好ましい。無水マレイン酸部分を含むポリマーとしては、例えば、ポリ(エチレン無水マレイン酸)、ポリ(イソブチレン無水マレイン酸)、ポリ(スチレン無水マレイン酸)、ポリ(メチルビニルエーテル無水マレイン酸)、およびこれらの誘導体等が挙げられる。なかでも、ポリ(スチレン無水マレイン酸)が好ましい。
【0023】
分散剤の重量平均分子量は特に限定されないが、1000以上100万以下であることが好ましく、1万以上70万以下であることがより好ましく、3万以上50万以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量が上記範囲であると、後述する混合工程S2でCNTと絡みやすくなり、CNTの分散性を高いレベルで向上できる。さらに、分散液中でのCNTの凝集をも抑制しうるため、優れた導電性を発揮しやすくなる。なお、分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)による測定値を、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させることで算出できる。
【0024】
分散剤の粘度は特に限定されないが、B型粘度計により、ローターの回転数60rpm、25℃で測定した1質量%水溶液の粘度が、概ね1000mPa・s以下であるものが好ましく、例えば、5~500mPa・s、さらには10~100mPa・sであるものがより好ましく、20~50mPa・sであるものがさらに好ましい。これにより、増粘を抑えて、均一なCNT分散液を得やすくなる。また、得られたCNT分散液の取扱い性や作業性を向上できる。
【0025】
本工程で用意する(言い換えれば、CNT分散液に含ませる)分散剤の質量は、例えば使用するCNTの量や性状、使用する溶媒の種類、分散剤の性状等によって異なりうるため特に限定されない。分散剤は、CNTの導電性を阻害しない量であることが好ましい。一例として、分散剤の量は、CNTの量と同じかそれよりも少ないことが好ましい。ここに開示される技術では、用いる分散剤が比較的少量であっても、溶媒中にCNTを高度に分散することができるので、均質なCNT分散液を調製できる。
【0026】
(C)溶媒は、少なくともCNTを分散させるための分散媒である。溶媒としては特に限定されず、例えばCNT分散液の用途等に応じて、従来公知のものを1種または2種以上、適宜使用できる。溶媒は、水を含む水系溶媒であってもよく、有機溶剤からなる非水系溶媒であってもよい。水系溶媒は、典型的には水であるが、水を主体(50質量%以上を占める成分。)とする混合溶媒であってもよい。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合しうる有機溶剤、例えばアルコール、エーテル、ケトン等を使用しうる。水としては、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、蒸留水、限外濾過水、逆浸透水等が好ましい。水系溶媒は、80質量%以上が水であることが好ましく、95質量%以上が水であることがより好ましく、実質的に水からなる(98質量%以上が水である)ことがさらに好ましい。
【0027】
非水系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒、エタノール、メタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤、等が挙げられる。なかでもNMPが好ましい。
【0028】
(D)添加剤としては、例えばCNT分散液の諸特性の向上を目的として、従来この種の用途に使用しうることが知られているものを1種または2種以上、適宜使用することができる。添加剤の具体例として、酸化防止剤、消泡剤、防腐剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の有機添加剤や、カーボンブラック、グラファイト等のCNT以外の(非繊維質な)炭素材料が挙げられる。
【0029】
混合工程S2は、用意工程S1で用意したCNTを、少なくとも3回に分割して上記溶媒中に投入し、CNTを投入ごとに混合する工程である。
図1の実施形態において、混合工程S2は、所定量のCNTを3段階で(3回に分けて)投入するものであり、第1混合工程S21と、第2混合工程S22と、第3混合工程S23と、を含んでいる。なお、例えばCNTの濃度が濃い(例えばCNTの濃度が3質量%を超える)CNT分散液を製造する場合には、さらに第4混合工程、第5混合工程、等を含むことが好ましい。分割投入の回数Tは、ここでは3である。分割投入の回数Tは特に限定されないが、概ね100以下、好ましくは50以下、例えば20以下であるとよい。回数Tを所定値以下とすることで、本工程に要する時間が短縮でき、作業性や生産性を向上できる。また、CNTの短尺化を抑えて、優れた導電性を実現しやすくなる。
【0030】
混合には、例えば、ディスパー、プラネタリーミキサー、ニーダー、プロペラスターラー、超音波ホモジナイザー、マグネティックスターラー、ロールミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等の従来公知の分散装置を適宜用いることができる。なかでも、媒体(メディア)のコンタミネーションを低減する観点等から、媒体を使用しない(媒体レスの)装置が好ましい。また、分散が均質に進行しやすいことから、循環式の分散装置が好ましい。また、処理時間を短縮しうることから、高速撹拌のせん断力を利用した装置が好ましい。
【0031】
高速撹拌のせん断力を利用する装置の一例として、高圧ホモジナイザーが挙げられる。なかでも、一対のノズルと一対のノズルの間に位置するチャンバとを有する構成が好ましい。かかる構成の高圧ホモジナイザーでは、増圧機で加圧した混合液(スラリー)同士を、一対のノズルからそれぞれ高速で吐出し、チャンバの中央部で斜向衝突させる。特に限定されるものではないが、いくつかの実施形態において、高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は、50~200MPaが好ましく、100~150MPaがより好ましい。また、上記ノズルを有する構成の場合、ノズルの直径は、例えば0.05~0.5mmが好ましく、0.1~0.2mmがより好ましい。
【0032】
本工程の温度環境は、例えば分散剤の溶媒に対する溶解性を高める観点等から、10℃以上が好ましく、20℃以上が好ましい。一方、溶媒の揮発を抑制する観点等から、溶媒の沸点以下の温度、例えば100℃以下が好ましく、50℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましい。
【0033】
第1混合工程S21は、用意工程S1で用意したCNTのうち、第1の量M1のCNTを溶媒に分散させて、第1混合液を得る工程である。本実施形態では、例えば分散装置の攪拌槽内に、第1の量M1の(A)CNTと、(B)分散剤と、(C)溶媒と、を投入して、混合する工程である。特に限定されるものではないが、本工程では、用意工程で用意した(B)分散剤と(C)溶媒とを、それぞれ全量投入することが好ましい。なお、
図1の実施形態では、(C)溶媒に、まず(B)分散剤を投入して、溶媒中に溶解させた後、(A)CNTを投入しているが、投入の順序は特に限定されない。例えば(A)CNTと(B)分散剤を先に混合して混合物としてから、(C)溶媒に投入してもよい。
【0034】
本工程では、例えば上記したような従来公知の分散装置のなかから、複数の種類の装置を選択し、それらを組み合わせて使用し、第1混合液を得ることが好ましい。例えば、CNTの濡れ(溶媒との馴染み)を促進し、CNTの粗大粒子や凝集を解す観点から、まず分散の初期ではプロペラスターラーを用いて予備混合液を調製し、続いて、高圧ホモジナイザーを用いて第1混合液を得ることがより好ましい。
【0035】
特に限定されるものではないが、予備混合液の調製にあたり、プロペラスターラーのプロペラの回転数は、10~1000rpmとすることが好ましく、100~500rpmとすることがより好ましい。また予備混合液は、例えば粒度分布計で確認できるD50粒径(メジアン径)が、1000μm程度になるまで混合とするとよい。これにより、高圧ホモジナイザーでCNTを分散処理しやすくなり、例えばCNTがノズルに詰まることを未然防止できる。なお、高圧ホモジナイザーの条件(例えば圧力やノズル径)は、上述の通りである。高圧ホモジナイザーでの混合は、第1混合液が均質になるまで行うことが好ましい。
【0036】
特に限定解釈されることを意図したものではないが、本発明者らの検討によれば、CNTの投入後、分散の進行に伴い、CNTの解繊と三次元構造体の形成が進む。この三次元構造体に溶媒分子が入り込むと、混合液がゲル状態となり、混合液の粘度が急上昇する。そして混合液の粘度は、やがて最高値(ピーク値)に達する。そこからさらに分散を進めると、CNTの短尺化と孤立分散化が進み、混合液の粘度は低下する。
【0037】
第1混合工程S21における混合液の粘度のピーク値は、例えば使用する分散装置の種類等にもよるため特に限定されないが、25℃の環境下、E型粘度計により、ローターの回転数1rpmで測定される粘度が、概ね50,000mPa・sを超えないことが好ましく、40,000mPa・sを超えないことがより好ましく、30,000mPa・sを超えないことがさらに好ましく、20,000mPa・sを超えないことが特に好ましく、例えば5,000~15,000mPa・sであるとよい。これにより、所謂、固練りの状態となり、混合液に大きなせん断力を付与できる。また、後述する第2混合工程S22ないし第3混合工程S23で混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0038】
第1の量M1は、用意工程S1で用意したCNTの全量Mallよりも少ない量である。第1の量M1は、CNTを投入した後、25℃の環境下、E型粘度計により、ローターの回転数1rpmで測定される粘度のピーク値が50,000mPa・sを超えない量とすることが好ましく、40,000mPa・sを超えない量、さらには30,000mPa・sを超えない量、20,000mPa・sを超えない量、とすることがより好ましい。これにより、粘度がピーク値に達したときであっても、混合液の粘度が高くなりすぎず、分散装置への負荷を軽減できる。
【0039】
いくつかの実施形態において、第1の量M1は、後述する2回目以降のCNTの投入量(ここでは、第2混合工程S22における第2の量M2および第3混合工程S3における第3の量M3)よりも多いことが好ましい。すなわち、1回目のCNTの投入量を最も多くする(本実施形態では、M1,M2,M3が、M2<M1、かつ、M3<M1を満たす)ことが好ましい。これにより、2回目以降の混合工程(本実施形態では、後述する第2混合工程S22ないし第3混合工程S23)で、混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0040】
いくつかの実施形態において、第1の量M1は、用意工程S1で用意したCNTの全量Mallと、分割投入の回数Tとが、次の関係:(Mall/T)<M1;を満たすことが好ましい。すなわち、ここでは、分割投入の回数Tが3なので、(Mall/3)<M1を満たすことが好ましい。これにより、分割投入の回数Tを少なくして、効率よくCNTを分散させることができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、第1の量M1は、用意工程S1で用意したCNTの全量Mallを100質量%としたときに、全量Mallの概ね10質量%以上、例えば20質量%以上、30質量%以上、35質量%以上が好ましい。第1の量M1を所定値以上とすることで、分割投入の回数Tを少なくして、効率よくCNTを分散させることができる。第1の量M1は、CNTの全量Mallを100質量%としたときに、概ね99質量%以下、例えば80質量%以下、70質量%以下、50質量%以下が好ましい。第1の量M1を所定値以下とすることで、第1混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0042】
第1混合液は、粘度が低下して、CNTが溶媒中に充分分散されるまで行うことが好ましい。第1混合液は、CNTの投入後の混合液の粘度が、ピーク値を超えて予め定め有られた閾値にまで下がるまで行うことが好ましく、ピーク値の1/n(2≦nの整数)に達するまで混合することがより好ましい。言い換えれば、2回目以降のCNTの投入(第2混合工程S22ないし第3混合工程S23の開始)は、直前のCNTの投入後の混合液の粘度が、ピーク値を超えて予め定め有られた閾値にまで下がってから行うことが好ましく、ピーク値の1/n(2≦nの整数)まで低下した時点で行うことがより好ましい。これにより、先に添加したCNTの三次元構造体が充分に解砕された状態でCNTを追加投入できるため、2回目以降の混合工程(本実施形態では、後述する第2混合工程S22ないし第3混合工程S23)で粘度が上昇しすぎることを好適に抑制できる。
【0043】
nの値は、2以上であれば特に限定されないが、概ね50以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。nの値を所定値以下とすることで、CNTの短尺化を抑えて、優れた導電性を実現できる。また、本工程に要する時間が短縮でき、作業性や生産性を向上できる。
【0044】
なお、ここでは粘度のピーク値を基準として、2回目以降のCNTの投入のタイミング(言い換えれば、第2混合工程S22ないし第3混合工程S23の開始のタイミング)を決定しているが、これには限定されない。他の実施形態において、2回目以降のCNTの投入のタイミングは、例えば本工程の開始時点を基準として、所定の時間が経過してから、等としてもよい。
【0045】
第1混合液の粘度は特に限定されないが、E型粘度計により、ローターの回転数1rpm、25℃で測定した粘度が、概ね10,000mPa・s以下であることが好ましく、8,000mPa・s以下であることがより好ましく、例えば3,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。これにより、後述する第2混合工程S22ないし第3混合工程S23で混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。また、導電性や生産性を向上する観点から、第1混合液の粘度は、概ね100mPa・s以上であることが好ましく、500mPa・s以上であることがより好ましく、例えば1,000mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0046】
第2混合工程S22は、上記のように調製した第1混合液に対して、用意工程S1で用意したCNTのうち、第2の量M2のCNTを追加投入し、分散させて、第2混合液を得る工程である。本工程では、高圧ホモジナイザーを用いて第2混合液を得ることが好ましい。なお、高圧ホモジナイザーの条件(例えば圧力やノズル径)は、上述の通りである。高圧ホモジナイザーの条件は、第1混合工程S21と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
例えば使用する分散装置の種類等にもよるため特に限定されるものではないが、第2混合工程S22における粘度のピーク値は、典型的には第1混合工程S21よりも大きく、40,000mPa・sを超えないことが好ましく、30,000mPa・sを超えないことがより好ましく、例えば10,000~25,000mPa・sであってもよい。これにより、所謂、固練りの状態となり、混合液に大きなせん断力を付与できる。また、後述する第3混合工程S23で混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0048】
第2の量M2は、用意工程S1で用意したCNTの全量Mallよりも少ない量である。第2の量M2は、第1の量M1と同様に、CNTを投入した後、25℃の環境下、ローターの回転数1rpmで測定される粘度のピーク値が50,000mPa・sを超えない量とすることが好ましく、40,000mPa・sを超えない量、さらには30,000mPa・sを超えない量、とすることがより好ましい。これにより、粘度がピーク値に達したときであっても、混合液の粘度が高くなりすぎることを抑制でき、分散装置への負荷を軽減できる。
【0049】
いくつかの実施形態において、第2の量M2は、第1の量M1よりも少ないことが好ましい。これにより、第2混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0050】
いくつかの実施形態において、第2の量M2は、CNTの全量Mallを100質量%としたときに、全量Mallの概ね10質量%以上、例えば20質量%以上、30質量%以上が好ましい。第2の量M2を所定値以上とすることで、分割投入の回数Tを少なくして、効率よくCNTを分散させることができる。第2の量M2は、CNTの全量Mallを100質量%としたときに、概ね50質量%以下、例えば40質量%以下、30質量%以下が好ましい。第2の量M2を所定値以下とすることで、第2混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0051】
なお、本実施形態では、用意工程で用意した(B)分散剤と(C)溶媒とを、第1混合工程S21で全量投入しているため、本工程では(B)分散剤および(C)溶媒を添加していない。ただし、他の実施形態において、例えば粘度のピーク値が上記範囲に収まるように、(B)分散剤ないし(C)溶媒の一部を、本工程で追加投入してもよい。
【0052】
第2混合液の粘度は特に限定されないが、E型粘度計により、ローターの回転数1rpm、25℃で測定した粘度が、典型的には第1混合液の粘度よりも大きく、概ね20,000mPa・s以下であることが好ましく、10,000mPa・s以下であることがより好ましく、例えば5,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。これにより、後述する第3混合工程S23で混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。また、導電性や生産性を向上する観点から、第2混合液の粘度は、概ね100mPa・s以上であることが好ましく、500mPa・s以上であることがより好ましく、例えば1,000mPa・s以上であることがさらに好ましい。
【0053】
第3混合工程S23は、上記のように調製した第2混合液に対して、用意工程S1で用意したCNTのうち、第3の量M3のCNTを追加投入し、分散させて、所望の濃度のCNT分散液を得る工程である。本工程では、高圧ホモジナイザーを用いて第3混合液を得ることが好ましい。高圧ホモジナイザーの条件(例えば圧力やノズル径)は、上述の通りである。高圧ホモジナイザーの条件は、第1混合工程S21および/または第2混合工程S22と同様であってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
第3の量M3は、用意工程S1で用意したCNTの全量Mallよりも少ない量である。第3の量M3は、ここではCNTの全量Mallから第1の量M1と第2の量M2とを差し引いた量(すなわち、M3=Mall-M1-M2)である。
【0055】
第3の量M3は、第1の量M1ないし第2の量M2と同様に、CNTを投入した後、25℃の環境下、ローターの回転数1rpmで測定される粘度のピーク値が50,000mPa・sを超えない量とすることが好ましく、40,000mPa・sを超えない量とすることがより好ましい。これにより、粘度がピーク値に達したときであっても、混合液の粘度が高くなりすぎることを抑制でき、分散装置への負荷を軽減できる。また、例えば使用する分散装置の種類等にもよるため特に限定されるものではないが、第3混合工程S23における粘度のピーク値は、典型的には第2混合工程S22よりも大きく、50,000mPa・sを超えないことが好ましく、45,000mPa・sを超えないことがより好ましく、例えば15,000~40,000mPa・sであってもよい。これにより、所謂、固練りの状態となり、混合液に大きなせん断力を付与できる。
【0056】
いくつかの実施形態において、第3の量M3は、第1の量M1よりも少ないことが好ましい(M3<M1)。これにより、CNT分散液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0057】
いくつかの実施形態において、第3の量M3は、第2の量M2と同じであってもよいし(M3=M2)、第2の量M2よりも少なくてもよい(M3<M2)。すなわち、2回目以降は、分割投入の回数Tに応じて、投入量が均等ないし漸減するようにCNTを投入することが好ましい。これにより、3回目以降の混合工程(本実施形態では、第3混合工程S23)で、混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0058】
いくつかの実施形態において、第3の量M3は、CNTの全量Mallを100質量%としたときに、全量Mallの概ね10質量%以上、例えば20質量%以上、30質量%以上が好ましい。第3の量M3を所定値以上とすることで、分割投入の回数Tを少なくして、効率よくCNTを分散させることができる。第3の量M3は、CNTの全量Mallを100質量%としたときに、概ね50質量%以下、例えば40質量%以下、30質量%以下が好ましい。第3の量M3を所定値以下とすることで、CNT分散液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0059】
なお、本実施形態では、用意工程で用意した(B)分散剤と(C)溶媒とを、第1混合工程S21で全量投入しているため、本工程では(B)分散剤および(C)溶媒を添加していない。ただし、他の実施形態において、例えば粘度のピーク値が上記範囲に収まるように、(B)分散剤ないし(C)溶媒の一部を、本工程で追加投入してもよい。また、(D)添加剤を添加する場合は、CNTを全量投入した後に添加することが好ましい。
【0060】
<CNT分散液>
CNT分散液は、各種用途に使用できる。例えば二次電池の電極(正極および/または負極)を作成する用途では、少なくとも(A)CNTが、(C)溶媒としての水ないしNMPに分散された分散液とすることができる。CNT分散液は、固形分全体を100質量%としたときに、CNTが概ね50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占めているとよく、実質的にCNTからなる(固形分全体の98質量%以上がCNTである)ことが特に好ましい。このような場合、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。なお、ここでいう「固形分」とは、25℃の環境下でCNT分散液から固液分離によって分離される(例えば、濾別される)固形成分をいう。言い換えれば、固形分は、25℃の環境下で溶媒に分散ないし沈殿している成分であり、溶媒に溶解している成分は含まない。
【0061】
CNT分散液の粘度は特に限定されないが、E型粘度計により、ローターの回転数1rpm、25℃で測定した粘度が、典型的には第2混合液の粘度よりも大きく、概ね30,000mPa・s以下であることが好ましく、15,000mPa・s以下であることがより好ましく、例えば10,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、CNT分散液の粘度は、概ね100mPa・s以上であることが好ましく、500mPa・s以上であることがより好ましく、例えば2,000mPa・s以上であることがさらに好ましい。これにより、作業性や取扱い性を向上できる。
【0062】
いくつかの実施形態において、CNT分散液の全体を100質量%としたときに(A)CNTの割合は、概ね0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。ここに開示される技術によれば、例えばCNTの割合が1質量%以上となるような高濃度のCNT分散液であっても、好適に製造できる。また、CNT分散液の全体を100質量%としたときに、(A)CNTの割合は、分散安定性の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0063】
CNT分散液が(B)分散剤を含む場合、CNT分散液の全体を100質量%としたときに、(B)分散剤の割合は、CNTの分散性や分散安定性を向上する観点から、概ね0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、(B)分散剤の割合は、導電性向上の観点から、CNT分散液の全体を100質量%としたときに、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0064】
いくつかの実施形態において、(A)CNTを100質量部としたときに、(B)分散剤の割合は、CNTの分散性や分散安定性を向上する観点から、10質量部以上が好ましく、50質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましい。また、(A)CNTを100質量部としたときに、(B)分散剤の割合は、導電性向上の観点から、500質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、150質量部以下がさらに好ましい。
【0065】
CNT分散液が(D)添加剤を含む場合、CNT分散液の全体を100質量%としたときに、(D)添加剤の割合は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、特には2質量%以下、1質量%以下が好ましい。
【0066】
以上のように、本実施形態の製造方法は、所定量のカーボンナノチューブ(CNT)と溶媒とを用意する用意工程S1と、上記所定量のカーボンナノチューブを、少なくとも3回に分割して上記溶媒中に投入し、上記投入ごとに混合する、混合工程S2と、を含む。これにより、所定量のCNTを溶媒中に一気に投入して混合する場合に比べて、混合液の粘度が上昇しすぎることを抑えられ、分散処理をしやすくなる。また、凝集体の発生が抑制され、CNTの分散性を向上できる。ひいては、均質なCNT分散液を安定して調製できる。さらに、CNT濃度が高い分散液をも好適に調製でき、分散液中のCNT濃度を向上することも可能となる。
【0067】
本実施形態の製造方法では、混合工程S2において、1回目の上記カーボンナノチューブの投入量を最も多くする。これにより、2回目以降の混合工程S22,S23で混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0068】
本実施形態の製造方法では、混合工程S2において、2回目以降は、分割投入の回数に応じて、投入量が均等ないし漸減するように上記カーボンナノチューブを投入する。これにより、2回目以降の混合工程S22,S23で、混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0069】
本実施形態の製造方法では、混合工程S2において、各回の上記カーボンナノチューブの投入量は、1回分の上記カーボンナノチューブを投入した後、25℃の環境下、E型粘度計により、ローターの回転数1rpmで測定される粘度のピーク値が50,000mPa・sを超えない量とする。これにより、粘度がピーク値に達したときであっても、混合液の粘度が高くなりすぎることを抑制でき、分散装置への負荷を軽減できる。
【0070】
本実施形態の製造方法では、混合工程S2において、2回目以降の上記カーボンナノチューブの投入は、直前の上記カーボンナノチューブの投入後の上記粘度が、上記ピーク値の1/n(2≦nの整数)まで低下した時点で行う。これにより、先に添加したカーボンナノチューブの三次元構造体が充分に解砕された状態でカーボンナノチューブを追加投入できるため、2回目以降の混合工程S22,S23で粘度が上昇しすぎることを好適に抑制できる。
【0071】
本実施形態の製造方法では、上記nが、2以上5以下である。これにより、CNTの短尺化を抑えて、優れた導電性を実現できる。また、本工程に要する時間が短縮でき、作業性や生産性を向上できる。
【0072】
本実施形態の製造方法では、混合工程S2において、1回目の上記カーボンナノチューブの投入量を、上記所定量の50質量%以下とする。これにより、第1混合液の粘度(特にピーク値)が高くなりすぎることを抑制できる。
【0073】
本実施形態の製造方法では、混合工程S2において、1回目の上記カーボンナノチューブの投入の際に、用意工程S1で用意した上記溶媒を全量添加する。これにより、作業性や生産性を向上できる。
【0074】
本実施形態の製造方法は、用意工程S1において、上記溶媒に可溶な分散剤をさらに用意し、混合工程S2において、1回目の上記カーボンナノチューブの投入の際に、用意工程S1で用意した上記分散剤を全量添加する。これにより、カーボンナノチューブ分散液の分散安定性を向上できる。また、作業性や生産性を向上できる。
【0075】
本実施形態の製造方法は、用意工程S1において、平均繊維長が100μm以上のカーボンナノチューブを用意する。これにより、導電ネットワークを効果的に形成しやすくなり、導電性を向上できる。また、カーボンナノチューブの平均繊維長が長い場合、溶媒中でカーボンナノチューブ同士が絡まって凝集しやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。
【0076】
本実施形態の製造方法は、上記カーボンナノチューブ分散液は、固形分全体を100質量%としたときに、上記カーボンナノチューブが50質量%以上を占めている。このような場合、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。
【0077】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0078】
<CNT分散液の作製>
実施例1~4では、所定量のCNT(平均直径10nm、平均繊維長250μm)と、分散剤としてのCMC(ダイセルミライズ製のCMCダイセルアンモニウム DN10L)と、溶媒としての水と、を用意して、所定量のCNTを3回に分割して溶媒中に投入し、CNTが1.0質量%のCNT分散液を作製した。
図2は、実施例1~4に係る粘度の推移を表すグラフである。なお、
図2において、横軸のパス数は、ここでは循環式の分散装置において混合液を循環処理した回数を表している。また、各例につき、CNTを追加投入した個所には星印を付し、第1~第3の各混合工程における粘度のピーク値(ピークトップ粘度)には矢印を付している。
【0079】
(実施例1)
実施例1では、第2,第3の混合工程において、混合液の粘度がピーク値の2分の1になってからCNTを追加投入した。具体的には、まず、CNTと、分散剤としてのCMCと、溶媒としての水とを、CNT 0.4質量%、CMC 1.0質量%、水 98.6質量%の割合でポリプロピレン容器に投入し、プロペラスターラーを用いて、340rpmの回転数で30分間攪拌し、予備混合液を調製した。これにより、予備混合液中のCNTのD50粒径(メジアン径)を、約1000μmまで低下させた。
【0080】
続いて、予備混合液を高圧ホモジナイザー(スギノマシン製、スターバーストHJP―25001V2)の原料タンクに投入し、混合液に対して循環式の分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.15mm、圧力150MPaにて行った。このとき、粘度計(東機産業製、TV―200E)を用いて、分散処理過程における混合液の粘度をモニタリングし、回転数:1rpmで測定した混合液の粘度がピーク値の2分の1(ここでは、6500mPa・s)になるまで分散処理を行った(第1混合工程)。これにより、第1混合液を得た。
【0081】
続いて、原料タンク中の第1混合液に、CNTを0.3質量%分、追加投入し、再び高圧ホモジナイザーによる循環式の分散処理を行った。このとき、E型粘度計を用いて混合液の粘度を測定し、混合液の粘度がCNT追加投入後のピーク値の2分の1(ここでは、11070mPa・s)になるまで分散処理を行った(第2混合工程)。これにより、第2混合液を得た。
【0082】
続いて、原料タンク中の第2混合液に、CNTを0.3質量%分、さらに追加投入し、再び高圧ホモジナイザーによる循環式の分散処理を行った。このとき、E型粘度計を用いて混合液の粘度を測定し、混合液の粘度が2回目のCNT追加投入後のピーク値の2分の1(ここでは、13030mPa・s)になるまで分散処理を行った(第3混合工程)。以上のようにして、1.0質量%のCNTを含むCNT分散液(実施例1)を得た。
【0083】
(実施例2)
実施例2では、循環式の分散処理における、CNTの追加投入および分散処理終了のタイミングを、それぞれ粘度のピーク値の5分の1のタイミングに変更した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液(実施例2)を得た。
【0084】
(実施例3)
実施例3では、循環式の分散処理における、CNTの追加投入および分散処理終了のタイミングを、それぞれ粘度のピーク値の10分の1のタイミングに変更した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液(実施例3)を得た。
【0085】
(実施例4)
実施例4では、循環式の分散処理における、CNTの追加投入および分散処理終了のタイミングを、それぞれ粘度のピーク値の30分の1のタイミングに変更した以外は、実施例1と同様にしてCNT分散液(実施例4)を得た。
【0086】
(比較例1)
比較例1では、所定量のCNTを1回で全て投入し、CNTが1.0質量%のCNT分散液を作製しようと試みた。具体的には、まず、CNTとCMC(分散剤)と水(溶媒)とを、CNT 1.0質量%、CMC 1.0質量%、水 98.0質量%の割合でポリプロピレン容器に投入し、実施例1と同様に予備混合液を調製した。続いて、予備混合液を高圧ホモジナイザーの原料タンクに投入し、実施例1と同様の条件(シングルノズルチャンバー、ノズル径0.15mm、圧力150MPa)で、循環式の分散処理を行った。しかしながら、増粘の影響により混合液の粘度が分散装置処理能力の上限を超えて処理が不可能となり、CNT分散液を得ることができなかった。なお、分散処理が不可能となった段階での混合液の粘度は、50,500mPa・sであった。
【0087】
(比較例2)
比較例2では、所定量のCNTを2分割して投入し、CNTが1.0質量%のCNT分散液を作製しようと試みた。具体的には、まず、CNTとCMC(分散剤)と水(溶媒)とを、CNT 0.5質量%、CMC 1.0質量%、水 98.5質量%の割合でポリプロピレン容器に投入し、実施例1と同様に予備混合液を調製した。続いて、予備混合液を高圧ホモジナイザーの原料タンクに投入し、実施例1と同様の条件(シングルノズルチャンバー、ノズル径0.15mm、圧力150MPa)で、循環式の分散処理を行った。このとき、実施例2と同様に、粘度計を用いて分散処理過程における混合液の粘度をモニタリングし、回転数:1rpmで測定した混合液の粘度が、ピーク値の5分の1になるまで分散処理を行った(第1混合工程)。これにより、第1混合液を得た。
【0088】
続いて、原料タンク中の第1混合液に、CNTを0.5質量%分、追加投入し、再び高圧ホモジナイザーによる循環式の分散処理を行った。しかしながら、増粘の影響により混合液の粘度が分散装置の処理能力の上限を超えて処理が不可能となり、CNT分散液を得ることができなかった。なお、分散処理が不可能となった段階での混合液の粘度は、50,380mPa・sであった。
【0089】
<CNTの分散性評価>
実施例1~4のCNT分散液をスライドガラス上に滴下し、カバーガラスを重ね、光学顕微鏡(キーエンス製、VHX-8000)を用いて200倍で観察し、下記基準に従って分散状態を評価した。結果を表1に示す。
・「◎」:凝集体無し
・「〇」:凝集体がごくわずか有り
・「×」:凝集体が多数有り
【0090】
<CNT塗膜の表面抵抗率評価>
実施例1~4の1.0質量%の分散液を、5質量%のCMC水溶液で希釈し、0.08質量%、0.1質量%、0.12質量%、0.16質量%、0.2質量%、0.4質量%、にそれぞれ調製した。希釈した分散液0.3gをスライドガラス上に分取し、フィルムアプリケーター(オールグッド製、膜厚調整機能付き)を用いてスライドガラス全面に均一に塗工した後、100℃で30分間加熱乾燥させ、CNT塗膜を作製した。その後、CNT塗膜に対して、銅箔を、距離30mm、幅25mmとなるように重ね、抵抗計(HIOKI製、RM3548)を用いてCNT塗膜の表面抵抗を測定した。得られた表面抵抗値から、下記式(1):
表面抵抗率(Ω/sq.)=表面抵抗値×(25mm/30mm) 式(1)
を用いて表面抵抗率を算出した。結果を表1および
図4に示す。なお、表1には、下記基準に従って評価結果を示している。
・「◎」:CNT濃度0.16質量%での表面抵抗率が、10000Ω/sq.以下である。
・「〇」:CNT濃度0.16質量%での表面抵抗率が、10000Ω/sq.を超え、かつ50000Ω/sq.以下である。
・「×」:CNT濃度0.16質量%での表面抵抗率が、50000Ω/sq.を超える。
【0091】
【0092】
表1に示すように、実施例1~4のCNT分散液は、比較例1,2に比べて凝集体が少なく、分散性が高かった。特に、実施例2~4では、凝集体の発生が高いレベルで抑えられていた。この理由として、比較的低濃度の状態でCNTを分散処理することにより、混合液の増粘を抑制しつつ、分散装置でCNTに効率的にシェアをかけることができ、CNTを解繊できたことが考えられる。これらの結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0093】
また、表1および
図4に示すように、実施例1~4のなかでは、実施例1,2のCNT分散液を用いた場合に、CNT塗膜の表面抵抗率が低く抑えられた。この理由として、実施例1、2では、パス回数が相対的に少なく抑えられているために、CNT分散液中のCNT繊維長を比較的長いまま保持することができ、その結果、塗膜内に効率的に導電パスを形成することができたことが考えられる。これに対して、実施例3,4では、パス回数が相対的に多くなったことで、CNTの短尺化が進み、塗膜内に導電パスが形成されにくくなったことが考えられる。
【0094】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0095】
S1 用意工程
S2 混合工程
S21 第1混合工程
S22 第2混合工程
S23 第3混合工程
【要約】
【課題】カーボンナノチューブの分散性を向上できるカーボンナノチューブ分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、所定量のカーボンナノチューブと溶媒とを用意する用意工程S1と、上記所定量のカーボンナノチューブを、少なくとも3回に分割して溶媒中に投入し、上記投入ごとに混合する、混合工程S2と、を含む。
【選択図】
図1