(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電力変換装置および電力変換装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/483 20070101AFI20240910BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240910BHJP
【FI】
H02M7/483
H02M7/48 E
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2023176679
(22)【出願日】2023-10-12
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 慎太郎
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/095241(WO,A1)
【文献】特許第7271808(JP,B1)
【文献】特開平9-252581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置であって、
直流正母線および直流負母線間に接続される可変直流電源と、
前記直流正母線と直流中性点母線との間に接続される第1のコンデンサと、
前記直流中性点母線と前記直流負母線との間に接続される第2のコンデンサと、
複数のスイッチング素子を有するマルチレベル回路を含み、前記直流正母線、前記直流中性点母線および前記直流負母線から供給される第1~第3の直流電圧を交流電圧に変換して負荷に供給するインバータと、
前記インバータの出力電流を検出する電流検出器と、
制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧が参照直流電圧になるように前記可変直流電源を制御する直流電源制御部と、
前記複数のスイッチング素子のオンオフ駆動をパルス幅変調制御するインバータ制御部とを含み、
前記インバータ制御部は、前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧に応じたピーク-ピーク値を有する搬送波信号を生成し、前記搬送波信号と正弦波状の電圧指令値とを比較して、前記複数のスイッチング素子をオンオフ駆動するためのゲート信号を生成するように構成され、
前記制御装置は、
前記電流検出器による前記出力電流の検出値から前記電力変換装置の負荷率を検出し、前記負荷率に応じて前記参照直流電圧と前記搬送波信号の周波数とを設定する発熱分散制御部をさらに含み、
前記発熱分散制御部は、前記負荷率が予め定められた閾値より大きい第1の場合には、前記負荷率が前記閾値以下である第2の場合に比べて、前記参照直流電圧を上昇させるとともに、前記搬送波信号の周波数を低下させる、電力変換装置。
【請求項2】
前記マルチレベル回路は、
前記交流電圧を受ける交流端子と、
前記直流正母線と前記交流端子との間に接続される第1のスイッチング素子と、
前記直流中性点母線と前記交流端子との間に接続される第2のスイッチング素子と、
前記直流負母線と前記交流端子との間に接続される第3のスイッチング素子と、
前記第2のスイッチング素子の一方端子と前記交流端子との間、または前記第2のスイッチング素子の他方端子と前記直流中性点母線との間に接続される第4のスイッチング素子と、
前記第1から第4のスイッチング素子にそれぞれ逆並列に接続される第1から第4のダイオードとを含み、
前記インバータ制御部は、
前記電圧指令値が正極性である第1の期間には前記第1および第2のスイッチング素子を交互にオンさせ、前記電圧指令値が負極性である第2の期間には前記第1および第2のスイッチング素子をオフ状態およびオン状態にそれぞれ維持し、
前記第2の期間には前記第3および第4のスイッチング素子を交互にオンさせ、前記第1の期間には前記第3および第4のスイッチング素子をそれぞれオフ状態およびオン状態に維持するように構成される、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記マルチレベル回路は、
前記交流電圧を受ける交流端子と、
前記直流正母線と前記交流端子との間に接続される第1のスイッチング素子と、
前記直流中性点母線と前記交流端子との間に接続される第2のスイッチング素子と、
前記第2のスイッチング素子の一方端子と前記直流負母線との間に接続される第3のスイッチング素子と、
前記第1のスイッチング素子の一方端子と前記交流端子との間に接続される第4のスイッチング素子と、
前記第1から第4のスイッチング素子にそれぞれ逆並列に接続される第1から第4のダイオードと、
前記第2のスイッチング素子の一方端子と前記直流中性点母線との間に接続される第5のダイオードと、
前記直流中性点母線と前記第1のスイッチング素子の一方端子との間に接続される第6のダイオードとを含み、
前記インバータ制御部は、
前記電圧指令値が正極性である第1の期間には前記第1および第2のスイッチング素子を交互にオンさせ、前記電圧指令値が負極性である第2の期間には前記第1および第2のスイッチング素子をオフ状態およびオン状態にそれぞれ維持し、
前記第2の期間には前記第3および第4のスイッチング素子を交互にオンさせ、前記第1の期間には前記第3および第4のスイッチング素子をそれぞれオフ状態およびオン状態に維持するように構成される、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記搬送波信号の周波数の低下および前記搬送波信号のピーク-ピーク値の上昇に従って、前記第1および第3のスイッチング素子の電力損失が減少する一方で、前記第2および第4のスイッチング素子の電力損失が増加し、
前記発熱分散制御部は、前記第2および第4のスイッチング素子の電力損失の増加量が前記第1および第3のスイッチング素子の電力損失の減少量を超えないように、前記第2の場合における前記参照直流電圧および前記搬送波信号の周波数を設定する、請求項2または3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記可変直流電源は、交流電源から供給される交流電圧を前記第1~第3の直流電圧に変換して前記直流正母線、前記直流中性点母線および前記直流負母線に供給するコンバータを含み、
前記直流電源制御部は、前記交流電源の健全時に、前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧が前記参照直流電圧になるように前記コンバータを制御する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記可変直流電源は、前記直流正母線、前記直流中性点母線および前記直流負母線と電力貯蔵装置との間で直流電力を授受する双方向チョッパをさらに含み、
前記直流電源制御部は、前記交流電源の停電時に、前記コンバータの運転を停止するとともに、前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧が前記参照直流電圧になるように前記双方向チョッパを制御する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
電力変換装置の制御方法であって、
前記電力変換装置は、
直流正母線および直流負母線間に接続される可変直流電源と、
前記直流正母線と直流中性点母線との間に接続される第1のコンデンサと、
前記直流中性点母線と前記直流負母線との間に接続される第2のコンデンサと、
複数のスイッチング素子を有するマルチレベル回路を含み、前記直流正母線、前記直流中性点母線および前記直流負母線から供給される第1~第3の直流電圧を交流電圧に変換して負荷に供給するインバータと、
前記インバータの出力電流を検出する電流検出器とを含み、
前記制御方法は、
前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧が参照直流電圧になるように前記可変直流電源を制御するステップと、
前記複数のスイッチング素子のオンオフ駆動をパルス幅変調制御するステップとを備え、
前記パルス幅変調制御するステップは、
前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧に応じたピーク-ピーク値を有する搬送波信号を生成するステップと、
前記搬送波信号と正弦波状の電圧指令値とを比較して、前記複数のスイッチング素子をオンオフ駆動するためのゲート信号を生成するステップとを含み、
前記制御方法は、
前記電流検出器による前記出力電流の検出値から前記電力変換装置の負荷率を検出するステップと、
検出された前記負荷率に応じて前記参照直流電圧と前記搬送波信号の周波数とを設定するステップとをさらに備え、
前記設定するステップは、前記負荷率が予め定められた閾値より大きい第1の場合には、前記負荷率が前記閾値以下である第2の場合に比べて、前記参照直流電圧を上昇させるとともに、前記搬送波信号の周波数を低下させるステップを含む、電力変換装置の制御方法。
【請求項8】
前記可変直流電源は、交流電源から供給される交流電圧を前記第1~第3の直流電圧に変換して前記直流正母線、前記直流中性点母線および前記直流負母線に供給するコンバータを含み、
前記可変直流電源を制御するステップは、前記交流電源の健全時に、前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧が前記参照直流電圧になるように前記コンバータを制御するステップを含む、請求項7に記載の電力変換装置の制御方法。
【請求項9】
前記可変直流電源は、前記直流正母線、前記直流中性点母線および前記直流負母線と電力貯蔵装置との間で直流電力を授受する双方向チョッパをさらに含み、
前記可変直流電源を制御するステップは、前記交流電源の停電時に、前記コンバータの運転を停止するとともに、前記直流正母線および前記直流負母線間の直流電圧が前記参照直流電圧になるように前記双方向チョッパを制御するステップを含む、請求項8に記載の電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置および電力変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平3-82396号公報(特許文献1)には、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)形インバータ装置が開示されている。このインバータ装置は、直流電源と、スイッチング素子および逆並列接続されたダイオードからなる逆変換器と、出力周波数および出力電圧の基準となる基準電圧波形を出力する基準電圧発生器と、キャリア波を出力するキャリア発生器と、基準電圧波形とキャリア波とを比較し、スイッチング信号のゲート信号を生成するPWM回路と、PWM回路のゲート信号を受けてスイッチング素子を駆動する駆動回路と、キャリア周波数を設定する出力周波数設定器とを備える。
【0003】
ある局面では、出力周波数設定器は、所定のキャリア周波数範囲において、出力周波数が低くなるに従いキャリア周波数を高くし、出力周波数が高くなるに従いキャリア周波数を低く設定するように構成されている。別の局面では、出力周波数設定器は、スイッチング素子の温度が低くなるに従いキャリア周波数を高くし、スイッチング素子の温度が高くなるに従いキャリア周波数を低く設定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正の直流電圧、中性点電圧および負の直流電圧を交流電圧に変換するマルチレベル回路を含み、直流電力を交流電力に変換して負荷に供給するインバータ(3レベルインバータ)がある。マルチレベル回路は、第1~第4のスイッチング素子と、第1~第4のスイッチング素子にそれぞれ逆並列に接続される第1~第4のダイオードとを含む。
【0006】
ある局面では、第1のスイッチング素子は、直流正母線と交流端子との間に接続される。第2のスイッチング素子は、交流端子と直流中性点母線との間に接続される。第3のスイッチング素子は、交流端子と直流負母線との間に接続される。第4のスイッチング素子は、第2のスイッチング素子の一方端子と交流端子との間に接続される。
【0007】
インバータを制御する制御装置は、同じ周波数かつ同位相の2つのキャリア波を出力するキャリア波発生器を有する。制御装置は、正弦波状の電圧指令値と2つのキャリア波との高低を比較し、比較結果に基づいて第1~第4のスイッチング素子をオンオフ駆動するための第1~第4のゲート信号を生成する。
【0008】
このようなインバータにおいて、第1~第4のゲート信号に従って第1~第4のスイッチング素子をオンオフさせた場合、第1および第3のスイッチング素子に印加される電圧が第2および第4のスイッチング素子に印加される電圧に比べて大きいことなどに起因して、第1および第3のスイッチング素子の電力損失が第2および第4のスイッチング素子の電力損失よりも大きくなる。これにより、第1および第3のスイッチング素子に発熱が集中する傾向が現れる。このような傾向は、インバータの過負荷時において顕著となる。
【0009】
過熱による第1および第3のスイッチング素子の損傷を防ぐためには、熱集中に耐えることができるスイッチング素子の選定、および熱集中を抑制するための冷却構造の設計が必要となる。その一方で、通常運転時には定格負荷以下の範囲でインバータが運転され、インバータが過負荷となる時間が短い場合には、上述した熱集中への対策は、電力変換装置の運用に対して過剰な設計となり得る。その結果、電力変換装置を無駄にコストアップおよび大型化させてしまうことが懸念される。
【0010】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、マルチレベル回路を有するインバータを備える電力変換装置において、過負荷時における一部のスイッチング素子に対する熱集中を分散させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施態様による電力変換装置は、可変直流電源と、第1および第2のコンデンサと、インバータと、電流検出器と、制御装置とを備える。可変直流電源は、直流正母線および直流負母線間に接続される。第1のコンデンサは、直流正母線と直流中性点母線との間に接続される。第2のコンデンサは、直流中性点母線と直流負母線との間に接続される。インバータは、複数のスイッチング素子を有するマルチレベル回路を含み、直流正母線、直流中性点母線および直流負母線から供給される第1~第3の直流電圧を交流電圧に変換して負荷に供給する。電流検出器は、インバータの出力電流を検出する。制御装置は、直流電源制御部と、インバータ制御部とを含む。直流電源制御部は、直流正母線および直流負母線間の直流電圧が参照直流電圧になるように可変直流電源を制御する。インバータ制御部は、複数のスイッチング素子のオンオフ駆動をパルス幅変調制御する。インバータ制御部は、直流正母線および直流負母線間の直流電圧に応じたピーク-ピーク値を有する搬送波信号を生成する。インバータ制御部は、搬送波信号と正弦波状の電圧指令値とを比較して、複数のスイッチング素子をオンオフ駆動するためのゲート信号を生成するように構成される。制御装置は、発熱分散制御部をさらに含む。発熱分散制御部は、電流検出器による出力電流の検出値から電力変換装置の負荷率を検出し、負荷率に応じて参照直流電圧と搬送波信号の周波数とを設定する。発熱分散制御部は、負荷率が予め定められた閾値より大きい第1の場合には、負荷率が閾値以下である第2の場合に比べて、参照直流電圧を上昇させるとともに、搬送波信号の周波数を低下させる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、マルチレベル回路を有するインバータを備える電力変換装置において、特定のスイッチング素子に対する熱集中を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態に従う電力変換装置が適用される無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図2】制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示したインバータおよびその周辺部の構成を示す回路ブロック図である。
【
図4】
図3に示したインバータ制御部の構成を示す回路ブロック図である。
【
図5】電圧指令値、三角波信号およびPWM信号およびIGBTに流れる電流の波形を示すタイムチャートである。
【
図6】インバータに発生する電力損失のシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】IGBTの電力損失における導通損失とスイッチング損失との内訳を示す図である。
【
図8】
図7に示した発熱分散制御部の動作の一例を説明する図である。
【
図9】電圧指令値、三角波信号、PWM信号およびIGBTに流れる電流の波形を示すタイムチャートである。
【
図10】インバータに発生する電力損失のシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】負荷率がR1であるときのIGBTの電力損失における導通損失とスイッチング損失との内訳を示す図である。
【
図12】発熱分散制御部の動作の他の例を説明する図である。
【
図13】本実施の形態の第1変更例を示す回路ブロック図である。
【
図14】本実施の形態の第2変更例を示す回路ブロック図である。
【
図15】本実施の形態の第3変更例を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
図1は、本開示の実施の形態に従う電力変換装置が適用される無停電電源装置1の構成を示す回路ブロック図である。無停電電源装置1は、商用交流電源21からの三相交流電力を直流電力に一旦変換し、その直流電力を三相交流電力に変換して負荷24に供給するものである。
図1では、図面および説明の簡単化のため、三相(U相、V相、W相)のうちの一相(例えばU相)に対応する部分の回路のみが示されている。
【0016】
図1に示すように、無停電電源装置1は、交流入力端子T1、バイパス入力端子T2、バッテリ端子T3、および交流出力端子T4を備える。交流入力端子T1は、商用交流電源21から商用周波数の交流電力を受ける。バイパス入力端子T2は、バイパス交流電源22から商用周波数の交流電力を受ける。バイパス交流電源22は、商用交流電源であってもよいし、発電機であってもよい。
【0017】
バッテリ端子T3は、バッテリ23に接続される、バッテリ23は、直流電力を蓄える。バッテリ23は「電力貯蔵装置」の一実施例に対応する。バッテリ23の代わりに電気二重層コンデンサまたはフライホイールが接続されていても構わない。交流出力端子T4は、負荷24に接続される。負荷24は、無停電電源装置1から供給される交流電力によって駆動される。
【0018】
無停電電源装置1は、さらに、電磁接触器2,8,14,16、電流検出器3,11、コンデンサ4,9,13、リアクトル5,12、コンバータ6、双方向チョッパ7、インバータ10、半導体スイッチ15、操作部17、および制御装置18を備える。
【0019】
電磁接触器2およびリアクトル5は、交流入力端子T1とコンバータ6の交流ノードとの間に直列接続される。電磁接触器2は、制御装置18によって制御される。商用交流電源21から交流電力が正常に供給されている場合(商用交流電源21の健全時)には、電磁接触器2はオンされる。商用交流電源21からの交流電力が正常に供給されなくなった場合(商用交流電源21の停電時)には、電磁接触器2はオフされる。電流検出器3は、商用交流電源21とコンバータ6との間に流れる交流入力電流Iiを検出し、その検出値を示す信号Iifを制御装置18に与える。
【0020】
電磁接触器2とリアクトル5との間のノードN1に現れる交流入力電圧Viの瞬時値は、制御装置18によって検出される。制御装置18は、交流入力電圧Viの検出値に基づいて、停電が発生したか否かを判定する。また、制御装置18は、交流入力電圧Viに同期してコンバータ6などを制御する。
【0021】
コンデンサ4は、ノードN1に接続される。コンデンサ4およびリアクトル5は、低域通過フィルタを構成し、商用交流電源21からコンバータ6に商用周波数の交流電力を通過させ、コンバータ6で発生するスイッチング周波数の信号が商用交流電源21に通過することを防止する。
【0022】
コンバータ6は、制御装置18によって制御され、商用交流電源21の健全時には、交流電力を直流電力に変換して直流ラインL1に出力する。コンバータ6の出力電圧は、所望の値に制御可能になっている。直流ラインL1は「直流正母線」を構成する。コンバータ6は「可変直流電源」の一実施例に対応する。
【0023】
商用交流電源21の停電時には、コンバータ6の運転は停止される。コンデンサ9は、直流ラインL1に接続され、直流ラインL1の電圧を平滑化させる。直流ラインL1に現れる直流電圧VDCの瞬時値は、制御装置18によって検出される。制御装置18は、商用交流電源21の健全時には、直流ラインL1の直流電圧VDCが参照直流電圧VDCrになるようにコンバータ6を制御する。
【0024】
直流ラインL1は双方向チョッパ7の高電圧側ノードに接続され、双方向チョッパ7の低電圧側ノードは電磁接触器8を介してバッテリ端子T3に接続される。電磁接触器8は、無停電電源装置1の使用時はオンされ、例えば無停電電源装置1およびバッテリ23のメンテナンス時にオフされる。バッテリ端子T3に現れるバッテリ23の端子間電圧VBの瞬時値は、制御装置18によって検出される。
【0025】
双方向チョッパ7は、制御装置18によって制御され、商用交流電源21の健全時には、コンバータ6によって生成された直流電力をバッテリ23に蓄える。商用交流電源21の停電時には、双方向チョッパ7は、バッテリ23の直流電力を、直流ラインL1を介してインバータ10に供給する。バッテリ端子T3に現れるバッテリ23の端子間電圧VBの瞬時値は、制御装置18によって検出される。双方向チョッパ7は「可変直流電源」の一実施例に対応する。
【0026】
制御装置18は、商用交流電源21の健全時には、バッテリ電圧VBが参照直流電圧VBrになるように双方向チョッパ7を制御し、商用交流電源21の停電時には、直流ラインL1の直流電圧VDCが参照直流電圧VDCrになるように双方向チョッパ7を制御する。直流ラインL1は、インバータ10の直流ノードに接続されている。
【0027】
インバータ10は、制御装置18によって制御される。インバータ10は、コンバータ6または双方向チョッパ7から直流ラインL1を介して供給される直流電力を商用周波数の交流電力に変換して出力ノード10aに出力する。
【0028】
すなわちインバータ10は、商用交流電源21の健全時には、コンバータ6から直流ラインL1を介して供給される直流電力を交流電力に変換し、商用交流電源21の停電時には、バッテリ23から双方向チョッパ7を介して供給される直流電力を交流電力に変換する。インバータ10の出力電圧は所望の値に制御可能になっている。
【0029】
インバータ10の出力ノード10aはリアクトル12を介して電磁接触器14の一方端子(ノードN2)に接続され、電磁接触器14の他方端子は交流出力端子T4に接続される。コンデンサ13は、ノードN2に接続される。リアクトル12およびコンデンサ13は、低域通過フィルタを構成し、インバータ10で生成された商用周波数の交流電力を交流出力端子T4に通過させ、インバータ10で発生するスイッチング周波数の信号が交流出力端子T4に通過することを防止する。
【0030】
電磁接触器14は、制御装置18によって制御され、インバータ10によって生成された交流電力を負荷24に供給するインバータ給電モード時にはオンされ、バイパス交流電源22からの交流電力を負荷24に供給するバイパス給電モード時にはオフされる。
【0031】
ノードN2に現れる交流出力電圧Voの瞬時値は、制御装置18によって検出される。電流検出器11は、インバータ10と負荷24との間に流れる電流Ioを検出し、その検出値を示す信号Iofを制御装置18に与える。インバータ10の出力電流Ioは負荷電流に相当する。制御装置18は、交流出力電圧Voが正弦波状の参照交流電圧Vorになるようにインバータ10を制御する。
【0032】
半導体スイッチ15は、互いに逆並列に接続された一対のサイリスタを含み、バイパス入力端子T2と交流出力端子T4との間に接続される。電磁接触器16は、半導体スイッチ15に並列接続される。半導体スイッチ15は、制御装置18によって制御され、通常はオフし、インバータ10が故障した場合に瞬時にオンし、バイパス交流電源22からの交流電力を負荷24に供給する。半導体スイッチ15は、オンしてから所定時間経過後にオフする。
【0033】
電磁接触器16は、インバータ10によって生成された交流電力を負荷24に供給するインバータ給電モード時にはオフされ、バイパス交流電源22からの交流電力を負荷24に供給するバイパス給電モード時にはオンされる。また電磁接触器16は、インバータ10が故障した場合にオンし、バイパス交流電源22からの交流電力を負荷24に供給する。
【0034】
操作部17は、無停電電源装置1の使用者によって操作される複数のボタン、種々の情報を表示する画像表示部などを含む。使用者が操作部17を操作することにより、無停電電源装置1の電源をオンおよびオフしたり、バイパス給電モード、インバータ給電モードなどのうちのいずれかのモードを選択することが可能となっている。
【0035】
制御装置18は、交流入力電圧Vi、交流入力電流Ii、直流電圧VDC、バッテリ23の端子間電圧VB、交流出力電圧Vo、交流出力電流Io、参照直流電圧VDCr,VBr、参照交流電圧Vor、および操作部17からの信号などに基づいて無停電電源装置1全体を制御する。
【0036】
図2は、制御装置18のハードウェア構成例を示すブロック図である。代表的には、制御装置18は、所定のプログラムが予め記憶されたマイクロコンピュータによって構成することができる。
【0037】
図2の例では、制御装置18は、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ104と、入出力(I/O)回路106とを含む。CPU102、メモリ104およびI/O回路106は、バス108を経由して、相互にデータの授受が可能である。メモリ104の一部領域にはプログラムが格納されており、CPU102が当該プログラムを実行することで、後述する各種機能を実現することができる。I/O回路106は、制御装置18の外部との間で信号およびデータを入出力する。
【0038】
あるいは、
図2の例とは異なり、制御装置18の少なくとも一部については、FPGA(Field Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路を用いて構成することができる。また、制御装置18の少なくとも一部について、アナログ回路によって構成することもできる。
【0039】
図3は、
図1に示したインバータ10およびその周辺部の構成を示す回路ブロック図である。
図3に示すように、コンバータ6とインバータ10との間には、直流ラインL1~L3が接続されている。直流ラインL2は、中性点NPに接続され、中性点電圧(例えば0V)にされる。直流ラインL2は「直流中性点母線」を構成し、直流ラインL3は「直流負母線」を構成する。
【0040】
コンデンサ9は2つのコンデンサ9a,9bを含む。コンデンサ9aは、直流ラインL1,L2間に接続されている。コンデンサ9bは、直流ラインL2,L3間に接続されている。コンデンサ9aは「第1のコンデンサ」の一実施例に対応し、コンデンサ9bは「第2のコンデンサ」の一実施例に対応する。
【0041】
コンバータ6は、商用交流電源21の健全時は、商用交流電源21からの交流電力を直流電力に変換して直流ラインL1~L3に供給する。このときコンバータ6は、直流ラインL1,L3間の直流電圧VDCが参照直流電圧VDCrになり、直流ラインL1,L2間の直流電圧VDCaがVDCr/2になり、かつ直流ラインL2,L3間の直流電圧VDCbがVDCr/2になるように、コンデンサ9a,9bの各々を充電する。直流電圧VDCは、直流電圧VDCaと直流電圧VDCbとの和である(VDC=VDCa+VDCb)。
【0042】
直流ラインL1,L2,L3の電圧は、それぞれ正の直流電圧(+VDCr/2)、中性点電圧(0V)、および負の直流電圧(-VDCr/2)にされる。商用交流電源21の停電時は、コンバータ6の運転は停止される。
【0043】
双方向チョッパ7は、商用交流電源21の健全時には、コンバータ6によって生成された直流電力をバッテリ23に蓄える。このとき双方向チョッパ7は、バッテリ23の端子間電圧VBが参照直流電圧VBrになるように、バッテリ23を充電する。
【0044】
双方向チョッパ7は、商用交流電源21の停電時には、バッテリ23の直流電力をインバータ10に供給する。このとき双方向チョッパ7は、直流ラインL1,L3間の直流電圧VDCが参照直流電圧VDCrになり、かつ、コンデンサ9a,9bの端子間電圧VDCa,VDCbの各々がVDCr/2になるようにコンデンサ9a,9bの各々を充電する。
【0045】
インバータ10は、商用交流電源21の健全時には、コンバータ6によって生成された直流電力を商用周波数の交流電力に変換して負荷24に供給する。インバータ10は、商用交流電源21の停電時には、双方向チョッパ7によって生成された直流電力を商用周波数の交流電力に変換して負荷24に供給する。
【0046】
インバータ10は、直流ラインL1~L3から供給される正の直流電圧(第1の直流電圧)、中性点電圧(第2の直流電圧)、および負の直流電圧(第3の直流電圧)に基づいて商用周波数の交流出力電圧Voを生成するマルチレベル回路により構成されている。
【0047】
具体的には、インバータ10は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)Q1~Q4およびダイオードD1~D4を含む。IGBTQ1~Q4はそれぞれ「第1から第4のスイッチング素子」の一実施例に対応する。
図3では、スイッチング素子として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いているが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などの任意の半導体素子を用いることができる。
【0048】
ダイオードD1~D4は、それぞれIGBTQ1~Q4に逆並列に接続される。ダイオードD1~D4は、対応するIGBTのオフ時に還流電流(フリーホイール電流)を流すために設けられている。スイッチング素子がMOSFETである場合には、ダイオードD1~D4は、寄生のダイオード(ボディダイオード)で構成してもよい。
【0049】
IGBTQ1(第1のスイッチング素子)は、直流ラインL1(直流正母線)と出力ノード10a(交流端子)との間に接続される。IGBTQ1のコレクタは直流ラインL1に接続され、そのエミッタは出力ノード10aに接続される。IGBTQ2(第2のスイッチング素子)は、直流ラインL2(直流中性点母線)と出力ノード10aとの間に接続される。IGBTQ4(第4のスイッチング素子)は、IGBTQ2の一方端子と出力ノード10aとの間に接続される。IGBTQ2,Q4のコレクタは互いに接続され、それらのエミッタはそれぞれ直流ラインL2および出力ノード10aに接続される。IGBTQ3(第3のスイッチング素子)は、直流ラインL3(直流負母線)と出力ノード10aとの間に接続される。IGBTQ3のコレクタは出力ノード10aに接続され、そのエミッタは直流ラインL3に接続される。出力ノード10aは、リアクトル12を介してノードN2に接続される。
【0050】
インバータ10では、第1の期間には、IGBTQ3,Q4がそれぞれオフ状態およびオン状態にされ、IGBTQ1,Q2が交互にオンされる。第2の期間には、IGBTQ1,Q2がそれぞれオフ状態およびオン状態にされ、IGBTQ3,Q4が交互にオンされる。
【0051】
第1の期間において、IGBTQ1がオンされると、直流ラインL1からIGBTQ1を介して出力ノード10aに正の直流電圧が出力される。また、IGBTQ2がオンされると、出力ノード10aがダイオードD4およびIGBTQ2を介して直流ラインL2に接続されるとともに、直流ラインL2がダイオードD2およびIGBTQ4を介して出力ノード10aに接続され、出力ノード10aが中性点電圧にされる。したがって、第1の期間には、出力ノード10aに正の直流電圧と中性点電圧とが交互に出力される。
【0052】
第2の期間において、IGBTQ3がオンされると、出力ノード10aがIGBTQ3を介して直流ラインL3に接続され、出力ノード10aが負の直流電圧にされる。また、IGBTQ4がオンされると、直流ラインL2がダイオードD2およびIGBTQ4を介して出力ノード10aに接続されるとともに、出力ノード10aがダイオードD4およびIGBTQ2を介して直流ラインL2に接続され、出力ノード10aが中性点電圧にされる。したがって、第2の期間には、出力ノード10aに負の直流電圧と中性点電圧とが交互に出力される。
【0053】
制御装置18は、インバータ10を制御するインバータ制御部30と、コンバータ6および双方向チョッパ7(可変直流電源)を制御する直流電源制御部40とを含んで構成される。
図4は、
図3に示したインバータ制御部30の構成を示す回路ブロック図である。インバータ制御部30は、マルチレベル回路を構成するIGBTQ1~Q4のオンオフ駆動をパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御するように構成される。
【0054】
図4に示すように、インバータ制御部30は、電圧指令部81、三角波発生器82,83、比較器84,85、バッファ86,87、否定(NOT)回路88,89、およびゲート駆動回路90,91を含む。
【0055】
電圧指令部81は、ノードN2に現れる交流出力電圧Voの瞬時値と、電流検出器11の出力信号Iofとに基づいて、正弦波状の電圧指令値Vorを生成する。電圧指令値Vorの移動は、三相(U相、V相、W相)のうちの対応する相(ここではU相)の交流入力電圧Viの位相に同期している。
【0056】
三角波発生器82は、商用周波数よりも十分に高い周波数fcの三角波信号Cu1aを出力する。三角波発生器83は、三角波信号Cu1bと同位相で同じ周波数fcの三角波信号Cu1bを出力する。三角波信号Cu1aは、正側で変化する信号である。三角波信号Cu1bは、負側で変化する信号である。三角波信号Cu1a,Cu1bは「搬送波信号」の一実施例に対応する。搬送波信号は鋸波であってもよい。
【0057】
三角波発生器82,83は、後述する発熱分散制御部34から与えられる周波数指令および参照直流電圧VDCrに応じて、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcおよびピーク-ピーク値を調整する。三角波発生器82,83は、三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値を、参照直流電圧VDCrの1/2の大きさとする。なお、参照直流電圧VDCrの1/2は、電圧指令値Vorの振幅よりも大きい。
【0058】
これによると、三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値が電圧指令値Vorの振幅よりも大きくなるため、インバータ10によって正弦波状の交流電圧Voを生成することができる。なお、本明細書では、三角波信号のピーク-ピーク値に対する電圧指令値Vorの振幅の比率を「変調率」という。インバータ10における変調率は、電圧VDC/2に対する電圧指令値Vorの振幅の比率となる。
【0059】
比較器84は、電圧指令部81からの電圧指令値Vorと三角波発生器82からの三角波信号Cu1aとの高低を比較し、比較結果を示すPWM信号φ1を出力する。バッファ86は、PWM信号φ1をゲート駆動回路90に与える。NOT回路88は、PWM信号φ1を反転させ、PWM信号φ2を生成してゲート駆動回路90に与える。
【0060】
比較器85は、電圧指令部81からの電圧指令値Vorと三角波発生器83からの三角波信号Cu1bとの高低を比較し、比較結果を示すPWM信号φ3を出力する。バッファ87は、PWM信号φ3をゲート駆動回路91に与える。NOT回路89は、PWM信号φ3を反転させ、PWM信号φ4を生成してゲート駆動回路91に与える。
【0061】
ゲート駆動回路90は、PWM信号φ1,φ2に基づいて、IGBTQ1,Q2をオンオフさせるためのゲート信号VG1,VG2を生成する。ゲート駆動回路91は、PWM信号φ3,φ4に基づいて、IGBTQ3,Q4をオンオフさせるためのゲート信号VG3,VG4を生成する。ゲート信号VG1~VG4が活性化レベルのHレベルにされると、IGBTQ1~Q4はそれぞれオンする。ゲート信号VG1~VG4が非活性化レベルのLレベルにされると、IGBTQ1~Q4はそれぞれオフする。
【0062】
図5は、
図4に示した電圧指令値Vor、三角波信号Cu1a,Cu1b、およびPWM信号φ1,φ2の波形と、IGBTQ1,Q2に流れる電流(コレクタ電流)I1,I2の波形とを示すタイムチャートである。
【0063】
図5に示すように、電圧指令値Vorは、商用周波数の正弦波信号である。三角波信号Cu1aの最小値は0Vであり、その最大値は電圧指令値Vorの正のピーク値よりも高い。三角波信号Cu1bの最大値は0Vであり、その最小値は電圧指令値Vorの負のピーク値よりも小さい。三角波信号Cu1a,Cu1bは同位相の信号であり、三角波信号Cu1a,Cu1bの位相は電圧指令値Vorの位相に同期している。三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcは、電圧指令値Vorの周波数(商用周波数)よりも高い。三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値は、参照直流電圧VDCrの1/2に等しい。
【0064】
三角波信号Cu1aのレベルが電圧指令値Vorよりも高い場合には、PWM信号φ1はLレベルになる。逆に、三角波信号Cu1aのレベルが電圧指令値Vorよりも低い場合には、PWM信号φ1はHレベルになる。PWM信号φ1がHレベルのときにIGBTQ1に電流が流れ、PWM信号φ1がLレベルのときにIGBTQ1には電流が流れない。
【0065】
図示は省略するが、三角波信号Cu1bのレベルが電圧指令値Vorよりも低い場合には、PWM信号φ3はLレベルになる。逆に、三角波信号Cu1bのレベルが電圧指令値Vorよりも高い場合には、PWM信号φ3はHレベルになる。PWM信号φ3がHレベルのときにIGBTQ3に電流が流れ、PWM信号φ3がLレベルのときにIGBTQ3には電流が流れない。PWM信号φ4はPWM信号φ3の反転信号である。
【0066】
電圧指令値Vorが正極性である第1の期間では、電圧指令値Vorが上昇すると、PWM信号φ1のパルス幅は増大する。そのため、三角波信号のピーク-ピーク値が固定である場合には、電圧指令値Vorの振幅が大きくなるに従って、すなわち変調率が高くなるに従って、第1の期間に占めるIGBTQ1のオン期間の割合が増える一方で、IGBTQ2のオン期間の割合が減少することになる。
【0067】
電圧指令値Vorが負極性である第2の期間では、PWM信号φ1はLレベルに固定される。PWM信号φ2はPWM信号φ1の反転信号である。PWM信号φ2がHレベルのときにIGBTQ2に電流が流れ、PWM信号φ2がLレベルのときにIGBTQ2には電流が流れない。なお、図示は省略するが、第2の期間では、PWM信号φ2はHレベルに維持されるため、PWM信号φ4がHレベルのときにIGBTQ2に電流が流れ、PWM信号φ4がLレベルのときにIGBTQ2には電流が流れない。
【0068】
ここで、インバータ10における課題について説明する。
図6は、インバータ10に発生する電力損失のシミュレーション結果を示した図である。
図6の横軸は無停電電源装置1の負荷率を示し、
図6の縦軸は電力損失を示している。なお、無停電電源装置1の負荷率は、インバータ10の出力電流(負荷電流)が定格電流になるとき(すなわち、定格負荷)を100%として、負荷電流の割合を示したものである。
【0069】
図6には、IGBTQ1,Q3の電力損失と負荷率との関係を示す波形と、IGBTQ2,Q4の電力損失と負荷率との関係とを示す波形とが示されてている。負荷率の大きさによらず、IGBTQ1,Q3の電力損失は、IGBTQ2,Q4の電力損失よりも大きくなっている。負荷率が大きくなるにつれて、IGBTQ1,Q3の電力損失とIGBTQ2,Q4の電力損失の差も増大している。
【0070】
IGBTQ1,Q3の電力損失は、IGBTQ1,Q3の通電時に発生する電力損失である導通損失と、IGBTQ1,Q3のスイッチング動作時に発生する電力損失であるスイッチング損失とを含んでいる。IGBTQ2,Q4の電力損失は、IGBTQ2,Q4の導通損失と、IGBTQ2,Q4のスイッチング損失とを含んでいる。
図7に、各IGBTの電力損失における導通損失とスイッチング損失との内訳を示す。
【0071】
図7(A)は、定格負荷におけるIGBTQ1,Q3およびIGBTQ2,Q4の電力損失の内訳を説明する図である。
図7(B)は、過負荷領域におけるIGBTQ1,Q3およびIGBTQ2,Q4の電力損失の内訳を説明する図である。なお、
図7(A)および
図7(B)では、定格負荷におけるIGBTQ1,Q3の導通損失を1.0と定義している。
【0072】
図7(A)を参照して、IGBTQ1,Q3の電力損失、およびIGBTQ2,Q4の電力損失のいずれにおいても、導通損失がスイッチング損失よりも大きい。なお、IGBTの導通損失は、IGBTのオン抵抗、コレクタ電流およびオン時間の積に比例する。また、IGBTのスイッチング損失は、IGBTのコレクタ-エミッタ間電圧の最大値、IGBTのコレクタ電流の最大値、IGBTのスイッチング時間(ターンオン時間+ターンオフ時間)およびスイッチング周波数の積に比例する。なお、スイッチング周波数は、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcに等しい。
【0073】
IGBTQ1,Q3の導通損失は、IGBTQ2,Q4の導通損失よりも大きい。これは、
図5に示したように、第1の期間に占めるIGBTQ1のオン時間の割合がIGBTQ2のオン時間の割合よりも大きいこと、および、第2の期間に占めるIGBTQ3のオン時間の割合がIGBTQ4のオン時間の割合よりも大きいことによる。
【0074】
また、IGBTQ1,Q3のスイッチング損失は、IGBTQ2,Q4のスイッチング損失よりも大きい。これは、IGBTQ1,Q3のコレクタ-エミッタ間電圧の最大値がIGBTQ2,Q4のコレクタ-エミッタ間電圧の最大値よりも大きいことによる。このようにIGBTQ1,Q3の導通損失およびスイッチング損失の双方がIGBTQ2,Q4の導通損失およびスイッチング損失を上回るため、IGBTQ1,Q3の電力損失はIGBTQ2,Q4の電力損失よりも大きくなる。
【0075】
このようなIGBTQ1,Q3の電力損失とIGBTQ2,Q4の電力損失との大小関係は、
図7(B)に示す過負荷領域においても見られる。なお、過負荷領域では、負荷電流の増加に伴ってIGBTのコレクタ電流が増えることにより、IGBTQ1,Q3の導通損失、およびIGBTQ2,Q4の導通損失がともに増加している。また、IGBTQ1,Q3のスイッチング損失は、負荷電流の増加によってIGBTQ1,Q3のコレクタ電流の最大値が増えることにより増加している。一方、IGBTQ2,Q4のスイッチング損失は負荷電流の増加に対してほとんど変化していない。
【0076】
そして、このような電力損失の大小関係に起因して、インバータ10においては、IGBTQ1,Q3に発熱が集中することになる。特に過負荷領域では、IGBTQ2,Q4との電力損失の差が大きくなるため、IGBTQ1,Q3における発熱の集中がより一層顕著となる。過熱によるIGBTQ1,Q3の損傷を防ぐためには、熱集中に耐えることができるスイッチング素子の選定、およびIGBTQ1,Q3の熱集中を抑制するための冷却構造の設計が必要となる。
【0077】
その一方で、無停電電源装置1の運用上、通常運転時には定格負荷以下の範囲でインバータ10が運転され、過負荷運転が行われる時間が通常運転が行われる時間に比べて短い場合には、上述した熱集中への対策は、無停電電源装置1の運用に対して過剰な設計となり得る。その結果、無停電電源装置1を無駄にコストアップおよび大型化させてしまうことが懸念される。
【0078】
上述した課題を解決するために、本実施の形態では、過負荷領域において、IGBTQ1,Q3の熱集中を分散させるための発熱分散制御を実行する。
図3に戻って、制御装置18は、発熱分散制御を実行するための構成として、負荷率検出部32と、発熱分散制御部34とを有する。
【0079】
負荷率検出部32は、電流検出器11から入力される信号Iof、および無停電電源装置1の定格電流に基づいて無停電電源装置1の負荷率Rを検出し、検出結果を発熱分散制御部34に出力する。
【0080】
発熱分散制御部34は、負荷率検出部32による負荷率Rの検出値に応じて、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcと、参照直流電圧VDCrとを設定する。
図8は、
図7に示した発熱分散制御部34の動作の一例を説明する図である。
図8の横軸は負荷率を示し、
図8の縦軸は三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcおよび参照直流電圧VDCrを示している。
【0081】
図8に示すように、負荷率が定格負荷以下となる領域では、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcはf1に設定され、参照直流電圧VDCrはVDC1に設定される。なお、VDC1は、電圧指令値Vorの振幅の2倍の電圧よりも大きい。VDC1をVorの振幅の2倍の電圧よりも高くすることで、上述したPWM制御によってインバータ10は正弦波の交流電圧Voを生成することができる。
【0082】
一方、負荷率が定格負荷を超える過負荷領域では、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcは、f1よりも低いf2に設定される(f1>f2)。参照直流電圧VDCrは、VDC1よりも大きいVDC2に設定される(VDC1<VDC2)。
【0083】
すなわち、
図8の例では、発熱分散制御部34は、過負荷領域では、定格負荷以下の領域に比べて、参照直流電圧VDCrを上昇させるとともに、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcを低下させるように構成されている。
【0084】
図3に戻って、発熱分散制御部34は、参照直流電圧VDCrを直流電源制御部40に出力する。また、発熱分散制御部34は、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcを示す周波数指令および参照直流電圧VDCrをインバータ制御部30に出力する。
【0085】
直流電源制御部40は、商用交流電源21の健全時は、直流ラインL1,L3間の直流電圧VDCが参照直流電圧VDCrになり、直流ラインL1,L2間の直流電圧VDCaがVDCr/2になり、かつ直流ラインL2,L3間の直流電圧VDCbがVDCr/2になるように、コンバータ6を制御する。また、直流電源制御部40は、バッテリ23の端子間電圧VBが参照直流電圧VBrになるように、双方向チョッパ7を制御する。
【0086】
商用交流電源21の停電時は、直流電源制御部40は、コンバータ6の運転を停止するとともに、直流ラインL1,L3間の直流電圧VDCが参照直流電圧VDCrになり、かつ、コンデンサ9a,9bの端子間電圧VDCa,VDCbの各々がVDCr/2になるように双方向チョッパ7を制御する。
【0087】
インバータ制御部30(
図4)において、三角波発生器82,83は、発熱分散制御部34から周波数指令および参照直流電圧VDCrを受ける。三角波発生器82,83は、これらの入力信号に基づいて三角波信号Cu1a,Cu1bを生成する。
【0088】
具体的には、三角波発生器82は、三角波信号Cu1aのピーク-ピーク値を参照直流電圧VDCrの1/2の大きさとする。すなわち、三角波信号Cu1aの最小値は0Vとなり、その最大値はVDCr/2となる。さらに、三角波発生器82は、三角波信号Cu1aの周波数fcを周波数指令が示す周波数に等しくする。
【0089】
三角波発生器83も同様に、三角波信号Cu1bのピーク-ピーク値を参照直流電圧VDCrの1/2の大きさとするとともに、三角波信号Cu1bの周波数fcを周波数指令が示す周波数に等しくする。すなわち、三角波信号Cu1bの最大値は0Vとなり、その最小値は-VDCr/2となる。
【0090】
図8の例によると、負荷率が定格負荷以下となる領域では、三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値はVDC1/2となり、その周波数はf1となる。一方、過負荷領域では、三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値はVDC2/2となり、その周波数はf2となる。
【0091】
インバータ制御部30は、電圧指令部81からの電圧指令値Vorと三角波発生器82からの三角波信号Cu1aとの高低を比較し、比較結果に基づいてPWM信号φ1,φ22を生成する。また、インバータ制御部30は、電圧指令部81からの電圧指令値Vorと三角波発生器83からの三角波信号Cu1bとの高低を比較し、比較結果に基づいてPWM信号φ3,φ4を生成する。
【0092】
上述のように参照直流電圧VDCrおよび三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcを変化させたことで、インバータ制御部30により生成されるPWM信号φ1~φ4にも変化が生じる。
【0093】
図9は、電圧指令値Vor、三角波信号Cu1a,Cu1b、PWM信号φ1,φ2、およびIGBTQ1,Q2に流れる電流(コレクタ電流)I1,I2の波形を示すタイムチャートであって、
図5と対比される図である。
【0094】
図9に示すタイムチャートは、
図5に示したタイムチャートとは、電圧指令値Vorの波形が同じである一方で、三角波信号Cu1a,Cu1bの波形が異なる。
図9に示す三角波信号Cu1a,Cu1bは、
図5に示す三角波信号Cu1a,Cu1bに比べて、三角波信号のピーク-ピーク値が大きく、かつ、周波数fcが小さい。以下では、
図8の例を適用して、
図5に示す三角波信号Cu1a,Cu1のピーク-ピーク値をVDC1/2とし、その周波数をf1とする。また、
図9に示す三角波信号Cu1a,Cu1のピーク-ピーク値をVDC2/2とし、その周波数をf2とする。
【0095】
図9では、
図5と比較して、電圧指令値Vorの振幅が等しい一方で、三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値が大きいため、変調率が低下している。この変調率の低下によって、電圧指令値Vorが正極性である第1の期間では、第1の期間に占めるIGBTQ1のオン期間の割合が減少する一方で、IGBTQ2のオン期間の割合が増加する。このIGBTQ1のオン期間の割合の減少により、第1の期間にIGBTQ1に流れる電流量も減少する。その一方で、IGBTQ2のオン期間の割合の増加により、第1の期間にIGBTQ2に流れる電流量が増加する。なお、IGBTの電流量はIGBTのコレクタ電流およびオン時間の積に比例する。
【0096】
このように第1の期間にIGBTQ1に流れる電流量が減少したことにより、IGBTQ1の導通損失が減少する。一方、第1の期間にIGBTQ2に流れる電流量が増加したことにより、IGBTQ2の導通損失が増加する。
【0097】
図示は省略するが、電圧指令値Vorが負極性である第2の期間では、第2の期間に占めるIGBTQ3のオン期間の割合が減少する一方で、IGBTQ4のオン期間の割合が増加する。IGBTQ3のオン期間の割合の減少により、第2の期間にIGBTQ3に流れる電流量も減少する。その一方で、IGBTQ4のオン期間の割合の増加により、第2の期間にIGBTQ4に流れる電流量が増加する。第2の期間にIGBTQ3に流れる電流量が減少したことにより、IGBTQ3の導通損失が減少する。一方、第2の期間にIGBTQ4に流れる電流量が増加したことにより、IGBTQ4の導通損失が増加する。
【0098】
また、
図9では、
図5と比較して、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcが低いため、第1の期間におけるIGBTQ1,Q2のスイッチング回数が減少するとともに、第2の期間におけるIGBTQ3,Q4のスイッチング回数が減少する。スイッチング回数の減少は、IGBTのスイッチング損失を減少させる。
【0099】
図10は、インバータ10に発生する電力損失のシミュレーション結果を示した図である。
図10の横軸は無停電電源装置1の負荷率を示し、
図10の縦軸は電力損失を示している。
【0100】
図10において、破線K11~K14は、
図5に示すタイムチャートに基づいたPWM制御を実行したときの電力損失のシミュレーション結果を示している。詳細には、破線K11はIGBTQ1,Q3の電力損失と負荷率との関係を示し、破線K13はIGBTQ2,Q4の電力損失と負荷率との関係を示している。破線K12はIGBTQ1,Q3の導通損失と負荷率との関係を示し、破線K14はIGBTQ2,Q4の導通損失と負荷率との関係を示している。各負荷率において、破線K11が示す電力損失と破線K12が示す導通損失との差分はIGBTQ1,Q3のスイッチング損失(SW損失)を示している。破線K13が示す電力損失と破線K14が示す導通損失との差分はIGBTQ2,Q4のスイッチング損失(SW損失)を示している。
【0101】
実線K1~K4は、
図9に示すタイムチャートに基づいたPWM制御を実行したときの電力損失のシミュレーション結果を示している。詳細には、実線K1はIGBTQ1,Q3の電力損失と負荷率との関係を示し、実線K3はIGBTQ2,Q4の電力損失と負荷率との関係を示している。実線K2はIGBTQ1,Q3の導通損失と負荷率との関係を示し、実線K4はIGBTQ2,Q4の導通損失と負荷率との関係を示している。各負荷率において、実線K1が示す電力損失と実線K2が示す導通損失との差分はIGBTQ1,Q3のスイッチング損失(SW損失)を示している。実線K3が示す電力損失と実線K4が示す導通損失との差分はIGBTQ2,Q4のスイッチング損失(SW損失)を示している。
【0102】
なお、
図10は、
図8の例を適用して、
図5に示す三角波信号Cu1a,Cu1のピーク-ピーク値をVDC1/2とし、その周波数をf1とし、
図9に示す三角波信号Cu1a,Cu1のピーク-ピーク値をVDC2/2とし、その周波数をf2としたときのシミュレーション結果である。
【0103】
図10の破線K12と実線K2とを比較すると、参照直流電圧VDCrを大きくして三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値(=VDCr/2)を大きくしたことにより、IGBTQ1,Q3の導通損失が減少していることが分かる。
【0104】
その一方で、参照直流電圧VDCrに従って直流電圧VDCも大きくなるため、IGBTQ1,Q3のコレクタ-エミッタ間電圧の最大値が大きくなる。IGBTQ1,Q3のコレクタ-エミッタ間電圧の最大値が大きくなると、IGBTQ1,Q3のスイッチング損失が増加していまう。そこで、参照直流電圧VDCrを大きくするに伴って、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcを低下させることにより、直流電圧VDCの増加によるIGBTQ1,Q3のスイッチング損失の増加を抑制している。その結果、IGBTQ1,Q3の電力損失では、実線K1の方が破線K11よりも電力損失が減少している。
【0105】
また、
図10の破線K14と実線K4とを比較すると、参照直流電圧VDCrを大きくして三角波信号Cu1a,Cu1bのピーク-ピーク値(=VDCr/2)を大きくしたことにより、IGBTQ2,Q4の導通損失が増加していることが分かる。一方、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcを低下させたことによるIGBTQ2,Q4のスイッチング損失への影響が小さい。その結果、IGBTQ2,Q4の電力損失では、実線K3の方が破線K13よりも電力損失が増加している。
【0106】
図10によれば、IGBTQ1,Q3の電力損失の減少量、およびIGBTQ2,Q4の電力損失の増加量はいずれも、負荷率が大きくなるほど大きくなる。
図11に、負荷率がR1(R1>100%)であるときの各IGBTの電力損失における導通損失とスイッチング損失との内訳を示す。
【0107】
図11(A)は、
図5の場合(fc=f1,VDCr=VD1、
図10の破線K11~K14に相当)におけるIGBTQ1,Q3およびIGBTQ2,Q4の電力損失の内訳を説明する図である。
図11(B)は、
図9の場合(fc=f2,VDCr=VD2、
図10の実線K1~K4に相当)におけるIGBTQ1,Q3およびIGBTQ2,Q4の電力損失の内訳を説明する図である。なお、
図11(A)および
図11(B)では、定格負荷におけるIGBTQ1,Q3の導通損失を1.0と定義している。
【0108】
図11(A)ではIGBTQ1,Q3の電力損失とIGBTQ2,Q4の電力損失との比が2.5:1.4であるのに対して、
図11(B)ではIGBTQ1,Q3の電力損失とIGBTQ2,Q4の電力損失との比は2.3:1.5である。これによると、参照直流電圧VDCrを大きくするとともに三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcを低下したことによって、IGBTQ1,Q3の電力損失が増加し、かつIGBTQ2,Q4の電力損失が減少し、結果的にIGBTQ1,Q3の電力損失とIGBTQ2,Q4の電力損失とのアンバランスが小さくなることが分かる。これによると、IGBTQ1,Q3の熱集中を分散させることができる。
【0109】
ここで、本実施の形態では、発熱分散制御部34は、
図8で説明したように、過負荷領域において、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcをf1からf2へ低下させるとともに、参照直流電圧VDCrをVDC1からVDC2に上昇させるように構成されている。したがって、本実施の形態によれば、過負荷領域におけるIGBTQ1,Q3の電力損失とIGBTQ2,Q4の電力損失とのアンバランスが小さくなるため、IGBTQ1,Q3の熱集中を分散させることが可能となる。
【0110】
なお、
図8では、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcおよび参照直流電圧VDCrの設定方法として、無停電電源装置1の負荷率が定格負荷を超えたときに、周波数fcをf1からf2に低下させるとともに、参照直流電圧VDCrをVDC1からVDC2に上昇させる構成について説明したが、周波数fcおよび参照直流電圧VDCrの設定方法はこれに限定されるものではない。
【0111】
例えば、
図12(A)に示すように、無停電電源装置1の負荷率が定格負荷を超えたときには、負荷率の増加に応じて周波数fcを連続的に低下させるとともに、参照直流電圧VDCrを連続的に上昇させる構成としてもよい。あるいは、
図12(B)に示すように、無停電電源装置1の負荷率が定格負荷を超えたときには、負荷率の増加に応じて周波数fcを段階的に低下させるとともに、参照直流電圧VDCrを段階的に上昇させる構成としてもよい。
【0112】
また、
図8では、無停電電源装置1の負荷率が定格負荷を超えたときに、三角波信号Cu1a,Cu1bの周波数fcおよび参照直流電圧VDCrを切り替える構成としたが、周波数fcおよび参照直流電圧VDCrを切り替えるための閾値は、定格負荷に限定されるものではない。
【0113】
なお、過負荷領域における周波数fcおよび参照直流電圧VDCrは、IGBTQ2,Q4の電力損失の増加量がIGBTQ1,Q3の電力損失の減少量を超えないように設定することが好ましい。これは、IGBTQ2,Q4の電力損失の増加量がIGBTQ1,Q3の電力損失の減少量を超える場合には、IGBTQ1,Q3の熱集中が分散する一方でIGBTQ1~Q4全体の電力損失が増加してしまうことから、冷却構造の改善が必要となるためである。
【0114】
(本実施の形態の変更例)
図13は、本実施の形態の第1変更例を示す回路ブロック図であって、
図3と対比される図である。第1変更例に従うインバータ10は、
図3に示すインバータ10とは、IGBTQ2とIGBTQ4とが逆に接続されている点が異なる。すなわち、IGBTQ2,Q4のエミッタが互いに接続され、IGBTQ2,Q4のコレクタがそれぞれ交流端子10aおよび直流ラインL2に接続される。第1変更例では、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0115】
図14は、本実施の形態の第2変更例を示す回路ブロック図であって、
図3と対比される図である。第2変更例に従うインバータ10は、
図3に示すインバータ10とは、IGBTQ2,Q4およびダイオードD2,D4の接続関係が異なる。
【0116】
IGBTQ2のコレクタはダイオードD4のカソードに接続され、IGBTQ2のエミッタは直流ラインL2に接続される。ダイオードD4のアノードは交流端子10aに接続される。IGBTQ4のコレクタはダイオードD2のカソードに接続され、IGBTQ4のエミッタは交流端子10aに接続される。ダイオードD2のアノードは直流ラインL2に接続される。第2変更例では、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0117】
図15は、本実施の形態の第3変更例を示す回路ブロック図であって、
図3と対比される図である。第3変更例に従うインバータ10は、
図3に示すインバータ10とは構成が異なる。
【0118】
図15に示すように、インバータ10は、IGBTQ1~Q4と、ダイオードD1~D6とを含む。IGBTQ1(第1のスイッチング素子)のコレクタは直流ラインL1に接続され、IGBTQ1のエミッタはIGBTQ4(第4のスイッチング素子)のコレクタに接続される。IGBTQ4のエミッタは出力ノード10a(交流端子)に接続される。IGBTQ2(第2のスイッチング素子)のコレクタは出力ノード10aに接続され、IGBTQ2のエミッタはIGBTQ3(第3のスイッチング素子)のコレクタに接続される。IGBTQ3のエミッタは直流ラインL3に接続される。
【0119】
ダイオードD1~D4は、それぞれIGBTQ1~Q4に逆並列に接続される。ダイオードD5(第5のダイオード)のアノードはIGBTQ2のエミッタに接続され、そのカソードは直流ラインL2に接続される。ダイオードD6(第6のダイオード)のアノードは直流ラインL2に接続され、そのカソードはIGBTQ4のコレクタに接続される。
【0120】
インバータ10では、第1の期間には、IGBTQ3,Q4がそれぞれオフ状態およびオン状態にされ、IGBTQ1,Q2が交互にオンされる。第2の期間には、IGBTQ1,Q2がそれぞれオフ状態およびオン状態にされ、IGBTQ3,Q4が交互にオンされる。
【0121】
第1の期間において、IGBTQ1がオンされると、直流ラインL1からIGBTQ1,Q4を介して出力ノード10aに正の直流電圧が出力される。また、IGBTQ2がオンされると、出力ノード10aがIGBTQ2およびダイオードD5を介して直流ラインL2に接続されるとともに、直流ラインL2がダイオードD6およびIGBTQ4を介して出力ノード10aに接続され、出力ノード10aが中性点電圧にされる。したがって、第1の期間には、出力ノード10aに正の直流電圧および中性点電圧が交互に出力される。
【0122】
第2の期間において、IGBTQ3がオンされると、出力ノード10aがIGBTQ2,Q3を介して直流ラインL3に接続され、出力ノード10aが負の直流電圧にされる。また、IGBTQ4がオンされると、直流ラインL2がダイオードD6およびIGBTQ4を介して出力ノード10aに接続されるとともに、出力ノード10aがIGBTQ2およびダイオードD5を介して直流ラインL2に接続され、出力ノード10aが中性点電圧にされる。したがって、第2の期間には、出力ノード10aに負の直流電圧および中性点電圧が交互に出力される。
【0123】
インバータ制御部30、負荷率検出部32、発熱分散制御部34および直流電源制御部40の各々の構成および動作は、
図3のインバータ制御部30、負荷率検出部32、発熱分散制御部34および直流電源制御部40の各々の構成および動作と同様であるので、その説明は繰り返さない。電圧指令値Vor、三角波信号Cu1a,Cu1b、PWM信号φ1,φ2およびIGBTQ1,Q2に流れる電流I1,I2の波形は、
図5および
図9で示した通りである。したがって、第3変更例では、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0124】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0125】
1 無停電電源装置、2,8,14,16 電磁接触器、3,11 電流検出器、4,9,9a,9b,13 コンデンサ、5,12 リアクトル、6 コンバータ、7 双方向チョッパ、10 インバータ、10a 出力ノード、17 操作部、18 制御装置、21 商用交流電源、22 バイパス交流電源、23 バッテリ、24 負荷、30 インバータ制御部、32 負荷率検出部、34 発熱分散制御部、40 直流電源制御部、81 電圧指令部、82,83 三角波発生器、84,85 比較器、86,87 バッファ、88,89 NOT回路、90,91 ゲート駆動回路、102 CPU、104 メモリ、106 I/O装置、108 通信バス、T1 交流入力端子、T2 バイパス入力端子、T3 バッテリ端子、T4 交流出力端子、L1~L3 直流ライン、Q1~Q4 IGBT、D1~D6 ダイオード。
【要約】
【課題】マルチレベル回路を有するインバータを備える電力変換装置において、過負荷時における一部のスイッチング素子に対する熱集中を分散させる。
【解決手段】インバータは、直流正母線、直流中性点母線および直流負母線から供給される直流電圧を交流電圧に変換する。電流検出器は、インバータの出力電流を検出する。直流電源制御部は、直流正母線および直流負母線間の直流電圧が参照直流電圧になるように可変直流電源を制御する。インバータ制御部は、直流正母線および直流負母線間の直流電圧に応じたピーク-ピーク値を有する搬送波信号を生成し、搬送波信号と電圧指令値とを比較してゲート信号を生成する。発熱分散制御部は、電流検出器による出力電流の検出値から負荷率を検出し、負荷率が閾値より大きい第1の場合には、負荷率が閾値以下である第2の場合に比べて、参照直流電圧を上昇させるとともに、搬送波信号の周波数を低下させる。
【選択図】
図8