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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】電子線照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/065 20060101AFI20240910BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01J37/065
G21K5/04 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023516973
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017054
(87)【国際公開番号】W WO2022230135
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】白橋 知論
(72)【発明者】
【氏名】馬場 隆
(72)【発明者】
【氏名】林 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】浅野 秀行
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-187375(JP,A)
【文献】杉田達信、外2名,エリアビーム型電子線照射装置の進歩,日新電機技報,日本,日新電機株式会社,2017年10月,Vol.62, No.3,<URL:https://nissin.jp/technical/technicalreport/pdf/2017-148/2017-148-07.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G21K 5/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に突出する導電部の先端に接続されている電極部から、前記真空容器の周壁の一部を構成する金属箔を介して前記真空容器の外部に電子線を照射するための電子線照射装置であって、
前記真空容器内において前記導電部の周囲を囲む管状の碍子を有し、
前記碍子は、前記碍子の基端側から先端側に向けて前記碍子の内径および外径が漸次減少するテーパ管部を含み、前記碍子の外面を覆う非晶質炭素膜を有する、
電子線照射装置。
【請求項2】
真空容器内に突出する導電部の先端に接続されている電極部から、前記真空容器の周壁の一部を構成する金属箔を介して前記真空容器の外部に電子線を照射するための電子線照射装置であって、
前記真空容器内において前記導電部の周囲を囲む管状の碍子を有し、
前記碍子は、複数の筒状の碍子ユニットの連結により構成され、
前記碍子ユニットは、前記碍子ユニットの内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜を有し、
複数の前記碍子ユニットのうち、前記電極部のより近くに配置されている前記碍子ユニットほどより小さい外径を有する
子線照射装置。
【請求項3】
真空容器内に突出する導電部の先端に接続されている電極部から、前記真空容器の周壁の一部を構成する金属箔を介して前記真空容器の外部に電子線を照射するための電子線照射装置であって、
前記真空容器内において前記導電部の周囲を囲む管状の碍子と、前記碍子の先端部と前記電極部の基端部との間の部分の周囲を囲む筒状のカバーと、を有し、
前記カバーは、前記カバーの内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜を有する
子線照射装置。
【請求項4】
前記碍子の先端部と前記電極部の基端部との間の部分の周囲を囲む筒状のカバーをさらに有し、
前記カバーは、前記カバーの内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜を有する、
請求項1または2に記載の電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子線を活用して、熱または光に代わる反応あるいは処理が行われている。電子線を照射、放出する電子線照射装置では、電極に高電圧を印加した場合に、導電部の意図せぬ箇所から放電が発生することがある。このような意図せぬ放電を抑制するための技術には、電極に連なりかつ当該電極に電圧を印加する電極支持体の表面を絶縁性のコーティング層で覆う構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2012-52909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の電子線照射装置では、より高い電圧を印加する場合では、コーティング層から外部への放電が生じることがあり、それにより電子線照射装置の一部が破損することがある。電子線の照射は、前述したように電子線による反応、処理を伴う製品の製造に利用されることがある。このため、電子線照射装置の一部が破損すると、当該製品の製造ライン全体を停止させる必要が生じることがある。よって、電子線照射装置においては、高い出力でも安定した連続運転を可能とする技術が求められている。
【0005】
本発明は、電子線照射装置において、高い出力でも安定した連続運転を可能とする技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、真空容器内に突出する導電部の先端に接続されている電極から、前記真空容器の周壁の一部を構成する金属箔を介して前記真空容器の外部に電子線を照射するための電子線照射装置であって、前記真空容器内において前記導電部の周囲を囲む管状の碍子を有し、前記碍子は、前記碍子の内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、電子線照射装置において、高い出力でも安定した連続運転を可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態における電子線照射装置の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態における真空容器内の構成を模式的に示す部分断面図である。
図3】本発明の一実施形態における一体構造の碍子の構成を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態におけるカバーの構成を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の他の実施形態における真空容器内の構成を模式的に示す部分断面図である。
図6】本発明の他の実施形態における碍子ユニットの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第一の実施形態〕
[全体的な構成]
図1は、本発明の一実施形態における電子線照射装置の構成を模式的に示す図である。図1に示されるように、電子線照射装置1は、略円柱状の中空の真空容器11、真空容器11の一端側の内壁側で支持されて真空容器内に配置されている電極部12、および、電極部12に直流電圧を印加する直流電源13を有する。直流電源13には、加速電圧モニター131と電子流モニター132とが接続されている。
【0010】
真空容器11は、その周壁の一部に、真空容器11の軸方向に沿って延在する金属箔111を有する。また、真空容器11は、減圧のための排気口112を有する。排気口112は、不図示の真空ポンプに接続されている。
【0011】
電極部12は、導線121と、導線121から分枝する複数のフィラメント122とを有している。真空容器内11に電極部12を支持する構成については後により詳しく説明する。
【0012】
真空容器11内を所定の真空度に減圧し、真空容器11内の電極部12に直流電源13から直流高電圧を印加することにより、フィラメント122の表面から熱励起された電子が放出される。放出された電子は、金属箔111を貫通し、大気中の物体、例えば基材14上の塗膜15、に照射される。このように、電子線照射装置1は、真空容器11内の電極部12から金属箔111を介して真空容器11の外部に電子線を照射するように構成されている。
【0013】
図2は、本実施形態における真空容器内の構成を模式的に示す部分断面図である。図2に示されるように、真空容器11の一端壁から、導電部21が真空容器11内に突出している。なお、導電部21は、真空容器11の外側では直流電源13に接続されている。導電部21の先端には、電極部12が接続されている。導電部21は、電極部12の導線121と電気的に接続されており、直流電源13からの電流は、導電部21を介して導線121に供給される。
【0014】
真空容器11内には、導電部21の周囲を囲む管状の碍子22が配置されている。碍子22は、「ブッシング」とも言われる。さらに、碍子22の先端部と電極部12の基端部との間には、この隙間を外側から覆う筒状のカバー24が配置されている。カバー24は、「フープ」とも言われる。碍子22は、その基端面が真空容器11の内壁面と気密に接するように配置されており、その先端面が不図示のフランジに気密に接するように配置されている。このように、碍子22は、碍子22の内部が真空容器11の内部と遮断されるように、真空容器11内に配置されている。
【0015】
[碍子]
図3は、本実施形態における一体構造の碍子の構成を模式的に示す断面図である。図3に示されるように、碍子22は、碍子22の基端側から先端側に向けて碍子22の内径および外径が漸次減少するテーパ管部221を含む一体的な構造物である。
【0016】
より詳しくは、碍子22は、碍子本体220と、その外周面を覆う非晶質炭素膜(DLC(Diamond-Like Carbon)膜)23とを有している。碍子本体220は、テーパ管部221と、テーパ管部221のより大きな開口端縁に連なる第一筒部222と、テーパ管部221のより小さな開口端縁に連なる第二筒部223とによって構成されている。碍子本体220の周壁の厚みは、例えばいずれの部位でも実質的に一定であり、例えば10~20mmである。
【0017】
碍子本体220は、絶縁性を有する。碍子本体220の材料は、碍子22に求められる絶縁性を発現可能な範囲から適宜に選ばれる。碍子本体220の材料の例には、金属酸化物が含まれる。当該金属酸化物の例には、酸化アルミニウムが含まれる。本実施形態において、碍子本体220は、例えば酸化アルミニウム製である。
【0018】
DLC膜23は、碍子本体220の外周面上に直接形成されている。DLC膜23は、碍子本体220の外周面上に、プラズマ化学気相成長(CVD)法または物理気相成長(PVD)法などの公知の方法によって製造される。
【0019】
DLC膜23に流れる電流とは、碍子22の両端間を流れる電流である。当該電流の設定値は、電子線照射装置1の用途、碍子本体220の材料、ならびに碍子の形状および大きさなどに応じて適宜に決めることが可能である。碍子22の直径とDLC膜23の膜厚とは反比例の関係にあり、碍子22の径が大きくなるほどDLC膜23の膜厚は薄くなる傾向にある。
【0020】
たとえば、碍子22において、当該設定値を1~400μA程度とする場合では、DLC膜23の膜厚は、0.5~5μmである。DLC膜23の膜厚が薄すぎると、碍子22の帯電の抑制が不十分となることがあり、厚すぎると、ジュール損による発熱が大きくなる。DLC膜23の膜厚は、一定であってもよいし、貫通放電を生じやすい部位について貫通放電のしやすさに応じて適切に調整されていてもよい。
【0021】
[カバー]
図4は、本発明の一実施形態におけるカバーの構成を模式的に示す断面図である。図4に示されるように、カバー24は、略円筒形状を有しているカバー本体241とその表面を覆うDLC膜25とによって構成されている。カバー24の一端の開口径は、他端の開口径よりも大きい。図4の紙面に対して左側にあるカバー24の一端側の開口は、碍子22に接続され、図4の紙面に対して右側にあるカバー24の他端側の開口には、電極部12に接続される。
【0022】
カバー本体241の外形は、カバー本体241の端部において、カバー本体241の外径がカバー本体241の軸方向において漸次変化する、丸みを帯びた形状となっている。カバー24は、碍子22の外形と電極部12の外形とを、当該丸みのある形状を含む、角部のない形状で接続している。
【0023】
カバー本体241は、ステンレス鋼製であり、軸方向に複数(例えば二つ)に分割可能な構造となっている。カバー本体241の内周面および外周面は、いずれも、DLC膜25で覆われている。カバー本体241の表面のDLC膜25の膜厚は、カバー24での二次電子の放出を抑制する観点から決めることができ、このような観点から、例えば0.5~5μmであってよい。
【0024】
[電子線照射装置の用途]
電子線照射装置1は、50~350kV以上の加速電圧で電極部12に電圧を印加して電子線を放出する。電子線は、金属箔111を通過して被照射物(例えば塗膜15)に照射される。電子線照射装置1は、上記の範囲の加速電圧で、長時間連続して安定した電子線の照射を実施することができる。
【0025】
本発明の実施形態において、被照射物は、限定されない。被照射物は、電子線の連続照射によって生成あるいは処理される物であることが好ましい。たとえば、電子線照射装置1は、基材上の塗膜中の成分の架橋または重合によるシート材の製造、あるいは、物品の殺菌または滅菌、に好適に用いられる。
【0026】
[電流のリークについて]
ここで、電子線照射装置1における電流のリークについて説明する。碍子22は、絶縁性を有するが、導電部21への通電によって碍子22の外周面が帯電する。碍子22の外周面の帯電は、導電部21に近く、かつ碍子22の形状の変化がより大きい部分、例えばテーパ管部221と第二筒部223との境界およびその近傍、で生じやすい。電子線照射装置1において、碍子22の外周面がある程度(例えば1mC/m程度)帯電すると、碍子22を貫通する方向への放電(貫通放電)が生じる。貫通放電が頻発すると、碍子22が破損することがある。
【0027】
通常、碍子22内には絶縁のために絶縁油またはガスが充填される。碍子22が破損すると、充填した絶縁油またはガスが真空容器11内に漏出し、所望の真空度が維持できなくなる。このため、貫通放電によって碍子22が破損すると、電子線照射装置1の運転を停止し、碍子22を交換し、碍子22内へ絶縁油またはガスを充填し、真空容器11内の排気を行う必要が生じる。
【0028】
また、カバー24は、前述したように基本的には曲面で形成されているが、端縁などの形状の変化が大きい部分では電界集中が発生しやすく、その結果、放電が生じることがある。カバー24から碍子22に向けて放電が生じると、碍子22の外周面における帯電量が増加し、碍子22での貫通放電がより発生しやすくなることがある。また、カバー24からの放電によって碍子22の外周面で二次放電が生じると、碍子22の外周面の電荷が減少し、二次放電による碍子22の破損が生じることがあり、あるいは、碍子22の外周面が帯電しやすくなる傾向にある。
【0029】
[本実施形態の作用効果]
電子線照射装置1では、碍子22からの電流のリークが実質的に防止される。DLC膜23は、高い抵抗値を有するが碍子本体220よりは高い導電性を有する。このため、碍子22の表面での局所的な帯電が抑制される。
【0030】
また、碍子22は、その外周面がDLC膜23で構成されているため、碍子22の外周面における二次放電係数は、碍子本体220のそれに比べて低くなる。よって、碍子22の外周面が放電を受けても、碍子22の外周面からの二次放電が抑制され、碍子22の外周面での帯電が促進されにくい。よって、碍子22の壁面を貫通する貫通放電の発生が実質的に防止される。
【0031】
また、電子線照射装置1では、カバー24の全面にDLC膜25が形成されているため、カバー24の表面における二次電子係数が低減し、二次放電が生じにくくなる。よって、前述した二次放電による不具合がより一層生じにくい。
【0032】
〔第二の実施形態〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態の電子線照射装置は、碍子が異なる以外は、前述した第一の実施形態の電子線照射装置と同じ構成を有する。
【0033】
図5は、本実施形態における真空容器内の構成を模式的に示す部分断面図である。図6は、本実施形態における碍子ユニットの構成を模式的に示す断面図である。図6が示す範囲は、例えば図5中の一点鎖線で囲む部分に対応している。本実施形態において、碍子52は、複数の筒状の碍子ユニット521の連結により構成されている。碍子ユニット521は、連結治具522を介して隣り合う碍子ユニット521と連結されている。複数の碍子ユニット521のうち、電極部12のより近くに配置されている碍子ユニット521ほどより小さい外径を有している。
【0034】
碍子ユニット521は、酸化アルミニウムなどのセラミック製の筒状の碍子ユニット本体5211と、その内周面上に形成されているDLC膜5210と、その外周面上に形成されているDLC膜5212とを有している。碍子ユニット本体5211の外周壁は、軸方向に沿って繰り返される凹凸形状を有している。碍子ユニット521の内周面は、DLC膜5210によって覆われている。碍子ユニット本体5211の外周壁は、当該凹凸形状に沿ってDLC膜5212によって覆われている。
【0035】
連結治具522は、例えば金属製の略円筒形状の部材あり、その端面が碍子ユニット521の端面と気密に接するように構成されている。連結治具522の端部の外形は、連結治具521の断面における曲線で表される連続する形状で形成されている。碍子ユニット521および連結治具522によって形成される碍子52内部の空間は、真空容器11の内部空間に対して遮断されており、碍子52内部の空間にはガスが充填されている。
【0036】
本実施形態では、碍子ユニット521の内周面における帯電が防止され、また碍子ユニット521の内周面の二次放電係数が低減される。よって、碍子52内での放電による碍子52の破損が防止され、電子線照射の安定した連続運転を実現することが可能である。
【0037】
また、本実施形態では、碍子ユニット521の外周面でも帯電が防止され、また碍子ユニット521の外周面の二次放電係数が低減される。よって、前述した第一の実施形態と同様に、碍子ユニット521の壁面を貫通する貫通放電の発生が実質的に防止され、また碍子ユニット521の表面における前述した二次放電による不具合がより一層生じにくい。
【0038】
〔その他の実施形態〕
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0039】
本発明の実施形態において、碍子は絶縁性を有することから、碍子の表面での帯電を防止する観点では、碍子の外周面および内周面のいずれにDLC膜を形成しても効果的である。
本発明の実施形態において、碍子の表面における二次放電係数を低減させる観点では、DLC膜は、碍子からの放電が生じ得る側の表面に形成されていることが好ましい。たとえば、碍子内部に絶縁油が充填される場合では、DLC膜は、碍子の外周面上に形成されることが好ましい。碍子内部にガスが充填される場合では、DLC膜は、碍子内部での二次放電による帯電を抑制する観点では、碍子の内周面上に形成されることが好ましく、碍子の外側での二次放電による帯電を抑制する観点では、碍子の外周面上に形成されることが好ましい。
【0040】
本発明の実施形態では、カバーにおけるDLC膜は、カバーの外周面のみに形成されていてもよく、内周面には形成されていなくてもよい。前述の実施形態で説明したような、DLC膜をカバーの全面に形成する態様は、カバーの表面にDLC膜を容易に形成する観点から好ましい。
【0041】
本発明の実施形態において、導電部または電極部を構成する部品の表面にもDLC膜を形成してもよい。導電部または電極部を構成する部品の例には、導電部を構成するフランジ、あるいは、導線を支持するための絶縁性(セラミック製)の支持部材などが含まれる。当該部品には、形状の変化が急激な縁または角が含まれることがある。このような縁等の部分では、電界集中が生じやすく、その結果、放電が生じやすい。当該縁等の部分を有する部品の表面にDLC膜を形成すると、当該部品の表面における二次放電係数を低減させることができ、電子線照射装置において放電の発生をより抑制する観点から有利である。同様の理由から、第二の実施形態における連結治具の外周面および内周面の一方または両方にDLC膜を形成することが好ましい。
【0042】
本発明の実施形態において、碍子は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、DLC膜以外の他の層をさらに有していてもよい。たとえば、碍子は、碍子本体または碍子ユニット本体とDLC膜との間に中間層をさらに有していてもよい。中間層は、前述した実施形態の効果を得る観点から、DLC膜よりも高い抵抗を有する層であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の実施形態における碍子は、前述した第一の実施形態の碍子または第二の実施形態の碍子以外の他の構造を有していてもよい。たとえば、本発明の実施形態における碍子は、一体的に構成されたセラミック製の筒状体であってもよい。
【0044】
なお、本発明の実施形態の特徴(すなわち前述した碍子およびDLC膜)は、前述した真空容器、導電部および電極部の構成を含む、真空雰囲気中で電子線を発生させる電子線照射装置以外の他の装置にも適用することが可能である。このような他の装置の例には、X線発生管が含まれる。
【0045】
本発明の実施形態では、碍子のみがDLC膜を有しており、カバーは、DLC膜を有していなくてもよい。カバーの外形は連続して変化する形状を有しており、電荷の集中が起こりにくい。また、碍子の外周面にはDLC膜が形成されているので、カバーから碍子への放電が生じても、碍子の外周面における二次電子の放出が抑制される。そのため、碍子の外周面での帯電が防止され、その結果、碍子における放電の発生が十分に抑制され得る。
【0046】
本発明の実施形態では、碍子ユニットは、外周面上にDLC膜を有していてもよい。この構成は、前述した第二の実施形態における碍子52の真空雰囲気側での帯電および放電の発生を抑制する観点から好ましい。あるいは、碍子ユニットは、外周面および内周面の両方にDLC膜を有していてもよい。たとえば、前述した碍子ユニットは略円筒状であることから、両周面にDLC膜を容易に形成することが可能である。また、この構成は、碍子52の内外の両方における帯電と放電の発生とを抑制する観点から好ましい。
【0047】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態の電子線照射装置(1)は、真空容器(11)内に突出する導電部(21)の先端に接続されている電極部(12)から、真空容器の周壁の一部を構成する金属箔(111)を介して真空容器の外部に電子線を照射するための電子線照射装置である。そして、真空容器内において導電部の周囲を囲む管状の碍子(22)を有し、碍子は、碍子の内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜(DLC膜23)を有する。よって、本発明の実施形態の電子線照射装置は、高い出力でも安定した連続運転をすることができる。
【0048】
本発明の実施形態において、碍子は、碍子の基端側から先端側に向けて碍子の内径および外径が漸次減少するテーパ管部(221)を含んでもよく、非晶質炭素膜は、碍子の外周面を覆ってもよい。この構成は、碍子が連続して変化する形状の一体物で構成されることから、碍子での帯電を抑制する観点からより一層効果的である。
【0049】
あるいは、碍子は、一または二以上の筒状の碍子ユニット(521)により構成され、当該碍子ユニットは、碍子ユニットの内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜(DLC膜5210、5212)を有していてもよい。この構成は、本発明の実施形態における碍子を簡易に構成する観点からより一層効果的である。
【0050】
上記筒状の碍子は、複数の筒状の碍子ユニットの連結により構成され、複数の碍子ユニットのうち、電極部のより近くに配置されている碍子ユニットほどより小さい外径を有していてもよい。この構成は、碍子の表面を非晶質炭素膜で容易に構成する観点からより一層効果的である。
【0051】
本発明の実施形態の電子線照射装置は、碍子の先端部と電極部の基端部との間の部分の周囲を囲む筒状のカバー(24)をさらに有してもよく、カバーは、カバーの内周面および外周面の一方または両方を覆う非晶質炭素膜を有していてもよい。この構成は、カバーでの放電を抑制する観点からより一層効果的である。
【実施例
【0052】
以下、本発明の電子線照射装置のより具体的な運転例を説明する。
【0053】
〔実施例1〕
前述した第一の実施形態で説明した、図3に示されるような酸化アルミニウム製の碍子を用意した。碍子の長さが350mm、第一筒部の外径が275mm、第一筒部の長さが55mm、第二筒部の外径が180mm、第二筒部の長さが50mmである。当該碍子は、その外周面にDLC膜を有し、このDLC膜の膜厚はおよそ1μmである。この碍子を用いて、第一の実施形態で説明したような電子線照射装置Aを用意した。
【0054】
一方で、比較のため、上記寸法を有する酸化アルミニウム製の比較用の碍子(碍子本体のみ)を用意し、これを用いて第一の実施形態で説明したような電子線照射装置Bを用意した。
【0055】
電子線照射装置Aを用いて、電圧を電極部12に印加して電子線の照射運転を4時間連続して行った。加速電圧は330kVである。電極部12に印加する電圧を検出したところ、運転開始から四時間で検出されたリーク電流は10μAであった。また、6mA以上となる過多のリーク電流は、運転開始から4時間後に1回検出された。
【0056】
一方で、電子線照射装置Bを用いて、電圧を電極部12に印加して電子線の照射運転を3時間連続して行った。加速電圧は320kVである。電極部12に印加する電圧を検出したところ、運転開始から四時間で検出されたリーク電流は156μAであった。6mA以上のリーク電流は、運転開始から1.5時間以後、合計で13回のみ検出された。
【0057】
このように、電子線照射装置における略テーパ管状の碍子の外周面にDLC膜を形成することにより、リーク電流が大きく低減し、6mA以上の過多となるリーク電流の発生頻度が大きく低減する。
【0058】
〔実施例2〕
電子線照射装置Aを用いて、加速電圧300kV、電流100mAの条件で24時間連続の電子線照射の運転を行った。真空度は9.5×10-5Paである。真空容器内の放電による運転の停止(インターロックの作動)は、24時間の連続運転中、一度も発生しなかった。
【0059】
電子線照射装置Bを用いて、加速電圧250kV、電流100mAの条件で24時間連続の電子線照射の運転を行った。真空度は9.5×10-5Paである。この間、インターロックの作動は、一度も発生しなかった。
【0060】
しかしながら、電子線照射装置Bを用いて、加速電圧300kV、電流100mAの条件で24時間連続の電子線照射の運転を試みたが、インターロックの作動が頻出し、安定運転を実施することができなかった。
【0061】
このように、電子線照射装置における略テーパ管状の碍子の外周面にDLC膜を形成することにより、より高い加速電圧で連続運転を安定して実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 電子線照射装置
11 真空容器
12 電極部
13 直流電源
14 基材
15 塗膜
21 導電部
22、52 碍子
23、25、5211、5212 非晶質炭素(DLC)膜
24 カバー
111 金属箔
112 排気口
121 導線
122 フィラメント
131 加速電圧モニター
132 電子流モニター
220 碍子本体
221 テーパ管部
222 第一筒部
223 第二筒部
241 カバー本体
521 碍子ユニット
522 連結治具
5210 碍子ユニット本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6