(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法
(51)【国際特許分類】
F01M 11/03 20060101AFI20240910BHJP
B04B 1/08 20060101ALI20240910BHJP
B04B 15/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F01M11/03 J
B04B1/08
B04B15/02
(21)【出願番号】P 2024012019
(22)【出願日】2024-01-30
【審査請求日】2024-05-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176752
【氏名又は名称】三菱化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】松成 賢司
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-129479(JP,A)
【文献】特開2024-65755(JP,A)
【文献】特許第6934555(JP,B1)
【文献】特許第6940727(JP,B1)
【文献】国際公開第2022/254735(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/08
B04B 15/02
F01M 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア水が混入した原液を潤滑油に清浄することができる潤滑油清浄システムであって、
機関と、
前記機関で使用された前記潤滑油を含有する原液を、少なくとも清浄化された前記潤滑油である軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する潤滑油清浄機と、
前記潤滑油清浄機の稼働中に分離室内に水を供給する給水手段と、を備えている、
潤滑油清浄システム。
【請求項2】
前記重液を分離室外に排出する排水手段を備えている、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項3】
前記潤滑油清浄機の軽液吐出部から排出された前記軽液の圧力を検出する圧力センサを備えている、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項4】
前記潤滑油清浄機の軽液吐出部から排出された前記軽液中の水分量を検出する水分検知センサを備えている、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項5】
前記潤滑油清浄機の軽液吐出部から排出された前記軽液のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサを備えている、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項6】
前記潤滑油清浄機の重液吐出部から排出された前記重液からの軽液の漏れを検知する漏れ検知器を備えている、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項7】
前記原液を貯留する潤滑油タンクと、
前記潤滑油タンク内の前記原液を前記潤滑油清浄機に供給するための分離機入口ラインと、
前記潤滑油清浄機から流出し前記軽液を前記潤滑油タンクに戻すための軽液排出ラインと、を備え、
前記分離機入口ラインには、
前記潤滑油タンクに貯留された前記原液を前記潤滑油清浄機に送るための潤滑油供給ポンプと、
前記潤滑油清浄機に送る前記潤滑油を加熱するためのヒータと、が設けられている、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項8】
前記潤滑油清浄機は、分離板型遠心分離機である、
請求項1に記載の潤滑油清浄システム。
【請求項9】
アンモニア水が混入した原液を潤滑油に清浄することができる潤滑油清浄方法であって、
機関で使用された前記潤滑油を含有する原液を、潤滑油清浄機によって少なくとも清浄化された前記潤滑油である軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する遠心分離工程と、
前記潤滑油清浄機の稼働中に分離室内に水を供給する給水工程とを含む、
潤滑油清浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア水等を含んだ潤滑油を清浄する潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の推進対策としては、温室効果ガスである二酸化炭素を燃焼時に排出しないアンモニア燃料が、カーボンニュートラル社会の実現に向けた有望なエネルギーとして注目されている。近年では、液体アンモニアを船の燃料として運転することが可能なアンモニアガスタービン機関、及び、アンモニア対応エンジン機関の実用化が進められている。また、液体アンモニアを燃料とするものとしては、いわゆるゼロエミッション船としてのアンモニア燃料船の運航に向けた開発も進められている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6934555号公報
【文献】特許第6940727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体アンモニアを船舶等の機関に使用した場合は、機関で未燃のアンモニアガスが潤滑油中の水分内に溶解するという問題点があった。
さらに詳述すると、水分は、機関運転中もしくは停止後の結露によって、潤滑油中に混入する。その水分が除去されずにエンジンが稼働した場合は、機関内のアンモニア濃度が上昇して、アンモニアが潤滑油中の水分内に溶解する。
【0005】
アンモニア水、アンモニア雰囲気に晒された材料は、腐食するという問題点がある。また、使用済みの潤滑油を含有する原液を重液と軽液(潤滑油)に分離する潤滑油清浄機では、原液にアンモニアが混入した場合、重液の比重が低下し、重液の除去率が低下し、軽液(潤滑油)が重液側から流出したり、重液が軽液に混入する等の不具合が発生する虞がある。
【0006】
本発明は、前記した問題点を解決し、アンモニア水と潤滑油とを含んだ原液から安定して潤滑油を分離することができる潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、アンモニア水が混入した原液を潤滑油に清浄することができる潤滑油清浄システムであって、機関と、前記機関で使用された前記潤滑油を含有する原液を、少なくとも清浄化された前記潤滑油である軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する潤滑油清浄機と、前記潤滑油清浄機の稼働中に分離室内に水を供給する給水手段と、を備えている。
【0008】
また、本発明は、アンモニア水が混入した原液を潤滑油に清浄することができる潤滑油清浄方法であって、機関で使用された前記潤滑油を含有する原液を、潤滑油清浄機によって少なくとも清浄化された前記潤滑油である軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する遠心分離工程と、前記潤滑油清浄機の稼働中に分離室内に水を供給する給水工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法は、アンモニア水と潤滑油とを含んだ原液から安定して潤滑油を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法を示すブロック図である。
【
図3】潤滑油清浄機の回転体の中央縦断面図である。
【
図4】通常の潤滑油を潤滑油清浄機で遠心分離したときの回転体内の状態を示す概略図である。
【
図5】アンモニアが混合した一般の潤滑油を潤滑油清浄機で遠心分離したときの回転体内の状態を示す概略図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る潤滑油清浄方法を示す図で、アンモニアが混入した潤滑油に封水・置換水を投入して潤滑油清浄機で遠心分離したときの回転体内の状態を示す概略図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る潤滑油清浄システム100及び潤滑油清浄方法を、
図1~
図6を参照して詳細に説明する。
【0012】
≪潤滑油清浄システム≫
図1に示す潤滑油清浄システム100は、船舶、陸上の限られた設置スペース(例えば、離島発電所や既設発電所等)に設置されている機関200等で使用された潤滑油LO、燃料油、ビルジ水等の廃液SWを清浄化して再使用可能にするための清浄機である。
以下、本発明に係る潤滑油清浄システム100の一例として、液体アンモニアを燃焼させる機関200で使用された潤滑油LOを廃液SWとした場合を例に挙げて説明する。
液体アンモニアを燃料とする機関200では、機関200内の潤滑油LOにスラッジSGやアンモニア水AWが混入する可能性がある。
【0013】
潤滑油清浄システム100は、潤滑油清浄機1を備えている。潤滑油清浄機1は、アンモニア水AWが混入した潤滑油LOである原液DOを、清浄化された潤滑油LOである軽液と、アンモニアを含有するアンモニア水AWである重液と、スラッジSG(固形分)と、に分離する三相分離型の分離板型遠心分離機である。より詳細に、潤滑油清浄システム100は、
図1または
図3に示すように、潤滑油タンク300と、潤滑油供給ポンプP1と、ヒータ400と、潤滑油清浄機1と、スラッジタンク700と、水供給ライン110(給水手段)と、重液排出ライン120(排水手段)と、圧力センサ810と、原液供給ライン130と、スラッジ排出ライン160と、制御装置900と、を主に備えている。潤滑油清浄システム100は、船舶内に配置されている。
なお、軽液排出ライン140は、圧力センサ810と、水分検知センサ820と、アンモニアセンサ830があってもよい。
【0014】
≪機関≫
図1に示す機関200は、船内に配置される船舶用ディーゼル機関であって、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量がゼロである液体アンモニアを燃料とするもので、タービン機関であっても良い。機関200は、クランク軸とピストンとを連接棒のみで接続する機構から成る。機関200では、ピストンに横方向の力である側圧が発生して、シリンダに偏摩耗が発生する。このため、機関200には、ピストンの動きを良好にするための潤滑油LOが使用されている。機関200は、液体アンモニアと天然ガス等の化石燃料とを混焼するものでもよい。
【0015】
≪潤滑油排出ライン≫
図1に示す潤滑油排出ライン150は、機関200で使用された潤滑油LO(原液DO)を潤滑油タンク300に送るための配管路である。潤滑油排出ライン150は、一方が機関200に接続され、他方が潤滑油タンク300に接続されている。
【0016】
≪潤滑油タンク及び潤滑油≫
図1に示すように、潤滑油タンク300は、機関200で使用された潤滑油LOを含有する原液DOを貯留するためのタンクである。機関200から潤滑油タンク300に供給される原液DOには、アンモニア燃料に由来するアンモニアが含まれている。このため、潤滑油タンク300は、気化したアンモニアが潤滑油タンク300外に漏れない蓋付のタンクから成る。
また、原液DOには、機関200において混入した水分が含まれている。原液DOの比重は、0.90~0.96である。
【0017】
≪アンモニア水及び水≫
アンモニア水AWは、水Wにアンモニアが溶けたアルカリ性の水溶液である。アンモニア水AWは、特有の刺激臭がある。アンモニア水AWは、潤滑油清浄機1に使用されるフッ素ゴム製のOリングや、銅合金製の重液・軽液インペラ等を腐食させる虞がある。このため、それらの部品は、耐食性の材質であることが好ましい。
【0018】
また、アンモニア水AWの比重は、水よりも軽い。アンモニア水AWの比重は、例えば、濃度が約28%で比重0.9、濃度が約35%で比重0.88である。アンモニア水AWは、アンモニアの濃度によって比重が変化するので、潤滑油清浄機1の分離室SZ内の分離境界面SBの位置が径方向に移動する。また、アンモニア水AWが混入している原液DOを処理する場合は、水Wを間欠的もしくは連続的に分離室SZ内に供給して、アンモニア水AW(重液)の比重を調節することによって、分離境界面SBの位置を制御することが好ましい。
【0019】
≪原液供給ライン≫
図1に示す原液供給ライン130は、潤滑油タンク300内に貯留されている原液DO(スラッジSG及びアンモニア水AWが混入した潤滑油LO)を潤滑油清浄機1に供給するための配管路である。原液供給ライン130は、潤滑油タンク300からヒータ400までのヒータ上流側ライン131と、ヒータ400から潤滑油清浄機1までのヒータ下流側ライン132と、から成る。ヒータ上流側ライン131には、潤滑油供給ポンプP1が設けられ、ヒータ下流側ライン132には、三方弁134が設けられている。
【0020】
≪潤滑油供給ポンプ≫
潤滑油供給ポンプP1は、潤滑油タンク300内の原液DOを、ヒータ400を介して原液供給ライン130から潤滑油清浄機1に送るためのポンプである。潤滑油供給ポンプP1は、ヒータ上流側ライン131の潤滑油タンク300と、ヒータ400との間に設置されている。
図1に示すように、ヒータ上流側ライン131中の原液DOには、アンモニア水AWが混入している。
【0021】
≪ヒータ≫
ヒータ400は、潤滑油清浄機1に送る潤滑油LOを加熱する油加熱器である。ヒータ400は、原液供給ライン130の潤滑油供給ポンプP1と潤滑油清浄機1との間に設けられている。ヒータ400は、例えば、潤滑油LOを90℃程度まで加熱する。ヒータ400は、潤滑油LOを加熱して粘度を下げることによって、潤滑油清浄機1での固形分及び/または水分の分離効率を高めることができる。
原液戻りライン133は、潤滑油清浄機1のスラッジ排出時、警報発生時、置換水・封水投入時等の運転動作に必要なときに、原液の流れを切り替える配管路から成る。
【0022】
≪軽液排出ライン≫
軽液排出ライン140は、潤滑油清浄機1で清浄化した潤滑油LO(軽液)を潤滑油タンク300に戻すための流路である。軽液排出ライン140は、潤滑油清浄機1の吐出口から潤滑油タンク300の潤滑油供給口に至る配管路から成る。
【0023】
≪潤滑油清浄機≫
潤滑油清浄機1は、潤滑油タンク300から供給された原液DOに含まれるスラッジSG(固形分)やアンモニア水AWを潤滑油LOから分離/除去するための装置である。潤滑油清浄機1は、例えば、高速で回転する回転体3(
図2参照)の遠心力作用によって、原液DOを液(軽液)-液(重液)-固形分の三相に分離する分離板型遠心分離機でも良い。潤滑油清浄機1は、船内において、原液供給ライン130と、軽液排出ライン140との間に設置されている。
【0024】
次に、
図2及び
図3を参照して分離板型遠心分離機から成る潤滑油清浄機1をさらに詳述する。
図2及び
図3に示すように、潤滑油清浄機1は、回転体3内に截頭円錐形状の薄板からなる多数の分離板13を案内筒5の軸方向に間隔をあけて積層した遠心分離機(遠心沈降機)である。潤滑油清浄機1は、回転体3の内壁に堆積したスラッジSGを弁シリンダ6の開閉によって外部に排出する機構を有する。
図3に示すように、潤滑油清浄機1は、回転軸2と、回転体3と、案内筒5と、分離室SZと、弁シリンダ6と、軽液吐出部9と、重液吐出部15とを備えている。
【0025】
<回転軸>
図2に示すように、回転軸2は、電動機(図示省略)によって回転駆動される増速ギヤ21に噛合する歯車部2aを有し、電動機(図示省略)によって増速ギヤ21を介在して回転される。
【0026】
<回転体>
図3に示すように、回転体3は、回転軸2に取り付けられて、回転軸2を中心として高速回転する部材である。回転体3は、上半分の略截頭円錐台形部と、下半分が前記截頭円錐台形部の大径よりも大きな径を直径とした大径円柱部と、を一体形成した形状をしている。回転体3は、回転軸2に固定されている。
【0027】
<液入口管>
図3に示すように、液入口管4は、原液DO(機関200で使用された潤滑油LO)及び水Wを回転体3の内部に供給するための管体である。液入口管4は、回転体3の中心部の上部に設けられている。液入口管4の上流側には、水供給ライン110と原液供給ライン130(
図2参照)とが接続されている。また、潤滑油清浄機1の分離室SZに供給される水Wは、水供給ライン110から液入口管4を介して回転体3内に投入される。
【0028】
<案内筒>
案内筒5は、液入口管4から回転体3内に導入された原液DO及び水Wを回転体3内の最下部から分離室SZに導くための部材である。案内筒5は、末広がりの形状をした部筒体から成り、回転体3内の中心部に設けられている。
【0029】
<分離室>
分離室SZは、遠心力で原液DOを比重差により各成分に分離するための部屋である。分離室SZは、横断面視して円形の空間から成る。分離室SZには、多数積層された分離板13が配置されている。分離室SZは、積層された分離板13が配置された分離領域と、回転体3内の最外径部のスラッジ堆積領域と、を備えている。分離室SZ内に導入された原液DOは、分離板13間の間隙を上昇して流れて行く過程で、比重が最も大きいスラッジSGが外側スラッジ堆積領域に堆積し、スラッジSGよりも比重の小さい重液(アンモニア水AWまたは水W)がスラッジ堆積領域と分離領域との間の領域に移動し、比重が最も小さい軽液(潤滑油LO)が回転体3の中心側へと移動する。軽液(浄化された潤滑油LO)は、回転体3の上部に設けられた軽液吐出部9より外部に排出される。分離室SZ内で分離されたアンモニア水(重液)AWは、水取板TDと回転体3上部の内壁間に形成される流路を通って重液吐出部15より外部に排出される。
【0030】
<弁シリンダ>
弁シリンダ6は、スラッジ排出口12(弁パッキン7に圧接する部分)を開閉する弁体である。パイロット弁Vを開いて弁シリンダ6の下側の水を排水させると、弁シリンダ6が下降してスラッジ排出口12が開口し、スラッジSGが排出される。
【0031】
<軽液吐出部>
軽液吐出部9は、分離室SZで分離された潤滑油LO(軽液)を外部に排出するための部位である。軽液吐出部9には、軽液排出ライン140が取り付けられている。
【0032】
<重液吐出部>
重液吐出部15は、分離室SZで分離されたアンモニア水(重液)を外部に排出するための部位である。重液吐出部15には、重液排出ライン120が取り付けられている。
【0033】
<スラッジ排出ライン>
スラッジ排出ライン160(排水手段)は、潤滑油清浄機1で遠心分離されたスラッジSGを潤滑油清浄機1外に排出するための排出路である。スラッジ排出ライン160は、上流側がスラッジ排出口12に接続され、下流側がスラッジタンク700に接続されている(
図1参照)。潤滑油清浄機1内のスラッジSGは、スラッジ排出ライン160に放出されてスラッジタンク700に貯留された後、廃棄される。
【0034】
<スラッジタンク>
スラッジタンク700は、潤滑油清浄機1から排出した廃液SWを貯留するためのタンクである。スラッジタンク700内の廃液SWが40℃以上の場合は、廃液SWを冷却させる冷却装置を設置してもよい。
【0035】
<水供給ライン>
図3に示すように、水供給ライン110は、潤滑油清浄機1の稼働中に水W(封水・置換水)を分離室SZ内(回転体3内)に供給する給水手段である。なお、水供給ライン110は、潤滑油清浄機1のメンテナンス時においては、分離室SZ内に洗浄水を供給する。水供給ライン110には、分離室SZ内(回転体3内)に水の供給を調整する弁(図示省略)が設けられている。あるいは、水供給ライン110には、後記する圧力センサ810、水分検知センサ820、アンモニアセンサ830、漏れ検知器840のうちいずれかの計測値に基づいて、制御部910及びタイマ920によって弁SV3を制御することで、水の供給を調整する。
【0036】
<重液排出ライン>
重液排出ライン120(排水手段)は、潤滑油清浄機1で遠心分離されたアンモニア水AW(分離水)が排出される流路であり、潤滑油清浄機1の重液吐出部15に繋がっている。潤滑油清浄機1内のアンモニア水AW(重液)は、重液吐出部15からオーバーフローすることで、重液排出ライン120に放出されてスラッジタンク700に貯留された後、廃棄される。重液排出ライン120には、漏れ検知器840と、が設けられても良い。
【0037】
<圧力センサ>
圧力センサ810は、潤滑油清浄機1の軽液吐出部9から排出される軽液の圧力を計測する計測器である。圧力センサ810は、制御部910に電気的に接続されている。
【0038】
<水分検知センサ>
水分検知センサ820は、潤滑油清浄機1の軽液吐出部9から排出される軽液中の水分量を計測する計測器である。水分検知センサ820は、制御部910に電気的に接続されている。水分検知センサ820は、潤滑油LOの状況により、省略してもよい。
【0039】
<アンモニアセンサ>
アンモニアセンサ830は、潤滑油清浄機1の軽液吐出部9から排出されるアンモニア水AWのアンモニア濃度を計測する計測器である。アンモニアセンサ830は、制御部910に電気的に接続されている。アンモニアセンサ830は、潤滑油LOの状況により、省略してもよい。
【0040】
<漏れ検知器>
漏れ検知器840は、潤滑油清浄機1の重液吐出部15から排出される重液を機械的に計測する計測器である。漏れ検知器840は、制御部910に電気的に接続されている。漏れ検知器840は、潤滑油LOの状況により、省略してもよい。
【0041】
<制御装置>
図3に示す制御装置900は、潤滑油清浄機1に供給される水Wを、予め設定したタイミング、または、任意のタイミングで、間欠的あるいは連続的に供給して、分離室SZ内のアンモニア水AW(重液)の比重を所定値以上に保つ機能を有する。制御装置900は、制御部910と、タイマ920と、を備えて構成されている。制御部910には、タイマ920と、圧力センサ810と、水分検知センサ820と、アンモニアセンサ830と、漏れ検知器840と、が接続されている。
【0042】
<清浄潤滑油>
清浄潤滑油は、潤滑油清浄機1によって清浄化した潤滑油LOである。清浄潤滑油は、潤滑油清浄機1から軽液排出ライン140を介して潤滑油タンク300に再度に貯留された後、船舶のエンジンあるいは補機(例えば、発電機、ボイラ等)に供給される。
【0043】
≪作用≫
次に、
図1~
図6を参照して本発明の実施形態に係る潤滑油清浄システム100及び潤滑油清浄方法の作用を、潤滑油LOを通常状態で分離する場合と比較して説明する。
【0044】
例えば、
図1に示すように、機関200で使用された潤滑油LO(原液DO)は、潤滑油タンク300に貯留された後、原液供給ライン130から潤滑油清浄機1内に導入される。潤滑油清浄機1に導入された原液DOは、
図3に示すように、複数の積層された分離板13間を上昇して流れる。
【0045】
図4は、アンモニア水AWを含有しない原液DOを潤滑油清浄機1で遠心分離したときの回転体3内の状態を示す概略図である。
通常、
図4に示すように、比重の大きい成分(スラッジSG、水W等)は、回転体3内の最外径部側に移動して分離される。比重の小さい成分(潤滑油LO)は、回転体3の中心側へと移動して分離される。
【0046】
図5は、アンモニアが混合した原液DOを潤滑油清浄機1で遠心分離したときの回転体3内の状態を示す概略図である。
【0047】
一般に、アンモニア水AWが混合した原液DOを回転体3内に供給した場合、
図5に示すように、潤滑油LOと、アンモニア水AWと、スラッジSGとに分離される。
【0048】
アンモニア水AWは、アンモニアを含有しない水Wよりも比重が小さく、その結果、軽液(潤滑油LO)と重液(アンモニア水AW)との比重差が小さくなるため、軽液(潤滑油LO)と重液(アンモニア水AW)との分離効率が低下する虞がある。また、アンモニア水AWと潤滑油LOの分離境界面SBは、潤滑油LOに押されて外側に移動する。したがって、アンモニア水AWのアンモニア濃度が高くなると(例えば、アンモニア濃度が6wt%を超えると)、三相分離を行うとき(ピュリファイヤー運転を行うとき)に、軽液が漏れる(軽液が重液排出ライン120に流出する)虞がある。
また、アンモニア水AWの濃度が高い場合は、軽液と重液の比重差が小さくなることから回転体3内に溜まる水Wは、分離境界面SBを理想的な位置に配置することができない。
【0049】
図6は、本発明の実施形態に係る潤滑油清浄方法を示す図で、アンモニアが混入した潤滑油LOに置換水を投入して潤滑油清浄機1で遠心分離したときの回転体3内の状態を示す概略図である。
【0050】
本実施形態では、アンモニア水AWが混合した原水DOを遠心分離する工程(遠心分離工程)において、分離室SZ内に水を供給する(給水工程)ことで、分離室SZ内のアンモニア水AWの比重を所定値以上に回復させることができる。このように、分離室SZ内に水Wを投入することで、アンモニア水AWの比重を一定値以上に保つことができるため、潤滑油LOのロス(軽液が重液吐出部15に流出する)を最小限にすることにより、安定的な正常運転を行うことができる。
【0051】
給水工程は、
図3に示すタイマ920及び制御装置900で、間欠的に行ってもよいし、連続的に行ってもよい。また、圧力センサ810、水分検知センサ820、アンモニアセンサ830、漏れ検知器840のうちの少なくとも一つの計測値が閾値に達したときに行ってもよい。このようにすることで、アンモニア水AWの比重を所定値以上に保つ(すなわち、分離室SZ内のアンモニア水AWと潤滑油LOとの比重差を所定値以上に保つ)ことができる。
【0052】
排出工程では、アンモニア水AW及びスラッジSGの排出を、タイマ920及び制御装置900で、一定間隔もしくは圧力センサ810と、水分検知センサ820と、アンモニアセンサ830と、漏れ検知器840のうちの少なくとも一つの計測値が閾値に達したときに排出を行ってもよい。なお、排出工程では、給水工程と同時ではなく、どちらか一方のみ行われる。
【0053】
以上のとおり、本実施形態によれば、アンモニアが混合した原水DOを、アンモニア水AWと、潤滑油LOと、スラッジSGとに分離し、清浄化された潤滑油LOを得ることができる。
【0054】
本発明の第1実施形態は、例えば、
図1または
図3に示すように、アンモニア水AWが混入した原液DOを潤滑油LOに清浄することができる潤滑油清浄システム100であって、機関200と、機関200で使用された潤滑油LOを含有する原液DOを、少なくとも清浄化された潤滑油LOである軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する潤滑油清浄機1と、潤滑油清浄機1の稼働中に分離室SZ内に水Wを供給する給水手段(水供給ライン110)と、を備えている。
【0055】
かかる構成よれば、潤滑油清浄機1は、原液DOから潤滑油LOとスラッジSGとアンモニア水AWとを分離することができる。
また、稼働中の潤滑油清浄機1の分離室SZに水Wを供給する給水手段(水供給ライン110)により、分離室SZ内における軽液(潤滑油LO)と重液(アンモニア水AW)との比重差を、沈降分離に適した大きさとすることができるため、安定的な正常運転を行うことができるという作用を奏する。
さらに、分離室SZ内におけるアンモニア水AWと潤滑油LOの分離境界面SBが水取板TDの外側に形成されるのを防ぐことができるので、潤滑油清浄機1に排出されるアンモニア水AW等を含んだ原液DOから、安定して潤滑油LOを分離することができる。
【0056】
また、潤滑油清浄システム100は、重液を分離室SZ外に排出する排水手段(重液排出ライン120)を備えている。
【0057】
かかる構成によれば、潤滑油清浄システム100は、重液排出ライン120を備えていることで、潤滑油清浄機1内に所定量以上の重液が溜まったら、重液がオーバーフローすることにより潤滑油清浄機1外に排出することができる。
【0058】
また、
図3に示すように、潤滑油清浄システム100は、潤滑油清浄機1の軽液吐出部9から排出された軽液の圧力を検出する圧力センサ810を備えている。
【0059】
かかる構成によれば、圧力センサ810で軽液吐出部9から排出された軽液の圧力を検出することで、潤滑油清浄機1内の軽液の圧力に応じて適宜な量の水Wを潤滑油清浄機1に供給することができる。
【0060】
また、
図3に示すように、潤滑油清浄システム100は、潤滑油清浄機1の軽液吐出部9から排出された軽液中の水分量を検出する水分検知センサ820を備えている。
【0061】
かかる構成によれば、軽液吐出部9から排出された軽液中の水分量に応じて水Wを潤滑油清浄機1に供給することができる。
【0062】
また、
図3に示すように、潤滑油清浄システム100は、潤滑油清浄機1の軽液吐出部9から排出された軽液(潤滑油LO)のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサ830を備えている。
【0063】
かかる構成によれば、アンモニア水AWのアンモニア濃度に応じて潤滑油清浄機1に水Wを供給できる。
【0064】
また、
図3に示すように、潤滑油清浄システム100は、潤滑油清浄機1の重液吐出部15から排出された重液からの軽液の漏れを検知する漏れ検知器840を備えている。
【0065】
かかる構成によれば、漏れ検知器840で軽液の漏れを検知して、軽液の漏れた量に応じて水を供給することで、潤滑油清浄機1を安定した状態に運転することができる。
【0066】
また、
図1に示すように、潤滑油清浄システム100は、原液DOを貯留する潤滑油タンク300と、潤滑油タンク300内の原液DOを潤滑油清浄機1に供給するための分離機入口ライン(原液供給ライン130)と、潤滑油清浄機1から流出し軽液(潤滑油LO)を潤滑油タンク300に戻すための軽液排出ライン140と、を備え、分離機入口ライン(原液供給ライン130)には、潤滑油タンク300に貯留された原液DOを潤滑油清浄機1に送るための潤滑油供給ポンプP1と、潤滑油清浄機1に送る潤滑油LOを加熱するためのヒータ400と、三方弁134とが設けられている。
【0067】
かかる構成によれば、ヒータ400で原液DO(潤滑油LO)を加熱して粘度を下げることができるので、潤滑油清浄機1での固形分及び水分の分離効率を高めることができる。
【0068】
また、
図1~
図3に示す潤滑油清浄機1は、分離板型遠心分離機である。
【0069】
かかる構成によれば、潤滑油清浄機1は、分離板型遠心分離機であるので、小型でありながら高い分離性能を発揮でき、比較的短時間で潤滑油を清浄化することができる。
【0070】
また、
図1または
図3に示すように、アンモニア水AWが混入した原液DOを潤滑油LOに清浄することができる潤滑油清浄方法であって、機関200で使用された潤滑油LOにアンモニア水AWが混入した原液DOを、潤滑油清浄機1によって少なくとも清浄化された潤滑油LOである軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する遠心分離工程と、潤滑油清浄機1の稼働中に分離室SZ内に水Wを供給する給水工程とを含むアンモニア水AWが混入した原液DOを清浄化して安定的な正常運転を行うことができる潤滑油清浄方法である。
【0071】
かかる潤滑油清浄方法によれば、アンモニア水AWが混入した原液DOを、アンモニア水AWと潤滑油LOとスラッジSGとに分離し、軽液と重液の比重差が小さくなる前、もしくは、軽液が重液排出ライン120に流出した際に給水を行うため、分離室SZ内のアンモニア水AWの比重を所定値以上になるように調整することができる。これにより、分離室SZ内における軽液(潤滑油LO)と重液(アンモニア水AW)との比重差を沈降分離に適した大きさに維持することができ、さらには、アンモニア水AWと潤滑油LOとの分離境界面SBを所望の位置状態にできるため、潤滑油LOのロスを抑えつつ、不純物が少ない潤滑油LOを生成することができる。つまり、上記の潤滑油清浄方法によれば、アンモニア水AW等を含んだ原液DOを安定して潤滑油LOに清浄することができる潤滑油清浄システムである。
【0072】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造及び変更が可能であり、本発明はこれら改造及び変更された発明にも及ぶことは勿論である。なお、既に説明した構成は、同じ符号を付してその説明を省略する。
図7は、本発明の実施形態に係る潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法の変形例を示すブロック図である。
【0073】
図7に示すように、潤滑油清浄システム100は、少なくとも廃液SWを貯留する廃液タンク500と、廃液タンク500に貯留された廃液SW(分離水)を中和させる中和剤CAを貯留する中和タンク600と、を備えているものであってもよい。
【0074】
かかる構成によれば、廃液タンク500の廃液SW(分離水)に、中和タンク600の中和剤CAを供給することで、廃液SWを無害なものにすることができる。
【0075】
<中和タンク>
中和タンク600は、廃液タンク500に貯留されたスラッジSGおよびアンモニア水AWの混合物(以下、廃液SWという。)を中和させる中和剤CAを貯留するためのタンクである。中和タンク600には、中和タンク600内の中和剤CAを廃液タンク500に供給する中和剤供給ライン170が配置されている。
【0076】
<中和剤>
中和剤CAは、廃液タンク500内の廃液SWを中和するための酸性のものであって、例えば、クエン酸等から成る。中和剤CAは、廃液タンク500内の汚水SWに投入する中和剤CAは、個体または液体から成る。
【0077】
<廃液タンク>
図7に示す廃液タンク500は、潤滑油清浄機1で分離したスラッジSGを含む廃液SWを貯留するためのタンクである。廃液タンク500は、潤滑油清浄機1で分離したスラッジSGを廃液タンク500に供給するスラッジ排出ライン160の下流側に配置されている。
スラッジSGを含む廃液SWは、潤滑油清浄機1の遠心力で回転体3内の最外径部側に堆積し、スラッジ排出口12からスラッジ排出ライン160を介して廃液タンク500に排出された後、廃液排出ライン180を介してスラッジタンク700に貯留される。
本実施形態では、潤滑油清浄機1で分離したアンモニア水AW(重液)も、廃液タンク500に貯留される。
図3に示すように、アンモニア水AWの排出口である重液吐出部15は、スラッジ排出ライン160に接続されている。
なお、廃液タンク500には、気化したアンモニアを取り除くエア抜き部材や、アンモニアの臭気を消臭する消臭装置を設けてもよい。
【0078】
[その他の変形例]
前記実施形態では、
図1に示すように、潤滑油清浄機1を一台だけ設置した場合を説明したが、複数の潤滑油清浄機1を並列に配置して構成してもよい。
【0079】
前記した実施形態では、水供給ライン110(給水手段)を液入口管4に接続した場合を例示したが、潤滑油タンク300に水供給ライン110(給水手段)を接続してもよいし、原液供給ライン130に水供給ライン110(給水手段)を接続してもよい。
【0080】
前記実施形態では、潤滑油清浄機1が三相分離型の分離板型遠心分離機である場合を例示したが、二相分離型の分離板型遠心分離機を使用してもよい。この場合、潤滑油清浄機1は、アンモニア水AWが混入した潤滑油LOである原液DOを、アンモニア水AWを含有する重液を含んだスラッジSGと、清浄化された潤滑油LOである軽液と、に分離する。
潤滑油清浄機1として二相分離型の分離板型遠心分離機を使用する場合には、潤滑油清浄機1の圧力センサ810と、水分検知センサ820と、アンモニアセンサ830と、漏れ検知器840のうちの当該センサのいずれかの計測値が閾値に達したときに、排出することが好ましい。
なお、水分検知センサ820と、アンモニアセンサ830と、漏れ検知器840は、潤滑油LOの状況により、省略してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 潤滑油清浄機
9 軽液吐出部
15 重液吐出部
100 潤滑油清浄システム
110 水供給ライン(給水手段)
120 重液排出ライン(排水手段)
130 原液供給ライン(分離機入口ライン)
133 原液戻りライン
134 三方弁
140 軽液排出ライン
200 機関
300 潤滑油タンク
400 ヒータ
500 廃液タンク
600 中和タンク
700 スラッジタンク
810 圧力センサ
820 水分検知センサ
830 アンモニアセンサ
840 漏れ検知器
900 制御装置
AW アンモニア水(重液)
CA 中和剤
DO 原液
LO 潤滑油(軽液)
P1 潤滑油供給ポンプ
SG スラッジ
SZ 分離室
SW 廃液(分離水)
W 水
【要約】
【課題】アンモニア水と潤滑油とを含んだ原液から安定して潤滑油に清浄することができる潤滑油清浄システム及び潤滑油清浄方法を提供すること。
【解決手段】潤滑油清浄システム100は、アンモニア水AWが混入した原液DOを潤滑油に清浄することができる。潤滑油清浄システム100は、機関200と、機関200で使用された潤滑油LOを含有する原液DOを、少なくとも清浄化された潤滑油LOである軽液とアンモニアを含有する重液とに分離する潤滑油清浄機1と、潤滑油清浄機1の稼働中に分離室SZ内に水Wを供給する給水手段と、を備えている。
【選択図】
図1