(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】SiC成形体及びSiC成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20240910BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20240910BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C23C16/42
C30B29/36 A
C30B25/18
(21)【出願番号】P 2024519815
(86)(22)【出願日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2023040933
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2022193588
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】今川 真百合
(72)【発明者】
【氏名】大石 昇平
(72)【発明者】
【氏名】黒柳 聡浩
(72)【発明者】
【氏名】屋敷田 励子
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-513257(JP,A)
【文献】特開2021-54666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C30B 29/36
C30B 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が7.0×10
-3Ω・cm以下であり、
窒素濃度が1000ppmを超えてかつ4500ppm以下
であり、
飛行時間型二次イオン質量分析法によって測定されるSiN
-
ピーク強度に対するCN
-
ピーク強度の比が1.0以上である、SiC成形体。
【請求項2】
前記体積抵抗率が5.0×10
-3Ω・cm以下である、請求項
1に記載のSiC成形体。
【請求項3】
請求項1に記載のSiC成形体の製造方法であって、
反応室内に、基板を準備することと、
前記反応室内に、ケイ素及び炭素を含む原料ガスと、窒素含有ドーパントガスと、キャリアガスと、塩化水素ガスとを供給して、前記基板の上にSiC膜を形成することと、
前記SiC膜から前記基板を除去することと、を含み、
前記SiC膜を形成する過程における前記反応室内の前記塩化水素ガスの分圧が、1000Pa以上である、
SiC成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はSiC成形体及びSiC成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)成形体の重要な特性の一例は電気特性である。例えば、特定の抵抗率を有する様々なSiC成形体が提案されている。
【0003】
下記特許文献1は、CVD法により得られた炭化ケイ素体を開示している。炭化ケイ素体は、0.1~100ppmの窒素元素を含み、0.01~10Ω・cmの比抵抗を有する。さらに、ケイ素以外の金属元素の含有量は、10ppm以下である。
【0004】
下記特許文献2は、0.050Ω・cm以下の抵抗率を有する多結晶SiC成形体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-220237号公報
【文献】特開2021-054667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、低抵抗のSiC成形体及び上記SiC成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下の実施形態を包含する。
<1> 体積抵抗率が7.0×10-3Ω・cm以下であり、窒素濃度が1000ppmを超えてかつ4500ppm以下の範囲内である、SiC成形体。
<2> 飛行時間型二次イオン質量分析法によって測定されるSiN-ピーク強度に対するCN-ピーク強度の比が1.2以上である、<1>に記載のSiC成形体。
<3> 上記体積抵抗率が5.0×10-3Ω・cm以下である、<1>又は<2>に記載のSiC成形体。
<4> <1>に記載のSiC成形体の製造方法であって、反応室内に、基板を準備することと、上記反応室内に、ケイ素及び炭素を含む原料ガスと、窒素含有ドーパントガスと、キャリアガスと、塩化水素ガスとを供給して、上記基板の上にSiC膜を形成することと、上記SiC膜から上記基板を除去することと、を含み、上記SiC膜を形成する過程における上記反応室内の上記塩化水素ガスの分圧が、1000Pa以上である、SiC成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、低抵抗のSiC成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。以下に説明される実施形態は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更されてもよい。
【0010】
本開示において、序数詞(例えば、「第1」及び「第2」)は、要素を区別するために使用される用語であり、要素の数量、要素の順序及び要素の優劣を制限しない。
【0011】
本開示の一実施形態に係るSiC成形体は次の特徴を有する。SiC成形体の体積抵抗率が7.0×10-3Ω・cm以下であり、かつ、SiC成形体中の窒素濃度が1000ppmを超えてかつ4500ppm以下の範囲内である。この実施形態によれば、低抵抗なSiC成形体が提供される。SiC成形体は、好ましくは多結晶SiC成形体である。
【0012】
SiC成形体の体積抵抗率は、7.0×10-3Ω・cm以下である。SiC成形体の体積抵抗率は、好ましくは5.0×10-3Ω・cm以下、より好ましくは3.0×10-3Ω・cm以下、更に好ましくは1.0×10-3Ω・cm以下である。例えば、低抵抗のSiC成形体は、プラズマエッチング装置用部材への使用に適している。低抵抗のSiC成形体を得るという目的において、体積抵抗率の下限は制限されない。体積抵抗率の下限は、0.1×10-3Ω・cm、0.3×10-3Ω・cm又は0.5×10-3Ω・cmであってもよい。例えば、体積抵抗率は、0.1×10-3Ω・cm~7.0×10-3Ω・cmの範囲内であってもよい。本開示において、体積抵抗率は4探針法によって測定される。測定装置の例としては、「ロレスタ-GP MCT-T610」(三菱ケミカルアナリテック株式会社)が挙げられる。
【0013】
SiC成形体中の窒素濃度は、1000ppmを超えてかつ4500ppm以下の範囲内である。SiC成形体中の窒素濃度が高くなると、体積抵抗率は低くなる傾向にある。体積抵抗率の低減の観点から、窒素濃度は、好ましくは1500pppm以上、より好ましくは2000ppm以上、更に好ましくは2500ppm以上である。窒素濃度の上限は、4000ppm、3500pppm又は3000ppmであってもよい。本開示において、窒素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定される。
【0014】
SiC成形体に関して、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって測定されるSiN-ピーク強度に対するCN-ピーク強度の比が大きくなると、体積抵抗率が低くなる傾向にある。TOF-SIMSは、固体試料に一次イオンを照射し、固体試料表面から放出される二次イオンを検出して、固体試料表面を分析する手法である。以下、「SiN-ピーク強度に対するCN-ピーク強度の比」を「CN-/SiN-ピーク強度比」という。体積抵抗率の低減の観点から、CN-/SiN-ピーク強度比は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上である。さらに、CN-/SiN-ピーク強度比は、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上である。体積抵抗率が低くなる理由は完全に解明されているわけではないが、体積抵抗率の低下は次のような結晶構造の違いに起因すると推定される。一般的に、SiCに導入された窒素(N)は、SiC結晶においてケイ素(Si)の位置と比べて炭素(C)の位置を優先的に占めると考えられている。この場合、CN-/SiN-ピーク強度比は小さくなる傾向にある。対照的に、CN-/SiN-ピーク強度比の増大は、SiC結晶において窒素(N)がケイ素(Si)の位置を優先的に占めることを示唆している。あるいは、結晶構造中の原子の位置がわずかにずれている可能性もある。上記のような結晶構造の違いがエネルギー準位に影響を与えることで、体積抵抗率が低くなると推定される。目的の体積抵抗率を有するSiC成形体が提供される限り、CN-/SiN-ピーク強度比の上限は制限されない。CN-/SiN-ピーク強度比の上限は、3.0又は4.0であってもよい。例えば、CN-/SiN-ピーク強度比は、1.0~4.0の範囲内であってもよい。
【0015】
SiC成形体におけるSi:Cモル比は、好ましくは49.00:51.00~51.00:49.00であり、より好ましくは49.50:50.50~50.50:49.50である。本開示において、Si:Cモル比は二次イオン質量分析法(SIMS)によって測定される。
【0016】
SiC成形体の形状は制限されない。SiC成形体の形状は、用途を考慮して決定されてもよい。SiC成形体は、平板状のSiC成形体であってもよい。SiC成形体は、円板状、リング状、円筒状又は棒状のSiC成形体であってもよい。円板状又はリング状のSiC成形体の用途の例としては、半導体部材が挙げられる。円筒状又は棒状のSiC成形体の用途の例としては、ヒーター構成部材が挙げられる。
【0017】
SiC成形体の厚さは制限されない。SiC成形体の厚さは、用途を考慮して決定されてもよい。SiC成形体の厚さは、少なくとも0.15mmであってもよい。SiC成形体の厚さは、少なくとも0.35mmであってもよい。SiC成形体の厚さは、少なくとも4mmであってもよい。SiC成形体の厚さは、0.1mm~5mmの範囲内であってもよい。SiC成形体の厚さは、0.2mm~3mmの範囲内であってもよい。
【0018】
SiC成形体の用途は制限されない。SiC成形体の用途の例としては、半導体製造装置用部材が挙げられる。半導体製造装置の例としては、プラズマエッチング装置及び熱処理装置が挙げられる。プラズマエッチング装置用部材の例としては、エッジリング、電極板及びヒーターが挙げられる。熱処理装置用部材の例としては、ダミーウェハが挙げられる。SiC成形体の用途の例としては、薄膜形成装置の反応室用部材も挙げられる。薄膜形成装置の例としては、CVD装置が挙げられる。CVDは、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition)の略称である。
【0019】
目的のSiC成形体が得られる限り、SiC成形体の製造方法は制限されない。例えば、SiC成形体は、化学蒸着を利用することによって製造される。好ましい実施形態において、SiC成形体の製造方法は、(1)反応室内に、基板を準備することと、(2)上記反応室内に、ケイ素及び炭素を含む原料ガスと、窒素含有ドーパントガスと、キャリアガスとを供給して、上記基板の上にSiC膜を形成することと、(3)上記SiC膜から上記基板を除去することと、を含む。以下、各工程について説明する。
【0020】
以下、工程(1)について説明する。工程(1)は、反応室内に、基板を準備することを含む。
【0021】
反応室内に配置される基板の数は制限されない。1つの反応室内に、1つ又は複数の基板が配置されてもよい。
【0022】
反応室は、基板上にSiC膜を形成する反応を行うための空間を画定する。反応室を含む薄膜形成装置は、公知のCVD装置から選択されてもよい。CVD装置は、ホットウォール型CVD装置又はコールドウォール型CVD装置であってもよい。
【0023】
基板は、好ましくは黒鉛基板である。基板の形状及び寸法は、目的のSiC膜の形状及び寸法を考慮して決定されてもよい。基板は、円板状の基板であってもよい。基板の厚さは、0.5mm~100mmの範囲内であってもよい。
【0024】
以下、工程(2)について説明する。工程(2)は、反応室内に、ケイ素及び炭素の両方を含む原料ガスと、窒素含有ドーパントガスと、キャリアガスとを供給して、基板の上にSiC膜を形成することを含む。以下、「ケイ素及び炭素の両方を含む原料ガス」を単に「原料ガス」という場合があり、「窒素含有ドーパントガス」を単に「ドーパントガス」という場合がある。
【0025】
原料ガスは、ケイ素(Si)及び炭素(C)の両方を含む。原料ガスは、SiCの供給源である。ケイ素(Si)及び炭素(C)の両方を含む原料ガスの種類は、制限されない。原料ガスは、単一成分又は多成分のガスであってもよい。単一成分のガスの例としては、ケイ素-炭素結合を有する有機ケイ素化合物が挙げられる。ケイ素-炭素結合を有する有機ケイ素化合物の例としては、メチルトリクロロシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン及びクロロトリメチルシランが挙げられる。単一成分のガスは、好ましくはメチルトリクロロシランである。多成分のガスの例としては、ケイ素含有化合物及び炭素含有化合物の両方を含む混合物が挙げられる。ケイ素含有化合物の例としては、トリクロロシラン及びモノシランが挙げられる。ケイ素含有化合物は、炭素を含まない化合物であってもよい。炭素含有化合物の例としては、炭化水素が挙げられる。炭化水素の例としては、メタン、エタン及びプロパンが挙げられる。
【0026】
ドーパントガスは、窒素(N)を含む。窒素含有ドーパントガスの例としては、窒素ガス(N2)及びアンモニアガス(NH3)が挙げられる。ドーパントガスは、好ましくは窒素ガスである。
【0027】
キャリアガスの例としては、水素ガス(H2)が挙げられる。
【0028】
原料ガス、ドーパントガス及びキャリアガスに加えて、他のガスが反応室内に供給されてもよい。他のガスの例としては、塩化水素(HCl)ガスが挙げられる。塩化水素ガスの使用は、SiC成形体中の窒素濃度の増大又はSiC成形体の耐酸化性の向上に寄与できる。
【0029】
少なくとも1つのガスは、他のガスと別々に反応室内に供給されてもよい。少なくとも2つのガスは、反応室への供給前に混合されてもよい。後者の場合、少なくとも2つのガスを含む混合ガスが反応室内に供給される。例えば、混合ガスは、原料ガス、ドーパントガス及びキャリアガスを含んでもよい。例えば、混合ガスは、原料ガス、ドーパントガス、キャリアガス及び塩化水素ガスを含んでもよい。混合ガスを構成する各ガスの分圧は、次の数値範囲内で調節されてもよい。原料ガスの分圧は、0.0030MPa~0.0150MPaの範囲内であってもよい。原料ガスの分圧の下限は、0.0030MPa、0.0040MPa又は0.0050MPaであってもよい。原料ガスの分圧の上限は、0.0150MPa、0.0130MPa又は0.0100MPaであってもよい。ドーパントガスの分圧は、0.0100MPa~0.0600MPaの範囲内であってもよい。ドーパントガスの分圧の下限は、0.0100MPa、0.0200MPa又は0.0300MPaであってもよい。ドーパントガスの分圧の上限は、0.0600MPa、0.0500MPa又は0.0400MPaであってもよい。キャリアガスの分圧は、0.0300MPa~0.1000MPaの範囲内であってもよい。キャリアガスの分圧の下限は、0.0300MPa、0.0400MPa又は0.0500MPaであってもよい。キャリアガスの分圧の上限は、0.1000MPa、0.0800MPa又は0.0600MPaであってもよい。塩化水素ガスの分圧は、0.0008MPa~0.0020MPaの範囲内であってもよい。塩化水素の分圧の下限は、0.0008MPa、0.0009MPa又は0.0010MPaであってもよい。塩化水素の分圧の上限は、0.0020MPa、0.0018MPa又は0.0015MPaであってもよい。
【0030】
原料ガス中のケイ素(Si)に対するドーパントガス中の窒素(N)のモル比は、好ましくは4.0~24.0、より好ましくは5.0~20.0、更に好ましくは6.0~16.0の範囲内である。上記モル比が4.0以上であると、SiC膜に取り込まれる窒素の量が多くなる。上記モル比が24.0以下であると、生産性が向上する。
【0031】
基板の表面積に対する反応室内に供給される全てのガスの総流量の比は、好ましくは0.007L/(min・cm2)以下、より好ましくは0.006L/(min・cm2)以下、更に好ましくは0.005L/(min・cm2)以下である。基板の表面積に対して反応室内に供給される全てのガスの総流量が相対的に小さくなると、SiC膜に取り込まれる窒素の量が多くなる傾向にある。この結果、SiC成形体中の窒素濃度が高くなり、SiC成形体の体積抵抗率も低くなる。基板の表面積に対する反応室内に供給される全てのガスの総流量の比の下限は制限されない。下限は、0.001L/(min・cm2)又は0.003L/(min・cm2)であってもよい。例えば、基板の表面積に対する反応室内に供給される全てのガスの総流量の比は、0.001L/(min・cm2)~0.007L/(min・cm2)の範囲内であってもよい。
【0032】
SiC膜の成膜速度は、好ましくは10μm/hr~2000μm/hrである。SiC膜の成膜速度が10μm/hr以上であると、生産性が向上する。SiC膜の成膜速度が2000μm/hr以下であると、結晶構造の形成が促進される、又は結晶構造の欠陥が低減する。
【0033】
SiC膜は、好ましくは加熱処理によって形成される。SiC膜は、好ましくは1100℃~1900℃、より好ましくは1200℃~1600℃の範囲内の温度で形成される。加熱処理は、基板の加熱によって実施されてもよい。上記のような数値に基づいて、基板の温度が調節されてもよい。基板を加熱する方法の例としては、抵抗加熱、誘導加熱及びレーザー加熱が挙げられる。
【0034】
SiC膜は、好ましくは0.08MPa~0.12MPa、より好ましくは0.09MPa~0.11MPaの範囲内の圧力下で形成される。上記のような数値に基づいて、SiC膜を形成する過程における反応室内の圧力が調節される。
【0035】
SiC膜を形成する過程における反応室内の塩化水素ガスの分圧は、好ましくは1000Pa以上、より好ましくは1500Pa以上、更に好ましくは2000Pa以上である。反応室内の塩化水素ガスの分圧が高くなると、窒素(N)によるケイ素(Si)の置換が優勢になる。この結果、SiC成形体の体積抵抗率が低下する。SiC成形体の耐酸化性の向上の観点から、SiC膜を形成する過程における反応室内の塩化水素ガスの分圧は、好ましくは3000Pa以下である。例えば、SiC膜を形成する過程における反応室内の塩化水素ガスの分圧は、1000Pa~3000Paの範囲内であってもよい。本開示において、SiC膜を形成する過程における反応室内の塩化水素ガスの分圧はガスクロマトグラフィーを利用することによって測定される。具体的に、SiC膜を形成する過程における反応室から抜き取ったガスをガスクロマトグラフィーによって分析し、次にガス中の各成分の濃度及び反応室内の圧力に基づいて、SiC膜を形成する過程における反応室内の塩化水素ガスの分圧を算出する。「SiC膜を形成する過程における反応室内の塩化水素ガス」という用語は、SiC膜を形成する過程における反応室内に存在する全ての塩化水素ガスを意味し、SiC膜を形成する過程における反応室内に供給された塩化水素ガスだけでなく、原料ガスの分解によって生じた塩化水素ガスを包含する。
【0036】
以下、工程(3)について説明する。工程(3)は、SiC膜から基板を除去することを含む。基板の除去によって、SiC成形体が得られる。
【0037】
基板を除去する方法は制限されない。基板を除去する方法の例としては、機械加工及び酸化などが挙げられる。
【0038】
SiC成形体の製造方法は、必要に応じて、他の工程を更に含んでもよい。ある実施形態において、SiC成形体の製造方法は、工程(2)と工程(3)との間に、SiC膜を加工することを含んでもよい。加工の例としては、機械加工が挙げられる。SiC膜は、所定の形状又は寸法に加工されてもよい。SiC膜の加工において、SiC膜と共に基板も加工されてもよい。ある実施形態において、SiC成形体の製造方法は、工程(3)の後に、SiC成形体を加工することを含んでもよい。SiC成形体は、所定の形状又は寸法に加工されてもよい。SiC成形体は、表面処理によって加工されてもよい。表面処理の例としては、鏡面仕上げが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づいて本開示を説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されない。下記の技術的事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更されてもよい。
【0040】
<実施例1>
160mmの直径及び5mmの厚さを有する黒鉛基板を準備した。
【0041】
黒鉛基板を、CVD装置の反応室内に配置した。下記ガス(A)~(D)を混合して、混合ガスを生成した。各ガスの分圧を表1に示す。反応室内に混合ガスを供給した後、黒鉛基板の上に多結晶SiC膜を形成した。他の詳細な条件を表2に示す。
(A)原料ガス:メチルトリクロロシラン(以下、「MTS」という。)
(B)ドーパントガス:N2
(C)キャリアガス:H2
(D)他のガス:塩化水素(HCl)
【0042】
0.6mmの厚さを有する多結晶SiC膜を形成した後、反応室から黒鉛基板と多結晶SiC膜とを含む積層体を取り出した。積層体を加工し、次に黒鉛基板を除去して、150mmの直径及び0.6mmの厚さを有する多結晶SiC成形体を得た。積層体の加工においては、積層体の縁を除去し、次に積層体を分割した。多結晶SiC成形体は、第1面及び上記第1面の反対側に第2面を有する。多結晶SiC成形体の第1面及び第2面は互いに反対方向を向いている。多結晶SiC成形体の第1面は、黒鉛基板の除去によって露出した多結晶SiC成形体の表面である。多結晶SiC成形体の第1面及び第2面の各々を平面研削によって少なくとも50μm研削した。完成した多結晶SiC成形体は、150mmの直径及び0.5mmの厚さを有する。
【0043】
<実施例2~10及び比較例1~5>
表1及び表2の記載に従って多結晶SiC膜を形成する条件を変更したことを除いて、実施例1に記載された方法に従ってSiC成形体を得た。
【0044】
<測定>
上記実施例及び上記比較例において得られた各多結晶SiC成形体の特性を調査した。以下、測定方法及び結果について説明する。
【0045】
(窒素濃度)
二次イオン質量分析法によって、多結晶SiC成形体中の窒素濃度を測定した。測定装置として「SIMS-4000」(ATOMIKA)を使用した。測定結果を表3に示す。
【0046】
(CN-/SiN-ピーク強度比)
飛行時間型二次イオン質量分析法によって、SiN-ピーク強度及びCN-ピーク強度を測定した。測定装置として「TOF.SIMS5」(IONTOF GmbH)を使用した。測定条件を以下に示す。SiN-ピーク強度に対するCN-ピーク強度の比を算出した。測定結果を表3に示す。
(1)一次イオン種:Bi+
(2)加速電圧:30kV
(3)測定視野サイズ:200μm×200μm
(4)ピクセル数:1024pixel×1024pixel
(5)測定イオン種:負イオン
【0047】
(体積抵抗率)
4探針法によって、多結晶SiC成形体の体積抵抗率を測定した。測定装置として「ロレスタ-GP MCT-T610」(三菱ケミカルアナリテック株式会社)を使用した。具体的に、測定装置のプローブを多結晶SiC成形体の第1面に接触させて、体積抵抗率を測定した。測定結果を表3に示す。
【0048】
(酸化試験後の表面粗度Sa)
鏡面仕上げによって多結晶SiC成形体の表面粗度Saを0.2±0.1nmに調節し、分析面を形成した。多結晶SiC成形体の分析面を露出した状態で、カンタル炉を用いて950℃及び空気雰囲気にて1時間熱処理を行った。白色干渉を利用した非接触式表面粗さ測定機を用いて、視野1.5mm角、倍率5倍の条件にて酸化試験後の表面粗度Saを測定した。測定結果を表2に示す。酸化試験前の表面粗度Saと酸化試験後の表面粗度Saとの差が小さいことは、耐酸化性が優れていることを示す。
【0049】
(Si:Cモル比)
二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて、0.1μm~8.0μmの深さ方向分析の範囲内で多結晶SiC成形体の成分を測定し、Si:Cモル比を測定した。測定結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
(結果の考察)
実施例1~10において得られた多結晶SiC成形体の体積抵抗率は、7.0×10-3Ω・cm以下である。対照的に、比較例1~5において得られた多結晶SiC成形体の抵抗率は、7.0×10-3Ω・cmを超えている。
【要約】
本開示の目的は、低抵抗のSiC成形体及び上記SiC成形体の製造方法を提供することである。
本開示は、体積抵抗率が7.0×10-3Ω・cm以下であり、窒素濃度が1000ppmを超えてかつ4500ppm以下の範囲内である、SiC成形体を提供する。