(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】フッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240910BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20240910BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20240910BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240910BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
B32B15/082 B
C08L27/12
C08K3/013
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2024535830
(86)(22)【出願日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2024019409
【審査請求日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023099599
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智和
(72)【発明者】
【氏名】藤木 洋成
(72)【発明者】
【氏名】勅使川原 壮平
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087939(WO,A1)
【文献】特開2022-035805(JP,A)
【文献】特開2023-065334(JP,A)
【文献】特開2022-019196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と、
前記フッ素樹脂中に分散した無機フィラーと、
前記フッ素樹脂中に分散した紫外線吸収剤と、
を含むフッ素樹脂フィルムであって、
前記無機フィラーの含有量が35体積%~70体積%であり、
前記紫外線吸収剤の周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.004以下であり、
前記フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は、20%以上であり、
前記フッ素樹脂フィルムの周波数20GHzにおける比誘電率Dkが3.0以下であり、周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.0010以下であり、
前記紫外線吸収剤が、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせである、
UV-YAGレーザーによる355nmの波長の照射により穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルムの厚みは25μm~200μmである、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項3】
前記フッ素樹脂フィルムの熱膨張係数が80ppm/K以下である、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
前記フッ素樹脂フィルムは、表面に反応性官能基を有する表面改質層を備える、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤の含有量が、0.3体積%~25体積%である、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
前記無機フィラーが、アルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、およびマイカのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせである、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項7】
前記無機フィラーの数平均粒子径が、0.1~10μmである、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項8】
前記フッ素樹脂が、PTFE、PFAおよびFEPのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせである、請求項1に記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項9】
請求項1に記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法であって、
フッ素樹脂粉末と、無機フィラー粉末と、紫外線吸収剤を均一に混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を押し固めて成形する成形工程と、
前記成形工程後の混合物を加熱して、前記フッ素樹脂粉末を溶融させる加熱工程と、
前記加熱工程後の混合物を冷却してフッ素樹脂を結晶化させる冷却工程と、
前記冷却工程後の混合物をスカイブ加工してフッ素樹脂フィルムを形成するスカイブ加工工程と、
を含む、フッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記スカイブ加工工程後、前記フッ素樹脂フィルムの表面をプラズマ処理して、フッ素原子を反応性官能基に置換して表面改質層を形成するプラズマ処理工程を含む、請求項
9に記載のフッ素樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のフッ素樹脂フィルムを備える、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム。
【請求項12】
請求項1に記載のフッ素樹脂フィルムと、銅箔層とを備えるフレキシブル銅張積層板。
【請求項13】
請求項1に記載のフッ素樹脂フィルムを備える回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント回路基板(Flexible Printed Circuits 以下、「FPC」とする場合がある。)の需要が増大している。FPCの製造には、基材としての絶縁フィルムと薄い銅箔とを積層したフレキシブル銅張積層板(Flexible Cupper Clad Laminate 以下、「FCCL」とする場合がある。)等の、可撓性を有する材料が用いられており、携帯電話及びスマートフォン等のモバイル型通信機器の可動部分の配線や、これらの基地局装置、サーバー・ルーター等のネットワーク関連電子機器、大型コンピュータ等の部品にその用途が拡大しつつある(例えば特許文献1~3)。
【0003】
これらの通信機器やネットワーク関連電子機器においては、大容量の情報を低損失かつ高速で伝送、処理する必要があり、FPCで扱う電気信号も高周波化が進んでいる。高周波の電気信号を伝送する際に伝送損失が大きいと、電気信号のロスや信号の遅延時間の増大等の問題が生じる。このため、FPCに用いるFCCLには、低誘電特性(低比誘電率、低誘電正接)を示し、高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を有することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-160738号公報
【文献】特開2003-147320号公報
【文献】特開2016-69651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、第6世代移動通信システム(以下、「6G」とする場合がある)向けのFPC用の絶縁フィルムの材料として、高周波での通信時に伝送損失が少ない材料が求められている。
【0006】
また、FPCの基板を多層化するために、FCCLにUV-YAGレーザー等で穴あけ加工を行い、その後に開いた穴の内壁を銅めっきすることで多層化する基板と基板の層間の導通をとる処理がされる。そのため、FPC用の絶縁フィルムとしてはUV-YAGレーザーで穴あけ加工ができる材料が求められている。
【0007】
また、FPCの基板を多層化するために、上述の穴あけ加工における加工性に加え、積層するための熱プレス時にフィルムの寸法変化がしないことが必要である。そのため、多層FPC用の絶縁フィルムとしては、熱膨張係数(CTE)が低い材料が求められている。
【0008】
しかしながら、従来はこのような材料の需要があるものの、高周波での通信時に伝送損失が少なく、かつUV-YAGレーザーで穴あけ加工ができる6G向けの材料はなかった。
【0009】
そこで、本発明は、高周波での通信時に伝送損失が少なく、かつUV-YAGレーザーでの穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂と、前記フッ素樹脂中に分散した無機フィラーと、前記フッ素樹脂中に分散した紫外線吸収剤と、を含むフッ素樹脂フィルムであって、前記無機フィラーの含有量が35体積%~70体積%であり、前記紫外線吸収剤の周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.004以下であり、前記フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は、20%以上であり、UV-YAGレーザーによる355nmの波長の照射により穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルムである。
【0011】
前記フッ素樹脂フィルムの厚みは25μm~200μmであってもよい。
【0012】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、前記フッ素樹脂フィルムの周波数20GHzにおける比誘電率Dkが3.0以下であり、周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.0010以下であってもよい。
【0013】
前記フッ素樹脂フィルムの熱膨張係数が80ppm/K以下であってもよい。
【0014】
前記フッ素樹脂フィルムは、表面に反応性官能基を有する表面改質層を備えてもよい。
【0015】
前記紫外線吸収剤が、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。
【0016】
前記紫外線吸収剤の含有量が、0.3体積%~25体積%であってもよい。
【0017】
前記無機フィラーが、アルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、およびマイカのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。
【0018】
前記無機フィラーの数平均粒子径が、0.1~10μmであってもよい。
【0019】
前記フッ素樹脂が、PTFE、PFAおよびFEPのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
また、上記の課題を解決するため、本発明の製造方法は上記本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法であって、フッ素樹脂粉末と、無機フィラー粉末と、紫外線吸収剤を均一に混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を押し固めて成形する成形工程と、前記成形工程後の混合物を加熱して、前記フッ素樹脂粉末を溶融させる加熱工程と、前記加熱工程後の混合物を冷却してフッ素樹脂を結晶化させる冷却工程と、前記冷却工程後の混合物をスカイブ加工してフッ素樹脂フィルムを形成するスカイブ加工工程と、を含む。
【0021】
本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法は、前記スカイブ加工工程後、前記フッ素樹脂フィルムの表面をプラズマ処理して、フッ素原子を反応性官能基に置換して表面改質層を形成するプラズマ処理工程を含んでもよい。
【0022】
また、上記の課題を解決するため、本発明のフレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルムは、本発明のフッ素樹脂フィルムを備える。
【0023】
また、上記の課題を解決するため、本発明のフレキシブル銅張積層板は、本発明のフッ素樹脂フィルムと、銅箔層とを備える。
【0024】
また、上記の課題を解決するため、本発明の回路基板は、本発明のフッ素樹脂フィルムを備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明であれば、高周波での通信時に伝送損失が少なく、かつUV-YAGレーザーでの穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のフッ素樹脂フィルムの一例を示す概略断面図である。
【
図2A】実施例6のフッ素樹脂フィルムの断面の拡大電子画像である。
【
図2B】実施例6のフッ素樹脂フィルムの断面の拡大電子画像である。
【
図3A】
図2A、2Bよりも拡大倍率を上げた実施例6のフッ素樹脂フィルムの断面の拡大電子画像である。
【
図3B】
図2A、2Bよりも拡大倍率を上げた実施例6のフッ素樹脂フィルムの断面の拡大電子画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のフッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板の一実施形態について説明する。
【0028】
[フッ素樹脂フィルム]
本発明のフッ素樹脂フィルムは、後述するフッ素樹脂と、無機フィラーと、紫外線吸収剤と、を備える。
【0029】
(フッ素樹脂フィルムの厚み)
フッ素樹脂フィルムの厚みは25μm~200μmであることが好ましい。フィルムの厚みが25μm以上であることで、フィルムとしての強度を十分に保つことができ、良好なハンドリング性が得られる。また、フィルムの厚みが200μm以下であることで、十分な可撓性が得られる。
【0030】
フッ素樹脂フィルムの厚みはその用途や要求に応じて適宜選択することができるが、例えば、30μm以上、50μm以上、70μm以上、または100μm以上であってもよく、150μm以下、または100μm以下であってもよい。
【0031】
なお、フッ素樹脂フィルムの厚みは、マイクロメーター等の膜厚測定器を使用し、フッ素樹脂フィルムの任意の10点の位置で測定した厚みの測定値の平均値とすることができる。
【0032】
(穴あけ加工性)
本発明のフッ素樹脂フィルムは、UV-YAGレーザーによる355nmの波長の照射により穴あけ加工が可能なフィルムである。上記のように、FPC用の絶縁フィルムとしてはUV-YAGレーザーで穴あけ加工ができる材料が求められており、本発明のフッ素樹脂フィルムはFPC用の絶縁フィルムとして好適なフィルムである。
【0033】
YAGレーザーは、イットリウムとアルミニウムの複合酸化物から構成されるガーネット構造の結晶に、微量のネオジムを添加して得られる固体レーザーであり、CO2レーザー等の液体レーザーと比較して、集光性が高く、経年劣化がなく安定した発振ができ、ランニングコストが安価で加工装置の導入がしやすい、等の利点がある。
【0034】
YAGレーザーの波長としては、基本波長(1,064nm)、第二高調波(532nm)、第三高調波(355nm)、第四高調波(266nm)があり、本発明ではレーザー光源として第三高調波(355nm)を使用するUV-YAGレーザーをフッ素樹脂フィルムに照射することで、穴あけ加工をすることができる。この穴あけ加工をする場合の穴の直径は、例えば5μm~150μm程度であり、特にUV-YAGレーザーにより直径50μm~100μmの穴を穴あけ加工することが一般的に行われる。
【0035】
UV-YAGレーザー装置としては、特に限定されないが、例えばESI社製「MODEL5330xi」、「MODEL5335」を用いることができる。
【0036】
(比誘電率Dk、誘電正接Df)
本発明は、高周波での通信時に伝送損失が少ないことを課題としており、特に6G向けのFPC用の絶縁フィルムの材料として本発明のフッ素樹脂フィルムを用いることを想定すると、具体的な低誘電特性として、フッ素樹脂フィルムの周波数20GHzにおける比誘電率Dkが3.0以下であることが好ましく、周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.0010以下であることが好ましい。
【0037】
なお、比誘電率Dk、誘電正接DfはSPDR誘電体共振器等を用いて測定することができる。
【0038】
(熱膨張係数CTE)
上記のように、FPCの基板を多層化するために、FCCLにUV-YAGレーザー等のUV-YAGレーザーで穴あけ加工を行い、その後に開いた穴の内壁を銅めっきすることで多層化する基板と基板の層間の導通をとる処理がされる。このように多層化基板を加工するためには、基板の反り・回路の位置ずれを防止する必要があるという観点から、フッ素樹脂フィルムの温度上昇による体積の膨張の割合が重要となる。
【0039】
具体的には、FPC等の多層化基板を加工することを考慮すると、本発明のフッ素樹脂フィルムの熱膨張係数が80ppm/K以下であることが好ましい。
【0040】
〈紫外線吸収率〉
本発明のフッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は、20%以上であることにより、UV-YAGレーザーによる355nmの波長のレーザーが照射されたフッ素樹脂フィルムが発熱して開口する。紫外線吸収率が50%以上であることにより、より効率的に発熱することで穴あけ処理の工程時間を短縮することができる。フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率の上限は、理論上は100%であるが、測定値の上限としては95%が目安である。
【0041】
フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は、紫外可視分光光度計により355nmの透過率および反射率を測定した結果より得ることができ、例えば、フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は以下の式(1)により算出できる。
【0042】
UV吸収率(%)=100-UV反射率(%)-UV透過率(%)(1)
【0043】
〈フッ素樹脂〉
フッ素樹脂は優れた耐熱性、電気絶縁性、非粘着性、耐候性を備えた合成樹脂であり、フィルム状に成形したフッ素樹脂フィルムが、化学材料、電気電子部品、半導体、自動車等の産業分野において広く利用されている。そして、フッ素樹脂は、本発明のような高周波での通信時に伝送損失が少なく、かつUV-YAGレーザーでの穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム用の樹脂としても、有用である。
【0044】
使用できるフッ素樹脂としては、本発明の課題を解決することのできる樹脂であれば特に限定されない。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)およびFEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)のいずれかまたはこれらの混合物を、フッ素樹脂として用いることができる。
【0045】
フッ素樹脂フィルムにおけるフッ素樹脂の含有量は、例えば、フッ素樹脂フィルム中の無機フィラーおよび紫外線吸収剤の合計の含有量の残部であってもよい。例えば、後述のようにフッ素樹脂フィルムにおける無機フィラーの含有量が35体積%~70体積%であることから、紫外線吸収剤の含有量が、0.3体積%~25体積%である場合、フッ素樹脂フィルムにおけるフッ素樹脂の含有量は、29.7体積%~64.7体積%であってもよく、40体積%以上、50体積%以上、または60体積%以上であってもよく、60体積%以下、50体積%以下、または40体積%以下であってもよい。フッ素樹脂の含有量が29.7体積%以上であれば、フッ素樹脂フィルムとして良好な強度が得られる。また、フッ素樹脂の含有量が64.7体積%以下であれば、FCCL用のフッ素樹脂フィルムとして十分な柔軟性を有するとともに、フッ素樹脂フィルム中に含まれる無機フィラーにより熱膨張率が低く抑えられ、優れた熱的安定性が得られる。
【0046】
〈無機フィラー〉
無機フィラーは、UV-YAGレーザーの355nmの波長の照射によるフッ素樹脂フィルムの穴あけ加工を可能とするために、紫外線吸収剤とともに重要な構成要素であり、フッ素樹脂フィルムにおいてフッ素樹脂中に分散した状態で存在する。
【0047】
フッ素樹脂は355nmに吸収帯がなく熱伝導率が低いため、フッ素樹脂のみでフッ素樹脂フィルムを構成すると、このフッ素樹脂フィルムにUV-YAGレーザーの355nmの波長を照射しても、フッ素樹脂フィルムに穴は開かない。
【0048】
一方で、無機フィラーは、フッ素樹脂よりも熱伝導率が高いため、紫外線吸収剤が紫外線を吸収したことにより発した熱を十分に伝えることができる。よって、無機フィラーが十分に分散したフッ素樹脂フィルムは、紫外線吸収剤が発熱すると無機フィラーを伝って、その熱がフッ素樹脂フィルムの内部まで伝達される。伝達された熱がフッ素樹脂を十分に溶融させることのできる程度の熱であることにより、無機フィラーが分散したフッ素樹脂フィルムは、UV-YAGレーザーの355nmの波長の照射がされることにより穴あけ加工が可能となる。
【0049】
無機フィラーとしては、具体的にはアルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、およびマイカのいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせを使用することができる。特に、フッ素樹脂フィルムに高い熱的安定性(低熱膨張性)を付与する観点から、シリカ、窒化ホウ素、アルミナを単独または混合して用いることができる。
【0050】
フッ素樹脂フィルムにおける無機フィラーの含有量は、35体積%~70体積%であり、40体積%以上、50体積%以上、60体積%以上であってもよく、60体積%以下、50体積%以下、40体積%以下であってもよい。
【0051】
フッ素樹脂フィルムにおける無機フィラーの含有量が35体積%以上であれば、フッ素樹脂フィルムの熱膨張率が例えば100ppm/K以下と小さい値に抑えられ、熱的安定性に優れる。また、フッ素樹脂フィルムにおける無機フィラーの含有量が70体積%以下であれば、フッ素樹脂フィルムとしての強度を十分に保つことができ、良好なハンドリング性が得られる。
【0052】
無機フィラーの平均粒子径は、フッ素樹脂フィルムの所望の厚さに対して適宜選択すればよいが、例えば、0.1~10μmであることが好ましく、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、または1μm以上であってもよく、9μm以下、8μm以下、5μm以下、または3μm以下であってもよい。無機フィラーの平均粒子径が0.1~10μmの範囲であることにより、無機フィラーの粒子同士の凝集を抑制でき、フッ素樹脂中に均一に分散させることができ、また、粗大粒子の割合を低減できるため、UV-YAGレーザーの照射による穴あけ加工の加工精度を高めることができる。すなわち、フッ素樹脂フィルムのどの領域を穴あけ加工するかにかかわらず、穴あけ加工の対象となる領域には無機フィラーが存在することが必要である。そのためには、UV-YAGレーザーにより穴あけ加工する際の一般的な穴の直径である50μm~100μmよりも、無機フィラーの平均粒子径の方が小さいことが重要となるため、無機フィラーの平均粒子径は0.1~10μmであることが好ましい。また、無機フィラーの平均粒子径が0.1~10μmの範囲であることにより、フッ素樹脂フィルムにおける貫通孔(ピンホール)の発生を抑制でき、優れた伸び特性が得られる。
【0053】
無機フィラーの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、「SU8220」等)を用いて求めることができ、加速電圧5kV、1000倍の倍率で、横100μm×縦100μmの範囲でフッ素樹脂フィルムの表面を観察した走査型電子顕微鏡画像において、任意に選択した100個の無機フィラー粒子の各々の粒子径(直径又は最長径)を測定し、その算術平均値を、フッ素樹脂フィルムに含まれる無機フィラーの数平均粒子径とすることができる。
【0054】
〈紫外線吸収剤〉
紫外線吸収剤は、UV-YAGレーザーの355nmの波長の照射によるフッ素樹脂フィルムの穴あけ加工を可能とするために、無機フィラーとともに重要な構成要素であり、フッ素樹脂フィルムにおいてフッ素樹脂中に分散した状態で存在する。
【0055】
フッ素樹脂は355nmに吸収帯がなく熱伝導率が低いため、フッ素樹脂のみでフッ素樹脂フィルムを構成すると、このフッ素樹脂フィルムにUV-YAGレーザーの355nmの波長を照射しても、フッ素樹脂フィルムに穴は開かない。また、無機フィラーはフッ素樹脂よりも熱伝導性が高いものの、無機フィラーそのものは紫外線照射により十分に発熱しないことから、フッ素樹脂に無機フィラーのみを分散させてフッ素樹脂フィルムを構成しても、UV-YAGレーザーの355nmの波長の照射によって、このフッ素樹脂フィルムに穴は開かない。
【0056】
一方で、紫外線吸収剤は紫外線を吸収することで発熱し、この発熱によりフッ素樹脂を溶解させてフッ素樹脂フィルムの穴あけ加工が可能となる。よって、紫外線吸収剤と無機フィラーが十分に分散したフッ素樹脂フィルムは、紫外線吸収剤が発熱すると無機フィラーを伝って、その熱がフッ素樹脂フィルムの内部まで伝達される。伝達された熱がフッ素樹脂を十分に溶融させることのできる程度の熱であることにより、紫外線吸収剤と無機フィラーが分散したフッ素樹脂フィルムは、UV-YAGレーザーの355nmの波長の照射がされることにより穴あけ加工が可能となる。
【0057】
本発明は、高周波での通信時に伝送損失が少ないことを課題としており、特に6G向けのFPC用の絶縁フィルムの材料として本発明のフッ素樹脂フィルムを用いることを想定すると、紫外線吸収剤の周波数20GHzにおける誘電正接Dfは0.004以下とする。この誘電正接Dfは0.004を超えると、フッ素樹脂フィルムとしての誘電正接Dfの値が大きくなってしまい、結果として高周波での通信時の伝送損失が多くなるおそれがある。
【0058】
紫外線吸収剤としては、具体的には液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)のいずれかまたはこれらの2種以上の組み合わせを使用することができる。これらの紫外線吸収剤は、フッ素樹脂フィルムの穴あけ加工を効率的に行うことができるため、有用である。また、耐熱性があるため、フッ素樹脂と溶融や凝固の挙動を合わせやすく、後述するフッ素樹脂フィルムの製造方法の加熱工程や冷却工程において不具合が発生しないものである。
【0059】
液晶ポリマーとしては、例えば溶融時に液晶性を示す熱可塑性のポリマーである。紫外線吸収剤として使用できる液晶ポリマーとしては、例えば紫外線領域において吸収帯を持つ芳香族ポリエステルが挙げられ、剛直で折れ曲がりにくい分子構造を持ち、高分子物質に特有な分子の絡み合いが少ないため溶融状態では粘度が低く、成型時の高い流動性を示すことができる。すなわち、液晶ポリマーであれば耐熱性と流動性を両立することができる。
【0060】
液晶ポリマーとしてより具体的には、パラヒドロキシ安息香酸、ビフェノール、テレフタル酸等のモノマーを縮合して得られる全芳香族ポリエステルが挙げられる。また、エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、フェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体、2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体等が挙げられる。
【0061】
フッ素樹脂フィルムにおける紫外線吸収剤の含有量は、0.3体積%~25体積%であり、0.5体積%以上、1体積%以上、3体積%以上であってもよく、20体積%以下、15体積%以下、10体積%以下であってもよい。
【0062】
フッ素樹脂フィルムにおける紫外線吸収剤の含有量が0.3体積%以上であれば、無機フィラーと併用することでUV-YAGレーザーによる355nmの波長の照射によりフッ素樹脂フィルムの穴あけ加工が可能となる。また、フッ素樹脂フィルムにおける紫外線吸収剤の含有量が25体積%以下であれば、フッ素樹脂フィルムとしての強度を十分に保つことができ、良好なハンドリング性が得られる。
【0063】
(任意成分)
本発明のフッ素樹脂フィルムは、さらに任意成分を含んでもよい。任意成分としては、特に限定されないが、例えば難燃剤、難燃助剤、顔料、酸化防止剤、反射付与剤、隠蔽剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤等が挙げられる。任意成分を含む場合、フッ素樹脂フィルム中の任意成分の含有量の合計は、20質量%以下、10質量%以下、または5質量%以下であってもよい。
【0064】
(表面改質層)
フッ素樹脂フィルムは、表面に反応性官能基を有する表面改質層を備えてもよい。表面改質層を備えることにより、反応性官能基がフッ素樹脂フィルムと銅箔層との密着性を高めることができる。表面改質層は、後述するプラズマ処理工程によるフッ素樹脂表面に対する表面処理により、反応性官能基を設けることで形成することができる。
【0065】
図1は、本発明のフッ素樹脂フィルムの一例を示す概略断面図である。
図1に示すフッ素樹脂フィルム100は、表面改質層を備えていない場合の単一層のフィルムであるが、表面改質層を備える場合には、フッ素樹脂フィルム100の表面11と裏面12の両方の面またはいずれかの面に、表面改質層が配される。
【0066】
また、
図1では説明の都合上、フッ素樹脂フィルム100の表面11と裏面12に異なる符号を付したが、表面と裏面に区別はなくてもよい。
【0067】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、使用する直前までフッ素樹脂フィルムの表面に傷が付かないよう、容易に着脱可能な保護フィルム層200を更に備えても備えなくてもよく、更なる層を任意に備えても備えなくてもよい。また、フッ素樹脂フィルムはエラストマーを含まなくてもよい。
【0068】
また、本発明のフッ素樹脂フィルムはフッ素樹脂と無機フィラーと紫外線吸収剤のみを含んで構成されてもよく、上述の任意成分等の任意の添加剤を更に含んでも良い。
【0069】
[フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム]
本発明のフレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルムは、上記の本発明のフッ素樹脂フィルムを備える。当該フィルムは、フレキシブル銅張積層板用のフィルムであり、絶縁層として銅箔に張り付けてフレキシブル銅張積層板を形成するためのフィルムである。シート状の態様としては、例えば、芯に巻き取られたテープ状、芯は無いものの巻き取られたテープ状、A4サイズやA3サイズ等の任意の寸法にカットされたシート等が挙げられる。なお、フッ素樹脂フィルムについては説明済みであるため、ここでは説明を省略する。
【0070】
また、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルムは、フッ素樹脂フィルム以外の構成を備えてもよく、備えなくてもよい。例えば、銅箔に張り付ける直前までフッ素樹脂フィルム100の表面11に傷が付かないよう、容易に着脱可能な保護フィルム層200を更に備えてもよい。
【0071】
[フレキシブル銅張積層板]
本発明のフレキシブル銅張積層板は、上記の本発明のフッ素樹脂フィルムと、銅箔層とを備える。なお、フッ素樹脂フィルムについては説明済みであるため、ここでは説明を省略する。例えば、本発明のフレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルムを銅箔層に張り付けることで、本発明のフレキシブル銅張積層板となる。フッ素樹脂フィルムの表面と裏面の両方に銅箔層を張り付けてフレキシブル銅張積層板としてもよく、フッ素樹脂フィルムの片面のみに銅箔層を張り付けてフレキシブル銅張積層板としてもよい。
【0072】
〈銅箔層〉
銅箔層としては、フレキシブル銅張積層板に用いられる既存の銅箔層を採用することができ、銅または銅合金を主として含む層であるが、銅または銅合金以外の金属成分を含んでいてもよい。
【0073】
銅箔層の厚さは、特に限定されないが、例えば1μm~50μmであってもよく、2μm~40μmであってもよく、3μm~30μmであってもよい。銅箔層の厚さが1μm以上であることで、フレキシブル銅張積層板としての生産安定性に優れ、また良好なハンドリング性を得られる。また、銅箔層の厚さが50μm以下であることで、フレキシブル銅張積層板において、FPCとして求められる柔軟性を担保し易い。
【0074】
銅箔層において、本発明のフッ素樹脂フィルムと接着する面の表面粗さ(最大高さ)Rzは、例えば1.3μm以下であり、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。当該表面粗さ(最大高さ)Rzの下限値は特に限定されないが、例えば0.01μm以上または0.1μm以上である。なお、当該表面粗さ(最大高さ)Rzは、フレキシブル銅張積層板の断面を観察したときの最大深さを計測して得られる値とすることができる。
【0075】
フレキシブル銅張積層板の全体の厚さは、特に限定されないが、10μm~500μmであってもよく、60μm~450μmであってもよい。フレキシブル銅張積層板の全体の厚さが500μm以下であることで、FCCLに適した、良好な可撓性を得ることができ、FPC等の回路基板の製造時や使用時の取り扱い性に優れる。また、フレキシブル銅張積層板の全体の厚さが10μm以上であることで、FCCLとして十分な強度を得ることができ、FPC等の回路基板の製造時や使用時の取り扱い性に優れる。
【0076】
フレキシブル銅張積層板の製造方法は、特に限定されず既存の方法を用いることができる。例えば、フッ素樹脂フィルムの両面を銅箔で挟み、加圧することで銅箔層、フッ素樹脂フィルム、銅箔層の順に積層した3層構造のフレキシブル銅張積層板を得ることができる。加圧は、例えば、フッ素樹脂フィルムの両面を銅箔で挟んだものをステンレス製板でさらに挟み込むことで行うことができる。加圧条件は、特に限定されないが、例えば加圧圧力を1MPa~10MPa、加圧時の温度を40℃~400℃とし、通常1分~240分間熱プレスする条件が挙げられる。
【0077】
[回路基板]
本発明の回路基板は、上記の本発明のフッ素樹脂フィルムを備える。なお、フッ素樹脂フィルムについては説明済みであるため、ここでは説明を省略する。例えば、本発明のフレキシブル銅張積層板の銅箔層を、エッチング等の一般に用いられる方法でパターン加工して回路形成することで、FPC等の回路基板を得られる。なお、FPC以外の回路基板も本発明に含まれる。
【0078】
[フッ素樹脂フィルムの製造方法]
次に、本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法について説明する。本製造方法は、上記本発明のフッ素樹脂フィルムを製造する方法であり、以下に説明する混合工程と、成形工程と、加熱工程と、冷却工程と、スカイブ加工工程と、を含む。また、プラズマ処理工程を含んでも良い。
【0079】
〈混合工程〉
混合工程では、フッ素樹脂粉末と、無機フィラー粉末と、紫外線吸収剤を均一に混合して混合物を得る。粉末として用いるフッ素樹脂としては、本発明の課題を解決することのできる樹脂であれば特に限定されない。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)およびFEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)のいずれかまたはこれらの2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0080】
原料として用いるフッ素樹脂粉末は粒子形状を有し、その平均粒子径はフッ素樹脂フィルムの所定厚さに対して50%以下とすることができ、所望のフッ素樹脂フィルムの厚さに応じて適宜選択すればよい。フッ素樹脂粉末の平均粒子径は、好ましくは0.1μm~10μmである。平均粒子径がこの範囲にあるフッ素樹脂粉末を用いることで、無機フィラー粉末の粒子と紫外線吸収剤の粒子とフッ素樹脂粉末の粒子とが均一に分散した原料組成物が得られる。フッ素樹脂粉末の平均粒子径は、0.2μm以上、1μm以上、又は5μm以上であってもよい。また、フッ素樹脂粒子の平均粒子径は、8μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。
【0081】
フッ素樹脂粉末の平均粒子径をフッ素樹脂フィルムの所定厚さに対して50%以下、好ましくは0.1μm~10μmの範囲内とする方法としては、例えば、フッ素樹脂粉末が溶媒に分散された、市販のフッ素樹脂粒子ディスパージョン(一般に、平均粒子径が0.1μm~0.5μmの範囲)を用いる方法、市販の粉体形状のフッ素樹脂粒子(一般に、平均粒子径が200μm~600μmの範囲)を粉砕して上記平均粒子径とする方法等が挙げられる。上記2つの方法によって得られたフッ素樹脂粒子を用いる工程の詳細は後述する。
【0082】
なお、フッ素樹脂粉末の平均粒子径は、粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社製、「MS―3000」)を用いて、測定風圧1Barの条件で測定することができる。
【0083】
無機フィラー粉末としては、具体的にはアルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化ホウ素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、およびマイカのいずれかまたはこれらの2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、フッ素樹脂フィルムに高い熱的安定性(低熱膨張性)を付与する観点から、シリカ、窒化ホウ素、アルミナを単独または混合して用いることができる。無機フィラー粉末は粒子形状を有し、無機フィラー粉末の平均粒子径は、上記のようにフッ素樹脂フィルムの所望の厚さに対して適宜選択すればよいが、例えば、0.1~10μmであることが好ましく、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、または1μm以上であってもよく、9μm以下、8μm以下、5μm以下、または3μm以下であってもよい。
【0084】
なお、無機フィラー粉末の平均粒子径は、粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社製、「MS―3000」)を用いて、測定風圧1Barの条件で測定することができる。
【0085】
紫外線吸収剤としては、具体的には液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドのいずれかまたはこれらの2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、優れた紫外線吸収性と低い誘電正接Dfを有する液晶ポリマーを用いることができる。紫外線吸収剤は粒子形状を有し、紫外線吸収剤の平均粒子径は、フッ素樹脂フィルムの所望の厚さに対して適宜選択すればよいが、例えば、0.1~10μmであることが好ましく、0.2μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、または1μm以上であってもよく、9μm以下、8μm以下、5μm以下、または3μm以下であってもよい。
【0086】
紫外線吸収剤の平均粒子径が0.1~10μmの範囲であることにより、紫外線吸収剤の粒子同士の凝集を抑制でき、フッ素樹脂中に均一に分散させることができ、また、粗大粒子の割合を低減できるため、UV-YAGレーザーの照射による穴あけ加工の加工精度を高めることができる。すなわち、フッ素樹脂フィルムのどの領域を穴あけ加工するかにかかわらず、穴あけ加工の対象となる領域には紫外線吸収剤が存在することが必要である。そのためには、UV-YAGレーザーにより穴あけ加工する際の一般的な穴の直径である50μm~100μmよりも、紫外線吸収剤の平均粒子径の方が小さいことが重要となるため、紫外線吸収剤の平均粒子径は0.1~10μmであることが好ましい。
【0087】
また、紫外線吸収剤の平均粒子径が0.1~10μmの範囲であることにより、フッ素樹脂フィルムにおける貫通孔(ピンホール)の発生を抑制でき、優れた伸び特性が得られる。
【0088】
なお、紫外線吸収剤の平均粒子径は、粒度分布測定装置(スペクトリス株式会社製、「MS―3000」)を用いて、測定風圧1Barの条件で測定することができる。
【0089】
フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤とを均一に混合して混合物を得る方法の一実施形態としては、例えば、フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤とを乾式混合する方法等を用いてもよい。
【0090】
フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤とを均一に混合する方法としては、例えば、フッ素樹脂の一次粒子が凝集してなる二次粒子を解砕して、平均粒子径が0.1μm~10μmであるフッ素樹脂粉末を得た後、フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤とを羽根つき撹拌機等により攪拌混合する方法が挙げられる。
【0091】
フッ素樹脂粉末の二次粒子の粒子径は特に限定されないが、例えば100μm~800μmであってもよく、130μm~700μmであってもよく、150μm~600μmであってもよい。二次粒子を解砕する方法としては、特に限定されないが、例えば混合粉砕機、気流粉砕機、凍結粉砕機等の粉砕機を用いる方法が挙げられる。
【0092】
フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤は、原料組成物中に含まれるフッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤の含有量が、それぞれ、本発明のフッ素樹脂フィルムを形成できるよう、所望の割合となるように配合する。
【0093】
乾式混合におけるフッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末との攪拌速度は、特に限定されないが、例えば1000rpm~6000rpmであってもよく、2000rpm~5000rpmであってもよい。乾式混合におけるフッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤との攪拌時間は、特に限定されないが、例えば1~15分間であってもよく、2~10分間であってもよい。
【0094】
また、フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤は湿式混合することもできる。例えば、上記のフッ素樹脂粒子ディスパージョンに無機フィラー粉末と紫外線吸収剤を混合して分散させることができる。
【0095】
〈成形工程〉
成形工程は、混合工程で得られた混合物を押し固めて成形する工程である。例えば、混合物を円筒形に成形して成形体を形成する。成形体を形成する方法としては、例えば、混合物を金型に充填し、圧縮成形して円筒形の圧縮成形体を形成する方法が挙げられる。圧縮成形の際の面圧は、10MPa~100MPaであってもよく、20MPa~60MPaであってもよく、30MPa~50MPaであってもよい。混合物を圧縮成形することでフッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤とが均一に分散した圧縮成形体が得られる。
【0096】
〈加熱工程〉
加熱工程は、成形工程後の混合物を加熱して、フッ素樹脂粉末を溶融させる工程である。具体的には、成形工程で得られた圧縮成形体を焼成し、ビレットを得る。焼成温度は100℃~400℃であってもよく、350℃~370℃であってもよく、360℃~370℃であってもよい。得られるビレットは、混合物の焼成物が集積してなる成形体として得られる。成形体を焼成することにより、成形体中の個々のフッ素樹脂粒子は溶融して一体となったマトリックス中に無機フィラー粒子と紫外線吸収剤が均一に分散した状態になる。フッ素樹脂粉末と無機フィラー粉末と紫外線吸収剤とを混合した原料組成物の圧縮成形体を焼成することで、無機フィラー粉末と紫外線吸収剤の凝集体が生成するのを抑制でき、粗大粒子の少ない、良好なビレットが得られる。
【0097】
〈冷却工程〉
冷却工程は、加熱工程後の混合物を冷却してフッ素樹脂を結晶化させる工程である。冷却工程によりビレットを焼成温度から室温まで冷却させることができ、また、フッ素樹脂を結晶化させることができる。例えば、ビレットを焼成炉内に静置しておくことで370℃から室温まで冷却することができる。
【0098】
後述するスカイブ加工工程の実施し易さの点から、ビレット(成形体)の形状は、好ましくは円筒状である。ビレット(成形体)が円筒体である場合、当該円筒体の直径は、例えば100mm~500mmであってもよく、150mm~500mmであってもよい。
【0099】
〈スカイブ加工工程〉
スカイブ加工工程は、冷却工程後の混合物をスカイブ加工してフッ素樹脂フィルムを形成する工程である。具体的には、焼成した成形体であるビレットの表面を切削してシート状に加工する。例えば、ビレット(成形体)が円筒体である場合、大根をかつら剥きするかのように、焼成した円筒体の長手方向外周表面に切削刃を当てて切削して、シート状のフッ素樹脂フィルムを得る。
【0100】
〈プラズマ処理工程〉
プラズマ処理工程は、スカイブ加工工程後、フッ素樹脂フィルムの表面をプラズマ処理して、フッ素原子を反応性官能基に置換して表面改質層を形成する工程である。プラズマ処理は、フッ素樹脂フィルムの片面のみに行ってもよく、表面と裏面の両面に行ってもよい。
【0101】
プラズマ処理に用いるガス種としては、例えば窒素ガス、水素ガスが挙げられる。また、これら以外のガス種として、例えば酸素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、水蒸気、ヘリウムガス、アンモニアガス等を用いてもよい。これらのガスは、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0102】
プラズマ処理におけるガス圧の好適な範囲は、使用するガス種によって異なるが、例えば、窒素ガスと水素ガスの混合ガスを用いる場合、ガス圧は1Pa~1000Paであることが好ましい。
【0103】
プラズマ処理は、フッ素樹脂フィルムを設置した真空装置内を所定の圧力になるまで真空引きした後、例えば、プラズマ処理用のガスを真空装置内に導入し、適切なガス圧で直流放電プラズマを発生させることにより行うことができる。
【0104】
本発明のフッ素樹脂フィルムの製造方法は、上記の各工程のみからなる方法であってもよく、上記の各工程に加えて更に所定の工程を含んでも良い。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0106】
以下の手順によりフッ素樹脂フィルムを作成し、作製したフッ素樹脂フィルムの比誘電率Dk、誘電正接DfおよびUV吸収率を測定し、また、UV-YAGレーザーによる穴あけ加工性を評価した。また、混合工程で得た原料組成物の熱膨張係数CTEを測定した。
【0107】
[実施例1]
〈フッ素樹脂フィルムの製造〉
以下の工程により、実施例1のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0108】
(混合工程)
PTFE粉末(粒度分布測定装置で測定した平均粒子径:400μm)、無機フィラーとしての球状シリカ(SEM観察による数平均粒子径3μm)、および紫外線吸収剤であるUV添加剤としての液晶ポリマー(LCP)(ENEOS液晶社製LF-31P 数平均粒子径7μm)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=59.5:40:0.5の割合で混合し、回転羽根つき撹拌機を用いて回転速度3000rpmで5分間混合して、PTFE粉末、球状シリカおよび液晶ポリマー(LCP)を含有する混合物である原料組成物を得た。
【0109】
(成形工程、加熱工程、冷却工程)
600gの原料組成物を円筒形状金型に充填して、上部からプレス圧力30MPaで3分間圧縮成形し、円筒状の予備成形体(外径67mm×内径33mm)を得た。得られた予備成形体を焼成炉に投入して365℃で6時間焼成し、その後、ビレットを焼成炉内に静置しておくことで370℃から室温まで冷却してビレットを得た。
【0110】
(スカイブ加工工程)
得られたビレット(外径67mm×内径33mm)を、スカイブ加工装置を用いて切削速度8m/min、狙い厚さ50μmでスカイブ加工し、フッ素樹脂フィルムとなる50μm厚のフッ素樹脂シートを製造した。
【0111】
(プラズマ処理工程)
フッ素樹脂シートを100mm×100mmのサイズに切り出し、下記の手順でプラズマ処理を行った。まず、真空プラズマ装置にフッ素樹脂シートを設置し、真空装置内を真空引きした後、窒素ガスおよび水素ガスの混合ガスを導入し、装置内におけるガス圧力を5Paとした混合ガス雰囲気下で、2.45GHzのマイクロ波を用いて10秒間プラズマ処理を行い、フッ素樹脂シートの表面と裏面との両面にプラズマ処理を行って表面改質層を形成した。
【0112】
[実施例2]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=59:40:1の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例2のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0113】
[実施例3]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=57:40:3の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例3のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0114】
[実施例4]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=55:40:5の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例4のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0115】
[比較例1]
液晶ポリマー(LCP)は使用せず、PTFE粉末、および球状シリカを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ=60:40の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、比較例1のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0116】
[実施例5]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=49.5:50:0.5の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例5のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0117】
[実施例6]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=49:50:1の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例6のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0118】
[実施例7]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=45:50:5の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例7のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0119】
[実施例8]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=40:50:10の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例8のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0120】
[比較例2]
液晶ポリマー(LCP)は使用せず、PTFE粉末、および球状シリカを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ=50:50の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、比較例2のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0121】
[比較例3]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=49.9:50:0.1の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、比較例3のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0122】
[実施例9]
UV添加剤としての液晶ポリマー(LCP)に変えてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ポリプラ・エボニック, VESTAKEEP(登録商標) 2000 UFP10)を使用し、PTFE粉末、球状シリカ、およびPEEKを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:PEEK=49:50:1の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例9のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0123】
[比較例4]
PTFE粉末、球状シリカ、およびPEEKを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:PEEK=49.5:50:0.5の割合で混合する点を変更した他は、実施例9と同様にして、比較例4のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0124】
[比較例5]
PTFE粉末、球状シリカ、およびPEEKを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:PEEK=45:50:5の割合で混合する点を変更した他は、実施例9と同様にして、比較例5のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0125】
[比較例6]
PTFE粉末、球状シリカ、およびPEEKを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:PEEK=40:50:10の割合で混合する点を変更した他は、実施例9と同様にして、比較例6のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0126】
[実施例10]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=39.5:60:0.5の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例10のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0127】
[実施例11]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=39:60:1の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例11のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0128】
[実施例12]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=37:60:3の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例12のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0129】
[実施例13]
PTFE粉末、球状シリカ、および液晶ポリマー(LCP)を、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:LCP=35:60:5の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、実施例13のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0130】
[比較例7]
UV添加剤としての液晶ポリマー(LCP)に変えてポリイミド(PI)(ダイセル・エボニック社製P84NT)を使用し、PTFE粉末、球状シリカ、およびPIを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ:PI=49:50:1の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、比較例7のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0131】
[比較例8]
液晶ポリマー(LCP)は使用せず、PTFE粉末、および球状シリカを、体積比でPTFE粉末:球状シリカ=40:60の割合で混合する点を変更した他は、実施例1と同様にして、比較例8のフッ素樹脂フィルムを製造した。
【0132】
[フッ素樹脂フィルムの評価]
〈比誘電率Dk、誘電正接Dfの測定〉
フッ素樹脂フィルムより長さ30mm、幅20mmの矩形状の試験片を切り出し、以下の条件の試験機を使用して、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、測定周波数が20GHzにおける比誘電率Dkおよび誘電正接Dfを測定した。また、UV添加剤のDfも測定した。
【0133】
(試験機)
・ベクトルネットワークアナライザE8363C(アジレント・テクノロジー株式会社)
・誘電率測定ソフトウェア85071E(アジレント・テクノロジー株式会社)
・スプリットポスト共振器(QWED)
【0134】
〈熱膨張係数(CTE)の測定〉
混合工程で得た原料組成物を縦5mm×横5mmの金型に充填し、成形面圧(プレス 圧力)30MPaで1分間圧縮成形し、一辺5mmの立方体形状の成形体を得た。この成形体を360度で6時間焼成し、得られた焼成体(熱膨張率測定用試験体)について、熱機械測定装置(TMA)(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、「Q 400」)を用いて熱膨張率を測定した。熱膨張率の測定は、追従荷重を0.05N、測定温度を室温から200℃までとし、昇温速度5℃/minで昇温して行った。熱膨張率は、室温から200℃まで行った測定における、50~150℃の範囲の熱膨張量から算出した。
【0135】
〈紫外線吸収率の測定〉
フッ素樹脂フィルムより長さ50mm、幅20mm、厚さ50μmの矩形状の試験片を切り出し、紫外可視分光光度計(日立ハイテクサイエンス UH-4150)により波長が355nmにおける紫外線の透過率および反射率を測定した。フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は、以下の式(1)により算出した。
【0136】
UV吸収率(%)=100-UV反射率(%)-UV透過率(%)(1)
【0137】
〈UV-YAGレーザーによる穴あけ加工〉
フッ素樹脂フィルムに対し、レーザー加工機(esi5335)を使用して、直径50μmの円周上を周回するように、波長355nmのUV-YAGレーザーを照射し、フッ素樹脂フィルムに円形の貫通孔を形成する処理をした。UV-YAGレーザーの照射条件は、レーザー出力を2.0W、レーザー焦点径を15μm、発振周波数は40kHzとした。穴あけ数は200個とした。その後、光学顕微鏡でレーザー照射面を観察し、フッ素樹脂フィルムに貫通孔が形成されたか、貫通孔の有無を確認した。レーザーを照射した200箇所の全てに貫通孔が形成された場合を〇、1箇所でも貫通孔が形成されなかった場合を×、と判定した。
【0138】
[合否判定]
(1)フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率が20%以上、(2)周波数20GHzにおける比誘電率Dkが3.0以下、(3)周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.0010以下、(4)熱膨張係数(CTE)が80ppm/K以下、および(5)UV-YAGレーザーによる穴あけ加工において〇判定であった場合を〇、(1)~(5)のいずれか1つでも条件を満たさない場合を×と判定した。結果を表1に示す。
【0139】
【0140】
表1より、UV加工性を満たすためにはUV添加剤を一定量含める必要のある結果となった。また、UV添加剤としてPIや5体積%以上のPEEKを使用するとDfの値が大きくなり0.0010を超える結果となった。
【0141】
なお、実施例6のフッ素樹脂フィルムについては、断面を機械研磨し走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ、SU3500)により、拡大電子画像を撮影した。
図2A、2B、3A、3Bに拡大電子画像を示す。
図2AはLCP400を囲っていない図であり、
図2BはLCP400を囲ってLCP400がどこに存在するかを明確にした図である。また、
図3Aは
図2Aよりも拡大倍率を上げたLCP400を囲っていない図であり、
図3Bは
図2Bよりも拡大倍率を上げたLCP400を囲ってLCP400がどこに存在するかを明確にした図である。
【0142】
図2A、2B、3A、3Bより、フッ素樹脂フィルム中において、球状シリカ300が分散しており、また、LCP400はフッ素樹脂に溶融せずに粒子径が1~6μmの大きさの粒子として分散している状態であることが確認できる。
【0143】
[まとめ]
以上より、本発明であれば、高周波での通信時に伝送損失が少なく、かつUV-YAGレーザーでの穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板を提供できることは明らかであり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0144】
11 表面
12 裏面
100 フッ素樹脂フィルム
200 保護フィルム層
300 球状シリカ
400 LCP
【要約】
高周波での通信時に伝送損失が少なく、かつUV-YAGレーザーでの穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルムの製造方法、フレキシブル銅張積層板用シート状貼付けフィルム、フレキシブル銅張積層板および回路基板を提供する。
フッ素樹脂と、前記フッ素樹脂中に分散した無機フィラーと、前記フッ素樹脂中に分散した紫外線吸収剤と、を含むフッ素樹脂フィルムであって、前記無機フィラーの含有量が35体積%~70体積%であり、前記紫外線吸収剤の周波数20GHzにおける誘電正接Dfが0.004以下であり、前記フッ素樹脂フィルムの紫外線吸収率は、20%以上であり、UV-YAGレーザーによる355nmの波長の照射により穴あけ加工が可能なフッ素樹脂フィルム。