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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ビニル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/23 20060101AFI20240911BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240911BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C07C17/23
C07C21/18
C07B61/00 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019128074
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021014410
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 新吾
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-201877(JP,A)
【文献】特表2017-515789(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178352(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1080277(CN,A)
【文献】特開平02-167238(JP,A)
【文献】特表2013-534529(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101402548(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/
C07C 21/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物の製造方法であって、
ニッケルを含む触媒の存在下に、
アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物と、水素とを気相連続流通式で反応させて前記ビニル化合物を得る工程を備え、
前記ニッケルを含む触媒は、ニッケル金属、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、配位子を配位させた均一系ニッケル触媒、及びラネーニッケルよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記ハロゲン化ビニル化合物が、一般式(2):
【化1】
[式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化ビニル化合物である、製造方法。
【請求項2】
前記ビニル化合物が、一般式(1):
【化2】
[式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるビニル化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR1、R2及びR3が、フッ素原子又はフルオロアルキル基である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(2)におけるXが、フッ素原子以外のハロゲン原子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応において、前記ハロゲン化ビニル化合物の前記ニッケルを含む触媒(担体に担持させる場合は担体及びニッケルを含む触媒の総量)に対する接触時間(W/F)が4~200g・sec/ccである、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応における反応温度が200~600℃である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
反応場において、前記水素とハロゲン化ビニル化合物の存在比が、前記ハロゲン化ビニル化合物1モルに対して前記水素が0.5~1.5モルである、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
原料ガス中の不活性ガスの含有量が0~1容積%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ビニル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物は、トリフルオロエチレンに代表され、クリーニングガス、エッチングガス、冷媒、有機合成用ビルディングブロック等の各種用途に有望視されている。
【0003】
このビニル化合物の製造方法としては、例えば、アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物を窒素で希釈した混合ガスを出発物質として、パラジウム触媒の存在下に水素と反応させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-534529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、ハロゲン化ビニル化合物を希釈せずとも、アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物を高転化率及び高選択率で得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0007】
項1.アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物の製造方法であって、
ニッケルを含む触媒の存在下に、
アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物と、水素を含有する化合物とを反応させて前記ビニル化合物を得る工程
を備える、製造方法。
【0008】
項2.前記ビニル化合物が、一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
[式中、R1、R2及びR3同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるビニル化合物である、項1に記載の製造方法。
【0011】
項3.前記一般式(1)におけるR1、R2及びR3が、フッ素原子又はフルオロアルキル基である、項2に記載の製造方法。
【0012】
項4.前記ハロゲン化ビニル化合物が、一般式(2):
【0013】
【化2】
【0014】
[式中、R1、R2及びR3同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化ビニル化合物である、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
項5.前記一般式(2)におけるXが、フッ素原子以外のハロゲン原子である、項4に記載の製造方法。
【0016】
項6.前記反応において、前記ハロゲン化ビニル化合物の前記ニッケルを含む触媒(担体に担持させる場合は担体及びニッケルを含む触媒の総量)に対する接触時間(W/F)が4~200g・sec/ccである、項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【0017】
項7.前記反応における反応温度が200~600℃である、項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【0018】
項8.反応場において、前記水素を含有する化合物とハロゲン化ビニル化合物の存在比が、前記ハロゲン化ビニル化合物1モルに対して、前記水素を含有する化合物が0.5~1.5モルである、項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【0019】
項9.原料ガス中の不活性ガスの含有量が0~1容積%である、項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【0020】
項10.一般式(1):
【0021】
【化3】
【0022】
[式中、R1、R2及びR3同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるビニル化合物と、
一般式(3):
【0023】
【化4】
【0024】
[式中、R1及びR2は前記に同じである。]
で表されるビニル化合物とを含有し、
組成物総量を100モル%として、前記一般式(1)で表されるビニル化合物の含有量が90.0~97.0モル%である、組成物。
【0025】
項11.クリーニングガス、エッチングガス、冷媒、又は有機合成用ビルディングブロックとして用いられる、項10に記載の組成物。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、ハロゲン化ビニル化合物を希釈せずとも、アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物を高転化率及び高選択率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0028】
本開示において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガスにおける原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する、当該流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0029】
本開示において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0030】
本開示において、「収率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0031】
1.ビニル化合物の製造方法
本開示のビニル化合物の製造方法は、アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物の製造方法であって、ニッケルを含む触媒の存在下に、アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物と、水素を含有する化合物とを反応させて前記ビニル化合物を得る工程を備える。
【0032】
従来は、特許文献1に示されているように、アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物を窒素で希釈した混合ガスを出発物質として、パラジウム触媒の存在下に水素と反応させていた。この方法によれば、転化率は最大で91%とされているが、原料化合物の希釈が必要であるため、収量の向上が必要な場合には弊害となっていた。また、選択率も必ずしも高いとは言えなかった。また、触媒であるパラジウム触媒は触媒寿命が短く長時間の反応には不向きであるとともに、高価でありコストが増大する傾向があった。
【0033】
本開示によれば、上記のように、ニッケルを含む触媒の存在下に、アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物と、水素を含有する化合物とを反応させることで、原料化合物を希釈せずとも、アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物を高転化率及び高選択率で得ることができる。また、使用するニッケル触媒は触媒寿命が長く、長時間の反応にも耐えることができる。
【0034】
(1-1)ハロゲン化ビニル化合物
本開示の製造方法において使用できる基質としてのハロゲン化ビニル化合物は、アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物であるが、一般式(2):
【0035】
【化5】
【0036】
[式中、R1、R2及びR3同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化ビニル化合物が好ましい。
【0037】
一般式(2)において、R1、R2及びR3で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~10、特に1~6のアルキル基が挙げられる。このアルキル基は、後述のハロゲン原子等の置換基を1~6個、特に1~3個有することもできる。
【0038】
一般式(2)において、R1、R2及びR3で示されるフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタクルオロエチル基等の炭素数1~10、特に1~6のフルオロアルキル基(特にパーフルオロアルキル基)が挙げられる。
【0039】
なかでも、R1、R2及びR3としては、反応の転化率、目的物の選択率、触媒寿命等の観点から、フッ素原子又はフルオロアルキル基が好ましく、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基がより好ましい。
【0040】
一般式(2)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。なかでも、反応の転化率、目的物の収率及び選択率、触媒寿命等の観点から、フッ素原子以外のハロゲン原子(塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0041】
原料化合物であるハロゲン化ビニル化合物としては、目的物であるビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができ、触媒寿命にも特に優れる観点においてR1、R2及びR3はいずれもフッ素原子であることが好ましく、Xは塩素原子であることが好ましい。
【0042】
上記したR1、R2、R3及びXは、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
上記のような条件を満たす原料化合物としてのハロゲン化ビニル化合物としては、具体的には、
【0044】
【化6】
【0045】
等が挙げられる。これらのハロゲン化ビニル化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このようなハロゲン化ビニル化合物は、公知又は市販品を採用することができる。
【0046】
なお、本開示の方法においては、反応を後述の気相流通連続式で行う場合、供給する原料ガス中には、上記した原料化合物であるハロゲン化ビニル化合物以外に窒素、アルゴン等の不活性ガスが含まれていてもよいが、本開示の方法は上記した原料化合物であるハロゲン化ビニル化合物を希釈せずとも、水素含有気体と反応させてビニル化合物を得ることができることから、原料ガスの総量を100容量%として、不活性ガスの存在量は0~1容量%が好ましく、原料ガスは上記したハロゲン化ビニル化合物のみからなることが最も好ましい。
【0047】
(1-2)水素を含有する化合物
水素を含有する化合物としては、水素の他、水素と他の元素との化合物(例えば酸素と水素との化合物である酸水素等)も包含する。ただし、本開示の反応は、ハロゲン化ビニル化合物のハロゲン原子を水素原子に置換する反応であることから、水素を含有する化合物としてハロゲン化水素(フッ化水素、塩化水素)等は含まない又はごく微量(水素を含有化合物総量に対して例えば5体積%以下)であることが好ましい。なお、反応の転化率、収率及び選択率の観点からは、水素ガスを用いることが好ましい。これらの水素を含有する化合物は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0048】
水素を含有する化合物は、通常、水素を含有する気体を使用し、ハロゲン化ビニル化合物(原料化合物)とともに、気相状態で反応器に供給することが好ましい。水素を含有する化合物の存在量は、反応場において、ハロゲン化ビニル化合物(原料化合物)1モルに対して、0.5~1.5モルが好ましく、0.6~1.4モルがより好ましく、0.7~1.3モルがさらに好ましい。なお、反応を後述の気相流通連続式で行う場合は、水素を含有する化合物の供給量は、ハロゲン化ビニル化合物(原料化合物)の供給量1モルに対して、0.5~1.5モルが好ましく、0.6~1.4モルがより好ましく、0.7~1.3モルがさらに好ましい。この範囲とすることにより、水素を含有する化合物による反応をより良好に進行させ、不純物の生成をより低減することができ、生成物のビニル化合物の選択率が高く、高収率で回収することができる。
【0049】
(1-3)反応
本開示における一般式(2)で表されるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させる工程では、例えば、原料化合物として、一般式(2)で表されるハロゲン化ビニル化合物では、R1、R2及びR3はいずれもフッ素原子が好ましく、Xは塩素原子が好ましい。
【0050】
つまり、以下の反応式:
【0051】
【化7】
【0052】
に従い、一工程でビニル化合物を得ることが好ましい。
【0053】
(1-4)触媒
本開示における一般式(2)で表されるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させる工程は、ニッケルを含む触媒の存在下に、アルケニル基が有するSP2炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物を反応させるものである。
【0054】
ニッケルを含む触媒としては、特に制限されるわけではないが、例えば、ニッケル金属、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、配位子を配位させた均一系ニッケル触媒、ラネーニッケル等が挙げられる。これらのニッケルを含む触媒は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0055】
ニッケルを含む触媒の比表面積は、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、500~2000m2/gが好ましく、800~1500m2/gがより好ましい。本開示において、ニッケルを含む触媒の比表面積はBET法で測定する。ニッケルを含む触媒の比表面積がこのような範囲にある場合、ニッケルを含む触媒の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率をより向上させることも可能である。なお、ニッケルを含む触媒を、後述のように担体に担持させる場合、担体に担持させたニッケルを含む触媒の比表面積も、上記範囲が好ましい。
【0056】
このようなニッケルを含む触媒は、ハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させてビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で得ることができるものであるが、触媒寿命も長く、長時間又は繰り返しの反応にも耐えることができる。
【0057】
上記したニッケルを含む触媒は、公知又は市販品を使用することもでき、CHEMISTRY LETTERS(1 990) P879-880等を参考に合成することもできる。
【0058】
なお、本開示において、気相で反応を行う場合、触媒の存在下に、上記した原料化合物と水素を含有する化合物とを接触させるが、その場合、反応性の観点から、触媒は固体の状態(固相)で原料化合物と接触させることが好ましい。
【0059】
本開示において、例えば気相連続流通式の反応を行う場合は、反応性の観点から、ニッケルを含む触媒は粉末状でもよいが、ペレット状が好ましい。また、上記したニッケルを含む触媒は、そのまま使用することもできるが、担体上に担持させて用いることができる。これにより、触媒の比表面積を上昇させて反応効率を向上させ、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる。担持させる担体は特に制限はなく、例えば、炭素、アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニア、シリカアルミナ、酸化クロム等が挙げられる。炭素としては、活性炭、不定形炭素、グラファイト、ダイヤモンド等が挙げられる。これらの担体は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、比表面積が大きくニッケルを担持しやすいという観点から、炭素及びシリカが好ましく、炭素がより好ましく、活性炭がさらに好ましい。
【0060】
ニッケルを含む触媒を担体に担持させる場合、その担持量は特に制限はないが、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、ニッケルを含む触媒及び担体の総量を100質量%として、ニッケルを含む触媒を0.1~75質量%含むことが好ましく、1~60質量%がより好ましい。
【0061】
担体に担持させたニッケルを含む触媒の嵩密度は、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、0.01~10g/mLが好ましく、0.1~5g/mLがより好ましい。本開示において、担体に担持させたニッケルを含む触媒の嵩密度は嵩密度測定器により測定する。担体に担持させたニッケルを含む触媒の嵩密度がこのような範囲にある場合、担体に担持させたニッケルを含む触媒の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率をより向上させることも可能である。
【0062】
担体に担持させたニッケルを含む触媒の細孔容積は、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、0.1~1.5mL/gが好ましく、0.25~1.0mL/gがより好ましい。本開示において、担体に担持させたニッケルを含む触媒の細孔容積はBET法により測定する。担体に担持させたニッケルを含む触媒の細孔容積がこのような範囲にある場合、担体に担持させたニッケルを含む触媒の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率をより向上させることも可能である。
【0063】
担体に担持させたニッケルを含む触媒の平均細孔径は、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、5~20μmが好ましく、8~15μmがより好ましい。本開示において、担体に担持させたニッケルを含む触媒の平均細孔径はBET法により測定する。
【0064】
上記したニッケルを含む触媒が担体に担持されている場合、その担持方法は特に制限はなく、例えば、ニッケル化合物(酸化ニッケル、硝酸ニッケル、配位子を配位させた均一系ニッケル触媒、ラネーニッケル等)を含む水溶液に上記した担体を添加し、加熱して水を除去することで担持することができる。各種条件は常法にしたがうことができる。
【0065】
(1-5)反応温度
本開示におけるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させてビニル化合物を得る工程では、反応温度は、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、通常200~600℃が好ましく、250~500℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましい。なお、転化率、収率及び選択率の観点からは、後述の反応時間が短い場合(例えばW/Fが4g・sec./cc以上5g・sec./cc未満の場合)は、反応温度は高め(例えば400~600℃)に設定することが好ましい。また、後述の反応時間が長い場合(例えばW/Fが5 g・sec./cc以上の場合)は、反応温度は低め(例えば200~400℃)であってもかまわない。
【0066】
(1-6)反応時間
本開示において、気相で反応を行う場合、反応時間は、例えば気相流通式を採用する場合には、原料化合物(ハロゲン化ビニル化合物)の触媒(ニッケルを含む触媒;担体に担持させる場合は担体及びニッケルを含む触媒の総量)に対する接触時間(W/F)[W:触媒(ニッケルを含む触媒;担体に担持させる場合は担体及びニッケルを含む触媒の総量)の重量(g)、F:原料化合物(ハロゲン化ビニル化合物)の流量(cc/sec)]は、長くするほど転化率が大きくなり、短くするほどビニル化合物の選択率が大きくなることから、反応の転化率が特に高く、ビニル化合物をより高収率及び高選択率に得ることができる観点で、4~200g・sec./ccが好ましく、4.5~100g・sec./ccがより好ましく、5~50g・sec./ccがさらに好ましい。なお、上記接触時間とは、原料化合物及び触媒が接触する時間を意味する。
【0067】
上記の接触時間は、気相、特に気相連続流通式で反応を進行する場合の条件を示しているが、バッチ式で反応を進行する場合も適宜調整することができる。
【0068】
(1-7)反応圧力
本開示におけるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させてビニル化合物を得る際の反応圧力は、ビニル化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、-0.05~2MPaが好ましく、-0.01~1MPaがより好ましく、常圧~0.5MPaがさらに好ましい。なお、本開示において、圧力については特に表記が無い場合はゲージ圧とする。
【0069】
本開示における反応において、ニッケルを含む触媒の存在下に原料化合物(ハロゲン化ビニル化合物)と水素を含有する化合物とを反応させる反応器としては、上記温度及び圧力に耐え得るものであれば、形状及び構造は特に限定されない。反応器としては、例えば、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等が挙げられる。反応器の材質としては、例えば、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等が挙げられる。
【0070】
(1-8)反応の例示
本開示におけるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させてビニル化合物を得る工程は、反応器に原料化合物(ハロゲン化ビニル化合物)と水素を含有する化合物とを連続的に仕込み、当該反応器から目的化合物(ビニル化合物)を連続的に抜き出す気相連続流通式及びバッチ式のいずれの方式によっても実施することができる。目的化合物が反応器に留まると、さらに水素付加反応が進行し得ることから、気相連続流通式で実施することが好ましい。本開示におけるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させてビニル化合物を得る工程では、気相で行い、特に固定床反応器を用いた気相連続流通式で行うことが好ましい。気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できるとともに、経済的に有利である。
【0071】
本開示におけるハロゲン化ビニル化合物と水素を含有する化合物とを反応させてビニル化合物を得る工程を行う際の雰囲気については、反応の効率の観点から、不活性ガス雰囲気下、水素ガス雰囲気下等が好ましい。当該不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらの不活性ガスのなかでも、コストを抑える観点から、窒素が好ましい。
【0072】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、一般式(1)で表されるビニル化合物を得ることができる。
【0073】
(1-9)目的化合物
このようにして得られる本開示の目的化合物は、アルケニル基が有するSP2炭素原子に水素原子が結合したビニル化合物であり、一般式(1):
【0074】
【化8】
【0075】
[式中、R1、R2及びR3同一又は異なって、フッ素原子、アルキル基又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるビニル化合物が好ましい。
【0076】
一般式(1)におけるR1、R2及びR3は、上記した一般式(2)におけるR1、R2及びR3と同じである。このため、製造しようとする一般式(1)で表されるビニル化合物は、例えば、具体的には、
【0077】
【化9】
【0078】
等が挙げられる。
【0079】
このようにして得られたビニル化合物は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス、クリーニングガス、有機合成用ビルディングブロック等の各種用途に有効利用できる。有機合成用ビルディングブロックについては後述する。
【0080】
2.組成物
以上のようにして、ビニル化合物を得ることができるが、一般式(1)で表されるビニル化合物を含む組成物の形で得られることもある。
【0081】
例えば、この組成物は、一般式(3):
【0082】
【化10】
【0083】
[式中、R1及びR2は前記に同じである。]
で表されるビニル化合物や、一般式(4):
【0084】
【化11】
【0085】
[式中、R1は前記に同じである。]
で表されるビニル化合物等を含むこともある。
【0086】
この場合、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(1)で表されるフッ化ビニル化合物の含有量は90.0~97.2モル%が好ましく、90.5~97.1モル%がより好ましい。また、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(3)で表されるビニル化合物の含有量は1.0~5.0モル%が好ましく、1.4~4.0モル%がより好ましい。また、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(4)で表されるビニル化合物の含有量は0.1~2.5モル%が好ましく、0.2~2.2モル%がより好ましい。
【0087】
なお、本開示の製造方法によれば、上記した組成物として得られた場合であっても、一般式(1)で表されるビニル化合物を、反応の転化率を高く、また、高収率且つ高選択率で得ることができるため、組成物中の一般式(1)で表されるビニル化合物以外の成分を少なくすることが可能であるため、一般式(1)で表されるビニル化合物を得るための精製の労力を削減することができる。
【0088】
このような本開示の組成物は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガスの他、有機合成用ビルディングブロック、クリーニングガス等の各種用途に有効利用できる。なお、有機合成用ビルディングブロックとは、反応性が高い骨格を有する化合物の前駆体となり得る物質を意味する。例えば、本開示の組成物とCF3Si(CH3)3等の含フッ素有機ケイ素化合物とを反応させると、CF3基等のフルオロアルキル基を導入して洗浄剤や含フッ素医薬中間体となり得る物質に変換することが可能である。
【0089】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例
【0090】
以下に実施例を示し、本開示の特徴を明確にする。本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0091】
合成例1:Ni-AC
硝酸ニッケル5gを純水25gに溶解させ、そこに活性炭(比表面積1200m2/g)を、炭素及び硝酸ニッケルの総量に対する硝酸ニッケル量が20質量%となるように添加し、その後、減圧下80℃で1時間加熱して水を除去し、その後減圧状態で200℃で乾燥し、400℃で3時間焼成して活性炭にニッケルが担持した触媒を得た。
【0092】
合成例2:Ni-SiO 2
硝酸ニッケル5gを純水25gに溶解させ、そこにシリカ(比表面積800m2/g)を、シリカ及び硝酸ニッケルの総量に対する硝酸ニッケル量が20質量%となるように添加し、その後、減圧下80℃で1時間加熱して水を除去し、その後減圧状態で200℃で乾燥し、400℃で3時間焼成して、シリカにニッケルが担持した触媒を得た。
【0093】
実施例1~9
実施例1~9のビニル化合物の製造方法では、原料化合物は、一般式(2)で表されるハロゲン化ビニル化合物において、R1、R2及びR3はフッ素原子、Xは塩素原子とし、以下の反応式:
【0094】
【化12】
【0095】
に従って、ビニル化合物を得た。
【0096】
反応管であるSUS配管(外径:1/2インチ)に、合成例1又は2で得た触媒を10g加えた。窒素雰囲気下、200℃で2時間乾燥した後、圧力を常圧とし、水素ガスの供給量をCF2=CFCl(原料化合物)1モルに対して1モルとし、CF2=CFCl(原料化合物)と触媒との接触時間(W/F)が3g・sec/cc、5g・sec/cc又は10g・sec/ccとなるように、反応管にCF2=CFCl(原料化合物)及び水素ガスを流通させた。
【0097】
反応は、気相連続流通式で進行させた。
【0098】
反応管を300℃又は400℃で加熱して反応を開始した。
【0099】
反応を開始してから1時間後に、除害塔を通った留出分を集めた。
【0100】
その後、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、商品名「GC-2014」)を用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、NMR(JEOL社製、商品名「400YH」)を用いてNMRスペクトルによる構造解析を行った。
【0101】
質量分析及び構造解析の結果から、目的化合物としてCF2=CFHが生成したことが確認された。触媒、温度及び接触温度の各条件と結果を表1に示す。
【0102】
【表1】