(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】旋盤
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4061 20060101AFI20240911BHJP
【FI】
G05B19/4061 M
(21)【出願番号】P 2020071766
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】竹下 晶英
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-210585(JP,A)
【文献】特開平06-119025(JP,A)
【文献】特開平02-041842(JP,A)
【文献】特開平02-028703(JP,A)
【文献】特開昭64-032310(JP,A)
【文献】特開2006-102922(JP,A)
【文献】国際公開第99/040493(WO,A1)
【文献】特開2007-249671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4061
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持する主軸を設けた主軸台と、
前記主軸に把持された前記ワークを加工する工具を取り付け可能な刃物台部と、
前記ワークから前記工具までの距離が変わる駆動軸方向において前記主軸台と前記刃物台部の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部と、
前記駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報を記憶した記憶部と、
前記駆動軸方向における前記駆動対象の現在位置と、前記進入禁止領域情報と、に基づいて、前記駆動軸方向において前記駆動対象が前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する距離表示部と、
前記駆動軸方向における前記工具の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部と、を備え
、
前記工具位置情報表示部は、前記主軸が前記ワークを把持している状態において、前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示する、旋盤。
【請求項2】
ワークを把持する主軸を設けた主軸台と、
前記主軸に把持された前記ワークを加工する工具を取り付け可能な刃物台部と、
前記ワークから前記工具までの距離が変わる駆動軸方向において前記主軸台と前記刃物台部の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部と、
前記駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報を記憶した記憶部と、
前記駆動軸方向における前記駆動対象の現在位置と、前記進入禁止領域情報と、に基づいて、前記駆動軸方向において前記駆動対象が前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する距離表示部と、
前記駆動軸方向における前記工具の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部と、を備え、
前記工具位置情報表示部は、前記主軸が前記ワークを把持していない状態において、前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示する、旋盤。
【請求項3】
ワークを把持する主軸を設けた主軸台と、
前記主軸に把持された前記ワークを加工する工具を取り付け可能な刃物台部と、
前記ワークから前記工具までの距離が変わる駆動軸方向において前記主軸台と前記刃物台部の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部と、
前記駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報を記憶した記憶部と、
前記駆動軸方向における前記駆動対象の現在位置と、前記進入禁止領域情報と、に基づいて、前記駆動軸方向において前記駆動対象が前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する距離表示部と、
前記主軸に前記ワークを把持させる把持モードと、前記主軸に前記ワークを把持させない非把持モードと、のいずれか一方のモードを受け付けるモード受付部と、
前記駆動軸方向における前記工具の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部と、を備え、
前記工具位置情報表示部は、
前記モードが前記把持モードである場合、前記主軸が前記ワークを把持している状態において、前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示し、
前記モードが前記非把持モードである場合、前記主軸が前記ワークを把持していない状態において、前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示する、旋盤。
【請求項4】
前記刃物台部は、前記駆動軸方向と交差する仮想平面において異なる位置に前記工具を複数取り付け可能であり、
前記旋盤は、前記刃物台部に取り付けられる前記複数の工具の中から前記ワークを加工する工具を切り替える切り替え駆動部をさらに備える、請求項1
~請求項3のいずれか一項に記載の旋盤。
【請求項5】
前記刃物台部に取り付けられる前記複数の工具の中から突出長さを調整する対象工具の選択を受け付ける対象工具受付部をさらに備え、
前記距離表示部は、前記対象工具が前記駆動軸方向において前記ワークに対向する状態において、前記現在位置と前記進入禁止領域情報とに基づいて前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する、
請求項4に記載の旋盤。
【請求項6】
前記工具位置情報表示部は、前記駆動軸方向において前記ワークの端面を加工する加工長さの入力を受け付け、前記モードが前記把持モードである場合、前記取得された位置と前記加工長さとに基づいて前記工具位置情報を更新する、
請求項3に記載の旋盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸に把持されたワークを工具で加工する旋盤に関する。
【背景技術】
【0002】
NC(数値制御)旋盤は、ワークを把持する主軸を設けた主軸台、直接又は工具ホルダーを介して工具を取り付けた刃物台、及び、主軸台と刃物台の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部を備えている。また、駆動対象が他の構造物と干渉しないように、NC旋盤は、構造物に設定された進入禁止領域に駆動対象が入らないように駆動部を制御している。例えば、駆動対象が主軸台である場合、刃物台に設定された進入禁止領域に主軸が入らないように主軸台の移動が制御される。
【0003】
ワークの加工精度を向上させるためには、刃物台又は工具ホルダーからの工具の突出長さがなるべく短くなるように刃物台又は工具ホルダーに工具を取り付ける方が好ましい。しかし、工具の突出長さを短くするほど、主軸と刃物台とを近付ける必要があり、進入禁止領域により主軸と刃物台とを近付けることができなくなる可能性が高まる。特許文献1に開示された数値制御装置は、加工プログラムのシミュレーションを行い、工具又は工具ホルダーと他の構造物との干渉が発生した場合、工具又は工具ホルダーを変更して再び加工プログラムのシミュレーションを行うことを繰り返す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、加工プログラムのシミュレーションを繰り返すことは、時間がかかる煩わしい作業が必要である。
本発明は、シミュレーションを行わなくても工具の突出長さを容易に調整可能な旋盤を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の旋盤は、ワークを把持する主軸を設けた主軸台と、
前記主軸に把持された前記ワークを加工する工具を取り付け可能な刃物台部と、
前記ワークから前記工具までの距離が変わる駆動軸方向において前記主軸台と前記刃物台部の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部と、
前記駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報を記憶した記憶部と、
前記駆動軸方向における前記駆動対象の現在位置と、前記進入禁止領域情報と、に基づいて、前記駆動軸方向において前記駆動対象が前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する距離表示部と、
前記駆動軸方向における前記工具の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部と、を備え、
前記工具位置情報表示部は、前記主軸が前記ワークを把持している状態において、前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示する、態様を有する。
また、本発明の旋盤は、ワークを把持する主軸を設けた主軸台と、
前記主軸に把持された前記ワークを加工する工具を取り付け可能な刃物台部と、
前記ワークから前記工具までの距離が変わる駆動軸方向において前記主軸台と前記刃物台部の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部と、
前記駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報を記憶した記憶部と、
前記駆動軸方向における前記駆動対象の現在位置と、前記進入禁止領域情報と、に基づいて、前記駆動軸方向において前記駆動対象が前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する距離表示部と、
前記駆動軸方向における前記工具の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部と、を備え、
前記工具位置情報表示部は、前記主軸が前記ワークを把持していない状態において、前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示する、態様を有する。
さらに、本発明の旋盤は、ワークを把持する主軸を設けた主軸台と、
前記主軸に把持された前記ワークを加工する工具を取り付け可能な刃物台部と、
前記ワークから前記工具までの距離が変わる駆動軸方向において前記主軸台と前記刃物台部の少なくとも一方の駆動対象を移動させる駆動部と、
前記駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報を記憶した記憶部と、
前記駆動軸方向における前記駆動対象の現在位置と、前記進入禁止領域情報と、に基づいて、前記駆動軸方向において前記駆動対象が前記進入禁止領域に至る距離を算出して表示する距離表示部と、
前記主軸に前記ワークを把持させる把持モードと、前記主軸に前記ワークを把持させない非把持モードと、のいずれか一方のモードを受け付けるモード受付部と、
前記駆動軸方向における前記工具の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部と、を備え、
前記工具位置情報表示部は、
前記モードが前記把持モードである場合、前記主軸が前記ワークを把持している状態において、前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記ワークと前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示し、
前記モードが前記非把持モードである場合、前記主軸が前記ワークを把持していない状態において、前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得するための設定キーが操作されると前記駆動軸方向において前記主軸と前記工具とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報を更新して表示する、態様を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シミュレーションを行わなくても工具の突出長さを容易に調整可能な旋盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】旋盤の電気回路の構成例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】操作パネルの例を模式的に示す正面図である。
【
図4】進入禁止領域と各種パラメーターの例を模式的に示す平面図である。
【
図5】駆動対象の位置に応じた各種パラメーターの例を模式的に示す平面図である。
【
図6】旋盤で行われる工具取り付け補助処理の例を示すフローチャートである。
【
図7】把持モードである場合の工具選択画面の例を模式的に示す図である。
【
図8】非把持モードである場合の工具選択画面の例を模式的に示す図である。
【
図9】ハンドルキーを有する工具選択画面の例を模式的に示す図である。
【
図10】ハンドルモード画面の例を模式的に示す図である。
【
図11】形状補正Gを含む更新画面の例を模式的に示す図である。
【
図12】メイン刃物台を駆動対象とした変形例を模式的に示す平面図である。
【
図13】対象工具の仮止め作業を行った直後の旋盤の例を模式的に示す平面図である。
【
図14】対象工具の先端にワークの端面を接触させた例を模式的に示す平面図である。
【
図15】機械座標Pmが進入禁止位置Paになるまで背面主軸台が前進した例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0010】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1~15に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
【0011】
[態様1]
本技術の一態様に係る旋盤1は、主軸台10、刃物台部U1、駆動部U2、記憶部U3、及び、距離表示部U4を備える。前記主軸台10には、ワークW1を把持する主軸11が設けられている。前記刃物台部U1には、前記主軸11に把持された前記ワークW1を加工する工具T1を取り付け可能である。前記駆動部U2は、前記ワークW1から前記工具T1までの距離(例えば
図4に示すO1-F)が変わる駆動軸方向3において前記主軸台10と前記刃物台部U1の少なくとも一方の駆動対象50を移動させる。前記記憶部U3は、前記駆動対象50の進入禁止領域A1を表す進入禁止領域情報IN1を記憶している。
図6,10に例示するように、前記距離表示部U4は、前記駆動軸方向3における前記駆動対象50の現在位置(例えば機械座標Pm)と、前記進入禁止領域情報IN1と、に基づいて、前記駆動軸方向3において前記駆動対象50が前記進入禁止領域A1に至る距離Lotを算出して表示する。
【0012】
上記態様では、駆動軸方向3において駆動対象50が進入禁止領域A1に至る距離Lotが数値で判るので、オペレーターは距離Lotの具体値に基づいて工具T1の突出長さLtを調整することができる。従って、上記態様は、シミュレーションを行わなくても工具の突出長さを容易に調整可能な旋盤を提供することができる。
なお、進入禁止領域とは、干渉を抑制するために移動量を制限した領域およびボールねじの長さなど機械的要因によりそれ以上動作できない領域のことである。
【0013】
ここで、刃物台部は、工具が工具ホルダーを介して刃物台に取り付けられる場合には刃物台と工具ホルダーの組合せでもよく、くし形刃物台のように工具が直接刃物台に取り付けられる場合には刃物台単体でもよい。
駆動対象は、主軸台でもよいし、刃物台部でもよいし、主軸台と刃物台部の両方でもよい。すなわち、駆動部は、刃物台部を移動させないで主軸台を移動させてもよいし、主軸台を移動させないで刃物台部を移動させてもよいし、主軸台と刃物台部の両方を移動させてもよい。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0014】
[態様2]
図4に例示するように、前記刃物台部U1は、前記駆動軸方向3と交差する仮想平面4において異なる位置に前記工具T1を複数取り付け可能でもよい。本旋盤1は、前記刃物台部U1に取り付けられる前記複数の工具T1の中から前記ワークW1を加工する工具T1を切り替える切り替え駆動部U5(例えば
図2に示すX2軸モーターM4)をさらに備えていてもよい。
上記態様は、複数の工具を使用することができる。
【0015】
[態様3]
また、本旋盤1は、前記刃物台部U1に取り付けられる前記複数の工具T1の中から突出長さLtを調整する対象工具T2の選択を受け付ける対象工具受付部U6(例えば
図2に示す入力部81)をさらに備えていてもよい。前記距離表示部U4は、前記対象工具T2が前記駆動軸方向3において前記ワークW1に対向する状態において、前記現在位置(Pm)と前記進入禁止領域情報IN1とに基づいて前記進入禁止領域A1に至る距離Lotを算出して表示してもよい。
上記態様では、刃物台部U1に取り付けられる複数の工具T1のそれぞれについて駆動軸方向3において駆動対象50が進入禁止領域A1に至る距離Lotが数値で判るので、オペレーターは複数の工具T1の突出長さLtを進入禁止領域A1に至る距離Lotの適切な具体値に基づいて調整することができる。従って、上記態様は、刃物台部に取り付けられる複数の工具の突出長さを容易に調整可能な旋盤を提供することができる。
【0016】
ここで、切り替え駆動部は、主軸台を移動させることにより工具を切り替えてもよいし、刃物台部を移動させることにより工具を切り替えてもよいし、主軸台と刃物台部の両方を移動させることにより工具を切り替えてもよい。また、刃物台部がタレット刃物台を含んでいる場合、切り替え駆動部は、刃物台部を旋回させることにより工具を切り替えてもよい。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0017】
[態様4]
図7等に例示するように、本旋盤1は、前記主軸11に前記ワークW1を把持させる把持モード521と、前記主軸11に前記ワークW1を把持させない非把持モード522と、のいずれか一方のモードを受け付けるモード受付部U7を備えていてもよい。また、
図11等に例示するように、本旋盤1は、前記駆動軸方向3における前記工具T1の位置(例えば形状補正G)を表す工具位置情報IN2を表示する工具位置情報表示部U8をさらに備えていてもよい。前記工具位置情報表示部U8は、前記モードが前記把持モード521である場合、前記主軸11が前記ワークW1を把持している状態において、前記駆動軸方向3において前記ワークW1と前記工具T1とが接触する位置(例えば
図5に示す接触状態ST2のワーク座標Pw)を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報IN2を表示してもよい。また、前記工具位置情報表示部U8は、前記モードが前記非把持モード522である場合、前記主軸11が前記ワークW1を把持していない状態において、前記駆動軸方向3において前記主軸11と前記工具T1とが接触する位置を取得し、取得された位置に基づいて前記工具位置情報IN2を表示してもよい。
【0018】
上記態様では、主軸11がワークW1を把持する場合であっても把持しない場合であっても工具T1の取り付け位置(G)が数値で判るので、刃物台部に取り付けられる工具の突出長さをさらに容易に調整可能な旋盤を提供することができる。
【0019】
[態様5]
前記工具位置情報表示部U8は、前記駆動軸方向3において前記ワークW1の端面W1aを加工する加工長さ(例えば
図7に示す端面取り代F)の入力を受け付けてもよい。また、前記工具位置情報表示部U8は、前記モードが前記把持モード521である場合、前記取得された位置(Pw)と前記加工長さ(F)とに基づいて前記工具位置情報IN2を更新してもよい。さらに、前記工具位置情報表示部U8は、前記モードが前記非把持モード522である場合、前記加工長さ(F)を使用しないで前記工具位置情報IN2を更新してもよい。
【0020】
上記態様では、上記態様では、工具T1の位置(G)にワークW1の端面W1aの加工長さ(F)が考慮されるので、刃物台部に取り付けられる工具の突出長さをさらに容易に調整可能な旋盤を提供することができる。
【0021】
(2)旋盤の構成の具体例:
図1は、旋盤の例として主軸移動型のNC(数値制御)旋盤1の構成を模式的に例示している。
図2は、NC旋盤1の電気回路の構成を模式的に例示している。尚、各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、左右方向を上下方向又は前後方向に変更したり、上下方向を左右方向や前後方向に変更したり、前後方向を左右方向や上下方向に変更したり、回転方向を逆方向に変更したり等することも、本技術に含まれる。また、方向や位置等の同一は、厳密な一致に限定されず、誤差により厳密な一致からずれることを含む。
【0022】
図1に示す旋盤1は、基台2上に、主軸台10、ガイドブッシュ15、支持台30、刃物台40、NC装置70、等を備えている。ここで、主軸台10は正面主軸台10Aと背面主軸台10Bを総称し、刃物台40はメイン刃物台40Aとバック刃物台40Bを総称している。NC装置70は、主軸台10及びその駆動部(例えば
図2に示すZ1軸モーターM1やX2軸モーターM4やZ2軸モーターM5)、メイン刃物台40A及びその駆動部(例えば
図2に示すX1軸モーターM2やY1軸モーターM3)、等の動作を制御する。旋盤1は、制御軸として、X1,Y1,Z1,X2,Z2軸を有している。尚、Y1軸は、
図1において紙面に垂直な向きである。X1,Y1,Z1,X2,Z2軸方向は、X1,Y1,Z1,X2,Z2軸に沿った方向を意味する。むろん、旋盤1は、前述の5軸に加えてY2軸等の制御軸を有していてもよい。
【0023】
正面主軸11Aを設けた正面主軸台10Aは、基台2に対して、正面主軸11Aの中心線AX1に沿ったZ1軸方向へ移動可能とされている。尚、正面主軸はメイン主軸とも呼ばれ、正面主軸台はメイン主軸台とも呼ばれる。NC装置70は、Z1軸モーターM1及び送り機構10zを介して正面主軸台10AのZ1軸方向における位置を制御する。正面主軸11Aは、Z1軸方向へ挿入された円柱状(棒状)のワークW1をコレット(不図示)で解放可能に把持し、ワークW1の長手方向に沿う中心線AX1を中心としてワークW1を回転させる。
【0024】
ガイドブッシュ15は、正面主軸11Aの前方にある支持台30に取り付けられている。正面主軸11Aの前方に配置されたガイドブッシュ15は、正面主軸11Aを貫通した長手状のワークW1をZ1軸方向へ摺動可能に支持し、正面主軸11Aと同期して正面主軸11Aの中心線AX1を中心として回転駆動される。すなわち、ガイドブッシュ15は、正面主軸11Aから突出しているワークW1を通して支持する。ガイドブッシュ15があることにより、細長いワークW1の撓みが抑制されて高精度の加工が行われる。
【0025】
背面主軸11Bを設けた背面主軸台10Bは、基台2に対して、背面主軸11Bの中心線AX2に沿ったZ2軸方向、及び、中心線AX2に直交するX2軸方向へ移動可能とされている。尚、背面主軸はサブ主軸とも呼ばれ、背面主軸台はサブ主軸台とも呼ばれる。Z2軸方向は、Z1軸方向に沿った方向である。背面主軸11Bは、ガイドブッシュ15を介して正面主軸11Aに対向する位置にある。NC装置70は、Z2軸モーターM5及び送り機構20zを介して背面主軸台10BのZ2軸方向における位置を制御し、X2軸モーターM4及び送り機構20xを介して背面主軸台10BのX2軸方向における位置を制御する。背面主軸11Bは、ガイドブッシュ15を介して正面主軸11Aに対向する位置において正面主軸11AからワークW1を受け取り、Z2軸方向へ挿入されたワークW1をコレット(不図示)で解放可能に把持する。例えば、メイン刃物台40Aに保持されている突っ切りバイトにより長尺なワークから正面加工後のワークW1が分離されると、背面主軸11Bは、正面加工後のワークW1の長手方向に沿う中心線AX2を中心として正面加工後のワークW1を回転させる。
【0026】
メイン刃物台40Aは、バイト等の複数の工具T1が直接取り付けられたくし形刃物台であり、工具ホルダーを介して回転ドリル等の工具が取り付けられてもよい。メイン刃物台40Aは、支持台30において背面主軸11Bに対向する側部31に対して、正面主軸11Aの中心線AX1に直交するX1,Y1軸方向へ移動可能に支持されている。X1軸方向は、X2軸方向に沿った方向であり、Z1軸方向に直交する。Y1軸方向は、Z1軸方向とX1軸方向とに直交する。NC装置70は、X1軸モーターM2及び送り機構40xを介してメイン刃物台40AのX1軸方向における位置を制御し、Y1軸モーターM3及び送り機構40yを介してメイン刃物台40AのY1軸方向における位置を制御する。メイン刃物台40Aは、主軸11に把持されたワークW1を加工する工具T1を取り付け可能な刃物台部U1の例である。
【0027】
支持台30は、正面主軸台10Aと背面主軸台10Bとの間において基台2に対して移動しないように固定され、基台2からX1軸方向の上側へ延びている。支持台30は、正面主軸11Aから突出しているワークW1を貫通させるガイドブッシュ15を保持している。支持台30において背面主軸11Bに対向する側部31は、メイン刃物台40AをX1,Y1軸方向へ移送可能に支持し、取り付けられたバック刃物台40Bを移動しないように固定している。
【0028】
支持台30に固定されたバック刃物台40Bには、ドリル工具といった複数の工具T1が工具ホルダーTU1を介して取り付けられている。ワークW1を把持した背面主軸11Bを設けた背面主軸台10BをX2軸方向へ移動させることにより、バック刃物台40Bに設けられた複数の工具T1のいずれかをワークW1に対向させることが可能である。バック刃物台40Bと複数の工具ホルダーTU1の組合せは、主軸11に把持されたワークW1を加工する工具T1を取り付け可能な刃物台部U1の例である。
尚、旋盤1には、メイン刃物台40A及びバック刃物台40B以外の刃物台が設置されてもよい。
【0029】
主軸台10、ガイドブッシュ15、支持台30、刃物台40、及び、工具T1の主要部は、例えば金属で形成することができる。
【0030】
図2に示す旋盤1において、NC装置70には、操作パネル80、Z1軸モーターM1、X1軸モーターM2、Y1軸モーターM3、X2軸モーターM4、Z2軸モーターM5、正面主軸11A用の回転モーター(不図示)、背面主軸11B用の回転モーター(不図示)、回転ドリル用の回転モーター(不図示)、等が接続されている。NC装置70は、CPU(Central Processing Unit)71、半導体メモリーであるROM(Read Only Memory)72、半導体メモリーであるRAM(Random Access Memory)73、タイマー回路74、I/F(インターフェイス)75、等を有している。
図2では、操作パネル80とサーボモーター(M1~M5)のI/FをまとめてI/F75と示している。
【0031】
ROM72には、加工プログラムP2を解釈して実行するための解釈実行プログラムP1、及び、駆動対象の進入禁止領域を表す進入禁止領域情報IN1が書き込まれている。ROM72は、進入禁止領域情報IN1を記憶した記憶部U3の例である。ROM72は、フラッシュメモリーのように書き換え可能な不揮発性メモリーを含んでいてもよい。書き換え可能な不揮発性メモリーに進入禁止領域情報IN1が書き込まれていると、進入禁止領域情報IN1を適宜、更新することができる。RAM73には、ユーザーにより作成された加工プログラムP2が記憶される。加工プログラムは、NCプログラムとも呼ばれる。CPU71は、RAM73をワークエリアとして使用し、ROM72に記録されている解釈実行プログラムP1を実行することにより、コンピューターをNC装置70として機能させる。むろん、解釈実行プログラムP1により実現される機能の一部又は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)といった他の手段により実現させてもよい。
【0032】
Z1軸モーターM1は、
図1に示す送り機構10zを介して正面主軸11Aを含む正面主軸台10AをZ1軸に沿って双方向へ移動させる。X1軸モーターM2は、
図1に示す送り機構40xを介してメイン刃物台40AをX1軸に沿って双方向へ移動させる。Y1軸モーターM3は、
図1に示す送り機構40yを介してメイン刃物台40AをY1軸に沿って双方向へ移動させる。X2軸モーターM4は、
図1に示す送り機構20xを介して背面主軸台10BをX2軸の双方向へ移動させる。Z2軸モーターM5は、
図1に示す送り機構20zを介して背面主軸台10BをZ2軸の双方向へ移動させる。送り機構10z,40x,40y,20x,20zには、レールとガイド部材とのスライド可能な嵌合構造、アリ溝とアリとのスライド可能な嵌合構造、等を用いることができる。
【0033】
図3は、操作パネル80の正面を模式的に例示している。
操作パネル80は、入力部81及び表示部82を備え、NC装置70のユーザーインターフェイスとして機能する。
【0034】
入力部81は、オペレーターから操作入力を受け付けるためのハードキー81aや切り替えスイッチ81bやハンドル83やボタン84やタッチパネル(表示部82の画面82a)から構成される。ハードキー81aは、複数の制御軸から手動ハンドル送りを行う制御軸を選択するための制御軸キー81c、画面82aのカーソルを移動させるためのカーソルキー81d、アルファベットや数字等の文字を打ち込むための文字キー81e、打ち込まれた文字を入力するための入力キー81f、等を含んでいる。切り替えスイッチ81bは、切削油の吐出と吐出停止とを切り替える等、各種の動作を切り替えるための操作部である。ハンドル83は、駆動対象を手動で移動させる操作を行うための操作部である。ボタン84は、突出長さを調整する対象工具を選択するために使用するSTARTボタン等を含んでいる。画面82aには、入力部81としてのソフトキー81gが配置されている。入力部81は、刃物台部U1に取り付けられる複数の工具T1の中から突出長さを調整する対象工具の選択を受け付ける対象工具受付部U6、及び、G132モードとG130モードのいずれか一方のモード(
図7~11参照)を受け付けるモード受付部U7の例である。G132モードは、主軸11にワークW1を把持させる把持モード521の例である。G130モードは、主軸11にワークW1を把持させない非把持モード522の例である。
【0035】
表示部82は、オペレーターから操作入力を受け付けた各種設定の内容やNC旋盤1に関する各種情報を画面82aに表示するディスプレイ(例えば液晶ディスプレイ)で構成される。画面82aには、
図7~11に示す工具選択画面500、ハンドルモード画面501、更新画面502、等が含まれる。表示部82は、駆動軸方向において駆動対象が進入禁止領域に至る距離を計算して表示する距離表示部U4(
図10参照)、及び、駆動軸方向における工具T1の位置を表す工具位置情報を表示する工具位置情報表示部U8の例である。
【0036】
図4は、駆動対象50が背面主軸台10Bであって干渉対象55がバック刃物台40Bと複数の工具ホルダーTU1を組み合わせた刃物台部U1である場合における進入禁止領域A1及び各種パラメーターを模式的に例示している。
図4に示す複数の工具T1は、ドリル工具である。ワークW1を把持する背面主軸11Bを設けた背面主軸台10Bは、
図2に示すように、X2軸モーターM4によりX2軸方向へ移動し、Z2軸モーターM5によりZ2軸方向へ移動する。背面主軸11Bに把持されたワークW1は、バック刃物台40Bを含む刃物台部U1に取り付けられた複数の工具T1のいずれかにより加工される。
図4において、Z2軸に沿った左方向はプラス方向であり、Z2軸に沿った右方向はマイナス方向である。
図4に示す例では、ワークW1から工具T1までの距離が変わる駆動軸方向3はZ2軸方向であり、駆動対象50を移動させる駆動部U2はZ2軸モーターM5であり、工具T1を切り替える切り替え駆動部U5はX2軸モーターM4である。
【0037】
刃物台部U1の複数の工具ホルダーTU1は、バック刃物台40Bにおいて背面主軸11Bに対向する対向面41に取り付けられている。各工具ホルダーTU1には、工具T1が取り付けられる。従って、刃物台部U1は、Z2軸方向と交差する仮想平面4において異なる位置に工具T1を複数取り付け可能である。X2軸モーターM4は、NC装置70の制御に従って、背面主軸11Bに把持されたワークW1をZ2軸方向において複数の工具T1のいずれかに対向するように背面主軸台10BをX2軸方向へ移動させる。これにより、刃物台部U1に取り付けられた複数の工具T1の中からワークW1に対向する工具が切り替えられる。工具T1の工具ホルダーTU1からの突出長さLtの調整は、工具T1がワークW1に対向している状態で行われる。複数の工具T1のうち突出長さLtを調整する工具を対象工具T2と呼ぶことにする。Z2軸モーターM5は、NC装置70の制御に従って、ワークW1を把持した背面主軸11Bを設けた背面主軸台10BをZ2軸方向へ移動させる。これにより、ワークW1から対向する工具T1までの距離が変わる。
【0038】
旋盤1には、背面主軸11Bと刃物台部U1との干渉を防ぐため、刃物台部U1の形状に応じた進入禁止領域A1が設定されている。NC装置70は、Z2軸において刃物台部U1に近付く背面主軸11Bの端面11cの制御位置(機械座標Pmに相当)が進入禁止領域A1の境界A1b(進入禁止位置Paに相当)に到達すると、背面主軸台10Bの移動を停止させる。
図4に示すように、ワークW1を加工する工具T1に応じてZ2軸における進入禁止領域A1の境界A1bの位置が異なることがある。
【0039】
ここで、
図5も参照して、Z2軸における背面主軸台10Bの位置に応じた各種パラメーターを説明する。
図5の上部は、Z2軸における機械座標Pmが0である状態ST1における各種パラメーターを示している。
図5の下部は、Z2軸方向においてワークW1と対象工具T2とが接触している状態ST2における各種パラメーターを示している。
【0040】
まず、Z2軸において機械の基準となる機械固有の点(Z2=0)を、機械原点とする。機械原点Z2=0は、Z2軸における背面主軸11Bの端面11cの原点位置でもある。機械座標Pmは、機械原点Z2=0を基点とした端面11cのZ2軸上の位置を示し、
図4,5では端面11cが機械原点Z2=0よりも左側にあるときにプラス値となる。機械座標Pmは、駆動対象50の現在位置の例である。
ワーク座標Pwは、ワークW1の加工のために使用する座標であり、Z2軸における製品の端面の座標であり、ワークW1の端面W1aを切削して製品にする場合には端面取り代Fを除いた位置となる。端面取り代Fは、Z2軸方向においてワークW1の端面W1aを加工する加工長さの例であり、プラス値である。端面取り代Fがある場合、ワーク座標Pwは、ワークW1から端面取り代Fを除いた端面W1aの座標となる。
【0041】
補正量(Oとする。)は、機械座標Pmからワーク座標Pwを算出するためのオフセット値であり、機械原点Z2=0からのシフト量である。補正量Oは、Z2軸方向におけるワークW1に対向する対象工具T2の先端T1aから製品の端面までの距離O1と、Z2軸方向における背面主軸11Bの端面11cから機械原点Z2=0まで距離O2とを加えた値となる。ワーク座標Pwは、機械座標Pmから補正量Oを引いた値となる。
Pw=Pm-O …(1)
背面主軸11BにワークW1を把持させるG132モードでは、製品の端面が対象工具T2の先端T1aよりも
図4,5の右側にあるとき、ワーク座標Pwはマイナス値となる。
【0042】
形状補正Gは、Z2軸における対象工具T2の位置の例であり、Z2軸における工具取り付け基準位置Pbから対象工具T2の先端T1aまでの距離である。
図4,5に示す工具取り付け基準位置Pbは、機械原点Z2=0である。従って、形状補正Gは、通常、プラス値である。
突き出し登録長Kは、背面主軸11Bに把持される製品が背面主軸11Bの端面11cからZ軸方向へ突き出す長さであり、Z2軸方向において製品の長さLpからワークW1の把持長さLgを引いたプラス値である。ワークW1の端面W1aを切削して製品にする場合、突き出し登録長Kは、背面加工前のワークW1の長さから端面取り代Fと把持長さLgを引いた値となる。背面主軸11BにワークW1を把持させないG130モードの場合、突き出し登録長Kは以下の式において0として扱えばよい。
【0043】
背面主軸11BにワークW1を把持させないG130モードの場合、補正量Oは、形状補正Gに等しい。
O=G …(2)
式(1),(2)から、ワーク座標Pwは、機械座標Pmから形状補正Gを引いた値となる。
Pw=Pm-G …(3)
【0044】
背面主軸11BにワークW1を把持させるG132モードの場合、補正量Oは、形状補正Gから突き出し登録長Kを引いた値となる。
O=G-K …(4)
式(1),(4)から、ワーク座標Pwは、機械座標Pmから形状補正Gを引き突き出し登録長Kを加えた値となる。
Pw=Pm-(G-K)=Pm-G+K …(5)
【0045】
刃物台部U1に対象工具T2を取り付け直す場合、算出済みの形状補正Gに基づいて形状補正Gを更新することにしている。以下、形状補正Gを更新する計算式を説明する。
背面主軸11BにワークW1を把持させるG132モードでは、
図5の下部に示すように対象工具T2の先端T1aとワークW1の端面W1aとが接触している状態ST2においてワーク座標Pwが-Fとなるように更新後の形状補正を計算することにしている。尚、更新前の値を表すパラメーターに「c」を付し、更新後の値を表すパラメーターに「n」を付すことにする。例えば、形状補正Gは、更新前であればGcと表され、更新後であればGnと表される。後述するが、形状補正Gの更新は、
図10に示すZ設定キー540が操作されたタイミングで行われる。
【0046】
式(1)より、更新前のワーク座標Pwcは、機械座標Pmから更新前の補正量Ocを引いた値である。
Pwc=Pm-Oc …(6)
また、式(1)より、更新後のワーク座標Pwnは、機械座標Pmから更新後の補正量Onを引いた値であり、-Fである。
Pwn=Pm-On=-F …(7)
【0047】
式(6),(7)から機械座標Pmを消すと、更新後の補正量Onは、更新前のワーク座標Pwcに更新前の補正量Ocと端面取り代Fを加えた値となる。
On=Pwc+Oc+F …(8)
式(4),(8)より、
Gn-K=Pwc+(Gc-K)+F
であるから、更新後の形状補正Gnは、更新前のワーク座標Pwcに更新前の形状補正Gcと端面取り代Fを加えた値となる。
Gn=Pwc+Gc+F …(9)
【0048】
背面主軸11BにワークW1を把持させないG130モードでは、突き出し登録長Kが0であり、端面取り代Fが0であることから、更新後の形状補正Gnは、更新前のワーク座標Pwcに更新前の形状補正Gcを加えた値となる。
Gn=Pwc+Gc …(10)
【0049】
ワークW1の加工精度を向上させるためには、工具ホルダーTU1からの工具T1の突出長さLtをなるべく短くする方が好ましい。しかし、工具T1の突出長さLtを短くするほど、背面主軸11Bと刃物台部U1とを近付ける必要があり、進入禁止領域A1により背面主軸11Bと刃物台部U1とを近付けることができなくなる可能性が高まる。ここで、加工プログラムのシミュレーションにより工具又は工具ホルダーと主軸との干渉が発生した場合に工具又は工具ホルダーを変更して再び加工プログラムのシミュレーションを行うことを繰り返すことは、時間がかかる煩わしい作業が必要である。
【0050】
本具体例では、対象となる制御軸の駆動対象50を手動で動かすためにオペレーターがハンドル83を操作する時、
図10に例示するように、駆動対象50が進入禁止領域A1に至る距離Lotを表示することにしている。これにより、刃物台部U1に工具T1を取り付ける時に加工プログラムのシミュレーションを行わなくても工具T1の突出長さLtを容易に調整することが可能となる。以下、
図6~11を参照して、旋盤1で行われる工具取り付け補助処理の例を説明する。
【0051】
(3)工具取り付け補助処理の具体例:
図6は、オペレーターが工具T1を刃物台部U1に取り付ける時に旋盤1に実行させる工具取り付け補助処理を例示している。工具取り付け補助処理は、NC装置70が主体となって行い、例えば、正面加工をした後に開始する。
図7~11は、表示部82に表示される画面の具体例を模式的に示している。
なお、工具取り付け補助処理を行う前に、オペレーターが工具T1の突出長さを短く設定して刃物台部U1へ仮止めをしておくことにしている。
本具体例では、
図3に示す制御軸キー81cによりZ2軸が手動ハンドル送りを行う制御軸として選択された場合を説明する。
【0052】
まず、オペレーターは、バック刃物台40Bに取り付けられている工具ホルダーTU1に対して工具T1を仮の位置において取り付ける作業、及び、突出長さLtを調整する工具T1に背面主軸11Bを対向させるように背面主軸台10BのX2軸上の位置を入力部81で調整する作業を行うことになる。工具取り付け補助処理が開始すると、NC装置70は、製品の長さLpとワークW1の把持長さLgを取得する(ステップS102)。例えば、NC装置70は、製品の長さLpの入力を入力部81により受け付けてもよく、
図2に示す加工プログラムP2から把持長さLgを読み出したり計算したりしてもよい。加工プログラムP2に製品の長さLpが含まれている場合、NC装置70は、加工プログラムP2から製品の長さLpを読み出したり計算したりしてもよい。
【0053】
尚、突き出し登録長Kの算出は、他の値と同様に実行前に自動で計算される。簡単な例として、突き出し登録長Kは、製品の長さLpから把持長さLgを引くことにより求めてもよい。
【0054】
次いで、NC装置70は、
図7に示すような工具選択画面500を表示部82に表示させる(ステップS104)。
図7に示す工具選択画面500は、ワーク座標表示部511、形状補正表示部512、工具一覧表示部513、モード表示部520、ソフトキー81g、等を有している。また、工具選択画面500には、カーソル510が設けられている。カーソル510の位置は、
図3に示すカーソルキー81dの操作により変えることができる。
【0055】
ワーク座標表示部511には、X1,Y1,Z1,X2,Z2軸におけるワーク座標、例えば、Z2軸の場合に製品の端面の座標が表示される。背面主軸11Bに把持されたワークW1をバック刃物台40Bに取り付けられた工具T1で加工する場合、ワーク座標表示部511にはZ2軸のワーク座標Pwが表示される。ワーク座標Pwは、機械座標Pmに突き出し登録長Kを加えた値となる。
形状補正表示部512には、形状補正Gの情報が表示される。背面主軸11Bに把持されたワークW1をバック刃物台40Bに取り付けられた工具T1で加工する場合、
図11に示す更新画面502のように、形状補正表示部512においてZ軸の形状補正G、すなわち、Z2軸方向における対象工具T2の位置を表す工具位置情報IN2が表示される。形状補正Gの初期値は、0である。形状補正表示部512は、工具位置情報IN2を表示する工具位置情報表示部U8の例である。
【0056】
工具一覧表示部513には、バック刃物台40Bに取り付けられた工具T1の一覧が表示される。
図7には、4種類の工具T20,T21,T22,T23が示されている。
モード表示部520には、背面主軸11BにワークW1を把持させる把持モード521を示す「G132」、及び、背面主軸11BにワークW1を把持させない非把持モード522を示す「G130」が表示される。モード表示部520に表示された*印は、G132モードとG130モードから選択されたモードを示している。
図7に示す工具選択画面500では、「G132」に*印が付されているので、G132モードが選択されていることが示されている。G132モードとG130モードとは、ソフトキー81gに含まれるモード切り替えキー523の操作により切り替えられる。モード表示部520は、把持モード521と非把持モード522のいずれか一方のモードを受け付けるモード受付部U7の例である。
【0057】
図7に示すようにG132モードが選択されている場合、NC装置70は、ステップS104で算出された突き出し登録長Kを含む突き出し登録長表示部514、及び、端面取り代Fを含む端面取り代表示部515を工具選択画面500に表示させる。最初に表示される端面取り代Fは、デフォルト値でもよいし、加工プログラムP2に記述された値でもよいし、加工プログラムP2から計算された値でもよい。
【0058】
図8に示すようにG130モードが選択されている場合、突き出し登録長表示部514と端面取り代表示部515は工具選択画面500に表示されない。
【0059】
次いで、NC装置70は、工具選択画面500に基づいて各種操作を入力部81により受け付ける(ステップS106)。
図7,8に示すモード表示部520では、モード切り替えキー523により、G132モードとG130モードのいずれか一方のモードを受け付ける処理が行われる。この処理を実行可能な入力部81は、モード受付部U7の例である。
図7に示す端面取り代表示部515では、文字キー81eや入力キー81f等により、端面取り代Fの入力を受け付ける処理が行われる。この処理は、工具位置情報表示部U8が駆動軸方向3においてワークW1の端面W1aを加工する加工長さの入力を受け付けることに対応している。
【0060】
図7,8に示す工具一覧表示部513では、
図3に示すカーソルキー81dやボタン84等により、刃物台部U1に取り付けられる複数の工具T1の中から突出長さLtを調整する対象工具T2の選択を受け付ける処理が行われる。この処理を実行可能な入力部81は、対象工具受付部U6の例である。NC装置70は、ボタン84に含まれるSTARTボタンの押し操作を監視してSTARTボタンの押し操作を入力部81により受け付けるまで待機し(ステップS108)、STARTボタンの押し操作を受け付けると、
図9に示すような工具選択画面500に切り替える。また、STARTボタンの押し操作により、式(5)によりワーク座標Pwの計算処理を行い表示する。選択された対象工具T2がワークW1に対向していない場合、NC装置70は、選択された対象工具T2がワークW1に対向するようにX2軸モーターM4を駆動させて背面主軸台10BをX2軸方向へ移動させてもよい。
図9に示す工具選択画面500には、ハンドルキー530を含むソフトキー81gが配置されている。ハンドルキー530は、手動ハンドル送りを行うハンドルモードに移行させるための操作部である。
【0061】
次いで、NC装置70は、ハンドルキー530の操作を受け付けるまで待機し(ステップS110)、ハンドルキー530の操作を受け付けると、処理をステップS112に進める。ステップS112において、NC装置70は、Z2軸方向における背面主軸11Bの機械座標Pmと、進入禁止領域A1を表す進入禁止領域情報IN1と、に基づいて、Z2軸方向において背面主軸11Bが進入禁止領域A1に至る距離Lotを算出する。
【0062】
図4に示すように、Z2軸における背面主軸11Bの端面11cの位置を表す機械座標Pmから進入禁止領域A1の境界A1bまでの距離Lotは、X2軸における背面主軸11Bの中心線AX2の位置に応じて異なることがある。そこで、NC装置70は、X2軸における背面主軸11Bの機械座標である中心線AX2のX2軸上の位置を取得し、中心線AX2のX2軸上の位置において進入禁止領域A1の境界A1bのZ2位置である進入禁止位置Paを進入禁止領域情報IN1から求め、進入禁止位置Paから機械座標Pmを引いて距離Lotを算出する。
Lot=Pa-Pm …(11)
以上より、対象工具T2がZ2軸方向においてワークW1に対向する状態において、機械座標Pmと進入禁止領域情報IN1とに基づいて進入禁止領域A1に至る距離Lotが算出される。
【0063】
また、NC装置70は、
図10に示すように、進入禁止領域A1に至る距離Lotを含むハンドルモード画面501を表示部82に表示させる(ステップS114)。
図10に示すハンドルモード画面501には、「OTまでの距離46.001mm」のように進入禁止領域A1に至る距離Lotが表示される。このように、距離表示部U4は、対象工具T2が駆動軸方向3においてワークW1に対向する状態において、駆動対象50の現在位置と進入禁止領域情報IN1とに基づいて進入禁止領域A1に至る距離Lotを算出して表示する。ハンドルモード画面501が表示されている状態でオペレーターがハンドル83(
図3参照)を操作すると、ハンドル83の操作に応じて背面主軸台10BがZ2軸方向へ移動する。
また、ハンドルモード画面501には、Z設定キー540を含むソフトキー81gが配置されている。Z設定キー540は、Z2軸における対象工具T2の位置を表す形状補正Gを更新するための操作部である。Z設定キー540の操作は、G132モードではワークW1の端面W1aと対象工具T2の先端T1aとが接触したときに行われる前提であり、G130モードでは背面主軸11Bの端面11cと対象工具T2の先端T1aとが接触したときに行われる前提である。
【0064】
ここで、
図13~15を参照して、対象工具T2の突出長さLtを調整する例を説明する。
図13は、対象工具T2の仮止め作業を行った直後の刃物台部U1及び背面主軸台10Bを模式的に例示している。
図14は、対象工具T2の先端T1aにワークW1の端面W1aを接触させた様子を模式的に例示している。
図15は、対象工具T2による最大加工長Ldのドリル加工を行った図であり、機械座標Pmが最大加工長Ldの加工位置になるまで背面主軸台10Bが前進した様子を模式的に例示している。図示の都合上、
図13~15は、ワークW1の長さと対象工具T2の長さを誇張して示している。余裕長をαとしたとき、機械座標Pmは進入禁止位置Paから余裕長αを引いたPa-αである。
【0065】
図15において、距離Lftはバック刃物台の対向面41から対象工具T2の先端T1aまでの距離であり、距離Lfbはバック刃物台の対向面41から工具取り付け基準位置Pbまでの距離である。説明の都合上、距離Lfb,Lftの差Lfb-Lft、及び、距離Lfbの計算式を以下に示す。
距離Lfb,Lftの差Lfb-Lftは、進入禁止位置Pa、突き出し登録長K、ワークW1から端面取り代Fを除いた部分の端面からの最大加工長Ld、及び、余裕長αを用いて、以下の計算式で表される。なお、余裕長αは1~2mm程度が最適である。
Lfb-Lft=Pa+K-Ld-α …(12)
対象工具T2の突出長さLtを最小とする距離Lftは、式(12)から、以下の計算式で表される。
Lft=Lfb-Pa-K+Ld+α …(13)
本具体例では、オペレーターが上述した式(12),(13)の計算を行う必要が無い。
【0066】
本具体例では、以下のようにして対象工具T2の突出長さLtを調整することができる。
まず、
図13は、対象工具T2の突出長さLtを調整する前の図である。
図13に示すように対象工具T2とワークW1とが離れた状態において、オペレーターは、対象工具T2の仮止め作業を行い、Z2軸をハンドル83の操作で前進させる。そして、オペレーターは、進入禁止領域A1に至る距離Lotが
Lot=Ld+F+α …(14)
で表される値になるまでZ2軸をハンドル83の操作で前進させる。
【0067】
図14は、対象工具T2の突出長さLtを調整する位置に背面主軸台10Bを前進移動させた様子を示した図である。オペレーターは、
図14に示すように仮止めしてある対象工具T2をワークW1の端面W1aに接触させるように動かし、キャップTU1cを締め付けて対象工具T2を工具ユニットTU1に固定する。対象工具T2は、固定する前はZ2軸に沿った方向に移動可能である。なお、対象工具T2が仮止めではなく取り付け済みの場合は、対象工具T2がワークW1の端面W1aに接触した時における進入禁止領域A1に至る距離Lotを確認し、その際、対象工具T2の突出長さLtが短い場合は再度取り付け直しを行うことで調整する。
【0068】
ここで、具体的な数字を入れた例を示す。
まず、突き出し登録長K=20.0mm、最大加工長Ld=15.0mm、端面取り代F=0.1mm、余裕長α=2.0mmとする。また、進入禁止領域A1に至る距離Lotの最大値Lot_maxをLot_max=46.0mmとする。上記数字を当てはめた場合の目標の距離LotをLot_minとすると、式(14)より、Ld+F+α=15.0mm+0.1mm+2.0mm=17.1mmである。
図13において距離Lotの関係はLot_max≧Lot≧Lot_minであり、
図14に示す位置においてLot=Lot_min=17.1mmになるように背面主軸台10BのZ2軸をハンドル83の操作で前進させる。この状態で対象工具T2をワークW1の端面W1aに接触させるように動かし、キャップ TU1cを締め付けて対象工具T2を工具ユニットTU1に固定する。これによりシミュレーション等を用いることもなく簡単に適切な長さに対象工具T2を設定することができる。
【0069】
比較例として、オペレーターが上述した式(13)の距離Lftを計算する例を説明する。
上述した式(13)の距離Lftの計算は、複数のパラメーターが必要であるので、面倒である。理由は、以下の通りである。
まず、距離Lfbや進入禁止位置Paは、機械の固有値でオペレーターが考慮する値でないので、画面に表示されない。また、旋盤は直径が異なる円筒形状等の集合体であるので、距離Lftの測定は、ノギスでは難しく、専用のジグの作成が必要である。工具T1がドリル工具である場合、工具T1はキャップTU1cを締め付けることにより工具ユニットTU1に固定される。工具T1の突出長さLtは、キャップTU1cの締め付けにより変わるため、工具T1の取り付け前に測定することができない。
【0070】
それに対して、本具体例においてオペレーターが計算する式(14)は、パラメーターが少ないので、簡単に計算することができる。式(14)に含まれる最大加工長Ldは加工プログラムP2又は加工図面から読み取ることができるからである。
【0071】
次いで、NC装置70は、Z設定キー540が操作されたか否かに応じて処理を分岐させる(ステップS116)。Z設定キー540が操作されていない場合、ステップS112に処理が戻される。従って、背面主軸11Bの端面11cの位置、すなわち、機械座標Pmが変わると、ステップS112において新たに距離Lotが算出され、ステップS114においてハンドルモード画面501に表示される。従って、オペレーターは、進入禁止領域A1に至る距離Lotの表示を目で確認しながら、工具ホルダーTU1に対する対象工具T2の取り付け位置を調整することができる。例えば、背面主軸11BにワークW1を把持させるG132モードが選択されている場合、オペレーターは、ハンドル83の操作によりワークW1の端面W1aを対象工具T2の先端T1aに接触させた状態ST2(
図5の下部参照)で進入禁止領域A1に至る距離Lotが適切であるか否かが具体的に判る。オペレーターは、距離Lotが適切でないと判断した場合、工具ホルダーTU1に対する対象工具T2の取り付け位置を調整することができる。背面主軸11BにワークW1を把持させないG130モードが選択されている場合、オペレーターは、ハンドル83の操作により背面主軸11Bの端面11cを対象工具T2の先端T1aに接触させた状態で進入禁止領域A1に至る距離Lotが適切であるか否かが具体的に判る。オペレーターは、距離Lotが適切でないと判断した場合、工具ホルダーTU1に対する対象工具T2の取り付け位置を調整することができる。
【0072】
Z設定キー540が操作された場合、NC装置70は、上述した式(9)又は(10)に従って形状補正Gを算出する(ステップS118)。この場合、算出された形状補正Gを形状補正表示部512に設定する。
【0073】
G132モードが選択されている場合、
図5の下部に示すようにワークW1の端面W1aが対象工具T2の先端T1aに接触している状態ST2であることが前提となる。オペレーターは、
図5の下部に示す状態ST2でZ設定キー540を操作することになる。この場合、式(9)すなわちGn=Pwc+Gc+Fに従って更新後の形状補正Gnが算出される。NC装置70は、背面主軸11BがワークW1を把持している状態において、Z2軸方向においてワークW1と工具T1とが接触する位置を示すワーク座標Pwcを取得し、このワーク座標Pwcに基づいて更新後の形状補正Gnを算出することになる。尚、
図6に示す工具取り付け補助処理が開始されてから初めて形状補正Gnを算出する場合、更新前の形状補正Gcは初期値0であるので、形状補正Gnは、更新前のワーク座標Pwcに端面取り代Fを加えた値となる。
Gn=Pwc+F …(9)’
【0074】
G130モードが選択されている場合、背面主軸11Bの端面11cが対象工具T2の先端T1aに接触している状態であることが前提となる。オペレーターは、前提の状態でZ設定キー540を操作することになる。この場合、式(10)すなわちGn=Pwc+Gcに従って更新後の形状補正Gnが算出される。NC装置70は、背面主軸11BがワークW1を把持していない状態において、Z2軸方向において背面主軸11Bと工具T1とが接触する位置を示すワーク座標Pwcを取得し、端面取り代Fを使用せずワーク座標Pwcに基づいて更新後の形状補正Gnを算出することになる。尚、
図6に示す工具取り付け補助処理が開始されてから初めて形状補正Gnを算出する場合、更新前の形状補正Gcは初期値0であるので、形状補正Gnは、更新前のワーク座標Pwcとなる。
Gn=Pwc …(10)’
【0075】
また、NC装置70は、
図11に示すように、更新後の形状補正Gnを表す工具位置情報IN2を含む更新画面502を表示部82に表示させる(ステップS120)。形状補正Gnは、Z2軸方向における対象工具T2の位置を示している。工具位置情報IN2を表示する工具位置情報表示部U8は、G132モードが選択されている場合、背面主軸11BがワークW1を把持している状態において、Z2軸方向においてワークW1と工具T1とが接触する位置であるワーク座標Pwを取得し、このワーク座標Pwに基づいて工具位置情報IN2を表示する。式(9)により、工具位置情報IN2は、ワーク座標Pwと端面取り代Fとに基づいて更新される。また、工具位置情報表示部U8は、G130モードが選択されている場合、Z2軸方向において背面主軸11Bと工具T1とが接触する位置であるワーク座標Pwを取得し、このワーク座標Pwに基づいて工具位置情報IN2を表示する。
【0076】
図6のステップS106~S120の処理は、刃物台部U1に取り付けられる全ての工具T1について行われる。NC装置70は、工具位置情報IN2を含む更新画面502を表示部82に表示させる処理(ステップS120)が完了すると、工具取り付け補助処理を終了させる。
【0077】
工具取り付け補助処理が行われると、
図10に示すようにZ2軸方向において背面主軸11Bが進入禁止領域A1に至る距離Lotがハンドルモード画面501に表示される。距離Lotが表示されなければ、オペレーターは、背面主軸11Bが進入禁止領域A1に達しないように突出長さLtを自分で計算して工具T1を刃物台部U1に取り付けるという煩わしい作業が必要となる。突出長さLtの計算が困難である場合には、実際に量産加工を開始した時に背面主軸11Bが進入禁止領域A1に達することが判明することがあり、判明時点で工具T1の取り付けをやり直す必要が生じる。本具体例では、ハンドルモード画面501を見ることにより進入禁止領域A1に至る距離Lotが数値で判るので、オペレーターは、工具T1の現在の取り付け位置で背面主軸11Bが進入禁止領域A1に入らずにワークW1を加工することができるかどうかを容易に判断することができる。また、オペレーターは、工具T1の突出長さLtが必要以上に長すぎるかどうかも判断することができる。従って、オペレーターは、距離Lotの具体値に基づいて工具T1の突出長さLtを適切に調整することができる。また、
図7,8に示す工具選択画面500において突出長さLtを調整する対象工具T2を切り替えることができるので、刃物台部U1に取り付けられる全ての工具T1について距離Lotの具体値に基づいて突出長さLtを調整することができる。従って、本具体例は、加工プログラムのシミュレーションを行わなくても工具の突出長さを容易に調整することができる。
さらに、進入禁止領域A1に至る距離Lotが表示され、工具T1を固定するZ2軸の位置が表示され、機械の固有値はNC装置70が計算済みのため、オペレーターは自分の加工したい形状だけを考慮すればよい。
【0078】
さらに、オペレーターは、背面主軸11BにワークW1を把持させるG132モードであっても背面主軸11BにワークW1を把持させないG130モードであっても、Z2軸における対象工具T2の取り付け位置を示す更新後の形状補正Gnが数値で判る。
【0079】
(4)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、本技術を適用可能な旋盤は、ガイドブッシュを備えるタイプに限定されず、ガイドブッシュの無いタイプでもよいし、ガイドブッシュの使用有無を切り替え可能なタイプでもよい。また、本技術を適用可能な旋盤は、主軸移動型旋盤に限定されず、正面主軸台が移動しない主軸固定型旋盤等でもよい。
【0080】
上述した具体例では背面主軸台10BがZ2軸方向へ移動したが、背面主軸台10Bが移動しないでバック刃物台40BがZ2軸方向へ移動してもよい。この場合、バック刃物台40Bを含む刃物台部U1が駆動対象50となる。また、背面主軸台10Bとバック刃物台40Bの両方がZ2軸方向へ移動する場合には、背面主軸台10Bと刃物台部U1の両方を駆動対象50として扱えばよい。
さらに、上述した具体例では背面主軸台10BがX2軸方向へ移動したが、背面主軸台10Bが移動しないでバック刃物台40BがX2軸方向へ移動してもよい。この場合、バック刃物台40BをX2軸方向へ移動させるX2軸駆動モーターが切り替え駆動部U5となる。また、背面主軸台10Bとバック刃物台40Bの両方がX2軸方向へ移動する場合には、背面主軸台10Bと刃物台部U1の両方の駆動モーターを切り替え駆動部U5として扱えばよい。
【0081】
本技術を適用可能な主軸台は、背面主軸台10Bに限定されず、正面主軸台10Aでもよい。
本技術を適用可能な刃物台部は、バック刃物台40Bと工具ホルダーTU1の組合せに限定されず、タレット刃物台と工具ホルダーの組合せ、くし形刃物台による複数の工具の選択、等でもよい。刃物台部にタレット刃物台が含まれる場合、タレットを旋回させる駆動部を切り替え駆動部として扱えばよい。
【0082】
図12は、駆動対象50がメイン刃物台40Aを少なくとも含む刃物台部U1であって干渉対象55が正面主軸台10Aである場合における進入禁止領域A1及び各種パラメーターを模式的に例示している。
図12に示す工具T1はバイトであるが、刃物台部U1に取り付けられる工具に回転ドリル等が含まれてもよい。メイン刃物台40Aは、
図2に示すように、X1軸モーターM2によりX1軸方向へ移動し、Y1軸モーターM3によりY1軸方向へ移動する。正面主軸11Aに把持されたワークW1は、メイン刃物台40Aを少なくとも含む刃物台部U1に取り付けられた複数の工具T1のいずれかにより加工される。
図12において、X1軸に沿った上方向はプラス方向であり、X1軸に沿った下方向はマイナス方向である。
図12に示す例では、ワークW1から工具T1までの距離が変わる駆動軸方向3はX1軸方向であり、駆動対象50を移動させる駆動部U2はX1軸モーターM2であり、工具T1を切り替える切り替え駆動部U5はY1軸モーターM3である。
【0083】
メイン刃物台40Aは、X1軸方向と交差する仮想平面4において異なる位置に工具T1を複数取り付け可能である。Y1軸モーターM3は、NC装置70の制御に従って、正面主軸11Aに把持されたワークW1の側面をX1軸方向において複数の工具T1のいずれかに対向するようにメイン刃物台40AをY1軸方向へ移動させる。これにより、メイン刃物台40Aに取り付けられた複数の工具T1の中からワークW1に対向する工具が切り替えられる。工具T1のメイン刃物台40Aからの突出長さLtの調整は、工具T1がワークW1に対向している状態で行われる。X1軸モーターM2は、NC装置70の制御に従って、メイン刃物台40AをX1軸方向へ移動させる。これにより、ワークW1から対向する工具T1までの距離Lotが変わる。
【0084】
旋盤1には、正面主軸台10Aとメイン刃物台40Aとの干渉を防ぐため、正面主軸台10Aの形状に応じた進入禁止領域A1が設定されている。NC装置70は、X1軸において正面主軸11Aに近付くメイン刃物台40Aの制御位置(機械座標Pmに相当)が進入禁止領域A1の境界A1b(進入禁止位置Paに相当)に到達すると、メイン刃物台40Aの移動を停止させる。
【0085】
ここで、X1軸において機械の基準となる機械固有の点(X1=0)を、機械原点とする。
図12に示す機械原点X1=0は、正面主軸11Aの中心線AX1に合わせられている。機械座標Pmは、機械原点X1=0を基点としたメイン刃物台40AのX1軸上の位置を示している。
図12に示す機械座標Pmは、機械原点X1=0を基点とした仮想平面4のX1軸上の位置であり、機械原点X1=0よりも上側にあるときにプラス値となる。機械座標Pmは、駆動対象50の現在位置の例である。
ワーク座標Pwは、X1軸における対象工具T2の先端T1aの座標である。ワークW1の半径dは、上述した突き出し登録長Kに代わるパラメーターである。ワークW1において対象工具T2に対向する側面のX1軸上の位置は、dとなる。ワークW1の半径dは、加工プログラムP2から読み出したり計算したりすることができる。メイン刃物台40Aが進入禁止領域A1に至る距離Lotは、上述した式(11)の通り、進入禁止位置Paから機械座標Pmを引いた値である。
図12に示す距離Lotは、マイナス値となる。NC装置70は、
図10で示したハンドルモード画面501と同様、マイナス値である距離Lotをハンドルモード画面に表示させる。
【0086】
オペレーターは、ハンドルモード画面を見ることにより進入禁止領域A1に至る距離Lotが数値で判るので、距離Lotの具体値に基づいて工具T1の突出長さLtを調整することができる。従って、
図12に示す例も、加工プログラムのシミュレーションを行わなくても工具の突出長さを容易に調整することができる。
【0087】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、シミュレーションを行わなくても工具の突出長さを容易に調整可能な旋盤等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0088】
1…旋盤、3…駆動軸方向、4…仮想平面、
10…主軸台、10A…正面主軸台、10B…背面主軸台、
11…主軸、11A…正面主軸、11B…背面主軸、11c…端面、
40…刃物台、40A…メイン刃物台、40B…バック刃物台、41…対向面、
50…駆動対象、55…干渉対象、
70…NC装置、72…ROM、
80…操作パネル、81…入力部、82…表示部、82a…画面、83…ハンドル、
500…工具選択画面、501…ハンドルモード画面、502…更新画面、
511…ワーク座標表示部、512…形状補正表示部、513…工具一覧表示部、
514…突き出し登録長表示部、515…端面取り代表示部、
520…モード表示部、521…把持モード、522…非把持モード、
523…モード切り替えキー、530…ハンドルキー、540…Z設定キー、
A1…進入禁止領域、A1b…境界、
AX1,AX2…中心線、
F…端面取り代(加工長さの例)、G…形状補正(工具の位置の例)、
IN1…進入禁止領域情報、IN2…工具位置情報、
Lg…ワークの把持長さ、Lot…進入禁止領域に至る距離、
Lt…工具の突出長さ、Lp…製品の長さ、
K…突き出し登録長、
M1…Z1軸モーター、M2…X1軸モーター、M3…Y1軸モーター、
M4…X2軸モーター、M5…Z2軸モーター、
Pa…進入禁止位置、Pb…工具取り付け基準位置、
Pm…機械座標(駆動対象の現在位置の例)、
Pw…ワーク座標(ワークの端面の座標の例)、
T1…工具、T1a…先端、T2…対象工具、TU1…工具ホルダー、
U1…刃物台部、U2…駆動部、U3…記憶部、U4…距離表示部、
U5…切り替え駆動部、U6…対象工具受付部、U7…モード受付部、
U8…工具位置情報表示部、
W1…ワーク、W1a…端面。